【親族と親等】【血族と姻族とその違い】【相続と戸籍】【親子関係と戸籍の届出】【家族法と財政問題】

▼この記事でわかること
親族の超基本
親等について
血族と姻族とその違い
相続と戸籍
親子関係と戸籍の届出
民法と扶養制度と財政問題
遺留分制度と財政問題
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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親族の超基本

 親族とは、民法において、一定の血縁者と婚姻によって生じる続柄にあたる者のことを言います。
 では、その親族とは、具体的にどの範囲を指すのでしょうか?
 これは、民法の条文で明確に規定されています。  

(親族の範囲)
民法725条 
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族


 上記、民法725条の条文中に、親等という言葉があります。
 親等とは、親族間の世代数のことです。(民法726条1項)
 ではここで、親等について具体的に解説します。

親等について

・1親等
 これは親子の間柄です。ここは直系しかあり得ません。

・2親等
〈直系の場合〉祖父と孫の関係
〈傍系の場合〉兄弟の関係
 傍系とは、一度、同一の祖先にさかのぼり、その祖先から他の1人に下る関係を言います。
 兄から見て弟は、一度、同一の始祖(親)にさかのぼり(ここまでで1親等)、そこから弟に下ります。(これも1親等)。したがって、合計2親等になります。
 つまり、兄と弟の関係は、民法的に言うと「傍系の2親等の親族」となります。祖父と孫は「直径の2親等の親族」となります。

・3親等
〈直系の場合〉祖父とひ孫の関係
〈傍系の場合〉叔父と甥の関係
 叔父から見て、甥の祖先が兄弟だから、ここまでで2親等、そこから1世代下ると甥に至りますから、合計3親等です。
 つまり、叔父と甥の関係は、民法的に言うと「傍系の3親等の親族」となります。祖父とひ孫は「直径の3親等の親族」となります。

・4親等
〈直系の場合〉曽祖父とひ孫の関係
〈傍系の場合〉従兄弟の間の関係、あるいは叔父と「甥の子」の関係
 つまり、従兄弟同士、あるいは祖父と甥の子の関係は、民法的に言うと「傍系の4親等の親族」となります。曾祖父とひ孫は「直径の4親等の親族」となります。

 以上、親等の数え方についての具体例を挙げましたが、あとは応用です。
 直系であれば、単に世代の数を数えればよく、傍系であれば、同一の祖先に達するまでの世代数と、そこから相手方まで下る世代数を足すことになります。

血族と姻族

 続いて、血族と姻族についての解説をします。
 血族というのは、生理的に血が繋がっている者のことであると、一応は言えます。
 しかし、生理的な繋がりと法律上のそれとは、厳密な意味では必ずしも一致する訳ではありません。
 例えば、生理的に血が繋がっていないのに、法律上の血族関係が生じる制度として、養子縁組があります。
 逆に、生理的に血が繋がっているのに、法律上、血族関係を切ってしまう制度として、特別養子があります。例えば、Aが甲の特別養子になると、結果的にAと実親との血族関係が切れることとなります。

姻族

 姻族とは、婚姻により生じる親族のことです。
 姻族には次の次の2つの種類が存在します。
1・配偶者の血族
2・血族の配偶者
 要するに、結婚してできる嫁さんor旦那さんの親や兄弟などを指します。
 では、姻族とは具体的にどの範囲なのか?解説します。

事例1
Yの妻がA、Aの妹がB、Bの夫がZである。


   兄妹
   /\
Y  =   A    B  =  Z
妻     夫     妻   夫

 このケースで、YとZとは親族にあたるでしょうか?
 結論。YとZとの間に親族関係は生じません。
 Yから見て、A(配偶者)の血族であるBは親族です。
 AとBとは兄妹の関係であり、血族2親等ですから、YとBとの関係は姻族2親等にあたります。
 民法725条は、3親等内の姻族は親族であると定義していますので、YB間には親族関係が生じます。
 しかし、YはZから見て、配偶者の血族の配偶者です。
 これは、姻族の範囲には入らず、したがって、YZ間には親族関係が生じません。

続いてはこちらです。

事例2
甲と乙は兄妹である。甲の息子Yの従兄弟が乙の娘A、乙の娘Aの夫がZである。


  兄妹
  /\
 甲  乙
 |  |
 Y  A = Z(Aの夫)
(息子)    (娘)

 このケースで、甲の息子Yと乙の娘Aの夫Zとは親族にあたるでしょうか?
 結論。YZ間に親族関係は生じません。
 Yから見てAは、血族4親等です。
 民法725条の6親等内の血族にあたります。
 したがって、YZ間には親族関係が生じます。
 そして、乙の娘Aの夫Zは、甲の息子Yから見て、血族であるAの配偶者なので姻族です。
 しかし、それは姻族4親等です。
 民法725条に定義する3親等内の姻族の範囲には入りません。
 よって、YZ間に親族関係は生じません。

姻族と血族の違い
ここがポイント女性
 姻族も血族も、民法725条が規定する親等の範囲内で、親族関係が生じます。
 例えば、姻族も血族もそれぞれの2親等では、そのどちらも親族にあたります。
 しかし、姻族と血族には決定的な違いがあります。

事例3
Yの子がA、Aの妻がZである。Aが死亡し、のちにYも死亡した。


死亡
  Y
  |
  A = Z
死亡

 さて、このケースで、ZはYの相続人となるでしょうか?
 このケースのポイントは、夫Aに先立たれた妻Zが、夫の親であるYを相続するのか?です。
 このケースの具体例としては、Aが長男で、Yと同居していたところ、Aが死亡し、その後、Aの妻であるZが、Aの親の老後の面倒を見ていた、というようなものが考えられます。
 結論。この場合、たとえZがYの老後の面倒をかいがいしくみていたとしても、ZはYの相続人ではありません。
 なぜなら、Yから見てZは息子A(血族)の配偶者であり姻族だからです。
 法律的に、YZ間の関係は、姻族1親等という事になります。
 しかし、姻族は、決して相続人になりません。
 これが、姻族血族決定的な違いです。
 そして、こういったケースが、家族間トラブルに発展しがちな典型です。
 たとえ財産目的でYの面倒をみていた訳ではなくとも、Zには酷ですよね。
 しかし、これは法律上のルールです。
 死者の血族は相続人になり得ますが、死者の姻族は相続人にならないのです。
 また、同じ理由で、妻の連れ子は夫を相続しません。
 夫から見れば、連れ子は配偶者の血族であり、姻族1親等にあたるからです。

相続と戸籍

 先ほど、相続が絡んだケースが出ました。
 それでは、ここからは相続人の範囲について解説して参ります。
 まずは、次の民法の条文をご覧ください。

民放890条前段
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。


民法887条1項
被相続人の子は、相続人となる。


 上記、民法条文から、死者の配偶者と子は相続人になることがわかります。
 さらに、子がいなければ、直系尊属(例えば死者の親)が相続人となります。
 直系尊属もいなければ、今度は兄弟姉妹が相続人となります。
 じゃあこのケースは?あのケースは?と色々疑問も浮かぶかもしれませんが、まずはここまでをしっかり押さえてください。  
 要するに、相続人の範囲と相続分民法により厳格に規定されているということです。

厳格な規定の理由 

 相続人の範囲が民法によりきっちりと法定されている理由、それは、相続問題が典型的に元々紛争の多いものだからです。

 つまるところ、人間関係のトラブルの原因の多くは、金に行き着きます。
 相続問題は、その「金」が、身内が死んだ事により突然舞い込んで来る話です。
 ギャンブルでも投資でも、確実に儲かるという保証はありません。
 しかし、相続は違います。その権利さえあれば、確実にお金(財産)が転がり込んで来るのです。
 相続する財産が多ければ多いほど、相続人の目の色も変わるでしょう。
 結果、相続人同士の争いはとかく激化しやすい傾向にあるという訳です。
 ということで、もし相続人の範囲が曖昧であれば、相続がらみの紛争は、現在のその数を2倍にも3倍にもするかもしれません。いえ、高い確率でそうなるでしょう。
 そうなったら、裁判所もパンクしてしまいますし、世の中のドロドロ度も増してしまいます。
 そこで、民法は、相続人の範囲を戸籍を見ればわかる範囲に限定する努力をしているのです。
 では、その民法の努力を、事例共に具体的に解説します。

事例4
A男はB子と50年に渡り事実上の夫婦生活を続けた。しかし、婚姻届は出していない。


 さて、この事例で、A男が死亡した場合、B子はその相続人となるでしょうか?
 結論。B子はA男を相続しません。理由は、B子はA男の戸籍上の妻ではないからです。
 婚姻届が受理されれば法律上の配偶者です。しかし、婚姻届が出されていなければ、法律上はアカの他人です。
 したがって、事例4のA男とB子は、結局のところ法律上はアカの他人なのです。二人がいかに愛を育んでこようが、関係ありません。
 逆に、二人の愛がいかに冷え込んでいようが、婚姻してさえいれば、二人は法律上の夫婦です。

 続いて、こちらの事例もご覧もください。

事例5
死の床にあったA男は、死の前日にB子と婚姻する約束をし、B子はその日のうちに婚姻届を出した。


 さて、この事例で、B子はA男を相続するでしょうか?
 結論。B子はA男を相続します。理由は、B子はA男の戸籍上の妻だからです。
 昔、ある人が「恋愛と結婚の一番の違いは何か?それは法律で保護されるかどうかだ!」なんて言ってましたが、そういう事なんです。
 婚姻とは、婚姻届により成立する関係です。
 その他の個別の諸事情は、相続人の確定作業とはなんの関係もないのが原則です。
 事例5のケースは、死の前日に婚姻届を出したB子に対して遺産を渡したくないという他の相続人が現れそうなニオイがプンプンしますが、B子に婚姻の意志があれば、A男の相続権は法律上、認められることになります。
 根拠となる民法の条文はこちらてす。

