【注文者の責任】土地工作物の占有者&所有者の責任~占有者が責任を免れたら誰が責任を負うのか

▼この記事でわかること
注文者の責任の基本
土地の工作物の占有者・所有者の責任
占有者が責任を免れたら誰が責任を負うのか
求償という仕組みは被害者を救済しやすくしている
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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注文者の責任

 まずは事例からご覧ください。

事例1
Aは工務店のBと一軒家の新築請負の契約を締結した。そして、Bはその一軒家の新築工事中の事故で通行人のCに損害を与えた。


 これは注文者の責任」の事例です。
 さて、ではこの事例1で、注文者Aは、工務店Bが通行人Cに与えた損害の責任を負うのでしょうか?
 結論。注文者Aは、工務店Bが通行人Cに与えた損害の責任を負いません。第三者Cに与えた損害の責任を負うのは工務店Bになります。
 ただし、注文者Aが責任を負うような場合もあります。
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(注文者の責任)
民法716条
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。


 この民法716条が、注文者の責任に関する民法の規定になりますが、ただし書き以降の後半部分に、注文者が責任を負う場合についての規定があります。
 では、どのような場合に注文者が責任を負うのでしょうか?
 事例とともに見て参ります。

事例2
Aは工務店のBと一軒家の新築請負の契約を締結した。そして、Bはその一軒家の新築工事中の事故で通行人のCに損害を与えた。なお、Bの工事はAの指図によるものだった。


 このような場合は、注文者のAも責任を負ってしまいます。なぜなら、事故が起きた工事は注文者Aの指図によるものだからです。
 つまり、指図をした注文者Aに過失があり、それが事故の原因と考えられるからです。
 また、次のようなケースもあります。

事例3
Aは工務店のBと一軒家の新築請負の契約を締結した。そして、Bはその一軒家の新築工事中の事故で通行人のCに損害を与えた。なお、事故はAの注文した材料が原因となって起きたものだった。


 このような場合も、注文者Aは責任を負ってしまいます。
 なぜなら、事故の原因となった材料を注文したのがAだからです。つまり、注文者Aの過失により事故が起こったと考えられるからです。

 以上が、注文者の責任について解説になります。
 基本的には、注文者は責任を負いません。しかし、場合によっては注文者が責任を負う場合があります。
 ざっくりイメージとしては「注文者が依頼した工事について、注文者自身がやたらにしゃしゃり出ると、注文者が工事の責任を負うことになる」といった感じです。ですので、皆さんも工事を依頼する際はお気をつけください(笑)。
 素人のクセに、中途半端な知識でやたらと余計にしゃしゃり出る人っていますよね。そういう人は、その分痛い目を見ることがあるってことです。

土地の工作物の占有者・所有者の責任
崩れる
 続いては、土地工作物責任についての解説になります。

事例4
Aは工務店のBと家屋の請負契約を締結し家を建てた。その後、Aは自己所有のその家をCに賃貸した。そしてある日、その家の外壁が崩れ通行人のDが怪我を負った。なお、外壁が崩れた原因は工務店Bの工事の仕方によるものだった。


 登場人物が多くてややこしく感じるかもしれませんが、この事例4こそ「土地の工作物の占有者・所有者の責任=土地工作物責任」の典型的なケースになります。
 さて、この事例4で、通行人Dが被った損害の責任を負うのは誰でしょう?
 結論。その第一次的責任はCが負います。
 マジで?
 マジです。なぜなら、Cは原因となった外壁の家の占有者だからです。
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
民法717条
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。


 上記、民法717条の「工作物」というのは、事例4にあてはめると、Cが賃借している家(の外壁)になります。
 よって、通行人Dの損害の原因となった工作物の占有者のCは、第一次的に責任を負うことになるのです。
 ただし!占有者Cは責任を免れる方法があります。それが、上記の条文のただし書き以降に記されている「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない」になります。
 占有者は、土地の工作物(建物など)により他人に与えた損害の賠償責任を負います。しかし、占有者がその損害の発生を防止するために必要な注意をしていれば、占有者は責任を負いません。
 事例4に当てはめると、占有者Cは、外壁が崩れるのを何らかの方法で防ごうしていれば、通行人Dの損害を賠償する責任を免れます。逆に、外壁にヒビが入っているのにほったらかしていたような場合は、占有者Cは責任を免れることができません。

占有者が責任を免れたら誰が責任を負うのか

 占有者Cが責任を免れたとき、次に責任を負うのは(第二次的責任は)家の所有者のAです。
 この所有者の責任は、なんと無過失責任です。
 よって、占有者Cが責任を免れたときは、問題の外壁の家の所有者であるAは過失があろうがなかろうが、もはや責任を免れることができません。
 あれ?でも、そもそも外壁が崩れたのは工務店Bが悪いんじゃね?
 そうなんです。ですが、事故の原因となった土地の工作物の所有者Aは、無過失責任を負いますので、通行人Dへの損害賠償からは逃れることはできません。しかし、これだと所有者Aが工務店Bのミスを肩代わりしたような形ですよね?
 よって、所有者Aは通行人Dへ損害を賠償した後、工務店Bに対し求償することができます。(こちらの求償の仕組みは使用者の求償権と似ています)
 つまり、所有者Aは工務店Bに対し「Dが被った損害は無過失責任により所有者のオレが賠償した。だがそもそもの事故の原因は工務店Bの工事のミスによるものだ。だから肩代わりした損害をオレに賠償しやがれ!」と主張できるということです。

 なお、占有者Cが損害を防止するために必要な注意を怠っていた場合に、Cが通行人Dへ損害賠償をしたときは、占有者Cは工務店Bへ求償権を行使できます。
 また、占有者Cが損害の防止に必要な注意をしていた場合に、工務店Bにも過失がなかったときは、所有者Aは無過失責任によりDへの損害賠償を免れられないのはもとより、工務店Bへ求償することもできません。
 占有者Cにせよ所有者Aにせよ、工務店Bへの求償ができる場合とは、あくまで工務店Bの過失が損害の原因だったときです。
 この点はご注意ください。

求償という仕組みは被害者を救済しやすくしている
女性講師
 土地の工作物の占有者・所有者の責任においては、まず占有者が第一次的に責任を負い、第二次的責任で所有者が無過失責任を負います。
 そして、損害の原因がさらに別の者にある場合は、その者に対し、損害を賠償した者は求償することができます。
 ところで、この仕組み、ややこしいですよね。そもそも、事例4でも、通行人Dがいきなり工務店Bに損害賠償を請求すればいいんじゃね!?と思われる方もいらっしゃるかと思います。そして実際、それも可能です。
 しかし、それをするためには、Dが工務店Bの過失を立証しなければならなくなります。(通常の不法行為責任の追及)
 これは専門家でもないかぎり、実際にはかなり難しいことだというのは、現実的に考えればわかると思います。仮に立証できたとしても、それだけで相当な手間とお金もかかってしまうでしょう。それは被害者にとってはあまりに酷です。
 というようなことから「土地の工作物の占有者・所有者の責任」は、ご解説申し上げたような仕組みになっているということです。
 したがいまして、この「土地の工作物の占有者・所有者の責任」の仕組みは、使用者責任と同様に「被害者が救済されやすくなっている」という事を意識すれば、より理解がしやすくなるのではないかと存じます。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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