
▼この記事でわかること
・代理人の善意・悪意について
・本人が悪意のとき
・「特定の法律行為の委託」とは
・「特定の法律行為の委託」にあたるかあたらないかで結論が変わる理由
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

代理行為の瑕疵
代理が成立するための3要素は「代理権」「顕名」「代理人と相手方の法律行為」になりますが、「代理人と相手方の法律行為」に瑕疵(欠陥)があった場合は、一体どうなるのでしょうか?
代理人の善意・悪意
事例1
Bはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。ところが、なんと甲別荘の真の所有者はDだった。どうやらDの資産隠しのためにCが協力して、甲別荘の名義をCに移したとのことだった。
この事例1では、正式な代理権を持ったBは、しっかり顕名をして代理行為を行なっています。
よってこれは、無権代理の問題ではありません。
問題は、甲別荘の売買契約に瑕疵があるということです。
つまり、冒頭に挙げた、代理が成立するための3要素のうちの「代理人と相手方の法律行為」に欠陥があるのです。
ところで、事例1で、CとDが行なっていることは何かおわかりでしょうか?
これは通謀虚偽表示です。
(通謀虚偽表示についての詳しい解説は「【通謀虚偽表示の基本】無効な契約が実体化?利益衡量と民法理解の3つのポイントとは?わかりやすく解説!」をご覧ください)
そうです。
つまり、事例1は、通謀虚偽表示に代理人が巻き込まれたケースです。
したがいまして、事例1で問題になるのは「甲別荘の売買契約が有効に成立して本人Aが甲別荘を取得できるかどうか」になり、そのための要件として「Cと甲別荘の売買契約をした者の善意」が求められます。
この善意とは「CとDの通謀虚偽表示について」です。
ということで「甲別荘の売買契約が有効に成立して、本人Aが甲別荘を取得するためには、Cと売買契約を締結した者の善意が求められる」ことがわかりました。
さて、少々時間がかかりましたが、いよいよここからが今回の本題です。
事例1で、甲別荘の売買契約が有効に成立するには、Cと甲別荘の売買契約をした者の善意が求められますが、では「Cと甲別荘の売買契約をした者の善意」とは本人Aの善意なのでしょうか?
それとも代理人Bの善意なのでしょうか?
まずは民法の条文を見てみましょう。
(代理行為の瑕疵)
民法101条
代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
民法101条によると「その事実の有無は、代理人について決するものとする」とあります。
これはつまり、事例1において、CとDの通謀虚偽表示についての善意・悪意は、あくまで代理人Bで判断するということです。
したがいまして、事例1で、甲別荘の売買契約が有効に成立して、本人Aが甲別荘を取得するためには、CとDの通謀虚偽表示について代理人Bが善意であればOK!ということになります。
なお、条文中に「意思の不存在、詐欺、強迫」とあり、通謀虚偽表示については書いていませんが、その後の「又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合」の中に、事例1のような通謀虚偽表示のケースも含まれます。
さて、事例1において、CとDの通謀虚偽表示についての善意か悪意かを問われるのは、代理人Bというのがわかりました。
しかし、実はこの話にはまだ、微妙な問題がはらんでいます。
本人が悪意のとき

事例2
Bはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。ところが、なんと甲別荘の真の所有者はDだった。どうやらDの資産隠しのためにCが協力して甲別荘の名義をCに移したとのことだった。当然、Bはそんな事実は全く知らなかったが、実はその事実をAは知っていた。
この事例2でも、事例1と同様、CとDは通謀虚偽表示を行なっています。
先述のとおり民法101条によれば、このようなケースで善意・悪意を問われるのは、代理人となります。
となると、この事例2では本人は悪意ですが、代理人Bが善意なので、(悪意の)本人Aは甲別荘を取得できることになります。
でもこれ、どう思います?
なんか微妙だと思いませんか?
