【注文者の責任】土地工作物の占有者&所有者の責任~占有者が責任を免れたら誰が責任を負うのか

▼この記事でわかること
注文者の責任の基本
土地の工作物の占有者・所有者の責任
占有者が責任を免れたら誰が責任を負うのか
求償という仕組みは被害者を救済しやすくしている
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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注文者の責任

 まずは事例からご覧ください。

事例1
Aは工務店のBと一軒家の新築請負の契約を締結した。そして、Bはその一軒家の新築工事中の事故で通行人のCに損害を与えた。


 これは注文者の責任」の事例です。
 さて、ではこの事例1で、注文者Aは、工務店Bが通行人Cに与えた損害の責任を負うのでしょうか?
 結論。注文者Aは、工務店Bが通行人Cに与えた損害の責任を負いません。第三者Cに与えた損害の責任を負うのは工務店Bになります。
 ただし、注文者Aが責任を負うような場合もあります。
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(注文者の責任)
民法716条
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。


 この民法716条が、注文者の責任に関する民法の規定になりますが、ただし書き以降の後半部分に、注文者が責任を負う場合についての規定があります。
 では、どのような場合に注文者が責任を負うのでしょうか?
 事例とともに見て参ります。

事例2
Aは工務店のBと一軒家の新築請負の契約を締結した。そして、Bはその一軒家の新築工事中の事故で通行人のCに損害を与えた。なお、Bの工事はAの指図によるものだった。


 このような場合は、注文者のAも責任を負ってしまいます。なぜなら、事故が起きた工事は注文者Aの指図によるものだからです。
 つまり、指図をした注文者Aに過失があり、それが事故の原因と考えられるからです。
 また、次のようなケースもあります。

事例3
Aは工務店のBと一軒家の新築請負の契約を締結した。そして、Bはその一軒家の新築工事中の事故で通行人のCに損害を与えた。なお、事故はAの注文した材料が原因となって起きたものだった。


 このような場合も、注文者Aは責任を負ってしまいます。
 なぜなら、事故の原因となった材料を注文したのがAだからです。つまり、注文者Aの過失により事故が起こったと考えられるからです。

 以上が、注文者の責任について解説になります。
 基本的には、注文者は責任を負いません。しかし、場合によっては注文者が責任を負う場合があります。
 ざっくりイメージとしては「注文者が依頼した工事について、注文者自身がやたらにしゃしゃり出ると、注文者が工事の責任を負うことになる」といった感じです。ですので、皆さんも工事を依頼する際はお気をつけください(笑)。
 素人のクセに、中途半端な知識でやたらと余計にしゃしゃり出る人っていますよね。そういう人は、その分痛い目を見ることがあるってことです。

土地の工作物の占有者・所有者の責任
崩れる
 続いては、土地工作物責任についての解説になります。

事例4
Aは工務店のBと家屋の請負契約を締結し家を建てた。その後、Aは自己所有のその家をCに賃貸した。そしてある日、その家の外壁が崩れ通行人のDが怪我を負った。なお、外壁が崩れた原因は工務店Bの工事の仕方によるものだった。


 登場人物が多くてややこしく感じるかもしれませんが、この事例4こそ「土地の工作物の占有者・所有者の責任=土地工作物責任」の典型的なケースになります。
 さて、この事例4で、通行人Dが被った損害の責任を負うのは誰でしょう?
 結論。その第一次的責任はCが負います。
 マジで?
 マジです。なぜなら、Cは原因となった外壁の家の占有者だからです。
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
民法717条
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。


 上記、民法717条の「工作物」というのは、事例4にあてはめると、Cが賃借している家(の外壁)になります。
 よって、通行人Dの損害の原因となった工作物の占有者のCは、第一次的に責任を負うことになるのです。
 ただし!占有者Cは責任を免れる方法があります。それが、上記の条文のただし書き以降に記されている「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない」になります。
 占有者は、土地の工作物(建物など)により他人に与えた損害の賠償責任を負います。しかし、占有者がその損害の発生を防止するために必要な注意をしていれば、占有者は責任を負いません。
 事例4に当てはめると、占有者Cは、外壁が崩れるのを何らかの方法で防ごうしていれば、通行人Dの損害を賠償する責任を免れます。逆に、外壁にヒビが入っているのにほったらかしていたような場合は、占有者Cは責任を免れることができません。

占有者が責任を免れたら誰が責任を負うのか

 占有者Cが責任を免れたとき、次に責任を負うのは(第二次的責任は)家の所有者のAです。
 この所有者の責任は、なんと無過失責任です。
 よって、占有者Cが責任を免れたときは、問題の外壁の家の所有者であるAは過失があろうがなかろうが、もはや責任を免れることができません。
 あれ?でも、そもそも外壁が崩れたのは工務店Bが悪いんじゃね?
 そうなんです。ですが、事故の原因となった土地の工作物の所有者Aは、無過失責任を負いますので、通行人Dへの損害賠償からは逃れることはできません。しかし、これだと所有者Aが工務店Bのミスを肩代わりしたような形ですよね?
 よって、所有者Aは通行人Dへ損害を賠償した後、工務店Bに対し求償することができます。(こちらの求償の仕組みは使用者の求償権と似ています)
 つまり、所有者Aは工務店Bに対し「Dが被った損害は無過失責任により所有者のオレが賠償した。だがそもそもの事故の原因は工務店Bの工事のミスによるものだ。だから肩代わりした損害をオレに賠償しやがれ!」と主張できるということです。

 なお、占有者Cが損害を防止するために必要な注意を怠っていた場合に、Cが通行人Dへ損害賠償をしたときは、占有者Cは工務店Bへ求償権を行使できます。
 また、占有者Cが損害の防止に必要な注意をしていた場合に、工務店Bにも過失がなかったときは、所有者Aは無過失責任によりDへの損害賠償を免れられないのはもとより、工務店Bへ求償することもできません。
 占有者Cにせよ所有者Aにせよ、工務店Bへの求償ができる場合とは、あくまで工務店Bの過失が損害の原因だったときです。
 この点はご注意ください。

求償という仕組みは被害者を救済しやすくしている
女性講師
 土地の工作物の占有者・所有者の責任においては、まず占有者が第一次的に責任を負い、第二次的責任で所有者が無過失責任を負います。
 そして、損害の原因がさらに別の者にある場合は、その者に対し、損害を賠償した者は求償することができます。
 ところで、この仕組み、ややこしいですよね。そもそも、事例4でも、通行人Dがいきなり工務店Bに損害賠償を請求すればいいんじゃね!?と思われる方もいらっしゃるかと思います。そして実際、それも可能です。
 しかし、それをするためには、Dが工務店Bの過失を立証しなければならなくなります。(通常の不法行為責任の追及)
 これは専門家でもないかぎり、実際にはかなり難しいことだというのは、現実的に考えればわかると思います。仮に立証できたとしても、それだけで相当な手間とお金もかかってしまうでしょう。それは被害者にとってはあまりに酷です。
 というようなことから「土地の工作物の占有者・所有者の責任」は、ご解説申し上げたような仕組みになっているということです。
 したがいまして、この「土地の工作物の占有者・所有者の責任」の仕組みは、使用者責任と同様に「被害者が救済されやすくなっている」という事を意識すれば、より理解がしやすくなるのではないかと存じます。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【囲繞地通行権】無償ではない?負担するのは誰か/通行地役権と併存するのか/分筆によって袋地が生じた場合について

▼この記事でわかること
囲繞地通行権の超基本
囲繞地通行権は無償ではない
通行地役権と併存するのか
分筆によって袋地が生じた場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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囲繞地通行権

 通行地役権と似て非なるものに、囲繞地通行権というものがあります。(地役権についての詳しい解説は「【地役権】その性質とは」をご覧ください)
「囲繞地」という言葉自体が見慣れない聞き慣れないものだと思いますが、読み方は「いにょうち」です。
 囲繞地とは、他の土地に周りを完全に囲まれている土地のことです。
囲繞地
 上図のAのような土地が囲繞地です。
 Aのような土地に住んでいる者は、公道に出るためには周りの土地のどれかを通らざるを得ません。
 そこで、そのような者のために、法律の定めにより通行する権利を規定しました。それが囲繞地通行権です。
 民法の規定はこちらです。

(公道に至るための他の土地の通行権)
民法210条
他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。


 この民法210条により規定された権利=囲繞地通行権は、法律の定めにより生じるものです。
 そして「法律の定めにより生じる」というところが、通行地役権との大きな違いになります。
 通行地役権は、あくまで当事者同士の契約により設定され、その上で適用されます。
 しかし、囲繞地通行権は、法律の定めにより問答無用に適用されます。つまり、契約で定めていなくとも問答無用で適用されるということです。
 なんで囲繞地通行権だけそうなってるの?
 それは、もし囲繞地を取り囲んでいる土地の所有者が通行を認めなかった場合に、囲繞地は完全に使えない土地になってしまうからです。そうなってしまうと、囲繞地の所有者が困ってしまうのはもちろん、それは社会的な経済的損失にもなります。それは国家としても望ましくありません。
 したがって、囲繞地に関しては「土地から出らんないとなるとどうにもならん。せめて公道に出られるように、そこは周りのみんなで協力してやろうや」ということを国家のルールとして定めた、ということです。
 なお、囲繞地通行権は登記できません。なので、登記する必要すらありません。
 囲繞地通行権は、法律の定めにより当然に発生する権利です。
 したがいまして、囲繞地の所有者は、その登記なく堂々と囲繞地通行権の主張ができます。

