抵当権の効力の及ぶ範囲~付加一体物(付合物・従物)には?借地権には?果実には?

▼この記事でわかること
抵当権の効力の範囲とは
付加一体物とは
借地権に抵当権の効力が及ぶ理由
果実に抵当権の効力は及ぶのか
果実とは
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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抵当権の効力の及ぶ範囲

 原則として、抵当権は不動産に設定するものです。
 では、その抵当権の効力は、抵当権を設定した不動産について、どの範囲まで及ぶのでしょうか?
 というのは、抵当権は債務者(抵当権設定者)が債務不履行になったような場合に、債権者(抵当権者)が抵当権を設定した不動産を強制的に競売にかけて、その売却代金から優先的にお金を回収することができる権利です。でも例えば、その不動産が一軒家だった場合、庭石はどうなるのでしょう?抵当権が実行されると庭石も競売に出されてしまうのか?あるいは、抵当権設定後に設置されたエアコンはどうなるのでしょうか?
 つまり、抵当権の効力がどの範囲まで及ぶのかという問題は、庭石やエアコン等、どこまでの物がその抵当不動産と一緒に競売にかけられるのか?という問題と同じ意味になります。

 ということでまずは、抵当権の効力の及ぶ範囲についての民法の条文を見てみましょう。

(抵当権の効力の及ぶ範囲)
民法370条
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。


 上記の条文によれば、抵当権の効力は「不動産に付加して一体となっている物」にも及ぶとあります。
「不動産に付加して一体となっている物」は、略して付加一体物と呼びます。
 ということは、何が付加一体物なのか?がわかれば、おのずと抵当権の効力の及ぶ範囲もわかることになります。

付加一体物

 実は、何が付加一体物で何が付加一体物でないのかについて、学説上では争いが生じています。
 ですが、それをここで記しても意味がありませんので、判例上の見解にのっとった解説をして参ります。
 まず、付加一体物に該当する可能性のあるものは、次の2種類があります。

・付合物
・従物

 では、それぞれにどのような物があるのか、見て参ります。

【付合物】
門扉
 これは、元々は独立した動産だけど付合により建物と一体化し建物の構成部分になるものです。
 要するに、設置すると建物と一体化するようなタイプの物です。
例→取り外しの容易でない庭石、石灯籠、建物の内外を遮断する建具(入口用の扉、入口用のガラス、雨戸)

【従物】
襖
 これは、建物備え付きの備品のことで、備え付けられても独立した動産としての地位を失わないものです。
 要するに、設置しても建物と一体化しない物です。
例→取り外しの容易な庭石、エアコン、畳、建物の内外を遮断しない建具(ふすま等)

 さて、この時点で、抵当権の効力の及ぶ範囲がどこまでなのか、なんとなく見えてきましたよね。
 結論。付加一体物には付合物が含まれます。したがって、付合物(取り外しの容易でない庭石、石灯籠、建物の内外を遮断する建具)には抵当権の効力が及びます。
 ということは、付合物は抵当不動産と一緒に競売にかけることができるということです。ですので、容易に取り外せない庭石は、抵当不動産と一緒に競売にかけられてしまいます。
 また、従物については、抵当権設定時の従物には、抵当権の効力が及びます。
 つまり、エアコンでも抵当権設定時にすでに設置されていたものであれば抵当権の効力は及び、競売にかけられます。しかし、抵当権権を設定した後に設置されたエアコンであれば、抵当権の効力は及ばず競売にかけられません。
 なお、付合物については、付合の時期を問わず、抵当権の効力が及びます。つまり、容易に取り外せない庭石は、抵当権設定後に設置していたとしても抵当権の効力は及び、競売にかけられます。

【補足:主物】

 エアコンは従物になりますが、そのエアコンを設置する対象の建物は主物になります。
 原則として、従物は主物の処分に従います。しかし、抵当権の効力が及ぶ範囲については、その従物が抵当権の設定後に設置されたかどうかで扱いを分けているということです。この点はご注意ください。
 なお、従物には、先述に例示した物以外にも、ガソリンスタンドの存在する土地上または地下に設置されている地下タンク、ノンスペース軽量機、洗車機などの設備も従物になります(主物はガソリンスタンド用建物)。
ガソリンスタンド
 つまり、ガソリンスタンド用建物に抵当権が設定された場合、それらの設備が抵当権設定時にすでに設置されていた場合は、それらの設備にも抵当権の効力が及び、競売にかけられます。

付加一体物の例外:借地権

 付合物、そして抵当権設定時にすでに設置されていた従物には、抵当権の効力が及びます。
 では、抵当権が設定されている建物が借地上にある場合に、その抵当権が実行されると、その土地の借地権(土地の利用権)はどうなるのでしょうか?
 例えば、Aが借地上に甲建物を所有していて、甲建物に抵当権を設定していたとします。この場合に、抵当権が実行されると甲建物が競売にかけられますが、そのとき、抵当権の効力は借地権にも及ぶのでしょうか?
 結論。抵当権の効力は借地権にも及びます。なぜなら、借地権は建物に従たる権利だからです。
 これは判例により、このように結論付けられています。

借地権に抵当権の効力が及ぶ理由

「借地権が建物に従たる権利だから」と言われても、なんだかよくわからないですよね。
 実は、判例が抵当権の効力は借地権にも及ぶとしているのには、そうしないと非常に困った事態になってしまう事情があるからなのです。

事例
AはBに500万円を融資し、その債権を担保するために借地上にあるB所有の甲建物に抵当権を設定した。その後、Bが債務不履行に陥り抵当権が実行され、競売によりCが甲不動産を取得した。


 図にすると以下になります。

[抵当権実行前]

    債権者
   (抵当権者)
     A
抵当権⇨↙︎ ↘︎⇦被担保債権
 B所有   B
甲不動産  債務者
     (抵当権設定者)

抵当権実行競売後

    債権者
   (抵当権者)
     A
抵当権⇨↙︎ ↘︎⇦被担保債権(債権回収)
 C所有   B
甲不動産  債務者
     (抵当権設定者)

 この事例で、甲建物への抵当権の効力は借地権にも及ぶので、Cは甲建物の所有権だけでなく、その借地権(甲建物が建っている土地の利用権)も取得することになります。
 では、今度は仮に、この場合に、借地権に抵当権の効力が及ばないとなると、一体どうなるでしょう?
 Cは甲建物を取得しますが、借地権は持っていないことになります。するとCは、土地の利用権なく土地上に建物を所有するということになります。それはなんと!法律上、不法占拠者ということになってしまいます。
邪魔な猫
 不法占拠者になってしまうということは、地主から立退き請求を受けたら、Cはせっかく手に入れた甲建物の収去に応じなければならなくなるのです。
 これでは競売の買受人Cにとってあまりに不当ですよね。それに、このような結論になってしまうとなると、そもそも借地上の建物の競売には誰も手を出さなくなり、抵当権の意味すらなくなってしまいます。
 したがって、判例により、抵当権の効力は借地権にも及ぶとしているのです。
 ただし、判例により抵当権の効力が借地権にも及ぶとしている、といっても、借地権が地上権ではなく賃借権である場合に、その賃借権が競売により移転しても、法律上、地主にその賃借権の移転についての承諾義務が当然に生じるわけではありません。
 え?じゃあ競売で借地上の賃借権付き不動産を買い受けた人はどうすればいいの?
 ですので、その場合は、地主がその承諾をしないときは、競売の買受人は、裁判所に対し地主の承諾に代わる許可を求めることができます。
 少しややこしいですが、この理屈は覚えておいてください。

補足:付加一体物の例外その他

 抵当権の効力は付加一体物に及びます。しかし、付加一体物であっても、抵当権の効力が及ばない場合があります。
 例えば、先述の事例で、Bが金塊を持っていたとしましょう。その場合に、Aが抵当権を実行しても、金塊には抵当権の効力は及びません。※
※金塊は一般財産なので、一般債権者の対象の財産にはなっても、抵当権の対象となる財産ではない(一般財産・一般債権者について詳しくはこちらをご覧ください)。
 では、AとBが共謀して、金塊で建物に金の壁を作ったらどうなるでしょう?
 すると、金塊と建物が一体化(付合)し、抵当権の効力が及ぶ付加一体物となりますよね?
 もちろん、こんなことは許されません。もし一般債権者がいれば、明らかにその者の権利を害する行為になります。
 したがって、この場合、金の壁に抵当権の効力が及ぶことはありません。

果実に抵当権の効力は及ぶのか

 抵当権の効力は、抵当不動産の付加一体物や借地権にも及びます。
 では、果実には、抵当権の効力は及ぶのでしょうか?

