カテゴリ別項目一覧

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【意思表示の形成過程】欲しくなってから買うまでの流れを民法的に考察
【錯誤の超基本】要素&動機の錯誤と錯誤による取消し/表意者の重大な過失って?
【動機の錯誤】原則取り消せない?じゃあ例外的に取り消せるときの具体例は?
【錯誤をした本人(表意者)以外による取消し】どんなときにできる?その具体例
【心裡留保の超基本】冗談で言った事が有効に契約成立するとき、無効になるとき
【詐欺の超基本】善意&悪意の第三者って何?/詐欺取消後に現る悪意の第三者問題
【強迫の超基本】善意の第三者が現れようが強迫の契約は無効/強迫無効後の第三者問題について
【通謀虚偽表示の基本】無効な契約が実体化?利益衡量と民法理解の3つのポイントとは
【善意&悪意の転得者】悪意の転得者が所有権を取得?絶対的構成と相対的構成とは
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【意思表示の形成過程】欲しくなってから買うまでの流れを民法的に考察

▼この記事でわかること
意思表示とは
意思表示の形成過程ってなに?
なぜ意思表示の話が民法に必要なの?
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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意思表示とは何なのか

 売買契約は「買います」という申し込みに対し「売ります」という承諾をした時、契約が成立します。(諾成契約)
 このときの「申し込み」と「承諾」、つまり「買います」「売ります」が、意思表示です。
 つまり、売買契約(諾成契約)とは、民法的に説明すると「当事者同士の意思表示により成立する契約」ということになります。
 意思表示が何なのかは、おわかりになりましたよね。
 それでは、ここから、意思表示の形成過程(プロセス)について解説して参ります。

欲しいと思ってから買おうと思い購入に至るまでの意思表示の流れ

美味しそうだな〜(動機)

よし、買おう!(効果意思)

買います!と言うぞ(表示意思)

これ買います!(表示行為)


相手方の「売ります」で契約成立!

 これを民法的にまとめると以下のようになる。

動機

効果意思

表示意思

表示行為


 なんだかまるで心理学みたいになってきましたが、順番に解説します。

・動機
 これは売買であれば「買う理由」です。美味しそうだな〜とか、安いからとか、カワイイからとか、動機という言葉の通りです。
・効果意思
 これは「よし、買おう」です。つまり「頭・心の中の決断」です。
・表示意思
 これは「買いますと言うぞ」です。つまり「決断を表に示す意思」です。
・表示行為
 これは「これ買います!」です。これは説明不要ですね。「購入の申し込みの表明」です。
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 まとめると先述の図になります。

美味しそうだな〜(動機)

よし、買おう!(効果意思)

買います!と言うぞ(表示意思)

これ買います!(表示行為)


 以上が、意思表示の形成過程になります。

なぜこんな話が民法に必要なのか?

 それこそ、本当に心理学の講義みたいですもんね。
 しかし、これが実はとても重要なのです。
 なぜなら、意思表示があって初めて契約というものが成立するからです。
 契約関係のトラブルは、いつの時代も絶えません。トラブルがあったときは、その契約内容と成立過程を検証しますよね。その「成立過程」こそ、まさに先述の「意思表示の形成過程」が含まれます。
 買いたいと思っていない物なんて、買わないですよね?ではなぜ買ったのか?無理矢理買わされたのか?騙されたのか?あるいは勘違いか?買ってもいない物が突然送られてきて、いきなりお金を請求されても困りますよね?
 売る側からすれば、なんの理由もなしに、いきなり返品されて「金返せ!」と言われても困りますよね?
 そうなると「意思表示の形成過程」のどこかに不備があるのではないか?と、民法的な検証ができる訳です。
 なお、付け加えて申し上げておきますと、意思表示は「黙示のもの」でも、有効に扱われる場合があります。
 黙示の意思表示とは、実際言葉には出していないけれど「それって買うってことだよね・売るってことだよね」ということです。
 つまり、黙っていても意思表示が明らかだと認められればその契約は成立してしまう、という事です。
 という訳なので皆さま、断るときはハッキリと口に出して断りましょう。

 今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【錯誤】表示&動機の錯誤による取消し/表意者の重大な過失/表意者以外が取消しを主張できるとき

▼この記事でわかること
錯誤とは勘違い~錯誤の超基本
表示の錯誤動機の錯誤とは
錯誤による取消し
表意者の重大な過失って?
[コラム]現実では「重大な過失」の判断は難しい
動機の錯誤による取消し
本人以外が錯誤による取消しを主張できるとき
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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錯誤の超基本

 錯誤とは、わかりやすく言えば、勘違いのことです。
 そして、売買契約などでの契約の過程に起こった勘違いについて扱うのが、民法における錯誤の問題、ということになります。
 それでは、錯誤についての具体的な解説に入ります。
 まずは以下の「欲しいと思ってから買おうと思い購入に至るまでの意思表示の流れ」をご覧ください。

美味しそうだな〜(動機)

よし、これ買おう!(効果意思)

買います!と言うぞ(表示意思)

これ買います!(表示行為)


 これは意思表示の形成過程というもので、要するに、買おうと思ってから実際に買うまでの流れを、民法的に表したものです。
 さて、ではこの意思表示の形成過程に不備があった場合、つまり、買おうと思ってから実際に買うまでの流れの中で勘違い等のミスがあった場合は、一体どうなるのでしょう?
買い物
 皆さんも普段の買い物の中で、間違えて、本来買おうしていた物とは違う物を買ってしまった事、ありますよね。 それは民法的に言うと「効果意思と表示行為に食い違いがある」ということになります。
 効果意思というのは「よし、これ買おう」という心の中の決断で、表示行為というのは「これ買います」という購入の申し込みです。
 つまり、本来買おうとしていた物とは違う物を買ってしまった、というのは、心の中の決断行為一致していないのです。Aさんに告白しようと思ってBさんに「付き合ってください」と言うようなもんです(笑)。
 民法では、このような効果意思と表示行為の不一致、ざっくり言えば勘違い錯誤と言います。

錯誤は2種類存在する

 錯誤には、表示の錯誤動機の錯誤の2種類が存在します。
 つまり、民法的には勘違いにも2種類あるのです。

表示の錯誤とは

 これは「ギターを買おうと思ってベースを買ってしまった」というような場合です。
 思った事とやった事、つまり、意思行為食い違いがある錯誤です。

動機の錯誤とは

 これは文字通り、意思表示の形成過程における動機の部分の話で、買おうと思った理由による錯誤です。
 これではよくわからないですよね。
 以下に具体例を挙げてご説明します。

〈動機の錯誤の例〉
 不動産を購入しようと考えている人がいました。その人はある土地に目を付けました。というのは、どうやら「その土地の近くに新しく駅ができる」という噂を嗅ぎつけたからです。そして、その人はその噂を信じ土地を購入しました。将来の土地の価値の増大を期待できるからです。しかし、その後、その噂はガセだったようで駅はできませんでした。当然その土地の価値もたいして変わりません。この人の土地を購入した動機(理由)は、近くに駅ができるから土地の値段が上がる!というものです。でも実際には駅などはできず、土地の値段も上がりませんでした...。


 これが動機の錯誤です。
 つまり、買おうと思った理由が間違っていた場合です。
 表示の錯誤は、思った事(意思)とやった事(行為)が食い違っているのに対し、動機の錯誤は、思った事とやった事は噛み合っていても「思った事」つまり「その行為の理由」が間違っていた場合です。
 両者の違い、おわかりになりましたか?
 その違いが一体なんになるんだ!
 はい。実はこの違いがとても重要なのです。
 というのは後々に、錯誤(勘違い)を理由に契約の取消しができるか否か、という問題に直結するからです。
 買った側からすると、間違って買ってしまったのにもうどうにもできない、なんていう事態は困りますよね。
 一方、売った側からすれば、なんでもかんでも後になって「この買い物は取消せ!」と主張されても困ります。

錯誤による取消し

 錯誤(勘違い)を理由に、表意者(錯誤をした本人)は契約の取消しを主張することができます。
 例えば、ギターだと思ってベースを買ってしまった場合、その契約(ベースを買ったこと)の取消しを主張できます。
 つまり、ベースを買ったことをナシにできるのです。
 そして、買ったベースは店に返し、払ったお金は返してもらいます。
 これが錯誤による取消しです。
 しかし、当然ながら何でもかんでも取り消せる訳ではありません。
 民法の条文はこちらです。

(錯誤)
民法95条
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる

一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤


 上記、民法95条の条文に「~重要なものであるときは、取り消すことができる」とあります。
 つまり、重要な錯誤であれば取り消せる、という事です。
 一の「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」とは、表示の錯誤になります。
 二の「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」とは、動機の錯誤になります。
 したがって、条文から導き出される結論は、重要な「表示の錯誤と動機の錯誤は取り消すことができる」という事になります。

表意者の重大な過失とは

 ここで注意点がございます。
 民法95条の条文には続きがあり、そこには「表意者に重大な過失があったときは〜取消しをすることができない」とあります。
 先ほども出てきましたが、表意者とは、錯誤をした本人です。重大な過失とは、大きなミスのことです。
 つまり、これはどういうことかと言いますと、錯誤取り消すことができる。しかし、錯誤をした本人重大な過失(大きなミス)があった場合は取り消すことができない、という意味です。
 では何が重大な過失なのか?という話ですが、わかりやすく言えば「ちょっと確認すればわかるようなことを見落としてしまった」ようなことです。
 例えば、リンゴを買おうと思ってバナナを買ってしまったような場合です。
 普通に見ていれば、リンゴとバナナを間違えませんよね?なので、リンゴを買おうと思ってバナナを買ってしまった場合、それは表意者に重大な過失アリとなり、その契約を取り消すことはできないのです。
買い物 困り
 しかし、民法95条にはさらに続きがあります。
 表意者に重大な過失があるときでも、相手方が悪意・重過失であるときは(双方重過失)、相手方が同一の錯誤に陥っているとき(共通錯誤)は、その契約を取り消すことができるとあります。
 つまり、リンゴを買おうと思ってバナナを買ってしまった場合、相手方(この場合売主)にも重大な過失(大きなミス)があり、相手方が表意者(この場合買主)に錯誤があることを知っていたときは、表意者は錯誤による取消しを主張し契約を取り消すことができます。また、相手方もリンゴを売ろうと思ってバナナを売ってしまった場合(共通錯誤)も、表意者は錯誤による取消しを主張し契約を取り消すことができます。

ちょこっとコラム
現実には「重大な過失」の判断は難しい?


