連帯債務の相殺と求償~相殺を援用する&しないとどうなる?/無資力者がいるときの求償問題など様々なケースと注意点

▼この記事でわかること
相殺について
連帯債務者の1人が反対債権を持っている場合
連帯債務での求償について
他の連帯債務者が相殺の援用をしない?
負担部分と相殺(反対債権)の注意点
▽連帯債務の求償の様々なケース
中途半端に弁済した場合
連帯債務者の1人が無資力(金がない状態)の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
OP@_20210506132801ebd.png
連帯債務の相殺
相殺について

 債務者が債権者に対して同種の債権(これを反対債権と言う)を持っている場合、相殺ができます。
 相殺とは、互いの債権を打ち消し合う仕組みです。
 例えば、債権者Aが債務者Bにお金を10万円貸していて、債務者Bは債権者AにPCを10万円で売ったとします。このとき、AはBに対して「金返せ」BはAに対して「金払え」という債権を持っています(債権者Aは債権、債務者Bは反対債権)。その互いの債権を打ち消し合う仕組み、それが相殺です(相殺についての超基本はこちら)。
 なお、相殺をすることを、相殺の援用と言います。
 まずはここまで、押さえてください。

連帯債務者の1人が反対債権を持っている場合

 ここから、本題に入ります。
 連帯債務において、連帯債務者の1人が債権者に対して反対債権を持っている場合、相殺できるのでしょうか?
 結論。相殺できます。
 それでは事例とともに、連帯債務における相殺について解説していきます。

事例1
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた。BCD各自の負担部分は均一である。なお、BはAに対して150万円の反対債権を持っている。

※負担部分とは連帯債務者内部で決めた負担割合。BCDは均一の負担なので各自50万ずつ負担し合っていることになるが、それはあくまでBCD内部での決め事でありAには関係ない(Aは各自に150万円全額請求できる)→詳しくは後で解説します。

 この事例1では、債権者Aに対して連帯債務を負っている3人の債務者(連帯債務者)BCDのうち、BがAに対して反対債権を持っています。

  (150万円払え)
 ↙反対債権   ↗︎
A「150万円払え」→C
         ↘︎
          D

 したがって、Bはその反対債権を使って相殺すること(相殺の援用)ができます。
 ここまでは、先ほど述べたとおりです。問題はここからです。
 Bが相殺した場合、その効果は他の連帯債務者CDにどのような影響を与えるのでしょうか?
 
  (150万円払え)
 ↙相殺     ↗︎
A「150万円払え」→C
         ↘︎
          D

AC間・BD間はどうなる?

 まず、Bが150万円の反対債権を使って相殺すると、AのBCDに対する150万円の債権は消滅します。
 つまり、Bが反対債権で連帯債務150万円の全額を相殺したことにより、BがBCD3人で負っている連帯債務150万円の全額を弁済(全額返済)したことになります(相殺の絶対効)。
 てことはCとDは1円も払わずに済んでラッキー!
 いやいや、そうはイカンのです。Bはその相殺で連帯債務を全額弁済したことにより、他の連帯債務者C・Dに対して求償権を得ます。

求償について

 求償権とは、求償する権利です。求償とは、わかりやすく簡単に言うと「私が君の代わりにアイツに払ってあげた分を君は私に払いなさい!」です。
 つまり、事例1のBがその反対債権で相殺をすると、連帯債務150万円全額を弁済(全額返済)したことになり、連帯債務は消滅しますが、それは「BがC・Dの負担分を立て替えて払ってあげた」という意味にもなります。
 したがって、BはC・Dに対して、立て替えてあげた負担分の請求ができるのです。これを民法的に言うと「BはC・Dに求償できる」となるのです。

(B相殺前)
          B
         ↗︎
A「150万円払え」→C
         ↘︎
          D

(B相殺後)
B「立て替えた負担分払え」→C
            ↘︎
             D

 そして、各自の負担分が均一ということは、BはC・Dそれぞれに対して50万円を求償することができます。
 
B「50万円ずつ払え」→C
          ↘︎
           D

 なお、この連帯債務における求償の仕組みは、なにも連帯債務者の1人が相殺した場合に限ったものではありません。
 例えば、Bが相殺ではなく、普通に150万円全額を支払って弁済すれば、そのときもBはC・Dに対して同じように求償できます。
 なんか求償ってややこしい!
頭をかかえる
 確かに、この求償という仕組みは、ややこしく感じるかもしれません。
 しかし、連帯債務の場合、債権者は連帯債務者ひとりひとりに対して、債務の全額が請求できます。
 つまり、連帯債務者のひとりが債権者から連帯債務の全額を請求されて、その連帯債務者がひとりで全額を弁済することは、連帯債務の制度上、当然に起こることなのです。
 そこで、不公平にならないためにも、他の連帯債務者の負担分まで弁済した連帯債務者が、他の連帯債務者に求償することができる仕組みになっているのです。
 これが求償という仕組みを活用する意味です。
 ちなみに、もし求償ができないとしたら、債権者からの連帯債務者ひとりに対する債務の全額の請求は、言ってみればロシアンルーレットみたいになってしまいます(笑)。誰が請求されるか?されたら終わり!みたいな(笑)。
 まあ、そんな不公平な制度だったら、そもそも誰も利用しなくなるでしょうが(笑)。
 なお、求償権については「不法行為の使用者責任」でも触れていますので、宜しければそちらもご覧いただければと存じます。

他の連帯債務者が相殺の援用をしない場合

 連帯債務において、連帯債務者が債権者に対して反対債権を持っている場合、その反対債権で相殺できます。
 では、反対債権を持っていない連帯債務者のひとりが債権者から支払い請求を受けた場合に、例えば、反対債権を持っている他の連帯債務者がそれを使って相殺するまで(相殺を援用するまで)支払いを待ってもらうことはできるのでしょうか?
 事例に当てはめるとこうです。

  (150万円払え)
 ↙反対債権   ↗︎
A「150万円払え」→C
         ↘︎
          D

CがAから支払い請求を受けた場合に、CはAに、Bが反対債権を使って相殺するまで(相殺を援用するまで)支払いを待ってもらえないのでしょうか?
 結論。Cはその負担部分の限度でBが相殺を援用するまで支払いを拒むことができます(履行拒絶)。
 つまり、Aから支払い請求を受けたCは「Bが相殺を援用するまで負担部分50万円の限度で払いましぇーん!」と支払いを拒むことができる、ということです。

(連帯債務者の一人による相殺等)
439条
2項 前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分の限度において、他の連帯債務者は、債権者に対して
債務の履行を拒むことができる
 
※負担部分の注意点

 連帯債務者の各自の負担割合は、連帯債務者内部での決めごとに過ぎません。
 なので、仮にBの負担部分が弁済されたことになっても(Bが自分の負担部分50万円返済しても)、Bは相変わらず連帯債務者の1人のままで、債権者Aは相変わらずB・C・Dに対してそれぞれ全額の支払い請求ができます。ただその金額が50万円減って100万円になるだけです。

(B負担分50万弁済前)
          B
         ↗︎
A「150万円払え」→C
         ↘︎
          D

(B負担分50万弁済後)
          B
         ↗︎
A「100万円払え」→C
         ↘︎
          D

 したがって、債権者Aと連帯債務者B・C・Dの関係性は何も変わりません。
 そしてもし、その後、CがAに対して残りの100万円を弁済すると、連帯債務は全額弁済されて消滅します。
 すると、CはDに対して求償権を持つことになります。
 Bに対しては?
 ありません。なぜなら、Bは自分の負担部分50万円をすでに弁済しています。ということは、Cが残りの連帯債務100万円を弁済すると、Dだけが1円も弁済していないことになりますよね。

(C残り100万弁済後)
 求償
C → D(1円も弁済してない)><
  ↘
    B(すでに負担分弁済済み)^^

 したがって、Dの負担分も弁済したCは、Dに対してだけ求償権を取得するのです。 

※相殺(反対債権)の注意点
ここがポイントだよ
 なお、もしBが相殺を援用しないで連帯債務150万円全額が弁済された場合、BのAに対する反対債権残ったままです。
 なぜなら、この反対債権の存在は、連帯債務の消滅とは関係ないからです。
 この点もご注意ください。

求償の様々なケース
中途半端に弁済した場合

 連帯債務者の1人が債務を全額弁済した場合、その連帯債務者は他の連帯債務者に求償することができます。
 では、次のような場合はどうなるのでしょうか?

事例2
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた。各自の負担割合は均一である。その後、BはAに45万円を弁済した。


 この事例2では、BはAに45万円を弁済しました。各連帯債務者の負担割合は均一=50万円ずつです。
 つまり、Bは負担割合の50万円のうち45万円を弁済した、ということです。

          B
   45万弁済↙↗︎
A「150万円払え」→C
         ↘︎
          D

 さて、この場合、BはC・Dに求償することができるのでしょうか?
 結論。BはC・Dに対して15万円ずつ求償できます。
 なぜ15万円ずつ求償できるか?その意味は、Bの45万円の弁済により、連帯債務全体が150万ー45万円=105万円に減少するからです。

(B45万円弁済前)
          B
         ↗︎
A「150万円払え」→C
         ↘︎
          D

(B45万円弁済後)
          B
         ↗︎
A「105万円払え」→C
         ↘︎
          D

 そしてB・C・D各自の負担部分は50万円から15万円減少して、35万円ずつになります。
 つまり、Bの45万円の弁済は、BCD全員の、すなわち連帯債務者全員の利益になるのです。
 したがって、BはC・Dに対して45万÷3=15万円ずつ求償することになるのです。

(B45万円弁済後)
B「15万円ずつ払え」→C
          ↘︎
           D

 どうでしょう。この結論は、意外に思う方も多いかもしれません。
 実は、連帯債務における各連帯債務者の負担部分は、数値ではなく割合と考えられています。
 数値で考えれば、Bは自分の負担部分50万円のうち45万円しか弁済していません。それなのに、BがC・Dに対して求償できるのはオカシイですよね。
 しかし、各連帯債務者の負担部分は割合です。
 Bの45万円の弁済によって連帯債務全体が
150万ー45万=105万円となり、
105万円をB・C・Dが均一の割合(すなわち35万円ずつ)で負担することになるのです。
 すると、C・Dはそれぞれ負担部分が50万円から15万円ずつ減少=実質Bのおかげで15万円の利益を得たことと同じ意味になるので、その利益分をBはC・Dに対して求償できるというわけです。
素材115なるほど
 以上が、事例2のケースでの求償についての解説になります。
 決して難しい話ではないんですが、一見するとややこしく、ちょっと混乱しやすい部分ではありますので、しっかり覚えておいてください。

連帯債務者の1人が無資力(金がない状態)の場合

 続いては、連帯債務者の1人が無資力(金がない状態)の場合について解説します。

事例3
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた。各自の負担割合は均一である。その後、BはAに150万円を弁済した。そしてBは、C・Dに対して求償しようと考えているが、Dは無資力だった。


 この事例3は、連帯債務150万円を1人で弁済したBがC・Dに対して求償しようとしたところ、Dにはお金がなかった(無資力)というケースです。

          B
    全額弁済↙↗︎
A「150万円払え」→C
         ↘︎
          D

(B全額弁済後)
 求償
B → C
  ↘
    D(金が無い)

 さて、Bの求償はどうなるのでしょうか?
 通常、連帯債務150万円を1人で弁済したBは、C・Dに対して「50万円ずつ支払え」と求償することができますが、無資力のDから50万円の支払いを受けることは事実上困難です(無い袖は振れない=無一文は払いようがない)。
 となると、Cが1人で
自己負担分50万+D負担分50万=100万円
をBに対して求償しなければならなくなるのでしょうか?
 しかし、それは明らかに不公平ですよね。Cだけが本来の負担割合を超えた債務を負担してしまうことになります。
 そこで民法は、連帯債務者の1人の無資力は、他の連帯債務者全員で、各自の負担部分に応じて公平に分担せよ、と規定します。
 したがって、事例3では、Dの無資力は、BとCが各自の負担部分に応じて公平に分担することになります。
倒れる二人
 そして、B・C各自の連帯債務の負担部分は均一です。
 ではどうなるのか?
 Dの負担部分50万円BとCが25万円ずつ分担して負担します。
 その結果、連帯債務150万円をB・Cが50万+25万=75万円ずつ負担することになります。
 したがいまして、BはCに対して「75万円支払え」と求償することができます
 ただし、もしB(求償者)に過失(落ち度・ミス)があった場合は、Cに(Dの無資力の)分担を請求することができません。
 つまり、Bに過失(落ち度・ミス)があれば、BはDの負担分50万円を、B(自分)だけで負担しなければなりません。
 