果実とは
みかんの木
「物から生じる経済的収益」のことを果実と言います。
 果実には、天然果実と法定果実があります。
 天然果実とは、小麦畑の小麦、みかんの木のみかん、乳牛の牛乳、羊の羊毛、油田の石油といった類のものです。
 一方、法定果実とは、代表的なものとしては家賃や地代です。
 これで言葉の意味・イメージはわかりますよね。
 また、果実を生じるものを元物と言います。上記の例だとこうです。天然果実なら、小麦が果実で、小麦畑は元物です。法定果実なら、家賃が果実で、賃貸不動産は元物です。

【補足:天然果実の権利】
小麦畑
  天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属します。
 つまり、小麦畑の小麦は、その小麦を収取する権利のある者が取得するということです(例:小麦農家が小麦畑の小麦を取得する)。
 また、売買において、引渡し前に生じた果実売主に帰属します。つまり、小麦畑の土地売買契約が締結されてから買主に引き渡されるまでの間に取れた小麦は売主のものになる、ということです。
 なお、元物から分離する以前の果実は、元物の所有権の内容に含まれます。つまり、小麦が取れる前に小麦畑を売れば、その小麦も畑と一緒に売ったと考えられます。

果実についての抵当権の効力

 さて、話を戻しまして、改めて問いかけます。
 抵当権の効力は、法定果実や天然果実にも及ぶのでしょうか?
 結論。原則、抵当権の効力は果実には及びません。なぜなら、抵当権は目的物を使用収益する権利ではないからです。
 果実は目的物の使用収益から生まれます。また、抵当権者(債権者)としても、抵当権設定者(債務者)に使用収益してもらって、そこから得た利益で債務を弁済してほしいわけです。
 例えば、小麦畑に抵当権を設定した場合、抵当権者は、抵当権設定者には小麦畑の収穫の利益から債務を弁済してもらった方が都合良いわけですよね?というか、それがそもそもの抵当権のあり方なのです。
 したがいまして、抵当権の効力は果実には及ばないのです。
 ただし、抵当権の被担保債権に債務不履行があった場合は話が変わってきます。
 その場合、債務不履行後に生じた果実については、抵当権の効力は及びます。つまり、小麦畑に抵当権が設定されていて、その被担保債権に債務不履行が生じると、債務不履行後に収穫した小麦の売却益について、抵当権の効力が及ぶということです。
 以上のことから、まとめるこうなります。

「抵当権の効力は、債務不履行前の果実には及ばないが、債務不履行後の果実には及ぶ」

 このようになります。
 あれ、小麦畑は天然果実の話だよね。そういえば、法定果実の方はどうなの?
 もちろん、法定果実についても、債務不履行前だと抵当権の効力は及ばず、債務不履行後であれば抵当権の効力は及びます。
 なお、法定果実(家賃)と物上代位の問題については、詳しくはこちらで解説していますので、よろしければ併せてご覧ください。
関連記事

抵当権の基本~被担保債権と付従性の緩和とは/登記にも勝る強力な随伴性とは

▼この記事でわかること
抵当権の超基本
被担保債権とは
抵当権の付従性の緩和とは
抵当権の随伴性とは
登記に勝る強力な随伴性
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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抵当権の基本とその性質

 抵当権とは、担保物権の一種で、目的物である不動産の引渡しを受けずに優先弁済権を確保する約定担保物権です(約定担保物権とは契約等で設定する担保物権のこと)。
 これだとカタすぎてわかりづらいですよね。もう少しわかりやすく言うとこうなります。
 抵当権とは、金融機関などが融資(お金を貸すこと)を行う際、その融資したお金が回収できない場合の担保(要するにリスクの担保)として不動産を確保して、実際にお金が回収できないような事態になったときは、強制的にその不動産を競売に出して(売っぱらって)、他の債権者に優先して(優先的に)その売却金からお金を回収できる権利です。
 つまり、その権利(抵当権)を、お金を貸す側(金融機関など)とお金を借りる側が契約等で約束(約定)して設定する、ということです。
 そして、お金を貸した側が抵当権者、お金を借りた側が抵当権設定者となります。

  抵当権者       抵当権設定者
     ↓    融資       ↓
金を貸す側  →  金を借りる側
  (銀行等)       (個人・法人等)

(抵当権の内容)
民法369条  
1項 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2項 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。


 条文だと表現が硬いので理解しづらいですが、抵当権のポイントは「占有を移転しないで」と「他の債権者に先立って」です。
 この2点が債権者にとって非常に都合が良く、現実の金融の世界でもっとも頻繁に利用される担保物権が抵当権である理由です(この点についてはこちらの記事でわかりやすく解説していますのでご参照ください)。
 また、抵当権は目的物の占有を伴わないので、登記という形でその権利を公示することになります。
 これはどういう意味なのか具体的に説明するとこうです。
 例えば、Bさんに融資したA金融機関がB所有の不動産に抵当権を設定します。するとA金融機関は抵当権者になります。
 しかし、抵当権者であるA金融機関は、B所有の不動産を担保として確保していますが、B所有の不動産を実際に占有して利用するのはBさんです。
 じゃあ「B所有の不動産に抵当権が付いていて、その抵当権者はA金融機関だ」ということをどうやって証明するのか?というと、それが抵当権の登記になります。
 したがって、抵当権は登記という形でその権利の有無を公示(公に証明)しているのです。
 また、抵当権が登記という形でその権利の有無を公示(公に証明)しているということは、登記(または登録)という形で公示している物でないと抵当権は設定できないということです。
 原則として、抵当権は不動産に対して設定するものです。民法上「動産」「債権」に設定することはできません。
 この点はご注意ください。
家くん
 なお、民法369条2項にあるように、地上権・永小作権に抵当権を設定することはできます。しかし、賃借権には抵当権を設定することはできません。なぜなら、地上権・永小作権は物権ですが、賃借権は債権だからです。

被担保債権

 抵当権は、被担保債権を担保するための物権です。
 被担保債権とは、先述の金融機関の例で言うと、A金融機関が融資した相手方Bに対する「貸した金返せ」という貸金債権のことです。
 つまり、その抵当権(担保物権)を設定する原因となっている債権のことです。

 抵当権者       抵当権設定者
    ↓      融資     ↓
A金融機関    →       B
  (貸す側)          (借りる側)
     被担保債権

 また「抵当権(担保物権)を設定する原因となっている債権」が被担保債権ということは、抵当権は被担保債権の存在を前提としているということになります。これを付従性と言います。

付従性の緩和

 抵当権は被担保債権の存在が前提です(付従性)。
 したがって、被担保債権が現に存在して初めて抵当権は成り立ちます。
 しかし、抵当権は契約等で設定する(約定)担保物権ということもあり、実務上の要請から、抵当権成立時の付従性はかなり緩和されています。
 付従性がかなり緩和されているということは、抵当権成立時には現に被担保債権が存在していなくとも抵当権を設定できるということです。
 具体例を挙げると、次のような債権を被担保債権として、抵当権を設定することができます。

・物の引渡し請求権のような非金銭債権(「金払え」じゃない債権)
・将来発生する金銭債権(未来の「金払え」)

 上記2つのうち、重要なのは「将来発生する金銭債権」です。
 これには次のようなものがあります。

【金銭消費貸借予約上の債権】

 まさに先述の金融機関の例がこれです。
 A金融機関がB所有の不動産に抵当権を設定する時、まだ実際の融資は行われていません。抵当権の設定をしてから実際の融資が行われます。
 これは付従性が緩和されているからこそできることなのです。

【保証人の求償債権】

 これは、保証人が保証債務を履行した場合の、主債務者への求償債権のことです。
 つまり、将来、保証人が保証債務を履行した場合の主債務者への求償債権に抵当権を設定できるということです。

【賃貸借契約による保証金の返還請求権】

 これは、賃借人が入居時に差し入れた保証金についての、賃借人(借主)の賃貸人(貸主・オーナー)に対する「将来の退去時の(保証金)返還請求権」に抵当権を設定できるということです。

補足
 付従性の緩和は、約定担保物権(抵当権と質権)に特有の話です。
 法定担保物権には、付従性の緩和というものはありません。
 法定担保物権とは、その担保物権の発生原因が法律によって定められていて、その原因が発生すると法律の定めによって自動的に成立する担保物権です。
 法定担保物権には留置権先取特権があります。留置権や先取特権につきましては、また別途改めて解説します。

