民法改正・敷金関係(原状回復義務、特約など)

 今回は民法改正の中の敷金関係について触れて参りたいと思います。
 改正民法では、部屋を借りる際に必要となる敷金の原則返還のルールが明確化されるとのことです。従来の民法では敷金の返還についての明確なルールは存在しませんでした。これが今回の民法改正により、個別法である借地借家法ではなく一般法である民法で明記されることになる訳ですから、部屋を借りる側としてみれば有難いことでしょう。背景にはやはり敷金関係のトラブルが絶えない現状があるのだと思います。裁判の判例やガイドラインを基準になんとかここまでやってきたがもうそろそろ法律で明確化した方がよくね?となったのではないかと。

敷金と原状回復義務

 ところで、そもそも敷金と原状回復義務についてはお分かりになりますかね?敷金というのは部屋を借りるときに貸主に一旦預けるお金です。貸主は万が一借主の賃料の未払いや部屋の毀損などがあった場合は預かった敷金から差し引く事ができます。要は敷金は部屋を借りるための担保のようなものです。もちろん現実では敷金だけでは万が一の事態のための担保としては不十分なので、貸主としてはさらに借主に保証人を付けさせたり家賃保証会社と保証契約をさせたりしてより安全を確保します(敷金ゼロ!保証人不要!と謳った物件も存在しますが、それにはそれの理由があります。それについてはまた別の機会でお話しできれば)。
 原状回復義務というのは、借りた部屋を返す時、つまり引っ越し等で賃貸借契約を終わらせて部屋を出る時に部屋を元の状態(原状)に戻す義務のことです。現状ではなく原状です。なので元に戻す原状回復となるのです。原状回復については現在はガイドラインでかなり細かく決められています。昔はそのガイドラインすらおぼつかなく貸主側の不動産業者から相当無茶な請求をされるなんて事もありました。もちろん今でもそういう輩は存在しますし地方では都内よりもまだまだヤバイなんて話も聞きます。

原状回復義務は何もかも元に戻す義務ではない

 借主は原状回復義務を負います。それは改正民法でも変わりません。しかし、何もかも元に戻せ!というのは違います。先ほど原状回復とは元に戻すことだと申し上げましたが、物には経年劣化があります。人が年を取って老いていくように物も年を取って老いていきます。この自然な劣化を経年劣化といい、経年劣化による修繕は借主に負担する義務はありません。そして通常の使用の仕方による損耗(傷や汚れ)の負担は家賃に含まれていると考え、これも借主の負担の義務はありません。この通常の使用の仕方による損耗を通常損耗といいます。
 まとめますと、経年劣化と通常損耗による修繕の負担は借主の義務ではない、ということです。そこを改正民法では明確化しようとのことのようですね。もちろんあくまで経年劣化と通常損耗での話であって、あきらかにおかしな使い方で汚したり故意に傷つけたりルールを破ってやらかしたものに関しては当然のごとく借主が責任を負います。

補足・特約の存在

 実は現在のガイドライン上でも経年劣化と通常損耗は原則貸主負担となっています。実態はそうなっていないことが多々ありますが。それともうひとつ厄介なのが特約の存在です。特約で借主負担にしてしまっていることもしばしば見かけます。もちろんあまりに借主に不利な内容の特約は無効になりますが。もし機会がございましたら原状回復ガイドラインをご覧になってみて下さい。あれ?そうだったの?と思うこともあるかと思います。
 いずれにせよ今回の民法改正により、一般法である民法から、謂わば借りる側の保護のボトムアップがはかられることは間違いなさそうです。
 という訳で、今回も最後までお読み頂き有難うございます。
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民法改正・時効関係

 今回は民法改正についての時効関係に触れ、時効についての簡単な解説をしたいと思います。
 今回の民法改正により業種ごとにバラバラだった時効になる期間が統一されます。そもそも従来の規定ではどのようにバラバラだったのでしょうか。まずはそこから見ていきましょう。

時効成立期間1年
飲食代金・宿泊代金・運送代金など

時効成立期間2年
塾の授業料・弁護士報酬など

時効成立期間3年
建築工事の代金・診療代金など

 このような感じで、各種債権ごとに時効となる期間がバラバラでした。このバラバラだった時効期間が改正民法では原則5年に統一されます。正確に申し上げると「請求できると知った時から5年」です。つまり請求できると知った時が時効期間の起算点になります。
 じゃあ10年経ってから請求できることを知ったらそこから5年ってこと?
 違います。ここで時効についての基本的な部分をご説明いたしましょう。

