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【不動産登記の基本】二重譲渡~登記は早い者勝ち/3つの登記請求権と登記引取請求権とは
【時効取得と登記】所有権争い~時効完成前後に現る第三者/さらに二重譲渡と抵当権が絡んだ場合
【共同相続と登記】遺産分割協議と相続人&相続放棄者の勝手な不動産譲渡問題/遺言による相続と登記について
素材62

【不動産登記の基本】二重譲渡~登記は早い者勝ち/3つの登記請求権と登記引取請求権とは

▼この記事でわかること
不動産登記の超基本
不動産の二重譲渡
登記請求権
登記引取請求権
3つの登記請求権
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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不動産登記

 土地や建物といった不動産は、登記をすることによって所有権を取得します。
 この「所有権」とは、物権です。物権とは、物を排他的に支配する権利です。
 排他的に支配する権利とは、噛み砕いて簡単に言うと「他人を蹴散らして堂々とワタシのモノだ」言って所有・使用する権利です(ちなみに民法の世界では、を「モノ」ではなく「ブツ」と読みます。なんだか怪しい読み方ですが(笑)。民法ではそのようになっております)。
 不動産は、登記をしなければ所有権という物権を取得し、排他的に支配することができません。いや、厳密に言えば、登記をしなくても所有権を取得する事はできるので、もう少し正確に申し上げると、不動産は登記をする事によって所有権という物権法律で保護されるのです。
 その根拠となる民法の条文はこちらです。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律に定めるところに従いその
登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 上記、民法177条条文で「登記をしなければ、第三者に対抗することができない」とあります。物権(所有権)を取得できないとは書いていません。「第三者に対抗できない」と書いています。
 第三者に対抗できないって?
 要するに、法律上登記をしなければ他人(第三者)に所有権(物権)を主張(対抗)できない、ということです。
 法律上主張できないという事の意味は、法律で守ってもらえないという意味です。
 法律で守ってもらえないという事は、実質、所有権(物権)を取得できないのと変わりませんよね。この土地はワタシのモノだ!と堂々と言えないって事ですから。結婚していない彼女を「オレの奥さんだ!」と言えないのと一緒です(笑)。結婚していない彼女のお父さんに「おとうさん」と言っても「オマエのおとうさんになった覚えはない!」と言われてしまうのと一緒です(笑)。しかし、結婚すれば法律上認められた家族になります。彼女のお父さんとも法律上の姻族関係になります。堂々と「お義父さん」と言えるのです(この辺りの家族関係に関しては別途、家族法分野で詳しく解説いたします)。
 なお、不動産登記をして、所有権(という名の物権)が法律で保護されている状態を、対抗要件を備えると言います。
 対抗要件とは、第三者に正当な権利を主張(対抗)するための要件です。
 つまり、対抗要件を備えると、第三者に対し「これはワタシのモノだ」と、法律上堂々と言えるということです。

公示の原則

 不動産の登記のルールは、公示の原則に従って定められたものです。
 公示の原則とは「排他的な権利変動は客観的に認識できる形で権利関係を公に示すべき」という原則です。
 もう少し噛み砕いて分かりやすく言うと「物の権利関係他人から見てわかりやすい形にしよう」という事です。
 そして、不動産の場合はそれを登記という画一的なルールにより行っているのです。
 
 以上、不動産の物権(所有権)における登記というものの基本について解説しました。
 こんなこと資格試験なんかにはあんま関係ないんじゃね?と思われる方もいらっしゃると思います。確かに直接的に試験問題に関わる論点ではないかもしれません。ですが、この辺のことをしっかり覚えておくと、後々民法の学習を進めていくにあたり、学習内容の頭の入り方が全然違ってきます。よりすんなり頭に入りやすくなるのです。急がば回れのひとつの典型とも言えます。加えて、社会のルールの基本として、頭の片隅に入れておいて損のない事でもあります。