抵当権の随伴性
くっつくハリネズミ
 被担保債権(その抵当権を設定する原因となっている債権)を担保するための抵当権は、被担保債権の存在を前提に成り立っています。これは抵当権の付従性という性質によるものです。
 そして、抵当権には付従性とともに、随伴性という性質もあります。
 まずは事例をご覧ください。

事例1
AはBに500万円を融資し、その債権を担保するためにB所有の不動産に抵当権を設定した。その後、AはCにその500万円の貸金債権(被担保債権)を譲渡した。


 まず、この事例1の状況を確認します。
 AはBに500万円を貸し付けました。そして、AはBに対する「500万円返せ」という債権を担保するために、B所有の不動産に抵当権を設定しました。このときの、AのBに対する「500万円返せ」という債権が被担保債権になります。
 そして、AはBに対する「500万円返せ」という債権、すなわち被担保債権をCに譲渡しました(債権譲渡)。
 これが事例1の状況です。さて、ここからが本題です。
 この事例1で、AがCに被担保債権を譲渡したことにより、B所有の不動産に設定した抵当権の行方はどうなるのでしょうか?
 結論。抵当権は被担保債権に伴ってCに移転します。
 したがいまして、B所有の不動産の抵当権者はCになります(Bは抵当権設定者)。

[被担保債権譲渡前]

    債権者
   (抵当権者)
     A
抵当権⇨↙︎ ↘︎⇦被担保債権
 B所有   B
 不動産  債務者
     (抵当権設定者)

被担保債権譲渡後

    債権者
   (抵当権者)
     
抵当権⇨↙︎ ↘︎⇦被担保債権
 B所有   B
 不動産  債務者
     (抵当権設定者)

 抵当権は、被担保債権が移転すると、それに伴って移転します。
 つまり、抵当権は被担保債権にくっ付いていくということです。これが随伴性です。
 これは、言ってみればコナミのシューティングゲーム『グラディウス』の「オプション」みたいな感じですかね(笑)。つまり、ビックバイパーが被担保債権、オプションが抵当権で、ビックバイパー(被担保債権)にくっ付いていくオプション(抵当権)には随伴性がある、みたいな。
 グラディウスを知らない方は訳わからないですよね(笑)。失礼しました。 

登記に勝る強力な随伴性

 抵当権の随伴性という性質は、グラディウスよりもっと分かりやすく言えば「被担保債権という王様に家来の抵当権がくっ付いていく」ようなものです。
 そして、この抵当権の随伴性は、非常に強力な性質となっています。どういうことかと言いますと、なんと!随伴性が登記に勝るのです。
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 抵当権は不動産と同じように、登記というルールでその権利の有無を公示・証明し、対抗力を備えます。つまり、抵当権も登記をすることにより法律で保護されるということです。
 登記の力は強力です。それは不動産の二重譲渡の問題などを見れば一目瞭然です(これについて詳しくはこちらをご覧ください)。
 ところが、抵当権の場合、抵当権の登記よりも、抵当権の随伴性が勝ってしまう!のです。
 それでは、ここからは抵当権の随伴性について、事例と共に解説して参ります。

事例2
AはBに500万円を融資し、その債権を担保するためにB所有の不動産に抵当権を設定し、その旨の登記をした。その後、AはCにその500万円の貸金債権(被担保債権)を譲渡し、AからCへ抵当権移転の登記をしたが、債権譲渡についての通知は行なっていなかった。それからAは、その500万円の貸金債権をDへ二重譲渡し、その債権譲渡についての通知を行なったが、抵当権移転の登記はしていなかった。


 登場人物が増えて状況が少し複雑になってきましたので、まずはこの事例2の状況を整理します。
 この事例2では、まずAがBに500万円を融資して、その貸金債権を担保するためにB所有の不動産に抵当権を設定しました。それからAは、その被担保債権をCとDの2人に二重譲渡し、Cの方は抵当権の登記はあるが確定日付のある債権譲渡の通知はなし、Dの方は抵当権はないが確定日付のある債権譲渡の通知はある、という状況です。

(500万返せ)
被担保債権
  ↓
 A➡︎B
 ↙︎ ↘︎二重譲渡
C   D

C        D
抵当権登記〇   抵当権登記✖︎
債権譲渡の通知✖︎ 債権譲渡の通知〇

 さて、ではこの事例2で、抵当権はCとD、どちらの手に渡るのでしょうか?
 結論。抵当権はDのものになります。
 登記をしてないDが勝つの?
 Dが勝ちます。なぜなら、Dの方は債権譲渡の通知が行われているからです。
 債権が二重譲渡された場合に、債権譲渡の通知がある者とない者とがいたとき、その債権は債権譲渡の通知がある者が取得します。
 したがって、事例2で、被担保債権を取得するのはDになります。
 そして、抵当権には随伴性があるので、被担保債権を取得したのがDになれば、抵当権の登記がどうなっていようが、被担保債権に伴って抵当権もDが取得します。
 このように、抵当権の随伴性は強力なものとなっています。その効果は登記にも勝ってしまいます。
 抵当権は被担保債権の家来です。抵当権にとっては被担保債権が王様であり、王様には登記も勝てないということです。
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抵当権の効力の及ぶ範囲~付加一体物(付合物・従物)には?借地権には?果実には?
抵当権の効力と物上代位の基本&要件/法定果実(家賃)や転貸賃料債権へ物上代位できるのか
賃料債権の譲渡vs物上代位~抵当権者(物上代位)が勝たないと競売の値段に影響する?
抵当権の侵害~妨害排除請求権と損害賠償請求権/抵当不動産の賃貸と取り壊し問題
抵当権に遅れる賃貸借~競売の買受人と賃貸人の地位/後順位賃借権者と抵当権者の同意なしでは対抗力もなし?
共同抵当~同時配当と異時配当とは/抵当不動産の一部が債務者所有(物上保証)の場合は?
抵当権の順位の変更~登記は対抗力でなく効力発生要件?/抵当権の優先弁済の範囲を具体的に
抵当権の処分~転抵当/抵当権の順位譲渡と順位放棄/抵当権の譲渡と放棄
抵当権の消滅請求と代価弁済とその違い/第三取得者が抵当不動産について費用を支出すると?
登記の流用~登記の流用で迷惑を被る第三者とは?なぜ登記の流用は行われる?
抵当権の時効~抵当権は時効消滅するのか?/抵当不動産の所有権が時効取得された場合
抵当権者は抵当権を行使せず一般財産を差し押さえられる?抵当権者と一般債権者の利害の調整
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賃貸人たる地位の移転(オーナーチェンジ)と敷金~滞納家賃がある場合/賃借人が退去して敷金返還前のオーナーチェンジの場合

▼この記事でわかること
賃貸人たる地位の移転(オーナーチェンジ)と敷金問題の基本
債権だけでなく義務も引き継がれる
滞納家賃がある場合
賃借人が退去してから敷金が返還されるまでの間にオーナーチェンジした場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
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賃貸人たる地位の移転と敷金~オーナーチェンジの敷金問題

事例1
Aは自己所有の甲建物をBに賃貸し、引き渡した。その後、Aは甲建物をCに売却し、AからCへ登記を移転した。


 いきなり事例から始まりましたが、これは、借主(賃借人)Bが甲建物を賃借中に、貸主(賃貸人)がAからCへ代わった、いわゆるオーナーチェンジの事例です。
 さて、この場合、BからAに預けられている敷金は一体どうなるのでしょうか?

