2021/04/15
【二種類の占有】その基本と瑕疵の引継ぎとは/原始取得とは/占有回収&保全の訴えとは
▼この記事でわかること・二種類の占有とは
・前の占有者から引き継ぐのは瑕疵だけではない
・瑕疵(過失や悪意)の有無の判定は占有開始時
・時効による所有権取得は原始取得って?
▽占有を奪われたとき
・占有回収の訴え/占有保全の訴えとは
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今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

二種類の占有
時効によって所有権などを取得するには、一定期間途切れることなく継続した占有が必須です。(取得時効)
占有とは、自分の物だと思って物を事実上支配する状態のことです。我が物顔で所有(使用)する、みたいなイメージですね。
さて、この占有ですが、以下の2種類のパターンが存在します。
・自分だけの占有
・前主から引き継いだ占有
このような2種類の占有を、占有の二面性と言います。
それでは、この2種類の占有について、事例と共に具体的に解説して参ります。
事例1
Aは甲土地を9年間、悪意の占有を続けた。その後、Aは甲土地を善意・無過失のBに引き渡し、Bはそれから1年間、甲土地の占有を続けた。
A 引渡し B
甲土地 → 甲土地
占有9年 占有1年
悪意 善意無過失
短期取得時効により、善意無過失であれば10年間の占有で取得時効が成立します。(民法162条2項)
ということは、この事例1で、Bは甲土地を時効取得できるのでしょうか?
結論の前にまず、占有には二種類のパターンがあることを思い出してください。
そうです。この事例1が、まさに占有の二面性を示す典型のケースなのです。
そして、その占有の二面性に基づいて、Bは2つの主張ができます。
根拠となる民法の条文はこちらです。
(占有の承継)
民法187条
占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
この民法187条に基づき、なんとBは、自分自身の選択で「自己の占有のみを主張」と「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」の、どちらかを選んで主張することができます。
・自己の占有のみを主張した場合
これは簡単ですよね。事例1のBが、B自身の占有のみを主張することです。
この場合、B自身の甲土地の占有期間はたった1年間なので、短期取得時効は成立せず、Bは甲土地を時効取得することはできません。
・前の占有者と併せて主張
これは、事例1のBが、Aの占有と併せて占有を主張することです。
どういう事かと言いますと、Bの前に甲土地を占有していたのはAで、Aの占有期間は9年間ですよね。そして、Bが次の占有者になり、甲土地を1年間占有した、、、そこで、なんとBは、
「前の占有者であるAの占有期間の9年間」と
「B自身の占有期間の1年間」を足して
「9+1=10年間の占有期間」を主張できるのです。
事例1のBは、善意・無過失です。ですので、Aの占有と併せて「9+1=10年間の占有」ということで、めでたく甲土地を時効取得できます!と言いたいところですが、そうはイカンのです。
先述の民法187条には続きがあり、次のようなことが規定されています。
民法187条2項
前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。
この民法187条2項のポイントは「その瑕疵をも承継する」という部分です。
瑕疵とは、欠陥のことです。欠陥には悪意・有過失も含まれます。
ということはどうなるのか?
前の占有者の占有と併せて主張するときは、前の占有者の悪意・有過失をも引き継いでしまう、ということです。
つまり、事例1の善意・無過失のBが、Aの占有と併せて9+1=10年間の占有を主張しても、Aの悪意・有過失をBが引き継いでしまうことになるので、その結果、10年間の短期取得時効は成立しなくなってしまいます。
ということで結局、事例1のBは、Aの占有と併せて主張しようが、B自身の占有のみを主張しようが、甲土地を時効取得することは無理、ということになります。
したがいまして、事例1のBは、甲土地を時効取得することはできません。
では続いて、次の場合はどうでしょう?
事例2
Aは甲土地を9年間、悪意の占有を続けた。その後、Aは甲土地を善意・無過失のBに引き渡し、Bはそれから10年間、甲土地の占有を続けた。
A 引渡し B
甲土地 → 甲土地
占有9年 占有10年
悪意 善意無過失
この事例2で、Bが甲土地を時効取得するためには「自己の占有のみを主張」と「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」の、どちらの主張をすればいいでしょう?
もうおわかりですよね。
正解は「自己の占有のみを主張」です。
Bは善意・無過失なので、10年間の占有で甲土地を時効取得できます。(短期取得時効→民法162条2項)
じゃあ「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」をしたらどうなるの?
その場合は、Bは甲土地を時効取得することができません。なぜなら、前の占有者Aの悪意・有過失を引き継いでしまうことにより短期取得時効の適用対象ではなくなるからです。
そして「Aの占有9年+Bの占有10年=19年間の占有」では、通常の取得時効に必要な20年間にも、あと1年足りなくなってしまいます。
引き継ぐのは瑕疵だけではない
事例3
Aは善意・無過失に甲土地を9年間占有した。その後、Aは甲土地を悪意のBに引き渡し、Bはそれから1年間甲土地を占有した。
A 引渡し B
甲土地 → 甲土地
占有9年 占有1年
善意無過失 悪意
さて、この事例3で、Bは甲土地を時効取得できるでしょうか?
結論。なんと、Bは甲土地を時効取得できます。
え?なんで?Bは悪意じゃね?
Bは悪意です。しかし、民法187条に基づき「前の占有者の占有を併せて主張」すれば、Bは前の占有者であるAの善意・無過失を引き継ぐことができます。
すると短期取得時効の対象となり
「Aの占有9年+Bの占有1年=10年間の占有」で
Bは甲土地を時効取得できるのです。
(占有の承継)
民法187条2項
前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。
民法187条2項の条文には「その瑕疵をも承継する」とありましたよね。
繰り返しになりますが、瑕疵というのは欠陥のことで、欠陥には悪意・有過失も含まれます。
したがって「前の占有者の占有を併せて主張」すると、前の占有者の悪意・有過失も引き継いでしまいます。
ここまでは先述のとおりです。
しかし、条文の「その瑕疵をも承継する」というのは「瑕疵がないことをも承継する」と、理解することもできませんか?
したがいまして、事例3のBは「前の占有者の占有を併せて主張」することにより、前の占有者Aの瑕疵のないこと(善意・無過失)をも承継することになるのです。
これは一見すると屁理屈に聞こえるかもしれませんが、条文をこのように解釈して適用させる事は、わりとあることです。
なので、ここは深くツッコまず、まあそういうことなんだなと、そのまま落とし込んでしまってください。
瑕疵の有無の判定は占有開始の時
ここでひとつ、こんな疑問がわいてきます。
そもそも、瑕疵(欠陥=悪意や過失)があるかないかは、どのタイミングで判断されるのでしょう?
例えば、Aが甲土地の占有を善意・無過失に開始して、のちにA自身が悪意になったとしたらどうなるでしょう?
A 1年後 A
甲土地 → 甲土地
占有開始 占有1年
善意無過失 → 悪意
この場合も、短期取得時効の対象から外れることはありません。なぜなら、瑕疵の有無の判断は、占有開始の時だからです。つまり、Aは善意のままとして扱われます。
したがいまして、その後、甲土地の引渡しを受けたBが悪意でも、Bが「前の占有者の占有を併せて主張」することにより、前の占有者Aの善意・無過失をも引き継いで、短期取得時効により、9年+1年=10年間の占有で甲土地を時効取得することも問題ありません。
A 1年後 A 引渡し B
甲土地 → 甲土地 → 甲土地
占有開始 占有1年 占有9年
善意無過失 悪意 悪意
B「前の占有者の占有を併せて主張」
短期取得時効で時効取得できる!
あくまで甲土地の占有開始時は
Aの善意・無過失で始まっているから!
ちょっとコラム
~時効による所有権取得は原始取得~
所有権の取得原因(取得の形)には、原始取得と承継取得があります。
時効による所有権取得は、原始取得になります。
原始取得とは「元からその人のモノになる」ことです。
つまり、先述の事例3のBが甲土地を時効取得すると、甲土地は元からBのモノだったことになります。
それになんの意味があるの?
これには大きな意味があります。
例えば、もし甲土地に抵当権がついていた場合に、Bが甲土地を時効取得すると、時効取得は原始取得なので、Bが始めっから甲土地の所有者だったことになり、Bが時効取得する前についていた抵当権は消えて無くなります。
これを噛み砕きまくって荒唐無稽な解説をしますと、、、
B男くんがA子ちゃんを原始取得すると、A子ちゃんにとってB男くんは最初のオトコになります。本当は5人目のカレシだったとしても。これが原始取得です(笑)。

一方、売買や相続による取得は、承継取得になります。
承継取得は前主の権利を承継します。
つまり、B男くんがA子ちゃんを承継取得すると、B男くんはA子ちゃんにとって5人目のカレシになるだけです(笑)。もちろん、カレシとカノジョを逆にしてもいいですし、BLでも百合でもOKです。
ムチャクチャな例えですが、原始取得と承継取得、おわかりになっていただけたのではないでしょうか。
占有回収の訴え
占有を奪われたときは?
事例4
Aはあともう少しで甲土地を時効取得するところである。そこで、Aに甲土地を時効取得されたくない血気盛んなBは、実力行使でAの占有を排除した。
なんだかエモーショナルな事例が登場しましたね(笑)。
さて、この場合、Aの占有は途切れてしまい、Aは甲土地を時効取得することができなくなってしまうのでしょうか?
まずは民法の条文を見てみましょう。
(占有の中止等による取得時効の中断)
民法164条
第百六十二条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。
上記、民法164条の条文のとおり、Aは他人のBによって占有を奪われています。
ということは、条文どおり時効は中断し、Aは甲土地を時効取得することができなくなりそうですね。Bにとってはしてやったりという感じです。
しかし!民法では、Aのような人間を救うべく、下記のような規定も置いています。
(占有回収の訴え)
民法200条
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
上記、民法200条に基づいて、AはBに対し「占有回収の訴え」を起こし、勝訴して甲土地を取り戻せば、無事Aの占有は継続していたことになります。
占有期間はリセットされないの?
リセットはされません。
繰り返しますが、占有回収の訴えを起こし、勝訴して甲土地を取り戻すことができれば、Aの甲土地の占有期間は継続していたことになります。ですので、Aの甲土地の時効取得への影響はありません。
参考となる民法の条文はこちらです。
(占有権の消滅事由)
民法203条
占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。
なんだか、この民法203条の条文を読むと、占有回収の訴えの提起さえすれば、占有継続が認められそうです。
しかし、実際には、勝訴して土地を取り戻すところまでいかないと、占有が継続していたことにはなりません。
したがって、Aとしては、占有の継続を取り戻し甲土地を時効取得するためには、裁判を起こし勝訴して、実際に甲土地を取り戻すところまでいかなければならないのです。

でもこれって、中々の負担ですよね。となると、Aとすれば、事前に占有を奪われることを防止するのが最良ですよね。
そこで民法では、次のような規定も存在します。
(占有保全の訴え)
民法199条
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
上記、民法199条の規定により、Aは、血気盛んなBが、甲土地の占有を妨害しそうだと判断したら、あらかじめ「占有保全の訴え」を起こし、事前に法的な予防線を張ることができます。
「占有保全の訴え」とは、いわば敵を感知して発動させるバリアーです(オートではありませんが...)。
また、占有を奪われるまではいかないが、占有の妨害を受けたときには、民法198条(占有保持の訴え)により、妨害の停止、および損害賠償の請求をすることができます。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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