不動産の二重譲渡

 不動産の物権(所有権)は、登記をすることによって法律で保護されます。
 したがって、不動産は登記をしないと実質、所有権を取得したとは言えません。(対抗要件を備えていないので)
 以上の基本を踏まえた上で、こちらの事例をご覧ください。

事例
Aは自己所有の甲土地をBに売却した。しかし、Bは登記をせず甲土地の名義はA名義のままだった。その後、Aは甲土地を悪意のCに売却し、Cは登記を備えた。

※登記を備えた、というのは登記をしたということ

 これは、売主Aが甲土地を買主Bと悪意の第三者Cの2人に売却した、という不動産の二重譲渡の事例です。

 売主   買主
 A → B
  ↘
    C
 悪意の第三者
 
 さて、ではこの事例で、甲土地の所有権を取得するのは誰でしょうか?
 正解はCです。
 え?Cは悪意なのに?
 はい。悪意なのに、です。
 Bがかわいそう!
 確かにBは可哀想です。しかし、ここではボサッとしていたBが悪い、と考えます。
 そうです。とかく民法は、取引の安全性を重視してトロイ奴に冷たい傾向があります。
 したがって、この事例の場合は、悪意であろうとCが勝ってしまいます。

 では、ここで再度、民法の条文を確認しましょう。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律に定めるところに従いその登記をしなければ、
第三者に対抗することができない。

 民法177条条文には「第三者に対抗することができない」とありますが、善意悪意については何も書いていませんよね?
 つまり、第三者の善意悪意は問わないということなのです。
 したがいまして、不動産の登記については、わかりやすく簡単に言ってしまうと「早く登記したモン勝ち!」なのです。
手旗 勝ち~
 要するに、不動産登記について民法は、取引の安全性を重視して早い者勝ちにしていると言えるでしょう。
 その結果、事例では、先に登記をした悪意のCが甲土地の所有権を取得し、Bについては「ボサっとしていたお前が悪い」となってしまうのです。

悪意の第三者の補足

 先述の事例で、Cは悪意であるにも関わらず土地の所有権を取得しました。なぜなら、不動産登記の世界は、民法177条の規定により登記したモン勝ちだからです。
 民法の言い分も分かるけど...ボサッとしていたとはいえやっぱりBがかわいそう
 はい。気持ちはよくわかります。しかし、こう考えてみてください。
 民法において悪意というのは「事情を知っている」という意味でしたよね。ならばCが「売主のAが色んな事情をなんとかウマいことやって売ってくれるんだな」と思って、取引に入って来ていたとしたらどうでしょう。
 確かにCは「事情を知っている」という点で悪意ですが、悪人という訳ではありませんよね。
 このように考えていくと、悪意のCの取引に対する信用を保護する必要性がありますよね。
 まあでも、結局、事例で一番のワルは売主Aなんですよね(笑)。ですので、気の毒な買主Bが現実としてできることは、諸悪の根源のAに対し損害賠償を請求する、ということになります。ただ、それがどんな結果になろうと、登記を備えたCの土地の所有権は揺るぎません。
 なお、Cが背信的悪意者の場合は、たとえ登記を備えようが、Cは土地の所有権を取得できません。
 背信的悪意者とは、合法的なとんでもないワルと思ってください。つまり、第三者があまりにも悪質であれば、それはさすがにトロイ奴には冷たい民法でも認めませんよ、ということです。

3つの登記請求権と登記引取請求権

登記請求権

 登記権利者が登記義務者に対して、登記申請に協力するよう請求することができる権利を、登記請求権と言います。
 登記権利者とは、所有権等を取得したことにより登記をする権利を持つ者のことで、不動産売買の場合の買主がこれにあたります。
 登記義務者とは、所有権等を取得したことにより登記をする権利を持つ者に対して、その登記に協力する義務を持つ者のことで、不動産売買の場合の売主がこれにあたります。
「登記権利者は登記義務者に対して登記申請に協力するよう請求することができる」ということの意味は、登記義務者(例:売主)が登記申請に協力しない場合、登記権利者(例:買主)は、裁判を起こして判決を取って登記を実現してしまうことができる、という意味です。

登記引取請求権

 登記権利者に登記請求権がある一方、不動産売買において、売主の方から買主に対して「はよ登記を持っていけや!」という権利もあります。これを登記引取請求権と言います。
 売主の方から買主に対して「はよ登記を持っていけや!」というのは、一見妙な感じがしますが、これは決して妙なことではありません。
 というのは、不動産には固定資産税がかかりますが、それは登記簿上の所有者に課税されます。ですので、売主としては、すでに売却した不動産の登記名義がぐずぐず残ったままなのは、困ったハナシなのです。

3つの登記請求権
三本指
「登記させろ」と請求できる登記請求権の発生原因には、以下の3パターンがあるとされています。

・物権的登記請求権
・債権的登記請求権
・物権変動的登記請求権

 それではひとつひとつ、解説して参ります。

【物権的登記請求権】

 これは、現在の権利関係との不一致を是正する登記請求権です。
 不動産売買が行われた場合の、買主から売主に対して「私が所有者になったのだから登記よこせコラ!」という権利が、この物権的登記請求権にあたります。
 なお、所有権についての物権的登記請求権であれば、それは所有者にしか認められません。
 例えば、不動産が「A→B→C」と転売された場合に、その不動産の所有者はCになりますが、中間地点にいるBからAに対しても登記を請求できます。このときの、中間地点にいるBからAに対する登記請求権は、物権的登記請求権ではありません。なぜなら、所有者はCだからです。Bには、その不動産についての「物権」がないので、それは登記請求権ではあっても「物権的」登記請求権ではないのです。

【債権的登記請求権】

 これは、当事者間の債権関係から発生する登記請求権です。
 例えば「A→B→C」と不動産が転売された場合に、中間地点にいるBからAに対する登記請求権こそ、この債権的登記請求権にあたります。
 所有者はCなので、Bには「物権」はありませんが、AB間には売買契約上の債権関係があり、BにはAに対して登記の協力を請求する「債権」があります。なので「債権的」登記請求権になるのです。
 なお、債権的登記請求権は、債権関係を原因とするものなので、例えば、BがAの土地を時効により取得したようなケースでは、AB間には債権関係がないので、この場合の登記請求権は、債権的登記請求権にはあたりません。

【物権変動的登記請求権】

 これは、物権変動の過程、態様と登記が一致しない場合の登記請求権です。
 例えば「A→B→C」と不動産が転売され、C名義の登記がされた後、AB間の契約が取り消された場合、BのCに対する所有権の抹消登記請求権が、物権変動的登記請求権にあたります。
 Bは所有者ではないので「物権的」ではありません。そして、AB間の売買契約が取消しになったことにより、その効果は遡求し(さかのぼり)、AB間の売買契約の存在を前提とするBC間の売買契約も「なかったこと」となり、BC間の債権関係も消えてなくなるので「債権的」でもありません。したがって、物権「変動的」登記請求権なのです。
 なお、無効の売買契約でAからBへ登記が移転し、さらにAからCへとその不動産が二重譲渡されたケースで、CはBに対して登記の移転を請求できますが、BからCへの「物権変動」は存在しませんので、この場合のBからCに対する登記の移転の請求は「物権変動的」登記請求権にはあたりません。

登記請求権の補足
女性講師
 ところで「A→B→C」と不動産が転売された場合に、登記名義がAのままだったとき、Cが(Bをすっ飛ばして)直接Aに対して「私の登記に協力しろ!」と請求できるのでしょうか?
 結論。CはAに対して「私の登記に協力しろ!」と請求できません。なぜなら、CとAは何の契約関係、権利義務関係もないからです。

・Cはどうすればいいのか

 Cが「私の登記に協力しろ!」と請求できる相手はBです。
 CB間は売買契約関係にあり、Cは買主で登記権利者、Bは登記義務者です。
 したがって、CはBに対して登記請求権を持つのです。しかし、CはAに対しては登記請求権を持ちません。Aに対して登記請求権を持つのはBになります。
 したがいまして、Cは、BがAに対して「私(B)の登記に協力しろ!」と請求してくれさえすればいいのです。

・Bが登記請求権を行使しなかったら

 では、BがAに対して登記請求権を行使してくれなかったらどうでしょう?
 Cとしては、自分自身の登記を実現するためには、BがAに対して「私の登記に協力しろ!」と、登記請求権を行使してくれないことにはどうにもなりません。
 そこで、そのような場合、Aには「債権者代位権」という手段があります(債権者代位権については別途改めて詳しく解説いたします)。
 ではAが「債権者代位権」を使って何ができるのかを簡単に言いますと、AはBに代わって(代位して)、Cに対して「Bの登記に協力しろ!」と請求できます。これが「債権者代位権」を使った、Cの登記を実現する方法です。月に代わっておしおきよ!ならぬ、Bに代わって登記しろ!です(笑)。
 なお「A→B→C→D」と不動産が転売された場合に、登記名義がAのままのとき、Dは自分自身の登記を実現するために、CがBに代わって(代位して)、Aに対して「Bに登記しろ」という権利(債権者代位権)を、Cに代わって行使できます。つまり、代位の代位です。月に代わっておしおきするセーラームーンに代わっておしおきよ!という感じです(笑)。


 以上、不動産登記について解説になります。
 どうしても登記関係の話は、より専門的で、つまらなくなってしまいがちですが、まずは前半部分の基本を、しっかり押さえていただければと存じます。
  
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【時効取得と登記】所有権争い~時効完成前後に現る第三者/さらに二重譲渡と抵当権が絡んだ場合

▼この記事でわかること
~所有権争い~
時効完成前の第三者vs時効取得者
時効完成後の第三者vs時効取得者
時効取得と抵当権と登記
時効取得と二重譲渡
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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時効取得と登記

 不動産の所有権争いは、基本的に登記したモン勝ちの世界です。(不動産登記の基本についての詳しい解説は「不動産登記の基本と公示の原則/二重譲渡~登記は早い者勝ち」をご覧ください)
 では、不動産登記に時効取得が絡んでくるとどうなるのでしょう?

時効完成前の第三者vs時効取得者

事例1
BはA所有の甲土地を善意・無過失で9年間、占有を続けた。Bはあと1年の占有で甲土地を時効により取得するところである。ところが、その時効が完成する前に、甲土地がAからCに譲渡され、その旨の登記もされた。


 この事例1では、Bは善意・無過失でA所有の甲土地を占有していますので、短期取得時効により、10年間の占有で甲土地を時効取得します。ところが、その時効が完成する一歩手前で、甲土地の所有権がAからCに移転しています。
 で、何が問題なの?
 はい。まずこの事例1のポイントは、時効完成前に第三者のCが現れ登記もした、という点です。そして問題となるのは、Bがあと1年間、占有を継続して時効が完成した場合、Bは(時効完成前に現れ登記もした第三者)Cに対して甲土地の時効取得を主張できるのか?ということです。
 なぜそれが問題になるかというと、こういうことです。
 
BはA所有の甲土地を善意で9年間占有していますが、C所有になってからの甲土地は1年間しか占有していません。それなのに、Bの甲土地の時効取得の主張が認められるとなると、Cからすれば、たった1年間の占有で甲土地を時効取得されて、その所有権を奪われてしまうことになります。

~「B対C」の所有権争いの結末やいかに~

 さて、このB対Cによる甲土地の所有権をめぐる争い、一体どちらが勝つのでしょうか?
 結論。甲土地をめぐる所有権争いはの勝ちです。
 Bは甲土地の時効が完成すれば、Cに対して、その時効取得を主張できます。はCに対して「時効が完成したから甲土地の所有権をよこせ!」と主張できる、ということです。
 Cが気の毒なような...
 確かにそうですよね。しかし、Bに甲土地を時効取得されてしまったことについては、Cにも落ち度があります。
 なぜなら、Aから甲土地を譲渡される前に、甲土地についてしっかりと調査をすれば、Bの占有と時効取得される可能性を事前に知ることはできた、とも考えられますよね。
 加えて、善意で占有しているBは、甲土地を自分の土地だと思って占有しています。そんなBにとっては、甲土地の真の所有者がAなのかCなのかは、あまり関係ないのです。

【判例の考え】
裁判所
 判例の考えでは、BとCは「前主後主の関係」になります。
 本来、不動産登記の世界は「登記した者勝ち」の、早い者勝ちの世界です。
 例えば、ある不動産が二人の者に二重譲渡された場合、その不動産の所有権争いは、早く登記をした方が勝ちます。ですので、普通に考えると、事例1のB対Cの所有権争いは早く登記をしたCが勝ちそうなものです。しかし、BとCは「前主後主の関係」で「どっちが先に登記をするかの関係」ではないと判例は考えます。つまり、甲土地の所有権「前主Cから後主Bに移った」ことになる、ということです。
 なお「どっちが先に登記をするかの関係」は、法律的には、民法177条の「対抗関係」となります。(これについての詳しい解説はこちらをご覧ください)。
 つまり、BとCは「前主後主の関係」であって「対抗関係」ではない、ということです。これは言ってみれば、Cは「Bとの所有権争いのリングには立てない」ということです。

時効完成後の第三者vs時効取得者

 さて、続いては時効完成後に第三者が現れたケースについて解説します。

事例2
BはA所有の甲土地を善意・無過失で10年間、占有を続け、時効が完成した。そして、その時効完成後、Bが登記をしない間に、Aは甲土地をCに譲渡し、その旨の登記をした。


 この事例2は、BがA所有の甲土地を占有して時効が完成した後、甲土地の所有権がAからCに移転し、その旨の登記もされた、というケースです。
 さて、ではこの事例2で、時効が完成したBは、Cに対して甲土地の時効取得を主張できるでしょうか?
 結論。は甲土地の時効取得をCに対して主張できません。
 この事例2は、実はとても単純な図式になっています。
 どういうことかといいますと、それは、BとCの関係性です。BとCの関係は、単純な「どちらが先に登記をしたかの関係」です。つまり、BとCは、民法177条の「対抗関係」になります。
 したがいまして、事例2では先に登記をしたCの「早い者勝ち」となり、B対Cの甲土地の所有権争いの勝者はCなのです。

Bが所有権争いに負けたのは自分のせい

 BとCは対抗関係にあり、単純に「早く登記した者勝ち」で、Bよりも早く登記を備えたCが甲土地を取得します。
 では、には何かしらの手立てはなかったのでしょうか?
 これは単純な話です。Bは時効完成後さっさと甲土地の所有権登記を済ませれば良かったのです。それだけの話です。つまり、せっかく時効が完成したのに、登記をしないままボサっとしていたBが悪いということです。民法は、基本的にトロいヤツには冷たいのです。
 なお、もしBがさらに甲土地を占有し続けて時効期間を満たすと、再び時効が完成します(時効の起算点Cの登記時)。こうなるとBの逆転勝利で、Bが甲土地を時効取得します。

 では続いて、次の場合はどうなるでしょう?

事例3
BはA所有の甲土地を善意・無過失で9年間、占有を続けた。そして、甲土地がBからCへ譲渡された。それから1年後、Bの時効が完成した後、Cは登記した。


 少しややこしくなっていますが、この事例3は、Bの時効完成前に甲土地がAからCに譲渡され、Bの時効完成後にCが登記をした、というケースです。
 さて、このケースで、Bは甲土地の時効取得を、Cに対して主張できるでしょうか?
 結論。Bは甲土地の時効取得をCに対して主張できます。BとCの甲土地をめぐる所有権争いBの勝ちです。
 ん?Cは時効完成後に登記をしているから、BとCは対抗関係で早い者勝ちにならないの?
 事例3のBとCは、対抗関係ではありません。実は事例3は「時効完成前の第三者」のケースになります。
 確かに第三者のCは、Bの時効完成後に登記をしています。しかし、甲土地の譲渡自体は、Bの時効完成前に行われています。そして、譲渡が行われた時点で甲土地の所有者はAからCへと移っています。
「Cの登記がBの時効完成後に行われた」ということについては、これは単に「Cの行動がノロいだけ」なのです。
かたつむり
 ですので、事例3は、ただ単にCの行動がカタツムリのようにノロいというだけで、あくまで「時効完成前の第三者」のケースになるのです。
 そして「時効完成前の第三者」のケースでは、その土地をめぐる所有権争いは時効により取得する者が第三者に勝ちます。
 したがいまして、事例3の甲土地をめぐるB対Cの所有権争いは、Bが勝つのです。

時効取得と抵当権と登記

 続いては、時効取得に加えて抵当権も絡んでくる様々なケースを見て参ります。

事例4
BはA所有の甲土地を占有し時効が完成したが、その旨の登記はしていなかった。そしてBが登記をしない間に、AはCからの融資を受けるために、その融資の担保として甲土地に抵当権を設定した。


 さて、この事例で、BはAの設定した抵当権の消滅を主張できるでしょうか?
 結論。BはAの設定した抵当権の消滅の主張はできません。
 もしBが、Aの抵当権設定の前にきちんと登記を済ませておけば、Aの抵当権は消滅します。つまり、せっかく時効が完成したのにも関わらず、登記もせずにボサっとしていたBが悪いのです。
 したがって、BはAの抵当権付きの甲土地を取得することになってしまいます。

 では、次の場合はどうなるでしょう?

事例5
BはA所有の甲土地を占有し時効が完成したが、その旨の登記はしていなかった。そしてBが登記をしない間に、AはCからの融資を受けるために、その融資の担保として甲土地に抵当権を設定した。その後、Bはさらに甲土地の占有を続けて、再び時効が完成した。


 この事例5で、BはAの抵当権設定の時を起算点とした甲土地の時効取得を、Aに対して主張できるでしょうか?
 結論。BはAに対して、その抵当権設定の時を起算点とした甲土地の時効取得を主張できます。これはBの時間をかけた逆転勝利です。

 さらに事例をもうひとつ。

事例6
BはA所有の甲土地を占有し時効が完成したが、その旨の登記はしていなかった。そしてBが登記をしない間に、AはCからの融資を受けるために、その融資の担保として甲土地に抵当権を設定した。その後、Bは所有権登記をして、甲土地の占有を続けた。


 この事例6で、Bは甲土地を占有し続ければ、再び時効が完成して、Aの抵当権の消滅を主張できるでしょうか?
 結論。BはAの抵当権の消滅を主張できません。なぜなら事例6では、再びBの時効が完成することはないからです。

なぜ事例6では、再びBの時効が完成することはないのか
?女性
 なぜ再びBの時効が完成しないのかと言いますと、事例6のBは、Aの抵当権設定後に所有権登記をしているからです。
 これについて判例では「一度、時効取得して所有権登記をしたものを再び時効取得することはできないだろう」と説明しています。まあ、確かにそのとおりと言えばそのとおりですよね。
 この事例6のオモシロイところは、Bの所有権登記が仇になっている、というところです。
 所有権登記をしていない事例5では、時効が再び完成し、Bは逆転勝利を果たしています。しかし、事例6では、Bが所有権登記をしたがために、再度の時効完成が認められず、Bの逆転勝利は叶いません。
 普通、不動産の権利に関する問題は、登記をした方が有利になります。それが逆に働くという事例6は、実に面白いレアケースと言えるでしょう。

時効取得と二重譲渡

 それでは最後に、時効取得と二重譲渡が絡んだケースについて解説します。

事例7
BはA所有の甲土地を買い入れ引渡しを受けたが、移転登記はまだ行っていなかった。それからすぐ、CもAから甲土地を譲り受け、その旨の登記をした。その後、Bは甲土地を占有し続けた。


