共有物の分割~3通りの分割協議の基本/共有物分割協議の第三者参加&協議の解除とは

▼この記事でわかること
3通りの分割
共有者間の協議が調わなかった場合(協議をすることができない場合)
共有物分割協議への第三者の参加
共有物分割請求ができない場合
共有物分割協議の解除
遺産分割協議の解除
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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共有物の分割

 共有は、一つの物には一つの所有権(物権)という民法の一物一権主義の例外と言われます。
 例外ということは、民法の原則としては、あくまで一物一権ということです。なぜなら、一つの物を複数人が共有するというのは、権利関係が複雑になりがちだからです。民法としては、そのような共有状態をあまり望ましく思わないのです。
 そこで、民法は、そのような共有状態を解消する手段を規定しました。それは、共有物の分割請求です(分割について後で詳しく解説します)。
 各共有者は、いつでも、分割請求をすることができます。また、共有物分割請求権は消滅時効にもかかりません。
 したがって、各共有者は、いくら時間が経過しても、いつでも、分割請求ができます。

3通りの分割
三本指
 分割には、3通りの方法が考えられます。

1【現物分割】
 これは言葉のとおりで、共有物を割る方法です。
 例えば、ABCの3者の共有の土地があった場合に、その土地を3つに分割して、各区画をABCそれぞれ1人の単独所有にします。

2【価格賠償】
 これは、共有物を1人の所有物にして、あとはお金で解決する方法です。
 例えば、車がABCの3者共有物だった場合に、分割しようにも、土地のように現物を分割することはできません。
 このような場合に、共有物の車をAの単有にして、BCにはしかるべき価格(金銭)を支払って解決します。

3【代金分割】
 これは、共有物を売却して、その売却代金を共有者間で分け合う方法です。
 例えば、車がABCの3者共有物だった場合、その車を売って、売って得たお金をABCの3者で分け合います(土地のように現物分割ができるものでも、この代金分割の方法で、土地を売却してその売却代金を共有者で分け合うことは可能)。

 これら3つの手段のどれかをとって、共有物の分割をすることができます。
 こうした共有物の分割は、共有者全員の協議で行います。

共有者間の協議が調わなかった場合(協議をすることができない場合)

 必ずしも、共有物の分割について、共有者間の協議が整うとは限りません。また、そもそも協議をすることができない場合もあるでしょう。
 では、もし共有者間の協議が整わなかった場合や、そもそも協議をすることができない場合は、一体どうすればいいのでしょうか?

(裁判による共有物の分割)
民法258条
1項 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2項 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。


 上記の規定により、共有者間の協議が整わないときは、裁判所に分割を請求することができます。

裁判による分割は現物分割が原則
裁判所
 民法258条2項を読むとわかりますが、裁判による共有物の分割は、現物分割が原則であり、例外的に競売による代金分割の方法をとります。
 あれ?価格賠償は?
 そうなんです。実は民法では、裁判による共有物の分割について、価格賠償の方法は想定していないのです。
 そして、そのようになっていることには理由があります。その理由はこうです。例えば、ABCの三人の共有物について、裁判所が「共有物をAに取得させ、AはBCに対し価格の賠償をせよ」と判決を下したとします。しかし、現実にAが価格の賠償をしなかったとき、裁判所としてはその責任を負えないという事情があるのです。ですので、民法の規定上、裁判による共有物の分割に、価格賠償の方法が想定されていないのです。
 ただし、そうした懸念がないなど、特段の事情がある場合は、裁判による分割でも価格賠償をすることができるとした判例があります。
 したがいまして、裁判による共有物の分割は、原則は現物分割で、例外的に代金分割の方法をとり、民法の規定上、価格賠償は想定していません。ただし、特段の事情がある場合は、価格賠償の方法をとることもできる、ということになります。

共有物分割協議への第三者の参加

 共有物分割の協議は、共有者間で行うものです。
 しかし、民法260条1項の規定により、共有物について権利を有する者と各共有者の債権者は、協議に参加することができます。

(共有物の分割への参加)
民法260条
共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる。


※共有物について権利を有する者とは
→共有物が土地の場合、その土地の抵当権者(担保物権)や地上権者(用益物権)
※共有者の債権者とは
→共有者に金銭等を貸付している債権者(一般債権者)や、共有物の賃借人(共有物が土地なら、その土地の借地人)

 この民法260条1項の規定により、 共有物について権利を有する者各共有者の債権者は、協議に参加することができます。
 しかし!この規定、実は、実際にはあまり役に立たないザル規定なんです。
 その理由は以下です。

・協議に参加する費用は権利者および債権者側が負担
 例えば、東京で行う共有物分割協議に北海道に住む権利者が参加するには、その行き帰りの旅費は全て自己負担ということ。
 これはイタイ!
・共有者側に権利者および債権者に対する告知義務がない
 つまり、権利者および債権者にはヒミツにして、こっそり勝手に共有物分割協議ができてしまうということ。
 これだけでも役立たずのザル規定なのは明白じゃね!?
・協議に参加しても権利者および債権者側の意見に拘束力はない
 権利者および債権者が協議に参加して意見を述べたところで、共有者側はその意見をシカトしてもまったく問題ないということ。
 意味なーいじゃーん!

 以上のことから、民法260条1項の第三者の共有物分割協議への参加についての規定はほとんど役立たずなのです。
 ただ、決してその規定がまったく意味がないという訳ではありません。もし第三者が協議への参加請求をしたのにもかかわらず、共有者側がその参加請求を無視して勝手に分割してしまったら、共有者側はその分割を参加請求者に対して対抗できなくなる、という法的効果があります。
 しかし、これも結局、参加請求者にはしっかりと協議に参加させた上で、その意見をシカトすれば良いだけのことなので、やはり役立たずのザル規定なのは否めないでしょう。

共有物分割請求ができない場合
バツ 女性
 当然、共有物だからといって何でもかんでも分割請求できる訳ではありません。
 次に挙げるものは、共有物の分割請求ができせん。

・境界線上の境界標など(民法229条の共有物)
 境界標とは、土地の境界を示す標のことです。要するに「境界標からこっちはAさんの土地。境界標からあっちはBさんの土地」というものです。
 この境界標は、分割することはできません。なぜなら、分割してしまったら境界標の意味がなくなるからです。
・区分建物の敷地利用権
 これは分譲マンションの専有部分の所有権(区分所有権)と一体になっている土地の持分権(敷地利用権)です。それを分割するというのは訳の分からない話で、そんなことは当然できません。
・区分建物の共有部分
 これはマンションのエレベーターや階段部分のことです。
 当たり前ですが、そんなものが分割できる訳ないですよね。

共有物不分割特約

 各共有者はいつでも共有物の分割請求をすることができますが、民法256条1項但し書きの規定により、共有物を分割しないという契約を共有者間ですることができます。
 ただし、分割しない期間は5年を超えてはなりません。分割しない期間を6年間と定めたら、その定めは無効になります。分割しない期間は5年以内でなければ有効になりません。
 なお、この共有物不分割特約は登記事項です。その旨の登記をすることで、その不分割を第三者に対抗することができます。

共有物分割協議の解除

 共有物分割協議により共有関係は終了します。現物分割であれば、各共有者は分割された物の単独の所有者になります。
 ところで、もし共有物分割協議の内容に、当事者が意図しないような不公平が発生してしまった場合、一体どうなるのでしょうか?
 当事者が意図しないような不公平が発生した場合とは、例えば、共有物が土地で、その土地を各共有者ごとに等分に分割したら、そのうちの一区画だけが地盤が弱くて、財産価値が他の区画よりも著しく劣ることが後から判明したようなケースです。
 そのようなケースで、財産価値が著しく劣る区画の所有者になってしまった者が「こんな分割協議はおかしい!この協議はナシだ!」と、分割協議を解除して、協議自体をなかったことにできるでしょうか?
 結論。共有物分割協議の解除は可能です。その根拠となる規定はこちらになります。