(婚姻の届出)
民法739条 
婚姻は、戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。


 ちなみに、婚姻届が役所で受理されれば、婚姻は成立します。戸籍に記載された時点で婚姻成立というわけではありません。

 以上、ここまでの解説で、婚姻届の受理されていない法律上の婚姻というものはあり得ないということがお分かりになりましたよね。
 これは、戸籍の届出の有無という客観的な基準で身分関係を規律し、ひいては相続関係をも単純化するための国家政策であるのです。
 つまり、ある人の身分関係は、戸籍を見ればすぐ分かるという状態を理想として、届けをすることにより婚姻という身分関係が発生するというルールを作ったという訳です。

【補足1】
 事実上の夫婦関係(実際には婚姻していない関係)にある者が、婚姻をする意思のもとに婚姻届を作成した場合、届けが受理されるまでの間に、完全に昏睡状態になった場合でも(届出の時点では意思能力がないケース)、その前に翻意したなどの特段の事情がなければ、婚姻は有効に成立するという判例があります。
 これなどは、先述の事例5における死の床での婚姻の実例であると言えるでしょう。
 なお、このような判例の存在そのものが、この死の床での婚姻により、相続分を減らされる結果となる他の相続人が存在し、そして、猛烈にこの婚姻の無効を争ったことを示しています。(最高裁までいった)

【補足2】
 生存中に婚姻届を郵送したが、受理の段階でその一方が死亡している、というケースも存在します。
 戸籍法は、この場合も、婚姻の成立を認めています。届出人の死亡の時に届出があったものとみなすとしています。

親子関係と戸籍の届出
妊婦(胎児)
 ここからは親子関係について解説して参ります。
 先述の婚姻の場合の考え方は、親子関係の発生についても同様に採用されています。
 もちろん、出生による親子関係は届出を待たずに発生します。
 出生届は、子が出生したという事実を報告する趣旨であって、届けを出すことにより、子が出生するわけではありません。
 しかし、その旨の届出をすることにより、親子関係が創設されることがあります。
 以下に、その実例の代表例を2つ挙げます。

・養子縁組届
 生理的な血の繋がりを持つ自然血族に対して、法定血族と言われるのが養子縁組により発生する血族関係です。
 養親と養子の合意による養子縁組は、役所への養子縁組届けにより、効力が生じます。(民法799条、民法739条)

・認知届
 認知は、婚姻によらない子と、その父または母との親子関係を創設します。
 逆に言えば、生理的に血が繋がっていても、そのことだけでは法律上の親子ではなく、したがって、親族ですらありません。
 たとえDNA鑑定をしても、認知がなければ法律上の親子ではありません。
 父または母が生前にする認知も、戸籍の届出により有効に成立します。(民法781条1項)
 ちなみに、父に認知されない非嫡出子の戸籍は、父の欄が空白になります。父に認知されない非嫡出子とは、わかりやすく言えば、婚姻していない男女間にデキちゃった子(非嫡出子)で、その男に「認知」されていないということです。
 
 以上に解説した、養子縁組、認知は、いずれも当事者の戸籍に記載されます。
 これも、相続関係を明確な基準(戸籍の届出)により規律しようという民法の考え方と言えるでしょう。

【補足】身分関係の解消
 姻族関係を解消するための離婚届、縁組により生じた血族関係を解消する離縁届についても、当事者の協議によるものは、創設的な届出です。
 例えば、夫婦が長年別居し、夫婦としての共同体の実績が存在しなくても、離婚届が出ていなければ法律上は婚姻関係にあります。

家庭裁判所の関与

 当時者の合意による身分関係の創設および解消(婚姻や離婚など)は、戸籍の届出を要するという形式で制度化されています。
 これは、身分関係の確定には明確な基準を要するという考えによるものです。
 さて、ここで一つ、ある問題が生じます。
 それは、当事者の合意によらない身分関係の問題です。
 例えば、身分関係の創設としては、子の側から父に認知を迫る強制認知という制度が存在します。(民法787条)
 逆に、身分関係を解消したい場合もあります。
 協議によらない離婚や離縁です。(民法770条1項、民法814条1項)
 民法は、このようなケースでは、家庭裁判所の裁判により身分関係を確定するという形で、その基準の明確化を図ります。
 したがって、強制認知や協議によらない離婚、離縁は、いずれも訴えによってのみ行うことができます。
 そして、裁判により身分関係が生じまたは解消するケースにおいては、裁判の確定によりその効力が生じます。
 つまり、その後にする戸籍の届出は、例えば「私達は裁判により離婚しました」という事実を報告するための届出です。
 なので、このようなケースでは、裁判の確定から届出までの間、離婚はしたがその届けはされていないという事態、つまり、離婚の効力は生じているがその事実の届出はしていないという状況も生じ得ることになります。

財政問題

 民法における親族、相続に関する規定は、家族法と総称されます。
 そして、実は家族法の裏には、国家財政の問題が存在します。
 それはどういう事なのか?まずは、扶養の問題を見ながら解説して参ります。

 扶養についての民法の条文はこちらです。

(扶養義務者)
民法877条 
1項 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2項 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。


 上記、民法877条の「扶養義務」とは、文字通り扶養料を支払えという意味です。
 例えば、不況の影響で弟が路頭に迷っている場合、その兄には、当然に扶養義務が発生し、裁判所から「弟に対して月々◯円を支払え」と命ぜられることがあるということです。

扶養の問題と国家財政の関係
指差し男性
 実は、国の生活保護と、先に挙げたような私人間の扶養義務には、優先劣後の関係があります。
 すなわち、ある人が路頭に迷った場合には、その者に民法877条に該当する親族がいれば、その扶養義務の問題が最初に発生します。
 そして、扶養をすることができる親族がいない場合に限り、国家が生活保護を行うことになります。
 みなみに、朝日訴訟という憲法における有名な判例があり、生活保護を受けていた朝日氏に実兄が見つかったため、国家が生活保護を打ち切った事が、その事件の発端となっています。
 生活保護などの社会保障政策についてはよく議論になりますが、そんな簡単に誰でもかんでもすぐ生活保護という訳にはいきません。
 生活保護は「公助」になりますが、「助」の順番は、あくまで、1に自助、2の扶助、3に公助となります。
 (考え方は色々あるかと思いますが)これは当然といえば当然の事で、生活保護には財源が必要です。そして、その財源は無限ではありませんよね。  
 以上のように、民法上の扶養の問題は、生活保護の財源の問題と密接に関係しているのです。

[参考条文]
生活保護法4条
民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。


遺留分制度と国家財政の関係

 さらに、遺留分の制度にも、国家財政との関係性が存在します。
 遺留分とは、一定の相続人には必ず留保される、遺産の一定割合のことを言います。
 この説明ではちょっとわかりづらいので、具体的にご説明します。
 例えば、ある資産家の男が、全財産をある団体に寄付をするという遺言をしてから死亡したとします。このケースで、その男に妻と子供がいた場合、各相続人(妻と子供)は、自己の法定相続分(法律で規定された相続できる割合)の半分を遺留分として主張、つまり「その半分私によこせ!」と主張することができます。
 つまり、もし全員が遺留分の主張をすれば、その亡くなった資産家の資産のうち半分は、相続人の手元に残ることになります。
 本来であれば、死者が、自己の財産をどのように処分しようが、それは自由であるはずです。
 民法における私的自治の大原則に照らせば、むしろ遺留分の制度の方がおかしいと言えます。
 では、なぜそんなおかしな遺留分の制度が存在するのでしょうか?
 それは、相続人に一定割合の遺産を与えることにより、路頭に迷う相続人を減らして、生活保護のための財政負担を減らそうという国家政策としての目的があるという訳です。
 また、離婚における財産分与の制度にも、同様の目的があります。


 以上、親族から相続、戸籍、扶養について、その基礎的な部分を解説して参りました。
 民法における家族法と国家財政の問題には関連性がある、という事実は、民法(家族法)の学習、理解をする上での手助けともなるのではないでしょうか。
 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【婚姻】【届出意思と婚姻意思】【婚姻障害と婚姻の取消し】【婚姻の取消権者と取消期間】をわかりやすく解説!

