2021/09/22
【質権】動産質・債権質(権利質)・不動産質/質物の返還請求と対抗要件と賃貸について/転質とは
▼この記事でわかること・質権の超基本
・動産質とは
・質物の返還請求と対抗要件と占有の回復
・不動産質とは
・不動産(質物)の返還請求と対抗要件
・質物の賃貸について
・債権質とは
・転質について
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

質権
質権と聞くと、質屋さんの権利?とイメージする方も多いのではないでしょうか。
「借り入れをするために、ブランド時計を質屋に持って行って、その時計を担保にしてお金を借り入れる。もしお金を返せなかったときは、担保の時計を売っ払った金で弁済させられる事になる...」
確かにこの場合の質屋の「ブランド時計を担保にお金を貸して、金を返せなければ担保目的物(ブランド時計)から弁済させる」権利はまさしく質権です。
ただし、質屋の場合は質屋営業法という特別法があり、民法上の質権とは若干の違いがあります。
質権についての民法の条文には、次のようなものがあります。
(質権の内容)
民法342条
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
端的に言えば、質権は、物を担保にして、その物(担保目的物)について、他の債権者に先立って自己の弁済を受けることができる権利です。
例えば、10万円相当の時計を担保にAがBから10万円を借りていて、さらにAはCからも10万円を借りていたとします。この場合に、Bが質権を行使して担保目的物である時計が売っ払われると、その売却代金10万円は、Bの債権に優先的に弁済されます。
これが質権です。
なお、この場合の、債権者Bは「質権者」、債務者Aは「質権設定者」となり、債権者Cは一般債権者です。
質権設定者 質権者
債務者 債権者
A ← B
↖
C
債権者
一般債権者
ところで、この質権って、抵当権に似てますよね。抵当権の場合は担保目的物とするのが不動産ですが、優先弁済などの仕組みは抵当権とそっくりです。
そして、抵当権と似ているのはある意味当然なんです。なぜなら、質権も抵当権と同じ約定担保物権の一種だからです。
約定担保物権とは、当事者の契約で発生する担保物権です。つまり、債権者と債務者等の契約で質権が設定されるということです。
さらに質権は、債務者以外の第三者が設定することも可能です。つまり、物上保証も可能という事です。
この点も抵当権と共通するところです。
さて、このように多くの点で抵当権と共通するところの多い質権ですが、担保目的物が不動産か動産かの違い以外に、抵当権とは大きく異なる点があります。
それは、担保目的物を債権者が占有することです。
この債権者の「占有を伴う」という質権の性質は、その成立の範囲を広げることにも繋がっています。
どういうことかというと、抵当権の場合は債権者の占有を伴わないので、登記のできる不動産や地上権・永小作権等にしか成立しません。債権や動産には成立しないんです。しかし、質権は動産や債権についても成立しますし不動産でも成立します。もちろん無制限という訳ではなく「質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない」(民法343条)という規制はありますが、むしろその規制しかないと言った方がいいでしょう。
ということで、質権には「動産質」「権利質(債権質)」「不動産質」の3つの種類があります。
それではここからは、それぞれ3つの質権ごとに、試験等で問われやすい点を軸に、わかりやすく事例と共に解説して参ります。
動産質

まずは事例をご覧ください。
事例1
AはBから融資を受けた。その際、担保としてジュエリーを占有改定により引き渡した。
さて、この事例で、質権は成立するでしょうか?
ここでの問題は、占有改定による引渡しで質権は成立するのか?ということです。
占有権は物の引渡しにより移転します。これが基本です。
しかし、占有改定は、占有者が「今後は〇〇さんのためにこの物を所持する」と意思表示することで占有権が移転するものです。なので占有改定による引渡しの場合、現実には物が引き渡されてはいないのです。
つまり、事例1では、AはBから融資を受けるための担保としてジュエリーを占有改定により引き渡していますが、ジュエリーはAの手元に残ったままなので、現実にはAが占有している状態です。
ということで、改めて、この事例1で質権は成立するでしょうか?
