2021/04/29
▼この記事でわかること
・
相殺について・
連帯債務者の1人が反対債権を持っている場合・
連帯債務での求償について・
他の連帯債務者が相殺の援用をしない?・
負担部分と相殺(反対債権)の注意点▽連帯債務の求償の様々なケース
・
中途半端に弁済した場合・
連帯債務者の1人が無資力(金がない状態)の場合(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
連帯債務の相殺相殺について 債務者が債権者に対して同種の債権(これを
反対債権と言う)を持っている場合、
相殺ができます。
相殺とは、互いの債権を打ち消し合う仕組みです。
例えば、債権者Aが債務者Bにお金を10万円貸していて、債務者Bは債権者AにPCを10万円で売ったとします。このとき、AはBに対して「金返せ」BはAに対して「金払え」という債権を持っています(債権者Aは債権、債務者Bは反対債権)。その互いの債権を打ち消し合う仕組み、それが
相殺です。(相殺の基本についての詳しい解説は
「相殺の超基本~自働債権と受働債権って何?」をご覧ください)
なお、相殺をすることを、
相殺の援用と言います。
まずはここまで、押さえてください。
連帯債務者の1人が反対債権を持っている場合 ここから、本題に入ります。
連帯債務において、
連帯債務者の1人が債権者に対して反対債権を持っている場合、相殺できるのでしょうか? 結論。相殺できます。
それでは事例とともに、連帯債務における相殺について解説して参ります。
事例1
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた。BCD各自の負担部分は均一である。なお、BはAに対して150万円の反対債権を持っている。
※負担部分とは連帯債務者内部で決めた負担割合。BCDは均一の負担なので各自50万ずつ負担し合っていることになるが、それはあくまでBCD内部での決め事でありAには関係ない。(Aは各自に150万円全額請求できる)→
詳しくは後で解説します。 この事例1では、債権者Aに対して連帯債務を負っている3人の債務者(連帯債務者)BCDのうち、BがAに対して
反対債権を持っています。
(150万円払え)B
↙反対債権 ↗︎
A「150万円払え」→C
↘︎
D
したがって、Bはその反対債権を使って
相殺すること(相殺の援用)ができます。
ここまでは、先ほど述べたとおりです。
問題はここからです。
Bが相殺した場合、その効果は他の連帯債務者CDにどのような影響を与えるのでしょうか? (150万円払え)B
↙相殺 ↗︎
A「150万円払え」→C
↘︎
D
AC間・BD間はどうなる? まず、Bが150万円の反対債権を使って相殺すると、AのBCDに対する150万円の債権は
消滅します。 つまり、Bが反対債権で連帯債務150万円の全額を相殺したことにより、BがBCD3人で負っている連帯債務150万円の
全額を弁済(全額返済)したことになります。(相殺の絶対効)
てことはCとDは1円も払わずに済んでラッキー! いやいや、そうはイカンのです。
Bはその相殺で連帯債務を全額弁済したことにより、他の連帯債務者C・Dに対して
求償権を得ます。
求償について 求償権とは、求償する権利です。
求償とは、わかりやすく簡単に解説すると「私が君の代わりにアイツに払ってあげた分を君は私に払いなさい!」です。
つまり、事例1のBがその反対債権で相殺をすると、連帯債務150万円全額を弁済(全額返済)したことになり、連帯債務は消滅しますが、それは「
BがC・Dの負担分を立て替えて払ってあげた」という意味にもなります。
したがって、BはC・Dに対して、
立て替えてあげた負担分の請求ができるのです。
これを民法的に言うと「BはC・Dに求償できる」となるのです。
(B相殺前)
B
↗︎
A「150万円払え」→C
↘︎
D
(B相殺後)
B「立て替えた負担分払え」→C
↘︎
D
そして、各自の負担分が均一ということは、BはC・Dそれぞれに対して50万円を求償することができます。
B「50万円ずつ払え」→C
↘︎
D
なお、この連帯債務における求償の仕組みは、なにも連帯債務者の1人が相殺した場合に限ったものではありません。
例えば、Bが相殺ではなく、普通に150万円全額を支払って弁済すれば、そのときもBはC・Dに対して同じように求償できます。
なんか求償ってややこしい!
確かに、この求償という仕組みは、ややこしく感じるかもしれません。
しかし、連帯債務の場合、債権者は連帯債務者ひとりひとりに対して、
債務の全額が請求できます。
つまり、連帯債務者のひとりが債権者から連帯債務の全額を請求されて、その連帯債務者が
ひとりで全額を弁済することは、連帯債務の制度上、
当然に起こることなのです。
そこで、
不公平にならないためにも、他の連帯債務者の負担分まで弁済した連帯債務者が、他の連帯債務者に求償することができる仕組みになっているのです。
これが求償という仕組みを活用する意味です。
ちなみに、もし求償ができないとしたら、債権者からの連帯債務者ひとりに対する債務の全額の請求は、言ってみればロシアンルーレットみたいになってしまいます(笑)。誰が請求されるか?されたら終わり!みたいな(笑)。
まあ、そんな不公平な制度だったら、そもそも誰も利用しなくなるでしょうが(笑)。
なお、求償権については
「不法行為の使用者責任」の解説でも触れていますので、宜しければそちらもご覧いただければと存じます。
他の連帯債務者が相殺の援用をしない場合 連帯債務において、連帯債務者が債権者に対して反対債権を持っている場合、その反対債権で相殺できます。
では、反対債権を持っていない連帯債務者のひとりが債権者から支払い請求を受けた場合に、例えば、
反対債権を持っている他の連帯債務者がそれを使って相殺するまで(相殺を援用するまで)支払いを待ってもらうことはできるのでしょうか? 事例に当てはめるとこうです。
(150万円払え)B
↙反対債権 ↗︎
A「150万円払え」
→C ↘︎
D
CがAから支払い請求を受けた場合に、CはAに、Bが反対債権を使って相殺するまで(相殺を援用するまで)支払いを待ってもらえないのでしょうか? 結論。Cは
その負担部分の限度でBが相殺を援用するまで支払いを拒むことができます。(履行拒絶)
つまり、Aから支払い請求を受けたCは「Bが相殺を援用するまで負担部分50万円の限度で払いましぇーん!」と支払いを拒むことができる、ということです。
(連帯債務者の一人による相殺等)
439条
2項 前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分の限度において、他の連帯債務者は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。 ※負担部分の注意点 連帯債務者の各自の負担割合は、
連帯債務者内部での決めごとに過ぎません。
なので、仮にBの負担部分が弁済されたことになっても(Bが自分の負担部分50万円返済しても)、
Bは相変わらず連帯債務者の1人のままで、
債権者Aは相変わらずB・C・Dに対してそれぞれ全額の支払い請求ができます。ただその金額が50万円減って100万円になるだけです。
(B負担分50万弁済前)
B
↗︎
A「
150万円払え」→C
↘︎
D
(B負担分50万弁済後)
B
↗︎
A「
100万円払え」→C
↘︎
D
したがって、債権者Aと連帯債務者B・C・Dの
関係性は何も変わりません。 そしてもし、その後、CがAに対して残りの100万円を弁済すると、連帯債務は全額弁済されて消滅します。
すると、CはDに対して求償権を持つことになります。
Bに対しては? ありません。なぜなら、Bは自分の負担部分50万円をすでに弁済しています。
ということは、Cが残りの連帯債務100万円を弁済すると、Dだけが1円も弁済していないことになりますよね。
(C残り100万弁済後)
求償
C → D(1円も弁済してない)><
↘ B(すでに負担分弁済済み)^^
したがって、Dの負担分も弁済したCは、Dに対してだけ求償権を取得するのです。
※相殺(反対債権)の注意点
なお、もしBが相殺を援用しないで連帯債務150万円全額が弁済された場合、BのAに対する
反対債権は
残ったままです。
なぜなら、この反対債権の存在は、
連帯債務の消滅とは関係ないからです。 この点もご注意ください。
求償の様々なケース中途半端に弁済した場合 連帯債務者の1人が債務を全額弁済した場合、その連帯債務者は他の連帯債務者に求償することができます。
では、次のような場合はどうなるのでしょうか?
事例2
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた。各自の負担割合は均一である。その後、BはAに45万円を弁済した。 この事例2では、BはAに45万円を弁済しました。
各連帯債務者の負担割合は均一=50万円ずつです。
つまり、Bは負担割合の50万円のうち45万円を弁済した、ということです。
B
45万弁済↙↗︎
A「150万円払え」→C
↘︎
D
さて、この場合、
BはC・Dに求償することができるのでしょうか? 結論。BはC・Dに対して
15万円ずつ求償できます。 なぜ15万円ずつ求償できるか?
その意味は、Bの45万円の弁済により、
連帯債務全体が150万ー45万円=105万円に減少するからです。
(B45万円弁済前)
B
↗︎
A「150万円払え」→C
↘︎
D
(B
45万円弁済後)
B
↗︎
A「
105万円払え」→C
↘︎
D
そしてB・C・D各自の負担部分は50万円から
15万円減少して、35万円ずつになります。
つまり、Bの45万円の弁済は、BCD全員の、すなわち
連帯債務者全員の利益になるのです。
したがって、BはC・Dに対して45万÷3=
15万円ずつ求償することになるのです。
(B45万円弁済後)
B「15万円ずつ払え」→C
↘︎
D
どうでしょう。
この結論は、意外に思う方も多いかもしれません。
実は、連帯債務における各連帯債務者の負担部分は、数値ではなく
割合と考えられています。
数値で考えれば、Bは自分の負担部分50万円のうち45万円しか弁済していません。
それなのに、BがC・Dに対して求償できるのはオカシイですよね。
しかし、
各連帯債務者の負担部分は割合です。
Bの45万円の弁済によって連帯債務全体が
150万ー45万=105万円となり、
105万円をB・C・Dが均一の割合(すなわち35万円ずつ)で負担することになるのです。
すると、C・Dはそれぞれ負担部分が50万円から15万円ずつ減少=実質
Bのおかげで15万円の利益を得たことと同じ意味になるので、
その利益分をBはC・Dに対して求償できるというわけです。
以上が、事例2のケースでの求償についての解説になります。
決して難しい話ではないのですが、一見するとややこしく、ちょっと混乱しやすい部分ではありますので、しっかり覚えておいてください。
連帯債務者の1人が無資力(金がない状態)の場合 続いては、連帯債務者の1人が無資力(金がない状態)の場合について解説します。
事例3
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた。各自の負担割合は均一である。その後、BはAに150万円を弁済した。そしてBは、C・Dに対して求償しようと考えているが、Dは無資力だった。 この事例3は、連帯債務150万円を1人で弁済したBがC・Dに対して求償しようとしたところ、
Dにはお金がなかった(無資力)というケースです。
B
全額弁済↙↗︎
A「150万円払え」→C
↘︎
D
(B全額弁済後)
求償
B → C
↘
D(金が無い)
さて、
Bの求償はどうなるのでしょうか? 通常、連帯債務150万円を1人で弁済したBは、C・Dに対して「50万円ずつ支払え」と求償することができますが、
無資力のDから50万円の支払いを受けることは事実上困難です(無い袖は振れない=無一文は払いようがない)。
となると、Cが1人で
自己負担分50万+D負担分50万=100万円
をBに対して求償しなければならなくなるのでしょうか?
しかし、それは明らかに不公平ですよね。
Cだけが本来の負担割合を超えた債務を負担してしまうことになります。
そこで民法は、
連帯債務者の1人の無資力は、求償者及び他の資力のある者(他の連帯債務者全員)の間で、
等しい割合で分割して負担する、と規定します。(民法444条2項)
したがって、事例3では、
Dの無資力は、BとCが等しい割合で分割して負担することになります。
ではどうなるのか?
Dの負担部分50万円を
BとCが25万円ずつ分担して負担します。
その結果、連帯債務150万円をB・Cが50万+25万=75万円ずつ負担することになります。
したがいまして、BはCに対して
「75万円支払え」と求償することができます。
ただし、もしB(求償者)に過失(落ち度・ミス)があった場合は、Cに(Dの無資力の)分担を請求することができません。
つまり、Bに過失(落ち度・ミス)があれば、BはDの負担分50万円を、B(自分)だけで負担しなければなりません。
以上が連帯債務者の1人が無資力だった場合の解説ですが、こちらもまた少々ややこしく感じたかもしれません。
元も子もない言い方かもしれませんが、要するに噛み砕いて簡単に言ってしまうと、
「連帯債務者の1人が無資力の場合、無資力のヤツはいないものとして考えろ!」ってことです。
つまり、事例3は、無資力のDはいないものとして「連帯債務150万円はBとCの2人で負っている」と考えると、わかりやすくなると思います。
すると「150万円の連帯債務をB・Cで75万円ずつ均一に負担していて、150万円全額弁済したBが、Cに対して75万円を求償する」という実に簡単な話になります。
補足 連帯債務は、登場人物が多くなるのもあって最初はややこしく感じるかもしれません。
ですが、慣れてくれば決して複雑な訳でもなく難しい話という訳でもないので、今一つよくわからないという方も不安になる必要はありません。
慣れさえすれば、全然問題ございませんので、ご安心ください。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。