【根抵当権の減額請求&消滅請求】根抵当権減額請求の要件/根抵当権消滅請求できる一定の者とは?

▼この記事でわかること
根抵当権減額請求の超基本
減額請求するための要件
根抵当権消滅請求の超基本
根抵当権消滅請求ができる「一定の者」とは
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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根抵当権減額請求

 根抵当権減額請求は、根抵当権設定者の負担を軽減するための制度です。
 例えば、極度額が金3000万円の根抵当権が、金2000万円で確定した場合、もう新たな被担保債権が発生することはないですよね。そこで、この極度額の減額の請求を可能とし、設定者の負担を軽くするための制度を設けたという訳です。
 なお、共同根抵当権については、その複数の抵当不動産のうちの1個の不動産について請求すれば足りるとしています。(民法398条の21第2項)

根抵当権減額請求するための要件

・元本確定後に限る
 これは当然ですよね。取引継続中にできる話ではありません。

・根抵当権設定者が請求する
 債務者からの請求は認められません。債務者は担保負担者ではないからです。
 減額請求できるのは、あくまで担保負担者である設定者です。
 ただし、設定者と債務者が同じであれば可能です。
 この点はご注意ください。

根抵当権消滅請求

 元本の確定後において現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超えるときに、一定の者が、その極度額に相当する金額を払い渡しまたは供託して、その根抵当権の消滅請求をすることができます。(民法398条の22第1項)
 これを、根抵当権消滅請求と言います。
 この場合、その払い渡しまたは供託は、弁済の効力を生じます。

 ところで、この根抵当権消滅請求という制度は、実は根抵当権者にとっては非常にありがたい制度です。
 というのも、我が日本国の競売制度は、時間と金がかかります。そして、手続が順調に進んだとしても、根抵当権者が優先弁済を受けられる範囲は極度額に限定されます。
 くわえて、競売手続の進行により、根抵当権は例外なく、裁判所書記官の嘱託により抹消されてしまいます。
 つまり、苦労して競売しても、いずれ根抵当権は消滅するのです。
 それを、一定の者の側から「極度額を今すぐ支払います」と言ってくれれば、たいがいそれは根抵当権者にはありがたい話と言えるのです。

「一定の者」とは

 根抵当権消滅請求ができる一定の者とは、以下になります。 

・物上保証人
・第三者得者
・地上権、永小作権、対抗力ある賃借権を取得した者

 対象となる抵当不動産についての上記の者が、根抵当権消滅請求をすることができます。
 また、上記の「対抗力ある賃借権」には、借地借家法の対抗要件を取得した賃借権者も含みます。(登記ある賃借権に限らないということ)
 なお、共同根抵当権については、1個の抵当不動産について消滅請求があったときに、根抵当権が消滅します。

補足:誰が根抵当権消滅請求できないか

 まず、債務者は根抵当権消滅請求することができません。
 債務者は、極度額を超える債務を負担している張本人です。なので、その全額を支払わなければ本旨弁済をしたとはいえません。
 債務者が根抵当権消滅請求をするためには、その全額を支払わなければならないのです。極度額だけで消せというのは何とも厚かましいというもんです。
 したがいまして、債務者兼設定者も、根抵当権消滅請求をすることはできません。
 次に、保証人も根抵当権消滅請求することができません。
 その理由は債務者と同じです。くわえて、保証債務は無限責任でもあります。
 その他、停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間は、根抵当権消滅請求することができません。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
関連記事

【根抵当権の元本確定】考え方の基本/確定期日と確定請求/ 1・2・3・4号確定ってなに?