(分割における共有者の担保責任)
民法261条
各共有者は、他の共有者が分割によって取得した物について、売主と同じく、その持分に応じて担保の責任を負う。


 この条文だけだとちょっとわかりづらいですが、要するに、共有者は分割した物について「売主の担保責任」と同じ責任を負うということです。
「売主の担保責任」は、売買した物について、場合によって買主から売主に対する損害賠償請求や代金減額請求や契約解除を認める規定です(売主の担保責任についてはこちらの記事をご参照ください)。
 したがって、共有物分割協議の解除は可能なのです。
判決
 ただし!裁判により共有物の分割が行われた場合は、その解除はできません。裁判による判決を、一般私人の一方的な意思表示で「なかったこと」にできてしまったら、世の中の秩序が乱れておかしなことになってしまいますよね。そんなことは日本のような法治国家ではあり得ません。

遺産分割協議の解除

 共有物の分割に似た制度に、遺産分割があります(遺産分割についてはこちらの記事もご参照ください)。
 そして遺産分割の場合も、遺産分割協議というものがあります。
 ところで、遺産分割協議の解除はできるのでしょうか?
 遺産分割協議後にもめそうなケースとしては、夫が亡くなり、相続人が妻と息子二人で、長男には母の介護を条件として多めの財産を与えていたのに、長男がその義務を果たさなかったような場合です。このような場合に、遺産分割協議を解除することができるのか?
 結論。遺産分割協議の解除はできません。なぜなら、それができてしまうと法的安定性が損なわれるからです。
 というのは、遺産分割は、特定の資産を分割する共有物分割よりも、分割する資産の規模がずっと大きいことの方が多いでしょう。それだけ大きい資産となると、そこに絡む第三者の存在などの法律問題、そのややこしさも、特定の資産の共有物分割の比ではありません。
 ですので、遺産分割協議が解除されてなかったことになってしまうと、ややこしい法律問題が一気に噴出してしまうのです。それはまさしく、法的安定性を損なうことになります。
 したがって、遺産分割協議の解除はできないのです。
 なお、遺産分割協議の合意解除可能です。
 合意解除とは、相続人間で「この遺産分割協議はなかったことにしよう」とする新たな契約です。こういった形の解除であれば可能になります。

【補足】

 ある財産の分割が、共有物分割なのか遺産分割なのかを見極める基準として、両分割には以下の違いがあります。

共有物分割→地方裁判所の管轄
遺産分割→家庭裁判所の管轄

 共有物分割の裁判であれば地方裁判所を利用することになり、遺産分割であれば家庭裁判所を利用することになります。
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この世の中は契約社会~民法は私達の生活に直結している

 皆さんは、民法と聞いて何かピンと来ますか?
 おそらく、法学生や仕事で法務に携わっている方以外は、中々ピンと来ないのではないかと存じます。
 民法とは一体何なのでしょう。

この世の中は契約社会

 当サイトをご覧になってくださっている方で、アパートやマンションあるいは一軒家を借りて住んでいる、いわゆる賃貸不動産にお住いの方は多いと思います。実はその不動産賃貸借に関する規定が、民法の中に存在します。
 民法の条文は、全部で1050条存在します。その中に賃貸借というカテゴリーがあり、そこに不動産賃貸借(家の貸し借り)に関係する規定が存在します。
 例えば、賃貸人(貸主、つまり家主・大家のこと)は賃貸物(賃貸している物件のこと)の修繕義務を負うとか、賃貸人に無断で転貸(また貸し)してはいけない等々。
 ちなみに、今挙げた例は、皆さんが家を借りる(貸す)時に交わした契約書の中にも、盛り込まれていると思います。もしご面倒でなければ、今一度ご覧になってみてください。
 民法というものはこのように、実は我々の生活に密接に関わっています。
 先ほど挙げた不動産賃貸借の例ですが、これは不動産賃貸借契約になります。つまり、契約の一種ということですね。

 ところで皆さん。この世の中は契約社会というのはご存知でしょうか?
 まあ、いきなり契約社会と言われても、はぁ?て感じですよね(笑)。
 ですので、具体例を挙げてご説明いたします。
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 皆さんも普段、当たり前にコンビニなどで買い物をしますよね。実はこれも契約です。その契約の流れはこうです。

1、購入の申し込みをする(レジに商品を持っていく)
2、申し込みの承諾を受ける(店員が商品をスキャンする)
3、代金を支払う
4、商品の引渡しを受ける(買った商品を受け取る
)


 コンビニでモノを買うということは、実はこのような流れの売買契約になります。
 え?こんなことも契約になるの?
 はい。これも立派な売買契約という契約なのです。
 それではここで問題です。上記の「コンビニでモノを買う」という売買契約ですが、この契約が成立するのは、契約の流れの中の1~4の内、一体どの時点だと思いますか?
 正解は2です。つまり、購入の申し込みの承諾を受けた時点で契約が成立します。
 このような契約を民法上、諾成契約といいます。読み方は「だくせいけいやく」です。承諾の諾に成る契約ということですね。
 契約には民法上、他にも◯◯契約というものが複数存在します。

 さて、どうでしょうか。何となく、民法が身近なものに感じて来たのではないでしょうか?
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共有~持分権とは/共有物の使用方法&変更&管理&保存について/解除権の不可分性の例外とは/持分権の主張、共有物の明渡し請求等について

▼この記事でわかること
共有の基本
持分権とは
共有物全体の問題「共有物の使用方法・変更・管理」について
共有物の保存、解除権の不可分性の例外
共有の補足~持分権の主張、共有物の明渡し請求等
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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共有の基本

 1つの物を、1人ではなく複数人で所有することを共有と言います。

共有関係が生まれるとき

 共有関係は、法律の規定によって生じます。
 また、当事者の合意によっても生じます。
 法律の規定によって生じる場合とは、例えば相続です。地主が死亡し、その地主の相続人が二人いれば、法律の規定により、問答無用にその土地は相続人二人の共有になります。その後、相続人の相続放棄や遺産分割協議により相続の内容が変わる可能性はありますが、まずは法律の規定によって、そのようになるのです(遺言による相続についてはここでは省きます)。
 当事者の合意によって生じる場合とは、例えば、夫婦で1000万円ずつ出し合って不動産を購入するような場合です。
 このように、共有関係は、法律の規定による場合と、当事者の合意による場合とがあります。

共有は一物一権主義の例外

 物に対する権利である物権の世界では、一物一権主義というものがあります。「一つの物には一つの物権」という原則です(排他的支配権)。
 そして、共有はその「一物一権主義の例外」とも言われます。なぜなら、一つの物を複数人で共有するからです。
 ただ、共有の場合でも、共有者はそれぞれ持分権というものがあり、各持ち分に対しては一つの持分権しか存在しません。
 そして、持分権は各自で自由に処分できます。例えば、一つの土地をAとBが相続すると、その土地はAとBの共有物になり、AとBはそれぞれ各持ち分に対して持分権を持ちます。このとき、Aが自分の持ち分を売ったりするのは自由です。もちろん、Bが自分の持ち分を売ったりするのも自由です。ただし、AがBの持ち分を売ったりすることはできません。
 ということなので、持分権は、各々の各持ち分に対しては、所有権と同じようなものなのです。そう考えていくと、共有も、一物一権主義にしっかりと則っていると言えます。

持分権

 共有について考える場合は、共有物全体の問題なのか、各持分権の問題なのか、そこを見極めた上で考えていかないと、よく分からなくなってしまいます。ですので「共有物全体」と「各持分権」とを分けた上で、まずは持分権から解説して参ります。
 さて、先ほど持分権は、各持ち分については所有権と同じようなものだとご説明いたしました。実際共有持分権の法的性質は所有権である」と説明されます。その共有持分権の法的性質を表す典型例で、かつ現実にもよくあるのは、分譲マンションです。
マンション
~分譲マンションの性質を考えれば共有持分権の法的性質が分かる?~

