【債権者代位権】基本と要件と範囲/債権者代位権の転用とは/代位の代位は可能?

▼この記事でわかること
債権者代位権の超基本
債権者代位権の要件
債権者代位権の範囲
債権者代位権の転用
代位の代位
債権者の死亡
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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債権者代位権の超基本

 抵当権等の担保権を持たない一般債権者にとっては、債務者の責任財産(一般財産)が貸したお金の回収等の(債権実現のための)最後のよりどころです。
 なので、例えば、債務者がギャンブル三昧で散財している状態などは、債権者からすれば怖いものがあります。
 貸し倒れの危険性大です。闇金ウシジマくんでもなければお金の回収は相当キビしくなってしまうでしょう。
 しかし、たとえ債務者にお金を貸しているからといって、当然に債務者の生活に口出しできるわけではありません。
 なぜなら、債権の内容は「借りた金返せ」ということであって「散財するな」ではないからです。
 そもそも、債務者が自身のお金をどう使うかは債務者の自由です。債務者がちゃんと借りたものを返せるのであれば、ギャンブルしようが夜の街で遊ぼうが自由なのです。
 ですが、もし債務者が無資力(一文無し)の状態であるのにそれを放置し、または自らで無資力状態を作り出した場合には、債権者として何らかの手を打つことはできないのでしょうか?
 それが、あります。
 まずは事例をご覧ください。

事例1
AはBに金1000万円を貸し付けた。Bの財産はCに対する1000万円の売掛金債権だけである。しかし、BはCの弁済期が到来しているにもかかわらず、Cに対し1000万円の取立てをしない。


 これは、Aに対して1000万円の借金を背負っているBが、その財産がCに対する売掛金債権1000万円しかない状態で借金1000万円の弁済期が到来しているのに、Bはその唯一の財産である売掛金債権1000万円の取り立てをして借金返済のためにCからお金を回収しようとしない、という事例です。

 貸金債権  売掛金債権
A  →  B  →  C
  1000万    1000万
         
      取り立てない
       (B唯一の財産)

 さて、ではこの事例1で、AはBでなくCに対して、直接自己に1000万円支払えと請求できるでしょうか?

 貸金債権  売掛金債権
A  →  B  →  C
  1000万    1000万
    A       C
   (直接支払え)
      
    できる?

 この事例1でのポイントは、BはCに対する貸付金を除けば無資力(一文無し)だという点です。
 つまり、Bに1000万円貸し付けたAとすれば、BがCから1000万円を取り立てて初めて自己の弁済を受けられることになります。
 しかし、Bはその自己の権利を行使しない、すなわちCへの取り立てを行わない状況です。
 そして、この状況は、Bが自己の無資力を放置しているということになりますよね。
 この状況のまま放置し続けて、BのCに対する売掛金債権が消滅時効にかかってなくなりでもしたら、Bは本当の意味で一文無しになります。
 そうなれば、おそらくAのBに対する貸付金は、貸し倒れになってしまうこと必至です。

 本来、AB間の金銭消費貸借契約は、AとBの間だけの話であって、他の誰かとは関係ありません。
 なので、AB間でどんな約束をしてもOKですし(契約自由の原則)、逆に、AはBに「金返せコラ」と請求することはできても、B以外の者に「金返せコラ」と請求することはできないはずです。
 しかし、Bの無資力という状況が生じると、Aは自分の債権を満足させるために、(その売掛金債権1000万円の範囲内で)Cに対し支払いを請求できます。
 これが、債権者代位権です。
 本来ならばAB間にしか効力のない債権をもとに、第三者であるCにも請求することができるのです。
 また、これを「債権の対外的効力」といいます。
 そして、債権者代位権についての民法の条文はこちらです。

(債権者代位権の要件)
民法423条
債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。


 この民法423条を事例1にあてはめて考えるとこうなります。
 まず、「債権者」はAのことです。
「自己の債権を保全するため」というのは「(Aが)Bに対する貸付金の返済を受けられるようにするため」という意味です。これは「Bの無資力」を指していると解釈されます。
「債務者に属する権利」とは、BがCに対し持っている「売掛金債権」のことです。
 したがいまして、事例1にあてはめると、上記民法423条はAはBが無資力の場合には、BがCに対して持っている売掛金債権を行使することができる」と言っているのです。
 このような形で、Aは自己の債権実現(債権回収)のための最後のよりどころとなるBの責任財産を充実させる(売掛金債権を回収させる)ことができるのです。
 Bがやるべきことをしないから、Aが代わって(代位して)本来の姿を作り出す訳です。寝ている債務者(B)を無理矢理起こす手段とも言えますね。

債権者代位権の要件

 債権者代位権の要件は、原則として債権者の債権の弁済期が到来していることです。
 つまり、事例1では、原則としてAのBに対する貸付金債権の弁済期が到来していれば、Aは債権者代位権を行使して、Cに対し直接「私に1000万円支払え!」と請求することができます。
 これが、事例1の問いかけについての答えになります。
 あれ?BのCに対する売掛金債権の弁済期の到来は必要ないの?
 もちろんそれも必要です。ですが、事例1においては、BのCに対する売掛金債権の弁済期が到来していることは記されていますよね。それに、そもそも、Bの売掛金債権の弁済期が到来しているのにもかかわらず、BがCに対し取り立てをしないからやむなくAは債権者代位権の行使という手段に至る訳です。

【補足】
 債権者代位権は、裁判外で行使することができます。
 つまり、要件を満たせば、訴訟を起こさずとも債権者代位権の行使は可能です。

なぜAはCに直接支払えと請求できる?その理由
?女性
 本来のスジで考えれば、債権者代位権は、債務者Bの財産状況が悪い場合にその責任財産(一般債権者であるAが差し押さえることのできる財産)を充実させることを目的としています。
 ということは、AはCに対し「Bに支払え」と請求できても「私に直接支払え」とは請求できないはずです。
 そもそも、Cが支払債務を負っている相手はBです。
 したがって、Aが、第三者Cに対して「Bに支払え」と請求することは当然に可能です。
 そして、Bに対してCが支払いをし、後にAがBの責任財産を差し押さえる、というのが債権者代位権の制度の本来のカタチです。
 しかし、事情をよく考えてみましょう。
 なぜ、BはCに対する売掛金債権を回収しようとしないのでしょうか?
 それは、例えば、Bはすでにかなりの多重債務に陥っていて自暴自棄になってしまっていることが考えられます。
 Bに群がる債権者は事例で記されたA以外にも他にたくさんいるかもしれません。
 では仮に、Bに対して1000万円の債権を持っている債権者がAを含めて5人いたとすれば、Bに対する債権の総額は5000万円ですが、Bの財産はCに対する売掛金債権1000万円分だけです。
 すると、Aを含めた5人の債権者は債権者平等原則に従い2割配当でそれぞれ200万円ずつの弁済を受けることになり、各自残りの800万円分は平等に泣いてもらうことになるはずです。
 しかし、判例は「BがもしCからの支払を拒絶した場合には、Aの債権者代位権が行使できなくなる」という理由で、AによるCへの直接の支払請求を認めています。
 したがいまして、AはCから1000万円を直接受領することができるのです。
 ただし、この1000万円は本来はBが受け取るべきものです。元々はBの売掛金債権ですので。
 なので、AはBに対しこの1000万円を返還する必要が生じます。
 そうすると、AB間は以下の状況になります。

 1000万返せ
A  →  B

 1000万返せ
A  ←  B

 つまり、AとBはお互い金1000万円の債権を持ち合うことになります。

A  B

 あれ?BもAに対して債権を持つことになるの?
 はい。この1000万円はBの売掛金でもあるので。
 しかし、Aは「相殺」することにより、自分の債権と相手方であるBの債権を打ち消し合うことができます。
 ABは、お互いに同額の債権を持つことで、(相殺することにより)お互いに現実に払う必要がなくなるというわけです。
 結果的に、AはBから1000万円の弁済を受けたことと同じことになるのです。
(相殺についての詳しい解説は「【相殺の超基本】自働債権と受働債権って何?」をご覧ください)
 そんなこんなで、現金1000万円はAの手元に残り、ABの債権債務関係はなくなります。
 あれ?でもそうするとAが優先弁済されてることになるよね?債権者平等原則に反するんじゃね?
 確かにそうです。しかし、これについては、相殺を禁じる規定がない以上はAの相殺の主張は認めざるを得ないと、判例で結論づけられています。
 この結論は、民法改正前と改正後で変化はありません。(民法改正後も相殺を禁じる規定は無いままです)
 以上、ここまでが、債権者代位権の基本になります。

債権者代位権の範囲

 ここから、さらに債権者代位権について掘り下げて解説して参ります。
 まずは、こちらの事例をご覧をください。

事例2
AはBに対する金1000万円の債権を保全するため、BのCに対する金1200万円の債権を代位行使しようとしている。


 さて、この事例で、AはBの債権をいくらまで代位行使できるでしょうか?1000万円?1200万円?
 債権者代位権は、自己の債権を保全するために行使するものです。なので、その限度でのみ行使できます。それ以上は、被代位者(事例のB)に対する過度の干渉になるからです。
 したがいまして、結論。
 Aは、BのCに対する1200万円の債権のうち、1000万円の限度で代位行使することができます。

Aの債権の弁済期が未到来の場合

 それでは、事例で、Aの債権の弁済期が来ていない場合、Aは債権者代位権の行使はできるのでしょうか?
 原則として、弁済期が到来していないときは債権者代位権の行使はできません。自己の権利自体が行使可能ではないからです。
 しかし、裁判上の代位のケースと保存行為の場合であれば、弁済期未到来でも代位権を行使できます。
 したがいまして、試験等の問題で、単純に「債権者代位権は被保全債権(事例においてAの債権のこと)の弁済期が到来しない限り行使できない」という肢があれば、それは誤りの肢となります。

【補足】
 Bが自己の債権を行使した場合、Aは債権者代位権を行使できるのか?
 これはできません。
 本来、Bの債権はBが行使するものです。それをBが自分自身が行使した訳ですから、当然ですよね。

・注意点
 では逆に、Aが債権者代位権を行使した場合、その後にBが自己の債権を行使することはできるのか?
 これはできます。
 実は、民法改正前は、この場合にBは自己の債権を行使することはできませんでした。
 しかし、民法改正により結論が変わりましたので、改正前の民法で覚えていた方はくれぐれもご注意ください。
ここがポイント女性
債権者代位権の転用

事例2
AからB、BからCへと甲不動産が転売された。しかし、登記はいまだAにある。なお、Bは無資力ではない。


 さて、この事例2で、Cは自己の登記請求権を保全するために(守るために)、BのAに対する登記請求権を代位行使できるでしょうか?

      (甲不動産)      
   転売  転売
  A → B → C
登記
  A  B  C
  登記請求
  
Cが代位行使できる?   

 この事例2は、債権者代位権の転用の問題になります。
 元来、債権者代位権の行使は、債務者の無資力を要件とします。
 ということは、この事例2では「Bは無資力ではない」とあるので、債権者代位権の要件を満たせず終了~となりそうですが…。
 でも、事例2のCが欲しいのは甲不動産の登記であり、金銭ではありません。
 ということは、Bが無資力かどうかは、Cにはどうでもいいことなんです。
 結論やいかに?
 結論。CはBの登記請求権を代位行使することができます。(判例)
 なぜこれが認められるかといいますと、中間省略登記か原則として不可能な登記制度のもとでは、これを認めなければCに自己の登記を実現する手段がないからです。金銭債権のときのように、自己に直接払えという請求が、登記請求権の代位行使の場合、制度上できないのです。
 なるほど。でもBが無資力じゃないこともそうだけど、そもそも債権者代位権を登記請求権に使えるの?
 はい。これこそが「債権者代位権の転用」なのです。
 転用とは、本来は債務者の無資力を要件とした金銭債権保全のための債権者代位権の規定を、それとは直接の関係のない特定債権に「転用」する、ということです。

代位の代位は可能か

 甲不動産がAからB、BからC、CからDへと転売された場合に、未だ登記名義がAにあるとき、DはAに対してBへの所有権移転手続を請求できるでしょうか?
 これはつまり、Cの債権者代位権をDが代位行使できるのか、すなわち代位の代位は可能か?という問題です。
 結論。代位の代位は可能です。
 したがいまして、DはAに対してBへの所有権移転手続を請求することができます。

【補足】
 金銭債権以外にも、動産の引渡し債権の場合も、要件を満たせば自己に直接引き渡せという請求が可能です。
 例えば、時計がA→B→Cと転売されたケースで、Bが時計の受領を拒絶した場合(時計はAの手元のまま)、CはAに直接「私に引き渡せ」と請求できます。
 また、建物の賃借人が、賃貸人(オーナー)に代位して、建物の不法占拠者に対して目的建物を直接自己に引き渡すことを請求することも可能です。

【補足】債権譲渡について
 AがBに債権譲渡した場合に、BがAに代位して債権譲渡通知をすることはできません。
 債権譲渡通知は、債権という権利をBに譲ったA自身がするからこそその信憑性があります。権利を失うという自己に不利な通知をわざわざ自分でするからこそ信用できるというわけです。
 したがいまして、譲受人による債権譲渡通知の代位行使はできません。

債権者の死亡

続いて、次のようなケースではどうなるでしょうか。

事例3
Aは甲不動産を資産家Zに売却した後に死亡した。Aの代金請求権の共同相続人はBCの2名である。


 さて、ではこの事例3で、Bが所有権移転登記に協力しないとき、CはZのBに対する登記請求権を代位行使できるでしょうか?

    甲不動産
(死亡) 売却
 A    →    Z
 ↓相続
  BC

   登記請求権
B    Z
     
Cが代位行使できる?

 本事例では、共同相続人の1人であるCは、Aから相続した代金請求権を行使したいのです。Zに甲不動産の売却代金を支払って欲しいわけです。
 しかし、Zは甲不動産の所有権移転登記との同時履行を主張し、代金を支払わないません。
 そこで、CがZのBに対する登記請求権を代位行使し、Z名義の登記を実現させることにより、Cは甲不動産の売却代金の支払いを受けられるか、という話です。
 この事例3は、金銭債権実現のための債権者代位権です。
 ということは、その要件としてZが無資力であることが求められますが、Zは資産家です。お金はたんまりあるわけです。
 しかし、判例は、この事例で無資力は不要であるとしました。
 その理屈は、本事例は、表面的には金銭債権の話ですが、Cの債権の実現とZの資力の有無とは何の関係もないからです。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【詐害行為取消権】債権者代位権との違い/詐害行為の類型/保証人や身分行為(婚姻等)が絡んだ場合

▼この記事でわかること
詐害行為取消権の超基本
転得者の問題
債務者の第三者への弁済
詐害行為の類型
詐害行為取消しの範囲
保証人がいる場合
婚姻等、身分行為が絡んだ場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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詐害行為取消権の超基本

 抵当権等の担保権を持たない一般債権者にとっては、債務者の責任財産(一般財産)が貸したお金の回収等の(債権実現のための)最後のよりどころです。
 なので、例えば、債務者がその財産を他者に贈与してしまった場合、債権者は困ってしまいます。
 そのようなとき、債権者に何か打つ手はないのでしょうか?
 まずは、こちらの事例をご覧ください。

事例1
AはBに金2000万円を貸し付けた。Bの財産は金2000万円相当の土地一筆だけである。しかし、Bはその土地を妻Cに贈与して登記も移転してしまった。


 これはまさに、債務者Bがその唯一の財産を贈与してしまって無資力(金無し状態)になり債権者Aが困ってしまう事例です。
 こうなってしまうと、たとえ債権者Aが貸金返還訴訟を起こして勝訴しても、債務者Bには差し押さえられる財産がないので、結局お金の回収はできません。
 いくら訴訟を起こしたところで、無い袖は振れないのです。
 さて、ではこの事例1で、債権者Aには何か手立てはないのでしょうか?
 まず、AとCはアカの他人(契約関係がない)ですので、AがCに何かを言える筋合いはありません。
 しかし、これが「Bの無資力」という事実により、話が変わってきます。
 一体どうなるのか?このままでは、Aの1000万円の債権が紙クズになってしまう…
 ということで、ここで「債権の対外的効力」が発生するのです。
 そして、それにより発生する権利が、詐害行為取消権です。

(詐害行為取消請求)
民法424条 
1項 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2項 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。


 上記、民法424条を事例1に当てはめるとこうてす。
 条文の「債権者」はA、「債務者」がBです。
 Bが土地の贈与によってAへの弁済が難しくなることを知っていれば、AはBC間の贈与を取り消すことができる、というのが1項本文です。
 1項ただし書の「その行為によって利益を受けた者」は、Cのことです。
 CがAを害するという事実を「贈与を受けた時」に知らなければ、取消しはできない、というのがただし書きの意味です。
 つまり、Cの立場からいえば「贈与を受けたあと」にAを害することを知った場合は、贈与を取り消される心配はありません。
 したがいまして、事例1のAは、唯一の財産である土地を贈与したBが、贈与時にその行為(贈与)がA(の2000万円の貸付債権)を害することを知っていて、かつ贈与を受けたCも贈与時にそれがAを害することを知っていた場合は、AはそのBC間の贈与を取り消すことができます。
 これが詐害行為取消権です。
 つまり、Aを害することについてBC双方共に悪意の場合は、Aは詐害行為取消権を行使してBC間の贈与を取り消すことができるというわけです。
 BC両方の悪意が要件てことか。要件が厳しめだね。
 そうなんです。
 本来、AがBC間の法律行為について口出しすることはハッキリ言って筋違いです。第三者が他人同士の契約を取り消す訳ですから。ですので、詐害行為取消権を行使するための要件は厳しいものとなっているのです。
 逆に言えば、BC双方ともに悪意というのは、BCがグルになってAからの借金2000万円を踏み倒そうと画策している可能性が高いです。
 その場合は、債権者Aに詐害行為取消権という手立てを与えないことには不公平じゃね?と考えることもできます。
 なお、詐害行為取消権は、裁判に訴えない限り行使できません。
 この点、裁判外でも行使できる債権者代位権とは異なりますのでご注意ください。

・注意点
ここがポイント女性
 民法改正以前では、AB間の債権はBC間の贈与よりも先に成立していなければ詐害行為取消権は行使できませんでした。
 しかし、民法改正後は、AB間の債権がBC間の贈与後に成立した場合でも、BC間の贈与が「詐害行為」として成立する可能性があります。
 つまり、民法改正後の現在では、AB間の債権がBC間の贈与後に成立した場合でも、 Aは詐害行為取消権を行使できる可能性があります。
 民法改正前の結論で覚えていた方は、この点ご注意ください。
 なお、債権者Aを害するBC間の贈与のような行為を「詐害行為」と言います。また、詐害行為取消権は、別名「債権者取消権」とも言われます。

【補足1】
 民法424条条文には「害することを知ってした行為」とあります。これは、債権者に対する債務者の「害意」ということです。
 ここでの害意とは、債務者がその債権者を害することを知ってしたことは要するが、必ずしも債権者を害することを意図し、もしくはこれを欲して行ったことは要しません。(判例)

【補足2】
 詐害行為取消権は、債務者が無資力(金がない状態)であるという要件を外すことはできません。
 この点は、債権者代位権の転用の場合とは異なりますのでご注意ください。
 また、詐害行為取消権においての被保全債権(詐害行為取消権で守りたい債権)は、原則として金銭債権に限られます。

 それでは、続いてはこちらの事例をご覧ください。

事例2
AはBに対し金200万円を貸し付けた。その後、Bが高級ジュエリーをCに贈与したので、Aは詐害行為取消権を行使しようと考えている。なお、贈与当時、Bには資力があったが、詐害行為取消権行使時には無資力だった。


 さて、この事例で、Bの贈与は詐害行為となるのでしょうか?Aは詐害行為取消権を行使できるでしょうか?
 結論。事例2のBの贈与は詐害行為となりません。したがって、Aは詐害行為取消権を行使することはできません。
 詐害行為とは、それをしたら債権者Aに弁済できなくなることを知りつつ債務者Bがその一般財産を減少させる行為です。
 贈与当時、ジュエリーを贈与してもなお債務者Bには資力がありました、資力がある時の贈与行為は詐害行為となりません。
 よって、Aは詐害行為取消権を行使できません。

事例3
AはBに対し金200万円を貸し付けた。その後、Bが高級ジュエリーをCに贈与したので、Aは詐害行為取消権を行使した。なお、贈与時のBは無資力だったが、詐害行為取消権行使時には資力が回復していた。


 さて、この事例3では、Bの贈与は詐害行為となるのでしょうか?Aはそのまま詐害行為取消権を行使できるでしょうか?
 この事例3では、贈与当時にBが無資力なので、BCに詐害意思があれば詐害行為が成立します。
 しかし、詐害行為取消権行使時に債務者Bの資力が回復しています。なので、そもそも詐害行為取消権を行使する実益がありません。
 よって、Aは詐害行為取消権を行使することはできません。
 債務者Bの資力は回復している訳ですから、債権者AはBに対し普通に取り立てればいいだけのハナシということです。
 詐害行為取消権を行使するための要件には、詐害行為時取消権行使時両時において債務者が無資力であることも求められます。
 逆に言えば、この両時の無資力という要件を満たしていない場合は、債務者に資力があるということに他なりませんから、わざわざ債権者は詐害行為取消権を行使する必要もないのです。

【補足】
詐害行為取消訴訟の被告(訴える相手)は誰か
 詐害行為取消訴訟をBC間の法律行為(贈与のこと)そのものを絶対的に取り消す行為と考えれば、被告はBC両名になるはずです。
 しかし、詐害行為の実質は、債務者Bの唯一の責任財産を債権者Aが取得するか受益者Cが取得するかです。つまり、債務者B唯一の責任財産をめぐる債権者A vs 受益者Cの争い」と考えられます。
 なので、実際の裁判では、被告は受益者または転得者のみとされています。

転得者の問題

 詐害行為取消権は、転得者に対しても行使することができます。
 まずは、こちらの事例をご覧ください。

事例4
AはBに対し金200万円を貸し付けた。その後、Bは害意を持って高級ジュエリーを善意のCに贈与した。その後、Cは高級ジュエリーを悪意のDに譲渡した。


 さて、この事例4で、債権者Aは悪意の転得者Dに対し詐害行為取消権を行使できるでしょうか?
 結論。債権者Aは悪意の転得者Dに対し詐害行為取消権の行使はできません。
 詐害行為取消権は、債務者受益者(事例のBとC)双方の悪意を要件とします。
 しかし、事例4は受益者のCは善意です。転得者Dは悪意ですが、転得者はあくまで受益者の付属品であると考えます。つまり、転得者Dは受益者Cの付属品に過ぎないないのです。
 これを、転得者付属品の原理といいます。
 したがいまして、債権者Aが転得者Dに対して詐害行為取消権を行使するためには、債務者Bと受益者Cと転得者Dの3者全員の悪意を要します。

 それでは、事例4で、さらに転得者Eが現れた場合はどうなるでしょうか?
 この場合、債権者Aが詐害行為取消権を行使するためには、債務者B・受益者C・転得者D・転得者Eの4者全員の悪意が必要です。
 なぜなら、転得者Dが受益者C、転得者Eは転得者Dのそれぞれ付属品だからです。

・注意点
指差し男性
 この転得者付属品の原理による結論は、民法改正後に改められた結論です。民法改正以前は違った結論でした。
 ですので、民法改正以前の内容で覚えていた方はお気をつけください。

第三者への弁済

 続いては、こちらの事例をご覧ください。

事例5
AはBに対し金200万円を貸し付けた。その後、Bは金200円をCに弁済した。Cの債権額も200万円だったのである。その結果、Bは無資力となった。


 さて、この事例5で、BのCに対する弁済行為は詐害行為にあたるでしょうか?
 これは、偏波行為(へんばこうい)が詐害性を有するかという問題です。
 偏波とは、偏るという意味です。つまり、2人いる債権者(事例のAとC)のうち、片方だけに弁済したことが偏った行為であり、それが詐害行為となるのか?というのがこの事例5です。
 結論。債務の弁済詐害行為にあたりません。よって、債権者Aは詐害行為取消権を行使することはできません。

 ただし、BC間に債権者Aを害することについて通謀があるとき、すなわち、債権者Aを害することについてBCがグルになっているときは話が変わってきます。
 次のいずれにもあたるときには、債権者Aは債権者行為取消権を行使することができます。

・支払不能のときに債務者Bが弁済したこと
(支払不能とは、債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態のこと)(民法424条の3)

・BC間が通謀して債権者Aを害する意図(通謀的害意)で弁済を行ったこと
 ここでの「害意」とは、単なる悪意ではなく「害する意図」の害意を指します。つまり、BCがグルになって悪巧みしてBC間の弁済が行われたことを意味します。

 上記の要件を満たせば、詐害行為取消権の行使ができます。
 なお、仮に、BC間の弁済が、A債権のの弁済期前に行われていた場合は、たとえそのBC間の弁済が支払不能になる前30日以内に行われていたときでも、詐害性を有することとなります。

債権者AはCに対し直接支払請求できるか

 ここで再度、事例5をご覧ください。

AはBに対し金200万円を貸し付けた。その後、Bは金200円をCに弁済した。Cの債権額も200万円だったのである。その結果、Bは無資力となった。

 さて、では債権者Aが要件を満たし詐害行為取消権を行使できるとき、AはCに対し「直接私に200万円支払え」と請求できるでしょうか?
 詐害行為取消権は、債務者の責任財産保全のため(債権者の債権保全のため)詐害行為を取り消す権利です。なので「金200万円を債務者に返せ」と請求できるだけのはずです。
 しかし、金銭のように債務者Bが受領を拒絶できるものについては、債権者Aは直接自己に引き渡せと請求できます。
 したがって、債権者AはCに対し直接自己に200万円支払えと請求することができます。
 したがって、結果的にはAが優先弁済を受けるのと同様の結果になります。
 これに対して、不動産の贈与が詐害行為にあたる場合の登記名義のように債務者Bの受領拒絶がありえない場合には、債権者Aは債務者Bに対し登記をCからBに戻せと請求できるだけです。

 さて、Aは詐害行為取消権を行使してCに対し直接自己に200万円支払えと請求できることがわかりました。
 では、このときに、Cは200万円のうち半分の100万円の支払いを拒むことはできるでしょうか?
 債権者平等原則によると、AとCは200万円を平等に分け合い100万円ずつの弁済を受けられるはずです。となれば、Cは半分の100万円の支払いを拒めそうですが…
 しかし、判例はこの主張を認めません。なぜなら、その主張に法律上の根拠(該当する条文)がないためです。
(債権者平等原則についての詳しい解説は「【差押え&強制執行&破産の超基本】借金で考える債権の世界」をご覧ください)

詐害行為取消権は弁済期前に行使できるのか

 詐害行為取消権は、被保全債権の弁済期前に行使することができます。
 つまり、債権者Aが債務者Bの詐害行為を取り消すとき、A→Bの債権が弁済期前でもOKということです。
 理由は、債務者は弁済期前でも逃げる可能性があるからです。その場合、早くに詐害行為を行使できないと債務者の財産が散逸してしまいます。
 実際のケースとして多いのは、離婚した夫が養育費を踏み倒すケースです。この場合、将来の養育費について夫の詐害行為が成立し得ます。
 債権者代位権は、原則として、被保全債権の弁済期前には行使できませんが、詐害行為取消権は弁済期前でも行使できますので、この点ご注意ください。

詐害行為の類型
女性講師
 詐害行為となり得る行為には、他に一体どんなものがあるでしょう?

・代物弁済
 代物弁済とは、債務者が本来の負担する給付(通常は金銭)に代えて他の給付(例→不動産)をなすことを言います。
 要するに、お金の代わりに物で弁済することです。
 一般債権者への代物弁済は、詐害意思があれば、詐害行為となります。

・一部債権者への担保供与
 例えば、債務者Bと受益者Cが通謀して、債務者Bの唯一の財産である不動産を抵当に入れた場合(担保の用に供した場合)、それは詐害行為となります。(民法424条の3)

・不動産や重要な動産の相当な価格帯での売却
 例えば、債務者Bが自己所有の不動産を相当な価格で受益者Cに売却した場合、それは詐害行為となりません。
 相当な対価での財産の処分は、財産減少行為ではありません。
 したがって、原則として、この売買は詐害行為にあたりません。
 しかし、換価により(お金に換えることにより)財産の隠匿のおそれが生じるときは違います。
 その場合、次の3つのいずれにもあたるときには、詐害行為が成立し、債権者Aは詐害行為取消権を請求することができます。(民法424条の2)

1・債務者Bによる財産の隠匿等のおそれが現に生じる
2・債務者Bが売買の時に隠蔽等の意思を有していた
3・受益者Cが売買の時に上記の意思を知っていた

 民法改正以前は、財産を金銭に換価することは原則、詐害行為となりました。しかし、民法改正以降は、原則、詐害行為は成立しません。
 つまり、民法改正により原則と例外が逆になったということです。
 改正ポイントとして、この点くれぐれもご注意ください。

取消しの範囲

事例6
AはBに対し金200万円の貸付を行った。その後、Bは金300万円をCに贈与し、無資力となった。


 さて、この事例6で、債権者Aは詐害行為取消権を行使してBC間の贈与の全部を取り消すことができるでしょうか。
 ここでの問題は、AのBに対する債権が200万円なのに対し、BC間の贈与が300万円だということです。それで300万円全額分取り消せるのか?という話です。
 結論。全部の取消しはできません。取消しができるのは、Aの債権額にあたる金200万円分に限ります。