▼この記事でわかること
婚姻の超基本
婚姻意思(届出意思と婚姻意思)の問題
婚姻障害と婚姻の取消し
重婚の禁止(民法732条)
近親者間、直系姻族間、養親子等の婚姻の禁止
婚姻の取消権者と取消期間
当事者の一方の死亡後の婚姻取消し
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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婚姻の超基本

 婚姻とは、わかりやすく言うと結婚の事です。
 つまり、民法的(法律的)に結婚とは、婚姻になります。 
 では、婚姻とは、どのように成立するのでしょうか?
 その要件は次の2つです。

・戸籍の届出
・婚姻意思の存在

 民法の意思主義の大原則から、婚姻意思、すなわち結婚する意思の存在しない婚姻は無効です。
 婚姻意思(結婚する意思)が存在しなければ、(それは意思の欠缺の問題であり)婚姻は無効です。
 一方で、詐欺強迫による婚姻は、いったん有効に成立します。つまり、取り消すことのできる婚姻となります。

婚姻意思の問題

 婚姻における当事者の意思の問題は、2つの段階に分けて考える必要があります。
 それは、届出意思の問題と、事実上の夫婦になる意思の問題です。

届出意思のケース

 まずは届出意思の問題から解説いたします。

 届出意思の問題として考えられるものに、届出意思を欠くのに婚姻届が出されたケースがあります。
 具体例としては、事実上の夫婦関係(いわゆる内縁関係)にある当事者のうち、一方(例えば夫)が他方(妻)に無断で婚姻届を出したケースが典型です。
 この場合、妻に届出意思が存在しません。
 したがって、その婚姻は無効です。
 以上、まずはここまでが基本です。
 では、ここからは少し微妙なケースを考えてみましょう。

事例1
事実上の夫婦の一方が他方に無言で婚姻届を出した。他方の配偶者は届出の事実を知ったが問題を放置し、生活関係を継続した。


 これは、ほぼ結婚しているのと同じような状態の男女(すなわち事実上の夫婦関係)の片方が、相手に無断で婚姻届を出し、相手はその事実を知ったがそのまま放置し、二人は引き続き現状の関係のまま生活していた、という話です。
 つまり、届出の時点では、他方配偶者に届出意思が存在しないということです。そして、届出の事実を知り、しかも、生活関係を継続すれば、一方配偶者の届出を追認したことになるのか?というのがこの事例の問題です。

 さて、ではこの事例で、この事実上の夫婦の婚姻は成立するでしょうか?
 結論。この婚姻は成立します。届出時にさかのぼって婚姻は有効となります。
 つまり、届出の後に、婚姻届を認める意思が生じ、結果として届出意思の一致が見られれば、さかのぼって有効な届出があったと解釈できるということです。

[参考条文]
(婚姻の無効)
民法742条 
婚姻は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。
二 当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、婚姻は、そのためにその効力を妨げられない。


 ちなみに、条文中の「民法739条2項に定める方式」とは、「婚姻の届出は、当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で、またはこれらの者から口頭で、しなければならない」という方式のことです。

婚姻意思のケース

 続いては、婚姻意思の問題について解説します。
 これは、婚姻届を出す意思は存在するが、事実上の夫婦になるという意思の存在しないケースです。
 わかりやすく言えば、婚姻届を出そうとは思っているが結婚したいとは思っていないケースです。
 これ、すでにピンと来た方もいらっしゃいますよね。
 そうです。いわゆる偽装結婚のケースです。
 典型的な例としては、外国人が日本で就労するために、日本人との婚姻届を出すというケースです。
 この問題について、判例は、当事者間に夫婦としての共同生活をする意思がない場合、たとえ婚姻届を出す意思があっても、婚姻は無効であると結論づけています。
 したがって、婚姻意思のない婚姻は無効です。

【補足】離婚意思の問題

 では、離婚届を出す意思は存在するが、現実に夫婦共同生活を解消する意思のない離婚の場合はどうでしょうか?
 これは、わかりやすく言えば、本当は離婚する気がないのに離婚届を出そうという、いわゆる偽装離婚のケースです。
 判例では、生活保護を受けるための便法として離婚届が提出されたケース(すなわち生活保護を受けたいがため偽装離婚したケース)について、法律上の婚姻関係を解消する意思の合致があるから、離婚は有効であると判示しています。
 偽装結婚の場合には、夫婦共同生活の実態がないので婚姻は無効でした。しかし、偽装離婚の場合は、法律上の夫婦を卒業して、事実上の夫婦関係になるという意思はあり得るということです。
 わかりやすく言うと、離婚することで法律上の夫婦ではなくなって、だけど内縁関係は続けようという意思はあり得るということです。

婚姻障害と婚姻の取消し
NG男性
 婚姻意思の合致があれば、婚姻は有効です。
 つまり、お互いが結婚したいと思っていれば、その婚姻は有効ということです。
 しかし、その婚姻成立時に瑕疵(欠陥)が存在する場合があります。
 その場合とは、例えば、詐欺による婚姻が典型です。
 この場合、民法は、契約などの財産法のケースと同様に、詐欺によって意思表示をした者に、取消権を与えます。
 しかし、この取消権は、次の2点においては、財産法の場合とその内容が異なります。

・第三者詐欺のケースで、婚姻の相手方が善意であっても、取消権を行使可能(不本意な婚姻関係に縛り付けるのは非人道的だから)
・家庭裁判所への請求によらなければ、取消権の行使をする事ができない

 なお、婚姻の取消事由には、詐欺以外にも、強迫、そして公益上の理由によるものも存在します。
 これは、国家の立場から、成立した婚姻自体に瑕疵(欠陥)があると判断するケースです。
 こうした事由を婚姻障害と言います。
 では、具体的に婚姻障害のケースとはどのようなものでしょうか?

事例1
18歳のA男と17歳のB子の婚姻届が受理された。


 さて、この事例のA男とB子の婚姻は有効でしょうか?
 これは民法というより社会の常識ですが、婚姻は、男女共に18歳に達しないとできません。(民法731条:婚姻適齢)
 したがって、この事例では、本来、戸籍係員は婚姻届を受理してはいけません。
 しかし、誤って受理をしてしまった場合はどうなるのか?というのがこの事例で考える問題です。
 で、結論は?
 はい。まず、この事例1のA男とB子には婚姻意思の合致はあります。(結婚する意思はある)
 なので、婚姻は有効です。
 しかし、この婚姻は国家の立場から認められません。
 当然です。民法の規定に反しているのですから。
 そこで、これは取り消すことのできる婚姻となります。

【補足】
 契約などの場合、取消しの効果は遡及します。(民法121条)
 しかし、婚姻の取消しには、民法の特則が存在します。

(婚姻の取消しの効力)
第748条 
婚姻の取消しは、将来に向かってのみその効力を生ずる。


 この民法748条は、仮に、夫婦の間に子が生まれた場合、後に婚姻が取り消された場合であっても、その子が嫡出子の地位(婚姻をした親の子供としての地位)を失わないという重大な事実を規定しています。
 なお、嫡出子とは、婚姻により生まれた子供のことです。

重婚の禁止(民法732条)

 我が国には、一夫多妻制も一妻多夫制もありません。
 配偶者のある者は、重ねて婚姻することはできません。
 しかし、例えば、AとBが離婚をし、その後、BとCが婚姻をした場合、その後に、ABの離婚が、詐欺・強迫を理由に取り消される事はあり得ます。
 この場合の法律関係は以下のようになります。

1、離婚の取消しの効力は遡及するか?(さかのぼるか?)
  遡及します。離婚の取消しの場合、遡及効(さかのぼってを発する効力)を制限する条文が存在しません。したがって、民法121条本文により離婚の取消しの効力は遡及します。
2、よってAB間の離婚は、もともと存在しないことになります。
3、結果として、さかのぼって、AB間の婚姻継続中にBC間の婚姻がされたことになります。
4、したがって、BC間の婚姻の成立に瑕疵(欠陥)が存在します。
 婚姻解消は、婚姻成立時の瑕疵を問題とします。AB間の婚姻の成立時には瑕疵がないので、AB間の婚姻には取消事由は存在しません。
5、BC間の婚姻が重婚となり、取消事由が発生します。

再婚禁止期間(民法733条)

 女性は、前婚の解消(離婚と死別)または取消しの日から100日を経過しなければ、再婚をすることができません。
 これは、女性が子を産んだ場合に、とちらの夫の子であるか不明であるという事態を避けるための規則です。
 再婚禁止期間の規定に反してなされた婚姻は取消事由が発生します。

近親者間、直系姻族間、養親子等の婚姻の禁止

 ここから上げる3つは、生物学的あるいは道徳上などの理由から禁止される婚姻です。

・近親者間の婚姻の禁止(民法734条1項)
 直系血族と3親等内の傍系血族は婚姻することができません。
 いわゆる、血が濃くなるというのが生物学的にまずいからです。
 
・直系姻族間の婚姻の禁止(民法735条)
 こちらは血の問題ではなく、道徳上の問題です。
 例えば、妻と離婚後に、妻の母と婚姻することができません。
 一度、義理の親子関係になった者同士の婚姻は道徳的にマズいという訳です。

・養親子等の婚姻の禁止(民法736条)
 これも同様に道徳上の問題です。
 例えば、養女と離婚後に、養親が養女と婚姻するようなことは許されません。これも、一度、義理の親子関係になった者同士の婚姻は道徳的にマズいという事です。
 この場合も、傍系の法定血族との婚姻は禁止されておらず、問題になるのは、直径の法定血族間の婚姻です。

 以上、ここまでの解説で挙げた5つの婚姻障害
・重婚の禁止(民法732条)
・再婚禁止期間(民法733条)
・近親者間婚姻の禁止(民法734条1項)
・直系姻族間の婚姻の禁止(民法735条)
・養親子等の婚姻の禁止(民法736)
 上記に婚姻適齢を合わせて合計6つの婚姻障害がある場合には、いずれも、戸籍係員は婚姻届を受理してはいけません。
 もし間違ってこれが受理されてしまった場合には、婚姻は有効に成立し、その後に婚姻取消しの問題が生じるのです。

【補足】
 身分行為は一般に代理になじみません。
 なので、事理弁識能力に欠く状況にある成年後見人が、婚姻、離婚をすることは通常はありえません。(判断能力のない者の代理人が本人を代理して婚姻or離婚する事はまずありえない)
 しかし、例外的に、成年被後見人が本心に復した場合、自らの意思でこれをなすことができる。
 本心に復することがない場合には、かろうじて、訴訟による離婚の可能性だけが存在します。
 裁判上の離婚については民法770条をご参照ください。

(裁判上の離婚)
第770条 
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。


婚姻の取消権者と取消期間
裁判所
 婚姻の取消しをするためには、家庭裁判所に請求しなければなりません。(民法7441項、民法747条1項)
 この場合の、取消権者と、取消しの請求ができる期間について、ひとつひとつ解説して参ります。

1、私益的な取消し事由の場合
 詐欺・強迫による婚姻の取消しの場合、取消権者は、詐欺強迫による意思表示をした当事者です。
 もともと、表意者の私の利益を保護する制度だからです。
 この場合の提訴期間は、詐欺を発見し、もしくは強迫を免れてから3ヶ月に限ります。

2、公益的な取消し事由の場合
 婚姻障害に該当する取消しの場合に裁判所に取消しを請求できる者を以下に挙げます。

・各当事者
・その親族
・検察官

 なお、取消事由が重婚の場合には、前婚の配偶者が取消権者に加わります。また、女性の再婚禁止期間に違反した場合には、前配偶者が取消権者に加わります。

【取消期間】
 さて、婚姻の取消期間はどうなっているのでしょうか?
 これについて、時の経過により瑕疵が治癒される性質の取消事由に限り、出訴期間が法定されています。
 どういう事かといいますと、当初は存在した婚姻の瑕疵が消滅した時点で、取消権も消滅します。つまり、婚姻の瑕疵(欠陥)が無くなってマトモな婚姻になった時、取消権も消滅するという事です。 
 では、取消権についての具体例見てみましょう、

・婚姻不適齢ケース
 例えば、18歳の男性と17歳の女性が婚姻した場合、婚姻不適齢に該当するのは、17歳の女性の方です。
 この場合、女性が18歳に達すれば、瑕疵は治癒され(婚姻不適齢という欠陥が無くなり)、婚姻の取消しの請求はできなくなります。 
 ただし、不適齢だった女性の方だけは、18歳に達するまでだけでなく、18歳に達してから3ヶ月の間、婚姻取消の請求をすることができます。
 これは、その婚姻が、果たして軽はずみだったかどうかを、婚姻適齢に達してからよく考えるための猶予期間と考えられます。

・女子の再婚禁止期間違反ケース
 前婚の解消または取消しから6ヶ月を経過すれば、婚姻の取消しの請求はできなくなります。
 また、女性が再婚後に懐胎した場合も同様に、取消請求をすることができません。

当事者の一方の死亡後の婚姻取消し

 婚姻障害がある場合、当事者の一方が死亡しても、他方当事者なり、双方の当事者の親族なりが婚姻取消しを請求することは可能です。
 死後に婚姻取消しをしても、何ら実益がないように思われますが、そうではありません。婚姻の取消しにより死後の相続関係が大きく変わるのです。
 さて、ここで一点、重要な問題が生じます。
 死後の婚姻取消しの実益が上記の相続争いにある以上、一方当事者の死後に検察官の取消権を認める実益がないことになる。
 したがって、検察官は、一方当事者の死後においては、婚姻取消しを裁判所に請求することができなくなります。(民法744条1項ただし書)
 もともと、なぜ、検察官が、婚姻取消しの請求権者に加わっているのでしょうか?
 それは、公益の代表としての立場です。
 どういう意味?
 よく、学園モノで「そんなハレンチ許しません!」みたいな風紀委員長キャラや学級委員キャラがいますが、要はそんな立場です(笑)。
 つまり、「その婚姻はアカンやろ?」と公益の立場からツッコむ役割ということです。
 本来、一方当事者が死亡した後においてまで、どうこう言う必要はないはずですよね。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【婚姻解消~離婚と死別】【子の氏】【協議離婚と裁判上の離婚】【有責配偶者からの離婚請求】をわかりやすく解説!

▼この記事でわかること
死別による婚姻解消
離婚による婚姻解消
子の氏について
協議離婚と裁判上の離婚
有責配偶者(不貞した側)からの離婚請求
裁判による婚姻
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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婚姻の解消~離婚と死別

 離婚によるものも死別によるものも、婚姻は解消します。
 しかし、その後の状況はそれぞれ異なります。
 では、一体どう違うのか?ひとつひとつ解説して参ります。
 なお、前提として、婚姻により妻が夫の氏を名乗るパターンで解説することをあらかじめご了承ください。
 夫婦別姓だなんだなどと議論に挙がる世の中ではありますが、これは一般的にイメージしやすくするためですので、余計な思考は及ばせないでください。(現行法では婚姻する場合どちらかの氏を双方が名乗ることになる←民法750条)

死別の場合

 死別の場合、婚姻を解消しようという当事者の意思が存在しません。
 そこで、当事者の一方が死亡しても諸々の事情はそのまま存続し、何も変化がないことが原則です。
1・婚姻により生じた姻族関係はそのまま
2・夫が死亡した場合の妻のもそのまま
 しかし、いずれの場合においても、生存配偶者の側で上記の関係を変化させることができます。

1について
 生存配偶者は、いつでも姻族関係を終了させる意思表示をすることができます。
 俗にわかりやすく言えば、残された妻が憎き姑との縁を切るということです。(民法728条2項は、姻族関係終了の意思表示をすることができる期間を規定していません。したがって「いつでも」できます)
 なお、民法は、生存配偶者(例えば生きている妻)からの姻族関係終了の意思表示だけを規定しています。したがって、姑(例えば死んだ夫の母)の側から姻族関係を切る手続きは存在しません。
 つまり、残された妻側から姑に対して姻族関係の縁を切ることはできても、姑の側からはできません。

2について
 妻はいつでも、婚姻前の氏に復する事ができます。(民法751条1項)
 つまり、夫と死別した妻は、いつでも旧姓に戻る事もできますし、そのまま夫の姓を名乗る事も可能です。

【補足】
 身分行為の問題は必ずしも連動しません。生存配偶者が姻族関係終了の意思表示をしても、氏は従来のままです。また、婚姻前の氏に復氏はしますが、姻族関係は切らないということも可能です。

離婚の場合

 離婚は、協議による場合も訴えによる場合も、いずれも、当事者における相手方配偶者との関係を絶つという明確な意思が存在します。
 そこで、従来の状況が変化することが原則です。

1・婚姻により生じた姻族関係は一挙に解消します。(民法728条1項)
 当然のことながら、離婚をした夫婦は、お互いがお互いを相続しません。

2・妻の氏は、当然に姻前の氏に復します。(民法767条1項)

 しかし、2についてのみ、次の例外が存在します。
 離婚により婚姻前の氏に復した者は、離婚の日から3ヶ月以内に限り戸籍の届出をすることにより、離婚の際に称していた氏を称することができます。(民法767条2時)
 つまり、離婚をした場合でも、妻は上記の3ヶ月以内の届出により、元夫の氏を名乗ることができます。

 ところで、この離婚の際の復氏の届けは、実務上、数多く存在します。
 その理由とは?
 離婚とは、相手と関係を絶つことなので、婚姻前の氏に復帰したいのが当然と考えられるところ、わざわざ元夫の氏になりますという届出をする人は、相当数存在します。
 これは、夫婦間に子供がいるケースです。
 これについて、順を追って解説して参ります。
 
 まず、夫婦間に子がいるとします。
 ここで、夫婦が離婚すると、妻の氏は、先述の3ヶ月以内の届出をしない限りは、婚姻前の氏に復します。
 では、この場合、子供の氏はどうなるのでしょうか?
 もちろん、変化はありません。
 つまり、子供は夫の氏のままなのです。
 そうすると、離婚後の妻の氏と子の氏が異なってしまうことになるのです。

【補足】
 民法790条1項は、子の出生前に父母が離婚した場合、生まれた子は、離婚の際における父母の氏(通常は夫の氏)を称するとしています。つまり、この場合にも、離婚後の妻と子の氏の齟齬が生じる(妻の氏と子の氏が異なってしまう)ことがあり得ます。
 なお、嫡出でない子(婚姻していない男女間の子)は母の氏を称します(民法790条2項)。このケースは、母を筆頭者とする戸籍に父の欄が空白のまま、子が記載されます。

 このように、妻が夫の氏を名乗る通常の婚姻のケースにおいては、離婚により母と子の氏が異なることになるのです。
 この事態を嫌えば、子を母の氏とするか、逆に母が子の氏になるしか手がありません。
 そして、この場合に、子を母の氏とすることが難しいのです。
 民法791条1項は
「子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる」
と規定しています。
 つまり、子の氏を婚姻前の母の氏にしようとすれば、この点についての家庭裁判所の許可必要なのです。
 これが、離婚後に子の氏を母の氏にそろえることが難しい理由です。
 そこで、この方法をらとらずに、母が子の氏(元夫の氏)を名乗ることにより母子の氏をそろえるのが、こうしたケースの一般的な形となるのです。
 こちらの方は、家庭裁判所の許可は不要であり、離婚から3ヶ月以内に届出をすれば簡単に母が元夫の氏を称することができるからです。

【親権と氏】
 双方にも直接の関係はありません。例えば、離婚後に母子の氏が異なっても、母が親権者であることは可能です。
 母子の氏をそろえたい思うのは母子の情の問題であり、親権等の身分上の問題とは直接の関係はないのです。

父母が婚姻中の子の氏

 民法は、子を独立の人格と考え(戦前の家制度の否定)、子の氏は子独自のものと考えています。なので、父母の婚姻中にも子の氏と父母の氏が異なるという事態はあり得ます。
 例えば、婚姻中の父母が第三者の養子になるケースがあります。この場合、養子は養親の氏を称するので、父母は縁組をした相手方の養親の氏を称することになります。
 しかし、子の氏は変わりません。従前のままです。
 結婚した夫婦が第三者の養子になるという稀なケースですが、その夫婦は養親の氏を名乗ることになるので、その結果、父母の氏と子の氏(その夫婦とその子の氏)に齟齬が生じる訳です。
 ですが、この場合には、簡単に子の氏を父母の氏にそろえることができます。民法791条2項は、父母が婚姻中に限り、家庭裁判所の許可なく戸籍の届出により子の氏を父母の氏とすることができると規定しています。

未成年の子の氏

 子が15歳未満の場合、民法791条1項(父母婚姻外:要:家裁の許可)の規定による子の氏の変更は、その法定代理人(通常は親)が子に代わってすることができます。(民法791条3項)
 問題はこの後です。
 民法791条1~3項の規定により、子が氏を改めた場合、子は成年に達した時から1年以内に戸籍の届出をして従前の氏に復することができます。(民法791条4項)
 これなども、子の氏は子の人格の現れであり、親とは別の人格主体であるという民法の個人主義の現れの条文であると言えます。

協議離婚と裁判上の離婚
裁判所
 離婚には、協議によるものと、裁判によるものが存在します。
 夫婦は、その協議で離婚をすることができます。(民法763条)
 しかし、相手方が協議に応じない場合や、離婚に合意しない場合には、裁判によって離婚するしか手がありません。

※注意:離婚と婚姻取消しの違い
 離婚は、婚姻自体に瑕疵(欠陥)はないが、その後の事情により夫婦が別れるケースです。一方、婚姻取消しは、婚姻の成立そのものに瑕疵(欠陥)があるケースです。

 裁判上の離婚原因は次の5つです。(民法770条)
・配偶者に不貞な行為があったとき(例えば不倫など浮気)
・配偶者から悪意で遺棄されたとき
・配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
・配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
・その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

裁量棄却

 裁判上の離婚については、他の訴訟においては考えにくい状況が生じることがあります。
 それは、裁判所による裁量棄却という制度です。
 通常、裁判は、原告側の主張がもっともだということになれば原告が勝ちます。民法の条文に書いてある法律要件にあたる事実が存在すれば、その法律効果が発生し原告が勝訴します。
 この原理によれば、民法770条が、離婚原因に配偶者の不貞を挙げているのだから、離婚の訴えを提起した者が、相手方配偶者の不貞(俗に言う浮気)の事実を証明すれば、原告勝訴、すなわち、離婚請求は認められるはずです。
 しかし、民法770条2項は、この場合であっても、すなわち、浮気の事実など先述の離婚原因が認められても「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるとき」は、離婚の請求を棄却することができると規定しています。
 もっとわかりやすく噛み砕いて言うと、離婚したいと訴える原告の主張はもっともでも、原告を負けとして離婚を認めないという判決を出してもよいと、民法に規定されているのです。
 これを裁量棄却と言います。
 要するに、裁判官の裁量で請求を棄却することができる制度という訳です。
 具体例をあげればこうです、
 確かに夫は浮気した。しかし、一度きりの過ちであるし本人も深く反省している。また、二人の間にいるまだ幼少の子どもの福祉を考えれば、必ずしも離婚という結論が適切とは言えないと裁判官が判断すれば、妻からの離婚請求を棄却することが可能。

【補足】
 裁量棄却は、離縁の訴え(民法814条2項、770条2項)や株主総会決議取消の訴え(会社法831条2項)などでもあります。

有責配偶者からの離婚請求

 裁判上の離婚について、有責配偶者からの離婚請求は可能なのでしょうか?
 これはどういう事かといいますと、浮気した夫(あるいは妻)側から、離婚原因(配偶者の不貞)が存在するということを理由に、妻(あるいは夫)との離婚の訴えを提起することができるのか?という話です。
 わかりやすく言えば、浮気をしたなど不貞行為を働いた側から離婚請求ができるのか?という事です。
 この点について、有責配偶者(不貞行為を働いた側)からの離婚請求は認められないという考え方が一般的です。
 テメーで離婚原因を作りながら相手方に離婚を迫るなんてアカンやろ?という考え方です。
 これを有責主義と言います。
 一般論として、判例もこの立場と考えて間違いありません。
 つまり、有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。
 まあ、これは当然と言えば当然ですよね。どのツラ下げて離婚請求しとんねん、て感じですからね(笑)。盗っ人猛々しいというか。

 しかし、次の特殊な事例において、判例では有責配偶者(不貞をした夫)からの離婚請求を認めています。

・夫婦がその年齢および同居期間と対比して相当の長期間別居している(具体的には同居10年、別居36年だった)
・夫婦間に未成熟の子がいない(上記別居期間から当然のことながら、事例においては未成熟子(幼い子供)はいない)
・相手方配偶者が離婚によって極めて過酷な状況に置かれる等、離婚請求により認容が著しく社会正義に反する特段の事情がある場合ではない(離婚により妻が過酷な状況に置かれるとは言えないという意味)

 上記3つの要素がそろえば、有責配偶者からの請求であるという一事をもって、離婚請求が許されないとすることはできないと判例は言っています。
 夫婦共同生活が事実上破綻している場合には、たとえ、有責配偶者からの離婚請求であっても認めてもよいという考え方を破綻主義と言います。
 破綻主義とは、なんだか坂口安吾なんかを思い起こさせるようなインパクトのある言葉ですよね(笑)。

【補足】
 配偶者の生死が不明の場合、裁判上の離婚原因にもなり得るが、失踪宣告(民法30条)の要件を満たせば、家庭裁判所に失踪宣告を求めることができる。この場合には、失踪者は死亡したものとみなされるから(民法31条)、財産法上は相続が発生し、身分法上は婚姻が死別により解消し、残された一方配偶者の再婚が可能となります。

裁判による婚姻

 ここまで、裁判等による離婚について解説して参りましたが、逆に、裁判による婚姻はあるのでしょうか?
 これについては、裁判所に婚姻を請求することはできないと考えられます。
 判例においては、内縁の妻が婚約の強制履行(すなわち婚姻の成立)を求めた裁判で、この請求を棄却しました。
 婚姻を成立させるかどうかは、あくまで、届出時の当事者の自由意思に任せるという趣旨です。
 当たり前と言えば当たり前の結論ですよね。仮にこの婚姻を認めたとしても、後に今度は離婚だなんだで揉めることが目に見えて明らかですし。
 なお、身分法上の問題として、婚約の強制履行はできませんが、婚約の不当な破棄が財産法上、婚姻予約の不履行または不法行為による損害賠償の問題を生じ得ることはあります。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【財産分与と離婚と慰謝料】【財産分与と内縁】【損害賠償請求と財産分与請求】内縁の妻が相続財産を承継する方法?

▼この記事でわかること
財産分与の基本
離婚の時期と慰謝料
財産分与と詐害行為取消権と債権者代位権
財産分与と内縁
損害賠償請求と財産分与請求
内縁の妻が夫の相続財産を承継する方法
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。 
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財産分与の基本

 協議上の離婚(裁判じゃない離婚)をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができます。(民法768条1項)
 なお、この民法の規定は、裁判上の離婚と婚姻解消の双方に準用があります。(民法771条、749条)
 つまり、裁判上の離婚でも婚姻解消でも、財産分与を請求できるということです。
 したかって、裁判上の離婚でも婚姻解消の場合でも、協議離婚の場合と同様に財産分与の問題が生じることになります。

[参考]婚姻取消に準用される離婚の条文(民法749条)
・姻族関係の終了(民法728条1項)
・離婚後の子の監護に関する事項の定め(民法766条)
・離婚による復氏等(民法767条)
・財産分与(民法768条)
・離婚による復氏の際の権利の承継(民法769条)
・子の出生前の離婚と子の氏(民法790条1項ただし書)
・離婚の場合の親権者(民法819条2項、3項、5項、6項)

 財産分与は、婚姻中の共同財産の分配と、離婚後の一方当事者の生計を図ることを目的とします。
 世の中で多いケースは、男が元妻に財産分与をするというケースです。
 ですので、そのケースに沿って解説して参ります。

 夫が婚姻中に「自己の名で得た」財産であっても、分与の対象になります。
 妻の内助の功を評価するわけです。
 財産分与の制度は、元妻の夫に対する扶養請求権という実質を持ちます。
 もちろん、未成年子がいてその子を妻が育てるのであれば、その成人までの養育費も含まれます。
 つまり、財産分与は、国が元妻の生活保護をしなくてもいいようにという、国家財政にとって都合のよい制度です。
 そういう趣旨ですから、財産分与の問題については、男の側の有責性は要件ではありません。
 男の側に落ち度がなくても、元妻は財産分与の請求をすることができます。
 なお、財産分与は、当事者の協議により行いますが、協議が調わない、あるいは、協議そのものができない場合には、家庭裁判所に、協議に代わる処分を請求することができます。
 しかし、これには期間制限があり、「離婚の時から2年」を経過すると、財産分与の協議に代わる処分を、家庭裁判所に請求することができなくなります。(民法768条2項)

財産分与と離婚の時期

 財産分与請求権は、離婚により生じます。
 その証拠に、民法768条1項には、協議上の離婚をした者は~財産分与を請求できると書いてあります。
 したがって、実際に分与するのは、離婚後です。
 仮に、離婚前に分与をすれば、税務署はこれを夫婦間の贈与とみなし、贈与税を賦課します。
 贈与税は税率が高いです。ですので、実務上も、離婚届→財産分与の順が当たり前の順序です。
 なお、離婚前に財産分与の協議が成立した場合、その効果は離婚の時に発生すると考えられています。
 この場合(例えば夫所有のマンションの所有権を元妻に財産分与した場合)の登記原因日付は、離婚の日(離婚届を出した日)になります。

財産分与と慰謝料

 離婚の際の財産分与と慰謝料はごっちゃに考えがちですが、一応は、別のものと考えられます。
 慰謝料というのは、不法行為における精神的損害の賠償のことです。
 ですので、慰謝料の場合には、男の側の有責性(故意・過失)が要件となります。
 つまり、責任がないのであれば慰謝する必要なし、というのがこの場合の考え方なのです。

判例の考え方

 判例は、財産分与と慰謝料は別物であると考えています。
 両者は性質が違うので、財産分与後に慰謝料の請求をすることもできます。
 しかし、判例は、財産分与の範囲を広く取る傾向にあります。
 そして、すでにした財産分与の中に、実質的に慰謝料分が含まれる場合があり、この場合は、重ねて慰謝料の請求をすることはできないという結論を取ります。

財産分与と詐害行為取消権

 財産分与により分与者の財産が減少する場合に、その者に対する債権者が財産分与を詐欺行為として取り消すことができるのでしょうか?
 判例は、一般的にはこれを否定します。離婚に伴う元妻や子の養育費が、夫の債権者に優先するということです。
 しかし、財産分与が不相当に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産の処分であると認められる特段の事情がある場合に限り、詐害行為取消権の対象になり得るとしています。

財産分与と債権者代位権

 離婚に伴う財産分与請求権を被保全債権として、債権者代位権の行使は可能なのでしょうか?
 わかりやすく言えば、離婚の際の離婚相手に対する「その財産分けてよこせ」という財産分与請求権(すなわち債権)を持つ債務者に対して、その債権を、債権者は代位行使できるのか?(すなわち債権者代位権を行使できるのか?)という事です。
 この問題について判例は、当事者間の協議または審判により財産分与請求権の内容が具体化するまでは、単に財産分与といっても、その範囲が不明確であり、したがって、そうした段階での債権者代位権の行使はすることができないとしています。
 これは、どういう財産の分与を受けるかという点が不明瞭のまま、単なる将来の見込みに基づく債権者代位権の行使はできないという趣旨です。
 まあ、これは当然と言えば当然と言えます。どんな財産をどれだけ受かられるかもハッキリしていない債権について「これぐらいはもらえるんじゃね?」という見込みだけで、債権者代位権の行使を可能としてしまうのはアカンやろ?という話です。

財産分与と内縁
離婚
 内縁とは、事実上の婚姻ではあるが、婚姻届を欠く場合を言います。
 例えば、10年間同棲しているが婚姻届は出していない、みたいな男女です。
 婚姻届が出されていない以上、これは法律上の婚姻とは認められません。
 いくら二人が愛を育んでいようとも関係ありません。
 では、法律上の婚姻と内縁の違いとは何でしょうか?
 法律上の婚姻と内縁の決定的な違いは、内縁の場合には、お互いがお互いを相続しないということです。
 法律上の婚姻においては、配偶者(パートナー)は当然に相続人となりますから、この点は大きな違いです。

 実は、民法には、内縁に関する条文は存在しません。
 しかし、世の中には内縁という状態も数多く存在しますから、これに関する裁判例も多く存在します。
 そして、この数々の裁判例が判例法となって、民法の不備を補完する形となっています。
 その際の裁判所の基本的な考え方は、内縁においても、事実上の婚姻生活は存在するわけですから、なるべく、法律婚に関する条文を類推して適用しようということです。
 最初に挙げた相互の相続権(お互いがお互いを相続する権利)は、その性質上、法律婚にしか認められません。(そうでなければ戸籍において相続人を確定しようとする民法の理想に反します)
 しかし、性質上、類推可能な条文、つまり、婚姻届の存在が必須の前提条件であるとは考えられない規定は、そのまま内縁関係にも適用をするといのうが判例の基本的な方向性です。

損害賠償請求と財産分与請求

事例1
AはBとの内縁関係を不当に破棄した。


 さて、この事例で、BはAに損害賠償請求をすることができるでしょうか?
 結論。損害賠償請求は可能です。
 その根拠として、婚姻予約の不履行または不法行為を理由として損害賠償を請求できるという判例が存在します。
 この点、離婚に際して、一方から他方への損害賠償請求があり得ることと同様です。
 また、内縁関係に不当な干渉をしてこれを破綻させた第三者が、不法行為による損害賠償責任を負うという判例もあります。 

 続いては、こちらの事例をご覧ください。

事例2
AとBは内縁関係を解消した。


 さて、この事例2で、BはAに対して財産分与の請求をすることができるでしょうか?
 結論。BはAに対して財産分与の請求は可能です。
 離婚のケースで財産分与請求ができるのと同様、内縁の解消の場合でも財産分与の請求は可能なのです。
 ただし、死別の場合、すなわち当事者の一方が死亡した場合には、財産分与請求はできないという判例があります。
 死別の場合に財産分与を認めると、事実上、内縁の者に相続権を与えたのと同様の結論となり、相続に関する民法の基本的な理念に反することになるからです。

 なお、内縁に類推適用される規定は他にもあります。
・婚姻費用の分担(民法760条)
・日常家事債務の連帯責任(民法761条)
・夫婦別産制(民法762条)
 上記の規定も、内縁に類推適用されます。

オマケ:内縁の妻が夫の相続財産を承継する方法
ここがポイント女性
 裏技という訳でもないですが、一応、内縁の妻が相続財産を承継する方法はあるっちゃあります。
 その方法を以下に解説します。

・夫に相続人がいる場合
 内縁の妻には相続権がありません。夫の財産を相続することはできません。
 この場合、夫の生前に「内縁の妻に遺贈する」という遺言を書いてもらうことが、内縁の妻に残された、夫の相続財産を承継するための最終手段だと言えます。
 逆に言えば、遺言が存在せず、生前の贈与または死因贈与を受けていなければもうお手上げです。

・夫に相続人がいない場合
 相続人が存在しない場合、内縁の妻は、その特別縁故者として夫の相続財産の付与の審判を求める申立てを家庭裁判所に対してすることができます。(民法958条の3)
 この申立てを家庭裁判所が認めれば、内縁の妻が夫の財産を承継することが可能になります。

 内縁の妻の方は、上記の方法で、夫の相続財産を承継することができますので、早めに手を打っておいた方が良いかもしれません(笑)。

【補足】
 相続人が不存在の場合に、家庭裁判所が相続財産を取得させる審判をすることができる特別縁故者とは以下の者です。(民法958条の3)
・被相続人と生計を同じくしていた者(内縁の妻はここに含まれます)
・被相続人の療養看護に努めた者(ここには法人も含まれます。例:福祉法人など)
・その他被相続人と特別の縁故があった者
 なお、上記の特別縁故者からの相続財産付与の申立てがないか、または、その請求が家庭裁判所に認められなかった場合、被相続人の財産は、原則として国庫に帰属します。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【嫡出子と非嫡出子と認知】【嫡出推定】【準正】成年・死後・婚姻外の認知/無効と撤回/非嫡出子の相続権と遺産分割

▼この記事でわかること
嫡出子と非嫡出子
嫡出推定
推定される嫡出子と推定されない嫡出子
嫡出推定の及ばない子
父を定める訴え
認知の基本~成年の認知と死後の認知
認知の無効、認知の撤回、法定代理人の同意
婚姻外の認知
非嫡出子の相続権と遺産分割
準正
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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嫡出子と非嫡出子

 嫡出子とは、婚姻関係の夫婦間の子のことです、
 非嫡出子とは、婚姻していない男女間の子のことです。
 例えば、夫Aと妻Bの子は嫡出子であり、夫Aと愛人Cの子は非嫡出子となります。ですが、嫡出子と非嫡出子はいずれも夫Aの子です。
 嫡出子が夫Aの子となるためにAの認知は不要です。しかし、非嫡出子は認知によって初めて法律上の夫Aの子となります。

非嫡出子と父母

 民法779条は、嫡出でない子は、その父または母がこれを認知することができると規定します。
 通常、問題になるのは父の方です。父が認知をしなければ、子は法律上、父のない子となります。子は母の戸籍に入り、その戸籍上の父の欄は空欄となるのです。
 昔、カルメンマキの「時には母のない子のように」という歌がありましたが、父が認知しない子は「父のない子のように」なってしまいます。なんて余談はさておき...
 これに対して、母と子の関係認知がなくても分娩により当然に発生します。つまり、認知せずとも母と子は(分娩により)法律上の親子となります。

嫡出子

 嫡出子とは、婚姻による子です。
 母の懐胎の期間中、ずっと父母が婚姻中であれば、嫡出子かどうかについての疑義は生じません。
 つまり、父母が婚姻をして1年後に母が父の子を懐胎し、そのまま出産した子が嫡出子であることは誰の目にも明らかです。
 しかし、婚姻してすぐに生まれた子、あるいは離婚後に生まれた子の場合には、果たして嫡出子の身分を取得するのでしょうか?
 この点については、母の懐胎期間のうち、一部でもその父母の婚姻期間に該当すれば嫡出子になると考えることができます。
 例えば、婚姻後すぐに子が出生した、いわゆる出来ちゃった婚の場合でも、嫡出子出生届出は受理されるのが実務の取扱いです。
 また、離婚後の子でも、離婚前に懐胎していれば、嫡出子の身分を取得することができます。
 
 以上、ここまでは、子が父母の子であることを前提としての解説です。
 それでは、父母の子ではない子を嫡出子として届け出るとどうなるのでしょうか?

