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【代理の超基本】表見&無権代理とは/3つの表見代理とは/表見代理に転得者が絡んだ場合
【無権代理行為の追認】催告権と取消権とは?その違いとは?/法定追認について
【無権代理人の責任はかなり重い】無権代理人に救いの道はないのか?
【代理行為の瑕疵】代理人&本人の善意・悪意について/特定の法律行為の委託とは?
【代理人の権限濫用】それでも代理は成立している?裁判所の使う類推適用という荒技
【代理人の行為能力】表現代理人・無権代理人が配偶者の場合
【復代理】任意代理人と法定代理人の場合では責任の度合いが違う/代理を丸投げできるケースとは
【無権代理と相続】無権代理人が本人を&本人が無権代理人を相続した場合/本人が追認拒絶後に死亡した場合/相続人が複数の場合/相手方ができること
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【代理の超基本】表見&無権代理とは/3つの表見代理とは/表見代理に転得者が絡んだ場合

▼この記事でわかること
代理の超基本
代理人が顕名しなかったとき
無権代理とは
表見代理とは
代理権授与の表示による表見代理
権限外の行為の表見代理
代理権消滅後の表見代理
表見代理の転得者
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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代理の基本
 
 代理の制度は、法的三面関係を生み出すといわれ、相手方を含めて登場人物が最低3人は登場します。
 ゆえに、慣れないうちはややこしく感じるかと思いますが、私なりに、じっくりとわかりやすく解説して参りますので、よろしくお願いします。
 ちなみに、制限行為能力者の話などで出てくる法定代理人は、代理の一種です。
 それでは、まずは代理に関する民法の条文を見てみましょう。

(代理行為の要件及び効果)
民法99条
1項 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
2項 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。


 上記、民法99条条文で、大事なポイントが3つあります。そのポイントをひとつひとつ解説して参ります。

1【代理人がその権限内において】
 権限というのは、権利の限界ということですよね。
 つまり「代理人がその権限」ということは、法律的に代理人には「代理人としての権利」すなわち、代理権が存在するということを意味します。
 そして「その権限内」とは、代理権の範囲内という意味です。
 これは例えば、ギタリストのAさんがBさんに「YAMAHAのギターを買ってきて」と頼んだとすると、BさんはAさんの代理人になり、Bさんの持つ代理権の範囲は「YAMAHAのギターの購入」になります。ですので、YAMAHAのピアノを購入することはできません。なぜなら、Bさんの持つ代理権の範囲外だからです。
 また、Aさんが「YAMAHAのギターを買ってきて」と依頼し、Bさんが「やるし!」とそれを承諾すると、その時点で委任契約が成立します。

2【本人のためにすることを示して】

 これは例えば、Aさんから「YAMAHAのギターを買ってきて」と依頼されたBさんが、楽器屋さんに行って「Aの代理人のBです。Aのために購入します」と示すということです。これを顕名と言います。
 顕名の仕方は、最も確実なのは委任状を見せることですが、委任状を示さずとも「Aの代理人B」ということが相手にわかれば、顕名があったと言えます。

3【意思表示】

 99条2項で書かれていることは、例えば、Aさんから「YAMAHAのギターを買ってきて」と依頼されたBさんが、楽器屋さんから「YAMAHAのギターを売りました」という意思表示を受け取った場合のことです。
 つまり、代理人と相手方の間で売買契約などの「法律行為が行われた」ということです。

 以上、3つのポイントを要約すると以下になります。

1・代理権
2・顕名
3・代理人と相手方の法律行為


 これらが代理の3要素、すなわち、法律要件になります。
 法律要件ということは、これらの3要素「代理権・顕名・代理人と相手方の法律行為」が存在して初めて代理が成立するということです。
 まずはここをしっかり押さえてください。
 そして、もうひとつ重要なポイントがあります。それは条文中の「本人に対して直接にその効力を生ずる」という部分です。
 これは、先述の3つの法律要件を満たして代理が成立すると、その法律効果は本人に及ぶということを意味します。
 ということは、Aさんから「YAMAHAのギターを買ってきて」と依頼されたBさんが、楽器屋さんでYAMAHAのギターを購入すると、その法律効果はAさんに及びます。つまり、YAMAHAのギターの購入代金の債務はAに生じるので、楽器屋さんが請求書を書く場合、そのあて先はAになります。そして、購入したYAMAHAのギターの所有権もAさんのものになります。
 このように、本人と代理人の代理関係、代理人と相手方の法律行為、法律行為の効果帰属(効果が及ぶ先)、という三面関係が、冒頭に申し上げた「法的三面関係」を生み出すという代理制度の大きな特徴になります。

 以上、まずここまでの解説が、代理という制度の「キホンのキ」になります。ちょっと退屈な内容に感じたかもかもしれませんが、まずはここをしっかり押さえていただければと存じます。

代理人が顕名しなかったとき
言わざる
 代理を構成する要素は先述のとおり次の3つです。

1・顕名
2・代理権
3・代理人と相手方の法律行為


 これを、もっとわかりやすく、事例とともに見て参りましょう。

事例1
お金持ちのAは、軽井沢に別荘を買いたいと考えていたが、多忙のため手がつかないので別荘の購入をBに依頼した。そして、BはAの代理人としてC所有の甲建物を購入した。


 この事例1で、代理を構成している3要素は
1・「私はAの代理人Bです」という顕名(通常は委任状を見せる)
2・本人Aを代理して権利を行使する代理人Bの代理権
3.BC間の売買契約(法律行為)
ということになります。
 では、これら代理を構成する3要素のどれかが欠けてしまったときは、どうなるのでしょうか?

顕名がない代理行為

 例えば、事例1で、代理人BがCに対し「私はAの代理人Bです」という顕名をしなかったらどうなるでしょう?
 普通に考えて、代理人が顕名をしないとなると、相手方は単純に、代理人自身を法律行為の相手方だと思いますよね。
 そこで、民法では、このような場合について次のように規定しています。

(本人のためにすることを示さない意思表示)
民法100条
代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。


 これは民法100条条文を読めばすぐわかりますよね。
 つまり、顕名をしなかった代理人の法律行為は、代理人が自分自身のためにしたものになってしまうということです。
 したがいまして、事例1で、代理人Bが顕名をしなかった場合、Bは自分自身のために甲建物を購入したとして、BC間の売買契約が成立します。ですので、B自身代金支払い債務が生じ、Cが甲建物の売買代金を請求する相手はBになります。
 もしBが「そんなつもりはなかった」と言って支払いを拒むと、債務不履行による損害賠償の請求の対象になります。
 代理人が顕名をしないと大変なことになってしまうということです。
 では、顕名をしなかった代理人Bには、何か救いの道はないのでしょうか?
 実は、民法100条には続きがあります。

民法100条続き
ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。

 これはどういうことかと言いますと、たとえ代理人Bが顕名をしたかったとしても、相手方のCが「BがAの代理人であることを知っていた(悪意)」または「BがAの代理人であることを知ることができた(有過失)」ときは、顕名があった場合と同じように扱う、つまり、通常の代理行為として扱うという意味です。
 したがって、そのようなケースでは、甲土地の売買代金の請求先はAになります。

無権代理と表見代理

 顕名がなかったときの代理行為がどうなるのかはわかりました。
 では、代理人に代理権がなかった場合はどうなるのでしょう?
 実は、ここからが代理についての本格的な問題となります。ここまではまだ、代理制度のイントロに過ぎません。
 ここからいよいよ、代理制度のサビ、代理権がなかった場合についての解説に入って参ります。

事例2
Bは代理権がないのにもかかわらず、お金持ちのAの代理人と称して、軽井沢にあるC所有の別荘の売買契約を締結した。


 このケースでは、Bは代理権がないのに代理行為をしています。これを無権代理と言います。そして、Bのような者を無権代理人と言います。
 さて、ではこの事例2で、お金持ちのAさんは、無権代理人Bの勝手な行動によって、C所有の別荘を買わなければならないのでしょうか?
 結論。AはC所有の別荘を買わなければならなくなる訳ではありません。
 なぜなら、Bには代理権がないからです。当たり前の話ですよね。
 え?じゃあ誰が別荘を買うの?B?
 Bが買うことにもなりません。なぜなら、Bは顕名をしているからです。顕名をしていなければ、民法100条のただし書きの規定により、B自身が買わなければなりません。
 しかし、Bはたとえ偽りであれ「Aの代理人B」ということは示しています。ですので、B自身が買主にはならないのです。
 ん?じゃあどうなるん?
 このままだと、一番困ってしまうのは代理行為の相手方のCですよね。Bの勝手な行動による被害者とも言えます。
 そこで民法では、このような無権代理人の相手方を救う制度を設けています。それが表見代理です。

表見代理

 表見代理とは、ある一定の要件を満たしたときに、無権代理行為が通常の代理行為のように成立する制度です。
 つまり、事例2のCは、ある一定の要件を満たせば、本人Aに対して別荘の売買代金を請求できるのです。
 では「ある一定の要件と」とは何でしょう?
 表見代理が成立する要件は2つあります。

1・相手方の善意無過失
2・本人の帰責事由


 それでは、ひとつひとつ解説して参ります。

1【相手方の善意無過失】
 これは、事例2に当てはめますと、Cの善意無過失です。
 どういうことかと言いますと、BがAの代理人だとCが信じたことに過失(落ち度)がない、ということです。
 例えば、BがAの印鑑証明書まで持ち出してCに見せていたら、何も事情を知らないCは、普通にBがAの代理人だと信じてしまっても仕方がないですよね。
 したがって、そのような場合のCは善意無過失となります。
 一方、実はBがAの代理人ではないことをCが知っていたり(悪意)、自らの注意不足が原因で(有過失)、Aの代理人BということをCが信じてしまっていたような場合、それは善意無過失にはなりません。

2【本人の帰責事由】
 これも、事例1に当てはめてご説明します。
 まず事例1において、本人とはAのことですよね。つまり、Aの帰責事由(責任を取るべき理由)です。
 例えば、BがAの印鑑証明書まで持ち出していて、しかもそれが、AがBを信頼して渡していたものだったとしたらどうでしょう。そのような場合、Cにはこんな言い分が成り立ちます。
「一番悪いのは無権代理行為をしたBだ。しかし、そもそもAがBなんかに印鑑証明書を渡していなければ、こんな事も起こらなかったんじゃないか!?」
 これは、法律的に正当な主張になります。「Bに印鑑証明書を渡してしまったAも悪かった」ということです。すなわち、Aに帰責事由(責任を取るべき理由)アリということです。
 これが表見代理を成立させる要件の2つめ、本人の帰責事由です。

