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【取得時効】5つの成立要件/短期取得時効とは/様々な事例/賃借権が時効取得できる可能性
【二種類の占有】その基本と瑕疵の引継ぎとは/原始取得とは/占有回収&保全の訴えとは
【消滅時効の基本】権利行使をできる時&知った時/様々な債権とその時効起算点(数え始め)
【時効の更新と完成猶予】その事由(原因)/消滅時効の進行を止める方法/除斥期間とは
【時効の援用と利益の放棄】援用ができる当事者と時効更新の相対効について(保証債務)
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【取得時効】5つの成立要件/短期取得時効とは/様々な事例/賃借権が時効取得できる可能性

▼この記事でわかること
取得時効とは
時効制度の意味
取得時効成立のための5つの要件20年間の占有自主占有等)
「自分の物」の時効取得は可能か?ドロボーは占有?
短期取得時効について
時効取得の様々な事例
▽所有権以外の財産権の時効取得
賃借権が時効取得できる可能性?
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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取得時効

 取得時効とは、時効によって取得する制度です。
 例えば、Aさんが甲土地、Bさんが乙土地を耕していて、甲土地と乙土地が隣接地(隣同士)だったとします。ある日、Aさんがズルをして土地の境界線をズラし、Bさんの乙土地にまでAさんの畑を広げて、さも自分の土地のように、乙土地の一部をAさんが使い続けます。それに対してBさんが何も文句を言わずに、または気づかずに20年間経過すると、Aさんはズルをして広げて使った部分の乙土地を取得します。

Aはズルして広げて使ってた部分を時効により取得!

 つまり、Aさんはズルをして、境界線を超えて侵した部分の乙土地の所有権を、一定の要件を満たせば取得時効の制度により取得するのです。
 ズルしてたのにマジで!?という感じですが、マジでこれが取得時効という制度です。
 コラムは飛ばす


ちょっとコラム
~時効制度の意味~


 実は、時効制度の決定的な意味、その存在理由は、ズバッとハッキリとこれだ!というものはないと言われています。
 え?そうなの?
 はい。そうなのです。なので、たとえ道徳的に考えて納得できなくても、これは理屈ではなく「そうなっているんだ」と強引に頭にぶち込んでしまってください。
 ただ、よく言われることとしては、次のようなものがあります。
 冒頭に挙げた、越境して隣人の土地を侵して使用していたヤツの例で言えば
「何も文句を言わなかった方が悪い」
という理屈も成り立ちます。
 つまり、ズルして土地の境界線を超えて乙土地を侵して使っていたAに対して
「何も文句を言わなかったBも悪い」
または「気づかなかったBも悪い」
ということです。
 これを「権利の上に眠る者は保護に値しない」と言ったりします。
 つまり「文句を言う権利があるのにその権利を行使しなかったヤツ自身の責任だ!」となるのです。
悔しい
 ただ、この理屈だと「借金を踏み倒すために文句を言う暇もなく逃げ続けるヤツ」も肯定してしまうことになってしまいます。
 他にも「長い年月が経ってから権利関係を立証するのは難しいから」という理屈もありますが、長い年月が経過しても明確な証拠があってしっかりと立証できる場合はどうなんだ?という反論も成り立ちます。
 ということなので、考えれば考えるほどドツボにハマっていきます。
 ですので、繰り返しますが、これは理屈云々ではなく強引に「そうなっているんだ」と覚えてしまってください。
 う~ん、でも...
 あと付け加えるなら、おそらく時効という制度の存在理由は、実務的な意味も大きいのではないかと思います。
 あまりに昔の事を持ち出されて訴訟だなんだと騒がれても、裁判所も困ってしまいますよね。
 ましてや裁判というのは時間がかかります。
 そんな案件がどんどん出てきてしまうと、裁判所がごった返してしまいます。
 それは法的安定性を阻害することにもなります。
 したがって、一律に〇〇年で時効!それで文句言いっこナシ!としているのではないかと考えられます。


 さて、話を戻しますね。
 この取得時効についての民法の条文はこちらです。

(所有権の取得時効)
民法162条
二十年間所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。


 この民法の条文の中に、時効取得するための要件が5つ記されています。

・20年間
・自主占有(所有の意思を持って占有すること)
・平穏
・公然
・他人の物の占有

 これらの要件を満たしたときに、取得時効が成立します。
 なお、占有とは、自分の物だと思って物を事実上支配する状態のことです。我が物顔で所有(使用)する、みたいなイメージですね。
 以上を踏まえた上で、最初に挙げた例に当てはめると、Aが20年間所有の意思を持って平穏・公然B所有の乙土地を占有(他人の物の占有)すれば、取得時効が成立し、Aは乙土地の所有権を取得するということです。

Aは
・20年間
・所有の意思を持って
・平穏に
・公然に
・「ズルして広げた使ってた部分」=「B所有の乙土地」を占有(他人の物の占有)すれば
取得時効が成立し、Aは乙土地(ズルして広げた使ってた部分)の所有権を取得することができる、という訳です。
 さて、ではここから、上記の5つの要件について具体的に解説して参ります。

取得時効成立のための5つの要件

20年間の占有

 20年間というのは、継続した20年間です。
 もし20年間の途中で、一日でも占有が途切れていたらアウトです。取得時効は成立しません。
 ちなみに、誰かに賃貸したとしても、占有は継続します。(つまり賃貸はセーフ)
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(代理占有)
民法181条
占有権は、代理人によって取得することができる。


 上記、民法181条の規定により、冒頭に挙げた例で、Aが越境して占有した乙土地をCに賃貸しても、Aの占有は継続します。(間接的な占有)

Cに貸していたとしてもAの占有は継続する!

 占有の継続はどうやって証明するの?
 占有の継続については、民法186条2項で規定されています。

民法186条2項
前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。


 これは、つまり「占有を開始した時の占有」と「現在の占有」を証明すれば、その間の期間の占有は、法律的に推定されるのです。
 法律的に推定されるとは、法律が「まあええんちゃう?」と認めてくれるということです。

占有開始時 → 途中期間 → 現在
  ↑      ↑     ↑
 証明    ええんちゃう? 証明

 なので、例えば、20年間継続して占有し続けたことを証明するために、20年間欠かさず日記をつけて証明しなければならない、なんてことはないのです。
 ただ、これはあくまで「推定」であり「みなす」ではありません。※
 ですので、最初に挙げた例で、Bが「Aの占有が途中で途切れたこと」を証明できれば、Aの時効取得を阻止できます。
 逆に言えば、Bが「Aの占有が途中で途切れたこと」を証明できない限り、Aは勝ちます。
※「推定」は、後で結果をひっくり返せる可能性があります。「みなす」は、後で結果をひっくり返すことができません。
 したがって、Bが「Aの占有が途中で途切れたこと」を証明できなければ、Aの継続した20年間の占有は確定しますので、裁判の現場ではAが断然有利でしょう。

自主占有

 自主占有とは「所有の意思」を持った占有です。
 所有の意思を持った占有とは「オイラのモノだ!」という意思で占有することです。
 所有の意思の有無の判断は、個人の主観ではなく権原の性質により客観的に行われます。
 どういうことかと言いますと、例えば、Aさんがマンションの一室を借りたとします(不動産賃貸借)。この場合の「権原」は賃借権(借りて使う権利)になります。所有権ではありません。そして、賃借権による占有は「他主占有」になります。ということは、Aさんはあくまでマンションの一室を借りて住んでいるだけで「オイラのモノだ!」という意思で占有している訳ではありませんよね?
 したがいまして、Aさんがマンションの一室を借りて20年間占有し続けても、Aさんの所有物にはなりません。
素材102マンション
 繰り返しますが、Aさんが借りたマンションの一室に対して持つ権利の「権原の性質」は賃借権(借りて使う権利)で、賃借権による占有は自主占有ではなく他主占有になります。
 なので、いくらAさんがそのマンションの一室を20年間占有し続けたとしても、そのマンションの一室の所有権を取得することはありません。
 ちなみに、こんな場合はどうでしょう。
 もしAさんが、借りた家を自分の家だと勘違いして20年間住み続けたら?
 結論。それもダメです。なぜなら「所有の意思」は客観的に判断されるからです。