 最初に結論を申し上げておきますと、借主(賃借人)Bから旧オーナーA(旧賃貸人)に預けられた敷金は、新オーナーC(新賃貸人)に引き継がれます。
 よって、Bは改めて新オーナーCに敷金を預ける必要はなく、旧オーナーAがBに敷金を返還する必要もありません。
 旧オーナーAに預けられた敷金は、AC間の甲建物の売買契約の手続きの中で、Aから新オーナーCへと引き継がれます(実務上は売買代金から差し引いたりする)。
 したがいまして、借主(賃借人)Bは、何もする必要はありません。Bがやることがあるとすれば「登記簿(登記事項証明書)による所有者の確認」です。つまり、本当にオーナーがAからCへ移ったのか?の確認です。

敷金は不動産賃貸借契約における担保

 敷金は、不動産賃貸借契約における賃貸人の債権(家主・オーナーの賃料債権など)についての担保になります。※
 そして、担保には随伴性がありますので、旧オーナーの持つ債権(賃料債権など)が、オーナーチェンジによって新オーナーに移ることにより、担保である敷金も、それにともなって新オーナーに移っていくのです。
※(担保については詳しくはこちらへ

随伴性とは親ガモ子ガモの関係性
鴨
「随伴性がある」とは、どういう意味かと言いますと「子ガモは親ガモにくっ付いていく」という意味です。
 事例1のような不動産賃貸借の場合、親ガモは「オーナーの持つ賃貸人としての債権」です。賃貸人としての債権とは、賃借人Bに対し家賃を請求したりする債権です。
 そして子ガモは、担保である敷金です。
 したがいまして、オーナーチェンジにより親ガモがAからCに移り、敷金という子ガモは、それにともなって親ガモにくっ付いていくという訳です。

債権だけでなく義務も引き継がれる

 なお、オーナーチェンジでCが新オーナーとなった後の、Bの敷金返還請求相手は誰になるのか?ですが、当然、それは新オーナーのCになります。
 なぜなら、オーナーチェンジにより引き継がれるのは「賃貸人としての債権」だけではなく「賃貸人としての権利・義務」の全てが引き継がれるからです。つまり、旧オーナーAの敷金返還義務新オーナーCへと引き継がれるのです。
 また、賃貸人は賃借人に目的物を使用収益させる義務を負います。簡単に言うと、家主(オーナー)は借主に貸した賃貸物件を使わせてあげる義務を負うということです。
 加えて、賃貸人は賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務も負います。簡単に言うと、家主(オーナー)は借主に貸した賃貸物件を、借主が使用するために必要な修繕を行わなければならない、ということです。
 このような義務は「賃貸人(オーナー)としての権利・義務」の中に当然含まれるものです。

滞納家賃がある場合

 続いて、次のようなケースではどうなるのでしょうか?

事例2
BはA所有の甲建物を借りて住んでいる。しかし、Bは家賃を滞納していた。その後、Bから滞納家賃が払われないまま、Aは甲建物をCに売却し、その旨の登記をした。


 これは、賃貸中の物件の滞納家賃が払われないままオーナーチェンジしたケースです。
 敷金賃貸人としての権利・義務は、オーナーチェンジにともなって新オーナーへと移っていくことはすでに記したとおりです。
 さて、ではこの事例2の、賃借人(借主)Bの滞納家賃は一体どうなるのでしょうか?
 賃貸人としての権利・義務の全てが新オーナーへと移っていくのなら、それにともなって、滞納家賃についても新オーナーへと移っていきそうなものですが...。
 結論。賃借人Bの滞納家賃については、旧オーナーAの元に残ります。
 つまり、Bの滞納家賃についての賃料債権旧オーナーAの元に残るので、Bに対し「滞納している家賃を払え!」と請求できるのはAになります。新オーナーCではありません。
 もし、Bの滞納家賃についての債権をAからCに移す場合は、別途、債権譲渡の手続きが必要になります。(債権譲渡の超基本はこちらへ)
家くん
 このように「オーナーチェンジ前に発生していた滞納家賃」については、オーナーチェンジにともなって自動的に新オーナーへと移っていくということはありません。
 オーナーチェンジ前の滞納家賃の賃料債権は、旧オーナーの元に残ったままになります。
 敷金などとは違い、滞納家賃についてはこのような扱いになりますので、ご注意ください。

賃借人が退去してから敷金が返還されるまでの間にオーナーチェンジ

事例3
A所有の甲建物を借りて住んでいたBは、賃貸借契約の終了に伴い、甲建物を退去・明け渡した。その後、Bに敷金が返還される前に、Aは甲建物をCに売却し、その旨の登記をした。


 これもオーナーチェンジのケースですが、少し状況が複雑になってきました。
 この事例3は「賃借人が退去してから敷金が返還されるまでの間」というタイミングで、オーナーチェンジが行われたケースです。
 さて、ではこの事例3で、賃借人Bが旧オーナーAに預けていた敷金は一体どうなるのでしょうか?
 敷金には随伴性があります。ですので、通常どおりに考えれば、オーナーチェンジにともなって、敷金についてもAからCへと移っていきそうですが...。
 結論。この事例3のような場合、敷金については、Aの元に残ったままになります。
 つまり、賃借人Bが敷金返還請求する相手旧オーナーAで、賃借人Bに対して敷金返還義務を負うのも旧オーナーAになります。
 え?なんで?
 そうなりますよね。でもこれは法律的な理屈ではなく、実務上の要請と賃借人の保護という2点から、このような結論になるのだと考えられます。なので、理屈抜きに強引にこの結論を覚えてしまってください。
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敷金 礼金 保証金 敷引き 償却 とは/原状回復義務と経年劣化&通常損耗と特約について

▼この記事でわかること
敷金とは
礼金とは
保証金・敷引きとは
償却とは
原状回復義務~経年劣化・通常損耗
特約について
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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敷・礼・保・敷引・償却の超基本

敷金・礼金

 敷金・礼金(保証金・敷引き)は、賃貸物件を借りるときに必要になる費用です(不動産だけでなく、駐車場を借りるときに必要になるケースもあります)。よって、不動産賃貸借について考える上で、敷金・礼金は避けて通れません。
 なのでまずは、そもそも敷金・礼金とは何なのか?という基本のキから解説して参ります。※
「住宅用の不動産賃貸借」という前提で解説しますので、その点あらかじめご了承ください。

敷金とは

 敷金とは、アパートでもマンションでも一軒家でも、賃貸物件(特に家屋)を借りるときに、借主である賃借人(借りる人のこと)が、賃料その他の債務を担保するために、貸主である賃貸人(または管理会社)に、あらかじめ差し入れるお金のことです。
 そして、敷金は退去時に、滞納分の家賃、通常損耗・経年劣化以外の原状回復費用などを差し引いて、賃貸人から賃借人に返還されます。
 なんか説明が小難しい.....
 すみません(笑)。それではめちゃめちゃ噛み砕いて簡単に言います。
 敷金とは、借りる人が「この家を借りる担保(保証)として、このお金を一旦、家主に預けます」というものです。そして、退去時に差し引かれる分は差し引かれた上で返還されるのです。
 なお、念のため申し上げておきますが、敷金の返還は、家を明け渡した後になります。家の明け渡しと敷金の返還は同時履行の関係ではありません。これは慣習であると同時に、判例においても「明渡しは先履行」と結論づけられています。
 では、実際の敷金の返還時期はいつになるのかというと、これはケースによってまちまちです。2週間ぐらいのときもあれば、1ヶ月以上かかるときもあります。

礼金とは

 これは敷金とは違い、一旦預けて退去時に返還されるものではなく、払いっぱなし返還されない金銭です。
 つまり、借りる側からすれば、仲介手数料と同じようなものです。ただ、仲介手数料は仲介業者に払うものですが、礼金は貸主に払う金銭になります。

保証金・敷引きとは

 実は、関西(といっても京都・滋賀は除かれるとのこと)や九州の一部ではルールが異なっていて、敷金・礼金にあたるものが「保証金・敷引き」と呼ばれていたりします。

【保証金】
 これは、敷金とほとんど変わりません。借りる人が家主(または管理会社)に一旦預け、退去時に差し引かれる分は差し引かれた上で返還される金銭です。
 ただ、敷金と違う点は、保証金の場合、あらかじめ決められた敷引きされる分のお金は100%返還されません。

【敷引き】
 これは、一旦預けた保証金の中から、確実に差し引かれる分をあらかじめ決めたものです。
 例えば、家賃10万円で「保証金2ヶ月・敷引き1ヶ月」となっていたら、敷引き1ヶ月分の10万円は100%返還されることはありません。仮に退去時に、他にいっさい差し引かれる分がなかったとしても、返還される保証金は最大でも10万円になります。敷引き1ヶ月分の10万円は100%返ってきません。
アパート
補足:償却とは

 実は関東などでも、敷引きと同じ意味合いで「償却」という形で、確実に差し引かれる分をあらかじめ決めているケースもあります。
 例えば「敷金2ヶ月・償却1ヶ月」のようにです。これは、先述の「保証金2ヶ月・敷引き1ヶ月」と意味は一緒です。つまり、敷金として預けた家賃2ヶ月分は、仮に退去時に、他にいっさい差し引かれるものがなくても、1ヶ月分は償却金として確実に差し引かれるということです。ですので「敷金2ヶ月・償却2ヶ月」となっていたら、その敷金は全額返ってきませんので、ご注意ください。
 ちなみに「礼金ゼロ!」とうたっておきながら、償却という形で、敷金から確実に差し引かれる分をあらかじめ決めている場合もあります。要するに、礼金ゼロ!で客を集めておいて、償却で確実に回収できる金額を定めておく、という寸法です。これは別に詐欺でもなんでもなく、貸主(オーナー)側からすると極めて合理的な方法なんです。
 ただし、償却はあくまで敷金から差し引くものです。礼金とは違いますので、この点はお間違いないようお気をつけください。