 例えば、ギターだと思ってベースを買ってしまった場合、楽器初心者だったなら取消しを主張しやすくなるでしょう。なぜなら、初心者ならどっちがギターかベースか、すぐに区別のつかない人もいるはずです。つまり、本人(表意者)の重大な過失と認められづらくなるからです。
 ところが、これがギター歴40年のオヤジだったらどうですか。普通、それだけギターやってるオヤジなら、ギターとベースの区別ぐらいすぐにつくに決まっているでしょう。たとえ悪徳楽器店だったとしても、騙されないでしょう。
 つまり、もしギター歴40年のオヤジがギターとベースを間違えて購入してしまった場合は、表意者(ギター歴40年のオヤジ)に重大な過失があると判断されやすくなり、錯誤による取消しが難しくなります。
 じゃあギター歴5年の兄ちゃんはどうなの?
 これも多分ダメですね(笑)。ただ、法律で明確に規定している訳ではないので、あくまで常識的な、客観的な判断になります。
 裁判になれば「社会通念上どーたらこーたら」とか言われるのでしょうか。
 ただもし、例えば、ギターと本当に見分けのつかないようなベースがあって、店員の説明が不十分であれば、その場合は、重大な過失について、また違った判断になるかもしれません。(まあ、そもそも試奏したのかとか、他にも考慮しなければならない要素は色々とありますが...)

動機の錯誤について

 動機の錯誤とは、言ってみればテメーの判断ミスです。
 テメーの判断ミスによる契約(法律行為)を動機の錯誤として取り消すには、要件があります。
 動機の錯誤の取消しを主張するには、「動機が表示され、それを相手が認識していること」が必要です。
 これではわかりづらいですよね。
 もう少しわかりやすく噛み砕くとこうです。
 売買契約の場合、「買う理由となる動機が言葉なり相手にわかるように表現されていて相手がその動機をわかっていたとき」に、動機の錯誤による取消しが主張できます。

動機の錯誤による取消しが主張できるときの具体例
 
 ある土地を購入したAさんがいます。Aさんがなぜその土地を購入したかというと、その土地のすぐ近くに、数年後に駅が建つという話を耳にしたからです。しかしその後、駅ができるという話はデマで、Aさんは目算を誤った、つまり、動機の錯誤に陥った...。

 これだけでは、動機の錯誤による取消しは主張できません。
 なぜなら、これだけではただのAさんの判断ミスに過ぎないからです。
 しかし、次のような場合は、動機の錯誤を主張できます。

 Aさんの「この土地のすぐ近くには数年後に駅が建つ」という動機が言葉なり表に出されていて、そのAさんの動機を相手が認識していてかつ相手はその土地のすぐ近くに駅が建つという話がデマだと知っていたのにもかかわらずそれをAさんに教えなかったとき

 上記のような場合であれば、Aさんは動機の錯誤による取消しの主張ができます。
 なお、Aさんの動機が相手にわかるといっても、たとえAさんが動機を口に出していなくても、Aさんの動機が明らかに見てとれていたならば(法律的に言うと黙示に表示されていたならば)、そのときもAさんは、動機の錯誤による取消しの主張ができます。

 以上、端的にまとめるとこうなります。

「表意者(勘違いをした本人)の動機が間違っていて、その動機が間違っていることを相手が知っていて、その動機が間違っていることを相手が教えてあげなかったとき、表意者(勘違いをした本人)は動機の錯誤の取消しを主張できる」

 要するに、表意者(勘違いをした本人)の動機が間違っているのに気づいていたなら相手は表意者に教えてやれよ!ってハナシです。

【確認】表示の錯誤と動機の錯誤の違い

 動機の錯誤の取消しの主張について、おわかりになりましたでしょうか。
 ここで再度、表示の錯誤についても、簡単に解説しておきます。
 表示の錯誤は、リンゴだと思ってバナナを買ってしまったような場合です。この場合、そもそも、リンゴを買おうという意思と、バナナを買ったという行為が、一致していません。
 では、動機の錯誤はというと、動機と行為は一致しています。リンゴを買おうという意思のもとにりんごを買っているので。ただ「美味しそうだな」という動機(買う理由)が間違っていただけです。

本人以外が錯誤による取消しを主張できるとき

 錯誤による取消しを主張できるのは、表意者(錯誤をした本人)、その代理人、承継人に限ります。(民法120条2項)
 錯誤による取消しの規定は、表意者(錯誤をした本人)を保護するためのものだからです。なので、誰でもできる訳ではありません。
 では、表意者(錯誤をした本人)を保護するための錯誤による取消しの主張を、表意者(錯誤をした本人)以外が主張できる場合とは、一体どんなときなのでしょうか?
 それは、表意者(錯誤をした本人)が錯誤の取消しを主張してくれないと困ってしまう人がいて、なおかつ表意者(錯誤をした本人)が錯誤を認めているときです。
 この説明だけだとよくわからないと思いますので、もう少し具体的に解説いたします。

本人以外が錯誤による取消しを主張できるときの具体例
壺 贋作
 例えば、偽の骨董品がAからBに売られ、その後、BからCに転売された場合に、Cが錯誤による取消しを主張してBC間の売買契約をナシにする、というような場合、通常の錯誤による取消しのケースになると考えられます。
 このとき、CはBからお金を返してもらう事になりますが、もしBに返すお金がなかったとき、Cはどうすればいいのでしょうか?

 偽物の骨董品
A → B → C 
 売る  転売

BC間の売買契約取消し

C → B
 金返せ!
しかしBには金が無い...   

 そうです。このときに、CがAB間の売買契約の、Bの錯誤による取消しをCが自分で主張して、AB間の売買契約を無かったことにして、BのAに対する代金返還請求権を、CはBに代わって行使できるのです。

 偽物の骨董品
A → B → C
 売る  転売
 
「Bの錯誤により取消しだ!」とCが主張
AB間の売買契約取消し

B → A
 金返せ!
  
これをBに代わってCがAに請求できる

 つまり、Cは自分のお金をしっかり返してもらうために、Bの代わりに、BがAからお金を返してもらう権利を、Bの代わりに行使できる、という事です。
 CはAに「Bは錯誤だ!だからAB間の売買契約は取消しだ!だからAはBに金を返せ!」と言えるのです。
 そして、そのお金でCはBからお金を返してもらう、という流れになります(今回の「金返せ!」のような金銭債権の場合は、CはAに対して「自分(C)に直接払え」と請求することもできます)。
 ここでひとつ注意点があります。
 先述のように、CがBの錯誤による取消しを主張するためには、Bが自分の錯誤(勘違い)を認めていることが必要です。Bが自分の錯誤(勘違い)を認めていなかった場合は、このような権利の行使はできません。
 なお、このような「BのAに対する権利をCがBに代わって行使する権利」を、債権者代位権と言います。(債権者代位権についての詳しい解説は「【債権者代位権】基本と要件と範囲/債権者代位権の転用とは」をご覧ください)

補足
【錯誤の主張の期間の制限】
 錯誤による取消しの主張ができる期間は、追認できる時から5年、または行為のときから20年です。(民法126条)


 以上、錯誤についての解説になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【心裡留保の超基本】冗談で言った事が有効に契約成立するとき、無効になるとき

▼この記事でわかること
心裡留保とは
心裡留保の無効について
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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心裡留保とは

 この世の中は契約社会です。それは、口約束だけでも成立する諾成契約の存在等が根拠となっているのですが、それではこのような契約は成立するでしょうか?

俺が付けてるこのロレックスの時計、百円で売ってやるよ!
※ロレックスは高級ブランド

 結論から言いますと、この契約は有効に成立します。
 これが、心裡留保(しんりりゅうほ)です。
 心裡留保とは、簡単に言うと冗談のことです。(すべての冗談が心裡留保となるわけではない)
 子供の頃、罰ゲームでクラスメイトの誰かに告白する、というろくでもない遊びがありましたが、その際のいわば冗談の告白は心裡留保になるかもしれません。
 まだこれだけだと「だから?」という感じですよね。
 ここから、さらにその問題の内容・結論に至るまでの論理を解説します。

  高級時計
 売主 → 買主
百円で売ってやるよ!
    ↑
(でもこれって本気?)

 そもそも、売主は果たして本気でロレックスの高級時計を百円で売ろうと思ったでしょうか?
 ひょっとしたら本気の可能性もなくはないですが、冗談で言っていると考えるのが妥当だと思います。
 しかし、その冗談を相手が信じてしまっていたらどうでしょう?
 ロレックスの時計の価値をよく知らない人であれば、信じてしまうことは十分ありえますよね。すると、後でいくらあれは冗談だと言われても、相手は困りますよね。それは取引の安全性を損なうと、民法は考えます。
 それこそ罰ゲームの告白だって、一番困るのは冗談の告白をされた相手側ですよね。場合によっては、その人の心は深く傷ついてしまいます。
素材111債務不履行
 心裡留保についての民法の条文はこちらです。

(心裡留保)
民法93条
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。


 上記、民法93条の「表意者」とは、この場合、冗談を言った本人です。
 そして「真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられ」という部分が、冗談で言った事も有効に成立してしまいますよ、という意味になります。
 どうやら民法さんの前では、うかつに冗談も言えませんね(笑)。
 ちなみに、民法には「この世の中は契約社会で、基本的には自己責任」という考えがベースにありますので、この考えを頭の片隅に入れておくと、民法の理解が進みやすくなります。

心裡留保の無効

 また、民法93条にはただし書きがあります。

民法93条但し書き
ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。


 この民法93条但し書きで言っている事は「冗談を言われた相手がそれが冗談だとわかっていればその契約は無効ですよ」ということです。
 先のロレックスの例に当てはめるとこうです。
「この本物のロレックスの時計、百円で売ってやるよ!」と言われた相手が、それが冗談だとわかっていれば、その契約は無効になり、有効に成立しない。
 この「相手がそれを知っていたら」という点は、民法では非常によく出てきます。ですので、この点は注意してください。
 また、先の条文では「知ることができたとき」という文言がありました。これは「たとえ相手が、それが冗談だと知らなかったとしても、ちょっと考えればわかるようなことは、知らなかったでは済みませんよ」という意味です。
 先述のロレックスの例に当てはめるとこうです。
 相手がロレックスの時計の価値をわかっていて「待てよ?本物のロレックスの時計を百円で売るなんておかしいよな?」と、ちょっと考えれば十分わかることであれば、その冗談で言った事は無効になり、契約は成立しない。

【補足】
 心裡留保における第三者の保護要件は無過失を要さず善意のみで足ります。(第三者や善意・無過失などについての詳しい解説は「【詐欺の超基本】善意&悪意の第三者って何?」をご覧ください)

 以上が、心裡留保についての解説になります。
 以下、ざっくりまとめるとこうなります。
「冗談で言った事でも有効に契約は成立してしまうが、相手がそれが冗談だとわかるときは無効になる」

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【詐欺の超基本】善意&悪意の第三者って何?/詐欺取消後に現る悪意の第三者問題

▼この記事でわかること
詐欺とは
善意の第三者と取引の安全性って?
悪意の第三者とは事情を知ってる第三者
詐欺における善意(無過失)の第三者の登記の必要性
▽詐欺の取消後について
そもそも契約を取り消すとどうなるのか
取消後に悪意の第三者現る~取消後はさっさと登記しろ!
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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詐欺(サギ)

 詐欺(サギ)という言葉自体は、一般的にも馴染みがあると思います。
 カモを見つけて騙すシロサギ、色気を使って騙すアカサギ、詐欺師を騙すクロサギ...なんてのもありますね。
 まずは詐欺の事例を見てみましょう。

事例1
Aは持家をBに売ったが、その売買契約はBの詐欺によるものだった。Bの詐欺により、Aは持家を破格で売らされたのだ。


 持家
A → B
 売買
  ↑
Bによる詐欺だった!