ふたつの時効と除斥期間

 時効には2種類ございます。それは取得時効消滅時効です。ひとつひとつご説明いたします。
 まず取得時効ですが、例えば道で物を拾ったとしますよね。いつまでも持ち主が現れなかったらどうなるでしょう。拾った人の物になりますよね(もちろん拾った物にもよりますが、その辺りの細かい事はここでは省きます)。これが取得時効です。
 では消滅時効とはなんでしょう。これが今回の民法改正でお話申し上げている方の時効で、債権(請求できる権利)がどれくらい期間が経つと消滅してしまうかの時効です。
 ふたつの時効、お分かり頂けましたか?さらに時効にはもうひとつ重要な点がございます。それは所謂除斥期間です。これが先ほどの疑問に答える内容になります。
 今回の民法改正で時効期間、消滅時効の期間が「請求できると知った時から5年」に原則統一されます。実は民法には「請求できると知った時から◯年」という消滅時効に、そもそもいつ請求できると知ろうが10年経ってしまったら権利が消滅してしまうという規定がございます(10年以外のものもありますが、それらについては別途解説します)。これがいわゆる除斥期間と呼ばれているものです。つまり、10年経ってから請求できることを知り消滅時効はそこから5年、というのはありえません。10年経ってしまったらそもそも権利が消滅してしまいます。

時効という規定の存在理由

 てゆーか、そもそも時効って制度自体おかしくね?払わない方が悪いのに一定の時間が経つともう払わなくてもいい訳でしょ?ごもっともです。ただ民法では、いつまでも請求できる権利を宙ぶらりんのままで有効のままにしておくと法的安定性に欠けると考えます。だっていきなり30年前の事を持ち出されて金払えと言われたらどうしますか?困りますよね?そもそも覚えてなかったりするでしょうし…。こうなると世の中の秩序の安定も損なわれてしまう。だから時効というルールを作ってどうにかバランスを取っているのです。ちなみにこんな言葉もあります。

権利の上に眠る者は保護に値せず

 つまり権利があるなら権利がある者としての責任で権利を行使しろ!という事です。少し厳しく聞こえるかもしれませんが、これは何も民法に限らずこの社会を生きていく上で人間として当たり前の事ではないでしょうか。良し悪しだけではなく正当な権利を正当に行使するのは権利を持っている人間の責任でもあります。権利を行使しないのであればそれによって生じる現実をしっかりと受け入れるのもまた権利を持っている人間としての責任です。
 なんだか今回は偉そうに語ってしまいましたが(笑)、次回は民法改正の敷金関係について触れていきます。今回も最後までお読み頂き有難うございます。
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民法改正・約款

 今回の民法改正について報道等で主に取り上げられている点は下記になります。

・契約関係
・時効関係
・敷金関係

 改正項目は約200に及ぶそうなので実際には上記に挙げた部分以外にもありますが、報道等で主に取り上げられている上記について私なりに触れていきます。
 今回は前回取り上げた「約款」の項目の新設について、もう少し細かい部分まで見ていきたいと思います(約款というものについての解説は前回したので省きます)。
 ではどんな事が民法に盛り込まれるのでしょうか。

・約款が消費者に一方的に不利になる内容は無効

 上記の内容が改正民法に新たに盛り込まれるそうです。前回インターネット取引の普及が背景にあると申しましたが、これは正にそれで、今はスマートフォン等で簡単に取引ができます。その際画面上で約款を見せられる過程がありますが、大体の人が文字の細かさと読みづらい文章とメンドくささで、ろくに読みもしないで「同意」ボタンを押してしまっているのが実態だと思います。内容次第では後からとんでもない請求をされかねないのに…ただ約款が読みづらいのは事実ですし、いくら読んでも読み落としだって当然あるでしょう。そこで約款が消費者に一方的に不利になる内容であればたとえ同意ボタンを押していたとしてもその契約は無効ですよ、という規定が改正民法に盛り込まれるという事です。我々消費者にしてみれば安心な規定ですね。ただ注意点があります。それは約款が無効になるのはあくまで消費者に一方的に不利になる内容であった場合であって、そうでない場合は契約内容がきちんと約款に記されている限り、たとえ消費者が内容を理解できていなかったとしてもその約款(契約)は有効になります。
 なんだ消費者にとってたいして安心でもないじゃん!
 そんな声も聞こえてきそうですが、考えてみて下さい。あまりにも消費者ばかりを過剰に保護しすぎると商売なんかできたもんじゃなくなってしまいませんか?商売をしている人間なら痛いほど分かる事ですが、買う側にリスクがあるように売る側にもリスクがあるのです。買う側の保護ばかりをしてしまうと売る側のリスクばかりが増えてしまう。そうなると今度は逆に円滑な取引の安定が損なわれます。それは健全な経済の発展を阻害し、社会秩序を守る点からも問題です。ですのでこのようなバランスの取り方になるのです。
 
 なんとなく民法の性質がご理解頂けましたでしょうか。尚、今回の改正民法には契約関係では、他にも認知症の高齢者等の判断能力がない人が結んだ契約は無効となる旨の明記をすること等も盛り込まれているとのことです。これも前回申し上げた高齢化が背景にあるということの影響による改正ですね。認知症の高齢者等には別途後見制度というものがありますが、それだけではこれも対応しきれなくなってきたのではないでしょうか(後見制度は民法上にあります。細かい解説は今後別途解説を致しますのでその際にご覧下さい)。

 今回はここで締めさせて頂きます。次回は民法改正の時効関係と敷金関係について触れていきます。最後までお読み頂き有難うございます。
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民法改正について

 平成29年5月26日、改正民法が参院本会議で可決、成立しました。当ブログでも民法を扱っているため、この話題には触れずにはいられないだろうということで(というふうに勝手に思い(笑))報道で取り上げられている主な部分について僭越ながら私なりの解説をしていきたいと思います。
 今回の民法の改正項目は役200に及びます。全ての解説はお偉い学者先生や弁護士先生方にお任せするとして、ここでは報道で取り上げられている部分を扱います。報道で取り上げられている部分は主に下記の通りです。

・契約関係
・時効関係
・敷金関係

 上から順に見ていきます。まずは契約関係。契約関係の民法改正の目玉は「約款」に関する規定の新設でしょうか。約款と聞いてもピンと来ない方もいらっしゃると思います。約款とは契約の条項の事です。契約内容の細かい部分と言えばいいでしょうか。例えば保険契約で言えば保険金の支払い条件や額等が「約款」に記されています(約款には不特定多数の契約者に対して共通する事項を定めた普通取引約款と、個別に加筆、変更、修正、削除された条項を設けた特別約款(特別条項)があります)。約款、お分かりになりますよね。そしてこの「約款」に関する規定が今までの民法には存在しませんでした。今回の民法改正で約款に関する規定が新設されるのです。
 え?今までそんな重要そうな規定がなかったの?
 はい。そうです。民法には約款に関する規定は存在しませんでした。というのもそもそも民法の契約に関する規定の多くが明治29年の民法制定時から変わっていないということが一点と、もう一点は民法には基本的に契約自由の原則があります。つまり契約に関しては自由なのです。基本的には。なぜならそうしておかないと世の中の取引というものが円滑に運んでいかない、ひいては経済が発展していかないからです。ですので細かい部分に関してましては自由かもしくは個別法というもので別途法律を作って対応しています。
 個別法って?
 個別法とは、一般法に対して個別法なのです。
 はぁ?
 ご説明します。民法は法律です。そして民法は一般法という法律になります。民法は一般法で、包括的にベーシックな部分を定めています。例えば不動産に関することも民法の中に規定がございます。しかしそれだけでは不動産という専門的な分野の規定は当然足りませんよね。ですので個別法として「借地借家法」や「建築基準法」や「宅地建物取引業法」といった法律で補充、強化しています。※
※不動産に関する法律は他にもありますがここでは省きます。
 そして一般法と個別法の力関係はこうです。

一般法<個別法

 つまり個別法は一般法に優ります。これを家庭関係に例えるとこんな感じでしょうか?

夫<妻

 話が逸れましたね(笑)。すいません。
 話を一般法と個別法に戻します。先の例の不動産ですと、借地借家法(個別法)は民法(一般法)に優先して適用されます。不動産は専門性の高い分野ですが、我々の生活からは切り離せないものです。ほとんどの人が買うか借りるかして家に住むでしょう?ですのでどうしても民法だけだと不動産業者や家主に有利になりがちという実態があったのです。そこでそんな実態を改善すべく個別法を制定することによって現在は契約当事者間の公平さを保っている訳です(もちろん現実にはそれでもまだ様々な問題がございます。例えば家主側からの家賃滞納者の退去問題等。その辺の詳しい事はまた別途機会を改めてご説明申し上げたいと存じます)。
 ここで話を民法改正の約款に関する規定に戻します。先ほどまでの話を踏まえた上で再び申しますと、要は民法という一般法レベルで約款に関する規定を設け、もう少し契約関係のトラブルを防ぎましょう、というような感じの話です。その背景にはインターネット取引の普及や高齢化の問題があります。おそらくそういった時代の変化に個別法の制定だけでは対応が追っつかなくなったのではないかと思います。

 という訳で少し長くなってしまったので、一旦ここで締めさせて頂きます。次回は契約関係の改正部分の具体的な内容を私なりに触れていきたいと思います。
今回も最後までお読み頂きありがとうございます。
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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
根本総合行政書士です。
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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