2018/01/27
時効利益の放棄
時効は当事者が援用しなければその効果が確定しない、ということは前回の記事でご説明したとおりです。ということは、このようなことも可能なのでしょうか。例えば、AがBにお金を貸し付けた場合、時効対策として、あらかじめ契約書に次のような文言を入れておけば、債権者Aは安心なのではないでしょうか?「BはAに対し時効利益を放棄する」
時効利益の放棄とは、時効を援用しないということです。時効利益を放棄すれば、時効の効力が確定的に消滅します。つまり、上記の文言を入れておけば、あらかじめ時効の効力を消滅させることができるわけです。しかし!そのようなことはできません。これについては、民法に極めてわかりやすい明快な条文があります。
(時効の利益の放棄)
民法146条
時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。
え?民法くんどうしちゃったの?と思ってしまうぐらいやけにわかりやすい条文ですよね(笑)。従いまして、先述の例のように、契約書にあらかじめ時効利益を放棄する旨の文言を入れたところで、その条項は無効になります。ですのでもし、ヤバそうな所からお金を借りて、あらかじめ時効利益を放棄する旨の文言が入った契約書にサインをしてしまった方は、その条項につきましては無効です。時効期間を満たせば普通に時効が援用できますので、ご安心を。。。借金の踏み倒しを推奨している訳ではありませんので誤解なきよう(笑)。
さて、あらかじめ時効利益の放棄ができないことはわかりました。それでは続いて、このような場合はどうでしょう。
事例1
AはBに100万円を貸し付けた。やがて時が過ぎ、AのBに対する債権は消滅時効にかかっていたが、Bはそれに気づかず債務を承認した。
さて、この事例1で、Bは時効利益を放棄したことになってしまうのでしょうか?
結論。Bの債務の承認は時効利益の放棄にはあたりません。しかし、結果的には時効利益を放棄したのと同じことになります。
ん?どゆこと?
まず、事例1のBは、消滅時効にかかっていることに気づいていません。つまり、Bは自らの時効利益を知らないのです。では知らない利益を放棄できるのか?もちろんできません。
じゃあ、なんで時効利益の放棄と同じ結果になるの?
判例では、次のような理屈で結論づけています。
「Bの債務の承認は時効利益の放棄にはあたらない。しかし、一回債務を承認したBが、その後、自らの債務が消滅時効にかかっていることに気づいて「やっぱり時効を援用します!」と言えるのか?それは認められない。なぜなら、一度債務を承認した者が、その後、それを覆して時効の援用を主張するのは信義則に反し許されないから」
となります。
尚、一度、時効利益を放棄しても、そこからまた時効期間を満たせば、そのときは時効の援用ができます。これは時効が中断した場合と一緒です。この点はご注意下さい。
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