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【遺産分割】協議と方法/遺産分割の禁止/遺産分割協議の解除/遺産分割の審判と訴訟事件
【遺言】自筆証書と公正証書と秘密証書/未成年者の遺言と死因贈与/共同遺言/遺言の撤回/特別方式の遺言
【遺贈】特定遺贈と包括遺贈/遺贈の効力/遺言執行者/遺贈と死因贈与の違い
【遺留分侵害額の請求(旧:遺留分減殺請求)】具体的な計算方法と額/不動産の場合/価額算定の基準時
素材62

【遺産分割】協議と方法/遺産分割の禁止/遺産分割協議の解除/遺産分割の審判と訴訟事件

▼この記事でわかること
遺産分割協議
特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」という遺言について
遺産分割の禁止
遺産分割協議の解除
遺産分割の方法
遺産分割の審判と訴訟事件
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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遺産分割協議

 遺産分割は、各共同相続人の相続分という観念的な割合が具体化して、相続人ごとの固有財産に転化する過程であり、通常は、共同相続人の協議により遺産分割を行います。
 では、事例とともに、遺産分割の性質を解説して参ります。

事例1
Aが死亡した。Aには妻Bと嫡出子CDがいる。


[問1]
BCD間で遺産分割協議をした。しかし、Aには非嫡出子であるEが存在した(嫁以外の子がいたということ)。遺産分割協議は有効か?

 結論。無効です。
 これは、夫Aが死亡し、その遺族BCDはこの3人が相続人のすべてであると信じて遺産分割をしたのであるが、実は、夫には愛人の子Eが存在しており、死後にそのことを知った遺族が唖然とする、というケースです。
 この場合の遺産分割は無効になります。
 遺産分割は相続人全員の参加がなければ効力がないのです。
 ですので、非嫡出子のEを含めて遺産分割協議をやり直すか、それが不可能であれば、家庭裁判所のご厄介となり、遺産分割の調停あるいは審判を受ける必要が生じます。

(遺産の分割の効力)
民法909条 
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。


[問2]
BCD間で遺産分割協議をした。しかし、その後Fが死後の強制認知によりAの非嫡出子となった。遺産分割協議は有効か?

 結論。この遺産分割協議は有効です。
 本事例は、遺産分割後に非嫡出子が現れたケースです。
 認知の効力は出生にさかのぼりますから、被相続人Aの死亡時にFはさかのぼってAの子として存在していたことになります。
 ですので、本来であれば、この遺産分割協議も無効がスジです。
 しかし、民法910条は、この事例、つまり遺産分割協議後に認知による相続人が出現したケースでは、遺産分割を有効としました。
 その結果、非嫡出子のFは遺産分割のやり直しを請求することはできませんが、他の相続人であるBCDに対して、価額による賠償を請求することになります。
 すなわち、このケースは、カネの問題として解決されることになります。

(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
民法910条 
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

~ちょこっとコラム~
特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」という遺言


 この遺言は、遺贈(遺言による贈与)であるのか、遺産分割の方法の指定(相続の一場合)であるのか?
 特定の不動産を特定の相続人に「遺贈する」と書いてあれば、これは遺贈で決定です。
 しかし、「相続させる」と書いてあるので、この点が問題となります。
 一見すると、どちらであっても大差ないと考えられそうですが、これを遺贈と解釈すると登記手続が面倒くさくなります。
 この点は、判例は、この遺言は、遺産分割の方法を指定したものであると判示しました。これであれば、相続の一場合としての遺産分割の指定であるから、登記原因は相続であり手続は簡単に済みます。  
 このケースでは、その特定財産は、遺産分割の手続を経ることなく、遺言者の死亡により当然に相続人が取得することになります。

遺産分割の禁止

事例
Aが死亡した。Aの相続人は妻Bと嫡出子CDである。


[問1]
Aは遺言で遺産分割を禁止することができるか?

 結論。被相続人は、遺言で遺産分割を禁止することができます。その期間は最長で5年間です。(民法908条)

[問2]
遺産分割の審判において家庭裁判所は遺産分割を禁止することができるか?

 結論。遺産分割の請求を受けた家庭裁判所は遺産分割の禁止をすることができます。(民法907条3項)
 その要件は以下の3つです。
・特別の理由がある
・分割禁止の期間を定める
・遺産の全部または一部について分割を禁止する
 これは、遺産分割の審判をする上での家庭裁判所の便宜を図るための制度です。

[問3]
BCDの3人はその合意により遺産分割を禁止することができるか?

 結論。共有物の分割禁止特約を規定する民法256条により、遺産分割の禁止を合意することは可能です。その期間は最長で5年間です。

[問4]
遺産分割が禁止されていない場合には、いつ、遺産分割をすることができるのか?