 以上が連帯債務者の1人が無資力だった場合の解説ですが、こちらもまた少々ややこしく感じたかもしれません。
 元も子もない言い方かもしれませんが、要するに噛み砕いて簡単に言ってしまうと、
「連帯債務者の1人が無資力の場合、無資力のヤツはいないものとして考えろ!」ってことです。
 つまり、事例3は、無資力のDはいないものとして「連帯債務150万円はBとCの2人で負っている」と考えると、わかりやすくなると思います。
 すると「150万円の連帯債務をB・Cで75万円ずつ均一に負担していて、150万円全額弁済したBが、Cに対して75万円を求償する」という実に簡単な話になります。

補足
 連帯債務は、登場人物が多くなるのもあって最初はややこしく感じるかもしれません。
 ですが、慣れてくれば決して複雑な訳でもなく難しい話という訳でもないので、今一つよくわからないという方も不安になる必要はありません。
 慣れて来さえすれば、全然問題ナッシングですので、ご安心ください。
関連記事

連帯債務~別個独立の連帯責任とは/債務の履行請求&承認&免除と負担部分/消滅時効の相対効とは

▼この記事でわかること
連帯債務とは
債権者が弁済を受けられる額
連帯債務の債権債務関係はそれぞれが別個独立のもの
▽連帯債務の相対効
債務の履行の請求の場合
債務の承認の場合
債務の免除の場合
負担部分とは
連帯債務者の1人の消滅時効
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
OP@_20210506132801ebd.png
連帯債務とは

 債権とは、特定の者が特定の者に対して、一定の行為(「金払え」「物よこせ」)を請求することを内容とする権利です(詳しくはこちらの記事もご参照ください)。
 そして、請求する側(「金払え」「物よこせ」と言う側)は債権者、請求される側が債務者です。
 ここまでは債権債務の基本中の基本ですが、債権債務の関係は何も一対一とは限りません。
 例えば、ひとつの債権関係に対して債務者が複数になるケースも存在します。
 それが連帯債務です。
 まずは事例をご覧ください。

事例1
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた。


 この事例は、連帯債務の典型的なケースです。150万円の借金という債務を、BCDの3人が連帯して負っています。

          B
         ↗︎
A「150万円返せ」→C
         ↘︎
          D

 つまり「150万円返せ」という貸金債権に、B・C・Dという3人の債務者がいる、ということです。
 この場合のB・C・Dを連帯債務者と言います。
 さて、ではこの事例で、BCDの3人の債務者それぞれが負うことになる債務の金額は、一体いくらになるのでしょうか?
 正解は、150万円全額です。
 え?マジで?
 マジです。実は、連帯債務においての各債務者は、ひとりひとりが債務の全部の履行義務(全額の支払い義務)を負います。

(連帯債務者に対する履行の請求)
436条
債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。


 つまり、連帯債務の場合は、分割債務のように債務を分割する(分け合う)訳ではないのです。
 したがいまして、事例1のB・C・Dの3人は、ひとりひとりがそれぞれ150万円全額の支払い義務を負います。
 また、各債務者ひとりひとりが全額の支払い義務を負う、ということは、債権者は各債務者ひとりひとりに対して全額の支払い請求ができるということです。
 つまり、事例1のAは、Bに対してもCに対してもDに対しても「150万円返せ」と、債務の全額が請求できます。
 これは、債権者にとっては非常にメリットが大きいですよね。分割債務であれば、債権者は、各債務者に対して分割された債務を分割された割合でしか請求できません。したがって、連帯債務は分割債務よりも債権者にとって有利なのです。
 なるほど。でも連帯債務にするためにはどうすればいいの?
 ある債権に対する債務を連帯債務にするには、契約の段階でそのような約定をします。つまり、契約の段階であらかじめ「この債務は連帯債務になりますよ」という約束を結んでおく、ということです。
 そして、事例1では、Aはその約束をあらかじめB・C・Dとの間で結んでいた、ということです。Aは中々抜け目ないあなどれないヤツですね(笑)。

債権者Aが弁済を受けられる額はあくまで150万円

 事例のBCDは連帯債務なので、債権者Aは、ひとりひとりに対して150万円全額の請求ができるわけですが、ここで注意点があります。
 債権者Aが弁済を受けられる(返済を受けられる)金額は、あくまで150万円までです。
 もちろん、連帯債務者BCDは、ひとりひとりに150万円全額の支払い義務があります。しかし、だからといって、債権者Aが150万円×3=450万円の弁済を受けられる訳ではありません。
 つまり、連帯債務とは、言ってみれば、債務について債務者が連帯責任を負うものなのです。
連帯責任
 ですので、連帯債務者BCDは、150万円の返済義務について、連帯して責任を負っているということです。
 したがいまして、誰か1人がその責任を果たせば、残りの者の責任もなくなります。つまり、仮にBがAに対して150万円全額を弁済すれば、CとDの支払い義務(債務)はなくなります。

連帯債務ひとつひとつの債権債務関係はそれぞれが別個独立のもの

 例えば、事例1の連帯債務において、AとBの間だけ錯誤などの理由で契約が無効になった場合、他の連帯債務者CDはどうなるのでしょうか?

          B
         ↗︎ ←錯誤により無効 
A「150万円返せ」→C
         ↘︎
          D

AC間、AD間はどうなる?

 このような場合、その契約が無効になるのはAB間だけです。したがって、AとC、AとDの間の連帯債務の契約有効のままです。
 よって連帯債務者C・Dは、引き続き150万円の連帯債務を負い、Bだけがそこからいなくなります。
 つまり、連帯債務における債権者と連帯債務者ひとりひとりとの債権債務関係は、それぞれが別個独立の債権債務関係になっているのです。
 先ほど、連帯債務とは、言ってみれば連帯責任だ、というようなことを申しましたが、その意味は、この点からも言えることなのです。

連帯債務の相対効
債務の履行の請求


事例2
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた。やがて月日が経過し、AのBCDに対する貸金債権は、時効による消滅が迫っている。


 この事例2のB・C・Dは連帯債務を負っています(連帯債務者)。
 連帯債務ということは、Aは連帯債務者のBCDひとりひとりに、150万円全額の弁済を請求できます。
 そして、そのAの貸金債権は、月日の経過で時効により消滅しそうになっている、というのがこの事例の内容です。

          B
         ↗︎
A「150万円返せ」→C
        ↘︎
  消滅時効間近  D

 さて、Aとしては、150万円の貸金債権が時効により消滅してしまっては困ります。
 そこで、時効を止めるために(時効の更新等)Aは債務の履行を請求(金払えと請求)しなければなりません。
 ではこのとき、AがBに対して債務の履行の請求をした場合、AC間・AD間についての消滅時効はどうなるのでしょうか?
 結論。AがBに対して債務の履行を請求しても、AB間の消滅時効が止まるだけで、AC間・AD間の消滅時効は止まりません。
 つまり、AからBに対する債務の履行の請求の効果は、AC間・AD間には及ばないのです。
 このような効果を、相対効といいます。
 相対とはつまり「人によって違う」という意味です。すなわち、相対効とは「人によって効果が違う」ということです。
 そして、民法は連帯債務について、相対効の原則を取ります。なので、連帯債務においての債権者と連帯債務者ひとりひとりとの関係は、それぞれ別個独立したものなのです。
 連帯債務者は、ひとりひとり別個独立した関係でありながら、債務について連帯責任を負っている、と考えると理解しやすいかもしれません。
三人
 なお、もし事例の債権者Aと連帯債務者CDとの間で、あらかじめ「Bに対する債務の履行の請求(金払えの請求)は、C・Dにもその効果が及ぶ」と取り決めしていた場合(意思を表示していた場合)、AのBに対する債務の履行の請求の効果は、AC間・AD間にも及びます。
 つまり、そのような取り決めをしていた場合は、AがBに対して債務の履行の請求をすれば、AB間だけでなくAC間もAD間の消滅時効も止まります。
 この点はご注意ください。

(相対的効力の原則)
441条
第四百三十八条、第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。


債務の承認

 それでは今度は、3人の連帯債務者のうち、BだけがAに対して「債務の承認」をしたら、AC間・AD間の消滅時効はどうなるのでしょうか?
 消滅時効において、債権者に対して債務者が債務の承認をすると、消滅時効は更新(リセット)します。
 したがって、BがAに対して債務の承認をすれば、AB間の消滅時効は当然に更新(リセット)します。
 つまり、今ここで問題となるのは、「債務の承認」は相対効なのか絶対効なのか?です。

          B
         ↗︎ ←債務の承認 
A「150万円返せ」→C
        ↘︎
  消滅時効間近  D         
          
AC間、AD間はどうなる?

 結論。債務の承認相対効です。
 したがって、BがAに対して債務の承認をすると、AB間についての消滅時効だけが更新(リセット)し、AC間・AD間の消滅時効は更新(リセット)しません。
 ですので、もしAがそのまま放ったらかしていたら、C・Dの債務については時効により消滅してしまいます。

債務の免除
連帯債務者の1人が債務の免除を受けた場合

事例3
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた(各自の負担部分は均一)。その後、AはBに対して債務の免除をした。

 
 この事例3は、連帯債務を負っているB・C・D(連帯債務者)のうち、AがBに対してだけ債務の免除をした、というケースです。
 AがBに対してだけ債務の免除したとは、AがBに対してだけ「あなたは返済しなくていいよ」と許した、という意味です。
 
           B
         ↗︎ ←債務の免除 
A「150万円返せ」→C
         ↘︎
          D

 さて、このとき、AがBに対して債務の免除をした(返済を許した)ことにより、AB間の債権債務関係は消滅します。
 したがって、Bは連帯債務の枠から抜けることになります。
 では、AがBに対して債務の免除をしたことにより、AC間・AD間の債権債務関係への影響はあるのでしょうか?
 結論。債務の免除による効果も相対効です。
 したがって、AがBに対して債務の免除をしても、AB間についての債権債務関係だけが消滅するだけで、AC間・AD間の債権債務関係は何も変わらず、C・Dの連帯債務はそのまま残ります。

補足:負担部分とは
 これは、連帯債務者内部で決めた各自の債務の分担割合です。
 事例3では、その分担割合(負担部分)は各自均一なので、B・C・Dの各自の負担は3分割の50万円ずつです。
三人 不満げ
 ただし、これはあくまで、連帯債務者内部で「最終的には誰がいくら負担するか」を決めたものであって、債権者としては連帯債務者ひとりひとりに対して債務の全部の履行を請求できます(BCD各自の負担部分がどう決められていようと、AはBCDのいずれに対しても150万円全額の支払い請求ができる、ということ)。

 以下、事例3の債務免除のケースを簡単に図でまとめると、このようになります。

(Bの債務免除前)
          B
         ↗︎
A「150万円払え」→C
         ↘︎
          D

(Bの債務免除後)
A「150万円払え」→C
         ↘︎
          D

連帯債務者の1人の消滅時効

事例4
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた(各自の負担部分は均一)。やがて月日が経ち、Bの債務が時効により消滅した。


 さて、今度は、B・C・Dの連帯債務のうち、Bの債務だけ時効により消滅した、というケースです。
 ではこのとき、Bの債務が時効により消滅したことにより、C・Dの債務はどうなるのでしょうか?

          B
         ↗︎ ←時効により消滅 
A「150万円返せ」→C
         ↘︎
          D

C・Dの債務はどうなる?