囲繞地通行権は無償ではない

 さて、ここまでの説明だと、囲繞地の所有者への保護ばかりが手厚くなっているように思えますよね。
 しかし、そんなことはありません。
 次の民法の条文をご覧ください。

民法212条
210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。


 この民法212条にある「210条の規定による通行権を有する者」とは、囲繞地通行権を有する囲繞地の所有者です。
 つまり、囲繞地の所有者は、通行のために利用する土地の所有者に対して、償金を支払わなければなりません。
 囲繞地の所有者が通行のために利用する土地の所有者に償金を支払わなければならないということは、通行のために利用される土地の所有者、つまり、囲繞地通行権の負担義務を負う者は、囲繞地の所有者に対して償金請求権を持つことになります。
 囲繞地通行権の行使はタダではないのです。
 したがって、囲繞地の所有者自身も「償金」という形で負担を負うことになる、ということです。
 なお、囲繞地通行権を有する者が支払う償金ですが、民法212条ただし書きの規定により、その支払いを1年ごとにすることもできます。つまり、1年に1回、1年分まとめて支払うことができる、ということです。
 ただし、通路を開設するために生じた損害があった場合、その損害についての支払いについては「1年に1回・1年分まとめて」という形での支払いはできません。

囲繞地通行権と通行地役権は併存するのか
囲繞地通行権と通常の地役権の設定契約

 囲繞地の所有者は、法律の定めにより囲繞地通行権を取得しますが、隣地の所有者と通常の通行地役権の設定契約をすることもできるのでしょうか?
囲繞地
 例えば、上図のA地は囲繞地ですが、この場合に、A地の所有者がC地に通行地役権を設定できるのか?という話です。
 結論。囲繞地の所有者は、隣地の所有者と通常の地役権の設定契約をすることもできます。
 したがいまして、A地の所有者はC地に通常の通行地役権を設定することができます。
 そして、囲繞地の所有者が通常の地役権の設定契約をすると、その後は、地役権の設定契約が適用され、囲繞地通行権は消滅します。つまり、A地の所有者がC地に通行地役権を設定すると、A地のための囲繞地通行権は消滅するのです。
 なんで囲繞地通行権が消滅してしまうの?
 囲繞地通行権は「囲繞地という名の袋地」の所有者のために、言ってみればやむを得ず規定したような権利です。したがって、通常の地役権の設定契約があれば、わざわざそのような囲繞地通行権を適用する必要はなくなるので、その場合は当然に消滅するのです。

囲繞地通行権の負担を誰が負うのか

 囲繞地を取り囲んでいる四方八方の土地のうち、どの土地が囲繞地通行権により通行利用される義務を負うのでしょうか?
 これについては、完全にケースバイケースです。なぜなら、そんなことは現地を見てみなければわからないからです。
 そんなことまで法律で一律に規定しまうと、むしろ不備が生じてしまいます。
 したがって、事案ごとに、個別的具体的に、合理的な結論を出していくことになります。

分筆によって袋地が生じた場合

事例
A地とC地は元々ひとつの甲土地であったが、分筆したことによりA地が袋地になった。※

分筆とは、ひとつの土地を複数の土地に分けること

 これは、ひとつの土地を分筆したことによって、その土地のひとつが袋地になってしまった、というケースです。
[分筆前]
囲繞地(分筆)
[分筆後]
囲繞地
 さて、この事例で、A地を取り囲む土地は、A地のために囲繞地通行権の負担を負わなければならなくなるのでしょうか?
 結論。A地を取り囲む土地は、A地のために囲繞地通行権の負担義務を負うことにはなりません。なぜなら、分筆しなければ袋地(A地)は存在しなかったからです。
 分筆によって袋地が生じた場合、それは分筆した者自身の責任になります。
 したがって、分筆によって生じた袋地を取り囲む土地は、囲繞地通行権の負担義務は生じません。
 ただし、分筆された土地同士であれば、囲繞地通行権の主張をすることができます。
 したがって、事例の場合、A地の囲繞地通行権を、C地に主張することはできます。しかし、その場合は、償金の支払い義務は生じません。
 ですので、A地の所有者はC地の所有者に対して償金を支払う義務はなく、C地の所有者はA地の所有者に対して償金請求権を持ちません。
 また、この場合に、AC間で地役権の設定契約をすれば、そのときは当然にその設定契約が適用され、囲繞地通行権は消滅します。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
関連記事

【地役権の時効取得と時効更新】取得時効の場合と消滅時効の場合/地役権の不可分性とは

▼この記事でわかること
地役権の時効取得
地役権の不可分性とは
地役権の時効更新~取得時効
消滅時効の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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地役権の時効取得

 地役権は、自分の土地(要役地)の便益のために他人の土地(承役地)を利用する権利です。
 このときの自分が地役権者、他人が地役権設定者となります。(地役権についての詳しい解説は「【地役権】その性質とは」をご覧ください)
 そして、地役権は時効取得をすることができます。(時効制度についての詳しい解説は「【取得時効】5つの成立要件」をご覧ください)。
 民法の条文はこちらです。

(地役権の時効取得)
民法283条
地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。


 上記、民法283条にあるように、地役権は「継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り」時効取得することができます。

「継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り」とは

 わかりやすく通行地役権で解説します。
 まず言葉のとおり解釈すると「地役権が継続的に行使され」とは「時効取得する者が継続的にその土地を通行のために利用している」ということです。ただ判例では、それに加えて「時効取得する者自ら通路を開設したこと」が必要だとしています。
 つまり、(通行)地役権を時効取得するためには、自分でその通路を作っていないといけないのです。
 ということは、隣地の所有者のご好意で通行を認めてもらっていたような場合は、時効取得できないのです。そのような場合まで、法律的にがっちり「地役権の時効取得!」と認めるのはあんまり良くないんじゃね?というのが裁判所の判断です。
 確かにそうですよね。そのような場合にまで地役権の時効取得ができてしまったら、それによってお隣さんとの関係にひびが入りかねませんから。

 さて、ここからは事例とともに、地役権の時効取得について、詳しく解説してきます。

事例1
AとBは甲土地を共有している。Aは隣地の乙土地に通路を開設し、通行地役権を時効取得した。なお、Aは甲土地上の自宅に住んでいるが、Bは甲土地には居住していない。


   AB共有      隣地
  [甲土地]     [乙土地]
Aのみ居住  通行地役権
B居住せず      ↑
        時効取得

 さて、この事例1で、甲土地の共有者のBも、通行地役権を時効取得できるでしょうか?
 結論。Bも通行地役権を時効取得できます。
 Bは甲土地に居住していないのに?
 地役権は、人ではなく、土地に付着します。ですので、Aが時効取得した通行地役権は、Aではなく甲土地に付着します。
 言い方を変えると、Aが時効取得した通行地役権は、甲土地に発生します。甲土地自体に権利が発生したのだから、甲土地の共有者の1人であるBにもその効果は当然に及びます。
 つまり、Bが甲土地に居住しているかしていないか関係ありません。
 したがって、Aが時効取得した通行地役権を、Bも当然に時効取得するということです。

地役権の不可分性

 地役権は土地自体に発生するものであり、他の共有者が時効取得した地役権は、他の共有者も当然に時効取得します。
 これを、地役権の不可分性と言います。不可分とは、分割することができないという意味です。
 また、地役権の不可分性は、共有者の時効取得以外のケースにも表れます。それは共有者の1人がその持分を放棄するケースです。
 どういうことかといいますと、AとBが甲土地を共有していて、甲土地が地役権の要役地だった場合に、Bがその持分を放棄しても、甲土地全体の地役権には何の影響もありません。なぜなら、地役権には不可分性があるからです。
 つまり、地役権は持分ごとに分割できないので、共有者の1人がその持分を放棄しても、放棄された持分の分だけ地役権が消滅することはないのです。共有者が1人でも持分を持ち続けている限り、土地全体の地役権は生き残ります。
 したがって、Bがその持分を放棄しても、Aが甲土地の持分を持っていれば、甲土地全体の地役権は残存するのです。

地役権の時効更新
時計と小槌
 地役権を時効取得できるということは、当然「地役権の時効の更新」もあります。

事例2
AとBは甲土地を共有している。隣地に住むCは、AとBに地役権を時効取得されそうになったので、Bに対して時効更新の手続きをとった。

   
 これが、地役権の時効更新のケースです。
 さて、この事例2で、CはBに対して地役権の時効更新の手続きをとりましたが、このとき、Aの地役権の取得時効は更新するのでしょうか?

甲土地   隣地
 A     C
 B    
  時効更新手続
Aの取得時効も更新する?

