
▼この記事でわかること
・不法行為責任と債務不履行責任の違い
・不法行為責任と債務不履行責任が同時に生じるケースもある
・どちらで損害賠償請求した方がいいのか
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

不法行為責任と債務不履行責任の違い
不法行為責任とは、不法な行為を行った責任です。
例えば、AさんがBさんを殴ったら、Aさんは不法な行為を行った加害者となり、AさんにはBさんに損害を賠償する責任(不法行為責任)が生じます。
債務不履行責任とは、債務を履行しない責任です。
例えば、AさんがBさんから時計を買って、AさんにはBさんに対して期日までに代金を支払わないといけない義務(債務)があるのに、期日を過ぎても代金を支払わない、つまり、その義務を果たさない(債務を履行しない)ような場合、AさんにはBさんに対して損害を賠償する責任(債務不履行責任)が生じます。
不法行為責任と債務不履行責任が同時に生じるケースもある
不法行為にせよ債務不履行にせよ、損害を受けた者は損害を与えた者に対し損害賠償の請求ができますが、不法行為による損害と債務不履行による損害が、競合する場合があります。
事例
Aは開業医のBによる手術を受けたが、Bの過失により障害を負ってしまった。
この事例で、AはBに対し、不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができます。
しかし、こうも考えられます。
患者Aと開業医Bは「手術をする⇄対価を支払う」という契約関係にあり、開業医Bは患者Aに対し、過失なく安全に手術をする契約義務(債務)があります。
つまり、開業医Bは「過失なく安全に手術をするという債務」を履行できなかった、すなわち債務不履行に陥ったと考えられ、患者Aは開業医Bの債務不履行による損害賠償の請求もできる、ということになります。
不法行為と債務不履行、どちらで損害賠償請求した方がいいのか
ここがまさに今回のテーマの肝ですが、これは状況次第で結論が変わってきます。
まず、不法行為と債務不履行の大きな違いのひとつに「加害者と被害者、どちらに立証責任があるか」があります。
不法行為の場合は、被害者側が加害者の過失を立証して初めて損害賠償が認められます。
「被害者側が加害者の過失を立証」とは、被害者側で「加害者が悪かったこと」を証明しなければならないという意味です。
一方、債務不履行の場合は、加害者が自らに過失がないことを立証できなければ責任を免れることができません。
これはどういう意味かといいますと、加害者が自ら「わたしは悪くない!」ことを証明しなければその責任を免れられないという意味です。
つまり、債務不履行の場合は、加害者(債務者)が債務不履行に陥った時点で、加害者側の過失が推定(加害者側が悪かったと推定)されてしまうのです。

したがいまして、不法行為責任を追及するよりも債務不履行責任を追及した方が、必然的に被害者の損害賠償の請求は認められやすくなっています。
だったら不法行為と債務不履行が競合したときは債務不履行による損害賠償請求一択でいいんじゃね?
確かに、立証責任の側面から見れば、債務不履行による損害賠償請求の方が、被害者にとっては有利でしょう。
しかし、時と場合によっては、不法行為責任を追及した方が被害者が救われやすくなることもあります。
それは以下の点などにおいてです。
・消滅時効期間
・加害者が履行遅滞になる時期
・加害者からの相殺
・過失相殺
・過失相殺によら加害者の責任免除
それでは上記の点をひとつひとつ解説して参ります。
・消滅時効期間
【不法行為責任】
損害および加害者を知ってから3年または行為時から20年
【債務不履行責任】
10年
例えば、債務不履行による損害賠償の請求権が11年経っていて時効消滅していたとしても、不法行為による損害賠償の請求なら可能、という状況もあるのです。
〈補足〉
生命・身体の侵害による損害賠償の請求については、損害及び加害者を知ってから5年、または権利を行使することができる時から20年となる。
【生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則】

※出典:法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料』
・加害者が履行遅滞になる時期
【不法行為責任】
不法行為時
【債務不履行責任】
請求時
これは、例えば「いつまで」という期限の定めがない債務不履行の場合は、請求して初めて相手が履行遅滞に陥るのに対し、不法行為の場合は、不法行為があった瞬間から問答無用に加害者は履行遅滞に陥ります。
(履行遅滞に陥ると遅延損害金が発生する可能性など)履行遅滞になる時期が早ければ早いほど加害者側が不利になります。
・加害者からの相殺
【不法行為責任】
できない
【債務不履行責任】
できる
・過失相殺
【不法行為責任】
任意的
【債務不履行責任】
必要的
・過失相殺による加害者の責任免除
【不法行為責任】
不可
【債務不履行責任】
可
上記の下から3つはすべて(過失)相殺についてになりますが、これらは状況によらず完全に不法行為責任の方がその責任が重くなっています。
よっぽど被害者側にも過失がないかぎり、加害者側の主張は、ほぼ通らないと言ってもいいかもしれません。
つまり、ほぼ無理ゲーってことです。
裁判所が加害者の主張を聞いて事案を検証し、任意で過失相殺をする可能性はありますが、あくまで裁判所の任意です(つまり裁判所次第ということ)。
以上、不法行為責任と債務不履行責任の違いについてまとめました。
被害者側からすると
立証責任においては債務不履行が被害者有利
立証さえできれば不法行為が被害者有利
と考えるとわかりやすいでしょう。
今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・不法行為責任と債務不履行責任の違い
・不法行為責任と債務不履行責任が同時に生じるケースもある
・どちらで損害賠償請求した方がいいのか
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今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