 以上、2つの要件「相手方の善意無過失」「本人の帰責事由」を満たすと、表見代理が成立します。
 したがいまして、事例2のCは、BがAの代理人であるということについて善意無過失で、かつ本人Aに何らかの帰責事由があった場合は、表見代理が成立し、本人Aに対して別荘の売買代金の請求ができるということです。同時に、本人Aには別荘の売買代金の支払い債務(義務)が生じ、無権代理人Bの責任を本人Aが取らなければならなくなります。

 以上が、表見代理の基本です。

表見代理の3類型
三本指
 民法では、表見代理について、3つの規定が存在します。

・代理権授与の表示による表見代理
・権限外の行為の表見代理
・代理権の消滅事由

 それでは、こちらもひとつひとつ解説して参ります。

代理権授与の表示による表見代理

(代理権授与の表示による表見代理)
民法109条
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。


 上記、民法109条条文中の「他人」とは、無権代理人のことです。「表示した者」とは、本人のことです。「第三者」というのは、無権代理行為の相手方です。
 つまり、民法109条で言っていることは「本当は代理権がない無権代理人に代理権があるように見せかけた原因を作ったのが本人の場合は、本人がその責任を負う。ただし、無権代理行為の相手方がその事実を知っていた、または過失により知らなかった場合には、本人は責任を負わない」ということです。
 要するに「本人に帰責事由アリなら本人が責任とれ!」という話です。

権限外の行為の表見代理

(権限外の行為の表見代理)
民法110条
前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。


 上記、民法110条条文冒頭の「前条」とは、前述の民法109条です。「権限外の行為」とは、代理権の範囲を超えた行為ということです。
 例えば、お金持ちのAさんが多忙のためBさんに軽井沢の別荘の買入れを依頼(委任契約)したとしましょう。するとBさんは「軽井沢の別荘の買入れ」という代理権を持つことになりますが、これを基本代理権と言います。すなわち、権限外の行為とは、基本代理権を超えた行為です。「軽井沢の別荘の買入れ」という基本代理権を持ったBさんが「北海道の別荘を買っちゃった」みたいなことです。そして、そのような場合も民法109条の規定が適用されるということです。
 ん?てことは権限外の代理行為の相手方が善意無過失なら本人が責任取るってこと?本人は別に悪くなくね?
 実はそんなことはなく、この場合も本人に帰責事由アリなのです。
 確かに、代理権限を超えた行為をした代理人が一番悪いのは間違いないです。相手方も被害者なら、本人も被害者です。
 しかし、こうも考えられます。
「代理権限を超えた行為をやらかしちゃうような信頼できない代理人に代理権を与えなければそもそもこんな問題は起こらなかったんじゃないか?じゃあ誰がそんな代理人に代理権を与えた?本人だよな。だから本人も悪い!
 ということで、このようなケースでも、本人に帰責事由アリとなるのです。

代理権消滅後の表見代理

(代理権消滅後の表見代理)
民法112条
他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。


 上記。民法112条条文中の「代理権の消滅」とは、委任契約の終了と考えるとわかりやすいと思います。
「事実を知らなかった第三者」とは、事実を知らなかった相手方(善意の第三者)です。
 つまり、この民法112条で書かれていることはこうです。
 例えば、お金持ちのAさんが多忙のためBさんに軽井沢の別荘の買入れを依頼(委任契約)したが、結局、別荘の購入はされないまま委任契約が終了し、その後に、もう委任契約は終了したのにもかかわらずBが軽井沢の別荘を購入しちゃった、というようなケースで、本人Aが「もう委任契約は終了したんだ!だから別荘は買わない!」と相手方に対し主張できないということです。
 本人の帰責事由は、先程と一緒で「委任契約が終了したのに代理行為をやらかしちゃうような信頼できない代理人に代理権を与えなければそもそもこんな問題は起こらなかったんじゃないか?じゃあ誰がそんな代理人に代理権を与えた?本人だよな。だから本人も悪い!」となります。

【補足】
 代理行為の相手方が助かるための要件は、善意無過失と本人の帰責事由です。
 では、代理行為の相手方の善意無過失は、誰が立証するのでしょうか?
 判例・通説では、民法109条(代理権授与の表示による表見代理)と民法112条(代理権消滅後の表見代理)のケースにおいては、本人側に代理行為の相手方の悪意・有過失の立証責任があるとされています。
 つまり、代理行為の相手方の無過失推定されるのです。本人が助かるには、自らで代理行為の相手方の悪意・有過失を立証しなければなりません。
 これは本人にとってはちょっと酷な構成ですが、取引の安全性を重視する、いつもどおりの民法の姿勢とも言えます。

表見代理の転得者

事例3
Bは代理権がないのにもかかわらず、Aの代理人と称して、A所有の甲建物を悪意のCに売却した。そして、Cは善意のDに甲物件を転売した。


 さて、この事例3では、まず表見代理は成立しません。
 なぜなら、代理行為の相手方のCが悪意だからです。表見代理が成立するための2つの要件、相手方の善意無過失と本人の帰責事由、そのうちのひとつが欠けてしまっています。
 ここまでは表見代理の基本ですが、問題はここからです。
 この事例3で、表見代理が成立しないのはわかりましたが、そうなると、善意のDはどうなるのでしょうか?
 結論。Dのために表見代理が成立することはありません

 表見代理の制度は、代理人に代理権があるという外観を、過失なく信じた代理行為の相手方を保護するためのものです。あくまで、代理行為の直接の相手方を保護する制度です。
 そして事例のDは、代理行為の直接の相手方ではありません。Dはあくまで転得者です。
 これは普通に考えてもわかるかと思いますが、転得者のDが「BにはAの代理権が確かにある!」と思って、甲建物の取引に入って来ることはまずないですよね?DがAともBとも知り合いだとか、過去に取引したことがあるとかなら別ですが、そのようなことはかなりマレでしょう。
 したがいまして、表見代理は転得者のためには成立しません。
 この点はご注意ください。

民法110条の正当な理由とは

(権限外の行為の表見代理)
民法110条
前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。


 上記は先述の民法110条の条文ですが、条文中の「正当な理由」とは、一体どんなものを言うのでしょうか。
 判例では、無権代理人が本人の実印を持っている場合「特段の事情がない限り正当な理由」としています。
 特段の事情という言葉は、判例ではよく出てくるのですが、簡単に言うと「よっぽどのこと」です。つまり「無権代理人が本人の実印を持っていたら、それはよっぽどのことがない限り代理権があると信じちゃうのは仕方ないよね」ということです。
 ただ一方で、判例で「正当な理由」が認められづらいケースも存在します。それは、本人と無権代理人が同居しているケースです。
 例えば、本人Aと無権代理人Bが旦那と嫁の関係で同居していたとすると、嫁のBが旦那のAの実印を持ち出すことは難しくないでしょう。そのようなケースでは、相手方は、本人の実印を持っている無権代理人に対して、より慎重に対応しなければなりません。
 例えば、旦那のAに直接確認の電話をするとか。そして、そのような慎重な対応をしていないと「正当な理由」が認められず、表見代理が成立しなくなってしまう可能性が高いです。つまり、本人と無権代理人が同居していると、無権代理人が本人の実印を持っているからといっても、それだけでは表見代理の成立が難しくなっているのです。

 このように、現実においては、表見代理の成立はケースバイケースで変わってきます。
 ですが、表見代理の基本は今までご説明してきた内容になります。
 まずはこの基本を、しっかり押さえていただければと存じます。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【無権代理行為の追認】催告権と取消権とは?その違いとは?/法定追認について

▼この記事でわかること
無権代理行為の追認の基本
不確定無効とは
催告権と取消権
追認と法定追認
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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無権代理行為の追認

事例1
Bは代理権がないのにもかかわらず、お金持ちのAの代理人と称して、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。Aはその事実を知ると最初はたまげたが、次第に甲別荘を気に入ってしまい値段も悪くなかったので、そのまま購入してしまいたいと考えた。


 さて、いきなり事例から始まりましたが、まずこの事例1は、表見代理が成立するか否かの話ではありません。(表見代理についての詳しい解説は「【代理の超基本】表見&無権代理とは」をご覧ください)。
 なぜなら、本人Aが甲別荘を購入したいと思っているからです。
 これを表見代理として考えてしまうと、表見代理が成立しなければ本人Aは甲別荘を手に入れることができない、ということになります。もし、Bの無権代理行為について、Cが悪意(事情を知っていた)か有過失(落ち度アリ)であったか、または本人Aに全く帰責事由(責任を取るべき理由)がなかった場合、表見代理が成立せず、Aの思いは果たせません。
 そこで民法では、このように、無権代理人による行為であるとはいえ、本人がその結果を望んだ場合は、本人は追認できることを規定しています。※
※追認とは、追って認めること、すなわち後から認めることです。ある法律行為(事例1なら甲別荘の売買契約)を後から「それOK!」と(追認)する、ということです。

(無権代理)
民法113条
代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。


 上記、民法113条条文中の「本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない」とは、本人が追認(後からOK)すれば無権代理行為の効力が本人に生じるというこ意味です。
 したがいまして、事例1の本人Aは、無権代理人Bの行為(C所有の甲別荘の売買契約)を追認すれば、甲別荘を手に入れることができます。
 本人Aは無権代理行為の被害者でもありますが、偶然とはいえ、甲別荘が気に入ってしまいました。そして、相手方Cも無権代理行為の被害者ですが、元々「お金持ちのAさんなら買ってもらいたいな」と思い、Aと甲別荘の売買契約をしたはずです。つまり、本人Aがそのまま追認してくれれば、Cも助かります。
 ですので、事例1は、たまたまとはいえ、Aが甲別荘を気に入ってそのまま追認するとなると、みんなウィンウィンでハッピーなんですよね。
 したがいまして、民法では、無権代理行為を本人が追認することができる旨の規定を置いているのです。
 また、補足ですが、民法113条には続きがあります。