▼この記事でわかること
根抵当権の元本確定についての考え方
確定期日を定めた場合
確定請求の場合
1・2・3・4号確定
3号確定と4号確定の問題
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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根抵当権の元本確定

 ますはじめに、根抵当権の元本確定についての基本的な考え方は、根抵当権者の利益の保護ということにあります。
 どういうことかといいますと、例えば、銀行取引が債権の範囲である場合、銀行が、根抵当権により担保されるものと思って債務者に融資したところ実はすでに元本の確定事由が発生していた、というような場合には、この貸付金が無担保債権になってしまうからです。
 つまり、銀行に不測の損害を与える可能性があるからです。
 そこで、この可能性をいかに防止するかという点を考慮されます。
 それでは、元本確定について、わかりやすくパターン毎に解説して参ります。

元本確定期日を定めた場合

 この場合、その期日をもって元本確定します。
 そして、元本確定期日の登記をしていなくても合意の効力は生じます。
 また、元本確定期日の変更は可能です。(民法398条の6 1項)
 なお、元本確定期日は、その設定または変更の時から5年以内の範囲で定めなければなりません。(民法398条の6 3項)
 ちなみに、元本確定期日の変更は、その変更前の期日より前に登記しなければ、担保すべき元本は、その変更前の期日に確定します。(民法398条の6 4項)
 つまり、令和3年12月22日が確定期日として登記されている場合、同年同月21日までにその変更の登記をしない限りは、たとえ当事者間で期日を延長する合意をしていたとしても、根抵当権は令和3年12月22日をもって確定します。

元本確定請求の場合

・設定者の元本確定請求
 確定期日の定めのない場合、設定から3年を経過すると、設定者は元本確定請求をすることができます。(民法398条の19 1項)
 これは、長期にわたる設定者の担保負担を防止する仕組みです。
 請求すると「その請求から2週間の経過」をもって確定します。(民法398条の19 1項)
 2週間の期間を置いてから確定する理由ですが、根抵当権者の不測の損害を防ぐためです。

・根抵当権者の元本確定請求
 確定期日の期日の定めのない場合、根抵当権者は、いつでも元本確定請求をすることができます。(民法398条の19 2項)
 これは、銀行が取引先を見放したケースです。根抵当権者の「請求の時」に確定します。(民法398条の19 2項)
 なぜ、この場合は「2週間の経過」という期間がないのかというと、銀行(根抵当権者側)が確定請求したので、銀行に不測の損害があるわけないですよね。なので、2週間の経過を待たず「請求の時」に確定するのです。
 なお、このケースでは、根抵当権者は元本確定登記を単独申請できます。
 通常は、根抵当権の元本確定登記は、根抵当権者を義務者、設定者を権利者として登記します。しかし、根抵当権者による確定請求の場合は、そもそも設定者は夜逃げしているかもしれません。
 したがって、このケースでは、例外的に根抵当権者は元本確定登記を単独申請できるとしているのです。

民法398条の20の確定事由

【1号確定】
 これは、根抵当権者が抵当権不動産につき、競売もしくは担保不動産収益執行または物上代位による差押えを申し立てたケースです。
 この場合、申立て時に確定します。
 ただし、これは、競売手続、担保不動産収益執行が開始しまたは差押えがあったときに限ります。
 なお、このパターンは根抵当権者が自ら競売等を申し立てた事例です。つまり、根抵当権に不測の損害はありません。
 したがって、申立て時に即座に確定します。

【2号確定】
 これは、根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたケースです。
 この場合、差押えの時に確定します。
 ちなみに、このケースでの滞納処分とは、相続税や固定資産税の滞納のことです。
 そして、このケースも1号確定と同様根抵当権者自らの差押えですが、2号確定では、債権者が国または地方公共団体になります。

【3号確定】
 これは、根抵当権者が、抵当不動産に対する競売手続の開始または滞納処分による差押えがあったことを知ったときの確定です。
 この場合、根抵当権者がその事実を知ってから2週間の経過で確定します。
 この3号確定パターンは、例えば、1番抵当権者が競売の申立てをして、その手続の開始を2番根抵当権者が知ったケースです。
 この場合、2番根抵当権は、根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始等を知った時から2週間を経過した時に確定します。
 この2週間という期間も、いきなり確定すると根抵当権者に不測の損害が生じる可能性があるためです。