 冒頭に、共有のパターンとして相続による共有と夫婦の共有の例を挙げましたが、日常的にもっとも起こっている共有のケースは何か?となると、それはおそらく、分譲マンションのケースになるでしょう。
 分譲マンションでの所有は区分所有とも言われ、その所有権は区分所有権とも言われます。
 分譲マンションにおいてその建物の各区分は、それぞれ別の所有者が存在し、そこには個々独立の所有権が成立しています(一つのマンションに複数の所有権が独立しながら存在、つまり、一つのマンションに複数のオーナーが存在する)。
 じゃあマンションで何を共有しているの?
 分譲マンションにおいて、共有になっているのは土地です。土地というのは、そのマンションが建っている敷地です。
 つまり、ある土地に分譲マンションが建っていて、そのマンションが100の専有部分(わかりやすく言えば100戸)に分かれていれば、その土地には100の持分権が存在することになります。もしあなたがその分譲マンションのオーナーだったとすると、通常の場合、あなたが所有しているのは、そのマンションの所有権(区分所有権)と、その土地の100分の1の持分権です。そして、あなたがそのマンション(所有権)を誰かに売るのは自由ですよね。そして、あなたがそのマンション(所有権)を誰かに売れば、当然それに伴ってその持分権も一緒に売られることになりますが、その際、他の99人のオーナーの承諾はいらないですよね。
 これが「共有持分権の法的性質は所有権」の具体例と説明になります。共有持分権の法的性質、そのイメージは掴んでいただけたかと存じます。

共有物全体について

 続いては、共有物全体の問題「共有物の使用方法・変更・管理」について、解説して参ります。

共有物の使用
車
 例えば、1台の車をA・B・Cの3人で共有しているとします。そしてA・B・Cの持ち分はそれぞれ3分の1ずつです。この場合、3人の共有物である車の使用方法は一体どうなるのでしょうか?

(共有物の使用)
民法249条
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。


 共有物の使用について、民法では上記のような規定を置いています。
 しかし、どうでしょう。正直これだとよくわからないですよね。まさか、車(共有物)を使用するときは常に「ABC3人一緒に仲良くドライブ♫」という訳にもいかないでしょう。
 結局、車(共有物)の使用方法はどうなるの?
 これについては、結局、A・B・Cの3人の協議(話し合い)で決めることになります。
 したがって、共有物の使用方法については一概には言えず、協議による決定内容によって変わってきます。

共有物の変更

 続いて、共有物の車全部を第三者に売る場合について考えて参ります。
 これについて、民法では下記の規定を置いています。

(共有物の変更)
民法251条
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。


「変更」という言葉がわかりづらいと思いますが、共有物の売買は、共有物の「変更」にあたります(農地転用などの地目変更もこの「変更」に含まれます)。
 したがって、共有物の車の売買は、民法251条(共有物の変更)の規定が適用されます。
 また、条文中の「他の共有者の同意を得なければ」というのは、共有者全員の意思表示が必要という意味です。
 ということなので、3人の共有物である車全部を売る場合は、ABC3人全員の「売る」という意思表示が必要になります。
 3人全員が売るという意思を示さない限りは、売ることはできません。

共有物の管理

 続いて、共有物の車を第三者に賃貸する(貸す)場合について、考えて参ります。
 これについて、民法では下記の規定を置いています。

(共有物の管理)
民法252条
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。


 条文中の「管理」という言葉には、共有物の賃貸も含まれます。ですので、共有物を賃貸するには、各共有者の持分の価格に従って、その過半数で決定するということです。株主総会の決議に似てますね。
 したがって、共有物の車を第三者に賃貸する場合は、ABCの持分はそれぞれ3分の1ずつですので、3人中2人の賛成で車の賃貸をすることが可能です。

共有物の保存、解除権の不可分性の例外

 共有物を売る場合、共有者全員の意思表示か必要です(共有物の変更)。
 共有物を賃貸する場合、共有者の持分の価格に従い、その過半数の賛成が必要です(共有物の管理)。
 では、共有物が不法占拠されていた場合は、一体どうなるのでしょうか?

共有物の保存

 例えば、一台の車をA・B・Cの3人で共有していて、持ち分はそれぞれ3分の1だった場合に、その共有物である車が第三者に不法占拠されたとき、共有者の意思は、どのように決められるのでしょうか?

民法249条
保存行為は、各共有者がすることができる。


「保存行為」という言葉がピンと来づらいと思いますが不法占拠されている物を取り戻すこと」は保存行為になります(ちなみに自動車の修理なども保存行為です)。
「各共有者がすることができる」というのは、各共有者が1人でできるという意味です。つまり、共有物が不法占拠された場合、各共有者がそれぞれ単独で、共有物全体についての返還請求権を行使することができます。
 したがいまして、共有物の車が第三者に不法占拠された場合、ABCの3人は、それぞれが単独で、不法占拠者に対して返還請求をすることができます。

【保存行為の補足】
 なお、保存行為には次のようなものもあります。
・共有物への妨害排除請求
 例→共有地(土地)上の不法建築物の撤去請求など
・不法な登記名義の抹消
 例→すでに消滅した抵当権の抹消登記請求など

共有物の賃貸借契約の解除

 先ほども解説いたしましたが、共有物の賃貸を行うには、各持分の価格に従い、その過半数の賛成が必要です。3人でそれぞれ3分の1ずつの持分で共有している共有物を賃貸するなら、2人以上の賛成が必要です。
 さて、それでは、賃貸している共有物の賃貸借契約を解除する場合は、どうなるのでしょうか?
 共有物の賃貸借契約の解除は、民法252条(共有物の管理)に含まれます。
 つまり、共有物の賃貸借契約を解除する場合は、共有物を賃貸する場合と一緒で、各持分の価格に従い、その過半数の賛成が必要です。例えば、3人で持分3分の1ずつで不動産を共有していて、その不動産を賃貸している場合、その不動産の賃貸借契約を解除する際は、2人以上の賛成が必要ということです。

解除権の不可分性の例外

 本来、解除権は分けることができません(解除権の不可分性)。それは下記の条文で規定されています。

(解除権の不可分性)
民法544条
当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。


 なぜ民法で、このように解除権の不可分性を定めているかの理由は、一部の者のみの解除を認めるとその後の法律関係が複雑になるので、その事態を避けるため、とされています。
 しかし、共有物の賃貸借契約の解除については、その例外なのです。この点は試験ではよく問われるものなので、資格試験等で民法の学習をされている方は、覚えておいてください。
ここポイント
 なお、共有物を売却した後に、売買契約を解除する場合は、共有者全員の合意が必要になります。こちらは同じ解除でも、売買契約の解除なので「共有物の管理」ではなく「共有物の変更」に該当し、共有者全員の合意が必要になるということです。
 この点も併せて覚えておいてください。

共有の補足~持分権の主張、共有物の明渡し請求等

持分権の主張

 共有者が、その持分権を処分・主張するのは自由です。
 また、持分権の取得時効を主張することもできます(つまり持分権を時効取得することも可能ということ)。その場合は他の共有者は無関係です。
  さて、持分権の処分といえば売買や担保設定がありますが、持分権の主張というと、一体どのような場合があるのでしょうか?

【持分確認請求権】
 これは、他の共有者または第三者に対して、自己の持分権の確認を求める権利です。

【持分権の登記請求】
 これは、他の共有者または第三者に対して、自己の持分権の登記を求める権利です。

【持分権による時効の中段】

 共有物が第三者に占有されていて時効取得されそうな場合に、共有者は「自己の持分のみ」の時効を中断することができます。
「自己の持分のみ」ということは、その中断の効果他の共有者の持分には及びません。例えば、ABCの共有物が占有されていて、Aの持分の時効が中断しても、BCの持分の時効は中断しないということです。もし共有物全体、つまり共有物の所有権全体について時効の中段をするには、共有者全員(ABC三人全員)で請求しなければなりません。

【持分権による損害賠償】

 共有物の侵害につき、持分に応じた損害賠償請求ができます。
 ただし、あくまで各共有者が自己の持分に応じた損害賠償請求をできるのであって、他の共有者の持分の分まで賠償請求することはできません。
 なお、損害賠償請求は金銭での賠償を求めるものですが、金銭債権は当然に分割することが可能です。ですので、持分に応じて分割した賠償請求ができるのです。

共有物の占有の明渡し請求

 共有物の使用方法は共有者間の協議によって決められます。
 ところが、なんと、協議によらないで一人の共有者が勝手に共有物を占有してしまっていた場合、他の共有者は、勝手に一人で占有している共有者に対して「勝手に何やってるんだ!明け渡せ!」と、当然に明渡し請求をすることはできません。
 これについては「なんで?」となりますよね、ちょっと納得し難いですよね。しかし、これは判例でこのようになっています。そして、ここは試験などで問われやすい箇所です。したがって、資格試験等で民法の学習をしていらっしゃる方は、納得し難いかとは思いますが、このことは強引に覚えてしまってください。
 なお、このような問題を解決するには「共有物の分割」を求めていくことになるのですが、それについては別途解説いたします。