 まずは、民法の条文を見てみましょう。

民法284条2項
共有者に対する時効の更新は、地役権を行使する各共有者に対してしなければ、その効力を生じない。


 民法では上記のように規定しています。
 この条文で言っていることは「共有者に対する地役権の時効の更新は、各共有者、つまり共有者全員に対してしなければ効力を生じない」ということです。
 したがいまして、事例2のCは、時効更新の手続きをBに対してしかしていないので、その効力は生じません。すなわち、Aどころか、Bの地役権の取得時効すら更新しません。Bの地役権の取得時効を更新させたいのであれば、Cは、AB両者に対して時効更新の手続きをとらなければならないのです。
 このような結論は「地役権の不可分性」そして「地役権が人ではなく土地に付着する性質」から来るものです。
 その理屈はこうです。
「地役権は不可分な(分割できない)ものなので、各共有者の持分ごとに時効が更新したりしなかったりすることはない。そして地役権は土地に付着する土地自体に発生する権利なので、仮に持分ごとに時効が更新したとして、共有者の1人の持分だけ時効更新しても、他の共有者の持分の時効が進行すれば、その効力が土地全体に及ぶので、共有者の1人でも地役権を時効取得してしまえば、結局は土地全体の地役権を時効取得することになる。したがって、共有者の1人に対してだけ時効更新の手続きをしても意味がないのである」
 このようになります。

消滅時効の場合

 続いて、消滅時効のケースではどうなるのかも見てみましょう。

事例3
AとBは甲土地を共有し、隣地に通行地役権を設定している。しかし、その通行地役権が消滅時効にかかりそうになっているので、Bはその消滅時効を更新させた。


 さて、この事例3で、甲土地の共有者の1人であるBは、隣地の通行地役権の消滅時効を更新させましたが、その効果はAにも及ぶでしょうか?
 結論。その消滅時効の効果はAにも及びます。これも理屈は事例2のケースと一緒で「地役権は持分ごとに分割できない」という、地役権の不可分性から来るものです。
 したがって、共有者の1人が地役権の消滅時効を更新させれば、その効果は当然に他の共有者にも及びます。

補足:地役権の消滅時効の起算点

 民法では、地役権の消滅時効の起算点(数え始め)について、以下のように定めています。

・継続的でなく行使される地役権の場合
 (地役権の)最後の行使の時
→通行地役権であれば(継続的に通行していたわけではない承役地を)最後に通行した時、ということ。

・継続的に行使される地役権

 その行使を妨げる事実が生じた時から
→これはどういうことかといいますと、継続的に隣地を通行のために利用していたが(通行地役権)、災害などで、その通路の幅4メートルのうち、1メートルが閉塞してしまったような場合、その閉塞した部分だけ時効により地役権が消滅した、というようなケースで(こういうケースもありうるのだ!)、その部分が「閉塞した時」が消滅時効の起算点、ということです。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
関連記事

【地役権】その性質とは/地役権の登記と放棄/未登記でも対抗できる場合/永小作権とは

▼この記事でわかること
地役権とその性質
地役権の登記
登記のない地役権が対抗できる場合
永小作権
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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地役権とその性質

 土地を利用するための物権といえば、所有権です。
 ですが、それ以外にも、土地を利用するための物権を民法は規定しています。
 それは「地上権、永小作権、地役権、入会権」です。
 そして、これらの権利を用益権と言います。(宅建などの資格試験で出題される用益権のほとんどは地上権と地役権になります)
 ここでは、地役権永小作権ついて解説いたします。
 なお、地上権についての詳しい解説は「【借地権】賃借権と地上権の違い」をご覧ください。

地役権とは

 地役権とは、自分の土地を利用するために他人の土地を利用する権利です。
 このとき、自分の土地のことを要役地、他人の土地のことを承役地と言います。読み方は「ようえきち」「しょうえきち」です。
 この地役権は物権であり、登記をすることで、第三者への対抗力を持ちます。
 う~んなんか今ひとつよくわからん
 この説明だけだと分かりづらいですよね。
 もう少し具体的にご説明いたします。
 例えば、Aが自宅から公道に出るために、Bの土地を通る必要があるときに、AB間の契約で、Bの土地に通行地役権を設定します。
 つまり、AがBの土地を通行のために利用する権利が地役権です。
 そして、このときのAの土地要役地Bの土地承役地となります。
 また、要役地の者(Bの土地を利用するA)を地役権者、承役地の者(Aの通行のために土地を利用されるB)を地役権設定者と言います。

A→地役権者    B→地役権設定者
Aの土地→要役地  Bの土地(隣地)→承役地

 なお、地役権は通行地役権だけではありません。
 例えば、Aが眺めの良い別荘を建てていて、すぐ隣のB所有の土地に建築物が建ってしまうと、その別荘の眺望が損なわれて困ってしまうような場合、AはBの土地(承役地)に「高さ〇〇メートル以上の建物を建ててはいけない」という地役権を設定します。
 これを眺望地役権と言います。このような地役権も存在します。

地役権の性質

 地役権は、所有権などの他の物権とは違う性質があります。
 というのは、地役権は「人に付着した権利」というより土地に付着した権利」という性質が強いのです。
 土地に付着した権利という性質とは、例えば、A所有の甲土地とB所有の乙土地が隣地で、Aが甲土地にある自宅から公道に出るまでに乙土地を通行する必要があるとき、通行地役権を設定することができますが、これは「Aのため」ではなく、あくまで「甲土地の便益のため」です。
 ですので、Aが生物学者に憧れていて、昆虫採集をライフワークにしているからといっても、そのための地役権を乙土地に設定することはできません。なぜならそれは「Aのため」であって「甲土地の便益のため」ではないからです。
 また、地役権は、それのみを譲渡することはできません。なぜなら、地役権は土地に付着しているからです。
 したがって、Aが甲土地の地役権のみをCに譲渡することはできません。なぜなら、甲土地の地役権は、所有者であるAではなく、甲土地に付着しているからです。
 これも、地役権が土地に付着した権利という性質の所以です。

地役権の付従性

 地役権には付従性があります。
 付従性とは「付いて従っていく」という性質のことです。
 例えば、A所有の甲土地の所有権がCに移転すると、それにくっ付いて地役権もCに移転します。すると、Cは甲土地の所有者となるのと同時に(甲土地という要役地のための)地役権者にもなります。
小道
地役権の登記

 地役権は、その登記をすることにより対抗力を持ちます。
 地役権を対抗するときって?
 例えば、このような場合です。

事例
Aは、自己所有の甲土地上にある自宅から公道に出るために、隣地のB所有の乙土地を通る必要があり、B所有の乙土地に通行地役権を設定し、その旨の登記をした。その後、BはCに乙土地を譲渡しその旨の登記をした。


 このようなケースで、Aが乙土地(承役地)の譲受人Cに対して地役権を主張するような場合です。

  [地役権設定&登記]
  地役権者  地役権設定者
  A       B   
 甲土地       乙土地       
  (要役地)     (承役地) 

    [乙土地をCに譲渡]
  地役権者  地役権設定者
  A       C   
 甲土地       乙土地       
  (要役地)     (承役地) 

 このとき、Aは登記をしているからこそ、乙土地を堂々と通行することができます。
 たとえCから文句を言われても、Aは「地役権の登記がある!」と法的に正当な主張ができます。
 地役権の登記があるということは、Bから地役権の登記をされた乙土地を譲渡されたCは、地役権設定者という地位譲り受けることになるのです。
 したがって、Cは乙土地を、Aの通行のために利用される義務があるのです。逆に、地役権の登記がない場合、Aはこのような主張ができません。
 これが、地役権は登記をすることにより対抗力を持つ、ということの意味です。

登記のない地役権も対抗できる場合がある

 判例では、次の2つの要件を満たした場合においては、地役権者(事例でのA)は地役権の登記がなくとも、承役地の譲受人(事例でのC)にその地役権を対抗できるとしています。

1・譲渡のときに、承役地が要役地の所有者により継続的に通路として使用されていたことが客観的に明らかであること
→例えば、事例のA(地役権者)が、乙土地を通路として使用していることが客観的に見て明らかであること、という意味。

2・譲受人がそのことを認識していたがまたは認識することができたこと

→例えば、事例のCが、乙土地が甲土地の通行のために使用されていたことを認識していたか、少し調べれば認識できたであろう、という意味(善意・無過失とほぼ同義)。

 上記2点は、要するに「承役地の譲受人(事例のC )は、その土地に、客観的に見て明らかにわかるような地役権が付いていることぐらい自分で確認しとけ!」ということです。
 したがいまして、もし事例のAが地役権の登記をしていなかったとしても、上記2点の要件を満たした場合、Aはその地役権をCに対抗できます。Cは乙土地に地役権が付いていることぐらいちゃんと確認しとけ!ということです。

補足:地役権の放棄

 地役権設定者(通行などで利用される側)は、地役権の設定契約により、地役権行使のための工作物の設置やその修繕義務を負うことがあります。(その旨の登記が必要)
 つまり、通行地役権の場合、地役権設定者は、自分の土地を通行のために利用されるだけでなく、そのための設備を設置する義務を負うこともあるのです。
 これは地役権設定者にとっては中々酷なことですよね。そこで、民法287条では、承役地の所有者(利用される側の土地の所有者)が、いつでも、地役権に必要な土地の部分を放棄して地役権者(通行などで利用する側)に移転し、この義務を免れることができるとしています。
 これを地役権の放棄と言います。

永小作権
農業
 用益権のひとつに永小作権があります。
 まず、永小作権についての民法の条文はこちらです。

(永小作権の内容)
民法270条
永小作人は、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。


 永小作権とは、小作料を支払って、他人の土地で耕作・牧畜をする権利です。
 小作料は、永小作権の要素です。小作料が要素ということは、タダの永小作権を設定することはできないということです。
 この点は、地代をタダに設定できる地上権とは異なります。(地上権の場合、地代は要素ではない)
 また、永小作権は物権です。したがって、永小作人(永小作権を有する者)が、その権利を自由に譲渡・賃貸することができます。
 この点は地上権と一緒です。ただし、永小作権の場合、永小作権の設定契約の際、その権利の譲渡・賃貸を禁止する特約をし、その旨の登記をすることができます。これは地上権ではできないことです。