平穏と公然

 この2点は試験等ではほとんど問われないと思います。
 一応、簡単に解説しておきますと、無理矢理に奪った訳ではなく(平穏)、コソコソとせず堂々(公然)と占有すればOK!ということです。
 ここはさらっと流して深く考えないでください(笑)。

他人の物の占有

 これは簡単ですね。読んで字の如く、他人の物を占有することです。

補足1
 取得時効成立のための要件の一つとして「他人の物の占有」とありますが「自分の物」の時効取得は可能なのでしょうか?
 自分の物を時効取得、といってもピンと来ませんよね。
 例えばこうです。AがBから甲不動産を買って占有を始め、その後、長期間経過してから、AB間の甲不動産の売買の効力が争われたようなケースです。
 この場合、Aは買主としての地位を主張する訳ですから、甲不動産はAにとってあくまで自分の物です。
 結論。自分の物の時効取得は可能です。
 今挙げた例だと、Aは甲不動産を時効取得できます。これは判例により、このような結論が下されています。
 なぜ、判例がこのような結論かというと、例えば、甲不動産の買主のAが、長い年月の経過により売買契約書などを紛失していたらどうでしょう?そのような売買の立証が困難な場合に、買主Aのような人間を救済するために、裁判所の判断でこのような結論になっているのです。

補足2
泥棒
 実はドロボーの占有は自主占有になります。
 マジで?
 マジです。なぜなら、ドロボーは「誰かのために占有している」訳ではありません。
 一方、賃借権(借りて使う権利)の場合は、あくまで「誰かのために占有している」ことになるので、他主占有なのです。この点はご注意ください。

短期取得時効

 取得時効の成立のためには、20年間の占有が必要です。(民法162条)
 しかし!実は20年という期間を経ずに、時効取得できるケースもあります。
 それは一体どんなケースなのか?まずは事例をご覧ください。

事例1
農家Aは甲土地を、農家Bは乙土地を耕していて、甲土地と乙土地は隣接地だった。Aは善意にかつ過失なく土地の境界線を超えて、自分の畑を乙土地にまで広げて10年間耕し続けた。


 さて、この事例1で、Aは境界線を超えて耕し続けた乙土地を時効取得できるでしょうか?
 結論。Aは境界線を超えて耕し続けた乙土地を時効取得します。
 え?占有期間が足りなくね?
 そんなことはないのです。なぜなら、Aは善意(それとは知らず)・無過失(落ち度が無い)だからです。
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(所有権の取得時効)
民法162条2項
十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。


 そうなんです。なんと、この民法162条2項により、占有開始の時に善意・無過失であれば、10年間の占有で時効取得できてしまいます。
 つまり、善意(それとは知らず)・無過失(落ち度がない)の占有であれば、20年間もいらないのです。
 これが短期取得時効です。
 したがいまして、善意・無過失で境界線を超えて、B所有の乙土地を10年間耕し続けた(占有し続けた)Aは、乙土地を時効取得します。
 ただ、無過失(落ち度が無いこと)の立証はA自身で行わなければなりません。その点だけはAが頑張らなくてはならない部分です。
 逆にBは、Aが無過失を立証できなければ、越境された乙土地を10年間で時効取得される、という事態を防ぐことができます。
 なお、念のため申し上げておきますが、Aがさらに10年間、つまり20年間乙土地を耕し続けたら、Aの善意悪意・過失の有無に関わらず、Aは乙土地を時効取得します(通常の取得時効)。その場合は、Bが裁判を起こしてAの過失(落ち度)を立証しても、Aに「時効を援用します(時効の権利の行使)」と言われればアウトです。

 では続いて、次のようなケースはどうでしょう?

事例2
売主Aは買主Bに甲土地を売り渡した。その後、Bは甲土地をCに転売した。その後、AはAB間の甲土地の売買契約の錯誤無効※を主張し、Cに対し甲土地の返還を求めた。

※錯誤についての詳しい解説は「錯誤の超基本~」をご覧ください。

 あれ?時効のハナシ出てきてなくね?
 はい。これはまだフリなのです(笑)。すぐに出てきますので少々お待ちください。
 さて、この事例2のCは、Aからの甲土地の返還の求めに応じなければならないのでしょうか?

  売却  売却       
 A → B → C
   ↑    
 錯誤無効 甲土地を返せ!
       A主張


 もし甲土地の売買契約の錯誤無効が認められれば、AB間の売買契約は初めから無かったことになるので、AB間の売買契約の存在が前提に成り立っているBC間の売買契約も、無効のものとなってしまいます。すると、甲土地に住むCは、ただの不法占拠者となってしまいます。
 このように考えていくと、Cはもはや、Aに甲土地を返還するほかないですよね。
 しかし!Cにはまだ奥の手が残されています。
 そう、それが取得時効です。

 Cが善意・無過失なら10年間の占有で甲土地を時効取得することができます。
 その際に、もしAが裁判を起こし、錯誤無効を主張して甲土地の返還を求めてきても「時効を援用します(時効の権利の行使)」とCが言えば、Cの勝ちです。Cは甲土地を返還する必要はなく、甲土地はCの物です。
 さらに、この事例2では、事例1のケースよりも占有者にとって有利な力が働きます。
 というのは、事例1のケースでは、占有者は善意・無過失とはいえ、越境行為によって土地を占有しているのに対し、事例2の場合、占有者(Cのこと)は取引行為によって土地を手に入れております。取引行為の場合は、民法188条「占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する」により、占有者の無過失の推定が働きます。無過失の推定が働くとは、法律的に勝手に「それって無過失なんちゃう?)」と認めてくれるということです。
 つまり、事例1とは違い、占有者のCは、無過失の立証を自らで行う必要がありません。(自分から無過失を証明しなくてOKということ)
 これはCとしてはかなり助かりますよね。
 逆にAは、Cの過失を立証できなければ甲土地を返してもらうことができません。(Aの方からCの過失を証明できないとダメ!ということ)

時効取得の様々な事例

 ここからは、時効取得の様々な事例をご紹介するとともに、その解説をして参ります。

事例3
売主Aは買主Bに甲不動産を売り渡した。しかし、売主AはCにも甲不動産を二重譲渡し、Cは登記をした。その後、Bは甲不動産を占有し続けた。


 この事例3は、不動産の二重譲渡のケースです。
 さて、不動産の所有権争いは登記したモン勝ちです。(不動産の二重譲渡についての詳しい解説は「【不動産登記の基本】二重譲渡~登記は早い者勝ち」をご覧ください)。
 したがって、通常の二重譲渡のケースとして考えればCの勝ちですが、この事例3では、Cが登記した甲不動産をBが占有し続けています。
 という訳で、ここからが本題です。Bはこのまま占有し続ければ、甲不動産を時効取得できるでしょうか?
 結論。Bは甲不動産を時効取得できます。
 なお、Bが甲不動産を時効取得すると、Cは初めから甲不動産の所有者ではなかったことになります。つまり、Bが元から甲不動産の所有者だったことになります。

時効へのカウントはどこから開始するのか?時効期間の起算点
 Bが甲不動産の占有を開始した時です。

事例4
売主Aは買主Bに甲土地を売り渡した。甲土地は農地で、Bは農地以外への転用目的で甲土地を購入したのだったが、農地法5条の許可申請を行なっていなかった。

畑
 いきなり農地法5条といっても、ピンと来ませんよね。
 農地を農地以外で利用すること、つまり、農地の利用目的を変更することを農地転用と言いますが、農地転用を行う際には農地法4条の許可(届出)が必要になります。
 農地の所有者を変更する際には、農地法3条の許可(届出)が必要になります。
 所有者と利用目的の両方を変更する場合には、農地法5条の許可(届出)が必要になります。(この辺りの知識は宅建試験において「法令上の制限」分野で必須になります)
 俗に3条許可とか5条許可とか言ったりします。
 話を戻します。
 では、この事例4で、買主Bは甲土地を時効取得できるでしょうか?
 結論。Bは甲土地を時効取得できます。甲土地の引渡しを受けた時からBの自主占有が開始した、と判断されます。