【4号確定】
 これは、債務者または根抵当権設定者が、破産手続開始の決定を受けたときの確定です。
 この場合、開始決定の時に確定します。
 このケースは破産事件に進行するので、破産債権を打ち止めにする趣旨です。

3号確定と4号確定の問題
女性講師
 この2つの確定の場合、根抵当権者の関与がないままに根抵当権が元本確定してしまいます。
 そのため、これらの手続が滞ったときに、逆転ホームランで、根抵当権が元本確定しなかったものとみなされるケースが生じます。

・3号確定の場合
 競売手続開始または差押えの効力が消滅したときです。
 例えば、先の例(1番抵当権者が競売の申立てをして、その手続の開始を2番根抵当権者が知ったケース)で、1番抵当権者が申立てを取り下げた場合です。

・4号確定
 破産手続開始の効力が消滅したときです。
 ただし、ここで、さらに逆転ホームランを打たれる可能性もあります。
 というのは、根抵当権が確定したものとして、これを取得した第三者が現れた場合、その第三者の利益のために、やはり根抵当権の元本は確定となります。
 ちなみに、このケースでの「第三者」とは、整理回収機構のようなものと考えてください。もっとわかりやすく言えば、銀行の根抵当権の被担保債権を、不良債権処理のために買った人です。
 なお、この場合、根抵当権の元本が確定していれば、根抵当権は抵当権と化して、債権とともに第三者(整理回収機構)に移転します。
 しかし、元本が確定していないとみなされてしまえば、枠(確定前根抵当権)はピクリとも動かず銀行のものです。それでは困るので、再度の逆転ホームランがあるのです。
 なお、そのケースで、銀行(根抵当権者)は根抵当権の元本確定の登記を単独申請することができます。

【補足】
 1号確定か3号確定かがわかづらいものもあります。
 以下に2つのケースを挙げます。

・根抵当権についての転抵当権者が競売等を申し立てたケース
 この場合、根抵当権者は競売等を申し立てていません。
 申立てをしたのは、根抵当権の転抵当権者であり根抵当権者自身ではありません。 
 したがいまして、これは3号確定のケースとなります。

・共有根抵当権について共有者の一方が競売等を申し立てたケース
 この場合は、根抵当権者が競売等を申し立てています。
 したがいまして、これは1号確定のケースです。
 そして、申立てをした者以外の根抵当権の共有者がこれを知らなくても、根抵当権の元本は確定します。(共有根抵当について詳しい解説は「共同根抵当権と共有根抵当権~」をご覧ください)


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
関連記事

【根抵当権者または債務者の死亡・合併・分割】そのとき根抵当権はどうなる?

▼この記事でわかること
債務者が死亡した場合
債務者(法人)の合併
根抵当権者(法人)の合併
会社分割の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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根抵当権者、債務者の死亡・合併・分割
債務者の死亡

 根抵当権者の債務者が死亡すると、その根抵当権はどうなるのでしょうか?

事例1
ZはAのために根抵当権を設定した(根抵当権はA、設定者はZ)。この根抵当権の債務者はBである。その後、Bは死亡した。


 この場合、原則として、根抵当権は確定します。
 その理由は、個人が死亡した場合、根抵当権者がその相続人と継続して取引を行うとは限らないからです。
 これは当然ですよね。
 八百屋の親父さんが死んで、跡を継ぐ気のないサラリーマンの息子が、相続人として親父さんの取引を継続することは考えにくいです。
 しかし、場合によっては、関係当事者が取引の継続を願い、根抵当権の確定を好まないケースもあります。
 これも当然ありますよね。
 亡くなった八百屋の親父さんの跡を息子が脱サラして継ぐケースもありましょう。
 そのため、民法は、根抵当権者と設定者の間で合意により定めた相続人が、相続の開始後に負担する債務を担保するという仕組みを用意しました。
 つまり、事例1で、債務者Bの相続人である跡取り息子を、根抵当権者Aと設定者Zの間で、合意により定めていれば、債務者Bが死亡しても、根抵当権の継続使用が可能となります。
 なお、この合意は、相続開始から6か月以内に登記をしなければなりません。合意だけではダメです。
 もし、登記をしなかった場合は、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなされます。(民法398条の8第4項)
 なので、仮に6か月経過後に合意の登記をしても却下になります。なぜなら、相続開始の時に根抵当権はすでに確定しているからです。いったん確定してしまった根抵当権を、確定前の状態に戻すことはできません。