【持分の推定規定】
 各共有者の持分が不明な場合は、民法250条の規定により、その持分は相等しいものと推定されます。ただし、これは「みなす」ではなく「推定」なので、後になって各持分が変わる可能性はあります(推定の反証可能性)。

【準共有】
 所有権以外の財産を共有することを準共有と言います。例えば、抵当権の準共有、地上権の準共有、といったものがあります。
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強行法規と任意法規とは?その意味と違い/民法の基本原則:契約自由の原則について

▼この記事でわかること
強行法規とは
任意法規とは
契約自由の原則について
強行法規と任意法規では効力が違う
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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強行法規と任意法規

 さて、いきなり強行法規と任意法規と言われても、何が何だかって感じですよね。
 実際、一般的に馴染みもない言葉だと思います。
 しかし、法律について考えるとき、この強行法規と任意法規というものは非常に重要なのです。
 なぜ重要かと言いますと、実際にその法律が我々にどういう効果をもたらすか、という問題に直結するからです。
 え?それヤバくね?
 はい。ヤバいです。ですので、今から解説いたします。

強行法規とは

 強行法規とは、問答無用に適用される法規です。
 は?ですよね(笑)。はい。今からもっとわかりやすく噛み砕いてご解説します。
 詐欺強迫についての解説記事でも触れましたが。その際に、「詐欺取り消されるまでは有効」強迫無効そもそも成立すらしていない」という解説をいたしました。この強迫に関する無効の規定こそ、強行法規と呼ばれるものです。
 強迫による契約は無効、つまり、そもそも成立すらしないですよね。そもそも成立すらしない、というのは問答無用で無効、という事ですよね。それが強行法規というものです。

任意法規とは

 強行法規の説明で、詐欺と強迫のお話をいたしました。そして、強迫による契約無効の規定は強行法規だ、と申し上げました。
 あれ?じゃあ詐欺の契約は?
 はい。実は、この詐欺の契約のように、取り消されるまで有効な契約は、任意法規に属するものになります(詐欺も、あまりに悪質なものであったりなど、場合によっては公序良俗違反で無効になることもありますのであしからず。公序良俗についてはまた改めて解説します)。

契約自由の原則
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 ここで一度、民法の基本原則に立ち返ります。
 民法には、契約自由の原則という基本原則があります。
 この「契約自由の原則」という言葉からわかるように、基本的に契約というものは自由に決められます。それを民法は基本原則としています。
 つまり、民法先生は、基本的には我々に対し「自由にやったらええがな」という立場を取ります。
 したがいまして、我々は契約の内容を自由に決めることができ自由に契約を結べるのですそれにより円滑な取引が実現し、ひいては経済の発展にも繋がるのです。
 ただし!何でもかんでも自由に決められる訳ではありません。なぜなら、本当に何でもかんでも自由に決められてしまうと、不備が生じてしまうからです。
 例えば、赤ん坊がバブバブ言って契約が成立しちゃったらオカシイですよね?コワ~イおにいさんが出てきて「テメー、ハンコ押さなかったらどうなるかわかってるよな?」なんて契約アリですか?メルカリで臓器の売買できますか?全部ナシですよね。
 ということなので、強行法規という形で、契約の自由に一定の制約を与えています。

強行法規と任意法規では効力が違う

 まとめると、強行法規は問答無用で適用され、任意法規は自由に内容を決められ自由に決められた内容によって適用されるものです。
 強迫による規定は強行法規なので、強迫による契約は問答無用で無効になります。
 詐欺による規定は強行法規ではないので、詐欺による契約は取り消すまでは有効になります。取り消すまでは有効という事は、自由に契約の内容を決めて、問題がなければ互いの合意で成立します。それが任意法規です。詐欺などの問題があれば、後に取消しの話になる、という事です。
女性講師
 強行法規と任意法規、おわかりになりましたでしょうか。
 民法初学者の方は、まだ今ひとつわからないかもしれません。ですが、これから民法の学習を進めていく中で、次第に掴めていきますので、徐々にご理解お深めいただければと存じます。
 そして、最後にひとつだけ申し上げておきたいことがごさいます。
 今現在、もし契約関係のトラブルを抱えている方は、その契約の内容が強行法規に触れる内容なのかどうか、そこは注意してください。もし強行法規に触れるものであれば、そもそも成立すらしていない可能性もあります。
 逆に強行法規に触れていないのであれば、任意法規という事で、取り消すまでは有効に成立するもので、取り消すにしても何かしらの要件を満たすなど、立証が必要だったりしますので、ご注意ください。
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「時」と「とき」・「無効」と「取消し」、その違いとは?

▼この記事でわかること
「時」と「とき」の違い
「無効」と「取消し」の違い
無効についてさらに詳しく
取消しについてさらに詳しく
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 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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「時」と「とき」、「無効」と「取消し」

 ここでは、当サイトでも頻繁に登場する「時」と「とき」そして「無効」と「取消し」について、法律ならではの言葉の使い方・使い分けとその意味を、わかりやすく簡単に解説します。

「時」と「とき」の違い

 法学部出身の方や法務に携わる方などにとってはとても基本的な事になると思いますが、そうでない方にとっては馴染みのない、法律の世界ならではの言葉の使い分けというものがございます。
 そのひとつが「時」と「とき」です。
 実はこの「時」と「とき」は、法律の世界では使い分けされています。では一体どのように使い分けされているのでしょう。

 まず「時」ですが、これは「時点」という意味です。
 バッターが構えた「時」、ピッチャーがボールを投げた「時」というような感じです。
 それに対して「とき」「場合」あるいは「シチュエーション」というような意味です。
 ツーアウト満塁の「とき」、ツーストライクスリーボールの「とき」というような感じです。
 野球がわからない方もいらっしゃると思いますので、恋愛に例えてみましょう。手を繋いだ「時」、映画館デートに行った「とき」というような感じです(笑)。
 おわかりになりましたでしょうか。
 この「時」と「とき」の使い分けを知った上で法律の文章を読むと、法解釈が今までと少し違ってくるかもしれません。
 
「無効」と「取消し」の違い

 無効という言葉も、当サイトで何度も登場しています。無効という言葉自体の問題も特にないと思います。
 では、無効と取消しの違いは、おわかりになりますでしょうか。
 法律の世界では、無効と取消しは、区別されて使われています。
 それでは、ひとつひとつ、解説して参ります。

 まず無効ですが、民法上の無効とは「始めから成立すらしていない」という意味です。
 ですので、その契約は無効だといったら、そもそもその契約は、始めから何の形も成していない、という事です。
 繰り返しますが、無効のものは、そもそも成立すらしていませんので、始めから何の形も成していないんです。ですので、無効の契約というのは、始めから成り立っていない契約なのです。無効のものは、始めから終わりまでゼロです。
 まずここを覚えておいてください。

 一方、取消し「一度有効になったものをナシにする」という意味です。
 この「一度有効になった」というところがポイントです。無効の場合は、始めからそもそも成立すらしていないのですが、取消しの場合は、一度有効になったものが、何らかの理由により取り消されてゼロになるだけです。
 取り消されて初めてナシになるということは、取り消されない限りは有効に成立します。
女性講師
無効についてさらに詳しく

 ここまでの説明だけでも、おわかりになるかもしれませんが、念のため、もう少し噛み砕いてご説明いたします。
 無効な契約は、最初から成り立っていません。成り立っているように見えるだけで、実態のない契約です。つまり、無効の契約というのは「契約というカゴの中に何も入っていない契約」という事になります。カラッぽの契約という事です。
 具体例を挙げると、強迫で結ばされた契約が、まさにこれです。強迫によって強引に結ばされた契約は無効な契約です。そんな契約はそもそも法的に成立しません。もし、そうした形で結んだ契約でモメているのなら、そもそもその契約は成立すらしていませんのでご注意ください。 
 繰り返しますが、無効の契約は「契約というカゴの中に何も入っていない」というイメージで覚えておいてください。

