この世の中は契約社会~民法は私達の生活に直結している

 皆さんは、民法と聞いて何かピンと来ますか?
 おそらく、法学生や仕事で法務に携わっている方以外は、中々ピンと来ないのではないかと存じます。
 民法とは一体何なのでしょう。

この世の中は契約社会

 当サイトをご覧になってくださっている方で、アパートやマンションあるいは一軒家を借りて住んでいる、いわゆる賃貸不動産にお住いの方は多いと思います。実はその不動産賃貸借に関する規定が、民法の中に存在します。
 民法の条文は、全部で1050条存在します。その中に賃貸借というカテゴリーがあり、そこに不動産賃貸借(家の貸し借り)に関係する規定が存在します。
 例えば、賃貸人(貸主、つまり家主・大家のこと)は賃貸物(賃貸している物件のこと)の修繕義務を負うとか、賃貸人に無断で転貸(また貸し)してはいけない等々。
 ちなみに、今挙げた例は、皆さんが家を借りる(貸す)時に交わした契約書の中にも、盛り込まれていると思います。もしご面倒でなければ、今一度ご覧になってみてください。
 民法というものはこのように、実は我々の生活に密接に関わっています。
 先ほど挙げた不動産賃貸借の例ですが、これは不動産賃貸借契約になります。つまり、契約の一種ということですね。

 ところで皆さん。この世の中は契約社会というのはご存知でしょうか?
 まあ、いきなり契約社会と言われても、はぁ?て感じですよね(笑)。
 ですので、具体例を挙げてご説明いたします。
素材101
 皆さんも普段、当たり前にコンビニなどで買い物をしますよね。実はこれも契約です。その契約の流れはこうです。

1、購入の申し込みをする(レジに商品を持っていく)
2、申し込みの承諾を受ける(店員が商品をスキャンする)
3、代金を支払う
4、商品の引渡しを受ける(買った商品を受け取る
)


 コンビニでモノを買うということは、実はこのような流れの売買契約になります。
 え?こんなことも契約になるの?
 はい。これも立派な売買契約という契約なのです。
 それではここで問題です。上記の「コンビニでモノを買う」という売買契約ですが、この契約が成立するのは、契約の流れの中の1~4の内、一体どの時点だと思いますか?
 正解は2です。つまり、購入の申し込みの承諾を受けた時点で契約が成立します。
 このような契約を民法上、諾成契約といいます。読み方は「だくせいけいやく」です。承諾の諾に成る契約ということですね。
 契約には民法上、他にも◯◯契約というものが複数存在します。

 さて、どうでしょうか。何となく、民法が身近なものに感じて来たのではないでしょうか?


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3つの質権~動産質・債権質(権利質)・不動産質/質物の返還請求と対抗要件と賃貸について/転質とは

▼この記事でわかること
質権の超基本
動産質とは
質物の返還請求と対抗要件と占有の回復
不動産質とは
不動産(質物)の返還請求と対抗要件
質物の賃貸について
債権質とは
転質について
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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質権

 質権と聞くと、質屋さんの権利?とイメージする方も多いのではないでしょうか。
「借り入れをするために、ブランド時計を質屋に持って行って、その時計を担保にしてお金を借り入れる。もしお金を返せなかったときは、担保の時計を売っ払った金で弁済させられる事になる...」
 確かにこの場合の質屋の「ブランド時計を担保にお金を貸して、金を返せなければ担保目的物(ブランド時計)から弁済させる」権利はまさしく質権です。ただし、質屋の場合は質屋営業法という特別法があり、民法上の質権とは若干の違いがあります。
 質権についての民法の条文には、次のようなものがあります。

(質権の内容)
民法342条
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。


 端的に言えば、質権は、物を担保にして、その物(担保目的物)について、他の債権者に先立って自己の弁済を受けることができる権利です。
 例えば、10万円相当の時計を担保にAがBから10万円を借りていて、さらにAはCからも10万円を借りていたとします。この場合に、Bが質権を行使して担保目的物である時計が売っ払われると、その売却代金10万円は、Bの債権に優先的に弁済されます。
 これが質権です。
 なお、この場合の、債権者Bは「質権者」、債務者Aは「質権設定者」となり、債権者Cは一般債権者です。

質権設定者  質権者
 債務者   債権者
   A     B
   ↖
    C
   債権者
  一般債権者

 ところで、この質権って、抵当権に似てますよね。抵当権の場合は担保目的物とするのが不動産ですが、優先弁済などの仕組みは抵当権とそっくりです。
 そして、抵当権と似ているのはある意味当然なんです。なぜなら、質権も抵当権と同じ約定担保物権の一種だからです。
 約定担保物権とは、当事者の契約で発生する担保物権です。つまり、債権者と債務者等の契約で質権が設定されるということです。 
 さらに質権は、債務者以外の第三者が設定することも可能です。つまり、物上保証も可能という事です。この点も抵当権と共通するところです。
 さて、このように多くの点で抵当権と共通するところの多い質権ですが、担保目的物が不動産か動産かの違い以外に、抵当権とは大きく異なる点があります。それは、担保目的物を債権者が占有することです。
 この債権者の「占有を伴う」という質権の性質は、その成立の範囲を広げることにも繋がっています。
 どういうことかというと、抵当権の場合は債権者の占有を伴わないので、登記のできる不動産や地上権・永小作権等にしか成立しません。債権や動産には成立しないんです。しかし、質権は動産や債権についても成立しますし不動産でも成立します。もちろん無制限という訳ではなく「質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない」(民法343条)という規制はありますが、むしろその規制しかないと言った方がいいでしょう。
 ということで、質権には「動産質」「権利質(債権質)」「不動産質」の3つの種類があります。
 それではここからは、それぞれ3つの質権ごとに、試験等で問われやすい点を軸に、事例と共に解説して参ります。

動産質
ジュエリー
 まずは事例をご覧ください。
 
事例1
AはBから融資を受けた。その際、担保としてジュエリーを占有改定により引き渡した。


 さて、この事例で、質権は成立するでしょうか?
 ここでの問題は、占有改定による引渡しで質権は成立するのか?ということです。
 占有権は物の引渡しにより移転します。これが基本です。しかし、占有改定は、占有者が「今後は〇〇さんのためにこの物を所持する」と意思表示することで占有権が移転するものです。なので占有改定による引渡しの場合、現実には物が引き渡されてはいないのです。つまり、事例1では、AはBから融資を受けるための担保としてジュエリーを占有改定により引き渡していますが、ジュエリーはAの手元に残ったままなので、現実にはAが占有している状態です。
 ということで、改めて、この事例1で質権は成立するでしょうか?
 結論。事例1では質権は成立しません。
 これについて、民法では次のように規定されています。

(質権設定者による代理占有の禁止)
民法345条
質権者は、質権設定者に、自己に代わって
質物の占有をさせることができない。

 事例1で言えば、質権者はBです。質権設定者はAです。質物は担保目的物のことで、事例1でのジュエリーです。
 占有改定では、現実にはAの手元にジュエリーが残ったままです。つまり、質権設定者が質物を占有している状態になっちゃっているんです。それは、上記民法345条の規定に違反してしまうという訳です。
 そもそも、質権の本質は、質権設定者(主に債務者)から質物の占有を移すことにより「もしこの債務の弁済ができなかったら質物が売っ払われる!」と、心理的に債務の弁済を促すことにあります。なので、占有改定ではその意味をなさなくなってしまうんです。
 なお、「現実の引渡し」以外にも「簡易の引渡し」「指図による占有移転」の場合は、質権は成立します。この点はご注意ください。

【補足】
 ここまでの説明のように、質権は占有を内容とするので、基本的に1つの目的物に1つしか成立しません。当たり前ですが、1つの物を2か所の質屋に持っていけないですよね。
 しかし、実は例外的に、1つの物に複数の質権が成立する場合があります。
 それは、指図による占有移転により質権を設定する場合です。
 指図による占有移転は、倉庫業者等に預けている物を〇〇さんの承諾の上で、倉庫業者に対し「以後〇〇さんのために占有しろ」と命じることでその占有が移転するものです。
 例えば、事例1のA・Bが、倉庫業者を利用してこの「指図による占有移転」で質権が成立していた場合、別の新たな質権者Cのためにそのジュエリーの占有を命じることも可能です。すると、1つのジュエリーという質物(目的物)について、2つの質権が存在することになります。

   倉庫業者
 ジュエリー(質物)

 /        \
質権設定者
  質権者
 債務者   債権者
   A     B
   ↖
    C
   債権者
   質権者

 この場合、先に質権設定を受けたBが、先順位質権者となります。その結果、ジュエリー(質物)について、BはCよりも優先的に弁済を受け、Cは一般債権者より優先的に弁済を受けることになります。この仕組み・性質も抵当権と似ていますね。

質物の返還請求と対抗要件と占有の回復

 まずは、こちらの事例をご覧ください。

事例2
AはBに融資を受けるため、担保として高級時計を現実に引き渡し、質権を設定した。その後、その時計が故障したので修理のため、BはAに時計を返還した。


 さて、この事例2で、BはAに対し質物(高級時計)の返還請求ができるでしょうか?
 ここでのポイントは、「質権設定のために質権者(B)に引き渡された質物(高級時計)が、修理のためとはいえ一度、質権設定者(A)に返還されると、その質権は消滅するのか?」です。なぜなら、質権の本質は質権者による質物の占有にあるからです。
 結論。この場合は質権は消滅しません。
 したがいまして、、質権者Bは質権設定者Aに対し質物(高級時計)の返還請求ができます。
 これは判例により、このような結論となっております。
 この事例2のようなケースで、時には質物の修理が質権設定者がやらないと難しいような場合もあるでしょう。そんな場合でも、一律に質権が消滅するとなると、それは質権者にとっても酷な事だと考えられます。
 なお、このケースでの、質権者Bから質権設定者Aに対する質物の返還請求は、質権という物権に基づく返還請求となります(物権的返還請求権)。そして、優先弁済権も維持されたまま失われません。

 続いては、こちらの事例をご覧ください。

事例3
AはBに融資を受けるため、担保として高級時計を現実に引き渡し、質権を設定した。その後、Bは高級時計を遺失し、Cがこれを取得した。


 今度は、第三者Cが現れ、質権者Bが遺失してしまった質物の高級時計を取得してしまいました。
 さて、ではこの事例3で、BはCに対し時計の返還請求ができるでしょうか?
 まず、この事例3のケースでも事例2と同様に、質権そのものは消滅しません。
 ということは、質権(本権)に基づいて返還請求できそうですが...

(動産質の対抗要件)
民法352条
動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって
第三者に対抗することができない。

 なんと質権は、その占有を失ってしまうと、第三者への対抗力(法律の保護の下に主張する力)を失ってしまいます。
 したがって、事例3での質権は、すでに第三者Cへの対抗力を失った脆い状態になってしまっているのです。
 以上、結論。BはCに対し時計の返還請求はできません。
 Bにしてみれば不本意な結果でしょうが、何より質物を遺失してしまったB自身に問題アリとも言えます。
 なお、もし第三者Cが高級時計(質物)を所有者A(質権設定者)に返還した場合、質権者Bから(質権設定契約の当事者である)Aに対してその質物の返還請求をすることは可能です。

 続いて、次のようなケースではどうなるでしょ?