合意の登記をして取引を継続した場合に担保する債権

 合意の登記をすれば、債務者Bの死亡後も、根抵当権の取引を継続できることはわかりました。
 そして、合意の登記をした場合、根抵当権は以下の債権を担保します。

・相続開始の時に存する債務(被相続人=死亡した債務者Bの債務)
・合意による債務者(Bの跡取り息子)が、相続開始後に負担する債務

死亡した債務者Bの債務についての債権=x
跡取り息子の相続開始後の債務=y
x + y =合意の登記した根抵当権が担保する債権

債務者が法人の場合
ビル 会社
事例2
ZはAのために根抵当権を設定した(根抵当権はA、設定者はZ)。この根抵当権の債務者は(株)Bである。その後、(株)Bが(株)Cに吸収合併された。


 さて、この事例2の場合、根抵当権はどうなるでしょうか?
 結論。この場合、根抵当権は原則として確定しません。
 その理由は、会社が合併した場合、合併による存続会社と継続して取引を行うことが普通だからです。
 このケースでは、根抵当権は、つぎの債務を担保します。(民法398条の9第2項)

・合併の時に存する債務(株式会社Bの債務)
・合併後存続する債務者(株式会社C)が合併後に負担する債務

合併の時に存する債務(株式会社Bの債務)=x
合併後存続する債務者(株式会社C)が合併後に負担する債務=y
x+ y =根抵当権が担保する債務

 しかし、場合によっては、設定者Zが、取引の継続を嫌い、根抵当権の確定を望むケースもあります。(株)Bには義理があったが(株)Cの経営陣には義理がない、というようなケースです。
 そのため、民法は、設定者からの「元本確定の請求」という制度を用意しました。
 つまり、元本を確定させ「合併後存続する債務者=(株)Cが合併後に負担する債務」についての負担を免れさせる道もある、ということです。
 ただ、これはあくまでも、担保の負担をする設定者の利益のための制度です。なので、債務者からの確定請求という仕組みは存在しません。
 なお、元本確定の請求は、設定者が以下の期間内にすれば、根抵当権の元本は「合併の時」に確定したものとみなされます。
・根抵当権設定者が合併のあったことを知った日から週間以内
合併の日から1か月以内
 上記のうち、どちらかの期間を過ぎてしまうと、設定者は、債務者の合併を理由とする「元本確定の請求」ができなくなってしまいます。

根抵当権者の合併

 こちらも、基本的は考え方は債務者合併のケースと同様です。(民法398の9第1項・4項・5項)
 以下に、簡潔に解説をまとめます。

・原則として元本は確定しない。
・しかし、設定者が合併後の根抵当権者に義理がないことがある。
・なので、設定者が元本確定の請求をすることができる。
・設定者が、次の期間内に確定請求をすれば、元本は「合併の時」に確定する。
・根抵当権設定者が合併のあったことを知った日から2週間以内
・かつ、合併の日から1か月以内

 上記請求期間ですが、合併のあったことを知った日から2週間以内かつ合併後の日から1か月以内です。債務者死亡のケースよりも厳しくなっています。
 なお、この根抵当権者合併のケースでの考え方は、設定者が債務者を兼ねるケースでも該当します。合併したのは根抵当権者なので、設定者が合併による存続会社には義理がないケースはありうるからです。

会社分割の場合

 会社分割とは、1つの会社を2つに割るケースです。
 この場合、
分割前→(株)B
分割後→(株)B・(株)C
となります。
 (株)Bが自社を2つに割り、これを設立した新会社または承継会社である(株)Cに包括承継する(まるまる受け継がせる)仕組みです。
 このケースは、民法398条の10に規定されてます。
 そして、基本的な流れは、合併のケースとまったく同様です。
 ただし、会社分割の場合、元本確定請求がない場合の根抵当権の担保する範囲が合併のケースと異なりますので、この点のみ簡単に解説します。

