契約解除をするための3要件

 契約が成立すると契約義務が発生し、義務(債務)を履行しないと債務不履行に陥り、損害賠償請求権が発生します。
 では、一度結んだ契約の解除はできるのでしょうか?まずはこちらの事例をご覧下さい。

事例
AとBはギターの売買契約を締結した。しかし、Bは約束の期日が来ても一向にギターを引き渡そうとしない。


 この事例で問題になっているのは、Bがいつまで経ってもギターの引渡しを行わないことです。つまり、Bが約束を果たしてくれないのです。Aとしては、それならそれでこの契約はナシにして、他の売主・ギターを探したいですよね。損害賠償の請求という手もありますが、それも要件を満たしていなければできないし、正直メンドクサイですよね。そこで、Aとしては「この契約は解除できないか?」となります。

(履行遅滞等による解除権)
民法541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

 Aは上記の条文に基づいて、契約の解除ができます。しかし!それをするためには3つの要件があります。また要件かよ!という声が聞こえてきそうですが(笑)。法律上の請求をするときは「誰が、誰に対して、どのような要件を満たしたときに、どんな請求ができるか」を考えなければなりません。これはとても大事なことなので覚えておいて下さい。ちなみに、行政書士試験の記述問題では、まさにこのことが問われます。もちろん通常の択一問題を解く上でも大事ですし、宅建試験や公務員試験の民法を解く上でも大事なことです。さらに申しますと、現実にトラブルが起こって誰かに何かの請求をするときの原則にもなります。
 繰り返しますが
「誰が、誰に対して、どのような要件を満たしたときに、どんな請求ができるか」
このことは是非、頭に入れておいて頂ければと存じます。
 話を戻します。契約の解除をするためには3つの要件を満たす必要があります。

1・債務不履行の存在
2・債務不履行が債務者の責めに帰すべき事由(債務者の過失)によること
3・相当の期間を定めて催告をすること

 上記の3要件全てを満たしたときに、初めて契約の解除ができます。
 1は簡単ですよね。契約の解除をする理由となる債務不履行の存在です。
 2の債務者の帰責事由について、条文には記載がありませんが、判例上、これも当然に必要な要件とされています。
 3の催告とは、最後通告のことです。通常は「期日までに履行をしなければ、解除する」というような文言を入れた文書を、内容証明郵便という形で送ります。
 以上のことを踏まえて、今回の事例でAが契約を解除するためには
1・Bの債務不履行があり
2・Bの債務不履行がB自身の理由(帰責事由)によるものであるときであって
3・相当の期間を定めて催告した上で(「〇年○月○日までに履行しなければ、解除する」旨の内容証明郵便を送った上で)
行うことになります。
 もし、このような手順を踏まえないで、Aが契約の解除をしようすると、「テメー、約束を破るのか!」と、逆にBから攻められてしまいます。法律的にも、Aの方が約束を破ったことになってしまいます。ですので、上記の3要件と手順はしっかり押さえておいて下さい。
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契約解除後はどうなる?原状回復義務と解除の遡及効果の制限

事例1
楽器店のAはメーカーのBからギターを納入した。しかし、期限が到来したにもかかわらずAが一向に代金を支払わないので、BはAに対し相当の期間を定めて催告をした上で、売買契約を解除した。


 さて、この事例1で、Bは契約を解除しましたが、その後は何ができるのでしょうか?ギターの返還請求?損害賠償の請求?まずは条文をご覧下さい。

(解除の効果)
民法545条
1項 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2項 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3項 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

 太字になっている部分が、Bができることです。
 相手方を原状に復させる義務とは、原状回復義務のことで「元の状態に戻さなければならない」ということです。つまり、BはAに「ギターを返せ」と請求できます(返還請求)。一方、AはBにギターを返す義務(返還義務)を負います。
 損害賠償の請求を妨げないとは、損害賠償の請求もできるということです。
 従いまして、事例1で、メーカーのBは楽器店のAに対し、ギターの返還請求損害賠償の請求ができる、ということになります。

直接効果説

 解除の効果は遡及します。すなわち、さかのぼってナシになります。したがって、事例1では、Aにはギターの返還義務(元の状態に戻す義務←原状回復義務)が生じ、同時にBはギターの返還請求権(元に戻せ!と請求する権利)を得ます。そして、この論理を直接効果説といいます。他にも間接効果説、折衷説という考えも存在しますが、裁判所は直接効果説の立場を取ります。ですので、この「直接効果説」という考え方を、覚えて頂ければと存じます。