民法113条2項
追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。


 この民法113条2項は何を言っているのかといいますと、事例1の本人Aが追認する場合、その追認は、相手方Cに対してしなければ対抗できないということです。
 どういうことかと言いますと、例えば、すでに相手方Cの気が変わってしまい、もうAには売りたくないと思っていて、別の人に売ろうとしていたらどうでしょう?そのような場合、甲別荘が欲しいAは、Cに対して追認しなければ、別の人に売ろうとしているCに対抗できない、ということです。
 民法は、そのようなケースもあらかじめ想定しているのです。

不確定無効

 無権代理行為は、表見代理が成立するか本人が追認しない限り無効です。
 ですので、表見代理が成立しない無権代理行為は、本人が追認するかしないかの結論を出すまでは、どっちつかずの中途半端な状態です。この状態のことを不確定無効と言います。無効が確定しない状態なので、不確定無効なのです。
 無効が不確定、すなわち無い物が不確定、というのもなんだか面白いですよね。まるで釈迦に始まる中観仏教みたいです。
 ちなみに、私は釈迦に始まる中観仏教が大好きです。すいません。思いっきり余談でした(笑)。
奈良の大仏
催告権と取消権

事例2
Bは代理権がないのにもかかわらず、お金持ちのAの代理人と称して、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。その後、Aに代理権がないことが発覚すると、Cは厄介な法律問題には関わりたくないと思い、さっさと別の買主を見つけて甲別荘をなんとかしてしまいたいと考えた。


 さて、この事例2では事例1のときとは違い、無権代理行為の相手方Cは、無権代理人Bとの甲別荘の売買契約をナシにしてしまいと考えています。
 では、甲別荘の売買契約がナシになる場合というのは、どういうケースがあるでしょうか?
 それは、本人Aが追認しないか、表見代理が不成立になるかです。
 しかし、これだと相手方Cは困りますよね。なぜなら、まず本人Aが追認するかしないかの決断を待たなければなりません
 本人の決断が出るまでは、不確定無効の状態が続きます。Cとしては、その間にも別の買主を探したいでしょう。もちろん、その間にも別の買主を探すことはできますが、もし本人Aが追認したならば、途端にBの無権代理行為は有効になり、Cには甲別荘の引渡し義務が生じます。なので、Cとしては動きづらいんです。
 そして「なら他の買主は諦めてAに買ってもらおう」と思っても、Aが追認してくれるならいいですが、そうでない場合は、表見代理が成立しなければなりません。そのためにお金と時間を使って裁判して立証して...となると、Cも大変です。
 そもそも事例2で、Cは法律問題には関わりたくないと考えています。
 そこで民法では、このように無権代理行為で困ってしまった相手方に、そのような状況を打破するための権利を用意しました。
 それが、無権代理行為の相手方の催告権取消権です。

催告権

 これは、無権代理行為の相手方が、本人に対して相当の期間を定めた上で「追認するか、しないか、どっちだコラ」と答えを迫る権利です。そしてもし、期間内に本人が返事を出さなかったらそのときは、本人は追認拒絶したとみなされます。無権代理行為の相手方の、本人に対する催告権には、このような法的効果があります。
 従いまして、事例2の相手方Cは、本人Aに対して相当な期間を定めた上で「追認するか、しないか、どっちだコラ」と催告し、本人Aが追認すれば、無権代理人Bが行った甲別荘の売買契約が有効に成立し、本人Aが追認しないかあるいは期間内に返事をしなかった場合は、本人Aは追認拒絶したとみなされ、無権代理人Bが行った甲別荘の売買契約は無かったことになり、Cはさっさと次の買主探しに専念できます。

取消権

 無権代理行為の相手方が本人に対して取消権を行使すると、無権代理行為は無かったことになります。すると当然、本人は追認ができなくなります。
 したがって、事例2で、法律問題には関わらないでさっさと他の買主を見つけたい相手方Cは、本人Aに取消権を行使すれば、手っ取り早く解決できます。

補足

 無権代理行為についての追認について、民法ではこのような条文があります。

民法113条2項
追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。


 この民法113条2項の条文がまさに、事例2で重要になってくるのです。
 というのは、もし本人Aが追認したいと考えていた場合はどうでしょう?
 相手方Cは、むしろ別の買主に売りたいと考えていますよね。すると、状況としては「本人Aの追認が先か相手方Cの取消権行使が先か」というバトルになります。
 そしてこのときに、本人Aが無権代理人Bに追認の意思表示をしていたらどうなるでしょう?
 それだと相手方Cは、本人が追認したかどうかがわかりませんよね。その間に相手方Cが本人Aに対して取消権を行使したら、そのときは相手方Cの勝ちです。
 以上、といったことを、民法113条2項では規定しているのです。

追認と法定追認
女性講師
 最後に、追認についての補足的な内容を記します。

催告権行使と取消権行使の違い

 実は、この2つの権利行使には大きな違いがあります。
 その違いは、取消権善意の相手方しか行使できませんが、催告権悪意の相手方でも行使できます。
 なぜそのような違いがあるのか?
 これは、2つの権利の性格を考えればわかりやすいです。
 取消権は「取り消します!」と相手方が自分自身の意思をぶつけるのに対し、催告権は「追認しますか?どうしますか?」と本人の意思決定を伺う行為です。取消権は相手方自身が結論を出しているのに対し、催告権は「追認するかしないか、どっちだコラ」といくら迫っても、あくまで結論を出すのは本人です。つまり、催告権は取消権に比べて力の弱い権利なのです。
 したがって、結論を出すのはあくまで本人の催告権については、悪意の相手方でも行使可能となっている、ということです。

【内容証明郵便と返事】
 実際に現実に「追認しますか?どうしますか?」という内容証明郵便が送られてきたときに、追認する気がない場合、これに返事を書く必要があるのでしょうか?
 その場合、返事の必要はありません。そのまま、その催告をシカトしておくと、それがそのまま民法114条の追認拒絶となります。

無権代理行為の追認と法定追認

 無権代理行為の追認においては、民法125条の法定追認の適用があるのでしょうか?
 この問題について判例では、民法125条の規定はあくまで「制限行為能力、詐欺、強迫」を理由として取り消すことができる行為の追認についての規定であるため、その適用(類推適用)を否定しています。
 ということなので、もし無権代理においての本人が、民法125条に規定されている行為をしたとしても、法律上、追認したとみなされることはありません。(無権代理の本人が民法125条に規定される行為をしたときに、その行為が黙示の追認と判断されてしまう可能性はあります)

【追認の効力】
 追認の効果は、別段の意思表示がなければ遡及します。
 つまり、追認の効力は原則として遡って発生します。
 念のため申し上げておきます。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【無権代理人の責任はかなり重い】無権代理人に救いの道はないのか?

▼この記事でわかること
無権代理人の責任の基本
無権代理人に救いの道はないのか?
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
OP@_20210506132801ebd.png
無権代理人の責任

 無権代理行為が行われた場合、相手方を救うための制度として表見代理があり、表見代理が成立すると本人が責任をとることになります。
 表見代理による相手方の保護は、民法が重視する取引の安全性の観点からも重要です。
 しかし、そもそも無権代理において一番悪いのは、無権代理人ですよね?
 もちろん、民法では、無権代理人の責任についての規定もしっかり置いています。

(無権代理人の責任)
民法117条1項
他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。


 この民法117条1項のこれ、実はかなり重~い責任なんです。だって本人が追認してくれなかったら、無権代理人自身でなんとか事をおさめなきゃならないってことなので。
 その責任の重さ、事例とともにご説明いたします。

事例
Bは代理権がないのにもかかわらず、お金持ちのAの代理人と称して、軽井沢にあるC所有の別荘の売買契約を締結した。


 この事例で、無権代理人であるBは「Aの代理人Bです」という顕名を行なっています。ですので、あとは表見代理が成立するか本人が追認するか、という問題です。
 しかし、表見代理が成立せず本人Aが追認しなかったらどうなるでしょう?
 はい。もうおわかりですよね。そんなときに、先述の民法117条による重~い責任が、無権代理人Bに待ち受けています。
 では、どんな重~い責任が無権代理人Bに待ち受けているのでしょうか?
 まず、相手方Cが無権代理人Bに契約の履行を求めたなら、Bは別荘の売買代金を支払わなければなりません。
 また、相手方Cが無権代理人Bに損害賠償を請求したなら、Bはそれに応じ、賠償金を支払わなければなりません。
 しかも!このときの損害賠償の範囲はなんと、履行利益です!
 履行利益ということは、履行していれば得られたであろう利益を賠償するのです!(履行利益については「【契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)】~事業上の損害とは」でも解説しています)
 つまり、無権代理人Bは、契約の履行を迫られようが損害の賠償を迫られようが、いずれにしたって別荘の売買代金相当の支払いからは逃れられません。
 これ、マジでシャレにならない責任の重さです。表見代理が成立せず本人が追認しないときは、このように無権代理人には、地獄が待っているのです。

無権代理人に救いの道はないのか?
頼み
 表見代理が成立せず本人が追認しないとき、無権代理人には地獄が待っている、ということはすでにご説明したとおりですが、それでもまだなんとか!無権代理人に救いの手立てはあります。
 それがこちらの民法の条文で記されています。

民法117条2項 
前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一号 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二号 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三号 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。


 上記、民法117条2項の条文冒頭の「前項」とは、先述の民法117条1項のことです。
 この条文からわかることは、相手方が善意無過失でなければ無権代理人は救われるということです。
 つまり、事例の無権代理人Bは、相手方CがBの無権代理行為について、その事情を知っていたか(悪意)、もしくはCの不注意(過失)でBが無権代理人だということを見落としていたのなら、そのときは無権代理人Bは救われます。
 また、もし無権代理人Bが制限行為能力者であった場合は、そのときも責任を免れます。(無権代理においても制限行為能力者の保護は厚いのです)
 このように、表見代理が成立せず本人が追認しないときでも、無権代理人の救いの手立ては用意されています。
 しかし、相手方が善意・無過失ではないことを立証する責任は、無権代理人の側にあります。つまり、相手方の悪意・有過失の立証責任は無権代理人の側にあるのです!
 ですので、表見代理が成立せず本人が追認しないときでも無権代理人には救いの手立てが残っているとはいえ、その手立てを使って責任を免れるのも容易ではないのです。
 このことからも、無権代理人の、その重~い責任がよくわかります。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【代理行為の瑕疵】代理人&本人の善意・悪意について/特定の法律行為の委託とは?

