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【法定地上権の超基本】4つの成立要件/法定地上権が成立しない共同担保のケースとは
【2番抵当権が絡んだ法定地上権】成立するのか?様々なケースを解説
【不動産が共有の場合の法定地上権】
【一括競売】土地の競売価格下落の防止と社会経済的な損失の防止とは?一括競売制度の意味
素材62

【法定地上権の超基本】4つの成立要件/法定地上権が成立しない共同担保のケースとは

▼この記事でわかること
法定地上権の超基本
コラム~更地と底地とは
法定地上権が成立する場合の土地買受人の地位と抵当権者
法定地上権の要件
要件を満たしても法定地上権が成立しない場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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法定地上権の基本

 法定地上権とは、一定の要件を満たすと、法律の定めにより自動的に設定される(発生する)地上権です。
 それでは、事例とともに法定地上権について解説して参ります。

事例1
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBは建物に抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、抵当権が実行され、競売によりCが建物を取得した。


 この事例で、抵当権を設定した時の土地と建物の所有者はBです。
 ところが、抵当権が実行されて、競売によりCが建物を取得すると

土地の所有者→B
建物の所有者→C

となります。
 それの何が問題なの?
 確かにこれだけ見れば何も問題ありませんね。
 ただ、よく考えてみてください。抵当権を設定した時、土地と建物の所有権は両方ともBのものでした。ということは、土地利用権(借地権)は設定されていません。当たり前ですよね。土地もBの自己所有ですから。
 となると、抵当権が設定されたのは建物のみなので、抵当権の効力は建物だけ、すなわち「建物の所有権」だけに及びます。
 ということは、競売により建物を取得したCには、建物の所有権はあっても土地の利用権はない、ということになります。
 するとCは、B所有の土地上に土地利用権なく建物を所有していることになります。これは、土地の不法占拠者ということになってしまいます。
 そして、不法占拠者となってしまったCには建物の収去義務が生じ、土地の所有者Bから土地の引渡し請求を受けてしまうことになります。
 これって、どう思います?ハッキリ言って、かなり問題アリですよね。
 こんな結果になってしまうのであれば、競売によってCが建物を取得する意味がありません。そもそも、こんな結果になるなら誰も競売に手を出さなくなります。
 そうなると、競売に出された建物にはロクな値段がつかなくなります。すると、もはや建物を担保とする抵当権自体が意味のないものになってしまいます。
 さらに、問題はそれだけではありません。
 もし競売により取得した建物を収去しなければならないとなると、全国の競売取得の建物が取り壊される事になり兼ねません。それは、社会経済的に大きな損失であり、我が国の経済の発展を阻害することににも繋がります。
 そこで!大変お待たせいたしました、いよいよ、法定地上権の登場となります。
 民法では、このような事態を解消するため、法定地上権の規定を置きました。その規定により、事例のCは、競売により建物を取得すると、自動的に土地の地上権が設定されます。すると、Cは土地の不法占拠者ではなくなり、土地の地上権者として堂々と建物を所有し、利用することができます。
 以上が、法定地上権の基本の解説になります。まずはここをしっかり押さえてください。

ちょこっとコラム
~更地と底地~

空地
 建造物等の上物が無い状態の土地(簡単に言えばまっさらな土地)を更地と言います。
 一般に、土地の価値は、更地(さらち)が一番高いです。
 一方、土地利用権(借地権)の付着した土地を底地(そこち)と言います。
 底地の価値は更地に比べて格段に下がります。なぜなら、底地は所有者自身で利用できないからです。
 そして、事例1のような競売の買受人Cに自動で法定地上権が設置されるということは、地には底地の価値しか残らないということです。そして、同じ借地権でも地上権は賃借権よりもかなり強い権利です。(この点についての詳しい解説は「【借地権】賃借権と地上権の違い」をご覧ください)
 したがって、法定地上権が自動で成立するということは、抵当権者および買受人に非常に有利で、抵当権設定者(土地の所有者)には不利ということになります。
 こういった点においても、抵当権の強さが表れていると言えるでしょう。

土地のみに抵当権を設定した場合

 それでは続いて、土地と建物のうち、土地のみに抵当権が設定され、抵当権が実行された場合はどうなるのでしょうか?