永小作権の存続期間

 永小作権には、存続期間の定めがあります。

【永小作権の存続期間】

 20年以上50年以下(民法278条1項)
→設定行為で50年を超える期間を定めても、その期間は50年になります。つまり、もし永小作権の存続期間60年という設定契約をしても、その期間は問答無用で50年となります。(民法278条1項)


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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カテゴリ別項目一覧

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【地役権】その性質とは/地役権の登記と放棄/未登記でも対抗できる場合/永小作権とは
【地役権の時効取得と時効更新】取得時効の場合と消滅時効の場合/地役権の不可分性とは
【囲繞地通行権】無償ではない?負担するのは誰か/通行地役権と併存するのか/分筆によって袋地が生じた場合について
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【制限行為能力の取消権者と取消しの効果】追認と法定追認/相手方の催告権/制限行為能力者の詐術

▼この記事でわかること
取消権者と取消しの効果
制限行為能力者の追認
法定追認について
相手方の催告権
制限行為能力者の詐術
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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制限行為能力者の取消権者と取消しの効果

 未成年者や成年被後見人などの制限行為能力者の契約等の法律行為には、法律による制限や保護があります。
 そのひとつに、制限行為能力者が単独で有効にできる法律行為を限定し、もし単独で行ってしまったとしても後から取り消すことができる、という制度があります。
 ところで、制限行為能力者が単独でした契約等の法律行為を取り消すことができるのは、一体誰なのでしょうか?
 それは民法120条により、次のように規定されています。

(取消権者)
民法120条
行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。


 上記、民法120条の規定により、制限行為能力者の法律行為を取り消せるのは「制限行為能力者・代理人・承継人・同意ができる者」となります。
 制限行為能力者というのは、制限行為能力者本人です。
 代理人というのは、未成年者であれば法定代理人(子供の親など)、成年被後見人であれば成年後見人になります。
 承継人というのは、もっともわかりやすいところだと、相続人がそうです。つまり、承継人が取り消す場合というのは、成年被後見人が法律行為を取り消す前に死亡し、相続人となった息子がその法律行為を取り消す、というようなことです。
 同意ができる者というのは、保佐人・補助人を指すと思っていただいて良いでしょう。つまり、被保佐人が単独でした法律行為を後に保佐人が取り消す、といったことです。

取消しの効果

 さて、制限行為能力者が単独でした法律行為を取り消せるのは誰なのかはわかりました。
 では、実際に取り消した後は一体どうなるのでしょうか?
 これについての民法の規定はこちらです。

(取消しの効果)
民法121条
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。


 上記、民法121条により、取消しの効果は遡及します。遡及というのは「さかのぼって及ぶ」ということです。
 つまり、取消しの効果は「さかのぼって無かったことになる」ということです。
 そして、遡って無かったことになると、後は原状回復という流れになります。(こちら「【不当利得】受益者が善意か悪意かで返還すべき利益が変わる?/現存利益の範囲とは」の解説も参考まで)

(原状回復の義務)
民法121条の2
3項 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。

 
制限行為能力者は取り消した事を取り消せるか

 なんだかややこしいですが、要するに、制限行為能力者が「この前の取消し、やっぱナシで!」と言えるか、ということです。
 結論は、取消しを取り消すことはできません。そもそも、取消しの取消しなんてことがまかり通ってしまったら、法的安定性が保たれず、世の中が混乱してしまいかねません。
 それに、取消しが取り消せなくても、おそらく損害が生じることはないでしょう。なぜなら、取り消すと初めから無かったことになり元に戻るだけなので、もし取り消さなければ何らかのプラスがあったとしても、取消しを取り消せなかったところで、ゼロに戻るだけでマイナスはないでしょう。
 したがって、取消しを取り消すことはできません。

制限行為能力者の追認
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 追認とは、後から追って認める、ということです。
 例えば、制限行為能力者(例えば子供や成年被後見人)が単独では有効にならない法律行為をした後、法律で規定された者(例えばその子供の親や成年後見人)が、その法律行為を後から「それOK」と追認することによって、制限行為能力者が単独で行ったその法律行為は有効になります。
 では、追認権を行使できるのは一体誰なのでしょうか?
 民法122条の条文を読むと「120条に規定する取消権者」が追認できる者、ということになりますが、ここでひとつ問題があります。
 というのは、もし取消権者=追認権者となると、例えば、子供が単独でした行為を、子供自身で追認することも可能になってしまいます。あるいは、痴呆になって成年被後見人となった老人が単独でした行為を、老人自身で追認することもできてしまいます。
 それってマズイですよね。

事例
お金持ちのお坊っちゃんの未成年者Aは、自己所有の高級ジュエリーをBに売り渡した。その後、Aはその行為(高級ジュエリーの売渡し)を追認した。


 この事例のようなケースで、仮に次のような文言が入った売買契約書をAB間で交わしていたらどうなるでしょう?

「売主Aはこの売買契約を追認する」

 もし「取消権者=追認権者」だから、未成年者自身も追認できるとなると、上記のような契約も可能になってしまいます。
 となると、法律による制限行為能力者の保護の意味がなくなってしまいますよね。
 この問題を民法はどう解決するのか?
 民法では、以下の条文で規定しています。

(追認の要件)
民法124条1項
取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。


 この民法124条1項が何を言っているのかといいますと「制限行為能力者が自分自身で追認するには制限行為能力者じゃなくなってからじゃないとダメ!」ということです。
 条文の「取消しの原因」というのが「制限行為能力者であること」にあたりますので、その状況が消滅した後というのは「制限行為能力者でなくなった後」ということになります。
 したがいまして、制限行為能力者が単独した行為を、制限行為能力者自身で追認することはできません。
 ですので、事例の未成年者Bが、高級ジュエリーの売渡し行為を自ら追認することはできません。もし、Aが自分自身で追認するには、A自身が成年になってからでないとできません。
 なお、未成年者Aの法定代理人が追認することは当然できます。
 多くの場合、未成年者の法定代理人は親権者(通常は親)なので、Aの親が、AからBへの高級ジュエリーの売渡し行為を追認すれば、それは当然に有効になります。念のため申し上げておきます。

成年被後見人の追認の場合

 未成年者の場合は、自らが成年になってからでないと自分自身で追認できないように、成年被後見人は行為能力者となってから、つまり、自らが成年被後見人でなくなって自らの行為を認識してからでないと自分自身で追認できません。
 なお、これは被保佐人・被補助人も同様になります。

【補足」
 民法124条1項の規定は「詐欺・強迫」についても適用があります。
 つまり、騙されたり脅されたりした被害者が、騙されたことに気づいたり脅された状態から脱した後であれば、被害者自身で、詐欺・強迫によってした法律行為を追認できるということです。
 ちょっと細かい話ですが、一応、頭の片隅に入れておいていただければと存じます。
 なお、これは誰がする場合に限らずですが、一度追認した行為は、もはや取り消すことはできません。
 追認取消しも、できるのは一度までです。そうでないと、法的安定性が損なわれてしまうからです。
 この点もご注意ください。

法定追認について
女性講師
 通常の追認は、追認権を持つ者が「その法律行為を追認します」と追認することにより行います。
 しかし、それ以外にも追認する方法があります。
 それが法定追認です。
 法定追認とは、追認権者が追認の意思表示をしなくとも、ある一定の行為を行った場合は、法律上当然に追認したとみなされる、というものです。
 つまり、追認権を持っている人が「追認します」と言わなくても、ある一定の行為を行ってしまった場合は、法律が勝手に「おまえのとった行動は追認したのと一緒だ!」として、法律上の追認として扱われてしまうということです。
 そして、その「法律上追認したとみなされてしまう行為」が、民法125条により規定されています。
 それは以下になります。

【法定追認される行為】民法125条抜粋
1 全部又は一部の履行
2 履行の請求
3 更改
4 担保の供与
5 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
6 強制執行(自らが強制執行をする場合のみ)

 これだけだと今ひとつよくわかりませんよね。
 次の事例をもとに、ひとつひとつ解説して参ります。

事例
相続により甲土地を取得した未成年者Aは、単独で甲土地をBに売却した。


1・全部又は一部の履行
 この事例で、制限行為能力者である未成年者Aが単独で行った甲土地の売買契約は、有効に成立していません。
 では、Aが成年となってから、すなわち行為能力者となってから、追認も取消しもしないまま甲土地をBに引き渡したとしましょう。あるいはBから、代金の全額または一部の支払いを受けたとしましょう。するとAは、甲土地の売買契約を追認したとみなされます。たとえ追認する気がなかったとしてもです。
 これが法定追認の効果です。

2・履行の請求
 この事例で、Aが成年(行為能力者)となってから、追認も取消しもしないままBに対して「甲土地の売買代金を払ってくれ」と請求すると、その時点で、Aは甲土地の売買契約を追認したとみなされます。

3・更改
 更改に関しては、初学者の方はすっ飛ばしてもかまいません。ですので、ざっくり申し上げておきます。
 事例で、Aが一定の年齢に達し成年(行為能力者)となってから、追認も取消しもしないまま甲土地の売買契約を乙土地の売買契約に変えた、というようなケースです。この場合も、Aは追認したとみなされます。