確かに、まず何より通謀虚偽表示をやらかしたCとDが一番悪いです。
それは間違いないです。
ただ、通謀虚偽表示についての民法94条2項の規定は、善意の第三者を保護するためのものです。
ということは、善意の代理人Bをかましただけで、いとも簡単に悪意の本人Aが甲別荘を取得できるとなると、民法94条2項の規定と整合性が取れなくなってしまいますよね。
このままだと悪意の第三者は、代理人という裏技を使えば、民法94条2項の規定を事実上無力化できてしまうことになります。
そこで、民法は「代理行為の瑕疵」について、こんな規定も置いています。
(代理行為の瑕疵)
民法101条3項
特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。
この民法101条3項で重要なポイントは「特定の法律行為の委託」です。
民法101条3項の「特定の法律行為の委託」とは
これは、本人が代理人に対して、具体的に指定するような指示を出すことです。
例えば、事例2で、本人Aが代理人Bに対し「軽井沢にあるC所有のあの別荘を買ってきて」というような依頼の仕方をしていたら、それは「特定の法律行為の委託」となります。逆にそういった具体的に指定する依頼はなく、C所有の甲別荘を代理人B自身で見つけたような場合は「特定の法律行為の委託」にあたりません。
結論。
事例2において、Bの代理行為が「特定の法律行為の委託」 にあたれば、たとえ代理人Bが善意でも、悪意の本人Aは甲別荘を取得することはできません。
逆に、Bの代理行為が「特定の法律行為の委託」 にあたらなければ、代理人が善意であれば、本人Aは悪意でも甲別荘を取得することができます。
「特定の法律行為の委託」にあたるかあたらないかで結論が変わる理由は?
ここは非常に重要な論点です。
こう考えてみてください。
悪意の本人Aによる「特定の法律行為の委託」によって、代理人Bが甲別荘の売買契約を締結したとなると、本人Aは、わかっていながら通謀虚偽表示の物件をわざわざ指定して代理人Bにやらせていることになります。
そんなヤツ、保護する必要ありますかね?
一方、本人Aは代理人Bに「軽井沢辺りに別荘買ってきて」ぐらいの依頼の仕方で、C所有の甲別荘を代理人B自身で見つけた場合に、本人AがたまたまCとDの通謀虚偽表示を知っていて......というようなケースだと全然ニュアンスが違いますよね?
つまり「代理人B自身で見つけてきた物件の事情(CとDの通謀虚偽表示)を偶然たまたま本人Aは知っていて」というようなケースでは、同じ「本人Aの悪意」でも、全然その意味合いが違ってくるということです。
したがって、そのケースだと「特定の法律行為の委託」にはあたらないと判断される可能性が格段に上昇します。
このように「特定の法律行為の委託」にあたるかあたならないかは非常に重要なのです。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・代理人の善意・悪意について
・本人が悪意のとき
・「特定の法律行為の委託」とは
・「特定の法律行為の委託」にあたるかあたらないかで結論が変わる理由
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今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

代理行為の瑕疵
代理が成立するための3要素は「代理権」「顕名」「代理人と相手方の法律行為」になりますが、「代理人と相手方の法律行為」に瑕疵(欠陥)があった場合は、一体どうなるのでしょうか?
代理人の善意・悪意
事例1
Bはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。ところが、なんと甲別荘の真の所有者はDだった。どうやらDの資産隠しのためにCが協力して、甲別荘の名義をCに移したとのことだった。
この事例1では、正式な代理権を持ったBは、しっかり顕名をして代理行為を行なっています。
よってこれは、無権代理の問題ではありません。
問題は、甲別荘の売買契約に瑕疵があるということです。
つまり、冒頭に挙げた、代理が成立するための3要素のうちの「代理人と相手方の法律行為」に欠陥があるのです。
ところで、事例1で、CとDが行なっていることは何かおわかりでしょうか?
これは通謀虚偽表示です。
(通謀虚偽表示についての詳しい解説は「【通謀虚偽表示の基本】無効な契約が実体化?利益衡量と民法理解の3つのポイントとは?わかりやすく解説!」をご覧ください)
そうです。
つまり、事例1は、通謀虚偽表示に代理人が巻き込まれたケースです。
したがいまして、事例1で問題になるのは「甲別荘の売買契約が有効に成立して本人Aが甲別荘を取得できるかどうか」になり、そのための要件として「Cと甲別荘の売買契約をした者の善意」が求められます。
この善意とは「CとDの通謀虚偽表示について」です。
ということで「甲別荘の売買契約が有効に成立して、本人Aが甲別荘を取得するためには、Cと売買契約を締結した者の善意が求められる」ことがわかりました。
さて、少々時間がかかりましたが、いよいよここからが今回の本題です。
事例1で、甲別荘の売買契約が有効に成立するには、Cと甲別荘の売買契約をした者の善意が求められますが、では「Cと甲別荘の売買契約をした者の善意」とは本人Aの善意なのでしょうか?
それとも代理人Bの善意なのでしょうか?