事例2
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBは、土地に抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。


 この事例2では、競売によりCが甲土地を取得したことにより

土地の所有者→C
建物の所有者→B

となります。
 さて、ではこの事例の場合、建物の所有者Bのために、法定地上権は成立するでしょうか?
 もし、法定地上権が成立しないとなると、競売でCが土地の所有権を取得したことにより、Bは土地の利用権なく土地上に建物を所有していることになり、不法占拠者となってしまいます。不法占拠者となってしまうということは、建物の収去義務が生じ、Cに土地の収去請求をされたら、建物を取り壊さなければならなくなります。

 さて、Bの運命やいかに?

 結論。この事例2で、Bのために法定地上権は成立します。理由は、社会経済的な損失の防止です。
 土地の所有権が競売により他人のものになる度に、その土地上の建物を取り壊していたら、それは社会経済上よろしくありません。ひいては我が国の経済の発展を阻害します。
 よってBは、競売によりCが土地の所有権を取得した後も、法定地上権が自動的に設定されることにより、問題なく土地上の建物を使い続けることができます。

法定地上権が成立する場合の土地買受人(事例のC)の地位

 さて、事例2で法定地上権が成立するとなると、競売により土地を買い受けたCは困らないのでしょうか?
 というのも、Bのために法定地上権が成立するということは、せっかくCは土地を買い受けたのに、自分で土地を利用できないことになります。つまり、Cは土地利用権のない、いわゆる底地を買い受けたことになります。それはCにとって問題ないのでしょうか?
 実は、それについては問題ありません。なぜなら、そんなことはわかった上で、Cは土地を買い受けているはずだからです。
 というのも、そんな事情がある土地は、底地として相当に叩かれた破格の値段で競売にかけられているはずです。ですので、そんな事情に見合った金額でCは買い受けているはずなのです。
 つまり「そんな事情があるけどこの値段なら」と、Cは買い受けているということです。

土地にそんな値段しかつかないなら、抵当権者Aが困らないのか

 これについても問題ありません。なぜなら、土地が底地として大した値段がつかないことを前提に、抵当権者AはBに対する融資の金額を決めているはずだからです。
 ですので、いざ抵当権を実行して土地を競売によってCが取得して、Bのために法定地上権が成立したからといって、抵当権者Aには特段の損失にならないのです。そんなことは、抵当権者Aにとって元々織り込み済みの想定内の事なのです。

法定地上権の要件
四本指
 法定地上権は、一定の要件を満たすと、法律の定めにより自動的に設定される(発生する)地上権です。
 では、その「一定の要件」とは何なのでしょうか?
 法定地上権が成立するには、以下の要件を満たしている事が必要になります。

1・抵当権設定時に土地上に建物が存在すること
2・抵当権設定時に土地と建物が同一の所有者に属すること
3・土地か建物のどちらか、または両方に抵当権がされること
4・所有者が競売により異なるに至ること

 これらの要件をすべて満たして初めて、建物所有者のために法定地上権が成立します。
 ここで大事な論点としては、1と2の要件についてになります。3と4の要件については、文章そのままに理解するだけで問題ありません。
 ということで、1と2の要件について、ひとつひとつ解説して参ります。

1・抵当権設定時に土地上に建物が存在すること
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 まずはこちらの事例をご覧ください。

事例3
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBは、土地だけに抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、火災により建物が滅失したので、Bは新建物を再築した。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。


 この場合、再築した新建物のために法定地上権が成立します。なぜなら、一度建物が滅失したとはいえ、抵当権設定時には土地上に建物が存在していたからです。
 ただし、このケースでは、法定地上権の成立範囲というものがあります。成立範囲は、原則として旧建物と同一の範囲です。
 これはどういう意味かといいますと、仮に再築した新建物が旧建物に比べてあまりにガッチリした強固な建物だとします。その場合は、法定地上権の成立は難しくなります。なぜなら、抵当権を害することになるからです。
 土地は、更地の方が価値が上がります。別の言い方をすれば、土地上に取り壊しづらい建物があるほど、土地の価値は下がります。
 したがって、旧建物に比べてあまりにガッチリした新建物が再築されてしまうと、その結果として土地の価値が下がり、競売時の値段にも影響します。それは抵当権者にとって予期せぬ負担になってしまいます。ですので、このようなケースで法定地上権が成立するためには、その成立範囲は旧建物と同一の範囲(旧建物と同レベルの範囲内)でなければならないのです。

