民法改正について

 平成29年5月26日、改正民法が参院本会議で可決、成立しました。当ブログでも民法を扱っているため、この話題には触れずにはいられないだろうということで(というふうに勝手に思い(笑))報道で取り上げられている主な部分について僭越ながら私なりの解説をしていきたいと思います。
 今回の民法の改正項目は役200に及びます。全ての解説はお偉い学者先生や弁護士先生方にお任せするとして、ここでは報道で取り上げられている部分を扱います。報道で取り上げられている部分は主に下記の通りです。

・契約関係
・時効関係
・敷金関係

 上から順に見ていきます。まずは契約関係。契約関係の民法改正の目玉は「約款」に関する規定の新設でしょうか。約款と聞いてもピンと来ない方もいらっしゃると思います。約款とは契約の条項の事です。契約内容の細かい部分と言えばいいでしょうか。例えば保険契約で言えば保険金の支払い条件や額等が「約款」に記されています(約款には不特定多数の契約者に対して共通する事項を定めた普通取引約款と、個別に加筆、変更、修正、削除された条項を設けた特別約款(特別条項)があります)。約款、お分かりになりますよね。そしてこの「約款」に関する規定が今までの民法には存在しませんでした。今回の民法改正で約款に関する規定が新設されるのです。
 え?今までそんな重要そうな規定がなかったの?
 はい。そうです。民法には約款に関する規定は存在しませんでした。というのもそもそも民法の契約に関する規定の多くが明治29年の民法制定時から変わっていないということが一点と、もう一点は民法には基本的に契約自由の原則があります。つまり契約に関しては自由なのです。基本的には。なぜならそうしておかないと世の中の取引というものが円滑に運んでいかない、ひいては経済が発展していかないからです。ですので細かい部分に関してましては自由かもしくは個別法というもので別途法律を作って対応しています。
 個別法って?
 個別法とは、一般法に対して個別法なのです。
 はぁ?
 ご説明します。民法は法律です。そして民法は一般法という法律になります。民法は一般法で、包括的にベーシックな部分を定めています。例えば不動産に関することも民法の中に規定がございます。しかしそれだけでは不動産という専門的な分野の規定は当然足りませんよね。ですので個別法として「借地借家法」や「建築基準法」や「宅地建物取引業法」といった法律で補充、強化しています。※
※不動産に関する法律は他にもありますがここでは省きます。
 そして一般法と個別法の力関係はこうです。

一般法<個別法

 つまり個別法は一般法に優ります。これを家庭関係に例えるとこんな感じでしょうか?

夫<妻

 話が逸れましたね(笑)。すいません。
 話を一般法と個別法に戻します。先の例の不動産ですと、借地借家法(個別法)は民法(一般法)に優先して適用されます。不動産は専門性の高い分野ですが、我々の生活からは切り離せないものです。ほとんどの人が買うか借りるかして家に住むでしょう?ですのでどうしても民法だけだと不動産業者や家主に有利になりがちという実態があったのです。そこでそんな実態を改善すべく個別法を制定することによって現在は契約当事者間の公平さを保っている訳です(もちろん現実にはそれでもまだ様々な問題がございます。例えば家主側からの家賃滞納者の退去問題等。その辺の詳しい事はまた別途機会を改めてご説明申し上げたいと存じます)。
 ここで話を民法改正の約款に関する規定に戻します。先ほどまでの話を踏まえた上で再び申しますと、要は民法という一般法レベルで約款に関する規定を設け、もう少し契約関係のトラブルを防ぎましょう、というような感じの話です。その背景にはインターネット取引の普及や高齢化の問題があります。おそらくそういった時代の変化に個別法の制定だけでは対応が追っつかなくなったのではないかと思います。

 という訳で少し長くなってしまったので、一旦ここで締めさせて頂きます。次回は契約関係の改正部分の具体的な内容を私なりに触れていきたいと思います。
今回も最後までお読み頂きありがとうございます。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

民法改正・約款

 今回の民法改正について報道等で主に取り上げられている点は下記になります。

・契約関係
・時効関係
・敷金関係

 改正項目は約200に及ぶそうなので実際には上記に挙げた部分以外にもありますが、報道等で主に取り上げられている上記について私なりに触れていきます。
 今回は前回取り上げた「約款」の項目の新設について、もう少し細かい部分まで見ていきたいと思います(約款というものについての解説は前回したので省きます)。
 ではどんな事が民法に盛り込まれるのでしょうか。