不法行為責任と債務不履行責任の違い
不法行為責任とは、不法な行為を行った責任です。
例えば、AさんがBさんを殴ったら、Aさんは不法な行為を行った加害者となり、AさんにはBさんに損害を賠償する責任(不法行為責任)が生じます。
債務不履行責任とは、債務を履行しない責任です。
例えば、AさんがBさんから時計を買って、AさんにはBさんに対して期日までに代金を支払わないといけない義務(債務)があるのに、期日を過ぎても代金を支払わない、つまり、その義務を果たさない(債務を履行しない)ような場合、AさんにはBさんに対して損害を賠償する責任(債務不履行責任)が生じます。
不法行為責任と債務不履行責任が同時に生じるケースもある
不法行為にせよ債務不履行にせよ、損害を受けた者は損害を与えた者に対し損害賠償の請求ができますが、不法行為による損害と債務不履行による損害が、競合する場合があります。
事例
Aは開業医のBによる手術を受けたが、Bの過失により障害を負ってしまった。
この事例で、AはBに対し、不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができます。
しかし、こうも考えられます。
患者Aと開業医Bは「手術をする⇄対価を支払う」という契約関係にあり、開業医Bは患者Aに対し、過失なく安全に手術をする契約義務(債務)があります。
つまり、開業医Bは「過失なく安全に手術をするという債務」を履行できなかった、すなわち債務不履行に陥ったと考えられ、患者Aは開業医Bの債務不履行による損害賠償の請求もできる、ということになります。
不法行為と債務不履行、どちらで損害賠償請求した方がいいのか
ここがまさに今回のテーマの肝ですが、これは状況次第で結論が変わってきます。
まず、不法行為と債務不履行の大きな違いのひとつに「加害者と被害者、どちらに立証責任があるか」があります。
不法行為の場合は、被害者側が加害者の過失を立証して初めて損害賠償が認められます。
「被害者側が加害者の過失を立証」とは、被害者側で「加害者が悪かったこと」を証明しなければならないという意味です。
一方、債務不履行の場合は、加害者が自らに過失がないことを立証できなければ責任を免れることができません。
これはどういう意味かといいますと、加害者が自ら「わたしは悪くない!」ことを証明しなければその責任を免れられないという意味です。
つまり、債務不履行の場合は、加害者(債務者)が債務不履行に陥った時点で、加害者側の過失が推定(加害者側が悪かったと推定)されてしまうのです。

したがいまして、不法行為責任を追及するよりも債務不履行責任を追及した方が、必然的に被害者の損害賠償の請求は認められやすくなっています。
だったら不法行為と債務不履行が競合したときは債務不履行による損害賠償請求一択でいいんじゃね?
確かに、立証責任の側面から見れば、債務不履行による損害賠償請求の方が、被害者にとっては有利でしょう。
しかし、時と場合によっては、不法行為責任を追及した方が被害者が救われやすくなることもあります。
それは以下の点などにおいてです。
・消滅時効期間
・加害者が履行遅滞になる時期
・加害者からの相殺
・過失相殺
・過失相殺によら加害者の責任免除
それでは上記の点をひとつひとつ解説して参ります。
・消滅時効期間
【不法行為責任】
損害および加害者を知ってから3年または行為時から20年
【債務不履行責任】
10年
例えば、債務不履行による損害賠償の請求権が11年経っていて時効消滅していたとしても、不法行為による損害賠償の請求なら可能、という状況もあるのです。
〈補足〉
生命・身体の侵害による損害賠償の請求については、損害及び加害者を知ってから5年、または権利を行使することができる時から20年となる。
【生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則】

※出典:法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料』
・加害者が履行遅滞になる時期
【不法行為責任】
不法行為時
【債務不履行責任】
請求時
これは、例えば「いつまで」という期限の定めがない債務不履行の場合は、請求して初めて相手が履行遅滞に陥るのに対し、不法行為の場合は、不法行為があった瞬間から問答無用に加害者は履行遅滞に陥ります。
(履行遅滞に陥ると遅延損害金が発生する可能性など)履行遅滞になる時期が早ければ早いほど加害者側が不利になります。
・加害者からの相殺
【不法行為責任】
できない
【債務不履行責任】
できる
・過失相殺
【不法行為責任】
任意的
【債務不履行責任】
必要的
・過失相殺による加害者の責任免除
【不法行為責任】
不可
【債務不履行責任】
可
上記の下から3つはすべて(過失)相殺についてになりますが、これらは状況によらず完全に不法行為責任の方がその責任が重くなっています。
よっぽど被害者側にも過失がないかぎり、加害者側の主張は、ほぼ通らないと言ってもいいかもしれません。
つまり、ほぼ無理ゲーってことです。
裁判所が加害者の主張を聞いて事案を検証し、任意で過失相殺をする可能性はありますが、あくまで裁判所の任意です(つまり裁判所次第ということ)。
以上、不法行為責任と債務不履行責任の違いについてまとめました。
被害者側からすると
立証責任においては債務不履行が被害者有利
立証さえできれば不法行為が被害者有利
と考えるとわかりやすいでしょう。
今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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