 結論。連帯債務者の1人のために時効が完成したときの効果は、相対効です。
 したがって、Bの債務が時効により消滅しても、Bの債務だけが消滅するだけで、AC間・AD間の債権債務関係は何も変わらず、C・Dの連帯債務はそのまま残ります。
 先述の債務の免除と結果も内容も全く一緒ということですね。

(Bの時効完成前)
          B
         ↗︎
A「150万円払え」→C
         ↘︎
          D

(Bの時効完成後)※Bは連帯債務から離脱
A「150万円払え」→C
         ↘︎
          D

債務の承認・免除と消滅時効の補足

 もし事例2と事例3と事例4のケースで、債権者Aと連帯債務者CDとの間で、あらかじめ「AB間の債務の承認・免除・消滅時効は、C・Dにもその効果が及ぶ」と取り決めしていた場合(意思を表示していた場合)、AB間の債務の承認・免除・消滅時効の効果は、AC間・AD間にも及びます。
 つまり、このような取り決めしていた場合は、AB間で債務の承認・免除、消滅時効の完成があれば、その効果はAB間だけでなくAC間もAD間にも及びます。
 これは債務の履行の請求のときと同様で、民法441条の規定によるものです。この点もご注意ください。
関連記事

分割債権(債務)と不可分債権(債務)~賃料債権は分割できない?/分割債権の具体例

▼この記事でわかること
そもそも債権とは
分割債権と不可分債権
建物等の賃料債権は不可分債権?
分割債権(債務)の具体例
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
OP@_20210506132801ebd.png
債権とは

 債権とは、特定の者が特定の者に対して、一定の行為を請求することを内容とする権利です。
 例えば、Bにお金を貸したAが、Bに対して「金返せ」と請求する権利が、まさしく債権になり、Aは債権者となります。
 反対に、Aからお金を借りたBは、Aに対して「借金を返済しなければならない義務」を負いますが、これは債務になり、Bは債務者となります。

       債権者
        A
(返済義務)債務↑↓債権(金返せ)
        B
       債務者

 ところで、債権債務関係は「特定の者・対・特定の者」ですが、必ずしも1対1の関係に限ったものではありません。
 1個の債権に複数の債権者、または債務者が存在するケースもあります。
 そのようなケースを、多数当事者の債権(債務)関係と言います。

分割債権と不可分債権

 まず、債権(債務)には、分割できるものと分割できないものがある、ということを見ていきます。
 いきなり債権の分割と言われてもピンと来ないと思いますので、より具体的にわかりやすく解説していきます。

・分割債権
 分割できる債権の代表は、お金を請求する金銭債権です。
 例えば、100万円を50万・50万、90万円を30万・30万・30万というように、お金は当然に割ることができますよね。
 つまり「100万円払え」という債権は「50万円払え」「50万円払え」という2つの債権に分けることもできる、という事です。

・不可分債権
 不可分とは、可分できないという意味です。可分できないとは、分けることができないという意味です。
 ここで「なんで分割債権に対して不分割債権じゃないの?」「なんで不可分債権に対して可分債権じゃないの」という疑問がわいた人もいると思います。が、その疑問は華麗にスルーでお願いします。世の中には、わからなくていいこともあるのです(笑)。というより、わかる必要もないので、どんどん進んで参りまっす。
ピアノ2
 不可分債権(分割できない債権)としては「そのピアノをよこせ」のような、物の引渡しを請求する債権があります。
 これは割ること(分割)ができません。じゃあ僕は白鍵だけ、君は黒鍵だけ、なんてできませんよね?ピアノがバラバラになって使い物にならなくなってしまいます。

建物等の賃料債権についての注意点

 先ほど、金銭債権は分割できるとご説明しましたが、実は、お金を請求する債権でも建物等の賃料債権については、分割できないとされています。
 例えば、大家Aが死亡して、相続人がBCDの3人だったとします。すると、大家Aが賃借人(借りて住んでいる人)に対して持つ「家賃払え」という賃料債権を、3人の相続人BCDが相続しますが、この賃料債権を3分割することはできません。
 つまり、家賃が9万円であれば、BCDの3人がそれぞれ3万円ずつ賃借人に請求する、ということができないのです。
 ですので、このような場合は、BCDの3人の誰か1人が代表して9万円の家賃を請求して、受け取った9万円の家賃を3人で分け合う、というような形になります。
 なんかややこしくね
 そんなこともありません。だって賃借人(借りて住んでる人)の立場に立ってみれば、3人の大家から別々に3万円ずつ請求される方がややこしいですよね。
 でもなんで賃料債権はお金を請求する債権なのに分割できないの?
 それは、賃料債権に対する建物の賃貸債務分割できないからです。
 賃貸人(大家)は、賃借人(借りて住んでる人)に対して賃料債権を持つのと同時に、賃借人に対して目的物(建物)を使用収益させる(貸して使わせてあげる)義務があります。その義務というのが、賃貸人の目的物の賃貸債務(それを貸して使わせてあげる義務)です。
 そして、その賃貸債務は分割できないのです。その理由はこうです。
 例えば、Aさんにはリビングだけ貸して、Bさんにはバスルームだけ貸して、Cさんにはキッチンだけ貸して...なんてできないですよね?
部屋
 したがって、賃料債権は分割できないのです。
 なお、賃料債権は分割できない債権なので、不可分債権になります。
 また、賃料債権が分割できないので、当然に賃料債務も分割できません。分割できない債務は、不可分債務と言います。
(賃借人が死亡して、その相続前に未払い賃料が発生していた場合は、その未払い賃料に関しては可分債務となる。詳しくは相続分野にて改めて解説します)。

分割債権(債務)の具体例

 では、ここからは、どのようなケースが分割債権(債務)になるのか、その具体例を見ながら解説していきます。

事例1
AはBに150万円を貸し付けている。そしてAは死亡した。なお、Aには相続人がC・D・Eの3人おり、Aの貸金債権を3人は法定相続した。


 この事例で、C・D・Eの3人は、AのBに対する150万円の貸金債権を相続しました。

 死亡 
  A → B
  貸金債権
 (150万円返せ)
相続↓↓↓
   C D E

 このとき、3人の間で特に取り決めをしなければ、150万円の貸金債権は等しい割合で3分割されます(法定相続)。
 つまり、C・D・Eの3人は、それぞれ、Bに対する50万円の貸金債権を持つことになります(CDEがそれぞれBに対して「50万円返せ」という債権を持つ)。
 この場合の、3分割された債権こそ、まさしく分割債権です。

事例2
BはAから150万円を借金している。そしてBは、150万円の借金を残したまま死亡した。Bには相続人がC・D・Eの3人おり、Aの借金150万円を3人は法定相続した。


 この事例では、C・D・Eの3人は、Aの150万円の借金債務を相続しました。

 死亡 
  B ← A
  借金債務
(150万円返済義務)
 相続↓↓↓
    C D E

 このとき、3人の間で特に取り決めをしなければ、150万円の借金は等しい割合で3分割されます。
 つまり、C・D・Eの3人は、それぞれ50万円ずつ借金を背負うことになります。これが分割債務です。

 以上が分割債権・債務です。
 念のため、再度確認します。

債権者が複数になるのが分割債権
債務者が複数になるのが分割債務

 慣れないうちは紛らわしいですが、問題文や選択肢で読み間違えないよう、くれぐれもご注意ください。
関連記事

カテゴリ別項目一覧

▼各項目のページへのリンクになっています。

連帯債務
分割債権(債務)と不可分債権(債務)~賃料債権は分割できない?
連帯債務~別個独立連帯責任?債務の履行請求・承認・免除・消滅時効の相対効?
連帯債務の相殺と求償~相殺を援用しないと?無資力への求償?様々なケースと注意点
連帯債務者の弁済の事前・事後通知義務~通知忘れは?求償の制限?前後通知忘れが重なると?
連帯債務の債権譲渡による混同と更改?連帯債務が相続されると?
連帯の免除~絶対的免除と相対的免除とその後の求償関係

保証債務
保証債務と付従性~催告・検索の抗弁権/保証額の上限と違約金の約定
保証債務における債権譲渡の通知は主債務者と保証人どちらにすべき?
保証債務&連帯保証と消滅時効~履行の請求・債務の承認をすると?時効完成後の債務の承認?
委託を受けたor受けない保証人~求償の制限と事前求償権
保証債務と相殺~弁済の事前・事後通知義務/主債務者と保証人
複数の保証人:共同保証~分別の利益?保証人間(同士)の求償?
素材62
関連記事

時効の援用と利益の放棄とは/援用ができる当事者と時効更新の相対効について(保証債務)

▼この記事でわかること
時効の援用とは
時効の援用ができる当事者とは(保証人の援用)
時効更新の相対効(保証債務)
時効利益の放棄
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
OP@_20210506132801ebd.png
時効の援用

 取得時効の場合、時効の完成によって権利を取得します。
 消滅時効の場合、時効の完成によって権利が消滅します。
 ところで、時効というのものは、時効期間が満たされると自動的に権利を取得したり、自動的に権利が消滅したりするものではありません。
 え?どゆこと?
 時効期間が満たされても、時効の効果を受ける権利を得るだけなのです。
 そして、その権利を行使することを時効の援用と言います。
 つまり、時効は、時効の援用をして初めてその効果が確定するのです。
 ですので、裁判所が勝手に「あ、それ時効ね」と決めることはできません。当事者が「時効を援用します」と主張して、初めてその効果が確定します。
 まとめるとこうです。
「時効期間が満たされても時効の効果は確定せず、時効の援用をして初めてその効果が確定し、時効を援用するかどうかは当事者の任意(当事者が自ら選択して決める)」
 じゃあ時効を援用しなかったら?
 そのときは時効の効果は確定しません。取得時効なら権利の取得は確定せず、消滅時効なら権利の消滅は確定しません。
 例えば、AがBに100万円を貸していて、すでに返済期日より10年間経過していたとしましょう。
 このとき、AのBに対する「100万円返せ」という債権は消滅時効にかかっています。なので、Bは時効の援用をすれば、100万円の借金を返さなくてもいいのです。
 しかし、Bが「借金を踏み倒すなんて道義に反する。オレは意地でもAに借金を返すんだ!」といって時効を援用しなければ、AのBに対する債権は消滅しません(これを時効利益の放棄という)。
 これが、時効の援用は当事者の任意(当事者が自ら選択して決める)ということの意味です。

時効の援用ができる当事者とは

 時効を援用できるのは「時効によって直接に利益を受ける当事者」だけです。
 ではこの「時効によって直接に利益を受ける当事者」の範囲は、一体どうなっているのでしょうか?
考え中
 例えば、AがBを保証人として、Cからお金を借りたとしましょう(このような場合、Aのことを主債務者といいます)。

           債権 
B(保証人)ーA(主債務者) ← C
           借金

 そして、CのAに対する債権が返済期日10年間の経過により消滅時効にかかった場合、Aが時効の援用をできるのは当然として、保証人Bは時効の援用ができるでしょうか?
 結論。保証人Bも時効の援用ができます。
 これはすなわち、保証人Bも「時効によって直接に利益を受ける当事者」ということです。
 その理由は、主債務者AのCに対する債務(これを主債務と言う)が消滅すれば、保証人Bの債務(これを保証債務と言う)も消滅します。
 したがいまして、保証人Cも時効の援用ができる当事者なのです(保証債務の超基本はこちら)

補足:時効更新の相対効

 先ほど挙げた例で、保証人Bは、主債務者Aの時効を援用できることがわかりました。
 では、主債務者Aの債務、つまり主債務(AのCへの借金債務)の時効が更新した場合、保証人Bの債務、つまり保証債務の時効も更新するのでしょうか?
 結論。その場合は、保証人Bの保証債務の時効も更新します。
 ただし!保証人Bの保証債務の時効が更新しても、主債務者Aの主債務の時効は更新しません。これを時効更新の相対効といいます。

〈時効利益の相対効〉
主債務更新→保証債務も更新
保証債務更新→主債務も更新× 

 なお、解説の中で登場した「相対効」や「主債務・保証債務」といったものに関しましては、別途改めて詳しく解説いたしますので、ここではとりあえず「そういうものがあるんだ」と、覚えておいていただければと思います。

時効利益の放棄

 時効は、当事者が援用しなければその効果が確定しません。
 ということは、このようなことも可能なのでしょうか?
 例えば、AがBにお金を貸し付けた場合、時効対策として、あらかじめ契約書に次のような文言を入れておけば、債権者Aは安心なのでは?