・約款が消費者に一方的に不利になる内容は無効

 上記の内容が改正民法に新たに盛り込まれるそうです。前回インターネット取引の普及が背景にあると申しましたが、これは正にそれで、今はスマートフォン等で簡単に取引ができます。その際画面上で約款を見せられる過程がありますが、大体の人が文字の細かさと読みづらい文章とメンドくささで、ろくに読みもしないで「同意」ボタンを押してしまっているのが実態だと思います。内容次第では後からとんでもない請求をされかねないのに…ただ約款が読みづらいのは事実ですし、いくら読んでも読み落としだって当然あるでしょう。そこで約款が消費者に一方的に不利になる内容であればたとえ同意ボタンを押していたとしてもその契約は無効ですよ、という規定が改正民法に盛り込まれるという事です。我々消費者にしてみれば安心な規定ですね。ただ注意点があります。それは約款が無効になるのはあくまで消費者に一方的に不利になる内容であった場合であって、そうでない場合は契約内容がきちんと約款に記されている限り、たとえ消費者が内容を理解できていなかったとしてもその約款(契約)は有効になります。
 なんだ消費者にとってたいして安心でもないじゃん!
 そんな声も聞こえてきそうですが、考えてみて下さい。あまりにも消費者ばかりを過剰に保護しすぎると商売なんかできたもんじゃなくなってしまいませんか?商売をしている人間なら痛いほど分かる事ですが、買う側にリスクがあるように売る側にもリスクがあるのです。買う側の保護ばかりをしてしまうと売る側のリスクばかりが増えてしまう。そうなると今度は逆に円滑な取引の安定が損なわれます。それは健全な経済の発展を阻害し、社会秩序を守る点からも問題です。ですのでこのようなバランスの取り方になるのです。
 
 なんとなく民法の性質がご理解頂けましたでしょうか。尚、今回の改正民法には契約関係では、他にも認知症の高齢者等の判断能力がない人が結んだ契約は無効となる旨の明記をすること等も盛り込まれているとのことです。これも前回申し上げた高齢化が背景にあるということの影響による改正ですね。認知症の高齢者等には別途後見制度というものがありますが、それだけではこれも対応しきれなくなってきたのではないでしょうか(後見制度は民法上にあります。細かい解説は今後別途解説を致しますのでその際にご覧下さい)。

 今回はここで締めさせて頂きます。次回は民法改正の時効関係と敷金関係について触れていきます。最後までお読み頂き有難うございます。
(スマホでご覧の場合、民法改正の続きへ進むにはこちらをタップして下さい)

民法改正・時効関係

 今回は民法改正についての時効関係に触れ、時効についての簡単な解説をしたいと思います。
 今回の民法改正により業種ごとにバラバラだった時効になる期間が統一されます。そもそも従来の規定ではどのようにバラバラだったのでしょうか。まずはそこから見ていきましょう。

時効成立期間1年
飲食代金・宿泊代金・運送代金など

時効成立期間2年
塾の授業料・弁護士報酬など

時効成立期間3年
建築工事の代金・診療代金など

 このような感じで、各種債権ごとに時効となる期間がバラバラでした。このバラバラだった時効期間が改正民法では原則5年に統一されます。正確に申し上げると「請求できると知った時から5年」です。つまり請求できると知った時が時効期間の起算点になります。
 じゃあ10年経ってから請求できることを知ったらそこから5年ってこと?
 違います。ここで時効についての基本的な部分をご説明いたしましょう。

ふたつの時効と除斥期間

 時効には2種類ございます。それは取得時効消滅時効です。ひとつひとつご説明いたします。
 まず取得時効ですが、例えば道で物を拾ったとしますよね。いつまでも持ち主が現れなかったらどうなるでしょう。拾った人の物になりますよね(もちろん拾った物にもよりますが、その辺りの細かい事はここでは省きます)。これが取得時効です。
 では消滅時効とはなんでしょう。これが今回の民法改正でお話申し上げている方の時効で、債権(請求できる権利)がどれくらい期間が経つと消滅してしまうかの時効です。
 ふたつの時効、お分かり頂けましたか?さらに時効にはもうひとつ重要な点がございます。それは所謂除斥期間です。これが先ほどの疑問に答える内容になります。
 今回の民法改正で時効期間、消滅時効の期間が「請求できると知った時から5年」に原則統一されます。実は民法には「請求できると知った時から◯年」という消滅時効に、そもそもいつ請求できると知ろうが10年経ってしまったら権利が消滅してしまうという規定がございます(10年以外のものもありますが、それらについては別途解説します)。これがいわゆる除斥期間と呼ばれているものです。つまり、10年経ってから請求できることを知り消滅時効はそこから5年、というのはありえません。10年経ってしまったらそもそも権利が消滅してしまいます。