原状回復義務

 ここからは、不動産賃貸借における原状回復義務について解説して参ります。
 なお、わかりやすくするために「住宅用の不動産賃貸借」という前提での解説となりますので、あらかじめご了承ください。

 不動産賃貸借における原状回復義務とは、借りた家を返す時(退去時)、つまり、引越し等で賃貸借契約を終わらせてその家を出る際に、その家を元の状態(原状)に戻す義務のことです。
 ちなみに「現状」ではなく「原状」です。現状とは、現在の状態のことです。原状とは、元の状態のことです。
 したがって、元の状態に戻す義務「原状回復義務」なのです。

原状回復義務といっても何もかも元に戻さなければならない訳ではない

 借主は、原状回復義務を負います。しかし!原状回復といっても、何もかも元の状態に戻さなければならない訳ではありません。
 というのも、経年劣化通常損耗については、原状回復義務には含まれないからです。

【経年劣化】
 物には経年劣化というものがあります。
 経年劣化とは、時間の経過による自然な劣化です。
 つまり、人が時とともに年老いていくのと同じように、物も時とともに年老いていきます。無論、家も一緒です。
 この経年劣化については、借主は修繕義務を負いません。つまり、経年劣化については原状回復義務には含まれないのです。

【通常損耗】
 通常の使用の仕方による損耗を通常損耗と言います。
 要するに、通常損耗とは、常識的な普通の使い方で不可抗力的にできる傷や汚れのことです。
 この通常損耗による負担は「家賃に含まれている」と考え、通常損耗については、借主の原状回復義務には含まれません。
 つまり、常識的な普通の使い方で不可抗力的にできる傷や汚れは、毎月払っている家賃でカバーしているので、退去・明渡しの際の原状回復義務には含まないということです。

 以上のように、原状回復義務といっても、経年劣化と通常損耗を除いた上での原状回復になります。
 原則として、原状回復費用には、経年劣化と通常損耗による修繕費用は含まれませんので、ご注意ください。

補足:特約の存在
家くん
 ここでひとつ、やっかいな問題がございます。
 それは特約の存在です。
 どういうことかと言いますと、賃貸借契約書を交わす際に、契約書に特約事項という形で、本来なら経年劣化通常損耗として原状回復義務には含まれないものも、退去時の借主負担として定めてしまっていることがあるのです。
 そして、その特約事項の定めが、特段不当なものでなく、賃貸借契約を結ぶ際に、借主も理解し納得した上で定められていたのならば、その特約事項は借主の負担義務として有効なものとなります。
 これは退去時に非常にトラブルになりやすい原因のひとつです。そして、このようなトラブルに関しましては、様々なケースがあり、ケースごとに考えなければなりません。
 したがって、ここではこの問題に関しまして、これ以上の深入りはいたしません。詳しいことは原状回復をめぐるトラブルとガイドラインなどをご参照ください。
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不動産賃貸借契約の超基本~元付業者と客付業者とは

▼この記事でわかること
不動産賃貸借契約の超基本
仲介する不動産業者には元付業者と客付業者がいる
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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不動産賃貸借の超基本

 住宅用にアパートやマンションや一軒家、あるいは事業用に事務所や店舗として賃貸物件を借りる場合、不動産業者の仲介のもと、貸主と賃貸借契約を結ぶことがほとんどです。
 さて、ここでまずひとつご注意していただきたいのが、賃貸借契約を結ぶのは基本的に、借主と貸主です。
 仲介した不動産業者は、借主と貸主の賃貸借契約を仲介するだけです。言ってみれば結婚する夫婦の仲人みたいなものです。
 賃貸借契約そのものは、あくまで借主と貸主が直接結ぶものです(まれに代理人・代理業者が入る場合もある)。
 皆さまが賃貸物件を借りるとき、皆さまと賃貸借契約を結ぶのは仲介する不動産業者ではなく、貸主(家主・大家・オーナー)です。
 ですので、賃貸借契約を結んで仲介手数料等の決済をし、物件の引渡しを受けて使用を開始した後は、仲介業者とは基本的に関わることはありません。関わるのは、その物件の管理会社や貸主・貸主側の不動産業者です。
 あれ?今住んでるアパートは仲介業者と関わり続けているけど?
 はい。それは、その物件の管理会社が直接仲介したケースか、貸主側の不動産業者が直接仲介したケースか、あるいは不動産業者が所有する物件を、その不動産業者と直接、賃貸借契約を結んだケース等になるかと思われます。

元付と客付

 元付・客付という言葉は、不動産業界に従事していた方や不動産に詳しい方などでないと、そこまで馴染みのない言葉かもしれません。
 しかし、この元付・客付というのは、賃貸でも売買でも、不動産について考えるときには避けて通れない基本中の基本になりますので、ここで簡単に解説しておきます。

仲介する不動産業者には元付業者と客付業者がいる
家くん
 まず初めに結論だけ申し上げておきます。
 元付業者とは、貸主(オーナー)側の不動産業者のことです。
 客付業者とは、借主側の不動産業者のことです。
 これだけでもお分かりになる方はお分かりになると思いますが、事例とともにもう少し詳しく、具体的に解説します。

事例
Aは賃貸物件を借りたいと考え、ネットで賃貸物件を調べて内見を申し込み、a不動産業者の案内のもと、B所有の甲アパートを内見した。甲アパートを気に入ったAは、a不動産業者から貰った申し込み用紙に必要事項を記入し、申し込みを入れた。数日後、申し込みが通ったAは「契約はこちらのb不動産業者の事務所でお願いします」との連絡と通知をa不動産業者から受けた。後日、Aはb不動産業者の事務所にて、B所有の甲アパートの賃貸借契約を結んだ。


 これは実際に私自身が客として経験し、かつ過去に仕事で賃貸物件の仲介をしたときにも経験した実例です。
 この事例で言うと、a不動産業者客付業者で、b不動産業者元付業者(である場合が多い)です。
 そして、甲アパートの賃貸借契約を結んでいるのはAとBになります。

 借主(客)  契約  貸主(オーナー)
   A     ー     B
客付業者     仲介     元付業者
   a            b

 ちなみに、b不動産業者は甲アパートの管理会社という場合も多いでしょう。その場合、甲アパートの引渡しを受け、使用を開始した後に、甲アパートで起きた問題の問い合わせ先はb不動産業者になっていたりします。
 また、管理会社は管理会社でまた別の業者の場合もあります。分譲マンションなんかの場合は、管理組合があって、そこでお願いしている管理会社があったりします。さらに、管理会社は管理会社で、管理業務を他社に委託している場合もあります。ややこしいですよね(笑)。
 このように、複数の業者がひとつの物件に様々に関係しているという構造が、不動産というものを一般に分かりづらくしている原因なのかもしれません。
 もちろん、大家と管理会社だけ、という極めてシンプルなケースもありますが。
 また、内見に行ったら2社の不動産業者の人間が来た、という経験がある方もいらっしゃるかと思いますが、それは客付業者と元付業者の両方の人間が来たケースです。その場合、名刺をくれた方が客付業者でしょう。
 また、さらに別に管理会社がいて、客付と元付と管理会社の三社の人間がわらわらと来る場合もあります(笑)。


 という訳で、今回は元付と客付について解説して参りました。
 後半、管理会社の話も出てきて訳が分からなくなってしまった方もいらっしゃるかもしれません。
 とりあえず、ここで覚えておいていただきたいのは、客付借主側元付貸主側の不動産業者ということです。ごくごく当たり前の部分ではありますが、まずはここをしっかり押さえてください(ちなみに売買だと、買主側が客付、売主側が元付となります)。
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転借人が所有権を取得すると?賃貸借も転貸借契約も混同せずに存続する理由

▼この記事でわかること
転借人が所有権を取得すると?
混同について
賃貸借&転貸借契約が混同せず存続する理由
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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転借人が所有権を取得

事例
BはA所有の甲建物を賃借している。BはAの承諾を得て、適法に甲建物をCに転貸している。その後、Cは甲建物の所有権を取得した。


 これは、転借人Cが甲建物の所有権を取得したことによって甲建物の賃貸人になった、というケースです。
 さて、この場合、賃貸借契約と転貸借契約はどうなるのでしょうか?