取消しについてさらに詳しく

 取り消せる契約というのは、取り消されるまでは有効に成立しています。
 取り消さなければ、普通に契約として存続します。つまり、「契約というカゴの中に一応モノが入っている契約」になります。
 具体例を挙げると、詐欺による契約がこれになります。
 詐欺で結ばされた契約は、実は取り消すまでは有効な契約なんです。なぜ世の中から詐欺がなくならないのか、これでわかりますよね。実は民法上そのようになっているのです。
 あと、細かい話ですが、取消しと書いた場合は名詞で、取り消しと書いた場合は動詞になります。 

 無効と取消しの違い、おわかりになりましたでしょうか。
 無効と取消しという言葉は、民法の学習をするかぎり避けて通れませんので、ここでの話を覚えておいていただければと存じます。
 他にも、法律ならではの言葉の使い分けは色々ございますが、今回はここで締めます。
 今後もこのような法律用語解説は、必要となり次第行って参ります。
 なお、「強迫」について詳しくはこちらの記事を、「詐欺」について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
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原則と例外と要件

▼この記事でわかること
要件とは
原則と例外とは
原則から考え例外を考える。変な近道は控えるべし!
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 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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原則と例外と要件

 動機の錯語についての記事でも少し触れてますが、ここでは原則例外、加えて要件とは何なのか?についてわかりやすく簡単に解説します。

要件とは

 これは簡単です。わかりやすく錯誤の例でご説明するとこうです。
 要素の錯誤は取消しを主張できます。要素の錯誤とは、りんごだと思ってみかんを買ってしまったような場合です。そのような場合、要素の錯誤による取消しを主張して、その売買契約(みかんを買ってしまったこと)をなかった事にできます。しかし、この要素の錯誤を主張するには、表意者に重過失、つまり本人に重大なミスがないことが必要です。この「表意者に重過失がないこと」分かりやすく言うと「本人に重大なミスがないこと」が要件になります。この要件を満たして初めて錯誤の無効の主張ができます。
 要件、お分かりになりましたかね。よく犯罪の構成要件なんて言葉を耳にする事があると思いますが、あれも要するに、これらの要件を満たしたときに犯罪が成立する、ということです。犯罪を構成する要件、つまり犯罪が成立するための要件、という事です。

原則と例外とは

 続いては、原則と例外についてです。これも理解しやすい内容だと思います。
 話を再び錯語について戻しますと、錯誤の無効の主張は、要素の錯誤の無効の主張しかできません。動機の錯誤の無効の主張は認められません。これが原則です。
 ただ、ここで原則について注意していただきたい事がございます。原則というのは絶対という意味ではありません。意味としては、日常会話で使う言葉で例えると「基本的には」みたいなニュアンスです。例えば「基本的に怒らない人」がいたとします。でもこの人は「絶対怒らない人」ではないですよね。つまりこの人は民法的にいうと「原則怒らない人」です(笑)。そして、この「基本的に怒らない人=原則怒らない人」も怒るときがあります。それが「例外」です。
 原則と例外、お分かりになりましたよね。

原則から考え例外を考える。変な近道は控えるべし!

 法律を考えるときは必ず、原則から考えて例外を考えます。原則があって例外があるのです。その逆はありません。
 これは単純な話ではありますが、大事なことです。これから資格試験等に向けて民法の学習をされる方は、この「原則から考えて例外を考える」を忘れないでください。この事を忘れて、原則も分かっていないのに例外を考えて勉強しようとすると、訳が分からなくなり、簡単な問題も解けなくなってしまいます。

 私は、民法の学習に関しては変な近道をしようとしない方がいいと考えます。原則を考えてから例外を考える、という順序をしっかり守っていただくことは、結果的に勉強成果にも影響します。
 何事も基礎が大事です。それは民法を考える上でも、正しいリーガルマインドを身につける上でも重要な事です。
 ですので、時には遠回りに感じて面倒臭くなるときもあると思いますが、そんな時こそ、基礎を大事に地に足をつけてじっくり取り組んでいただきたいと存じます。
 そして、基礎をある程度マスターしたら、そこからはウマイことやっていけばいいんです。これは何も民法の学習だけでなく、仕事や他の色々な事についても当てはまることではないでしょうか。
 繰り返しますが、基礎はとても大事です。ですので、面倒臭がらず焦らずに臨むことです。
 かの伝説のプロレスラー、天龍源一郎はこう言っていました。一番大事なのは「辛抱」だと。。。
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一括競売~土地の競売価格下落の防止と社会経済的な損失の防止とは?一括競売制度の意味

▼この記事でわかること
一括競売の超基本
制度の意味~土地の競売価格下落の防止と社会経済的な損失の防止とは
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一括競売

 更地に抵当権を設定した後に、土地所有者が建物を建築した場合、抵当権が実行されても法定地上権は成立しません。抵当権設定時には土地上に建物がないので、法定地上権成立の要件を満たさないからです。(これについて詳しくはこちらをご覧下さい)。抵当権者は、更地として評価した土地に抵当権を設定しているので、その担保価値への期待を裏切ったことになる土地所有者に対して建物の収去請求ができ、更地の状態に戻す事ができます。
 そして、民法は、抵当権者に建物の収去請求以外に、もう1つの手段を与えました。
 それが、今回のテーマである一括競売です。

(抵当地の上の建物の競売)
民法389条
抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。


 なんと抵当権者は、抵当権設定後の更地に建物が築造されてしまった場合は、抵当権を実行するときに、土地とまとめてその建物も一緒に競売にかけてしまうことができます。これが一括競売です。
 これは中々パワフルな規定と言えます。いくら抵当権を設定した更地に建物が建てられてしまったとはいえ、抵当権を設定していない建物までまとめて競売にかけてしまえるわけですから。
 
なぜ民法はこんなパワフルな規定を置いたのか
ここがポイント女性
 これには2つの理由が考えられます。

【土地の競売価格下落の防止】
 ひとつは、土地の競売価格下落の防止です。
 法定地上権が成立しなければ底地にはなりません。しかし、土地だけを競売した場合、結局、建物の収去問題が生じることは目に見えています。そして、実際に建物の収去請求をするとなると「裁判をした上で強制執行」となってしまうかもしれません。
 つまり、そのような「面倒事を抱えた土地」ということで、底地までの価格下落はないにせよ、事実上、ある程度の競売価格の下落は避けらなくなってしまいます。
 そこで、その救済処置として民法389条により、土地と建物の一括競売を認めたということです。

【社会経済的な損失の防止】
 そして、もうひとつの理由は、社会経済的な損失の防止です。
 建物の収去問題が生じるということは、せっかく建てられた建物を取り壊さなくてはならなくなり、そのような問題が全国各地で起こってしまうと、それは社会経済的な損失となり、我が国の経済の発展を阻害することにもなってしまいかねません。
 そこで、民法389条により一括競売を認めた、ということです。

 なお、一括競売しても、抵当権者が優先弁済を受けられるのは土地の競売代金だけです。なぜなら、抵当権を設定しているのはあくまで土地だけだからです。
 では建物の競売代金はどこにいくのかといえば、建物の所有者の手に渡ります(それを他の債権者が差し押さえればその者の手に渡るが...)。

 ちなみに、抵当権者が実際に一括競売という手段を講じるかどうかは、抵当権者の自由です。
 一括競売という手段は、抵当権者の権利であって義務ではありません。
 ですので、一括競売できる状況になった場合でも、土地だけを競売にかけることは可能です。

【補足】
 民法389条では「抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは」とありますが、そこに「誰が」という主語は記載されていません。これはつまり「誰が抵当地に建物を築造したとしても一括競売は可能」という含みを残しているということです。
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不動産が共有の場合の法定地上権

▼この記事でわかること
建物が共有の場合の法定地上権
土地が共有の場合の法定地上権
土地と建物が共有の場合の法定地上権
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共有不動産の法定地上権

 不動産が複数の者による共有の場合、法定地上権の成立はどうなるのでしょう?