時効という規定の存在理由

 てゆーか、そもそも時効って制度自体おかしくね?払わない方が悪いのに一定の時間が経つともう払わなくてもいい訳でしょ?ごもっともです。ただ民法では、いつまでも請求できる権利を宙ぶらりんのままで有効のままにしておくと法的安定性に欠けると考えます。だっていきなり30年前の事を持ち出されて金払えと言われたらどうしますか?困りますよね?そもそも覚えてなかったりするでしょうし…。こうなると世の中の秩序の安定も損なわれてしまう。だから時効というルールを作ってどうにかバランスを取っているのです。ちなみにこんな言葉もあります。

権利の上に眠る者は保護に値せず

 つまり権利があるなら権利がある者としての責任で権利を行使しろ!という事です。少し厳しく聞こえるかもしれませんが、これは何も民法に限らずこの社会を生きていく上で人間として当たり前の事ではないでしょうか。良し悪しだけではなく正当な権利を正当に行使するのは権利を持っている人間の責任でもあります。権利を行使しないのであればそれによって生じる現実をしっかりと受け入れるのもまた権利を持っている人間としての責任です。
 なんだか今回は偉そうに語ってしまいましたが(笑)、次回は民法改正の敷金関係について触れていきます。今回も最後までお読み頂き有難うございます。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

民法改正・敷金関係(原状回復義務、特約など)

 今回は民法改正の中の敷金関係について触れて参りたいと思います。
 改正民法では、部屋を借りる際に必要となる敷金の原則返還のルールが明確化されるとのことです。従来の民法では敷金の返還についての明確なルールは存在しませんでした。これが今回の民法改正により、個別法である借地借家法ではなく一般法である民法で明記されることになる訳ですから、部屋を借りる側としてみれば有難いことでしょう。背景にはやはり敷金関係のトラブルが絶えない現状があるのだと思います。裁判の判例やガイドラインを基準になんとかここまでやってきたがもうそろそろ法律で明確化した方がよくね?となったのではないかと。

敷金と原状回復義務

 ところで、そもそも敷金と原状回復義務についてはお分かりになりますかね?敷金というのは部屋を借りるときに貸主に一旦預けるお金です。貸主は万が一借主の賃料の未払いや部屋の毀損などがあった場合は預かった敷金から差し引く事ができます。要は敷金は部屋を借りるための担保のようなものです。もちろん現実では敷金だけでは万が一の事態のための担保としては不十分なので、貸主としてはさらに借主に保証人を付けさせたり家賃保証会社と保証契約をさせたりしてより安全を確保します(敷金ゼロ!保証人不要!と謳った物件も存在しますが、それにはそれの理由があります。それについてはまた別の機会でお話しできれば)。
 原状回復義務というのは、借りた部屋を返す時、つまり引っ越し等で賃貸借契約を終わらせて部屋を出る時に部屋を元の状態(原状)に戻す義務のことです。現状ではなく原状です。なので元に戻す原状回復となるのです。原状回復については現在はガイドラインでかなり細かく決められています。昔はそのガイドラインすらおぼつかなく貸主側の不動産業者から相当無茶な請求をされるなんて事もありました。もちろん今でもそういう輩は存在しますし地方では都内よりもまだまだヤバイなんて話も聞きます。

原状回復義務は何もかも元に戻す義務ではない

 借主は原状回復義務を負います。それは改正民法でも変わりません。しかし、何もかも元に戻せ!というのは違います。先ほど原状回復とは元に戻すことだと申し上げましたが、物には経年劣化があります。人が年を取って老いていくように物も年を取って老いていきます。この自然な劣化を経年劣化といい、経年劣化による修繕は借主に負担する義務はありません。そして通常の使用の仕方による損耗(傷や汚れ)の負担は家賃に含まれていると考え、これも借主の負担の義務はありません。この通常の使用の仕方による損耗を通常損耗といいます。
 まとめますと、経年劣化と通常損耗による修繕の負担は借主の義務ではない、ということです。そこを改正民法では明確化しようとのことのようですね。もちろんあくまで経年劣化と通常損耗での話であって、あきらかにおかしな使い方で汚したり故意に傷つけたりルールを破ってやらかしたものに関しては当然のごとく借主が責任を負います。

補足・特約の存在

 実は現在のガイドライン上でも経年劣化と通常損耗は原則貸主負担となっています。実態はそうなっていないことが多々ありますが。それともうひとつ厄介なのが特約の存在です。特約で借主負担にしてしまっていることもしばしば見かけます。もちろんあまりに借主に不利な内容の特約は無効になりますが。もし機会がございましたら原状回復ガイドラインをご覧になってみて下さい。あれ?そうだったの?と思うこともあるかと思います。
 いずれにせよ今回の民法改正により、一般法である民法から、謂わば借りる側の保護のボトムアップがはかられることは間違いなさそうです。
 という訳で、今回も最後までお読み頂き有難うございます。

意思表示の形成過程~欲しいと思ってから買おうと思い購入に至るまでの民法的考察

 欲しいと持ってから買おうと思い購入に至るまでの意思表示の流れ

美味しそうだな〜(動機)

よし、買おう!(効果意思)

買います!と言うぞ(表示意思)

これ買います!(表示行為)


相手方の「売ります」で契約成立!