解除の遡及効果の制限

 契約を解除すると、その効果は遡及するので(直接効果説)、原状回復義務が生じます。しかし!条文には、このようなただし書きがありました。
「ただし、第三者の権利を害することはできない」
 これはどういうことなのか?まずはこちらの事例をご覧下さい。

事例2
楽器店のAはメーカーのBからギターを納入した。しかし、期限が到来したにもかかわらずAは一向に代金を支払わない。その後、AはCにそのギターを転売した。その後、BはAに対し相当の期間を定めて催告をした上で、売買契約を解除した。


 この事例2では、Bはギターの返還請求ができない可能性があります。なぜなら、Bの解除権の効果は第三者であるCの権利を害することができないからです。したがって、結論を申し上げると、Cがギターの引渡しを受けていたらBはギターの返還請求ができません。逆に、Cへの引渡しがまだされていなければ、Bは返還請求ができます。
 このように、解除の遡及効果は、第三者との関係で一定の制限が加えられています。これも利益衡量と取引の安全性から来るものです。この「解除の遡及効果の制限」は大事なポイントなので、是非覚えておいて下さい。尚、試験などでは、不動産の転売という形で問われることになると思いますが、不動産での場合については、また改めてご説明申し上げます。
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不動産売買契約の超基本と解除(手付放棄・手付倍返し)

事例
買主Aは売主Bと甲建物の売買契約を締結し、AはBに手付金を交付した。しかし後日、Aはこの売買契約を解除したいと思い、Bに甲建物の売買契約の解除を申し入れた。


 さて、この事例で、Aは甲建物の売買契約を解除できるでしょうか?結論は...の前に、まず不動産の売買契約の基本について簡単にご説明いたします。
 不動産の売買契約の場合は、コンビニでの買い物とは訳が違います。不動産売買契約の大まかな流れは次のようになります。

購入の申し込み→重要事項説明→売買契約の締結と同時に手付金の授受→残金の決済と同時に引渡し(登記手続き)

 正確にはもっと細かくあるのですが(ローンの契約、仲介なら不動産業者との媒介契約などその他諸々)、ざっくりとこんな感じです。
 では、不動産の売買契約の解除というのは、どのタイミングでどのように行うのでしょうか?まずは民法の条文をご覧下さい。

(手付)
民法557条
買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。

 まず、契約の解除のタイミングですが、上記の条文にあるように、当事者の一方が契約の履行に着手するまででないとできません。冒頭の事例だと、Aが契約の解除をするにはBが履行の着手※をするまでに行わないといけない、となります。
※履行の着手とは「かなり具体的に履行をしようとした」という意味です。「履行の準備」では履行の着手とは考えられていません。厳密には判例を見て個別具体的な判断をしなければなりませんが、過去の実際の事例では「買主が代金の用意をして、売主に物の引渡しを催告した」ことが履行の着手と判断されました。まあ、ここであまり細かく突き詰めてしまうと話が進みませんので、履行の着手とは「かなり具体的に履行をしようとした」と、ざっくり覚えてしまって下さい。

 そして「契約の解除をどのように行うか」ですが、これは買主と売主によって異なります。

(買主の場合)
売主に渡した手付金を放棄して行う(不動産用語で手付流しといいます)
(売主の場合)
買主からもらった手付金の倍額を買主に償還して(買主に払って)行う(不動産用語で手付倍返しといいます)

 このようになります。尚、上記の手付放棄・倍額償還をすることで、それ以外の損害賠償は支払わなくてもよいとしています。だからこそ手付流し・手付倍返しなのです。
 以上のことをまとめると

・買主は、売主が履行の着手をするまでは、交付した手付金を放棄して、契約の解除ができる。
・売主は、買主が履行の着手をするまでは、手付金の倍額を買主に償還して、契約の解除ができる。


となります。
 すると今回の事例で、Aは甲建物の売買契約の解除ができるのか?の結論は、AはBが履行に着手するまでは、交付した手付金を放棄して、甲建物の売買契約の解除ができる、ということになります。
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不動産売買契約 登記と解除前の第三者

 以前に、契約の解除と遡及効果の制限についてご説明いたしました。その時は動産の場合の話でした。では、登記のルールがある不動産の場合はどうなるのでしょうか?まずは事例をご覧下さい。

事例1
Aは不動産業者のBに甲土地を売却し、Bは登記をした。その後、AはBの売買代金の不履行(Bの債務不履行)によりAB間の甲土地の売買契約を解除した。しかし、すでに不動産業者のBはCに甲土地を転売し、Cは登記をしていた。


 この事例1で、Aは甲土地の所有権の主張ができるでしょうか?ポイントは、第三者のCが解除前に現れているという点です。
 まずは条文を確認してみましょう。

(解除の効果)
民法545条
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。

 先ほど申し上げたポイントと上記条文のただし書で、お察しの良い方はもうおわかりかと思います。
 結論。事例1において、Aは甲建物の所有権の主張はできません。なぜなら、民法545条ただし書の規定により、第三者であるCの権利を害することはできないからです。従いまして、事例1の甲土地をめぐる所有権争奪バトルはCの勝ちです。
 それでは続きまして、こちらの事例ではどうなるでしょう。

事例2
Aは不動産業者のBに甲土地を売却し、Bは登記をした。その後、AはBの売買代金の不履行(Bの債務不履行)によりAB間の甲土地の売買契約を解除した。しかし、すでに不動産業者のBはCに甲土地を転売していた。尚、Cは登記を備えていない。


 事例1との違いは、第三者のCが登記を備えていないという点です。
 では事例2の場合、Aは甲土地の所有権の主張ができるのでしょうか?
 結論。事例2の場合、Aは所有権の主張ができます。
 え?登記の有無については条文になくね?
 ないです。しかし、判例で「第三者が勝つためには登記が必要だ」となっているのです。つまり、第三者の登記の必要性は、いわば裁判所が勝手にくっつけたものです。これは、不動産の登記制度を考慮して取引の安全性を鑑みた結果、登記を第三者の保護要件としたのでしょう。
 従いまして、事例2は、第三者のCが保護要件である登記を備えていない以上、甲土地をめぐる所有権争奪バトルはAの勝ち!になります。尚、Bは登記を備えていますが、それは関係ありません。Bは第三者ではないし、そもそも債務不履行をやらかした張本人です。この期に及んで保護されようなぞ、ムシが良すぎるってもんです。
 簡潔にまとめると、今回の事例のような場合、Aは、甲土地の登記AかBにあれば、所有権を主張できます。

 以上、今回は解除前の第三者について解説いたしました。次回は、解除後の第三者について解説して参りたいと思います。
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不動産売買契約 登記と解除後の第三者

事例
Aは不動産業者のBに甲土地を売却し、Bは登記をした。その後、AはBの売買代金の不履行(Bの債務不履行)によりAB間の甲土地の売買契約を解除した。その後、不動産業者のBはCに甲土地を転売し、Cは登記をした。


 いきなり事例から始まりましたが、この事例で、Aは甲土地の所有権を主張できるでしょうか?
 結論。Aは甲土地の所有権を主張できません。その根拠となる条文はこちらになります。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 あれ?解除に関する条文じゃない?
 はい。そうなんです。実はこの事例は、解除の問題ではないのです。以前にご説明した取消後の第三者と同じハナシです。つまり、単純に「早く登記したモン勝ち!」なのです。ですので、甲土地の売買契約を解除してからボサッとしていたAが悪い、ということです。
 尚、もしCがまだ登記をしていなければ、まだBに登記がある状態であれば、甲土地はBの債務不履行による解除の原状回復義務の対象ですから、Aは甲土地の所有権を主張できます。

補足・背信的悪意者と信義則

 不動産登記は早い者勝ち?でも若干触れましたが、もし今回の事例で、Cが背信的悪意者(合法的なとんでもないワル)の場合は、いくらCが登記を備えていても、Cは甲土地の所有権を取得できません。Cが背信的悪意者の場合は、次の条文が適用されます。

(基本原則)
民法1条2項
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

 これは信義誠実の原則と呼ばれるものです。(略して信義則と呼ばれます)
 民法には、利益衡量や取引の安全性を重視して、時に残酷で冷たく感じる面があると思います。そして、世の中にはそんな民法の性質を利用する合法的なワルが存在します。しかし、そいつらはあくまで合法的なので、民法先生も困ってしまいます。そこで!民法先生は最終手段の伝家の宝刀「信義則」を抜きます。そしてこう言い放ちます。
「オマエは背信的悪意者だ!背信的悪意者は信義則に反し許すべからず!」
 よって、背信的悪意者は保護されることはありません。
 このように民法は、信義則という「超えちゃならないライン」を引いて法律を補充し、法的秩序を保つのです(実際には裁判官が過去の判例を参考にしながら個別具体的に判断していくことになります)。

 昔、「男たちの挽歌」という映画で、マフィアのボスが主人公の刑事に追い詰められ病院に逃げ込み、そこで患者を人質に取ろうとするシーンがあるのですが、そこで、そのマフィアのボスに雇われた用心棒が初めてボスに逆らうのです。その時の用心棒のセリフがこうです。
「いくら極道でも、超えちゃならねぇ線があんだろ!」
 私これ、大好きなシーンなんです。スイマセン。余談もいいとこですね(笑)。

 ところで、民法177条において、第三者の善意悪意は問われていませんが、背信的悪意者はアウト!というのは今までご説明してきたとおりです。ちなみに、この民法177条で、登記を備えて所有権を主張できる第三者とは「登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する者」と、判例で定義づけられています。わかりやすく言うと「オマエ登記してねーだろ」と堂々と言える者ってことです。つまり、背信的悪意者には、信義則違反によりその資格がないということです。
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契約解除後の同時履行の抗弁権

 契約を解除すると、その契約は遡ってナシになり、原状回復義務が生じます。受け取ったものがあれば返さなくてはなりません。

解除後の原状回復は同時履行

 例えば、AがBにギターを売り渡し、Aが代金の支払いを受けてからその売買契約が解除となった場合で考えてみましょう。
 この場合、AはBに受領した(受け取った)代金を返還しなければなりません。一方、BはAに引渡しを受けたギターを返還しなければなりません。なぜなら、契約を解除したことによって、AとBには原状回復義務が生じるからです。そして、AとBの原状回復義務は、同時履行の関係になります。つまり、AはBからギターを受け取ると同時に代金を返さなくてはなりません。一方、BはAから代金を返してもらうのと同時にギターを返さなくてはなりません。そしてこのとき、AはBがギターを持って来ないのに「金返せ」と言ってきたら「だったらギター持ってこいコラ」と突っぱねることができます。一方、BはAがお金を持って来ないのに「ギター返せ」と言ってきたら「だったら金もってこいコラ」と突っぱねることができます。これを同時履行の抗弁権といいます。同時履行の抗弁権については以前も取り上げましたが、解除後の原状回復においても同時履行の抗弁権が成り立つのです。尚、これは取消後においても全く一緒ですので、そこも合わせて押さえておいて下さい。

補足・不動産賃貸借の場合は少し違う

 原状回復義務という言葉は、一般的には、おそらく不動産賃貸借においての退去の際に聞く言葉だと思います。多くの方は、引っ越すときの部屋の退去の際に聞く言葉ですよね。ちなみに、不動産賃貸借においての原状回復、すなわち敷金返還と部屋の明渡しは、同時履行の関係にはなりません。ご存知のように、敷金の返還は部屋の明渡しを済ませてから行われます。念のため申し上げておきます(不動産賃貸借における原状回復義務についてはこちらをご覧下さい)。

 以上、今回は解除についての補足的な内容でした。

他人物売買の基本

 売買契約は契約の基本です。コンビニでパンを買うのも売買契約です。当サイトでも、事例等で売買契約は再三に渡って登場しました。ここで一度、売買の基本について触れておきます。
 売買契約は「買います」「売ります」で成立する諾成契約で、買主には代金支払い債務、売主には目的物の引渡し債務、つまり、契約当事者双方に債務が生じる双務契約です。そして、この売買というものについての民法の条文はこちらです。

(売買)
民法555条
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

 なんだか小難しく書いていますので、しっかり読まなくても結構です。ポイントだけ押さえます。ポイントは「ある財産権」というところです。「自分の財産権」とは書いていませんよね?これはつまり、他人の財産権も売買していいということです。すなわち、他人の物も売買していいのです。例えば、このようなことも有効です。

事例
売主AはB所有の甲不動産を買主Cに売却した


 このような売買も有効です。
 え?マジで?
 はい。これはAを不動産業者と考えるとわかりやすいと思います。

所有権はどうなるの?

 気になるところですよね。事例の段階では、甲不動産の所有権はまだBにあります。しかし、甲不動産の売買契約を結んだのはAとCであり、その売買契約によって生じる債権債務も、あくまでAとCだけです。
 どゆこと?
 AとCが甲不動産の売買契約によって負う債務を考えればわかります。まず、Cが負う債務は売買代金支払い債務です。これは簡単ですね。では、Aが負う債務はなんなのでしょう。Aが負う債務は、B所有の甲不動産の所有権を自ら取得してその所有権をCに移転する債務、です。 実は、この他人物売買については、555条以外に条文があります。

(他人の権利の売買における売主の義務)
民法560条
他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。

 まさに、事例でAが負う債務を説明してますよね。肝心の甲不動産の所有権の行方ですが、Aが甲不動産の所有権を取得したと同時にその所有権がCに移転します。現実には登記手続きを経て行うので、「B→A、A→C」の所有権の移転が、対抗要件を備えた形で完全に同時に移転という訳にはいきませんが、法的な理屈ではこうなります。ですので、まずはその法的な理屈を、頭に入れておいて頂ければと存じます。

登記の移転についての補足

 事例で、AはB所有の甲不動産の所有権を取得してCに移転するので、現実の登記移転手続きを経た所有権は「B→A→C」と移転することになります。
 ん?B→Cってやっちゃった方が早くね?
 はい。そのとおりです。Aを省いて「B→C」と登記を移転させることを中間省略登記といいます。そして、中間省略登記は違法とされていますが、この問題については、当サイトではこれ以上は触れません。まずは、今回ご説明してきた理屈を頭に入れておいて下さい。
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売主の担保責任 全部他人物売買

 民法561条から572条まで、売主の担保責任についての規定が並びます。売主の担保責任とは、売主が売主の地位にあるというだけで負わなければならない法定責任(※1)です。つまり、売主の無過失責任(※2)ということです。

※1法定責任とは
 法律で定められた責任のこと。逆に、法律で定められてはいないが契約等で定めた責任を任意責任という。
※2無過失責任とは
 過失(落ち度・ミス)がなくても負う責任のこと。

 それでは、まず事例をご覧ください。

事例1
売主Aは買主Bと甲不動産の売買契約を締結した。しかし、甲不動産はC所有の物で、売主AはCから所有権を取得してBに移転するつもりだったが、それができなかった。


 この事例1は、他人物売買がうまくいかなかったパターンですね。
 さて、この場合、買主Bは何ができるでしょうか?実は、それはAが善意か悪意かで、できることが変わってきます。

買主Bが善意の場合
 Bが善意というのはつまり、「甲不動産が本当はC所有の物とは知らず売主Aの物だと誤信していた」ということです。この場合は、買主Bの保護の必要性が高いと考えられ、Bは契約の解除ができ、加えて損害賠償の請求もできます。
買主Bが悪意の場合
 Bが悪意というのはつまり、「甲不動産がC所有の物だと知っていた」ということです。この場合、Bは契約の解除ができます。悪意なのに?という声が聞こえてきそうですが、このように考えるとよくわかると思います。
 「売主Aは不動産業者で、買主Bは不動産業者のAにC所有の甲不動産の転売を依頼した」
 このように考えると「な~んだ、よくある話じゃん」となりますよね。よって、買主Bは悪意でも契約の解除ができます。しかし、損害賠償の請求はできません。そこまでの権利は、悪意の買主には認められません。なぜなら、そもそも買主Bが甲不動産がC所有の物だと知っていたなら、少なからずBにも、その所有権移転が失敗する可能性は予測できると考えられるからです。妥当な理屈ですよね。

 ここまで、おわかりになって頂けましたでしょうか。それでは、ここからさらに深く掘り下げて参ります。

売主Aからの解除はできるのか

 実は、売主Aからの解除も可能です。ただし!売主Aが善意の場合のみです。売主Aが善意の場合とは、甲不動産がC所有ではなくA所有だと誤信していたケースです。オマヌケっちゃあオマヌケですが、売主Aが善意であれば、売主側からの解除も可能ということです。ただし!その場合も、買主Bが善意であれば、売主Aは善意のBに損害を賠償した上で解除する必要があります。尚、買主Bが悪意の場合は、売主Aは損害の賠償ナシで解除できます。

売主Aに過失があった場合は?

 例えば、こんな場合はどうでしょう。売主Aが「C所有の甲不動産の所有権、確実に移転できます!」と、買主Bに大見栄を切っていたら?このような場合、買主Bは悪意ではありますが「だったら甲不動産の所有権の取得は大丈夫だな」と信頼しています。判例では、その信頼は保護すべきだとして、買主に売主の債務不履行による損害賠償の請求を認めています。このケースにおいての結論も、頭に入れておいて頂ければと存じます。

 いかがでしたでしょうか。ちょっと入り組んでいて頭がごちゃごちゃしてしまっている方もいらっしゃると思います。こればっかりは繰り返して落とし込んでいく必要があると思いますが、全てのケースを一辺に考えようとせず、ひとつひとつ理解・整理しながら考えていった方がいいかな、と思います。
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売主の担保責任 一部他人物売買

事例
売主Aは買主Bと甲土地の売買契約を締結した。しかし、甲土地はAとCの共有の土地で、売主AはCから持分権を取得できなかった。


 これは一部他人物売買の事例です。ちなみに、甲土地がAとC共有というのは、甲土地の所有権をAとCで共有しているということです。現実には、それぞれの持分の割合を決め、共有の登記をします。そして、それぞれの持分の権利を持分権といいます。実際によくあるのが、AとCが兄弟で親の土地を相続した、というケースです。共有や相続に関しましてはまた改めてご説明いたします(共有についてはこちらへ)。
 話を事例に戻します。この事例で、買主Bは何ができるでしょうか?この一部他人物売買でも、全部他人物売買と同様、買主Bが善意か悪意かによって、できることが変わってきます。

買主Bが善意の場合
 Bが善意というのはつまり、「甲土地の一部が他人の物とは知らず甲土地全てが売主Aの物だと誤信していた」ということです。この場合は、買主Bの保護の必要性が高いと考えられ、Aの持分だけでは買主Bは甲土地を買い受けることはなかったときは、つまり「Aの持分だけ?それだったらいらねーよ」となっていたときは、契約の解除ができます。加えて、損害が発生していれば損害賠償請求も可能です。尚、Aの持分の割合に応じた代金減額請求当然に可能です。
買主Bが悪意の場合
 Bが悪意というのはつまり、「甲土地の一部が他人の物と知っていた」ということです。この場合、買主BはCの持分を取得できない可能性も想定した上で行動すべきと考えられます。よって悪意の買主Bは、契約の解除も損害賠償の請求もできません。しかし、代金減額請求だけは認められています。なぜなら、このような取引も現実に珍しい訳ではないからです。例えば、兄弟のAとCが甲土地を共同相続して、売主Aが「Cはオレが説得する」と買主Bに言うようなケースです。ですので、買主が悪意でも代金減額請求だけは認められているのです。

買主Bの解除権及び損害賠償請求権及び代金減額請求権の行使には期間の制限がある

 買主Bは、善意であれば解除、損害賠償請求、代金減額請求ができます。悪意の場合は代金減額請求のみできます。ただし!一部他人物売買においては、先に挙げた買主の権利の行使には、期間の制限があります。なぜなら、権利の行使に期間制限がないと、第三者を巻き込んでいつまでも権利関係がごちゃごちゃしてしまいかねません。それを民法は嫌うからです。そして、この権利の行使の期間の制限も、善意と悪意で異なります。
買主Bが善意の場合
 甲土地の一部が他人の物だという事実を知った時から1年
買主Bが悪意の場合
 甲土地の売買契約を締結した時から1年
 このようになります。同じ1年でも、その起算点(期間の計算のスタート地点)が違いますので、ご注意下さい。
 ちなみに、全部他人物売買においては、上記のような買主の権利の行使の期間の制限はありません。併せて覚えておいて頂ければと存じます。
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売主の担保責任 数量指示売買(数量不足)

事例
売主Aは甲土地を買主Bに売却した。売買代金は登記簿上の地積に坪単価を掛けて算出した。しかし、甲土地を実測すると登記簿上の地積には足りなかった。


 これはどういう事例かというと、こういうことです。
「Aが売った土地の面積が、Bが買ってから実際測ってみたら、登記簿に記されていた面積よりも少なかった」
 登記簿には面積が記されています。しかし、実測してみると(実際測ってみると)登記簿と違うことがあります。まさに、この事例ではそれが起こったという訳です。
 さて、この事例で、買主Bは何ができるでしょうか?

買主Bが善意の場合
 善意の買主Bは、「残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったとき」、つまり、登記簿上よりも少ない実測した実際の甲土地の部分のみでは買主Bは買い受けなかったであろうときは、契約の解除ができます。加えて、損害が発生していれば損害賠償の請求も可能です。また、代金減額請求は当然に可能です。
買主Bが悪意の場合
 民法は、目的物の数量が不足しているのを知りながら契約をするのは通常ありえないと考えます。ですので、その場合の条文は存在しません。そんな条文まで作っていたらキリがなくなってしまいますからね。したがって、この場合は何もできないと思っておいて結構です(現実には個別具体的な判断になると思います)。

 という訳で、買主Bは善意の場合に限り、上記のような権利を行使できます。ただし!その権利の行使には期間の制限があります。事実を知ってから1年です。あんまり時間が経ってから「数量が足りない!」だなんて揉められても、事実関係が不明瞭になりがちですし、裁判所も困ります。よって、事実を知ってから1年という期間制限を設けています。
 以上、まとめるとこうなります。
「買主Bは善意の場合に限り残存する部分のみであればこれ(甲土地)を買い受けなかったときには契約の解除ができ、損害が発生していれば損賠賠償の請求も可能。また、代金減額請求は当然にできる。ただし善意の買主Bのそれらの権利の行使は、甲土地の面積が登記簿上より実際は足りなかった、という事実を知ってから1年以内に行わなければならない」

 ところで、今回の事例でご説明した内容は「売買の目的物の数量が不足していたとき」の話です。ではこれが「売買の目的物の数量が多すぎたとき」にはどうでしょう?このときに、売主からの代金減額請求は可能でしょうか?
 結論。売主からの代金減額請求はできません。これは、判例でそのように結論づけられています。売主がおっちょこちょいだった、で終わってしまうということです。

補足

 今回ご説明してきた内容は、民法の条文上では565条の規定になります。そして、民法565条の規定というのは特定物売買に関する規定です。
 特定物って?
 特定物とは「この世の中に全く同じ物が他に存在しない物」です。例えば、中古品は全て特定物になります。服であれば古着は全て特定物です。なぜなら、必ず品ごとに状態が違いますよね。ですので、法律上は全く同じ物の代わりはないと考えます。反対に、新品の服は不特定物となります。服屋が新品の服を5着発注して1着足りなくても、同じ服を1着納入すれば済む話です。しかし古着では、同じ服はあっても、全く同じ状態の服は存在しません。ちなみに、オーダーメイドの服であれば特定物になります。ただ、これはあくまで法律上の規定の話ですので、あまり深く考えず「法律上ではそうなっているんだ」と素直に受け止めて下さい。
 そして不動産は、土地だろうと建物が新築だろうが中古物件だろうが全て特定物です。窓から見える景色が微妙に違う、陽の当たり方が微妙に違う、それだけで特定物なのです。
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売主の担保責任まとめ

 ここで一度、売主の担保責任について整理しておきます。売主の担保責任については、初めて学習される方は頭がごちゃごちゃになると思います。私もそうでした。ですので、要件と結論の部分だけまとめておきます。

全部他人物売買契約

買主が善意のとき
契約の解除◯
損害賠償の請求◯
権利行使期間→規定なし
買主が悪意のとき
契約の解除◯
損害賠償の請求×
権利行使期間→規定なし
売主に過失があるときのみ損害賠償の請求◯
売主からの解除
売主が善意のときのみ◯
買主が善意のときは買主に損害を賠償した上で

一部他人物売買

買主が善意のとき
売主持分だけではこれを買い受けなかったとき契約の解除〇
損害が発生していれば損害賠償の請求〇
代金減額請求〇
権利行使期間→事実を知った時から1年以内
買主が悪意のとき
契約の解除×
損害賠償の請求×
代金減額請求〇
権利行使期間→契約の時から1年以内

数量指示売買(数量不足、物の一部滅失)

買主が善意のとき
残存する部分のみであればこれを買い受けなかったとき契約の解除〇
損害が発生していれば損害賠償の請求〇
代金減額請求○
権利行使期間→事実を知った時から1年以内
買主が悪意のとき
規定なし

 このようになります。最初は頭がごちゃごちゃになると思いますが、前回までご説明致しました内容と併せまして確認して頂ければと存じます。
売主の担保責任 全部他人物売買
売主の担保責任 一部他人物売買
売主の担保責任 数量指示売買(数量不足)
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Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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