建物が共有の場合

事例1
A所有の土地上に、AB共有の建物がある。Aは土地に抵当権を設定した。


 いきなり事例から始まりましたが、さて、この事例1で抵当権が実行されると、法定地上権は成立するでしょうか?
 結論。法定地上権は成立します。
 まず、この事例1で、土地はA単独の所有ですが、建物はAB共有となっています。しかし、建物の共有者Bの意思とは無関係に、つまり、AはAの意思だけでAB共有の土地に抵当権を設定することができます。
 それってBに不都合は生じないの?
 そこが重要なポイントで、共有者Bの意思とは無関係にAは土地に抵当権を設定できるので、何らかの形で共有者Bを保護する必要があります。そこで判例では、このようなケースで抵当権が実行された場合に、法定地上権が成立をすることを認めました。
 というのは、このケースでの法定地上権の成立は、建物の共有者Bにとってもありがたい話だからです。なぜなら、建物に地上権という強力な権利が付着することになるからです。それは結果的に、建物の共有者Bの保護にも繋がるというわけです。

事例2
A所有の土地上に、AB共有の建物がある。そして、建物のA持分のみに抵当権が設定された。


 さて、では続いて、この事例2で、抵当権が実行されると法定地上権は成立するのでしょうか?
 結論。法定地上権は成立します。
 この事例2の理屈は、事例1とまったく同じです。
 Aは建物の共有者Bの意思とは無関係に、建物のA持分に抵当権を設定できます。しかし、いざ抵当権が実行されても法定地上権が成立するので、共有者Bが困ることにはなりません。

土地が共有の場合

事例3
AB共有の土地上に、A所有の建物がある。そして、土地のA持分のみに抵当権が設定された。


 続いて、ここからは土地が共有のケースになります。
 さて、ではこの事例3で、抵当権が実行されると法定地上権は成立するのでしょうか?
 結論。この場合、法定地上権は成立しません。なぜなら、この事例3で法定地上権が成立してしまうと、土地の共有者Bが困ってしまうからです。
 土地の所有者にとって、法定地上権はハッキリ言って邪魔な存在です。Aが自分の持分に設定した抵当権の実行によって法定地上権が成立してしまうのは、Aにとっては仕方のないことでしょう。原因がA自身にありますから。しかし、共有者Bからすれば、Aの都合で勝手に法定地上権という邪魔なものが設定されてしまうことになります。それは不公平ですよね。
 したがいまして、この事例3のケースでは、共有者Bの権利の保護ためにも、法定地上権が成立しないのです。

事例4
AB共有の土地上に、A所有の建物がある。そして、建物に抵当権が設定された。


 さて、それではこの事例4では、法定地上権は成立するのでしょうか?
 結論。この場合も法定地上権は成立しません。理屈は事例3とまったく同じです。このケースで法定地上権が成立してしまうと、共有者Bにとって不公平だからです。

土地と建物が共有の場合

事例5
AB共有の土地上に、AB共有の建物がある。そして、土地のA持分のみに抵当権が設定された。


 今度は、土地と建物の両方がAB共有というケースです。
 さて、ではこの事例5の場合、抵当権が実行されると、法定地上権は成立するのでしょうか?
 結論。このケースでは法定地上権は成立しません。
 理屈としてはこうです。元々、地上権は土地共有者の持分上に存続できません。
 どういう意味?
 要するに、土地共有者全員の意思に基づかないで(事例5で言えばAB両者の意思に基づかないで)法定地上権が成立するのはオカシイ、という理屈です。
 はぁ?
 そうなりますよね。ハッキリ言ってこの理屈、わかりづらいと思います。ですので、この事例5のようなケースでは法定地上権は成立しない!という結論の部分だけ強引に覚えてしまってください。民法の学習も恋愛も、ときには強引さも必要なのです...失礼しました。

【補足】
 法定地上権が成立しても、その登記は当事者の申請によります。勝手に登記されるわけではありません。この点もご注意ください。
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2番抵当権が絡んだケースでの法定地上権の成立はどうなるのか

この記事でわかること
抵当権順位の基本
土地に2番抵当権のケース
建物に2番抵当権のケース
更地に1番抵当権設定後、築造された建物に2番抵当権のケース
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 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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2番抵当権が絡んだときの法定地上権
抵当権順位の基本

 ひとつの不動産に複数の抵当権を設定することもできます。
 その場合「1番抵当権」「2番抵当権」というように、各抵当権には順位が付きます。順位が付くということは、順位が高い抵当権ほど優先的に被担保債権の弁済を受けられます。
 なお、順位は付きますが、1番抵当権よりも先に2番抵当権を実行することは可能です。
 ただし、2番抵当権が先に実行されても、優先的に被担保債権の弁済を受けるのは1番抵当権者です。
 どういうことかと言いますと、例えば、3000万円の土地に1番抵当権、2番抵当権が設定されて、1番抵当権者の被担保債権の額が1000万円、2番抵当権者の被担保債権の額が500万円だったとします。この場合に、2番抵当権が先に実行されると、土地が競売にかけられ、その売却代金から2番抵当権者は被担保債権の弁済を受けますが、先に1番抵当権者の被担保債権1000万円の弁済に充ててから、残りの売却代金から2番抵当権者は被担保債権の弁済を受けます。
 つまり、2番抵当権が先に実行されても、先に被担保債権の弁済を受けるのは1番抵当権者になります。

 以上が、ひとつの不動産に複数の抵当権が設定できることについての簡単な説明になります。
 とりあえず、ここで覚えておいていただきたいことは、ひとつの不動産に1番抵当権、2番抵当権と設定された場合に、先に2番抵当権を実行することもできるということです。
 この点を押さえた上で、ここからは、不動産に1番抵当権、2番抵当権と設定されたケースでの、法定地上権の問題について解説して参ります(法定地上権の基本について詳しくはこちら)。

土地に2番抵当権

 まずはこちらの事例をご覧ください。

事例1
A所有の甲土地上に、B所有の乙建物がある。Cは甲土地に1番抵当権を設定した。その後、AはBから乙建物を取得した。その後、Dが甲土地に2番抵当権を設定した。


 これは、若干ややこしく感じる事例かもしれません。ですので、まずはこの事例1の流れと状況を整理・確認します。

B所有
 ⇩
乙建物
甲土地←1番抵当権(C)
 ⇧
A所有

その後、Aが乙建物を取得
Dが甲土地に2番抵当権を設定

A所有
 ⇩
乙建物
甲土地←1番抵当権(C)
 ⇧ ↖
A所有 2番抵当権(D)

 以上が、事例1の流れ・状況になります。
 さて、ではこの事例1で、Cが1番抵当権を実行した場合、法定地上権は成立するでしょうか?
 法定地上権が成立するための要件は以下になります。

1・抵当権設定時に土地上に建物が存在すること
2・抵当権設定時に土地と建物が同一の所有者に属すること
3・土地か建物のどちらか、または両方に抵当権がされること
4・所有者が競売により異なるに至ること

 以上の4要件すべてを満たして法定地上権が成立します。では、事例1はどうなのか?
 Cが甲土地に1番抵当権を設定した時、甲土地と乙建物の所有者は同一ではありませんので、2の要件「抵当権設定時に土地と建物が同一の所有者に属すること」を満たしていません。しかし、2番抵当権を設定した時は、甲土地と乙建物の所有者は同一になっています。
 さて、結果はどうなるのか?
 結論。Cが1番抵当権を実行しても、法定地上権は成立しません。なぜなら、1番抵当権の設定した時には、甲土地と乙建物の所有者が異なるからです。たとえ2番抵当権が設定された時に土地と建物が同一の所有者となっていても、それは1番抵当権には関係ありません。
 なお、この事例1で、Dが2番抵当権を実行した場合は、法定地上権が成立します。なぜなら、2番抵当権を設定した時は、土地と建物の所有者が同一なので、法定地上権の成立要件を満たしているからです。

建物に2番抵当権

 続いてはこちらの事例をご覧ください。

事例2
A所有の甲土地上に、B所有の乙建物がある。Cは乙建物に1番抵当権を設定した。その後、AはBから甲土地を取得した。その後、Dが乙建物に2番抵当権を設定した。


 まずは、この事例2の流れ・状況を確認します。

B所有
 ⇩
乙建物
甲土地←1番抵当権(C)
 ⇧
A所有

その後、Aが乙建物を取得
Dが甲土地に2番抵当権を設定

A所有
 ⇩
乙建物
甲土地←1番抵当権(C)
 ⇧ ↖
A所有 2番抵当権(D

 さて、ではこの事例2で、Dが2番抵当権を実行した場合、法定地上権は成立するでしょうか?
 結論。Dが2番抵当権を実行すると、法定地上権は成立します。なぜなら、2番抵当権が設定された時は、土地と建物の所有者が同一だからです。

【1番抵当権者Aは困らないのか】
考え中
 実は、2番抵当権が実行されたことにより法定地上権が成立するのは、1番抵当権者Aにとってもありがたい話です。
 なぜなら、1番抵当権を設定している乙建物に法定地上権が設定されるということは、乙建物には地上権という強力な土地利用権が付着することになるからです。それは乙建物の担保価値の増大にも繋がります。担保価値の増大に繋がるということは、競売時の売却金額の上昇にも繋がり、被担保債権の弁済にも繋がるというわけです。ですので、1番抵当権者Aにとってもありがたい話なのです。
 なお、Cが1番抵当権を実行しても法定地上権は成立しません。なぜなら、1番抵当権設定時には甲土地と乙建物の所有者が別なので、法定地上権成立の要件を満たさないからです。たとえ2番抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一になっても、それは1番抵当権の法定地上権には関係ありません。

更地に1番抵当権設定後、築造された建物に2番抵当権

 最後にこちらの事例をご覧ください。

事例3
A所有の甲土地(更地)がある。Bは甲土地に1番抵当権を設定した。その後、Aは甲土地上に乙建物を建造した。そしてCが甲土地に2番抵当権を設定した。


 さて、この事例3で、Bの1番抵当権が実行された場合、法定地上権は成立するでしょうか?
 結論。Bの1番抵当権が実行されても、法定地上権は成立しません。なぜなら、Bの1番抵当権が設定されたのは、甲土地上に乙建物を建造する前だからです。つまり、1番抵当権設定時には、土地上には建物が存在しないのです。ということは、法定地上権が成立するための要件のひとつ「抵当権設定時に土地上に建物が存在すること」を満たしていません。
 したがいまして、Aの1番抵当権が実行されても、法定地上権は成立しないのです。
 また、元々Aが抵当権を設定したのは更地の甲土地です。土地は更地の状態がもっとも価値が上がります。それに比べて、地上権が設定された土地の価値はかなり下がります。
 つまり、1番抵当権が実行されて法定地上権が成立してしまうと、1番抵当権者Aの権利を害することになります。そういった意味でも、1番抵当権の実行による法定地上権の成立はナシなのです。
 なお、Cが2番抵当権を実行した場合は、法定地上権が成立します。なぜなら、2番抵当権が設定された時は土地と建物の所有者が同一だからです。
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法定地上権の超基本と4つの成立要件/要件を満たしても法定地上権が成立しない共同担保のケースとは

▼この記事でわかること
法定地上権の超基本
コラム~更地と底地とは
法定地上権が成立する場合の土地買受人の地位と抵当権者
法定地上権の要件
要件を満たしても法定地上権が成立しない場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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法定地上権の基本

 法定地上権とは、一定の要件を満たすと、法律の定めにより自動的に設定される(発生する)地上権です。
 それでは、事例とともに法定地上権について解説して参ります。

事例1
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBは建物に抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、抵当権が実行され、競売によりCが建物を取得した。


 この事例で、抵当権を設定した時の土地と建物の所有者はBです。
 ところが、抵当権が実行されて、競売によりCが建物を取得すると

土地の所有者→B
建物の所有者→C

となります。
 それの何が問題なの?
 確かにこれだけ見れば何も問題ありませんね。
 ただ、よく考えてみてください。抵当権を設定した時、土地と建物の所有権は両方ともBのものでした。ということは、土地利用権(借地権)は設定されていません。当たり前ですよね。土地もBの自己所有ですから。
 となると、抵当権が設定されたのは建物のみなので、抵当権の効力は建物だけ、すなわち「建物の所有権」だけに及びます。
 ということは、競売により建物を取得したCには、建物の所有権はあっても土地の利用権はない、ということになります。
 するとCは、B所有の土地上に土地利用権なく建物を所有していることになります。これは、土地の不法占拠者ということになってしまいます。
 そして、不法占拠者となってしまったCには建物の収去義務が生じ、土地の所有者Bから土地の引渡し請求を受けてしまうことになります。
 これって、どう思います?ハッキリ言って、かなり問題アリですよね。こんな結果になってしまうのであれば、競売によってCが建物を取得する意味がありません。そもそも、こんな結果になるなら誰も競売に手を出さなくなります。
 そうなると、競売に出された建物にはロクな値段がつかなくなります。すると、もはや建物を担保とする抵当権自体が意味のないものになってしまいます。
 さらに、問題はそれだけではありません。
 もし競売により取得した建物を収去しなければならないとなると、全国の競売取得の建物が取り壊される事になり兼ねません。それは、社会経済的に大きな損失であり、我が国の経済の発展を阻害することににも繋がります。
 そこで!大変お待たせいたしました、いよいよ、法定地上権の登場となります。
 民法では、このような事態を解消するため、法定地上権の規定を置きました。その規定により、事例のCは、競売により建物を取得すると、自動的に土地の地上権が設定されます。すると、Cは土地の不法占拠者ではなくなり、土地の地上権者として堂々と建物を所有し、利用することができます。
 以上が、法定地上権の基本の基本になります。まずはここをしっかり押さえてください。

ちょこっとコラム
~更地と底地~

空地
 建造物等の上物が無い状態の土地(簡単に言えばまっさらな土地)を更地と言います。
 一般に、土地の価値は、更地(さらち)が一番高いです。
 一方、土地利用権(借地権)の付着した土地を底地(そこち)と言います。
 底地の価値は更地に比べて格段に下がります。なぜなら、底地は所有者自身で利用できないからです。
 そして、事例1のような競売の買受人Cに自動で法定地上権が設置されるということは、地には底地の価値しか残らないということです。そして、同じ借地権でも地上権は賃借権よりもかなり強い権利です(この点について詳しくはこちらをご覧ください)。
 したがって、法定地上権が自動で成立するということは、抵当権者および買受人に非常に有利で、抵当権設定者(土地の所有者)には不利ということになります。
 こういった点においても、抵当権の強さが表れていると言えるでしょう。

土地のみに抵当権を設定した場合

 それでは続いて、土地と建物のうち、土地のみに抵当権が設定され、抵当権が実行された場合はどうなるのでしょうか?

事例2
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBは、土地に抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。


 この事例2では、競売によりCが甲土地を取得したことにより

土地の所有者→C
建物の所有者→B

となります。
 さて、ではこの事例の場合、建物の所有者Bのために、法定地上権は成立するでしょうか?
 もし、法定地上権が成立しないとなると、競売でCが土地の所有権を取得したことにより、Bは土地の利用権なく土地上に建物を所有していることになり、不法占拠者となってしまいます。不法占拠者となってしまうということは、建物の収去義務が生じ、Cに土地の収去請求をされたら、建物を取り壊さなければならなくなります。
 さて、Bの運命やいかに?
 結論。この事例2で、Bのために法定地上権は成立します。理由は、社会経済的な損失の防止です。
 土地の所有権が競売により他人のものになる度に、その土地上の建物を取り壊していたら、それは社会経済上よろしくありません。ひいては我が国の経済の発展を阻害します。
 よってBは、競売によりCが土地の所有権を取得した後も、法定地上権が自動的に設定されることにより、問題なく土地上の建物を使い続けることができます。

法定地上権が成立する場合の土地買受人(事例のC)の地位

 さて、事例2で法定地上権が成立するとなると、競売により土地を買い受けたCは困らないのでしょうか?
 というのも、Bのために法定地上権が成立するということは、せっかくCは土地を買い受けたのに、自分で土地を利用できないことになります。つまり、Cは土地利用権のない、いわゆる底地を買い受けたことになります。それはCにとって問題ないのでしょうか?
 実は、それについては問題ありません。なぜなら、そんなことはわかった上で、Cは土地を買い受けているはずだからです。
 というのも、そんな事情がある土地は、底地として相当に叩かれた破格の値段で競売にかけられているはずです。ですので、そんな事情に見合った金額でCは買い受けているはずなのです。つまり「そんな事情があるけどこの値段なら」と、Cは買い受けているということです。

土地にそんな値段しかつかないなら、抵当権者Aが困らないのか

 これについても問題ありません。なぜなら、土地が底地として大した値段がつかないことを前提に、抵当権者AはBに対する融資の金額を決めているはずだからです。
 ですので、いざ抵当権を実行して土地を競売によってCが取得して、Bのために法定地上権が成立したからといって、抵当権者Aには特段の損失にならないのです。そんなことは、抵当権者Aにとって元々織り込み済みの想定内の事なのです。

法定地上権の要件
四本指
 法定地上権は、一定の要件を満たすと、法律の定めにより自動的に設定される(発生する)地上権です。
 では、その「一定の要件」とは何なのでしょうか?
 法定地上権が成立するには、以下の要件を満たしている事が必要になります。

1・抵当権設定時に土地上に建物が存在すること
2・抵当権設定時に土地と建物が同一の所有者に属すること
3・土地か建物のどちらか、または両方に抵当権がされること
4・所有者が競売により異なるに至ること

 これらの要件をすべて満たして初めて、建物所有者のために法定地上権が成立します。
 ここで大事な論点としては、1と2の要件についてになります。3と4の要件については、文章そのままに理解するだけで問題ありません。
 ということで、1と2の要件について、ひとつひとつ解説して参ります。

1・抵当権設定時に土地上に建物が存在すること
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 まずはこちらの事例をご覧ください。

事例3
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBは、土地だけに抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、火災により建物が滅失したので、Bは新建物を再築した。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。


 この場合、再築した新建物のために法定地上権が成立します。なぜなら、一度建物が滅失したとはいえ、抵当権設定時には土地上に建物が存在していたからです。
 ただし、このケースでは、法定地上権の成立範囲というものがあります。成立範囲は、原則として旧建物と同一の範囲です。
 これはどういう意味かといいますと、仮に再築した新建物が旧建物に比べてあまりにガッチリした強固な建物だとします。その場合は、法定地上権の成立は難しくなります。なぜなら、抵当権を害することになるからです。
 土地は、更地の方が価値が上がります。別の言い方をすれば、土地上に取り壊しづらい建物があるほど、土地の価値は下がります。
 したがって、旧建物に比べてあまりにガッチリした新建物が再築されてしまうと、その結果として土地の価値が下がり、競売時の値段にも影響します。それは抵当権者にとって予期せぬ負担になってしまいます。ですので、このようなケースで法定地上権が成立するためには、その成立範囲は旧建物と同一の範囲(旧建物と同レベルの範囲内)でなければならないのです。

【更地に抵当権が設定された後に土地所有者が建物を建築した場合】

 この場合、法定地上権は成立しません。なぜなら、抵当権設定時には更地だったからです。
 もし、この場合に法定地上権が成立してしまうと、競売時の土地は底地として価値の低い評価の値段になり、更地としての価値を評価して抵当権を設定した抵当権者に損害を与えてしまいます。
 また、もし抵当権設定時に、抵当権者が土地上に建物を建築することを承諾していた場合でも、法定地上権は成立しません。なぜなら、承諾の有無などという主観的な事情が法定地上権の成立に影響を与えてしまうと、競売等の問題も含め法的安定性が害されるからです。
 したがいまして、更地に抵当権が設定された後に土地所有者が建物を建築したケースで、抵当権が実行され、その土地を競売により取得した買受人は、建物所有者に対して建物の収去と明渡しを請求できます(法定地上権が成立しないから)。

2・抵当権設定時に土地と建物が同一の所有者に属すること
一番男性
 これは読んだとおりで、抵当権設定時に、土地とその土地上の建物の所有者が同一でないと法定地上権は成立しない、という意味です。ここは単純に考えてください。
 ただ、次のような微妙なケースもあります。

事例4
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有しているが、建物の登記は前主のままである。そしてBは抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。


 さて、この場合、法定地上権は成立するでしょうか?
 実はこのケースでも、法定地上権は成立します。
 これは意外な結果だと思う方も多いと思います。では、なぜそうなるのか?ですが、ここは単純に「そういうルールになっているんだ」と覚えてください。一応理屈はあるのですが、それがよくわからない理屈なので(笑)。
 なお、このケースは試験で問われやすいので、とにかくこの結論をしっかり押さえておいてください。

【抵当権設定時には土地と建物が同一の所有者だったが、その後に土地または建物が譲渡され、土地と建物の所有者が異なるに至った場合】
 このケースも法定地上権は成立します。あくまで抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一であればいいということです。

【借地人が借地上の自己所有の建物に抵当権を設定後、その土地の所有者が借地人からその建物を買い受けた場合】
 これはどういう事かというと、Aが地主の土地にB所有の甲建物があって、甲建物に抵当権が設定された後、地主AがBから甲建物を買い取った場合、その後に抵当権が実行されて甲建物が競売により誰かに買い受けられたとき、法定地上権は成立するのか?という話です。
 結論。このケースでは、法定地上権は成立しません。
 これはわかりますよね。抵当権が設定された時に土地と建物の所有者が同一ではありませんから。
 抵当権が設定された時に土地と建物が同一の所有者ではないということは、そもそもその時点で土地利用権が設定されているはずなので、わざわざ法定地上権が成立する必要がないのです。

要件を満たしても法定地上権が成立しない場合

 実は、上記の4要件すべてを満たしても、法定地上権が成立しない例外的なケースがあります。
 それは、土地と建物の両方に抵当権を設定した共同担保の、次のようなケースです。

事例5
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBはAから融資を受けるため土地・建物の両方に抵当権を設定した(共同担保)。抵当権者はAである。その後、Bは建物を取り壊し、新建物を再築した。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。


 抵当権は物権です。物権は物に対する権利です。ですので、目的とする物が無くなれば権利も消滅します。
 ということは、この事例5では、抵当権の目的となっている建物が一度取り壊された時点で、物権である抵当権は消滅することになります。
考え中
 でもこれってどうでしょう?
 抵当権者Aにとっては、ちょっと理不尽な話ですよね。Bが勝手に建物を取り壊したことで、建物への抵当権が消滅してしまうとなると、元々、土地と建物のセットでの担保として評価した価値を見た上で抵当権を設定して、AはBに融資をしているわけですから、その抵当権者Aの担保(抵当不動産)への期待を裏切ることになりますよね。そして、その期待への裏切りは、実際に抵当権が実行されて競売が行われたときに顕在化します。
 建物の抵当権が消滅するとなると、残る抵当権は土地だけになります。これは元々の土地・建物セットの担保評価と比べてかなり低いものとなってしまいます。なぜなら、その土地の評価は、底地としての評価になってしまうからです。
 したがって、Bが建物を取り壊したことによって建物への抵当権が消滅すると、残る土地のみの担保価値は底地としての評価になるので、競売にかけても大した値段にならず、被担保債権の弁済が満たせなくなる可能性が高いのです。ということはつまり、Bが建物を取り壊した行為は、抵当権者Aに対する重大な背信行為と言えるでしょう。

Bが抵当権者Aに対して重大な背信行為をしたことと、法定地上権の不成立がどう関係あるのか

 法定地上権の成立は、建物の所有者Bの保護になります。なぜなら、法定地上権が成立しないとなると、競売により土地の所有者がCになり、BはCの土地上に土地利用権なく建物を所有することになり、不法占拠者という扱いになってしまうからです。それが法定地上権の成立によって不法占拠者ではなくなるからです。
 さて、では改めて、事例5の状況を考えてみてください。先ほどの説明から、Bは抵当権者Aに対して重大な背信行為をしたと言えますよね。そのような人間を法定地上権を成立させて保護する必要ありますかね?
 したがいまして、事例5では、法定地上権の成立のための4要件すべてを満たしてはいますが、例外的に法定地上権が成立しないのです。
 なお、法定地上権が成立しないということは、競売によりCが土地を取得し所有者となった時点で、Bは不法占拠者という扱いになります。不法占拠者となってしまうということは、Bには建物の収去義務が生じます。
 したがいまして、事例5では、例外的に法定地上権が成立せず、建物の買受人Cは、Bに対して建物の収去請求をすることができます。
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Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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