【債権譲渡の対抗要件】確定日付ある証書/債務者の承諾/債権譲渡と相殺

▼この記事でわかること
債権譲渡の対抗要件の基本
債権譲渡の通知が二重でされた場合
債務者の承諾
債権譲渡と相殺
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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債権譲渡の対抗要件の基本

 債権は自由に譲渡できます。
 そして、債権譲渡の対抗要件(法律の保護のもと主張するための要件)は、債務者への通知または債務者の承諾です。
 では、次のような場合は、一体どうなるのでしょうか?

事例1
AはBに対して500万円の貸金債権を持っている。Aはこの債権をCに譲渡しBにその事実を通知した。つぎに、Aはこの債権をDにも譲渡し、Bに確定日付ある証書でその事実を通知した。


 さて、この事例1で、Bの債権者はCになるのでしょうか?それともDになるのでしょうか?
 Aは、Bに対する貸金債権を、CにもDにも譲渡しています。
 つまり、これは債務者Bへの債権をめぐるCvsDの対決です。
 もっと正確に言えば
(ただの通知あり)BvsD(確定日付ある証書の通知あり)
です。

債権譲渡前
債権者 債務者
 A → B

[債権譲渡が行われる]
譲渡人 譲受人
 A → C
   ↑
債権譲渡(通知あり)

[さらに債権譲渡が行われる]
譲渡人 譲受人
 A → D
   ↑
債権譲渡(確定日付ある証書通知あり)

債権譲渡後
債権者 債務者
 C → B

債権者 債務者
 D → B

Bの債権者はC or D?

 これが不動産であれば、先に「登記」を備えた者が勝ちます。不動産においては「登記」が対抗要件だからです。
 では、債権譲渡においての対抗要件とは何になるのでしょう?
 まずは、民法の条文を見てみましょう。

(債権の譲渡の対抗要件)
民法467条2項
前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の
第三者に対抗することができない。

 この民法467条2項の条文によると「確定日付のある証書によってしなければ~対抗することができない」とあります。
 確定日付とは、当事者が後に変更することの不可能な公的な日付です。わかりやすい具体例としては、公正証書の日付、内容証明郵便の郵便局が記載する日付などがあります。
 つまり、確定日付のある債権譲渡の通知を備えた方が勝つということです。
 なんで確定日付が必要なの?
 確定日付ある証書(債権譲渡の通知)を対抗要件にすれば、例えばBとCが結託して「Cの方が先でしたよ」とウソをつくこともできなくなります。
 このような形で、CvsDの公平な対決ができることになります。

 では改めて、事例1で、Bの債権者はCになるのでしょうか?それともDになるのでしょうか? 
 もう答えは出ましたね。
 結論。Bの債権者は、確定日付のある通知を具備したDになります。
 債務者Bへの債権をめぐるCvsDの対決の勝者はDになります。
 よって、債務者Bが支払い義務を負うのはDに対してです。Cではありません。
 たとえCがBに請求書を送ったところで、Bは応じる必要はありません。
 あれ?じゃあCにした確定日付のない債権譲渡の通知は無意味なの?
 そういう訳ではありません。
 確定日付のある債権譲渡の通知は「債務者以外の第三者」に対する対抗要件です。なので、確定日付のない通知でも、債務者に対しては対抗できます。
 したがって、Dに対しては対抗できないCですが、確定日付はないものの譲渡の通知はあるので、債務者Bに対しては債権譲渡を対抗することができます。
 なので、もしD(第三者)が登場しなければ、Cは堂々とBの債権者としてその債権を行使することができます。

AC間とAD間の債権譲渡の通知
どちらも確定日付ある証書でされた場合

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 債務者以外の第三者に対する債権譲渡の対抗要件は、確定日付のある証書による通知です。
 では、DだけでなくCも確定日付ある証書による通知を受けていた場合、どうなるのでしょう?
 この場合、早い者勝ちとなります。
 では、早い者勝ちの「早い」とは、何が早いことを指すのでしょうか?
 次の2つの考え方ができます。
1、確定日付の「日付」の前後
2、確定日付ある証書が債務者に「到着した時間」の前後
 結論。判例は2の考え方を採用します。
 え?でもそれってちょっと曖昧じゃね?
 そうかもしれません。しかし、民法は債権譲渡の対抗要件については、あくまで債務者を不動産においての登記簿のように考えています。  
 不動産は早く登記した者勝ちです。したがって、登記簿である債務者に早く着いた者の勝ちという2の考え方に帰着するという訳です。
 なお、対抗問題は国のルールです。契約自由の原則が立ち入れることではありません。

【補足】債権譲渡登記
 実は、法人の金銭債権については、債権譲渡の登記をすることができます。
 この登記は、確定日付ある証書による通知とみなされ、これによって第三者対抗要件を備えることができます。
 しかし、この場合でも、債務者に対する対抗要件は債務者への通知または承諾になります。

ちょこっとコラム
債権譲渡通知の同時到達


 ところで、CD両者に送った確定日付ある債権譲渡の通知が2通同時に到着した場合はどうなるのでしょうか?
 つまり、AC間の債権譲渡とAD間の債権譲渡の関する通知が、同時に郵便局から配達されたケースです。
 そしてなんと、民法はこの事態を想定していません。
 なので、こうなると困った事態になります。
 このケースで、判例は、債務者は同順位の譲受人が他に存在することを理由として弁済の責任は免れるとはできないとしています。
 しかし、これが、債務者に「二重払いをせよ」という意味であるわけがありません。
 そのため、その先の解決法をどうするかが不明という事態になっています。

差押通知と債権譲渡通知の同時到達

 上記に続いて、差押通知と債権譲渡通知の同時到達というケースも存在します。
 つまり、AB間の債権をCが差押えをし、またAD間の債権譲渡を確定日付ある証書でし、その両通知が同時になされたケースです。
 この場合、判例では次のような論理を展開します。
1・裁判所からの差押命令とAからの債権譲渡通知が債務者Bに送付された
2・だがその到達の前後が不明
3・この場合は同時到達とみなす
4・なのでCとDはお互いに優先権を主張できない
5・債務者Bがその債務にあたる金員を供託した場合、CとDは相互の債権額に按分して供託金の還付を(つまり支払いを)受けることになる

債務者の承諾

 債権譲渡の対抗要件には、債権譲渡の通知だけでなく、債務者の承諾もあります。

事例2
債務者Bは、Aに対して弁済をした。その後、Aがその債権をCに譲渡し、それを債務者Bは承諾した。


 さて、この場合、債務者Bは、Aに弁済した事をCに対抗することができるでしょうか?
 結論。債務者BはCに対抗することができます。
 なんか当たり前じゃね?
 はい。ですが実は、民法改正前は、事例2のケースで債務者Bが「異議を留めずに承諾」した場合、なんとBは、Aに弁済した事をCに対抗することができませんでした。
 しかし、民法改正により、その「異議を留めない承諾」による抗弁の喪失の仕組みは廃止となりました。
 債権譲渡の当事者でもない債務者が、単にこれを承諾したのみで、その債務者に予期しない結果が生じることを不当と考えたからです。
 なお、債務者の承諾は、譲渡人と譲受人、どちらに対してしても有効です。
 
債権譲渡と相殺
女性講師
 続いて、債権譲渡に相殺が絡んだケースを解説して参ります。
(相殺についての詳しい解説は「【相殺の超基本】自働債権と受働債権って何?」をご覧ください)
 まずは事例をご覧ください。

事例3
Bを債務者とする債権(甲債権)を、AがCに譲渡した。その債権譲渡の通知の前に、Bが譲渡人Aへの反対債権(乙債権)を取得した。


 さて、この事例で、債務者Bは、Aに対する反対債権(乙債権)による相殺を、譲受人Cに対抗できるでしょうか?

[債権譲渡前(甲債権)
債権者 債務者
 A → B

[債権譲渡が行われる(甲債権)]
譲渡人 譲受人
 A → C
   ↑
[この債権譲渡通知の前に]
譲渡人 債務者
 A ← B
   ↑
反対債権取得(乙債権)
この債権による相殺をBはCに対抗できる?

 結論。債務者Bは、譲受人Cに対し相殺を対抗できます。
 したがって、債務者Bは、譲受人Cから(甲債権による)弁済を請求をされても拒むことが可能です。
 なお、Bが相殺を対抗することについて、甲債権と乙債権どちらも弁済期の前後は問いません。

さらに保証債務が絡んだケース

 続いては、こちらの事例をご覧ください。

事例4
Bを債務者とする債権(甲債権)を、AがCに譲渡した。その債権譲渡の通知より前に、BはAの委託により第三者と保証契約をしていた。その後、債権譲渡の通知より後に、Bが保証債務を履行し、Aに対する求償権(乙債権)を取得した。


 今度は保証債務も絡んできて、なんだかかなりややこしくなって来ました。
 ですので、まずは、わかりやすくするため簡単に事例を整理します。
債権譲渡前、AはBの債権者です。

債権者 債務者
 A → B
   (甲債権)

同時に、Aは第三者に対する(乙債権)の債務者でもあります。

債務者 債権者
 A ← 第三者
   (乙債権)

くわえて、Bは、Aの委託により乙債権の保証人、すなわちAの保証人です。そして、これはAからCへの甲債権の債権譲渡の通知より前(対抗要件具備時より前)のことです。

[債権譲渡が行われる(甲債権)]
譲渡人 譲受人
 A → C
   ↑
[この債権譲渡の通知前]
債務者 債権者
 A ← 第三者
   ↙(乙債権)
  B
 保証人

 その後、AからCへの甲債権の債権譲渡の通知の後(対抗要件具備時より後)に、Aの保証人でもある債務者Bが第三者に対してその保証債務を履行します。そして、債務者Bが主債務者でもあるAに対し求償権(乙債権)を取得する、というのが事例4の一連の流れになります。

[債権譲渡通知後(甲債権)]
(主債務者)
 譲渡人 債務者
  A ← B
    ↑
 求償権取得(乙債権)

 さて、ではこの事例4で、債務者Bは、Aに対する乙債権(求償権)を自動債権とする相殺を、譲受人Cに対抗することができるでしょうか?
 結論。債務者Bは乙債権による相殺を譲受人Cに対抗することができます。
 なお、この仕組みは、民法改正により新設されたものです。
 改正後の民法では、次の場合、債務者が譲渡人への相殺を、譲受人に対抗できます。

1・B(債務者)のA(債権者)への反対債権(乙債権)の発生原因がある
2・対抗要件具備(債権譲渡の通知または債務者の承諾)
3・その後に乙債権が生じた

 上記は、1から3へ時系列順となっています。
 改正民法は、債務者が相殺できる場面を拡大しました。
 債務者の相殺への期待権をより強く保護したしたという訳です。
  
 続いて、今度はこちらの事例をご覧ください。

事例5
B(注文者)を債務者とする将来の請負代金債権(甲債権)を、A(工務店)が、Cに譲渡した。その対抗要件具備の後に、AとCがその請負契約をした。


 では、この事例5で、Bはその請負契約によって生じたAへの損害賠償請求権(乙債権)による甲債権の相殺をCに対抗することができるでしょうか?
 結論。対抗できます。
 これも、民法改正により新設された仕組みです。
 次の時系列の場合、債務者は譲渡人への相殺を対抗することができます。

1・AB間の契約(Z契約とする)により生じる将来債権(甲債権)をAがCに譲渡する
2・対抗要件具備(債権譲渡の通知または債務者の承諾)
3・その後にABが契約を締結する
4・BがZ契約による反対債権(乙債権)を取得する

 この仕組みは、AB間の取引の継続を前提にしています。
 同一契約から生じる反対債権による相殺(事例では請負代金債務の相殺)への期待は、より強く保護されるべきであるという思想に基づく規定です。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
関連記事

【債権譲渡の通知と債務者の承諾】【譲渡制限の意思表示】【将来債権の譲渡性】をわかりやすく解説!

▼この記事でわかること
債権譲渡の基本
債権譲渡の通知と債務者の通知
譲渡制限の意思表示とは
債務者の履行拒絶権
譲渡制限と供託
譲渡制限と破産、差押え、転付命令
銀行の預貯金債権について
将来債権の譲渡性
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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債権譲渡の基本

 債権は譲渡することができます。
 債務者に無断で譲渡することも可能です。
 つまり、債権は自由に譲渡することができます。
 では、
債権者A
債務者B
 とする債権があった場合に、債権者Aが、債務者Bに無断でその債権をCに譲渡したとします。(債権を譲り渡したAは譲渡人、債権を受け取ったCは譲受人となります)
 この債権譲渡は有効です。しかし、債務者Bは債権者がAからCへ代わったことを知りません。

債権譲渡前
債権者 債務者
 A → B

[債権譲渡が行われる]
譲渡人 譲受人
 A → C
   ↑
 債権譲渡

債権譲渡後
債権者 債務者
 C → B

しかしBはこのことを知らない...

(なお、債権譲渡の超基本についての解説は「【債権譲渡の超基本】債権は譲れる?」をご覧ください)
 このまま何の知らせもなければ、債務者Bは間違って、C ではなく元の債権者Aに債務を弁済してしまいますよね。
 そこで、民法では次のように規定しています。

(債権の譲渡の対抗要件)
民法467条
債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。


 債権は、債務者に無断で譲渡することは可能です。ただし、その譲渡を対抗するには(法律の保護のもと主張するには)、その譲渡について債務者に通知するか、債務者の承諾が必要です。
 つまり、まとめるとこうです。
 債権者Aは債務者Bに無断でその債権をCに譲渡することは可能です。
 しかし、その債権譲渡を債務者Bに対抗するには、AはBに債権譲渡の通知をするか、債務者Bの承諾を要します。
 そして、債権譲渡の通知または債務者Bの承諾がない場合は、たとえ債務者Bが間違って元の債権者A(譲渡人A)に弁済してしまったとしても、その弁済は有効になります。
 この場合、譲受人Cは債務者Bに弁済を求めることはできません。
 譲受人Cは、譲渡人Aの責任を追求するしかありません。

債権譲渡の通知をするのは譲渡人
ここがポイント女性
 債権譲渡の通知のポイントとして、債務者に通知するのは「譲渡人」です。譲受人ではありません。
 これは債権譲渡の制度において大事なポイントです。
 というのも、もし譲受人からの債権譲渡の通知に対抗力を与えてしまったら、自称譲受人を語る輩がわらわらと出てくる可能性があり、そうなると債務者は誰に弁済していいかわからなくなり、結果として債務者に二重払いの危険性が生じてしまいます。
 でも譲渡人がウソをつく可能性もあるんじゃね?
 確かにそうですね。しかし、債権譲渡の通知は、譲渡人にとっては、自らは債権を失う通知です。そんな自らが損をする通知を譲渡人自身がわざわざすることになる訳ですから、それは信憑性が高いと言えます。
 よって、債務者の二重払いの危険性は生じづらいと考えられます。

 以上のような形で、債務者の保護がはかられているのです。
 なお、譲渡人Aから譲受人Cに債権譲渡があったのに、債務者Bが、譲受人Cではなく譲渡人Aに弁済してしまった場合、これは有効な弁済にはなりません。債権者でない人への弁済だからです。(非債弁済)
 したがって、この場合は、譲受人Cは債務者Bに対し「私に弁済しろ」と請求することができます。そして、債務者Bは、その請求に対し応じる法的な義務があります。結果、債務者Bは二重払いの事態に陥ってしまうことになります。
 じゃあBはどうすれば…
 そのケースで債務者Bができることは、まず譲受人Cに弁済をし、それから譲渡人Aに対しては不当利得返還請求をすることです。
 債務者Bにとっては非常に面倒臭い事態ですが、それは弁済相手を間違えたBの自業自得です。

【補足1】債務者の承諾
 債権譲渡の通知は「譲渡人」から債務者に対し行うものですが、債務者の承諾は、債務者から「譲渡人」または「譲受人」に対し行うものです。
 そうです。債務者の承諾は、譲渡人と譲受人のどちらに対してしても有効です。(どちらに対してしても対抗要件を備えるということ)
【補足2】債務者の事前の承諾
 債権譲渡における対抗要件としての「通知」「承諾」の制度趣旨は債務者の保護(二重払いを防ぐ)にあります。
 なので、債権譲渡の「通知」「承諾」を要しない、という特約は無効になります。
 また、「将来の債権譲渡の一切に承諾します」という「承諾」も効力を生じません。
 ただし、事前の承諾であっても、誰が誰にという辺りの事に具体性があれば、債務者の利益を侵害しないので、有効な承諾になるとされています。

【補足3】通知の時期
 債権譲渡の通知は、譲渡と同時でなくとも問題ありません。

譲渡制限の意思表示
NG男性
 債権は自由に譲渡することができます。
 これが原則です。
 しかし、譲渡できない場合も存在します。
 まずは民法の条文をご覧ください。

(債権の譲渡性)
民法466条2項 
当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。


 上記、民法466条2項の条文中にある「当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示をしたとき」というのが、債権を譲渡できない場合になります。
 そして、この「当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示」を譲渡制限の意思表示と言います。
 これは、民法改正以前は「譲渡禁止特約」と言われていましたが、民法改正により名称が変更となりました。
 改正前の民法で覚えていた方は、まずはこの点ご注意ください。

 さて、問題はここからです。
 では、譲渡制限の意思表示がなされているのにもかかわらず、債権者が第三者に債権を譲渡したらどうなるのでしょか?
 結論。この場合でも、譲渡の効力は妨げられません。(民法466条2項)
 これは、債権を受け取った第三者の善意無過失は問いません。
 債権者から債権を譲渡された第三者が、その債権の譲渡制限の意思表示について悪意または重過失であっても、債権譲渡は有効です。

債務者の履行拒絶権
バツ 女性
 次の事例をご覧ください。

事例1
AのBに対する債権に、譲渡制限の意思表示がなされている。債権者Aは、この債権を、悪意重過失の第三者Cに譲渡した。そして、Cは債権譲渡の対抗要件を具備した。

 
 この事例で、AC間の債権譲渡は有効なので、債務者Bは、Cに弁済すれば免責されます。
 では、債務者Bは、Cの請求を拒んで、Aに弁済することはできるでしょうか?
 結論。債務者Bは、債権の譲受人Cの請求を拒んで、譲渡人Aに弁済することもできます。
 よってBは、Aに弁済しても免責されます。
 そもそも、譲渡制限の意思表示は、債権者を固定するという債務者の利益のために付されるものです。
 なので、この利益を尊重し、債権の譲受人(債権を受け取った者)が悪意•重過失の場合、債務者の履行拒絶権が認められています。
 なるほど。債務者は悪意•重過失の譲受人の請求を拒絶できるんだね。でも、そうなると、もしCの請求を拒絶した債務者Bが、Aにも弁済しなかった場合はどうなるの?
 このままだと八方塞がりですよね。
 そこで、民法は、債権の譲受人に催告権を与えました。
 譲受人Cが、弁済しない債務者Bに対し、相当の期間を定めてAへの履行を催告した場合、その期間内に履行がないときは、債務者Bは、譲受人Cへの履行拒絶権を失います。
 その結果、債権の譲受人Cは、債務者Bに対して履行を請求することができるようになります。

供託

 続いて、こちらの事例をご覧ください。

事例2
AのBに対する債権に、譲渡制限の意思表示がなされている。債権者Aは、この債権を、悪意重過失の第三者Cに譲渡した。


 さて、この事例2で、債務者Bは、供託をすることはできるでしょうか?
 結論。債務者Bは、供託をすることができます。
 債務者Bが供託をするにあたり、譲受人Cの善意・無過失は問われません。
 そして、供託をした債務者Bは、遅滞なく、譲渡人Aおよび譲受人Cに供託の通知をしなければなりません。(民法466条の2 2項)
 なお、供託とは、簡単に言うと、法務局にお金を預けることです。
 例えば、誰が債権者かわからない場合に、だからといってそのまま弁済しないと債務不履行になってしまいますよね。そんなときに、供託することで有効な弁済とすることができます(つまり免責される)。その後は、真の債権者がその供託金の還付を受ければ解決、という訳です。