(オーナー)  (賃借人)
 賃貸人    転貸人     転借人
  A        B       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約

そして

賃貸人  所有権  転借人から賃貸人
 A      →        C

賃借人?転貸人?   転借人?賃貸人?
    B          C
  借りる?貸す? ⇆   借りる?貸す?
             ↑
        賃貸借契約?
        転貸借契約?

 どうなるのか?
 結論。転借人Cが甲建物の所有権を取得しても、賃貸借契約も転貸借契約も存続します。
 したがって、元々あったBC間の転貸借契約と、Cが甲建物の所有権を取得したことによるCB間の賃貸借契約が併存することになります。
?女性
 は?て感じの結果ですよね(笑)。ここからその理屈を解説して参ります。

混同

 法律の基本的な考え方からすれば、転借人Cが所有権を取得すると、転借人Cが元々持っていた転借権が混同により消滅するはずです。
 混同とは、一人の者が所有権と他の物権を取得したことにより、同時に持っていても無意味な権利が消滅することです。

(混同)
民法179条
同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。


 これでは今一つ分かりづらいので、具体例を挙げます。

BはA所有の甲土地の借地権を取得した。その後、Bは甲土地の所有権を取得した。

 これは、元々Aの所有している甲土地を賃借していたBが、自ら甲土地の所有権を取得した、というケースです。
 この場合、Bは、甲土地の借地権と所有権の両方を持つことになります。
 しかし、所有権と借地権の両方を持っているということは「自分の所有物を自分と賃貸借している」という、訳の分からない状態になってしまいます。
 したがいまして、Bが所有権を取得したことにより、借地権は意味のないものになり、その借地権は消滅します。これが混同です。つまり、Bが自ら甲土地の所有権を取得したことにより混同が生じ、借地権は消滅するのです。※
※なお、民法179条には続きがあり、混同が生じないケースも規定しています。それは抵当権などが絡んでくるケースなのですが、それにつきましては、また別途改めて解説します。

賃貸借契約も転貸借契約も存続する理由
女性講師
 混同についてはおわかりになりましたよね。
 さて、それでは話を冒頭の事例に戻します。
 転借人Cが甲建物の所有権を取得しても、混同は生じません。したがいまして、賃貸借契約も転貸借契約も存続することになり、下記のような状態になります。

(オーナー)  (賃借人)
 賃貸人    転貸人     転借人
        B      
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約

 Cは、転借人でありながら賃貸人(オーナー)も兼ねることになります。
 なんかややこしい!
 ですよね。しかし、これは転貸人Bの権利の保護のため、やむを得ないのです。
 というのは、元々、転貸人Bは転借人Cから家賃を受け取っています。もし、転借人Cが甲建物の所有権を取得したことで混同が生じ、それに伴ってBC間の転貸借契約が消滅してしまうと、転貸人Bは、転借人Cから受け取れるはずの家賃を受け取れなくなります。それは転貸人Bの、転借人Cに対して持つ賃料請求権を害すことになります。
 したがって、転貸人Bの権利を保護するため、BC間の転貸借契約も存続することになるのです。
 BC間の転貸借契約が存続するということは、Cは、引き続き転貸人Bへ家賃を支払います。そして、転貸人Bは、賃貸人(オーナー)としての地位も取得したCへ家賃を支払います。
 つまり、BはCへ家賃を支払い、CはBへ家賃を支払う、というちょっとオモシロイ状態になります。
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転貸借における賃貸借契約の解除~家賃滞納による解除と合意解除では何が違う? /転借人への催告と契約終了時期について

▼この記事でわかること
転貸借における賃貸借契約の解除
家賃滞納による賃貸借契約解除後の転貸借とその契約終了時期
賃貸借契約の合意解除or期間満了により終了した場合の転貸借契約
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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転貸借における賃貸借契約の解除

 転貸借契約における賃貸借契約(原賃貸借契約)の解除の問題について、解説して参りますが、まずは事例をご覧ください。

事例1
BはA所有の甲建物を賃借している。そして、BはAの承諾を得て、適法に甲建物をCに転貸した。ところが、BはAに支払うべき家賃を滞納している。


 この事例で、甲建物の賃貸借契約を結んでいるのはAとBで、BとCは転貸借契約を結んでいます(転貸借についての基本はこちらの記事をご参照ください)。
 関係図は以下になります。

(オーナー)  (賃借人)
 賃貸人    転貸人     転借人
  A        B       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約

 家賃は、転借人Cは転貸人Bに支払い、転貸人Bは賃貸人Aに支払うことになるのですが、転貸人Bは、賃貸人Aに支払うべき家賃を滞納してしまっています。
 さて、この場合に、賃貸人Aは、契約解除の前提として、転借人Cに対し「家賃払え」と支払いの催告をする必要があるでしょうか?
 通常の賃貸借であれば、賃借人(借主)が家賃を滞納している場合、賃貸人(オーナー)は、その賃貸借契約の解除を前提に、賃借人に対して家賃の支払いの催告ができます。解除を前提の支払い催促とは、要するに「家賃を支払わないなら出てってもらうぞ!」ということです。※
※(実際の立ち退きはそう簡単にはいきません。なぜなら、不動産賃貸借の場合「信頼関係破壊の法理」が働くからです。ここでは立退き問題の詳細については割愛しますが「信頼関係破壊の法理」につきましては、こちらの記事をご参照ください)
 事例1で、家賃を滞納している賃借人Bは、甲建物の賃貸借契約における賃料支払い債務を遅滞している、つまり、履行遅滞に陥っています。履行遅滞に陥っている者に対して、相手方は、相当の期間を定めた上で催告し、期間内に履行がされない場合は、契約の解除ができます。

(催告による解除)
541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。


 したがいまして、賃貸人Aは、家賃を滞納している賃借人Bに対し「◯月◯日までに家賃を支払わなければ、甲建物から出てってもらう!」という催告ができます。
指さし
 さて、ここまでは、何も問題ないと思います。しかし、事例1の問題点は、転借人Cの存在です。
 というのは、もし、AとBとの間の賃貸借契約(原賃貸借契約)が解除されれば、転借人Cが困ってしまうからです。
 なぜなら、BとCの転貸借契約は、AとBの賃貸借契約の存在を前提に成り立っているからです。互いの契約は別個のものですが、賃貸のない転貸などありえません。ですので、AB間の賃貸借契約が解除されれば、BC間の転貸借契約も消滅し、転借人Cは甲建物から出て行かざるを得なくなります。
 要するに何が言いたいかというと、本来、賃貸人Aと転借人Cは契約関係にはないので、両者に権利義務関係はありません。しかし、AB間の賃貸借契約の解除の問題については、転借人Cも立派な利害関係人なのです。
 また、それに加えて、民法613条の規定により、賃貸人Aは転借人Cに対し直接、家賃を請求することもできます。
 以上のことから考えると、賃貸人Aは、賃借人Bの滞納家賃の問題とはいえ、転借人Cに対しても、支払いの催告をする必要があるのではないでしょうか?
 結論。賃貸人Aは、賃借人Bの滞納家賃について、転借人Cに対し、支払いの催告をする必要はありません。
 したがいまして、賃貸人Aは、賃借人Bに催告をして、それでもBが家賃を滞納し続けるならば、転借人Cの存在を無視して、AB間の賃貸借契約を解除することができます。
 転借人Cがかわいそう!
 はい。確かにかわいそうです。しかし、これは転貸借のリスクです。転借人Cは、あらかじめこのリスクも承知した上で、Bとの転貸借契約に臨まなければならないのです。
 でも賃貸人Aは転借人Cに直接家賃を請求できることとのバランスがおかしくね?
 そんなこともないのです。なぜなら、民法613条の規定による賃貸人から転借人への直接の賃料請求権は、権利であって義務ではありません。ですので、賃借人Bの家賃滞納に伴うAB間の賃貸借契約の解除について、賃貸人Aは、あらかじめ転借人Cに対しても、催告をする義務はないのです。
 したがいまして、もし転借人として転貸借契約をする際は、転貸人(賃借人)の信用性をしっかりと確かめた上で、契約するのが良いでしょう。

賃貸借契約解除後の転貸借契約

 さて、ここからは、賃貸借契約が解除された後の転貸借について解説して参ります。
 まずは事例をご覧ください。

事例2
BはA所有の甲建物を賃借している。BはAの譲渡を得て、適法に甲建物をCに転貸している。その後、Bの家賃滞納により、AB間の賃貸借契約が解除された。


[関係図]

(オーナー)  (賃借人)
 賃貸人    転貸人     転借人
  A        B       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約
     ↑
     解除