意思表示とは何なのか

 売買契約は「買います」という申し込みに対し「売ります」という承諾をした時、契約が成立します(諾成契約)。このときの「申し込み」と「承諾」、つまり「買います」「売ります」が、意思表示です。つまり、売買契約(諾成契約)は、民法的に説明すると「当事者同士の意思表示により成立する契約」ということになります。
 意思表示が何なのかは、おわかりになりましたよね。ではここから、意思表示の形成過程を見て参ります。

動機

効果意思

表示意思

表示行為


 なんだかまるで心理学みたいですが、順番にご説明して参ります。
・動機
 これは売買であれば「買う理由」です。美味しそうだな〜とか、安いからとか、カワイイからとか、動機という言葉の通りです。
・効果意思
 これは「よし、買おう」です。つまり「頭・心の中の決断」です。
・表示意思
 これは「買いますと言うぞ」です。つまり「決断を表に示す意思」です。
・表示行為
 これは「これ買います!」です。これは説明不要ですね。「購入の申し込みの表明」です。

まとめると冒頭の図になります。

美味しそうだな〜(動機)

よし、買おう!(効果意思)

買います!と言うぞ(表示意思)

これ買います!(表示行為)


 以上が、意思表示の形成過程になります。

なぜこんな話が民法に必要なのか?

 それこそ本当に、心理学の講義みたいですもんね。しかし、これが実はとても重要なのです。なぜなら、意思表示があって初めて契約というものが成立するからです。
 契約関係のトラブルは、いつの時代も絶えません。トラブルがあったときは、その契約内容と成立過程を検証しますよね。その「成立過程」こそ、まさに先述の「意思表示の形成過程」が含まれます。
 買いたいと思っていない物なんて買わないですよね?ではなぜ買ったのか?無理矢理買わされたのか?騙されたのか?あるいは勘違いか?買ってもいない物が突然送られてきて、いきなりお金を請求されても困りますよね?売る側からすれば、なんの理由もなしにいきなり返品されて「金返せ!」と言われても困りますよね?そうなると、「意思表示の形成過程」のどこかに不備があるのではないか?と、民法的な検証ができる訳です。
 尚、付け加えて申し上げておきますと、意思表示は「黙示のもの」でも、有効に扱われる場合があります。黙示の意思表示とは、実際言葉には出していないけれど「それって買うってことだよね・売るってことだよね」ということです。つまり、黙っていても意思表示が明らかだと認められればその契約は成立してしまう、という事です。ですので皆さん、断るときはハッキリと口に出して断りましょう。
→続いての記事はこちら

錯誤の超基本 錯誤=勘違い?勘違いにも2種類ある?

美味しそうだな〜(動機)

よし、これ買おう!(効果意思)

買います!と言うぞ(表示意思)

これ買います!(表示行為)


 上記が「欲しいと持ってから買おうと思い購入に至るまでの意思表示の流れ」、つまり意思表示の形成過程です(これについて詳しくはこちらをご覧下さい)。
 さて、ではこの意思表示の形成過程に不備があった場合は、一体どうなるのでしょう?
 皆さんも普段の買い物の中で、間違えて、本来買おうしていた物とは違う物を買ってしまった事、ありますよね。 それは民法的に言うと「効果意思と表示行為に食い違いがある」ということになります。 効果意思というのは「よし、これ買おう」という心の中の決断で、表示行為というのは「これ買います」という購入の申し込みです。 つまり、本来買おうとしていた物とは違う物を買ってしまったというのは、心の中の決断行為一致していないのです。Aさんに告白しようと思って、Bさんに「付き合って下さい」と言うようなもんです(笑)。
 このような効果意思と表示行為の不一致、ざっくり言えば勘違い錯誤と言います。

錯誤は2種類存在する

 錯誤には、要素の錯誤と動機の錯誤の2種類が存在します。つまり、民法的には勘違いにも2種類あるのです。

要素の錯誤と

 これは「ギターを買おうと思ってベースを買ってしまった」というような場合です。つまり意思行為食い違いがある錯誤です。

動機の錯誤とは

 これは文字通り、意思表示の形成過程における動機の部分の話で、買おうと思った理由による錯誤です。といってもこれではよくわからないですよね。以下に具体例を挙げてご説明いたします。