事例5
Aは、長期間、公共の目的に供用されることなく放ったらかされた公共用の不動産を占有し続けた。


 さて、この事例5のAは、占有し続けた公共用の不動産を時効取得できるでしょうか?
 結論。なんとAは、占有し続けた公共用の不動産を時効取得できます。
 これはちょっとビックリですよね。これは判例で「公の目的が害されず、その物を公共用財産として維持すべき理由がなくなったときは、黙示の公用の廃止があったものとして」時効取得できるとしています。
 理屈はともかく、判例でそのような結論になっているということだけでも覚えておいていただければと存じます。(この辺りの知識は行政書士試験や公務員試験の「行政法」分野で求められます)

事例6
AはBの所有地になんの権利もなく自己所有の樹木を植栽し、そのまま所有の意思を持って平穏・公然と20年間占有した。


 さて、今度は少し変わった事例ですが、この場合にAは立木(植栽した樹木)の所有権を時効取得できるでしょうか?
 結論。Aは立木の所有権を時効取得できます。
 このケースは、参考までに頭の片隅にでも入れておいていただければ結構です。

所有権以外の財産権の時効取得
賃借権も時効取得できる可能性あり?

 ここまで解説してきました取得時効は、すべて所有権の時効取得についてのものでした。
 それでは、所有権以外の権利、賃借権は時効取得できるのでしょうか?
 あれ?賃借権は時効取得できないんじゃ?
 はい。そのとおりです。
 しかし!なんと賃借権が時効取得できる可能性があるのです。
 まずは、所有権以外の財産権の取得時効についての民法の条文をご覧ください。

(所有権以外の財産権の取得時効)
民法163条
所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。


 上記、民法163条により、所有権以外の財産権も時効取得できる旨が規定されています。
 では「所有権以外の財産権」には一体どんなものがあるのでしょう?

・債権
・占有権
・用益物権(地役権、地上権、永小作権、入会権など)
・担保物権(抵当権、留置権、質権、先取特権)
・知的財産権(特許権、実用新案権、著作権など)
・身分権

 これらは「所有権以外の財産権」になります。
 あれ?賃借権なくね?
 そんなことはありません。賃借権は債権の一種です。
 それでは民法163条により、賃借権は時効取得できるのでしょうか?
考え中
 まず、その問いに答える前に、申し上げておかなければならないことがあります。
 それは、占有を伴わない財産権は時効取得できないということです。
 そりゃそうですよね。時効取得するためには10年間ないし20年間の占有が必要ですから。
 となると賃借権は?
 まず、債権は取得時効の対象にはなりません。
 じゃあ債権の一種の賃借権もダメなんじゃ...
 ところが、判例では、なんと債権の中でも不動産賃借権時効取得でき得るとしています。
 不動産賃借権とは、我々が不動産賃貸借契約を結んで不動産を借りたときに取得する権利です。
 学生がアパートの一室を借りて住んでいたら、その学生はその借りて住んでいるアパートの一室の賃借権という権利を持っています。これが不動産賃借権です。
 実は、不動産賃借権は民法や借地借家法で「対抗力のある物権」のように扱われます。
 つまり、不動産賃借権は、ほぼ物権なのです。
 そして不動産賃借権は、賃借している不動産の占有を伴っています。
 したがいまして、判例は不動産賃借権は時効取得し得るとしているのです。
 という訳で、ここまで引っ張ってきましたが、不動産賃借権は時効取得できる可能性あり!ということです。

不動産賃貸借以外に時効取得できる財産権

 不動産賃借権の他にも、所有権以外で時効取得できる財産権はあります。
 それは、用益物権のうちの地役権・地上権・永小作権です。
 それ以外には、担保物権のうちの質権、知的財産権のうちの著作権は、取得時効成立の余地があると考えられています。(著作権の占有?という感じもしますが...ここは流してください)
 以上、補足で記したことは、予備知識としてなんとなく頭の片隅の片隅にでも入れておいて頂ければで結構です。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【二種類の占有】その基本と瑕疵の引継ぎとは/原始取得とは/占有回収&保全の訴えとは

▼この記事でわかること
二種類の占有とは
前の占有者から引き継ぐのは瑕疵だけではない
瑕疵(過失や悪意)の有無の判定は占有開始時
時効による所有権取得は原始取得って?
▽占有を奪われたとき
占有回収の訴え/占有保全の訴えとは
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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二種類の占有

 時効によって所有権などを取得するには、一定期間途切れることなく継続した占有が必須です。(取得時効)  
 占有とは、自分の物だと思って物を事実上支配する状態のことです。我が物顔で所有(使用)する、みたいなイメージですね。
 さて、この占有ですが、以下の2種類のパターンが存在します。

・自分だけの占有
・前主から引き継いだ占有

 
 このような2種類の占有を、占有の二面性と言います。
 それでは、この2種類の占有について、事例と共に具体的に解説して参ります。

事例1
Aは甲土地を9年間、悪意の占有を続けた。その後、Aは甲土地を善意・無過失のBに引き渡し、Bはそれから1年間、甲土地の占有を続けた。


 A   引渡し  B
甲土地   →  甲土地
占有9年     占有1年
悪意       善意無過失

 短期取得時効により、善意無過失であれば10年間の占有で取得時効が成立します。(民法162条2項)
 ということは、この事例1で、Bは甲土地を時効取得できるのでしょうか?
 結論の前にまず、占有には二種類のパターンがあることを思い出してください。
 そうです。この事例1が、まさに占有の二面性を示す典型のケースなのです。
 そして、その占有の二面性に基づいて、Bは2つの主張ができます。
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(占有の承継)
民法187条
占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。


 この民法187条に基づき、なんとBは、自分自身の選択で「自己の占有のみを主張」と「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」の、どちらかを選んで主張することができます。

・自己の占有のみを主張した場合
 これは簡単ですよね。事例1のBが、B自身の占有のみを主張することです。
 この場合、B自身の甲土地の占有期間はたった1年間なので、短期取得時効は成立せず、Bは甲土地を時効取得することはできません。

・前の占有者と併せて主張
 これは、事例1のBが、Aの占有と併せて占有を主張することです。
 どういう事かと言いますと、Bの前に甲土地を占有していたのはAで、Aの占有期間は9年間ですよね。そして、Bが次の占有者になり、甲土地を1年間占有した、、、そこで、なんとBは、
「前の占有者であるAの占有期間の9年間」と
B自身の占有期間の1年間」を足して
「9+1=10年間の占有期間」を主張できるのです。
 事例1のBは、善意・無過失です。ですので、Aの占有と併せて「9+1=10年間の占有」ということで、めでたく甲土地を時効取得できます!と言いたいところですが、そうはイカンのです。
 先述の民法187条には続きがあり、次のようなことが規定されています。

民法187条2項
前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。


 この民法187条2項のポイントは「その瑕疵をも承継する」という部分です。
 瑕疵とは、欠陥のことです。欠陥には悪意・有過失も含まれます。
 ということはどうなるのか?
 前の占有者の占有と併せて主張するときは、前の占有者の悪意・有過失をも引き継いでしまう、ということです。
 つまり、事例1の善意・無過失のBが、Aの占有と併せて9+1=10年間の占有を主張しても、Aの悪意・有過失をBが引き継いでしまうことになるので、その結果、10年間の短期取得時効は成立しなくなってしまいます。
 ということで結局、事例1のBは、Aの占有と併せて主張しようが、B自身の占有のみを主張しようが、甲土地を時効取得することは無理、ということになります。
 したがいまして、事例1のBは、甲土地を時効取得することはできません。

 では続いて、次の場合はどうでしょう?