「BはAに対し時効利益を放棄する」

 時効利益の放棄とは、時効を援用しないということです。時効利益を放棄すれば、時効の効力が確定的に消滅します。
ほうき魔女
 つまり「時効利益を放棄する」の文言を入れておけば、あらかじめ時効の効力を消滅させることができるわけです。
 しかし!そのようなことはできません。これについては、民法に極めてわかりやすい明快な条文があります。

(時効の利益の放棄)
民法146条
時効の利益は、
あらかじめ放棄することができない。

 え?民法さんどうしちゃったの?と思ってしまうぐらい、やけにわかりやすい条文ですよね(笑)。
 したがいまして、先の例のように、契約書にあらかじめ時効利益を放棄する旨の文言を入れたところで、その条項は無効になります。どうあがいても、あらかじめ時効の利益を放棄する(させる)ことはできないのです。
 もし、ヤバそうな所からお金を借りて、あらかじめ時効利益を放棄する旨の文言が入った契約書にサインをしてしまった人は、その条項につきましては無効なのでご安心ください。時効期間を満たせば、普通に時効が援用できますので。。。
 あ、決して借金の踏み倒しをススメている訳ではありませんので、誤解なきよう(笑)。

 さて、あらかじめ時効利益の放棄ができないことはわかりました。
 それでは続いて、このような場合はどうでしょう。

事例
AはBに100万円を貸し付けた。やがて時が過ぎ、AのBに対する債権は消滅時効にかかっていたが、Bはそれに気づかず債務を承認した。


 これは、債権者のAのBに対する「金返せ」という債権がすでに時効になっていたが、債務者のBがそのことに気づかずに「金返します」と債務の承認をした、という話です。
 さて、この事例で、Bは時効利益を放棄したことになってしまうのでしょうか?
 結論。Bの債務の承認は、時効利益の放棄にはあたりません。しかし、結果的には時効利益を放棄したのと同じことになります。
 ん?どゆこと?
 まず、事例のBは、自分の債務が消滅時効にかかっていることに気づいていません。つまり、Bは自らの時効利益を知らないのです。
 知らない利益を放棄できるの?
 もちろんできません。
 じゃあなんで時効利益の放棄と同じ結果になるの?
 判例では、次のような理屈で結論づけています。

「債務者Bの債務の承認は時効利益の放棄にはあたらない。
しかし、一回債務を承認したBが、その後、自らの債務が消滅時効にかかっていることに気づいて「やっぱり時効を援用します!」と言えるのか?
それは認められない。なぜなら、一度債務を承認した者が、その後、それをひっくり返して時効の援用を主張するのは信義誠実の原則(信義則)に反し許されないから!」

 なお、一度、時効利益を放棄しても、そこからまた新たに時効期間を満たせば、そのときは時効の援用ができます。これは時効が更新した場合と一緒です。この点はご注意ください。
関連記事

時効の更新と完成猶予とその事由(原因)/消滅時効の進行を止める方法/除斥期間とは

▼この記事でわかること
時効の更新とは
消滅時効を更新させる方法(時効の更新事由)
時効の更新の特殊なケース(債権者代位権)
時効の完成猶予とは
時効が一旦止まるとき(時効の完成猶予事由)
除斥期間とは
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
OP@_20210506132801ebd.png
時効の更新

 時効には2種類あります。取得時効消滅時効です。
 取得時効は権利を取得する時効であるのに対し、消滅時効は権利が無くなる時効です。
 つまり、時効によって権利が無くなってしまうのが消滅時効です。

事例1
AはBに「〇月〇日までに返す」と約束して100万円を借りた。その後、約束した期日が過ぎてもAがBにお金を返すことはなく、そのまま9年間が経過した。


 さて、この事例1ですが、Aはあと1年間やり過ごせば、Bに100万円を返さなくても良いことになります。

(債権等の消滅時効)
166条
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一号 省略
二号 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

 したがいまして、Aはあと1年間なんとかやり過ごせば、消滅時効によって、BのAに対する「100万円返せ!」という債権消滅するので、合法的に借金を踏み倒せます。まあ、同時にAという人間に対する信用も消滅しますが(笑)。
 さて、ここからが本題です。
 それでは、Bとしては何か打つ手はないのでしょうか?
 あります。それは時効の更新です。
 時効の更新とは、時効期間のリセットです。つまり、時効の更新をすると、時効期間の進行が始まりのゼロ地点に戻されます。
 したがいまして、事例1でAの時効が更新すると、進行していた9年間という時効期間は始まりのゼロに戻ります。

消滅時効を更新させる方法(時効の更新事由)

 では、時効を更新させるには、具体的にどんな方法があるのでしょう?
 消滅時効の更新事由(消滅時効が更新するパターン)には下記のものがあります。

・承認
・請求
・差押え、仮差押え、仮処分

 それでは、ひとつひとつ解説してきます。

・承認
 これは債務者債務を承認することです。
 事例1では、Aは債務者、Bは債権者、という立場になります。
 ということはつまり、事例1のAが「Bに100万円返します!」と認めることです。債権者のBとしては、債務者のAにそれを一筆書かせればバッチリです。
(「お金返します」と口で言わすだけでも有効だが、それだけだと裁判でシラばっくれられたら厄介なので、一筆書かせれば、もし裁判になったときでも言い逃れられない確固たる証拠になる)
 債務者のAが真面目で誠実な人間なら、このパターンで済むでしょう(笑)。

・請求
 これは、BがAへ「金返せコラ」と請求することなのですが、時効を更新させるための請求は「裁判上の請求」でなければなりません(ただBがAに対して請求書を送っただけではダメ)
 裁判上の請求とは、例えば、訴訟の提起です。つまり、BがAに対して金返せという裁判を起こすことです。そして裁判を起こせば、民事訴訟法上、Bの訴状提出時に時効期間の進行が一旦止まり(時効の完成猶予)、確定判決時に時効が更新されます。

・差押え、仮差押え、仮処分
 これも裁判所を使った手続きです(これらについての詳しい解説はこちら)。
裁判所
 以上のように、BがAの時効を中断させる方法はいくつか存在します。
 ただ、どうでしょう。
 まず承認は、債務者のAが借金を踏み倒す気満々なら、ほぼ無理でしょう。ましてや、あと1年で時効になるというのに...。
 すると残る手段は、裁判所の手を借りた方法しかありません。
 しかし、裁判を起こすとなると準備も大変です。それこそ時効完成までの期間が1ヶ月もないような状況だったとしたら、債権者のBはなおさら大変です。
 そこで、民法では、時効の更新とまではいかないが、とりあえず時効期間の進行を一旦止まらせる効果のある「催告」という制度を定めています。
 催告をすると、時効期間の進行が一旦止まります。止まる期間は6ヶ月です。
 つまり、債権者Bが債務者Aに催告をすれば、Aの時効期間の進行をとりあえず6ヶ月の間は止まらせることができます。
 催告は通常、内容証明郵便で行います(しっかりとした証拠を残すため)。
 したがいまして、もし債務者Aの時効完成が間近な場合は、債権者Bはまず債務者Aに対し内容証明郵便で催告をして、Aの時効進行を一旦止まらせた上で、6ヶ月以内「裁判上の請求」等の裁判所の手を借りた手続きをすれば、無事、債務者Aの時効を更新させることができます。
 なお、催告は1回限り有効なものです。もう1回催告をしたら、そこからまたさらに6ヶ月間時効の進行が止まる、なんてことはありません。この点は注意ください。
 また、もし原告(訴える側)が訴訟を取り下げたときや、訴えが裁判所で却下(門前払い判決)されたときは、時効は更新しません。この点もあわせてご注意ください。

時効の更新の特殊なケース(債権者代位権)

 少し特殊ですが、次のようなケースもあります。
 まずは以下の事例をご覧ください。

事例2
AはBにお金を借りている。BはCにお金を借りている。


 これは、AがBからお金を借りていて、BがCからお金を借りている事例です。

 お金  お金
A ← B ← C
 貸す  貸す

 一見何の変哲もない事例ですが、このようなケースで、CがBへの貸金回収(貸したお金の回収)にあたり、Bにお金が無かったとしたらどうでしょう?
 その場合、AがBにお金を返せば、そのお金をBはCへの貸金回収に充てることができますよね。
 民法では、こういった場合に、BがAに対して持つ「金返せ」という債権を、CがBに代わって行使する債権者代位権という制度を定めています。
 つまり、CがAに対し「Bに金返せ」と請求することができるのです。

 返せ  返せ
A ← B ← C
↑(Bに返せ)
C  

 また、債権者代位権では、金銭債権の場合は直接自己に支払う事を求めること可能としています。
 つまり「金返せ」は金銭債権なので、CはAに対して「Bを通さず私(C)に直接金払え」と請求することもできます。

 返せ  返せ
A ← B ← C
↑(私に直接払え)
C   

 ただし、これができるのは、あくまでBが無資力(お金がない状態)のときだけですのでご注意ください(債権者代位権については別途改めてご説明いたします)。
金欠
 以上が債権者代位権についての簡単な説明ですが、ここからが本題です。
 債権は10年間で時効により消滅してしまいます(民法166条)。
 ですので、事例2のCは、Bに10年間逃げ続けられると借金を踏み倒されてしまいます。そこで、Cは消滅時効を止めるため、Bに対し裁判上の請求等を行わなければなりません。
 それでは、Cが債権者代位権を使って、BがAに対して持つ「金返せ」という債権を、Bに代わって行使(これを代位行使という)した場合、消滅時効の進行が止まるのは、BがAに対して持つ債権なのか、それともCがBに対して持つ債権なのか、一体どちらなのでしょうか?

 返せ  返せ
A ← B ← C
 債権  債権
  ↑   ↑
時効が止まるのはどっち?

 結論。消滅時効の進行が止まるのは、BがAに対して持つ債権です。
 したがいまして、もしCのBに対する債権が時効完成間近なのに、Cが債権者代位権によりBのAに対する債権を代位行使しても、CのBに対する債権の消滅時効の進行は止まりません。


時効の完成猶予

 時効が更新すると、時効期間はリセットされます。つまり、積み上げられた時効期間はゼロに戻ります。
 一方、時効の進行はストップするが時効期間はリセットされない「時効期間の進行が一旦止まる」というものも存在します。それは時効の完成猶予です。

時効が一旦止まるとき(時効の完成猶予事由)

 では、一体どんなときに時効の完成猶予(一旦止まる)が起こるのでしょうか。
 まずは、時効の完成猶予に関する条文を確認します。
 民法158~161条に時効の完成猶予に関する規定が存在するのですが、ここでは、その中の未成年者・成年被後見人に関する条文を見ていきます。

(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予)
民法158条
時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない


 これはどういう事なのか、わかりやすく具体的に解説しますとこうです。
 例えば、債権者が未成年者または成年被後見人だったとして、その債権があと少し(時効完成まで6ヶ月以内)で、時効により消滅しそうになっていたとします。
 このときに、債権者である未成年者または成年被後見人に、法定代理人がいない場合、その債権の時効の進行は完成猶予(一旦ストップ)します。
(法定代理人とは、未成年者の場合その親が法定代理人であることが多い)
親子2
 なぜそのようになっているのか?その理由ですが、未成年者や成年被後見人は、法定代理人に代理をしてもらわないと訴えの提起ができません(例えば子供が自分で裁判を起こせない)。
 そして訴えの提起ができないとなると、時効の進行を止めることができないのです。
 これでは未成年者や成年被後見人は困ってしまいます。ましてや法定代理人がいないのは、本人のせいでもないでしょう。
 したがいまして、そのような場合には、法律により時効期間の進行を一旦止まらせて、未成年者や成年被後見人に法定代理人が就いてから、または未成年者や成年被後見人が行為能力者になってから(例えば未成年者が成年者になってから)6ヶ月が過ぎるまでの間は、時効期間の進行を止まらせたままにし、その間は時効が完成しないと定めているのです。

補足1 
 ちなみに、先述の民法158条には、被保佐人と被補助人については記述がありませんでした。
 その理由は、被保佐人・被補助人につきましては、法定代理人に代理をしてもらわなくても、自らで訴えの提起ができるからです(自分で裁判を起こせる)。法定代理人はそれに同意をするだけなので、時効の完成猶予も必要ないのです(未成年者・成年被後見人や被保佐人などの制限行為能力者について詳しくはこちらの記事をご覧下さい)。

補足2
 時効の完成猶予に関しまして、次のような規定もあります。

(夫婦間の権利の時効の完成猶予)
民法159条
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消※の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

※婚姻の解消は「離婚」「配偶者の死亡」の2種類ある。

 これは、例えば、夫婦間で金の貸し借りなどをしていた場合、その債権の時効期間の進行は離婚してから6ヶ月までの間は止まる、ということです。


以上、ここまでが時効の更新と完成猶予についてになります。
 時効の更新時効期間が完全にリセットされますが、時効の完成猶予はあくまで時効期間の進行が一旦ストップするだけです。
 この点はくれぐれもお間違いのないようにご注意ください(時効の完成猶予は「時効の一時停止」と覚えてしまってもいいかもしれません)。

除斥期間

 消滅時効と似て非なるものに、除斥期間があります。
 除斥期間とは、一定の期間を過ぎると問答無用に権利が消滅する期間のことです。
 問答無用に権利が消滅するとは、当事者が何しようがで勝手に権利が消滅するということです。
 さらに、更新も完成猶予もありません。したがって、債権者側からすると、除斥期間を過ぎるともはや手の打ちようがありません。
 一方、債務者側からすると、除斥期間が過ぎてしまえば、もはや援用(時効の権利の主張)すらする必要もないのです。
 素材108驚き
除斥期間の起算点
 除斥期間の起算点は、一律に権利発生時となっています。

除斥期間の効果
 除斥期間経過による権利消滅の効果はさかのぼりません。

除斥期間という言葉は民法の条文に存在しない
 実は、民法の条文には除斥期間という言葉は存在しません。
 しかし、民法が規定する権利の存続期間の中で、除斥期間と解釈されるものはあります。
 例えば、売主の契約不適合責任における解除権の行使期間、取消権の行使期間、窃盗被害者・遺失主の権利回復期間などがあります。

 以上、最後に除斥期間についての簡単な解説でした。
 ここで覚えておいていただきたいことは、除斥期間は消滅時効と違い、更新もなければ、よほどのやむを得ない事由がない限り完成猶予もしないという事です。この点はくれぐれもご注意ください。
関連記事

消滅時効の基本~権利行使を「できる時」と「知った時」/様々な債権とその時効起算点(数え始め)

▼この記事でわかること
消滅時効とは
「権利を行使することができる時から十年間行使しないとき」とは
「権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき」とは
「できる時」と「できることを知った時」優先されるのは?
▽消滅時効の起算点と様々な債権
消滅時効の起算点(数え始め)
確定期限付きの債権の場合
不確定期限付きの債権の場合
不法行為による損害賠償請求権の場合
期限の定めのない債権の場合
弁済期の定めのない消費貸借の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
OP@_20210506132801ebd.png
消滅時効

 例えば、AがBから300万円借りて「○月〇日までに返す」と約束します。お互いがその期日を過ぎても、そのまま何もせず放置して10年が経過すると、Aの債務(Bに借金を返す義務)は消えます。 
 Aが訴訟をおこして裁判になっても、Bが「これは時効だ!」と主張(これを時効の援用という)すれば、Bの勝ちです。つまり、BはAに300万円を返さなくて済むのです。
 これが消滅時効です。

(債権等の消滅時効)
166条
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一号 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二号 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。


 上記の条文を読むと、債権についての消滅時効のパターンが2つ記されていますよね。
 ではここからひとつひとつ、解説していきます。

権利を行使することが「できる時」から十年間行使しないとき

 先にこちら条文二号の方から解説します。
 これはわかりやすいと思います。
 先ほど挙げた例で言えば「〇月〇日までに返す」と約束した期日「権利を行使できる時」になります。
 そして、その期日から10年間、BがAに対して「300万円返せ!」と請求しないと、消滅時効によりAの債務(Bに借金を返す義務)は無くなります。Aは借金踏み倒し完了、Bは泣き寝入り、という訳です。
 また、売買契約で言えば、買主Aが売主Bから不動産を買って「○月〇日までに代金を支払う」と約束(契約)すると、その約束した(契約で決めた)期日「権利を行使できる時」になります。
 そして、その期日から10年間、売主Bが「代金払え」と請求しないと、消滅時効によりAの債務(Bに代金を支払う義務)は無くなります。Aは代金踏み倒し完了、Bは泣き寝入り、という訳です。

権利を行使することが「できることを知った時」から五年間行使しないとき

 貸した側や売った側が「〇月〇日までに返す」「〇月〇日までに払う」という期日を後から知ってから請求する、なんて事、ちょっと考えづらいですよね。
 ではどんなケースがあるかと言いますと、消費者ローンの過払金(不当利得)返還請求権などがあります。
 過払金とは、利息制限法所定の制限利率を超えて利息を支払った結果過払いとなった金銭です。要するに、必要以上に払い過ぎた(返済し過ぎた)お金のことです。
 過払金の場合は、たいてい後から払い過ぎた事に気づくはずです。そもそも払う前に気づいていれば払いませんよね。
 つまり、後から過払金(払い過ぎた事・返済し過ぎた事)に気づいた時、それが「権利を行使することができることを知った時」になります。
(ちなみに、この場合「過払いをした時(払い過ぎた時・返済し過ぎた時)」が「行使できる時」になります)
 そして、その時から5年間「払い過ぎた(返済し過ぎた)分を返せ!(過払金(不当利得)返還請求権)」と請求しなければ、消滅時効により過払い金は消滅し、その返還は無くなってしまいます。悪徳消費者ローンは丸儲け、借金した人は泣き寝入りで終了、ウシジマくんもご満悦です(必ずしも悪徳業者の場合だとは限りませんが...)。
比較
どちらの時効期間が優先されるのか

 ここでひとつ、こんな疑問がわいてきませんか?
 先ほど挙げた消費者ローンの過払金返還請求のケースで、例えば、Aが過払いをしてから9年後に過払金に気づいた場合、こうなりますよね。

・「行使できることを知った時」からだと残り5年
・「行使できる時」からだと残り1年

 このような場合は、残り期間が少ない方が適用されます。
 つまり、今の例だと、Aの過払金返還請求権は、1年後に時効により消滅してしまいます。
 
 では続いて、次のような場合はどうでしょう。
 消費者ローンの過払金返還請求のケースで、Aが過払いをしてから1年後に過払金に気づいた場合、以下のようになります。

・「行使できることを知った時」からだと残り5年
・「行使できる時」からだと残り9年

 もうおわかりですよね。
 このような場合でも、あくまで残り期間が少ない方が適用されます。 
 よって、Aの過払金返還請求権は、5年後に時効により消滅します。

消滅時効の起算点 

 取得時効では、例えば、Aが甲土地を時効取得する場合、その取得時効の起算点はAが甲土地の占有を開始した時です。
 時効の起算点とは、時効期間の数え始めとなる時点のことです(例えば年齢の起算点は誕生日になる)。
 さて、では消滅時効の場合、その起算点はいつになるのでしょうか?
 これはもうおわかりですよね。
 消滅時効の起算点は「権利を行使することができる時」と「権利を行使することができることを知った時」です。
 上記の2つの起算点の内「権利を行使することができることを知った時」については、先述の消費者ローンの過払金(不当利得)返還請求権のケースで、過払金に気づいた時になります。こちらについては、これで十分かなと思いますので、ここからは「権利を行使することができる時」について、詳しく解説していきたいと思います。

「権利を行使することができる時」はケースによって違う

 消滅時効の起算点「権利を行使することができる時」ですが、その「権利を行使することができる時」は、実はどんな債権かによって異なってきます。 
 では一体、どんな債権があってどんなふうに異なっているのでしょうか?

確定期限付きの債権

 確定期限付きの債権とは、簡単に言うと「いつまでに」が決まっている債権です。
 例えば、AとBが不動産の売買契約を締結して「買主は売主に◯月◯日までに売買代金を支払う」という内容の入った契約書を交わしていたら、その売買代金債権は確定期限付きの債権になります。また、AがBから「◯月◯日までに返す」と約束してお金を借りたら、そのときのBのAに対する「金返せ」という債権も、確定期限付きの債権です。
素材83
 さて、ではこの確定期限付きの債権の、消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
 これはもうおわかりですよね。確定期限付きの債権の消滅時効の起算点は、期限到来時です。
 つまり、先ほど挙げた例だと「◯月◯日までに」の「◯月◯日」が、消滅時効の起算点になります。これは簡単ですね。

不確定期限付きの債権

 文字だけ見ると「不確定の期限が付いている」という、なんだか訳のわからない債権ですが、これは簡単に言うと「いつまでに」が決まっていない債権です。といっても、やはりよくわかりませんよね。
 具体例を挙げますと「死因贈与」によって生じる債権は、不確定期限付きの債権にあたります。
 死因贈与とは「死亡したら贈与する」というものです。よく漫画やアニメなんかで「俺が死んだらこれをアイツに...」なんてのがありますが、あれも死因贈与です。
 でもそれって債権なの?
 つまりこうです。死因贈与も、贈与を受ける側から見ると「死亡したらくださいね」という債権になりますよね。
 そして、死亡の時期は不確定です(いつ死ぬかはわからない)。なので、不確定期限付きの債権になるのです。
 さて、ここからが本題です。
 ではこの不確定期限付きの債権の、消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
 不確定期限付きの債権の消滅時効の起算点は、期限到来時です。
 これだけだと、はぁ?となりますが、これは先ほど挙げた死因贈与の例だと、贈与する者の死亡時になります。
 ただ、ここで注意していただきたいのが「贈与する者が死亡したことを知った時」ではありません。
 ですので、もし贈与を受ける者が、贈与者の死亡を知らなかったとしても消滅時効の期間は進んでしまいます。この点はご注意ください。
 ちなみに、相続において、遺産の受取りを放棄(相続放棄)したい等の場合は、相続があったことを知った時から、3カ月以内に手続きを行わなければなりません。被相続人の死亡時から3カ月以内ではありません。そして、遺産分割請求権には時効はありません。これらの点は、死因贈与における債権の消滅時効とごっちゃにしないようお気をつけください(詳しくは相続分野で解説します)。

不法行為による損害賠償請求権

 これは、不法行為によって損害を被った被害者が、加害者に対して損害の賠償を請求する債権です(不法行為について詳しくは不法行為の超基本~をご参照ください)。
 例えば、交通事故にあった被害者が、加害者である車のドライバーに対して損害賠償を請求するようなケースが、まさに不法行為(交通事故)による損害賠償請求です。
交通事故b
 さて、ではこの「不法行為による損害賠償請求権」の、消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は以下です。

・不法行為の時
・被害者が加害者と損害の両方を知った時

 まず「不法行為の時」ですが、これはわかりやすいですね。交通事故の例で言えば「交通事故が起こった時」です。要するに「不法行為の時」とは、通常の債権で言うところの「権利が行使できる時」と同じです。
 次に「被害者が加害者と損害の両方を知った時」ですが、これはどういう事かと言いますとこうです。
 例えば、交通事故にあってケガをしたが、加害者である車のドライバーが中々見つからないこともありますよね?加害者が誰かわからないと損害賠償の請求もできませんよね?それなのに消滅時効が進んでしまったら被害者が困りますよね?
 ということで、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は「被害者が加害者と損害の両方を知った時」なのです。
 また、加害者が誰かはすぐにわかったけど、後々になって後遺症が出るまでは損害がわからなかった、というような場合も同様で「後遺症が出て損害がわかった時」に初めて、消滅時効の進行がスタートします。