(動機の錯誤の例)
 不動産を購入しようと考えている人がいました。そして、その人はある土地に目を付けました。というのは、どうやら「その土地の近くに新しく駅ができる」という噂を嗅ぎつけたからです。そして、その人はその噂を信じ土地を購入しました。将来の土地の価値の増大を期待できるからです。しかし、その後、その噂はガセだったようで駅はできませんでした。当然その土地の価値もたいして変わりません。この人の土地を購入した動機は、近くに駅ができるから土地の値段が上がる!というものです。でも実際には駅などはできず、土地の値段も上がりませんでした...。


 これが動機の錯誤です。つまり、買おうと思った理由が間違っていた場合です。要素の錯誤は、思った事と行為が食い違っているのに対し、動機の錯誤は、思った事と行為は噛み合っていても、思った事、その理由が間違っていた場合です。
 両者の違い、おわかりになりましたかね?
 その違いが一体なんになるんだ!
 はい。実はこの違いがとても重要なのです。というのは、後々に錯誤を理由に契約の無効を主張できるか否かという問題に直結するからです。買った側からすると、間違って買ってしまったのにもうどうにもできない、なんていう事態は困りますよね。一方、売った側からすれば、なんでもかんでも後になって無効を主張されても困ります。
 という訳で次回、錯誤による無効の可否について、解説して参りたいと思います。
→続いての記事はこちら

要素の錯誤による無効~勘違いで結んだ契約はナシにできるが勘違いをした本人に大きなミスがあるとナシにできない?

錯誤による無効とは

 錯誤(勘違い)を理由に、契約の無効を主張することができます。例えば、ギターだと思ってベースを買ってしまった場合、その契約(ギターを買ったこと)の無効を主張できます。つまり、その契約を無かったことにできるのです。そして、買ったベースは店に返し、払ったお金は返してもらいます。
 これが錯誤による無効です。

(錯誤)
民法95条
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。


 上記の条文に「法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」とあります(この「法律行為の要素に錯誤」というのが、以前の記事でもご説明申し上げた、要素の錯誤になります)。
 したがって、条文から導き出される結論は「要素の錯誤であれば無効を主張できる」という事になります。

表意者の重大な過失とは

 ここで注意点がございます。民法95条の条文の「〜無効とする」の後にただし書きがあり「表意者に重大な過失があったときは〜無効を主張することができない」とあります。ちなみに、表意者というのは錯誤をした本人です。つまり、これはどういうことかと申しますと、要素の錯誤無効を主張できる。しかし、錯誤をした本人重大な過失(大きなミス)があった場合は無効を主張することができない、という意味です。
 では何が重大な過失なのか?という話ですが、わかりやすく言えば「ちょっと確認すればわかるようなことを見落としてしまった」ようなことです。例えば、リンゴを買おうと思ってバナナを買ってしまったような場合です。普通に見ていれば、リンゴとバナナを間違えませんよね?なので、リンゴを買おうと思ってバナナ買ってしまった場合、それは表意者に重大な過失アリとなり、その契約の無効を主張することはできないのです。

現実には「重大な過失」の判断は難しいこともある

 例えば、ギターだと思ってベースを買ってしまった場合、楽器初心者だったなら無効を主張しやすくなるでしょう。なぜなら、初心者ならどっちがギターかベースか、すぐに区別のつかない人もいるはずです。つまり、本人(表意者)の重大な過失と認められずらくなるからです。ところが、これがギター歴40年のオヤジだったらどうですか。普通、それだけギターやってるオヤジなら、ギターとベースの区別ぐらいすぐにつくに決まっているでしょう。たとえ悪徳楽器店だったとしても騙されないでしょう。つまり、もしギター歴40年のオヤジがギターとベースを間違えて購入してしまった場合は、表意者(ギター歴40年のオヤジ)に重大な過失があると判断されやすくなり、錯誤の無効の主張が難しくなります。
 じゃあギター歴5年の兄ちゃんはどうなの?
 これも多分ダメですね(笑)。ただ、法律で明確に規定している訳ではないので、あくまで常識的な、客観的な判断になります。裁判になれば「社会通念上なんちゃらかんちゃら」とか言われるのでしょうか。ただもし、例えば、ギターと本当に見分けのつかないようなベースがあって、店員の説明が不十分であれば、その場合は重大な過失について、また違った判断になるかもしれません(まあ、そもそも試奏したのかとか、他にも考慮しなければならない要素は色々とありますが...)。
 そして、要素の錯誤の無効を主張するのは原則本人でなければなりません。

 とにかく、ここでまず、押さえておいて頂きたいことをまとめますと、
「要素の錯誤は無効を主張できる。そのとき、無効を主張するのはあくまで本人で、もし本人に大きなミスがあった場合は泣き寝入り」
ということです。
→続いての記事はこちら

動機の錯誤の超基本~契約を無効にできない勘違いとは

 まず始めに、結論だけ先に申し上げます。
 動機の錯誤による無効というのは、原則、主張できません。よほどやむを得ない事由(理由)がない限りです。なぜなら、動機の錯誤というのは、要するに自らの判断の誤りだからです。
 という訳で、その点について、今からご説明して参ります。

動機の錯誤はテメーの判断ミス!