【更地に抵当権が設定された後に土地所有者が建物を建築した場合】

 この場合、法定地上権は成立しません。なぜなら、抵当権設定時には更地だったからです。
 もし、この場合に法定地上権が成立してしまうと、競売時の土地は底地として価値の低い評価の値段になり、更地としての価値を評価して抵当権を設定した抵当権者に損害を与えてしまいます。
 また、もし抵当権設定時に、抵当権者が土地上に建物を建築することを承諾していた場合でも、法定地上権は成立しません。なぜなら、承諾の有無などという主観的な事情が法定地上権の成立に影響を与えてしまうと、競売等の問題も含め法的安定性が害されるからです。
 したがいまして、更地に抵当権が設定された後に土地所有者が建物を建築したケースで、抵当権が実行され、その土地を競売により取得した買受人は、建物所有者に対して建物の収去と明渡しを請求できます(法定地上権が成立しないから)。

2・抵当権設定時に土地と建物が同一の所有者に属すること

 これは読んだとおりで、抵当権設定時に、土地とその土地上の建物の所有者が同一でないと法定地上権は成立しない、という意味です。ここは単純に考えてください。
 ただ、次のような微妙なケースもあります。

事例4
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有しているが、建物の登記は前主のままである。そしてBは抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。


 さて、この場合、法定地上権は成立するでしょうか?
 実はこのケースでも、法定地上権は成立します。
 これは意外な結果だと思う方も多いと思います。では、なぜそうなるのか?ですが、ここは単純に「そういうルールになっているんだ」と覚えてください。一応理屈はあるのですが、それがよくわからない理屈なので(笑)。
 なお、このケースは試験で問われやすいので、とにかくこの結論をしっかり押さえておいてください。

【抵当権設定時には土地と建物が同一の所有者だったが、その後に土地または建物が譲渡され、土地と建物の所有者が異なるに至った場合】
 このケースも法定地上権は成立します。あくまで抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一であればいいということです。

【借地人が借地上の自己所有の建物に抵当権を設定後、その土地の所有者が借地人からその建物を買い受けた場合】
 これはどういう事かというと、Aが地主の土地にB所有の甲建物があって、甲建物に抵当権が設定された後、地主AがBから甲建物を買い取った場合、その後に抵当権が実行されて甲建物が競売により誰かに買い受けられたとき、法定地上権は成立するのか?という話です。
 結論。このケースでは、法定地上権は成立しません。
 これはわかりますよね。抵当権が設定された時に土地と建物の所有者が同一ではありませんから。
 抵当権が設定された時に土地と建物が同一の所有者ではないということは、そもそもその時点で土地利用権が設定されているはずなので、わざわざ法定地上権が成立する必要がないのです。

要件を満たしても法定地上権が成立しない場合

 実は、上記の4要件すべてを満たしても、法定地上権が成立しない例外的なケースがあります。
 それは、土地と建物の両方に抵当権を設定した共同担保の、次のようなケースです。

事例5
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBはAから融資を受けるため土地・建物の両方に抵当権を設定した(共同担保)。抵当権者はAである。その後、Bは建物を取り壊し、新建物を再築した。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。


 抵当権は物権です。物権は物に対する権利です。ですので、目的とする物が無くなれば権利も消滅します。
 ということは、この事例5では、抵当権の目的となっている建物が一度取り壊された時点で、物権である抵当権は消滅することになります。
困惑女性
 でもこれってどうでしょう?
 抵当権者Aにとっては、ちょっと理不尽な話ですよね。Bが勝手に建物を取り壊したことで、建物への抵当権が消滅してしまうとなると、元々、土地と建物のセットでの担保として評価した価値を見た上で抵当権を設定して、AはBに融資をしているわけですから、その抵当権者Aの担保(抵当不動産)への期待を裏切ることになりますよね。
 そして、その期待への裏切りは、実際に抵当権が実行されて競売が行われたときに顕在化します。
 建物の抵当権が消滅するとなると、残る抵当権は土地だけになります。これは元々の土地・建物セットの担保評価と比べてかなり低いものとなってしまいます。なぜなら、その土地の評価は、底地としての評価になってしまうからです。
 したがって、Bが建物を取り壊したことによって建物への抵当権が消滅すると、残る土地のみの担保価値は底地としての評価になるので、競売にかけても大した値段にならず、被担保債権の弁済が満たせなくなる可能性が高いのです。
 ということは、つまり、Bが建物を取り壊した行為は、抵当権者Aに対する重大な背信行為と言えるでしょう。