非嫡出子

事例1
婚姻中の父母が、アカの他人の子を嫡出子として出生届を出した。


 この事例1の場合、父母と子の間に親子関係は生じません。
 この出生届は虚偽の届出あり無効です。
 また、この出生届を養子縁組の意思によるものと考えることもできません。
 そもそも出生と縁組では、その意味するところが違います。
 出生届は自然血族の発生に関する届けであるのに対して、養子縁組は法的血族関係の発生に関する届けであり、その性質がまったく異なるのです。
 
 続いては、こちらの事例をご覧ください。

事例2
婚姻中の父母が、父が愛人に生ませた子を嫡出子として出生届を出した。


 この場合は、父と愛人の子に法律上の親子関係が生じます。
 事例2の場合、愛人の子とはいえ、確かに父の子ではあります。
 そこで、この出生届に認知届としての意味を持たせるのが判例の考え方です。
 出生届には、自己の子であることの申告という意思が含まれていますから、その点で、認知としての効力が発生するということです。
 したがって、事例2の場合は、非嫡出子として法律上の父子関係が生じます。

嫡出推定
妊婦(胎児)
 子の父が誰かは母しかわからない、と言われることがあります。
 これはある意味核心かもしれません。
 そしてこの点は、民法のおいても大きなテーマであり、少々ややこしい規定が存在しています。
 基本的な考え方としては、民法は嫡出推定という制度を設け、夫婦間の子は夫の子であると推定します。(あくまで推定)
 そして、この推定を覆すためには、嫡出否認の訴えという、きわめて厳格な訴訟手続による方式だけを認めています。
 これは、身分関係の安定を優先した民法の態度の現れと言えるでしょう。
 民法の規定はこちらです。

(嫡出否認の訴え)
民法775条 
前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。


(嫡出否認の訴えの出訴期間)
民法777条 
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。


 この民法775条と民放777条が、嫡出される子について、夫が「俺の子じゃない」と父子関係を切るための方法を定めた条文です。

 出訴期間は、子の出生を知った時から1年です。
 この期間は、法律実務の感覚からすれば、極めて短いと言えます。
 そして、この期間を経過すれば、夫が子の法律上の関係を切る方法は存在しなくなります。DNA鑑定をしても無駄なことです。

 嫡出否認の訴えの被告(訴える相手)は、子または親権を行う母です。
 通常は、子は幼少であるでしょうから、親権を行う母を被告とします。
 これが存在しない場合、つまり、母がいないか、いても母に親権がない場合には、裁判所が特別代理人を選任します。
 もちろん、特別代理人は子を代理します。子が被告であり、その代理人という意味です。
 しかし、子に意思能力がある場合、または、子が成人している場合(この場合母に親権はない)には、子を被告席に座らせることができます。
 このケースは、夫が子の出生を、出生日からかなりの月日が経ってから初めて知った、そして、その時点から1年以内に嫡出否認の訴えを提起したという極めて例外的な場合です。
 以上が、嫡出否認の訴えの概要です。
 この訴訟は、推定される嫡出子の、その推定をひっくり返すことを目的とします。 

【補足1】親権を行う母を被告とするわけ
 子を代理するのは法定代理人です。
 なので、子に意思能力がなければ、法定代理人が被告となります。
 これが民法の常識です。
 ではなぜ、民法は、この嫡出否認のケースに限り被告を親権を行う母に限定したのでしょうか?
 答えは簡単です。
 ここで先述にもある話が出て来ます。
 そう。子の真実の父は母しか知らない、です。
 事情が本当にわかるのは母しかいないので、原則として母が被告なのです。

【補足2】嫡出の承認
 民法776条は、先述の出訴期間を経過せずとも、夫が子の出生後に、子の嫡出性を承認したときには否認権を失うとしています。
 ここで問題になるのが、子の出生届です。夫が役所で子の嫡出子出生届を出した場合、民法776条のいう嫡出性の承認に該当するのでしょうか?そうだとすれば、夫は子の嫡出性を争うことは不可能になります。
 しかし、判例はこの考え方を採用しません。つまり、夫は戸籍法が定める公法上の義務として出生届を提出した(提出しない場合、過料の規定がある)に過ぎず、その事をもって嫡出性を承認したことにはならないのです。

推定される嫡出子と推定されない嫡出子

 実は、嫡出子には、推定される嫡出子と推定されない嫡出子がいます。
 どちらも、嫡出子には違いないのですが、嫡出否認の制度は、あくまでも推定される嫡出子の嫡出性を否認する制度であり、推定されない嫡出子とは無関係です。
 では、民法は、どういう場合に子の嫡出子の推定(夫の子であるという推定)が働くしているのでしょうか?
 民法の規定はこちらです。

(嫡出の推定)
民法772条 
1項 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2項 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。


 この民法772条の規定により、ある夫婦が存在したとして、その婚姻届を出した日から200日後、そして、離婚、死別、婚姻取消から300日以内に生まれた子が、夫の子と推定される嫡出子となるのです。
 ということは、例えば、デキちゃった婚で婚姻届を出してから半年後(つまり200日以内)に生まれた子がいた場合、この子は嫡出子の身分は取得するが、夫の子であるという推定は働かない子であるということになります。
 この場合に、夫が「この子は俺の子じゃない」と思ったらどうすればいいのでしょうか?
 この子に対しては、嫡出否認の訴えなどという厳格な手続は要しません。
 つまり、民法上の推定を覆そうと汗を流す必要はないのです。
 単に、親子関係不存在確認の訴えを提起し、勝訴すれば父子関係を切ることができます。
 親子関係不存在確認の訴えは、文字通り「この子は俺のじゃない」のでその事実をご確認願います、というだけの意味です。事の性質上、出訴期間の定めなどありません。
 つまり、子の出生を知ってから何年経過しようがこの訴えの提起は可能です。

嫡出推定の及ばない子

 推定の及ばない子と推定されない嫡出子は別の概念です。
 嫡出推定の及ばない子の場合、父母は婚姻中なのです。しかし、それにも関わらず嫡出子の推定が及ばないのです。
 以下に具体例を挙げます。
・明らかに異人種の子
・夫が長期海外出張中の子
・夫に生殖機能がないことが医学的に明らかな場合
 こういう事例では、子には嫡出推定が及びません。
 したがって、夫による「この子は俺の子じゃない」という主張は、親子関係の不存在確認という形ですることができます。

父を定める訴え
裁判所
 再婚禁止期間中に女が再婚をし、この婚姻届が誤って受理されると、その後に出生した子の出生日が「前婚の解消または取消しから300日以内」であり「後婚の成立の日から200日を経過した後」、という困った事態が生じ得ます。
 子の嫡出推定が重なり、前婚と後婚の双方の父の嫡出子と推定されてしまう訳です。
 この場合、民法773条は、裁判所がその子の父を定めると規定しています。
 これを、父を定める訴えと言います。
 この訴えに出訴期間の定めはありません。(何年経過しようが訴え可能)

認知

 認知は、戸籍の届出によってします。(民法781条1項)
 また、遺言によりすることができます。(民法781条2項)
 民法は、遺言によりすることができることを厳格に定めます。
 それは、遺言は、相続がらみの問題を生じるので、紛争を避けるために遺言の要式やその内容をきっちりと決めておく必要があるからです。

 遺言による認知を認めた趣旨は、父である男の側に、生きている間は認知をしにくいという事情もあろうかという点を考慮してのことです。
 認知は、戸籍に記載されますから、万一、愛人の子の存在が妻に知れたら「男は非常に困る」ことがあり得るのです。
 そこで、妻に怒られる心配のない、死と同時の認知を制度化したのです。
 認知により子は父を相続することができますから、子の福祉にも適うわけです。

成年の子の認知

 成年の子は、その承諾がなければこれを認知することはできません(民法782条)。これは、例えば、父が成人した子を認知する場合の規定です。
 子はすでに成人しています。したがって、父による扶養の必要はないと考えられます。
 しかし、今後、父は老います。したがって、認知により父子間に血族関係が生じると子の父への扶養義務が生じ得ます。
 つまり、成人の子を認知するということは、父は自らは子の扶養をしなかったにもかかわらず、その老後の扶養を子に求めることになりかねません。それはつまり、父の身勝手とも言えるので、認知をするために子の承諾がいるとされています。 

死後の認知

 続いて、次のような場合の認知はどうなるのでしょうか?