 この事例2で、AB間の賃貸借契約解除されたことにより、BC間の転貸借契約は終了します。BC間の転貸借契約は、AB間の賃貸借契約の存在の上に成り立っているので、元を断たれたBC間の転貸借契約も必然的に終了します。
 さて、ここでまで良いとして、考えるべき本題はここからです。それは、BC間の転貸借契約が終了するタイミングについてです。
 BC間の転貸借契約は、AB間の賃貸借契約が解除されたことにより終了しますが、決して、AB間の賃貸借契約が解除されると、それに伴い自動的に終了するわけではありません。
 じゃあいつ終了するの?
 AB間の賃貸借契約が終了すると「元を断たれたBC間の転貸借契約」で甲建物を使用している転借人Cは「不法占拠者」となります。
 そして、賃貸人(オーナー)のAは所有権に基づき、転借人Cに対し、甲建物の明渡し請求をすることになります。この請求をした時に、AC間の転貸借契約が終了します。
 つまり、賃貸人Aが転借人Cに対して、甲建物の返還請求をした時に、AC間の転貸借契約が終了するのです。
 なんだか細かいなぁ
 細かい話ですが、これは資格試験等の民法の問題で問われやすい部分です。もし「賃貸借契約が解除されると同時に転貸借契約も終了する」というような肢が出題されたら、それは誤りの肢になります。くれぐれもお気をつけください。

なぜ転貸借契約の終了時期がそのタイミングなのか
考え中
 これにはちゃんとした理屈があります。別に試験問題で問うために、そのようになっている訳ではありません。
 その理屈はこうです。

 賃貸借契約において、賃貸人は賃借人に対し「目的物を使用収益させる義務」を負う(オーナーは賃貸した不動産を賃借人(借主)に使わせてあげる義務を負うということ)。
 しかし「目的物を使用収益させる義務」が履行不能に陥れば、賃貸借契約は終了する。
 例えば、賃貸借している不動産が滅失したら、その賃貸借契約は終了する。
 なぜなら、不動産が滅失してしまったら「目的物を使用収益させる義務」を果たすことが不可能になる、すなわち、履行不能に陥るからである。
 賃貸借契約が解除された際の転貸借契約については、賃貸借契約の存在の上に成り立っている転貸借契約は、賃貸借契約が解除されると、いわば宙ぶらりん状態になると考えられる。
 そして、賃貸人が転借人に明渡しを請求した時に初めて「履行不能」に陥ると考えるので、賃貸借契約が解除された際の転貸借契約の終了時期は「賃貸人が転借人に明渡し請求をした時」になるのである。

 このような理屈になります。なんだか、わかるようなわからないような、そんな理屈ですよね(笑)。
 ただ、これは判例で示されていることなので、納得の如何に関わらず「こうなっているんだ」と、強引に納得してください。

賃貸借契約の合意解除と期間満了により終了した場合の転貸借

 事例1事例2では、転貸借における家賃滞納による賃貸借契約(原賃貸借契約)の解除の問題について見て参りました。
 この「家賃滞納による解除」というのは、債務不履行(履行遅滞)による解除です。このような解除は「法定解除」になります。
 これは法律の定めによって、一定の要件を満たした場合に、債権者から一方的になされる解除です。
 さて、では次のような場合はどうなるのでしょうか?

事例3
BはA所有の甲建物を賃借している。BはAの譲渡を得て、適法に甲建物をCに転貸している。その後、AとBの合意により、AB間の賃貸借契約が解除された。


 この事例3に登場するAB間の解除は「法定解除」にはなりません。AB間の解除は、互いの合意のもとに行われています。このような解除は「合意解除」と言います。
家くん
 さて、問題はここからです。
 家賃滞納による賃貸借契約の「法定解除」の場合は、賃貸人は転借人への催告は必要ありません。転借人をシカトして、賃貸借契約を解除できます。転借人は、賃貸人から「その転借している不動産から出てけ!」と言われれば、もはやどうすることもできません。
 ところが、この事例3では、AB間の賃貸借契約は合意解除されています。
 この場合、転借人Cは一体どうなるのでしょうか?

[関係図]

(オーナー)  (賃借人)
 賃貸人    転貸人     転借人
  A        B       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約
     ↑
    合意解除

 結論。AB間の賃貸借契約の合意解除は、転借人Cに対抗できません。
 したがいまして、転借人Cは「甲建物はワタシが転借しているのだ!」と主張して、堂々と甲建物を使用し続けることができます。

なぜ合意解除を転借人に対抗できないのか

 AB間の賃貸借契約の合意解除は、転借人Cが持つ「甲建物の使用収益権」踏みにじることになってしまいます。
 というのは、転貸人Bは、BC間の転貸借契約により、転借人Cに対し「甲建物を使用収益させる義務」を負ってます。それはつまり、BC間の転貸借契約により、転借人Cには「甲建物の使用収益権」という権利があるということです。
 ましてや、甲建物のオーナーである賃貸人Aも、BC間の転貸借契約には承諾を与えています。それにも関わらず、AB間で勝手に合意して賃貸借契約を解除し、転借人Cに「AB間の賃貸借契約は解除したから、甲建物から出てってくれ」と迫るのは、信義則に反し許されません(判例)。※
※信義則についてはこちらの記事もご参照ください。
 したがいまして、AB間の賃貸借契約が合意解除されても、賃貸人Aは、転借人Cに対し、甲建物の明渡し請求はできないのです。

賃貸借契約が期間満了により終了した場合

 AB間の賃貸借契約が、期間満了により終了した場合、転借人Cはどうなるのでしょう?
 この場合は、賃貸人Aは、AB間の賃貸借契約の期間満了による終了を、転借人Cに対抗できます。
 なぜなら、転借人Cは、BC間の転貸借契約を結ぶ際に、AB間の賃貸借契約の終了時期も分かっていたはずだからです。
 したがいまして、AB間の賃貸借契約が期間満了により終了すれば、転借人Cは素直に、甲建物を退去しなければなりません。
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転貸借(サブリース)~賃貸人は転借人に直接家賃請求できる?転貸借の建物の修繕請求は誰にする?

▼この記事でわかること
転貸借(サブリース)の家賃
賃貸人から転借人に直接家賃請求するときの注意点
転借人は賃貸人と転貸人、ダブルに家賃支払い義務を負うのか
転借人による建物の修繕の請求
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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転貸借(サブリース)の家賃

 転貸借とは、わかりやすく簡単に言うと「また貸し」のことです。
 まずは事例をご覧ください。

事例
BはA所有の甲建物を賃借している。その後、Bは、Aの承諾を得て、Cに甲建物を転貸した。


 これは、賃借人(借主)Bが、賃貸人(貸主・オーナー)Aの承諾を得て、適法に甲建物をCに転貸(また貸し)した、というケースです。
 このケースで、甲建物の賃貸借契約を結んでいるのはAとBです。
 CはBと転貸借契約を結んでいます。
 そして、このような場合のCを「転借人」と呼びます。
 また、Bは「転貸人」になります。
 各自の立場を示すとこうなります。

(オーナー)  (賃借人)
 賃貸人    転貸人     転借人
  A        B       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約

 このようになります。
 少しややこしく感じるかもしれませんが、まずはここを押さえてください。
 また、このような転貸借の場合の賃貸人(オーナー)と賃借人(転貸人)が結ぶ賃貸借契約を原賃貸借契約と言ったりもします。事例だとAB間の賃貸借が原賃貸借契約ですね。要するに「その転貸借の元となっている賃貸借契約」を意味します。
 それはわかったけどさ、そもそも事例の甲建物の家賃はどうなんの?
 はい、そこ重要ですよね。事例の転貸人Bは、転借人Cに対し、家賃を請求できます。つまり、転借人Cは転貸人Bに家賃を支払うことになります。
 そして、賃貸人Aは、転貸人Bに対し家賃を請求し、転貸人Bは賃貸人Aに家賃を支払います(ここは転貸前と変わりません)。
 さて、ではこの事例で、賃貸人Aは、転借人Cに対して、直接、家賃を請求できるでしょうか?
 結論。賃貸人Aは、転貸借Cに対して直接、家賃を請求できます。つまり、オーナーから転借人に対して直接、家賃を請求することも可能ということです。