事例4
AはBに融資を受けるため、担保として高級時計を現実に引き渡し、質権を設定した。その後、CはBからその高級時計を盗んだ。


 なんだか事例がどんどん不穏な空気を帯びてきましたね(笑)。
 今度の第三者Cは、窃盗行為により高級時計を手に入れています。
 さて、ではこの事例4では、BはCに対し時計の返還請求ができるでしょうか?
 なんとこのケースでも、占有を失ってしまった質権者Bの質権の第三者Cへの対抗力は失われてしまっています。第三者Cが盗っ人でもです。
 したがいまして、、BはCに対し時計の返還請求はできません。
 これじゃいくらなんでもBが気の毒すぎるんじゃ...
 ですよね。でも大丈夫です。Bにはまだ手立てが残されているんです。
 その根拠となる条文がこちらです。

(質物の占有の回復)
民法353条
動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる。


 ズバリその手立てとは、占有回収の訴えです。(民法200条) 
 すなわち、占有を奪われてから(高級時計を盗まれてから)1年以内であれば、質権者Bは盗っ人第三者Cに対し占有回収の訴えを提起できるのです。
 あれ?じゃあ事例3でも占有回収の訴えはできないの?
 それはできません。なぜなら、事例3の場合、第三者Cは質物を奪った訳ではないからです。
 この民法353条に基づいた手段は、あくまで質物が奪われた場合の規定です。この点はご注意ください。

【補足】
 即時取得できる権利といえば所有権を思い浮かべますが、実は質権も即時取得することができます。
 例えば、Aの所有物をBが占有していて、占有者Bが所有者Aに無断でそれをCに質入れした場合、Cが善意・無過失であれば、Cは質権を取得し得ます。そうなれば、Cは被担保債権(質権の元となっている債権)の弁済を受けるまで、その質物を占有を継続できるのはもちろん、弁済がなければ競売も可能です。

不動産質
古民家
 質権は、不動産に設定することもできます。
 そして、不動産質でも、質権としての本質は変わりません。融資を受ける側の質権設定者は質物である不動産を占有せず、質権者がその不動産を占有して使用収益することになります。
 また、不動産質は次のような点で動産質とは異なります。

・不動産質では、質権者が不動産の管理の費用や税などを負担する(民法357条)
・不動産質では、質権者は利息の請求ができない(民法358条)

 上記の2点は、質権者は不動産を使用収益できるので管理費を支払う事は当然だし、使用収益という経済上の利益があるんだから利息の請求も必要ないんじゃね?という趣旨の規定です。
 以上のように、不動産質における、質権者の「不動産の使用収益」「管理費用の負担」「利息請求の不可」という3点は、不動産質の基本形です。
 ただし、これら3点は、いずれも特約により排除することができます。(民法359条)
 したがって、質権の設定契約の中の特約でこれら3点を排除してしまえば、融資を受ける側の質権設定者が目的不動産(質物)を占有して使用収益し、管理費を払い、質権者からの利息請求ができる、という形での質権の設定も可能です。そしてこの特約は、いずれも登記事項です。こうなってくると、その不動産質は、ほぼほぼ抵当権と違わない姿となります。
 なら世の中もっと抵当権じゃなく不動産質が利用されてもいいんじゃね?
 ところがそうはならない理由があるんです。それは、不動産質には金貸しから見て致命的な欠点があるからです。その致命的な欠点とは「存続期間が10年に限られてしまう」ことです(民法360条)。
 つまり、不動産質の場合、10年経つと質権が消滅して、被担保債権(質権の元となっている債権)は担保のないただの債権(優先弁済権のない一般債権)となってしまうのです。 
 存続期間の更新はできないの?
 それも可能ですが、それには質権設定者が更新に応じてもらうことが必要になります。
 したがまして、金貸しからするとハナッから期間制限のない抵当権を設定した方がずっと安心という訳です。

不動産の返還請求と対抗要件

 それでは、ここからは事例とともにさらに不動産質を掘り下げて参ります。

事例5
AはBから融資を受けるため、所有する建物を担保にして質権を設定し、その旨の登記をして引き渡した。


 さて、ではこの事例5で、AがBに対して占有改定による引渡しをしていた場合、質権は成立するでしょうか?
 これについては動産質の場合と結論は何ら変わりません。たとえ「登記」をしていようともです。
 よって結論。AがBに対して占有改定による引渡しをしていた場合は、質権は成立しません。
 不動産質も動産質と同様、「現実の引渡し」「簡易の引渡し」「指図による占有移転」のいずれかの方法で質権が成立します。これらの方法による引渡しが行われないと、たとえ質権設定の「登記」されていようと、それは無効な登記となります。

【補足】
Bが目的物(建物)をAに返還した場合

 もし事例5で、引渡し後に質権者Bが目的物(建物)を質権設定者Aに返還しても、質権は消滅しません。
 この点も動産質と一緒です。なのでその場合は、質権者Bは質権設定者Aに対し目的物(建物)の返還請求ができます。
 また、動産質ですとこのような場合、(質権そのものは消滅しないものの)その質権は第三者への対抗力を失ってしまいますが、登記された不動産質であれば、たとえ占有を失っても第三者への対抗力を失いません。この点は動産質と違うところです。つまり、不動産質は目的物(質物)が不動産なので、その対抗力もあくまで不動産物権の原則に従って「登記」という訳です。

質物の賃貸

 続いては、質物の賃貸についてです。

事例6
AはBから融資を受けるため、所有する建物を担保にして質権を設定し、その旨の登記をして引き渡した。その後、Bはその建物をCに賃貸した。


 さて、ではこの事例6で、BはCから家賃を受けって良いのでしょうか?
 結論。BはCから何の問題もなく家賃を受け取れます。
 不動産質に場合は、質権者には目的物(質物である不動産)の使用収益権があります。なので、質権者Bが第三者Cに建物を賃貸して家賃収入をあげることに法律的な問題は何もないのです。質権設定者Aの承諾も必要ありません。

【補足】
動産質の場合

 
 質物が高級時計で、それを第三者に賃貸するのは問題ないのでしょうか?
 実はこの場合は問題があります。そもそも動産質の場合は、質権者には質物について善良な管理者の注意義務(善管注意義務)が要求されます。
 もし、質物の高級時計を第三者に貸して傷でもつけらてしまったらどうするのか?逆に不動産質の場合、建物なんかはむしろ人が住むなり使ってくれた方が手入れもされて状態も維持されやすいです。一方、時計はどう考えても使われた方が消耗されてしまいますし、質権設定者も勝手に使われたくはないでしょう。 
 そこで民法は、動産の場合、質物を賃貸するには設定者の承諾が必要との規定をおきました。この規定に違反した場合、質権設定者は質権の消滅を請求することができます。

債権質
1万円札
 債権質は、厳密に言えば権利質の一種なのですが、ここでは債権質についてのみ解説します。
 債権質とは、債権を質物とする債権です。
 まずはこちらの事例をご覧ください。

事例7
AはBに対して金銭債権を持っている。その弁済期は6か月後である。今すぐにでもお金が必要となったAは、この債権に質権を設定してCからお金を借り入れた。


 これはどういう事例かといいますと、AのBに対する「金払え」という債権を質物にして、AがCから借り入れをした、という話です。質権設定者はA、質権者はC、質物はAからBへの債権です。

質権設定者  融資  質権者
   A            C  
債権↓質物
   B
第三債務者

 それでは、この事例7では、3つの問題についてそれぞれ考えて参ります。

1・AはBに承諾なしに、この質権の設定契約ができるのか?
 
 質権の設定契約はAC間で行われますが、その際、Bの承諾は必要ありません。
 もともと債権というものは(すべての債権という訳ではないが)自由に譲渡することができます。なので、担保に供することも自由です。したがって、債権を質物にするのも自由という訳です。

2・上記1が可能であれば、Bにその旨の通知は必要か?

 前述のように、AはBの承諾なしに自由にその債権を担保にして質権の設定契約ができます。なので、AC間の質権設定契約にはBの関与はありません。ということは、Bは質権が設定されたことは当然には知りません。しかし、Bがそれを知らないままで良いものなのか...。
 そこで民法は、債権譲渡についての対抗要件を規定した民法467条を、債権質の場合にも準用することとしました。(民法364条)
 したがいまして、質権設定者Aからの通知または第三債務者Bの承諾がなければ、質権者Cは、その質権の取得をもって、Bに対抗することはできません。対抗することができないということは、Bが(質物になった債権についての)債務の支払いをAにした場合、質権者Cは「その債権は私が質物にしているものだ。だからその支払いは私が受けるべきものだ!」主張することができない、ということです。逆に、通知または承諾があったにもかかわらず第三債務者Bが質権設定者Aに支払いをした場合、Bはその支払いを質権者Cに対応できず、質権者CはBに対して「その支払いは私が受けるべきものだ!」と主張することができます。そしてこの場合は、第三債務者Bの質権設定者Aへの支払いは不当利得となりますので、Bは質権者Cに二重払いをしてCへの責任を果たした上で、Aへの支払い分については、Aに対し不当利得返還請求をする、という方法で何とかすることになります。

3・弁済期到来後、CはBに対し直接の取り立てができるか?

質権設定者  融資  質権者
   A            C  
債権↓質物
   B
第三債務者

「A→Bの債権」「C→Aの債権」両債権の弁済期が到来すれば、質権者Cは直接、第三債務者Bに対して支払いを請求することができます。
「C→Aの債権」の弁済期が先の場合、質権者Cは「A→Bの債権」の弁済期が来れば直接、第三債務者Bに対して支払い請求をすることができます。(「A→Bの債権」弁済期まではBには支払い義務がない)。ですが「A→Bの債権」の弁済期が先の場合に、その弁済期が到来したからといって質権者Cは直接、第三債務者Bに対して支払い請求することはできません。「C→Aの債権」の弁済期が来てない以上、質権者Cの権利は現実化していないからです。あくまで両債権の弁済期が到来して初めて、質権者Cから直接、第三債務者Bに対しての支払い請求が可能となります。
 ただし、「A→Bの債権」の弁済期が先の場合に、「A→Bの債権」弁済期に質権者Cが第三債務者に対して、BがAに支払う弁済金を供託するように請求することは可能です(供託とは簡単に言うと法務局に預けること)。つまり「その弁済金を法務局に預けろ」と請求できるということです。そして質権者Cは「C→Aの債権」の弁済期が来たら供託金の還付を受けられる、という訳です。

【補足】
 譲り渡すには証書の交付を要する債権の場合、その証書を交付することによって、質権設定の効力が生じます。(民法363条)

オマケ:転質

 最後に、質権について簡単に解説しておきます。
 抵当権の場合、その抵当権を担保にしてさらに抵当権を設定することができる「転抵当」があります。
 質権でも、質物をさらに質入れする転質があります。
 そして質権には、原質権設定者の承諾のある承諾転質、原質権設定者の承諾の無い責任転質があります。
 承諾転質の場合、原質権者は原質権設定者に対して転質をしたことによって生じた損害について「過失責任」を負うにとどまります。
 しかし、責任転質の場合、原質権者は原質権設定者に対して転質をしたことによって生じた損害について「不可抗力によるものであっても」その責任を負います。
 この違いは当然と言えば当然ですよね。責任転質の場合、原質権設定者の関与なく、いわば原質権者は勝手に転質している訳ですから、その責任が厳しいものとなってしまうのは当たり前です。
 
【補足】原質権と転質権の弁済期と債権額の問題

 民法348条では、原質権の存続期間の範囲内において転質をすることができると規定しています。
 ただこれは、厳密な意味での成立要件を定めたものではなく、転質権の被担保債権の弁済期が原質権の被担保債権の弁済期より後でも、有効に成立すると解釈されます。
 また、転質権の被担保債権額が原質権の被担保債権額を上回る場合でも、責任転質は成立します。上回る部分は無担保の債権になるだけと考えればいいからです。

包括根保証の禁止~貸金等債務以外の根保証は不動産賃貸借も含む?/情報提供義務について

▼この記事でわかること
根保証の基本
貸金等債務以外の根保証は不動産賃貸借も含む?
連帯保証人への情報提供義務
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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包括根保証の禁止

 保証には、連帯保証かどうか以外にも、次の2つのタイプに分けられます。

・通常の保証
契約時に特定している債務の保証(例:住宅ローンの保証)
・根保証
将来発生する不特定の債務の保証(例:継続的な事業用融資の保証)

 上記のように、通常の保証は住宅のローンのような特定している債務の保証ですが、根保証は将来どれだけ発生するかわからない不特定の債務の保証です。
「将来の不特定の債務の保証」
 これだけで危険なニオイがするというか、大きなリスクをはらんでいることが伺えますよね。実際、過去に商工ローンの保証などが社会問題にもなりました。それを背景として、平成16年に貸金等債務の根保証をした個人保証人の保護のために、民法改正(貸金等債務に関する包括根保証の禁止)もされました。

【参考】平成16年民法改正(貸金等債務に関する包括根保証の禁止)
平成16年包括根保証の禁止
※出典:法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料』

 極度額とは、保証の上限額のことです。
 元本確定期日とは、保証期間の制限のことです。
 元本確定事由(特別事情による保証の終了)とは、元本確定期日の到来前であっても特別な事情(保証人や主債務者の死亡・破産等)が発生した場合には、その時点で元本確定させ(負うべき債務の金額の確定)、それ以前の貸金等に限り責任を負う、というものです。
 要するに、貸金等債務については、たとえ根保証でも上限額と保証期間と特別な事情が生じた場合は制限をつけようぜ、ということです。
 しかし、この制限でも、まだまだ根保証には問題が残りました。
 その典型として、貸金等債務以外の根保証(賃貸借や継続売買取引の根保証など)で、想定外の多額の保証債務や、想定していなかった主債務者の相続人の保証債務の履行を求められる事例が少なくありませんでした。 具体的な例として、借家が借主の落ち度で焼失し、その損害額が保証人に請求されるケースや、借主の相続人が賃料の支払等をしないケースなどです。
 ただ一方で、包括根保証禁止のルールをすべての契約に拡大すると、例えば、賃貸借契約について、最長でも5年で保証人が存在しなくなるといった事態が生ずるおそれがある、という懸念もありました。
 ということで、そういった事を総合的に勘案した上で、さらに次のような改正がなされ、2020年4月より施行されました。

令和2年民法改正(包括根保証の禁止の対象拡大)
令和2年包括根保証の禁止
※出典:法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料』

 内容を簡単に説明すると、まず極度額の定めの義務付けについては、すべての根保証契約に適用されることになりました。(民法465条2)
 続いて、保証期間の制限については、そのまま変更なし(賃貸借等の根保証には適用せず)で落ち着いています。(民法465条3)
 そして、特別事情(主債務者の死亡や、保証人の破産・死 亡など)がある場合の根保証の打ち切りについては、保証期間の制限と同様すべての根保証契約に適用されることとなりました。ただし、主債務者の破産等があっても、賃貸借等の根保証は打ち切りになりません。この点は変更なしです。(民法465条4)

貸金等債務以外の根保証
不動産賃貸借も含む?