 この場合、AはBの詐欺を理由に、この売買契約を取り消すことができます。
 これは誰も何も異論はないでしょう。普通に考えて当然の事ですよね。

善意の第三者と取引の安全性とは

では、次の場合はどうでしょうか。

事例2
Aは持家をBに売った。そして、Bはその家をCに転売した。しかし、AB間の売買契約はBの詐欺によるものだった。なお、CはAB間の売買契約がBの詐欺によるものだったという事情など全く知らず落ち度も無かった。


 持家  持家
A → B → C
 売買  転売
  ↑
Bによる詐欺だった!
Cはこの事情を知らず落ち度もない...

 今度は、AB以外に、Cという登場人物が現れました。
 この場合も、AはBによる詐欺を理由に、AB間の売買契約を取り消すことができます。
 しかし!その取消しは、Cに対抗することはできません。
「対抗できない」とは、どういうことかと言いますと、AはBによる詐欺を理由に、AB間の売買契約を取り消してナシにしようとしても、Cがそれを認めなければナシにはできないのです。
 民法の条文は以下になります。

(詐欺又は強迫)
民法96条抜粋
詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。


 上記、民法96条の善意でかつ過失がない(善意無過失)とは、事情を知らない落ち度のない第三者、という意味です。
 事例2のCがまさに、この善意無過失の第三者となります。
 つまり、CはAB間の詐欺の事情を知らず落ち度も無いので「善意無過失の第三者」という扱いになり、民法の規定により保護されることになるという訳です。※
※民法で使う善意とは、事情を知らないという意味です。
 したがいまして、民法96条の規定により、善意無過失の第三者であるCが、AB間の売買契約の取消しを認めなければ、Aはその契約を取り消すことはできず、泣き寝入りするしかなくなります。
 それはいくらなんでもAが可哀想すぎね?
 確かにそうです。しかし、我らが民法は、それよりも取引の安全性を重視します。ここでCを保護しないと、世の中の取引というものが円滑に行われず、ひいては経済の発展を阻害しかねない、と民法は考えるのです。
 つまり、このケースでは、民法は「取引の安全のためにAには犠牲になってもらおう」と言っているのです。
 もっと言うと、民法は「この世の中は契約社会で基本的には自己責任、だから騙されるAも悪い!」と突き放すのです。
落ち込む
 正直、この結果には、納得できない方が多いでしょう。
 しかし、民法の学習を進めていき、リーガルマインド(民法的思考)がある程度身に付いてくると、納得できるようにもなってきます。
 ですので、ここではとりあえず「民法ではそういうふうになっているんだ」と、無理矢理にでもご理解ください。
 民法は、必ずしも弱者の保護を優先する訳ではないのです。
 
悪意の第三者とは事情を知ってる第三者

 事例2では、事情を知らず落ち度も無い善意無過失の第三者Cに対抗できないAは、泣き寝入りの事態でした。しかし、次の場合には結果が違ってきます。

事例3
Aは持家をBに売った。そして、Bはその家をCに転売した。しかし、AB間の売買契約はBの詐欺によるものだった。なお、CはAB間の売買契約がBの詐欺によるものだったという事情を知っていた。


 持家  持家
A → B → C
 売買  転売
  ↑
Bによる詐欺だった!
Cはこの事情を知っている!

 このケースの場合、第三者のCが認めなくとも、AはBによる詐欺を理由に、AB間の売買契約を取り消すことができます。
 事例2との違いは、AB間の売買契約がBの詐欺によるものだったという事実をCが知っている、という点です。
 事例3では、CはAB間の詐欺の事情を知っているので「悪意(無過失)の第三者」という扱いになります。
 民法96条の規定で保護されるのは、善意(無過失)の第三者(事情を知らない第三者)です。
 したがって、事例3では、悪意の第三者(事情を知っている第三者)であるCは保護されず、Aは無事、AB間の売買契約を取り消すことができるのです。
 なお、民法で使う悪意とは、事情を知っているという意味です。その人に心に悪意があるかないか、という意味ではありません。
 この「事情を知っているか知らないか」という点は、民法的にかなり重要な違いになります。
 民法では、この違いがすべての結果の如何を左右すると言っても過言ではないくらいです。
 ですので、このような民法的な理論構成は、是非とも頭に入れておいてください。

Cは登記を備える必要はないのか
~詐欺における善意(無過失)の第三者の登記の必要性~


 事例2と3は、第三者Cが善意か悪意かで結論が分かれています。
 では、A→B→Cと土地が売却され、その土地の所有権移転登記がBで止まっていた場合に、AB間の土地売買契約がBの詐欺によるもので、Aがその売買契約を取り消そうとするとき、土地の所有権登記をしていなかったCは、保護されるのでしょうか?

 土地  土地
 登記  未登記
A → B → C(善意無過失)
 売却  売却
  ↑
Bによる詐欺
土地はAとC、どちらの手に?

結論は以下です。
「この場合、問われるのはCが善意(無過失)か悪意かであり、登記の有無は関係ない。したがって、Cは登記を備えなくても土地を取得できる」
 これが通説的な見解です。
 つまりCは、善意(無過失)であれば、登記をしていなくても保護されます。
 よって善意無過失のCは、土地を取得することができます。※
※学説は諸説ありますが、当サイトではこれ以上の深入りはしません。
 
詐欺の取消後
そもそも契約を取り消すとどうなるのか


 契約を取り消すと、その契約はゼロに戻ります。
 売買契約を取り消した場合は、売った側は相手にお金を返し、買った側は買った物を相手に返す、という事になります。契約する前の元の状態に戻る(さかのぼる)のです。それはつまり、その契約は無かった事になるのです。
 このように、遡って(さかのぼって)効力を生ずる効果を、遡及効(そきゅうこう)と言います。遡求とは、遡る(さかのぼる)という意味です。
 以上、まとめますと、取消しによる効果は取消しの遡及効により遡って初めから無かった事になる、となります。
 取消しについては、これで大丈夫かと思います。
 それでは、以上の事をふまえて「詐欺の取消後」について、解説して参ります。

取消後に悪意の第三者現る
詐欺 悪意の第三者
 詐欺による取消しは、善意の第三者(事情を知らない第三者)に対抗できません。先述のとおりです。
 ところで、実はこの規定、取り消す前に第三者が現れた場合の話なんです。
 という事は、次のような事例の場合は、一体どうなるのでしょう。

事例4
AはBに土地を売却しその旨の登記をした。しかし、この売買契約はBの詐欺によるもので、Aはこの売買契約を取り消した。その後、Bはその土地を悪意のCに売却しその旨の登記をした。


 土地  土地
 登記  登記
A → B → C
 売却  売却
  ↑   ↑
取消し  有効? 

 上記の事例では、、取消後に第三者のCが現れました。しかも、Cは悪意です。
 悪意とは、事情を知っているという意味です。
 では、この事情を知っている悪意のCは、果たして土地の所有権を取得できるのでしょうか?
 結論。悪意のCは土地の所有権を取得できます。
 え?悪意なのに?
 はい。そもそも取消後においては、第三者の善意・悪意は問われません。

取消後はさっさと登記しろ!

 事例4の場合、民法はこう考えます。
「取消後にAがさっさと登記をしなかったのが悪い」
 つまり、悪意のCよりも、取り消してからボサっとしていたAの方が悪い、と民法は結論付けるのです。
 これは、取引の安全性を重視する民法の考えからでしょう。
 ちなみに、この結論は強迫の場合でも同じです。
 マジで?
 マジです。それだけ民法は、取り消してからボサっとしていたAには厳しいんです。
 ボヤボヤしていたAにも原因があるとはいえ、Aにとってはちょっと酷ですね。
 しかし、基本的に民法は、トロイ奴に冷たい傾向にあります。
 厳しい言い方になるかもしれませんが、これも自立した契約社会においての自己責任という事なのでしょう。

補足
 さて、ここで賢い方は、こんな疑問を抱いたのではないでしょうか。
 取消しの効果は遡及する(さかのぼる)からAが取り消した時点でBからCに土地を売ること自体できないことなんじゃないの?
 そのとおりです。正しい指摘です。
 取り消した時点で契約は遡って(さかのぼって)無かったことになりますから、AB間の売買契約があった上で成り立つBC間の売買契約と権利移動は、本来ありえないんです。
 しかし、民法は「取引の安全性重視だ!」と強引にねじ伏せます。そして裁判官もそれに従います。
 ということなので、ここは敢えて、この指摘はシカトしてください。この強引な理屈を受け入れてください。でないと試験に受かりません(笑)。
 学説は様々あるかと思いますが、当サイトではこれ以上の深い入りはいたしません(ややこしくなってしまいますので)。
. 私も民法に負けず強引にまとめますが、とりあえず民法は「取引の安全性を重視する」こと、そして「トロイ奴に冷たい」ということを、頭に入れておいていただければと存じます。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【強迫の超基本】善意の第三者が現れようが強迫の契約は無効/強迫無効後の第三者問題について

▼この記事でわかること
強迫とは
強迫のケースで善意の第三者が現れると?
無効というゼロはどこまでいってもゼロのまま
強迫による無効後に第三者が現れると?
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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強迫

 まず、民法では「脅迫」ではなく「強迫」という字を使いますので、ご注意ください。(脅迫と書く場合は刑法になります)
 さて、ではまず事例をご覧ください。

事例1
AはBに持家を売った。しかし、そのAB間の売買契約はBの強迫により無理矢理行われたものだった。


 持家
A → B
 売買
  ↑
Bの強迫で行われた!
 
 この事例1で、Aは何ができるでしょうか?詐欺のときと同じように、契約を取り消す事ができるのでしょうか?
 正解は少し違います。正解は、AB間の売買契約は無効になります。
 詐欺のときは、後に契約を取り消すのに対し、強迫による契約は無効になります。(無効と取消しの違いについての詳しい解説は無効と取消しをご覧ください)
 これでは今一つピンと来ませんよね。
 どういう事かと言いますと、まず、詐欺の場合は、取り消すまでは有効で、契約は成立します。しかし、強迫の場合は、そもそも契約そのものが成立しない、という事になります。
 強迫による契約は、取り消すまでもなく、そもそも成立すらしていないのです。
 まずはここをしっかり押さえてください。
 
善意の第三者現る

 次のようなケースではどうなるでしょう?

事例2
AはBに持家を売った。その後、Bはその家をCに転売した。しかし、AB間の売買契約はBの強迫によるものだった。なお、CはAB間の売買契約がBの強迫によるものだったという事情を全く知らなかった。


 持家  持家
A → B → C
 売買  転売
  ↑
Bの強迫で行われた!
Cはこの事情を知らない...

 登場人物がもう一人、Cが現れました。しかも、AB間の売買契約がBの強迫によるものだったという事情を全く知らないCは、善意の第三者というヤツです。
 善意の第三者とは、事情を知らない第三者、という意味です。(善意・悪意の第三者についての詳しい解説は「詐欺の超基本~善意・悪意の第三者?取消後に悪意の第三者出現?」をご覧ください)
 それでAはどうする事ができるの?
 AはAB間の売買契約を、取り消す事ができません。
 善意の第三者(事情を知らない第三者)であるCがいるから?
 違います。もう少し正確にお答えしましょう。
 AはAB間の売買契約を、取り消すまでもありません。なぜなら、そもそもAB間の売買契約は無効で、ハナッから契約そのものが成立していないからです。そもそもゼロのものは、取り消しようがないのです。
 したがいまして、事例2のケースでは、強迫の被害者のAはがっちり保護されます。
 一方、Cは、たとえ善意の第三者であろうと家を手に入れることはできません。つまり、この場合は、Cは善意の第三者であろうと、保護されることはないのです。 

無効というゼロはどこまでいってもゼロのまま
強迫
 事例1も事例2も、AB間の売買契約は無効なので、その契約はハナっからナシなのです。
 たとえ「A→B→C」と不動産が売られ、Cが登記を備えた(その登記をしていた)としても、AB間の売買契約がBの強迫による場合、問答無用でAB間の売買契約は無効になり、その不動産はAの手に戻ります。
 無効な契約は、最初からゼロの状態のままなんです。そして、無効というゼロはどこまでいってもゼロのままなのです。
 詐欺の場合ではやられた側(騙された側)を突き放すような民法も、強迫に関してはやった側を厳しく扱っています。

 まあ、そりゃそうですよね。強迫による契約を認めてしまったら、そもそも世の中の秩序が保たれませんから。それこそ、力がモノを言う北斗の拳のような世界になってしまいます(笑)。
 もし、今現在、強迫によって結ばされた契約でトラブルになっている方がいらっしゃいましたら、そもそも、その契約は成立していませんのでご注意ください。
 しかし、世の中のワルとは、賢い生き物です。これぐらいの民法の規定は、大概知っているでしょう。ですので、強迫というあからさまな手段はとらず、あの手この手を使って、あくまで本人の意思で契約した、という体裁をなんとしても整えるでしょう。そして契約後に、残酷な追い込みをかけるのです。
 皆さん。くれぐれも、特に「優しいワル」には、どうかお気をつけくださいませ。

強迫による無効後に第三者現る

 強迫による契約は、善意の第三者(事情を知らない第三者)がいようが、問答無用で無効です。
 強迫の契約が成立することはありません。
 ところで、実はここまでの話は、契約が無効になる前に第三者が現れた場合のものなんですよね。
 という事は、次のような事例の場合は、一体どうなるのでしょう。

事例3
Aは自己所有の土地をBに売却し所有権移転登記もした。しかし、AB間の売買契約はBの強迫によるもので無効になった。それからAは登記を戻さずその土地をしばらくほったらかしていたが、その間に、Bは悪意の(強迫の事情を知っている)Cにその土地を売却し、Cは登記を備えた(登記をした)。


 土地  土地
 登記   未登記
A → B → 悪意のC
 売却  売却
  ↑   ↑
 無効   無効後 

 この事例のポイントは、強迫によりAB間の売買契約が無効になった後に第三者Cが現れている、という点です。しかも、Cは悪意の第三者です。
 悪意とは、事情を知っている、という意味です。つまり、Cは強迫の事情を知りながら、Bから土地を買ってその登記もした、ということです。
 さて、この事例3で、果たして土地の所有権を取得するのは一体誰でしょうか?
 実は、この事例3で適用する民法は、強迫についての規定ではありません。
 え?どゆこと?
 はい。今からご説明いたします。
 でもまずは結論から先に言います。
 事例3で、土地の所有権を取得するのは悪意のCです。
素材108驚き
 マジで?
 マジです。なぜなら事例3は、強迫による無効によってゼロに戻った後、つまり、リセット後に第三者が現れているからです。リセット後ということは、もはや強迫イベントとは関係ない、別の新たなイベントへ進んでいる、ということです。
 そして、この事例3で適用する民法の条文はこちらになります。

(不動産に関する物件の変動の対抗要件)
民法177条
不動産に関する物件の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律に定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。


 この民法177条の条文には、強迫はもちろん善意・悪意についても何も書かれていません。
 この条文で書かれていることをざっくり言うと「不動産は登記したモン勝ち!」です。
 つまり、もはや強迫云々の話ではなく、単純に登記したモン勝ち!ということになるのです。(これについて詳しい解説は
「不動産の二重譲渡 登記は早い者勝ち?」をご覧ください)
 したがいまして、事例3では、登記を備えた(登記をした)Cが土地の所有権を取得し、Bから登記を戻さずボサっとしていたAは、可哀想ではありますが「泣き寝入りで終了」となります。
 なお、この事例3では、AB間の売買契約が詐欺だろうが強迫だろうが、第三者のCが善意だろうが悪意だろうが、結論は一緒です。つまり、Aには気の毒ですが、ボサッとしていたAが悪いのです。
 なお、この理屈は詐欺の取消後と同じですので、そちらの解説も併せてお読みいただければ、より理解が深まると思います。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【通謀虚偽表示の基本】無効な契約が実体化?利益衡量と民法理解の3つのポイントとは

▼この記事でわかること
通謀虚偽表示とは
時に原則を破る民法?無効な契約の実体化
利益衡量とは
民法を理解しやすくするための3つのポイント
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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通謀虚偽表示とは

 通謀とは、わかりやすく言えば、一緒に悪だくみすることです。
 虚偽表示とは、ウソの意思表示のことです。
 これは事例を見てしまうのが一番手っ取り早いので、まずはこちらををご覧ください。

事例
AとBは通謀して、Aの資産隠しのためにA所有の土地の名義をBに移した。その後、Bはその土地を善意のCに売却した。


 通謀 
A ⇔ B  
 土地  ↓売却
  善意のC
(事情を知らないC)
 
 さて、早速「通謀」という言葉が出てきました。
「AとBは通謀して」とは、AとBはコンビで悪だくみしている、ということです。
 つまり、AとBは共犯者です。
 したがって、この事例の前半は「AとBが共犯してAの資産隠しのためにA所有の土地をウソの取引でB名義に移した」という意味で、AとBの悪だくみの内容になります。
 AとBのこのような(悪だくみ)行為を、通謀虚偽表示と言います。
通謀
 通謀虚偽表示についての、民法の規定はこちらです。

(虚偽表示)
民法94条
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。


 上記、民法94条の「相手方と通じてした虚偽の意思表示」とは、通謀虚偽表示のことです。
 したがいまして、事例のAB間の取引は、通謀虚偽表示にあたり無効になります。
 さて、では冒頭の事例で何が問題になるのかというと、善意の(事情を知らない)Cがどうなるのか?です。
 AB間の取引は、通謀虚偽表示により無効です。そして、無効のものはハナっから成立していません。無効のものはどこまでいってもゼロのままです。(無効についての詳しい解説は「強迫の超基本~契約は無効?善意の第三者は?強迫無効後の第三者?」をご覧ください)
 そうなると、AB間の取引の存在が前提のBからCへの土地の売却も、ゼロのままのはずです。無から有は生じません。
 しかし!民法94条には続きがあります。

(通謀虚偽表示)
民法94条2項
前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。


 事例のCは、上記民法94条2項の善意の第三者に当てはまります。
 結論。AB間の通謀(悪だくみ)という事情を知らない善意の第三者のCは土地を取得できます。Cは登記を備える必要もありません。登記がなくても取得できます。
 AB間の通謀虚偽表示による取引は無効です。しかし、その無効は、善意の第三者であるC相手には通じない(対抗できない)のです。

時に原則を破る民法

 無効のものはハナっから成立しません。
 これは大原則です。
 しかし!通謀虚偽表示の無効は、善意の第三者が現れたときには、その大原則を破り、善意の第三者のために取引が実体化します。
 これは、現実の要請によるところだと思います。
 もし無効の原則に従って、今回の事例の、善意の第三者であるCのような人が土地を取得できないとなると、共犯で悪いことをしたAとBを保護してしまう事になってしまいます。その上、民法が重視する取引の安全性も阻害してしまいます。(取引の安全性についての詳しい解説は「詐欺の超基本~」もご覧ください)
 また、利益衡量の観点からも、かなりバランスの悪い結果になってしまうのです。
バランス崩す
利益衡量

 利益衡量とは、利益をはかりにかける、という意味です。
 民法は、各当事者それぞれの利益を公平にはかりにかけて、それを考慮した上で結論を出します。
 つまり、今回の事例のような事が起こってしまった場合、民法は94条2項により、本来の無効の原則を破ってでも、取引の安全性利益衡量を重視して、善意の第三者を保護することにしたのです。
 ちなみに、今回の事例のCのような、通謀虚偽表示における善意の第三者に、無過失は要求されません。過失があっても(落ち度があっても)保護されます。
 つまり、今回の事例の善意の第三者Cは、自分に多少の落ち度があっても保護されます。それだけ、通謀虚偽表示を行った連中に対して、民法は厳しいということです。※
※念のため補足しておきますが、善意というのはあくまで事情を知らないということで、過失(落ち度・ミス)の有無とは関係ありません。ですので、善意有過失(事情は知らないけど落ち度はある)という状態も存在します。

民法を理解しやすくするための3つのポイント

 今回の結果に?マークが付いてしまった方、いらっしゃるかもしれません。真面目な方ほど?マークが付いてしまうかもしれません。
 民法を考えるときは、まず「原則」からです。
 しかし、時に民法はその原則を破ります。それは「例外とはまた違う形で」です。
 ですので、今回出てきた民法94条2項も、半ば強引にでも理解してください。学習を進めていけば、不思議と、やがて腑に落ちるようになりますので。
詐欺の超基本~」の解説で、民法は「取引の安全性を重視する」「トロイ奴に冷たい」という特徴があると記しました。今回はこれに「利益衡量」を加えます。これらを意識すると、ときに納得しづらい民法の理屈が頭に入り易くなるでしょう。
 民法の特徴を、以下に簡単にまとめます。

取引の安全性を重視する
トロイ奴に冷たい
利益衡量


 上記の事が感覚的に掴めた時、すでにある程度のリーガルマインドが身についていると言えます。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【善意&悪意の転得者】絶対的構成と相対的構成とは?転得者の所有権取得問題をわかりやすく解説

▼この記事でわかること
転得者とは
第三者が悪意だった場合どうなる?
転得者が悪意だった場合どうなる?
▽転得者の問題をより理解するために
絶対的構成とは
相対的構成とは
一番に保護されるべきは善意の第三者
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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転得者

 転得者とは、大まかに言うと「第四の登場人物」みたいな立場の者です。(正確には違いますがまずはイメージとして)
 これは事例を見るのが一番手っ取り早いので、まずはこちらをご覧ください。

事例1
AとBは通謀して、Aの資産隠しのために、A所有の甲土地をB名義に移した。その後、Bは善意のCに甲土地を売却し、Cは登記を備えた。その後、Cは善意のDに甲土地を売却し、Dは登記を備えた。その後、AはAB間の取引は虚偽表示により無効なので、甲土地の所有権を主張した。


 この事例1では、第三者のCに加え、Dという人物が現れました。
 このDに位置する者を、転得者と呼びます。ざっくり「第三者の後に現れる者を転得者」とイメージしてしまってOKです。
 そしてDは、AB間の通謀という事情を知らないので、善意の転得者となります(善意とは「事情を知らない」の意味)。
 さて、以上を踏まえた上で、この事例1が、一体どんな話かを噛み砕いて言うと、こうです。

 AとBがコンビで悪だくみ(通謀)して、Aの資産隠しのために、A所有の甲土地の名義をBに移した(AからBへニセの所有権移転登記)。その後、ABコンビの悪だくみ(通謀)を知らないC(善意の第三者)が、Bから甲土地を買ってその登記もした(BからCへ所有権移転登記)。そこからさらに、同じくABコンビの悪だくみ(通謀)を知らないD(善意の転得者)が、Cから甲土地を買ってその登記もした(CからDへ所有権移転登記)。その後、Aが「AB間の取引はニセモノなので無効だ!だから甲土地の所有権は私のモノだ」と主張した。

  登記  登記  登記
A → B → C → D
          甲土地
A ⇔ B → C → D
  通謀  売却  売却
  ↑
A「無効だから甲土地は私の物だ!」

 少々ややこしいかもしれませんが、おわかりになりましたかね?
 さて、ではこの事例1で、甲土地の所有権を取得するのは誰でしょうか?
 正解はDです。
 AB間の取引は通謀虚偽表示です。そして、通謀虚偽表示による無効は、民法94条2項の規定により善意の第三者には対抗できません。(これについての詳しい解説は「通謀虚偽表示~」をご覧ください)
 したがいまして、善意の第三者であるCから甲土地を取得した善意の転得者であるDは、当然に甲土地の所有権を取得します。
 まあそもそも、自らニセの取引をやったA自身が「あれはニセの取引だから無効だ!」と主張すること自体が、オカシイと言えばオカシイですが。ワガママか!て感じです(笑)。

第三者が悪意だった場合
悪意
 さて、ここからが、転得者についての本格的な問題です。
 次のような場合、どうなるでしょうか?

事例2
AとBは通謀して、Aの資産隠しのために、A所有の甲土地をB名義に移した。その後、Bは悪意のCに甲土地を売却し、Cは登記を備えた。その後、Cは善意のDに甲土地を売却し、Dは登記を備えた。その後、AはAB間の取引は虚偽表示により無効なので、甲土地の所有権を主張した。


 事例1との違いは、Cが悪意の第三者である、ということです。
 しかし、Dは善意の転得者です。
 
  登記   登記     登記
A → B → C(悪意) → D(善意)
              甲土地
A ⇔ B → C(悪意) → D(善意)
  通謀   売却     売却

Cは悪意の第三者...
誰が甲土地の所有権を取得できる?   
 
 Aが甲土地を取得できないのは先述のとおりです。
 では、この事例2で、一体誰が甲土地の所有権を取得できるのか?
 結論。甲土地の所有権を取得するのはDです。
 え?悪意のCから買ったのに?
 はい。その理論構成は、利益衡量の観点から見るとわかりやすいので、それを今から解説いたします。

Aはワルの片割れ

 まず事例2で、BとCに対する関係では、Aが甲土地の所有権を主張できます。なぜなら、Cは善意の第三者でなく悪意の第三者だからです。
 マトモに考えると、自らニセの取引をやったA自身が「あれはニセの取引だから無効だ!」と主張することはオカシな話なんですが、事例2のCは、そのニセの取引の事情を知っている悪意の第三者です。たまたま事情を知っちゃっただけだったとしても、民法的には悪意は悪意。不本意でも、客観的に見ればCも同じ穴のムジナみたいなもの。なのでここでは、Aは所有権の主張ができるのです。
 そうなると、この事例2における、甲土地の所有権をめぐる争いの構図はこうなりますよね。

A vs D

 では改めて、AとDについて利益衡量の観点から考えてみます。(両者を測りにかけて比べてみて考えるという事)
 まずAは、Bと通謀虚偽表示をした共犯者です。つまり、ワルの片割れです。
 一方、Dは善意の転得者です。何も悪くありません。
 民法はこの場合、ワルの片割れのAには「帰責性あり」と考えます。
 帰責性とは「責任を負うかどうか」です。
 つまり、帰責性ありとは、責任を負わなければならない、という事です。
 以上を踏まえると、このようになります。

ワルの片割れの責任を負うA vs
      何も悪くない善意の転得者D


 この闘いに、民法はジャッジを下すことになるのです。
 すると、おのずと結果は見えてきますよね。
 何にも悪くない善意の転得者Dに対して、帰責性ありワルの片割れAを勝たせてしまったら、実にバランスの悪い結果になってしまいます。
 よって、勝者はDになるのです。
 なお、事例2では、善意の転得者Dを、民法94条2項の善意の第三者として扱います。

転得者が悪意だった場合
転得者
 ここからさらに、転得者の問題について深掘りしていきます。
 まずはこちらの事例をご覧ください。

事例3
AとBは通謀して、Aの資産隠しのために、A所有の甲土地をB名義に移した。その後、Bは悪意のCに甲土地を売却し、Cは登記を備えた。その後、Cは悪意のDに甲土地を売却し、Dは登記を備えた。その後、AはAB間の取引は虚偽表示により無効なので、甲土地の所有権を主張した


 今度は、CとD共に悪意です。つまり、第三者も転得者も悪意です。

  登記   登記     登記
A → B → C(悪意) → D(悪意)
              甲土地
A ⇔ B → C(悪意) → D(悪意)
  通謀   売却     売却

 まるで悪意だらけでアウトレイジのような世界ですね(笑)。といってもその悪意とは意味が違うのでホントは全然アウトレイジじゃないですが...(民法で言う悪意とは「事情を知っている」の意味)。
 失礼しました。
 さて、この事例3で、甲土地の所有権を取得できるのは誰でしょうか?
 正解はAです。
 これは簡単ですよね。「悪意の第三者→悪意の転得者」という流れですから、当然、CとDは保護されません。
 では続いて、次の場合はどうでしょうか。

事例4
AとBは通謀して、Aの資産隠しのために、A所有の甲土地をB名義に移した。その後、Bは善意のCに甲土地を売却し、Cは登記を備えた。その後、Cは悪意のDに甲土地を売却しDは登記を備えた。その後、AはAB間の取引は虚偽表示により無効なので甲土地の所有権を主張した。


 この事例4では、転得者Dは悪意です。しかし、第三者Cは善意です。
 つまり「善意の第三者→悪意の転得者」という流れです。

  登記   登記     登記
A → B → C(善意) → D(悪意)
              甲土地
A ⇔ B → C(善意) → D(悪意)
  通謀   売却     売却

 では、この事例2で、甲土地の所有権を取得できるのは誰でしょうか?
 結論。甲土地の所有権を取得するのはDです。
 悪意なのに?マジで?
 マジです。ではここから、この結論へ至るための論理を解説します。
 実はこの事例2には、2つの考え方があります。

絶対的構成と相対的構成

絶対的構成とは

 まず一旦、転得者Dの存在を抜きにして考えてみましょう。
 転得者を抜きに考えると話は簡単です。そのときは、フツーに善意の第三者であるCが、甲土地の所有権を取得します。当たり前ですよね。
 ではここに、転得者Dを加えてみましょう。善意の第三者であるCは、当然に甲土地の所有権を取得します。そして、そこに悪意の転得者Dが現れます。しかし、転得者Dが悪意といっても、Cに対しては善意も悪意もありませんよね?
 よって、悪意の転得者Dは、甲土地の所有権を取得します。
 こう考えるとわかりやすいですよね。
 このように、悪意の転得者Dでも甲土地の所有権を取得するという考え方を、絶対的構成と言います。
 絶対的構成の「絶対」とは、人によって変わらない、という意味です。
 つまり、絶対的構成とは「第三者が善意なら転得者が善意だろうが悪意だろうが結果は変わらない」という考え方です。一旦、善意の第三者をかましてしまえば後はOK!ということです。

相対的構成とは

 一方、相対的構成という考え方もあります。
 相対的構成の「相対」とは、人によって変わる、という意味です。
 ということは、事例2を相対的構成で考えると、悪意の転得者Dは甲土地の所有権を取得できません。
 この考え方では、善意の第三者のことを「ワラ人形」と言います。
 つまり、相対的構成では「ワラ人形(善意の第三者)をかまして悪意の転得者をのさばらせるなんぞ言語道断許すまじき!」となるのです。

で、結論は?

 通説的な結論は、絶対的構成に従います。
 よって事例4では、悪意の転得者Dが甲土地の所有権を取得します。
 それって悪意の転得者をのさばらせることになるんじゃね...?
 はい。そのとおりです。しかし、通説が絶対的構成を選ぶのは、それなりの理由があるのです。

善意の第三者の存在

 実は、悪意の転得者Dが甲土地を取得できないとなると、非常に困ってしまう者がD以外に存在します。
 それは、善意の第三者Cです。
 どういう事かと言いますと、Dが甲土地を取得できないとなると、CD間の売買契約は解除になり、DはCに甲土地を返還しなければなりません。すると、CもDに甲土地の売買代金を返還しなくてはなりません。(たとえDが悪意でも、善意のCは契約の解除により、Dに売買代金を返還しなければなりません)

  登記   登記     登記
A → B → C(善意) → D(悪意)
              甲土地
A ⇔ B → C(善意) → D(悪意)
  通謀   売却     売却
            ↑
           解除
    甲土地を返還 C←D
    代金を返還    C→D

 何も悪くない善意の第三者Cが、せっかく甲土地を売ってお金を手に入れたのに、です。それって、Cにしてみれば不本意ですよね。善意のCには、何の帰責性(負うべき責任)もないのにです。むしろ帰責性で言えば、C以外の全員には大なり小なりありますよね。
 これは利益衡量の観点から、悪意の転得者Dをのさばらせるよりも問題だと、民法は考えます。
 ちなみに、CはBに対して代金の返還請求をすることもできますが、もしBが無資力(お金がない)ならアウトです。Bからはお金は返ってきません。「無い袖は振れない」というヤツです。

代金返せ!
B ← C
  ↑
Bが無資力なら意味なし..

 どうでしょうか。通説が、悪意の転得者Dを勝たせる「絶対的構成」の立場をとる理由が、おわかりになっていただけたのではないでしょうか。
 結局のところ、通説が絶対的構成をとる理由は、善意の第三者の保護なのです。

補足

 実は、悪意の転得者Dを勝たせることによって善意の第三者Cを保護するのには、こんな事情もあります。
 もし悪意の転得者Dが善意の第三者Cから土地を取得できないとなると、善意の第三者Cが甲土地を売りづらくなってしまうのです。
 例えば、ネットなんかで、AB間の通謀虚偽表示の事実が広まってしまったらどうなるでしょう?
 ネットでそれを見た人は、みんな悪意になってしまいます。すると、必然的に善意の第三者Cは、甲土地の売却が非常に難しくなってしまいます。
 これはどう考えても、善意の第三者にとって、あまりにも不公平ですよね。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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【取得時効】5つの成立要件/短期取得時効とは/様々な事例/賃借権が時効取得できる可能性
【二種類の占有】その基本と瑕疵の引継ぎとは/原始取得とは/占有回収&保全の訴えとは
【消滅時効の基本】権利行使をできる時&知った時/様々な債権とその時効起算点(数え始め)
【時効の更新と完成猶予】その事由(原因)/消滅時効の進行を止める方法/除斥期間とは
【時効の援用と利益の放棄】援用ができる当事者と時効更新の相対効について(保証債務)
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【取得時効】5つの成立要件/短期取得時効とは/様々な事例/賃借権が時効取得できる可能性

▼この記事でわかること
取得時効とは
時効制度の意味
取得時効成立のための5つの要件20年間の占有自主占有等)
「自分の物」の時効取得は可能か?ドロボーは占有?
短期取得時効について
時効取得の様々な事例
▽所有権以外の財産権の時効取得
賃借権が時効取得できる可能性?
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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取得時効

 取得時効とは、時効によって取得する制度です。
 例えば、Aさんが甲土地、Bさんが乙土地を耕していて、甲土地と乙土地が隣接地(隣同士)だったとします。ある日、Aさんがズルをして土地の境界線をズラし、Bさんの乙土地にまでAさんの畑を広げて、さも自分の土地のように、乙土地の一部をAさんが使い続けます。それに対してBさんが何も文句を言わずに、または気づかずに20年間経過すると、Aさんはズルをして広げて使った部分の乙土地を取得します。

Aはズルして広げて使ってた部分を時効により取得!

 つまり、Aさんはズルをして、境界線を超えて侵した部分の乙土地の所有権を、一定の要件を満たせば取得時効の制度により取得するのです。
 ズルしてたのにマジで!?という感じですが、マジでこれが取得時効という制度です。
 コラムは飛ばす


ちょっとコラム
~時効制度の意味~


 実は、時効制度の決定的な意味、その存在理由は、ズバッとハッキリとこれだ!というものはないと言われています。
 え?そうなの?
 はい。そうなのです。なので、たとえ道徳的に考えて納得できなくても、これは理屈ではなく「そうなっているんだ」と強引に頭にぶち込んでしまってください。
 ただ、よく言われることとしては、次のようなものがあります。
 冒頭に挙げた、越境して隣人の土地を侵して使用していたヤツの例で言えば
「何も文句を言わなかった方が悪い」
という理屈も成り立ちます。
 つまり、ズルして土地の境界線を超えて乙土地を侵して使っていたAに対して
「何も文句を言わなかったBも悪い」
または「気づかなかったBも悪い」
ということです。
 これを「権利の上に眠る者は保護に値しない」と言ったりします。
 つまり「文句を言う権利があるのにその権利を行使しなかったヤツ自身の責任だ!」となるのです。
悔しい
 ただ、この理屈だと「借金を踏み倒すために文句を言う暇もなく逃げ続けるヤツ」も肯定してしまうことになってしまいます。
 他にも「長い年月が経ってから権利関係を立証するのは難しいから」という理屈もありますが、長い年月が経過しても明確な証拠があってしっかりと立証できる場合はどうなんだ?という反論も成り立ちます。
 ということなので、考えれば考えるほどドツボにハマっていきます。
 ですので、繰り返しますが、これは理屈云々ではなく強引に「そうなっているんだ」と覚えてしまってください。
 う~ん、でも...
 あと付け加えるなら、おそらく時効という制度の存在理由は、実務的な意味も大きいのではないかと思います。
 あまりに昔の事を持ち出されて訴訟だなんだと騒がれても、裁判所も困ってしまいますよね。
 ましてや裁判というのは時間がかかります。
 そんな案件がどんどん出てきてしまうと、裁判所がごった返してしまいます。
 それは法的安定性を阻害することにもなります。
 したがって、一律に〇〇年で時効!それで文句言いっこナシ!としているのではないかと考えられます。


 さて、話を戻しますね。
 この取得時効についての民法の条文はこちらです。

(所有権の取得時効)
民法162条
二十年間所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。


 この民法の条文の中に、時効取得するための要件が5つ記されています。

・20年間
・自主占有(所有の意思を持って占有すること)
・平穏
・公然
・他人の物の占有

 これらの要件を満たしたときに、取得時効が成立します。
 なお、占有とは、自分の物だと思って物を事実上支配する状態のことです。我が物顔で所有(使用)する、みたいなイメージですね。
 以上を踏まえた上で、最初に挙げた例に当てはめると、Aが20年間所有の意思を持って平穏・公然B所有の乙土地を占有(他人の物の占有)すれば、取得時効が成立し、Aは乙土地の所有権を取得するということです。

Aは
・20年間
・所有の意思を持って
・平穏に
・公然に
・「ズルして広げた使ってた部分」=「B所有の乙土地」を占有(他人の物の占有)すれば
取得時効が成立し、Aは乙土地(ズルして広げた使ってた部分)の所有権を取得することができる、という訳です。
 さて、ではここから、上記の5つの要件について具体的に解説して参ります。

取得時効成立のための5つの要件

20年間の占有

 20年間というのは、継続した20年間です。
 もし20年間の途中で、一日でも占有が途切れていたらアウトです。取得時効は成立しません。
 ちなみに、誰かに賃貸したとしても、占有は継続します。(つまり賃貸はセーフ)
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(代理占有)
民法181条
占有権は、代理人によって取得することができる。


 上記、民法181条の規定により、冒頭に挙げた例で、Aが越境して占有した乙土地をCに賃貸しても、Aの占有は継続します。(間接的な占有)

Cに貸していたとしてもAの占有は継続する!

 占有の継続はどうやって証明するの?
 占有の継続については、民法186条2項で規定されています。

民法186条2項
前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。


 これは、つまり「占有を開始した時の占有」と「現在の占有」を証明すれば、その間の期間の占有は、法律的に推定されるのです。
 法律的に推定されるとは、法律が「まあええんちゃう?」と認めてくれるということです。

占有開始時 → 途中期間 → 現在
  ↑      ↑     ↑
 証明    ええんちゃう? 証明

 なので、例えば、20年間継続して占有し続けたことを証明するために、20年間欠かさず日記をつけて証明しなければならない、なんてことはないのです。
 ただ、これはあくまで「推定」であり「みなす」ではありません。※
 ですので、最初に挙げた例で、Bが「Aの占有が途中で途切れたこと」を証明できれば、Aの時効取得を阻止できます。
 逆に言えば、Bが「Aの占有が途中で途切れたこと」を証明できない限り、Aは勝ちます。
※「推定」は、後で結果をひっくり返せる可能性があります。「みなす」は、後で結果をひっくり返すことができません。
 したがって、Bが「Aの占有が途中で途切れたこと」を証明できなければ、Aの継続した20年間の占有は確定しますので、裁判の現場ではAが断然有利でしょう。

自主占有

 自主占有とは「所有の意思」を持った占有です。
 所有の意思を持った占有とは「オイラのモノだ!」という意思で占有することです。
 所有の意思の有無の判断は、個人の主観ではなく権原の性質により客観的に行われます。
 どういうことかと言いますと、例えば、Aさんがマンションの一室を借りたとします(不動産賃貸借)。この場合の「権原」は賃借権(借りて使う権利)になります。所有権ではありません。そして、賃借権による占有は「他主占有」になります。ということは、Aさんはあくまでマンションの一室を借りて住んでいるだけで「オイラのモノだ!」という意思で占有している訳ではありませんよね?
 したがいまして、Aさんがマンションの一室を借りて20年間占有し続けても、Aさんの所有物にはなりません。
素材102マンション
 繰り返しますが、Aさんが借りたマンションの一室に対して持つ権利の「権原の性質」は賃借権(借りて使う権利)で、賃借権による占有は自主占有ではなく他主占有になります。
 なので、いくらAさんがそのマンションの一室を20年間占有し続けたとしても、そのマンションの一室の所有権を取得することはありません。
 ちなみに、こんな場合はどうでしょう。
 もしAさんが、借りた家を自分の家だと勘違いして20年間住み続けたら?
 結論。それもダメです。なぜなら「所有の意思」は客観的に判断されるからです。

平穏と公然

 この2点は試験等ではほとんど問われないと思います。
 一応、簡単に解説しておきますと、無理矢理に奪った訳ではなく(平穏)、コソコソとせず堂々(公然)と占有すればOK!ということです。
 ここはさらっと流して深く考えないでください(笑)。

他人の物の占有

 これは簡単ですね。読んで字の如く、他人の物を占有することです。

補足1
 取得時効成立のための要件の一つとして「他人の物の占有」とありますが「自分の物」の時効取得は可能なのでしょうか?
 自分の物を時効取得、といってもピンと来ませんよね。
 例えばこうです。AがBから甲不動産を買って占有を始め、その後、長期間経過してから、AB間の甲不動産の売買の効力が争われたようなケースです。
 この場合、Aは買主としての地位を主張する訳ですから、甲不動産はAにとってあくまで自分の物です。
 結論。自分の物の時効取得は可能です。
 今挙げた例だと、Aは甲不動産を時効取得できます。これは判例により、このような結論が下されています。
 なぜ、判例がこのような結論かというと、例えば、甲不動産の買主のAが、長い年月の経過により売買契約書などを紛失していたらどうでしょう?そのような売買の立証が困難な場合に、買主Aのような人間を救済するために、裁判所の判断でこのような結論になっているのです。

補足2
泥棒
 実はドロボーの占有は自主占有になります。
 マジで?
 マジです。なぜなら、ドロボーは「誰かのために占有している」訳ではありません。
 一方、賃借権(借りて使う権利)の場合は、あくまで「誰かのために占有している」ことになるので、他主占有なのです。この点はご注意ください。