(転貸の効果)
613条
賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。


 本来なら、(オーナーの)賃貸人Aと転借人Cは契約関係ではないので、AC間に権利義務関係も発生しないのですが、上記の民法613条により「転借人は~賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う」として、(オーナーの)賃貸人Aは転借人Cに対して、直接に家賃を請求できることになります。
 なお、(オーナーの)賃貸人Aが転借人Cに直接に家賃を請求しても、賃貸人A(オーナー)と転貸人B(賃借人)の賃貸借契約には何の影響もありません。
 したがいまして、従来どおり、賃貸人Aは転貸人Bに家賃を請求できます。
マンション
【補足1:サブリース】
 巷で「サブリース」と言われているのは、この転貸借のことです。
 サブリースでよくあるのが、事業者がマンションやアパートを一棟まるごと借りて、一室ずつ個人の客に賃貸する、というパターンです。これは、そのマンションやアパートのオーナーから事業者が一棟まるごと賃借して、個人の客に転貸しているということです。
 したがって、その場合に「賃貸借契約」を結んでいるのは、オーナーとサブリース事業者です。サブリース事業者と客が結ぶ契約「転貸借契約」になります。
 そして、客はサブリース事業者に家賃を払い、サブリース事業者はオーナーに家賃を払います。
 なお、サブリースにおけるオーナーとサブリース事業者が結ぶ賃貸借契約特定賃貸借契約、またはマスターリース契約と言います。

【補足2・オーナー向けのサブリース提案】
 よく、マンションやアパートの経営者(オーナー)向けのサブリースの提案がありますよね。
 これは一体どういうことなのかといいますと、要するに、サブリース事業者がオーナー所有のマンションやアパートを賃借して、一定の家賃収入をオーナーに保証した上で(たとえ空室が生じても、サブリース事業者からオーナーへ、約束した一定の家賃が支払われるということ)客に転貸することにより、オーナーは空室による家賃収入減少のリスクを回避することができる、というわけです。
 これだけ聞くと、オーナーにとって良いことづくめのように思われますよね。しかし、実はこれにも落とし穴があります。
 この問題についての詳細はここでは割愛しますが「かぼちゃの馬車」事件はニュースで見て覚えている方も少なくないと思います(ご存知ない方は「かぼちゃの馬車」でググってみてください)。
 とりあえず、覚えておいていただきたいのは「オーナー向けのサブリース提案にもリスクがある」ということです。
 この問題につきましては、また機会を改めてお話できればと存じます。

賃貸人から転借人に直接家賃請求するときの注意点

 さて、再び事例に戻りますが、今一度、関係図を確認します。

(オーナー)  (賃借人)
 賃貸人    転貸人     転借人
  A        B       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約

 転借人Cは転貸人Bに家賃を払い、転貸人Bは賃貸人Aに家賃を払のが基本ですが、民法613条の規定により、転借人は賃貸人に直接の義務を負うので、賃貸人Aから転借人Cに対して、直接に家賃を請求することもできます(つまりサブリースの場合、サブリース会社をすっ飛ばしてオーナーから直接、入居中の人へ家賃を請求することもできるということ)。
 ここまでは、すでに開設したとおりですが、ここで注意点があります。
 賃貸(オーナー)が転借人に対して直接、家賃を請求する場合、請求できる家賃(金額)は、賃貸借契約で定められた賃料と転貸借契約で定められた賃料の、低い方の家賃です。
 これはどういう意味かというと、例えば、事例の賃貸人Aと転貸人Bの賃貸借契約で定められたAB間の家賃が10万円で、転貸人Bと転借人Cの転貸借契約で定められた家賃が8万円だとしましょう。つまりこうです。

(オーナー)  (賃借人)
 賃貸人    転貸人     転借人
  A        B       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約
   家賃10万円   家賃8万円

 この場合に、賃貸人Aから転借人Cに直接、家賃を請求するとき請求できる金額の上限は8万円になります。
 なぜなら、転借人Cの負っている賃料債務は8万円だからです。転借人Cが負っている賃料債務を超えた金額を請求することはできません。

 また、今度は逆に、賃貸人Aと転貸人Bの賃貸借契約で定められたAB間の家賃が8万円で、転貸人Bと転借人Cの転貸借契約で定められた家賃が10万円だとしましょう。

(オーナー)  (賃借人)
 賃貸人    転貸人     転借人
  A        B       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約
    家賃8万円   家賃10万円

 この場合も、賃貸人Aから転借人Cに直接、家賃を請求するとき請求できる金額の上限は8万円になります。
 なぜなら、賃貸人Aが持っている賃料債権の金額が8万円だからです。賃料債権を超えた金額を請求することはできません。
 つまり、賃貸人(オーナー)から転借人に直接、家賃を請求する場合でも、転借人(債務者)の賃料債務を超えた金額を請求することはできず、また、賃貸人(債権者)の賃料債権を超えた金額を請求することもできない、ということです。
 したがって、結果的に「賃貸借契約で定められた家賃」と「転貸借契約で定められた家賃」の低い方の金額しか請求できないのです。

転借人は賃貸人と転貸人、ダブルに家賃支払い義務を負うのか
手を当てて考える
 もちろん、転借人はダブルの支払い義務を負うわけではありません。
 もし、すでに転貸人に家賃を支払っているのに、賃貸人(オーナー)から家賃を請求されたら「すでに支払い済みです」と主張すればいいのです。
 しかし、民法613条には気になる一文があります。それは「賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない」という箇所です。
 これは何を意味しているのかと言いますと、例えば、転貸借契約の家賃の支払い期日が月末だったとして、転借人は転貸人に対して20日に家賃を支払っていたとします。それなのに月末に、賃貸人(オーナ)から転借人に家賃の支払い請求があった場合、転借人は「すでに支払い済みです」と拒むことができない、ということです。
 それヤバくね?
 ヤバいですよね。ではこのようなときに、転借人は一体どうすればいいのか?このようなときは、一旦、賃貸人に対して家賃を支払った上で、転貸人に対し、支払い済みの家賃の返還請求をすることになります。
 めんどくさ!
 ですよね。そもそも、なぜそんな事が起こってしまったのか?真っ先に考えられる原因は「転貸人が賃貸人(オーナー)にちゃんと家賃を払っていない」ですね。だから、転借人に対して賃貸人(オーナー)から直接請求が来たという訳です。他にも考えられる原因はありますが、いずれにしても、賃貸人(オーナー)・転貸人(賃借人)での家賃の管理がうまくできていない事は間違いなさそうです。
 つまり、これも転貸借・サブリース物件におけるリスクの一つと言えます。

建物の修繕の請求

(オーナー)  (賃借人)
 賃貸人    転貸人     転借人
  A        B       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約

 さて、今度はこの事例で、甲建物に水漏れが生じた場合に、転借人Cは、賃貸人(オーナー)Aに対して、甲建物の修繕を請求できるでしょうか?
 結論。転借人Cは賃貸人Aに対して、甲建物の修繕の請求はできません。
 
なぜなら、賃貸人Aと転借人Cは、契約関係にないからです。
 転借人Cと契約関係にあるのは、転貸借契約を結んでいる転貸人Bです。賃貸人(オーナー)Aと契約関係にあるのは、あくまで、賃貸借契約を結んでいる転貸人(賃借人)Bです。
 じゃあ転借人Cは誰に修繕の請求をすればいいの?
 転借人Cが甲建物の修繕を請求する相手は、転貸人Bになります。
 転貸人Bは、転借人Cと転貸借契約を結んでいる以上、転借人Cに対して家賃を請求する権利を持つと同時に、甲建物を使用収益させる義務も負います。
 したがいまして、転借人Cは、転貸人Bに対して、甲建物の修繕を請求する権利があるのです。

転借人に修繕を請求された転貸人

 では、転借人Cから甲建物の修繕を請求された転貸人Bは、自らその修繕を行わなければならないのでしょうか?
 この場合、転貸人Bは、賃貸人Aに修繕を請求することになります。実務上は、転借人Cから修繕を要求する連絡を受けた転貸人Bが、甲建物の管理会社に修繕を要求する連絡をする、という流れになると思われます。ただ、賃貸人(オーナー)が、賃借人に、転貸の承諾を与える際に「このような場合はこのように」という内容を転貸借契約に盛り込むことで、現実にはこの辺の流れはケースバイケースになると考えられます。

 基本的に、賃貸借契約と転貸借契約は別個に存在している、と考えるので、賃貸人(オーナー)と転借人の間には、権利義務関係はありません。
 不法行為等でもない限り、契約関係にない者同士に、債権債務関係は生じません。未婚の者同士が浮気をしても、不倫関係にはなりませんよね(?)。スミマセン。例えが意味不明ですね(笑)。
 話を戻します。ということなので、むしろ「転借人は~賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う」として、賃貸人(オーナー)から転借人に直接、家賃を請求できる、という民法613条の規定による請求の方が、特殊だと考えた方が理解しやすいのではないでしょうか。
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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