 融資などの貸金等債務の根保証はイメージしやすいですが、そもそも、貸金等債務以外の根保証とは一体どんなものなのでしょうか?

【具体例】
・不動産の賃借人が賃貸借契約に基づいて負担する債務の一切を個人が保証する保証契約
・代理店等を含めた取引先企業の代表者との間で損害賠償債務や取引債務等を保証する保証契約
・介護、医療等の施設への入居者の負う各種債務を保証する保証契約

 ここで注目したいのは、一番上の不動産賃貸借の例です。不動産を借りるときに、その賃貸借契約について個人が連帯保証人になることはよくありますよね?まさしくそれのことです。
 つまり、先ほども挙げたこちらの図の右端の縦一列は、不動産賃貸借契約における連帯保証人も含まれるのです。
令和2年包括根保証の禁止の対象拡大
(※出典:法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料』)

 それまでは、不動産賃貸借において個人が連帯保証人になる場合に、極度額の定めなどは行いませんでした。しかし、民法改正により、2020年4月以降に締結される不動産賃貸借契約では、個人が連帯保証人となる場合は極度額の定めが必要です。(連帯保証人が法人の場合や保証会社利用であればこの極度額を設定する必要なし)。
 じゃあ極度額はいくらぐらいに設定するものなの?
 これについて、賃料6か月分相当とする考え方、賃料の12か月分相当とする考え方、賃料の24か月分相当とする考え方、あるいは2,000万円とする考え方などがあります。よく聞く相場としては「賃料の24か月分」ですが、法律的に明確に定められた金額がある訳でもありません。ただ、ひとつハッキリとした大事な事は、2020年4月1日以降に締結される保証契約については、極度額を定めない場合には連帯保証契約の効力が生じない、ということです。賃貸借契約の賃借人に係る保証契約極度額の定めをせずに行えば、その保証契約は無効となってしまうのです。

連帯保証人への情報提供義務

 他にも、不動産賃貸借契約において、貸主は連帯保証人に対し、依頼に応じて遅滞なく借主の債務の履行状況についての情報提供を行うことが義務付けられています。(これは賃貸物件が事業用か居住用か、連帯保証人が法人か個人かは問わない)
ここがポイント女性
 また、事業用不動産賃貸借契約で個人の第三者(当該事業の経営等を行っている者以外の第三者)を連帯保証人とする場合は、借主は個人の連帯保証人に対し情報提供義務を負います。これは、居住用不動産賃貸借契約や連帯保証人が法人の場合は該当しません。あくまで事業用で個人の第三者を連帯保証人とする場合です。そして、この情報提供は、事業用不動産賃貸借契約の借主から個人の連帯保証人に対し、契約締結時に説明しなければなりません。その際、提供する情報は下記の3つです。

1・財産及び収支の状況
2・主たる債務(家賃支払い義務)以外に負担している債務の有無ならびにその額及び履行状況
3・主たる債務の担保として他に提供し、または提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容

 もし、説明をしていない、または事実と異なる説明をしたために、個人の連帯保証人が誤認をし、それによって保証契約の申込み、または承諾の意思表示をしたなど、上記の情報提供義務が果たされなかった場合、貸主が個人の連帯保証人が説明を受けてないまたは誤認していることを知り、または知ることができたときは、個人の連帯保証人は保証契約を取り消すことができます。簡単に言うと、上記3つの借主の情報提供義務がきちんと果たされず、それについて貸主が悪意有過失なら、連帯保証人はその保証契約を取り消すことができるということです。ひとつ注意点として、実際に連帯保証人と保証契約を結ぶのは貸主で、上記3つの情報提供義務を果たすべき者は借主です。なので、借主の情報提供義務違反によって保証契約を取り消すための要件に貸主の悪意有過失が求められるのです。


 以上、包括根保証の禁止についてになります。
 なお、併せて「事業用融資での第三者保証~」もお読みいただくと、保証に関する民法改正ポイントの理解がより深まりますので、よろしければ是非。
関連記事

事業用融資での第三者保証~保証意思宣明公正証書の必要性/保証人への情報提供義務の3つの場面

▼この記事でわかること
事業用融資における第三者保証の制限
公証人による意思確認手続きとは
保証契約締結時の情報提供義務
主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務
保証人から請求があったときの情報提供義務
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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保証の制限

 保証とは、主債務者が債務の支払をしない場合に、これに代わって支払をすべき義務のことです。
 例えば、債務者Aの債務を保証するために、Bが保証人となり、もしAが債務の履行を果たせない場合に、Aの代わりにBが債権者に対してその債務の履行は果たします。(保証債務の基本について詳しくはこちら)

    債権者
  主債務↓   保証債務
    A  B
 (主債務者)   (保証人)

 保証人は、主債務者がその債務(主債務)を履行しないときに、それをいわば肩代わりする存在です。もし主債務者が大きな借金を残したままその債務(主債務)が履行できないとなると、保証人が代わりにその大きな借金を背負うことになります。
 このように、保証人の責任は非常に重いのです。
 そして、こんな重い責任を背負わされる保証契約の締結を、無制限に許してしまうのは危険ですよね。
 ということで、民法では保証契約の締結にあたり、より慎重なルールを加えています。

事業用融資における第三者保証の制限
-個人保証人の保護の拡充-

 保証契約は、何も個人が個人を保証するものに限りません。
 よくあるのが、法人(会社)が事業用融資を受ける際に経営者や経営者以外の役員や友人など(第三者)の個人が保証人なるケースです。
 法人(会社)の事業用融資となると、その金額もかなりの大きなものになる場合もあるでしょう。
 このような保証契約を無制限に許してしまうのは非常に危険ですよね。
 ということで、民法ではこのような保証契約については、より慎重な手続きを要する規定を置いています。

(公正証書の作成と保証の効力)
民法465条の6
事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。


 この条文で何を言っているのかといいますと「事業用融資の保証契約は、その契約締結に先立って、公正証書を作成して、公証人があらかじめ保証人本人から直接その保証意思を確認しなければ、 効力を生じない」ということです。
 公正証書とは、私人(個人又は会社その他の法人)からの嘱託(簡単に言えば依頼)により、公証人がその権限に基づいて作成する文書のことです。
 つまり、事業用融資のための保証契約を締結するには、事前に公証人に公正証書を作成してもらって、公証人に保証人本人からの「この債務を保証します」という意思を確認してもらった上で、契約締結を行わなければいけないということです。
 これは手続き的にもかなり慎重なルールと言えます。
 そして実はこの規定、2020年4月施行の改正民法から新設されました。
 ここまで慎重な規定を置くことになった理由って?
 そもそも事業用融資の保証自体、その金額も大きいので(ましてや個人がそれを保証するとなると特に)大きなリスクをはらんでいます。実際、個人的な情義等(「アイツのためなら...」みたいな感情)から保証人となった者が、想定外の多額の保証債務の履行を求められ、生活の破綻に追い込まれる事例が、現実に後を絶ちませんでした。
 しかし一方で、特に中小企業向けの融資において、主債務者の信用の補完や、経営の規律付けの観点から、重要な役割を果たしていたことも事実です。
 そして検討の末...まず経営者の保証については、有用な場合があることは否定できず、民事法による強力な規制は不適当(適用対象外に)という結論となりました。一方、第三者保証(経営者以外の者が保証人となること)については、できる限り抑制すべきであるが、一律禁止は行き過ぎ(厳格な要件の下で許容)であると結論付けました。
 以上の事を総合的に勘案して、事業用融資における第三者保証の制限についての規定が新設され、慎重な手続きを経た上で可能となることとなったのです。
 なお、次に掲げる者については、民法465条の6の規定は適用されません。

1・主債務者が法人である場合の理事、取締役、執行役等
2・主債務者が法人である場合の総株主の議決権の過半数を有する者等
3・主債務者が個人である場合の共同事業者又は主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者

 上記に当てはまる者については、民法465条の6の規定による慎重な手続きは必要ありません。その理由としては、この者達まで、民法465条の6の規定による慎重な手続きで縛り付けてしまうと、円滑な取引を阻害し、世の中のビジネスというものに少なくないマイナスの影響を与えてしまうからだと考えられます。
 なお、上記3についての補足ですが、「主債務者が行う事業に現に従事している」とは、 文字どおり、保証契約の締結時において、その個人事業主が行う事業に実際に従事しているといえることが必要です。単に書類上事業に従事し ているとされているだけでは足りず、また、保証契約の締結に際して一時的に従事したというのでも足りません。 
 また、主債務者が法人である場合に、その代表者等の配偶者が例外になるわけではありません。例外となる配偶者は、主債務者が個人である場合の法律上の配偶者に限らます。

補足:「事業のために負担した貸金等債務」の要件
ここポイント
【事業性】
「事業」とは、一定の目的をもってされる同種の行為の反復継続的遂行を言い、「事業のために負担し た貸金等債務」とは、借主が借り入れた金銭等を自らの事業に用いるために負担した貸金等債務を意味します。
 例えば、製造業を営む株式会社が製造用の工場を建設したり、原材料を購入したりするための資金を 借り入れることにより負担した貸金債務が「事業のために負担した貸金等債務」の典型例です。
 このほか、いわゆるアパート・ローンなども「事業のために負担した貸金等債務」に該当するものと考えられます。 他方で、貸与型の奨学金については「事業のために負担した貸金等債務」に該当しないと考えられます。
 具体的な判断としては、次のような感じです。
 借主が使途は事業資金であると説明して金銭の借入れを申し入れ、貸主もそのことを前提として金銭を 貸し付けた場合には、実際にその金銭が事業に用いられたかどうかにかかわらず、その債務は事業のために負担した貸金等債務に該当します。(借入時において、借主と貸主との間で、例えば、その使途を居住用住宅の購入費用としていた場合には、仮に借主が金銭受領後にそれを「事業のために」用いてしまったとしても、そのことによって「事業のために負担した」債務に変容するものではない)

公証人による意思確認手続き

 先述の民法465条の6の規定に基づいた、公証人による意思確認手続きは、保証人になろうとする者が保証しようとしている主債務の具体的内容を認識していることや、保証契約を締結すれば保証人は保証債務を負担し、主債務が履行されなければ自らが保証債務を履行しなければならなくなることを理解しているかなどを検証し、 保証契約のリスクを十分に理解した上で、 保証 人になろうとする者が相当の考慮をして保証契約を締結しよ うとしているか否かを見極めるものです。
 そして、もし保証人になろうとする者の保証意思が確認できない場合には、公証人は「無効な法律行為等については証書を作成することができない」とする公証人法26条に基づき、 公正証書の作成を拒絶しなければなりません。公証人に公正証書の作成を拒絶されれば、必然的にその保証契約の締結もできなくなります。

公証人に対する口授・筆記

 保証人になろうとする者は、公証人に対し保証意思を宣明するため、主債務の内容など法定された事項を口頭で述べ、公証人は保証人になろうとする者が口頭で述べた内容を筆記し、これを保証人になろうとする者に読み聞かせ、又は閲覧させなければなりません。 (口がきけない者については通訳人の通訳又は自署)
 なお、 保証人になろうとする者が口頭で述べる「法定された事項」とは、次の事項です。

1・主債務の債権者及び債務者
2・主債務の元本と従たる債務(利息、違約金、損害賠償等)につ いての定めの有無及びその内容
3・主債務者がその債務を履行しないときにその債務の全額について履行する意思を有していること

(上記は通常の保証契約(根保証契約以外のもの)の場合のものですが、根保証契約については別途改めて解説します)
 そして、保証人になろうとする者は、公証人が証書に記載した内容が正確なことを承認して署名押印するなどし、公証人はその証書が法定の方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名押印します。

【公正証書の作成手続の特徴】
 代理人による嘱託は不可です。必ず保証人本人が出頭しなければなりません。(代理人に頼むことはできない)
 手数料は、保証債務の金額によらず、保証契約ごとに、原則として1件1万1000円です。

【保証意思宣明公正証書の性質】
 この公証人による保証人の意思確認の公正証書を、保証意思宣明公正証書と言います。
 注意点として、これは保証契約の契約書(保証契約公正証書)とは別のものです。つまり、保証契約書は保証契約書でまた別に作成することになります。
 また、保証意思宣明公正証書自体には執行認諾文言を付けることはできません。(執行認諾文言を公正証書に付けると、定めた約束が守られなかったときに裁判抜きで強制執行が可能になる)

情報提供義務
 
 保証契約において、3つの場面で、主債務についての保証人への情報提供義務が定められています。(民法465条10)
 これは、保証人に対して自身が保証している主債務の状況、わかりやすく言えばそのリスクをちゃんと把握させようという趣旨です。

保証契約締結時

 公証人は、保証意思を確認する際には、保証人が主債務者の財産状況について情報提供義務に基づいてどのような情報の提供を受けたかも確認し、保証人がその情報も踏まえてリスクを十分に認識しているかを見極めなければなりません。
 保証人に対して提供すべき情報は次の3つです。

1・財産及び収支の状況
2・主債務以外の債務の有無、その債務の額、その債務 の履行状況
3・担保として提供するもの(例えば、ある土地に抵当権を 設定するのであれば、その内容)

 もし上記の情報提供義務に違反があった場合(上記に定められた情報がちゃんと提供されていなかった場合)、保証人は、保証契約を取り消すことができます。ただし、それには次の要件を満たすことが必要です。
①保証人が主債務者の財産状況等について誤認
②主債務者が情報を提供しなかったこと等を債権者が知 り、又は知ることができた(情報提供についての債権者の悪意)

 また、この保証契約締結時の情報提供義務の対象となる保証契約は、個人に対して事業上の債務の保証を委託する場合の保証契約です(貸金債務の保証に限らない)。
 参考として、具体的には次のようなケースがあります。
保証契約締結時の情報提供義務例
画像中の「左記3①②の要件」とは、前述の保証人が情報提供義務違反により保証契約を取り消すための要件です。
(※出典:法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料』)

主債務者が期限の利益を喪失した場合

 期限の利益とは「定められた期限まで弁済をしなくてもOK」という、債務者の受ける利益です。期限の利益の喪失とは「定められた期限まで弁済をしなくてもOK」という利益を失って、すぐに弁済しなければならなくなることです。
 例えば「100万円を毎月末10万円ずつの分割10回払いで返済」という金銭消費貸借契約を1月に締結して借金をした人(債務者)がいたとします。この場合、100万円全額の支払い(弁済)は10月末まではしなくてもいいですよね?これが期限の利益です。そして、この債務者が3月末の支払いを怠ったとして、それにより、4月に残りの80万円全額を一括返済しなければならなくなった...これが期限の利益の喪失です。なお、このときに遅延損害金が発生していれば、債務者はそれを上乗せして弁済しなければなりません。
 以上を踏まえた上で、保証についての話に戻ります。
 保証人の負担額は、主債務者が支払いを遅滞した後に発生する遅延損害金によって大きく膨らみます。
 特に、主債務者が分割金の支払いを遅滞して期限の利益を喪失し、一括払いを求められるケースにおいて顕著です。
 ということは、もし主債務者が支払いを遅滞し、期限の利益を喪失したことを保証人が知っていれば、早期に立替払いをして遅延損害金が発生することを防ぐなどの対策を取ることも可能ですよね。しかし実際には、保証人は主債務者が支払いを遅滞したことを当然には知らないのが現実です。
 そこで、2020年4月施行の改正民法より、期限の利益喪失に関して債権者の保証人に対する情報提供義務の規定を置いています。

(主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務)
民法458条の3
1項 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。
2項 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。
3項 前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない。


 この規定により、主債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は保証人に対し、その喪失を知った時から2か月以内に、その旨を通知しなければなりません。もし債権者が保証人に対し2か月以内に通知をしなかったときは、債権者は、期限の利益を喪失した時からその後に通知を現にするまでに生じた遅延損害金については、保証債務の履行を請求することができません。ただ、これはあくまで保証人の保証債務についての話で、主債務者は引き続き遅延損害金も含めて支払義務を負いますので、この点はご注意ください。
 また、この規定の対象となる保証契約は、保証人が個人である保証契約一般です。保証人が法人である場合には適用されません。
 参考として、具体的には次のようなケースがあります。
〈例〉支払いを1回でも怠れば直ちに一括払いの義務を負うとの特約が付いている分割払の貸金債務について、個人により保証がされたが、主債務者が分割払いの支払いを怠ったことにより期限の利益を喪失し、一括払いの義務を負った。
 この場合に、債権者は保証人に対して期限の利益喪失に関して、その旨を通知しなければなりません。そして、もし債権者が2か月以内に通知せず、3か月後に通知をした場合、債権者は一括払い前提での3か月分の遅延損害金の請求を保証人にすることはできません。
 
保証人から請求があったとき

 債権者は、保証人から請求があったときは、主債務の元本、利息及び違約金等、主債務の履行状況に関する次の情報を提供しなければなりません。(民法458条2)

1・不履行の有無(弁済を怠っているかどうか)
2・残額
3・残額のうち弁済期が到来しているものの額

 ただし、上記の請求をすることができるのは、主債務者から委託を受けた保証人(法人も可)に限られます。
 なお、こちらの規定も、2020年4月施行の改正民法より新設されたものです。
【参考】
主債務の履行状況に関する情報提供義務例
※出典:法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料』

 以上、保証契約における制限等ルールについてになります。
 今回の記事で記した内容は、どれも2020年4月から施行された民法改正により新設された規定です。
 改正以前の民法に慣れてしまっている方は、くれぐれもお気をつけください。また、それ以外の方も、ひとつの大きな民法改正ポイントとして、覚えておいていただければと存じます。
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占有の推定力とは/占有回収の訴え/占有の承継人への返還請求/占有保持の訴え・占有保全の訴え/他主占有が自主占有へ転換するとき

▼この記事でわかること
占有の推定力とは
占有訴権(占有回収の訴え)の基本
占有の承継人への返還請求
占有保持の訴えと占有保全の訴え
他主占有から自主占有への転換
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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占有の推定力

 民法188条では、占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定しています(権利適法の推定)。
 これはどういう意味かと言いますと「真の所有権がどうだとかという真実はさておき、占有者は占有物について行使する権利を、適法に持ってると推定します」ということです。
 さらに、民法186条では「所有の意思」も推定されますから、民法188条の推定(権利適法の推定)とあいまって、占有者は特段の事情がなければ「所有者」であると推定されます。
 このように、占有者には「権利適法の推定」が働くわけですが、これは「第三者が占有者の権利を適法に信頼する場合」の話です。どういう事かといいますと、例えば「Aは占有者であるから所有者に違いない」という信頼が保護されるかどうか、というような「即時取得」のような局面での話になるということです。なので、AがBから所有権を取得した場合に、Bがその売買契約の無効を主張したときに、Aが現にその売買物を占有しているからといって、Aがその売買物の所有者だと推定される訳ではない(権利適法の推定は働かない)ということです。

占有訴権

 占有訴権とは、占有という事実状態に基づいて、裁判所に提起する訴えです。
 この訴えは、本権(所有権)についての訴えとは別物です。
 例えば、AがBから借りた物を第三者Cに奪われた場合、Aはどうやって第三者Cに対しその返還を求めればいいのでしょう?借りた物なのでAにはその所有権がありません。そうです。ここでAは占有権に基づく返還の訴えを提起できるのです。これが占有訴権です。
 なお、Aに所有権があれば「本権(所有権)に基づく返還の訴え」をする訳ですが、本権(所有権)も持っていて占有していた場合は「本権に基づく返還の訴え」と「占有権に基づく返還の訴え」のどちらを選択しても構いません。
 この「占有権に基づく返還の訴え」を占有回収の訴えと言います。
 そして、占有回収の訴えの要件は次の2点です。

1・占有者が占有を奪われたこと
2・占有を奪われた時から1年以内に訴えを提起すること

 実にシンプルな要件ですよね。
 まず1についてですが、これは「占有を奪われた」場合ということなので、占有物を騙されて渡してしまった場合や、失くしたりなど遺失した場合には、占有回収の訴えはできません。
 次に2についてですが、権利を行使できるのは、占有を奪われた時から1年です。占有を「奪われたことを知った時」から1年ではないので、ご注意ください。

占有回収の訴えに対し所有権を主張してきた場合

 もし占有回収の訴えを提起した場合に、相手方が「私はその物の所有者だ!」と所有権を主張してきたら、一体どうなるのでしょう?
 実は「占有回収の訴え」においては、裁判官は先述の要件「占有を奪われたかどうか」「占有を奪われた時から1年か」の2点しか判断しません。したがって、占有回収の訴えにおいて、たとえ相手方が所有権を主張してきたところで、原告側の占有者が勝ちます。なぜなら、民法202条2項に「占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない」とハッキリ規定されているのです。なので、相手方が所有権を主張してきたところで「知らねーし」となるのです。
 でもそうなると、被告側(占有者から占有回収の訴えを受けた相手方)には打つ手がないのでしょうか?本当に真の所有者であるなら何とかできないと困りますよね?
 その場合は、本権(所有権)に基づく反訴を提起すれば良いのです。反訴とは、被告が原告を逆に訴えることです。つまり、占有回収の訴えの被告(訴えられた側)が、原告(訴えた側)の占有者を本権に基づいて訴え返せば良いのです。
 そうすれば、占有回収の訴えでは負けても、本権の訴えで勝つことは可能です。
 ややこしく感じるかもしませんが、ルール上そのような仕組みになっているのです。そしてこれが、先に「占有訴権と本権についての訴えとは別物」と言ったことの意味です。両訴えはまったく別の原理による訴えなのです。
 なお、これは過去の判例でも「占有の訴えに対して防御方法として本権を主張することは許されないが、本権に基づく反訴の提起は同条(民法202条2項のこと)の禁じるところではない」と裏付けられています。

占有の承継人への返還請求
泥棒
 それでは、次のような場合は一体どうなるのでしょう。

事例1
Aは所有するジュエリーをBに貸して引き渡した。その後、Cはそのジュエリーを盗み出し、それから三ヶ月が経過した。


 これは、AがBに貸したジュエリーをCが盗んだ、という事例です。
 さて、ではこの事例で、AはCに対して占有回収の訴えを提起できるでしょうか?
 まず、BがCに対して占有回収の訴えを提起できるのは明らかです。なぜなら、Bは占有者で、ジュエリー(占有物)は奪われていて、まだ1年以内だからです。
 ということで、ここでの問題は、盗まれたジュエリーの所有者だが実際に占有はしていないAが、占有権に基づいたものである占有回収の訴えを提起できるのか?Aに占有権はあるのか?になります。 
 先に結論を申し上げてしまうと、Aは占有回収の訴えを提起することができます。それを根拠づける民法の条文がこちらです。

(代理占有)
民法181条 
占有権は、代理人によって取得することができる。


 この条文中での「代理人」とは、無権代理人とか委託を受けた代理人とかで言うような代理人とは意味が違います。ここで言う代理人とは「占有の代理人」という意味です。
 したがって、民法181条は「占有権は占有の代理人を通して取得できる」と言っているのです。
 では、その「占有の代理人」は誰なのか?ですが、事例1で言えばそれはBになります。つまり、民法上、BはAの代わりに占有していることになります。そして、Aは占有代理人Bを介してジュエリーの占有権を取得する、ということです。
 また、この場合のAの占有を代理占有と言います(間接占有とも言う)。
 一方、Bの占有を自己占有と言います(直接占有とも言う)。

【補足】
 事例1で、賃貸借期間を定めてAがBにジュエリーを賃貸していた場合に、その賃貸借期間が終了したら、Aの占有はどうなるのでしょう?
 これについては、民法204条2項に「占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない」とあります。したがって、Aは占有を失いません。ただし、Bが「ジュエリーは私のモノだ!」と主張すると、Aは占有権を失ってしまいます(民法204条1項2号)。なので、そうなってしまった場合は、もはやAに占有回収の訴えを提起することはできません。
 では、Aはどうやってジュエリーを取り戻せばいいのか?ですが、これは単純に「本権(所有権)に基づく返還請求」をすればいいのです。そもそもAはジュエリーの所有者なのですから、本権のフィールドで争えばいいのです。 

 では続いて、次のケースではどうなるでしょう?

事例2
Aは所有するジュエリーをBに貸して引き渡した。その後、Cはそのジュエリーを盗み出し、Dに売り渡した。


 なんだかCがどんどん悪どいヤツになってきましたね(笑)。
 さて、ではこの事例2で、AおよびBは、Dに対して占有回収の訴えを提起できるのでしょうか?
 結論。DがCによるジュエリーの侵奪の事実を知っていれば、AおよびBはDに対して占有回収の訴えを提起できます。逆に、DがCによるジュエリーの侵奪の事実を知らなければ、AおよびBはDに対して占有回収の訴えの提起はできません。
 なお、この結論の根拠となる条文はこちらです。

(占有回収の訴え)
民法200条2項
占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。


上記条文中の「特定承継人」とは、事例2で言えばDです。
「侵奪の事実を知っていたとき」とは、要するに「侵奪の事実について悪意」ということですね。
 したがって、D(特定承継人)が悪意なら、AおよびBは占有回収の訴えを提起することができるが、Dが善意なら、AおよびBは占有回収の訴えを提起することはできない、となるのです。
 じゃあ何か手はないの?
 Aはジュエリーの所有者なので、その所有権(本権)に基づいて争う事になります。そして、その場合に適用する民法は193条「盗品又は遺失物の回復」になります。

 続いて、次のケースではどうなるでしょう。

事例3
Aは所有するジュエリーをBに貸して引き渡した。その後、Cは死亡し、Dが相続した。


 この事例3で、AおよびBはDに対して占有回収の訴えを提起できるでしょうか?
 結論。AおよびBはDに対して占有回収の訴えを提起できます。
 事例2とは違い、この事例3のDはCの相続人です。相続は包括承継であり、財産上の地位そのものの移転です。ということは、DはCの「ジュエリーの侵奪者という地位」そのものを、そのまま引き継ぐことになります。したがって、AおよびBから(Cの侵奪者としての地位を包括承継した)Dへの占有回収の訴えの提起が可能なのです。
 なお、相続による包括承継は法律の定めによるものなので、相続人Dが侵奪の事実について善意でも結論は変わりません。Dの善意悪意はこの場合は関係ないのです。

占有保持の訴え・占有保全の訴え
裁判所
 占有訴権には、占有回収の訴えの他にも2つの規定が存在します。
 それは、占有保持の訴え(民法198条)と占有保全の訴え(民法199条)です。

【占有保持の訴え】
 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止および損害の賠償を請求することができます。
 妨害の停止の請求ってなに?
 例えば、台風で隣家の木が自分が占有する土地に倒れてきた場合、占有侵害を理由に「この木をどかせ!」と隣家の主に請求することができます。
 なお、その場合の「木をどかすための費用」をどちらが持つか?ですが、判例は隣家の側としています。また「木をどかせ」と請求するのに占有侵害の事実以外の要件はありません。木が倒れた原因が台風なら隣家に過失はなさそうですが、それでも「木をどかせ」と請求できます。

【占有保全の訴え】
 例えば、隣家の木が自分の土地に倒れてきそうな場合、まだ現実の占有侵害の事実はないけども、「妨害の予防措置」を講ずるか、万が一倒れた場合の「損害賠償の担保」を立てるかの、どちらか一方を請求できます。これが占有保全の訴えです。
 ここでご注意いただきたいのが「損害賠償の担保の請求」であって「損害賠償の請求」ではないということです。そもそも、現実に発生していない損害の賠償を請求できる訳がありませんよね。なので、あくまで「損害賠償の担保の請求」なのです。

【補足】
 占有保持の訴えを行うケースでは、すでに占有侵害の事実が現実化しているので「木をどかせ」のような請求以外にも、シンプルに損害賠償請求も可能です。しかし、この損害賠償の性質は、不法行為による請求になると考えられます。となると、侵害者や妨害者の故意・過失が要件になるので、台風が原因で木が倒れた等の場合は難しいと考えられるでしょう。

提訴期間

【占有保持の訴え】
 占有回収の訴えの提訴期間は「占有を奪われた時から1年」です。
 これは、占有保持の訴えも同様です。
 占有保持の場合、占有の妨害が存在する間はずっと「妨害の停止」と「損害賠償」の請求が可能です。そして、妨害が終わった場合は「損害賠償」の請求のみ、妨害終了後1年の期間可能です。
 なお、その妨害が工事によるものである場合には、たとえ妨害が継続していても「その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したとき」に、「妨害の停止」と「損害賠償」の両請求ができなくなります(訴えの提起ができなくなる)。これは例えば、隣地で何か工事をやっていて、それが自分の占有を侵害したようなケースです。この場合に、もし完成した工事について「妨害の停止」の請求ができてしまうと、せっかく時間と費用をかけて完成させた工事をがっつりやり直すことになりかねません。ましてやそんな事例が全国各地で起きてしまったら社会経済的損失にも繋がりますよね。なので、このような規定になっています。(民法201条1項ただし書き)

【占有保全の訴え】 
 占有保全の訴えの場合「妨害予防」または「損害賠償の担保」の請求ができるのは、妨害の危険が生じている期間だけです。
 つまり、その危険が去れば請求権を残す必要もないという訳です。
 また、妨害の危険が工事によるものであれば、占有保持の訴えの場合と同様「その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したとき」に、訴えの提起はできなくなります。(民法201条2項後段)

自主占有への転換

「所有の意思のある占有」を自主占有、「所有の意思のない占有」を他主占有と言います。
 わかりやすく簡単に言うと、「買主」は自主占有者ですが、「賃貸人」や「受寄者(物を預かって保管する者)」は他主占有者です。
 そして、両者の違いが重要になる局面として、即時取得のケースがあります。
 例えば、Aさんが宝石の買主であれば、たとえ売買が無効な場合でも、権原の性質(権利の元の性質)が自主占有なので、その占有を続ければ時効取得の可能性が出てきます。しかし、そしAさんがその宝石の借主にすぎなければ、それは他主占有なので、いくら占有を続けようが時効取得はできません。なぜなら、取得時効の要件は「所有の意思のある占有の継続」だからです。
 自主占有かどうかはどう決まるの?
 これは占有を生じさせた事実(占有権原)の性質により客観的に決まります。どういう意味かというと、例えば、Aさんがアパートを借りていたとして「今年からは所有の意思を持って占有しよう」と決意しても、Aさんの自主占有に変わることない、ということです。
 では、どうすれば他主占有が自主占有に転換するのでしょうか?
二本指b
 民法では、2つの場合に、他主占有が自主占有に切り替わる旨を規定しています。

(占有の性質の変更)
民法185条
権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。
 

1・占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示する
 これは、借家人が家主に「この家は私の物だ!」と表示するケースですが、賃貸借そのものの終了がないと認められない主張です。
 ちょっと現実には考えにくいケースなので、そういうケースもあるんだぁ、ぐらいに思っておいていただければ結構です。

2・新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始める
 これは、借家人が家主から家を買い取るようなケースです。
 買い取ることが、民法185条条文中の「新たな権原」にあたります。したがって、他主占有者だった借家人が家主から家を買い取って占有すれば、それは自主占有へと転換されます。

相続は「新たな権原(新権原)」にあたるのか

 例えば、ある土地の賃借人Aが死亡し、相続人Bがその占有を承継した場合に、相続人Bは、相続開始の時からの占有を理由としてその土地の時効取得ができるのでしょうか?もし相続が、民法185条の「新たな権原」にあたるなら、相続開始の時から他主占有から自主占有へ切り替わり、占有を続ければ時効取得できることになりますが...。
 結論。相続という事実だけでは「新たな権原(新権原)」と言えないとするのが一般的な考え方で、判例の見解も同様です。したがいまして、相続人Bは土地の時効取得はできません。
 ただし、被相続人が土地建物の管理人だったケースで、以下のような判例の一文があります。

「相続人が被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継しただけでなく、新たに相続財産を事実上支配し、その占有に所有の意思ありとみられる場合、新権原による自主占有と認めうる」

 どういうことかと言いますと、上記判例のような特殊な事情がある場合には相続人による自主占有も可能性アリで、相続人による時効取得も可能性アリ、ということです。(上記判例では、相続人が一時期賃料をいたため、所有の意思は否定された)
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占有~本権のある&ない占有/善意占有と悪意占有と果実/占有者の不法行為と費用

▼この記事でわかること
占有の基本~本権のある&ない占有
善意占有と悪意占有とは
占有と果実
占有者の不法行為
占有者と費用
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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占有

 占有とは、事実上の支配状態で、それを保護するのが占有制度です。
 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得します。
 以上は、占有についての小難しい言い回しの端的な説明ですが、まず大事なポイントとして、占有権は所有権とは違います。両方とも物権ですが、所有権は「本権」で、占有権は「本権」ではありません(これについて詳しくはこちら)。
 そしてここも大事なポイントですが、占有には「本権(所有権)のある占有」「本権(所有権)のない占有」があります。
 この違いをわかりやすく噛み砕いてざっくり言うとこうです。
 人から借りた物を自己のために所持することは「本権のない占有」です。例えば、レンタルDVDなんかもそうですね。(ちなみに盗品でも本権のない占有になる)。
 一方、自分で買ったり人からもらった物を自己のために所持するとそれは「本権のある占有」です。例えば、購入したDVDなんかそうです。
 つまり、自己所有物の占有などの本権(所有権)を持った占有と、自己所有物ではない物の占有などの本権(所有権)を持たない占有とがあるのです。

善意占有と悪意占有

 占有について考えるときに、善意占有悪意占有という言葉が使われます。
 善意占有も悪意占有も「本権のない占有」です。
 それぞれどういう意味かというと、こうです。
 善意占有は「その占有に本権がないこと」について善意という意味です。本当は所有者ではないのにそれとは知らず自分の物だと思って占有していた場合はまさに善意占有になります。
 悪意占有は「その占有に本権がないこと」について悪意という意味です。つまり、本当は所有者ではないことを知りながらの占有です。

[参考図]

   本権のある占有
  ↗
占有         善意占有           
  ↘       ↗
   本権のない占有
          ↘
           悪意占有

 なお「本権のない占有」の場合、その占有者は、善意占有だろうが悪意占有だろうが、真の権利者(所有者)から本権に基づく目的物の返還請求をされる可能性があります。まあ普通に考えて当たり前の話ですよね。

占有と果実
アパート
 ここからは占有と果実の問題について考えて参ります(果実については詳しくはこちらへ)。

事例1
Aは所有権があると誤信して甲建物を善意占有している。そしてAは甲建物をBに賃貸した。その後、甲建物の真の所有者Cが現れ、Aに対してその所有権に基づき甲建物の返還を請求した。


 これはどういう事例かといいますと、所有者ではないのに所有権があると間違えて信じて甲建物を占有しているAが、甲建物をBに賃貸していて、そこに甲建物の真の所有者Cが現れて、Aに対して甲建物の返還請求をした、という話です。
 まず前提として、Aは善意占有なので甲建物の所有権は持っていません。つまり、Aの甲建物の占有は「本権のない占有」です。なので、所有権=本権を持っている真の所有者Cからの「所有権(本権)に基づく返還請求」に対して、Aは拒むことができません。これは善意占有だろうが悪意占有だろうが一緒です。
 以上を踏まえた上で、本題はここからです。
 AがBから受け取った甲建物の家賃(果実)はどうなるのでしょう?
 本来のスジから考えれば、AがBから受け取った家賃はCに返還すべきです。なぜなら、それは不当利得になるからです。
 なので、AはCに対し、Bから受け取った家賃を耳を揃えて返さなければならないはずです。
 しかし、どうでしょう。これはこれでAはが少し気の毒な気もします。妙な言い方かもしれないですが、Aは甲建物を善意占有、つまり、本権(所有権)があると誤信しているだけなのです。
 ということで、民法は、そんな善意占有者を救済するための規定を置きました。

(善意の占有者による果実の取得等)
民法189条 
善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。


 上記条文中の果実とは、事例1で言えば「甲建物の家賃」になります。そして、占有物は甲建物です。
 という訳で、答えは出ましたね。
 結論。善意占有者AはBから受け取った甲建物の家賃を取得します。Cに返還する必要はありません。 

【補足】占有者はいつから悪意になるのか

 善意占有者であっても、真の所有者が現れれば、その占有者は「本権がないこと」について悪意になります。ではその善意から悪意に切り替わるのは具体的にいつなのでしょう?
 これについては民法189条2項で「訴えの提起の時」と規定されています。この「訴えの提起の時」とは、真の所有者が目的物の返還請求の訴えを提起した時のことです。つまり、事例1で言えば、真の所有者Cが「甲建物の真の所有者は私だ!だから返還しろ!」と裁判所に訴えた時にAは悪意占有になる、ということです。
 したがって、そのままAがその裁判に敗訴すれば、悪意占有に切り替わって以降、すなわち訴えの提起の時以降の果実=「訴えの提起の時以降に受け取った家賃」は、真の所有者Cに返還すべきことになります。

悪意占有と果実
悪意
 悪意占有は「本権のないこと」を占有者が知っています。なので、本当は目的物から生じる果実も真の権利者のものであることを占有者は知っています。言ってみれば自分の物でないと分かっていながらかすめ取ってるようなもんです。
 ということで、民法190条1項では「悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う」と定めています。つまり、もし事例1のAが悪意占有だった場合、AはBから受け取った甲建物の家賃を真の所有者Cに返還しなければならないのはもちろん、滞納家賃があればその分の償還の義務もAはCに対し負うということです。
 そして、ここでひとつ注意点があります。
 民法190条2項によると「暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者」は悪意占有と同じように扱うとしています。つまり、たとえ善意占有だとしても「暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者」であれば、悪意占有の場合と同じように果実を返還しなければならないのです。
 善意・悪意とは、あくまで「事情を知っているか知らないか」に過ぎません。したがって「暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者」が善意であることも十分ありえます。なので、もし試験で「善意占有者が果実を返還しなければならないケースはない」という肢が出てきたら、それは誤りです。ご注意ください。

占有者の不法行為

事例2
Aは所有権があると誤信して甲建物を善意占有している。そしてAは甲建物を自らの不注意で損傷した。なお、甲建物の真の所有者はCである。


 さて、この事例2で、善意の占有者Aは甲建物の真の所有者Cに対して、その損害を賠償すべきなのでしょうか?
 まず、Aは自己の不注意によって甲建物を損傷しましたので「これによって生じた損害を賠償する責任」(民法709条:不法行為による責任)を負うことになります。
 でもこれ、どうでしょう。Aが少し気の毒な気もしませんか?というのも、Aは自分の物だと思って甲建物を使用しています。本来自分の物であれば損傷しようが困るのは自分自身で、誰に賠償も何もないですよね?つまり、善意占有のAはそういう前提のもとに甲建物を使用していたはずなんです。それで全額賠償というのは、さすがにAがちょっと気の毒です。
 そこで民法は、このような場合、善意占有者の責任自体は免除しないものの、その賠償金額をオマケしてあげる規定を置きました。それは民法191条の「善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う」です。
 この「現に利益を受けている限度」とは現存利益を指しますが、では具合的に何を言っているのかといいますと、例えば、甲建物が失火で焼けた場合「現存利益」はないから賠償しなくていいが、もしAが火災保険を受け取っていたなら、その分は真の所有者Cに返還しなさいよ、ということです。
 なお、悪意占有の場合には賠償金額のオマケはありません。損害の全部を賠償すべきです。
 さらに、試験等での注意点として、たとえ善意占有者でも「所有の意思がない」ときは、全額の賠償すべきとなります。「所有の意思のない善意占有」とはなんぞや?ですが「賃借権がないのにあると誤信して占有している者」がその代表例です。これはつまり、所有の意思がない時点で「他人の物」だという事は知っているわけですから「他人の物は大事にしろ」となるのは当たり前で、借りた物を過失(落ち度)によって壊したのなら、それは全額賠償すべきだ、となるのです。 
 また、もうひとつ注意点があります。
 善意占有も悪意占有も、占有者に帰すべき事由(故意または過失)がなければ賠償の必要はありません。この点は一般の不法行為責任と同様となります。この点ご注意ください。

【補足】
「所有の意思のある占有」を自主占有と言います。
「所有の意思のない占有」を他主占有と言います。

占有者と費用
お金
事例3
甲建物を善意占有しているAは、その建物の雨漏りの修繕をした。また、建物の雨戸を新調した。その後、甲建物の真の所有者のCが現れ、甲建物はAからCに返還されることとなった。


 まず、この事例での論点は、雨漏りの修繕費と雨戸の新調費用についてになります。
 雨漏りの修繕費は必要費です。一方、雨戸の新調の費用は有益費です。
 ということで、ではこの事例3で、善意占有者のAは真の所有者Cに対して甲建物を返還する際、必要費と有益費を請求できるでしょうか?
 まず、この問題についての考え方の基本は「公平」の観点になります。つまり「どうするのがよりフェアか?」という考え方です。
 真の所有者Cは甲建物の返還を受けることになります。その際に、甲建物の価値がAの負担によって維持され(必要費)、またその価値が増加しているのであれば(有益費)、それは「公平の観点」から考えればCが負担すべきですよね。でないとCがマル得になってしまいます。それはフェアとは言えません。加えて申し上げるなら、これには善意か悪意かも関係ありません。
 以上の事を踏まえた上で、民法196条の規定により、必要費については全額の請求が可能です。つまり、事例3のAは、甲建物の返還の際、真の所有者Cに対し必要費(修繕費)の全額を請求することができます。

【補足】
 同じ論理で、泥棒(占有者)が盗んだ自転車のパンクを修理した場合に、その費用は修繕費=必要費なので、なんと泥棒は被害者に対し必要費(パンクの修理代)の請求をすることができます。ただ、このことと被害者が泥棒に対してその盗難によって生じた損害の賠償を請求(不法行為による損害賠償請求)できるこことは、法律的にまったく別問題なのでご注意ください。
 なお、占有者が果実を取得したケースでは、通常の必要費は請求できません。(民法196条1項ただし書き)

 さて、必要費についてはわかりました。では、有益費の方はどうなのでしょうか。
 こちらについても、民法196条に規定があり「有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる」と定められています。これは何を言っているのか、事例3に当てはめて説明するとこうです。
「甲建物の価格の増加が現存する場合に限り、真の所有者C(回復者)の選択に従い、Aが支出した必要費(雨漏りの修繕費)か有益費(雨戸の新調費用)のどちらかを請求できる」
 つまり、実際には、Aは真の所有者Cに対して、必要費か有益費のどちらか安い方のみしか請求できないのです(普通に考えてCは安い方を選択するに決まっている。もちろん高い方を選択してくれれば高い方を請求できるが...)。
 また、もし甲建物の価格の増加額がゼロならば、請求できる金額もゼロです(つまり請求できない)。

 最後に繰り返しますが、占有者から回復者(真の所有者)への必要費・有益費の請求額は、占有者の善意・悪意による違いはありません。この点はくれぐれもご注意ください。
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動産の所有権(物権)~即時取得の要件/盗品の所有権/簡易の引渡し&占有移転&占有改定

▼この記事でわかること
動産の所有権(物権)の基本
動産の場合の対抗要件
占有の超基本と即時取得
盗品の所有権
占有権の移転~簡易の引渡し・占有移転・占有改定とその違い
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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動産の所有権(物権)の基本

 所有権(物権)というとまず不動産が思い浮かぶと思いますが、動産の物権はどのようになっているのでしょう?

物に対する排他的支配権、それが物権

 物権とは、物について「これは私のモノだ!」と、堂々と法律の保護の下に所有し使用できる権利です。
 物権とは、物に対する権利です。一方、人に対する権利は債権です。(債権についてはこちらへ)
 物権には、一物一権主義という原則があります。一物一権主義とは、ひとつの物にはひとりの所有権しか成立しない、ということです。ですので、物権は排他的支配権なのです。(共有という例外もありますがそれについてはこちらへ)

動産の物権

「不動産の所有権」という物権は、登記をする事によって法律で保護されます。つまり「不動産の所有権」という物権は、登記をすることで対抗要件を備えたことになります。「対抗要件を備える」とは、法律の保護の下に「これは私のモノだ!」と堂々と主張できる状態になることです。
 では動産の場合はどうなのでしょうか。
 例えば、Aさんがコンビニでボールペン(動産)を買ったとします。これは売買契約ですよね。では、ボールペン(動産)の所有権の権利関係は、一体どのようになるでしょう。

 コンビニ→Aさん

 このように、売買契約によって、ボールペンという動産の所有権がコンビニからAさんへと移転します。

動産の場合、不動産登記のような第三者に対する対抗要件は?

 動産の所有権自体は、当時者同士の意思表示のみでも移転します。つまり「売りました」「買いました」だけでもコンビニからAさんにボールペンの所有権は移転します(諾成契約)。
 しかし、それだけでは第三者に対抗できません。「第三者に対抗できない」とは、Aさんは法律の保護の下、堂々と「私のボールペンだ!」と主張できないという意味です。
 動産の場合の第三者に対する対抗要件(第三者に対抗するために満たさなければならない要件)は、引渡しです。つまり、先ほどの例だと、Aさんが売買代金を支払ってボールペンの引渡しを受けたら(ボールペンを受け取ったら)そこで初めて第三者に対する対抗要件を備えたことになります。そうして「このボールペンはAのモノだ!」と、堂々と主張できるのです。そうなれば、字を書こうが分解しようがデスノートを書こうがガッチャンに食べさせようが、Aさんの自由です。なぜなら、対抗要件を備えた物権という排他的支配権を取得したからです。

 動産は、引渡しにより対抗要件を備えたことになります。これが基本です。
 しかし、例外的な動産もあります。例えば、自動車や船舶(船)です。自動車や船舶(船)には登録制度があり、不動産と似たような扱いになっています。

【豆知識】
 通常の乗車券、商品券、劇場入場券などは、無記名債権(記名のない債権)と呼ばれます。これらは本来、債権なのですが、民法はこれらの無記名債権を動産とみなします。つまり、通常の乗車券、商品券、劇場入場券は動産として扱い、動産のルールが適用されます。自分で取り上げておいてなんですが、これは覚える必要ございません(笑)。
 なお、民法上、動産とは不動産以外の物、と定義されています。

占有の超基本
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 動産の所有権(物権)は引渡しによって移転し、対抗要件を備えます。その根拠となる条文はこちらになります。

(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
民法178条
動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。


 動産の所有権(物権)自体は当事者の意思表示で移転しますが、引渡しがなければ、第三者に対する対抗要件を備えたことにはなりません。引渡しを経て法律上保護された、いわば完成された所有権になります。そして、この所有権を本権と言います。
 さらに、本権以外にも物に対する権利が存在します。それが占有権です。
 まずはこちらの事例をご覧ください。

事例1
Aはギターを二本持っている。一本のフェンダーUSAのギターはメインとして使い、もう一本のYAMAHAのギターはサブとして使っている。ある日、Bから「明日ライブがあるのにギターが壊れてしまった。俺はこの一本しかギターを持っていない。頼む。Aのギターを一本貸してくれないか?」と頼まれ、Aは「それだったら仕方ないな」と思い二つ返事で、サブで使っているYAMAHAのギターをBに貸した。ところが、Bはライブを終えても一向にそのギターをAに返さない。なんとBは、Cにそのギターを売っぱらって引き渡してしまった。実は、Bはあるキャバ嬢にぞっこんで、その売買代金を全てキャバクラ代にあてたのだった。


 この事例でまず最初にわかるのが、Bがクズ野郎ということです(笑)。
 ですが、そのことはさておいて...
 事例1で問題なのは、YAMAHAのギターの所有権がAにあるのかCにあるのか、です。
 さて、ここで民法にはこのような条文があります。

(即時取得)
民法192条
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。


 上記条文中に、占有という言葉が出てきましたが、そもそも占有とは一体何なのでしょうか?

占有とは

 自己のためにする意思で物を所持することです。自己のためにする意思とは「自分の物だと思って」ということです。所持とは、物を事実上支配する状態のことです。
 以上のことを踏まえて、再び事例について考えていきます。
 Cは、BからYAMAHAのギターをお金を払って買って手に入れている訳ですから、普通に考えて、間違いなくⅭ自身の物だと思ってYAMAHAのギターを所持しているはずです。ということは、法律上、CはYAMAHAのギターを占有していることになります。これが占有権です。つまりこの時点で、Cは少なくとも、YAMAHAのギターの占有権を取得していることになります。なお、今ひとつ占有権がよくわからないという方は、ざっくり占有権は本権(所有権)未満の権利と覚えてください。例えるなら、本権(所有権)が旦那・嫁さんなら、占有権は同棲中の彼氏・彼女(内縁の妻)みたいな感じです。
 
結局YAMAHAのギターの所有権は?

 ここまでの説明で、CはYAMAHAのギターの占有権を取得しているという事が分かりました。
 しかし、占有権を取得しているということは、逆に言うと、本権(所有権)は取得していないということになります。
 CはYAMAHAのギターの所有権を取得できないのでしょうか?
 結論。Cは一定の要件を満たすと、占有権が本権に昇格し、YAMAHAのギターの所有権を取得します。

一定の要件とは何か?即時取得とは

 要件については、こちらの条文に記されています。

(即時取得)
民法192条
取引行為によって、平穏に、かつ、公然動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。


 上記条文中の太字の部分が要件になります。なお「その動産について行使する権利」とは、今回の事例の場合は所有権になります。
 以上のことを事例に当てはめると、次のようになります。
 CはYAMAHAのギターを
1・取引行為によって
2・平穏かつ公然に
3・(AB間の事情に関して)善意で
4・無過失(落ち度なし)で

5・ギター(動産)の占有を開始していれば
占有権が本権に昇格し、所有権(その動産について行使する権利)を取得します。

 まず2の「平穏かつ公然」ですが、なんだか抽象的に感じると思います。これについてはその意味を深く考える必要はございませんので、特に気にしないで問題ないです。
 3と4の「善意無過失」については、これは要するに、CがYAMAHAのギターが本当はAのものであることを過失(落ち度)なく知らなければOKということです。
 1の取引行為というのは、簡単に言えば「盗んだり騙し取ったり強奪していなければ」という意味です。つまり、取引行為とは、正当な手段を意味します。5はそのままです。
 以上の事を簡単にまとめると、こうなります。
 
「CはYAMAHAのギターが本当はAのものであることを過失なく知らず正当な手段で手に入れていれば、YAMAHAのギターの所有権を取得できる」

 このようになります。そして、このような形で所有権(本権)を取得することを、即時取得と言います。
 なお、上記2と3と4の要件「平穏・公然・善意・無過失」は推定されます。推定されるということは、C側に立証責任がないということです。C側に立証責任がないということは、Cが自分から平穏・公然・善意無過失を証明しなくて良いということです。これは、即時取得をしやすい仕組みになっているということを意味します。

てゆーかAはどうなるの?Cが所有権を取得したらAがかわいそうじゃね?
困惑女性
 そのとおりです。AはBのために、好意でYAMAHAのギターを貸しただけです。それなのに、Cが一定の要件を満たせば即時取得が成立し、Cのものになってしまいます。
 なんだか不公平な結果に思えますよね。しかし、民法はこう考えます。「Aが貸したからこういう事態を招いたんだろ?」と。
 つまり、Aにも帰責性あり(負うべき責任あり)と民法は考えるのです。そして、利益衡量取引の安全性の観点から、Cが一定の要件を満たせばCの勝ち、とするのです。(利益衡量についてはこちらの記事を、帰責性についてはこちらの記事をご参照ください)
 Aに対抗手段はないの? 
 もし裁判になり、Aができることは、Cに過失があることを主張立証することです。つまり、先述の要件を全て満たせていないじゃないか!と主張し、それを立証するのです。もしそれが立証できれば、AはCに勝ち、無事YAMAHAのギターを取り返すことができます。あとは、Bに対し損害賠償請求するという手段もありますが、その方法だとYAMAHAのギターが返ってくる訳ではないですし、もしBが無資力(金がない)ならアウトです。
 いずれにせよ、Aには苦労する現実が待っていることになります。
 一番悪いのはBであることは間違いありません。しかし、これは酷な言い方になりますが「そんなBみたいなヤツに貸してしまったAも悪い」という事にも民法的にはなってしまう、ということです。ただ、これは逆に言えば、それだけ動産の取引の安全性が高いということでもあります。事例のCのような立場の者(第三者)が保護されるということは、それだけ人々が新しい取引に入っていきやすいことを意味するからです。

盗品の所有権
泥棒
事例2
Aは100万円で買ったヴィンテージギターを持っている。ある日、BはA宅に侵入しそのギターを盗み出した。そしてBはそのギターを自分の物だと偽り、そのことについて善意無過失で信じたCに売り渡した。その後、Bは行方をくらまし消息が掴めない。


 今度は何だか不穏な事例の登場です。
 さて、ではこの事例2で、ギターの所有権を取得できるのは一体誰でしょう?
 Aが勝つのか?はたまたCに即時取得が認められるのか?
 この問題については、次の条文が適用されます。

(盗品又は遺失物の回復)
民法193条
前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。


 上記の条文の占有物とは、事例2のギターになり、そのギターはBによって盗まれたものなので「盗品又は遺失物」に当てはまります。
 それでは結論を申し上げます。Aはギターを盗まれた時から2年間は、Cから無償でギターを取り戻せます。Cが善意無過失であろうと関係ありません。
 無償というのはタダ(無料)ということです。つまり、相手が善意無過失だろうが盗まれた時から2年間はタダで取り戻せます。

帰責事由の有無 

 事例2の結論は、ギターが盗品だから、というのもあるかと思われますが、実はそれよりも、帰責性が関係しています。
 事例1ではAにも帰責性アリとし、Aには厳しい結果が待っていました。しかし、事例2では、かなりA寄りの結論です。それはなぜか?
 それは、事例2では、Aには帰責性ナシと民法は考えるからです。つまり、Aは何の落ち度もないただの被害者なのです。そうなると、利益衡量の観点から「なんにも悪くない被害者のAを勝たせるのが妥当だ!取引の安全性よりもAを保護するのが妥当だ!」という結論になるのです。

【補足2点】

・横領

 もし事例2で、Bの盗みではなくAからBへの横領の場合は、なんと、Cの即時取得が成立します。
 その結論の理由は、横領の場合、AはBに自ら手渡しているはずだからです。よって、Aにも帰責性アリとなり、Cの即時取得が成立します。

・2年間の起算点の注意点

 盗まれた時から2年間は無償で取り戻せる、と申しましたが、この2年間の起算点(数え始め)はどこなのでしょう?
 これは、実際に盗まれた時になります。「盗まれたことを知った時」ではありませんのでご注意ください。
 ですので、事例2のAの保護は厚いものになっておりますが、Aがボサッとしていて2年間が過ぎてしまうと、Cの勝ちになってしまいます。
 民法は、いつまでも権利関係を曖昧にしておくことを好ましく思いません。いつまでもそのような問題を扱っていたら、裁判所もごった返して困ってしまいます。ですので、あらかじめ画一的に期間を設けて「その期間が過ぎてしまったら恨みっこナシでいきましょう!」としているのです。
 したがいまして、もし何か皆さんのまわりで法的なトラブルが起こったら、ボヤボヤせずにできるだけ早く行動して対処することを推奨します。

即時取得の補足1

 こちらの事例をご覧ください。
   
事例3
未成年者のAは親権者の同意を得ずに所有するジュエリーをBに売り渡した。


 さて、この事例3で、Bはジュエリーを即時取得できるでしょうか?
 結論。Bは即時取得することはできません。まず、そもそもこの事例3は即時取得の問題にはなりません。事例3は、未成年者=制限行為能力者の問題になります。ですので、未成年者A側に取り消されたら即アウト、Bはジュエリーを取得できません。
 即時取得という制度は、取引行為そのものは真っ当だが、前主に処分権限がない(本権未満占有権止まりの)場合に、その占有を信頼した相手方を保護するのが趣旨です。要するに、取引行為そのものは真っ当なのが前提の上で、その取引行為の相手方を保護するものです。しかし、事例3では、その取引行為自体に瑕疵(欠陥)があるのです。さらに加えて言えば、事例3のケースで即時取得を認めてしまったら、未成年者等を保護するための制限行為能力者の制度が無意味なものになってしまいます。

 なお、もし転得者が登場してくると、様相が変わってきます。例えば事例3で、未成年者Aが売買契約を取り消した後、Cが善意無過失でジュエリーを譲り受けると、このときのCは即時取得が可能です。

即時取得の補足2

・所有権以外に即時取得できる権利
 質権は、即時取得できる可能性があります。例えば、BがAから預かったジュエリーを質入れしてしまって、質屋が善意無過失であれば質権を取得し得ます。

・泥棒が1万円盗んだらどうなる?
 金銭は即時取得の対象になりません。民法上、金銭の所有権は占有の移転とともに移転します。したがって、即時取得うんぬんではなく、その1万円の所有権は、なんとその泥棒のものになります。なので、この場合は、不法行為や不当利得による損害賠償の問題となります。 
 ちなみに、同じ金銭でも、古銭など「特定物として価値のあるもの」は即時取得の対象になります。

【即時取得が可能な取引】
・売買
・贈与
・代物弁済
・消費貸借
・競売
※相続は取引ではありません。ご注意ください。

占有権の移転
簡易の引渡し・占有移転・占有改定
三本指
 占有権は、自分の物だと思って物を所持(事実上の支配状態)することによって取得します。

(占有権の取得)
民法180条
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。


 占有は、物を所持する事実状態を言います。ですので、実は、自分の物だと言い張れば泥棒にも占有権はあります。
 これはちょっとビックリですよね。ただ、あくまで占有権止まりです。さすがに本権(所有権)までは取得できません。本権を持った人間に「返せ」と言われれば、それは当然返さなければなりません。この本権をもって物の返還を要求する権利を、本権(所有権)に基づく返還請求権と言います。この用語は覚えておいてください。
 話を占有に戻します。
 それでは、占有権はどのように移転するのでしょうか?
 それについては、次の条文に規定されています。

(現実の引渡し及び簡易の引渡し)
民法182条
占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。


 譲渡は移転と同じ意味です。つまり、占有権は物の引渡しによって移転します。これは所有権と一緒ですね。
 しかし!実は占有権の移転には、現実に物を引き渡さなくても生じるケースが3つあります。
 それは次の3つです。 

1・簡易の引渡し
2・指図による占有移転
3・占有改定

 ひとつひとつ解説していきます。

1【簡易の引渡し】
 元々預けておいた物を相手にそのまま売ってしまうケース。
 例えば、AがBに機材を預けていて、Aがその機材をそのままBに売ってしまうようなこと。

2【指図による占有移転】

 倉庫業者に預けている物を〇〇さんの承諾の上で、倉庫業者に対し「以後〇〇さんのために占有しろ」と命じるケース。
 例えば、Aが倉庫業者に預けてある機材を、Bに承諾の上で、Aが倉庫業者に対し「以後Bのためにその機材を占有してくれ」と命じること。

3【占有改定】

 占有者が、今後は〇〇さんのためにこの物を所持すると意思表示したケース。
 例えば、Aが「今後この機材はBのために所持する」と意思表示すること。

 上記1、2、3のいずれの方法でも、占有権が移転します。上記説明中の例えで言うなら、1、2、3のいずれでも機材の占有権がAからBに移転します。

3つの方法には重要な違いがある

 実は、簡易の引き渡し、指図による占有移転、占有改定には重要な違いがあります。
 それは、即時取得が成立するかどうかです。「即時取得が成立するかどうか」ということは、占有権が本権に昇格し、所有権を取得できるかどうかということです。これは大きな違いですよね。
 その違いはこうです。

簡易の引き渡し→即時取得◯
指図による占有移転→即時取得◯
占有改定→即時取得
×

 簡易の引き渡しと指図による占有移転は即時取得可能ですが、占有改定には即時取得が認められません。
 これは裁判所がそういう結論を出しています。つまり、判例でそうなっているという事です。その詳細は割愛しますが、この即時取得ができるかどうかの違い」はとても大事なので、しっかり覚えておいていただければと存じます。
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不法原因給付~愛人契約で動産を贈与?不動産の場合は?/不法な原因が受益者のみにあるとき

▼この記事でわかること
愛人契約で動産を贈与のケース
不動産の場合の不法原因給付
不法な原因が受益者のみにあるとき
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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不法原因給付
愛人契約で動産を贈与

事例1
A男とB子は愛人契約を結んだ。それにともなってB子は時価総額数百万ドルは下らないジュエリーをA男から贈与され受け取った。その後、二人の関係は冷め、A男はB子との愛人契約の無効を主張して清算しようと考えた。


 さて、いきなり昼ドラのような事例から始まりましたが、この事例1で、A男はB子に対し愛人契約の無効を主張して、ジュエリーの返還請求ができるでしょうか?
 まずは、A男とB子の愛人契約について考えてみます。
 まず、A男とB子の愛人契約は無効になります。無効になるというより、そもそもハナっから愛人契約は無効です。なぜなら、愛人契約は公序良俗違反だからです。
 公序良俗というのは、倫理とか道徳とか常識というようなことです。つまり、公序良俗違反とは、倫理や道徳や常識に反する違反ということです。
 契約というのは、契約自由の原則により、基本は自由ですが、あまりにもいき過ぎた内容のものは公序良俗違反により無効になります。例えば、殺人契約や人身売買契約なんか成立しませんよね?それは法律的な論理でいえば、公序良俗違反により無効ということです。そして、愛人契約も公序良俗違反により無効になります。
 すると事例1で、A男がB子に愛人契約の無効を主張して、ジュエリーの返還請求はできそうな気もします。
 しかし、そうはイカンのです。

(不法原因給付)
民法708条
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。


 A男からB子への愛人契約によるジュエリーの給付は、上記の条文の「不法な原因のために給付」にあたります。したがって、A男はB子にジュエリーの返還請求はできません。
 民法708条の理屈を簡単に説明すれば「自分から法を犯したヤツは法で保護されない」ということです。
 A男はB子と公序良俗違反の愛人契約を結んでいます(法律的に無効の契約なのでそもそも成立しませんが)。そもそも、自分から違反を犯しておいて返還請求という法律的な主張はできないのです。つまり、A男は自業自得ということです。

ジュエリーの所有権は?

 では、A男がB子に贈与したジュエリーの所有権はどうなるかというと、ジュエリーの所有権はB子のものになります。
 え?マジで?
 マジです。もちろん、法律的な理屈としてはAB間の贈与も無効ですので、本来ならジュエリーの所有権はA男に戻るはずです。しかし、そうなるとA男の返還請求を認めないことと矛盾してしまいます。そして、もしA男の返還請求を認めてしまうと「自分から法律に違反したヤツの法律的な主張」を認めてしまうことになってしまいます。そうなってしまうと、世の中の秩序がオカシクなってしまいます。
 では、どういう理屈でBのジュエリーの所有権が認められるかというと、こうなります。
「A男が返還請求できない反射的効果として、B子へのジュエリーの所有権の移転は有効」
 このような論理で、ジュエリーはB子の物になるのです。
 したがいまして、もし現在、事例1のようなケースで贈与された物を所持している女性の方は、その物は意地でも自分の手元に置いておいた方が良いかと存じます(笑)。もちろん、愛人契約は推奨できませんが。。。

不動産の場合
素材102マンション
事例2
A男とB子は愛人契約を結んだ。それにともなって、A男は自己所有の甲マンションをB子に贈与し引き渡した。その後、二人の関係は冷め、A男はB子との愛人契約の無効を主張して清算したいと考えた。


 さて、A男とB子の愛の行方はどうなるのか?じゃなかった(笑)。
 この事例2で、A男は愛人契約の無効を主張して、B子に甲マンションの返還請求ができるでしょうか?
 これは先ほどのジュエリーの場合と一緒で、そもそも公序良俗違反の愛人契約という不法な原因により給付したものは、返還請求はできません。よって、A男はB子に甲マンションの返還請求はできません。と普通に考えれば結論付けますが、、、
 実は、不動産の場合は少し違ってきます。なぜなら、不動産には登記という制度があるからです。
 そしてなんと、この登記の有無によって、A男はB子に返還請求できる場合があるのです。不法な原因による給付なのに!です。

【甲マンションが未登記の場合】
 これは、甲マンションがA男の登記もなくB子の登記もない場合です。
 例えば、A男がB子にマンションを買い与えたようなケースが考えられます。このような場合、判例では「引渡しをもって給付あり」としています。よって、甲マンションを引き渡してしまったA男は、B子に甲マンションの返還請求はできません。

【B子登記済みの場合】
 この場合は、言うまでもないと思いますが、A男はB子に甲マンションの返還請求はできません。

A男登記のままの場合

 この場合なんと、A男はB子に甲マンションの返還請求ができます!これは判例でそのような判断がなされているのです。
 先ほど、不動産には登記の制度があるから、と申しましたが、だからと言ってなんで?って感じですよね。不法原因給付の制度と完全に矛盾していますし。裁判所はA男に甘いのか?とも思ってしまいます。
 一応、理屈としてはこのようになっています。

「愛人契約による贈与は公序良俗違反により無効である。しかし、A男の甲マンションの返還請求権を認めないとなると、B子からA男への甲マンションの登記移転請求権を認めなければならなくなる。すると、公序良俗違反の贈与契約も認めなければいけなくなる。それはマズイ。しょうがない。ここはA男の返還請求権を認めざるを得ないな。スジとしてはオカシイが、致し方ない」

 このような理屈で、A男の返還請求権が認められるのです。
 納得できますかね?はい。納得しなくてもかまいません(笑)。とりあえず「こうなっているんだ」と、強引に結論とその理屈を頭に叩き込んでしまってください。
 勉強も人生も、たとえ納得できなくても進んでいかなけれなならないときがあるのです。

 というわけで、ここまでの解説からわかることは、もし事例2のようなケースでマンションを贈与した方は、登記を自分のままにしておけば、この先二人の関係が冷めても安心ですね(笑)。反対にマンションを贈与された側の方は、取り急ぎ登記を自分に移転しておくのがイイと思います(笑)。ただし!愛人契約は推奨しませんよ!公序良俗違反ですから!

不法な原因が受益者のみにあるとき
怪しい粉
事例3
AはBに事業資金を融資した。しかし実は、Bはこの資金を麻薬購入資金に充てるつもりでいた。Aはそんなこともつゆ知らず事業資金としてBに融資したのだった。


 さて、今度はなんだかアングラな事例の登場ですが、この事例3で、AのBへの融資資金の返還請求は認められるでしょうか?
 麻薬購入資金の融資は、当然に公序良俗違反であり不法原因給付です。そして、不法な原因で給付した者の返還請求は認められません。
 しかし!この事例3の場合、Aは単に事業資金として融資しています。AはいわばBに利用され、勝手に犯罪の片棒を担がされたに過ぎない被害者とも言えます。つまり、Aに不法はないのです。本質的な公序良俗違反Bだけにあるのです。
 となると、結論はどうなるのでしょうか?
 ここで今一度、民法の条文を確認してみましょう。 

(不法原因給付)
民法708条
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。


 条文の後半を見ると「不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない」とあります。これはまさに、事例3のケースが当てはまります。
 先ほどご説明申し上げたとおり、事例3において、不法な原因は受益者であるBのみにあります。したがいまして、事例3の場合、AのBへの融資資金の返還請求は認められます。

 続いて、次のような事例の場合はどうなるでしょう?

事例4
大学受験を控える息子を持つAは、予備校教師のBから裏口入学の話を持ちかけられた。Aは息子を思うあまりその話に乗ってしまい、Bに500万円を給付した。


 これは、言ってみれば裏口入学契約ですよね。当然、こんなものは公序良俗違反で無効です。
 すると、この事例4のAは、不法原因給付の規定により、Bに給付した500万円の返還請求はできないということになります。ただし、事例3のときのように「不法な原因が受益者についてのみ存したときは」返還請求が可能になります。
 では、事例4の場合どうでしょう?
 裏口入学の話を持ちかけたのは予備校教師Bです。しかし、息子を思うあまりとはいえ、その話に乗ったのはA自身です。つまり「不法のきっかけ」は予備校教師Bにありますが、その「不法の原因の一部」にAは自らの意思で加担したことになります。
 よって事例4は、不法な原因が受益者(予備校教師B)のみにある訳ではありません。となると、Aの500万円の返還請求は認められないことになりますが、、、
 しかし!判例では、両者に不法な原因がある場合でも、受益者側の不法原因の方が著しく大きいと考えられる場合は、民法708条の「不法な原因が受益者についてのみ存したとき」の規定を適用するとしています。つまり、事例4のAは、予備校教師Bに対して給付した500万円の返還請求が認められる可能性があるということです。
 ただ、あくまで受益者側の不法原因の方が著しく大きい場合ですので、例えば、Aの方から「裏口入学できますか?」と話を持ちかけていたりしたら、その場合は、給付したお金の返還請求は認められない可能性が高いでしょう。
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不当利得~受益者が善意か悪意かで返還すべき利益が変わる?/現存利益の範囲とは

▼この記事でわかること
不当利得の基本
不当利得返還義務により返還する利益
通常の受益者(善意の受益者)の場合
現存利益の範囲
悪意の受益者の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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不当利得の基本

 不当利得とは、法律上の原因なく一方の損失により他方が利得をした場合に、その利益を返還させる制度です。
 んなこといきなり言われてもわけわからんわ!ですよね(笑)。
 まずは、不当利得が成立するための4要件を以下に記します。

1・他人の財産または労務による受益(利益を受けること)の存在
2・他人に損害を与えた事実
3・受益と損失の因果関係(一方の損失により一方に受益があるという関係性)
4・法律上の原因がない(契約などの法律上の正当な手段を経ていない)

 それでは、不当利得となる事例をご覧ください。

事例1
AはB所有の甲建物を不法占拠している。


 これは不当利得となるケースです。
 まず不法占拠というのは、当然ですが、契約などの法律上の原因にあたりません(要するに法律的に許される手段ではないということ)。
 その不法占拠により、Bは自己所有の甲建物について損失を被っています。と同時に、不法占拠者Aは甲建物の使用という利益を得ていますよね。つまり、Aの利益とBの損失の間には因果関係が認められます。
 よって、不当利得成立の4要件全てを満たして不当利得が成立し、AはBに対して不当利得返還義務を負い、甲建物を不法占拠して得た利益をBに返還しなければなりません。同時に、BはAに不当利得返還請求ができます。
 不当利得の制度の意味、おわかりになりましたよね。
 続いて、次のような場合も不当利得になります。

事例2
AとBは甲商品の売買契約を締結し、Aは甲商品の代金5万円をBへ支払った。しかしその後、手違いにより甲商品の売買契約は無効になった。


 この事例2では、AB間の甲商品の売買契約が無効になっています。つまり、AB間の甲商品の売買契約は始めから無かったことになります。
 すると、Aは契約などの法律上の原因なく5万円を損失し、Bは5万円の利益を得ている、ということになり、Aの損失とBの受益の因果関係も確かです。よって不当利得が成立です。
 Bには不当利得返還義務が生じ、Aに5万円を返さなければなりません。同時に、AはBに対して「5万円返せ!」と不当利得返還請求ができます。
 それでは続いて、こちらの事例をご覧ください。

事例3
AはB所有の甲商品を即時取得した。


 この事例3では、Aは即時取得により、代金などを支払うことなくB商品を手に入れています(即時取得に関してはこちらの記事へ)。つまり、Bの損失によりAは利益を得ています。
 これは一見すると不当利得が成立しそうですが、この事例3は不当利得となるケースではありません。なぜなら、即時取得が成立しているからです。
 即時取得は法律に定められた規定です。つまり、即時取得が成立しているということは、法律上の原因によりAは甲商品を取得したということなので、事例3は不当利得にはならないのです。ここはご注意ください。
 続いて、こちらの事例もご覧ください。

事例4
A電鉄が新たに地下鉄を敷設したことにより沿線の地主Bはウハウハの大儲けをした。


 この事例4では、何の法律上の原因なく地主Bは利益を得ています。
 しかし、これは不当利得にはなりません。なぜなら、A電鉄の損失がありません。
 まあ、これは法律的に考えるまでもなく、普通に考えて不当利得になりませんよね。こんなことで不当利得が成立してしまったら地主はたまったもんじゃないです。
 したがって、この事例4は、ただただ地主Bが羨ましいというだけのハナシです(笑)。

 以上が、不当利得についての基本になります。不当利得自体は決して難しいものではないと思いますが、注意していただきたいのは、事例3や事例4のようなケースです。冷静に考えればわかるのに、試験等では焦って勘違いすることもありますので、くれぐれもお気をつけください。

不当利得返還義務により返還する利益
お金
 ここからは、不当利得において「不当利得返還義務により返還する利益」について解説いたします。
 まずは不当利得に関する条文をご覧ください。

(不当利得の返還義務)
民法703条
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

民法704条
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う


 上記の条文で、不当利得において返還する利益について、2つのケースが規定されています。
 まず703条では通常の受益者の場合、そして704条では悪意の受益者の場合を定めています。704条で悪意の受益者を定めているということは、703条は善意の受益者の場合と考えられます。
 それでは、ひとつひとつ見ていきましょう。

通常の受益者(善意の受益者)の場合

 民法703条では、通常の受益者=善意の受益者の返還すべき利益について「その利益の存する限度において」返還すべきと定めています。
 この「その利益の存する限度において」とは、現存利益と呼ばれるものになります。つまり、不当利得の善意の受益者は、現存利益を返還しなければなりません。
 現存利益とは「現に存在する利益」という意味です。といってもこれだけだとよくわからないですよね。ですので、事例を交えてご説明いたします。

事例2
AとBは甲商品の売買契約を締結し、Aは甲商品の代金5万円をBへ支払った。しかし手違いがあり甲商品の売買契約は無効になった。


 これは先ほども登場した事例2です。甲商品の売買契約が無効により無かったことになるので、法律上の原因なくAは5万円を損失し、そのAの損失によってBは5万円の受益がある状態になり、不当利得が成立します。よって、Bは不当利得返還義務を負い、Aに支払いを受けた5万円を返還します。
 さて、問題はここからです。
 Bが善意の受益者なのか悪意の受益者なのかによって、返還すべき利益が変わってくるのですが、先程申し上げたとおり、善意の受益者の場合は現存利益を返還します。現存利益とは、現に存在する利益のことなので、Bが善意の受益者だとすると、Aから支払いを受けた5万円がまるまる残っていれば、まるまる残っている5万円をAに返還しなければなりません。これは簡単な話ですよね。
 では、Bがその5万円を使ってしまっていた等の場合どうなるでしょう?実はそれは「どう使ったか」によって変わってきます。

現存利益の範囲
講師とホワイトボード
 例えば、Bがその5万円を公共料金や水道光熱費等の経費に充てていたとしましょう。その場合Bは、経費に充てた分も含めて、しっかり5万円全部を返還しなければなりません。家賃や交通費、日常の食費や学費なども同様です。それに使った分も含めて5万円全部をきっちり返還する必要があります。
 ここまでは何も難しい話はありません。しかし、これが例えば、Bがその5万円を遊びで浪費してしまっていたらどうでしょう?
 この遊び等の浪費を、法律上は少し難しい言い方で「遊興費」と言いますが、なんと遊興費については返還義務はありません。つまり、事例2のBが善意の受益者の場合、Aから支払いを受けた5万円を使って風俗に行っていたら、なんとその風俗に浪費した5万円の返還義務はないのです!
 これが法律の不思議なところなんです。なんだか納得できませんよね。
 一応、法律上の理屈としてはこうなります。

経費等必要なものなので、それに使った分はその者の利益として存在することになる。したがって、現存利益に含まれる。しかし、遊興費等の浪費必要なものではなく、それに使った分はその者の利益として存在しない。したがって、現存利益に含まない

 うーん、て感じですよね。しかし、これが法律上の理屈です。
 これは納得できない方、たくさんいらっしゃるかと思います。その気持ち、大いに理解します。
 しかし!それでもここは「こうなっているんだ」と無理矢理に強引に覚えてしまってください。でないと民法の学習が進んでいきません。こんなところで考え込んでしまっては時間がもったいないです。
 勉強も人生も、たとえ納得ができなくとも、進まなければならないときがあるのです。

【補足】
 例えば、善意の受益者が、受け取ったお金を預金し、利息が発生していたらどうなるでしょう?
 その場合は、利息分もプラスして受け取った利益を返還しなければなりません。不当利得の受益の金額が1000万円だったとしたら、1000万円+利息分を返還するということです。
 では、善意の受益者が受け取ったお金が、株式投資などで1000万円から1200万円になっていたらどうでしょう?
 この場合は、返還すべきは1000万円になります。儲かった分の200万円返還義務の対象になりません。
 これはどういう理屈かというと「預金で発生した利息は自然に増加した利益なので、返還すべき利益に含まれるが、株式投資などで増加した分は特殊な手腕で得た利益なので、返還すべき利益に含まれない」ということです。納得の是非は別にして、この理屈自体はご理解いただけるかと思います。

悪意の受益者の場合
悪意
 悪意の受益者は、受けた利益に利息を付けて返還しなければなりません。
 例えば、このような場合です。

事例5
悪意の貸金業者Aは利息制限法を超える利息を付してBにお金を貸した。その後、Bは利息を含めなんとか全額を返済した。


 貸金業者Aは、利息制限法を超えて利息を付したものであることを知りながら、Bからその全額の返済を受けています。つまりAは、不当だと知りながら利得を受けた悪意の受益者です。
 よって、悪意の受益者の貸金業者Aには不当利得返還義務が生じ、利息制限法を超えて返済を受けた分の金額利息を付けてBに返還しなければなりません。
 このようなケースで、BがAに対して「利息制限法を超えて返済した分を返せ!」と主張するのを、過払い金返還請求と言います。過払い金返還請求という言葉はよく聞く言葉ですよね。実は、この過払い金返還請求というのは不当利得返還請求の一種になります(過払い金返還請求についてはこれ以上は触れません。あくまで民法の解説の流れで申し上げた次第です。あしからずご了承ください)。

 なお、民法704条では、返還しなければならない利益以外にも損害が生じていた場合は、悪意の受益者は、その分の賠償もしなければならないとしています。この点もご注意ください。
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