【婚姻】【届出意思と婚姻意思】【婚姻障害と婚姻の取消し】【婚姻の取消権者と取消期間】をわかりやすく解説!

▼この記事でわかること
婚姻の超基本
婚姻意思(届出意思と婚姻意思)の問題
婚姻障害と婚姻の取消し
重婚の禁止(民法732条)
近親者間、直系姻族間、養親子等の婚姻の禁止
婚姻の取消権者と取消期間
当事者の一方の死亡後の婚姻取消し
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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婚姻の超基本

 婚姻とは、わかりやすく言うと結婚の事です。
 つまり、民法的(法律的)に結婚とは、婚姻になります。 
 では、婚姻とは、どのように成立するのでしょうか?
 その要件は次の2つです。

・戸籍の届出
・婚姻意思の存在

 民法の意思主義の大原則から、婚姻意思、すなわち結婚する意思の存在しない婚姻は無効です。
 婚姻意思(結婚する意思)が存在しなければ、(それは意思の欠缺の問題であり)婚姻は無効です。
 一方で、詐欺強迫による婚姻は、いったん有効に成立します。つまり、取り消すことのできる婚姻となります。

婚姻意思の問題

 婚姻における当事者の意思の問題は、2つの段階に分けて考える必要があります。
 それは、届出意思の問題と、事実上の夫婦になる意思の問題です。

届出意思のケース

 まずは届出意思の問題から解説いたします。

 届出意思の問題として考えられるものに、届出意思を欠くのに婚姻届が出されたケースがあります。
 具体例としては、事実上の夫婦関係(いわゆる内縁関係)にある当事者のうち、一方(例えば夫)が他方(妻)に無断で婚姻届を出したケースが典型です。
 この場合、妻に届出意思が存在しません。
 したがって、その婚姻は無効です。
 以上、まずはここまでが基本です。
 では、ここからは少し微妙なケースを考えてみましょう。

事例1
事実上の夫婦の一方が他方に無言で婚姻届を出した。他方の配偶者は届出の事実を知ったが問題を放置し、生活関係を継続した。


 これは、ほぼ結婚しているのと同じような状態の男女(すなわち事実上の夫婦関係)の片方が、相手に無断で婚姻届を出し、相手はその事実を知ったがそのまま放置し、二人は引き続き現状の関係のまま生活していた、という話です。
 つまり、届出の時点では、他方配偶者に届出意思が存在しないということです。そして、届出の事実を知り、しかも、生活関係を継続すれば、一方配偶者の届出を追認したことになるのか?というのがこの事例の問題です。

 さて、ではこの事例で、この事実上の夫婦の婚姻は成立するでしょうか?
 結論。この婚姻は成立します。届出時にさかのぼって婚姻は有効となります。
 つまり、届出の後に、婚姻届を認める意思が生じ、結果として届出意思の一致が見られれば、さかのぼって有効な届出があったと解釈できるということです。

[参考条文]
(婚姻の無効)
民法742条 
婚姻は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。
二 当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、婚姻は、そのためにその効力を妨げられない。


 ちなみに、条文中の「民法739条2項に定める方式」とは、「婚姻の届出は、当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で、またはこれらの者から口頭で、しなければならない」という方式のことです。

婚姻意思のケース

 続いては、婚姻意思の問題について解説します。
 これは、婚姻届を出す意思は存在するが、事実上の夫婦になるという意思の存在しないケースです。
 わかりやすく言えば、婚姻届を出そうとは思っているが結婚したいとは思っていないケースです。
 これ、すでにピンと来た方もいらっしゃいますよね。
 そうです。いわゆる偽装結婚のケースです。
 典型的な例としては、外国人が日本で就労するために、日本人との婚姻届を出すというケースです。
 この問題について、判例は、当事者間に夫婦としての共同生活をする意思がない場合、たとえ婚姻届を出す意思があっても、婚姻は無効であると結論づけています。
 したがって、婚姻意思のない婚姻は無効です。