4・担保の供与
 担保というものについての詳細はここでは割愛しますが、法定追認においての担保の供与についての簡単な説明は、事例のAが成年(行為能力者)となってから、追認も取消しもしないまま、Bからお金の代わりに何らかの物を受け取ったような場合です。そのような場合も、Aは追認したとみなされます。
 これだけだとピンと来ないと思いますが、とりあえず、このような規定もあるということだけ、何となく覚えておいてください。そして後々、担保物権等を学習してから思い出していただければと存じます。

5・取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
 これは、事例のAが成年(行為能力者)となってから、追認も取消しもしないままBに対して「甲土地の売買代金はCに払ってくれ」と言って、甲土地の売買代金を受け取る権利(債権)を他人に譲り渡すとその時点でAは追認したとみなされます。
 ちなみに、このようなAの行為を債権譲渡と言います。(債権譲渡の基本についての詳しい解説は「【債権譲渡の超基本】債権は譲れる?」をご覧ください)
 要するに、債権譲渡にも追認効果があるということです。

6・強制執行(自ら強制執行する場合のみ)
 強制執行についてを今ここで詳しく説明しようとすると、内容がテンコ盛りになり過ぎて逆に訳がわからなくなってしまいますので、超ざっくり申します。
 事例でAが成年(行為能力者)となってから、追認も取消しもしていない状況で、裁判所の力を使って問答無用でBにお金を払わせることです。超ざっくりで申し訳ございません(笑)。
 とりあえず、そのような場合もAは追認したとみなされる、ということを頭に入れておいてください。(強制執行の基本についての詳しい解説は「【差押え&強制執行&破産の超基本】借金で考える債権の世界」をご覧ください)

【補足】
 追認は、追認権者が取消権を有することを知らずにした場合はその効果を生じません。
 追認は、取消権を持っている事を知った上で行うものです。

相手方の催告権

 制限行為能力者が、単独では有効にできない法律行為を単独でした場合、その法律行為の相手方は、取り消されるか追認されるかされるまでは、言ってみれば宙ぶらりんの状態です。

事例
被保佐人のAは、単独で自己所有の甲土地をBに売却した。

※被保佐人は民法13条の規定により、単独で有効に不動産の売買契約を結ぶことはできません。

 この事例の場合、売主側の追認がない限り、買主のBは甲土地を手に入れることができません。その上、取り消されない限りは追認の場合の支払い債務も考えて、代金の準備を欠かすわけにもいきません。
 これは買主Bとしては、非常に厄介な状況ですよね。気の毒とも言えます。
 そこで民法は、このような宙ぶらりんの状態にされた制限行為能力者の相手方に、催告権という救いの手を差し伸べています。

催告権とは

 宙ぶらりんにされた制限行為能力者の相手方は、制限行為能力者側に対し1ヶ月以上の期間を定めて「追認するのか取り消すのか、どっちかハッキリしてくれ!」と求めることができます。
 この権利を催告権と言います。そしてこの催告権は、ただ相手に答えを求めるだけの権利ではありません。そこには法的効果が存在します。そしてその法的効果は、催告をする相手によって変わってきます。
 それでは、催告権の法的効果の違いについて、事例にあてはめて考えていきます。

被保佐人Aに対し催告した場合

 買主Bが、1ヶ月以上の期間を定めた上で被保佐人Aに対し「甲土地の売買契約を追認するのか取り消すのか、どっちかハッキリしてくれ!」と催告した場合、まず被保佐人Aは、定められた期間内に、追認するか取り消すかの選択をしなければなりません。
 ここまでは当たり前のことです。では、定められた期間内に被保佐人Aが返事をしなかった場合どうなるでしょうか?
 この場合、被保佐人Aは甲土地の売買契約を取り消したとみなされます。これが、民法が制限行為能力者の相手方に与えた救いの手、催告権の法的効果です。
 つまり、買主Bは、催告することによって、自分から宙ぶらりんの状態を脱することができます。
 なぜ制限行為能力者の返事がない場合、取り消したみなすかといいますと、宙ぶらりん状態の解消はもちろんですが、取り消したとみなす分には制限行為能力者への損害が生じる可能性はないと考えられるからです。元の状態に戻るだけなので。

被保佐人Aの保護者「保佐人」に催告した場合

 では、買主Bが1ヶ月以上の期間を定めた上で、今度は被保佐人Aの保護者の保佐人に対し「甲土地の売買契約を追認するのか取り消すのか、どっちかハッキリしてくれ!」と催告した場合は、どうなるのでしょうか?
 この場合、Aの保護者である保佐人が、定められた期間内に追認するか取り消すかの返事をすることになりますが、もしこのとき、保佐人が定められた期間内に返事をしないとどうなるでしょう?
 なんとこの場合、保佐人は追認したとみなされます。なぜ保佐人の場合はこのようになるかといいますと、保佐人には通常の判断能力(意思能力)があるからです。通常の判断能力で考えて結論を出せるはずだからです。
 したがって、買主BがAの保佐人に催告し、期間内に返事がなかった場合は、保佐人は追認したとみなされるのです。

 このように、制限行為能力者の相手方には、催告権という救いの一手が与えられていて、誰に催告するかによってその法的効果は変わってきます。
 つまり、こういった形で、制限行為能力者の保護と制限行為能力者の相手方の公平をコントロールしているということです。

制限行為能力者の詐術
こども悪魔
 制限行為能力の制度に定められた制限行為能力者の単独でした法律行為が取り消せることはすでに解説済みですが、実は、制限行為能力者がした法律行為でも、取り消せないものがあります。
 それは制限行為能力者の詐術です。

事例
17歳の未成年者Aは免許証を偽造し、Bと甲不動産の売買契約を締結した。


 さて、この事例で、Aは未成年者(制限行為能力者)ということを理由に、Bと結んだ甲不動産の売買契約を取り消すことができるでしょうか?
 結論。Aは未成年者を理由に甲不動産の売買契約を取り消すことができません。なぜなら、Aは詐術を用いているからです。詐術というのはウソをつくことです。
 民法の規定はこちらです。

(制限行為能力者の詐術)
民法21条
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。


 いくら制限行為能力者だからといって、自分は行為能力者であると自ら相手を騙しておいて、後からやっぱり制限行為能力者なので取り消します、なんてことを許してしまうのは信義に反します。
 よって、民法21条の規定により、自ら詐術を用いた制限行為能力者の行為は、取り消すことができません。
 また、こう考えることもできます。
 制限行為能力者の保護は、制限行為能力者の判断能力(意思能力)には問題があると考えられるからですが、判断能力(意思能力)に問題がある人間が、自ら考えて詐術を用いることができるでしょうか?むしろ、そこまで考えて実行している時点で、そこまで頭が回っているってことですよね?
 ということから、制限行為能力者が詐術を使って制限行為能力者ではないと相手を誤信させて行った行為は取り消すことはできない、と考えることもできます。

第三者が詐術を用いた場合

 例えば、未成年者自らでなく、第三者が「あいつは成人だから大丈夫だよ」といって相手方が誤信してしまった場合は、どうなるでしょうか?
 この場合、未成年者自身は何も悪くありません。むしろ、大人っぽい見た目が災いしただけの被害者とも言えるかもしれません。
 したがいまして、このようなケースでは取消権の行使は可能です。民法21条の規定は、あくまで自ら詐術を用いた制限行為能力者に対するペナルティなのです。

【補足】
 一口に詐術といっても、一体どこまでが詐術となるのでしょうか?
 判例では以下のように示しています。
「民法21の詐術とは、積極的術策を用いた場合だけでなく、制限行為能力者がその旨を黙秘していた場合でも、他の言動と相まって相手方を誤信させ、または誤信を強めた場合には、なお詐術にあたる。しかし、単に制限行為能力者であることを黙認したのみでは、詐術にはあたらない」
 この判例で何を言っているかといいますと、要するに、制限行為能力者が自分から積極的に詐術を用いていなくとも詐術にあたる場合があるということです。
 例えば、未成年者が「私は成年です」という旨を言わなくても、会話の中で「この前飲みに行った時さ~」みたいな事を言っていた場合に、契約の相手方がそれを聞いて「あ、この人は成年なのか」と誤信してしまうこともありますよね。そのようなケースも詐術にあたる可能性があるということです。
 ただ、単に制限行為能力者であることを黙っていただけでは詐術にはあたらない、ということも「しかし~」の部分で述べられています。例えば、未成年者が未成年年者であることをただ黙っていただけでは、それは詐術にはあたらないということです。
 この点はご注意ください。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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【制限行為能力者:未成年者の超基本】未成年者が単独でできることは/棋士は個人事業主?タレントは?

▼この記事でわかること
未成年者の超基本
未成年者が単独でできること
ちょっと豆知識~棋士は個人事業主?じゃあタレントは?
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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未成年者

 未成年者は制限行為能力者です。
 したがって、未成年者も成年被後見人などと同様に、制限行為能力の制度の保護を受けることになります。
 ただ、未成年者は成年被後見人などとは大きく異なる部分があります。
 成年被後見人などの場合は、その判断能力に応じて「成年被後見人、被保佐人、被補助人」と3段階に分かれています。そして、家庭裁判所の審判を受けて初めてなるものです。つまり、家庭裁判所に「君は成年被後見人だ」と認められて初めて、その人は成年被後見人となります。
 一方、未成年者の場合は、家庭裁判所の審判もなく、一定の年齢未満の者は一律に未成年者となります。
 しかし、一口に未成年者と言っても、非常に幅広いですよね。それこそ赤ん坊から高校生まで、みんな未成年者です。鼻垂らした小学生もいれば、その辺のオッサンよりよっぽどしっかりした10代の若者もいます。
 ですが、法律上では、18歳未満の者は一律に未成年者となります。※
※2022年4月1月より18歳以上は成年となり、18歳未満が未成年となります。また、女性の婚姻開始年齢(要するに結婚できる年齢のスタート)が18歳に引き上げられます。

【参考】成年年齢の引下げに伴う年齢要件の変更について
成年年齢の引下げに伴う年齢要件の変更について
法務省民事局参事官室『民法改正 成年年齢の引下げ』資料より抜粋

未成年者が単独でできること

 未成年者は制限行為能力者です。
 したがって、未成年者の契約などの法律行為は、制限行為能力の制度の制限を受けます。
 そして、未成年者には法定代理人がつきます。
 法定代理人とは、法律で定められた代理人です。ほとんどの場合、未成年者の法定代理人は親権者(通常は親)がなります。
 つまり、未成年者が単独でできる法律行為とは、法定代理人抜きでできる法律行為ということです。親抜きで子供だけでできる法律行為、と言えばわかりやすいでしょう。
 未成年者が単独でできる法律行為は、以下になります。

・随意処分の許可
・営業の許可
・単に権利を得、義務を免れる行為


【随意処分の許可】
[法定代理人が処分を許可した財産は未成年者が単独で処分できる]
 例えば、親が子供に「洗剤買ってきて」とお金を渡しておつかいを頼んだ場合、子供は単独で洗剤の購入ができますよね。
 あるいは、目的を定めずに親が子供にお小遣いを渡して、そのお金で子供が単独でお菓子を購入できますよね。
 これが随意処分の許可です。
スマホ子ども
 単独でできるということは、後から「契約を取り消します」とは言えないということです。(相手が子供とはいえ、お菓子程度の買い物で後からいちいち取り消されたらお店側も困ってしまいますよね。店側としては子供が買い物に来たら厄介そうで何も売れなくなってしまいます)
 ということで、随意処分の許可は、未成年者単独でできます。

【営業の許可】
 ここで言う営業とは「商売」と捉えてください。
 これは、法定代理人が未成年者に営業を許可した場合です。
 ただし「何やってもイイよ」というような、包括的な営業の許可はできません。
 例えば、法定代理人が未成年者に雑貨屋の営業を許可すれば、未成年者は雑貨屋の営業ができます。ただし「どんな商売やってもイイよ」というような営業の許可はできないという事です。
 また、営業の許可をするときに、これはイイけどあれはダメ、というような許可の仕方はできません。
 例えば、雑貨屋の営業の許可をしたなら、販売はOKだけど仕入れはダメ、みたいな営業の許可の仕方はできないということです。なぜなら、そんな営業の許可の仕方ができてしまったら、取引の相手方が困ってしまうからです。

【単に権利を得、義務を免れる行為】
 これは、負担のない贈与を受けたり、債務の免除を受けたりとかです。
 つまり、未成年者に損害を与える可能性のない行為ならOKということです。
 ただ、ここで気をつけておいていただきたいことが2点あります。
 以下の2つの行為は、未成年者が単独で行うことができません。

・負担付贈与
・弁済の受領


 負担付贈与とは、簡単に言うと「コレもらうかわりにアレやらなければならない」というような贈与です。
 負担を負わないと贈与を受けられないとなると、負担の部分が義務になってしまいます。すると「単に権利を得る」行為ではなくなってしまいます。したがって、未成年者が単独で行うことができません。
 弁済の受領というのは、例えば、未成年者が「金返せ」という債権を持っている場合に、その債権の弁済を受けること(お金を返してもらうこと)です。
 なぜそれを未成年者が単独で行えないのかというと、その債権が弁済を受けて無くなることで不利益が生じる可能性もあるからです。利子付でお金を貸していた場合、少し時間が経ってから返してもらった方がもらえる利子は増えますよね?早めに返されるともらえる利子は減りますよね?つまり、弁済の受領で損してしてしまうことがあるってことです。(さらに債権は売ることもできるし担保にすることもできます。この辺りの詳しい解説はまた別途改めて行います)

ちょっと豆知識
~棋士は個人事業主?じゃあタレントは?


 将棋の世界で天才中学生棋士が話題になったりしますよね。
 そして、中学生棋士の臨む対局が深夜に及ぶこともあります。
 このとき「あれ?」と思われた方、いらっしゃるのではないでしょうか?子供タレ1ントは深夜の番組に出られないのになぜ?と。
 実はこれには、ちょっとしたカラクリがあります。
 そのカラクリとは、棋士は「個人事業主」のため問題ないのです。
 個人事業主は未成年者でもなれます。よって、労働基準法により禁止されている深夜営業も、個人事業主だから可能ということです。
 じゃあタレントって個人事業主ではないの?
 これがまた微妙な問題で、個別具体的に判断されます。
 どういう判断かといいますと「労働者」にあたるか「個人事業主」にあたるかで、労働者にあたる者である場合は、労働基準法の規制を受け、深夜営業は不可になります。
 では、その「労働者」の定義ですが、これが必ずしも契約形態ではなく、実態で判断されるのです。
 だから微妙なのです。
 実際、深夜のラジオ番組に15歳のタレントを出演させたとして、所属プロダクションと放送局の社員が労働基準法違反で書類送検された事例もあれば、1988年に当時まだ未成年者の光GENJIのメンバーは、要件を満たしていないとして、労働者として扱われなかったという事例もあります。

ちょっと豆知識
~民法改正前の未成年者~


 未成年者の契約などの法律行為には、親権者の同意が必要であったりなど、制限があります。
 ただし、民法改正前の民法では、成年年齢のスタートと結婚できる年齢のスタート(婚姻開始年齢)が異なりましたので、未成年者が婚姻することも可能でした。
 では、未成年者が結婚した場合はどうなっていたのでしょう?
 結婚してもなお、法律行為をする度に親(法定代理人)の合意が必要となると、ちょっと困りますよね。
 それに、未成年夫婦に子供がいる場合だってあります。
 そこで、婚姻(結婚)をした未成年者は成年とみなされます。
 これを成年擬制と言います。
 民法の条文はこちらです。

(婚姻による成年擬制)
民法753条
未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。


 上記、民法753条条文中の「みなす」というのは「同じように扱う」という意味です。
 つまり、婚姻した未成年者は、法律上、成年と同じように扱うということです。
 したがいまして、法律的には、未成年者でも結婚すれば一人前の大人として扱われるのです。

離婚したらどうなるのか


 未成年者も婚姻すれば成年擬制により、法律的に成年と同じように扱われます。
 では、婚姻した未成年者が、成人に達する前に離婚した場合はどうなるのでしょう?
 この場合、離婚した未成年者の成年擬制は継続します。離婚すると成年擬制がなくなり、法律的に未成年者に戻る訳ではありません。
 つまり、一度結婚した未成年者は、たとえ離婚しても、法律的には成年のままです。
 たとえ未成年でも、一度、成年擬制で成年になってしまえば、もはや法律的にはコドモに戻ることはできななかったのです。

 なお、2022年4月1日以降は18歳以上は成年となり、18歳未満が未成年となります。
 そして、女性の婚姻開始年齢(要するに結婚できる年齢)が18歳に引き上げられます。
 したがって、婚姻可能年齢と成年年齢のスタートが揃いますので、民法改正前のような「ズレ」はなくなることになります。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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【制限行為能力者】成年被後見人・被保佐人・被補助人とは?その違いは?

▼この記事でわかること
制限行為能力者とは
成年被後見人と成年後見人
被保佐人と保佐人
被補助人と本人の同意
まとめ~成年被後見人と被保佐人と被補助人の違い
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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制限行為能力者

 民法では、以下の種類の制限行為能力者を定めています。

・未成年者
・成年被後見人
・被保佐人
・被補助人


 上記に当てはまる人は制限行為能力者となります。
 制限行為能力者にあたる人は、なんと、問答無用で契約を破棄できる取消権を、自動的に付与されます。
 つまり、法律で特別に保護されているということです。

なぜ制限行為能力者は特別に保護されるのか

 それは、制限行為能力者は判断能力(意思能力)に問題アリ、と考えられるからです(これはあくまで法律上そのようになっているだけですので余計な思考は働かせないでくださいね)。ですので、制限行為能力者は特別に厚く保護する必要があるのです。
 よって、法律において、制限行為能力という制度が定められているという訳です。

 さて、冒頭に4種類の制限行為能力者を挙げましたが、未成年者については説明不要ですよね。18歳未満の人間は法律上、未成年者となります。これは問題ないですよね。※
※2022年4月1月より18歳以上は成年となり18歳未満が未成年となります。
 では、残り3種類の「成年被後見人・被保佐人・被補助人」とは、一体何なのでしょうか?
 これら3種類の制限行為能力者は、家庭裁判所の審判を受けることによってなることができるものです。
 それでは、ひとつひとつ解説して参ります。