Bが抵当権者Aに対して重大な背信行為をしたことと、法定地上権の不成立がどう関係あるのか

 法定地上権の成立は、建物の所有者Bの保護になります。なぜなら、法定地上権が成立しないとなると、競売により土地の所有者がCになり、BはCの土地上に土地利用権なく建物を所有することになり、不法占拠者という扱いになってしまうからです。それが法定地上権の成立によって不法占拠者ではなくなるからです。
 さて、では改めて、事例5の状況を考えてみてください。先ほどの説明から、Bは抵当権者Aに対して重大な背信行為をしたと言えますよね。そのような人間を法定地上権を成立させて保護する必要ありますかね?
 したがいまして、事例5では、法定地上権の成立のための4要件すべてを満たしてはいますが、例外的に法定地上権が成立しないのです。
 なお、法定地上権が成立しないということは、競売によりCが土地を取得し所有者となった時点で、Bは不法占拠者という扱いになります。不法占拠者となってしまうということは、Bには建物の収去義務が生じます。
 したがいまして、事例5では、例外的に法定地上権が成立せず、建物の買受人Cは、Bに対して建物の収去請求をすることができます。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【2番抵当権が絡んだ法定地上権】成立するのか?様々なケースを解説

▼この記事でわかること
抵当権順位の基本
土地に2番抵当権のケース
建物に2番抵当権のケース
更地に1番抵当権設定後、築造された建物に2番抵当権のケース
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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2番抵当権が絡んだときの法定地上権
抵当権順位の基本

 ひとつの不動産に複数の抵当権を設定することもできます。
 その場合、「1番抵当権」「2番抵当権」というように、各抵当権には順位が付きます。順位が付くということは、順位が高い抵当権ほど優先的に被担保債権の弁済を受けられます。

 なお、順位は付きますが、1番抵当権よりも先に2番抵当権を実行することは可能です。
 ただし、2番抵当権が先に実行されても、優先的に被担保債権の弁済を受けるのは1番抵当権者です。
 どういうことかと言いますと、こうです。
 例えば、3000万円の土地に1番抵当権、2番抵当権が設定されて、1番抵当権者の被担保債権の額が1000万円、2番抵当権者の被担保債権の額が500万円だったとします。
 この場合に、2番抵当権が先に実行されると、土地が競売にかけられ、その売却代金から2番抵当権者は被担保債権の弁済を受けますが、先に1番抵当権者の被担保債権1000万円の弁済に充ててから、残りの売却代金から2番抵当権者は被担保債権の弁済を受けます。
 つまり、2番抵当権が先に実行されても、先に被担保債権の弁済を受けるのは1番抵当権者になります。

 以上が、ひとつの不動産に複数の抵当権が設定できることについての簡単な説明になります。
 とりあえず、ここで覚えておいていただきたいことは、ひとつの不動産に1番抵当権、2番抵当権と設定された場合に、先に2番抵当権を実行することもできるということです。
 この点を押さえた上で、ここからは、不動産に1番抵当権、2番抵当権と設定されたケースでの、法定地上権の問題について解説して参ります。(法定地上権についての詳しい解説は「【法定地上権の超基本】4つの成立要件」をご覧ください)

土地に2番抵当権

 まずはこちらの事例をご覧ください。

事例1
A所有の甲土地上に、B所有の乙建物がある。Cは甲土地に1番抵当権を設定した。その後、AはBから乙建物を取得した。その後、Dが甲土地に2番抵当権を設定した。