【補足】離婚意思の問題

 では、離婚届を出す意思は存在するが、現実に夫婦共同生活を解消する意思のない離婚の場合はどうでしょうか?
 これは、わかりやすく言えば、本当は離婚する気がないのに離婚届を出そうという、いわゆる偽装離婚のケースです。
 判例では、生活保護を受けるための便法として離婚届が提出されたケース(すなわち生活保護を受けたいがため偽装離婚したケース)について、法律上の婚姻関係を解消する意思の合致があるから、離婚は有効であると判示しています。
 偽装結婚の場合には、夫婦共同生活の実態がないので婚姻は無効でした。しかし、偽装離婚の場合は、法律上の夫婦を卒業して、事実上の夫婦関係になるという意思はあり得るということです。
 わかりやすく言うと、離婚することで法律上の夫婦ではなくなって、だけど内縁関係は続けようという意思はあり得るということです。

婚姻障害と婚姻の取消し
NG男性
 婚姻意思の合致があれば、婚姻は有効です。
 つまり、お互いが結婚したいと思っていれば、その婚姻は有効ということです。
 しかし、その婚姻成立時に瑕疵(欠陥)が存在する場合があります。
 その場合とは、例えば、詐欺による婚姻が典型です。
 この場合、民法は、契約などの財産法のケースと同様に、詐欺によって意思表示をした者に、取消権を与えます。
 しかし、この取消権は、次の2点においては、財産法の場合とその内容が異なります。

・第三者詐欺のケースで、婚姻の相手方が善意であっても、取消権を行使可能(不本意な婚姻関係に縛り付けるのは非人道的だから)
・家庭裁判所への請求によらなければ、取消権の行使をする事ができない

 なお、婚姻の取消事由には、詐欺以外にも、強迫、そして公益上の理由によるものも存在します。
 これは、国家の立場から、成立した婚姻自体に瑕疵(欠陥)があると判断するケースです。
 こうした事由を婚姻障害と言います。
 では、具体的に婚姻障害のケースとはどのようなものでしょうか?

事例1
18歳のA男と17歳のB子の婚姻届が受理された。


 さて、この事例のA男とB子の婚姻は有効でしょうか?
 これは民法というより社会の常識ですが、婚姻は、男女共に18歳に達しないとできません。(民法731条:婚姻適齢)
 したがって、この事例では、本来、戸籍係員は婚姻届を受理してはいけません。
 しかし、誤って受理をしてしまった場合はどうなるのか?というのがこの事例で考える問題です。
 で、結論は?
 はい。まず、この事例1のA男とB子には婚姻意思の合致はあります。(結婚する意思はある)
 なので、婚姻は有効です。
 しかし、この婚姻は国家の立場から認められません。
 当然です。民法の規定に反しているのですから。
 そこで、これは取り消すことのできる婚姻となります。

【補足】
 契約などの場合、取消しの効果は遡及します。(民法121条)
 しかし、婚姻の取消しには、民法の特則が存在します。

(婚姻の取消しの効力)
第748条 
婚姻の取消しは、将来に向かってのみその効力を生ずる。


 この民法748条は、仮に、夫婦の間に子が生まれた場合、後に婚姻が取り消された場合であっても、その子が嫡出子の地位(婚姻をした親の子供としての地位)を失わないという重大な事実を規定しています。
 なお、嫡出子とは、婚姻により生まれた子供のことです。

重婚の禁止(民法732条)

 我が国には、一夫多妻制も一妻多夫制もありません。
 配偶者のある者は、重ねて婚姻することはできません。
 しかし、例えば、AとBが離婚をし、その後、BとCが婚姻をした場合、その後に、ABの離婚が、詐欺・強迫を理由に取り消される事はあり得ます。
 この場合の法律関係は以下のようになります。

1、離婚の取消しの効力は遡及するか?(さかのぼるか?)
  遡及します。離婚の取消しの場合、遡及効(さかのぼってを発する効力)を制限する条文が存在しません。したがって、民法121条本文により離婚の取消しの効力は遡及します。
2、よってAB間の離婚は、もともと存在しないことになります。
3、結果として、さかのぼって、AB間の婚姻継続中にBC間の婚姻がされたことになります。
4、したがって、BC間の婚姻の成立に瑕疵(欠陥)が存在します。
 婚姻解消は、婚姻成立時の瑕疵を問題とします。AB間の婚姻の成立時には瑕疵がないので、AB間の婚姻には取消事由は存在しません。
5、BC間の婚姻が重婚となり、取消事由が発生します。