譲渡人の破産

 続いては、こちらの事例をご覧ください。

事例3
AのBに対する債権に、譲渡制限の意思表示がなされている。債権者Aは、この債権の全部を、悪意重過失の第三者Cに譲渡した。その後、債権者Aについて破産手続きの開始があった。


 この事例3では、譲渡人Aに破産開始の手続きがありました。
 となると、譲受人Cにはある懸念が起こります。
 それは、債務者Bが破産したAに弁済してしまう事態です。
 もし、Bが破産したAに弁済してしまうと、Cは、その破産財団に支払いを求めることになり、その債権の回収はきわめて困難になります。これは、いわばブラックホールに吸い込まれたお金を取り戻すようなものです。
 さて、ではこの事例3で、譲受人Cは、債務者BのAへの弁済を防ぐことはできるのでしょうか?
 結論。方法はあります。
 それは、譲受人Cが債務者Bに債権全額の供託を請求するという方法です。
 それでBが供託すれば、Cは供託金を還付することによって、その債権を回収することができます。
 結果的に、その債権は破産手続きから逃れることとなる訳です。
(破産についての詳しい解説は「破産の超基本~債務者に財産がなかったらどうなるのか」をご覧ください)

差押え、転付命令

 AのBに対する金銭債権に、譲渡制限の意思表示がなされているとき、Aの債権者Zは、AのBに対する債権を差し押さえ、また転付命令を得ることはできるのでしょうか?
 民事執行手続において、金銭債権の差押えがされると、原則として、債権者Zは第三債務者(債務者Bのこと)から直接に取り立てることができます。
 また、転付命令とは、債権執行において、支払いに代えて券面額で被差押債権を被差押債権者に転付する執行裁判所の決定のことです。
 わかりやすく簡単に言うと、裁判所の手によって、AのBに対する債権を、強制的にZに移転し執行手続を完了するものです。
 これは、いわば国家の手による強制的な債権譲渡です。
 したがいまして、債権者Zは債務者Bから直接債権の回収ができることになります。
(差押えについての詳しい解説は「差押え・強制執行の超基本」をご覧ください)

銀行預金
銀行
 実は、銀行預金には、譲渡制限の意思表示がなされています。
 これを前提として、銀行の顧客管理システムは作られています。
 このように聞くと小難しく聞こえますが、要するに、銀行預金についての債権者である預金者が、勝手に預金債権を譲渡できないということです。
 もっとわかりやすく言えば、夫が勝手に預金債権を妻に譲渡することはできないのです。この場合、夫の預金口座を解約し、新たに妻名義の口座を開設することになります。つまり、口座の書き換えは不可ということです。もしこれが可能となれば、システムの変更のために、銀行に膨大なコストがかかってしまいます。

 以上のことから、預貯金債権につきましては、その譲渡は無効となります。
 なお、預貯金債権の譲渡制限の意思表示については、周知の事実との判例があります。周知の事実ということは、基本的にみんなが悪意になるということです。

【補足】
 いかに預金債権でも、差し押さえることはできます。(民法466条の5 2項)

将来債権の譲渡性

 債権は、将来発生する債権(将来債権)についても譲渡することができます。(民法466条の6)
 では、将来債権を譲渡すると、譲受人はその債権をいつ取得するのでしょうか?
 それは、その債権が発生した時です。譲受人は、発生した債権を当然に取得します。(民法466条の6 2項)
 では、その将来債権に譲渡制限の意思表示が付されていた場合に、債務者は、それを取得した悪意重過失の譲受人からの支払いを拒絶することはできるでしょうか?
 この問題は、次の区分けで対処します。

a、対抗要件具備時(債権譲渡の通知時または債務者の承諾時)までに譲渡制限の意思表示がなされたとき
 この場合、債務者は譲受人への履行を拒絶できます。

b、対抗要件具備時より後に譲渡制限の意思表示がなされたとき
 この場合、債務者は譲受人への履行を拒絶できません。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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