 動機の錯誤というのは、例えば、「このりんご美味しそうだな」と思ってそのりんごを買ったが、いざ食べてみたら不味かった、というようなケースになります。つまり、「このりんご美味しそうだな」という動機を基にりんごを買ったが、その動機が間違っていたので不味かった訳ですよね。多分、これはどなたも異論がない所だと思いますが、この場合に錯誤の無効の主張を認めて、この売買契約(りんごを買ったこと)を無かった事になんか、できる訳ないですよね。オメーのただの判断ミスだろ!となりますよね(笑)。そもそも、そんな事で無効を主張できてしまったら、商売なんかできたもんじゃないです。それは何も民法の規定だけでなく、我々だって望まない所だと思います。
 従いまして、動機の錯誤による無効の主張は、原則できないんです。

要素の錯誤と動機の錯誤の違いのまとめ
 
 要素の錯誤と動機の錯誤の違い、おわかりになりましたか?
 ここで要素の錯誤について、先述のりんごの例でご説明いたしますと、要素の錯誤は、りんごだと思ってバナナを買ってしまったような場合です。この場合、そもそもりんごを買おうという意思とバナナを買ったという行為一致していません。
 では動機の錯誤はというと、動機と行為は一致しています。りんごを買おうという意思のもとにりんごを買っているので。ただ「美味しそうだな」という動機が間違っていただけです。
 ちなみに、ギターの例で動機の錯誤についてご説明いたしますと、「このギター良い音しそうだな」と思ってギターを買ったら全然良い音がしなかった、というような場合です。それで楽器屋のオヤジに向かって「これは動機の錯誤による無効だ!だからこの買い物はナシだ!」と言えますかね?言えないでしょう。楽器屋のオヤジも、怒るどころか唖然とするでしょうね(笑)。確かに、良い音しそうだという動機の錯誤はありますが、それは本人が勝手にそう思っただけで、ギターを買おうという意思とギターを買った行為一致しています。つまり、何の問題もないのです。したがって、動機の錯誤の無効は主張できないのです。
→例外的に動機の錯誤でも無効が主張できる場合

動機の錯誤による無効~無効にできない勘違いを無効にできるとき

 動機の錯誤による無効の主張は原則認められません(動機の錯誤の基本についてはこちら)。しかし、あくまで原則認められないだけで、例外が存在します。※
※法律について考えるとき、原則から考えて例外を考えるという順序をとった方が理解がしやすいです。いっぺんに考えようとすると訳がわからなくなってしまいますので。あくまで原則があった上で例外があります。その逆はありません。

動機の錯誤が主張できるとき

 では、どんな例外パターンがあるのでしょうか。動機の錯誤の無効が主張できるケースとして、「動機が表示され、それを相手が認識しているとき」に、無効を主張できる場合があります。
 これではわかりづらいですよね。もう少し噛み砕いてご説明いたしますと、売買契約の場合「買う理由となる動機が言葉なり相手にわかるように表現されていて相手がその動機をわかっていたとき」動機の錯誤が主張できる可能性があります。

動機の錯誤が主張できるときの具体例

 例えば、こんな場合です。
 ある土地を購入したAさんがいます。Aさんがなぜその土地を購入したかというと、その土地のすぐ近くに、数年後に駅が建つという話を耳にしたからです。しかしその後、駅ができるという話はデマで、Aさんは目算を誤った、つまり、動機の錯誤に陥った...。
 このようなケースでは、原則、錯誤による無効は主張できません。なぜなら、それはただのAさんの判断ミスだからです(動機の錯誤)。
 しかし、ある要件を満たすと、このようなAさんの動機の錯誤でも無効を主張できる場合があります。それは次のような場合です。
 Aさんの「この土地のすぐ近くには数年後に駅が建つ」という動機が言葉なり表に出されていて、そのAさんの動機を相手が認識していてかつ相手はその土地のすぐ近くに駅が建つという話がデマだと知っていたのにもかかわらずそれをAさんに教えなかったとき
 上記のような場合であれば、Aさんは動機の錯誤による無効の主張ができます。
 尚、Aさんの動機が相手にわかるといっても、たとえAさんが動機を口に出していなくても、Aさんの動機が明らかに見てとれていたならば(法律的にいうと黙示に表示されていたならば)、そのときもAさんは、動機の錯誤による無効の主張ができます。