再婚禁止期間(民法733条)

 女性は、前婚の解消(離婚と死別)または取消しの日から100日を経過しなければ、再婚をすることができません。
 これは、女性が子を産んだ場合に、とちらの夫の子であるか不明であるという事態を避けるための規則です。
 再婚禁止期間の規定に反してなされた婚姻は取消事由が発生します。

近親者間、直系姻族間、養親子等の婚姻の禁止

 ここから上げる3つは、生物学的あるいは道徳上などの理由から禁止される婚姻です。

・近親者間の婚姻の禁止(民法734条1項)
 直系血族と3親等内の傍系血族は婚姻することができません。
 いわゆる、血が濃くなるというのが生物学的にまずいからです。
 
・直系姻族間の婚姻の禁止(民法735条)
 こちらは血の問題ではなく、道徳上の問題です。
 例えば、妻と離婚後に、妻の母と婚姻することができません。
 一度、義理の親子関係になった者同士の婚姻は道徳的にマズいという訳です。

・養親子等の婚姻の禁止(民法736条)
 これも同様に道徳上の問題です。
 例えば、養女と離婚後に、養親が養女と婚姻するようなことは許されません。これも、一度、義理の親子関係になった者同士の婚姻は道徳的にマズいという事です。
 この場合も、傍系の法定血族との婚姻は禁止されておらず、問題になるのは、直径の法定血族間の婚姻です。

 以上、ここまでの解説で挙げた5つの婚姻障害
・重婚の禁止(民法732条)
・再婚禁止期間(民法733条)
・近親者間婚姻の禁止(民法734条1項)
・直系姻族間の婚姻の禁止(民法735条)
・養親子等の婚姻の禁止(民法736)
 上記に婚姻適齢を合わせて合計6つの婚姻障害がある場合には、いずれも、戸籍係員は婚姻届を受理してはいけません。
 もし間違ってこれが受理されてしまった場合には、婚姻は有効に成立し、その後に婚姻取消しの問題が生じるのです。

【補足】
 身分行為は一般に代理になじみません。
 なので、事理弁識能力に欠く状況にある成年後見人が、婚姻、離婚をすることは通常はありえません。(判断能力のない者の代理人が本人を代理して婚姻or離婚する事はまずありえない)
 しかし、例外的に、成年被後見人が本心に復した場合、自らの意思でこれをなすことができる。
 本心に復することがない場合には、かろうじて、訴訟による離婚の可能性だけが存在します。
 裁判上の離婚については民法770条をご参照ください。

(裁判上の離婚)
第770条 
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。


婚姻の取消権者と取消期間
裁判所
 婚姻の取消しをするためには、家庭裁判所に請求しなければなりません。(民法7441項、民法747条1項)
 この場合の、取消権者と、取消しの請求ができる期間について、ひとつひとつ解説して参ります。

1、私益的な取消し事由の場合
 詐欺・強迫による婚姻の取消しの場合、取消権者は、詐欺強迫による意思表示をした当事者です。
 もともと、表意者の私の利益を保護する制度だからです。
 この場合の提訴期間は、詐欺を発見し、もしくは強迫を免れてから3ヶ月に限ります。

2、公益的な取消し事由の場合
 婚姻障害に該当する取消しの場合に裁判所に取消しを請求できる者を以下に挙げます。

・各当事者
・その親族
・検察官

 なお、取消事由が重婚の場合には、前婚の配偶者が取消権者に加わります。また、女性の再婚禁止期間に違反した場合には、前配偶者が取消権者に加わります。

【取消期間】
 さて、婚姻の取消期間はどうなっているのでしょうか?
 これについて、時の経過により瑕疵が治癒される性質の取消事由に限り、出訴期間が法定されています。
 どういう事かといいますと、当初は存在した婚姻の瑕疵が消滅した時点で、取消権も消滅します。つまり、婚姻の瑕疵(欠陥)が無くなってマトモな婚姻になった時、取消権も消滅するという事です。 
 では、取消権についての具体例見てみましょう、