事例3
A男には婚姻外の子がいたが、幼少時に死亡した。


 この事例3は、婚姻していない男女の間に生まれた幼い子供がいたが、まだ幼いうちにその子が死亡してしまった、という話です。
 さて、ではA男は、子の死後に認知をすることができるのでしょうか?
 結論。認知をすることはできません。
 子の死後においては、通常の場合、認知をすることはできないのです、
 なぜなら、認知できたとしても、子が扶養を受けることもなく、子が父を相続することもありません。
 つまり、子の死後に認知をすることができても、子にとって実益がないのです。
 しかし、子にも子がいるケースは例外です。
 例えば、A男に成人の子がいて、その子にも子(A男にとっての孫)がいるケースです。
 この場合、父が子を認知することにより、父と孫が直系血族となります。となると、孫は父に扶養を請求できますし、また孫が父を相続することもできます。
 つまり、このケースなら、孫の福祉に適うから死後の子の認知が認められるのです。(民法783条2項)
 しかし、先述の成人の子の場合と同様、孫が成人であれば、その者の承諾がなければ認知をすることはできません。
 認知をするには、父または母が未成年者または成年被後見人であっても、その法定代理人の同意は要しません。(民法780条)
 身分行為については、本人に意思能力があれば、その意思によるべきであり、第三者の同意はなじまないのが原則なのです。

色々な認知
認知の無効、認知の撤回、法定代理人の同意


 ここから、さらに認知の様々なケースについて、事例とともに解説して参ります。
 なお、Aが父、Bが子、という前提です。

事例4
第三者が父Aの名を語り認知届を出した。なお、父Aと子Bの間には真実の父子関係かある。

 
 さて、この事例での認知は有効でしょうか?
 結論、この認知届は無効です。
 認知は、法律上の父子関係を創設する意思表示と考えられますから、認知者本人の意思に基づかなければ無効です。
 つまり、認知とは、単に父子であるという事実の申告ではなく、法律上の父子になろうという意思の申告なのです。

事例5
父Aが認知届を出した後死亡した。


 さて、この事例で、父Aと子Bの間に父子関係がない場合、子Bは認知の無効を主張できるでしょうか?
 結論。認知の無効を主張できます。
 届出上の父子間に実際の血縁関係が存在しないので、認知は無効なのです。
 父の生前は父を被告として、父の死後は検察官を被告として、子Bは上記の無効主張をすることになります。
 この事例5では、父は死亡しており、その代理人という存在はあり得ませんから、やむを得ず検察官が被告(無効主張する相手)となります。

参考条文
(認知に対する反対の事実の主張)
民法786条 
子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。


事例6
父Aは認知届を出した。しかし、その後に気が変わった。


 さて、この事例で、父Aは認知の撤回をすることはできるでしょうか?
 結論。一度した認知の撤回は不可能です。
 認知をした父または母は、その認知を取り消すことができません。(民法785)
 ここに言う取消しとは、撤回の意味であると解釈されています。

事例7
未成年の父Aは、子Bの認知をしようとした。


 さて、この事例で、未成年の父Aは、子の認知をするために法定代理人の同意を要するでしょうか?
 結論。法定代理人の同意は要しません。
 民法780条の規定「認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない」により、父が未成年であっても、法定代理人の同意は要しません。

認知と子の氏
赤ちゃん
 民法790条2項は、嫡出でない子は母の氏を称すると規定しています。
 婚姻外の子は母の戸籍に入り、母と同じ氏を称します。
 さて、ここで父が認知をするとどうなるのでしょうか?
 どうにもなりません。
 子の氏は、子に独立のものですから影響を受けないのです。
 しかし、この場合は、子が父または母と氏を異にする場合に該当しますから、家庭裁判所の許可を得て、父の氏に変えることができます。(民法791条1項)
 このケースでは、父母が婚姻中ではありませんから、家庭裁判所の許可は必須です。
 また、父が子を認知しても親権者は母のままですが、父母の協議で父を親権者と定めたときは、父が親権者となります。(民法819条4項)

【補足】胎児の認知
 父が胎児の認知をすることは可能です。しかし、そのために母の承諾を要します。
 常識的に考えても「お前のお腹の子は俺の子だ」という態度は、女性に対して失礼ですよね。なので、母の承諾を要するのです。(民法783条1項)

婚姻外の認知

事例8
A男とB子が、内縁関係を始めて、200日経過後に娘Cが出生した。


 さて、この事例で、娘CはA男の子と推定されるでしょうか?
 まず、この問題は嫡出推定の話とは直接の関係はありません。
 なぜなら、A男とB子が法律上の夫婦ではないので、嫡出子になるわけはないのです
 しかし、この場合、判例は、娘CはA男の子であると事実上推定されるとしています。
 すなわち、AC間に血の繋がりがあるかどうかが、裁判上の争点となったとき、事実上の問題として、娘CはA男の子と推定され、これを否定する場合、A男の側に親子ではないことの立証が求められることになります。

事例9
A男とB子の間に、婚姻外の娘Cがいる。しかし、A男は認知をしない。


 さて、この事例で、娘CからA男に対して認知を強制することはできるでしょうか?
 結論。できます。強制認知という方法が存在します。
 民法の規定はこちらです。

(認知の訴え)
民法787条 
子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない。


 上記、民法787条の規定により、この訴訟は、父が生存中であれば、いつでも提起することができます。
 この場合、父子間に血縁関係が存在するかどうかが争点となります。

事例10
A男とB子の間に、婚姻外の娘Cがいる。その後、A男が死亡した。


 さて、この事例で、娘CがA男の認知を求めることはできるでしょうか?
 結論。父または母の死亡後は、死亡の日から3年間に限り、認知の訴えを提起することができます。(民法787条ただし書)
 この訴えの被告は検察官です。民法上、死者の代理人は考えにくいからです。(代理は本人に権利義務を帰属させる制度です。死者には権利能力がないからその代理という仕組みは基本的に存在しません)
 なお、訴えが可能な時期は、死亡後3年までであり、子が父の死亡の事実を知った時から3年ではありません。

【補足】
父の死後に強制認知をした非嫡出子の相続権

 認知の効力は子の出生にさかのぼります。(民法784条)
 したがって、死後に認知された場合でも、子は出生のときから父の子です。
 つまり、父の死亡時にも子として存在したことになります。なので、父の死後に強制認知をした非嫡出子には相続権が発生します。

非嫡出子の相続権と遺産分割
指差し男性
 遺産分割とは、共同相続人が死者の遺産分けをすることを言います。あの土地は長男、株は次男、預貯金は三男という具合です。
 遺産分割は、相続人全員でしなければその効力を発生しません。
 なので、例えば、死者が生前に認知した非嫡出子の存在を知らずに(まさか故人に愛人の子がいるとは知らなかったケース)、他の共同相続人が遺産分割をしても、それは無効です。
 しかし、相続の開始後、認知によって相続人となった者がいる場合、つまり、典型的には死後の強制認知の場合に、他の共同相続人が認知前にした遺産分割協議は無効とはなりません。(民法910条)
 この場合には、認知された子は価額のみによる支払の請求額を有することになります。
 すなわち、他の共同相続人の遺産分けは有効だが、認知された子の取り分はお金を渡すという形になるわけです。

【補足】胎児の権利能力

 胎児は認知の訴えの提起はできません。
 それは、認知の訴えの提訴権者が「子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人」と規定されているから(民法787条)でもありますが、一般論として胎児には権利能力がないので、訴訟の場合に、訴状に原告胎児とは書けないからとも言えます。
 なお、例外的に、次のケースでは、胎児の権利能力が認められています。いずれも、生まれてくる子の財産を確保しようという趣旨の規定です。
・不法行為の損害賠償請求権(民法721条)胎児が加害者に損害賠償請求をすることができる。
・相続権(民法886条1項)胎児の相続権が認められます。
・受遺能力(民法965条)胎児に対する遺贈は有効である。

準正

 準正は、非嫡出子が、嫡出子の身分を取得する仕組みです。
 その要件は次の2つです。
・父母が婚姻すること
・父が子を認知すること
 上記2つの要件がそろえば、例外なく、子は嫡出子の身分を取得します。
 元々、婚姻中の父母の子であれば、嫡出子の身分を取得できますので、父母の婚姻、認知の2つの要件が時期をずらして満たされた場合でも、子が嫡出子となるという仕組みです。

 婚姻によって準正が生じる場合、つまり、認知先行型を婚姻準正と言います。
(準正)
民法789条1項
父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。


 認知によって準正が生じる場合、つまり、婚姻先行型を認知準正と言います。
(準正)
民法789条2項
婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子の身分を取得する。


 この民法789条の条文が言っていることは極めて明快です。
 1項の認知先行型、すなわち婚姻準正の場合は、婚姻により非嫡出子は嫡出子となります。
 2項の婚姻先行型、すなわち認知準正の場合は、認知により非嫡出子は嫡出子となります。

 では、どの場合に準正が生じ得るのか?いくつかのケースに分けて解説して参ります。

1・父が死亡した場合

 これは、例えば、子の出生後に父母が婚姻し(この時点では父が子を認知していないから父と子の関係は姻族1親等であり法律上の親子関係は存在しない)、その後に父が死亡した場合です。
 一例として、父の死後3年以内に子が認知の訴えを提起し、これが認められれば認知準正が生じます。

2・母が死亡した場合

 準正が生じる事があり得ます。
 例えば、子の出生後に父母が婚姻し、その後に母が死亡したとします。
 その後、父が子を認知すれば準正が生じ、子は嫡出子の身分を取得します。

3・子が死亡した場合

 準正が生じる事があり得ます。
 例えば、子の出生後に父母が婚姻し、その後に子が死亡したが、その子にさらに子(父母から見れば孫)がいたため、父が死亡した子を認知することができたケースです。

〈参考条文〉
民法789条3項
前二項の規定は、子が既に死亡していた場合について準用する。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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Author:根本総合行政書士
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