成年被後見人

 民法では「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」を、成年被後見人と定めています。
 これは、いわゆる重度の精神障害の状態にある人のことです。判断能力(法律的には意思能力)としては、かなり厳しいと考えられます。
 よって、家庭裁判所で成年被後見人の審判を受けた者には、同じく家庭裁判所により選任された成年後見人が、保護者のような形でつきます。
 成年後見人は、法律によって、成年被後見人の代理権が与えられています。そして、この法律によって代理権が与えられる者のことを法定代理人と言います(わかりやすい例だと、未成年者の親権者(通常は親)は法定代理人です)。
 成年後見人は成年被後見人の代理人として、様々な法律行為が可能です。同時に、判断能力(意思能力)に相当な問題アリの成年被後見人の法律行為には、様々な制限があります。

成年後見人

 さて、それでは成年被後見人の保護者である成年後見人の権利について、詳しく見て参ります。

成年後見人(家庭裁判所に選任された成年被後見人の保護者)が持つ権利

・代理権
・取消権
・追認権

【代理権】
 成年後見人は、成年被後見人の代理人として(契約を締結したりなどの)法律行為ができる権利(代理権※)が付与されています。
※代理についての詳しい解説は「【代理の超基本】表見&無権代理とは」をご覧ください。
 例えば、成年被後見人の代わりに成年後見人が携帯電話の契約をしてあげる、などです。

【取消権】
 成年被後見人は判断能力(意思能力)に相当な問題アリです。ですので、万が一、そのような状態の成年被後見人が結んでしまった契約などがあった場合、保護者である成年後見人には、その契約を取り消す権利(取消権)が付与されています。
 例えば、成年被後見人が、ろくに判断もできないような状態なのに携帯電話の契約を結んでしまったような場合、後から成年後見人がその契約を取り消すことができる、ということです。

【追認権】
 追認権という言葉は、中々聞き慣れないと思います。
 追認とは、追って認めること、すなわち後から認めることです。ある法律行為を後から「それOK!」と(追認)する、ということです。
 例えば、成年被後見人が、ろくに判断もできない状態で携帯電話の契約を結んでしまったとき、成年後見人がそれを後から認めることによってその契約は初めて有効なものになります。このような行為を追認といい、成年後見人には成年被後見人の行為を追認できる追認権という権利が付与されています。

成年被後見人自身の権利能力

 すでにお気づきになった方も多いと思いますが、成年被後見人の契約などの法律行為は、成年後見人が追認することによって初めて有効なものになります。ということは、成年被後見人が単独で結んだ契約は、原則、有効なものにはなりません。
 ただ例外的に、日用品の購入などの生活に関する行為は、成年被後見人が単独で行っても有効になります。
 つまり、成年被後見人が単独でできる法律行為というのは、日用品の購入程度のものに限るということです。それ以外の法律行為は、後からいくらでも取り消せます。

 以上のような形で、成年被後見人は法律で保護されています。
裁判所
 ただ、最初の方の解説で申し上げましたが、成年被後見人になるには家庭裁判所の審判を受けないといけません。重度の精神障害に陥ったら自動的に成年被後見人となる訳ではありません。
 本人等が家庭裁判所に請求して「後見開始の審判」を受けて初めて成年被後見人となり、法律(制限行為能力の制度)の保護を受けられるようになります。
 ですので、現実には、重度の精神障害に陥りながらも成年被後見人ではない人もいます。そのような人は、ここで解説したような制限行為能力の制度の保護を受けることができません。この点はご注意ください。

被保佐人

 被保佐人とは「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」と民法で定められています。成年被後見人より症状は軽いが、精神障害を抱え判断能力(意思能力)に問題アリとされる制限行為能力者です。
 ここでまず最初に注意しておいていただきたいのは、成年被後見人は事理を弁識する能力を欠く常況で、判断能力(意思能力)はほぼ無いような状態なのに対し、被保佐人は事理を弁識する能力が著しく不十分なだけで、判断能力(意思能力)はあるのです。ただ、それが著しく不十分なだけなんです。
 ですので、被保佐人は、以下の民法13条に規定されている重要な財産行為以外は、単独で法律行為を行うことができます。

(保佐人の同意を要する行為等)
民法13条
被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一  元本を領収し、又は利用すること。
二  借財又は保証をすること。
三  不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四  訴訟行為をすること。
五  贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法 (平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項 に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六  相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七  贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八  新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九  第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。

十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。

 被保佐人は、上記の民法13条に定められた法律行為については、保佐人の同意が必要になります。なぜなら、重要な財産行為だからです。
 重要な財産行為というのは、間違ってしまったらリスクの大きい法律行為ということです。
 民法13条に列挙された重要な財産行為については、間違えてしまうとリスクが大きいので、被保佐人にはまだある程度の判断能力(意思能力)が残っているとはいえ、保佐人の同意を必要とするという慎重な規定が定められています。

保佐人

 保佐人とは、被保佐人の保護者です。
 被保佐人も成年被後見人と同様、家庭裁判所の審判を受けることによってなることができます。そして、成年被後見人に成年後見人がつくのと同様、被保佐人にも家庭裁判所によって選任された保佐人がつきます。
 なお、被保佐人は、事理を弁識する能力が著しく不十分な状態になると自動的になる訳ではありません。本人等が家庭裁判所に請求して「保佐開始の審判」を受けて初めて被保佐人になることができます。その上で、保佐人が選任されます。この点は、成年被後見人・成年後見人の場合と同様にご注意ください。
 そして、保佐人が持つ権利は以下になります。

【保佐人(被保佐人の保護者)が持つ権利】
・同意権
・取消権
・追認権

 成年後見人との違いとしては、保佐人には代理権が無く、同意権があります。
 同意権というのは、事前のOKサインです。例えば、被保佐人が、民法13条に当てはまる不動産の売買契約を結ぼうとするとき、保佐人がその内容をチェックして「これならOK」と同意したら、被保佐人は、その不動産の売買契約を正式に結べるということです。追認権事後に認めるのに対し、同意権事前に認める権利です。
 なお、保佐人の同意を得なければならない行為(民法13条に規定された行為)について、被保佐人の利益を害するおそれがないのもかかわらず保佐人が同意をしないときは、被保佐人の請求により、家庭裁判所保佐人の同意に代わる許可を与えることができます。例えば、被保佐人が民法13条に規定されたものに当てはまる法律行為を行おうとしたとき、その法律行為をしても、被保佐人にとって何も悪いことがないのはわかっているのにもかかわらず保佐人が同意をしないとなると、被保佐人は困ってしまいますよね。そういうとき、被保佐人は、家庭裁判所に請求して問題ナシと判断されれば、保佐人の同意と同じ効力を持つ家庭裁判所の許可を受けることができ、それにより、民法13条に当てはまる法律行為を行うことができます。
 このように、成年後見人と保佐人の持つ権利には違いがあります。この違いはしっかり覚えておいてください。

被保佐人自身の権利

 被保佐人は、民法13条に規定された重要な財産行為以外のものであれば、単独で法律行為を行うことができます。先述のとおりです。

被補助人

 被補助人とは「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」と民法で定められています。これは簡単に言うと「判断能力が不十分な者」ということです。

被保佐人との違い

 被保佐人の判断能力が「著しく不十分」なのに対し、被補助人の判断能力は「不十分」です。つまり、被保佐人より症状が軽い精神上の障害を抱えた状態にあるのが被補助人です。
 なお、被補助人も、成年被後見人や被保佐人と同様、本人等の請求により家庭裁判所の審判を受けることで初めてなるものです。

被補助人になるには本人の同意が必要
OKあばあさん
 被補助人には、成年被後見人や被保佐人と決定的に違うところがあります。
 成年被後見人・被保佐人は、例えば、本人以外の者が家庭裁判所に請求して「後見開始の審判」「保佐開始の審判」を受けると、対象となった人間(本人)は成年被後見人・被保佐人となります。しかし、被補助人の場合は、本人以外が家庭裁判所に請求するときは、本人の同意が必要です。例えば、あるおじいちゃんの家族が「おじいちゃん、補助開始の審判を申し立てた方がいいんじゃない?」と言って家庭裁判所に請求しても、おじいちゃん本人が「そんなことするな!ワシは十分マトモじゃ!」と言えば、家庭裁判所の審判そのものが出ません。
 なぜ、被補助人だけそのようになっているかと言いますと、被補助人は、ほとんどマトモだからです。ほとんどマトモな状態の人が、本人以外の請求で制限行為能力者の仲間入りにされてしまうと、その人の尊厳を傷つけかねません。
 よって、被補助人については本人の意思というものを尊重して、本人以外の者が家庭裁判所に請求するときには、本人の同意を必要としているのです。

補助開始の審判

 被補助人は、家庭裁判所の「補助開始の審判」を受けることでなることができます。
 そして、補助開始の審判の場合は、次のいずれかの審判とともにしなければなりません。

・民法13条1項各号のうち、どれを補助人の同意を要する事項とするかの審判
・特定の法律行為には補助人に代理権を付与する旨の審判


 補助開始の審判のときだけは、上記2つの審判のいずれかと一緒にしなければなりません。
 この点は、後見開始の審判・保佐開始の審判と違うところです。
 そして被補助人には、家庭裁判所で選任された補助人が保護者としてつきます。
 しかし、被補助人は基本マトモです。ですので、被補助人の場合は、民法13条で規定された被保佐人が保佐人の同意を要する法律行為(重要な財産行為)の中から、どれを補助人の同意を要するものとするかを決めることができます。それが先述の「民法13条1項各号のうち、どれを補助人の同意を要する事項とするかの審判」です。このとき、民法13条に規定された法律行為の全てについて補助人の同意を要しない、とすることもできます。つまり、被補助人の場合は、単独で全ての法律行為を可能とすることもできるのです。
 被補助人の場合は「ほとんど制限のない制限行為能力者」になることもある、ということです。
 被補助人には、まだかなりの判断能力(意思能力)が残っています。ですので、成年被後見人・被保佐人とは少し違った感じになっております。この点を意識すると、被補助人について、理解しやすくなると思います。