・婚姻不適齢ケース
 例えば、18歳の男性と17歳の女性が婚姻した場合、婚姻不適齢に該当するのは、17歳の女性の方です。
 この場合、女性が18歳に達すれば、瑕疵は治癒され(婚姻不適齢という欠陥が無くなり)、婚姻の取消しの請求はできなくなります。 
 ただし、不適齢だった女性の方だけは、18歳に達するまでだけでなく、18歳に達してから3ヶ月の間、婚姻取消の請求をすることができます。
 これは、その婚姻が、果たして軽はずみだったかどうかを、婚姻適齢に達してからよく考えるための猶予期間と考えられます。

・女子の再婚禁止期間違反ケース
 前婚の解消または取消しから6ヶ月を経過すれば、婚姻の取消しの請求はできなくなります。
 また、女性が再婚後に懐胎した場合も同様に、取消請求をすることができません。

当事者の一方の死亡後の婚姻取消し

 婚姻障害がある場合、当事者の一方が死亡しても、他方当事者なり、双方の当事者の親族なりが婚姻取消しを請求することは可能です。
 死後に婚姻取消しをしても、何ら実益がないように思われますが、そうではありません。婚姻の取消しにより死後の相続関係が大きく変わるのです。
 さて、ここで一点、重要な問題が生じます。
 死後の婚姻取消しの実益が上記の相続争いにある以上、一方当事者の死後に検察官の取消権を認める実益がないことになる。
 したがって、検察官は、一方当事者の死後においては、婚姻取消しを裁判所に請求することができなくなります。(民法744条1項ただし書)
 もともと、なぜ、検察官が、婚姻取消しの請求権者に加わっているのでしょうか?
 それは、公益の代表としての立場です。
 どういう意味?
 よく、学園モノで「そんなハレンチ許しません!」みたいな風紀委員長キャラや学級委員キャラがいますが、要はそんな立場です(笑)。
 つまり、「その婚姻はアカンやろ?」と公益の立場からツッコむ役割ということです。
 本来、一方当事者が死亡した後においてまで、どうこう言う必要はないはずですよね。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
関連記事

【親族と親等】【血族と姻族とその違い】【相続と戸籍】【親子関係と戸籍の届出】【家族法と財政問題】

▼この記事でわかること
親族の超基本
親等について
血族と姻族とその違い
相続と戸籍
親子関係と戸籍の届出
民法と扶養制度と財政問題
遺留分制度と財政問題
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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親族の超基本

 親族とは、民法において、一定の血縁者と婚姻によって生じる続柄にあたる者のことを言います。
 では、その親族とは、具体的にどの範囲を指すのでしょうか?
 これは、民法の条文で明確に規定されています。  

(親族の範囲)
民法725条 
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族


 上記、民法725条の条文中に、親等という言葉があります。
 親等とは、親族間の世代数のことです。(民法726条1項)
 ではここで、親等について具体的に解説します。

親等について

・1親等
 これは親子の間柄です。ここは直系しかあり得ません。

・2親等
〈直系の場合〉祖父と孫の関係
〈傍系の場合〉兄弟の関係
 傍系とは、一度、同一の祖先にさかのぼり、その祖先から他の1人に下る関係を言います。
 兄から見て弟は、一度、同一の始祖(親)にさかのぼり(ここまでで1親等)、そこから弟に下ります。(これも1親等)。したがって、合計2親等になります。
 つまり、兄と弟の関係は、民法的に言うと「傍系の2親等の親族」となります。祖父と孫は「直径の2親等の親族」となります。

・3親等
〈直系の場合〉祖父とひ孫の関係
〈傍系の場合〉叔父と甥の関係
 叔父から見て、甥の祖先が兄弟だから、ここまでで2親等、そこから1世代下ると甥に至りますから、合計3親等です。
 つまり、叔父と甥の関係は、民法的に言うと「傍系の3親等の親族」となります。祖父とひ孫は「直径の3親等の親族」となります。

