2021/03/30
動機の錯誤は取り消せない?動機の錯誤が取り消せるときとは?
▼この記事でわかること・動機の錯誤は原則取り消せない
・動機の錯誤が取り消せる?
・動機の錯誤が取り消せるときの具体例
・要素の錯誤と動機の錯誤の違い
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、できるだけわかりやすく丁寧に解説して参ります。
動機の錯誤は原則取り消せない
まず始めに、結論だけ申し上げます。
動機の錯誤による取消しは、原則、主張できません。よほどやむを得ない事由(理由)がない限りです。
動機とは、売買契約で言えば買う(売る)理由です。錯誤とは、わかりやすく言えば勘違いです。
つまり、動機の錯誤というのは、要するに自らの判断の誤りです。自らの判断の誤りでした契約を、自らで簡単に取り消せないのは、ある意味当然です。
という訳で、その点について、今から詳しく解説していきます。
動機の錯誤はテメーの判断ミス!
動機の錯誤とは、例えば「このりんご美味しそうだな」と思ってそのりんごを買ったが「いざ食べてみたら不味かった」というようなケースになります。つまり「このりんご美味しそうだな」という動機(買う理由)をもとにりんごを買ったが、その動機(買う理由)が間違っていたので不味かった訳ですよね。
多分、これはどなたも異論がない所だと思いますが、このような場合に、錯誤による取消しの主張を認めて、この売買契約(りんごを買ったこと)を無かった事になんか、できる訳ないですよね。オメーのただの判断ミスだろ!となりますよね(笑)。
そもそも、こんな事で取消しを主張できてしまったら、商売なんかできたもんじゃないです。それは何も民法の規定だけでなく、我々だって望まない所だと思います。
したがいまして、動機の錯誤による取消しの主張は、原則できないんです。
動機の錯誤が主張できるとき
動機の錯誤による取消しの主張は、原則認められません。しかし、あくまで原則認められないだけで、例外が存在します。※
※法律について考えるとき、原則から考えて例外を考える、という順序をとった方が遥かに理解が進みやすいです。いっぺんに考えようとすると、訳がわからなくなってしまいますので。あくまで原則があった上で例外があります。その逆はありません。
では、どんな例外パターンがあるのでしょうか?

動機の錯誤の取消しが主張できるケースとして「動機が表示され、それを相手が認識しているとき」に、取消しを主張できる場合があります。
これではわかりづらいですよね。もう少し噛み砕いてご説明します。
売買契約の場合「買う理由となる動機が言葉なり相手にわかるように表現されていて相手がその動機をわかっていたとき」動機の錯誤による取消しが主張できる可能性があります。
動機の錯誤による取消しが主張できるときの具体例
例えば、こんな場合です。
ある土地を購入したAさんがいます。Aさんがなぜその土地を購入したかというと、その土地のすぐ近くに、数年後に駅が建つという話を耳にしたからです。しかしその後、駅ができるという話はデマで、Aさんは目算を誤った、つまり、動機の錯誤に陥った...。
このようなケースでは、原則、錯誤による取消しは主張できません。なぜなら、それはただのAさんの判断ミスだからです(動機の錯誤)。
しかし、ある要件を満たすと、このようなAさんの動機の錯誤でも、取消しを主張できる場合があります。それは次のような場合です。
Aさんの「この土地のすぐ近くには数年後に駅が建つ」という動機が言葉なり表に出されていて、そのAさんの動機を相手が認識していてかつ相手はその土地のすぐ近くに駅が建つという話がデマだと知っていたのにもかかわらずそれをAさんに教えなかったとき
上記のような場合であれば、Aさんは動機の錯誤による取消しの主張ができます。
なお、Aさんの動機が相手にわかるといっても、たとえAさんが動機を口に出していなくても、Aさんの動機が明らかに見てとれていたならば(法律的に言うと黙示に表示されていたならば)、そのときもAさんは、動機の錯誤による取消しの主張ができます。

以上、動機の錯誤について簡単にまとめますと、
「表意者(勘違いをした本人)の動機が間違っていて、その動機が間違っていることを相手が知っていて、その動機が間違っていることを相手が教えてあげなかったとき、表意者(勘違いをした本人)は動機の錯誤の取消しを主張できる」
このようになります。つまり、表意者(勘違いをした本人)の動機が間違っているのに気づいていたなら相手は表意者に教えてやれよ!ってハナシです。
要素の錯誤と動機の錯誤の違い
動機の錯誤の取消しの主張について、おわかりになりましたか?
じゃあこの場合は?あの場合は?色々あると思います。
ここで一度、要素の錯誤についても、簡単に確認しておきましょう。
要素の錯誤は、りんごだと思ってバナナを買ってしまったような場合です。この場合、そもそも、りんごを買おうという意思と、バナナを買ったという行為が、一致していません。
では、動機の錯誤はというと、動機と行為は一致しています。りんごを買おうという意思のもとにりんごを買っているので。ただ「美味しそうだな」という動機(買う理由)が間違っていただけです。
ちなみに、動機の錯誤について、ギターの例でご説明いたしますと「このギター良い音しそうだな」と思ってギターを買ったら全然良い音がしなかった、というような場合です。
それで楽器屋のオヤジに向かって「これは動機の錯誤による取消しだ!だからこの買い物はナシだ!」と言えますかね?言えないでしょう。楽器屋のオヤジも、怒るどころか唖然とするでしょうね(笑)。確かに、良い音しそうだという動機の錯誤はありますが、それは本人が勝手にそう思っただけで、ギターを買おうという意思と、ギターを買った行為は、一致しています。つまり、何の問題もないのです。したがって、動機の錯誤による取消しはできないのです。
補足
最後に付け加えて申し上げておきますと、実際には、要素の錯誤と動機の錯誤のラインは、ハッキリ引ける訳ではありません。現実には、微妙な事例がいくつも存在します。そこで参考にするのは過去の裁判の判例になるのですが、いずれにせよ、現実には事案ごとに、個別具体的に判断するしかないかと思います。ですので、今回ご説明申し上げたことは、あくまで民法上の基本的な考え方になりますので、その点を踏まえた上で、頭に入れておいていただければと存じます。