事例2
Aは甲土地を9年間、悪意の占有を続けた。その後、Aは甲土地を善意・無過失のBに引き渡し、Bはそれから10年間、甲土地の占有を続けた。


 A   引渡し  B
甲土地   →  甲土地
占有9年     占有10年
悪意       善意無過失

 この事例2で、Bが甲土地を時効取得するためには「自己の占有のみを主張」と「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」の、どちらの主張をすればいいでしょう?
 もうおわかりですよね。
 正解は「自己の占有のみを主張」です。
 Bは善意・無過失なので、10年間の占有で甲土地を時効取得できます。(短期取得時効→民法162条2項)
 じゃあ「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」をしたらどうなるの?
 その場合は、Bは甲土地を時効取得することができません。なぜなら、前の占有者Aの悪意・有過失を引き継いでしまうことにより短期取得時効の適用対象ではなくなるからです。
 そして「Aの占有9年+Bの占有10年=19年間の占有」では、通常の取得時効に必要な20年間にも、あと1年足りなくなってしまいます。

引き継ぐのは瑕疵だけではない

事例3
Aは善意・無過失に甲土地を9年間占有した。その後、Aは甲土地を悪意のBに引き渡し、Bはそれから1年間甲土地を占有した。


 A   引渡し  B
甲土地   →  甲土地
占有9年     占有1年
善意無過失    悪意

 さて、この事例3で、Bは甲土地を時効取得できるでしょうか?
 結論。なんと、Bは甲土地を時効取得できます。
 え?なんで?Bは悪意じゃね?
 Bは悪意です。しかし、民法187条に基づき「前の占有者の占有を併せて主張」すれば、Bは前の占有者であるAの善意・無過失を引き継ぐことができます。
 すると短期取得時効の対象となり
「Aの占有9年+Bの占有1年=10年間の占有」で
Bは甲土地を時効取得できるのです。

(占有の承継)
民法187条2項
前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。


 民法187条2項の条文には「その瑕疵をも承継する」とありましたよね。
 繰り返しになりますが、瑕疵というのは欠陥のことで、欠陥には悪意・有過失も含まれます。
 したがって「前の占有者の占有を併せて主張」すると、前の占有者の悪意・有過失も引き継いでしまいます。
 ここまでは先述のとおりです。
 しかし、条文の「その瑕疵をも承継する」というのは瑕疵がないことをも承継する」と、理解することもできませんか?
 したがいまして、事例3のBは「前の占有者の占有を併せて主張」することにより、前の占有者Aの瑕疵のないこと(善意・無過失)をも承継することになるのです。
 これは一見すると屁理屈に聞こえるかもしれませんが、条文をこのように解釈して適用させる事は、わりとあることです。
 なので、ここは深くツッコまず、まあそういうことなんだなと、そのまま落とし込んでしまってください。

瑕疵の有無の判定は占有開始の時

 ここでひとつ、こんな疑問がわいてきます。
 そもそも、瑕疵(欠陥=悪意や過失)があるかないかは、どのタイミングで判断されるのでしょう?
 例えば、Aが甲土地の占有を善意・無過失に開始して、のちにA自身が悪意になったとしたらどうなるでしょう?

 A   1年後  A
甲土地   →  甲土地
占有開始     占有1年
善意無過失 →  悪意

 この場合も、短期取得時効の対象から外れることはありません。なぜなら、瑕疵の有無の判断は、占有開始の時だからです。つまり、Aは善意のままとして扱われます。
 したがいまして、その後、甲土地の引渡しを受けたBが悪意でも、Bが「前の占有者の占有を併せて主張」することにより、前の占有者Aの善意・無過失をも引き継いで、短期取得時効により、9年+1年=10年間の占有で甲土地を時効取得することも問題ありません。

 A  1年後 A   引渡し B
甲土地  → 甲土地  → 甲土地
占有開始   占有1年   占有9年
善意無過失  悪意     悪意

B「前の占有者の占有を併せて主張」
短期取得時効で時効取得できる!
あくまで甲土地の占有開始時
Aの善意・無過失で始まっているから!


ちょっとコラム
~時効による所有権取得は原始取得~


 所有権の取得原因(取得の形)には、原始取得承継取得があります。
 時効による所有権取得は、原始取得になります。
 原始取得とは「元からその人のモノになる」ことです。
 つまり、先述の事例3のBが甲土地を時効取得すると、甲土地は元からBのモノだったことになります。
 それになんの意味があるの?
 これには大きな意味があります。
 例えば、もし甲土地に抵当権がついていた場合に、Bが甲土地を時効取得すると、時効取得は原始取得なので、Bが始めっから甲土地の所有者だったことになり、Bが時効取得する前についていた抵当権は消えて無くなります。
 これを噛み砕きまくって荒唐無稽な解説をしますと、、、
 B男くんがA子ちゃんを原始取得すると、A子ちゃんにとってB男くんは最初のオトコになります。本当は5人目のカレシだったとしても。これが原始取得です(笑)。
カップル
 一方、売買相続による取得は、承継取得になります。
 承継取得は前主の権利を承継します。
 つまり、B男くんがA子ちゃんを承継取得すると、B男くんはA子ちゃんにとって5人目のカレシになるだけです(笑)。もちろん、カレシとカノジョを逆にしてもいいですし、BLでも百合でもOKです。
 ムチャクチャな例えですが、原始取得と承継取得、おわかりになっていただけたのではないでしょうか。

占有回収の訴え
占有を奪われたときは?

事例4
Aはあともう少しで甲土地を時効取得するところである。そこで、Aに甲土地を時効取得されたくない血気盛んなBは、実力行使でAの占有を排除した。


 なんだかエモーショナルな事例が登場しましたね(笑)。
 さて、この場合、Aの占有は途切れてしまい、Aは甲土地を時効取得することができなくなってしまうのでしょうか?
 まずは民法の条文を見てみましょう。

(占有の中止等による取得時効の中断)
民法164条
第百六十二条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。


 上記、民法164条の条文のとおり、Aは他人のBによって占有を奪われています。
 ということは、条文どおり時効は中断し、Aは甲土地を時効取得することができなくなりそうですね。Bにとってはしてやったりという感じです。
 しかし!民法では、Aのような人間を救うべく、下記のような規定も置いています。

(占有回収の訴え)
民法200条
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。


 上記、民法200条に基づいて、AはBに対し「占有回収の訴え」を起こし、勝訴して甲土地を取り戻せば、無事Aの占有は継続していたことになります。
 占有期間はリセットされないの?
 リセットはされません。
 繰り返しますが、占有回収の訴えを起こし、勝訴して甲土地を取り戻すことができれば、Aの甲土地の占有期間は継続していたことになります。ですので、Aの甲土地の時効取得への影響はありません。
 参考となる民法の条文はこちらです。

(占有権の消滅事由)
民法203条
占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。


 なんだか、この民法203条の条文を読むと、占有回収の訴えの提起さえすれば、占有継続が認められそうです。
 しかし、実際には、勝訴して土地を取り戻すところまでいかないと、占有が継続していたことにはなりません。
 したがって、Aとしては、占有の継続を取り戻し甲土地を時効取得するためには、裁判を起こし勝訴して、実際に甲土地を取り戻すところまでいかなければならないのです。
裁判所
 でもこれって、中々の負担ですよね。となると、Aとすれば、事前に占有を奪われることを防止するのが最良ですよね。
 そこで民法では、次のような規定も存在します。

(占有保全の訴え)
民法199条
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。


 上記、民法199条の規定により、Aは、血気盛んなBが、甲土地の占有を妨害しそうだと判断したら、あらかじめ「占有保全の訴え」を起こし、事前に法的な予防線を張ることができます。
「占有保全の訴え」とは、いわば敵を感知して発動させるバリアーです(オートではありませんが...)。

 また、占有を奪われるまではいかないが、占有の妨害を受けたときには、民法198条(占有保持の訴え)により、妨害の停止、および損害賠償の請求をすることができます。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【消滅時効の基本】権利行使をできる時&知った時/様々な債権とその時効起算点(数え始め)