・4親等
〈直系の場合〉曽祖父とひ孫の関係
〈傍系の場合〉従兄弟の間の関係、あるいは叔父と「甥の子」の関係
 つまり、従兄弟同士、あるいは祖父と甥の子の関係は、民法的に言うと「傍系の4親等の親族」となります。曾祖父とひ孫は「直径の4親等の親族」となります。

 以上、親等の数え方についての具体例を挙げましたが、あとは応用です。
 直系であれば、単に世代の数を数えればよく、傍系であれば、同一の祖先に達するまでの世代数と、そこから相手方まで下る世代数を足すことになります。

血族と姻族

 続いて、血族と姻族についての解説をします。
 血族というのは、生理的に血が繋がっている者のことであると、一応は言えます。
 しかし、生理的な繋がりと法律上のそれとは、厳密な意味では必ずしも一致する訳ではありません。
 例えば、生理的に血が繋がっていないのに、法律上の血族関係が生じる制度として、養子縁組があります。
 逆に、生理的に血が繋がっているのに、法律上、血族関係を切ってしまう制度として、特別養子があります。例えば、Aが甲の特別養子になると、結果的にAと実親との血族関係が切れることとなります。

姻族

 姻族とは、婚姻により生じる親族のことです。
 姻族には次の次の2つの種類が存在します。
1・配偶者の血族
2・血族の配偶者
 要するに、結婚してできる嫁さんor旦那さんの親や兄弟などを指します。
 では、姻族とは具体的にどの範囲なのか?解説します。

事例1
Yの妻がA、Aの妹がB、Bの夫がZである。


   兄妹
   /\
Y  =   A    B  =  Z
妻     夫     妻   夫

 このケースで、YとZとは親族にあたるでしょうか?
 結論。YとZとの間に親族関係は生じません。
 Yから見て、A(配偶者)の血族であるBは親族です。
 AとBとは兄妹の関係であり、血族2親等ですから、YとBとの関係は姻族2親等にあたります。
 民法725条は、3親等内の姻族は親族であると定義していますので、YB間には親族関係が生じます。
 しかし、YはZから見て、配偶者の血族の配偶者です。
 これは、姻族の範囲には入らず、したがって、YZ間には親族関係が生じません。

続いてはこちらです。

事例2
甲と乙は兄妹である。甲の息子Yの従兄弟が乙の娘A、乙の娘Aの夫がZである。


  兄妹
  /\
 甲  乙
 |  |
 Y  A = Z(Aの夫)
(息子)    (娘)

 このケースで、甲の息子Yと乙の娘Aの夫Zとは親族にあたるでしょうか?
 結論。YZ間に親族関係は生じません。
 Yから見てAは、血族4親等です。
 民法725条の6親等内の血族にあたります。
 したがって、YZ間には親族関係が生じます。
 そして、乙の娘Aの夫Zは、甲の息子Yから見て、血族であるAの配偶者なので姻族です。
 しかし、それは姻族4親等です。
 民法725条に定義する3親等内の姻族の範囲には入りません。
 よって、YZ間に親族関係は生じません。

姻族と血族の違い
ここがポイント女性
 姻族も血族も、民法725条が規定する親等の範囲内で、親族関係が生じます。
 例えば、姻族も血族もそれぞれの2親等では、そのどちらも親族にあたります。
 しかし、姻族と血族には決定的な違いがあります。

事例3
Yの子がA、Aの妻がZである。Aが死亡し、のちにYも死亡した。


死亡
  Y
  |
  A = Z
死亡

 さて、このケースで、ZはYの相続人となるでしょうか?
 このケースのポイントは、夫Aに先立たれた妻Zが、夫の親であるYを相続するのか?です。
 このケースの具体例としては、Aが長男で、Yと同居していたところ、Aが死亡し、その後、Aの妻であるZが、Aの親の老後の面倒を見ていた、というようなものが考えられます。
 結論。この場合、たとえZがYの老後の面倒をかいがいしくみていたとしても、ZはYの相続人ではありません。
 なぜなら、Yから見てZは息子A(血族)の配偶者であり姻族だからです。
 法律的に、YZ間の関係は、姻族1親等という事になります。
 しかし、姻族は、決して相続人になりません。
 これが、姻族血族決定的な違いです。
 そして、こういったケースが、家族間トラブルに発展しがちな典型です。
 たとえ財産目的でYの面倒をみていた訳ではなくとも、Zには酷ですよね。
 しかし、これは法律上のルールです。
 死者の血族は相続人になり得ますが、死者の姻族は相続人にならないのです。
 また、同じ理由で、妻の連れ子は夫を相続しません。
 夫から見れば、連れ子は配偶者の血族であり、姻族1親等にあたるからです。

相続と戸籍

 先ほど、相続が絡んだケースが出ました。
 それでは、ここからは相続人の範囲について解説して参ります。
 まずは、次の民法の条文をご覧ください。

民放890条前段
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。


民法887条1項
被相続人の子は、相続人となる。


 上記、民法条文から、死者の配偶者と子は相続人になることがわかります。
 さらに、子がいなければ、直系尊属(例えば死者の親)が相続人となります。
 直系尊属もいなければ、今度は兄弟姉妹が相続人となります。
 じゃあこのケースは?あのケースは?と色々疑問も浮かぶかもしれませんが、まずはここまでをしっかり押さえてください。  
 要するに、相続人の範囲と相続分民法により厳格に規定されているということです。

厳格な規定の理由 

 相続人の範囲が民法によりきっちりと法定されている理由、それは、相続問題が典型的に元々紛争の多いものだからです。

 つまるところ、人間関係のトラブルの原因の多くは、金に行き着きます。
 相続問題は、その「金」が、身内が死んだ事により突然舞い込んで来る話です。
 ギャンブルでも投資でも、確実に儲かるという保証はありません。
 しかし、相続は違います。その権利さえあれば、確実にお金(財産)が転がり込んで来るのです。
 相続する財産が多ければ多いほど、相続人の目の色も変わるでしょう。
 結果、相続人同士の争いはとかく激化しやすい傾向にあるという訳です。
 ということで、もし相続人の範囲が曖昧であれば、相続がらみの紛争は、現在のその数を2倍にも3倍にもするかもしれません。いえ、高い確率でそうなるでしょう。
 そうなったら、裁判所もパンクしてしまいますし、世の中のドロドロ度も増してしまいます。
 そこで、民法は、相続人の範囲を戸籍を見ればわかる範囲に限定する努力をしているのです。
 では、その民法の努力を、事例共に具体的に解説します。

事例4
A男はB子と50年に渡り事実上の夫婦生活を続けた。しかし、婚姻届は出していない。


 さて、この事例で、A男が死亡した場合、B子はその相続人となるでしょうか?
 結論。B子はA男を相続しません。理由は、B子はA男の戸籍上の妻ではないからです。
 婚姻届が受理されれば法律上の配偶者です。しかし、婚姻届が出されていなければ、法律上はアカの他人です。
 したがって、事例4のA男とB子は、結局のところ法律上はアカの他人なのです。二人がいかに愛を育んでこようが、関係ありません。
 逆に、二人の愛がいかに冷え込んでいようが、婚姻してさえいれば、二人は法律上の夫婦です。

 続いて、こちらの事例もご覧もください。

事例5
死の床にあったA男は、死の前日にB子と婚姻する約束をし、B子はその日のうちに婚姻届を出した。


 さて、この事例で、B子はA男を相続するでしょうか?
 結論。B子はA男を相続します。理由は、B子はA男の戸籍上の妻だからです。
 昔、ある人が「恋愛と結婚の一番の違いは何か?それは法律で保護されるかどうかだ!」なんて言ってましたが、そういう事なんです。
 婚姻とは、婚姻届により成立する関係です。
 その他の個別の諸事情は、相続人の確定作業とはなんの関係もないのが原則です。
 事例5のケースは、死の前日に婚姻届を出したB子に対して遺産を渡したくないという他の相続人が現れそうなニオイがプンプンしますが、B子に婚姻の意志があれば、A男の相続権は法律上、認められることになります。
 根拠となる民法の条文はこちらてす。