短期取得時効

 取得時効の成立のためには、20年間の占有が必要です。(民法162条)
 しかし!実は20年という期間を経ずに、時効取得できるケースもあります。
 それは一体どんなケースなのか?まずは事例をご覧ください。

事例1
農家Aは甲土地を、農家Bは乙土地を耕していて、甲土地と乙土地は隣接地だった。Aは善意にかつ過失なく土地の境界線を超えて、自分の畑を乙土地にまで広げて10年間耕し続けた。


 さて、この事例1で、Aは境界線を超えて耕し続けた乙土地を時効取得できるでしょうか?
 結論。Aは境界線を超えて耕し続けた乙土地を時効取得します。
 え?占有期間が足りなくね?
 そんなことはないのです。なぜなら、Aは善意(それとは知らず)・無過失(落ち度が無い)だからです。
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(所有権の取得時効)
民法162条2項
十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。


 そうなんです。なんと、この民法162条2項により、占有開始の時に善意・無過失であれば、10年間の占有で時効取得できてしまいます。
 つまり、善意(それとは知らず)・無過失(落ち度がない)の占有であれば、20年間もいらないのです。
 これが短期取得時効です。
 したがいまして、善意・無過失で境界線を超えて、B所有の乙土地を10年間耕し続けた(占有し続けた)Aは、乙土地を時効取得します。
 ただ、無過失(落ち度が無いこと)の立証はA自身で行わなければなりません。その点だけはAが頑張らなくてはならない部分です。
 逆にBは、Aが無過失を立証できなければ、越境された乙土地を10年間で時効取得される、という事態を防ぐことができます。
 なお、念のため申し上げておきますが、Aがさらに10年間、つまり20年間乙土地を耕し続けたら、Aの善意悪意・過失の有無に関わらず、Aは乙土地を時効取得します(通常の取得時効)。その場合は、Bが裁判を起こしてAの過失(落ち度)を立証しても、Aに「時効を援用します(時効の権利の行使)」と言われればアウトです。

 では続いて、次のようなケースはどうでしょう?

事例2
売主Aは買主Bに甲土地を売り渡した。その後、Bは甲土地をCに転売した。その後、AはAB間の甲土地の売買契約の錯誤無効※を主張し、Cに対し甲土地の返還を求めた。

※錯誤についての詳しい解説は「錯誤の超基本~」をご覧ください。

 あれ?時効のハナシ出てきてなくね?
 はい。これはまだフリなのです(笑)。すぐに出てきますので少々お待ちください。
 さて、この事例2のCは、Aからの甲土地の返還の求めに応じなければならないのでしょうか?

  売却  売却       
 A → B → C
   ↑    
 錯誤無効 甲土地を返せ!
       A主張


 もし甲土地の売買契約の錯誤無効が認められれば、AB間の売買契約は初めから無かったことになるので、AB間の売買契約の存在が前提に成り立っているBC間の売買契約も、無効のものとなってしまいます。すると、甲土地に住むCは、ただの不法占拠者となってしまいます。
 このように考えていくと、Cはもはや、Aに甲土地を返還するほかないですよね。
 しかし!Cにはまだ奥の手が残されています。
 そう、それが取得時効です。

 Cが善意・無過失なら10年間の占有で甲土地を時効取得することができます。
 その際に、もしAが裁判を起こし、錯誤無効を主張して甲土地の返還を求めてきても「時効を援用します(時効の権利の行使)」とCが言えば、Cの勝ちです。Cは甲土地を返還する必要はなく、甲土地はCの物です。
 さらに、この事例2では、事例1のケースよりも占有者にとって有利な力が働きます。
 というのは、事例1のケースでは、占有者は善意・無過失とはいえ、越境行為によって土地を占有しているのに対し、事例2の場合、占有者(Cのこと)は取引行為によって土地を手に入れております。取引行為の場合は、民法188条「占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する」により、占有者の無過失の推定が働きます。無過失の推定が働くとは、法律的に勝手に「それって無過失なんちゃう?)」と認めてくれるということです。
 つまり、事例1とは違い、占有者のCは、無過失の立証を自らで行う必要がありません。(自分から無過失を証明しなくてOKということ)
 これはCとしてはかなり助かりますよね。
 逆にAは、Cの過失を立証できなければ甲土地を返してもらうことができません。(Aの方からCの過失を証明できないとダメ!ということ)

時効取得の様々な事例

 ここからは、時効取得の様々な事例をご紹介するとともに、その解説をして参ります。

事例3
売主Aは買主Bに甲不動産を売り渡した。しかし、売主AはCにも甲不動産を二重譲渡し、Cは登記をした。その後、Bは甲不動産を占有し続けた。


 この事例3は、不動産の二重譲渡のケースです。
 さて、不動産の所有権争いは登記したモン勝ちです。(不動産の二重譲渡についての詳しい解説は「【不動産登記の基本】二重譲渡~登記は早い者勝ち」をご覧ください)。
 したがって、通常の二重譲渡のケースとして考えればCの勝ちですが、この事例3では、Cが登記した甲不動産をBが占有し続けています。
 という訳で、ここからが本題です。Bはこのまま占有し続ければ、甲不動産を時効取得できるでしょうか?
 結論。Bは甲不動産を時効取得できます。
 なお、Bが甲不動産を時効取得すると、Cは初めから甲不動産の所有者ではなかったことになります。つまり、Bが元から甲不動産の所有者だったことになります。

時効へのカウントはどこから開始するのか?時効期間の起算点
 Bが甲不動産の占有を開始した時です。

事例4
売主Aは買主Bに甲土地を売り渡した。甲土地は農地で、Bは農地以外への転用目的で甲土地を購入したのだったが、農地法5条の許可申請を行なっていなかった。

畑
 いきなり農地法5条といっても、ピンと来ませんよね。
 農地を農地以外で利用すること、つまり、農地の利用目的を変更することを農地転用と言いますが、農地転用を行う際には農地法4条の許可(届出)が必要になります。
 農地の所有者を変更する際には、農地法3条の許可(届出)が必要になります。
 所有者と利用目的の両方を変更する場合には、農地法5条の許可(届出)が必要になります。(この辺りの知識は宅建試験において「法令上の制限」分野で必須になります)
 俗に3条許可とか5条許可とか言ったりします。
 話を戻します。
 では、この事例4で、買主Bは甲土地を時効取得できるでしょうか?
 結論。Bは甲土地を時効取得できます。甲土地の引渡しを受けた時からBの自主占有が開始した、と判断されます。

事例5
Aは、長期間、公共の目的に供用されることなく放ったらかされた公共用の不動産を占有し続けた。


 さて、この事例5のAは、占有し続けた公共用の不動産を時効取得できるでしょうか?
 結論。なんとAは、占有し続けた公共用の不動産を時効取得できます。
 これはちょっとビックリですよね。これは判例で「公の目的が害されず、その物を公共用財産として維持すべき理由がなくなったときは、黙示の公用の廃止があったものとして」時効取得できるとしています。
 理屈はともかく、判例でそのような結論になっているということだけでも覚えておいていただければと存じます。(この辺りの知識は行政書士試験や公務員試験の「行政法」分野で求められます)

事例6
AはBの所有地になんの権利もなく自己所有の樹木を植栽し、そのまま所有の意思を持って平穏・公然と20年間占有した。


 さて、今度は少し変わった事例ですが、この場合にAは立木(植栽した樹木)の所有権を時効取得できるでしょうか?
 結論。Aは立木の所有権を時効取得できます。
 このケースは、参考までに頭の片隅にでも入れておいていただければ結構です。

所有権以外の財産権の時効取得
賃借権も時効取得できる可能性あり?

 ここまで解説してきました取得時効は、すべて所有権の時効取得についてのものでした。
 それでは、所有権以外の権利、賃借権は時効取得できるのでしょうか?
 あれ?賃借権は時効取得できないんじゃ?
 はい。そのとおりです。
 しかし!なんと賃借権が時効取得できる可能性があるのです。
 まずは、所有権以外の財産権の取得時効についての民法の条文をご覧ください。

(所有権以外の財産権の取得時効)
民法163条
所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。


 上記、民法163条により、所有権以外の財産権も時効取得できる旨が規定されています。
 では「所有権以外の財産権」には一体どんなものがあるのでしょう?

・債権
・占有権
・用益物権(地役権、地上権、永小作権、入会権など)
・担保物権(抵当権、留置権、質権、先取特権)
・知的財産権(特許権、実用新案権、著作権など)
・身分権

 これらは「所有権以外の財産権」になります。
 あれ?賃借権なくね?
 そんなことはありません。賃借権は債権の一種です。
 それでは民法163条により、賃借権は時効取得できるのでしょうか?
考え中
 まず、その問いに答える前に、申し上げておかなければならないことがあります。
 それは、占有を伴わない財産権は時効取得できないということです。
 そりゃそうですよね。時効取得するためには10年間ないし20年間の占有が必要ですから。
 となると賃借権は?
 まず、債権は取得時効の対象にはなりません。
 じゃあ債権の一種の賃借権もダメなんじゃ...
 ところが、判例では、なんと債権の中でも不動産賃借権時効取得でき得るとしています。
 不動産賃借権とは、我々が不動産賃貸借契約を結んで不動産を借りたときに取得する権利です。
 学生がアパートの一室を借りて住んでいたら、その学生はその借りて住んでいるアパートの一室の賃借権という権利を持っています。これが不動産賃借権です。
 実は、不動産賃借権は民法や借地借家法で「対抗力のある物権」のように扱われます。
 つまり、不動産賃借権は、ほぼ物権なのです。
 そして不動産賃借権は、賃借している不動産の占有を伴っています。
 したがいまして、判例は不動産賃借権は時効取得し得るとしているのです。
 という訳で、ここまで引っ張ってきましたが、不動産賃借権は時効取得できる可能性あり!ということです。

不動産賃貸借以外に時効取得できる財産権

 不動産賃借権の他にも、所有権以外で時効取得できる財産権はあります。
 それは、用益物権のうちの地役権・地上権・永小作権です。
 それ以外には、担保物権のうちの質権、知的財産権のうちの著作権は、取得時効成立の余地があると考えられています。(著作権の占有?という感じもしますが...ここは流してください)
 以上、補足で記したことは、予備知識としてなんとなく頭の片隅の片隅にでも入れておいて頂ければで結構です。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【二種類の占有】その基本と瑕疵の引継ぎとは/原始取得とは/占有回収&保全の訴えとは

▼この記事でわかること
二種類の占有とは
前の占有者から引き継ぐのは瑕疵だけではない
瑕疵(過失や悪意)の有無の判定は占有開始時
時効による所有権取得は原始取得って?
▽占有を奪われたとき
占有回収の訴え/占有保全の訴えとは
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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二種類の占有

 時効によって所有権などを取得するには、一定期間途切れることなく継続した占有が必須です。(取得時効)  
 占有とは、自分の物だと思って物を事実上支配する状態のことです。我が物顔で所有(使用)する、みたいなイメージですね。
 さて、この占有ですが、以下の2種類のパターンが存在します。

