【相続欠落と相続廃除】欠落と廃除の違いとは?/欠落&廃除と代襲相続の関係について

▼この記事でわかること
相続欠落とは
相続廃除とは
相続欠落と相続廃除の違い
欠落&廃除と代襲相続の関係
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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 相続欠落と廃除はいずれも、相続権を剥奪する制度です。
 両者の違いは、相続欠落は国のルールとして一定の不正行為をした者に制裁を加えるものであり、廃除は被相続人の感情の問題として特定の相続人の相続権を奪うものであるという点にあります。

相続欠落

 以下の事由に該当すると、相続資格を失います。(民法891条)

・故意に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者。
→故意による殺害が要件です。殺人、殺人未遂、殺人予備は含みますが、傷害致死は含まれません。
→刑に処せられることにより欠落事由に該当します。

・被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者
→その者に是非の弁別がなければ欠落事由に該当しません。
→殺害者が自己の配偶者もしくは直系血族であれば、欠落事由に該当しません。配偶者や直系血族の告発は人情においてしのびないであろうからです。

・詐欺、強迫によって被相続人の遺言、その撤回、取消し、変更を妨げた者。

・詐欺、強迫によって被相続人の遺言、その撤回、取消し、変更をさせた者。

・遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した者

 相続欠落の事由に該当すると、当然に相続資格喪失の効果が発生します。
 相続欠落は、国のルールとしての制裁であるので、被相続人の意思とは、制度上無関係です。

【参考】相続欠落に関する判例

・被相続人の、相続に関する遺言書が方式を欠き無効であるとき(遺言書に押印がなかった)、遺言者の死後に相続人が押印をしたケースは遺言書の偽造または変造にあたるが、遺言者の意思を実現する目的でなされたときは、その者は相続欠落に該当しない。

・相続に関する遺言書を破棄した場合でも、相続人の破棄行為が相続に不当な利益を目的としていなければ、その者は相続欠落に該当しない。

 以上のように、判例は相続欠落に該当するかどうかについて、その相続人の意図を問題としています。その意図が不正でなければ、形式的には偽造、変造、破棄に該当しても相続欠落者とはなりません。

相続廃除

 廃除とは、被相続人の感情を重視し、家庭裁判所の審判、調停により推定相続人の相続権を奪う制度です。
 推定相続人とは、ある人が現時点で死亡したと仮定した場合に相続人となるはずの人のことです。

 廃除の要件は以下の2つです。(民法892条)

・推定相続人に遺留分があること。
→遺留分のない相続人(兄弟姉妹および場合によっては甥姪)の廃除はできません。なぜなら、これらの者に相続財産を承継させたくないのであれば、遺言を書けば済むことであるので、わざわざ家庭裁判所に廃除の請求をする必要はありません。
 つまり、廃除は、推定相続人の遺留分を奪う制度です。
 遺留分とは、兄弟姉妹や甥姪以外の法定相続人に保障される、最低限の遺産取得割合です。

・推定相続人が、被相続人に対して虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行があった場合。

【補足】兄弟姉妹に遺留分がないわけ
 推定相続人が、被相続人の遺産を承継することをあてにしていた場合、その目論見が外れると、推定相続人の生活が困窮し国家が生活保護をしなければならない事態が生じ得ます。この事態を避けるために、推定相続人に一定割合の遺産を与えるための仕組みが遺留分の制度であることはすでに述べました。
 ところで、民法は、子が親の遺産をあてにする、また、親が子の遺産をあてにするというところまでは人情としてこれを許しています。
 しかし、兄弟の遺産をあてにするようでは、人間として失格であると考えています。よって、兄弟姉妹には遺留分がないのです。

相続欠落と廃除の違い
ここがポイント女性
・廃除をすることができるのは遺留分のある推定相続人だけ
→相続欠落はすべての相続人が対象

・廃除は遺言ですることができる。
→遺言による廃除の効果は、死亡にさかのぼる。だから、廃除された者は相続をすることはできません。

・被相続人は、いつでも、廃除の取消しを裁判所に請求できる。(民法894条1項 遺言による取消しも可能)
→相続欠落は国のルールだから、被相続人が「許してやる」という制度は民法上存在しません。

・廃除された者に遺贈をすることは可能。
 単に被相続人の感情の問題だからです。廃除はするが、多少の資産は残してやろうと思うのは自由です。
→相続欠落者は、被相続人から遺贈を受けることができません(民法965条)。国による制裁だからです。

欠落&廃除と代襲相続の関係

 代襲相続とは、子に代わって孫が親を相続する仕組みです(孫から見れば祖父を相続)。例えば、Aが死亡した場合にAの子のBも死亡していたとき、Bの子CがBに代わってAを相続(代襲相続)することです。
 では、相続欠落&廃除のケースでの代襲相続はどうなるのでしょうか?

事例
Aの子がB、Bの子がCである(CはAの直系卑属)。この状況で、Aが死亡し相続を開始した。


問1.BがAの相続につき欠落事由に該当する場合、Cは代襲相続するでしょうか?
 結論。Cは代襲相続します(民法887条2項)。つまり、CはAを相続します。

問2.BがAから廃除されている場合、Cは代襲相続するでしょうか?
 結論。Cは代襲相続します。(民法887条2項)

問3.Bが相続を放棄した場合、Cは代襲相続しますか?
 結論。Cは代襲相続をしません。相続の放棄の効力は絶対的です。BはもともとAの相続人ではなかったものとみなされます。
 相続人でない者の子が代襲相続をすることは考えられません。


【相続の放棄】
 プラスの相続財産を放棄することもできますが、一般には、相続放棄は被相続人が大借金を残したケースに利用される制度です。 
 相続の放棄は、その旨を家庭裁判所に申述することにより行う。(民法938条)
 申述とは申し述べることです。これにより、相続人は一切の負債を免れることができます。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【相続の放棄】相続放棄の連鎖?/誤った使用例/金貸しとの戦い/生前の放棄/数次相続の場合の相続放棄

▼この記事でわかること
相続の放棄の基本
相続放棄の連鎖
相続の放棄の誤った使用法
金貸しとの戦い
生前の放棄
数次相続の場合の相続放棄
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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相続の放棄

 相続は、包括承継の代表選手であり、原則として、被相続人の財産上の権利義務の一切が、被相続人の死亡の瞬間に相続人へと承継されます。
 しかし、財産上の権利義務の一切の承継ですから、当然のことながら被相続人の債務も承継されます。
 
 さて、モデルケースとして、夫婦と子供1人の家庭を考えてみましょう。
 夫が大借金を残して死亡したらどうなるでしょうか?
 実は、この事態は緊急事態です。
 というのは、このケースでは、すでに述べた家庭裁判所への申述による相続の放棄が可能です。
 しかし、これには厳格な期間制限があります。
 それは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月です。(民法915条1項)
 上記のモデルケースでは、残された母子が相続の開始を知ったのは、夫死亡の時というのが一般的でしょう。
 とすれば、そこから3ヶ月です。
 3ヶ月以内に、家庭裁判所に駆け込まなければ、夫の債務のすべては法律上当然に母子の債務となります。

相続放棄の連鎖

 夫が死亡し、妻と子が相続放棄した後はどうなるでしょうか?
 子がもともと相続人ではなかったことになるので、死亡した夫に直系尊属がいれば、その者が相続人となります。
 だから直系尊属は大借金を免れるために相続放棄をしなければなりません。
 その後どうなるのでしょうか?
 直系尊属がもともと相続人でなかったことになるから、死亡した夫に兄弟姉妹がいれば、その者が相続人となります。
 なので兄弟姉妹は、大借金を免れるために相続放棄をしなければなりません。

相続の放棄の誤った使用法

 夫婦と子供1人の家庭があるとして、夫の両親は死亡しているが夫の兄弟が1人存命というケース。
 このケースで夫が死亡し、死亡した夫にプラスの相続財産があったとします。
 このような場合に、残された妻が遺産を独占する目的で、子に相続の放棄をすすめることがあります。そして、子がこれに同意し、家庭裁判所で相続放棄の申述をすると悲劇が起こります。
 相続放棄の強力な効果により、子がもともと相続人ではなかったとみなされる結果、次順位の夫の兄弟が相続人となり、4分の1の相続分を取得することになるのです。
 つまり、妻の遺産独占の目論見は、もろくも崩れ去ることになります。
 こういう場合は、家庭裁判所などには行かず、母子間で母が全財産を承継する旨の遺産分割をすればよかったのです。

金貸しとの戦い

 従来、借金まみれの人物が死亡した場合、金貸しはすぐに相続人に電話をかけました。そして借金の返済を迫りました。しかし、逆にそのことにより相続人が死者の借金に気づいた結果、相続の放棄をされてしまうという事例が多発しました。
 そこで、金貸しは知恵をつけます。死亡後3ヶ月の間は取立てをせず、死亡から3ヶ月経過後に、はじめて返済を迫る電話をかけるのです。
 さて、この事案において残された相続人の運命はどうなるのでしょうか?
 この点について、判例は、民法915条がいう自己のために相続の開始があったことを知った時とは、単に被相続人の死亡とそのことにより自己が相続人となったことを知った時であるとは限らないと判示しました。
 つまり、相続人が相続財産は存在しないと信じていたようなケースでは、相続財産の存在を認識した時(つまり、借金があるとわかった時)、または通常認識できる時から熟慮期間の3ヶ月を起算すべきであるということになります、
 熟慮期間とは、民法915条が規定する相続の承認、放棄を決定すべき期間を一般にいいます。

【相続の効果】
 相続の放棄の効果は絶対的であるという判例があります。
 元々、先祖の負債が代々引き継がれることは非人道的であるという考え方からできた制度であるから、このような強力な効果が認められます。
 その具体的な意味は、相続放棄をした者は、そもそも相続人ではない(初めから相続人ではなかったことになる)ということです。

生前の放棄

事例1
Aの子はBである。


[問1]
BはAの生前に相続を放棄することができるか?

 結論。相続の開始前に相続の放棄をすることはできません。相続の放棄は被相続人の死亡後に限られます。
 この点は、推定相続人が被相続人から不当な圧迫を受けることを防ぐためと説明されています。

[問2]
BはAの生前に遺留分を放棄することができるか?

 相続の開始前に遺留分を放棄することは可能です。しかし、そのためには家庭裁判所の許可が必要です。放棄をしようという推定相続人の真意を確認するためです。(民法1043条1項)

事例2
Aの子がBである。BはAの死後、相続の放棄をした。


[問1]
熟慮期間内であれば、Bは相続の放棄を撤回することができるか?

 結論。相続放棄の撤回は、熟慮期間内においても認められません。(民法919条1項)

[問2]
Bの相続放棄の意思表示が、詐欺・強迫によるものであった場合、Bは相続の放棄を取り消すことができるか?

 結論。民法総則編の規定による取消しは認められています(民法919条1項)。つまり、詐欺による取消しの主張等は可能です。
 ただし、取消権の行使は追認をすることができる時(例えば詐欺強迫を脱した時)から6ヶ月または放棄の時から10年以内に家庭裁判所への申述により行わなければなりません。

数次相続の場合の相続放棄

 Aが死亡しBがこれを相続したが、Bがその熟慮期間中に何らの意思表示をせずに死亡しCが相続をした場合にどういう状況となるでしょうか?
 この場合、CはAB間とBC間の相続についての判断を迫られます。
 そして、その熟慮期間は、AB間BC間双方について、Cが自己のために相続の開始があったことを知ってから3ヶ月となります。(民法916条)
 Bの熟慮期間の残された時間でAB間の相続についての判断を迫られるのはCにとって酷であるからです。
 なお、この場合のCの判断について、以下に簡単に記します。
・CがBC間の相続を放棄すると、CはBの相続人としての地位を失うので、AB間の相続の承認・放棄のいずれもすることができなくなります。
・CがBC間の相続を承認したときは、CはBの相続人として、AB間の相続の承認・放棄のいずれもすることができます。
・CがBの相続人としてAB間の相続を放棄した後に、BC間の相続を放棄することができます。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
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【単純承認と限定承認】その手続と事例/相続財産の対象となる財産とは?一身専属権はどうなる?

▼この記事でわかること
限定承認について
単純承認について
相続財産の対象となる財産とは
一身専属権の相続問題
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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限定承認

 相続人は、熟慮期間中(相続があった事を知った時から3ヶ月間)に、相続放棄の他に限定承認をすることもできます。

(限定承認)
民法922条 
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる


 限定承認は、相続人にとって都合の良い制度です。
 被相続人の遺産が、プラスも大きいがマイナス(負債)もまた大きいというような場合を想定しています。
 この場合、プラスの財産のほうが大きいかもしれないので、相続の放棄をするのはもったいないのです。
 しかし、マイナスが多い可能性を考えれば、単純に承認をして権利義務の一切合財を承継することは危険です。
 そこで、限定承認という手を使うことができるのです。

限定承認の手続

 限定承認の手続は、まず、債権者等に対する公告をして被相続人の債権者等を探し出します。
 そして、被相続人の財産から債権者に対する弁済を行います。
 その残額があれば、遺贈を弁済します。
 さらに、その残りがあれば相続人がこれを承認するのです。
 仮に被相続人の遺産から債権者や受遺者への弁済をすることができなければ話はそれで終了であり、相続人が弁済をする必要はありません。
 つまり、被相続人の遺産で、債務を清算し、プラスが残れば相続人がこれを取得しますが、マイナスが残れば相続人は知らんぷりを決め込むことができるのです。
 このように、限定承認は相続人にとって都合のよい制度なのです。

【限定承認と家庭裁判所】
 限定承認手続は家庭裁判所の監督下に置かれます。相続人は限定承認をする旨を家庭裁判所で申述し、相続財産の目録を家庭裁判所に提出しなければなりません。つまり、勝手に相続財産を私物化することは許されなくなります。

限定承認の事例

事例1
Aが死亡し、BCDの3名が相続人である。


[問1]
BCの2名のみで限定承認をすることができるか?

 結論。BCのみの限定承認は不可能です。
 民法923条は、相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができると規定しています。
 さて、ではその理由は何でしょうか?
 限定承認は、死者の財産でのみ、死者の債務を弁済します。そのためには、死者の遺産と相続人の固有の財産を明確に分離する必要があるのです。
 民法922条が規定するように、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済するためには、その前提として、どこまでが死者の財産であり、どこからが相続人固有の財産であるかがはっきりと分かれていなければなりません。
 ですから、相続人全員が団結して、とにかく限定承認の手続進行中は、死者の遺産を相続人の固有財産と混ぜ合わせないことが大事なのです。
 仮に、相続人の1人であるDが死者の遺産を単純に承認すれば、その限度で死者の遺産がDの固有資産と混じり合ってしまいます。
 だから、限定承認は共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができるのです。

[問2]
Dが相続を放棄した場合、BCの2名のみが限定承認をすることができるか?

 結論。相続を放棄したDはもはや相続人ではありません。したがって、相続人の全員であるBC両名が団結すれば限定承認できます。

単純承認

 相続の放棄もせず、限定承認でもないケースが単純承認です。
 世の中で一番多いパターンであり、単純に死者の遺産を相続人がまるごと承継する結果となります。
 単純承認をする場合には、家庭裁判所に行く必要はありません。
 民法921条2号は、熟慮期間が経過すれば相続人は単純承認をしたものとみなすと規定しており、世の中の相続事件の大半はこの規定により単純承認とみなされる結果となっています。
 上記のケースのように、相続人が単純承認の意思表示をしていないのにもかかわらず、民法の規定により単純承認をしたものとみなされるケースを法定単純承認といいます。
 では、ここからは事例とともに単純承認について具体的に解説して参ります。

事例2
Aが死亡した。Bが相続人である。


[問1]
相続の開始を知ったBは、亡Aの債権(Aの遺産の一部)を取り立ててこれを消費した。この後にBは相続の放棄をすることができるか?

 結論。Bは相続の放棄ができません。
 相続人が相続財産の全部または一部を処分すると単純承認をしたものとみなされます。(民法921条1号本文)
 債権の取立ては処分行為に該当します。いったん遺産を私物化しましたから、その後の放棄は認められません。
 つまり、相続の放棄をするのであれば、遺産には手をつけずにこれを行うことがスジであるにもかかわらず手をつけたので、その後の相続の放棄は認めないのです。

[問2]
BがA名義の建物の不法占拠者に立退き要求をした。この後にBは相続の放棄をすることができるか?

 結論。Bは相続の放棄ができます。
 この場合、Bの行為は、相続財産に対する保存行為です。
 民法921条1号ただし書は、相続人が保存行為や民法602条が規定する短期の賃貸をした場合には、単純承認とはみなされないと規定しています。遺産の私物化に該当しないからです。

【補足】短期賃貸借
 民法602条の短期賃貸借は以下のケースです。
・樹木の栽植または伐採を目的とする山林の賃貸借 10年まで
・土地の賃貸借 5まで
・建物の賃貸借 3年まで
・動産の賃貸借 6ヶ月まで

事例3
Aが死亡した。大きな負債を残したAには子Bがいる。


[問1]
Bは相続放棄をしたが、その後に相続財産である金員を私的に消費した。BはAの負債を免れるか?

 結論。相続放棄または限定承認をした場合、相続財産を私的に流用することは許されません。これを行った場合には、単純承認をしたものとみなされます。
 したがって、Bは負債を免れることはできません。

 民法921条3号は「相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠蔽し、私的にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかった(最後は限定承認のケース)とき」には、相続人は単純承認したものとみなされるとしています。
 これは、相続放棄をし債務を免れた上で、プラスの財産だけを承継しようというような相続放棄者の不正な目論見への民法上の制裁です。

【補足】相続の目録
 限定承認をするという申述の際、家庭裁判所に提出する被相続人の財産目録のこと。ここに悪意で記載をしない財産があるということは財産を隠したこと(隠蔽行為)になる。

[問2]
亡Aの父Cが存命であり、Bの相続放棄の後にCが相続を承認していた場合に、Bが相続財産である金員を私的に消費したとき、Bは単純承認したとみなされるか?

 結論。相続人(B)が相続の放棄をしたことによって相続人となった者(C)が相続の承認をした後に、相続人(B)が相続財産の隠蔽・私の消費をした場合には、相続人(B)が単純承認とみなされることはありません。(民法921条3号ただし書)
 すでに、相続債権者がCに対して弁済の要求をしているだけの段階であるため、これらの者に迷惑がかかるおそれがあるからです。

 以上、単純承認についての解説でしたが、下記の民法の条文も確認してみてください。

(法定単純承認)
民法921条 
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。


相続財産の対象となる財産
家 金 女性 悩む
 民法896条本文は、相続人は、相続開始の時から、被相続人に属した一切の権利義務を承継すると規定します。
 そこで、まず第一に、ある財産が被相続人に属しているのかどうかという問題点が生じます。
 この点について、事例を挙げて解説して参ります。

事例
Aが死亡した。その相続人がBである。Aは受取人をBとする保険金に入っていた。


 さて、この事例で、Aの死後支払われる保険金は、Aの相続財産に含まれるでしょうか?それとも、元々Bの財産であるのでしょうか?
 結論。これは、受取人がBであるから、生命保険金は相続人Bの固有財産であるというのが判例の考え方です。
 生命保険金は、その旨の約定に基づき、保険会社から直接Bに支払われるのであり、Aの相続財産を構成しません。

事例
Aが死亡した。その相続人がBである。Aの勤務先から死亡退職金が支払われることになった。


 さて、この事例で、死亡退職金はAの相続財産に含まれるのでしょうか?それとも、元々Bの財産であるのでしょうか?
 結論。死亡退職金は、遺族の生活保障の意味合いが強いとされており、これも相続人の固有財産であると考えられています。
 したがって、勤務先の支払規定に従って遺族が直接支給を受けるのであり、例えば、配偶者(内縁の妻を含む)を第一順位として支払うというような内規があれば、その規定に従い、配偶者の固有財産となります。

議論の実益

 上記の論点をどう解釈するかにより、遺族の取り分は大きく異なることになります。
 相続人が複数いるとしましょう。例えば、生命保険金を相続財産と考えれば、死者が遺言を残していない場合、生命保険金は法定相続分に従い相続人全員に帰属することになります。しかし、特定の受取人の固有財産と考えれば、その受取人が(生命保険金の)全額を取得する結果となります。 

【補足】
 死亡により終了する法律関係として、民法に明文が存在するものに、以下のような例があります。
1.委任の終了 
 委任者・受任者いずれかの死亡により終了する。(民法653条1号)
2.代理の終了
 本人・代理人のいずれかの死亡により終了する。(民法111条)
3.使用貸借の終了
 使用借人の死亡により終了する。(民法599条)
4.組合員たる地位
 組合員は死亡により組合を脱退し、相続人がその地位を引き継ぐことはない。(民法679条1号)

一身専属権の相続問題

 民法896条は、相続人は、相続開始の時から被相続人に属した一切の権利義務を承継するとしつつ、ただし、被相続人の一身に専属したものはこの限りではないと規定します。
 では、ある権利義務がこの一身専属権にあたるのかどうかを考えて参ります。

事例
Aが死亡した。その相続人がBである。


[問1]
Aが生活保護を受ける権利はBに相続されるか?

 結論。相続されません。
 憲法の判例として有名な朝日訴訟において、原告は生活保護基準の低劣を訴えましたが、最高裁は原告死亡により生活保護の受給権は消滅すると判示しました。
 将来の給付分はもちろんのこと、原告生存中ですでに未払いとなっているものも相続の対象にはならないという趣旨です。
 これは、生活保護受給権は、一身専属権であり、「生活困窮→給付」が不可分の関係にあるという考え方としています。

[問2]
Aが交通事故で死亡した場合、その精神的苦痛を慰謝するための損害賠償請求権はBに相続されるか?

 結論。相続されます。
 判例は、慰謝料請求権が発生する場合の被害法益は一身専属であるとしますが(痛いとか苦しいという精神的苦痛は死者に専属しているという意味)、しかし、これにより生じた慰謝料請求権という金銭債権は相続の対象となる判示をしています。
 つまり、死者を慰謝するための損害賠償を、相続人が加害者に請求することができるという結論となります。
 なお、判例は、現実には死者が慰謝料の請求を表明しなかったときにも、慰謝料請求権は発生し、それが相続人に相続されるものとしています。

[問3]
Aはある農村で土地の占有を継続していた。Aが死亡した場合、その相続人である東京にいる息子は占有権を相続するか?

 結論。占有権は相続され、死亡と同時に相続人に承継されます。
 占有は事実状態なので、東京にいる息子が、実際には農村にはいないのに、占有権を承継するというのはちょっと変な感じもしますが、判例は相続を認めています。
 こう解釈することにより、被相続人の死亡によっても占有は自然中断することはなく、例えば、被相続人が他人の土地を自主占有していた場合に、東京の息子がその土地の時効取得をすることが可能となります。

[問4]
Aが限度額と期間の定めのない継続的信用保証契約をしている場合、Aの死後に生じた主債務についての保証債務はBに相続されるか?

 結論。相続されません。
 限度額および期間の定めのない保証契約とは、すなわち、主債務者がケタ違いに高額な債務を負ってもすへて保証するし、しかも、いつまでが保証期間であるかも定めていないから永遠に保証しなければならないという、保証人にとってベラ棒に不利な契約です。
 これは、主債務者と保証人の特殊な人的関係を基礎とした契約であると考えられ、したがって相続人が上記の重すぎる保証契約を承継することはありません。

【補足】ゴルフ会員権
 会員が死亡した場合、会員資格を失うという規定のあるゴルフクラブにおける会員たる地位は一身に専属します。すなわち、相続人が会員権を相続することはできません。せいぜい、預託金(会員になる際、ゴルフクラブに預けたお金)の返還を求めることができる程度のことになります。


 というわけで、今回は以上になります。
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【寄与分と特別受益と相続分の譲渡】法定相続分の修正~妻の日常労働分は?遺贈との優劣は?

▼この記事でわかること
寄与分とは~妻の日常労働は?
寄与分の具体例、遺贈との優劣
特別受益者の相続分
相続した物が滅失していたら?
相続分の譲渡
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寄与分と特別受益

 相続人間の、実質的な公平を図るために法定相続分を一部修正する仕組みとして、寄与分と特別受益の制度があります。

寄与分

 共同相続人中に、被相続人の財産の維持、増加について特別の寄与をした者がいる場合に、その者を優遇するための仕組みが寄与分の制度です。
 例えば、田舎で農家をしていた父の仕事を、無償に近い形でまめに手伝っていた長男と、東京でサラリーマンをしていた二男の間では、長男を優遇しようという制度です。
 以下の点が寄与分として考慮されます。(民放904条の2第1項)
・被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付
・被相続人の療養看護その他の方法

妻の日常労働は寄与分として評価されるか

 寄与分の要件は、「被相続人の財産の維持、増加について特別の寄与」です。妻の日常の家事は、通常の寄与であるから寄与分としては考慮されません。
 民法は、一方配偶者が他方配偶者の面倒をみるのは当然であり、だからこそ配偶者の法定相続分は他の相続人よりも、もともと多めにしていると考えている。
 つまり、妻の日常家事労働の分は、法定相続分にすでに織込み済みであるということです。

寄与分についての具体例

事例
Aが死亡し、その嫡出子BCが相続をした。Aの相続財産の価額が6000万円であり、Bの寄与分が2000万円である。


 さて、この事例で、BCそれぞれの相続分はいくらでしょうか?
 寄与分があるときの相続分は以下のように算定します。
 
1、全体の相続財産の価値から寄与分を引きます。
6000万ー2000万=4000万円

2、上記の金額を各相続人に法定相続分どおりに取得させます。
Bの取り分 4000万×1/2=2000万円
Cの取り分 4000万×1/2=2000万円

3、最後に特別の寄与をした者に寄与分を足します。
Bの取り分 2000万+2000=4000万円

 以上の計算により、Bが4000万円、Cが2000万円を取得します。

【補足】寄与分と内縁の妻
 内縁の妻が特別の寄与をした場合に、寄与分が認められるでしょうか?
 結論。認められることはありません。その理由は、寄与分を規定する民法904条の2は、その冒頭で「共同相続人中に......」と書いているからです。
 つまり、相続人には寄与分が認められますが、相続人ではない内縁の妻の寄与分を定めた条文は、民法には存在しないのです。

寄与分と遺贈の優劣

 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価値から、遺贈の価額を控除した残額を超えることはできません。(民法904条の2第3項)
 遺贈分を差し引いてから、その限度で寄与分を定めろという意味です。
 つまり、寄与分と遺贈の間では、遺贈が優先することになります。
 故人の意思を優先するという趣旨の規定です。

特別受益者の相続分
説明女性
 寄与分の逆バージョンが特別受益者の制度です。(民法903条)
 共同相続人中に被相続人から遺贈を受け、または婚姻、養子縁組もしくは生計の資本として贈与を受けた者があるとき、その者を特別受益者として相続において冷遇をします。

事例
父Aが死亡し妻Bと嫡出の兄弟2人CDが相続をした。相続財産は5000万円である。兄Cは婚姻に際して、生前の父から金1000万円の贈与を受けていた。


 さて、この事例で、BCDそれぞれの相続分はいくらになるでしょうか?

 特別受益者がいるときの相続分は以下のように算定します。

1.相続財産の価額に贈与の価額を加える。
5000万+1000万=6000万円

2.上記の金額を、各相続人に法定相続分どおりに取得させる。
Bの取り分 6000万×1/2=3000万円
Cの取り分 6000万×1/4=1500万円
Dの取り分 6000万×1/4=1500万円

3.最後に特別受益者の取り分から贈与された額を引く。
Cの取り分 1500万ー1000万=500万円

 以上の計算により、相続財産である5000万円は、Bが3000万円、Cが500万円、Dが1500万円を取得します。

【補足】Cが受けた贈与が3000万円の場合
 父Aが死亡し妻Bと嫡出の兄弟2人CDが相続し、相続財産は5000万円である場合に上記の計算をすると、Bが4000万円、Cがマイナス1000万円、Dが2000万円となります。
 この場合、Cは相続に際して金1000万円を持ち戻す必要があるでしょうか?
 民法903条2項はこれを否定しています。
 上記のケースでは、Cの相続分はゼロとなるが、もらいすぎた形の金1000万円を元に戻す必要はなく、もらいっぱなしでもかまいません。
 その結果、Bの相続分は5000万円×2/3、Dの相続分は5000万円×1/3となります。

相続した物が滅失

 特別受益者が、被相続人の生前に贈与を受けたが、相続開始前には、その物が滅失していたらどうなるでしょうか?
 例えば、貴重な骨董品(金1000万円相当)の贈与を受けたが、これが壊れた場合です。
 このケースにおいては、その滅失が受贈者の行為による場合であれば、その責任を取られます。
 すなわち、相続開始時において、その骨董品はなお原状のままである(壊れていない)ものとみなして、贈与の価額を金1000万円と定めます。(価額の算定基準時は相続開始時)。
 同様の操作は、受贈者の行為により、贈与の目的財産に価額の増減があった場合にも行います。(民法904条)

特別受益者がいる場合の相続分

 Aが死亡し、妻B・子C・子Dがあり、Cが特別受益者で受けるべき相続分がない場合の、相続分の考え方は以下のとおりです。

1.本来の相続分
B:2
C:1
D:1

2.修正後の相続分
CはAの生前に、すでに上記の1の取り分を受領しています。
B:2
C:1
D:1

 以上から、Bの相続分は2/3、Dの相続分は1/3となります。

相続分の譲渡

事例
Aが死亡し、BCDの3名が相続をした。(相続分は各3分の1)。


問1
Dは自己の3分の1の相続分をCに売却できるか?

 結論。相続分の譲渡は可能です。
 これは、相続財産に対する相続分という観念的な存在を、まるごと売却(贈与等も可)をする仕組みです。

【補足】遺産分割
 通常の相続事件はつぎのように進行します。
1.法定相続分が決まる。(遺言がなければ民法の規定により自動的に決まる)
 この時点で相続財産は相続人の共有となります。(民法898条)
2.共同相続人間で遺産分割協議を行う。
3.協議の結果、遺産に含まれる個別の資産が、相続人の固有財産となります。

問2
Dは自己の3分の1の相続分を第三者であるEに売却できるか?

 結論。できます。
 第三者に対する相続分の譲渡も可能です。
 この場合には、EがDの相続分を取得し、BCEの3人で遺産分割をすることになります。
 この場合、Eは遺産分割の当事者となりますから、自ら家庭裁判所に遺産分割の調停または審判の申立てをすることができます。

【補足】相続分の取戻し
 上記、共同相続人の1人(D)から第三者(E)に相続分が譲渡された場合には、他の共同相続人(BC)は、その価額と費用を賠償して、第三者から相続分を譲り受けることができます。(民法905条1項)
 つまり、EがDに支払った対価と費用を賠償して、Eから相続分を取り戻すことができる訳です。
 これは、相続分が第三者に譲渡されると、アカの他人との遺産分割を余儀なくされる他の共同相続人の便宜を考慮した制度です。
 例えば、上記の事例でBがEから相続分を取り戻せば、相続人はBCの両名となり、アカの他人であるEとの遺産分割を回避できます。
 この場合、BC間で、Bが3分の2、Cが3分の1という相続分を基本として遺産分割をすることになります。

【補足】取戻し期間
 民法905条1項の権利は、1ヶ月以内に行使しなければなりません。(同条2項)
 しかし、この条文には「起点」がありません。
 いつから「1ヶ月」なのかが不明なんです。
 解釈上は、他の共同相続人に相続分譲渡の通知(債権譲渡の通知と同趣旨)がされた時からとされています。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【遺産分割】協議と方法/遺産分割の禁止/遺産分割協議の解除/遺産分割の審判と訴訟事件

▼この記事でわかること
遺産分割協議
特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」という遺言について
遺産分割の禁止
遺産分割協議の解除
遺産分割の方法
遺産分割の審判と訴訟事件
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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遺産分割協議

 遺産分割は、各共同相続人の相続分という観念的な割合が具体化して、相続人ごとの固有財産に転化する過程であり、通常は、共同相続人の協議により遺産分割を行います。
 では、事例とともに、遺産分割の性質を解説して参ります。

事例1
Aが死亡した。Aには妻Bと嫡出子CDがいる。


[問1]
BCD間で遺産分割協議をした。しかし、Aには非嫡出子であるEが存在した(嫁以外の子がいたということ)。遺産分割協議は有効か?

 結論。無効です。
 これは、夫Aが死亡し、その遺族BCDはこの3人が相続人のすべてであると信じて遺産分割をしたのであるが、実は、夫には愛人の子Eが存在しており、死後にそのことを知った遺族が唖然とする、というケースです。
 この場合の遺産分割は無効になります。
 遺産分割は相続人全員の参加がなければ効力がないのです。
 ですので、非嫡出子のEを含めて遺産分割協議をやり直すか、それが不可能であれば、家庭裁判所のご厄介となり、遺産分割の調停あるいは審判を受ける必要が生じます。

(遺産の分割の効力)
民法909条 
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。


[問2]
BCD間で遺産分割協議をした。しかし、その後Fが死後の強制認知によりAの非嫡出子となった。遺産分割協議は有効か?

 結論。この遺産分割協議は有効です。
 本事例は、遺産分割後に非嫡出子が現れたケースです。
 認知の効力は出生にさかのぼりますから、被相続人Aの死亡時にFはさかのぼってAの子として存在していたことになります。
 ですので、本来であれば、この遺産分割協議も無効がスジです。
 しかし、民法910条は、この事例、つまり遺産分割協議後に認知による相続人が出現したケースでは、遺産分割を有効としました。
 その結果、非嫡出子のFは遺産分割のやり直しを請求することはできませんが、他の相続人であるBCDに対して、価額による賠償を請求することになります。
 すなわち、このケースは、カネの問題として解決されることになります。

(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
民法910条 
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

~ちょこっとコラム~
特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」という遺言


 この遺言は、遺贈(遺言による贈与)であるのか、遺産分割の方法の指定(相続の一場合)であるのか?
 特定の不動産を特定の相続人に「遺贈する」と書いてあれば、これは遺贈で決定です。
 しかし、「相続させる」と書いてあるので、この点が問題となります。
 一見すると、どちらであっても大差ないと考えられそうですが、これを遺贈と解釈すると登記手続が面倒くさくなります。
 この点は、判例は、この遺言は、遺産分割の方法を指定したものであると判示しました。これであれば、相続の一場合としての遺産分割の指定であるから、登記原因は相続であり手続は簡単に済みます。  
 このケースでは、その特定財産は、遺産分割の手続を経ることなく、遺言者の死亡により当然に相続人が取得することになります。

遺産分割の禁止

事例
Aが死亡した。Aの相続人は妻Bと嫡出子CDである。


[問1]
Aは遺言で遺産分割を禁止することができるか?

 結論。被相続人は、遺言で遺産分割を禁止することができます。その期間は最長で5年間です。(民法908条)

[問2]
遺産分割の審判において家庭裁判所は遺産分割を禁止することができるか?

 結論。遺産分割の請求を受けた家庭裁判所は遺産分割の禁止をすることができます。(民法907条3項)
 その要件は以下の3つです。
・特別の理由がある
・分割禁止の期間を定める
・遺産の全部または一部について分割を禁止する
 これは、遺産分割の審判をする上での家庭裁判所の便宜を図るための制度です。

[問3]
BCDの3人はその合意により遺産分割を禁止することができるか?

 結論。共有物の分割禁止特約を規定する民法256条により、遺産分割の禁止を合意することは可能です。その期間は最長で5年間です。

[問4]
遺産分割が禁止されていない場合には、いつ、遺産分割をすることができるのか?

 結論。民法907条1項は「いつでも」よいと規定しています。

【補足】遺産分割禁止期間中の分割
 遺言による場合と家庭裁判所による遺産分割禁止の場合、その期間中に遺産分割をすることはできません。前者の場合は遺言者の遺思に反することになりますし、後者の場合には、家庭裁判所の便宜による禁止期間だからです。
 しかし、相続人の合意による禁止の場合、相続人全員の合意があれば、遺産分割をしてもかまいません。

遺産分割協議の解除

事例
Aが死亡した。Aの相続人は妻Bと嫡出子CDである。BCD間の遺産分割協議において、Cが年老いたBの老後の面倒をみることになり、CはDの倍額の遺産を承継した。しかし、BはC家の嫁と折り合いが悪く、家出をしてDの家にころがりこんだ。


[問1]
Dは、遺産分割協議の解除をすることができるか?

 結論。遺産分割協議の法定解除はできません。
 遺産の再分割を余儀なくされると法的に安定性を害するというのがその理由です。

[問2]
BCDの3人で、遺産分割協議を合意解除して、新たに遺産分割をやり直すことは可能か?

 結論。遺産分割協議の合意解除は可能です。

【補足】遺産分割と共有物分割
 遺産分割は故人の遺産という財産の集合体の分割であるのに対して、共有物分割は特定の土地や建物の分割という個別の財産の分割です。
 判例は、遺産分割協議の法定解除は不可能だが、共有物分割協議の法定解除は可能としています。
 これは、共有物分割のほうが規模が小さく、解除の第三者への影響が少ないことを考慮した結果といえる。

遺産分割の方法

 遺産分割には、現物分割価額分割の方法があります。

・現物分割
 文字通り現物を分けます。長男は東京のマンション、二男は千葉の土地という具合です。

・価格分割
 遺産を売り払ってその対価である金銭を分け合います。

 協議による遺産分割の場合には、どちらの方法でも、共同相続人が自由に決めることができます。
 しかし、家庭裁判所による審判分割の場合は、現物分割を原則としています。
 ただし、分割によってその価格を損ずるおそれがあるときは、例外的に価額分割をすることもできます。

遺産分割の審判と訴訟事件

 遺産分割の審判は非訟事件です。
 非訟とは、国家が後見人的な立場から訴訟手続によらずに簡易で裁量的な処理をする事件の類型です。例えば、訴訟事件は裁判の公開を要するところ、非訟事件は非公開でもできます。
 さて、訴訟事件とは、権利の有無について白黒をつける事件であって、例えば、ある財産が被相続人の相続財産に属するかどうかは訴訟事件です。
 元来、被相続人の相続財産の範囲はハッキリした上で「はたしてそれをどういう方法で分けるのか」というのが、裁判所の裁量の問題であり非訟事件です。
 そこで、遺産分割の審判において、話のついでに、ある財産が被相続人の相続財産の範囲に属するかどうかを判断することは、本当は越権行為です。
 しかし、判例は、実際の遺産分割の審判を柔軟に運営するという見地から、家庭裁判所は上記の越権行為をしてもかまわないという判断をしました。
 これは、仮に、その家庭裁判所の判断に不服のある当事者がいたときには、そのことについて通常の訴訟を提起する道が閉ざされるわけではないということも、上記の判断の正当化の理由の1つとなっています。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【遺言】自筆証書と公正証書と秘密証書/未成年者の遺言と死因贈与/共同遺言/遺言の撤回/特別方式の遺言

▼この記事でわかること
遺言の基本
自筆証書遺言
公正証書遺言
検認とは
秘密証書遺言
未成年者の遺言・死因贈与
共同遺言
遺言の撤回
特別方式の遺言
確認について
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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遺言の基本

 遺言は、要式行為です。
 つまり、遺言の方式は、民法により決められており、その方式に従わない遺言は無効です。
 また、遺言ですることのできる法律行為も決定されています。
 つまり、民法においては、遺言ですることができるとされている行為だけ遺言として有効です。

 例えば、遺言書には、「私の死後は、兄弟仲良く力を合わせて、残された母に孝行しろ」などと書かれることがありますが、遺言書のこの部分からは法律上の効力は発生せず、単に徳義上の文言であることになります。
 このように、遺言が、その様式、内容の両面において、民法において細かく規定されている理由は、遺言の真贋(ホントかウソか)や効力の有無が法律上の争訟につながりやすいからです。
 大資産家の遺言であれば、その一つの文言が、相続人間の数十億という遺産の行方を左右することもあるでしょう。
 ですから、相続人間の争いは熾烈を極めることがあるのです。
 そこで、民法は、こうした争いをなるべく減らし、また争いとなった場合にも裁判所が問題点の整理をしやすいような仕組みを作る目的で、遺言を厳格な要式行為としたのです。

(遺言の方式)
民法960条 
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。


【補足】相続分の指定、遺産分割の方法の指定の第三者への委託
 相続分の指定、遺産分割の方法の指定を第三者に委託する方法で遺言をすることができます。
 遺言者自らが指定する例が通常であるが、例えば、弁護士の〇〇先生に指定を委託するという形式が可能です。

遺言の方式

 では、以下に、遺言の方式を整理しましょう。
 遺言には、普通方式特別方式があります。
 特別方式は、例えば、死亡危急時や在船中など特殊な場所・状況の下でのみ許容される遺言の方式です。
 そうした特殊な状況にない場合には、遺言は普通方式で行います。

普通方式の遺言

 普通方式の遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つがあります。
三本指
自筆証書遺言

 文字通り、手書きの遺言のことをいいます。
 一番手軽な方式であり、遺言者が自筆で1人で書くことができます。
 その要件は以下のとおりです。(民法968条)
1.全文、日付、氏名の自書
2.押印

(自筆証書遺言)
民法968条 
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。


 では、それぞれの要件について、事例とともに解説して参ります。

事例
次の自筆証書遺言は有効か?
1・ワープロで打ったもの
2・平成24年3月吉日という日付のもの
3・氏名がペンネームであるもの
4・押印が捺印であるもの
5・運筆について他人の添え手による補助を受けたもの

 ではひとつひとつ見て参ります。

1について

 無効です。
 自筆証書遺言は、自宅でもどこでも気軽に書けますが、遺言をするについて証人を要しないなど基本的に1人で書けるという形式の遺言です。
 したがって、後日、その真贋が問題となることが容易に予想されます。
 ですから、民法は、全文、日付、氏名の自筆を要件としました。
 すなわち、手書きでなければ効力がありません。
 これは、後日、遺言の効力発生後に、筆跡鑑定により真贋を判定するためです。
 ワープロで打ったというような、誰でも作れる遺言は無効です。

2について

 日付がないので無効です。
 単に3月吉日という記載であれば、年月は判断できますが、日がありません。したがって、無効です。
 遺言書以外の記載、例えば故人の日記帳などから遺言の日が特定できるケースでも、遺言書本体に日付の記載がなければ無効です。

3について

 ペンネームによる遺言は、書いた本人の特定が可能であれば有効です。
 ペンネームも氏名に該当するわけです。

4について

 有効な遺言です。捺印も印にあたります。

5について

 死期
・補助がなる支えであれば遺言は有効
・補助をした者の意思が運筆に介在し、遺言内容を左右した形跡があれば無効。

【補足】自筆証書遺言の訂正
 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれを署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。(民法968条2項)
 注意すべきは、訂正が上記の要件を満たさない場合、遺言が無効になることはなく、訂正が無効であるということです。
 つまり、遺言書は訂正のないものとして有効となります。

【補足】遺言と日付
 遺言制度の趣旨は、死者の最終意思の実現にあります。
 したがって、前の遺言と後の遺言があり、その内容が抵触する場合には、最終意思に近いほうである後の遺言が優先します。(民法1023条1項。ただし、内容が抵触しなければ双方が有効です)。
 そのため、遺言がいつ書かれたのかということが重大な意味を持つのであり、したがって日付のない自筆証書遺言は無効であるのです。

公正証書遺言

 法律実務家がお勧めする遺言の方式が、この公正証書遺言です。
 公正証書遺言は、遺言者の手元のほかに、公証人役場にも保管されるために、紛失のおそれがないし、公証人という法律家が作成に関与するので、その内容を法律的にチェックすることも可能だからです。

 公正証書遺言の要件は次のとおりです。(民法969条)
1.証人2人以上の立会い
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する
3.公証人が、その内容を筆記し、これを遺言者と証人に読み聞かせ、または閲覧させる
4.遺言者と証人が内容を確認して各自が署名押印する。(遺言者が署名できない場合、公証人がその旨を付記すれば署名に代えることができる)
5.公証人が、その証書を以上の方式に従って作った旨を付記して、署名、押印をする

 なお、上記の2と3の順序は必ずしも厳格に守る必要はありません。
 遺言書作成の実務において、遺言者がしゃべる内容を、その場で公証人が筆記するという段取りは現実離れしているからです。
 実際には、遺言者の要望を聞いて公証人が遺言内容を作成し、それをファックスなりで送付して遺言者に事前の確認をしてもらった上で(つまり筆記が先)、遺言書作成の当日を迎えることになります。

 なお、公正証書遺言は、ワープロ(ようするにPC)で作成されることがほとんどです。
 公証人役場の事務員が遺言書を作成し、そこに公証人が署名・押印するという形です。
 公正証書遺言の場合には、証人2人以上が立ち会い、しかも、公証人の関与とありますから、ワープロで作成された遺言であっても、その真贋が後日争われる可能性は極めて低いからです。

【補足】公正証書遺言の優越性
 公正証書遺言は、遺言書の遺思実現に向けた次のような長所があります。
・遺言書の原本が公証人役場に保管されます。したがって、遺言書が誤って公正証書遺言を破棄・紛失した場合や、死後、相続人が隠匿した場合でも、公証人が遺言者の死を知れば、遺言内容を実現できます。
・遺言の形式に法律のプロの手が加わっていますので、遺言書の考慮外の無効事由の発生の可能性が極めて低いです。
・後日、裁判所の検認を受ける必要もありません。

【検認】
 検認とは、一種の証拠保全手続です。
 つまり、遺言書の状態を保全するのです。
 自筆証書遺言、秘密証書遺言の場合に、遺言書の保管者が、相続開始を知った後、遅滞なく、家庭裁判所に検認の請求をしなければなりません。(1004条1項)
 なお、検認は、遺言の効力発生とは関係ありません。
 検認を受けても、後日筆跡が遺言者のものと違うから遺言書が無効と判定されることもあり得るし、逆に、検認を受けていないからといって、遺言が無効になるわけでもありません。単にその後の手続に支障があるだけです。
 なお、公正証書遺言については、その原本が公証人役場に保管されているので、検認の必要がないのは当然の話です。

秘密証書遺言

 公正証書遺言は遺言者にとって安心な制度ですが、1つ欠点があります。
 それは、遺言内容を最低でも3人の人に知られてしまうという点です。
 3人とは、証人2人と公証人です。
 そこで、この欠点を補うために、秘密証書遺言という方式が存在します。
 その方式は以下のとおりです。(民法970条)
1.遺言者が、証書に署名・押印をする。
2.遺言者が、その証書を封筒に入れ、証書に用いた印で封印をする。
→ここまでは遺言者が1人でできます。遺言書は封筒の中です。
3.遺言者が、公証人と証人2人以上の前に封筒を差し出す。そして、自己の遺言であることと氏名住所を申述する。
4.公証人が、その証書を提出した日付および遺言者の申述(自己の遺言であることと氏名住所)を封筒に記載をする。その後、公証人、遺言者、証人が封筒に署名押印をする。

 このように、公証人や証人は、封筒の外側に署名押印するだけであり、中身の遺言書本体を見ることはありません。
 これが、秘密証書遺言の仕組みです。

事例
次の秘密証書遺言は有効であるか?

1・遺言書(封筒の中身)をワープロ(ワード)で打ったもの
2・遺言書(封筒の中身)に日付のないもの
3・遺言書(封筒の中身)の印影と、封筒にした封印の印影が異なるもの

1について
 有効です。秘密証書遺言は、自筆は要件ではありません。公証人と証人の関与があるからです。

2について
 有効です。日付は、公証人が封筒の外側に記載しますから、封筒の中身には日付がなくてもよいのです。

3について
 無効です。秘密証書遺言としては致命的なミスです。

【補足】無効の転換
 上記3のケース。すなわち、遺言書の印影と封筒にした封印の印影が異なる場合でも、この遺言書が自筆証書遺言として有効になる場合があります。
 つまり、封筒の中身の遺言書が、全文、日付、氏名が自筆であり、かつ押印があれば、秘密証書遺言としては無効でも、自筆証書遺言として有効であるということになります。

未成年者の遺言・死因贈与

事例
15歳の未成年者Aとその法定代理人Bがいる。


[問1]
Aが遺言をする場合に、Bの同意を要するか?

 結論。15歳に達した者は、遺言をすることができます。(民法961条)
 この場合、法定代理人の同意は不要です。
 遺言は、遺言者の意思の実現が制度の目的ですから、第三者の同意にはなじみません。
 なお、15歳の達しない者の遺言は、当然に無効です。
 遺言能力の問題において、15歳未満の者は法定意思無能力者です。

[問2]
Aが死因贈与をするときに、Bの同意を要するか?

 結論。未成年者が死因贈与をする場合、法定代理人の同意を要します。
 死因贈与は、自分が死亡したら何らかの財産を無償で譲渡するという内容の贈与者と受贈者間の契約(不確定期限付贈与契約)です。
 贈与契約に不確定期限がついたというだけの話ですから、契約に関する一般論として、未成年者がこれを行うには法定代理人の同意を要します。

【補足】成年被後見人
 遺言をするには意思能力が必要です。したがって、事理弁識能力を欠く常況にある成年被後見人は、一般的には遺言ができません。
 しかし、本心に復した場合には、単独で遺言をすることができます。
 ただし、医師2人以上の立会いを要することとなります。(民法973条1項)
 医師の立会いは、遺言時において、遺言者が本心を回復していることを見届けるために要求されています。

共同遺言
NG男性
事例
ABは夫婦である。AおよびBは共同で遺言書を作成し、両名が署名捺印をした。


 さて、この事例で、この遺言は有効か。
 結論。無効です。
 遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができません。(民法975条)
 ただし、単に2人の遺言書が合綴されているケース(たとえばホチキスで止められている)で、双方の遺言書を容易に切り離すことができれば共同遺言にあたらず、遺言は有効であるという判例があります。

【補足】共同遺言が無効である理由
 遺言は、いつでも撤回ができます(民法1022条)。
 遺言は死者の最終意思の実現が制度の目的だから、遺言者は遺言の撤回権を放棄することはできませんし、相続人と遺言を撤回しない旨の契約をしても、そんなものは無効です。(民法1026条)
 さて、共同遺言の場合、両者の意思が混じり合うために、後日撤回が行われた場合に、誰のどの部分の撤回なのかよくわからなくなり不都合です。そこで、一律に共同遺言は禁止されています。

遺言の撤回

(遺言の撤回)
民法1022条 
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。


(前の遺言と後の遺言との抵触等)
民法1023条 
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。


 遺言の撤回は、遺言によって行います。
 遺言は後のものが優先しますから、たとえば、公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することも可能です。
 前の遺言で、ある不動産をAに遺贈、後の遺言でBに書いてあれば、後の遺言により受遺者はBで決定です。
 しかし、双方が、抵触しないケース。たとえば、前の遺言で、ある不動産をAに遺贈、後の遺言でBにその不動産の地上権を遺贈とあれば、双方の遺言をあわせて、その土地の所有者はA、地上権はBということになります。

事例
Aは自らの自筆証書遺言を破棄した。この場合、遺言の効力はどうなるか。


[問1]
故意に破棄したケース

 遺言は撤回されたものとみなされます(民法1024条前段)。遺言者の最終意思が破棄だからです。ただし、撤回とみなされるのは破棄をした部分のみです。

[問2]
過失によるケース

 遺言は撤回されません。過失の場合、遺言者の意思が介在していないからです。
 ただし、たとえば、火中に投じた場合など、跡形もなく消え去れば、遺言内容の立証ができなくなる結果、撤回と同様の結果となるといわれています。

【補足】公正証書遺言の場合
 公正証書遺言は、遺言書の原本が公証人役場にも保存されています。
 だから、遺言者が手元の公正証書遺言を破棄するだけでは遺言を撤回したことにはなりません。

事例
Aは第一の遺言をし、第二の遺言でこれを撤回しました。


[問1]
第三の遺言で第二の遺言を撤回したときは、第一の遺言の効力が復活するか。

 結論。復活しません。
 原則として、遺言の撤回を撤回することはできません。(民法1025条本文)
 この場合、再度、遺言をし直すべきなのです。
 なお、例外として、第三の遺言から、遺言者の、第一の遺言の復活を希望する明らかな意思が認められるときに、第一の遺言の効力の復活を認めた判例もあります。

[問2]
第二の遺言が詐欺によるものであった場合、これをAが取り消したときはどうか?

 結論。第一の遺言の効力は復活します。
 遺言の撤回を、詐欺または強迫を理由として取り消すことはできます。(民法1025条ただし書)

【補足】証人の欠落事由
 次の者は、遺言の証人、立会人となることができません。(民法974条)
1.未成年者
2.推定相続人および受遺者ならびにこれらの配偶者および直系血族
3.公証人の配偶者、4親等内の親族、書紀および使用人
 公証人役場には必ず事務員がいます。しかし、彼らは上記の3に該当し、遺言の証人となることができません。したがって、上記の欠落事由に該当しない証人2人を手配しなければ公証人役場で遺言をすることはできません。

特別方式の遺言
四本指
 特別方式の遺言には次のケースがあります。

1・死亡危急者遺言(民法976条。情況が特殊なケース)

 遺言者が死亡に瀕している場合の遺言です。
 その要件は以下のとおりです。
1、証人3人以上の立会い。
2、遺言者が遺言内容を口授(手話も可)。
3、証人が口受を筆記し読み聞かせる。
4、証人が署名押印する。
 上記のように、遺言者の筆記と押印が要求されません。
 死亡に瀕しているから不可能と考えられるのです。
 また、日付の記載は要件となっておらず、遺言書に書かれた作成日が誤っていても死亡危急時遺言は有効です。

2・伝染病隔離者の遺言(民法977条。場所が特殊なケース)
 
 伝染病のため行政処分により隔離されている者の遺言です。
 この場合は、筆者は誰でもかまいませんが、死亡に瀕してはいないので、本人と筆記者・立会人・証人が署名・捺印します。
 その他の要件は、警察官1人と証人1人以上の立会いです。

3・在船者の遺言(民法978条。場所が特殊なケース)
 
 船舶中にある者の遺言です。
 この場合も、筆者は誰でもかまいませんが、死亡に瀕してはいないので、本人と筆記者・立会人・証人が署名・捺印します。

4・船舶遭難者の遺言(民法979条。情況と場所の双方が特殊なケース)

 船舶が遭難し、船中で死亡に瀕した者の遺言です。
 遺言者が死亡に瀕している場合の遺言です。
 その要件は以下のとおりです。
1、証人2人以上の立会い
2、遺言者が遺言内容を口授する(手話も可)
3、証人が口受を筆記し署名押印をする
 上記のように、遺言者の押印が要求されません。
 死亡に瀕しているから不可能と考えられるのです。
 さらに、証人が、読み聞かせることが要求されていません。
 この場合、船舶遭難中ですから、証人のほうも死亡に瀕していると考えられます。読み聞かせる時間がないのでしょう。

【補足】確認
 上記1のケース。すなわち、死亡危篤者の遺言者には、本人の署名・捺印がありません。
 そのため、遺言の日から20日以内に家庭裁判所の確認を受けなければ、遺言の効力が発生しません。(民法976条4項)
 また、上記4のケース。すなわち、船舶遭難者の遺言は遅滞なく家庭裁判所の確認を受けなければ、遺言の効力が発生しません。(民法979条3項)
 家庭裁判所は、遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これらの遺言を確認することができない。(民法976条5項、民法979条4項)
 これらは本人の署名捺印のない遺言であるだけに、手続が厳格化するのです。
 検認が、単なる証拠保全手続であり、遺言の効力発生とは無関係であったことと比較すると良いでしょう。
 なお、上記の2と3の遺言のついては確認は不要です。

 特別方式による遺言は(上記1〜4のすべて)は、遺言者が普通方式の遺言をすることができるようになってから6ヶ月生存するときは、その効力を生じません。(民法983条)
 普通方式の遺言ができるようになったのであれば、6ヶ月のうちにしろということです。

 ちなみに、確認検認別の制度です。公正証書以外の遺言は検認をすべきだから、死亡危篤者遺言と船舶遭難者遺言は確認と検認の双方を受けるべきことになります。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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