 これは、若干ややこしく感じる事例かもしれません。
 ですので、まずはこの事例1の流れと状況を整理・確認します。

B所有
 ⇩
乙建物
甲土地←1番抵当権(C)
 ⇧
A所有

その後、Aが乙建物を取得
Dが甲土地に2番抵当権を設定

A所有
 ⇩
乙建物
甲土地←1番抵当権(C)
 ⇧ ↖
A所有 2番抵当権(D)

 以上が、事例1の流れ・状況になります。
 さて、ではこの事例1で、Cが1番抵当権を実行した場合、法定地上権は成立するでしょうか?
 法定地上権が成立するための要件は以下になります。

1・抵当権設定時に土地上に建物が存在すること
2・抵当権設定時に土地と建物が同一の所有者に属すること
3・土地か建物のどちらか、または両方に抵当権がされること
4・所有者が競売により異なるに至ること

 以上の4要件すべてを満たして法定地上権が成立します。
 では、事例1はどうなのか?
 Cが甲土地に1番抵当権を設定した時、甲土地と乙建物の所有者は同一ではありませんので、2の要件「抵当権設定時に土地と建物が同一の所有者に属すること」を満たしていません。
 しかし、2番抵当権を設定した時は、甲土地と乙建物の所有者は同一になっています。

 さて、結果はどうなるのか?

 結論。Cが1番抵当権を実行しても、法定地上権は成立しません。
 なぜなら、1番抵当権の設定した時には、甲土地と乙建物の所有者が異なるからです。
 たとえ2番抵当権が設定された時に土地と建物が同一の所有者となっていても、それは1番抵当権には関係ありません。
 なお、この事例1で、Dが2番抵当権を実行した場合は、法定地上権が成立します。
 なぜなら、2番抵当権を設定した時は、土地と建物の所有者が同一なので、法定地上権の成立要件を満たしているからです。

建物に2番抵当権

 続いてはこちらの事例をご覧ください。

事例2
A所有の甲土地上に、B所有の乙建物がある。Cは乙建物に1番抵当権を設定した。その後、AはBから甲土地を取得した。その後、Dが乙建物に2番抵当権を設定した。


 まずは、この事例2の流れ・状況を確認します。

B所有
 ⇩
乙建物
甲土地←1番抵当権(C)
 ⇧
A所有

その後、Aが乙建物を取得
Dが甲土地に2番抵当権を設定

A所有
 ⇩
乙建物
甲土地←1番抵当権(C)
 ⇧ ↖
A所有 2番抵当権(D)

 では、この事例2で、Dが2番抵当権を実行した場合、法定地上権は成立するでしょうか?
 結論。Dが2番抵当権を実行すると、法定地上権は成立します。
 なぜなら、2番抵当権が設定された時は、土地と建物の所有者が同一だからです。

【1番抵当権者Aは困らないのか】
?女性
 実は、2番抵当権が実行されたことにより法定地上権が成立するのは、1番抵当権者Aにとってもありがたい話です。
 なぜなら、1番抵当権を設定している乙建物に法定地上権が設定されるということは、乙建物には地上権という強力な土地利用権が付着することになるからです。それは乙建物の担保価値の増大にも繋がります。
 担保価値の増大に繋がるということは、競売時の売却金額の上昇にも繋がり、被担保債権の弁済にも繋がるというわけです。
 ですので、1番抵当権者Aにとってもありがたい話なのです。

 なお、Cが1番抵当権を実行しても法定地上権は成立しません。
 なぜなら、1番抵当権設定時には甲土地と乙建物の所有者が別なので、法定地上権成立の要件を満たさないからです。
 たとえ2番抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一になっても、それは1番抵当権の法定地上権には関係ありません。

更地に1番抵当権設定後、築造された建物に2番抵当権

 最後にこちらの事例をご覧ください。

事例3
A所有の甲土地(更地)がある。Bは甲土地に1番抵当権を設定した。その後、Aは甲土地上に乙建物を建造した。そしてCが甲土地に2番抵当権を設定した。


 さて、この事例3で、Bの1番抵当権が実行された場合、法定地上権は成立するでしょうか?
 結論。Bの1番抵当権が実行されても、法定地上権は成立しません。
 なぜなら、Bの1番抵当権が設定されたのは、甲土地上に乙建物を建造する前だからです。
 つまり、1番抵当権設定時には、土地上には建物が存在しないのです。
 ということは、法定地上権が成立するための要件のひとつ「抵当権設定時に土地上に建物が存在すること」を満たしていません。
 したがいまして、Aの1番抵当権が実行されても、法定地上権は成立しないのです。