 以上、動機の錯誤について簡単にまとめますと、
「表意者の動機が間違っていて、その動機が間違っていることを相手が知っていて、その動機が間違っていることを相手が教えてあげなかったとき、表意者は動機の錯誤の無効を主張できる」
となります。つまり、表意者(勘違いをした本人)の動機が間違っているのに気づいていたなら相手は表意者に教えてやれ!てハナシです。

 動機の錯誤の無効の主張について、おわかりになりましたか?じゃあこの場合は?あの場合は?色々あると思います。
 最後に付け加えて申し上げておきますと、実際には、要素の錯誤と動機の錯誤のラインというのは、ハッキリ引ける訳ではありません。現実には微妙な事例がいくつも存在します。そこで参考にするのは過去の裁判の判例になるのですが、いずれにせよ、現実には事案ごとに、個別具体的に判断するしかないかと思います。ですので、今回ご説明申し上げたことは、あくまで民法上の基本的な考え方になりますので、その点を踏まえた上で、頭に入れておいて頂ければと存じます。
→続いての記事はこちら

原則と例外と要件

 以前、動機の錯語についての記事でも少し触れましたが、今回は原則例外、加えて要件というものについてご説明申し上げて参りたいと思います。

要件とは

 まずは要件についてから、簡単にご説明いたします。
 これは簡単です。 以前の記事錯誤についてのご説明をいたしましたが、要素の錯誤は無効を主張できます。要素の錯誤とは、りんごだと思ってみかんを買ってしまったような場合です。そのような場合、要素の錯誤による無効を主張して、その売買契約(みかんを買ってしまったこと)をなかった事にできます。しかし、この要素の錯誤を主張するには、表意者に重過失、つまり本人に重大なミスがないことが必要です。この表意者に重過失がないこと、分かりやすく言うと「本人に重大なミスがないこと」が要件になります。この要件を満たして初めて錯誤の無効の主張ができます。
 要件、お分かりになりましたかね。よく犯罪の構成要件なんて言葉を耳にする事があると思いますが、あれも要するに、これらの要件を満たしたときに犯罪が成立する、ということです。犯罪を構成する要件、つまり犯罪が成立するための要件、という事です。

原則と例外とは

 続いては原則と例外についてです。これも理解しやすい内容だと思います。
 話を再び錯語について戻しますと、錯誤の無効の主張は、要素の錯誤の無効の主張しかできません。動機の錯誤の無効の主張は認められません。これが原則です。ただ、ここで原則について注意して頂きたい事がございます。原則というのは絶対という意味ではありません。意味としては、日常会話で使う言葉で例えると「基本的には」みたいなニュアンスです。例えば「基本的に怒らない人」がいたとします。でもこの人は「絶対怒らない人」ではないですよね。つまりこの人は民法的にいうと「原則怒らない人」です(笑)。そしてこの基本的に怒らない人「原則怒らない人」も怒るときがあります。それが「例外」です。
 原則と例外、お分かりになりましたかね。

原則から考え例外を考える。変な近道は控えるべし!

 法律を考えるときは必ず、原則から考えて例外を考えます。原則があって例外があるのです。その逆はありません。これは単純な話ではありますが、大事なことです。これから資格試験等に向けて民法の学習をされる方は、この「原則から考えて例外を考える」を忘れないで下さい。この事を忘れて、原則も分かっていないのに例外を考えて勉強しようとすると、訳が分からなくなり、簡単な問題も解けなくなってしまいます。

 私は、民法の学習に関しては変な近道をしようとしない方がいいと考えます。原則を考えてから例外を考える、という順序をしっかり守って頂くことは、結果的に勉強成果にも影響します。何事も基礎が大事です。それは民法を考える上でも、正しいリーガルマインドを身につける上でも重要な事です。ですので、時には遠回りに感じて面倒臭くなるときもあると思いますが、そんな時こそ、基礎を大事に地に足をつけてじっくり取り組んで頂きたいと思います。そして基礎をある程度マスターしたら、そこからはウマイことやっていけばいいんです。これは何も民法の学習だけでなく、仕事や他の色々な事についても当てはまることではないでしょうか。
 繰り返しますが、基礎はとても大事です。ですので、面倒臭がらず焦らずに臨むことです。かの伝説のプロレスラー、天龍源一郎はこう言っていました。一番大事なのは辛抱だと。。。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

「時」と「とき」・「無効」と「取消し」

 前回、原則と例外と要件についてご説明いたしました。今回はそれの延長のようなお話になりますが、当サイトでもすでに登場した「時」と「とき」、そして「無効」と「取消し」について、それらの法律ならではの言葉の使い方・使い分けとその意味について、簡単に解説して参ります。

