
【消滅時効の基本】権利行使をできる時&知った時/様々な債権とその時効起算点(数え始め)を初学者にもわかりやすく解説!
▼この記事でわかること
・消滅時効とは
・「権利を行使することができる時から十年間行使しないとき」とは
・「権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき」とは
・「できる時」と「できることを知った時」優先されるのは?
▽消滅時効の起算点と様々な債権
・消滅時効の起算点(数え始め)
・確定期限付きの債権の場合
・不確定期限付きの債権の場合
・不法行為による損害賠償請求権の場合
・期限の定めのない債権の場合
・弁済期の定めのない消費貸借の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者にもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。

消滅時効
例えば、AがBから300万円借りて「○月〇日までに返す」と約束します。
お互いがその期日を過ぎても、そのまま何もせず放置して10年が経過すると、Aの債務(Bに借金を返す義務)は消えます。
Aが訴訟をおこして裁判になっても、Bが「これは時効だ!」と主張(これを時効の援用という)すれば、Bの勝ちです。
つまり、BはAに300万円を返さなくて済むのです。
これが、消滅時効です。
民法の条文はこちらです。
(債権等の消滅時効)
民法166条
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一号 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二号 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
上記、民法166条の条文を読むと、債権についての消滅時効のパターンが2つ記されていますよね。
ひとつひとつ、解説して参ります。
権利を行使することが「できる時」から十年間行使しないとき
まず先に民法166条二号の方から解説します。
これはわかりやすいと思います。
先ほど挙げた例で言えば「〇月〇日までに返す」と約束した期日が「権利を行使できる時」になります。
そして、その期日から10年間、BがAに対して「300万円返せ!」と請求しないと、消滅時効によりAの債務(Bに借金を返す義務)は無くなります。Aは借金踏み倒し完了、Bは泣き寝入り、という訳です。
また、売買契約で言えば、買主Aが売主Bから不動産を買って「〇月〇日までに代金を支払う」と約束(契約)すると、その約束した(契約で決めた)期日が「権利を行使できる時」になります。
そして、その期日から10年間、売主Bが「代金払え」と請求しないと、消滅時効によりAの債務(Bに代金を支払う義務)は無くなります。
Aは代金踏み倒し完了、Bは泣き寝入り、という訳です。
権利を行使することが「できることを知った時」から五年間行使しないとき
貸した側や売った側が「〇月〇日までに返す」「〇月〇日までに払う」という期日を後から知ってから請求する、なんて事、ちょっと考えづらいですよね。
では、一体どんなケースがあるかといいますと、消費者ローンの過払金(不当利得)返還請求権などがあります。
過払金とは、利息制限法所定の制限利率を超えて利息を支払った結果過払いとなった金銭です。
要するに、必要以上に払い過ぎた(返済し過ぎた)お金のことです。
過払金の場合は、たいてい後から払い過ぎた事に気づくはずです。
そもそも払う前に気づいていれば払いませんよね。
つまり、後から過払金(払い過ぎた事・返済し過ぎた事)に気づいた時、それが「権利を行使することができることを知った時」になります。(ちなみに、この場合「過払いをした時(払い過ぎた時・返済し過ぎた時)」が「行使できる時」になります)
そして、その時から5年間「払い過ぎた(返済し過ぎた)分を返せ!(過払金(不当利得)返還請求権)」と請求しなければ、消滅時効により過払い金は消滅し、その返還は無くなってしまいます。
悪徳消費者ローンは丸儲け、借金した人は泣き寝入りで終了、ウシジマくんもご満悦です。(必ずしも悪徳業者の場合だとは限りませんが...)
どちらの時効期間が優先されるのか

ここでひとつ、こんな疑問がわいてきませんか?
先ほど挙げた消費者ローンの過払金返還請求のケースで、例えば、Aが過払いをしてから9年後に過払金に気づいた場合、こうなりますよね。
・「行使できることを知った時」からだと残り5年
・「行使できる時」からだと残り1年
このような場合は、残り期間が少ない方が適用されます。
つまり、今の例だと、Aの過払金返還請求権は、1年後に時効により消滅してしまいます。
では続いて、次のような場合はどうでしょう。
消費者ローンの過払金返還請求のケースで、Aが過払いをしてから1年後に過払金に気づいた場合、以下のようになります。
・「行使できることを知った時」からだと残り5年
・「行使できる時」からだと残り9年
もうおわかりですよね。
このような場合でも、あくまで残り期間が少ない方が適用されます。
よって、Aの過払金返還請求権は、5年後に時効により消滅します。
【補足】
人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については、先述の「できる時から10年間」は「できる時から20年間」になります。
これは、安全配慮義務違反による死亡事故や傷害事故を想定したものです。(民法167条)
消滅時効の起算点
取得時効では、例えば、Aが甲土地を時効取得する場合、その取得時効の起算点はAが甲土地の占有を開始した時です。
時効の起算点とは、時効期間の数え始めとなる時点のことです。(例えば年齢の起算点は誕生日になる)
さて、では消滅時効の場合、その起算点はいつになるのでしょうか?
これはもうおわかりですよね。
消滅時効の起算点は「権利を行使することができる時」と「権利を行使することができることを知った時」です。
上記の2つの起算点の内「権利を行使することができることを知った時」については、先述の消費者ローンの過払金(不当利得)返還請求権のケースで、過払金に気づいた時になります。
こちらについては、これで十分かなと思いますので、ここからは「権利を行使することができる時」について、詳しく解説して参ります。
「権利を行使することができる時」はケースによって違う
消滅時効の起算点「権利を行使することができる時」ですが、その「権利を行使することができる時」は、実はどんな債権かによって異なってきます。
では一体、どんな債権があってどんなふうに異なっているのでしょうか?
確定期限付きの債権
確定期限付きの債権とは、簡単に言うと「いつまでに」が決まっている債権です。
例えば、AとBが不動産の売買契約を締結して「買主は売主に◯月◯日までに売買代金を支払う」という内容の入った契約書を交わしていたら、その売買代金債権は確定期限付きの債権になります。
また、AがBから「◯月◯日までに返す」と約束してお金を借りたら、そのときのBのAに対する「金返せ」という債権も、確定期限付きの債権です。
さて、ではこの確定期限付きの債権の、消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
これはもうおわかりですよね。
確定期限付きの債権の消滅時効の起算点は、期限到来時です。
つまり、先ほど挙げた例だと「◯月◯日までに」の「◯月◯日」が、消滅時効の起算点になります。
これは簡単ですね。
不確定期限付きの債権
文字だけ見ると「不確定の期限が付いている」という、なんだか訳のわからない債権ですが、これは簡単に言うと「いつまでに」が決まっていない債権です。
といっても、やはりよくわかりませんよね。
具体例を挙げますと「死因贈与」によって生じる債権は、不確定期限付きの債権にあたります。
死因贈与とは「死亡したら贈与する」というものです。
よく漫画やアニメなんかで「俺が死んだらこれをアイツに...」なんてのがありますが、あれも死因贈与です。
でもそれって債権なの?
つまりこうです。
死因贈与も、贈与を受ける側から見ると「死亡したらくださいね」という債権になりますよね。
そして、死亡の時期は不確定です(いつ死ぬかはわからない)。
なので、不確定期限付きの債権になるのです。
さて、ここからが本題です。
ではこの不確定期限付きの債権の、消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
不確定期限付きの債権の消滅時効の起算点は、期限到来時です。
これだけだと、はぁ?となりますが、これは先ほど挙げた死因贈与の例だと、贈与する者の死亡時になります。
ただ、ここで注意していただきたいのが「贈与する者が死亡したことを知った時」ではありません。
ですので、もし贈与を受ける者が、贈与者の死亡を知らなかったとしても消滅時効の期間は進んでしまいます。
この点はご注意ください。
ちなみに、相続において、遺産の受取りを放棄(相続放棄)したい等の場合は、相続があったことを知った時から、3カ月以内に手続きを行わなければなりません。
被相続人の死亡時から3カ月以内ではありません。(民法915条1項)
また、遺産分割請求権には時効はありません。
これらの点は、死因贈与における債権の消滅時効とごっちゃにしないようお気をつけください。(詳しくは相続分野で解説します)
不法行為による損害賠償請求権
これは、不法行為によって損害を被った被害者が、加害者に対して損害の賠償を請求する債権です。
(不法行為についての詳しい解説は「【不法行為】その基本と過失相殺・権利行使期間について/責任能力&事理弁識能力&監督義務者とは/被害者家族と胎児の損害賠償請求権をわかりやすく解説!」をご覧ください)
例えば、交通事故にあった被害者が、加害者である車のドライバーに対して損害賠償を請求するようなケースが、まさに不法行為(交通事故)による損害賠償請求です。

さて、ではこの「不法行為による損害賠償請求権」の、消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は以下です。
・不法行為の時
・被害者が加害者と損害の両方を知った時
まず「不法行為の時」ですが、これはわかりやすいですね。
交通事故の例で言えば「交通事故が起こった時」です。
要するに「不法行為の時」とは、通常の債権で言うところの「権利が行使できる時」と同じです。
次に「被害者が加害者と損害の両方を知った時」ですが、これはどういう事かといいますとこうです。
例えば、交通事故にあってケガをしたが、加害者である車のドライバーが中々見つからないこともありますよね?
加害者が誰かわからないと損害賠償の請求もできませんよね?
それなのに消滅時効が進んでしまったら被害者が困りますよね?
ということで、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は「被害者が加害者と損害の両方を知った時」なのです。
また、加害者が誰かはすぐにわかったけど、後々になって後遺症が出るまでは損害がわからなかった、というような場合も同様で「後遺症が出て損害がわかった時」に初めて、消滅時効の進行がスタートします。
※参考条文
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
民法724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一号 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二号 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
民法724条の2
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
期限の定めのない債権
これは、簡単に言うと「いつまでに」が決まってない債権です。
といっても、不確定期限付きの債権とは異なります。
期限の定めのない債権の代表的なものとしては「法律の定めによって生じる債権」があります。
具体例を挙げると、解除による返還請求権がそうです。
例えば、売主Aが買主Bに不動産を売り渡したとします。
しかし、その後、何らかの事情でその売買契約が解除されると、AとBは互いに受け取ったものを返還する義務が生じます。
すると売主Aは、買主Bに対し、不動産の返還請求権(売り渡した物返しやがれ!)を持ち、買主BはAに対し代金返還請求権(払った金返しやがれ!)を持ちます。
このときの売主Aと買主Bが互いに持つ返還請求権は、まさに「いつまでに」が決まっていない、期限の定めのない債権になります。
さて、では本題です。
この期限の定めのない債権の消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
期限の定めのない債権の消滅時効の起算点は、債権成立時です。
つまり、先ほど例に挙げた解除による返還請求権だと、契約の解除時になります。
【補足】
解除権は10年で時効により消滅する。(判例)
弁済期の定めのない消費貸借
これは簡単に言うと「いつまでに」が決まっていない貸し借りです。
ハッキリ言って、こんなものビジネス・商売の取引の世界ではまずないでしょう。
例えば、銀行や消費者金融でお金を借りて返済期限が決まっていないなんて事、ありえませんからね(笑)。
ただ、友人間で「いつまでに」を決めずに、お金を貸し借りするケースは現実にも存在します。
それがまさに「弁済期の定めのない消費貸借」になります。

そして、お金を貸した側は借りた側に対し「金返せ」という、債権を持つことになります。
さて、ではこの「弁済期の定めのない消費貸借」における、債権の消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
弁済期の定めのない消費貸借における債権の消滅時効の起算点は「債権成立から相当期間経過後」です。
これはどういうことかといいますと、こうです。
例えば、AがBに返済期限を決めずにお金を貸したとします。
すると、AがBにお金を貸した時点で、AがBに対して「金返せ」という債権が成立します。
これが「債権成立」です。
そして、AがBに「金返せ」と請求した場合、Bは「相当期間経過後」までにお金を返さなくてはなりません。(つまりBは「金返せ」と請求されても即座に返さなくちゃならない訳ではない。なぜなら返済期限を決めていないから)
つまり、AがBにお金を貸した時点で債権が成立し、そこからAがBに対し「金返せ」と請求してから相当期間経過後に初めて消滅時効の進行が始まる、ということになります。
【補足】
「債務不履行による損害賠償請求権」は「期限の定めのない債権」にあたるのですが、債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は「本来の債務の履行を請求できる時」になります。
つまり「この日を過ぎると債務不履行になる」の「この日」が、債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効の起算点になります。(債務不履行についての解説は「【債務不履行&損害賠償&過失責任の原則】債権債務の世界を超基本からわかりやすく徹底解説!」もご覧ください)
以上が、様々なケース・債権における、消滅時効の起算点になります。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・消滅時効とは
・「権利を行使することができる時から十年間行使しないとき」とは
・「権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき」とは
・「できる時」と「できることを知った時」優先されるのは?
▽消滅時効の起算点と様々な債権
・消滅時効の起算点(数え始め)
・確定期限付きの債権の場合
・不確定期限付きの債権の場合
・不法行為による損害賠償請求権の場合
・期限の定めのない債権の場合
・弁済期の定めのない消費貸借の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者にもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。

消滅時効
例えば、AがBから300万円借りて「○月〇日までに返す」と約束します。
お互いがその期日を過ぎても、そのまま何もせず放置して10年が経過すると、Aの債務(Bに借金を返す義務)は消えます。
Aが訴訟をおこして裁判になっても、Bが「これは時効だ!」と主張(これを時効の援用という)すれば、Bの勝ちです。
つまり、BはAに300万円を返さなくて済むのです。
これが、消滅時効です。
民法の条文はこちらです。
(債権等の消滅時効)
民法166条
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一号 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二号 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
上記、民法166条の条文を読むと、債権についての消滅時効のパターンが2つ記されていますよね。
ひとつひとつ、解説して参ります。
権利を行使することが「できる時」から十年間行使しないとき
まず先に民法166条二号の方から解説します。
これはわかりやすいと思います。
先ほど挙げた例で言えば「〇月〇日までに返す」と約束した期日が「権利を行使できる時」になります。
そして、その期日から10年間、BがAに対して「300万円返せ!」と請求しないと、消滅時効によりAの債務(Bに借金を返す義務)は無くなります。Aは借金踏み倒し完了、Bは泣き寝入り、という訳です。
また、売買契約で言えば、買主Aが売主Bから不動産を買って「〇月〇日までに代金を支払う」と約束(契約)すると、その約束した(契約で決めた)期日が「権利を行使できる時」になります。
そして、その期日から10年間、売主Bが「代金払え」と請求しないと、消滅時効によりAの債務(Bに代金を支払う義務)は無くなります。
Aは代金踏み倒し完了、Bは泣き寝入り、という訳です。
権利を行使することが「できることを知った時」から五年間行使しないとき
貸した側や売った側が「〇月〇日までに返す」「〇月〇日までに払う」という期日を後から知ってから請求する、なんて事、ちょっと考えづらいですよね。
では、一体どんなケースがあるかといいますと、消費者ローンの過払金(不当利得)返還請求権などがあります。
過払金とは、利息制限法所定の制限利率を超えて利息を支払った結果過払いとなった金銭です。
要するに、必要以上に払い過ぎた(返済し過ぎた)お金のことです。
過払金の場合は、たいてい後から払い過ぎた事に気づくはずです。
そもそも払う前に気づいていれば払いませんよね。
つまり、後から過払金(払い過ぎた事・返済し過ぎた事)に気づいた時、それが「権利を行使することができることを知った時」になります。(ちなみに、この場合「過払いをした時(払い過ぎた時・返済し過ぎた時)」が「行使できる時」になります)
そして、その時から5年間「払い過ぎた(返済し過ぎた)分を返せ!(過払金(不当利得)返還請求権)」と請求しなければ、消滅時効により過払い金は消滅し、その返還は無くなってしまいます。
悪徳消費者ローンは丸儲け、借金した人は泣き寝入りで終了、ウシジマくんもご満悦です。(必ずしも悪徳業者の場合だとは限りませんが...)
どちらの時効期間が優先されるのか

ここでひとつ、こんな疑問がわいてきませんか?