※参考条文

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一号 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二号 不法行為の時から二十年間行使しないとき。


(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
724条の2
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。


期限の定めのない債権

 これは簡単に言うと「いつまでに」が決まってない債権です。といっても、不確定期限付きの債権とは異なります。
 期限の定めのない債権の代表的なものとしては「法律の定めによって生じる債権」があります。
 具体例を挙げると、解除による返還請求権がそうです。
 例えば、売主Aが買主Bに不動産を売り渡したとします。しかしその後、何らかの事情でその売買契約が解除されると、AとBは互いに受け取ったものを返還する義務が生じます。すると売主Aは、買主Bに対し、不動産の返還請求権(売り渡した物返しやがれ!)を持ち、買主BはAに対し代金返還請求権(払った金返しやがれ!)を持ちます。
 このときの売主Aと買主Bが互いに持つ返還請求権は、まさに「いつまでに」が決まっていない、期限の定めのない債権になります。
 さて、では本題です。この期限の定めのない債権の消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
 期限の定めのない債権の消滅時効の起算点は、債権成立時です。
 つまり、先ほど例に挙げた解除による返還請求権だと、契約の解除時になります。
補足
 解除権は10年で時効により消滅する(判例)。

弁済期の定めのない消費貸借

 これは簡単に言うと「いつまでに」が決まっていない貸し借りです。
 ハッキリ言って、こんなものビジネス・商売の取引の世界ではまずないでしょう。例えば、銀行や消費者金融でお金を借りて返済期限が決まっていないなんて事、ありえませんからね(笑)。
 ただ、友人間で「いつまでに」を決めずに、お金を貸し借りするケースは現実にも存在します。それがまさに「弁済期の定めのない消費貸借」になります。
借りる金
 そして、お金を貸した側は借りた側に対し「金返せ」という、債権を持つことになります。
 さて、ではこの「弁済期の定めのない消費貸借」における、債権の消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
 弁済期の定めのない消費貸借における債権の消滅時効の起算点は「債権成立から相当期間経過後」です。
 これはどういうことかと言いますと、こうです。
 例えば、AがBに返済期限を決めずにお金を貸したとします。すると、AがBにお金を貸した時点で、AがBに対して「金返せ」という債権成立します。これが「債権成立」です。そして、AがBに「金返せ」と請求した場合、Bは「相当期間経過後」までにお金を返さなくてはなりません(つまりBは「金返せ」と請求されても即座に返さなくちゃならない訳ではない。なぜなら返済期限を決めていないから)。つまり、AがBにお金を貸した時点で債権が成立し、そこからAがBに対し「金返せ」と請求してから相当期間経過後に初めて消滅時効の進行が始まる、ということになります。

補足
「債務不履行による損害賠償請求権」は「期限の定めのない債権」にあたるのですが、債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効の起算点「本来の債務の履行を請求できる時」になります。
 つまり「この日を過ぎると債務不履行になる」の「この日」が、債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効の起算点になります(債務不履行に関しましてはこちらの記事もご参照ください)。

 以上が、様々なケース・債権における、消滅時効の起算点になります。
関連記事

二種類の占有~その基本と瑕疵の引継ぎとは/原始取得とは/占有回収&保全の訴えとは

▼この記事でわかること
二種類の占有とは
前の占有者から引き継ぐのは瑕疵だけではない
瑕疵(過失や悪意)の有無の判定は占有開始時
時効による所有権取得は原始取得って?
▽占有を奪われたとき
占有回収の訴え/占有保全の訴えとは
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
OP@_20210506132801ebd.png
二種類の占有

 時効によって所有権などを取得するには、一定期間途切れることなく継続した占有が必須です(取得時効)。  
占有とは、自分の物だと思って物を事実上支配する状態のことです。我が物顔で所有(使用)する、みたいなイメージですね。
 さて、この占有ですが、以下の2種類のパターンが存在します。

・自分だけの占有
・前主から引き継いだ占有

 
 このような二種類の占有を、占有の二面性と言います。
 それではこの二種類の占有を、事例と共に具体的に見ていきましょう。

事例1
Aは甲土地を9年間、悪意の占有を続けた。その後、Aは甲土地を善意・無過失のBに引き渡し、Bはそれから1年間、甲土地の占有を続けた。


 A   引渡し  B
甲土地   →  甲土地
占有9年     占有1年
悪意       善意無過失

 短期取得時効により、善意無過失であれば10年間の占有で取得時効が成立します。
 ということは、この事例1で、Bは甲土地を時効取得できるのでしょうか?
 結論の前にまず、占有には二種類のパターンがあることを思い出してください。
素材109なるほど
 そうです。この事例1が、まさに占有の二面性を示す典型のケースなのです。
 そして、その占有の二面性に基づいて、Bは2つの主張ができます。

(占有の承継)
民法187条
占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。


 なんとBは、自分自身の選択で「自己の占有のみを主張」と「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」の、どちらかを選んで主張することができます。

・自己の占有のみを主張した場合
 これは簡単ですよね。事例1のBが、B自身の占有のみを主張することです。
 この場合、B自身の甲土地の占有期間はたった1年間なので、短期取得時効は成立せず、Bは甲土地を時効取得することはできません。

・前の占有者と併せて主張
 これは、事例1のBが、Aの占有と併せて占有を主張することです。
 どういう事かと言いますと、Bの前に甲土地を占有していたのはAで、Aの占有期間は9年間ですよね。そして、Bが次の占有者になり、甲土地を1年間占有した、、、そこで、なんとBは、
「前の占有者であるAの占有期間の9年間」と
B自身の占有期間の1年間」を足して
「9+1=10年間の占有期間」を主張できるのです。
 事例1のBは、善意・無過失です。ですので、Aの占有と併せて「9+1=10年間の占有」ということで、めでたく甲土地を時効取得できます!と言いたいところですが、そうはイカンのです。
 先述の民法187条には続きがあり、次のようなことが規定されています。

民法187条2項
前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。


 ポイントは「その瑕疵をも承継する」という部分です。
 瑕疵とは、欠陥のことです。欠陥には悪意・有過失も含まれます。
 ということはどうなるのか?
 前の占有者の占有と併せて主張するときは、前の占有者の悪意・有過失をも引き継いでしまう、ということです。
 つまり、事例1の善意・無過失のBが、Aの占有と併せて9+1=10年間の占有を主張しても、Aの悪意・有過失をBが引き継いでしまうことになるので、その結果、10年間の短期取得時効は成立しなくなってしまいます。
 ということで結局、事例1のBは、Aの占有と併せて主張しようが、B自身の占有のみを主張しようが、甲土地を時効取得することは無理、ということになります。
 したがいまして、事例1のBは、甲土地を時効取得することはできません。
悔しい
 では続いて、次の場合はどうでしょう?

事例2
Aは甲土地を9年間、悪意の占有を続けた。その後、Aは甲土地を善意・無過失のBに引き渡し、Bはそれから10年間、甲土地の占有を続けた。


 A   引渡し  B
甲土地   →  甲土地
占有9年     占有10年
悪意       善意無過失

 この事例2で、Bが甲土地を時効取得するためには「自己の占有のみを主張」と「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」の、どちらの主張をすればいいでしょう?
 もうおわかりですよね。
 正解は「自己の占有のみを主張」です。
 Bは善意・無過失なので、10年間の占有で甲土地を時効取得できます(短期取得時効)。
 じゃあ「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」をしたらどうなるの?
 その場合は、Bは甲土地を時効取得することができません。なぜなら、前の占有者Aの悪意・有過失を引き継いでしまうことにより短期取得時効の適用対象ではなくなるからです。
 そして「Aの占有9年+Bの占有10年=19年間の占有」では、通常の取得時効に必要な20年間にも、あと1年足りなくなってしまいます。

引き継ぐのは瑕疵だけではない

事例3
Aは善意・無過失に甲土地を9年間占有した。その後、Aは甲土地を悪意のBに引き渡し、Bはそれから1年間甲土地を占有した。


 A   引渡し  B
甲土地   →  甲土地
占有9年     占有1年
善意無過失    悪意

 さて、この事例3で、Bは甲土地を時効取得できるでしょうか?
 結論。なんと、Bは甲土地を時効取得できます。
 え?なんで?Bは悪意じゃね?
 Bは悪意です。しかし、民法187条に基づき「前の占有者の占有を併せて主張」すれば、Bは前の占有者であるAの善意・無過失を引き継ぐことができます。
 すると短期取得時効の対象となり
「Aの占有9年+Bの占有1年=10年間の占有」で
Bは甲土地を時効取得できるのです。

(占有の承継)
民法187条2項
前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。


 条文には「その瑕疵をも承継する」とあります。瑕疵というのは欠陥のことで、欠陥には悪意・有過失も含まれます。したがって「前の占有者の占有を併せて主張」すると、前の占有者の悪意・有過失も引き継いでしまいます。ここまでは先述のとおりです。
 しかし、条文の「その瑕疵をも承継する」というのは瑕疵がないことをも承継する」と、理解することもできませんか?
 したがいまして、事例3のBは「前の占有者の占有を併せて主張」することにより、前の占有者Aの瑕疵のないこと(善意・無過失)をも承継することになるのです。
 これは一見すると屁理屈に聞こえるかもしれませんが、条文をこのように解釈して適用させる事は、わりとあることです。なので、ここは深くツッコまず、まあそういうことなんだなと、そのまま落とし込んでしまってください。
了解
瑕疵の有無の判定は占有開始の時

 ここでひとつ、こんな疑問がわいてきます。
 そもそも、瑕疵(欠陥=悪意や過失)があるかないかは、どのタイミングで判断されるのでしょう?
 例えば、Aが甲土地の占有を善意・無過失に開始して、のちにA自身が悪意になったとしたらどうなるでしょう?

 A   1年後  A
甲土地   →  甲土地
占有開始     占有1年
善意無過失 →  悪意

 この場合も、短期取得時効の対象から外れることはありません。なぜなら、瑕疵の有無の判断は、占有開始の時だからです。つまり、Aは善意のままとして扱われます。
 したがいまして、その後、甲土地の引渡しを受けたBが悪意でも、Bが「前の占有者の占有を併せて主張」することにより、前の占有者Aの善意・無過失をも引き継いで、短期取得時効により、9年+1年=10年間の占有で甲土地を時効取得することも問題ありません。

 A  1年後 A   引渡し B
甲土地  → 甲土地  → 甲土地
占有開始   占有1年   占有9年
善意無過失  悪意     悪意

B「前の占有者の占有を併せて主張」
短期取得時効で時効取得できる!
あくまで甲土地の占有開始時
Aの善意・無過失で始まっているから!


ちょっとコラム
~時効による所有権取得は原始取得~


 所有権の取得原因(取得の形)には、原始取得承継取得があります。
 時効による所有権取得は、原始取得になります。
 原始取得とは「元からその人のモノになる」ことです。
 つまり、先述の事例3のBが甲土地を時効取得すると、甲土地は元からBのモノだったことになります。
 それになんの意味があるの?
 これには大きな意味があります。
 例えば、もし甲土地に抵当権がついていた場合に、Bが甲土地を時効取得すると、時効取得は原始取得なので、Bが始めっから甲土地の所有者だったことになり、Bが時効取得する前についていた抵当権は消えて無くなります。
 これを噛み砕きまくって荒唐無稽なご説明をしますと、、、
 B男くんがA子ちゃんを原始取得すると、A子ちゃんにとってB男くんは最初のオトコになります。本当は5人目のカレシだったとしても。これが原始取得です(笑)。
カップル
 一方、売買相続による取得は、承継取得になります。
 承継取得は前主の権利を承継します。
 つまり、B男くんがA子ちゃんを承継取得すると、B男くんはA子ちゃんにとって5人目のカレシになるだけです(笑)。もちろん、カレシとカノジョを逆にしてもいいですし、BLでも百合でもOKです!
 ムチャクチャな例えですが、原始取得と承継取得、おわかりになっていただけたのではないでしょうか。


占有回収の訴え

占有を奪われたときは?

事例4
Aはあともう少しで甲土地を時効取得するところである。そこで、Aに甲土地を時効取得されたくない血気盛んなBは、実力行使でAの占有を排除した。


 なんだかエモーショナルな事例が登場しましたね(笑)。
 さて、この場合、Aの占有は途切れてしまい、Aは甲土地を時効取得することができなくなってしまうのでしょうか?

(占有の中止等による取得時効の中断)
民法164条
第百六十二条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。


 上記の条文のとおり、Aは他人のBによって占有を奪われています。
 ということは、条文どおり時効は中断し、Aは甲土地を時効取得することができなくなりそうですね。Bにとってはしてやったりという感じです。
 しかし!民法では、Aのような人間を救うべく、下記のような規定も置いています。

(占有回収の訴え)
民法200条
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。


 上記の条文に基づいて、AはBに対し「占有回収の訴え」を起こし、勝訴して甲土地を取り戻せば、無事Aの占有は継続していたことになります。
 占有期間はリセットされないの?
 リセットはされません。
 繰り返しますが、占有回収の訴えを起こし、勝訴して甲土地を取り戻すことができれば、Aの甲土地の占有期間は継続していたことになります。ですので、Aの甲土地の時効取得への影響はありません。
 参考となる条文はこちらです。

(占有権の消滅事由)
民法203条
占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。


 なんだか上記の条文を読むと、占有回収の訴えの提起さえすれば、占有継続が認められそうですが、実際には、勝訴して土地を取り戻すところまでいかないと、占有が継続していたことにはなりません。
 したがって、Aとしては、占有の継続を取り戻し甲土地を時効取得するためには、裁判を起こし勝訴して、実際に甲土地を取り戻すところまでいかなければならないのです。
裁判所
 でもこれって、中々の負担ですよね。となると、Aとすれば、事前に占有を奪われることを防止するのが最良ですよね。
 そこで民法では、次のような規定も存在します。

(占有保全の訴え)
民法199条
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。


 つまりAは、血気盛んなBが、甲土地の占有を妨害しそうだと判断したら、あらかじめ「占有保全の訴え」を起こし、事前に法的な予防線を張ることができます。
「占有保全の訴え」とは、いわば敵を感知して発動させるバリアーです(オートではありませんが...)。

 また、占有を奪われるまではいかないが、占有の妨害を受けたときには、民法198条(占有保持の訴え)により、妨害の停止、および損害賠償の請求をすることができます。
関連記事

取得時効~5つの成立要件/短期取得時効とは/様々な事例/賃借権が時効取得できる可能性

▼この記事でわかること
取得時効とは
時効制度の意味
取得時効成立のための5つの要件20年間の占有自主占有等)
「自分の物」の時効取得は可能か?ドロボーは占有?
短期取得時効について
時効取得の様々な事例
▽所有権以外の財産権の時効取得
賃借権が時効取得できる可能性?
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
OP@_20210506132801ebd.png
取得時効

 取得時効とは、時効によって取得する制度です。
 例えば、Aさんが甲土地、Bさんが乙土地を耕していて、甲土地と乙土地が隣接地(隣同士)だったとします。ある日、Aさんがズルをして土地の境界線をズラし、Bさんの乙土地にまでAさんの畑を広げて、さも自分の土地のように、乙土地の一部をAさんが使い続けます。それに対してBさんが何も文句を言わずに、または気づかずに20年間経過すると、Aさんはズルをして広げて使った部分の乙土地を取得します。

Aはズルして広げて使ってた部分を時効により取得!

 つまり、Aさんはズルをして、境界線を超えて侵した部分の乙土地の所有権を、一定の要件を満たせば取得時効の制度により取得するのです。
 ズルしてたのにマジで!?て感じですが、マジでこれが取得時効という制度です。
 コラムは飛ばす


ちょっとコラム
~時効制度の意味~


 実は、時効制度の決定的な意味、その存在理由は、ズバッとハッキリとこれだ!というものはないと言われています。
 え?そうなの?
 はい。そうなのです。なので、たとえ道徳的に考えて納得できなくても、これは理屈ではなく「そうなっているんだ」と強引に頭にぶち込んでしまって下さい。
 ただ、よく言われることとしては、次のようなものがあります。
 冒頭に挙げた、越境して隣人の土地を侵して使用していたヤツの例で言えば
「何も文句を言わなかった方が悪い」
という理屈も成り立ちます。つまり、ズルして土地の境界線を超えて乙土地を侵して使っていたAに対して
「何も文句を言わなかったBも悪い」
または「気づかなかったBも悪い」
ということです。
 これを「権利の上に眠る者は保護に値しない」と言ったりします。
 つまり「文句を言う権利があるのにその権利を行使しなかったヤツ自身の責任だ!」となるのです。
悔しい
 ただ、この理屈だと「借金を踏み倒すために文句を言う暇もなく逃げ続けるヤツ」も肯定してしまうことになってしまいます。
 他にも「長い年月が経ってから権利関係を立証するのは難しいから」という理屈もありますが、長い年月が経過しても明確な証拠があってしっかりと立証できる場合はどうなんだ?という反論も成り立ちます。
 ということなので、考えれば考えるほどドツボにハマっていきます。
 ですので、繰り返しますが、これは理屈云々ではなく強引に「そうなっているんだ」と覚えてしまってください。
 う~ん、でも...
 あと付け加えるなら、おそらく時効という制度の存在理由は、実務的な意味も大きいのではないかと思います。
 あまりに昔の事を持ち出されて訴訟だなんだと騒がれても、裁判所も困ってしまいますよね。ましてや裁判というのは時間がかかります。そんな案件がどんどん出てきてしまうと、裁判所がごった返してしまいます。それは法的安定性を阻害することにもなります。
 したがって、一律に〇〇年で時効!それで文句言いっこナシ!としているのではないかと思います。


 さて、話を戻しますね。
 この取得時効についての民法の条文はこちらです。

(所有権の取得時効)
民法162条
二十年間所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。


 この条文の中に、時効取得するための要件が5つ記されています。

・20年間
・自主占有(所有の意思を持って占有すること)
・平穏
・公然
・他人の物の占有

 これらの要件を満たしたときに、取得時効が成立します。
 なお、占有とは、自分の物だと思って物を事実上支配する状態のことです。我が物顔で所有(使用)する、みたいなイメージですね。
 以上を踏まえた上で、最初に挙げた例に当てはめると、Aが20年間所有の意思を持って平穏・公然B所有の乙土地を占有(他人の物の占有)すれば、取得時効が成立し、Aは乙土地の所有権を取得するということです。

Aは
・20年間
・所有の意思を持って
・平穏に
・公然に
・「ズルして広げた使ってた部分」=「B所有の乙土地」を占有(他人の物の占有)すれば
取得時効が成立し、Aは乙土地(ズルして広げた使ってた部分)の所有権を取得することができる、という訳です。
 さて、ではここから、上記の5つの要件を具体的に見ていきます。

取得時効成立のための5つの要件

20年間の占有

 20年間というのは、継続した20年間です。もし20年間の途中で、一日でも占有が途切れていたらアウトです。取得時効は成立しません。
 ちなみに、誰かに賃貸したとしても、占有は継続します(つまり賃貸はセーフ)。

(代理占有)
民法181条
占有権は、代理人によって取得することができる。


 つまり、冒頭に挙げた例で、Aが越境して占有した乙土地をCに賃貸しても、Aの占有は継続します(間接的な占有)。

Cに貸していたとしてもAの占有は継続する!

 占有の継続はどうやって証明するの?
 占有の継続については、民法186条2項で規定されています。

民法186条2項
前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。


 これは、つまり「占有を開始した時の占有」と「現在の占有」を証明すれば、その間の期間の占有は、法律的に推定されるのです。法律的に推定されるとは、法律さんが「まあええんちゃう?」と認めてくれるということです。

占有開始時 → 途中期間 → 現在
  ↑      ↑     ↑
 証明    ええんちゃう? 証明

 なので、例えば、20年間継続して占有し続けたことを証明するために、20年間欠かさず日記をつけて証明しなければならない、なんてことはないのです。
 ただ、これはあくまで「推定」であり「みなす」ではありません。※
 ですので、最初に挙げた例で、Bが「Aの占有が途中で途切れたこと」を証明できれば、Aの時効取得を阻止できます。逆に言えば、Bが「Aの占有が途中で途切れたこと」を証明できない限り、Aは勝ちます。
※「推定」は、後で結果をひっくり返せる可能性があります。「みなす」は、後で結果をひっくり返すことができません。
 したがって、Bが「Aの占有が途中で途切れたこと」を証明できなければ、Aの継続した20年間の占有は確定しますので、裁判の現場ではAが断然有利でしょう。

自主占有

 自主占有とは「所有の意思」を持った占有です。
 所有の意思を持った占有とは「オイラのモノだ!」という意思で占有することです。
 所有の意思の有無の判断は、個人の主観ではなく権原の性質により客観的に行われます。
 どういうことかと言いますと、例えば、Aさんがマンションの一室を借りたとします(不動産賃貸借)。この場合の「権原」は賃借権(借りて使う権利)になります。所有権ではありません。そして、賃借権による占有は「他主占有」になります。ということは、Aさんはあくまでマンションの一室を借りて住んでいるだけで「オイラのモノだ!」という意思で占有している訳ではありませんよね?
 したがいまして、Aさんがマンションの一室を借りて20年間占有し続けても、Aさんの所有物にはなりません。
素材102マンション
 繰り返しますが、Aさんが借りたマンションの一室に対して持つ権利の「権原の性質」は賃借権(借りて使う権利)で、賃借権による占有は自主占有ではなく他主占有になります。なので、いくらAさんがそのマンションの一室を20年間占有し続けたとしても、そのマンションの一室の所有権を取得することはありません。
 ちなみに、こんな場合はどうでしょう。
 もしAさんが、借りた家を自分の家だと勘違いして20年間住み続けたら?
 結論。それもダメです。なぜなら「所有の意思」は客観的に判断されるからです。

平穏と公然

 この2点は試験等ではほとんど問われないと思います。
 一応、簡単にご説明しておきますと、無理矢理に奪った訳ではなく(平穏)、コソコソとせず堂々(公然)と占有すればOK!ということです。
 ここはさらっと流して深く考えないで下さい(笑)。

他人の物の占有

 これは簡単ですね。読んで字の如く、他人の物を占有することです。

補足1
 取得時効成立のための要件の一つとして「他人の物の占有」とありますが「自分の物」の時効取得は可能なのでしょうか?
 自分の物を時効取得、といってもピンと来ませんよね。
 例えばこうです。AがBから甲不動産を買って占有を始め、その後、長期間経過してから、AB間の甲不動産の売買の効力が争われたようなケースです。この場合、Aは買主としての地位を主張する訳ですから、甲不動産はAにとってあくまで自分の物です。
 結論。自分の物の時効取得は可能です。
 今挙げた例だと、Aは甲不動産を時効取得できます。これは判例により、このような結論が下されています。なぜ判例がこのような結論かというと、例えば、甲不動産の買主のAが、長い年月の経過により売買契約書などを紛失していたらどうでしょう?そのような売買の立証が困難な場合に、買主Aのような人間を救済するために、裁判所の判断でこのような結論になっているのです。

補足2
泥棒
 実はドロボーの占有は自主占有になります。
 マジで?
 マジです。なぜなら、ドロボーは「誰かのために占有している」訳ではありません。
 一方、賃借権(借りて使う権利)の場合は、あくまで「誰かのために占有している」ことになるので、他主占有なのです。この点はご注意ください。