「時」と「とき」

 法学部出身の方などにとってはとても基本的な事になると思いますが、そうでない方にとっては馴染みのない、法律の世界ならではの言葉の使い分けというものがございます。そのひとつが「時」と「とき」です。
 実はこの「時」と「とき」は、法律の世界では使い分けされています。どのように使い分けているかといいますと、まず「時」ですが、これは「時点」という意味です。バッターが構えた「時」、ピッチャーがボールを投げた「時」というような感じです。それに対して「とき」「場合」あるいは「シチュエーション」というような意味です。ツーアウト満塁の「とき」、ツーストライクスリーボールの「とき」というような感じです。野球がわからない方もいらっしゃると思いますので、恋愛に例えてみましょう。手を繋いだ「時」、映画館デートに行った「とき」というような感じです(笑)。
 おわかりになりましたでしょうか。この「時」と「とき」の使い分けを知った上で法律の文章を読むと、法解釈が今までと少し違ってくるかもしれません。ちなみに、冒頭に申し上げたとおり、この「時」と「とき」は、すでに当サイトで何度も登場しましたが、実は使い分けております。今一度ここで、過去の記事を読み返して頂ければ、おわかりになって頂けるかと思います(笑)。

「無効」と「取消し」

 無効という言葉も、すでに当サイトで何度も登場しました。無効という言葉自体の問題も特にないと思います。では、無効と取消しの違いは、おわかりになりますでしょうか。法律の世界では、無効と取消しは、区別されて使われています。それではひとつひとつ、ご説明して参ります。

 まず無効ですが、民法上の無効とは「始めから成立すらしていない」という意味です。ですので、その契約は無効だといったら、そもそもその契約は、始めから何の形も成していない、という事です。繰り返しますが、無効のものは、そもそも成立すらしていませんので、始めから何の形も成していないんです。ですので、無効の契約というのは、始めから成り立っていない契約なのです。無効のものは、始めから終わりまでゼロです。まずここをおさえておいて下さい。

 一方、取消し「一度有効になったものをナシにする」という意味です。この「一度有効になった」というところがポイントです。無効の場合は、始めからそもそも成立すらしていないのですが、取消しの場合は、一度有効になったものが、何らかの理由により取り消されてゼロになるだけです。取り消されて初めてナシになるということは、取り消されない限りは有効に成立します。

無効についてさらに詳しく

 ここまでの説明だけでも、おわかりになるかもしれませんが、念のため、もう少し噛み砕いてご説明いたします。
 無効な契約は、最初から成り立っていません。成り立っているように見えるだけで、実態のない契約です(となると錯誤の無効の主張というのは少しおかしな話で、そもそも無効なモノなら主張しようがしまいが無効なはず。本来の無効の意味としては。この辺りの細かい話は様々な学説がありますが、それについてはこちらでは割愛します)。つまり、無効の契約というのは「契約というカゴの中に何も入っていない契約」という事になります。カラッぽの契約という事です。具体例を挙げると、強迫で結ばされた契約が、まさにこれです。強迫によって強引に結ばされた契約は無効な契約です。そんな契約はそもそも法的に成立しません。もし、そうした形で結んだ契約でモメているのなら、そもそもその契約は成立すらしていませんのでご注意下さい。 
 繰り返しますが、無効の契約は「契約というカゴの中に何も入っていない」というイメージで捉えておいて下さい。

取消しについてさらに詳しく

 取り消せる契約というのは、取り消されるまでは有効に成立しています。取り消さなければ、普通に契約として存続します。つまり、「契約というカゴの中に一応モノが入っている契約」になります。具体例を挙げると、詐欺による契約がこれになります。詐欺で結ばされた契約は、実は取り消すまでは有効な契約なんです。なぜ世の中から詐欺がなくならないのか、これでわかりますよね。実は民法上でそのようになっているのです。
 あと、細かい話ですが、取消しと書いた場合は名詞で、取り消しと書いた場合は動詞になります。念のため申し上げておきます。
 
 無効と取消しの違い、おわかりになりましたでしょうか。無効と取消しという言葉は、今後も沢山出てくると思いますので、今回の話を頭に入れておいて頂ければと存じます。
 他にも、法律ならではの言葉の使い分けは色々ございますが、今回はここで締めます。今後もこのような法律用語解説は、必要となり次第行っていきます。
 尚、「強迫」について詳しくはこちらの記事を、「詐欺」について詳しくはこちらの記事をご覧下さい。
 という訳で、今回も最後までお読み頂き有難うございます。また次回も宜しくお願い致します。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

カテゴリ

サイト運営者

根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
根本総合行政書士です。
宜しくお願いします。

保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

最新記事

スポンサーリンク

QRコード

QR

お問い合わせ

名前:
メール:
件名:
本文: