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【質権】動産質・債権質(権利質)・不動産質/質物の返還請求と対抗要件と賃貸について/転質とは
【留置権】最強の担保物権?成立要件と対抗力/不動産の場合/留置物の賃貸と留置権の消滅
【先取特権】民法の原則を曲げる?/一般の先取特権/動産の先取特権/不動産の先取特権/先取特権と第三取得者
【譲渡担保】民法の条文にない?【代理受領】債権の担保化とは
素材62

【質権】動産質・債権質(権利質)・不動産質/質物の返還請求と対抗要件と賃貸について/転質とは

▼この記事でわかること
質権の超基本
動産質とは
質物の返還請求と対抗要件と占有の回復
不動産質とは
不動産(質物)の返還請求と対抗要件
質物の賃貸について
債権質とは
転質について
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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質権

 質権と聞くと、質屋さんの権利?とイメージする方も多いのではないでしょうか。
「借り入れをするために、ブランド時計を質屋に持って行って、その時計を担保にしてお金を借り入れる。もしお金を返せなかったときは、担保の時計を売っ払った金で弁済させられる事になる...」
 確かにこの場合の質屋の「ブランド時計を担保にお金を貸して、金を返せなければ担保目的物(ブランド時計)から弁済させる」権利はまさしく質権です。
 ただし、質屋の場合は質屋営業法という特別法があり、民法上の質権とは若干の違いがあります。
 質権についての民法の条文には、次のようなものがあります。

(質権の内容)
民法342条
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。


 端的に言えば、質権は、物を担保にして、その物(担保目的物)について、他の債権者に先立って自己の弁済を受けることができる権利です。
 例えば、10万円相当の時計を担保にAがBから10万円を借りていて、さらにAはCからも10万円を借りていたとします。この場合に、Bが質権を行使して担保目的物である時計が売っ払われると、その売却代金10万円は、Bの債権に優先的に弁済されます。
 これが質権です。
 なお、この場合の、債権者Bは「質権者」、債務者Aは「質権設定者」となり、債権者Cは一般債権者です。

質権設定者  質権者
 債務者   債権者
   A     B
   ↖
    C
   債権者
  一般債権者

 ところで、この質権って、抵当権に似てますよね。抵当権の場合は担保目的物とするのが不動産ですが、優先弁済などの仕組みは抵当権とそっくりです。
 そして、抵当権と似ているのはある意味当然なんです。なぜなら、質権も抵当権と同じ約定担保物権の一種だからです。
 約定担保物権とは、当事者の契約で発生する担保物権です。つまり、債権者と債務者等の契約で質権が設定されるということです。 
 さらに質権は、債務者以外の第三者が設定することも可能です。つまり、物上保証も可能という事です。
 この点も抵当権と共通するところです。
 さて、このように多くの点で抵当権と共通するところの多い質権ですが、担保目的物が不動産か動産かの違い以外に、抵当権とは大きく異なる点があります。
 それは、担保目的物を債権者が占有することです。
 この債権者の「占有を伴う」という質権の性質は、その成立の範囲を広げることにも繋がっています。
 どういうことかというと、抵当権の場合は債権者の占有を伴わないので、登記のできる不動産や地上権・永小作権等にしか成立しません。債権や動産には成立しないんです。しかし、質権は動産や債権についても成立しますし不動産でも成立します。もちろん無制限という訳ではなく「質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない」(民法343条)という規制はありますが、むしろその規制しかないと言った方がいいでしょう。
 ということで、質権には「動産質」「権利質(債権質)」「不動産質」の3つの種類があります。
 それではここからは、それぞれ3つの質権ごとに、試験等で問われやすい点を軸に、わかりやすく事例と共に解説して参ります。

動産質
ジュエリー
 まずは事例をご覧ください。
 
事例1
AはBから融資を受けた。その際、担保としてジュエリーを占有改定により引き渡した。


 さて、この事例で、質権は成立するでしょうか?
 ここでの問題は、占有改定による引渡しで質権は成立するのか?ということです。
 占有権は物の引渡しにより移転します。これが基本です。
 しかし、占有改定は、占有者が「今後は〇〇さんのためにこの物を所持する」と意思表示することで占有権が移転するものです。なので占有改定による引渡しの場合、現実には物が引き渡されてはいないのです。
 つまり、事例1では、AはBから融資を受けるための担保としてジュエリーを占有改定により引き渡していますが、ジュエリーはAの手元に残ったままなので、現実にはAが占有している状態です。
 ということで、改めて、この事例1で質権は成立するでしょうか?
 結論。事例1では質権は成立しません。
 これについて、民法では次のように規定されています。

(質権設定者による代理占有の禁止)
民法345条
質権者は、質権設定者に、自己に代わって
質物の占有をさせることができない。

 この民法345条を事例1にあてはめると、質権者はBです。質権設定者はAです。質物は担保目的物のことで、事例1でのジュエリーです。
 占有改定では、現実にはAの手元にジュエリーが残ったままです。つまり、質権設定者が質物を占有している状態になっちゃっているんです。それは、上記民法345条の規定に違反してしまうという訳です。
 そもそも、質権の本質は、質権設定者(主に債務者)から質物の占有を移すことにより「もしこの債務の弁済ができなかったら質物が売っ払われる!」と、心理的に債務の弁済を促すことにあります。
 なので、占有改定ではその意味をなさなくなってしまうんです。
 なお、「現実の引渡し」以外にも「簡易の引渡し」「指図による占有移転」の場合は、質権は成立します。
 この点はご注意ください。

【補足】
 ここまでの説明のように、質権は占有を内容とするので、基本的に1つの目的物に1つしか成立しません。
 当たり前ですが、1つの物を2か所の質屋に持っていけないですよね。
 しかし、実は例外的に、1つの物に複数の質権が成立する場合があります。
 それは、指図による占有移転により質権を設定する場合です。
 指図による占有移転は、倉庫業者等に預けている物を〇〇さんの承諾の上で、倉庫業者に対し「以後〇〇さんのために占有しろ」と命じることでその占有が移転するものです。
 例えば、事例1のA・Bが、倉庫業者を利用してこの「指図による占有移転」で質権が成立していた場合、別の新たな質権者Cのためにそのジュエリーの占有を命じることも可能です。すると、1つのジュエリーという質物(目的物)について、2つの質権が存在することになります。

   倉庫業者
 ジュエリー(質物)

 /        \
質権設定者
  質権者
 債務者   債権者
   A     B
   ↖
    C
   債権者
   質権者

 この場合、先に質権設定を受けたBが、先順位質権者となります。その結果、ジュエリー(質物)について、BはCよりも優先的に弁済を受け、Cは一般債権者より優先的に弁済を受けることになります。
 この仕組み・性質も抵当権と似ていますね。

質物の返還請求と対抗要件と占有の回復

 まずは、こちらの事例をご覧ください。

事例2
AはBに融資を受けるため、担保として高級時計を現実に引き渡し、質権を設定した。その後、その時計が故障したので修理のため、BはAに時計を返還した。


 さて、この事例2で、BはAに対し質物(高級時計)の返還請求ができるでしょうか?
 ここでのポイントは、「質権設定のために質権者(B)に引き渡された質物(高級時計)が、修理のためとはいえ一度、質権設定者(A)に返還されると、その質権は消滅するのか?」です。なぜなら、質権の本質は質権者による質物の占有にあるからです。
 結論。この場合は質権は消滅しません。
 したがいまして、、質権者Bは質権設定者Aに対し質物(高級時計)の返還請求ができます。
 これは判例により、このような結論となっております。
 この事例2のようなケースで、時には質物の修理が質権設定者がやらないと難しいような場合もあるでしょう。そんな場合でも、一律に質権が消滅するとなると、それは質権者にとっても酷な事だと考えられます。
 なお、このケースでの、質権者Bから質権設定者Aに対する質物の返還請求は、質権という物権に基づく返還請求となります(物権的返還請求権)。そして、優先弁済権も維持されたまま失われません。

 続いては、こちらの事例をご覧ください。

事例3
AはBに融資を受けるため、担保として高級時計を現実に引き渡し、質権を設定した。その後、Bは高級時計を遺失し、Cがこれを取得した。


 今度は、第三者Cが現れ、質権者Bが遺失してしまった質物の高級時計を取得してしまいました。
 さて、ではこの事例3で、BはCに対し時計の返還請求ができるでしょうか?
 まず、この事例3のケースでも事例2と同様に、質権そのものは消滅しません。
 ということは、質権(本権)に基づいて返還請求できそうですが...。
 民法には次の規定があります。

(動産質の対抗要件)
民法352条
動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって
第三者に対抗することができない。

 上記、民法352条により、なんと質権は、その占有を失ってしまうと、第三者への対抗力(法律の保護の下に主張する力)を失ってしまいます。
 したがって、事例3での質権は、すでに第三者Cへの対抗力を失った脆い状態になってしまっているのです。
 以上、結論。BはCに対し時計の返還請求はできません。
 Bにしてみれば不本意な結果でしょうが、何より質物を遺失してしまったB自身に問題アリとも言えます。
 なお、もし第三者Cが高級時計(質物)を所有者A(質権設定者)に返還した場合、質権者Bから(質権設定契約の当事者である)Aに対してその質物の返還請求をすることは可能です。

 続いて、次のようなケースではどうなるでしょ?

事例4
AはBに融資を受けるため、担保として高級時計を現実に引き渡し、質権を設定した。その後、CはBからその高級時計を盗んだ。


 なんだか事例がどんどん不穏な空気を帯びてきましたね(笑)。
 今度の第三者Cは、窃盗行為により高級時計を手に入れています。
 さて、ではこの事例4では、BはCに対し時計の返還請求ができるでしょうか?
 なんとこのケースでも、占有を失ってしまった質権者Bの質権の第三者Cへの対抗力は失われてしまっています。第三者Cが盗っ人でもです。
 したがいまして、BはCに対し時計の返還請求はできません。
 これじゃいくらなんでもBが気の毒すぎるんじゃ...
 ですよね。でも大丈夫です。Bにはまだ手立てが残されているんです。
 その根拠となる民法の条文がこちらです。

(質物の占有の回復)
民法353条
動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる。


 この民法353条を根拠とするその手立てとはズバリ、占有回収の訴えです。(民法200条) 
 すなわち、占有を奪われてから(高級時計を盗まれてから)1年以内であれば、質権者Bは盗っ人第三者Cに対し占有回収の訴えを提起できるのです。
 あれ?じゃあ事例3でも占有回収の訴えはできないの?
 それはできません。なぜなら、事例3の場合、第三者Cは質物を奪った訳ではないからです。
 この民法353条に基づいた手段は、あくまで質物が奪われた場合の規定です。この点はご注意ください。

【補足】
 即時取得できる権利といえば所有権を思い浮かべますが、実は質権も即時取得することができます。
 例えば、Aの所有物をBが占有していて、占有者Bが所有者Aに無断でそれをCに質入れした場合、Cが善意・無過失であれば、Cは質権を取得し得ます。
 そうなれば、Cは被担保債権(質権の元となっている債権)の弁済を受けるまで、その質物を占有を継続できるのはもちろん、弁済がなければ競売も可能です。

不動産質
古民家
 質権は、不動産に設定することもできます。
 そして、不動産質でも、質権としての本質は変わりません。
 融資を受ける側の質権設定者は質物である不動産を占有せず、質権者がその不動産を占有して使用収益することになります。
 また、不動産質は次のような点で動産質とは異なります。

・不動産質では、質権者が不動産の管理の費用や税などを負担する(民法357条)
・不動産質では、質権者は利息の請求ができない(民法358条)

 上記の2点は、質権者は不動産を使用収益できるので管理費を支払う事は当然だし、使用収益という経済上の利益があるんだから利息の請求も必要ないんじゃね?という趣旨の規定です。
 以上のように、不動産質における、質権者の「不動産の使用収益」「管理費用の負担」「利息請求の不可」という3点は、不動産質の基本形です。
 ただし、これら3点は、いずれも特約により排除することができます。(民法359条)
 したがって、質権の設定契約の中の特約でこれら3点を排除してしまえば、融資を受ける側の質権設定者が目的不動産(質物)を占有して使用収益し、管理費を払い、質権者からの利息請求ができる、という形での質権の設定も可能です。そしてこの特約は、いずれも登記事項です。
 こうなってくると、その不動産質は、ほぼほぼ抵当権と違わない姿となります。
 なら世の中もっと抵当権じゃなく不動産質が利用されてもいいんじゃね?
 ところがそうはならない理由があるんです。それは、不動産質には金貸しから見て致命的な欠点があるからです。その致命的な欠点とは「存続期間が10年に限られてしまう」ことです(民法360条)。
 つまり、不動産質の場合、10年経つと質権が消滅して、被担保債権(質権の元となっている債権)は担保のないただの債権(優先弁済権のない一般債権)となってしまうのです。 
 存続期間の更新はできないの?
 それも可能ですが、それには質権設定者が更新に応じてもらうことが必要になります。
 したがまして、金貸しからするとハナッから期間制限のない抵当権を設定した方がずっと安心という訳です。

不動産の返還請求と対抗要件

 それでは、ここからは事例とともにさらに不動産質を掘り下げて解説して参ります。

事例5
AはBから融資を受けるため、所有する建物を担保にして質権を設定し、その旨の登記をして引き渡した。


 さて、ではこの事例5で、AがBに対して占有改定による引渡しをしていた場合、質権は成立するでしょうか?
 これについては動産質の場合と結論は何ら変わりません。たとえ「登記」をしていようともです。
 よって結論。AがBに対して占有改定による引渡しをしていた場合は、質権は成立しません。
 不動産質も動産質と同様、「現実の引渡し」「簡易の引渡し」「指図による占有移転」のいずれかの方法で質権が成立します。これらの方法による引渡しが行われないと、たとえ質権設定の「登記」されていようと、それは無効な登記となります。

【補足】
Bが目的物(建物)をAに返還した場合

 もし事例5で、引渡し後に質権者Bが目的物(建物)を質権設定者Aに返還しても、質権は消滅しません。
 この点も動産質と一緒です。なのでその場合は、質権者Bは質権設定者Aに対しに目的物(建物)の返還請求ができます。
 また、動産質ですとこのような場合、(質権そのものは消滅しないものの)その質権は第三者への対抗力を失ってしまいますが、登記された不動産質であれば、たとえ占有を失っても第三者への対抗力を失いません。
 この点は動産質と違うところです。つまり、不動産質は目的物(質物)が不動産なので、その対抗力もあくまで不動産物権の原則に従って「登記」という訳です。

質物の賃貸

 続いては、質物の賃貸についてです。

事例6
AはBから融資を受けるため、所有する建物を担保にして質権を設定し、その旨の登記をして引き渡した。その後、Bはその建物をCに賃貸した。


 さて、ではこの事例6で、BはCから家賃を受けって良いのでしょうか?
 結論。BはCから何の問題もなく家賃を受け取れます。
 不動産質に場合は、質権者には目的物(質物である不動産)の使用収益権があります。
 なので、質権者Bが第三者Cに建物を賃貸して家賃収入をあげることに法律的な問題は何もないのです。質権設定者Aの承諾も必要ありません。

【補足】
動産質の場合

 
 質物が高級時計で、それを第三者に賃貸するのは問題ないのでしょうか?
 実はこの場合は問題があります。そもそも動産質の場合は、質権者には質物について善良な管理者の注意義務(善管注意義務)が要求されます。
 もし、質物の高級時計を第三者に貸して傷でもつけらてしまったらどうするのか?逆に不動産質の場合、建物なんかはむしろ人が住むなり使ってくれた方が手入れもされて状態も維持されやすいです。一方、時計はどう考えても使われた方が消耗されてしまいますし、質権設定者も勝手に使われたくはないでしょう。 
 そこで民法は、動産の場合、質物を賃貸するには設定者の承諾が必要との規定をおきました。この規定に違反した場合、質権設定者は質権の消滅を請求することができます。

債権質
1万円札
 債権質は、厳密に言えば権利質の一種なのですが、ここでは債権質についてのみ解説します。
 債権質とは、債権を質物とする債権です。
 まずは、こちらの事例をご覧ください。

事例7
AはBに対してB金銭債権を持っている。その弁済期は6か月後である。今すぐにでもお金が必要となったAは、この債権に質権を設定してCからお金を借り入れた。


 これはどういう事例かといいますと、AのBに対する「金払え」という債権を質物にして、AがCから借り入れをした、という話です。
 質権設定者はA、質権者はC、質物はAからBへの債権です。

質権設定者  融資  質権者
   A            C  
債権↓質物
   B
第三債務者

 それでは、この事例7では、3つの問題について、それぞれ解説して参ります。

1・AはBに承諾なしに、この質権の設定契約ができるのか?
 
 質権の設定契約はAC間で行われますが、その際、Bの承諾は必要ありません。
 もともと債権というものは(すべての債権という訳ではないが)自由に譲渡することができます。なので、担保に供することも自由です。したがって、債権を質物にするのも自由という訳です。

2・上記1が可能であれば、Bにその旨の通知は必要か?

 前述のように、AはBの承諾なしに自由にその債権を担保にして質権の設定契約ができます。
 なので、AC間の質権設定契約にはBの関与はありません。
 ということは、Bは質権が設定されたことは当然には知りません。しかし、Bがそれを知らないままで良いものなのか...。
 そこで民法は、債権譲渡についての対抗要件を規定した民法467条を、債権質の場合にも準用することとしました。(民法364条)
 したがいまして、質権設定者Aからの通知または第三債務者Bの承諾がなければ、質権者Cは、その質権の取得をもって、Bに対抗することはできません。
 対抗することができないということは、Bが(質物になった債権についての)債務の支払いをAにした場合、質権者Cは「その債権は私が質物にしているものだ。だからその支払いは私が受けるべきものだ!」主張することができない、ということです。
 逆に、通知または承諾があったにもかかわらず第三債務者Bが質権設定者Aに支払いをした場合、Bはその支払いを質権者Cに対応できず、質権者CはBに対して「その支払いは私が受けるべきものだ!」と主張することができます。
 そして、この場合は、第三債務者Bの質権設定者Aへの支払いは不当利得となりますので、Bは質権者Cに二重払いをしてCへの責任を果たした上で、Aへの支払い分については、Aに対しに不当利得返還請求をする、という方法で何とかすることになります。

3・弁済期到来後、CはBに対し直接の取り立てができるか?

質権設定者  融資  質権者
   A            C  
債権↓質物
   B
第三債務者

「A→Bの債権」「C→Aの債権」両債権の弁済期が到来すれば、質権者Cは直接、第三債務者Bに対して支払いを請求することができます。
「C→Aの債権」の弁済期が先の場合、質権者Cは「A→Bの債権」の弁済期が来れば直接、第三債務者Bに対して支払い請求をすることができます。(「A→Bの債権」弁済期まではBには支払い義務がない)。
 ですが、「A→Bの債権」の弁済期が先の場合に、その弁済期が到来したからといって質権者Cは直接、第三債務者Bに対して支払い請求することはできません。「C→Aの債権」の弁済期が来てない以上、質権者Cの権利は現実化していないからです。あくまで両債権の弁済期が到来して初めて、質権者Cから直接、第三債務者Bに対しての支払い請求が可能となります。
 ただし、「A→Bの債権」の弁済期が先の場合に、「A→Bの債権」弁済期に質権者Cが第三債務者に対して、BがAに支払う弁済金を供託するように請求することは可能です(供託とは簡単に言うと法務局に預けること)。つまり「その弁済金を法務局に預けろ」と請求できるということです。
 そして、質権者Cは「C→Aの債権」の弁済期が来たら供託金の還付を受けられる、という訳です。

【補足】
 譲り渡すには証書の交付を要する債権の場合、その証書を交付することによって、質権設定の効力が生じます。(民法363条)

オマケ:転質

 最後に、質権について簡単に解説しておきます。
 抵当権の場合、その抵当権を担保にしてさらに抵当権を設定することができる「転抵当」があります。
 質権でも、質物をさらに質入れする転質があります。
 そして質権には、原質権設定者の承諾のある承諾転質、原質権設定者の承諾の無い責任転質があります。
 承諾転質の場合、原質権者は原質権設定者に対して転質をしたことによって生じた損害について「過失責任」を負うにとどまります。
 しかし、責任転質の場合、原質権者は原質権設定者に対して転質をしたことによって生じた損害について「不可抗力によるものであっても」その責任を負います。
 この違いは当然と言えば当然ですよね。責任転質の場合、原質権設定者の関与なく、いわば原質権者は勝手に転質している訳ですから、その責任が厳しいものとなってしまうのは当たり前です。
 
【補足】原質権と転質権の弁済期と債権額の問題

 民法348条では、原質権の存続期間の範囲内において転質をすることができると規定しています。
 ただこれは、厳密な意味での成立要件を定めたものではなく、転質権の被担保債権の弁済期が原質権の被担保債権の弁済期より後でも、有効に成立すると解釈されます。
 また、転質権の被担保債権額が原質権の被担保債権額を上回る場合でも、責任転質は成立します。上回る部分は無担保の債権になるだけと考えればいいからです。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【留置権】最強の担保物権?成立要件と対抗力/不動産の場合/留置物の賃貸と留置権の消滅

▼この記事でわかること
留置権の基本と成立要件と対抗力
留置権の性質
不動産での留置権
他人物売買のケース
目的物の賃貸と留置権の消滅
盗っ人に留置権はあるのか
物と債権の額が違う場合
不動産賃貸借の場合の留置権
建物買取請求権と留置権
消滅時効と果実と費用償還請求権
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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留置権の基本

 留置権は、法定担保物権です。
 法定担保物権とは、当事者の意思とは関係なしに、法律の定めによって自動的に成立します。
 ですので、約定担保物権である抵当権や質権のように「設定契約」というものはありません。※
※この場合の「法定」とは「法律の定めによって」ということ。「約定」とは「契約の定めによって」ということ。
 また、物上保証もなく、将来債権につき留置権が成立することもありません。(弁済期の到来が成立要件)
 以上の事を前提として、ここからは事例と共に、わかりやすく具体的に、留置権について解説して参ります。

事例1
Aはその所有する時計を修理してもらうため時計屋Bに引き渡した。修理終了後、AはBに時計の引渡しを求めたが、修理代金がまだ未払いだった。


 さて、この事例1で、まだ修理代金の支払い受けていない時計屋BはAからの時計の引渡し請求を拒めるでしょうか?
 結論。時計屋BはAからの時計の引渡し請求を拒むことができます。そして時計屋Bは「修理代金の支払いを受けるまでこの時計は返さん!」と主張することができます。これが留置権です。
 このように、留置権は、担保目的物(時計)を占有することにより、被担保債権(修理代金債権)の弁済を心理的に強制することに意義があります。
 なお、留置権についての基本的な民法の条文はこちらになります。 

(留置権の内容)
民法295条
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。


留置権の要件

 留置権は、次の3要件が揃ったとき、法律の規定により出現します。

1・他人の物の占有
2・物に関して生じた債権
3・弁済期

 以上の3要件、つまり、これらの3つの事実状態が揃ったとき、留置権はその姿を現します。
 では、事例1に当てはめてみましょう。

1・時計屋BによるA所有時計の占有
2・時計の修理代金債権
3・修理代金の弁済期

 1と2は読んだとおりで、3の修理代金の弁済期は、通常、修理完了と同時に弁済期にあるということで、3要件すべて揃っています。
 よって、時計屋Bは留置権を主張できるのです。

留置権と対抗力

事例2
Aはその所有する時計を修理してもらうため時計屋Bに引き渡した。修理終了後、修理代金がまだ未払いのまま、AはCにその時計を売却すると、CはBにその時計の引渡しを求めた。


 続いてはこちらです。
 これは、時計屋Bに修理に出していた時計を、そのままAはCに売却した、という話です。
 さて、ではこの事例2で、時計屋BはCからの時計の引渡しを拒めるでしょうか?
 結論。時計屋BはCからの時計の引渡し請求を拒むことができます。時計屋Bは、事例1の場合と同様に「修理代金の支払いを受けるまでこの時計は返さん!」と主張することができます。
 そしてこれには「第三者への対抗要件」というものは必要ありません。なぜなら、そもそも対抗力のない留置権など存在しないからです。
 留置権の場合、占有「存続要件」です。つまり、目的物の占有があれば留置権は存続し、留置権が存続する限り対抗力も失われません。
 逆に、占有を失ってしまうと、留置権そのものが消滅してしまいます。
 なので、事例1と2のどちらでも、時計屋BがAなりCなりに時計を返還してしまうと、留置権は消滅してしまいます。
 こうなってしまうと、BからAorCへの返還は「侵奪」ではないので、占有回収の訴えの提起もできませんし、Bは時計を取り戻すことができなくなります。となると、修理代金の回収はより難しいものとなってしまいます。

【補足1】
 留置権は不動産にも成立します。この場合も、第三者への対抗は「占有」であり「留置権の登記」なるものは存在しません。

【補足2】留置権と同時履行の抗弁権

 ところで、留置権は、同時履行の抗弁権と似ていますよね。
 例えば、事例1の時計屋Bは、時計の引渡しを求めるAに対し同時履行の抗弁権を主張することもできます。AB間には時計の修理契約があるからです。
 しかし、当然のことながら、留置権と同時履行の抗弁権には違いがあります。
 事例2のケースでは、時計屋Bは時計の引渡しを求めるCに対し同時履行の抗弁権は主張できません。BC間には契約関係がないからです(Cと契約関係にあるのはA)。ですが、留置権の主張はできますよね。
 留置権は物権です。物権とは物に対する支配権であり、物権である留置権には対世効があります。対世効があるということは、日本中のすべての人に主張できるのです。
 このように、留置権と同時履行の抗弁権は似て非なるもので「その専用分野が少し違う」ということです。

留置権の性質

 留置権は担保物権の一種ですが、担保物権としては特異な存在です。
 というのは、担保物権の性質として挙げられる次の5つ
1・付従性
2・随伴性
3・不可分性
4・物上代位性
5・優先弁済権
この内の4と5が留置権の場合は存在しません。この5つは、他の担保物権である「抵当権」「質権」「先取特権」にはもれなくすべて備わっているのにです。(確定前根抵当権には1と2は存在しない)
 以上のことから、留置権は、目的物(占有する物)をずっと持っているだけの担保物権と言えます。目的物の競売は可能ですが(形式競売)、5の優先弁済権はありません。
 また、4の目的物の価値変形物への代位もできないのです。(価値変形物についての詳しい解説は【抵当権の効力と物上代位の基本と要件】をご覧ください)
 したがいまして、留置権者の利益のためには、目的物をずっと持っているのが一般論としては正解です。
 
【補足】留置権はチート!?担保物権最強説
 実は、留置権は「事実上の優先弁済権がある」と評価されるほどのツワモノです。
 その評価の理由はこうです。
 目的物が動産の場合、留置権を行使すると、なんと他の債権者の競売手続が頓挫します。
 また、不動産の場合は、競売手続は進みますが、なんと買受人に留置権を対抗することができます。
 留置権には優先弁済権はありませんが、それは留置権者が目的物を競売した場合にその代価(競売代金)に対する優先権がない、という意味に過ぎません。留置権者は弁済を受けるまではいつまでも目的物を「留置」できます。
 つまり、留置権者のもとに留め置き続けられるのです。他者による競売手続の中で消えることもありません。
 このように、留置権は目的物を持っているかぎりは最強の担保権と言えるかもしれません。民事執行法における最強の物権と言われることもあるぐらいですから。
 まさに、チート物権。(「チート物権」は筆者による呼称なのであしからず)
 
不動産での留置権
一軒家
事例3
Aは自己所有の甲建物をBに売却し引き渡した。さらに、AはCに甲建物を二重譲渡し、その旨の登記をした。その後、CはYに対し所有権に基づき目的建物の明け渡しを請求した。


 さて、この事例3は不動産の二重譲渡のケースになります。
 Aが甲建物をBに売却し引渡しもしたが、さらにCにも甲建物を譲渡し(二重譲渡)、その登記もしてしまい、甲建物はBのもとにあるが登記はCにある、という状況で、CがBに対して甲建物の明け渡しを請求した、という話です。

      売主
        A
売却 ↙   ↘ 二重譲渡
  甲建物      登記
   B        C
   明渡し請求
    
 ではこの事例3で、Bは売主Aに対するに損害賠償請求権を被担保債権とする留置権を根拠に、Cからの明渡し請求を拒めるでしょうか?わかりやすく言うと、BはCに対し「Aから損害賠償金をもらうまで甲建物は明け渡さん!」と主張できるのか?ということです。
 この問題を考える上で、まず確認しなければならない事があります。
 それは、留置権が出現するための3要件が揃っているのかどうか、です。
 留置権が出現するための3要件はこちらですよね。

1・他人の物の占有
2・物に関して生じた債権
3・弁済期
 
 では、1から順に確認しながら解説して参ります。
 まず1の「他人の物の占有」は、Bは甲建物を占有しているので問題なく満たしています。
 続いて2の「物に関して生じた債権」ですが、損害賠償請求権は「甲建物に関して」の発生したものと言えそうです。
 最後に3の「弁済期」は、事例3の二重譲渡の場合、Cに登記が入った瞬間にAのBへの履行不能が確定し、そこで民法415条に基づく損害賠償請求権が発生します。それに伴い弁済期も発生します。
 以上、3要件を満たしたことにより、最強のチート物権「留置権」の降臨となり、Bの主張も通りそうですが...
 結論。なんと、BはCからの明渡し請求を拒むことはできません。理由は、留置権の出現を認められないからです。
 これは判例でこのように結論付けられています。
 判例は、BのAに対する損賠賠償請求権を、2の「物に関して生じた債権」と認めませんでした。小難しい言い方で「物と債権に牽連性がない」ということです。牽連性とは、簡単に言えば「繋がり」という意味です。
 要するに判例では「損賠賠償金を支払うべきは者はAなのだから、それを盾にBがC相手に甲建物を引き渡さないのは違くね?」と言っているのです。
 したがいまして、事例3では留置権出現の3要件が満たされず、結果、Bが留置権を主張することはできません。
 この結論は、よくよく考えればもっともです。
 というのも、Bが甲建物を「明け渡さん!」と留置したところで、それが「心理的に売主Aの損害賠償金の支払いを強制する効果」を発揮することに関係しませんよね。
 また、そもそもこの事例3は、民法177条による「登記したモン勝ち!」のリングなんです。
 なので、もしここで、このようなBの留置権の主張を認めてしまうと、民法177条の意味がなくなってしまいかねません。

他人物売買のケース

事例4
AはB所有の甲建物を自己のものと偽りCに売却し引き渡した。その後、BはCに対し甲建物の明け渡しを請求した。


 さて、今度は他人物売買のケースです。
 ではこの事例4で、Cは売主Aの債務不履行による損害賠償請求権をもって、留置権を主張してBからの甲建物の明渡し請求を拒めるでしょうか?

      売主
        A
  (甲建物)  ↘ 他人物売買
真の所有者    甲建物
     B        C
     明渡し請求
        ↑拒める?

 結論。CはBからの甲建物の明渡し請求を拒むことはできません。
 今度の事例4も、前述の事例3と理屈は一緒です。これも判例で「物と債権に牽連性がない」という理由で、Cの留置権を認めなかったのです。
 そもそも、Cの「損害賠償しろ」という請求の矢印はAに向けたもので、Bの「甲建物を引き渡せ!」という請求の矢印はCに向けたものなので、請求の矢印が方向が向き合っていません。要するに、留置権を適用させる局面ではないということです。

【補足】
 もし、「A→B→C」と甲建物が転売され、Bはまだ売買代金未払い、甲建物はまだAのもとにある、というケースで、CがAに対し建物の引渡し請求をした場合は、AはBの売買代金未払いを理由に甲建物を留置することができます。
 この場合は、AのBへの売買代金請求の矢印と、CのBへの引渡請求の矢印が、ちゃんと向き合っているので「物と債権に牽連性あり」ということで、Aの留置権が認められます。

オマケ
 賃貸借契約の目的物である土地が譲渡された場合に、対抗力のない賃借人が留置権を主張して建物を留置することはできません。そもそも賃借権は、留置権の成立要件である「物=土地に関する債権」ではなく「土地を目的とする債権」なのです。

目的物の賃貸と留置権の消滅

事例5
Aはその所有する時計を時計屋Bに引き渡し修理してもらった。その後、無断でBはCにその時計を賃貸した。


 さて、今度の事例は、所有者Aに無断で時計屋Bがその時計を第三者Cに賃貸してしまった、という話です。
 ではこの事例5で、時計屋Bの留置権は消滅するでしょうか?
 まず、留置権者には善管注意義務があります。つまり、留置権者は留め置く他人の物を大事に扱わなければならないという事です。
 したがって、時計屋Bが無断で時計をCに賃貸することは、認められることではありません。
 この点について、民法では次のように規定されています。

(留置権者による留置物の保管等)
民法298条2項
債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。


 上記、民法298条2項条文にハッキリと「承諾を得なければ~できない」と書いてありますよね。(上記条文中の「債務者」は事例5のA)
 となると、時計屋BがAに無断で時計を賃貸して、Bの留置権は消滅したのでしょうか?
 実はこれが、それによって自動的に消滅するという訳ではないのです。
 少々ややこしいのですが、民法でこのような場合「債務者は留置権の消滅を請求できる」と規定しています。
 したがいまして、結論。
 時計屋BがAに無断でCに時計を賃貸しても、それでBの留置権は自動的に消滅はしません。AがBに留置権の消滅を請求すれば消滅します。
 少しややこしく感じるかと思いますが、これが正確な結論になります。
 もし、試験等で事例5のようなケースで「民法298条2項違反で留置権は自動的に消滅する」という肢があれば、それは誤りになります。あくまで、債務者(事例5のA)が消滅請求をして留置権は消滅します。
 なお、債務者に実害が生じたかどうかは消滅請求の要件にはなりません。実害がなくとも「無断賃貸」という留置権者の義務違反のペナルティとして、債務者は留置権者に留置権の消滅請求ができます。

盗っ人に留置権はあるのか
泥棒
 続いては、こちらの事例をご覧ください。
 
事例6
Aはその所有する時計を修理してもらうため時計屋Bに引き渡した。その後、Cがその時計を盗んで修理した。


 今度は、時計屋BがAから修理のために預かった時計がCによって盗まれ、その時計を盗っ人Cが修理した、というちょっとオモシロいケースです。
 さて、この事例6で、盗っ人Cは「修理代金を払うまで時計を渡さない!」と留置権を主張できるでしょうか?
 結論。盗っ人Cは留置権を主張することができません。
 これは普通に考えて当然の結論ですよね。
 ただ、時計の修理代金は必要費にあたるので、悪意占有者である盗っ人Cにも「回復者への償還請求権」すなわち「修理代金を払え!という債権はあります。それに、留置権成立の3要件を満たしているようにも見えます。
 したがって、Cの主張にも一定の合理性があり、お門違いという訳でもないんです。
 しかし、民法では次のように規定しています。

(留置権の内容)
民法295条
前項の(3要件が揃えば留置権が成立するという)規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。


 盗みは民法295条条文中の「不法行為」に含まれます。
 したがいまして、盗っ人Cの留置権は成立しません。結果、留置権の主張もできないのです。
 盗っ人に留置権はないということです。

【補足】
 賃料不払により賃貸借契約を解除された建物賃借人が、占有権限のないことを知りつつ、解除後に費やした有益費の償還請求権に基づいて、建物の留置権を主張する事はできません。
 これは、そうなった場合の賃借人が自らを不法占拠者と知っている以上、その占有が不法行為によって始まったのと同視されるからです。
 一方で、解除前に費やした有益費の償還請求権に基づく留置権の主張は可能です。これは、占有のはじめに適法な賃貸借契約があったからです。

物と修理代金が違う場合

事例7
Aはその所有する時計を修理してもらうため時計屋Bに引き渡した。修理終了後、AはBに時計の引渡しを求めたが、修理代金がまだ未払いだった。なお、時計は30万円で、修理代金は1万円である。


 さて、今度の事例では考えるべき問題が今までとは違います。
 まず前提として、時計屋Bは留置権を主張してAからの時計の引渡し請求を拒むことができます。これは本記事の最初の事例1とまったく一緒です。
 本題はここからです。
 時計の価格は30万円です。しかし、修理代は1万円です。
 はたして、時計屋Bは「1万円の修理代金」の債権をもって「30万円の時計」の全部を留置できるのでしょうか?
 結論。時計屋Bは時計の全部を留置できます。
 これは、担保権の不可分性によるものです。
 民法の規定はこちらです。

(留置権の不可分性)
民法296条
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。


 不可分とは「分けられない」という意味で、不可分性という性質は抵当権や質権などすべての担保権に共通する性質です。その担保権である留置権も例外ではなく、分けることはできません。
 なので、たとえAが1万円の修理代のうち8000円を支払った段階であっても、時計屋Bは30万円の時計全部の留置ができます。
 
 しかし、留置権は法定担保物権であるために特有の問題が生じます。
 例えば、時計に質権を設定するのであれば「30万円の時計なので20万円まで融資しましょう」というように、担保目的物(質物)の価格と被担保債権の額(融資する額)が釣り合うのが普通です。
 ところが、留置権は法律の規定により、要件を満たせば当事者の意思とは無関係に自動的に成立してしまいます。
 なので、事例7のような、担保権成立の当初から、担保目的物の価格と被担保債権の額がまったく釣り合わないことがよくあるのです。
 でもこうなると、債務者に酷な感じがしますよね。
 そこで民法では、留置権については次の特別な規定を置いて対処しています。

(担保の供与による留置権の消滅)
民法301条
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。


 この民法301条の意味は、事例7にあてはめるとこうです。
 債務者Aは1万円の修理費に相応の、別の担保を差し出すことで、時計の方は返してもらうことができます。例えば、Aが別の1万円の時計を担保として時計屋Bに差し出せば、30万円の時計の方は返してもらうことができます。
 ただし、この民法301条の留置権の消滅請求は、債権者の承諾を要します。その理由は、債務者が差し出す別の担保が、本当に相応のものかが一概には分からないからです。
 つまり、Aが別の1万円の時計を担保として差し出しても、それが本当に修理費1万円に釣り合うかどうか一概には判断できないということです。
 また、その担保に相応性があるにもかかわらず債権者が承諾しない場合は、承諾に代わる判決をもらい留置権を消滅させることることができます。

【補足】
留置物の一部返還

 例えば、宅地造成業者Aが地主Bの依頼を受けて10区画の宅地を造成して、その総工費が1億円(1区画あたり1000万円)だったとします。そして、業者Aが工事代金が支払われる前に4区画を地主Bに引き渡したが、その後、地主Bの代金の支払いが滞った場合、Aは工事費全額分の「1億円払え!」の債権をもって残りの6区画を留置できるのでしょうか?それとも6区画分の工事費「6000万円払え!」の債権をもって6区画を留置するのでしょうか?
 結論。このケースでは、留置権の不可分性の問題として、業者Aは総代金債権「1億円払え!」をもって残りの6区画に留置権の行使ができます。(判例)

不動産賃貸借の場合の留置権
マンション
 ここからは、不動産賃貸借における留置権の問題について解説して参ります。
 まずは事例をご覧ください。

事例8
AはBから建物を賃借した。賃貸借契約終了後、Aは建物について支出した有益費の償還請求に基づき建物を留置している。


 これは、賃借人Aが賃貸人Bに対し「有益費払うまで明け渡さん!」と建物を留置している、という話です。(有益費について詳しい解説は「【賃貸借の終了】必要費と有益費・価値増加現存分の償還請求とは」をご覧ください)
 さて、ではこの事例8で、AはBに無断で建物に住んでいて良いものなのでしょうか?
 まず、賃借人Aは賃貸借契約終了前に支出した有益費について建物を留置しています。そして、建物に住むということは、建物を使用することです。
 あれ?確か留置物を債務者に無断で使用することはできないんじゃ...
 そうなんです。しかし、民法298条2項ただし書きには「その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない」とあります。これはつまり、留置権者は、留置する物の保存に必要な使用なら債務者に承諾なしでもOKということです。
 例えば、何かの機械が留置物の場合、放置しておくとサビついてダメになったりします。なので、物の保存としてもはむしろ使用した方が良いですよね。
 建物の場合も一緒です。空き家にした方がむしろ痛みが激しいのです。
 以上のことから、判例では、留置物である建物に「居住すること」は保存に必要な行為だとしています。
 したがいまして、結論。AはBに無断で留置物の建物に住むことができます。

留置物の賃料の問題

 賃借人Aは建物を留置している間、賃貸人Bに無断で留置物の建物に住むことができるわけですが、家賃を払わず無料で住んでしまって良いものなのでしょうか?
 それはもちろん、そんな訳にはいきません。賃貸借契約が終了したからといって、元々家賃を払って住んでいた建物にタダで居座ることはできません。
 ただ、この点については次のような法律構成をとります。
「Aには賃料相当額の使用利益という不当利得がある」
 つまり、それまでに毎月支払っていた賃料と同額の不当利得が月々で発生し、その返還義務をAはBに対して負う、ということです。もっと簡単に言えば「契約終了後も建物を留置して住むのであれば家賃相当額を払い続けてください」となりますが、あくまでAB間の賃貸借契約は終了しているので「不当利得」という法律構成をとることになるのです。
 あれ?でもAがそのまま住み続けて家賃相当額を払い続けると、その金額が、そもそもの「建物を留置する発端」となった「有益費の償還請求額」を超えてしまうんじゃ...?
 そうなんです。なので、その金額が追いついた時点で、建物所有者Bからの相殺の主張があれば、有益費の償還請求権が消滅し、(被担保債権の存在が前提である担保権の付従性により)それにともなって留置権の消滅、という流れになります。

【補足】
造作買取請求権による建物の留置はできる?


 造作とは、家主の承諾の下に建物に付加した畳や建具のことです。賃貸借契約終了時に、賃借人はオーナー(家主)にこれを買い取れと迫ることができます。これが造作買取請求権です。
 さて、ではこの造作買取請求権に基づき建物を留置することはできるのでしょうか?
 ここでの問題は、造作自体だけでなく、建物も留置できるのか?です。
 結論。判例により「建物と造作は別物だ」ということで、建物の留置はできません。造作に関する債権で建物を留置するのは「物(建物)と債権(造作買取請求権)に牽連性がない」ので無理だ、ということです。
 理屈として、造作自体の留置はできますが、建物に付加してしまっているので、現実にはそれも難しいでしょう。

建物買取請求権と留置権
三角一軒家
 続いてはこちらの事例をご覧ください。

事例9
Aの所有地に借地権の設定を受けたBは、そこに建物を建て所有していた。その後、借地権の期間満了に基づき、AはBに土地の明け渡しを求めた。


 これは、地主Aから借りた土地に建物を建てて所有しているBが、借地契約の期間満了によりAから土地の明け渡しを求められた、という話です。
 さて、この事例9で、Bが建物買取請求権を行使した場合、Bはその土地を留置できるでしょうか?もっと簡単に言えば、借地人Bは「オマエが建物を買い取るまで土地を明け渡さん!」と地主Aに対し留置権の主張ができるのか?ということです。
 結論。借地人Aは地主Bに対し、建物買取請求権に基づき土地の留置ができます。つまり、Bは「オマエが建物を買い取るまで土地を明け渡さん!」と地主Aに対し留置権の主張ができます。
 
建物買取請求権は建物に関する債権なのになぜ土地を留置できるのか?

 まず、建物買取請求権自体は借地借家法13条1項に定められた借地人の権利です。
 したがって、「建物を買い取れ!」と迫って建物を留置することは何も問題ないですよね?
 しかし、建物買取請求権は建物に関する債権なので「物(土地)と債権(建物買取請求権)に牽連性がない」はずです。なので、土地の留置はできないはずです。
 ただ、建物だけ切り離して引っ越した上で土地だけ留置することなど不可能ですよね?なので、もし原理原則に従い建物は留置できて土地は留置できないとなると、建物買取請求権の行使が事実上不可能な権利として何の意味もないものとなってしまいます。
 元々、建物買取請求権は借地借家法による借り手保護政策の一環です。これでは何の借り手の保護にもなりません。
 そこで、判例では、建物を留置できる反射的効果として、土地の留置もできるとしました。
 ただし、タダでという訳にはいきません。借地人は地代相当額を不当利得として地主に返還することになります。ここの理屈は、事例8の有益費の償還請求権のケースと一緒です。

留置権と消滅時効と果実

【消滅時効の問題】
 民法300条では、留置権の行使は被担保債権の消滅時効の進行を妨げないと規定しています。
 どういう意味かというと、留置権を行使したからといって被担保債権の時効の進行は止められない、ということです。つまり、「金払うまで物は渡さん!」と留置権を行使しても「金払え!」という債権の時効の進行には影響はないのです。なので、いつまでも物を留置しているからといってボヤボヤしていると、肝心の「金払え!」という被担保債権が時効で消滅してしまえば、それに伴い留置権も消滅してしまいます。
 なお、留置権は占有を伴う権利なので、留置権それ自体が時効により消滅することはあり得ません。

 では、訴訟上、留置権を行使した場合はどうなるでしょう?
 例えば、所有者からの目的物の返還請求訴訟で、被告側が留置権を主張して返還を拒んだ場合です。
 この場合は、訴訟上、留置権を主張しているので、被担保債権の行使と認められ消滅時効はストップします。ただ、これは催告としての効果であり、訴訟の終結後6ヶ月以内に、被担保債権に基づき支払請求訴訟を提起するなどの手段をとらなければ、時効の更新にはなりません。

【果実の問題】
 民法297条では、留置権者は留置物から生じる果実を収取し、他の債権者に先立ってこれを自己の債権の弁済に充当することができると規定しています。
 どういう意味かというと、留置物から生じる果実については、留置権者に優先弁済権があるということです。    
 留置物を競売した場合、留置権者に優先弁済権はありませんが、留置物から生じる果実に対する優先弁済権はあるのです。この点はご注意ください。

補足:留置権者による費用の償還請求権

 最後に、留置権者による費用の償還請求権について、簡単に解説します。
 占有と償還請求については民法196条に一般則があり、民法299条には留置権についての特則があります。
 これをまとめると、留置権については次のようになります。

必要費→償還請求できる
有益費→価格の増加が現存する限り所有者の選択に従い、その金額または増加額を償還させることができる(所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる))

 通常の占有のケースでは、占有者が果実を取得した場合に通常の必要費を占有者が負担します。しかし、留置権の場合、果実は弁済にあてられるので、通常の必要費も所有者の負担となります。
 また、通常の占有のケースでは、有益費につき裁判所による期限の許与は悪意の占有者のみ認められていますが、留置権の場合は、そもそも他人の物を占有しているのは明らかなので、そのような制限はなく一律に認められています。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【先取特権】民法の原則を曲げる?/一般の先取特権/動産の先取特権/不動産の先取特権/先取特権と第三取得者

▼この記事でわかること
先取特権の基本
一般の先取特権
動産の先取特権
先取特権と第三取得者
不動産の先取特権
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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先取特権の基本

 先取特権とは、法律で定められたある種の債権を有する者に認められる、債務者の財産から他の債権者をすっ飛ばして優先的に弁済を受けられる権利です。 .
 先取特権は、法定担保物権の一種です。ある種類の債権者は法律上、当然に先取特権者になります。
 (設定契約なく法律の定めにより自動的に成立する権利(担保物権)ということ)なので、物上保証もありません。
 そして、先取特権は、債権者平等原則という民法の大原則をねじ曲げてしまうものです。場合によっては、早い者勝ちという民法の物権編の大原則すら曲げてしまいます。
 では一体、先取特権とはどのようなものなのか?わかりやすく具体的に解説して参ります。
 
先取特権の分類

 先取特権には、一般の先取特権と特別の先取特権があります。
 さらに、特別の先取特権は、動産に成立するものと不動産に成立するものがあります。

・一般の先取特権  
         動産の先取特権
・特別の先取特権〈
         不動産の先取特権

 一般の先取特権は、債務者の財産であれば、動産、不動産、債権などすべてに成立可能です。つまり、債務者の一般財産を目的とする先取特権です。
 一方、特別の先取特権である動産&不動産の先取特権は、特定の目的物の上にだけ成立します。

一般の先取特権

 一般の先取特権は、債務者の総財産を目的とします。債務者の総財産とtは、特別の担保の目的となっていない(抵当権や質権等の目的となっていない)債務者の総財産のすべてのことです(一般財産・責任財産)。
 なので先取特権者は、抵当権者や質権者などの者たちと違い、いわばサラ金業者等の担保のない一般債権者と同じ位にある者と言えます。
 ということは、債権者平等原則に従い、他の一般債権者と同様に優先弁済権は持たないように見えますが、、、裁判所は先取特権者を優遇します。
 なんと先取特権者は、なんの登記もなく、対抗要件も必要なく、後からノコノコと現れても、サラ金業者等の一般債権者を押しのけて優先的に弁済を受けることができます。なのでサラ金業者等は、先取特権者が喰い漁った財産の残りから弁済を受けるしかありません。さすがのウシジマ君も困りもんです。
 ではなぜ、先取特権者はそのように優遇されるのでしょうか?
 もちろん、それには理由があります。

一般の先取特権の種類
四本指
 一般の先取特権には、次のものがあります。

1・共益の費用
2・雇用関係
3・葬式の費用
4・日用品の供給

 これが、一般の先取特権の全部です。
 ではなぜ、これら一般の先取特権が優遇されるのか?ですが、それは社会政策的配慮によるものとされています。
 どういうことかと言いますと、例えば、2の雇用関係の債権者が先取特権者の場合、勤務先(=雇用関係の債務者)が倒産した場合に、その従業員(=雇用関係の債権者)が優先して未払い給料等の債権を払ってもらえる、という訳です。
 給料等は必須の生活費になるのものだから優先しよう、という社会政策的配慮が一般の先取特権の制度の主旨なのです。
 なお、一般の先取特権者が複数いる場合の優先順位は、上記1~4の順番どおりになります。

補足

【退職金について】
 退職金は先取特権の対象となるのか?
 これについては、退職金の支払基準および実情に照らし給料の後払いの性格が認められるものについては、先取特権が認められます。

【パートタイム等バイト代】
 これも雇用関係の債権です。したがって、先取特権が認められます。

【共益費用の先取特権について】
 一般の先取特権中では、共益費用の先取特権だけは他3者と毛色が違います。
共益費用というのは、債権者全員にとってプラスになる費用です。 
 例えば、不動産を競売するのであれば、裁判所に差押さえにかかる費用を予納しなければならないのですが、これが共益費用の典型です。この費用は、競売手続で配当をもらうすべての債権者にとっての共益費用ですよね。なので、共益費用を先取りされても他の債権者達も文句は言えないという訳です。
 以上の理由で、共益費用の先取特権は、その利益を受けた特別の先取特権者をも含めてその利益を受けたすべての債権者に優先します。

動産の先取特権

 動産の先取特権は、特定の動産を目的として成立します。
 動産の先取特権には次のものがあります。

1・不動産の賃貸借、旅館の宿泊および運輸
2・動産の保存の先取特権
3・動産の売買、種苗、肥料の供給および農工業労務の先取特権

 動産の先取特権者が複数いる場合の優先順位は、上記1~3の順番どおりになります。
 そして、上記の中で太字のものが主要なものになります。

【不動産の賃貸借の先取特権】
 これは、不動産の借り手が賃料を支払わない場合や、目的物を損傷するなど賃貸借契約上の損害賠償債務を負う場合に、その不動産のオーナーが持つ先取特権です。民法312条では「賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務」に先取特権が存在する、とありますので、賃料以外の債務も含みます。
 例えば、あるビルのオーナーが事務所を賃貸した場合に、その事務所内にある借主の動産全部について先取特権が成立します。金銭、有価証券、借主の家族の時計や宝石などにも成立します。
 仮に、事務所内に他人の動産があったとしても、オーナーがこれについて善意無過失であれば、先取特権は成立します。
え?そこまでできちゃうの?
 はい。そうなんです。これ、中々のことですよね。(民法319条により、このケースでの即時取得に関する民法192~195条を準用すると規定されている)
 つまり、オーナーは借主が家賃を滞納しているような場合借主の事務所内の動産をまるごと押さえてしまえるという訳です。
 先取特権、ホントになんともウシジマ君ばりの荒々しい姿を持っています。でもこれが、不動産の賃貸借の先取特権の正体なんです。

【動産保存&動産売買の先取特権】
 こちらは、特定の動産だけが対象になります。
 例えば、時計を修理したのであれば、修理屋に、修理費用についての先取特権が生じます。(動産保存の先取特権)
 また、時計を売ったが代金未払いであれば、売主は売買代金について先取特権を取得します。(動産売買の先取特権)

【補足】
動産の先取特権者間の優先順位の注意点


 動産の先取特権者が複数いる場合の優先順位が
「1・不動産の賃貸借、2・動産の保存の先取特権、3・動産の売買」
であることはすでに述べたとおりですが、例外のケースがいくつかあります。

「1・不動産の賃貸借の先取特権」で、家主が債権取得の時において、2または3の先取特権者の存在を知っていたときは、その者に対しては優先しません。その理由は、知っていて優先とするのはさすがに厚かましいからです。

次に「2・動産の保存の先取特権」で、家主のために動産の修理をした者がいる場合は、動産保存の先取特権が優先します。こちらは、家主の善意・悪意とは無関係です。なぜなら、保存行為による利益(動産の修理による利益)を家主が受けているからです。
 そして、動産保存の先取特権者間では、後の保存者が優先します。つまり、後に修理した方が優先されるという事です。これは、後の者は前の者のためにも保存行為(修理等)をしたと考えられるからです。

 ちなみに、動産質権者と動産先取特権者との優先度の関係だと、動産質権者と「第一順位の先取特権者」が同順位の関係となります。したがって、配当金は債権額に応じて按分となります。
 もし試験で「質権者が優先」「先取特権者が優先」という肢があれば、どちらも誤りとなりますので、ご注意ください。

先取特権と第三取得者

 先取特権は、不動産を目的とする場合には登記をすることができます。
 しかし、動産を目的とする場合だと、登記は不可能です。
 なので、先取特権は公示のしようがないのです。公示のしようがないとは、先取特権という権利の存在を公に示す方法がないということです。
 つまり、先取特権は、外部からはまったく見えない権利なのです。
 そんな公示できない見えない権利であるにもかかわらず、一般債権者に対して優先するという訳ですから、先取特権とは何とも厚かましい権利だと言えます。
 しかし、そんな厚かましい先取特権にも、弱点があります。
 民法の条文はこちらです。
 
(先取特権と第三取得者)
民法333条 
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について
行使することができない。

 この民法333条の規定により、先取特権は、目的物の動産が債務者の手を離れ第三取得者のもとに移ってしまうと、行使することができなくなってしまうのです。
 具体的には次のようケースです。

事例
AはBが所有する時計の修理をしたが、まだ修理代金はもらっていない。その後、債務者Aは、その宝石を第三取得者のCに引き渡した。


 このケースで、Aが第三取得者Cに対し「Bが修理代金を払わないから時計を競売するぞ!」と先取特権(動産保存の先取特権)を主張することはできません。なぜなら、時計が第三取得者Cの手に渡ってしまったからです。たとえCが悪意であっても(修理代金未払いの事情を知っていても)Aは先取特権の主張はできません。
 また、BからCへの時計の引渡しが占有改定であっても無理です。
 というわけで、Aの先取特権は完全に詰んでしまったということです。
 これが、先取特権の決定的な弱点です。
 なお、この弱点は、一般の先取特権が動産を目的とする場合にも共通しています。

【補足】
 ではもうAには打つ手がないのでしょうか?
 実は、Aにはまだ奥の手が残されています。
 それは物上代位です。
 どういうことかと言いますと、仮に債務者Bが時計をCに売ったのならば、その売買代金債権を差し押さて物上代位することは可能です。

不動産の先取特権
家くん
 不動産の先取特権は、その効力を登記により保存します。
 そして、不動産の先取特権には次の3種類があります。

1・不動産保存の先取特権(不動産の修繕費を被担保債権とする)
2・不動産工事の先取特権(不動産の工事費を被担保債権とする)
3・不動産売買の先取特権(不動産の売買代金を被担保債権とする)

 上記はいずれも登記されているものと考えてください。
 注意点を以下に簡単に記します。
 1は、権利の保存をしたときにも先取特権が発生します。
 2は、工事による不動産価額の増加が現存しないときは先取特権は生じません。
 3は、利息が不動産売買の先取特権の登記事項となります。

【補足】
 上記以外でも、一般の先取特権が不動産を目的とすることもあります。
 一般の先取特権の場合は、登記をしなくても一般債権者には優先します。
 ただし、登記がないと、抵当権者等の登記ある担保権者には勝てません。
 
権利間の順位

 さて、ここで問題となるのは、権利間の順位です。
 誰が誰に優先するのか、その順位争いです。
 登記された一般の先取特権を含めて、この戦いの参加メンバーは次の5者です。