短期取得時効

 取得時効の成立のためには、20年間の占有が必要です。
 しかし!実は20年という期間を経ずに、時効取得できるケースもあります。
 それは一体どんなケースなのか?まずは事例をご覧ください。

事例1
農家Aは甲土地を、農家Bは乙土地を耕していて、甲土地と乙土地は隣接地だった。Aは善意にかつ過失なく土地の境界線を超えて、自分の畑を乙土地にまで広げて10年間耕し続けた。


 さて、この事例1で、Aは境界線を超えて耕し続けた乙土地を時効取得できるでしょうか?
 結論。Aは境界線を超えて耕し続けた乙土地を時効取得します。
 え?占有期間が足りなくね?
 そんなことはないのです。なぜなら、Aは善意(それとは知らず)・無過失(落ち度が無い)だからです。根拠となる条文はこちらです。

(所有権の取得時効)
民法162条2項
十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。


 そうなんです。なんと、占有開始の時に善意・無過失であれば、10年間の占有で時効取得できてしまいます。
 つまり、善意(それとは知らず)・無過失(落ち度がない)の占有であれば、20年間もいらないのです。これが短期取得時効です。
 したがいまして、善意・無過失で境界線を超えて、B所有の乙土地を10年間耕し続けた(占有し続けた)Aは、乙土地を時効取得します。
 ただ、無過失(落ち度が無いこと)の立証はA自身で行わなければなりません。その点だけはAが頑張らなくてはならない部分です。逆にBは、Aが無過失を立証できなければ、越境された乙土地を10年間で時効取得される、という事態を防ぐことができます。
 なお、念のため申し上げておきますが、Aがさらに10年間、つまり20年間乙土地を耕し続けたら、Aの善意悪意・過失の有無に関わらず、Aは乙土地を時効取得します(通常の取得時効)。その場合は、Bが裁判を起こしてAの過失(落ち度)を立証しても、Aに「時効を援用します(時効の権利の行使)」と言われればアウトです。
判決
 では続いて、次のようなケースはどうでしょう?

事例2
売主Aは買主Bに甲土地を売り渡した。その後、Bは甲土地をCに転売した。その後、AはAB間の甲土地の売買契約の錯誤無効※を主張し、Cに対し甲土地の返還を求めた。

※錯誤については「錯誤の超基本~」をご参照ください。

 あれ?時効のハナシ出てきてなくね?
 はい。これはまだフリなのです(笑)。すぐに出てきますので少々お待ちください。
 さて、この事例2のCは、Aからの甲土地の返還の求めに応じなければならないのでしょうか?

  売却  売却       
 A → B → C
   ↑    
 錯誤無効 甲土地を返せ!
       A主張


 もし甲土地の売買契約の錯誤無効が認められれば、AB間の売買契約は初めから無かったことになるので、AB間の売買契約の存在が前提に成り立っているBC間の売買契約も、無効のものとなってしまいます。すると、甲土地に住むCは、ただの不法占拠者となってしまいます。
 このように考えていくと、Cはもはや、Aに甲土地を返還するほかないですよね。
 しかし!Cにはまだ奥の手が残されています。
 そう、それが取得時効です。
素材108驚き
 Cが善意・無過失なら10年間の占有で甲土地を時効取得することができます。
 その際に、もしAが裁判を起こし、錯誤無効を主張して甲土地の返還を求めてきても「時効を援用します(時効の権利の行使)」とCが言えば、Cの勝ちです。Cは甲土地を返還する必要はなく、甲土地はCの物です。
 さらにこの事例2では、事例1のケースよりも占有者にとって有利な力が働きます。というのは、事例1のケースでは、占有者は善意・無過失とはいえ、越境行為によって土地を占有しているのに対し、事例2の場合、占有者(Cのこと)は取引行為によって土地を手に入れております。取引行為の場合は、民法188条「占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する」により、占有者の無過失の推定が働きます。無過失の推定が働くとは、法律的に勝手に「それって無過失なんちゃう?)」と認めてくれるということです。つまり、事例1とは違い、占有者のCは、無過失の立証を自らで行う必要がありません(自分から無過失を証明しなくてOK!ということ)。これはCとしてはかなり助かりますよね。逆にAは、Cの過失を立証できなければ甲土地を返してもらうことができません(Aの方からCの過失を証明できないとダメ!ということ)。

時効取得の様々な事例

 ここからは、時効取得の様々な事例をご紹介するとともに、その解説をしていきます。

事例3
売主Aは買主Bに甲不動産を売り渡した。しかし、売主AはCにも甲不動産を二重譲渡し、Cは登記をした。その後、Bは甲不動産を占有し続けた。


 この事例3は、不動産の二重譲渡のケースです。
 さて、不動産の所有権争いは登記したモン勝ちです(不動産の二重譲渡についてはこちらの記事もご参照下さい)。
 したがって、通常の二重譲渡のケースとして考えればCの勝ちですが、この事例3では、Cが登記した甲不動産をBが占有し続けています。
 という訳で、ここからが本題です。Bはこのまま占有し続ければ、甲不動産を時効取得できるでしょうか?
 結論。Bは甲不動産を時効取得できます。
 なお、Bが甲不動産を時効取得すると、Cは初めから甲不動産の所有者ではなかったことになります。つまり、Bが元から甲不動産の所有者だったことになります。

時効へのカウントはどこから開始するのか?時効期間の起算点
 Bが甲不動産の占有を開始した時です。

事例4
売主Aは買主Bに甲土地を売り渡した。甲土地は農地で、Bは農地以外への転用目的で甲土地を購入したのだったが、農地法5条の許可申請を行なっていなかった。

畑
 いきなり農地法5条といっても、ピンと来ませんよね。
 農地を農地以外で利用すること、つまり、農地の利用目的を変更することを農地転用と言いますが、農地転用を行う際には農地法4条の許可(届出)が必要になります。
 農地の所有者を変更する際には、農地法3条の許可(届出)が必要になります。
 所有者と利用目的の両方を変更する場合には、農地法5条の許可(届出)が必要になります(この辺りの知識は宅建試験において「法令上の制限」分野で必須になります)。俗に3条許可とか5条許可とか言ったりします。
 話を戻します。ではこの事例4で、買主Bは甲土地を時効取得できるでしょうか?
 結論。Bは甲土地を時効取得できます。甲土地の引渡しを受けた時からBの自主占有が開始した、と判断されます。

事例5
Aは、長期間、公共の目的に供用されることなく放ったらかされた公共用の不動産を占有し続けた。


 さて、この事例5のAは、占有し続けた公共用の不動産を時効取得できるでしょうか?
 結論。なんとAは、占有し続けた公共用の不動産を時効取得できます。
 これはちょっとビックリですよね。これは判例で「公の目的が害されず、その物を公共用財産として維持すべき理由がなくなったときは、黙示の公用の廃止があったものとして」時効取得できるとしています。
 理屈はともかく、判例でそのような結論になっている、ということだけでも覚えておいていただければと思います(この辺りの知識は、行政書士試験や公務員試験の「行政法」分野で求められます)。

事例6
AはBの所有地になんの権利もなく自己所有の樹木を植栽し、そのまま所有の意思を持って平穏・公然と20年間占有した。


 さて、少し変わった事例ですが、この場合にAは立木(植栽した樹木)の所有権を時効取得できるでしょうか?
 結論。Aは立木の所有権を時効取得できます。
 このケースは、参考までに頭の片隅にでも入れておいていただければ結構です。

所有権以外の財産権の時効取得

賃借権も時効取得できる可能性あり?

 ここまで解説してきました取得時効は、すべて所有権の時効取得についてのものでした。
 それでは、所有権以外の権利、賃借権は時効取得できるのでしょうか?
 あれ?賃借権は時効取得できないんじゃ?
 はい。そのとおりです。
 しかし!なんと賃借権が時効取得できる可能性があるのです。
 まずは、所有権以外の財産権の取得時効についての条文をご覧ください。

(所有権以外の財産権の取得時効)
民法163条
所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。


 上記の民法163条により、所有権以外の財産権も時効取得できる旨が規定されています。
 では「所有権以外の財産権」には一体どんなものがあるのでしょう?

・債権
・占有権
・用益物権(地役権、地上権、永小作権、入会権など)
・担保物権(抵当権、留置権、質権、先取特権)
・知的財産権(特許権、実用新案権、著作権など)
・身分権

 これらは「所有権以外の財産権」になります。
 あれ?賃借権なくね?
 そんなことはありません。賃借権は債権の一種です。
 それでは民法163条により、賃借権は時効取得できるのでしょうか?
考え中
 まずその問いに答える前に、申し上げておかなければならないことがあります。
 それは、占有を伴わない財産権は時効取得できないということです。
 そりゃそうですよね。時効取得するためには10年間ないし20年間の占有が必要ですから。
 となると賃借権は?
 まず、債権は取得時効の対象にはなりません。
 じゃあ債権の一種の賃借権もダメなんじゃ...
 ところが、判例では、なんと債権の中でも不動産賃借権時効取得でき得るとしています。
 不動産賃借権とは、我々が不動産賃貸借契約を結んで不動産を借りたときに取得する権利です。
 学生がアパートの一室を借りて住んでいたら、その学生はその借りて住んでいるアパートの一室の賃借権という権利を持っています。これが不動産賃借権です。
 実は不動産賃借権は民法や借地借家法で「対抗力のある物権」のように扱われます。つまり、不動産賃借権はほぼ物権なのです。
 そして不動産賃借権は、賃借している不動産の占有を伴っています。
 したがいまして、判例は不動産賃借権は時効取得し得るとしているのです。
 という訳で、ここまで引っ張ってきましたが、不動産賃借権は時効取得できる可能性あり!ということです。

不動産賃貸借以外に時効取得できる財産権

 不動産賃借権の他にも、所有権以外で時効取得できる財産権はあります。
 それは、用益物権のうちの地役権・地上権・永小作権です。
 それ以外には、担保物権のうちの質権、知的財産権のうちの著作権は、取得時効成立の余地があると考えられています(著作権の占有?て感じもしますが...ここは流してください)。
 以上、補足で記したことは、予備知識としてなんとなく頭の片隅の片隅にでも入れておいて頂ければで結構です。
関連記事

カテゴリ別項目一覧

▼各項目のページへのリンクになっています。

取得時効~成立要件?短期取得時効?そんな事例もある?賃借権の時効取得?
二種類の占有~瑕疵の引継ぎ?瑕疵の判定はいつ?原始取得?占有回収・保全の訴え?
消滅時効~できる時?知った時?様々な債権と時効の起算点(数え始め)
時効の更新・完成猶予と除斥期間~消滅時効の進行を止めるには
時効の援用と利益の放棄~当事者?保証人の援用?相対効?
素材62
関連記事

更新通知登録ボタン

更新通知で新しい記事をいち早くお届けします

カテゴリ

サイト運営者

根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
根本総合行政書士です。
宜しくお願いします。

保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

最新記事

共有物の分割~3通りの分割協議の基本/共有物分割協議の第三者参加&協議の解除とは Jul 27, 2021
この世の中は契約社会~民法は私達の生活に直結している Jul 26, 2021
共有~持分権とは/共有物の使用方法&変更&管理&保存について/解除権の不可分性の例外とは/持分権の主張、共有物の明渡し請求等について Jul 26, 2021
強行法規と任意法規とは?その意味と違い/民法の基本原則:契約自由の原則について Jul 25, 2021
「時」と「とき」・「無効」と「取消し」、その違いとは? Jul 25, 2021
原則と例外と要件 Jul 25, 2021
一括競売~土地の競売価格下落の防止と社会経済的な損失の防止とは?一括競売制度の意味 Jul 21, 2021
不動産が共有の場合の法定地上権 Jul 20, 2021
2番抵当権が絡んだケースでの法定地上権の成立はどうなるのか Jul 19, 2021
法定地上権の超基本と4つの成立要件/要件を満たしても法定地上権が成立しない共同担保のケースとは Jul 16, 2021

QRコード

QR

お問い合わせ

名前:
メール:
件名:
本文: