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【相続人と相続分】誰がどれだけ相続するのか?わかりやすく解説!/相続回復請求権とは?
【相続欠落と相続廃除】欠落と廃除の違いとは?/欠落&廃除と代襲相続の関係について
【相続の放棄】相続放棄の連鎖?/誤った使用例/金貸しとの戦い/生前の放棄/数次相続の場合の相続放棄
【単純承認と限定承認】その手続と事例/相続財産の対象となる財産とは?一身専属権はどうなる?
【寄与分と特別受益と相続分の譲渡】法定相続分の修正~妻の日常労働分は?遺贈との優劣は?
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【相続人と相続分】誰がどれだけ相続するのか?わかりやすく解説!/相続回復請求権とは?

▼この記事でわかること
相続人と相続分~誰がどれだけ相続するのか?ケース毎に具体的に解説!
同時死亡の推定
相続人の不存在
相続回復請求権とは
相続回復請求権に関する判例紹介
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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相続の基本

 相続についての解説を始めるにあたりまして、まずは相続人および相続分の確定からスタートします。
 わかりやすく、具体的な事例に沿って解説します。
 なお、相続は死亡によって開始します。(民放882条)
 したがいまして、ある人物の相続事件において、その人物の死亡以前に死亡した人には相続人の資格がありません。
 これを同時存在の原則と言います。これは、相続の問題を考える上での基本事項です。

相続人と相続分
※すべて「Aが死亡し、誰がどの割合でAを相続するか?」が問題となります。

ケース1
Aと配偶者Bの間には嫡出子Cがいる。


 まず、配偶者常に相続人となります。
 そして、第1順位の相続人です。
 よって、両者が相続人となります。
 配偶者と直系卑属※が相続人となる場合、配偶者の取り分が2分の1と決められています。
 したがって、このケースは、BとCが相続人であり、相続分は両者が2分の1です。
※直径卑属とは直系の子供や孫等のこと。直系尊属は直系の親や祖父・祖母等のこと。この辺りの詳しい解説は「【親族と親等】【血族と姻族とその違い】【相続と戸籍】【親子関係と戸籍の届出】【家族法と財政問題】」をご覧ください。

ケース2
Aには配偶者Bおよびその間の嫡出子C、非嫡出子Dがいる。


 まず、配偶者Bおよび子CDが相続人です。
 この場合、配偶者Bの取り分が2分の1です。
 その残りをCDの2人で分けますが、嫡出子と非嫡出子の相続分は同じです。
 したがって、このケースの相続分は、配偶者Bが4分の2、CおよびDが4分の1ずつです。 

ケース3
Aには配偶者Bおよびその間の嫡出子CDがいた。しかし、DはAの死亡以前に死亡している(子が親に先立った)。Dに子EFがいる


 まず、配偶者Bの取り分が2分の1です。
 その残りを子CDで分けるところですが、DはAの死亡以前に死亡しているので相続しません。そこで、Dの取り分をDの子EFが分け合います。
 これを代襲相続といいます。(民法887条2項)
 相続分はEFが各1、Aが2、配偶者Bが4です。
 つまり、Eは8分の1、Fも8分の1、Cが8分の2、Bが8分の4となります。

ケース4
Aには配偶者Bがいる。しかし子はいない。Aに実親X、養親YZがいる場合


 まず、子がいない場合の第2順位の相続人は直系尊属です。
 そして、直径尊属と配偶者が相続人となる場合、配偶者の取り分は3分の2です。
 したがって、この場合、XYZの取り分が各1、配偶者Bの取り分が6です。
 つまり、X・Y・Zはそれぞれ9分の1、Bが9分の6です。

ケース5
Aには配偶者Bがいる。しかし子はいない。Aに実親XおよびYがいたが、YはAの死亡以前に死亡した。しかし、Yの親Zは存命である。


 相続人は配偶者BとXのみです。
 直系尊属が相続人となる場合は、親等の近いものが先順位です。
 つまり、この場合、代襲相続の逆パターンは存在しないのです。
 結論として、このケースの相続人はBとXであり、相続分はB3分の2、X3分の1です。
 もっとも、本事例で、XYの双方が死亡していれば、Zは相続します。(代襲相続ではない)

ケース6
Aには配偶者Bがいる。しかし、Aに子と直径尊属はいない。Aには同じ両親から生まれた弟YZがいる。しかし、ZはAの死亡以前に死亡した。Zに子Cがいる場合。


 まず、子および直径尊属がいない場合の第3順位の相続人は兄弟姉妹です。
 そして、兄弟姉妹と配偶者が相続人となる場合、配偶者の取り分は4分の3です。
 この事例の相続人は、配偶者Bおよび弟Y、弟Zを代襲するZの子C(甥または姪)です。
 相続分は、YCが各1、配偶者Bが6です。
 つまり、Yが8分の1、Cが8分の1、Bが8分の6です。

【補足】甥の子は相続するか
 ケース6で、Aの死亡以前にCが死亡しその子Dがいたとしても、DはCを再代襲しない。(民法889条2項は887条2項を準用するが、887条3項を準用していない)
 つまり、甥の子が、祖父を相続分することはあり得ない。
 この点、被相続人のひ孫が相続し得ることと相違があります。
 通常、甥の子と祖父は、顔も知らない仲ということが多いでしょう。なので、民法は相続人の範囲を甥姪のところで打ち切っているのです。

ケース7
Aには配偶者Bがいる。しかし、Aに子とに直系尊属はいない。Aには同じ両親から生まれた弟Yと、片親を共通するZがいる。


 まず、このケースでは、両親が同じ弟であるYの取り分がZの倍となります。
 したがって、相続分は、Zが1、Yが2、配偶者Bが9です。
 つまり、Zが12分の1、Yが12分の2、Bが12分の9です。

ケース8
Aは配偶者Bと死別している。AB間には嫡出子CDがいるが、DはAの死亡以前に死亡している。AはDの子Eと養子縁組をしている。


 まず、このケースでは、CおよびEが相続人となります。
 問題は、Eが養子としての取り分の他に、Dの代襲相続人としての地位において相続をすることができるという点です。
 結論をいえば、相続できます。
 したがって、Cの相続分が3分の1、Eの相続分が3分の2です。
 孫を養子とするケースは、実務でもわりと見かけます。この場合、当事者の意思として孫を跡取りと考えています。
 したがって、養子となった孫の、二重の資格での相続を認めても不合理ではないのです。

ケース9
AはYZ夫婦の養子となった。YZ間には嫡出子BおよびCがいるが、AはBと婚姻をした。Aに子がなく、YZおよびAの実親もすでに他界している。


 ます、BはAの配偶者でもあり兄弟姉妹でもあります。
 この場合に、Bが配偶者の他に兄弟姉妹の地位における相続分を主張することができるでしょうか?
 結論。これはできません。
 基本的に民法は、配偶者の取り分を多めに設定していると考えています。
 したがって、この場合、二重の資格での相続は認められません。
 このケースではBの相続分が4分の3、Cの相続分が4分の1です。

同時死亡の推定

 例えば、親子が死亡したが、どちらが先に死亡したかが不明な場合があります。
 同一の事故で死亡した場合もあるし、一方は病院で死亡し年月日時分まで明確であるが、他方の死期が曖昧であって先後が不明な場合もあります。
 この場合には、親子は同時に死亡したものと推定されます。(民法32条の2)
 その結果、親子は、お互いがお互いを相続しないという結論となります。
 なお、この場合に孫が存在すれば、孫が代襲相続をすることは可能です。

相続人の不存在

 相続人がいない、あるいは、いるかどうかが不明な場合には、相続財産は法人となります。
 この場合の手続の概略は、以下のとおりです。

1・家庭裁判所が相続財産管理人の選任をする。
2・相続人探索、相続債権者および受遺者に対する公告をする
 →相続人がいた場合、手続終了します。
3・相続人不存在が確定した場合
 →相続財産管理人が相続債権者および受遺者に弁済をします。
 →残余財産が、特別縁故者(例えば内縁の妻)への分与の対象となります。(民法958条の3)
 →特別縁故者の申し出がないか、あっても家庭裁判所に認められなかった場合には、相続財産は国家に帰属します。(民法959条)
 ただし、相続財産が共有持分権であれば他の共有者に帰属します。(民法255条)

相続回復請求権

 表見相続人(相続人ではないが相続人らしい外観をする者)が、相続財産を侵害している場合に、真実の相続人は相続回復の請求をすることができます。(民法884条)
 この請求権は、相続人(または法定代理人)が、相続権を侵害された事実を知った時から5年間、あるいは、相続開始時から20年間経過すると時効により消滅します。
 この制度は、短期の消滅時効期間を設け、相続権の帰属に伴う法律関係を早期に確定させる趣旨であると言われています。

相続回復請求権に関する判例アラカルト
裁判所
1・相続回復請求権の5年の短期消滅時効の起算時である「相続権を侵害された事実を知る」とは、単に相続開始の事実を知るだけでなく、自分が真正相続人であることを知り、かつ、自分が相続から除外されていることを知るということを意味する。

2・共同相続人のうちの1人または数人が、相続財産のうち自己の本来の持分を超える部分についても自己の相続分であると主張してこれを占有管理し、真正相続人の相続権を侵害している場合、本条の適用を否定する理由はないが、その者が悪意であり、またはそう信じることについて合理的な理由がない場合には、他の共同相続人からの損害の排除の請求に対して相続回復請求権の時効を援用することができない。

3・相続回復請求権の消滅時効を援用しようとする者は、相続権侵害の開始時点において、他に共同相続人がいることを知らず、かつこれを知らなかったことに合理的理由があったことを主張立証しなければならない。

4・単独相続の登記をした共同相続人の1人が、本来の持分を超える持分が他の共同相続人に属することを知っていたか、あるいは単独相続をしたと信じるについて合理的理由がないために、他の共同相続人に対して相続回復請求権の消滅時効を援用できない間は、その者から不動産を譲り受けた第三者も消滅時効を援用できない。

 以上、相続回復請求権の消滅時効が成立するかどうかに関する判例です。
 これらは、時効が成立すれば相続回復が不可能となるので、最高裁まで事件がもめているのです。  
 基本的に、2~4の判例の趣旨は、長男が「財産は全部俺のものだ」と、他の兄弟がいることを知りつつ遺産を独り占めしているケースにおいては、長男が相続回復請求権の5年の短期消滅時効を援用することはできないということです。(そんなヤツの時効の主張は許されない)
 なお、民法884条は、元来は全く相続権のない者が、真正相続人の相続権を侵害している場合を典型例として規定しています。
「共同相続人のうちの1人または数人が~真正相続人の相続権を侵害している場合、本条の適用を否定する理由はないが」というのは、そういう意味です。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【相続欠落と相続廃除】欠落と廃除の違いとは?/欠落&廃除と代襲相続の関係について

▼この記事でわかること
相続欠落とは
相続廃除とは
相続欠落と相続廃除の違い
欠落&廃除と代襲相続の関係
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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 相続欠落と廃除はいずれも、相続権を剥奪する制度です。
 両者の違いは、相続欠落は国のルールとして一定の不正行為をした者に制裁を加えるものであり、廃除は被相続人の感情の問題として特定の相続人の相続権を奪うものであるという点にあります。

相続欠落

 以下の事由に該当すると、相続資格を失います。(民法891条)

・故意に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者。
→故意による殺害が要件です。殺人、殺人未遂、殺人予備は含みますが、傷害致死は含まれません。
→刑に処せられることにより欠落事由に該当します。

・被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者
→その者に是非の弁別がなければ欠落事由に該当しません。
→殺害者が自己の配偶者もしくは直系血族であれば、欠落事由に該当しません。配偶者や直系血族の告発は人情においてしのびないであろうからです。

・詐欺、強迫によって被相続人の遺言、その撤回、取消し、変更を妨げた者。

・詐欺、強迫によって被相続人の遺言、その撤回、取消し、変更をさせた者。

・遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した者

 相続欠落の事由に該当すると、当然に相続資格喪失の効果が発生します。
 相続欠落は、国のルールとしての制裁であるので、被相続人の意思とは、制度上無関係です。

【参考】相続欠落に関する判例

・被相続人の、相続に関する遺言書が方式を欠き無効であるとき(遺言書に押印がなかった)、遺言者の死後に相続人が押印をしたケースは遺言書の偽造または変造にあたるが、遺言者の意思を実現する目的でなされたときは、その者は相続欠落に該当しない。

・相続に関する遺言書を破棄した場合でも、相続人の破棄行為が相続に不当な利益を目的としていなければ、その者は相続欠落に該当しない。

 以上のように、判例は相続欠落に該当するかどうかについて、その相続人の意図を問題としています。その意図が不正でなければ、形式的には偽造、変造、破棄に該当しても相続欠落者とはなりません。

相続廃除

 廃除とは、被相続人の感情を重視し、家庭裁判所の審判、調停により推定相続人の相続権を奪う制度です。
 推定相続人とは、ある人が現時点で死亡したと仮定した場合に相続人となるはずの人のことです。

 廃除の要件は以下の2つです。(民法892条)

・推定相続人に遺留分があること。
→遺留分のない相続人(兄弟姉妹および場合によっては甥姪)の廃除はできません。なぜなら、これらの者に相続財産を承継させたくないのであれば、遺言を書けば済むことであるので、わざわざ家庭裁判所に廃除の請求をする必要はありません。
 つまり、廃除は、推定相続人の遺留分を奪う制度です。
 遺留分とは、兄弟姉妹や甥姪以外の法定相続人に保障される、最低限の遺産取得割合です。

・推定相続人が、被相続人に対して虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行があった場合。

【補足】兄弟姉妹に遺留分がないわけ
 推定相続人が、被相続人の遺産を承継することをあてにしていた場合、その目論見が外れると、推定相続人の生活が困窮し国家が生活保護をしなければならない事態が生じ得ます。この事態を避けるために、推定相続人に一定割合の遺産を与えるための仕組みが遺留分の制度であることはすでに述べました。
 ところで、民法は、子が親の遺産をあてにする、また、親が子の遺産をあてにするというところまでは人情としてこれを許しています。
 しかし、兄弟の遺産をあてにするようでは、人間として失格であると考えています。よって、兄弟姉妹には遺留分がないのです。

相続欠落と廃除の違い
ここがポイント女性
・廃除をすることができるのは遺留分のある推定相続人だけ
→相続欠落はすべての相続人が対象

・廃除は遺言ですることができる。
→遺言による廃除の効果は、死亡にさかのぼる。だから、廃除された者は相続をすることはできません。

・被相続人は、いつでも、廃除の取消しを裁判所に請求できる。(民法894条1項 遺言による取消しも可能)
→相続欠落は国のルールだから、被相続人が「許してやる」という制度は民法上存在しません。

・廃除された者に遺贈をすることは可能。
 単に被相続人の感情の問題だからです。廃除はするが、多少の資産は残してやろうと思うのは自由です。
→相続欠落者は、被相続人から遺贈を受けることができません(民法965条)。国による制裁だからです。

欠落&廃除と代襲相続の関係

 代襲相続とは、子に代わって孫が親を相続する仕組みです(孫から見れば祖父を相続)。例えば、Aが死亡した場合にAの子のBも死亡していたとき、Bの子CがBに代わってAを相続(代襲相続)することです。
 では、相続欠落&廃除のケースでの代襲相続はどうなるのでしょうか?

事例
Aの子がB、Bの子がCである(CはAの直系卑属)。この状況で、Aが死亡し相続を開始した。


問1.BがAの相続につき欠落事由に該当する場合、Cは代襲相続するでしょうか?
 結論。Cは代襲相続します(民法887条2項)。つまり、CはAを相続します。

問2.BがAから廃除されている場合、Cは代襲相続するでしょうか?
 結論。Cは代襲相続します。(民法887条2項)

問3.Bが相続を放棄した場合、Cは代襲相続しますか?
 結論。Cは代襲相続をしません。相続の放棄の効力は絶対的です。BはもともとAの相続人ではなかったものとみなされます。
 相続人でない者の子が代襲相続をすることは考えられません。


【相続の放棄】
 プラスの相続財産を放棄することもできますが、一般には、相続放棄は被相続人が大借金を残したケースに利用される制度です。 
 相続の放棄は、その旨を家庭裁判所に申述することにより行う。(民法938条)
 申述とは申し述べることです。これにより、相続人は一切の負債を免れることができます。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【相続の放棄】相続放棄の連鎖?/誤った使用例/金貸しとの戦い/生前の放棄/数次相続の場合の相続放棄

▼この記事でわかること
相続の放棄の基本
相続放棄の連鎖
相続の放棄の誤った使用法
金貸しとの戦い
生前の放棄
数次相続の場合の相続放棄
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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相続の放棄

 相続は、包括承継の代表選手であり、原則として、被相続人の財産上の権利義務の一切が、被相続人の死亡の瞬間に相続人へと承継されます。
 しかし、財産上の権利義務の一切の承継ですから、当然のことながら被相続人の債務も承継されます。
 
 さて、モデルケースとして、夫婦と子供1人の家庭を考えてみましょう。
 夫が大借金を残して死亡したらどうなるでしょうか?
 実は、この事態は緊急事態です。
 というのは、このケースでは、すでに述べた家庭裁判所への申述による相続の放棄が可能です。
 しかし、これには厳格な期間制限があります。
 それは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月です。(民法915条1項)
 上記のモデルケースでは、残された母子が相続の開始を知ったのは、夫死亡の時というのが一般的でしょう。
 とすれば、そこから3ヶ月です。
 3ヶ月以内に、家庭裁判所に駆け込まなければ、夫の債務のすべては法律上当然に母子の債務となります。

相続放棄の連鎖

 夫が死亡し、妻と子が相続放棄した後はどうなるでしょうか?
 子がもともと相続人ではなかったことになるので、死亡した夫に直系尊属がいれば、その者が相続人となります。
 だから直系尊属は大借金を免れるために相続放棄をしなければなりません。
 その後どうなるのでしょうか?
 直系尊属がもともと相続人でなかったことになるから、死亡した夫に兄弟姉妹がいれば、その者が相続人となります。
 なので兄弟姉妹は、大借金を免れるために相続放棄をしなければなりません。

相続の放棄の誤った使用法

 夫婦と子供1人の家庭があるとして、夫の両親は死亡しているが夫の兄弟が1人存命というケース。
 このケースで夫が死亡し、死亡した夫にプラスの相続財産があったとします。
 このような場合に、残された妻が遺産を独占する目的で、子に相続の放棄をすすめることがあります。そして、子がこれに同意し、家庭裁判所で相続放棄の申述をすると悲劇が起こります。
 相続放棄の強力な効果により、子がもともと相続人ではなかったとみなされる結果、次順位の夫の兄弟が相続人となり、4分の1の相続分を取得することになるのです。
 つまり、妻の遺産独占の目論見は、もろくも崩れ去ることになります。
 こういう場合は、家庭裁判所などには行かず、母子間で母が全財産を承継する旨の遺産分割をすればよかったのです。

金貸しとの戦い

 従来、借金まみれの人物が死亡した場合、金貸しはすぐに相続人に電話をかけました。そして借金の返済を迫りました。しかし、逆にそのことにより相続人が死者の借金に気づいた結果、相続の放棄をされてしまうという事例が多発しました。
 そこで、金貸しは知恵をつけます。死亡後3ヶ月の間は取立てをせず、死亡から3ヶ月経過後に、はじめて返済を迫る電話をかけるのです。
 さて、この事案において残された相続人の運命はどうなるのでしょうか?
 この点について、判例は、民法915条がいう自己のために相続の開始があったことを知った時とは、単に被相続人の死亡とそのことにより自己が相続人となったことを知った時であるとは限らないと判示しました。
 つまり、相続人が相続財産は存在しないと信じていたようなケースでは、相続財産の存在を認識した時(つまり、借金があるとわかった時)、または通常認識できる時から熟慮期間の3ヶ月を起算すべきであるということになります、
 熟慮期間とは、民法915条が規定する相続の承認、放棄を決定すべき期間を一般にいいます。

【相続の効果】
 相続の放棄の効果は絶対的であるという判例があります。
 元々、先祖の負債が代々引き継がれることは非人道的であるという考え方からできた制度であるから、このような強力な効果が認められます。
 その具体的な意味は、相続放棄をした者は、そもそも相続人ではない(初めから相続人ではなかったことになる)ということです。

生前の放棄

事例1
Aの子はBである。


[問1]
BはAの生前に相続を放棄することができるか?

 結論。相続の開始前に相続の放棄をすることはできません。相続の放棄は被相続人の死亡後に限られます。
 この点は、推定相続人が被相続人から不当な圧迫を受けることを防ぐためと説明されています。

[問2]
BはAの生前に遺留分を放棄することができるか?

 相続の開始前に遺留分を放棄することは可能です。しかし、そのためには家庭裁判所の許可が必要です。放棄をしようという推定相続人の真意を確認するためです。(民法1043条1項)

事例2
Aの子がBである。BはAの死後、相続の放棄をした。


[問1]
熟慮期間内であれば、Bは相続の放棄を撤回することができるか?

 結論。相続放棄の撤回は、熟慮期間内においても認められません。(民法919条1項)

[問2]
Bの相続放棄の意思表示が、詐欺・強迫によるものであった場合、Bは相続の放棄を取り消すことができるか?

 結論。民法総則編の規定による取消しは認められています(民法919条1項)。つまり、詐欺による取消しの主張等は可能です。
 ただし、取消権の行使は追認をすることができる時(例えば詐欺強迫を脱した時)から6ヶ月または放棄の時から10年以内に家庭裁判所への申述により行わなければなりません。

数次相続の場合の相続放棄

 Aが死亡しBがこれを相続したが、Bがその熟慮期間中に何らの意思表示をせずに死亡しCが相続をした場合にどういう状況となるでしょうか?
 この場合、CはAB間とBC間の相続についての判断を迫られます。
 そして、その熟慮期間は、AB間BC間双方について、Cが自己のために相続の開始があったことを知ってから3ヶ月となります。(民法916条)
 Bの熟慮期間の残された時間でAB間の相続についての判断を迫られるのはCにとって酷であるからです。
 なお、この場合のCの判断について、以下に簡単に記します。
・CがBC間の相続を放棄すると、CはBの相続人としての地位を失うので、AB間の相続の承認・放棄のいずれもすることができなくなります。
・CがBC間の相続を承認したときは、CはBの相続人として、AB間の相続の承認・放棄のいずれもすることができます。
・CがBの相続人としてAB間の相続を放棄した後に、BC間の相続を放棄することができます。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【単純承認と限定承認】その手続と事例/相続財産の対象となる財産とは?一身専属権はどうなる?

▼この記事でわかること
限定承認について
単純承認について
相続財産の対象となる財産とは
一身専属権の相続問題
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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限定承認

 相続人は、熟慮期間中(相続があった事を知った時から3ヶ月間)に、相続放棄の他に限定承認をすることもできます。

(限定承認)
民法922条 
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる


 限定承認は、相続人にとって都合の良い制度です。
 被相続人の遺産が、プラスも大きいがマイナス(負債)もまた大きいというような場合を想定しています。
 この場合、プラスの財産のほうが大きいかもしれないので、相続の放棄をするのはもったいないのです。
 しかし、マイナスが多い可能性を考えれば、単純に承認をして権利義務の一切合財を承継することは危険です。
 そこで、限定承認という手を使うことができるのです。

限定承認の手続

 限定承認の手続は、まず、債権者等に対する公告をして被相続人の債権者等を探し出します。
 そして、被相続人の財産から債権者に対する弁済を行います。
 その残額があれば、遺贈を弁済します。
 さらに、その残りがあれば相続人がこれを承認するのです。
 仮に被相続人の遺産から債権者や受遺者への弁済をすることができなければ話はそれで終了であり、相続人が弁済をする必要はありません。
 つまり、被相続人の遺産で、債務を清算し、プラスが残れば相続人がこれを取得しますが、マイナスが残れば相続人は知らんぷりを決め込むことができるのです。
 このように、限定承認は相続人にとって都合のよい制度なのです。

【限定承認と家庭裁判所】
 限定承認手続は家庭裁判所の監督下に置かれます。相続人は限定承認をする旨を家庭裁判所で申述し、相続財産の目録を家庭裁判所に提出しなければなりません。つまり、勝手に相続財産を私物化することは許されなくなります。

限定承認の事例

事例1
Aが死亡し、BCDの3名が相続人である。


[問1]
BCの2名のみで限定承認をすることができるか?

 結論。BCのみの限定承認は不可能です。
 民法923条は、相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができると規定しています。
 さて、ではその理由は何でしょうか?
 限定承認は、死者の財産でのみ、死者の債務を弁済します。そのためには、死者の遺産と相続人の固有の財産を明確に分離する必要があるのです。
 民法922条が規定するように、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済するためには、その前提として、どこまでが死者の財産であり、どこからが相続人固有の財産であるかがはっきりと分かれていなければなりません。
 ですから、相続人全員が団結して、とにかく限定承認の手続進行中は、死者の遺産を相続人の固有財産と混ぜ合わせないことが大事なのです。
 仮に、相続人の1人であるDが死者の遺産を単純に承認すれば、その限度で死者の遺産がDの固有資産と混じり合ってしまいます。
 だから、限定承認は共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができるのです。

[問2]
Dが相続を放棄した場合、BCの2名のみが限定承認をすることができるか?

 結論。相続を放棄したDはもはや相続人ではありません。したがって、相続人の全員であるBC両名が団結すれば限定承認できます。

単純承認

 相続の放棄もせず、限定承認でもないケースが単純承認です。
 世の中で一番多いパターンであり、単純に死者の遺産を相続人がまるごと承継する結果となります。
 単純承認をする場合には、家庭裁判所に行く必要はありません。
 民法921条2号は、熟慮期間が経過すれば相続人は単純承認をしたものとみなすと規定しており、世の中の相続事件の大半はこの規定により単純承認とみなされる結果となっています。
 上記のケースのように、相続人が単純承認の意思表示をしていないのにもかかわらず、民法の規定により単純承認をしたものとみなされるケースを法定単純承認といいます。
 では、ここからは事例とともに単純承認について具体的に解説して参ります。

事例2
Aが死亡した。Bが相続人である。


[問1]
相続の開始を知ったBは、亡Aの債権(Aの遺産の一部)を取り立ててこれを消費した。この後にBは相続の放棄をすることができるか?

 結論。Bは相続の放棄ができません。
 相続人が相続財産の全部または一部を処分すると単純承認をしたものとみなされます。(民法921条1号本文)
 債権の取立ては処分行為に該当します。いったん遺産を私物化しましたから、その後の放棄は認められません。
 つまり、相続の放棄をするのであれば、遺産には手をつけずにこれを行うことがスジであるにもかかわらず手をつけたので、その後の相続の放棄は認めないのです。

[問2]
BがA名義の建物の不法占拠者に立退き要求をした。この後にBは相続の放棄をすることができるか?

 結論。Bは相続の放棄ができます。
 この場合、Bの行為は、相続財産に対する保存行為です。
 民法921条1号ただし書は、相続人が保存行為や民法602条が規定する短期の賃貸をした場合には、単純承認とはみなされないと規定しています。遺産の私物化に該当しないからです。

【補足】短期賃貸借
 民法602条の短期賃貸借は以下のケースです。
・樹木の栽植または伐採を目的とする山林の賃貸借 10年まで
・土地の賃貸借 5まで
・建物の賃貸借 3年まで
・動産の賃貸借 6ヶ月まで

事例3
Aが死亡した。大きな負債を残したAには子Bがいる。


[問1]
Bは相続放棄をしたが、その後に相続財産である金員を私的に消費した。BはAの負債を免れるか?

 結論。相続放棄または限定承認をした場合、相続財産を私的に流用することは許されません。これを行った場合には、単純承認をしたものとみなされます。
 したがって、Bは負債を免れることはできません。

 民法921条3号は「相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠蔽し、私的にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかった(最後は限定承認のケース)とき」には、相続人は単純承認したものとみなされるとしています。
 これは、相続放棄をし債務を免れた上で、プラスの財産だけを承継しようというような相続放棄者の不正な目論見への民法上の制裁です。

【補足】相続の目録
 限定承認をするという申述の際、家庭裁判所に提出する被相続人の財産目録のこと。ここに悪意で記載をしない財産があるということは財産を隠したこと(隠蔽行為)になる。

[問2]
亡Aの父Cが存命であり、Bの相続放棄の後にCが相続を承認していた場合に、Bが相続財産である金員を私的に消費したとき、Bは単純承認したとみなされるか?

 結論。相続人(B)が相続の放棄をしたことによって相続人となった者(C)が相続の承認をした後に、相続人(B)が相続財産の隠蔽・私の消費をした場合には、相続人(B)が単純承認とみなされることはありません。(民法921条3号ただし書)
 すでに、相続債権者がCに対して弁済の要求をしているだけの段階であるため、これらの者に迷惑がかかるおそれがあるからです。

 以上、単純承認についての解説でしたが、下記の民法の条文も確認してみてください。

(法定単純承認)
民法921条 
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。


相続財産の対象となる財産
家 金 女性 悩む
 民法896条本文は、相続人は、相続開始の時から、被相続人に属した一切の権利義務を承継すると規定します。
 そこで、まず第一に、ある財産が被相続人に属しているのかどうかという問題点が生じます。
 この点について、事例を挙げて解説して参ります。

事例
Aが死亡した。その相続人がBである。Aは受取人をBとする保険金に入っていた。


 さて、この事例で、Aの死後支払われる保険金は、Aの相続財産に含まれるでしょうか?それとも、元々Bの財産であるのでしょうか?
 結論。これは、受取人がBであるから、生命保険金は相続人Bの固有財産であるというのが判例の考え方です。
 生命保険金は、その旨の約定に基づき、保険会社から直接Bに支払われるのであり、Aの相続財産を構成しません。

事例
Aが死亡した。その相続人がBである。Aの勤務先から死亡退職金が支払われることになった。


 さて、この事例で、死亡退職金はAの相続財産に含まれるのでしょうか?それとも、元々Bの財産であるのでしょうか?
 結論。死亡退職金は、遺族の生活保障の意味合いが強いとされており、これも相続人の固有財産であると考えられています。
 したがって、勤務先の支払規定に従って遺族が直接支給を受けるのであり、例えば、配偶者(内縁の妻を含む)を第一順位として支払うというような内規があれば、その規定に従い、配偶者の固有財産となります。

議論の実益

 上記の論点をどう解釈するかにより、遺族の取り分は大きく異なることになります。
 相続人が複数いるとしましょう。例えば、生命保険金を相続財産と考えれば、死者が遺言を残していない場合、生命保険金は法定相続分に従い相続人全員に帰属することになります。しかし、特定の受取人の固有財産と考えれば、その受取人が(生命保険金の)全額を取得する結果となります。 

【補足】
 死亡により終了する法律関係として、民法に明文が存在するものに、以下のような例があります。
1.委任の終了 
 委任者・受任者いずれかの死亡により終了する。(民法653条1号)
2.代理の終了
 本人・代理人のいずれかの死亡により終了する。(民法111条)
3.使用貸借の終了
 使用借人の死亡により終了する。(民法599条)
4.組合員たる地位
 組合員は死亡により組合を脱退し、相続人がその地位を引き継ぐことはない。(民法679条1号)

一身専属権の相続問題

 民法896条は、相続人は、相続開始の時から被相続人に属した一切の権利義務を承継するとしつつ、ただし、被相続人の一身に専属したものはこの限りではないと規定します。
 では、ある権利義務がこの一身専属権にあたるのかどうかを考えて参ります。

事例
Aが死亡した。その相続人がBである。


[問1]
Aが生活保護を受ける権利はBに相続されるか?

 結論。相続されません。
 憲法の判例として有名な朝日訴訟において、原告は生活保護基準の低劣を訴えましたが、最高裁は原告死亡により生活保護の受給権は消滅すると判示しました。
 将来の給付分はもちろんのこと、原告生存中ですでに未払いとなっているものも相続の対象にはならないという趣旨です。
 これは、生活保護受給権は、一身専属権であり、「生活困窮→給付」が不可分の関係にあるという考え方としています。

[問2]
Aが交通事故で死亡した場合、その精神的苦痛を慰謝するための損害賠償請求権はBに相続されるか?

 結論。相続されます。
 判例は、慰謝料請求権が発生する場合の被害法益は一身専属であるとしますが(痛いとか苦しいという精神的苦痛は死者に専属しているという意味)、しかし、これにより生じた慰謝料請求権という金銭債権は相続の対象となる判示をしています。
 つまり、死者を慰謝するための損害賠償を、相続人が加害者に請求することができるという結論となります。
 なお、判例は、現実には死者が慰謝料の請求を表明しなかったときにも、慰謝料請求権は発生し、それが相続人に相続されるものとしています。

[問3]
Aはある農村で土地の占有を継続していた。Aが死亡した場合、その相続人である東京にいる息子は占有権を相続するか?

 結論。占有権は相続され、死亡と同時に相続人に承継されます。
 占有は事実状態なので、東京にいる息子が、実際には農村にはいないのに、占有権を承継するというのはちょっと変な感じもしますが、判例は相続を認めています。
 こう解釈することにより、被相続人の死亡によっても占有は自然中断することはなく、例えば、被相続人が他人の土地を自主占有していた場合に、東京の息子がその土地の時効取得をすることが可能となります。

[問4]
Aが限度額と期間の定めのない継続的信用保証契約をしている場合、Aの死後に生じた主債務についての保証債務はBに相続されるか?

 結論。相続されません。
 限度額および期間の定めのない保証契約とは、すなわち、主債務者がケタ違いに高額な債務を負ってもすへて保証するし、しかも、いつまでが保証期間であるかも定めていないから永遠に保証しなければならないという、保証人にとってベラ棒に不利な契約です。
 これは、主債務者と保証人の特殊な人的関係を基礎とした契約であると考えられ、したがって相続人が上記の重すぎる保証契約を承継することはありません。

【補足】ゴルフ会員権
 会員が死亡した場合、会員資格を失うという規定のあるゴルフクラブにおける会員たる地位は一身に専属します。すなわち、相続人が会員権を相続することはできません。せいぜい、預託金(会員になる際、ゴルフクラブに預けたお金)の返還を求めることができる程度のことになります。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【寄与分と特別受益と相続分の譲渡】法定相続分の修正~妻の日常労働分は?遺贈との優劣は?

▼この記事でわかること
寄与分とは~妻の日常労働は?
寄与分の具体例、遺贈との優劣
特別受益者の相続分
相続した物が滅失していたら?
相続分の譲渡
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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寄与分と特別受益

 相続人間の、実質的な公平を図るために法定相続分を一部修正する仕組みとして、寄与分と特別受益の制度があります。

寄与分

 共同相続人中に、被相続人の財産の維持、増加について特別の寄与をした者がいる場合に、その者を優遇するための仕組みが寄与分の制度です。
 例えば、田舎で農家をしていた父の仕事を、無償に近い形でまめに手伝っていた長男と、東京でサラリーマンをしていた二男の間では、長男を優遇しようという制度です。
 以下の点が寄与分として考慮されます。(民放904条の2第1項)
・被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付
・被相続人の療養看護その他の方法

妻の日常労働は寄与分として評価されるか

 寄与分の要件は、「被相続人の財産の維持、増加について特別の寄与」です。妻の日常の家事は、通常の寄与であるから寄与分としては考慮されません。
 民法は、一方配偶者が他方配偶者の面倒をみるのは当然であり、だからこそ配偶者の法定相続分は他の相続人よりも、もともと多めにしていると考えている。
 つまり、妻の日常家事労働の分は、法定相続分にすでに織込み済みであるということです。

寄与分についての具体例

事例
Aが死亡し、その嫡出子BCが相続をした。Aの相続財産の価額が6000万円であり、Bの寄与分が2000万円である。


 さて、この事例で、BCそれぞれの相続分はいくらでしょうか?
 寄与分があるときの相続分は以下のように算定します。
 
1、全体の相続財産の価値から寄与分を引きます。
6000万ー2000万=4000万円

2、上記の金額を各相続人に法定相続分どおりに取得させます。
Bの取り分 4000万×1/2=2000万円
Cの取り分 4000万×1/2=2000万円

3、最後に特別の寄与をした者に寄与分を足します。
Bの取り分 2000万+2000=4000万円

 以上の計算により、Bが4000万円、Cが2000万円を取得します。

【補足】寄与分と内縁の妻
 内縁の妻が特別の寄与をした場合に、寄与分が認められるでしょうか?
 結論。認められることはありません。その理由は、寄与分を規定する民法904条の2は、その冒頭で「共同相続人中に......」と書いているからです。
 つまり、相続人には寄与分が認められますが、相続人ではない内縁の妻の寄与分を定めた条文は、民法には存在しないのです。