(婚姻の届出)
民法739条 
婚姻は、戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。


 ちなみに、婚姻届が役所で受理されれば、婚姻は成立します。戸籍に記載された時点で婚姻成立というわけではありません。

 以上、ここまでの解説で、婚姻届の受理されていない法律上の婚姻というものはあり得ないということがお分かりになりましたよね。
 これは、戸籍の届出の有無という客観的な基準で身分関係を規律し、ひいては相続関係をも単純化するための国家政策であるのです。
 つまり、ある人の身分関係は、戸籍を見ればすぐ分かるという状態を理想として、届けをすることにより婚姻という身分関係が発生するというルールを作ったという訳です。

【補足1】
 事実上の夫婦関係(実際には婚姻していない関係)にある者が、婚姻をする意思のもとに婚姻届を作成した場合、届けが受理されるまでの間に、完全に昏睡状態になった場合でも(届出の時点では意思能力がないケース)、その前に翻意したなどの特段の事情がなければ、婚姻は有効に成立するという判例があります。
 これなどは、先述の事例5における死の床での婚姻の実例であると言えるでしょう。
 なお、このような判例の存在そのものが、この死の床での婚姻により、相続分を減らされる結果となる他の相続人が存在し、そして、猛烈にこの婚姻の無効を争ったことを示しています。(最高裁までいった)

【補足2】
 生存中に婚姻届を郵送したが、受理の段階でその一方が死亡している、というケースも存在します。
 戸籍法は、この場合も、婚姻の成立を認めています。届出人の死亡の時に届出があったものとみなすとしています。

親子関係と戸籍の届出
妊婦(胎児)
 ここからは親子関係について解説して参ります。
 先述の婚姻の場合の考え方は、親子関係の発生についても同様に採用されています。
 もちろん、出生による親子関係は届出を待たずに発生します。
 出生届は、子が出生したという事実を報告する趣旨であって、届けを出すことにより、子が出生するわけではありません。
 しかし、その旨の届出をすることにより、親子関係が創設されることがあります。
 以下に、その実例の代表例を2つ挙げます。

・養子縁組届
 生理的な血の繋がりを持つ自然血族に対して、法定血族と言われるのが養子縁組により発生する血族関係です。
 養親と養子の合意による養子縁組は、役所への養子縁組届けにより、効力が生じます。(民法799条、民法739条)

・認知届
 認知は、婚姻によらない子と、その父または母との親子関係を創設します。
 逆に言えば、生理的に血が繋がっていても、そのことだけでは法律上の親子ではなく、したがって、親族ですらありません。
 たとえDNA鑑定をしても、認知がなければ法律上の親子ではありません。
 父または母が生前にする認知も、戸籍の届出により有効に成立します。(民法781条1項)
 ちなみに、父に認知されない非嫡出子の戸籍は、父の欄が空白になります。父に認知されない非嫡出子とは、わかりやすく言えば、婚姻していない男女間にデキちゃった子(非嫡出子)で、その男に「認知」されていないということです。
 
 以上に解説した、養子縁組、認知は、いずれも当事者の戸籍に記載されます。
 これも、相続関係を明確な基準(戸籍の届出)により規律しようという民法の考え方と言えるでしょう。

【補足】身分関係の解消
 姻族関係を解消するための離婚届、縁組により生じた血族関係を解消する離縁届についても、当事者の協議によるものは、創設的な届出です。
 例えば、夫婦が長年別居し、夫婦としての共同体の実績が存在しなくても、離婚届が出ていなければ法律上は婚姻関係にあります。

家庭裁判所の関与

 当時者の合意による身分関係の創設および解消(婚姻や離婚など)は、戸籍の届出を要するという形式で制度化されています。
 これは、身分関係の確定には明確な基準を要するという考えによるものです。
 さて、ここで一つ、ある問題が生じます。
 それは、当事者の合意によらない身分関係の問題です。
 例えば、身分関係の創設としては、子の側から父に認知を迫る強制認知という制度が存在します。(民法787条)
 逆に、身分関係を解消したい場合もあります。
 協議によらない離婚や離縁です。(民法770条1項、民法814条1項)
 民法は、このようなケースでは、家庭裁判所の裁判により身分関係を確定するという形で、その基準の明確化を図ります。
 したがって、強制認知や協議によらない離婚、離縁は、いずれも訴えによってのみ行うことができます。
 そして、裁判により身分関係が生じまたは解消するケースにおいては、裁判の確定によりその効力が生じます。
 つまり、その後にする戸籍の届出は、例えば「私達は裁判により離婚しました」という事実を報告するための届出です。
 なので、このようなケースでは、裁判の確定から届出までの間、離婚はしたがその届けはされていないという事態、つまり、離婚の効力は生じているがその事実の届出はしていないという状況も生じ得ることになります。

財政問題

 民法における親族、相続に関する規定は、家族法と総称されます。
 そして、実は家族法の裏には、国家財政の問題が存在します。
 それはどういう事なのか?まずは、扶養の問題を見ながら解説して参ります。

 扶養についての民法の条文はこちらです。

(扶養義務者)
民法877条 
1項 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2項 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。


 上記、民法877条の「扶養義務」とは、文字通り扶養料を支払えという意味です。
 例えば、不況の影響で弟が路頭に迷っている場合、その兄には、当然に扶養義務が発生し、裁判所から「弟に対して月々◯円を支払え」と命ぜられることがあるということです。

扶養の問題と国家財政の関係
指差し男性
 実は、国の生活保護と、先に挙げたような私人間の扶養義務には、優先劣後の関係があります。
 すなわち、ある人が路頭に迷った場合には、その者に民法877条に該当する親族がいれば、その扶養義務の問題が最初に発生します。
 そして、扶養をすることができる親族がいない場合に限り、国家が生活保護を行うことになります。
 みなみに、朝日訴訟という憲法における有名な判例があり、生活保護を受けていた朝日氏に実兄が見つかったため、国家が生活保護を打ち切った事が、その事件の発端となっています。
 生活保護などの社会保障政策についてはよく議論になりますが、そんな簡単に誰でもかんでもすぐ生活保護という訳にはいきません。
 生活保護は「公助」になりますが、「助」の順番は、あくまで、1に自助、2の扶助、3に公助となります。
 (考え方は色々あるかと思いますが)これは当然といえば当然の事で、生活保護には財源が必要です。そして、その財源は無限ではありませんよね。  
 以上のように、民法上の扶養の問題は、生活保護の財源の問題と密接に関係しているのです。

[参考条文]
生活保護法4条
民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。


遺留分制度と国家財政の関係

 さらに、遺留分の制度にも、国家財政との関係性が存在します。
 遺留分とは、一定の相続人には必ず留保される、遺産の一定割合のことを言います。
 この説明ではちょっとわかりづらいので、具体的にご説明します。
 例えば、ある資産家の男が、全財産をある団体に寄付をするという遺言をしてから死亡したとします。このケースで、その男に妻と子供がいた場合、各相続人(妻と子供)は、自己の法定相続分(法律で規定された相続できる割合)の半分を遺留分として主張、つまり「その半分私によこせ!」と主張することができます。
 つまり、もし全員が遺留分の主張をすれば、その亡くなった資産家の資産のうち半分は、相続人の手元に残ることになります。
 本来であれば、死者が、自己の財産をどのように処分しようが、それは自由であるはずです。
 民法における私的自治の大原則に照らせば、むしろ遺留分の制度の方がおかしいと言えます。
 では、なぜそんなおかしな遺留分の制度が存在するのでしょうか?
 それは、相続人に一定割合の遺産を与えることにより、路頭に迷う相続人を減らして、生活保護のための財政負担を減らそうという国家政策としての目的があるという訳です。
 また、離婚における財産分与の制度にも、同様の目的があります。


 以上、親族から相続、戸籍、扶養について、その基礎的な部分を解説して参りました。
 民法における家族法と国家財政の問題には関連性がある、という事実は、民法(家族法)の学習、理解をする上での手助けともなるのではないでしょうか。
 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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