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【不法行為】その基本と過失相殺・権利行使期間について/責任能力&事理弁識能力&監督義務者とは/被害者家族と胎児の損害賠償請求権について
【使用者責任】事業執行の範囲とは/使用者の主張と立証責任の転換とは/使用者の求償権?社長個人は使用者責任を負うのか
【不法行為責任と債務不履行責任の違い】被害者側に有利なのは?損害賠償請求しやすいのは?
【共同不法行為】複数人で不法行為を行った場合の連帯責任と客観的共同関係とは
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【不法行為】その基本と過失相殺・権利行使期間について/責任能力&事理弁識能力&監督義務者とは/被害者家族と胎児の損害賠償請求権について

▼この記事でわかること
不法行為とは
通常の不法行為のケース
被害者側にも過失があるケース
権利の行使期間
▽不法行為の責任能力
責任能力無き者、不法行為成立せず
責任能力なき加害者に対し被害者が取れる手段と監督義務者とは
加害者が責任能力のある未成年の損害賠償請求
事理弁識能力
被害者の家族の損害賠償請求権
▽コラム
胎児の損害賠償請求権~人間はいつから権利能力を持つのか~
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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不法行為

 不法行為は、違法な行為により生じた損害を賠償させる制度です。
 まずは不法行為に関する民法の条文をご覧ください。

(不法行為による損害賠償)
民法709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


 この世の中は契約社会です。そして、契約が成立すると債権債務関係が生じます。
 しかし、世の中には契約によらずして債権債務関係が生じるケースが存在します。
 そのひとつが、この民法709条に規定される不法行為です。
 例えば、AさんがBさんを殴ったらAさんの不法行為が成立し、加害者のAさんは不法行為責任を負い、被害者のBさんは加害者のAさんの不法行為責任を追及して、その損害の賠償請求ができます。
 つまり、契約という約束を破って生じる債務不履行とは違い、何の約束も契約もないのに、違法な行為により生じた損害によって、被害者という債権者加害者という債務者が生まれ、加害者という債務者損害を賠償する責任を負うのです。
 これが不法行為です。
 不法行為という制度自体が何なのかは、おわかりになりましたよね。
 それではここからは、わかりやすく事例を交えて具体的に解説して参ります。

通常の不法行為のケース

事例1
AはBの過失により大怪我を負った。


 ものすごいざっくりした事例でスイマセン(笑)。
 さて、この事例1で、Aは何ができるでしょうか?
 もうおわかりでしょう。被害者のAは加害者のBに対し、不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができます。

 ところで、損害というものは、以下のように大きく2つに分けることができます。

1・財産上の損害
 事故によって汚れたり壊れたりした物、怪我の治療費、休業補償など
2・財産以外の損害
 精神的損害のこと(いわゆる慰謝料)

 大雑把に、大体こんな感じです。
 上記の詳細については省きますが、ここで大事なのは、損害には大きく「財産上の損害」と「財産以外の損害」の2つがある、ということです。

 話を事例に戻します。
 それでは、事例1のAがBに賠償請求できる損害とは、どちらの損害になるのでしょうか?
 正解。Aは財産上の損害財産以外の損害、両方の賠償請求が可能です。
 ちなみに、財産以外の損害の請求とは、慰謝料請求のことです。
 つまり、事例1のAはBに対して慰謝料の請求もできます。

被害者側にも過失があるケース

事例2
AはBの過失により大怪我を負った。しかし、Aにも過失があった。


 今度は、被害者側にも過失(ミス・落ち度)があったケースです。
 ではこの場合、過失ある被害者のAは何ができるのでしょうか?
 正解。被害者であるAは加害者であるBに対し、不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができます。
 ただし!事例2のケースでは、被害者者側のAにも過失があります。
 ですので、過失がないときに請求できる金額よりも減額される可能性があります。
 その減額される割合は、現実には、実際の不法行為時の状況を見て検証した上で裁判所が決めることになりますので、ここで一概に申し上げられません。
 いずれにせよ、被害者側にも過失があるときは、損害賠償の請求金額に影響する可能性があるのです。
 これを過失相殺と言います。加害者側の過失と被害者側の過失分を相殺しましょう、ということです。
 車での交通事故の経験のある方は、過失割合なんて言葉を聞いたと思います。あれも過失相殺のことです。そして、過失割合によって示談金等の金額も変わってきますよね。

権利の行使期間

 不法行為における損害賠償の請求は、損害及び加害者を知ってから3年、または不法行為時から20年に行わなければなりません。
 ここで気をつけていただきたいのは「損害及び加害者」というところです。つまり、損害と加害者両方を知ってから3年以内ということです。ご注意ください。
 また、生命・身体の侵害による損害賠償の請求につきましては、損害及び加害者を知ってから5年、または権利を行使することができる時から20年となります。
 なお、この生命・身体の侵害による損害賠償の請求については、2020年4月施行の民法改正で新設された特則です。民法改正以前の旧民法での規定で記憶していた方はくれぐれもご注意ください。(20年という期間が除斥期間ではなく時効期間になったことも注意)
【参考】
生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則
生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則
※出典:法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料』
 
不法行為の責任能力

 ここからは、不法行為における加害者(債務者)の責任能力の問題について解説して参ります。

事例3
Aは小学三年生のBの過失により大怪我を負った。


 さて、この事例3で、AはBの不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができるでしょうか?
 結論。AはBに損害賠償の請求はできません。なぜなら、Bが小学三年生だからです。
 
責任能力無き者、不法行為成立せず

 民法における責任能力とは、自分がやった事が法律上の責任を生ずるということを自分でわかっている能力です。
 わかりやすく言うと、法律上イケないことをしたら、それが法律上イケないことだと自分でわかっている能力です。
 学説上では、満12歳程度をもって責任能力ありとされています。
小学校卒業
 大体、小学生と中学生の間ぐらいで線引きされるイメージですね。
 また、心神喪失者なども責任能力なしと考えられ、不法行為が成立しません。
 例えば、通り魔事件があって犯人が心神喪失者と判断されれば、犯人の不法行為は成立せず免責となります。
 これは台風や地震に損害賠償請求できなければ野犬やヘビに損害賠償請求できないのと理屈は一緒で、これが近代法の責任主義の原理なのです。
 よく、通り魔みたいな事件が起こったときに「犯人の責任能力の有無」みたいな話が出てくるのは、現在の法律が、この近代法の責任主義の原理に立脚しているからです。

責任能力なき加害者に対し被害者が取れる手段と監督義務者とは

 さて、そうなると、事例3において被害者であるAは、泣き寝入りということになってしまうのでしょうか?
 実は、Aにはまだ2つ、損害賠償の請求手段が残されています。

1・小学三年生のBの親権者に、監督義務違反による損害賠償を請求する
2・1の監督義務者に代わってBを監督する者(例えば学校や教師)に、監督義務違反による損害賠償を請求する


 上記2つの手段が、被害者のAにできることです。
 念のため解説しますが、親権者(通常は親)には自分の子供の監督義務があります。
 監督義務とは、簡単に言うと「ちゃんと面倒みなさいよ」ということです。
 つまり、事例3のAが、小学三年生のBの親に監督義務違反を追及するという意味は「あなたは親なのにちゃんとBの面倒みてませんよね!それによって私は損害を被った。だからBの監督義務者である親のあなたに賠償請求します!」ということです。
 これが上記1の手段になります。
 ここまでで、親権者の監督義務についてと、その責任追及によりAは小学三年生のBの親権者に損害賠償の請求ができる、ということがわかりました。
 では、上記2の手段「監督義務者に代わって監督する者に損害賠償請求する」とは、どういう意味なのでしょうか?
 これはもうおわかりですよね。
 Bの通う学校やその学校の教師に対して、Aは損害賠償の請求ができるということです。
校舎
 学校や教師の責任も、親同様重大なのです。
 なお、現実には、事案ごとに状況を見て検証し、その者に監督義務違反があったかどうかが判断され、実際に損害賠償の請求ができるかどうかの結論は、個別具体的に出されます。(要するに結果はケースバイケースということ)
 以上、事例3でAができることをまとめるとこうなります。

AはBに対し直接、損害賠償の請求はできない。それはBがまだ小学三年生で責任能力がないから。そのかわりBの親権者(通常は親)か、場合によっては学校または教師に、監督義務違反による損害賠償の請求ができる

 念のため付け加えておきますが、被害者側のAにも過失があれば、それは過失相殺として考慮されます(請求できる金額に影響する等)。この点もご注意ください。

加害者が責任能力のある未成年の損害賠償請求

 続いて、次のような場合はどうなるのでしょう?

事例4
Aは中学三年生のBの過失により大怪我を負った。


 この事例4で、AはBに不法行為責任を追及して、損害賠償の請求ができるでしょうか?
 結論。AはBに不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができます。なぜなら、中学三年生のBには責任能力があるからです。
 責任能力のある中学三年生のBは、損害の賠償義務を負います。

中学生に損害を賠償できる資力(お金)があるのか?

 ここでひとつ問題があります。
 果たして、まだ中学三年生のBに損害を賠償できるだけの資力、つまり、それだけのお金があるのか?という問題です。
 もし、Bがお金持ちのお坊ちゃんで毎年お年玉で100万はもらっている、みたいな感じなら、たとえBが中学三年生でも損害を賠償できるだけの資力があるかもしれません。でも、そんなの極めてマレですよね。
 すると、そんな珍しいケース以外の場合、つまり、通常のケースにおいては、被害者は困ってしまいます。
 そこで、判例では次のように示しています。

「被害者が親権者の監督義務違反とそれにより損害が生じたという一連の因果関係を立証すれば、被害者は親権者に対して損害賠償の請求ができる」

 親権者とは、通常は親のことです。
 監督義務とは、簡単に言うと「ちゃんと面倒みる義務」ということです。
 したがいまして、事例4のAは、中学三年生のBの不法行為は、Bの親権者の監督義務違反(ちゃんと面倒みなかったこと)によって起こり、それが原因となってAは損害を被ったということを立証できれば、AはBの親権者に対しても損害賠償の請求ができます。

補足
 民法において、未成年は特別扱いされます。
 それは、未成年を保護するためです。
 ですので、一連の事案に未成年が絡んでくると厄介なのです。
 例えば、大人同士であればフツーに有効な契約も、未成年が相手だと無効になったりあるいは違法になったり。
 未成年に関する問題は民法の学習においても重要で、そちらについては「制限行為能力者~未成年者の超基本」で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。

事理弁識能力

事例5
小学三年生のBは道路に急に飛び出した。スピード違反でバイクに乗っていたAは避けきれずにBにぶつかり怪我を負わせた。


 さて、この事例5では、スピード違反という過失のあるAの不法行為が成立し、BはAの不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができます。
 ここまでは何の問題もないですよね。
 しかし!この場合、Aはきっとこう主張するはずです。
確かにオレにはスピード違反という過失がある。そしてBに怪我を負わせた。たがBにも急に飛び出してきたという過失があるじゃないか!だから過失相殺が認められるはずだ!
 この主張は、決してAの往生際が悪い訳ではなく、正当なものです。
 という訳で、さっさとまずは結論を申し上げます。
 事例5において、裁判所が過失相殺をすることは可能です。(任意相殺)
 裁判所が過失相殺することは可能という意味は、事案ごとに判断されるという意味です。
 要するに、ケースバイケースで裁判所が判断するということです。
裁判所
 いずれにせよ、事例5では、過失相殺される可能性はあるということです。
 そして、実際にAの主張が認められるかどうかは、事案を検証して裁判所が決めることになります。
 え?てゆーかそもそも小学三年生のBには責任能力がないから過失も認められないんじゃないの?
 ごもっともな指摘です。しかし、過失相殺において被害者側に問われる能力は、不法行為が成立するための責任能力ではなく、事理を弁識する程度でよいとされています。
 この事理弁識能力は、小学校入学程度で認められます。
 したがいまして、小学三年生のBには事理弁識能力が認められ、Bに事理弁識能力が認められるということは過失も認められるので、過失相殺の可能性があるということになるのです。

 それでは、次の場合はどうなるでしょう?

事例6
3歳児のBは道路に急に飛び出した。スピード違反でバイクに乗っていたAは避けきれずにBにぶつかり怪我を負わせた。


 この事例6の場合、過失相殺はどうなるでしょうか?
 結論。この場合はBの過失が認められず、過失相殺は認められません。なぜなら、歳児のBには事理弁識能力がないからです。
 事理弁識能力、おわかりになりましたよね。

不法行為・過失相殺の様々なケース

事例7
親権者の不注意により3歳児のBは道路に急に飛び出した。スピード違反でバイクに乗っていたAは避けきれずにBにぶつかり、怪我を負わせた。


 この事例7の場合は、Bの親権者の過失があります。
 このときは、Bの親権者の過失被害者側の過失として過失相殺の対象になります。

事例8
保育士の不注意により3歳児のBは道路に急に飛び出した。スピード違反でバイクに乗っていたAは避けきれずにBにぶつかり、怪我を負わせた。


 この事例8の場合、保育士の過失は被害者側の過失とは認められず、過失相殺の対象にはなりません。
 被害者側の過失とは、被害者と身分上ないし生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失、とされています。つまり、保育士はそれに当てはまらないのです。
 また、もし保育士の過失が被害者側の過失と認められてしまうと、実は子供の親が困ってしまいます。なぜなら、保育士の過失によって損害賠償の金額が減ってしまうからです。
 ただ自分の子供に怪我を負わされた親としては「そんなのたまったもんじゃない」となる訳です。

責任能力と事理弁識能力のまとめ

 責任能力12歳程度
 事理弁識能力小学校入学程度
 不法行為責任が生じるには責任能力が必要で、
 過失相殺の対象となる被害者の過失として認められるには事理弁識能力で足りる。
 このようになります。
 この違い、お気をつけください。

被害者の家族の損害賠償請求権
家族
 さて、最後は不法行為の被害者の家族の損害賠償請求権について解説します。

事例9
AはBの過失により大怪我を負った。AにはCという妻がいる。


 この事例9の場合、AがBに損害賠償請求ができるのは不法行為責任の基本として当然ですが、被害者のAの配偶者であるCが、加害者のBに損害賠償の請求ができるでしょうか?
 結論。被害者のAの配偶者であるCに財産上の損害が生じたとき、Cは加害者のBに対し、Aの分とは別に配偶者自身の損害賠償の請求ができます。
 Cに財産上の損害があれば、CはCとして、Bに対し損害賠償の請求ができるということです。
 ん?財産上の損害?じゃあ財産以外の損害、つまり慰謝料の請求はできないの?
 これがちょっと微妙な問題なんです。
 民法では次のように規定されています。

(近親者に対する損害の賠償)
民法711条
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。


 この民法711条の条文を見る限りでは、被害者のAの配偶者であるCには、慰謝料の請求は認められなそうです。なぜなら、Aの生命の侵害はない、つまり、Aが死亡した訳ではないからです。
 しかし!判例ではこの「生命の侵害」をもう少し幅広く捉え「死亡の場合に比肩し得る精神上の損害」にも、慰謝料の請求を認めています(顔面に大怪我を負った子供の母親に慰謝料請求権を認めたという判例がある)。
 したがって、配偶者Cの、加害者Bへの慰謝料の請求は、認められる可能性はあります。
 さらに付け加えて申し上げておきますと、判例では条文中の「父母、配偶者及び子」という部分も、もう少し幅広く解釈しております。(死亡した被害者と同居していた妹に、妹自身の慰謝料請求権を認めた。妹は死亡した兄の介護を受けていた)


 以上、不法行為についての解説になります。
 不法行為は、民法の中でも多くの人がリアルに捉えやすい問題なので、ある意味学習しやすいかもしれません。言い方を変えれば、多くの人にとって身近に起こりうる問題として、リアルな危機感を持って学習できる箇所とも言えますね。
 なお、以下に不法行為の問題に絡む、ちょっとしたコラムも記載しましたので、よろしければそちらもお読みいただければ幸いです。 

ちょこっとコラム
権利能力の始期

~人間はいつから権利能力を持つのか~

 ところで、人間はいつ権利能力を取得するのでしょうか?
 いきなり哲学的な話をする訳ではありませんよ(笑)。
 実は、この問題の結論が、不法行為の問題にも絡んでくるのです。
 例えば、まだ母親のお腹の中にいる胎児Aが産まれる以前に、父親が他人の不法行為で死亡したとき、母親は加害者に対する損害賠償請求権を得ます。
 ここまでは当然の話ですよね。そして実は、胎児Aも加害者に対する損害賠償請求権を得ます。

胎児の損害賠償請求権
妊婦(胎児)
 民法上の人間の権利能力の始期は、出生とされています。
 つまり「おぎゃー」とこの世に生きて産まれてきた時に、権利能力を取得するのです。
 もっと厳密に言うと、母親の体から赤ん坊の全身が出てきた時に、その赤ん坊は権利能力を取得します。
 この考えを全部露出説と言います。
 ちなみに、刑法では体の一部が出てきた時に権利能力を取得するという一部露出説を取ります。
 そして、死亡した時権利能力の終期です。
 ん?じゃあ胎児が損害賠償請求権を得るっておかしくね?
 確かに矛盾していますよね。
 民法では以下の3つの権利については、例外的胎児でも取得するとしています。

・不法行為に基づく損害賠償請求権
・相続※
・遺贈※

※相続と遺贈については家族法分野で詳しく解説いたしますのでここでは割愛します。

 さらに申し上げますと、厳密には上記3つの権利も、胎児の時にはいわば仮のような状態で、この世に出生した瞬間に正式に取得するとしており、これを停止条件説と言います。
 つまり「この世に生きて産まれてくること」が条件となり、その条件が満たされた瞬間に権利能力を取得する、ということです。
 一方、胎児の時からも正式に権利能力を取得して、もし死産になった時は権利能力は失われる、とする解除条件説という考えもありますが、判例は停止条件説を取ります(民事)。
 停止条件説ってややこしくね?
 確かにややこしいですよね。
 ではなぜ、判例が停止条件説を取るのかといいますと、胎児の時から正式に権利能力を取得するという解除条件説だと、胎児の代理人が成り立ってしまうからです。
 代理人が成り立ってしまうということは、胎児の損害賠償請求権を、胎児が生きて産まれてくる前に代理人が行使できてしまうことになります。
 したがって、解除条件説だと、胎児の権利を奪いかねないのです。なので、理屈としてはややこしいですが、判例は停止条件説を取るのです。
(民法における条件というものについての詳しい解説は「停止条件と解除条件、随意条件とは/既成条件と不能条件とは」をご覧ください)


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【使用者責任】事業執行の範囲とは/使用者の主張と立証責任の転換とは/使用者の求償権?社長個人は使用者責任を負うのか

▼この記事でわかること
不法行為の使用者責任
使用者に損害賠償請求できるメリット?
事業の執行(業務上)の範囲?
使用者の主張と立証責任の転換
従業員の不法行為の責任を社長個人が負う可能性
使用者の求償権
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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不法行為の使用者責任

 使用者とは、簡単に言うと雇い主のことです。
 つまり、使用者責任というのは雇い主の責任です。

事例
AはBの過失により起こった交通事故で大怪我を負った。Bは甲タクシー会社の運転手で、Bが運転するタクシーがBの過失が原因で起こした交通事故によりAが被害を被ったのだった。


 さて、この事例で、被害者のAは加害者のBに対し、不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができるのは当然です。
 さらに、Aができることはそれだけではありません。
 AはBの勤める甲タクシー会社にも損害賠償の請求ができます。これが使用者責任です。
 Bの使用者(雇い主)は甲タクシー会社で、甲タクシー会社はBが業務上行ったことについて責任を負います。
 したがいまして、Bが業務上に起こした損害についての責任は、Bの使用者(雇い主)である甲タクシー会社も、使用者責任として負うことになります。ですので、Aは甲タクシー会社に対しても損害賠償の請求ができるのです。

使用者に対して損害賠償の請求ができるメリット

 てゆーかフツーに加害者Bに直接損害賠償の請求すればよくね?
 もちろん、加害者本人に直接損害賠償の請求をしても全然かまいません。
 しかし、もし加害者本人に資力がなかったら、つまり、加害者本人に「損害を賠償できるだけのお金」が無かったらどうしましょう?
 そうなると、被害者としては困ってしまいますよね。
 しかし、使用者はどうでしょう。普通に考えて、少なくとも加害者個人よりかは資力(お金)があるはずです。すると、被害者としては使用者に損害賠償請求をした方が、賠償金の回収はより確かなものになるのです。
 ただし!使用者責任を追求する場合には注意点があります。
 民法の条文はこちらです。

(使用者等の責任)
民法715条
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2項以下略


 上記、民法715条が、使用者責任についての民法の規定の基本的な部分になります。
 ここで注意しなければならないポイントが「事業の執行について」という箇所です。
「事業の執行」とは「業務上」という意味です。つまり、使用者責任はあくまで業務上で起こした損害についての責任を負うわけであって、業務以外で起こした損害については使用者責任にはなりません。
 例えば、事例のBが休日中に自家用車で事故を起こした際の損害は、甲タクシー会社は使用者責任を負いません。なぜなら、Bが休日中に自家用車で起こした事故と甲タクシー会社の事業の執行とは何の関係もないからです。(業務上の損害にならない)
 したがいまして、不法行為の被害者が加害者の勤め先に対し、使用者責任に基づいた損害賠償請求が認められるためには、加害者の不法行為が事業の執行の中で行われたと認められなくてはなりません。

 以上、事例に当てはめてわかりやすく言うと、被害者Aが甲タクシー会社に使用者責任を追及するなら、加害者Bの起こした交通事故が「業務中に起きた事故」と認められなければならない、ということです。
タクシー
 さて、そうなると今度は、こんな問題が生じます。
 一体どこからどこまでが事業の執行なの?

事業の執行(業務上)の範囲

 判例では、事業の執行(業務上)にあたるかどうかは、行為の外形から判断するとしています。
 では、行為の外形で判断するとは、どういうことなのでしょうか?
 例えば、Bが業務中に起こした事故であれば、それは当然、事業の執行にあたるでしょう。そして、Bが休日中にドライブしていて起こした事故であれば、それは事業の執行としては認められないでしょう。
 では、Bが休日中にタクシーを運転して起こした事故はどうでしょう?
 この場合は、事業の執行として認められてしまい、甲タクシー会社に使用者責任が生じる可能性があります。なぜなら、行為の外形で判断されるからです。
 甲タクシー会社としては「Bが休日中に勝手にタクシーを運転してやらかしたことだ!弊社の業務とは関係ない!」と言いたいところでしょう。
 しかし、客観的に見たらどうでしょうか。たとえ加害者のBが、休日中に甲タクシー会社の業務とは何ら関係なく勝手にやらかしたことだとしても、甲タクシー会社に勤めるBがタクシーを運転している時点で、はたから見れば、甲タクシー会社の業務に見えてしまいますよね。これが、行為の外形で判断するという意味です。

 このように、使用者責任においては被害者側の損害賠償が認められやすくなっています。同時に、使用者責任の重さもわかりますね。
 ちなみに、ヤ〇ザの暴力事件につき組長の使用者責任を認めた、なんて判例もあります。これもある意味、使用者責任の重大さを物語っていますよね(笑)。

使用者が主張できることはないのか

 加害者の使用者(雇い主)は使用者責任を負い、被害者は加害者の使用者(雇い主)に損害賠償の請求ができます。
 では、使用者は何かしらの主張をして責任を免れることはできないのでしょうか?
 まずは民法の使用者責任に関する条文を今一度、確認してみましょう。

(使用者等の責任)
民法715条
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2項以下略

 実は、使用者は「使用者が被用者(加害者)の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」を主張立証すれば、責任を免れることができます。
 これはどういう意味かと言いますと、冒頭の事例で、甲タクシー会社が、Bの選任及びその事業の監督(業務の指揮・監督)について相当の注意をしたこと、または、いくら甲タクシー会社が相当の注意をしてもBの交通事故による損害が生じてしまうのは避けられなかったことを主張立証できれば、責任を免れることも可能だということです。
 要するに、雇い主の甲タクシー会社が慎重にタクシー運転手としてBを選んでいて、いくら注意・監督・指示しても「Bが事故をやらかす事は避けられなかった」ことを主張立証できれば、甲タクシー会社は使用者責任を取らなくて済む、ということです。
 使用者責任は無過失責任ではありませんので、使用者に免責される可能性が残されているのです。
 しかし!使用者責任は、通常の不法行為責任よりも被害者側に有利な仕組みになっています。

立証責任の転換

 通常の不法行為責任であれば、被害者側加害者の過失を立証して損害賠償の請求ができるのに対し、使用者責任では、加害者側(使用者側)が自らの過失がなかったこと立証しなければ責任を免れることができません。
 つまり、通常の不法行為責任と比べて、使用者責任では立証責任の転換が図られているのです。これは簡単に言えば、通常の不法行為責任よりも使用者責任の方が被害者が救済されやすくなっているということです。
 このことからも、使用者責任の重さが理解できますよね。

従業員の不法行為の責任を社長個人が負う可能性

 ここで今一度、事例を見てみましょう。

事例1
AはBの過失により起こった交通事故で大怪我を負った。Bは甲タクシー会社の運転手で、Bが運転するタクシーがBの過失が原因で起こした交通事故によりAが被害を被ったのだった。


 さて、ここで使用者責任に関する民法の条文の2項をご覧ください。

(使用者等の責任)
民法715条

2項 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3項 略


 この民法715条2項に記されている事こそ「社長個人は使用者責任を負うのか」についての規定になります。
 それでは、事例に当てはめて具体的に解説して参ります。

甲タクシー会社の社長は社長個人として使用者責任を負うのか
社長
 民法715条2項には「使用者に代わって事業を監督する者」も、使用者責任を負うと記されています。
 ではその「使用者に代わって事業を監督する者」とは、具体的にどのような者を指すのでしょうか?
 それは「加害者である被用者(従業員)に直接の指示を出す立場にある人」を指します。これは、加害者の直属の上司と考えるのが妥当です。すると、事例の場合、Bの直属の上司も使用者責任を負う可能性があるということです。
 以上のことを踏まえて「社長個人は責任を負うのか」について考えますと、こうなります。

社長が加害者に直接業務の指示を出しているような場合は社長個人も使用者責任を負う可能性があり
社長が加害者に直接業務の指示を出すことがないような場合は社長個人が使用者責任を負う可能性はまずない


 これを事例に当てはめると次のようになります。

甲タクシー会社の
社長がBに直接業務の指示を出しているような場合
社長個人使用者責任を負う可能性あり

甲タクシー会社の
社長が直接業務の指示を出していないような場合
社長個人使用者責任を負わない

 小さい会社では、社長が現場の従業員に直接指示を出すことは、よくあることだと思います。
 反対に大会社では、社長が現場の従業員に直接指示を出すことは、中々ないと思います。
 したがって、小さい会社等で社長自身が現場の従業員に直接指示を出しているような場合は、現場の従業員の不法行為の責任を社長個人が使用者責任として負い、被害者の損害賠償の請求に応じなければならない事態もありうるのです。
 人間は立場に比例して責任も重くなるということです。
 肝に銘じておかなければなりませんね。
悩む社長
 使用者責任は、被害者の保護に厚くなっています。
 その結果として、使用者の責任は重くなっています。
 とにもかくにも、人を雇って事業を経営するということは、とても大変なんですよね。
 それは、この使用者責任の問題からも垣間見ることができます。

使用者の求償権

 使用者(雇い主)は、使用者責任に基づいて被用者(従業員)の事業の執行(業務上)の範囲内の不法行為の責任を負い、被害者の損害を賠償しなければなりません。
 これは「使用者(雇い主)は被用者(従業員)の働きにより利益を上げるが、それであるなら同じように被用者(従業員)のもたらす損害も負担すべきだ」という理屈に基づいています。
 しかし、使用者責任というのは、あくまで代位責任だと通説では考えられています。
 これはどういう意味かと言いますと、本来、不法行為の損害賠償の責任は加害者自身が負うところを、加害者の使用者(雇い主)が加害者に代わってその責任を負う、ということです。となると、本来、加害者自身が負わなければならない不法行為の損害賠償の責任を、使用者(雇い主)はあくまで加害者である被用者(従業員)に代わって負っただけなので、いわばその肩代わりした損害について、使用者(雇い主)が被用者(従業員)に対し「元はおまえがやらかしたことだ。だからおまえは会社(使用者)に賠償しろ」と主張する権利も認められてしかるべきです。
 そう、その権利が使用者の求償権です。※
※求償権とは、求償する権利のこと。求償とは、わかりやすく簡単に言うと「私が君の代わりにアイツに払ってあげた分を君は私に払いなさい!」ということ。
 民法の条文はこちらです。

(使用者等の責任)
民法715条

2項 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3項 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。


 ここで注目していただきたい箇所は、民法715条3項の「使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない」という部分です。
 ここがまさしく、使用者責任における「使用者の求償権」を定めている箇所になります。
 以上のことを踏まえて、再び事例を見てみましょう。

事例
AはBの過失により起こった交通事故で大怪我を負った。Bは甲タクシー会社の運転手で、Bが運転するタクシーがBの過失が原因で起こした交通事故によりAが被害を被ったのだった。


 この事例で、加害者Bの使用者である甲タクシー会社は、使用者責任により被害者Aの損害賠償の責任を負います。
 しかし、甲タクシー会社は被害者に損害を賠償した後「元はBがやらかしたことだ。だから肩代わりした分をBは会社に賠償しろ!」と、民法715条3項に基づいてBに対し求償権を行使できるのです。

求償権の範囲
女性と電卓
 では、使用者(雇い主)は被用者(従業員)に対し、どこまで求償できるのでしょうか?
 この点について、実は民法の条文には規定がありません。なので、使用者は被用者(従業員)に対し、全額の求償ができると考えられています。
 ということはつまり、事例の甲タクシー会社は、Bに対し、Aに賠償した金額の全額を求償できるということです。
 しかし!例えば、このような場合はどうでしょう。
 Bが起こした事故が、常態化した甲タクシー会社の過酷な労働も原因となり起こったものだったとしたら...(つまり甲タクシー会社のブラック具合も原因の一つだった)
 このような場合、判例では、使用者の求償に制限を持たせています。
 では具体的にどの程度の制限を加えるのか?ですが、それについては事案ごとによって異なりますので、一概にこれだと申し上げることはできません。
 したがいまして、ここで覚えておいていただきたい事は「使用者(雇い主)は被用者(従業員)に対し損害の全額を求償できる。しかし、場合によって求償の範囲(金額)は制限される」ということです。

使用者責任の仕組みは被害者が救済されやすくなっている

 この求償という仕組み。
 初めはややこしく感じるかもしれません。
 わざわざ使用者(雇い主)が肩代わりした後に被用者(従業員)に求償するぐらいなら、ハナっから被用者(従業員)、つまり、加害者自身が賠償すればイイじゃん!と思うかもしれません。
 しかし、一見ややこしい、このような一連の使用者責任の仕組みが、被害者を救済しやすくしているのです。
 被害者側からすれば、使用者が賠償しようが加害者自身が賠償しようが、損害を賠償してくれさえすればイイわけですが、損害賠償の請求をより確実にするためには、加害者側の資力の問題、すなわち賠償金を確実に回収できるかという問題と、立証責任の2点において、この使用者責任の仕組みが、結果的に被害者側に有利に働くことになるのです。
 この「被害者が救済されやすくなっている」という点を意識すると、使用者責任の仕組みが理解しやすくなると思います。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【不法行為責任と債務不履行責任の違い】被害者側に有利なのは?損害賠償請求しやすいのは?

▼この記事でわかること
不法行為責任と債務不履行責任の違い
不法行為責任と債務不履行責任が同時に生じるケースもある
どちらで損害賠償請求した方がいいのか
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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不法行為責任と債務不履行責任の違い

 不法行為責任とは、不法な行為を行った責任です。
 例えば、AさんがBさんを殴ったら、Aさんは不法な行為を行った加害者となり、AさんにはBさんに損害を賠償する責任(不法行為責任)が生じます。
 債務不履行責任とは、債務を履行しない責任です。
 例えば、AさんがBさんから時計を買って、AさんにはBさんに対して期日までに代金を支払わないといけない義務(債務)があるのに、期日を過ぎても代金を支払わない、つまり、その義務を果たさない(債務を履行しない)ような場合、AさんにはBさんに対して損害を賠償する責任(債務不履行責任)が生じます。

不法行為責任と債務不履行責任が同時に生じるケースもある

 不法行為にせよ債務不履行にせよ、損害を受けた者は損害を与えた者に対し損害賠償の請求ができますが、不法行為による損害と債務不履行による損害が、競合する場合があります。

事例
Aは開業医のBによる手術を受けたが、Bの過失により障害を負ってしまった。


 この事例で、AはBに対し、不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができます。
 しかし、こうも考えられます。
 患者Aと開業医Bは「手術をする⇄対価を支払う」という契約関係にあり、開業医Bは患者Aに対し、過失なく安全に手術をする契約義務(債務)があります。
 つまり、開業医Bは「過失なく安全に手術をするという債務」を履行できなかった、すなわち債務不履行に陥ったと考えられ、患者Aは開業医Bの債務不履行による損害賠償の請求もできる、ということになります。

不法行為と債務不履行、どちらで損害賠償請求した方がいいのか

 ここがまさに今回のテーマの肝ですが、これは状況次第で結論が変わってきます。
 まず、不法行為と債務不履行の大きな違いのひとつに「加害者と被害者、どちらに立証責任があるか」があります。
 不法行為の場合は、被害者側加害者の過失を立証して初めて損害賠償が認められます。
「被害者側が加害者の過失を立証」とは、被害者側で「加害者が悪かったこと」を証明しなければならないという意味です。
 一方、債務不履行の場合は、加害者自らに過失がないことを立証できなければ責任を免れることができません。
 これはどういう意味かといいますと、加害者が自ら「わたしは悪くない!」ことを証明しなければその責任を免れられないという意味です。つまり、債務不履行の場合は、加害者(債務者)が債務不履行に陥った時点で、加害者側の過失が推定(加害者側が悪かったと推定)されてしまうのです。
素材112債権
 したがいまして、不法行為責任を追及するよりも債務不履行責任を追及した方が、必然的に被害者の損害賠償の請求は認められやすくなっています。

だったら不法行為と債務不履行が競合したときは債務不履行による損害賠償請求一択でいいんじゃね?

 確かに、立証責任の側面から見れば、債務不履行による損害賠償請求の方が、被害者にとっては有利でしょう。
 しかし、時と場合によっては、不法行為責任を追及した方が被害者が救われやすくなることもあります。
 それは以下の点などにおいてです。

・消滅時効期間
・加害者が履行遅滞になる時期
・加害者からの相殺
・過失相殺
・過失相殺によら加害者の責任免除

 それでは上記の点をひとつひとつ解説して参ります。

・消滅時効期間
(不法行為責任)
損害および加害者を知ってから3年または行為時から20年
(債務不履行責任)
10年
 例えば、債務不履行による損害賠償の請求権が11年経っていて時効消滅していたとしても、不法行為による損害賠償の請求なら可能、という状況もあるのです。

〈補足〉生命・身体の侵害による損害賠償の請求については、損害及び加害者を知ってから5年、または権利を行使することができる時から20年となる。
【生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則】
生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則
※出典:法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料』

・加害者が履行遅滞になる時期
(不法行為責任)
不法行為時
(債務不履行責任)
請求時
 これは、例えば「いつまで」という期限の定めがない債務不履行の場合は、請求して初めて相手が履行遅滞に陥るのに対し、不法行為の場合は、不法行為があった瞬間から問答無用に加害者は履行遅滞に陥ります。(履行遅滞に陥ると遅延損害金が発生する可能性など)履行遅滞になる時期が早ければ早いほど加害者側が不利になります。

・加害者からの相殺
(不法行為責任)
できない
(債務不履行責任)
できる

・過失相殺
(不法行為責任)
任意的
(債務不履行責任)
必要的

・過失相殺による加害者の責任免除
(不法行為責任)
不可
(債務不履行責任)


 上記の下から3つはすべて(過失)相殺についてになりますが、これらは状況によらず完全に不法行為責任の方がその責任が重くなっています。
 よっぽど被害者側にも過失がないかぎり、加害者側の主張は、ほぼ通らないと言ってもいいかもしれません。つまり、ほぼ無理ゲーってことです。裁判所が加害者の主張を聞いて事案を検証し、任意で過失相殺をする可能性はありますが、あくまで裁判所の任意です(つまり裁判所次第ということ)。


 以上、不法行為責任と債務不履行責任の違いについてまとめました。
 被害者側からすると
立証責任においては債務不履行が被害者有利
立証さえできれば不法行為が被害者有利
と考えるとわかりやすいでしょう。

 今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【共同不法行為】複数人で不法行為を行った場合の連帯責任と客観的共同関係とは

▼この記事でわかること
共同不法行為
共同不法行為の連帯責任は被害者を救済されやすくしている
客観的共同関係
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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共同不法行為

事例1
AとBは二人がかりでCをボコボコにし、AはCの左手を骨折させ、BはCの右足を骨折させた。

 いきなり往年のヤンキー漫画を彷彿とさせるようなガラの悪い事例で申し訳ございません(笑)。
 さて、この事例1でのAとBの暴行は不法行為です。よって、被害者のCは、加害者のAとBに損害賠償の請求ができます。
 では、被害者Cはどのように損害賠償の請求をすればよいのでしょうか?
 左手の骨折に関してはA、右足の骨折に関してはB、といった形になるのでしょうか?
 結論。被害者Cは、加害者のAとB、どちらに対しても損害の全部について損害賠償の請求ができます。
 根拠となる条文がこちらです。

(共同不法行為者の責任)
民法719条
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。

 AとBの二人がかりのCへの暴行は、民法719条の共同不法行為になります。
 よって、共同不法行為の加害者(事例1のAとB)は連帯責任を負います。
 そして、この共同不法行為の加害者が連帯責任によって負う債務は、不真正連帯債務です。(不真正連帯債務については、別途、連帯債務についての解説の中で詳しく解説しています)
 これはどういう意味かと言いますと、損害の全てを全額賠償しないかぎりは、共同不法行為を働いたいずれの加害者の損害賠償債務も消えないという意味です。
 つまり、加害者Aが左手の骨折に関しての損害を被害者Cに賠償したからといって、加害者Aの損害賠償の債務がなくなる訳ではない、ということです。被害者Cが受けた損害の全てをきっちり賠償しないかぎり、加害者のAとBの損害賠償債務はなくならないのです。

共同不法行為の連帯責任は被害者を救済されやすくしている
OKナース
 事例1の被害者Cは、加害者AとBどちらに対しても損害の全部の賠償請求ができます。
 なぜそのようになっているのか?それは、被害者を救済しやすくしているためです。
 事例1の被害者Cは左手と右足を骨折していますが、これが例えば、加害者Aと加害者Bのどちらがどうやってそうなったのかわからない場合もありますよね?さらには、暴行時にもみくちゃになって、加害者自身も誰がどうやってそうなったのかわかっていないことだってあり得ます。そのような場合に「この怪我はこの加害者」という具合に、被害者が損害のひとつひとつをそれぞれ立証しなければならないとなると、それはあまりに被害者にとって酷ですよね。
 したがって、共同不法行為においては、被害者は加害者ひとりひとりに全部の損害の賠償請求ができるのです。
 さらに、次のような場合にも、被害者Cは加害者AとBどちらに対しても損害賠償の請求ができます。

事例2
AとBは二人がかりでCをボコボコにし、Cは左手を骨折した。なお、AとBどちらがどうやってCの左手を骨折させたかは不明である。


 普通に考えれば、Cの左手の骨折という損害の賠償は、Aが骨折させたならA、Bが骨折させたならB、という具合に、実際にそこを骨折させた加害者が賠償するべきです。しかし、それだと、その細かい事実を立証しなければならなくなる被害者が酷になってしまいます。
 したがって、このような場合でも、被害者Cは、加害者AとBどちらに対しても損害賠償の請求ができます。

客観的共同関係

 そもそも、一体どこからどこまでを共同不法行為とするのでしょうか?
 判例では「A工場とB工場の両工場の廃液で被害者が公害病を引き起こした」というようなケースも、共同不法行為が成立し得るとしています。
 つまり、その不法行為を客観的に見て共同関係があれば、共同不法行為として認められる、ということです。
(不法行為についての詳しい解説は「不法行為~その基本と過失相殺と権利行使期間について」をご覧ください)


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【注文者の責任】土地工作物の占有者&所有者の責任~占有者が責任を免れたら誰が責任を負うのか

▼この記事でわかること
注文者の責任の基本
土地の工作物の占有者・所有者の責任
占有者が責任を免れたら誰が責任を負うのか
求償という仕組みは被害者を救済しやすくしている
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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注文者の責任

 まずは事例からご覧ください。

事例1
Aは工務店のBと一軒家の新築請負の契約を締結した。そして、Bはその一軒家の新築工事中の事故で通行人のCに損害を与えた。


 これは注文者の責任」の事例です。
 さて、ではこの事例1で、注文者Aは、工務店Bが通行人Cに与えた損害の責任を負うのでしょうか?
 結論。注文者Aは、工務店Bが通行人Cに与えた損害の責任を負いません。第三者Cに与えた損害の責任を負うのは工務店Bになります。
 ただし、注文者Aが責任を負うような場合もあります。
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(注文者の責任)
民法716条
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。


 この民法716条が、注文者の責任に関する民法の規定になりますが、ただし書き以降の後半部分に、注文者が責任を負う場合についての規定があります。
 では、どのような場合に注文者が責任を負うのでしょうか?
 事例とともに見て参ります。

事例2
Aは工務店のBと一軒家の新築請負の契約を締結した。そして、Bはその一軒家の新築工事中の事故で通行人のCに損害を与えた。なお、Bの工事はAの指図によるものだった。


 このような場合は、注文者のAも責任を負ってしまいます。なぜなら、事故が起きた工事は注文者Aの指図によるものだからです。
 つまり、指図をした注文者Aに過失があり、それが事故の原因と考えられるからです。
 また、次のようなケースもあります。

事例3
Aは工務店のBと一軒家の新築請負の契約を締結した。そして、Bはその一軒家の新築工事中の事故で通行人のCに損害を与えた。なお、事故はAの注文した材料が原因となって起きたものだった。


 このような場合も、注文者Aは責任を負ってしまいます。
 なぜなら、事故の原因となった材料を注文したのがAだからです。つまり、注文者Aの過失により事故が起こったと考えられるからです。

 以上が、注文者の責任について解説になります。
 基本的には、注文者は責任を負いません。しかし、場合によっては注文者が責任を負う場合があります。
 ざっくりイメージとしては「注文者が依頼した工事について、注文者自身がやたらにしゃしゃり出ると、注文者が工事の責任を負うことになる」といった感じです。ですので、皆さんも工事を依頼する際はお気をつけください(笑)。
 素人のクセに、中途半端な知識でやたらと余計にしゃしゃり出る人っていますよね。そういう人は、その分痛い目を見ることがあるってことです。

土地の工作物の占有者・所有者の責任
崩れる
 続いては、土地工作物責任についての解説になります。

事例4
Aは工務店のBと家屋の請負契約を締結し家を建てた。その後、Aは自己所有のその家をCに賃貸した。そしてある日、その家の外壁が崩れ通行人のDが怪我を負った。なお、外壁が崩れた原因は工務店Bの工事の仕方によるものだった。


 登場人物が多くてややこしく感じるかもしれませんが、この事例4こそ「土地の工作物の占有者・所有者の責任=土地工作物責任」の典型的なケースになります。
 さて、この事例4で、通行人Dが被った損害の責任を負うのは誰でしょう?
 結論。その第一次的責任はCが負います。
 マジで?
 マジです。なぜなら、Cは原因となった外壁の家の占有者だからです。
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
民法717条
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。


 上記、民法717条の「工作物」というのは、事例4にあてはめると、Cが賃借している家(の外壁)になります。
 よって、通行人Dの損害の原因となった工作物の占有者のCは、第一次的に責任を負うことになるのです。
 ただし!占有者Cは責任を免れる方法があります。それが、上記の条文のただし書き以降に記されている「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない」になります。
 占有者は、土地の工作物(建物など)により他人に与えた損害の賠償責任を負います。しかし、占有者がその損害の発生を防止するために必要な注意をしていれば、占有者は責任を負いません。
 事例4に当てはめると、占有者Cは、外壁が崩れるのを何らかの方法で防ごうしていれば、通行人Dの損害を賠償する責任を免れます。逆に、外壁にヒビが入っているのにほったらかしていたような場合は、占有者Cは責任を免れることができません。

占有者が責任を免れたら誰が責任を負うのか

 占有者Cが責任を免れたとき、次に責任を負うのは(第二次的責任は)家の所有者のAです。
 この所有者の責任は、なんと無過失責任です。
 よって、占有者Cが責任を免れたときは、問題の外壁の家の所有者であるAは過失があろうがなかろうが、もはや責任を免れることができません。
 あれ?でも、そもそも外壁が崩れたのは工務店Bが悪いんじゃね?
 そうなんです。ですが、事故の原因となった土地の工作物の所有者Aは、無過失責任を負いますので、通行人Dへの損害賠償からは逃れることはできません。しかし、これだと所有者Aが工務店Bのミスを肩代わりしたような形ですよね?
 よって、所有者Aは通行人Dへ損害を賠償した後、工務店Bに対し求償することができます。(こちらの求償の仕組みは使用者の求償権と似ています)
 つまり、所有者Aは工務店Bに対し「Dが被った損害は無過失責任により所有者のオレが賠償した。だがそもそもの事故の原因は工務店Bの工事のミスによるものだ。だから肩代わりした損害をオレに賠償しやがれ!」と主張できるということです。

 なお、占有者Cが損害を防止するために必要な注意を怠っていた場合に、Cが通行人Dへ損害賠償をしたときは、占有者Cは工務店Bへ求償権を行使できます。
 また、占有者Cが損害の防止に必要な注意をしていた場合に、工務店Bにも過失がなかったときは、所有者Aは無過失責任によりDへの損害賠償を免れられないのはもとより、工務店Bへ求償することもできません。
 占有者Cにせよ所有者Aにせよ、工務店Bへの求償ができる場合とは、あくまで工務店Bの過失が損害の原因だったときです。
 この点はご注意ください。

求償という仕組みは被害者を救済しやすくしている
女性講師
 土地の工作物の占有者・所有者の責任においては、まず占有者が第一次的に責任を負い、第二次的責任で所有者が無過失責任を負います。
 そして、損害の原因がさらに別の者にある場合は、その者に対し、損害を賠償した者は求償することができます。
 ところで、この仕組み、ややこしいですよね。そもそも、事例4でも、通行人Dがいきなり工務店Bに損害賠償を請求すればいいんじゃね!?と思われる方もいらっしゃるかと思います。そして実際、それも可能です。
 しかし、それをするためには、Dが工務店Bの過失を立証しなければならなくなります。(通常の不法行為責任の追及)
 これは専門家でもないかぎり、実際にはかなり難しいことだというのは、現実的に考えればわかると思います。仮に立証できたとしても、それだけで相当な手間とお金もかかってしまうでしょう。それは被害者にとってはあまりに酷です。
 というようなことから「土地の工作物の占有者・所有者の責任」は、ご解説申し上げたような仕組みになっているということです。
 したがいまして、この「土地の工作物の占有者・所有者の責任」の仕組みは、使用者責任と同様に「被害者が救済されやすくなっている」という事を意識すれば、より理解がしやすくなるのではないかと存じます。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【不当利得】受益者が善意か悪意かで返還すべき利益が変わる?/現存利益の範囲とは

▼この記事でわかること
不当利得の基本
不当利得返還義務により返還する利益
通常の受益者(善意の受益者)の場合
現存利益の範囲
悪意の受益者の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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不当利得の基本

 不当利得とは、法律上の原因なく一方の損失により他方が利得をした場合に、その利益を返還させる制度です。
 そんなこといきなり言われても訳わからんわ!ですよね(笑)。
 わかりやすく噛み砕いて言えば、法律的にOKという訳じゃないのに、片方が損する事により片方が得をした場合に、得をした分(すなわち利益)を損をした分に返還する制度です。
 まずは、その不当利得が成立するための4要件を記します。

1・他人の財産または労務による受益(利益を受けること)の存在
2・他人に損害を与えた事実
3・受益と損失の因果関係(一方の損失により一方に受益があるという関係性)
4・法律上の原因がない(契約などの法律上の正当な手段を経ていない)

 これも小難しく表現されていてわかりづらいですよね。
 それでは、ここからはわかりやすく不当利得となる事例を見ながら解説して参ります。

 まずはこちらの事例をご覧ください。

事例1
AはB所有の甲建物を不法占拠している。


 これは不当利得となるケースです。
 では、ここで先述の、不当利得が成立するための4要件を思い出してください。

1・他人の財産または労務による受益(利益を受けること)の存在
2・他人に損害を与えた事実
3・受益と損失の因果関係(一方の損失により一方に受益があるという関係性)
4・法律上の原因がない(契約などの法律上の正当な手段を経ていない)

 上記を事例1にあてはめて考えます。
 まず、不法占拠というのは、当然ですが、契約などの法律上の原因にあたりません。(要するに法律的に許される手段ではないということ)
 その不法占拠により、Bは自己所有の甲建物について損失(損害)を被っています。と同時に、不法占拠者Aは甲建物の使用という利益を得ていますよね。つまり、Aの利益とBの損失の間には因果関係が認められます。
 よって、不当利得成立の4要件全てを満たして不当利得が成立し、AはBに対して不当利得返還義務を負い、甲建物を不法占拠して得た利益をBに返還しなければなりません。
 同時に、BはAに不当利得返還請求ができます。

 不当利得の制度の意味、おわかりになりましたよね。
 それでは続いて、こちらの事例をご確認ください。
 
事例2
AとBは甲商品の売買契約を締結し、Aは甲商品の代金5万円をBへ支払った。しかしその後、手違いにより甲商品の売買契約は無効になった。


 このような場合も不当利得のケースになります。
 この事例2では、AB間の甲商品の売買契約が無効になっています。
 つまり、AB間の甲商品の売買契約は始めから無かったことになります。
 すると、Aは契約などの法律上の原因なく5万円を損失し、Bは5万円の利益を得ている、ということになり、Aの損失とBの受益の因果関係も確かです。
 よって、不当利得が成立です。
 Bには不当利得返還義務が生じ、Aに5万円を返さなければなりません。
 同時に、AはBに対して「5万円返せ!」と不当利得返還請求ができます。

 続いては、こちらの事例をご覧ください。

事例3
AはB所有の甲商品を即時取得した。


 この事例は注意です。
 この事例3では、Aは即時取得により、代金などを支払うことなくB商品を手に入れています。(即時取得についての詳しい解説は「動産の所有権(物権)~即時取得の要件」をご覧ください)
 つまり、Bの損失によりAは利益を得ています。
 ということで、一見すると不当利得が成立しそうですが、この事例3は不当利得となるケースではありません。
 なぜなら、即時取得が成立しているからです。
 即時取得は法律に定められた規定です。つまり、即時取得が成立しているということは、法律上の原因によりAは甲商品を取得したということなので、事例3は不当利得にはならないのです。
 ここはご注意ください。

 続いて、こちらの事例もご覧ください。

事例4
A電鉄が新たに地下鉄を敷設したことにより沿線の地主Bはウハウハの大儲けをした。


 この事例4では、何の法律上の原因なく地主Bは利益を得ています。
 しかし、これは不当利得にはなりません。なぜなら、A電鉄の損失がありません。
 まあ、これは法律的に考えるまでもなく、普通に考えて不当利得になりませんよね。こんなことで不当利得が成立してしまったら地主はたまったもんじゃないです。
 したがって、この事例4は、ただただ地主Bが羨ましいというだけのハナシです(笑)。

 以上、ここまでが不当利得についての基本の解説になります。
 不当利得自体は決して難しいものではないと思いますが、注意していただきたいのは、事例3や事例4のようなケースです。
 冷静に考えればわかるのに、試験等では焦って勘違いすることもありますので、くれぐれもご注意ください。

不当利得返還義務により返還する利益
お金
 ここからは、不当利得において「不当利得返還義務により返還する利益」について解説いたします。
 まずは不当利得に関する民法の条文をご覧ください。

(不当利得の返還義務)
民法703条
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

民法704条
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う


 上記、民法703条と民法704条で、不当利得において返還する利益について、2つのケースが規定されています。
 まず、703条では通常の受益者の場合、そして、704条では悪意の受益者の場合を定めています。
 704条で悪意の受益者を定めているということは、703条は善意の受益者の場合と考えられます。
 それでは、わかりやすくひとつひとつ解説して参ります。

通常の受益者(善意の受益者)の場合

 民法703条では、通常の受益者=善意の受益者の返還すべき利益について「その利益の存する限度において」返還すべきと定めています。
 この「その利益の存する限度において」とは、現存利益と呼ばれるものになります。
 つまり、不当利得の善意の受益者は、現存利益を返還しなければなりません。
 現存利益とは「現に存在する利益」という意味です。
 といってもこれだけだとよくわからないですよね。ですので、わかりやすく事例を交えて解説します。

事例2
AとBは甲商品の売買契約を締結し、Aは甲商品の代金5万円をBへ支払った。しかし手違いがあり甲商品の売買契約は無効になった。


 これは先ほども登場した事例2です。
 甲商品の売買契約が無効により無かったことになるので、法律上の原因なくAは5万円を損失し、そのAの損失によってBは5万円の受益がある状態になり、不当利得が成立します。
 よって、Bは不当利得返還義務を負い、Aに支払いを受けた5万円を返還します。
 さて、問題はここからです。
 Bが善意の受益者なのか悪意の受益者なのかによって、返還すべき利益が変わります。
 先程申し上げたとおり、善意の受益者の場合は現存利益を返還します。
 現存利益とは、現に存在する利益のことなので、Bが善意の受益者だとすると、Aから支払いを受けた5万円がまるまる残っていれば、まるまる残っている5万円をAに返還しなければなりません。
 これは簡単な話ですよね。
 では、Bがその5万円を使ってしまっていた等の場合どうなるでしょう?
 実は、それは「どう使ったか」によって変わってきます。

現存利益の範囲
女性講師
 例えば、Bがその5万円を公共料金や水道光熱費等の経費に充てていたとしましょう。その場合、Bは、経費に充てた分も含めて、しっかり5万円全部を返還しなければなりません。
 家賃や交通費、日常の食費や学費なども同様です。それに使った分も含めて5万円全部をきっちり返還する必要があります。
 ここまでは何も難しい話はありません。
 しかし、これが例えば、Bがその5万円を遊びで浪費してしまっていたらどうでしょう?
 この遊び等の浪費を、法律上は少し難しい言い方で「遊興費」と言いますが、なんと遊興費については返還義務はありません。
 つまり、事例2のBが善意の受益者の場合、Aから支払いを受けた5万円を使って風俗に行っていたら、なんとその風俗に浪費した5万円の返還義務はないのです!
 これが法律の不思議なところなんです。
 なんだか納得できませんよね。
 一応、法律上の理屈としてはこうなります。

経費等必要なものなので、それに使った分はその者の利益として存在することになる。したがって、現存利益に含まれる。しかし、遊興費等の浪費必要なものではなく、それに使った分はその者の利益として存在しない。したがって、現存利益に含まない

 うーん、て感じですよね。
 しかし、これが法律上の理屈です。
 これは納得できない方、たくさんいらっしゃるかと思います。その気持ち、大いに理解します。
 しかし!それでもここは「こうなっているんだ」と無理矢理に強引に覚えてしまってください。でないと民法の学習が進んでいきません。こんなところで考え込んでしまっては時間がもったいないです。
 勉強も人生も、たとえ納得ができなくとも、進まなければならないときがあるのです。

【補足】
 例えば、善意の受益者が、受け取ったお金を預金し、利息が発生していたらどうなるでしょう?
 その場合は、利息分もプラスして受け取った利益を返還しなければなりません。
 不当利得の受益の金額が1000万円だったとしたら、1000万円+預金利息分を返還するということです。
 では、善意の受益者が受け取ったお金が、株式投資などで1000万円から1200万円になっていたらどうでしょう?
 この場合は、返還すべきは1000万円になります。儲かった分の200万円返還義務の対象になりません。
 これはどういう理屈かというと「預金で発生した利息は自然に増加した利益なので、返還すべき利益に含まれるが、株式投資などで増加した分は特殊な手腕で得た利益なので、返還すべき利益に含まれない」ということです。
 納得の是非は別にして、この理屈自体はご理解いただけるのではないでしょう。

悪意の受益者の場合
悪意
 悪意の受益者は、受けた利益に利息を付けて返還しなければなりません。
 例えば、このような場合です。

事例5
悪意の貸金業者Aは利息制限法を超える利息を付してBにお金を貸した。その後、Bは利息を含めなんとか全額を返済した。


 貸金業者Aは、利息制限法を超えて利息を付したものであることを知りながら、Bからその全額の返済を受けています。
 つまり、Aは、不当だと知りながら利得を受けた悪意の受益者です。
 よって、悪意の受益者の貸金業者Aには不当利得返還義務が生じ、利息制限法を超えて返済を受けた分の金額利息を付けてBに返還しなければなりません。
 このようなケースで、BがAに対して「利息制限法を超えて返済した分を返せ!」と主張するのを、過払い金返還請求と言います。
 過払い金返還請求という言葉はよく聞く言葉ですよね。実は、この過払い金返還請求というのは不当利得返還請求の一種になります。(過払い金返還請求についてはここでこれ以上は触れません。あくまで民法の解説の流れで申し上げた次第です。あしからずご了承ください)

 なお、民法704条では、返還しなければならない利益以外にも損害が生じていた場合は、悪意の受益者は、その分の賠償もしなければならないとしています。
 この点もご注意ください。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【不法原因給付】愛人契約で動産を贈与?不動産の場合は?/不法な原因が受益者のみにあるとき

▼この記事でわかること
愛人契約で動産を贈与のケース
不動産の場合の不法原因給付
不法な原因が受益者のみにあるとき
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

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不法原因給付
愛人契約で動産を贈与

事例1
A男とB子は愛人契約を結んだ。それにともなってB子は時価総額数百万ドルは下らないジュエリーをA男から贈与され受け取った。その後、二人の関係は冷め、A男はB子との愛人契約の無効を主張して清算しようと考えた。


 さて、いきなり昼ドラのような事例から始まりましたが、この事例1で、A男はB子に対し愛人契約の無効を主張して、ジュエリーの返還請求ができるでしょうか?
 まずは、A男とB子の愛人契約について考えてみます。
 まず、A男とB子の愛人契約は無効になります。無効になるというより、そもそもハナっから愛人契約は無効です。なぜなら、愛人契約は公序良俗違反だからです。
 公序良俗というのは、倫理とか道徳とか常識というようなことです。つまり、公序良俗違反とは、倫理や道徳や常識に反する違反ということです。
 契約というのは、契約自由の原則により、基本は自由ですが、あまりにも行き過ぎた内容のものは公序良俗違反により無効になります。例えば、殺人契約や人身売買契約なんか成立しませんよね?それは法律的な論理でいえば、公序良俗違反により無効ということです。そして、愛人契約も公序良俗違反により無効になります。
 すると事例1で、A男がB子に愛人契約の無効を主張して、ジュエリーの返還請求はできそうな気もします。
 しかし、そうはイカンのです。
 民法の規定はこちらです。

(不法原因給付)
民法708条
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。


 A男からB子への愛人契約によるジュエリーの給付は、民法708条条文にある「不法な原因のために給付」にあたります。
 したがって、A男はB子にジュエリーの返還請求はできません。
 民法708条の理屈を簡単に解説すれば「自分から法を犯したヤツは法で保護されない」ということです。
 そして、A男はB子と公序良俗違反の愛人契約を結んでいます。(法律的に無効の契約なのでそもそも成立しませんが)
 また、そもそも、自分から違反を犯しておいて返還請求という法律的な主張はできないのです。つまり、A男は自業自得ということです。

ジュエリーの所有権は?

 では、A男がB子に贈与したジュエリーの所有権はどうなるかというと、ジュエリーの所有権はB子のものになります。
 え?マジで?
 マジです。もちろん、法律的な理屈としてはAB間の贈与も無効ですので、本来ならジュエリーの所有権はA男に戻るはずです。しかし、そうなるとA男の返還請求を認めないことと矛盾してしまいます。
 そして、もしA男の返還請求を認めてしまうと「自分から法律に違反したヤツの法律的な主張」を認めてしまうことになってしまいます。そうなってしまうと、世の中の秩序がオカシクなってしまいます。
 では、どういう理屈でBのジュエリーの所有権が認められるかというと、こうなります。
「A男が返還請求できない反射的効果として、B子へのジュエリーの所有権の移転は有効」
 このような論理で、ジュエリーはB子の物になるのです。
 したがいまして、もし現在、事例1のようなケースで贈与された物を所持している女性の方は、その物は意地でも自分の手元に置いておいた方が良いかと存じます(笑)。
 もちろん、愛人契約は推奨できませんが。。。

不動産の場合
素材102マンション
事例2
A男とB子は愛人契約を結んだ。それにともなって、A男は自己所有の甲マンションをB子に贈与し引き渡した。その後、二人の関係は冷め、A男はB子との愛人契約の無効を主張して清算したいと考えた。


 さて、A男とB子の愛の行方はどうなるのか?じゃなかった(笑)。
 この事例2で、A男は愛人契約の無効を主張して、B子に甲マンションの返還請求ができるでしょうか?
 これは先ほどのジュエリーの場合と一緒で、そもそも公序良俗違反の愛人契約という不法な原因により給付したものは、返還請求はできません。よって、A男はB子に甲マンションの返還請求はできません。と普通に考えれば結論付けますが、、、
 実は、不動産の場合は少し違ってきます。なぜなら、不動産には登記という制度があるからです。
 そしてなんと、この登記の有無によって、A男はB子に返還請求できる場合があるのです。不法な原因による給付なのに!です。

【甲マンションが未登記の場合】
 これは、甲マンションがA男の登記もなくB子の登記もない場合です。
 例えば、A男がB子にマンションを買い与えたようなケースが考えられます。
 このような場合、判例では「引渡しをもって給付あり」としています。よって、甲マンションを引き渡してしまったA男は、B子に甲マンションの返還請求はできません。

【B子登記済みの場合】
 この場合は、言うまでもないと思いますが、A男はB子に甲マンションの返還請求はできません。

A男登記のままの場合

 この場合なんと、A男はB子に甲マンションの返還請求ができます!これは判例でそのような判断がなされているのです。
 先ほど、不動産には登記の制度があるから、と申しましたが、だからと言ってなんで?って感じですよね。不法原因給付の制度と完全に矛盾していますし。裁判所はA男に甘いのか?とも思ってしまいます。
 一応、理屈としてはこのようになっています。

「愛人契約による贈与は公序良俗違反により無効である。しかし、A男の甲マンションの返還請求権を認めないとなると、B子からA男への甲マンションの登記移転請求権を認めなければならなくなる。すると、公序良俗違反の贈与契約も認めなければいけなくなる。それはマズイ。しょうがない。ここはA男の返還請求権を認めざるを得ないな。スジとしてはオカシイが、致し方ない」

 このような理屈で、A男の返還請求権が認められるのです。
 納得できますかね?はい。納得しなくてもかまいません(笑)。とりあえず「こうなっているんだ」と、強引に結論とその理屈を頭に叩き込んでしまってください。
 勉強も人生も、たとえ納得できなくても進んでいかなけれなならないときがあるのです。

 というわけで、ここまでの解説からわかることは、もし事例2のようなケースでマンションを贈与した方は、登記を自分のままにしておけば、この先二人の関係が冷めても安心ですね(笑)。
 反対にマンションを贈与された側の方は、取り急ぎ登記を自分に移転しておくのがイイと思います(笑)。
 ただし!愛人契約は推奨しませんよ!公序良俗違反ですから!

不法な原因が受益者のみにあるとき
怪しい粉
事例3
AはBに事業資金を融資した。しかし実は、Bはこの資金を麻薬購入資金に充てるつもりでいた。Aはそんなこともつゆ知らず事業資金としてBに融資したのだった。


 さて、今度はなんだかアングラな事例の登場ですが、この事例3で、AのBへの融資資金の返還請求は認められるでしょうか?
 麻薬購入資金の融資は、当然に公序良俗違反であり不法原因給付です。そして、不法な原因で給付した者の返還請求は認められません。
 しかし!この事例3の場合、Aは単に事業資金として融資しています。AはいわばBに利用され、勝手に犯罪の片棒を担がされたに過ぎない被害者とも言えます。
 つまり、Aに不法はないのです。本質的な公序良俗違反Bだけにあるのです。
 となると、結論はどうなるのでしょうか?
 ここで今一度、民法の条文を確認してみましょう。 

(不法原因給付)
民法708条
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。


 民法708条の後半を見ると「不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない」とあります。これはまさに、事例3のケースが当てはまります。
 先ほど解説しましたとおり、事例3において、不法な原因は受益者であるBのみにあります。
 したがいまして、事例3の場合、AのBへの融資資金の返還請求は認められます。

 続いて、次のような事例の場合はどうなるでしょう?

事例4
大学受験を控える息子を持つAは、予備校教師のBから裏口入学の話を持ちかけられた。Aは息子を思うあまりその話に乗ってしまい、Bに500万円を給付した。


 これは、言ってみれば裏口入学契約ですよね。当然、こんなものは公序良俗違反で無効です。
 すると、この事例4のAは、不法原因給付の規定により、Bに給付した500万円の返還請求はできないということになります。ただし、事例3のときのように「不法な原因が受益者についてのみ存したときは」返還請求が可能になります。
 では、事例4の場合どうでしょう?
 裏口入学の話を持ちかけたのは予備校教師Bです。しかし、息子を思うあまりとはいえ、その話に乗ったのはA自身です。
 つまり「不法のきっかけ」は予備校教師Bにありますが、その「不法の原因の一部」にAは自らの意思で加担したことになります。
 よって事例4は、不法な原因が受益者(予備校教師B)のみにある訳ではありません。となると、Aの500万円の返還請求は認められないことになりますが、、、
 しかし!判例では、両者に不法な原因がある場合でも、受益者側の不法原因の方が著しく大きいと考えられる場合は、民法708条の「不法な原因が受益者についてのみ存したとき」の規定を適用するとしています。
 つまり、事例4のAは、予備校教師Bに対して給付した500万円の返還請求が認められる可能性があるということです。
 ただ、あくまで受益者側の不法原因の方が著しく大きい場合ですので、例えば、Aの方から「裏口入学できますか?」と話を持ちかけていたりしたら、その場合は、給付したお金の返還請求は認められない可能性が高いでしょう。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
根本総合行政書士です。
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保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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