▼この記事でわかること
代理人の善意・悪意について
本人が悪意のとき
「特定の法律行為の委託」とは
「特定の法律行為の委託」にあたるかあたらないかで結論が変わる理由
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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代理行為の瑕疵

 代理が成立するための3要素は「代理権」「顕名」「代理人と相手方の法律行為」になりますが、「代理人と相手方の法律行為」に瑕疵(欠陥)があった場合は、一体どうなるのでしょうか?

代理人の善意・悪意

事例1
Bはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。ところが、なんと甲別荘の真の所有者はDだった。どうやらDの資産隠しのためにCが協力して、甲別荘の名義をCに移したとのことだった。


 この事例1では、正式な代理権を持ったBは、しっかり顕名をして代理行為を行なっています。
 よってこれは、無権代理の問題ではありません。
 問題は、甲別荘の売買契約に瑕疵があるということです。つまり、冒頭に挙げた、代理が成立するための3要素のうちの「代理人と相手方の法律行為」に欠陥があるのです。
 ところで、事例1で、CとDが行なっていることは何かおわかりでしょうか?
 これは通謀虚偽表示です。(通謀虚偽表示についての詳しい解説は「【通謀虚偽表示の基本】無効な契約が実体化?」をご覧ください)。
 そうです。つまり、事例1は、通謀虚偽表示に代理人が巻き込まれたケースです。
 したがいまして、事例1で問題になるのは「甲別荘の売買契約が有効に成立して本人Aが甲別荘を取得できるかどうか」になり、そのための要件として「Cと甲別荘の売買契約をした者の善意」が求められます。この善意とは「CとDの通謀虚偽表示について」です。
 ということで「甲別荘の売買契約が有効に成立して、本人Aが甲別荘を取得するためには、Cと売買契約を締結した者の善意が求められる」ことがわかりました。
 さて、少々時間がかかりましたが、いよいよここからが今回の本題です。
 事例1で、甲別荘の売買契約が有効に成立するには、Cと甲別荘の売買契約をした者の善意が求められますが、では「Cと甲別荘の売買契約をした者の善意」とは本人Aの善意なのでしょうか?それとも代理人Bの善意なのでしょうか?
 まずは民法の条文を見てみましょう。

(代理行為の瑕疵)
民法101条
代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、
その事実の有無は、代理人について決するものとする。

 民法101条によると「その事実の有無は、代理人について決するものとする」とあります。これはつまり、事例1において、CとDの通謀虚偽表示についての善意・悪意は、あくまで代理人Bで判断するということです。
 したがいまして、事例1で、甲別荘の売買契約が有効に成立して、本人Aが甲別荘を取得するためには、CとDの通謀虚偽表示について代理人Bが善意であればOK!ということになります。
 なお、条文中に「意思の不存在、詐欺、強迫」とあり、通謀虚偽表示については書いていませんが、その後の「又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合」の中に、事例1のような通謀虚偽表示のケースも含まれます。

 さて、事例1において、CとDの通謀虚偽表示についての善意か悪意かを問われるのは、代理人Bというのがわかりました。
 しかし、実はこの話にはまだ、微妙な問題がはらんでいます。

本人が悪意のとき
悪意
事例2
Bはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。ところが、なんと甲別荘の真の所有者はDだった。どうやらDの資産隠しのためにCが協力して甲別荘の名義をCに移したとのことだった。当然、Bはそんな事実は全く知らなかったが、実はその事実をAは知っていた。


 この事例2でも、事例1と同様、CとDは通謀虚偽表示を行なっています。先述のとおり民法101条によれば、このようなケースで善意・悪意を問われるのは、代理人となります。
 となると、この事例2では本人は悪意ですが、代理人Bが善意なので、(悪意の)本人Aは甲別荘を取得できることになります。
 でもこれ、どう思います?なんか微妙だと思いませんか?
 確かに、まず何より通謀虚偽表示をやらかしたCとDが一番悪いです。それは間違いないです。
 ただ、通謀虚偽表示についての民法94条2項の規定は、善意の第三者を保護するためのものです。
 ということは、善意の代理人Bをかましただけで、いとも簡単に悪意の本人Aが甲別荘を取得できるとなると、民法94条2項の規定と整合性が取れなくなってしまいますよね。
 このままだと悪意の第三者は、代理人という裏技を使えば、民法94条2項の規定を事実上無力化できてしまうことになります。
 そこで、民法は「代理行為の瑕疵」について、こんな規定も置いています。

(代理行為の瑕疵)
民法101条3項
特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。


 この民法101条3項で重要なポイントは「特定の法律行為の委託」です。

民法101条3項の「特定の法律行為の委託」とは

 これは、本人が代理人に対して、具体的に指定するような指示を出すことです。
 例えば、事例2で、本人Aが代理人Bに対し「軽井沢にあるC所有のあの別荘を買ってきて」というような依頼の仕方をしていたら、それは「特定の法律行為の委託」となります。逆にそういった具体的に指定する依頼はなく、C所有の甲別荘を代理人B自身で見つけたような場合は「特定の法律行為の委託」にあたりません。
 結論。事例2において、Bの代理行為が特定の法律行為の委託」 にあたれば、たとえ代理人Bが善意でも、悪意の本人Aは甲別荘を取得することはできません。
 逆に、Bの代理行為が「特定の法律行為の委託」 にあたらなければ、代理人が善意であれば、本人Aは悪意でも甲別荘を取得することができます。

「特定の法律行為の委託」にあたるかあたらないかで結論が変わる理由は?

 ここは非常に重要な論点です。
 こう考えてみてください。
 悪意の本人Aによる「特定の法律行為の委託」によって、代理人Bが甲別荘の売買契約を締結したとなると、本人Aは、わかっていながら通謀虚偽表示の物件をわざわざ指定して代理人Bにやらせていることになります。そんなヤツ、保護する必要ありますかね?
 一方、本人Aは代理人Bに「軽井沢辺りに別荘買ってきて」ぐらいの依頼の仕方で、C所有の甲別荘を代理人B自身で見つけた場合に、本人AがたまたまCとDの通謀虚偽表示を知っていて...というようなケースだと全然ニュアンスが違いますよね?
 つまり「代理人B自身で見つけてきた物件の事情(CとDの通謀虚偽表示)を偶然たまたま本人Aは知っていて」というようなケースでは、同じ「本人Aの悪意」でも、全然その意味合いが違ってくるということです。
 したがって、そのケースだと「特定の法律行為の委託」にはあたらないと判断される可能性が格段に上昇します。
 このように「特定の法律行為の委託」にあたるかあたならないかは非常に重要なのです。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【代理人の権限濫用】それでも代理は成立している?裁判所の使う類推適用という荒技

▼この記事でわかること
代理人の権限濫用とは
代理は成立している
類推適用という荒技
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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代理人の権限濫用

事例1
BはAの代理人としてしっかりと顕名をした上で、不動産王のCとA所有の甲土地の売買契約を締結した。ところが、なんとBは甲土地の売買代金を受け取ってトンズラぶっこくつもりでいたのだった。


 いきなり事例から始まりましたが、いやはや、とんでもないヤツが現れましたね。
 そうです、ワルの代理人Bです。
 この事例1は、このろくでもないBのヤローのせいでAとCが困ってしまうハナシです。
 さて、それではこの事例1で、本人Aは甲土地を引き渡さなければならないのでしょうか?
 まず事例1は、無権代理の問題ではありません。なぜなら、Bには確かな代理権があるからです。
 つまり、事例1は、代理人Bがその代理権を濫用したケースです。
 ここで注意していただきたいのは、代理人Bのやったことは「代理権の濫用」です。代理の「権限を超えた」のではありません。
 代理の「権限を超えた」のであれば、それは「代理権にないことをやった」ということで無権代理の問題になりますが「代理権の濫用」の場合は「代理権があることをいいことに代理人がやらかすケースです。
 したがいまして、事例1は、代理人Bが代理権があることをいいことに甲別荘の売買代金を受け取ってバックレようとしているという、あくまで有権代理の話で、Cとの甲別荘の売買契約という代理行為自体には問題はありません。

代理は成立している

 そもそも、事例1で「代理」は成立しているのでしょうか?
 まず、先程ご説明しましたとおり、Bには正式な代理権があり、代理行為自体にも問題ありません。なおかつBはしっかりと顕名も行っています。
 ということは、代理が成立するための3要素「顕名」「代理権」「代理人と相手方の法律行為」の全てが見事に揃っています。
 よって、事例1において、代理はしっかりと成立しています。ということは、普通に考えますと、甲別荘の売買契約は問題なく成立し、本人Aは甲別荘を不動産王Cに引き渡さなければなりません。
 しかし、どうでしょう?この結論の導き方だと、仮に不動産王Cが悪意であっても、本人Aが泣かなければなりません。ましてや不動産王Cとワルの代理人Bが裏で繋がっていたらどうです?そんなケースでも本人Aが泣かなければならないのはオカシイですよね?
 しかし!実は民法には、事例1のようなケースを想定した条文がないのです。

類推適用という荒技
裁判所
 実は「うわ~このケース、条文ないわ~」ということは、現実には結構あります。
 そんなとき裁判所はどうするのか?
 はい。そのときに裁判所が使う技が類推適用です。
 類推適用とは「本来は違うケースに適用する規定だけど、パターンとしてはこのケースに適用させてもイイんじゃね?」というものです。
 では、事例1のようなケースで裁判所が類推適用する規定は?というと、民法93条です。

(心裡留保)
民法93条
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。


 この心裡留保についての民法の条文のただし書きの部分を類推適用します。
 心裡留保とは、表示した意思と内心が一致しないケースです。例えば、ウソを口に出しても内心とは違いますよね?(心裡留保についての詳しい解説は「【心裡留保の超基本】冗談で言った事が有効に契約成立するとき」をご覧ください)
 話を戻します。
 では、どのようにあてはめるのか?
 事例1だと、このようになります。

代理人Bのした表示→本人Aのために甲別荘を売ります
代理人Bの内心→売買代金を受け取ってバックレる

 つまり、
代理人Bのウソ→「本人Aのために甲別荘を売ります」
内心→「売買代金を受け取ってバックレる」
 上記が一致しない心裡留保として考えて、結論を出すのです。
 すると、このようなロジックになります。
「代理行為の相手方である不動産王Cが、代理人Bの真意(売買代金を受け取ってバックレる)を知っていた場合、または知ることができた場合には、甲別荘の売買契約は無効となり、本人Aは甲別荘を引き渡さなくてもよい
 これなら不動産王Cが悪意の場合や、裏でワルの代理人Bと繋がっていた場合まで、本人Aが泣くことはなくなります。
 でもそれだと不動産王Cが善意無過失なら結局本人Aが泣くことになるんじゃね?
 なります。しかし、その場合の理屈はこうです。
「一番悪いのはBだ。しかし、Bみたいなろくでもないヤツを代理人に選んだAも悪い!
 つまり、本人に帰責事由アリ(責任を取るべき理由アリ)となるのです。
 したがって、相手方Cが善意・無過失なら本人Aは責任を取らなければならないのです。

 このように、事例1のようなケースでは心裡留保の規定を類推適用して、相手方が善意・無過失なら「本人にも帰責事由アリ」として本人が泣くことになり、相手方が悪意・有過失なら「自業自得だろ」と相手方が泣くことになります。
 つまり、このような方法で、本人と相手方の利益衡量を行なっているというわけです。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【代理人の行為能力】表現代理人・無権代理人が配偶者の場合

▼この記事でわかること
代理人の(制限)行為能力の基本
未成年者の委任契約の取消し
表現&無権代理人が配偶者の場合
夫婦の場合には別の規定がある?
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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代理人の(制限)行為能力

 実は、代理人になるには行為能力者である必要はありません。
 民法では次のように規定します。

(代理人の行為能力)
民法102条
制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。


 この民法102条の条文は、制限行為能力者が代理人としてした行為についての規定です。
 つまり、未成年者などの制限行為能力者でも代理人になれるということです。
 え?マジで?
 はい。マジです。ではなぜ、制限行為能力者でも代理人になれるのでしょうか?

事例1
未成年者のBはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。


 さて、この事例1で、未成年者である代理人Bは、制限行為能力者であることを理由に甲別荘の売買契約を取り消せるでしょうか?
 結論。未成年者Bは制限行為能力者であることを理由に甲別荘の売買契約を取り消すことはできません。
 なぜなら、先述の民法102条の規定は「制限行為能力者でも代理人になれますよ。そのかわり代理人になったら制限行為能力者として扱わないですよ!」という意味なのです。
 え?でもそれじゃ制限行為能力者がキケンじゃね?
 そんなことはありません。なぜなら、代理行為の法律効果が帰属するのは(代理行為で結んだ契約の、契約上の責任が生じるのは)本人です。代理人ではありません。ですので問題ないのです。
 それに、事例1で、本人Aはわざわざ未成年者Bに代理を依頼したということですよね?それはつまり、それだけ未成年者Bがその辺の大人よりしっかりしてるとか、代理を頼むに相応しい理由があるはずです。それで本人Aが納得して「Bに頼むわ!」としているのであれば、それならそれでイイんじゃね?ということになるわけです。
 また、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人になった場合に代理人としてした行為は、例外的に行為能力の制限を理由に取り消すことができます。この点でも安全は担保されているというわけです。

未成年者の委任契約の取消し

事例2
未成年者のBはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。しかしその後、未成年者BがAと結んでいた委任契約は親権者の同意を得ないでしたものであることが発覚した。


 さて、この事例2で、未成年者BはAとの委任契約を取り消すことができるでしょうか?
 結論。未成年者BはAとの委任契約を取り消すことができます。
 ここでひとつ問題があります。
 というのは、取消しの効果は遡及します。したがって、AとBの委任契約を取り消すとその効果は遡って発するので、BはハナっからAの代理人では無かったことになります。すると、BがやったCとの甲別荘の売買契約は無権代理行為ということになってしまうのです。
 これが問題なんです。だってこれでは、相手方Cが困ってしまいまよね。せっかくお金持ちのAに売れたと思ったのに、甲別荘の売買契約が有効になるには、表見代理が成立するか本人Aが追認するかしなければなりません。
 もし表見代理が成立せず本人Aが追認しなかった場合は最悪です。Bは未成年者、すなわち制限行為能力者ということなので、民法117条2項の規定により、Bに無権代理行為の責任を追及することもできません。
 これでは相手方Cがあまりにも気の毒です。ですので、このようなケースにおいては、委任契約を取り消した際の遡及効(さかのぼって発する効力)を制限し、その取消しの効果将来に向かってだけ有効とし、代理人の契約当時の代理権は消滅しないという結論を取ります。
 つまり、事例2で、未成年者BとAの委任契約が取り消されたとしても、取り消す前にCと交わした甲別荘の売買契約時のBの代理権は消滅しないということです。
 よって、甲別荘の売買契約も有効に成立します。

 なんだかややこしい結論に感じたかもしれませんが、このようにすることによって、相手方Cの権利と制限行為能力者Bの保護のバランスを取っているのです。(こういったところが民法を難しく感じさせる部分であり、民法の特徴でもあります)
 法律は決して万能ではありません。だからこそ、このような様々なケースに対応しながら、そこに絡んでくる人達の権利の保護とバランスをなんとかはかっているのです。
 このあたりの理屈は、最初は中々掴みづらいかもしれません。しかし、民法の学習を繰り返していって次第に慣れてくると、自然とすぅっと頭に入って来るようにもなります。なので民法くんには、根気よく接してやってください(笑)。

表現&無権代理人が配偶者の場合

事例3
A男とB子は夫婦である。B子はA男に無断で、Aの代理人と称してA所有の甲不動産をCに売却した。


 さて、続いてこの事例3ですが、ここでのポイントは、無権代理人Bと本人Aが夫婦だという点です。
 まずはそこを押さえた上で、、これがAとBが夫婦ではなかった場合表見代理の成立はありません。それは完全に無権代理の問題です。なぜなら、無権代理人Bは本人Aに「無断で」無権代理行為を行っているからです。
 表見代理の可能性があるケースは、以下の3類系※にあてはまる場合です。

・代理権授与の表示による表見代理
・権限外の行為の表見代理
・代理権の消滅事由
※表見代理の3類型についての詳しい解説は「【代理の超基本】表見&無権代理とは」をご覧ください。

 事例3では「無断で」とあるので、上記の3類系にあてはまらず、表見代理の問題にはならないのです。
 つまり、本人Aに責任が及ぶことはなく、責任が及ぶのは無権代理人B自身です。

夫婦の場合には別の条文がある
老夫婦
 最初に事例のポイントと申し上げましたが、今度の事例3のAとBは夫婦です。
 実は、これが少々やっかいなんです。
 先ほど述べたとおり、AとBが夫婦でなければ「無断で」とある限り表見代理の問題にならず、単純に「Bの無権代理の問題ですね。以上」と終われるところなのですが、夫婦の場合には、以下のような民法の条文が存在します。

(日常の家事に関する債務の連帯責任)
民法761条
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。


 つまり、民法761条の規定により、夫婦の一方が行った法律行為は、夫婦として連帯責任を持つということです。
 ただ、条文にあるとおり、その対象となる法律行為とは「日常の家事に関して」です。
 では、果たして事例3のような不動産の売却行為日常の家事に関する法律行為にあたるでしょうか?
 あたるか!セレブか!と思わずツッコミたくなるところですが(笑)、ツッコむまでもなく、普通に考えて、不動産の売却が日常の家事に関する法律行為にあたるわけないですよね。
 したがいまして、事例3では表見代理の成立はなく、民法761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)の適用もありませんので、相手方Cは甲不動産を取得することはできません。

【補足】
 実は判例では、事例3のようなケースにおいて、表見代理が成立され得る可能性を開いています。
 え?なんで?
 判例の理屈としてはざっくりこうです。

「先述の民法761条は「夫婦間の相互の代理権」を規定していて、それは法定代理権の一種である。法定代理権を基本代理権とした「権限外の行為の表見代理」は成立し得る。そして民法761条の「夫婦間の相互の代理権」を基本代理権として民法110条(権限外の行為の表見代理)の規定を類推適用し、相手方が無権代理人に代理権ありと信じるにつき正当な理由があれば表見代理は成立し得る」

 自分で書いておいてなんですが、おそらくこれを読んでもよくわからないですよね(笑)。
 そして、さらに身も蓋もない事を申しますと、この理屈を理解する必要もないです。
 大事なのは、事例3のようなケースでも「表見代理成立し得る可能性はある」ということです。
 ですので、ここで覚えておいていただきたいのは、事例3のようなケースでも、取引の内容やその他の具体的な事情によっては表見代理の成立もあり得ると判例は言っていることです。
 理屈の理解は置いてといて、この結論の部分だけ覚えておいていただければと存じます。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【任意代理と法定代理】法定代理に表見代理はあり得るのか

▼この記事でわかること
任意代理と法定代理とその違い
法定代理に表見代理は成立するのか?
法定代理人に基本代理権は存在するのか?
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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任意代理と法定代理

 代理は大きく分けて2種類あります。
 それは任意代理と法定代理です。

【任意代理】
 これは、委任による代理です。
 つまり、本人が「あなたに代理を頼みます」といってお願いする代理です。
 おそらく、一般的にイメージする代理は、こちらの任意代理になるかと思います。
「委任による代理=任意代理」←まずはここを押さえておいてください。

【法定代理】

 これは、法律によって定められた代理です。
 本人が「あなたに代理を頼みます」といってお願いする訳ではありません。本人がお願いするまでもなく、法律によって定まる代理です。
 最もわかりやすい法定代理は未成年者の親権者です。
 通常、子供の親は子供の法定代理人になります。でもこれって、子供が親に「代理頼みます」とお願いして成立するものではありませんよね?「法律がそう決めた」からそうなるのです。

委任による代理=任意代理
法律によって定められた代理=法定代理


 この基本はまず、確実に覚えておいていただければと存じます。

法定代理に表見代理は成立するのか

 さて、ここでこんな疑問が湧きませんか?
 それは、法定代理にも表見代理が成立するのか?です。
 まず、表見代理が成立するには、前提として無権代理行為の存在がなければなりません。
 となると、そもそも法定代理人の無権代理行為があり得るのか?となりますよね。
 というのは、法定代理人は本人にお願いされてなるものではありません。法律の定めによってなるものです。
 つまり、普通に考えて「法定代理人に代理権がない状態」はありえないことになります。
 すると、法定代理人の無権代理行為があり得るケースとして考えられるものがあるとすれば「代理権限を超えた」場合です。
 代理権限を超えた場合とは、例えば「軽井沢の別荘の購入」という代理権を付与された代理人(任意代理人)が、那須の別荘を購入してしまうようなケースです。
 このときの「軽井沢の別荘の購入」は基本代理権になります。その基本代理権を超えた代理行為「那須の別荘の購入」が、代理権限を超えた無権代理行為となります。
 つまり「代理権限を超えた無権代理行為」とは、前提となる基本代理権があって初めて成り立つものです。
 このように考えていくと、法定代理に表見代理があり得るのか?という問題は、法定代理人に基本代理権というものが存在するのか?という問いへの結論次第ということになります。

法定代理人に基本代理権は存在するのか?
?女性
 これは、実はハッキリと明確に結論づけられている訳ではありません。
 なんじゃそれ?じゃあ結局どーなのよ!?
 ですよね(笑)。ただ一応、法定代理にも下記の規定、表見代理の3類系のうちの2つの適用はあるとされています。

民法110条(権限外の行為の表見代理)
民法112条(代理権消滅後の表見代理)

 先ほどまで解説して参りました内容は、法定代理における「権限外の行為の表見代理」です。
 しかし、どうやら民法112条「代理権消滅後の表見代理」の方についても、法定代理での適用はあるようです。
 また、判例では「法定代理においても、表見代理の成立はなくはない」というように結論づけています。
 結局どっちやねん!
 ツッコミたくなりますよね(笑)。しかし、このような曖昧な結論というのは、民法の学習をしていると結構よく出てきます。ですので強引に慣れていってください(笑)。
 まあ、なぜこのような曖昧な結論になってしまうかの理由を考えると、それは「法定代理には本人の帰責性がありえない」ということが言えます。
 法定代理人は本人が選んでお願いしている訳ではないので「そんなヤツを代理人に選んでしまった本人も悪い」という理屈が成り立たないのです。表見代理は、そのような本人の帰責事由を成立要件として、相手方を保護し、取引の安全性を確保する制度です。
 ですので、本来の理屈としては、法定代理には表見代理は成立しないとなるところですが、まったく表見代理はありえないとなると、相手方としては法定代理人と取引する場合はちょっとリスクが増しますよね。そして、現実にはあらかじめ想定できないような様々なケースがありえます。
 このような事情から、やむをえず「なくはない」というような曖昧な結論になってしまうと考えられます。
 ということなので、試験対策としては「法定代理において表見代理の成立はない」という選択肢が出てきたら、それは誤りとして選択することになります。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【復代理】任意代理人と法定代理人の場合では責任の度合いが違う/代理を丸投げできるケースとは

▼この記事でわかること
任意代理人の場合の復代理
任意代理人が代理を丸投げできる2つのケース
法定代理人の場合の復代理
復代理人のヘマの責任を代理人は負うのか
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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復代理
任意代理人の場合

 復代理とは「代理の代理」です。
 復代理について考えるとき、任意代理法定代理の場合で異なってきます。
 ということで、まずは任意代理の場合の復代理について解説して参ります。(任意代理と法定代理についての詳しい解説は「【任意代理と法定代理】法定代理に表見代理はあり得るのか」をご覧ください)。

事例
Aは何かと多忙のためBに代理を頼んだ。しかし、代理人Bも忙しくなってしまい、BはさらにCに代理を頼んだ。


 さて、この事例のBは任意代理人ですが、任意代理人BはCに代理の仕事を「丸投げ」できるでしょうか?
 結論。代理の丸投げは原則としてできません。
 なぜ代理の丸投げができないかというと、事例でAはBに代理を頼んだ訳ですが、AがBに代理を頼んだのには理由がありますよね?
 もちろん時と場合と内容にもよると思いますが「Bだから頼んだ」と考えるのが普通だと思います。つまり、誰でもいい訳ではないということです。
 ということは、もしBが他人に代理を丸投げできてしまうとなると、Aが「Bを選んで代理を頼んだ」意味が吹っ飛んでしまいます。それでは本人Aは困りますよね。
 したがって、任意代理人が他者に復代理を頼む場合は、原則として丸投げはできないのです。
 さて、もうお気づきの方もいらっしゃると思いますが、任意代理人が復代理を頼むときは「原則」丸投げできない、ということは、例外的に丸投げをできる場合があるということです。

任意代理人が代理を丸投げできるケースは2つある
二本指女性
 それでは、任意代理人が代理を丸投げできる2つのケースを見ていきます。

1【本人が承諾したとき】

 これは、任意代理人が他者に代理を「丸投げ」することを、本人が「OK!」と認めたときです。

2【やむを得ない事由があるとき】

 これは、任意代理人が事故や病気などで動けなくなってしまったようなときです。
 このようなときは、本人の了承がなくても丸投げできます。というのは、代理人が急ぎで動かなければならないような仕事を頼まれていたときには、いちいち本人に了承をとっていたら、それこそ本人にとって大きな損害が生じかねません。
 したがいまして、このようなケースでは、任意代理人は本人の了承がなくとも、他者に代理の仕事を丸投げできます。

 さて、任意代理人が他者に復代理を頼むときは「原則」丸投げすることはできず、2つの例外的なケースでは丸投げすることも可能ということがわかりました。
 ところで、先の事例で、代理人BはCに代理を頼み、Cが復代理人となりました。このときに、元々の代理人であるBの「代理人としての権限」はなくなってしまうのでしょうか?
 結論。Bの代理人としての権限はなくなりません。
 つまり、代理人BがCに代理を頼み、Cが復代理人になったところで、Bが本人Aを代理することは問題なくできます。
 ですので、事例で本人Aを代理する者は、代理人Bと復代理人Cの二名存在することになり、代理人Bと復代理人Cのいずれも本人Aを代理することが可能です。
 復代理とは「代理人の交代」ではありませんので、この点はご注意ください。

法定代理人の場合

 法定代理人は任意代理人(委任による代理)とは違い、本人に「代理よろしく」と頼まれてなるものではなく、法律の定めによってなるものです。
 では、法定代理人が復代理人を選任するときはどうなるのでしょうか?
 任意代理人は復代理人の選任にあたり、原則、丸投げはできなかったり、本人の承諾が必要であったりなどの要件がありますが、法定代理人は自由に復代理人を選任できます。
 え?なんで?
 なぜ法定代理人は自由に復代理人を選任できるかと言いますと、こう考えるとわかりやすいと思います。
 赤ちゃんの法定代理人は、通常は親ですよね?例えば、赤ちゃんが相続により土地を取得したときに、その土地について法律的な争いが生じて裁判になったとしましょう。すると、赤ちゃん自身が法廷に立つことは当然できませんので、法定代理人である親が赤ちゃんの代わりにその対応を行わなければなりません。このときに、赤ちゃんの法定代理人である親が、弁護士に訴訟代理(訴訟代理人)を依頼すると、代理人の親が弁護士に「復代理人を依頼した」ということになります。
 このようなケースで、もし復代理人(弁護士)を依頼するにあたり本人(赤ちゃん)の承諾が必要となると、法定代理人(親)は困ってしまいますよね?赤ちゃんに「この弁護士の先生に訴訟代理を頼んでもいい?」と承諾を求めたところで「バブバブ」という答えしか返ってこないでしょう。Dr.スランプアラレちゃんに出てくるターボくんでもなければ、マトモな答えが返ってくるはずがありません。
 そして何よりも問題なのは、親(法定代理人)が弁護士(復代理人)を依頼できないことによって、赤ちゃん(本人)自身に大きな損害が生じかねないということです。
 よって、法定代理人は本人の承諾もなしに、自由に復代理人を選任することができるのです。
赤ちゃん
【補足】
 赤ちゃんは法律行為ができません。それは赤ちゃんが未成年者であり制限行為能力者だからというのもありますが、そもそも法律上、赤ちゃんには意思能力がないとされます。これは何も赤ちゃんに限らず、泥酔した者も同じように意思能力がないとされます。
 そして、意思能力がない者が結んだ契約は無効です。
 民法の条文はこちらです。

民法3条2項
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。


 上記、民法3条2項により、意思能力がない者の契約は無効で、法律上、意思能力がないとされる赤ちゃんには、法律によって定められた法定代理人(通常は親)が保護者になり、法定代理人は赤ちゃんの代わりに法律行為をすることができ、赤ちゃんの承諾なしに弁護士を依頼することも可能なのです。
 なお、人間(自然人)の権利能力の始期や終期といったことについて解説は「【不法行為】権利能力の始期~人間はいつから権利能力を持つのか」をご覧ください。

復代理人のヘマの責任を代理人は負うのか

 代理人は復代理人を選任できます。そして、復代理人を解任するのも代理人です。
 さて、それでは復代理人がヘマをやらかしてしまった場合、代理人もその責任を負わなければならないのでしょうか?
 責任というのは、本人に対する責任です。つまり、復代理人がヘマをやらかしたとき、代理人が本人に対し「私にも責任があります」となるのか?ということです。
 まず結論として、代理人は復代理人のやらかしたヘマの責任を負います。
 しかし、任意代理人と法定代理人でその中身が異なってきますので、それぞれ解説して参ります。

法定代理人の場合

 法定代理人の負うべき責任は非常に重くなっております。
 その重さはというと、なんと法定代理人は復代理人のやらかしたヘマについて、その全責任を負います。
 マジで?でもどうして?
 なぜなら、法定代理人は自由に復代理人を選任できるからです。本人の承諾もなしに自分の判断で行えます。
 だからこそ、復代理人のやらかしたヘマについて負うべき法定代理人の責任は、非常に重いものとなっています。
 ただし、いついかなるときでも全責任を負うという訳ではありません。
 これについて、民法では以下のように規定します。

(法定代理人による復代理人の選任)
民法105条
法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみ
を負う。

 この民法105条の規定により、法定代理人は、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみ負います。(やむを得ない事由があるときは、本来、法定代理人が負うべき責任より軽くなるということ)。
 選任及び監督って何?
 ここで重要なのは、復代理人のやらかしたヘマについて、やむを得ない事由があるときは全責任は負わなくていいということです。なので、試験などで「法定代理人は復代理人の行為について当然に全責任を負う」と来たら、それは×です。まずはここを押さえておいてください。
 ただ、逆に言うと、やむを得ない事由があるとき以外は、法定代理人は復代理人のやらかしたヘマについて、原則、全責任を負わなければならないということにもなります。
 自由と責任は表裏一体なのです。これは何も法律に限らず、全ての物事に言えることですよね。肝に銘じておかなければなりません。

任意代理人の場合

 続いて、任意代理人の場合ですが、実はこちらについての民法の規定は、民法改正により削除されました。

(復代理人を選任した代理人の責任)
民法105条
1項 代理人は、前条の規定により復代理人を選任したときは、その選任及び監督について、本人に対してその責任を負う。

2項 代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは、この限りでない。

 結果的に、任意代理人が負う責任は、債務不履行の一般規定により規律されることになります。
 で、どうなんの?
 結論だけ簡単に申し上げると、例えば、委任による任意代理人である場合「選任及び監督以外の責任を含む」責任を負います。(委任契約上の受任者としての責任)


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【無権代理と相続】無権代理人が本人を&本人が無権代理人を相続した場合/本人が追認拒絶後に死亡した場合/相続人が複数の場合/相手方ができること

▼この記事でわかること
無権代理人が本人を相続した場合
資格融合説と資格併存説
本人が無権代理人を相続した場合
無権代理人を相続した本人に対し相手方ができること
本人が追認拒絶後に死亡した場合
相続人が複数の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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無権代理と相続
無権代理人が本人を相続した場合

 無権代理のケースに相続が絡んでくると、一体どうなるのでしょうか?