まずは民法の条文を見てみましょう。
(代理行為の瑕疵)
民法101条
代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
民法101条によると「その事実の有無は、代理人について決するものとする」とあります。
これはつまり、事例1において、CとDの通謀虚偽表示についての善意・悪意は、あくまで代理人Bで判断するということです。
したがいまして、事例1で、甲別荘の売買契約が有効に成立して、本人Aが甲別荘を取得するためには、CとDの通謀虚偽表示について代理人Bが善意であればOK!ということになります。
なお、条文中に「意思の不存在、詐欺、強迫」とあり、通謀虚偽表示については書いていませんが、その後の「又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合」の中に、事例1のような通謀虚偽表示のケースも含まれます。
さて、事例1において、CとDの通謀虚偽表示についての善意か悪意かを問われるのは、代理人Bというのがわかりました。
しかし、実はこの話にはまだ、微妙な問題がはらんでいます。
本人が悪意のとき

事例2
Bはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。ところが、なんと甲別荘の真の所有者はDだった。どうやらDの資産隠しのためにCが協力して甲別荘の名義をCに移したとのことだった。当然、Bはそんな事実は全く知らなかったが、実はその事実をAは知っていた。
この事例2でも、事例1と同様、CとDは通謀虚偽表示を行なっています。
先述のとおり民法101条によれば、このようなケースで善意・悪意を問われるのは、代理人となります。
となると、この事例2では本人は悪意ですが、代理人Bが善意なので、(悪意の)本人Aは甲別荘を取得できることになります。
でもこれ、どう思います?
なんか微妙だと思いませんか?
確かに、まず何より通謀虚偽表示をやらかしたCとDが一番悪いです。
それは間違いないです。
ただ、通謀虚偽表示についての民法94条2項の規定は、善意の第三者を保護するためのものです。
ということは、善意の代理人Bをかましただけで、いとも簡単に悪意の本人Aが甲別荘を取得できるとなると、民法94条2項の規定と整合性が取れなくなってしまいますよね。
このままだと悪意の第三者は、代理人という裏技を使えば、民法94条2項の規定を事実上無力化できてしまうことになります。
そこで、民法は「代理行為の瑕疵」について、こんな規定も置いています。
(代理行為の瑕疵)
民法101条3項
特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。
この民法101条3項で重要なポイントは「特定の法律行為の委託」です。
民法101条3項の「特定の法律行為の委託」とは
これは、本人が代理人に対して、具体的に指定するような指示を出すことです。
例えば、事例2で、本人Aが代理人Bに対し「軽井沢にあるC所有のあの別荘を買ってきて」というような依頼の仕方をしていたら、それは「特定の法律行為の委託」となります。逆にそういった具体的に指定する依頼はなく、C所有の甲別荘を代理人B自身で見つけたような場合は「特定の法律行為の委託」にあたりません。
結論。
事例2において、Bの代理行為が「特定の法律行為の委託」 にあたれば、たとえ代理人Bが善意でも、悪意の本人Aは甲別荘を取得することはできません。
逆に、Bの代理行為が「特定の法律行為の委託」 にあたらなければ、代理人が善意であれば、本人Aは悪意でも甲別荘を取得することができます。
「特定の法律行為の委託」にあたるかあたらないかで結論が変わる理由は?
ここは非常に重要な論点です。
こう考えてみてください。
悪意の本人Aによる「特定の法律行為の委託」によって、代理人Bが甲別荘の売買契約を締結したとなると、本人Aは、わかっていながら通謀虚偽表示の物件をわざわざ指定して代理人Bにやらせていることになります。
そんなヤツ、保護する必要ありますかね?
一方、本人Aは代理人Bに「軽井沢辺りに別荘買ってきて」ぐらいの依頼の仕方で、C所有の甲別荘を代理人B自身で見つけた場合に、本人AがたまたまCとDの通謀虚偽表示を知っていて......というようなケースだと全然ニュアンスが違いますよね?
つまり「代理人B自身で見つけてきた物件の事情(CとDの通謀虚偽表示)を偶然たまたま本人Aは知っていて」というようなケースでは、同じ「本人Aの悪意」でも、全然その意味合いが違ってくるということです。
したがって、そのケースだと「特定の法律行為の委託」にはあたらないと判断される可能性が格段に上昇します。
このように「特定の法律行為の委託」にあたるかあたならないかは非常に重要なのです。
というわけで、今回は以上になります。
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