・自分だけの占有
・前主から引き継いだ占有

 
 このような2種類の占有を、占有の二面性と言います。
 それでは、この2種類の占有について、事例と共に具体的に解説して参ります。

事例1
Aは甲土地を9年間、悪意の占有を続けた。その後、Aは甲土地を善意・無過失のBに引き渡し、Bはそれから1年間、甲土地の占有を続けた。


 A   引渡し  B
甲土地   →  甲土地
占有9年     占有1年
悪意       善意無過失

 短期取得時効により、善意無過失であれば10年間の占有で取得時効が成立します。(民法162条2項)
 ということは、この事例1で、Bは甲土地を時効取得できるのでしょうか?
 結論の前にまず、占有には二種類のパターンがあることを思い出してください。
 そうです。この事例1が、まさに占有の二面性を示す典型のケースなのです。
 そして、その占有の二面性に基づいて、Bは2つの主張ができます。
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(占有の承継)
民法187条
占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。


 この民法187条に基づき、なんとBは、自分自身の選択で「自己の占有のみを主張」と「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」の、どちらかを選んで主張することができます。

・自己の占有のみを主張した場合
 これは簡単ですよね。事例1のBが、B自身の占有のみを主張することです。
 この場合、B自身の甲土地の占有期間はたった1年間なので、短期取得時効は成立せず、Bは甲土地を時効取得することはできません。

・前の占有者と併せて主張
 これは、事例1のBが、Aの占有と併せて占有を主張することです。
 どういう事かと言いますと、Bの前に甲土地を占有していたのはAで、Aの占有期間は9年間ですよね。そして、Bが次の占有者になり、甲土地を1年間占有した、、、そこで、なんとBは、
「前の占有者であるAの占有期間の9年間」と
B自身の占有期間の1年間」を足して
「9+1=10年間の占有期間」を主張できるのです。
 事例1のBは、善意・無過失です。ですので、Aの占有と併せて「9+1=10年間の占有」ということで、めでたく甲土地を時効取得できます!と言いたいところですが、そうはイカンのです。
 先述の民法187条には続きがあり、次のようなことが規定されています。

民法187条2項
前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。


 この民法187条2項のポイントは「その瑕疵をも承継する」という部分です。
 瑕疵とは、欠陥のことです。欠陥には悪意・有過失も含まれます。
 ということはどうなるのか?
 前の占有者の占有と併せて主張するときは、前の占有者の悪意・有過失をも引き継いでしまう、ということです。
 つまり、事例1の善意・無過失のBが、Aの占有と併せて9+1=10年間の占有を主張しても、Aの悪意・有過失をBが引き継いでしまうことになるので、その結果、10年間の短期取得時効は成立しなくなってしまいます。
 ということで結局、事例1のBは、Aの占有と併せて主張しようが、B自身の占有のみを主張しようが、甲土地を時効取得することは無理、ということになります。
 したがいまして、事例1のBは、甲土地を時効取得することはできません。

 では続いて、次の場合はどうでしょう?

事例2
Aは甲土地を9年間、悪意の占有を続けた。その後、Aは甲土地を善意・無過失のBに引き渡し、Bはそれから10年間、甲土地の占有を続けた。


 A   引渡し  B
甲土地   →  甲土地
占有9年     占有10年
悪意       善意無過失

 この事例2で、Bが甲土地を時効取得するためには「自己の占有のみを主張」と「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」の、どちらの主張をすればいいでしょう?
 もうおわかりですよね。
 正解は「自己の占有のみを主張」です。
 Bは善意・無過失なので、10年間の占有で甲土地を時効取得できます。(短期取得時効→民法162条2項)
 じゃあ「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」をしたらどうなるの?
 その場合は、Bは甲土地を時効取得することができません。なぜなら、前の占有者Aの悪意・有過失を引き継いでしまうことにより短期取得時効の適用対象ではなくなるからです。
 そして「Aの占有9年+Bの占有10年=19年間の占有」では、通常の取得時効に必要な20年間にも、あと1年足りなくなってしまいます。

引き継ぐのは瑕疵だけではない

事例3
Aは善意・無過失に甲土地を9年間占有した。その後、Aは甲土地を悪意のBに引き渡し、Bはそれから1年間甲土地を占有した。


 A   引渡し  B
甲土地   →  甲土地
占有9年     占有1年
善意無過失    悪意

 さて、この事例3で、Bは甲土地を時効取得できるでしょうか?
 結論。なんと、Bは甲土地を時効取得できます。
 え?なんで?Bは悪意じゃね?
 Bは悪意です。しかし、民法187条に基づき「前の占有者の占有を併せて主張」すれば、Bは前の占有者であるAの善意・無過失を引き継ぐことができます。
 すると短期取得時効の対象となり
「Aの占有9年+Bの占有1年=10年間の占有」で
Bは甲土地を時効取得できるのです。

(占有の承継)
民法187条2項
前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。


 民法187条2項の条文には「その瑕疵をも承継する」とありましたよね。
 繰り返しになりますが、瑕疵というのは欠陥のことで、欠陥には悪意・有過失も含まれます。
 したがって「前の占有者の占有を併せて主張」すると、前の占有者の悪意・有過失も引き継いでしまいます。
 ここまでは先述のとおりです。
 しかし、条文の「その瑕疵をも承継する」というのは瑕疵がないことをも承継する」と、理解することもできませんか?
 したがいまして、事例3のBは「前の占有者の占有を併せて主張」することにより、前の占有者Aの瑕疵のないこと(善意・無過失)をも承継することになるのです。
 これは一見すると屁理屈に聞こえるかもしれませんが、条文をこのように解釈して適用させる事は、わりとあることです。
 なので、ここは深くツッコまず、まあそういうことなんだなと、そのまま落とし込んでしまってください。

瑕疵の有無の判定は占有開始の時

 ここでひとつ、こんな疑問がわいてきます。
 そもそも、瑕疵(欠陥=悪意や過失)があるかないかは、どのタイミングで判断されるのでしょう?
 例えば、Aが甲土地の占有を善意・無過失に開始して、のちにA自身が悪意になったとしたらどうなるでしょう?

 A   1年後  A
甲土地   →  甲土地
占有開始     占有1年
善意無過失 →  悪意

 この場合も、短期取得時効の対象から外れることはありません。なぜなら、瑕疵の有無の判断は、占有開始の時だからです。つまり、Aは善意のままとして扱われます。
 したがいまして、その後、甲土地の引渡しを受けたBが悪意でも、Bが「前の占有者の占有を併せて主張」することにより、前の占有者Aの善意・無過失をも引き継いで、短期取得時効により、9年+1年=10年間の占有で甲土地を時効取得することも問題ありません。

 A  1年後 A   引渡し B
甲土地  → 甲土地  → 甲土地
占有開始   占有1年   占有9年
善意無過失  悪意     悪意

B「前の占有者の占有を併せて主張」
短期取得時効で時効取得できる!
あくまで甲土地の占有開始時
Aの善意・無過失で始まっているから!


ちょっとコラム
~時効による所有権取得は原始取得~


 所有権の取得原因(取得の形)には、原始取得承継取得があります。
 時効による所有権取得は、原始取得になります。
 原始取得とは「元からその人のモノになる」ことです。
 つまり、先述の事例3のBが甲土地を時効取得すると、甲土地は元からBのモノだったことになります。
 それになんの意味があるの?
 これには大きな意味があります。
 例えば、もし甲土地に抵当権がついていた場合に、Bが甲土地を時効取得すると、時効取得は原始取得なので、Bが始めっから甲土地の所有者だったことになり、Bが時効取得する前についていた抵当権は消えて無くなります。
 これを噛み砕きまくって荒唐無稽な解説をしますと、、、
 B男くんがA子ちゃんを原始取得すると、A子ちゃんにとってB男くんは最初のオトコになります。本当は5人目のカレシだったとしても。これが原始取得です(笑)。
カップル
 一方、売買相続による取得は、承継取得になります。
 承継取得は前主の権利を承継します。
 つまり、B男くんがA子ちゃんを承継取得すると、B男くんはA子ちゃんにとって5人目のカレシになるだけです(笑)。もちろん、カレシとカノジョを逆にしてもいいですし、BLでも百合でもOKです。
 ムチャクチャな例えですが、原始取得と承継取得、おわかりになっていただけたのではないでしょうか。

占有回収の訴え
占有を奪われたときは?

事例4
Aはあともう少しで甲土地を時効取得するところである。そこで、Aに甲土地を時効取得されたくない血気盛んなBは、実力行使でAの占有を排除した。


 なんだかエモーショナルな事例が登場しましたね(笑)。
 さて、この場合、Aの占有は途切れてしまい、Aは甲土地を時効取得することができなくなってしまうのでしょうか?
 まずは民法の条文を見てみましょう。

(占有の中止等による取得時効の中断)
民法164条
第百六十二条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。


 上記、民法164条の条文のとおり、Aは他人のBによって占有を奪われています。
 ということは、条文どおり時効は中断し、Aは甲土地を時効取得することができなくなりそうですね。Bにとってはしてやったりという感じです。
 しかし!民法では、Aのような人間を救うべく、下記のような規定も置いています。

(占有回収の訴え)
民法200条
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。


 上記、民法200条に基づいて、AはBに対し「占有回収の訴え」を起こし、勝訴して甲土地を取り戻せば、無事Aの占有は継続していたことになります。
 占有期間はリセットされないの?
 リセットはされません。
 繰り返しますが、占有回収の訴えを起こし、勝訴して甲土地を取り戻すことができれば、Aの甲土地の占有期間は継続していたことになります。ですので、Aの甲土地の時効取得への影響はありません。
 参考となる民法の条文はこちらです。

(占有権の消滅事由)
民法203条
占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。


 なんだか、この民法203条の条文を読むと、占有回収の訴えの提起さえすれば、占有継続が認められそうです。
 しかし、実際には、勝訴して土地を取り戻すところまでいかないと、占有が継続していたことにはなりません。
 したがって、Aとしては、占有の継続を取り戻し甲土地を時効取得するためには、裁判を起こし勝訴して、実際に甲土地を取り戻すところまでいかなければならないのです。
裁判所
 でもこれって、中々の負担ですよね。となると、Aとすれば、事前に占有を奪われることを防止するのが最良ですよね。
 そこで民法では、次のような規定も存在します。

(占有保全の訴え)
民法199条
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。


 上記、民法199条の規定により、Aは、血気盛んなBが、甲土地の占有を妨害しそうだと判断したら、あらかじめ「占有保全の訴え」を起こし、事前に法的な予防線を張ることができます。
「占有保全の訴え」とは、いわば敵を感知して発動させるバリアーです(オートではありませんが...)。

 また、占有を奪われるまではいかないが、占有の妨害を受けたときには、民法198条(占有保持の訴え)により、妨害の停止、および損害賠償の請求をすることができます。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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