 また、元々Aが抵当権を設定したのは更地の甲土地です。
 土地は更地の状態がもっとも価値が上がります。
 それに比べて、地上権が設定された土地の価値はかなり下がります。
 つまり、1番抵当権が実行されて法定地上権が成立してしまうと、1番抵当権者Aの権利を害することになります。
 そういった意味でも、1番抵当権の実行による法定地上権の成立はナシなのです。

 なお、Cが2番抵当権を実行した場合は、法定地上権が成立します。
 なぜなら、2番抵当権が設定された時は土地と建物の所有者が同一だからです。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【不動産が共有の場合の法定地上権】

▼この記事でわかること
建物が共有の場合の法定地上権
土地が共有の場合の法定地上権
土地と建物が共有の場合の法定地上権
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共有不動産の法定地上権

 不動産が複数の者による共有の場合、法定地上権の成立はどうなるのでしょう?

建物が共有の場合

事例1
A所有の土地上に、AB共有の建物がある。Aは土地に抵当権を設定した。


 いきなり事例から始まりましたが、さて、この事例1で抵当権が実行されると、法定地上権は成立するでしょうか?
 結論。法定地上権は成立します。
 まず、この事例1で、土地はA単独の所有ですが、建物はAB共有となっています。しかし、建物の共有者Bの意思とは無関係に、つまり、AはAの意思だけでAB共有の土地に抵当権を設定することができます。
 それってBに不都合は生じないの?
 そこが重要なポイントで、共有者Bの意思とは無関係にAは土地に抵当権を設定できるので、何らかの形で共有者Bを保護する必要があります。そこで判例では、このようなケースで抵当権が実行された場合に、法定地上権が成立をすることを認めました。
 というのは、このケースでの法定地上権の成立は、建物の共有者Bにとってもありがたい話だからです。なぜなら、建物に地上権という強力な権利が付着することになるからです。それは結果的に、建物の共有者Bの保護にも繋がるというわけです。

事例2
A所有の土地上に、AB共有の建物がある。そして、建物のA持分のみに抵当権が設定された。


 さて、では続いて、この事例2で、抵当権が実行されると法定地上権は成立するのでしょうか?
 結論。法定地上権は成立します。
 この事例2の理屈は、事例1とまったく同じです。
 Aは建物の共有者Bの意思とは無関係に、建物のA持分に抵当権を設定できます。しかし、いざ抵当権が実行されても法定地上権が成立するので、共有者Bが困ることにはなりません。

土地が共有の場合

事例3
AB共有の土地上に、A所有の建物がある。そして、土地のA持分のみに抵当権が設定された。


 続いて、ここからは土地が共有のケースになります。
 さて、ではこの事例3で、抵当権が実行されると法定地上権は成立するのでしょうか?
 結論。この場合、法定地上権は成立しません。なぜなら、この事例3で法定地上権が成立してしまうと、土地の共有者Bが困ってしまうからです。
 土地の所有者にとって、法定地上権はハッキリ言って邪魔な存在です。Aが自分の持分に設定した抵当権の実行によって法定地上権が成立してしまうのは、Aにとっては仕方のないことでしょう。原因がA自身にありますから。しかし、共有者Bからすれば、Aの都合で勝手に法定地上権という邪魔なものが設定されてしまうことになります。それは不公平ですよね。
 したがいまして、この事例3のケースでは、共有者Bの権利の保護ためにも、法定地上権が成立しないのです。

事例4
AB共有の土地上に、A所有の建物がある。そして、建物に抵当権が設定された。


 さて、それではこの事例4では、法定地上権は成立するのでしょうか?
 結論。この場合も法定地上権は成立しません。理屈は事例3とまったく同じです。このケースで法定地上権が成立してしまうと、共有者Bにとって不公平だからです。

土地と建物が共有の場合

事例5
AB共有の土地上に、AB共有の建物がある。そして、土地のA持分のみに抵当権が設定された。


 今度は、土地と建物の両方がAB共有というケースです。
 さて、ではこの事例5の場合、抵当権が実行されると、法定地上権は成立するのでしょうか?
 結論。このケースでは法定地上権は成立しません。
 理屈としてはこうです。元々、地上権は土地共有者の持分上に存続できません。
 どういう意味?
 要するに、土地共有者全員の意思に基づかないで(事例5で言えばAB両者の意思に基づかないで)法定地上権が成立するのはオカシイ、という理屈です。
 はぁ?
 そうなりますよね。ハッキリ言ってこの理屈、わかりづらいと思います。
 ですので、この事例5のようなケースでは法定地上権は成立しない!という結論の部分だけ強引に覚えてしまってください。民法の学習も恋愛も、ときには強引さが必要なのです...失礼しました。

【補足】
 法定地上権が成立しても、その登記は当事者の申請によります。勝手に登記されるわけではありません。
 この点もご注意ください。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【一括競売】土地の競売価格下落の防止と社会経済的な損失の防止とは?一括競売制度の意味

▼この記事でわかること
一括競売の超基本
制度の意味~土地の競売価格下落の防止と社会経済的な損失の防止とは
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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一括競売

 更地に抵当権を設定した後に、土地所有者が建物を建築した場合、抵当権が実行されても法定地上権は成立しません。抵当権設定時には土地上に建物がないので、法定地上権成立の要件を満たさないからです。(法定地上権についての詳しい解説は「【法定地上権の超基本】4つの成立要件」をご覧ください)。
 抵当権者は、更地として評価した土地に抵当権を設定しているので、その担保価値への期待を裏切ったことになる土地所有者に対して建物の収去請求ができ、更地の状態に戻す事ができます。
 そして、民法は、抵当権者に建物の収去請求以外に、もう1つの手段を与えました。
 それが、今回のテーマである一括競売です。
 民法の条文はこちらです。

(抵当地の上の建物の競売)
民法389条
抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。


 上記、民法389条の規定により、なんと抵当権者は、抵当権設定後の更地に建物が築造されてしまった場合は、抵当権を実行するときに、土地とまとめてその建物も一緒に競売にかけてしまうことができます。
 これが一括競売です。
 これは中々パワフルな規定と言えます。いくら抵当権を設定した更地に建物が建てられてしまったとはいえ、抵当権を設定していない建物までまとめて競売にかけてしまえるわけですから。
 
なぜ民法はこんなパワフルな規定を置いたのか

 これには2つの理由が考えられます。

【土地の競売価格下落の防止】
 ひとつは、土地の競売価格下落の防止です。
 法定地上権が成立しなければ底地にはなりません。しかし、土地だけを競売した場合、結局、建物の収去問題が生じることは目に見えています。そして、実際に建物の収去請求をするとなると「裁判をした上で強制執行」となってしまうかもしれません。
 つまり、そのような「面倒事を抱えた土地」ということで、底地までの価格下落はないにせよ、事実上、ある程度の競売価格の下落は避けらなくなってしまいます。
 そこで、その救済処置として民法389条により、土地と建物の一括競売を認めたということです。

【社会経済的な損失の防止】
 そして、もうひとつの理由は、社会経済的な損失の防止です。
 建物の収去問題が生じるということは、せっかく建てられた建物を取り壊さなくてはならなくなり、そのような問題が全国各地で起こってしまうと、それは社会経済的な損失となり、我が国の経済の発展を阻害することにもなってしまいかねません。
 そこで、民法389条により一括競売を認めた、ということです。

 なお、一括競売しても、抵当権者が優先弁済を受けられるのは土地の競売代金だけです。なぜなら、抵当権を設定しているのはあくまで土地だけだからです。
 では建物の競売代金はどこにいくのかといえば、建物の所有者の手に渡ります(それを他の債権者が差し押さえればその者の手に渡るが...)。

 ちなみに、抵当権者が実際に一括競売という手段を講じるかどうかは、抵当権者の自由です。
 一括競売という手段は、抵当権者の権利であって義務ではありません。
 ですので、一括競売できる状況になった場合でも、土地だけを競売にかけることは可能です。

【補足】
 民法389条では「抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは」とありますが、そこに「誰が」という主語は記載されていません。これはつまり「誰が抵当地に建物を築造したとしても一括競売は可能」という含みを残しているということです。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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