結論。事例1では質権は成立しません。
これについて、民法では次のように規定されています。
(質権設定者による代理占有の禁止)
民法345条
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
この民法345条を事例1にあてはめると、質権者はBです。質権設定者はAです。質物は担保目的物のことで、事例1でのジュエリーです。
占有改定では、現実にはAの手元にジュエリーが残ったままです。つまり、質権設定者が質物を占有している状態になっちゃっているんです。それは、上記民法345条の規定に違反してしまうという訳です。
そもそも、質権の本質は、質権設定者(主に債務者)から質物の占有を移すことにより「もしこの債務の弁済ができなかったら質物が売っ払われる!」と、心理的に債務の弁済を促すことにあります。
なので、占有改定ではその意味をなさなくなってしまうんです。
なお、「現実の引渡し」以外にも「簡易の引渡し」「指図による占有移転」の場合は、質権は成立します。
この点はご注意ください。
【補足】
ここまでの説明のように、質権は占有を内容とするので、基本的に1つの目的物に1つしか成立しません。
当たり前ですが、1つの物を2か所の質屋に持っていけないですよね。
しかし、実は例外的に、1つの物に複数の質権が成立する場合があります。
それは、指図による占有移転により質権を設定する場合です。
指図による占有移転は、倉庫業者等に預けている物を〇〇さんの承諾の上で、倉庫業者に対し「以後〇〇さんのために占有しろ」と命じることでその占有が移転するものです。
例えば、事例1のA・Bが、倉庫業者を利用してこの「指図による占有移転」で質権が成立していた場合、別の新たな質権者Cのためにそのジュエリーの占有を命じることも可能です。すると、1つのジュエリーという質物(目的物)について、2つの質権が存在することになります。
倉庫業者
ジュエリー(質物)
/ \
質権設定者 質権者
債務者 債権者
A ← B
↖
C
債権者
質権者
この場合、先に質権設定を受けたBが、先順位質権者となります。その結果、ジュエリー(質物)について、BはCよりも優先的に弁済を受け、Cは一般債権者より優先的に弁済を受けることになります。
この仕組み・性質も抵当権と似ていますね。
質物の返還請求と対抗要件と占有の回復
まずは、こちらの事例をご覧ください。
事例2
AはBに融資を受けるため、担保として高級時計を現実に引き渡し、質権を設定した。その後、その時計が故障したので修理のため、BはAに時計を返還した。
さて、この事例2で、BはAに対し質物(高級時計)の返還請求ができるでしょうか?
ここでのポイントは、「質権設定のために質権者(B)に引き渡された質物(高級時計)が、修理のためとはいえ一度、質権設定者(A)に返還されると、その質権は消滅するのか?」です。なぜなら、質権の本質は質権者による質物の占有にあるからです。
結論。この場合は質権は消滅しません。
したがいまして、、質権者Bは質権設定者Aに対し質物(高級時計)の返還請求ができます。
これは判例により、このような結論となっております。
この事例2のようなケースで、時には質物の修理が質権設定者がやらないと難しいような場合もあるでしょう。そんな場合でも、一律に質権が消滅するとなると、それは質権者にとっても酷な事だと考えられます。
なお、このケースでの、質権者Bから質権設定者Aに対する質物の返還請求は、質権という物権に基づく返還請求となります(物権的返還請求権)。そして、優先弁済権も維持されたまま失われません。
続いては、こちらの事例をご覧ください。
事例3
AはBに融資を受けるため、担保として高級時計を現実に引き渡し、質権を設定した。その後、Bは高級時計を遺失し、Cがこれを取得した。
今度は、第三者Cが現れ、質権者Bが遺失してしまった質物の高級時計を取得してしまいました。
さて、ではこの事例3で、BはCに対し時計の返還請求ができるでしょうか?
まず、この事例3のケースでも事例2と同様に、質権そのものは消滅しません。
ということは、質権(本権)に基づいて返還請求できそうですが...。
民法には次の規定があります。
(動産質の対抗要件)
民法352条
動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって第三者に対抗することができない。
上記、民法352条により、なんと質権は、その占有を失ってしまうと、第三者への対抗力(法律の保護の下に主張する力)を失ってしまいます。
したがって、事例3での質権は、すでに第三者Cへの対抗力を失った脆い状態になってしまっているのです。
以上、結論。BはCに対し時計の返還請求はできません。
Bにしてみれば不本意な結果でしょうが、何より質物を遺失してしまったB自身に問題アリとも言えます。
なお、もし第三者Cが高級時計(質物)を所有者A(質権設定者)に返還した場合、質権者Bから(質権設定契約の当事者である)Aに対してその質物の返還請求をすることは可能です。
続いて、次のようなケースではどうなるでしょ?
事例4
AはBに融資を受けるため、担保として高級時計を現実に引き渡し、質権を設定した。その後、CはBからその高級時計を盗んだ。
なんだか事例がどんどん不穏な空気を帯びてきましたね(笑)。
今度の第三者Cは、窃盗行為により高級時計を手に入れています。
さて、ではこの事例4では、BはCに対し時計の返還請求ができるでしょうか?
なんとこのケースでも、占有を失ってしまった質権者Bの質権の第三者Cへの対抗力は失われてしまっています。第三者Cが盗っ人でもです。
したがいまして、BはCに対し時計の返還請求はできません。
これじゃいくらなんでもBが気の毒すぎるんじゃ...
ですよね。でも大丈夫です。Bにはまだ手立てが残されているんです。
その根拠となる民法の条文がこちらです。
(質物の占有の回復)
民法353条
動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる。
この民法353条を根拠とするその手立てとはズバリ、占有回収の訴えです。(民法200条)
すなわち、占有を奪われてから(高級時計を盗まれてから)1年以内であれば、質権者Bは盗っ人第三者Cに対し占有回収の訴えを提起できるのです。
あれ?じゃあ事例3でも占有回収の訴えはできないの?
それはできません。なぜなら、事例3の場合、第三者Cは質物を奪った訳ではないからです。
この民法353条に基づいた手段は、あくまで質物が奪われた場合の規定です。この点はご注意ください。
【補足】
即時取得できる権利といえば所有権を思い浮かべますが、実は質権も即時取得することができます。
例えば、Aの所有物をBが占有していて、占有者Bが所有者Aに無断でそれをCに質入れした場合、Cが善意・無過失であれば、Cは質権を取得し得ます。
そうなれば、Cは被担保債権(質権の元となっている債権)の弁済を受けるまで、その質物を占有を継続できるのはもちろん、弁済がなければ競売も可能です。
不動産質

質権は、不動産に設定することもできます。
そして、不動産質でも、質権としての本質は変わりません。
融資を受ける側の質権設定者は質物である不動産を占有せず、質権者がその不動産を占有して使用収益することになります。
また、不動産質は次のような点で動産質とは異なります。
・不動産質では、質権者が不動産の管理の費用や税などを負担する(民法357条)
・不動産質では、質権者は利息の請求ができない(民法358条)
上記の2点は、質権者は不動産を使用収益できるので管理費を支払う事は当然だし、使用収益という経済上の利益があるんだから利息の請求も必要ないんじゃね?という趣旨の規定です。
以上のように、不動産質における、質権者の「不動産の使用収益」「管理費用の負担」「利息請求の不可」という3点は、不動産質の基本形です。
ただし、これら3点は、いずれも特約により排除することができます。(民法359条)
したがって、質権の設定契約の中の特約でこれら3点を排除してしまえば、融資を受ける側の質権設定者が目的不動産(質物)を占有して使用収益し、管理費を払い、質権者からの利息請求ができる、という形での質権の設定も可能です。そしてこの特約は、いずれも登記事項です。
こうなってくると、その不動産質は、ほぼほぼ抵当権と違わない姿となります。
なら世の中もっと抵当権じゃなく不動産質が利用されてもいいんじゃね?
ところがそうはならない理由があるんです。それは、不動産質には金貸しから見て致命的な欠点があるからです。その致命的な欠点とは「存続期間が10年に限られてしまう」ことです(民法360条)。
つまり、不動産質の場合、10年経つと質権が消滅して、被担保債権(質権の元となっている債権)は担保のないただの債権(優先弁済権のない一般債権)となってしまうのです。
存続期間の更新はできないの?
それも可能ですが、それには質権設定者が更新に応じてもらうことが必要になります。
したがまして、金貸しからするとハナッから期間制限のない抵当権を設定した方がずっと安心という訳です。
不動産の返還請求と対抗要件
それでは、ここからは事例とともにさらに不動産質を掘り下げて解説して参ります。
事例5
AはBから融資を受けるため、所有する建物を担保にして質権を設定し、その旨の登記をして引き渡した。
さて、ではこの事例5で、AがBに対して占有改定による引渡しをしていた場合、質権は成立するでしょうか?
これについては動産質の場合と結論は何ら変わりません。たとえ「登記」をしていようともです。
よって結論。AがBに対して占有改定による引渡しをしていた場合は、質権は成立しません。
不動産質も動産質と同様、「現実の引渡し」「簡易の引渡し」「指図による占有移転」のいずれかの方法で質権が成立します。これらの方法による引渡しが行われないと、たとえ質権設定の「登記」されていようと、それは無効な登記となります。
【補足】
Bが目的物(建物)をAに返還した場合
もし事例5で、引渡し後に質権者Bが目的物(建物)を質権設定者Aに返還しても、質権は消滅しません。
この点も動産質と一緒です。なのでその場合は、質権者Bは質権設定者Aに対しに目的物(建物)の返還請求ができます。
また、動産質ですとこのような場合、(質権そのものは消滅しないものの)その質権は第三者への対抗力を失ってしまいますが、登記された不動産質であれば、たとえ占有を失っても第三者への対抗力を失いません。
この点は動産質と違うところです。つまり、不動産質は目的物(質物)が不動産なので、その対抗力もあくまで不動産物権の原則に従って「登記」という訳です。
質物の賃貸
続いては、質物の賃貸についてです。
事例6
AはBから融資を受けるため、所有する建物を担保にして質権を設定し、その旨の登記をして引き渡した。その後、Bはその建物をCに賃貸した。
さて、ではこの事例6で、BはCから家賃を受けって良いのでしょうか?
結論。BはCから何の問題もなく家賃を受け取れます。
不動産質に場合は、質権者には目的物(質物である不動産)の使用収益権があります。
なので、質権者Bが第三者Cに建物を賃貸して家賃収入をあげることに法律的な問題は何もないのです。質権設定者Aの承諾も必要ありません。
【補足】
動産質の場合
質物が高級時計で、それを第三者に賃貸するのは問題ないのでしょうか?
実はこの場合は問題があります。そもそも動産質の場合は、質権者には質物について善良な管理者の注意義務(善管注意義務)が要求されます。
もし、質物の高級時計を第三者に貸して傷でもつけらてしまったらどうするのか?逆に不動産質の場合、建物なんかはむしろ人が住むなり使ってくれた方が手入れもされて状態も維持されやすいです。一方、時計はどう考えても使われた方が消耗されてしまいますし、質権設定者も勝手に使われたくはないでしょう。
そこで民法は、動産の場合、質物を賃貸するには設定者の承諾が必要との規定をおきました。この規定に違反した場合、質権設定者は質権の消滅を請求することができます。
債権質

債権質は、厳密に言えば権利質の一種なのですが、ここでは債権質についてのみ解説します。
債権質とは、債権を質物とする債権です。
まずは、こちらの事例をご覧ください。
事例7
AはBに対してB金銭債権を持っている。その弁済期は6か月後である。今すぐにでもお金が必要となったAは、この債権に質権を設定してCからお金を借り入れた。
これはどういう事例かといいますと、AのBに対する「金払え」という債権を質物にして、AがCから借り入れをした、という話です。
質権設定者はA、質権者はC、質物はAからBへの債権です。
質権設定者 融資 質権者
A ← C
債権↓質物
B
第三債務者
それでは、この事例7では、3つの問題について、それぞれ解説して参ります。
1・AはBに承諾なしに、この質権の設定契約ができるのか?
質権の設定契約はAC間で行われますが、その際、Bの承諾は必要ありません。
もともと債権というものは(すべての債権という訳ではないが)自由に譲渡することができます。なので、担保に供することも自由です。したがって、債権を質物にするのも自由という訳です。
2・上記1が可能であれば、Bにその旨の通知は必要か?
前述のように、AはBの承諾なしに自由にその債権を担保にして質権の設定契約ができます。
なので、AC間の質権設定契約にはBの関与はありません。
ということは、Bは質権が設定されたことは当然には知りません。しかし、Bがそれを知らないままで良いものなのか...。
そこで民法は、債権譲渡についての対抗要件を規定した民法467条を、債権質の場合にも準用することとしました。(民法364条)
したがいまして、質権設定者Aからの通知または第三債務者Bの承諾がなければ、質権者Cは、その質権の取得をもって、Bに対抗することはできません。
対抗することができないということは、Bが(質物になった債権についての)債務の支払いをAにした場合、質権者Cは「その債権は私が質物にしているものだ。だからその支払いは私が受けるべきものだ!」と主張することができない、ということです。
逆に、通知または承諾があったにもかかわらず第三債務者Bが質権設定者Aに支払いをした場合、Bはその支払いを質権者Cに対応できず、質権者CはBに対して「その支払いは私が受けるべきものだ!」と主張することができます。
そして、この場合は、第三債務者Bの質権設定者Aへの支払いは不当利得となりますので、Bは質権者Cに二重払いをしてCへの責任を果たした上で、Aへの支払い分については、Aに対しに不当利得返還請求をする、という方法で何とかすることになります。
3・弁済期到来後、CはBに対し直接の取り立てができるか?
質権設定者 融資 質権者
A ← C
債権↓質物
B
第三債務者
「A→Bの債権」と「C→Aの債権」の両債権の弁済期が到来すれば、質権者Cは直接、第三債務者Bに対して支払いを請求することができます。
「C→Aの債権」の弁済期が先の場合、質権者Cは「A→Bの債権」の弁済期が来れば直接、第三債務者Bに対して支払い請求をすることができます。(「A→Bの債権」弁済期まではBには支払い義務がない)。
ですが、「A→Bの債権」の弁済期が先の場合に、その弁済期が到来したからといって質権者Cは直接、第三債務者Bに対して支払い請求することはできません。「C→Aの債権」の弁済期が来てない以上、質権者Cの権利は現実化していないからです。あくまで両債権の弁済期が到来して初めて、質権者Cから直接、第三債務者Bに対しての支払い請求が可能となります。
ただし、「A→Bの債権」の弁済期が先の場合に、「A→Bの債権」弁済期に質権者Cが第三債務者に対して、BがAに支払う弁済金を供託するように請求することは可能です(供託とは簡単に言うと法務局に預けること)。つまり「その弁済金を法務局に預けろ」と請求できるということです。
そして、質権者Cは「C→Aの債権」の弁済期が来たら供託金の還付を受けられる、という訳です。
【補足】
譲り渡すには証書の交付を要する債権の場合、その証書を交付することによって、質権設定の効力が生じます。(民法363条)
オマケ:転質
最後に、質権について簡単に解説しておきます。
抵当権の場合、その抵当権を担保にしてさらに抵当権を設定することができる「転抵当」があります。
質権でも、質物をさらに質入れする転質があります。
そして質権には、原質権設定者の承諾のある承諾転質、原質権設定者の承諾の無い責任転質があります。
承諾転質の場合、原質権者は原質権設定者に対して転質をしたことによって生じた損害について「過失責任」を負うにとどまります。
しかし、責任転質の場合、原質権者は原質権設定者に対して転質をしたことによって生じた損害について「不可抗力によるものであっても」その責任を負います。
この違いは当然と言えば当然ですよね。責任転質の場合、原質権設定者の関与なく、いわば原質権者は勝手に転質している訳ですから、その責任が厳しいものとなってしまうのは当たり前です。
【補足】原質権と転質権の弁済期と債権額の問題
民法348条では、原質権の存続期間の範囲内において転質をすることができると規定しています。
ただこれは、厳密な意味での成立要件を定めたものではなく、転質権の被担保債権の弁済期が原質権の被担保債権の弁済期より後でも、有効に成立すると解釈されます。
また、転質権の被担保債権額が原質権の被担保債権額を上回る場合でも、責任転質は成立します。上回る部分は無担保の債権になるだけと考えればいいからです。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。