制限行為能力者まとめ
成年被後見人・被保佐人・被補助人の違い

 未成年者以外の3種類の制限行為能力者「成年被後見人・被保佐人・被補助人」それぞれの違いについてのまとめです。

成年被後見人
→精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者のこと
[どうやってなるのか]
 本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、家庭裁判所の「後見開始の審判」を受けてなる。(本人の同意は不要)
[成年被後見人ができること]
 単独で有効な法律行為(契約など)はできない(行なったとしても後からいくらでも取り消せる)。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については単独で行うことができる。
[成年被後見人の保護者]
 家庭裁判所に選任された成年後見人
[成年後見人の持つ権利]
 代理権、取消権、追認権

被保佐人
→精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者
[どうやってなるのか]
 本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、家庭裁判所の「保佐開始の審判」を受けてなる。(本人の同意は不要)
[被保佐人ができること]
 民法13条に規定された法律行為(重要な財産行為)以外は単独で行うことができる。民法13条に規定された法律行為に関しては保佐人の同意を要する。

保佐人の同意を要する行為等)
民法13条
被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一  元本を領収し、又は利用すること。
二  借財又は保証をすること。
三  不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四  訴訟行為をすること。
五  贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法 (平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項 に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六  相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七  贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八  新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九  第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。

十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。

 なお、家庭裁判所は上記民法13条に定められた法律行為以外のものについても、保佐人の同意を要する旨の審判を行うことができる(同意事項の拡大)。

[被保佐人の保護者]
 家庭裁判所に選任された保佐人
[保佐人の持つ権利]
 同意権、取消権、追認権

被補助人
→ 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者のこと
[どうやってなるのか]
 本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、家庭裁判所の「補助開始の審判」を受けてなる。(本人の同意が必要)
 また、補助開始の審判は以下のいずれかの審判(片方だけでもOK)と併せて受ける必要がある。
・民法13条1項各号のうち、どれを補助人の同意を要する事項とするかの審判
・特定の法律行為には補助人に代理権を付与する旨の審判
[被補助人ができること]
 民法13条に規定されていること(重要な財産行為)の中から、家庭裁判所の審判で決めた特定の法律行為以外は、単独で行うことができる。(民法13条のどの法律行為が特定されるかはケースバイケース)
[被補助人の保護者]
 家庭裁判所に選任された補助人
[補助人の持つ権利]
 民法13条の中から家庭裁判所に特定された法律行為についての同意権・取消権・追認権

補足
 以下の審判についても、本人の同意がなければすることができません。
・保佐人に代理権を付与する旨の審判
・補助人に代理権を付与する旨の審判
 なお、後見開始の審判と保佐開始の審判は、その旨の審判のみで行うことができます。別の審判と併せてしなければならないのは補助開始の審判だけです。
 この点もご注意ください。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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【双方代理と自己契約】その問題点とは/使者とは?犬・猫・鳩も使者になれる?

▼この記事でわかること
双方代理・自己契約とは?またその問題点とは
使者について
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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双方代理・自己契約

 まずは2つの事例からご覧ください。

事例1
売主Aの代理人Bと買主Cの代理人Bの間で売買契約を締結した。


事例2
売主Aは代理人Bと買主Bとの間で売買契約を締結した。


 なんだかとんちみたいな感じですよね(笑)。
 もちろんそうではなく、これは双方代理自己契約の事例です。
 代理人BがAとC双方の代理人を行っている事例1が双方代理、買主Bが自ら代理人となってAと売買契約を行っている事例2が自己契約になります。
 それではまず、双方代理と自己契約についての民法の条文を見てみましょう。

(自己契約及び双方代理)
民法108条
同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。


 上記、民法108条の「相手方の代理人として」というのは自己契約を指し「当事者双方の代理人」というのは双方代理を指します。
 つまり、民法では自己契約と双方代理を行った場合、それは無権代理として扱うと規定しています。
 これは、要するに、民法は自己契約及び双方代理を原則認めていないということです。
 なんで?
 なぜかというと、公正な取引が行われない可能性があるからです。

双方代理の問題

 例えば、事例1で、代理人Bが売主Aからだけ贈り物なんかをもらっていたらどうでしょう?
 そうなると代理人Bが売主Aに肩入れして、売主Aに有利に取引を進めかねませんよね。それだと、売主A・買主B双方の代理人として、公正中立な立場での代理行為が行われなくなってしまいます。

自己契約の問題

 例えば、事例2で、買主Bは売主Aの代理人も兼ねていることをいいことに、買主としての自分に有利なように買い叩いた金額で売買契約を結びかねません。
 すると売主Aは困ってしまいますよね。しかし、Bは売主Aの代理人として、そんなことも簡単にできてしまいます。買主でもあるBだけ大喜びです。
 こんな不公正な取引、ダメですよね。

 ということで、民法では双方代理と自己契約を原則認めていないのです。
 ただし!民法108条には続きがあります。

民法108条続き
ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。


 この民法108条ただし書きで何を言っているのかといいますと、売主と買主の間で、売買の条件交渉が終了した後、その売買契約の債務の履行(代金の支払い・商品の引渡し等)についてだけであれば、たとえ双方代理・自己契約でも、もはや代理人の恣意(自分勝手な意思)が働く余地がないので、そのような双方代理・自己契約であればやってもいいですよ、という意味です。
 ちなみに、不動産売買を行ったことがある方はご存知かと思いますが、基本的に登記移転は司法書士が行いますよね?このとき、司法書士は売主・買主の双方の登記代理を行いますよね。もちろんこれは問題ありませんし、判例においても、民法108条に反しないと結論づけられています。

【補足】
 (双方代理・自己契約の)代理人が結んだ契約内容が、当事者にとって納得いく公正なもので、当事者がその契約の履行を望むのであれば、追認することによってその契約を有効なものにできます。
 あれ?なんか無権代理に似てるような?
 そうなんです。これが「無権代理として扱う」ということの意味です。過去の実際の判例においても、自己契約・双方代理の法的効果を完全に無効とせずに、無権代理と同様に不確定無効としています。ですので、後から追認することも可能なのです。

使者
伝書鳩
 民法の条文には存在しませんが、代理人と似て非なるものに使者というものがあります。
「使徒」であれば、エヴァンゲリオン等で聞きなれた方も多いかもしれませんが、「使者」は意外と日常であまり聞かないかもしれません。「日曜日よりの使者」というザ・ハイロウズの名曲もありますが。
 なんて余談はさておき、使者とは本人が決定した事項をただ伝えるだけの役目です。
 例えば「お使い」なんかがそうです。つまり「はじめてのお使い」ならぬ「はじめての使者」です(笑)。

事例3
Aは飼っている犬のポチに、必要なお金と注文書きを入れた買い物カゴをぶら下げさせて、近所の商店にお使いに行かせた。


 さて、この場合、お使いに行った犬のポチはAの使者ということになるのでしょうか?
 結論。犬のポチはAの使者になります。
 なんと、使者には意思能力は不要なのです。

事例4
Aは飼っている猫のタマに、必要なお金と注文書きを入れた買い物カゴをぶら下げさせて、近所の商店にお使いに行かせた。


 さて、この場合、猫のタマはAの使者になるのでしょうか?
 もちろん使者になります。夏目漱石先生も納得の結論でしょう。もし猫がホワッツマイケルや忍者ハットリくんの影千代やセーラームーンのルナなら、代理人にもなれるかもしれません(笑)。

 このように使者は意思能力が不要なので、本人さえ良ければ、ほぼ誰でもなれるといっていいかもしれません。(この場合の意思能力とは、法的な意味の意思能力のことです。あしからず)
 伝書鳩なんかも使者と言えるでしょうね。

 さて、ここからは真面目な話に戻しますが、、
 ふざけてたんかい!
 そういう訳ではないのですが(笑)、例えば、こんなことが起こってしまったらどうなるでしょう。
 お使いに出した使者が伝達事項を間違えてしまったら?
 この場合はなんと、錯誤の問題になります。
 犬のポチでも?
 それは…知りません。
 猫のタマでも?
 それも…知りません。
 伝書鳩のポッポでも?
 それも…もうええわ!
 どうも、ありがとうごさいました~(漫才風)

蛇足:代理は中々難しい

 民法の学習において「代理」分野はひとつの山と言っていいかもしれません。
 代理という制度自体はそんなに難しいように感じないのですが、学習を進めていくにつれ、頭がどんどんごちゃごちゃになっていったりします。
 私がそうだったのですが、代理程度でこんなに苦戦していたら民法の勉強なんか無理なんじゃないか?と焦ったりもすると思います。
 しかし、焦る必要はないです。なぜなら、代理は難しいです。もっと言えば、代理の分野をしっかり理解できれば民法の基礎はバッチリ!かもしれません。
 ですので、代理の分野でつまづいたとしても、焦らず、繰り返し繰り返し、徐々に理解を深めていってください。

  というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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