 結論。民法907条1項は「いつでも」よいと規定しています。

【補足】遺産分割禁止期間中の分割
 遺言による場合と家庭裁判所による遺産分割禁止の場合、その期間中に遺産分割をすることはできません。前者の場合は遺言者の遺思に反することになりますし、後者の場合には、家庭裁判所の便宜による禁止期間だからです。
 しかし、相続人の合意による禁止の場合、相続人全員の合意があれば、遺産分割をしてもかまいません。

遺産分割協議の解除

事例
Aが死亡した。Aの相続人は妻Bと嫡出子CDである。BCD間の遺産分割協議において、Cが年老いたBの老後の面倒をみることになり、CはDの倍額の遺産を承継した。しかし、BはC家の嫁と折り合いが悪く、家出をしてDの家にころがりこんだ。


[問1]
Dは、遺産分割協議の解除をすることができるか?

 結論。遺産分割協議の法定解除はできません。
 遺産の再分割を余儀なくされると法的に安定性を害するというのがその理由です。

[問2]
BCDの3人で、遺産分割協議を合意解除して、新たに遺産分割をやり直すことは可能か?

 結論。遺産分割協議の合意解除は可能です。

【補足】遺産分割と共有物分割
 遺産分割は故人の遺産という財産の集合体の分割であるのに対して、共有物分割は特定の土地や建物の分割という個別の財産の分割です。
 判例は、遺産分割協議の法定解除は不可能だが、共有物分割協議の法定解除は可能としています。
 これは、共有物分割のほうが規模が小さく、解除の第三者への影響が少ないことを考慮した結果といえる。

遺産分割の方法

 遺産分割には、現物分割価額分割の方法があります。

・現物分割
 文字通り現物を分けます。長男は東京のマンション、二男は千葉の土地という具合です。

・価格分割
 遺産を売り払ってその対価である金銭を分け合います。

 協議による遺産分割の場合には、どちらの方法でも、共同相続人が自由に決めることができます。
 しかし、家庭裁判所による審判分割の場合は、現物分割を原則としています。
 ただし、分割によってその価格を損ずるおそれがあるときは、例外的に価額分割をすることもできます。

遺産分割の審判と訴訟事件

 遺産分割の審判は非訟事件です。
 非訟とは、国家が後見人的な立場から訴訟手続によらずに簡易で裁量的な処理をする事件の類型です。例えば、訴訟事件は裁判の公開を要するところ、非訟事件は非公開でもできます。
 さて、訴訟事件とは、権利の有無について白黒をつける事件であって、例えば、ある財産が被相続人の相続財産に属するかどうかは訴訟事件です。
 元来、被相続人の相続財産の範囲はハッキリした上で「はたしてそれをどういう方法で分けるのか」というのが、裁判所の裁量の問題であり非訟事件です。
 そこで、遺産分割の審判において、話のついでに、ある財産が被相続人の相続財産の範囲に属するかどうかを判断することは、本当は越権行為です。
 しかし、判例は、実際の遺産分割の審判を柔軟に運営するという見地から、家庭裁判所は上記の越権行為をしてもかまわないという判断をしました。
 これは、仮に、その家庭裁判所の判断に不服のある当事者がいたときには、そのことについて通常の訴訟を提起する道が閉ざされるわけではないということも、上記の判断の正当化の理由の1つとなっています。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【遺言】自筆証書と公正証書と秘密証書/未成年者の遺言と死因贈与/共同遺言/遺言の撤回/特別方式の遺言

▼この記事でわかること
遺言の基本
自筆証書遺言
公正証書遺言
検認とは
秘密証書遺言
未成年者の遺言・死因贈与
共同遺言
遺言の撤回
特別方式の遺言
確認について
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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遺言の基本

 遺言は、要式行為です。
 つまり、遺言の方式は、民法により決められており、その方式に従わない遺言は無効です。
 また、遺言ですることのできる法律行為も決定されています。
 つまり、民法においては、遺言ですることができるとされている行為だけ遺言として有効です。

 例えば、遺言書には、「私の死後は、兄弟仲良く力を合わせて、残された母に孝行しろ」などと書かれることがありますが、遺言書のこの部分からは法律上の効力は発生せず、単に徳義上の文言であることになります。
 このように、遺言が、その様式、内容の両面において、民法において細かく規定されている理由は、遺言の真贋(ホントかウソか)や効力の有無が法律上の争訟につながりやすいからです。
 大資産家の遺言であれば、その一つの文言が、相続人間の数十億という遺産の行方を左右することもあるでしょう。
 ですから、相続人間の争いは熾烈を極めることがあるのです。
 そこで、民法は、こうした争いをなるべく減らし、また争いとなった場合にも裁判所が問題点の整理をしやすいような仕組みを作る目的で、遺言を厳格な要式行為としたのです。

(遺言の方式)
民法960条 
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。


【補足】相続分の指定、遺産分割の方法の指定の第三者への委託
 相続分の指定、遺産分割の方法の指定を第三者に委託する方法で遺言をすることができます。
 遺言者自らが指定する例が通常であるが、例えば、弁護士の〇〇先生に指定を委託するという形式が可能です。

遺言の方式

 では、以下に、遺言の方式を整理しましょう。
 遺言には、普通方式特別方式があります。
 特別方式は、例えば、死亡危急時や在船中など特殊な場所・状況の下でのみ許容される遺言の方式です。
 そうした特殊な状況にない場合には、遺言は普通方式で行います。

普通方式の遺言

 普通方式の遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つがあります。
三本指
自筆証書遺言

 文字通り、手書きの遺言のことをいいます。
 一番手軽な方式であり、遺言者が自筆で1人で書くことができます。
 その要件は以下のとおりです。(民法968条)
1.全文、日付、氏名の自書
2.押印

(自筆証書遺言)
民法968条 
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。


 では、それぞれの要件について、事例とともに解説して参ります。

事例
次の自筆証書遺言は有効か?
1・ワープロで打ったもの
2・平成24年3月吉日という日付のもの
3・氏名がペンネームであるもの
4・押印が捺印であるもの
5・運筆について他人の添え手による補助を受けたもの

 ではひとつひとつ見て参ります。

1について

 無効です。
 自筆証書遺言は、自宅でもどこでも気軽に書けますが、遺言をするについて証人を要しないなど基本的に1人で書けるという形式の遺言です。
 したがって、後日、その真贋が問題となることが容易に予想されます。
 ですから、民法は、全文、日付、氏名の自筆を要件としました。
 すなわち、手書きでなければ効力がありません。
 これは、後日、遺言の効力発生後に、筆跡鑑定により真贋を判定するためです。
 ワープロで打ったというような、誰でも作れる遺言は無効です。

2について

 日付がないので無効です。
 単に3月吉日という記載であれば、年月は判断できますが、日がありません。したがって、無効です。
 遺言書以外の記載、例えば故人の日記帳などから遺言の日が特定できるケースでも、遺言書本体に日付の記載がなければ無効です。

3について

 ペンネームによる遺言は、書いた本人の特定が可能であれば有効です。
 ペンネームも氏名に該当するわけです。

4について

 有効な遺言です。捺印も印にあたります。

5について

 死期
・補助がなる支えであれば遺言は有効
・補助をした者の意思が運筆に介在し、遺言内容を左右した形跡があれば無効。

【補足】自筆証書遺言の訂正
 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれを署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。(民法968条2項)
 注意すべきは、訂正が上記の要件を満たさない場合、遺言が無効になることはなく、訂正が無効であるということです。
 つまり、遺言書は訂正のないものとして有効となります。

【補足】遺言と日付
 遺言制度の趣旨は、死者の最終意思の実現にあります。
 したがって、前の遺言と後の遺言があり、その内容が抵触する場合には、最終意思に近いほうである後の遺言が優先します。(民法1023条1項。ただし、内容が抵触しなければ双方が有効です)。
 そのため、遺言がいつ書かれたのかということが重大な意味を持つのであり、したがって日付のない自筆証書遺言は無効であるのです。

公正証書遺言

 法律実務家がお勧めする遺言の方式が、この公正証書遺言です。
 公正証書遺言は、遺言者の手元のほかに、公証人役場にも保管されるために、紛失のおそれがないし、公証人という法律家が作成に関与するので、その内容を法律的にチェックすることも可能だからです。

 公正証書遺言の要件は次のとおりです。(民法969条)
1.証人2人以上の立会い
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する
3.公証人が、その内容を筆記し、これを遺言者と証人に読み聞かせ、または閲覧させる
4.遺言者と証人が内容を確認して各自が署名押印する。(遺言者が署名できない場合、公証人がその旨を付記すれば署名に代えることができる)
5.公証人が、その証書を以上の方式に従って作った旨を付記して、署名、押印をする

 なお、上記の2と3の順序は必ずしも厳格に守る必要はありません。
 遺言書作成の実務において、遺言者がしゃべる内容を、その場で公証人が筆記するという段取りは現実離れしているからです。
 実際には、遺言者の要望を聞いて公証人が遺言内容を作成し、それをファックスなりで送付して遺言者に事前の確認をしてもらった上で(つまり筆記が先)、遺言書作成の当日を迎えることになります。

 なお、公正証書遺言は、ワープロ(ようするにPC)で作成されることがほとんどです。
 公証人役場の事務員が遺言書を作成し、そこに公証人が署名・押印するという形です。
 公正証書遺言の場合には、証人2人以上が立ち会い、しかも、公証人の関与とありますから、ワープロで作成された遺言であっても、その真贋が後日争われる可能性は極めて低いからです。

【補足】公正証書遺言の優越性
 公正証書遺言は、遺言書の遺思実現に向けた次のような長所があります。
・遺言書の原本が公証人役場に保管されます。したがって、遺言書が誤って公正証書遺言を破棄・紛失した場合や、死後、相続人が隠匿した場合でも、公証人が遺言者の死を知れば、遺言内容を実現できます。
・遺言の形式に法律のプロの手が加わっていますので、遺言書の考慮外の無効事由の発生の可能性が極めて低いです。
・後日、裁判所の検認を受ける必要もありません。