1、根抵当権者の(株)Aが(株)Dに分割するケースでの根抵当権の担保する範囲
・分割の時に存する債権(株式会社Aの債権)
・分割後に株式会社A・Dが取得する債権

2、債務者の(株)Bが(株)Cに分割するケースでの根抵当権の担保する範囲
・分割の時に存する債務(株式会社Bの債務)
・分割後に株式会社B・Cが負担する債務


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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【共同根抵当権と共有根抵当権】その特徴と違い/累積根抵当とは?わかりやすく解説

▼この記事でわかること
共同根抵当権の基本
共同根抵当権の設定後
累積根抵当とは
共有根抵当権の基本
共有根抵当権の元本確定前の譲渡
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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共同根抵当権

 根抵当権は、「どういう取引をした場合にいくらまで担保するか」という「」を設定します。
 つまり、根抵当権は、債権者債務者の間の一定の取引を前提にして担保の枠だけを決めておく抵当権です。
 その「枠」こそが、根抵当権のボスであり、その「枠」に出入りする不特定債権(枠の中で都度発生する債権)が部下です。
(こちら根抵当権の基本についての詳しい解説は「「【根抵当権】極度額の限度と債権の範囲」」をご覧ください)
 なので、根抵当権の場合、複数の不動産を共同担保にするという概念になじみません。
 抵当権であれば、特定の被担保債権を担保するための共同担保、と法律上当然に考えられます。
 しかし、根抵当権の場合には、基本的にはそれぞれの不動産に「別の枠」がのっているだけなのです。
 そこで、これらの根抵当権を「共同根抵当」として取り扱うためには、その設定と同時に「共同担保たる旨の登記」をしなければなりません。

(共同根抵当)
民法398条の16
第392条及び第393条の規定は、根抵当権については、その設定と同時に同一の債権の担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をした場合に限り、適用する。
※民法392条→(共同抵当における代価の配当)
※民法393条→(共同抵当における代位の付記登記)

 したがいまして、その旨の登記をすれば、1つの「枠」が、共同で各不動産にのることになります。
 また、条文では「その設定と同時に」とあります。
 その意味は「根抵当権の設定と同時に」ということです。
 したがって、設定後の2つの根抵当権を「共同根抵当権」にすることはできません。
 同じ理屈で、いったん「共同根抵当権」と登記したものを、別個の根抵当権に分割することもできません。

 ちなみに、共同根抵当権を追加設定する場合、「根抵当権者」「極度額」「債務者」「債権の範囲」については、既存の根抵当権一字一句違ってはならないという厳格さが要求されます。
 一方、通常の抵当権の追加設定の場合、債務者の住所が、既存の登記は引越し前、追加設定後は引越し後、なんてことは実務上よくあり、不問に付されています。

共同根抵当権の設定後

 共同根抵当権は、「債務者」「債権の範囲」「極度額」の変更、そして、譲渡(分割譲渡を含む)もしくは一部譲渡は、その根抵当権が設定されているすべての不動産について登記をしなければ、その効力が生じません。(民法398条の17第1項)

 例えば、甲土地と乙土地に共同根抵当権が登記されていて、根抵当権者はA(楽器メーカー)、債務者はどちらもB(楽器店)だとします。
 このケースで、根抵当権者と設定者の間で債務者変更の合意がされて、甲土地についてのみ債務者をC(別の楽器店)とする変更登記をしたとします。
 その後、失念した乙土地の登記ををしない間に、元本が確定したらどうなるでしょう?
 この場合、民法398条の17第1項により、乙土地の債務者はBであるとみなされます。
 その結果、この共同根抵当権は、AB間に発生した債権において「確定」してしまいます。
 つまり、乙土地の債務者変更の登記をし忘れたことによって、AもBもCも設定者も意図しない事態が起こり、困ってしまうことがあり得るのです。