事例1
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をCと締結した。その後、Aは死亡し、Aの唯一の相続人であるBは甲土地を相続した。


 なんだかややこしい事例ですよね。
 ただ、これは試験などではよく問われるケースで、無権代理人が本人を相続したらどうなるのか?という話です。

 さて、ではこの事例1で、甲土地の売買契約の行方はどうなるのでしょう?
 無権代理人Bは、本人Aを相続します。
 つまり、無権代理人Bは本人Aを相続したことによって「Aの権利を受け継いだ本人」となり「無権代理人B」から「本人B」となります。
 判例では、このような場合、相続により本人と無権代理人の地位が融合し、相続前の無権代理行為は当然に有効になると考えます。
 したがいまして、事例1における甲土地の売買契約は当然に有効になります。
 元々は無権代理人Bが行った甲土地の売買契約は無権代理行為ですが、本人Aが死亡し、Bが甲土地を相続したことによって、Aが自分で甲土地を売ったのと同じになると考えるのです。

本人Aを相続した無権代理人Bは
相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒めるのか


 事例1で、無権代理人Bが行った無権代理行為(甲土地の売買契約)は、その後にBが本人Aを相続したことにより(甲土地を相続により取得したことにより)当然に有効になることがわかりました。
 では、本人Aを相続したことによりAの権利を相続したBは「本人として」甲土地の売買契約という無権代理行為の追認を拒絶することができるのでしょうか?

 無権代理人Bが本人Aを相続したことにより「Aの権利を受け継いだ本人B」になったと考えると「Aの権利を受け継いだ本人B」として、無権代理人Bの無権代理行為(甲土地の売買契約)の追認を拒絶できそうです。

 しかし、民法はこれを認めません。
 なぜなら、Bが本人Aを相続し「Aの権利を受け継いだ本人B」になったからといって、甲土地の売買契約の追認を拒絶できてしまうとなると、Bが自ら行った無権代理行為を、後から自分で「あれ、やっぱナシね!」とできてしまうことになります。
 これは「この世の中は契約社会で、契約という約束は守らなければならない」という民法の基本的な考え、もっと言えば法秩序の基本に反します。
 そして、このようなことは民法にハッキリとした条文がある訳ではありませんが、法律用語で禁反言の原則と言います。
 禁反言の原則とは、信義誠実の原則の一種です。(信義誠実の原則について詳しい解説は「【不動産売買契約】登記と解除前&解除後の第三者/背信的悪意者と信義則について」をご覧ください)
 つまり、本人を相続した無権代理人が、自ら行った無権代理行為を追認拒絶することは、信義則(禁反言の原則)に反するのです。
 したがいまして、後に本人Aを相続したBは甲土地の売買契約の追認拒絶はできず、相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒むことはできません。

 以上、ここまでの解説が「無権代理と相続」についての基本となります。
 まずは、ここまでをしっかり押さえていただければと存じます。

資格融合説と資格併存説

 無権代理人が本人を相続したケースでは、無権代理人が相続前に行った無権代理行為は当然に有効になります。
 そして、本人を相続した無権代理人は、自ら行った無権代理行為の追認拒絶は信義則に反し許されません(禁反言の原則)。
 さて、このような論理構成には、資格融合説資格併存説という2つの考え方があります。
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資格融合説

 これは、本人と代理人の資格が融合するという考え方です。
 事例1で解説した内容はこの資格融合説になり、判例の立場です。
 資格融合説は、本人と無権代理人の地位が融合したのだから、その融合した瞬間、すなわち、無権代理人が本人を相続した瞬間に「本人が自ら売ったことになる」ので、売買契約は当然有効になるとする考え方です。

資格併存説

 これは、本人と代理人の資格が併存するという考え方です。
 なんだか「ん?」てなりますよね。
 これはどういう考え方かと言いますと、無権代理人に元々あった「無権代理人という地位」に加えて、相続によって「本人という地位」が包括承継(権利義務が一括して継承)され「二つの地位は融合せず併存する」とするものです。

 だから?

 ですよね(笑)。
 この「二つの地位は融合せず併存する」とする資格併存説の場合「相続開始時に売買契約はまだ不確定無効のまま」と考えます。(不確定無効についての詳しい解説は「【無権代理行為の追認】~不確定無効とは」をご覧ください)。
 つまり、相続開始時に売買契約は有効でも無効でもありません。
 判例の立場である資格融合説の場合は、相続開始時に売買契約は当然に有効になります。
 この点が2つの説の違いです。

 ではここから、資格併存説がどう結論に向かっていくのかといいますと...
 まず、相続開始時には不確定無効のままなので売買契約は有効でも無効でもありません。
 その後、相手方が本人を相続した無権代理人に追認を迫ると、本人を相続した無権代理人は信義則上追認を拒絶できないので、売買契約は有効になります。
 そして、相手方が追認を迫らないと不確定無効のままなので、売買契約は有効でも無効でもない状態が続き、相手方が民法115条の取消権を行使すれば、売買契約の無効が確定します。

 このように、無権代理人が本人を相続した場合には2つの考え方があります。
 ちなみに、資格併存説は学者には人気の説ですが、判例の立場は資格融合説になりますのでご注意ください。
 なお、判例が資格融合説をとるのは「無権代理人が本人を単独で相続したとき」です。ここもあわせてご注意ください。

本人が無権代理人を相続した場合

事例2
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をCと締結した。その後、Bは死亡し、Bの唯一の相続人のAが相続した。


 続いて、こちら事例2ですが、これは本人が無権代理人を相続したケースです。
 つまり、事例1とは逆で、無権代理人Bが死亡して、無権代理人Bを本人Aが相続しています。

 さて、ではこの事例2で、無権代理人Bを相続した本人Aは、甲土地の売買契約の追認を拒絶できるでしょうか?
 結論。無権代理人Bを相続した本人Aは、甲土地の売買契約の追認を拒絶できます。
 では、一体どのような論理でそのような結論に至るのか?その論理構成を解説します。

事例2のようなケースで判例は資格併存説を取る

 まず、この事例2のようなケースでは、判例は資格融合説ではなく資格併存説を取ります。
 なぜ資格併存説を取るの?
 もし事例2のケースで資格融合説を取ってしまうと、無権代理人Bが死亡し、相続が開始した時点で甲土地の売買契約が有効になるので、結果として相手方Cの引渡し請求だけが認められ、本人Aの追認拒絶は認められなくなります。
 それの何が問題なん?
 これだと不公平なんです。だって、相手方CがBの無権代理行為の被害者なら、本人Aも無権代理行為の被害者ですよね?
 つまり、本人Aと相手方Cはお互いBの無権代理行為の被害者同士なんです。
 それなのに、常に相手方Cの引渡し請求だけが認められ、本人Aの追認拒絶が認められないとするのは、民法が考える利益衡量の観点からもよろしくありません。
 よって判例は、事例2のようなケースでは資格融合説を取らず、資格併存説を取るのです。

資格併存説による論理的帰結

 それでは事例2を、資格併存説による論理で解説して参ります。
 まず、無権代理人Bが死亡し、本人AがBを相続すると、Aには「本人の地位」と「無権代理人の地位」が併存することになり、また甲土地の売買契約は不確定無効のままです。
 そして、もしAが甲土地の売買契約を追認拒絶したい場合は「本人の地位」として問題なく追認拒絶ができます。
 すると、甲土地の売買契約は無効に確定します。

 あれ?資格併存説だからAには本人の地位と無権代理人の地位があって、本人の地位として追認拒絶できるのはわかったけど、じゃあ無権代理人としての地位の方はどうなの?

 ですよね。それにここまでの話だけだと、本人Aの権利ばかりが目立ちます。

 それって結局不公平じゃね?利益衡量がはかられてなくね?

 まさにそうで、これだけだと、そもそも判例が資格併存説を取った意味がありません。
 もちろん、判例はそんなズサンなロジックは展開しません。
 ちゃんと相手方Cの権利もしっかりと認めています。そして、その相手方Cの権利が、Aの「無権代理人の地位」に基づいたものなのです。だから判例は資格併存説なのです。
 
 以上が、無権代理のケースに相続が絡んだ場合の解説になります。
 ところで、相手方Cができることは、何かないのでしょうか?
考えるスーツ女性
無権代理人を相続した本人に対し相手方ができること

 Aが「本人の地位」として甲土地の売買契約を追認拒絶できるのはわかりましたが、Aに併存するもう一つの「無権代理人の地位」の方はどうなるのでしょうか?
 実はその問いが「無権代理人を相続した本人に対し相手方ができること」に繋がります。
 どういうことかと言いますと、事例2の相手方Cは、Aに併存する「無権代理人の地位」に基づいて、Aに対し「無権代理人の責任」を追求することができるのです。
 それでは、事例2で相手方Cができることについて、解説して参ります。

無権代理人の責任追求の要件

 相手方Cは、Aの「無権代理人の地位」に基づいて、Aに対し無権代理人の責任を追求することができます。
 ただし、そのためにはいくつかの要件を満たさなければなりません。
 その要件は以下の4つになります。

1・本人の追認が得られない
2・代理権を証明できない
3・無権代理行為について善意、無過失
4・死亡した無権代理人Bが制限行為能力者でなかった

 これら4つの要件を満たせば、相手方Cは、Aに対し責任追求することができます。
 それでは、わかりやすくひとつひとつ解説して参ります。

1「本人の追認が得られない」とは、Aの追認が得られないということです。
 これは当たり前ですよね。Aが追認すれば甲土地の売買契約が有効になり、Cは当初の予定通りAから甲土地を取得できますから、そもそもAに対し責任追求する必要もなくなりますよね。

2「代理権を証明できない」
とは、亡くなったBの代理権を証明できないという意味です。
 つまり「死亡したBに代理権がなかったことは確かだ」「Bが無権代理人だったことは間違いない」ということです。

3「無権代理行為について善意・無過失」とは、Bに代理権がなかったことについて相手方Cが善意・無過失ということです。

4「死亡した無権代理人Bが制限行為能力者でなかった」
というのは読んで字のとおりです。
 死亡したBが未成年者や成年被後見人などではなかったということです。

 それでは、相手方Cが上記4つの要件全てを満たしていたとして、Aに対し「無権代理人の責任追求」をして、一体どんな請求ができるのでしょうか?

相手方Cができること
女性講師
 相手方Cは、Aに併存する「無権代理人の地位」に基づいて、Aに対し民法117条(無権代理人の責任)に規定する請求ができます。
 民法117条では無権代理人の責任として「契約の履行」と「損害賠償」を定めています。
 しかし、相手方Cができる請求は「損害賠償」だけです。
 なぜ「契約の履行」の請求を認めないかといいますと、相手方Cの「契約の履行」の請求を認めてしまうと、Aに与えられた追認拒絶権の意味がなくなってしまうからです。
 Aの追認拒絶権の意味がなくなってしまうと、相手方Cの権利ばかりが認められてしまうことになってしまい不公平です。
 AとCは言ってみれば、Bの無権代理行為の被害者同士です。同じ被害者同士なのに片方の権利ばかりが認められてしまうのは、利益衡量の観点からもよろしくありません。

 したがいまして、事例2において、相手方Cは以下の4つの要件
1・本人(Aのこと)の追認が得られない
2・(故Bの)代理権を証明できない
3・無権代理行為について善意・無過失
4・死亡した無権代理人Bが制限行為能力者でなかった
 これらの要件を満たせば、Aに対し「金よこせコラ」と損害賠償の請求ができます。

本人が追認拒絶後に死亡した場合

 続いても、無権代理に相続が絡むケースですが、そのタイミングが微妙なケースです。
 
事例3
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をCと締結した。その後、Aは甲土地の売買契約を追認拒絶した後に死亡し、Aの唯一の相続人であるBは甲土地を相続した。


 これは無権代理人が本人を相続したケースですが、この事例3の大事なポイントは、本人Aが追認拒絶をしてから死亡している点です。
 つまり、無権代理人Bは「追認拒絶してから死亡した本人A」を相続したということです。
 さて、この事例3ではなんと、本人Aを相続した無権代理人Bは、相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒むことができます。
 
 え?それって信義則に反するんじゃね?

 それが、そうではないんです。
 なぜなら、事例3での本人Aは、追認拒絶してから死亡しているのです。
 ですので、普通であれば本人を相続したからといって無権代理人が自らの無権代理を追認拒絶することは信義則に反し許されませんが、事例3の無権代理人Bが相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒んでも、それは「生前に本人Aが追認拒絶した」事実を言っているに過ぎないのです。
 もしくは、無権代理人Bが相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒んでも、それは生前の本人Aの意思を伝えているだけとも言えます。

 したがいまして、無権代理人Bが甲土地の引渡し要求を拒んでも、それは信義則に反することにもならず問題ないのです。
 そもそも、本人Aが追認拒絶した時点で、甲土地の売買契約は無効に確定します。
 ですので、その後にAが死亡し、無権代理人Bが本人Aを相続したからといって、相手方Cが甲土地の引渡し要求をしても、それは言ってみればCの悪あがきです。
 なぜなら、本人Aが生前に追認拒絶した時点で、すでに甲土地の売買契約は無効に確定しているからです。なので悪あがきなのです。

オマケ:複合型

事例4
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をDと締結した。その後、Bは死亡し、相続人であるAとCがBを相続した。その後、Aは死亡し、CはAを相続した。


 これはなんだかややこしい事例ですよね。
 無権代理と相続についてある程度慣れないと訳がわからないと思います。
 では、これは一体どんな事例かといいますと「無権代理人Bを本人Aとともに相続したCが、その後さらに本人Aを相続した」というケースです(結果的にCは無権代理人と本人の両方を相続している)。

 さて、この事例4で、Cは甲土地の売買契約を追認拒絶できるでしょうか?
 結論。Cは甲土地の売買契約の追認拒絶はできません。
 この複合型の事例4に関しましては、結論だけ覚えてしまってください。なぜなら、その理屈を聞いてもよくわからないからです(笑)。
 一応簡単にご説明しておきますと「CはAとともに一旦無権代理人の地位を相続し、その後に本人を相続した。ということは無権代理人が本人を相続した場合と同じように考えられるので、甲土地の売買契約は当然に有効になり、Cは追認拒絶ができない」となります。

 ん?でもCが追認拒絶することは信義則に反しないんじゃね?

 そうなんです。だからこの理屈と結論はちょっとオカシイんです。
 しかし、これは判例でこのような結論と理屈になっているのです。
 したがいまして、ここはたとえ納得できなかろうが、強引にこの結論を頭にぶち込んでしまってください。

相続人が複数の場合

事例5
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をDと締結した。その後、Aは死亡し、Aの相続人であるBとCは甲土地を相続した。


 なんだか入り組んだ事例ですが、これも「無権代理と相続」について考える典型的な事例です。
 この事例5のポイントは、相続人が無権代理人Bだけでなく「普通の相続人」のCもいる、つまり複数いるということです。
 本人Aが死亡し、無権代理人のBと普通の相続人のCの2人が本人Aを相続しています。
 さて、この場合に、無権代理行為をやらかした張本人のBが、たとえ本人Aを相続しても甲土地の追認拒絶をできないのは、相続人が単独のときと同じです。

 では、もう一人の相続人Cは、甲土地の売買契約の追認を拒絶できるでしょうか?
 結論。Cは甲土地の売買契約の追認を拒絶できます。
 なぜなら、Cは相続により本人Aの追認権と追認拒絶権を包括承継(権利義務が一括して継承されること)していますし、無権代理行為を行ったのはBなので、Cが甲土地の売買契約の追認を拒絶することは信義則上も何も問題ありません。

事例5のようなケースでは資格併存説をとる

 ところで、こんな疑問が湧きませんか?
資格融合説により本人Aと無権代理人Bの地位は融合し、その結果、甲土地は「本人が売ったこと」になるので売買契約は当然に有効になる。しかし、そもそも資格融合説により当然有効になった売買契約を後から追認拒絶することができるのか?Cが追認拒絶すること自体は信義則上の問題はないだろうけど...」
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 この疑問に対する答えはこうです。
「事例1のようなケースでは、判例は資格融合説を取りません
 これはどうしてなのかといいますと、資格融合説を取ってしまうと甲土地の売買契約が当然有効になるので、甲土地の所有権相続人Cと相手方Dの共有となってしまうのです。

 それの何が問題なの?

 これが大問題なのです。
 考えてみてください。
 相続人Cと相手方Dは赤の他人ですよね?甲土地の売買契約を締結したのはBなので、おそらくCとDは顔を合わせたことすらないでしょう。
 そんな赤の他人同士の二人の共有という状態は、そこからまた新たな法律問題へと発展しまう可能性大です。
 それは民法も裁判所も望まない事です。
 したがいまして、事例5のようなケースにおいては、判例は資格融合説を取らず資格併存説を取るのです。
 資格併存説を取るということは、本人Aが死亡し、相続が開始しても甲土地の売買契約は不確定無効のまま(無効が確定しないまま)ということです。
 したがいまして、もう一人の相続人Cが甲土地の売買契約を追認拒絶することは何の問題もないのです。

 さて、事例5において、資格依存設を取ることによりCは問題なく追認拒絶できることが分かりました。
 では、Cが追認拒絶するとなると、相手方Dはどうなるのでしょうか?

相続人が複数の場合の相手方

 Cが甲土地の売買契約を追認拒絶すると、相手方Dは甲土地を取得することはできません。
 このときに、相手方ができることについての民法の条文はこちらです。

(無権代理人の責任)
民法117条
他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。


 上記の民法117条(無権代理人の責任)の規定により、相手方Dは無権代理人Bに対し「契約の履行の請求」か「損害賠償の請求」ができます。となるところですが、判例は「損害賠償の請求」のみ認めました。
裁判所
なぜ判例が「契約の履行の請求」を認めないか

 もし相手方Dの「契約の履行の請求」を認め、その請求どおりに甲土地の売買契約が履行してしまうと、甲土地の所有権赤の他人同士のCとD共有になってしまうからです。
 赤の他人同士のCとDによる共有状態がよろしくないことはすでにご説明のとおりです。
 これでは判例がそもそも資格併存説を取った意味がなくなってしまいます。
 したがいまして、事例5において、相手方Dができることは、無権代理人Bに対し「金よこせコラ」という損害賠償請求のみになります。

【補足】

 事例5のように相続人が複数いる場合、無権代理行為を追認する権利は、相続人全員不可分に帰属します。
 追認権が不可分に帰属するとは、追認権は分けられないということです。
 追認権が分けられないということは、追認する場合は相続人全員がそろって追認しなければ意味がないということです。
 全員揃って追認しなければ意味がないということは、1人でも追認しない者(追認拒絶する者)がいる限り追認の効果は発生しないということです。
 つまり、もし甲土地の売買契約の追認をするのなら、BとCの2人が揃って追認しなければなりません。ですので、Cが1人で追認拒絶するだけでは、相手方Dは甲土地を取得できません。
 ただ、ここで一点だけ気をつけていただきたいのが、Cが1人で追認するケースです。
 このケースでは、それだけで甲土地の売買契約は有効になり、相手方Dは甲土地を取得できます。なぜなら、無権代理人Bの追認拒絶は信義則上許されないからです。
 ですので、Cが追認すると、自動的に無権代理人Bも「信義則上追認したとみなされる」ので、甲土地の売買契約は有効になり、相手方Dは甲土地を取得できます。この点はご注意ください。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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