1・不動産保存の先取特権
2・不動産工事の先取特権
3・不動産売買の先取特権
4・一般の先取特権
5・抵当権・質権

 不動産登記の基本原則から言えば、この5者の優先順位争いは登記の前後によるはずです。
 不動産登記は早い者勝ちの世界ですから。
 しかし、上記5者の内、その早い者勝ちの基本原則を破る者が2者います。
 その2者とは、1の不動産保存の先取特権と、2の不動産工事の先取特権です。
 この2者は、先順位の担保権を押しのけて優先配当を受けることができます。
 さらに、1の不動産保存の先取特権は、2の不動産工事の先取特権に優先します。
 
 一方、3~5の不動産売買の先取特権・一般の先取特権・抵当権・質権の間の順位は、「早い者勝ち」の不動産登記の原則通り、登記の先後によって決まります。
 
【順位の具体例】

 ある不動産に、つぎの順位で登記がされているとします。

1番 抵当権
2番 一般の先取特権
3番 不動産工事の先取特権
4番 不動産売買の先取特権
5番 不動産保存の先取特権

 この不動産を競売した場合、配当を受ける順番は以下の通りです。

1位 不動産保存の先取特権(原則破りのランクup)
2位 不動産工事の先取特権(原則破りのランクup)
3位 抵当権(早い者勝ちの原則通り)
4位 一般の先取特権(早い者勝ちの原則通り)
5位 不動産売買の先取特権(早い者勝ちの原則通り)

【補足】先取特権の効力
 これについては、その性質に反しないかぎり、抵当権の関する規定が準用されます。(民法341条)


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【譲渡担保】民法の条文にはない?【代理受領】債権の担保化とは?

▼この記事でわかること
譲渡担保とは
譲渡担保の法的構成の問題
集合物の譲渡担保
債権を担保化する代理受領とは
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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譲渡担保の基本

 譲渡担保は、民法の条文には存在しません。
 つまり、慣習や判例により確立された担保の形式です。(非典型担保)

 譲渡担保とは、債権担保のために目的物の所有権その他の財産権を債権者に譲渡し、一定の期間内に債務を弁済するときには、これを再び返還させるものです。
 もう少しわかりやすく簡単に言いますと、債権の担保のために目的物の所有権を債権者に譲渡し、無事に弁済したら、債務者は譲渡したその所有権を債権者から返してもらう、というものです。噛み砕いて言えば、所有権を「質入れ」する、みたいな感じです。
 
 譲渡担保は、不動産の他、担保物が動産の場合にも利用できます。
 動産で譲渡担保を利用する場合、担保目的物の占有を、債権者に現実に移転するかどうかは自由です(任意)。なので、占有改定による引渡しも可能です。占有改定による引き渡しなら、債務者が(担保目的物となる)動産を実際には使用しながら、担保目的を果たすことも可能という訳です。(債務者が「債権者のために担保目的物を占有します」という形の公示が可能ということ)
 動産を担保とするときには、民法上「質権」の制度がありますが、質権の場合は占有改定による引渡しでは成立しません。この点は譲渡担保の実益と言えます。

【補足】
 動産の譲渡担保の公示方法は「引渡し」だが(占有改定を含む)、不動産の場合の公示方法はもちろん「登記」になります。
 
譲渡担保の法的構成の問題

 そもそも、譲渡担保は民法の条文に存在しませんが、その法的構成が問題となります。
 どういう事かと言いますと、具体例を挙げて解説します。
 例えば、ある町工場の社長のおっさんが、銀行に自己所有の機械を譲渡担保に供したとします。
 この場合に、機械の所有権がおっさんと銀行どちらにあるのか?というのがその問題の所在です。
 そして、この点については次の2つの考え方があります。

1・所有権的構成
 こちらは形式重視で、銀行が所有者という考え方です。
 譲渡担保権者は内部的にも対外的にも取得します。
 担保目的以外の権利行使は禁じられますが、それは当事者間の債権に過ぎません。
 
2・担保的構成
 こちらは実質重視で、町工場のおっさんが所有者という考え方です。
 譲渡担保権者が把握するのは、担保権のみであり、その他の価値は債務者に帰属します。

 以上2つの考え方の内、通説は1の所有権的構成になります。
 譲渡担保権は、当事者間において「譲渡」の形式をとるのだから、その意思を無視することは法律的に無理があるというのがその理由です。
 判例も所有権的構成と評価されていますが、一部、担保的構成への接近を示す傾向もあります。
 また、判例は、譲渡担保を実行するためには、清算手続きを要するとしています。具体的には、譲渡担保の目的物の価格が金5000万円で、(譲渡担保)実行時の債権額が金2000万円であれば、3000万円を清算しろということです。

集合物の譲渡担保

「在庫商品一式を担保にする」という形の、流動する多数の集合体(在庫は毎日変動する)を担保とする譲渡担保は可能なのでしょうか?
 この点については、次の結論が判例によって採用されています。
・集合物の上にも1個の物権が成立する(一物一権主義に反しない)
・目的物の種類、所在、量的範囲が限定され、目的物が特定できれば譲渡担保の目的物となる。
 なお、「家財一切」と定めただけでは特定方法として不十分です。

 それでは、ここで次の事例をご覧ください。

事例
町工場の主が、倉庫にある在庫商品一式について金融機関に譲渡担保権を設定した。


 さて、ではこの事例で、町工場から在庫商品を買った者は、無事に所有権を取得することができるのでしょうか?
 結論。在庫商品の売買が、通常の営業の範囲内のものであれば、買主は購入商品の所有権を町工場の主から承継取得できます。
 集合物の譲渡担保は、町工場の主は通常の営業活動を行いその利益で金融機関に債務の返済をする仕組みだからです。(主に債務者が抵当不動産を使用収益しながら債務を返済していく抵当権と似ている)
 でもよくよく考えてみると在庫商品の数って変動するよね?それでも金融機関はいいのかな?
 もともと、この場合には、在庫の内容は日々変動することは前提に、ある倉庫内の在庫一式を担保目的にしているのです。なので、通常の営業の範囲内の売却であれば、金融機関も了承済みなのです。
 しかし、通常の営業の範囲外の売却については、所有権的構成によることころの金融機関の目的商品への所有権が優先します。
 つまり、この場合は在庫商品の買主は所有権を取得できません。

代理受領

 代理受領とは、債権を担保化する方法の1つです。
 例えば、BがAに対して債務を負担する場合に、その弁済に代えてBがCに対して有する債権の取り立てをAに委任するというケースは代理受領です。

  債権      債権
A  →  B    C
          ↑
       Aに委任

 ポイントは、Aは債権の取り立ての機能のみを取得するのであり、AC間に債権債務関係は生じません。
 したがって、代理受領後も、Cの債権者はBのままです。AとCは無関係のままです。
 この点が債権譲渡との違いです。
 これがまず原則です。

 しかし、Cが代理受領を承認し、その承認が、Bに対する債権の満足を代理受領により得ることができるというAの利益を「正当な理由なく侵害しない」という趣旨を含むと解されるときは、CがBに債務を弁済したときに、CのAに対する「不法行為」が成立することになります。
 詳しく説明するとこうです。

  債権      債権
A  →  B    C
          ↑
      Aが取り立て

「BのAに対する債務」の弁済に代えて、AはCに対して「BのCに対する債権」の取り立てをすることにより「AのBに対する債権」の満足を得られる、という代理受領をCが承認し、その「承認」には「Aの利益を正当な理由なく侵害しない」という趣旨を含むと解される場合に、正当な理由なくCが(Aに対してでなく)Bに対して債務を弁済したときは、そのCの行為はAに対する不法行為になるということです。
 要するに、Aの利益を知り、これを承認しながらもそれを踏みにじったCの行為が不法行為だという意味です。
 では、なぜ「不法行為」になるのか?ですが、AC間に債権債務関係がないからです(契約関係がない)。
 不法行為は「契約によらない債権(債務)」ですよね。したがって、不法行為の問題となるのです。


 さて、譲渡担保と代理受領について、いかがでしたでしょうか?
 譲渡担保と代理受領は、どちらかと言えば、民法の中でもマニアックな部類の項目になると思います。
 譲渡担保は抵当権・質権との違いを、代理受領は債権譲渡との違いをしっかり押さえ、ごちゃごちゃにならないようにお気をつけください。
 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
根本総合行政書士です。
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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