先ほど挙げた消費者ローンの過払金返還請求のケースで、例えば、Aが過払いをしてから9年後に過払金に気づいた場合、こうなりますよね。
・「行使できることを知った時」からだと残り5年
・「行使できる時」からだと残り1年
このような場合は、残り期間が少ない方が適用されます。
つまり、今の例だと、Aの過払金返還請求権は、1年後に時効により消滅してしまいます。
では続いて、次のような場合はどうでしょう。
消費者ローンの過払金返還請求のケースで、Aが過払いをしてから1年後に過払金に気づいた場合、以下のようになります。
・「行使できることを知った時」からだと残り5年
・「行使できる時」からだと残り9年
もうおわかりですよね。
このような場合でも、あくまで残り期間が少ない方が適用されます。
よって、Aの過払金返還請求権は、5年後に時効により消滅します。
【補足】
人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については、先述の「できる時から10年間」は「できる時から20年間」になります。
これは、安全配慮義務違反による死亡事故や傷害事故を想定したものです。(民法167条)
消滅時効の起算点
取得時効では、例えば、Aが甲土地を時効取得する場合、その取得時効の起算点はAが甲土地の占有を開始した時です。
時効の起算点とは、時効期間の数え始めとなる時点のことです。(例えば年齢の起算点は誕生日になる)
さて、では消滅時効の場合、その起算点はいつになるのでしょうか?
これはもうおわかりですよね。
消滅時効の起算点は「権利を行使することができる時」と「権利を行使することができることを知った時」です。
上記の2つの起算点の内「権利を行使することができることを知った時」については、先述の消費者ローンの過払金(不当利得)返還請求権のケースで、過払金に気づいた時になります。
こちらについては、これで十分かなと思いますので、ここからは「権利を行使することができる時」について、詳しく解説して参ります。
「権利を行使することができる時」はケースによって違う
消滅時効の起算点「権利を行使することができる時」ですが、その「権利を行使することができる時」は、実はどんな債権かによって異なってきます。
では一体、どんな債権があってどんなふうに異なっているのでしょうか?
確定期限付きの債権
確定期限付きの債権とは、簡単に言うと「いつまでに」が決まっている債権です。
例えば、AとBが不動産の売買契約を締結して「買主は売主に◯月◯日までに売買代金を支払う」という内容の入った契約書を交わしていたら、その売買代金債権は確定期限付きの債権になります。
また、AがBから「◯月◯日までに返す」と約束してお金を借りたら、そのときのBのAに対する「金返せ」という債権も、確定期限付きの債権です。
さて、ではこの確定期限付きの債権の、消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
これはもうおわかりですよね。
確定期限付きの債権の消滅時効の起算点は、期限到来時です。
つまり、先ほど挙げた例だと「◯月◯日までに」の「◯月◯日」が、消滅時効の起算点になります。
これは簡単ですね。
不確定期限付きの債権
文字だけ見ると「不確定の期限が付いている」という、なんだか訳のわからない債権ですが、これは簡単に言うと「いつまでに」が決まっていない債権です。
といっても、やはりよくわかりませんよね。
具体例を挙げますと「死因贈与」によって生じる債権は、不確定期限付きの債権にあたります。
死因贈与とは「死亡したら贈与する」というものです。
よく漫画やアニメなんかで「俺が死んだらこれをアイツに...」なんてのがありますが、あれも死因贈与です。
でもそれって債権なの?
つまりこうです。
死因贈与も、贈与を受ける側から見ると「死亡したらくださいね」という債権になりますよね。
そして、死亡の時期は不確定です(いつ死ぬかはわからない)。
なので、不確定期限付きの債権になるのです。
さて、ここからが本題です。
ではこの不確定期限付きの債権の、消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
不確定期限付きの債権の消滅時効の起算点は、期限到来時です。
これだけだと、はぁ?となりますが、これは先ほど挙げた死因贈与の例だと、贈与する者の死亡時になります。
ただ、ここで注意していただきたいのが「贈与する者が死亡したことを知った時」ではありません。
ですので、もし贈与を受ける者が、贈与者の死亡を知らなかったとしても消滅時効の期間は進んでしまいます。
この点はご注意ください。
ちなみに、相続において、遺産の受取りを放棄(相続放棄)したい等の場合は、相続があったことを知った時から、3カ月以内に手続きを行わなければなりません。
被相続人の死亡時から3カ月以内ではありません。(民法915条1項)
また、遺産分割請求権には時効はありません。
これらの点は、死因贈与における債権の消滅時効とごっちゃにしないようお気をつけください。(詳しくは相続分野で解説します)
不法行為による損害賠償請求権
これは、不法行為によって損害を被った被害者が、加害者に対して損害の賠償を請求する債権です。
(不法行為についての詳しい解説は「【不法行為】その基本と過失相殺・権利行使期間について/責任能力&事理弁識能力&監督義務者とは/被害者家族と胎児の損害賠償請求権をわかりやすく解説!」をご覧ください)
例えば、交通事故にあった被害者が、加害者である車のドライバーに対して損害賠償を請求するようなケースが、まさに不法行為(交通事故)による損害賠償請求です。

さて、ではこの「不法行為による損害賠償請求権」の、消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は以下です。
・不法行為の時
・被害者が加害者と損害の両方を知った時
まず「不法行為の時」ですが、これはわかりやすいですね。
交通事故の例で言えば「交通事故が起こった時」です。
要するに「不法行為の時」とは、通常の債権で言うところの「権利が行使できる時」と同じです。
次に「被害者が加害者と損害の両方を知った時」ですが、これはどういう事かといいますとこうです。
例えば、交通事故にあってケガをしたが、加害者である車のドライバーが中々見つからないこともありますよね?
加害者が誰かわからないと損害賠償の請求もできませんよね?
それなのに消滅時効が進んでしまったら被害者が困りますよね?
ということで、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は「被害者が加害者と損害の両方を知った時」なのです。
また、加害者が誰かはすぐにわかったけど、後々になって後遺症が出るまでは損害がわからなかった、というような場合も同様で「後遺症が出て損害がわかった時」に初めて、消滅時効の進行がスタートします。
※参考条文
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
民法724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一号 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二号 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
民法724条の2
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
期限の定めのない債権
これは、簡単に言うと「いつまでに」が決まってない債権です。
といっても、不確定期限付きの債権とは異なります。
期限の定めのない債権の代表的なものとしては「法律の定めによって生じる債権」があります。
具体例を挙げると、解除による返還請求権がそうです。
例えば、売主Aが買主Bに不動産を売り渡したとします。
しかし、その後、何らかの事情でその売買契約が解除されると、AとBは互いに受け取ったものを返還する義務が生じます。
すると売主Aは、買主Bに対し、不動産の返還請求権(売り渡した物返しやがれ!)を持ち、買主BはAに対し代金返還請求権(払った金返しやがれ!)を持ちます。
このときの売主Aと買主Bが互いに持つ返還請求権は、まさに「いつまでに」が決まっていない、期限の定めのない債権になります。
さて、では本題です。
この期限の定めのない債権の消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
期限の定めのない債権の消滅時効の起算点は、債権成立時です。
つまり、先ほど例に挙げた解除による返還請求権だと、契約の解除時になります。
【補足】
解除権は10年で時効により消滅する。(判例)
弁済期の定めのない消費貸借
これは簡単に言うと「いつまでに」が決まっていない貸し借りです。
ハッキリ言って、こんなものビジネス・商売の取引の世界ではまずないでしょう。
例えば、銀行や消費者金融でお金を借りて返済期限が決まっていないなんて事、ありえませんからね(笑)。
ただ、友人間で「いつまでに」を決めずに、お金を貸し借りするケースは現実にも存在します。
それがまさに「弁済期の定めのない消費貸借」になります。

そして、お金を貸した側は借りた側に対し「金返せ」という、債権を持つことになります。
さて、ではこの「弁済期の定めのない消費貸借」における、債権の消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
弁済期の定めのない消費貸借における債権の消滅時効の起算点は「債権成立から相当期間経過後」です。
これはどういうことかといいますと、こうです。
例えば、AがBに返済期限を決めずにお金を貸したとします。
すると、AがBにお金を貸した時点で、AがBに対して「金返せ」という債権が成立します。
これが「債権成立」です。
そして、AがBに「金返せ」と請求した場合、Bは「相当期間経過後」までにお金を返さなくてはなりません。(つまりBは「金返せ」と請求されても即座に返さなくちゃならない訳ではない。なぜなら返済期限を決めていないから)
つまり、AがBにお金を貸した時点で債権が成立し、そこからAがBに対し「金返せ」と請求してから相当期間経過後に初めて消滅時効の進行が始まる、ということになります。
【補足】
「債務不履行による損害賠償請求権」は「期限の定めのない債権」にあたるのですが、債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は「本来の債務の履行を請求できる時」になります。
つまり「この日を過ぎると債務不履行になる」の「この日」が、債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効の起算点になります。(債務不履行についての解説は「【債務不履行&損害賠償&過失責任の原則】債権債務の世界を超基本からわかりやすく徹底解説!」もご覧ください)
以上が、様々なケース・債権における、消滅時効の起算点になります。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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