▼この記事でわかること
消滅時効とは
「権利を行使することができる時から十年間行使しないとき」とは
「権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき」とは
「できる時」と「できることを知った時」優先されるのは?
▽消滅時効の起算点と様々な債権
消滅時効の起算点(数え始め)
確定期限付きの債権の場合
不確定期限付きの債権の場合
不法行為による損害賠償請求権の場合
期限の定めのない債権の場合
弁済期の定めのない消費貸借の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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消滅時効

 例えば、AがBから300万円借りて「○月〇日までに返す」と約束します。お互いがその期日を過ぎても、そのまま何もせず放置して10年が経過すると、Aの債務(Bに借金を返す義務)は消えます。 
 Aが訴訟をおこして裁判になっても、Bが「これは時効だ!」と主張(これを時効の援用という)すれば、Bの勝ちです。つまり、BはAに300万円を返さなくて済むのです。
 これが、消滅時効です。
 民法の条文はこちらです。

(債権等の消滅時効)
民法166条
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一号 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二号 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。


 上記、民法166条の条文を読むと、債権についての消滅時効のパターンが2つ記されていますよね。
 ひとつひとつ、解説して参ります。

権利を行使することが「できる時」から十年間行使しないとき

 まず先に民法166条二号の方から解説します。
 これはわかりやすいと思います。
 先ほど挙げた例で言えば「〇月〇日までに返す」と約束した期日「権利を行使できる時」になります。
 そして、その期日から10年間、BがAに対して「300万円返せ!」と請求しないと、消滅時効によりAの債務(Bに借金を返す義務)は無くなります。Aは借金踏み倒し完了、Bは泣き寝入り、という訳です。
 また、売買契約で言えば、買主Aが売主Bから不動産を買って「〇月〇日までに代金を支払う」と約束(契約)すると、その約束した(契約で決めた)期日「権利を行使できる時」になります。
 そして、その期日から10年間、売主Bが「代金払え」と請求しないと、消滅時効によりAの債務(Bに代金を支払う義務)は無くなります。Aは代金踏み倒し完了、Bは泣き寝入り、という訳です。

権利を行使することが「できることを知った時」から五年間行使しないとき

 貸した側や売った側が「〇月〇日までに返す」「〇月〇日までに払う」という期日を後から知ってから請求する、なんて事、ちょっと考えづらいですよね。
 では、一体どんなケースがあるかと言いますと、消費者ローンの過払金(不当利得)返還請求権などがあります。
 過払金とは、利息制限法所定の制限利率を超えて利息を支払った結果過払いとなった金銭です。要するに、必要以上に払い過ぎた(返済し過ぎた)お金のことです。
 過払金の場合は、たいてい後から払い過ぎた事に気づくはずです。そもそも払う前に気づいていれば払いませんよね。
 つまり、後から過払金(払い過ぎた事・返済し過ぎた事)に気づいた時、それが「権利を行使することができることを知った時」になります。(ちなみに、この場合「過払いをした時(払い過ぎた時・返済し過ぎた時)」が「行使できる時」になります)
 そして、その時から5年間「払い過ぎた(返済し過ぎた)分を返せ!(過払金(不当利得)返還請求権)」と請求しなければ、消滅時効により過払い金は消滅し、その返還は無くなってしまいます。
 悪徳消費者ローンは丸儲け、借金した人は泣き寝入りで終了、ウシジマくんもご満悦です。(必ずしも悪徳業者の場合だとは限りませんが...)

どちらの時効期間が優先されるのか
比較
 ここでひとつ、こんな疑問がわいてきませんか?
 先ほど挙げた消費者ローンの過払金返還請求のケースで、例えば、Aが過払いをしてから9年後に過払金に気づいた場合、こうなりますよね。

・「行使できることを知った時」からだと残り5年
・「行使できる時」からだと残り1年

 このような場合は、残り期間が少ない方が適用されます。
 つまり、今の例だと、Aの過払金返還請求権は、1年後に時効により消滅してしまいます。
 
 では続いて、次のような場合はどうでしょう。
 消費者ローンの過払金返還請求のケースで、Aが過払いをしてから1年後に過払金に気づいた場合、以下のようになります。

・「行使できることを知った時」からだと残り5年
・「行使できる時」からだと残り9年

 もうおわかりですよね。
 このような場合でも、あくまで残り期間が少ない方が適用されます。 
 よって、Aの過払金返還請求権は、5年後に時効により消滅します。

【補足】
 人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については、先述の「できる時から10年間」は「できる時から20年間」になります。
 これは、安全配慮義務違反による死亡事故や傷害事故を想定したものです。(民法167条)

消滅時効の起算点 

 取得時効では、例えば、Aが甲土地を時効取得する場合、その取得時効の起算点はAが甲土地の占有を開始した時です。
 時効の起算点とは、時効期間の数え始めとなる時点のことです。(例えば年齢の起算点は誕生日になる)
 さて、では消滅時効の場合、その起算点はいつになるのでしょうか?
 これはもうおわかりですよね。
 消滅時効の起算点は「権利を行使することができる時」と「権利を行使することができることを知った時」です。
 上記の2つの起算点の内「権利を行使することができることを知った時」については、先述の消費者ローンの過払金(不当利得)返還請求権のケースで、過払金に気づいた時になります。
 こちらについては、これで十分かなと思いますので、ここからは「権利を行使することができる時」について、詳しく解説して参ります。

「権利を行使することができる時」はケースによって違う

 消滅時効の起算点「権利を行使することができる時」ですが、その「権利を行使することができる時」は、実はどんな債権かによって異なってきます。 
 では一体、どんな債権があってどんなふうに異なっているのでしょうか?

確定期限付きの債権

 確定期限付きの債権とは、簡単に言うと「いつまでに」が決まっている債権です。
 例えば、AとBが不動産の売買契約を締結して「買主は売主に◯月◯日までに売買代金を支払う」という内容の入った契約書を交わしていたら、その売買代金債権は確定期限付きの債権になります。また、AがBから「◯月◯日までに返す」と約束してお金を借りたら、そのときのBのAに対する「金返せ」という債権も、確定期限付きの債権です。
 さて、ではこの確定期限付きの債権の、消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
 これはもうおわかりですよね。確定期限付きの債権の消滅時効の起算点は、期限到来時です。
 つまり、先ほど挙げた例だと「◯月◯日までに」の「◯月◯日」が、消滅時効の起算点になります。これは簡単ですね。

不確定期限付きの債権

 文字だけ見ると「不確定の期限が付いている」という、なんだか訳のわからない債権ですが、これは簡単に言うと「いつまでに」が決まっていない債権です。
 といっても、やはりよくわかりませんよね。
 具体例を挙げますと「死因贈与」によって生じる債権は、不確定期限付きの債権にあたります。
 死因贈与とは「死亡したら贈与する」というものです。よく漫画やアニメなんかで「俺が死んだらこれをアイツに...」なんてのがありますが、あれも死因贈与です。
 でもそれって債権なの?
 つまりこうです。死因贈与も、贈与を受ける側から見ると「死亡したらくださいね」という債権になりますよね。
 そして、死亡の時期は不確定です(いつ死ぬかはわからない)。
 なので、不確定期限付きの債権になるのです。
 さて、ここからが本題です。
 ではこの不確定期限付きの債権の、消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
 不確定期限付きの債権の消滅時効の起算点は、期限到来時です。
 これだけだと、はぁ?となりますが、これは先ほど挙げた死因贈与の例だと、贈与する者の死亡時になります。
 ただ、ここで注意していただきたいのが「贈与する者が死亡したことを知った時」ではありません。
 ですので、もし贈与を受ける者が、贈与者の死亡を知らなかったとしても消滅時効の期間は進んでしまいます。
 この点はご注意ください。
 ちなみに、相続において、遺産の受取りを放棄(相続放棄)したい等の場合は、相続があったことを知った時から、3カ月以内に手続きを行わなければなりません。被相続人の死亡時から3カ月以内ではありません。(民法915条1項)
 また、遺産分割請求権には時効はありません。
 これらの点は、死因贈与における債権の消滅時効とごっちゃにしないようお気をつけください。(詳しくは相続分野で解説します)

不法行為による損害賠償請求権

 これは、不法行為によって損害を被った被害者が、加害者に対して損害の賠償を請求する債権です。(不法行為についての詳しい解説は不法行為の超基本~をご覧ください)
 例えば、交通事故にあった被害者が、加害者である車のドライバーに対して損害賠償を請求するようなケースが、まさに不法行為(交通事故)による損害賠償請求です。
交通事故b
 さて、ではこの「不法行為による損害賠償請求権」の、消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は以下です。

・不法行為の時
・被害者が加害者と損害の両方を知った時

 まず「不法行為の時」ですが、これはわかりやすいですね。交通事故の例で言えば「交通事故が起こった時」です。
 要するに「不法行為の時」とは、通常の債権で言うところの「権利が行使できる時」と同じです。
 次に「被害者が加害者と損害の両方を知った時」ですが、これはどういう事かと言いますとこうです。
 例えば、交通事故にあってケガをしたが、加害者である車のドライバーが中々見つからないこともありますよね?加害者が誰かわからないと損害賠償の請求もできませんよね?それなのに消滅時効が進んでしまったら被害者が困りますよね?
 ということで、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点は「被害者が加害者と損害の両方を知った時」なのです。
 また、加害者が誰かはすぐにわかったけど、後々になって後遺症が出るまでは損害がわからなかった、というような場合も同様で「後遺症が出て損害がわかった時」に初めて、消滅時効の進行がスタートします。

※参考条文

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
民法724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一号 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二号 不法行為の時から二十年間行使しないとき。


(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
民法724条の2
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。


期限の定めのない債権

 これは、簡単に言うと「いつまでに」が決まってない債権です。
 といっても、不確定期限付きの債権とは異なります。
 期限の定めのない債権の代表的なものとしては「法律の定めによって生じる債権」があります。
 具体例を挙げると、解除による返還請求権がそうです。
 例えば、売主Aが買主Bに不動産を売り渡したとします。しかし、その後、何らかの事情でその売買契約が解除されると、AとBは互いに受け取ったものを返還する義務が生じます。すると売主Aは、買主Bに対し、不動産の返還請求権(売り渡した物返しやがれ!)を持ち、買主BはAに対し代金返還請求権(払った金返しやがれ!)を持ちます。
 このときの売主Aと買主Bが互いに持つ返還請求権は、まさに「いつまでに」が決まっていない、期限の定めのない債権になります。
 さて、では本題です。
 この期限の定めのない債権の消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
 期限の定めのない債権の消滅時効の起算点は、債権成立時です。
 つまり、先ほど例に挙げた解除による返還請求権だと、契約の解除時になります。

【補足】
 解除権は10年で時効により消滅する。(判例)

弁済期の定めのない消費貸借

 これは簡単に言うと「いつまでに」が決まっていない貸し借りです。
 ハッキリ言って、こんなものビジネス・商売の取引の世界ではまずないでしょう。
 例えば、銀行や消費者金融でお金を借りて返済期限が決まっていないなんて事、ありえませんからね(笑)。
 ただ、友人間で「いつまでに」を決めずに、お金を貸し借りするケースは現実にも存在します。
 それがまさに「弁済期の定めのない消費貸借」になります。
借りる金
 そして、お金を貸した側は借りた側に対し「金返せ」という、債権を持つことになります。
 さて、ではこの「弁済期の定めのない消費貸借」における、債権の消滅時効の起算点はいつになるのでしょうか?
 弁済期の定めのない消費貸借における債権の消滅時効の起算点は「債権成立から相当期間経過後」です。
 これはどういうことかと言いますと、こうです。
 例えば、AがBに返済期限を決めずにお金を貸したとします。すると、AがBにお金を貸した時点で、AがBに対して「金返せ」という債権成立します。
 これが「債権成立」です。そして、AがBに「金返せ」と請求した場合、Bは「相当期間経過後」までにお金を返さなくてはなりません。(つまりBは「金返せ」と請求されても即座に返さなくちゃならない訳ではない。なぜなら返済期限を決めていないから)
 つまり、AがBにお金を貸した時点で債権が成立し、そこからAがBに対し「金返せ」と請求してから相当期間経過後に初めて消滅時効の進行が始まる、ということになります。

【補足】
「債務不履行による損害賠償請求権」は「期限の定めのない債権」にあたるのですが、債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効の起算点「本来の債務の履行を請求できる時」になります。
 つまり「この日を過ぎると債務不履行になる」の「この日」が、債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効の起算点になります。(債務不履行についての解説は「【債務不履行&損害賠償&過失責任の原則】債権債務の世界を超基本からわかりやすく徹底解説!」もご覧ください)

 以上が、様々なケース・債権における、消滅時効の起算点になります。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【時効の更新と完成猶予】その事由(原因)/消滅時効の進行を止める方法/除斥期間とは

▼この記事でわかること
時効の更新とは
消滅時効を更新させる方法(時効の更新事由)
時効の更新の特殊なケース(債権者代位権)
時効の完成猶予とは
時効が一旦止まるとき(時効の完成猶予事由)
除斥期間とは
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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時効の更新

 時効には2種類あります。取得時効消滅時効です。
 取得時効は権利を取得する時効であるのに対し、消滅時効は権利が無くなる時効です。
 つまり、時効によって権利が無くなってしまうのが消滅時効です。

事例1
AはBに「〇月〇日までに返す」と約束して100万円を借りた。その後、約束した期日が過ぎてもAがBにお金を返すことはなく、そのまま9年間が経過した。


 さて、この事例1ですが、Aはあと1年間やり過ごせば、Bに100万円を返さなくても良いことになります。
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(債権等の消滅時効)
民法166条
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一号 省略
二号 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

 上記、民法166条により、Aはあと1年間なんとかやり過ごせば、消滅時効によって、BのAに対する「100万円返せ!」という債権消滅するので、合法的に借金を踏み倒せます。まあ、同時にAという人間に対する信用も消滅しますが(笑)。
 さて、ここからが本題です。
 それでは、Bとしては何か打つ手はないのでしょうか?
 あります。それは時効の更新です。
 時効の更新とは、時効期間のリセットです。つまり、時効の更新をすると、時効期間の進行が始まりのゼロ地点に戻されます。
 したがいまして、事例1でAの時効が更新すると、進行していた9年間という時効期間は始まりのゼロに戻ります。

消滅時効を更新させる方法(時効の更新事由)

 では、時効を更新させるには、具体的にどんな方法があるのでしょう?
 消滅時効の更新事由(消滅時効が更新するパターン)には下記のものがあります。

・承認
・請求

 それでは、ひとつひとつ解説して参ります。

・承認
 これは債務者債務を承認することです。
 事例1では、Aは債務者、Bは債権者、という立場になります。
 ということはつまり、事例1のAが「Bに100万円返します!」と認めることです。債権者のBとしては、債務者のAにそれを一筆書かせればバッチリです。
(「お金返します」と口で言わすだけでも有効だが、それだけだと裁判でシラばっくれられたら厄介なので、一筆書かせれば、もし裁判になったときでも言い逃れられない確固たる証拠になる)
 債務者のAが真面目で誠実な人間なら、このパターンで済むでしょう(笑)。

・請求
 これは、BがAへ「金返せコラ」と請求することなのですが、時効を更新させるための請求は「裁判上の請求」でなければなりません。(ただBがAに対して請求書を送っただけではダメ)
 裁判上の請求とは、例えば、訴訟の提起です。つまり、BがAに対して金返せという裁判を起こすことです。
 そして、裁判を起こせば、民事訴訟法上、Bの訴状提出時に時効期間の進行が一旦止まり(時効の完成猶予)、確定判決時に時効が更新されます。

 以上のように、BがAの時効を更新させる方法が存在します。
 ただ、どうでしょう。
 まず承認は、債務者のAが借金を踏み倒す気満々なら、ほぼ無理でしょう。ましてや、あと1年で時効になるというのに...。
 すると残る手段は、裁判所の手を借りた方法しかありません。
 しかし、裁判を起こすとなると準備も大変です。それこそ時効完成までの期間が1ヶ月もないような状況だったとしたら、債権者のBはなおさら大変です。

・催告
 そこで、民法では、時効の更新とまではいかないが、とりあえず時効期間の進行を一旦止まらせる効果のある「催告」という制度を定めています。
 催告をすると、時効期間の進行が一旦止まります。(時効の完成猶予詳細は後述)
 止まる期間は6ヶ月です。
 つまり、債権者Bが債務者Aに催告をすれば、Aの時効期間の進行をとりあえず6ヶ月の間は止まらせることができます。
 催告は通常、内容証明郵便で行います。(しっかりとした証拠を残すため)
 したがいまして、もし債務者Aの時効完成が間近な場合は、債権者Bはまず債務者Aに対し内容証明郵便で催告をして、Aの時効進行を一旦止まらせた上で、6ヶ月以内「裁判上の請求」等の裁判所の手を借りた手続きをすれば、無事、債務者Aの時効を更新させることができます。
 なお、催告は1回限り有効なものです。もう1回催告をしたら、そこからまたさらに6ヶ月間時効の進行が止まる、なんてことはありません。この点は注意ください。
 また、もし原告(訴える側)が訴訟を取り下げたときや、訴えが裁判所で却下(門前払い判決)されたときは、時効は更新しません。この点もあわせてご注意ください。

時効の更新の特殊なケース(債権者代位権)

 少し特殊ですが、次のようなケースもあります。
 まずは以下の事例をご覧ください。

事例2
AはBにお金を借りている。BはCにお金を借りている。


 これは、AがBからお金を借りていて、BがCからお金を借りている事例です。

 お金  お金
A ← B ← C
 貸す  貸す

 一見何の変哲もない事例ですが、このようなケースで、CがBへの貸金回収(貸したお金の回収)にあたり、Bにお金が無かったとしたらどうでしょう?
 その場合、AがBにお金を返せば、そのお金をBはCへの貸金回収に充てることができますよね。
 民法では、こういった場合に、BがAに対して持つ「金返せ」という債権を、CがBに代わって行使する債権者代位権という制度を定めています。
 つまり、CがAに対し「Bに金返せ」と請求することができるのです。

 返せ  返せ
A ← B ← C
↑(Bに返せ)
C  

 また、債権者代位権では、金銭債権の場合は直接自己に支払う事を求めること可能としています。
 つまり「金返せ」は金銭債権なので、CはAに対して「Bを通さず私(C)に直接金払え」と請求することもできます。

 返せ  返せ
A ← B ← C
↑(私に直接払え)
C   

 ただし、これができるのは、あくまでBが無資力(お金がない状態)のときだけですのでご注意ください。(債権者代位権については別途改めて解説いたします)。
金欠
 以上が債権者代位権についての簡単な解説ですが、ここからが本題です。
 債権は10年間で時効により消滅してしまいます。(民法166条)
 ですので、事例2のCは、Bに10年間逃げ続けられると借金を踏み倒されてしまいます。
 そこで、Cは消滅時効を止めるため、Bに対し裁判上の請求等を行わなければなりません。
 それでは、Cが債権者代位権を使って、BがAに対して持つ「金返せ」という債権を、Bに代わって行使(これを代位行使という)した場合、消滅時効の進行が止まるのは、BがAに対して持つ債権なのか、それともCがBに対して持つ債権なのか、一体どちらなのでしょうか?

 返せ  返せ
A ← B ← C
 債権  債権
  ↑   ↑
時効が止まるのはどっち?

 結論。消滅時効の進行が止まるのは、BがAに対して持つ債権です。
 したがいまして、もしCのBに対する債権が時効完成間近なのに、Cが債権者代位権によりBのAに対する債権を代位行使しても、CのBに対する債権の消滅時効の進行は止まりません。


時効の完成猶予

 時効が更新すると、時効期間はリセットされます。つまり、積み上げられた時効期間はゼロに戻ります。
 一方、時効の進行はストップするが時効期間はリセットされない「時効期間の進行が一旦止まる」というものも存在します。
 それは、時効の完成猶予です。

時効が一旦止まるとき(時効の完成猶予事由)

 では、一体どんなときに時効の完成猶予(一旦止まる)が起こるのでしょうか。

・仮差押え、仮処分
・催促

 催告は先述のとおりです。
 仮差押え、仮処分は 裁判所を使った手続です。(これらについての詳しい解説は借金で考える債権の世界~差押え&強制執行の超基本をご覧ください)
 他にも民法158~161条に時効の完成猶予に関する規定が存在するのですが、ここでは、その中の未成年者・成年被後見人に関する民法の条文を見ていきます。

(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予)
民法158条
時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない


 この民法158条で言っているのはどういう事なのか、わかりやすく具体的に解説するとこうです。
 例えば、債権者が未成年者または成年被後見人だったとして、その債権があと少し(時効完成まで6ヶ月以内)で、時効により消滅しそうになっていたとします。
 このときに、債権者である未成年者または成年被後見人に、法定代理人がいない場合、その債権の時効の進行は完成猶予(一旦ストップ)します。
(法定代理人とは、未成年者の場合その親が法定代理人であることが多い)
親子2
 なぜそのようになっているのか?その理由ですが、未成年者や成年被後見人は、法定代理人に代理をしてもらわないと訴えの提起ができません。(例えば子供が自分で裁判を起こせない)
 そして、訴えの提起ができないとなると、時効の進行を止めることができないのです。
 これでは未成年者や成年被後見人は困ってしまいます。ましてや法定代理人がいないのは、本人のせいでもないでしょう。
 したがいまして、そのような場合には、法律により時効期間の進行を一旦止まらせて、未成年者や成年被後見人に法定代理人が就いてから、または未成年者や成年被後見人が行為能力者になってから(例えば未成年者が成年者になってから)6ヶ月が過ぎるまでの間は、時効期間の進行を止まらせたままにし、その間は時効が完成しないと定めているのです。

【補足1】 
 ちなみに、先述の民法158条には、被保佐人と被補助人については記述がありませんでした。
 その理由は、被保佐人・被補助人につきましては、法定代理人に代理をしてもらわなくても、自らで訴えの提起ができるからです(自分で裁判を起こせる)。法定代理人はそれに同意をするだけなので、時効の完成猶予も必要ないのです。(未成年者・成年被後見人や被保佐人などの制限行為能力者についての詳しい解説は制限行為能力者~成年被後見人・被保佐人・被補助人とは?をご覧ください)

【補足2】
 時効の完成猶予に関しまして、民法に次のような規定もあります。

(夫婦間の権利の時効の完成猶予)
民法159条
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消※の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

※婚姻の解消は「離婚」「配偶者の死亡」の2種類ある。

 この民法159条は、例えば、夫婦間で金の貸し借りなどをしていた場合、その債権の時効期間の進行は離婚してから6ヶ月までの間は止まる、ということを言っています。


以上、ここまでが時効の更新と完成猶予についてになります。
 時効の更新時効期間が完全にリセットされますが、時効の完成猶予はあくまで時効期間の進行が一旦ストップするだけです。
 この点はくれぐれもお間違いのないようにご注意ください。(時効の完成猶予は「時効の一時停止」と覚えてしまってもいいかもしれません)

除斥期間

 消滅時効と似て非なるものに、除斥期間があります。
 除斥期間とは、一定の期間を過ぎると問答無用に権利が消滅する期間のことです。
 問答無用に権利が消滅するとは、当事者が何しようがで勝手に権利が消滅するということです。
 さらに、更新も完成猶予もありません。
 したがって、債権者側からすると、除斥期間を過ぎるともはや手の打ちようがありません。
 一方、債務者側からすると、除斥期間が過ぎてしまえば、もはや援用(時効の権利の主張)すらする必要もないのです。
 
・除斥期間の起算点
 除斥期間の起算点は、一律に権利発生時となっています。

・除斥期間の効果
 除斥期間経過による権利消滅の効果はさかのぼりません。

・除斥期間という言葉は民法の条文に存在しない
 実は、民法の条文には除斥期間という言葉は存在しません。
 しかし、民法が規定する権利の存続期間の中で、除斥期間と解釈されるものはあります。
 例えば、売主の契約不適合責任における解除権の行使期間、取消権の行使期間、窃盗被害者・遺失主の権利回復期間などがあります。

 以上、最後に除斥期間についての簡単な解説でした。
 ここで覚えておいていただきたいことは、除斥期間は消滅時効と違い、更新もなければ、よほどのやむを得ない事由がない限り完成猶予もしないという事です。
 この点はくれぐれもご注意ください。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【時効の援用と利益の放棄】援用ができる当事者と時効更新の相対効について(保証債務)

▼この記事でわかること
時効の援用とは
時効の援用ができる当事者とは(保証人の援用)
時効更新の相対効(保証債務)
時効利益の放棄
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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時効の援用

 取得時効の場合、時効の完成によって権利を取得します。
 消滅時効の場合、時効の完成によって権利が消滅します。
 ところで、時効というのものは、時効期間が満たされると自動的に権利を取得したり、自動的に権利が消滅したりするものではありません。
 え?どゆこと?
 時効期間が満たされても、時効の効果を受ける権利を得るだけなのです。
 そして、その権利を行使することを時効の援用と言います。
 つまり、時効は、時効の援用をして初めてその効果が確定するのです。
 ですので、裁判所が勝手に「あ、それ時効ね」と決めることはできません。当事者が「時効を援用します」と主張して、初めてその効果が確定します。
 まとめるとこうです。

「時効期間が満たされても時効の効果は確定せず、時効の援用をして初めてその効果が確定し、時効を援用するかどうかは当事者の任意(当事者が自ら選択して決める)」

 じゃあ時効を援用しなかったら?
 そのときは時効の効果は確定しません。取得時効なら権利の取得は確定せず、消滅時効なら権利の消滅は確定しません。
 例えば、AがBに100万円を貸していて、すでに返済期日より10年間経過していたとしましょう。
 このとき、AのBに対する「100万円返せ」という債権は消滅時効にかかっています。なので、Bは時効の援用をすれば、100万円の借金を返さなくてもいいのです。
 しかし、Bが「借金を踏み倒すなんて道義に反する。オレは意地でもAに借金を返すんだ!」といって時効を援用しなければ、AのBに対する債権は消滅しません。(これを時効利益の放棄という)
 これが、時効の援用は当事者の任意(当事者が自ら選択して決める)ということの意味です。

時効の援用ができる当事者とは

 時効を援用できるのは「時効によって直接に利益を受ける当事者」だけです。
 では、この「時効によって直接に利益を受ける当事者」の範囲は、一体どうなっているのでしょうか?
考え中
 例えば、AがBを保証人として、Cからお金を借りたとしましょう。(このような場合、Aを主債務者と言います)

           債権 
B(保証人)ーA(主債務者) ← C
           借金

 そして、CのAに対する債権が返済期日10年間の経過により消滅時効にかかった場合、Aが時効の援用をできるのは当然として、保証人Bは時効の援用ができるでしょうか?
 結論。保証人Bも時効の援用ができます。
 これはすなわち、保証人Bも「時効によって直接に利益を受ける当事者」ということです。
 その理由は、主債務者AのCに対する債務(これを主債務と言う)が消滅すれば、保証人Bの債務(これを保証債務と言う)も消滅します。
 したがいまして、保証人Cも時効の援用ができる当事者なのです。(保証債務の基本についての解説は人が担保の保証人&物が担保の物上保証~をご覧ください)

補足:時効更新の相対効

 先ほど挙げた例で、保証人Bは、主債務者Aの時効を援用できることがわかりました。
 では、主債務者Aの債務、つまり主債務(AのCへの借金債務)の時効が更新した場合、保証人Bの債務、つまり保証債務の時効も更新するのでしょうか?
 結論。その場合は、保証人Bの保証債務の時効も更新します。
 ただし!保証人Bの保証債務の時効が更新しても、主債務者Aの主債務の時効は更新しません。
 これを、時効更新の相対効と言います。

〈時効利益の相対効〉
主債務更新→保証債務も更新
保証債務更新→主債務も更新× 

 なお、解説の中で登場した「相対効」や「主債務・保証債務」といったものに関しましては、別途改めて詳しく解説いたしますので、ここではとりあえず「そういうものがあるんだ」と、覚えておいていただければと存じます。

時効利益の放棄

 時効は、当事者が援用しなければその効果が確定しません。
 ということは、このようなことも可能なのでしょうか?
 例えば、AがBにお金を貸し付けた場合、時効対策として、あらかじめ契約書に次のような文言を入れておけば、債権者Aは安心なのでは?

「BはAに対し時効利益を放棄する」

 時効利益の放棄とは、時効を援用しないということです。時効利益を放棄すれば、時効の効力が確定的に消滅します。
 つまり「時効利益を放棄する」の文言を入れておけば、あらかじめ時効の効力を消滅させることができるわけです。
 しかし!そのようなことはできません。
 これについては、民法に極めてわかりやすい明快な条文があります。

(時効の利益の放棄)
民法146条
時効の利益は、
あらかじめ放棄することができない。

 え?民法さんどうしちゃったの?と思ってしまうぐらい、やけにわかりやすい民法146条条文ですよね(笑)。
 したがいまして、先の例のように、契約書にあらかじめ時効利益を放棄する旨の文言を入れたところで、その条項は無効になります。どうあがいても、あらかじめ時効の利益を放棄する(させる)ことはできないのです。
 もし、ヤバそうな所からお金を借りて、あらかじめ時効利益を放棄する旨の文言が入った契約書にサインをしてしまった人は、その条項につきましては無効なのでご安心ください。時効期間を満たせば、普通に時効が援用できますので。。。
 あ、決して借金の踏み倒しをススメている訳ではありませんので、誤解なきよう(笑)。

 さて、あらかじめ時効利益の放棄ができないことはわかりました。
 それでは続いて、このような場合はどうでしょう。

事例
AはBに100万円を貸し付けた。やがて時が過ぎ、AのBに対する債権は消滅時効にかかっていたが、Bはそれに気づかず債務を承認した。


 これは、債権者のAのBに対する「金返せ」という債権がすでに時効になっていたが、債務者のBがそのことに気づかずに「金返します」と債務の承認をした、という話です。
 さて、この事例で、Bは時効利益を放棄したことになってしまうのでしょうか?
 結論。Bの債務の承認は、時効利益の放棄にはあたりません。しかし、結果的には時効利益を放棄したのと同じことになります。
 ん?どゆこと?
 まず、事例のBは、自分の債務が消滅時効にかかっていることに気づいていません。つまり、Bは自らの時効利益を知らないのです。
 知らない利益を放棄できるの?
 もちろんできません。
 じゃあなんで時効利益の放棄と同じ結果になるの?
 判例では、次のような理屈で結論づけています。

「債務者Bの債務の承認は時効利益の放棄にはあたらない。
しかし、一回債務を承認したBが、その後、自らの債務が消滅時効にかかっていることに気づいて「やっぱり時効を援用します!」と言えるのか?
それは認められない。なぜなら、一度債務を承認した者が、その後、それをひっくり返して時効の援用を主張するのは信義誠実の原則(信義則)に反し許されないから!」

 なお、一度、時効利益を放棄しても、そこからまた新たに時効期間を満たせば、そのときは時効の援用ができます。
 これは時効が更新した場合と一緒です。
 この点ご注意ください。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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