 このように、根抵当権の場合は、こまめに登記をしなければ、当事者の意図に反する結果となってしまうことがあるのです。
 あれ?そもそも根抵当権者と設定者の関知しないところで元本確定事由が発生することはありえるの?
 十分ありえます。
 その理由は、共同根抵当権の元本は、一個の不動産についてのみ発生すれば、民法398条の17第2項の規定によりすべての不動産について確定するからです。

ちょこっとコラム
女性講師
累積根抵当

 これは、共同根抵当と同様に、複数の不動産に同一の根抵当権者が根抵当権を有するケースです。
 しかし、累積根抵当は、共同根抵当とは異なる仕組みのものです。
 累積根抵当のケースでは、民法392条1項(共同抵当における代価の配当)の割り付けは行いません。
 
(累積根抵当)
民法398条の18
 数個の不動産につき根抵当権を有する者は、第三百九十八条の十六の場合を除き、各不動産の代価について、各極度額に至るまで優先権を行使することができる。


 つまり、累積根抵当のケースでは、各不動産に設定された根抵当権は「相互に別物」ということです。 
 したがって、各根抵当権の債務者が一緒で同時に競売となった場合でも、民法392条1項(共同抵当における代価の配当)の割付は行われません。それぞれ別個の競売案件ということです。
 また、債権の範囲、極度額なども同一である必要はまったくありません。
 1個の不動産に確定事由が生じても他には影響しません。
 これも「相互に別物」だからです。
 
 なお、A不動産(価格金3000万円)、B不動産(価格金3000万円)で、Zが根抵当権者という場合に、累積根抵当設定のケースと、共同根抵当のケースの違いは以下のようになります。

[累積根抵当]

 極度額  Z   極度額
 2000万円↙︎   ↘︎2000万円
    A   B
  2つの根抵当権は別物

[共同根抵当]

     Z
 極度額4000万円
   /\
  A  B
 1つの根抵当権

共有根抵当権

 こちらは[共同]ではなく共有根抵当権です。(共有についての詳しい解説は「【共有】持分権とは」をご覧ください)
 確定前の根抵当権の共有の性質は、含有であるとされています。
 含有と言われてもピンと来ないと思いますが、その意味は「持分が潜在化している(隠れている)」ということです。
 どういうことかと言いますと、確定前の共有根抵当権は、登記手続としては共有であるのに、持分の登記をしません。
 不動産登記法では、登記名義人が複数いる場合、原則として持分が登記事項になっていますので、これは共有根抵当権の大きな特徴と言えます。

 さて、では、その配当はどのように行われるのでしょうか?
 例えば、ABの2名による共有根抵当権の場合、その配当金の取り分はどうなるのか?
 この場合、ABはそれぞれの債権額に応じて弁済を受けることになります。(民法398条の14第1項本文)
 つまり、ABは「同順位」で弁済を受けます。
 ただし、元本の確定前に、これと異なる割合を定め、またはある者が他の者に先立って弁済を受けるべきことを定めたときは、その定めに従います。(民法398条の14第1項ただし書)
 この定めを「優先の定め」といい、これは登記事項となります。

【補足】優先の定め
「AはBに優先する」「A7、B3の割合」といった具合に登記をします。
 なお、優先の定めは「元本確定前に定めろ」との規定がありますが「元本確定前に登記しろ」とは定められておりません。

共有根抵当権の元本確定前の譲渡

 ABの2名の共有根抵当権で、Aがその権利を譲渡することは可能です。(民法398条の14第2項)
 この場合、設定者の承諾のほか、Bの同意も必要です。
 ただし、譲渡できるのは、全部譲渡のみです。
 一部譲渡、分割譲渡は、その後の法律関係がややこしくなるため認められていません。(法律関係がややこしくなるのは基本的に民法も裁判所も嫌う)
 一方、ABが共同根抵当の場合は、全部譲渡、一部譲渡、分割譲渡のすべてが可能です。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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