 では続いて、次のケースではどうなるでしょう。
 
事例7
AはBに対し金200万円の貸付を行った。その後、Bは金300万円相当のジュエリーをCに贈与し、無資力となった。


 この事例7で、Aは詐害行為取消権を行使してBC間の贈与の全部を取り消せるでしょうか?
 結論。この場合は全部の取消しができます。
 詐害行為の目的物(事例7ではジュエリー)が不可分のときは、その全部を取り消すことができます。(ジュエリーを200万円分と100万円分に分けることはできない)

保証人がいる場合

事例8
AはBに対し金200万円の貸付を行った。その後、Bはある法律行為により一般財産を失った。なお、Bには資力が十分な保証人がいる。


 さて、この事例8で、債務者Bの詐害行為は成立し得るでしょうか?
 結論。詐害行為は成立し得ます。
 これは一見、債務者Bには資力十分の保証人がいるので詐害行為が成立しないように思えます。
 確かに、債権者Aは保証人から200万円の弁済を受けることは可能です。
 しかし、債務者Bが責任財産(一般財産)を散逸したことに変わりはなく、保証人が将来Bに対し求償権を持つため(保証人が債務者Bに「私が肩代わりした200万円をオマエは私に払え」と請求する権利)、Bの責任財産を充実させる要請があるからです。

・債務者Bに物上保証人がいる場合
 それでは、事例8の債務者Bに物上保証人がいて、物上保証人所有の不動産(十分に価値のある)に担保設定を受けている場合には、詐害行為は成立するでしょうか?
 この場合、詐害行為は成立しません。
 債権者Aは、債務者Bの担保物(物上保証人所有不動産)から優先弁済を受けられるからです。
 ただし、担保物の価値が低ければ、債権額との差額についての詐害行為は成立します。
 例えば、担保物の価値が150万円だとしたら、債権額200万円との差額50万円分は詐害行為が成立します。

贈与後の場合

事例9
Bはその唯一の財産である甲不動産をCに贈与した。つぎに、AはBに対し金200万円の貸付を行った。その後、BからCへ甲不動産の移転登記がされた。


 さて、この事例9で、債権者AはBC間の移転登記を取り消せるでしょうか?  
 結論。取り消せません。
 登記は、すでに行われた法律行為について第三者対抗要件を備えるというだけの行為です。なので、BC間の登記移転が事実上は債権者Aに対する侵害行為になり得ても、法律上の取消しの対象にはならないのです。
 そもそも、この事例9でのBC間の贈与は、AがBに金200万円を貸し付ける以前に行われています。贈与後に行われている以上、Bが債権者Aから逃げたことにはならないのです。
 平たく言えば、すでに無資力のBに貸し付けたAがマヌケだったという話です。

婚姻等、身分行為が絡んだ場合

事例10
AはBに対し金200万円の貸付を行った。その後、Bはギャンブル狂いのCと婚姻し財産状況が悪化した。


 さて、この事例10で、債権者Aは債務者Bの婚姻を取り消せるでしょうか?
 結論。取り消せません。
 詐害行為取消権の対照となる法律行為は財産権を目的とする行為に限られます。(民法424条2項)
 したがいまして、婚姻、離婚、相続の放棄・承認などの身分行為は取消しの対象にはなりません。
 婚姻が事実上の詐害行為となっていたとしても、さすがに婚姻を取り消すとなれば過度の干渉です。それは民法も認めるところではありません。

 続いて、こちらではどうなるでしょう。

事例11
 Bは多額の債務を負っているが、優良な資産もある。しかし、Bは債権者Aからの追及を免れるため、妻Cと離婚したことにして、優良資産を財産分与の形でCに取得させた。


 さて、この場合、債権者Aは詐害行為取消権を行使してBC間の財産分与を取り消せるでしょうか?
 一般的に、財産分与は取消しの対象ではありません、しかし、財産分与に仮託された不相当に過大な財産分与であれば取消しは可能とされています。(判例)

【補足】
 離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意も、負担すべき額を超えた慰謝料の合意は、その超えた部分については新たな債務負担行為であり、詐害行為の対象となり得ます。
 また、遺産分割協議も、財産権を目的とする法律行為であり、詐害行為取消権の対象となり得ます。
 
詐害行為取消権の行使期間の制限

 詐害行為取消権には短期の消滅時効が定められています。
 取消しの原因を知った時から2年、行為の時から20年です。(民法426条)
 なお、債権者代位権には短期の消滅時効の規定はありません。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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