抵当不動産より一般財産の方が先に競売されたときの抵当権者

 民法394条1項の規定により、抵当権者はその被担保債権について抵当不動産から弁済を受けられない部分(簡単に言うと抵当不動産の競売代金からでは足りない分)のみ、一般財産から弁済を受けることができます。つまり、抵当権者が一般財産の競売に参加することには制限があるのです。(これについて詳しくはこちらをご覧下さい)
 しかし、民法394条2項では、一般財産の強制競売が抵当不動産の強制競売より先行するときは、民法394条1項の規定は適用しないと定めています。
 したがって、一般財産の強制競売が抵当不動産の強制競売より先行するケースでは、抵当権者は被担保債権の全額について、一般財産の競売に参加できます。

なぜ参加できるのか?

 一般財産の強制競売が先行するケースで、その競売への抵当権者の参加が制限されてしまうと、次のような弊害が起こる可能性があります。
 その後に行われる抵当不動産の競売だけでは被担保債権の全額を回収できなかった場合に、本来なら、その足りない分について一般財産から配当を受けることができる部分も、抵当権者は配当を受けられなくなってしまいます。つまり、一般財産の強制競売が先行するケースで、その競売への抵当権者の参加が制限されてしまうと、抵当権者の権利を侵害してしまうという弊害があるのです。
 以上の理由から、民法394条2項により、一般財産の強制競売が抵当不動産の強制競売より先行するケースでは、抵当権者は被担保債権の全額について、一般財産の競売に参加できるのです。

一般債権者は困らないのか

 一般財産の強制競売への抵当権者の参加は、一般債権者からすると債権者が増えるので迷惑です。債権者が増えると、その分ひとりひとりの取り分が減ってしまうからです。ですので、抵当権者の一般財産の競売への参加をただただそのまま認めてしまうと、一般債権者の権利とのバランスを考えると不公平です。
 そこで、民法394条2項では、一般財産から抵当権者が受ける配当金を抵当権者に直接配当せずその金額を供託するように、一般債権者が裁判所に請求できることを定めています。
 供託とは、法務局にお金を預けることです。つまり、民法394条2項では、一般債権者が「その抵当権者への配当金は法務局に預けておけ!」と裁判所に請求できることを定めているのです。
 供託された配当金は、その後に行われる抵当不動産の競売の結果を見てから、関係当事者(抵当権者や一般債権者)に振り分けられます。このような形で、抵当権者の権利と一般債権者の権利のバランスを図っているのです。

抵当権についての論点おまけ:抵当権と地上権(永小作権)の放棄

 抵当権を設定した地上権者は、その地上権を放棄することを抵当権者に対抗することができません。
 ここでの注意点は、抵当権を設定した地上権者は、その地上権を放棄すること自体はできるということです。ただ、それを抵当権者に対抗することができないということです。

抵当権者は抵当権を行使せず一般財産を差し押さえられる?抵当権者と一般債権者の利害の調整

 抵当権者などの担保権者は、抵当権を設定した不動産などの担保目的物の競売代金から優先的に弁済を受けることができます(優先弁済権)。
 しかし、抵当権などの担保を持たない一般債権者は、(担保権者がごっそり持っていった後の)担保物の競売代金のおこぼれにあずかるか、担保物以外の財産(一般財産)にありつくしかありません。
 この点を踏まえた上で、次の問題について考えていきます。

抵当権者は抵当不動産を競売にかけず一般財産を差し押さえることができるのか?

 結論から先に述べると、抵当権者が一般財産を差し押さえることは可能です。つまり、抵当権者が抵当権を行使するかしないかは、抵当権者の自由ということです。
 ただ現実に、抵当権者が抵当権を行使せず、わざわざ一般財産を差し押さえるなんてことはあまり考えられません。なぜなら、抵当権者が優先弁済権を持つのはあくまで抵当不動産についてだけです。それに、一般財産を差し押さえるには、裁判所の手続を経て債務名義を取得しなければなりません。つまり、裁判を起こさないといけないわけです。
 ですので、抵当権を持つ抵当権者がわざわざあえてそんな面倒なことを、普通はしないでしょう。
 では、もし抵当権者が、その抵当権を行使しないで一般財産を差し押さえる手続きを取ったらどうなるでしょう?
 こうなると困ってしまうのは抵当権者以外の一般債権者です。
 なぜ一般債権者が困ってしまうかというと、一般財産に群がる債権者が1人増えてしまうからです。一般債権者が1人増えれば、その分、一般債権者ひとりひとりの取り分が減ります。つまり、一般債権者からすると「おまえ(抵当権者)はこっち来んなよ」という感じなんです。
 さらに、たとえ抵当権者が抵当権を行使しないからといって、一般債権者が抵当権者に先立って抵当不動産の競売代金に手を出すことはできません。
 ということで、抵当権者が一般債権者の群れに参加するのは、一般債権者にとっては迷惑でしかないのです。
 これってどうでしょう?ちょっと抵当権者に有利すぎるというか、公平さに欠けると思いませんか?
 そこで、民法394条1項で次のような規定が置かれています。

(抵当不動産以外の財産からの弁済)
民法394条1項
抵当権者は、抵当不動産の代価から弁済を受けない債権の部分についてのみ、他の財産から弁済を受けることができる。

 これはどういうことかといいますと、抵当権者が抵当権を行使せずに一般財産を差し押さえるのは自由だが、その場合、抵当権者が一般財産から弁済を受けられる範囲は、抵当不動産からだけでは足りない部分についてのみ、ということです。
 これは例えば、抵当不動産の価格が2000万円で被担保債権額が1000万円だった場合、抵当権者は一般財産から弁済を受けることはできません。しかし、被担保債権額が3000万円だったら、3000万−2000万=1000万円は、一般財産から弁済を受けることができる、ということです。
 尚、一般債権者が存在しない場合は、抵当権者が一般財産から弁済を受けることに何の制約もありません。民法394条1項の規定は、あくまで一般債権者が存在する場合の抵当権者と一般債権者の利害の調整のための規定です。一般債権者が存在しなければ、利害の調整も必要ないですからね。

抵当権の優先弁済の範囲

 抵当権者は、1番抵当権者から順番に競売代金から優先的に弁済を受けられますが、その「優先」の範囲は、一体どこまでなのでしょうか?

 例えば、債権額が2000万円、損害金年15%と登記された1番抵当権があったとして、抵当不動産の価格が5000万円というケースを考えてみましょう。
 このケースで、2番抵当権者が債権額1500万円の抵当権登記をしていた場合に、この不動産を競売するとどうなるでしょうか?
 ここで問題になってくるのが、損害金です。もし、1番抵当権の債務者が10年支払いが滞っているなどの履行遅滞状態であった場合に競売すると、損害金が
2000万円✖️15%✖️10年=3000万円
となり、これを元本2000万円にプラスすると、なんと1番抵当権の債権額が5000万円となり、抵当不動産の価格5000万円まるまる1番抵当権者が独占してしまい、2番抵当権者の取り分が全くなくなってしまいます。
 でも、これってどうでしょう。1番抵当権の損害金次第で、2番抵当権者などの後順位抵当権者や一般債権者(抵当権者以外の債権者)は、競売代金からの配当を一切受けられなくなってしまうということですよね。
 いくら1番抵当権者に、他に先立って優先弁済を受ける権利があるとはいえ、公平さに欠くと言えます。
 そこで、民法375条では、後順位の担保権者(後順位抵当権者)や一般債権者の保護のための規定を置きました。

(抵当権の被担保債権の範囲)
民法375条
1項 抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
2項  前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の二年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して二年分を超えることができない。

 上記の条文により、抵当権の優先弁済額の上限は、利息や損害金については満期となった最後の2年分のみとなります。
 つまり、先の例だと、1番抵当権者が優先弁済を受けられる金額の上限は、
元本2000万円+損害金2000万円×15%×2年=2600万円
となり、2番抵当権者は、抵当不動産の価額5000万円―2600万円=2400万円から配当を受けられることになります。
 すると、2番抵当権の債権額は1500万円なので、2番抵当権者も無事、債権額の全額の弁済を受けられるということになります。
 民法375条の規定があるのとないのでは、2番抵当権者にとって天と地の差がありますね。

補足では1番抵当権の残りの損害金8年分はどうなる?
 これはもちろん残ります。決して消えてなくなる訳ではありません。
 民法375条の規定は、あくまで後順位抵当権や一般債権者の保護のための規定です。
 従いまして、1番抵当権の損害金8年分の2400万円は、無担保債権として残ります。
 無担保債権ということは、サラ金などと同じような、単に抵当権が設定されていない一般債権として残るということです。

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抵当権の時効~抵当権は時効消滅するのか

 抵当権には付従性があります。ですので、その抵当権の元となっている被担保債権が消滅すれば、その抵当権も消滅します。
 従いまして、被担保債権が時効により消滅すれば、抵当権も消滅します。そして、この場合の時効期間は、民法167条1項により10年間になります。これは債権の消滅時効の一般則です。

 実は抵当権には、先述の債権の消滅時効の一般則である民法167条1項の規定以外に、抵当権自体の消滅時効についての規定があります。

(抵当権の消滅時効)
民法396条
抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。

 これは何を言っているのかといいますと、債務者(金を借りた人)と抵当権設定者(多くは金を借りた本人だが、本人以外に物上保証人というケースもある)に対しては、被担保債権と同時でなければ抵当権が時効消滅することはない、ということです。つまり、債務者と抵当権設定者に対しては、抵当権が独自に時効消滅することはないということです。
 まあ、これは当たり前の話ですよね。被担保債権があって抵当権が存在する訳ですから、被担保債権が時効消滅しない限り、抵当権も時効消滅しないのは当然です。
 ただ、ここでポイントになるのは「債務者及び抵当権設定者に対しては」というところです。これは逆に言えば、債務者及び抵当権設定者以外であれば、抵当権が独自に時効消滅することがあり得るということです。
 従いまして、後順位抵当権者抵当不動産の第三取得者などの債務者及び抵当権設定者以外の者に対してであれば、抵当権が独自に時効消滅することはあります。そしてこの場合の時効期間は、民法167条2項により20年です。

なぜ債務者及び抵当権設定者以外に対しては抵当権が独自に時効消滅するのか
 これはシンプルにこう考えるとわかりやすいと思います。
 債務者及び抵当権設定者は、被担保債権の直接の関係者です。しかし、債務者及び抵当権設定者以外の、後順位抵当権者や抵当不動産の第三取得者は、被担保債権とは直接の関係はありませんよね?なので、後順位抵当権者や抵当不動産の第三取得者に対しては抵当権が独自に時効消滅する、ということになるのです。

抵当目的物の所有権が時効取得された場合

 民法では、抵当目的物の所有権が時効取得された場合の規定を設けています。

(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)
民法397条
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。

 これは、例えば、A所有の甲不動産に抵当権を設定し登記していたところ、Bが甲不動産を時効取得したようなケースのことを言っています。
 そしてこの場合、民法397条の規定により、Bが甲不動産を時効取得すると甲不動産に設定登記されていた抵当権は消滅します。
時効取得者に甘くね?
 そう思う方もいるでしょう。しかし、時効取得は原始取得です。原始取得ということはつまり、Bが甲不動産を時効取得すると、甲不動産は始めからBの物だったことになるのです。始めからBの物だったということは、甲不動産は抵当権設定以前からBの物だったということです。そうなると、もはや甲不動産に設定されていた抵当権は、Bにとっては全く無関係であり、入り込む余地がないのです。
 従いまして、民法397条の規定は、何も特別に時効取得者に甘くしているわけでなく、そもそも時効取得自体がとても強力なモノだということです。

 ここでひとつポイントがあります。
 時効取得は原始取得なので、わざわざ先述の民法397条の規定を置かずとも、抵当不動産が時効取得されれば、時効取得本来の性質により抵当権は消滅しますよね?
 ここで今一度、民法397条をよく読んでみて下さい。

民法397条
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。

 よく読んでみると、条文の主語が「債務者又は抵当権設定者でない者が」となっています。ということはつまり、「債務者又は抵当権設定者が」時効取得しても、抵当権は消滅しないということです。
 従いまして、実は民法397条で本当に言いたいことは「債務者又は抵当権設定者が時効取得しても抵当権は消えない」ということなのです。
ややこしい書き方するな~
 と思われる方もいるかと思いますが、これは典型的な法律の読み方のひとつです。法律に慣れてきて、リーガルマインドが身に付いてくると、違和感なくこのような読み方もできるようになります。
 今後、本格的に民法を学びたい!試験のために民法の理解が必要だ!という方は、このような法律の読み方には、是非慣れて頂きたいと存じます。

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登記の流用

 例えば、AがBに貸付をして、抵当権を設定したとします。その後、Bは弁済したが、抵当権の登記を抹消せずに放置したままで、新たにAがBに貸付をした場合に、放置したままだった抵当権を新たに行った貸付に流用できるのでしょうか?
 本来、不動産登記は、実体上の権利変動を忠実に示したものです。ですので、先の例の場合、一度、BがAに被担保債権(AのBに対する貸付債権)を弁済した時点で、その抵当権の抹消登記をして、それから再度、新たな貸付債権(被担保債権)のための抵当権の登記をすべきです。
 それに、抵当権は担保権であり、担保権には付従性があります。付従性とはくっ付いて従う性質です。つまり、抵当権は被担保債権にくっ付いて従うので、被担保債権が弁済等により消滅すれば、抵当権も消滅するのです。
 以上のことから、流用した登記は、無効な登記ということになります。
 しかし!実は、実務上、登記の流用は頻繁に行われています。すなわち現実においては、登記の流用は当たり前にあるものなのです(え?と思う方もいらっしゃるかと思いますが、法律の原則と実務の実態が違うということは、よくあります。この辺が、民法を学ぶ上で難しく感じるところであり、面白いところでもあります)。
 こういった実情をふまえて、登記の流用のすべてを無効なものにしてしまうと逆に世の中が混乱してしまうということで、判例でも、一定の登記の流用に関しては、これを有効としています。

判例が認める「一定の登記の流用」とは

 判例により、一定の登記の流用については、これを有効としています。ただ、いくら有効とするといっても、あくまで「一定の登記の流用」については、です。ではこの「一定の登記の流用」とは何かというと、登記の流用によって迷惑を被る第三者がいない場合の登記の流用のことです。

登記の流用によって迷惑を被る第三者とは

 これは、その登記を流用する前に出現していた後順位抵当権者のような利害関係人のことです。このような者達は、先順位の抵当権が弁済により消滅した以上は、抵当権順位の上昇という利益を当然に受けるべき人達(第三者)です。ところが、もし登記の流用なんてことをやられてしまうと、順位の上昇ができず、本来受けるべき利益を受けられなくなってしまいます。ですので、その登記の流用前から後順位抵当権者が存在する場合は、その登記の流用は認められないのです。
 逆に言えば、登記の流用前に後順位抵当権者がいなければ、登記の流用は可能です。ということはつまり、登記の流用後に出現した後順位抵当権者がいても、登記の流用は可能です。なぜ可能かというと、登記の流用後に出現した後順位抵当権者は、流用された登記が登記簿に載っているのを見た上で、後順位抵当権者として取引に入ってきているので、問題ないという訳です。

補足
なぜ登記の流用は行われるのか


理由は2つ考えられます。
1、金がかかる
 まずひとつは、抵当権の設定登記をする際、登録免許税という税金がかかります。
税率は債権額の4/1000です。つまり、債権額が1億円の抵当権の設定登記をする場合、設定登記をするだけで40万円かかるという訳です。
2、単に手続きが面倒
 以上の理由から、抵当権を流用しちゃえ!となってしまうのです。
 40万円ぐらい大したことないじゃん!手続きぐらいやれよ!と思われる方もいらっしゃると思いますが、良くも悪くもそれが実態なのです。
 ただ、手続きはまだしも、税率については、債権額が10億円なら400万円ですからね。抵当権設定登記だけで400万円もかかるぐらいなら流用しちゃえ!となってしまうのもよく分かるかと思います。

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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
根本総合行政書士です。
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保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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