【検認】
 検認とは、一種の証拠保全手続です。
 つまり、遺言書の状態を保全するのです。
 自筆証書遺言、秘密証書遺言の場合に、遺言書の保管者が、相続開始を知った後、遅滞なく、家庭裁判所に検認の請求をしなければなりません。(1004条1項)
 なお、検認は、遺言の効力発生とは関係ありません。
 検認を受けても、後日筆跡が遺言者のものと違うから遺言書が無効と判定されることもあり得るし、逆に、検認を受けていないからといって、遺言が無効になるわけでもありません。単にその後の手続に支障があるだけです。
 なお、公正証書遺言については、その原本が公証人役場に保管されているので、検認の必要がないのは当然の話です。

秘密証書遺言

 公正証書遺言は遺言者にとって安心な制度ですが、1つ欠点があります。
 それは、遺言内容を最低でも3人の人に知られてしまうという点です。
 3人とは、証人2人と公証人です。
 そこで、この欠点を補うために、秘密証書遺言という方式が存在します。
 その方式は以下のとおりです。(民法970条)
1.遺言者が、証書に署名・押印をする。
2.遺言者が、その証書を封筒に入れ、証書に用いた印で封印をする。
→ここまでは遺言者が1人でできます。遺言書は封筒の中です。
3.遺言者が、公証人と証人2人以上の前に封筒を差し出す。そして、自己の遺言であることと氏名住所を申述する。
4.公証人が、その証書を提出した日付および遺言者の申述(自己の遺言であることと氏名住所)を封筒に記載をする。その後、公証人、遺言者、証人が封筒に署名押印をする。

 このように、公証人や証人は、封筒の外側に署名押印するだけであり、中身の遺言書本体を見ることはありません。
 これが、秘密証書遺言の仕組みです。

事例
次の秘密証書遺言は有効であるか?

1・遺言書(封筒の中身)をワープロ(ワード)で打ったもの
2・遺言書(封筒の中身)に日付のないもの
3・遺言書(封筒の中身)の印影と、封筒にした封印の印影が異なるもの

1について
 有効です。秘密証書遺言は、自筆は要件ではありません。公証人と証人の関与があるからです。

2について
 有効です。日付は、公証人が封筒の外側に記載しますから、封筒の中身には日付がなくてもよいのです。

3について
 無効です。秘密証書遺言としては致命的なミスです。

【補足】無効の転換
 上記3のケース。すなわち、遺言書の印影と封筒にした封印の印影が異なる場合でも、この遺言書が自筆証書遺言として有効になる場合があります。
 つまり、封筒の中身の遺言書が、全文、日付、氏名が自筆であり、かつ押印があれば、秘密証書遺言としては無効でも、自筆証書遺言として有効であるということになります。

未成年者の遺言・死因贈与

事例
15歳の未成年者Aとその法定代理人Bがいる。


[問1]
Aが遺言をする場合に、Bの同意を要するか?

 結論。15歳に達した者は、遺言をすることができます。(民法961条)
 この場合、法定代理人の同意は不要です。
 遺言は、遺言者の意思の実現が制度の目的ですから、第三者の同意にはなじみません。
 なお、15歳の達しない者の遺言は、当然に無効です。
 遺言能力の問題において、15歳未満の者は法定意思無能力者です。

[問2]
Aが死因贈与をするときに、Bの同意を要するか?

 結論。未成年者が死因贈与をする場合、法定代理人の同意を要します。
 死因贈与は、自分が死亡したら何らかの財産を無償で譲渡するという内容の贈与者と受贈者間の契約(不確定期限付贈与契約)です。
 贈与契約に不確定期限がついたというだけの話ですから、契約に関する一般論として、未成年者がこれを行うには法定代理人の同意を要します。

【補足】成年被後見人
 遺言をするには意思能力が必要です。したがって、事理弁識能力を欠く常況にある成年被後見人は、一般的には遺言ができません。
 しかし、本心に復した場合には、単独で遺言をすることができます。
 ただし、医師2人以上の立会いを要することとなります。(民法973条1項)
 医師の立会いは、遺言時において、遺言者が本心を回復していることを見届けるために要求されています。

共同遺言
NG男性
事例
ABは夫婦である。AおよびBは共同で遺言書を作成し、両名が署名捺印をした。


 さて、この事例で、この遺言は有効か。
 結論。無効です。
 遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができません。(民法975条)
 ただし、単に2人の遺言書が合綴されているケース(たとえばホチキスで止められている)で、双方の遺言書を容易に切り離すことができれば共同遺言にあたらず、遺言は有効であるという判例があります。

【補足】共同遺言が無効である理由
 遺言は、いつでも撤回ができます(民法1022条)。
 遺言は死者の最終意思の実現が制度の目的だから、遺言者は遺言の撤回権を放棄することはできませんし、相続人と遺言を撤回しない旨の契約をしても、そんなものは無効です。(民法1026条)
 さて、共同遺言の場合、両者の意思が混じり合うために、後日撤回が行われた場合に、誰のどの部分の撤回なのかよくわからなくなり不都合です。そこで、一律に共同遺言は禁止されています。

遺言の撤回

(遺言の撤回)
民法1022条 
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。


(前の遺言と後の遺言との抵触等)
民法1023条 
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。


 遺言の撤回は、遺言によって行います。
 遺言は後のものが優先しますから、たとえば、公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することも可能です。
 前の遺言で、ある不動産をAに遺贈、後の遺言でBに書いてあれば、後の遺言により受遺者はBで決定です。
 しかし、双方が、抵触しないケース。たとえば、前の遺言で、ある不動産をAに遺贈、後の遺言でBにその不動産の地上権を遺贈とあれば、双方の遺言をあわせて、その土地の所有者はA、地上権はBということになります。

事例
Aは自らの自筆証書遺言を破棄した。この場合、遺言の効力はどうなるか。


[問1]
故意に破棄したケース

 遺言は撤回されたものとみなされます(民法1024条前段)。遺言者の最終意思が破棄だからです。ただし、撤回とみなされるのは破棄をした部分のみです。

[問2]
過失によるケース

 遺言は撤回されません。過失の場合、遺言者の意思が介在していないからです。
 ただし、たとえば、火中に投じた場合など、跡形もなく消え去れば、遺言内容の立証ができなくなる結果、撤回と同様の結果となるといわれています。

【補足】公正証書遺言の場合
 公正証書遺言は、遺言書の原本が公証人役場にも保存されています。
 だから、遺言者が手元の公正証書遺言を破棄するだけでは遺言を撤回したことにはなりません。

事例
Aは第一の遺言をし、第二の遺言でこれを撤回しました。


[問1]
第三の遺言で第二の遺言を撤回したときは、第一の遺言の効力が復活するか。

 結論。復活しません。
 原則として、遺言の撤回を撤回することはできません。(民法1025条本文)
 この場合、再度、遺言をし直すべきなのです。
 なお、例外として、第三の遺言から、遺言者の、第一の遺言の復活を希望する明らかな意思が認められるときに、第一の遺言の効力の復活を認めた判例もあります。

[問2]
第二の遺言が詐欺によるものであった場合、これをAが取り消したときはどうか?

 結論。第一の遺言の効力は復活します。
 遺言の撤回を、詐欺または強迫を理由として取り消すことはできます。(民法1025条ただし書)

【補足】証人の欠落事由
 次の者は、遺言の証人、立会人となることができません。(民法974条)
1.未成年者
2.推定相続人および受遺者ならびにこれらの配偶者および直系血族
3.公証人の配偶者、4親等内の親族、書紀および使用人
 公証人役場には必ず事務員がいます。しかし、彼らは上記の3に該当し、遺言の証人となることができません。したがって、上記の欠落事由に該当しない証人2人を手配しなければ公証人役場で遺言をすることはできません。

特別方式の遺言
四本指
 特別方式の遺言には次のケースがあります。

1・死亡危急者遺言(民法976条。情況が特殊なケース)

 遺言者が死亡に瀕している場合の遺言です。
 その要件は以下のとおりです。
1、証人3人以上の立会い。
2、遺言者が遺言内容を口授(手話も可)。
3、証人が口受を筆記し読み聞かせる。
4、証人が署名押印する。
 上記のように、遺言者の筆記と押印が要求されません。
 死亡に瀕しているから不可能と考えられるのです。
 また、日付の記載は要件となっておらず、遺言書に書かれた作成日が誤っていても死亡危急時遺言は有効です。

2・伝染病隔離者の遺言(民法977条。場所が特殊なケース)
 
 伝染病のため行政処分により隔離されている者の遺言です。
 この場合は、筆者は誰でもかまいませんが、死亡に瀕してはいないので、本人と筆記者・立会人・証人が署名・捺印します。
 その他の要件は、警察官1人と証人1人以上の立会いです。

3・在船者の遺言(民法978条。場所が特殊なケース)
 
 船舶中にある者の遺言です。
 この場合も、筆者は誰でもかまいませんが、死亡に瀕してはいないので、本人と筆記者・立会人・証人が署名・捺印します。

4・船舶遭難者の遺言(民法979条。情況と場所の双方が特殊なケース)

 船舶が遭難し、船中で死亡に瀕した者の遺言です。
 遺言者が死亡に瀕している場合の遺言です。
 その要件は以下のとおりです。
1、証人2人以上の立会い
2、遺言者が遺言内容を口授する(手話も可)
3、証人が口受を筆記し署名押印をする
 上記のように、遺言者の押印が要求されません。
 死亡に瀕しているから不可能と考えられるのです。
 さらに、証人が、読み聞かせることが要求されていません。
 この場合、船舶遭難中ですから、証人のほうも死亡に瀕していると考えられます。読み聞かせる時間がないのでしょう。

【補足】確認
 上記1のケース。すなわち、死亡危篤者の遺言者には、本人の署名・捺印がありません。
 そのため、遺言の日から20日以内に家庭裁判所の確認を受けなければ、遺言の効力が発生しません。(民法976条4項)
 また、上記4のケース。すなわち、船舶遭難者の遺言は遅滞なく家庭裁判所の確認を受けなければ、遺言の効力が発生しません。(民法979条3項)
 家庭裁判所は、遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これらの遺言を確認することができない。(民法976条5項、民法979条4項)
 これらは本人の署名捺印のない遺言であるだけに、手続が厳格化するのです。
 検認が、単なる証拠保全手続であり、遺言の効力発生とは無関係であったことと比較すると良いでしょう。
 なお、上記の2と3の遺言のついては確認は不要です。

 特別方式による遺言は(上記1〜4のすべて)は、遺言者が普通方式の遺言をすることができるようになってから6ヶ月生存するときは、その効力を生じません。(民法983条)
 普通方式の遺言ができるようになったのであれば、6ヶ月のうちにしろということです。

 ちなみに、確認検認別の制度です。公正証書以外の遺言は検認をすべきだから、死亡危篤者遺言と船舶遭難者遺言は確認と検認の双方を受けるべきことになります。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【遺贈】特定遺贈と包括遺贈/遺贈の効力/遺言執行者/遺贈と死因贈与の違い

▼この記事でわかること
特定遺贈と包括遺贈
遺贈の効力
遺言執行者
遺贈と死因贈与の違い
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 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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遺贈

 遺贈とは、遺言により遺言者の財産を無償譲渡することをいいます。
 遺贈にはつぎの2種類があります。

・特定遺贈
 特定の財産を遺贈するケース。
 例えば、「甲不動産を遺贈する」という場合。

・包括遺贈
 相続分を割合として遺贈するケース。
 例えば、「相続分の3分の1を遺贈する」というケース。

 包括遺贈の受遺者(遺贈を受ける者)は、相続人そのものではありませんが、相続人と同一の権利義務を有します。(民法990条)
 つまり、考え方として、相続人が1人増えたという形で考えることになります。
 例えば、包括受遺者は、相続人とともに遺産分割協議に参加をすることができるのです。
 この点が、特定の財産についてのみ譲渡を受ける特定遺贈の受遺者との違いです。
 以下、両者の代表的な相違点を挙げます。

1、遺贈の放棄
 特定遺贈の場合には、受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄ができます。(民法986条1項)
 これに対して、包括遺贈の放棄は、相続の放棄と同様に、家庭裁判所への申述により行います。(民法990条、民法938条)

2、債務の承継
 特定遺贈は、通常はプラスの財産を無償で受けます。
 これに対して、包括受遺者は、相続人と同様に債務をも承継します。

【補足】負担付遺贈
 特定遺贈の場合にも、負担付遺贈というケースはあり得ます。
 では、受遺者が負担した義務を履行しなければどうなるでしょうか?
 この場合、相続人は相当の期間を定めてその履行を催告することができ、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができます。(民法1027条)

遺贈の効力

事例
AはBに甲不動産を遺贈するという遺言を書いた。Bには(Bの相続人となるBの)子Cがいる。


[問1]
BがAの死亡以前に死亡した場合、甲不動産は誰が取得するか?

 結論。遺贈はその効力が発生しません。(民法994条1項)
 したがって、Bは遺贈を受けることができず、Bの子Cも甲不動産を取得しません。
 この場合、甲不動産は相続財産となりAの相続人に帰属します。

[問2]
BがAの死亡より後に死亡した場合、甲不動産は誰が取得をするか?

 結論。甲不動産は、遺贈によりいったんBが取得し、その後のBの死亡によりCがこれを相続します。

【補足】遺贈の効力発生
 遺言は、遺言者死亡の時からその効力を生じます。(民法985条1項)
 したがって、受遺者が遺言者死亡のときに存在しなければ、遺贈は効力を生じないという結論となるわけです。
 なお、停止条件つきの遺言は、遺言者の死後に停止条件を成就すれば、その条件成就のときに効力を生じることになります。(民法985条2項)
 この場合は、条件の成就前に受遺者が死亡すれば、遺贈は効力を生じません。

遺言執行者

 遺言者は、遺言で1人または数人の遺言執行者を指定し、またはその指定を第三者に委託することができます。(民法1006条1項)
 遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の権利義務を有し、相続人が遺贈の目的物についてした処分は無効となります。
 遺言執行者が遺贈を執行すれば、相続人の相続財産は減少するという関係にあります。すなわち、遺言執行者と相続人の利害は対立することがあるのですが、民法上、死者の代理人という制度がないため、遺言執行者は相続人の代理人であるとみなされています。(民法1015条)

【遺言執行者の代理権限の中味】
 遺言内容の実現がその内容です。
 例えば、遺言内容に抵触する不動産の処分行為が行われた場合、これに関する登記手続は、相続人全員を登記義務者とするのであり、遺言執行者がすることはできません。

(遺言の執行の妨害行為の禁止)
民法1013条 
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。


遺言執行者の欠落事由

 次の者は、遺言執行者になることはできません。(民法1009条)
・未成年者
・破産者
 実務上、受遺者が遺言執行者となることがあります。民法はこれを禁止していないので生じることはありません。

遺贈と死因贈与の違い

 遺贈と死因贈与は類似の仕組みですが、遺贈が単独行為であるのに比べて、死因贈与は契約である点が相違します。
 死因贈与は、贈与契約に贈与者の死亡という不確定期限が付されたものです。
 したがって、これに対する考え方は贈与解約と同様であり、例えば、未成年者が法定代理人の同意を得ないでした贈与は、取り消すことができる贈与となります。
 なお、死因贈与には、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定が準用されます。

(死因贈与)
民法554条 
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。



 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【遺留分侵害額の請求(旧:遺留分減殺請求)】具体的な計算方法と額/不動産の場合/価額算定の基準時

▼この記事でわかること
遺留分とは
遺留分の額と計算方法を具体的なケースとともに解説
不動産のケース
遺留分侵害額請求の価額算定の基準時
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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遺留分

 遺留分とは、次のような一定の相続人に必ず留保される遺産の一定割合のことをいいます。
・配偶者
・直系卑属
・直系尊属
 具体的な遺留分は、大まかに言えば、各相続人の法定相続人の2分の1です。しかし、直系尊属のみが相続人である場合には、3分の1となります。(民法1042条)

(遺留分の帰属及びその割合)
民法1042条 
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一


 以上の遺留分権利者は、遺留分を侵害する贈与又は遺贈があった場合、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます。
 これを、遺留分侵害額の請求といいます。(民法改正以前の遺留分減殺請求にあたるものです)

遺留分侵害額の請求はいつから可能か

 被相続人の死亡時からです。
 死亡前に、遺留分を侵害する可能性のある贈与がされたとしても、単なる将来の見込みの段階で遺留分を主張することはできません。
 権利自体が、まだ発生していないのです。→この段階での所有権移転請求権仮登記は否定されます。

遺留分の額
電卓
事例1
Aの死亡時に、Aの有する財産の価額は1500万円、負債が500万円であった(贈与した財産はない)。Aの相続人は、妻Bと嫡出子CDである。


[問1]
各人の遺留分はいくらか?

 遺留分算定の基礎となる価額は、被相続人が相続開始時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を排除した額です。(民法1043条)
 この事例では、
1500万ー500万=1000万円が遺留分算定の基礎となる価額です。
 各人の遺留分は以下のとおりとなります。

1000万×2/4=500万(法定相続分)
500万×1/2=250万円(遺留分)

1000万×1/4=250万(法定相続分)
250万×1/2=125万円(遺留分)

1000万×1/4=250万(法定相続分)
250万×1/2=125万円(遺留分)

[問2]
Cが遺留分を放棄した場合、Dの遺留分は増えるか?

 結論。遺留分は、各相続人に固有のものであり、他の相続人が遺留分を放棄してもそれが増えることはありません。
 Dの遺留分は125万円のままです。
 なお、相続開始前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が要ります。(民法1049条)
 相続開始後は、自由に遺留分の放棄をすることができます。

事例2
Aの死亡時に、Aの有する財産の価額は800万円であった(負債はない)。AはBに500万円を遺贈し、死の3ヶ月前にCに500万円を贈与、死の6ヶ月前にDに500万円を贈与している。Aの相続人は子のYのみである。


 さて、この事例で、Yは誰に対して、いくらの遺留分侵害額の請求をすることができるでしょうか?
 結論。贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、遺留分算定の基礎額の計算に算入します。
 事例2では、Cへの贈与は3ヶ月前、Dへの贈与は6ヶ月前であり、いずれも相続開始前の1年間にされているので基礎額に算入されます。(ただし、贈与の当事者双方が遺留分の侵害について悪意であれば1年前の日より前にした贈与も算入します)

 では、遺留分を計算して参りましょう。
 遺留分算定の基礎額
800万+500万(Cへ贈与)+500万(Dへ贈与)ー0(負債)
1800万円
Yの法定相続分
1800万円(相続人は1人だから法定相続人は遺産の全部)
Yの遺留分
1800万×1/2=900万円(直系尊属のみが相続人のケースに該当しない)

 遺留分侵害額の請求については、その順序か法定されています。
 次の順です。
1・遺贈(死因贈与があればそれと同順位)
2・後の贈与(死に近いほう)
3・前の贈与(死に遠いほう)

 Yの遺留分は900万円ですが、亡Aの死亡時の財産が金800万円あり、そこからBに遺贈された金500万円を差し引いた金300万円はBの手元に残ります。
 そこで、900万円からこの300万円を差し引いて金600万円についてYは遺留分侵害額の請求を行使することができるという結論になります。
 具体的な侵害請求額は以下のとおりです。
・B(受遺者)に対して500万円
・C(死に近いほうの受遺者)に対して100万円

【補足】Cが無資力の場合
 事例2で、Yが遺留分侵害額の請求をした時にCが無資力であったらどうでしょうか?
 Yは、さらにD(死に遠いほうの受遺者)に対して、遺留分侵害額の請求をすることができるでしょうか?
 民法1047条4項はこれを否定します。侵害請求を受けるべき受遺者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担となります。

【補足】相続人の1人が特別受益者である場合
 相続人の1人に対して、婚姻・養子縁組のため、もしくは生計の基本として生前贈与がなされた場合には、上記の1年の制限はなく、すべての贈与を遺留分算定の基礎額に加えることになります。
 相続人間の実質的公平を図る趣旨です。

事例3
Aの死亡時に、Aの有する財産の価額は1000万円であった(負債はない)。AはBに600万円を遺贈し、Cに400万円を遺贈している。Aの相続人は配偶者のYのみである。


 さて、この事例3で、Yは誰に対していくらの遺留分侵害額の請求ができるでしょうか?

 この事例3においては、以下の計算式となります。
遺留分算定の基礎額
1000万ー0(負債)=1000万円(このケースは贈与がない)
Bの法定相続分
1000万円(相続人は1人だから法定相続分は遺産の全部)
Bの遺留分
1000万×1/2=500万円(直系尊属のみが相続人のケースに該当しない)

 受遺者であるBとCは同順位です。この場合には、遺贈の目的の価額の割合に応じて減殺をします。
 したがって、Yの遺留分侵害請求は次の計算式&額となります。
Bに対しては
500万×600万/600万+400万=300万円
Cに対しては
500万×400万/600万+400万=200万円

【補足】
遺贈の価額を遺留分の基礎となる価額となる価額に加えない理由

 遺産の価額は、被相続人が相続開始の時に有した財産の価額に含まれています。
 だから、これを加えると計算が重複することになり相当ではありません。
 生前の贈与は、被相続人が相続開始の時に有した財産の価額に含まれないから、これを加えて基礎額を算定するのです。

不動産のケース
一軒家
事例4
被相続人YのAに対する贈与(不動産の所有権)が、相続人Zの遺留分の全部を侵害している。


[問1]
Zが遺留分侵害額の請求をすることができるのはいつまでか?

 結論。Zが相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間です。また、相続開始の時から10年が経過してしまうと遺留分減殺請求権は消滅します。(民法1048条)

[問2]
ZがAに対して遺留分侵害額請求権を行使した場合、Aは不動産の価額相当の金銭を支払うべきなのか?

 結論。Aは価額による賠償をすることになります。

[問3]
Aが目的物を第三者Bに譲渡した場合、ZはBに対しても遺留分侵害額の請求の行使が可能か?

 ZはBに対しても遺留分侵害額の請求をすることができます。

(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
民法1048条 
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。


価額算定時期

 遺留分侵害額請求の価額算定の基準時は相続開始時or価額賠償時のどちらでしょうか?
 目的物の価額か、被相続人の死亡時と裁判における口頭弁論時に変動した場合に問題となります。
 判例は、この点について基準時は、価額賠償時であるとします。

事例5
Aはその死亡当時、乙不動産(100万円)、丙建物(500万円)以外に財産がない。
Aは平成25年2月1日、Bに対して自己の所有する甲土地(1000万円)を贈与した。
Aは同年4月1日に死亡した。遺贈によりCは乙不動産、Dは丙建物をそれぞれ取得した。
Aの相続人はAの子であるEのみである。


[問]
Aが、その死亡当時、1000万円の負債を負担していた場合、EはBに対して遺留分侵害額請求をすることができるか?

 それでは、この事例5の計算をしてみましょう。

遺留分算定の基礎額
600万(死亡時の財産 乙不動産+丙建物)+1000万(贈与分 甲土地)ー1000万(負債)=600万円
Eの法定相続分
600万円
Eの遺留分
300万円

 さて、以上の計算から、300万円しか遺留分のないEは、CおよびDから次の金額の遺留分を受けることにとどまるように思えます。
Cに対して300万×100万/600万=50万円
Dに対して300万×500万/600万=250万円

 しかし、判例は、この結論を採用しません。
 というのは、確かに、遺留分は金300万円です。
 しかし、判例は、遺留分侵害額は、これに負債の額を加えた1300万円であると考えます。
 つまり、遺留分にあたる金額は、遺留分権利者の生活の糧として法が定めた額ですから、この額が現実にEの手元に残ることが必要なのです。
 仮に、遺留分侵害額を300万円とすれば、相続人Eの手元には、300ー1000(負債)て、700万円の負債が残ってしまいます。
 ですから、金300万円の遺留分のEの手元に確保するためには、金1300万円について遺留分侵害額請求権の行使が可能でなければなりません。

 以上、事例5における、遺留分侵害額請求の額は以下のとおりになります。
Cに対して 100万円
Dに対して 500万円
Bに対して 700万円


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
根本総合行政書士です。
宜しくお願いします。

保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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