寄与分と遺贈の優劣

 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価値から、遺贈の価額を控除した残額を超えることはできません。(民法904条の2第3項)
 遺贈分を差し引いてから、その限度で寄与分を定めろという意味です。
 つまり、寄与分と遺贈の間では、遺贈が優先することになります。
 故人の意思を優先するという趣旨の規定です。

特別受益者の相続分
説明女性
 寄与分の逆バージョンが特別受益者の制度です。(民法903条)
 共同相続人中に被相続人から遺贈を受け、または婚姻、養子縁組もしくは生計の資本として贈与を受けた者があるとき、その者を特別受益者として相続において冷遇をします。

事例
父Aが死亡し妻Bと嫡出の兄弟2人CDが相続をした。相続財産は5000万円である。兄Cは婚姻に際して、生前の父から金1000万円の贈与を受けていた。


 さて、この事例で、BCDそれぞれの相続分はいくらになるでしょうか?

 特別受益者がいるときの相続分は以下のように算定します。

1.相続財産の価額に贈与の価額を加える。
5000万+1000万=6000万円

2.上記の金額を、各相続人に法定相続分どおりに取得させる。
Bの取り分 6000万×1/2=3000万円
Cの取り分 6000万×1/4=1500万円
Dの取り分 6000万×1/4=1500万円

3.最後に特別受益者の取り分から贈与された額を引く。
Cの取り分 1500万ー1000万=500万円

 以上の計算により、相続財産である5000万円は、Bが3000万円、Cが500万円、Dが1500万円を取得します。

【補足】Cが受けた贈与が3000万円の場合
 父Aが死亡し妻Bと嫡出の兄弟2人CDが相続し、相続財産は5000万円である場合に上記の計算をすると、Bが4000万円、Cがマイナス1000万円、Dが2000万円となります。
 この場合、Cは相続に際して金1000万円を持ち戻す必要があるでしょうか?
 民法903条2項はこれを否定しています。
 上記のケースでは、Cの相続分はゼロとなるが、もらいすぎた形の金1000万円を元に戻す必要はなく、もらいっぱなしでもかまいません。
 その結果、Bの相続分は5000万円×2/3、Dの相続分は5000万円×1/3となります。

相続した物が滅失

 特別受益者が、被相続人の生前に贈与を受けたが、相続開始前には、その物が滅失していたらどうなるでしょうか?
 例えば、貴重な骨董品(金1000万円相当)の贈与を受けたが、これが壊れた場合です。
 このケースにおいては、その滅失が受贈者の行為による場合であれば、その責任を取られます。
 すなわち、相続開始時において、その骨董品はなお原状のままである(壊れていない)ものとみなして、贈与の価額を金1000万円と定めます。(価額の算定基準時は相続開始時)。
 同様の操作は、受贈者の行為により、贈与の目的財産に価額の増減があった場合にも行います。(民法904条)

特別受益者がいる場合の相続分

 Aが死亡し、妻B・子C・子Dがあり、Cが特別受益者で受けるべき相続分がない場合の、相続分の考え方は以下のとおりです。

1.本来の相続分
B:2
C:1
D:1

2.修正後の相続分
CはAの生前に、すでに上記の1の取り分を受領しています。
B:2
C:1
D:1

 以上から、Bの相続分は2/3、Dの相続分は1/3となります。

相続分の譲渡

事例
Aが死亡し、BCDの3名が相続をした。(相続分は各3分の1)。


問1
Dは自己の3分の1の相続分をCに売却できるか?

 結論。相続分の譲渡は可能です。
 これは、相続財産に対する相続分という観念的な存在を、まるごと売却(贈与等も可)をする仕組みです。

【補足】遺産分割
 通常の相続事件はつぎのように進行します。
1.法定相続分が決まる。(遺言がなければ民法の規定により自動的に決まる)
 この時点で相続財産は相続人の共有となります。(民法898条)
2.共同相続人間で遺産分割協議を行う。
3.協議の結果、遺産に含まれる個別の資産が、相続人の固有財産となります。

問2
Dは自己の3分の1の相続分を第三者であるEに売却できるか?

 結論。できます。
 第三者に対する相続分の譲渡も可能です。
 この場合には、EがDの相続分を取得し、BCEの3人で遺産分割をすることになります。
 この場合、Eは遺産分割の当事者となりますから、自ら家庭裁判所に遺産分割の調停または審判の申立てをすることができます。

【補足】相続分の取戻し
 上記、共同相続人の1人(D)から第三者(E)に相続分が譲渡された場合には、他の共同相続人(BC)は、その価額と費用を賠償して、第三者から相続分を譲り受けることができます。(民法905条1項)
 つまり、EがDに支払った対価と費用を賠償して、Eから相続分を取り戻すことができる訳です。
 これは、相続分が第三者に譲渡されると、アカの他人との遺産分割を余儀なくされる他の共同相続人の便宜を考慮した制度です。
 例えば、上記の事例でBがEから相続分を取り戻せば、相続人はBCの両名となり、アカの他人であるEとの遺産分割を回避できます。
 この場合、BC間で、Bが3分の2、Cが3分の1という相続分を基本として遺産分割をすることになります。

【補足】取戻し期間
 民法905条1項の権利は、1ヶ月以内に行使しなければなりません。(同条2項)
 しかし、この条文には「起点」がありません。
 いつから「1ヶ月」なのかが不明なんです。
 解釈上は、他の共同相続人に相続分譲渡の通知(債権譲渡の通知と同趣旨)がされた時からとされています。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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