 これは、不動産の二重譲渡のケースです。
 このような不動産の二重譲渡では、その不動産の所有権争いは、基本的に早く登記した者が勝ちます。ですので、事例でのB対Cによる甲土地の所有権争いは、登記をしたCが勝ちます。
 しかし!この事例7では、そこからさらにもう一捻りあります。
 甲土地をめぐるB対Cの所有権争いは、登記をしたCが勝ちますが、この事例7では、所有権争いに負けたBが、それでも甲土地の占有をし続けています。
 さて、ここからが本題です。
 そのままBが甲土地の占有をし続けた場合、Cの登記時を起算点として、Bは甲土地を時効取得することができるでしょうか?
 結論。Bは甲土地を占有し続ければ、甲土地を時効取得することができます。
 ただし!時効の起算点は「Cの登記時」ではありません。時効の起算点は「Bが甲土地の引渡しを受けた時」になります。
 したがいまして、甲土地の二重譲渡による所有権争いに負けたBは、甲土地を占有し続ければ、引渡しを受けた日を起算点として、甲土地を時効取得することができます。Bの逆転勝利です。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです
 最後までお読みいただきありがとうございます。

【共同相続と登記】遺産分割協議と相続人&相続放棄者の勝手な不動産譲渡問題/遺言による相続と登記について

▼この記事でわかること
相続と登記の超基本
共同相続と登記
遺産分割協議とは
共同相続人の勝手な不動産譲渡?と登記
相続放棄者が相続財産を譲渡?と登記
遺言による相続と登記
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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相続と登記

 登記の問題に相続が絡んでくる場合とは、一体どのようなケースでしょう? 

事例1
BはAに甲不動産を譲渡した後、死亡した。その後、Bの唯一の相続人であるCは、甲不動産をDに譲渡した。


 これがまず、不動産登記に相続が絡んだ場合の基本的なケースでしょう。
 この事例の流れはこうです。

BがAに甲不動産を譲渡

Bが死亡

BをCが相続

CがDに甲不動産を譲渡


 この事例1について考えるときのポイントは、BとCは同一人物だと考えることです。
 CはBを相続しています。そして、相続は包括承継です。わかりやすく言うと、Cはそのものを引き継いでいるのです。
 したがって、事例1は、C(=B)が、AとDに甲不動産を譲渡している、という不動産の二重譲渡のケースになります。
 さて、ではこの事例1で、甲不動産を取得できるのは、Aでしょうか?それともDでしょうか?
 答えは簡単です。これは不動産の二重譲渡のケースなので、単純に早く登記した方が甲不動産を取得します。

共同相続と登記

事例2
Aが死亡し、A所有の甲土地をBとCが共同相続した。相続分は同一(半々)である。その後、BC間で、甲土地はBが単独で所有するという遺産分割協議が成立した。ところが、Cは甲土地の全部につき自己名義の登記をした上、Dに甲土地を譲渡し、その移転登記をした。


 さて、ここからが「相続と登記」の本格的な内容になります。
 状況の整理をしないとややこしいので、まず、この事例2の流れを確認しましょう。

A死亡

甲土地
BC共同相続(持ち分半分ずつ)

BC間の遺産分割協議により

甲土地の所有権全部
B単独所有


ところが

甲土地の所有権全部
Cが自己名義登記

Dに譲渡

甲土地
Dが登記


 事例2の流れと状況はこのとおりです。
 さて、ではこの事例2で、そもそもCに、甲土地の所有権全部について自己名義の登記(甲土地の所有権全部をC名義で登記)をして、そこからさらに甲土地をDに譲渡する権利があるのでしょうか?

遺産分割協議とは
アヒルの話し合い
 相続財産を、相続人間の話し合いで分けることを遺産分割と言います。
 例えば、長男は土地、次男は株、三男は預金、といった具合です。
 そして、遺産分割の効力についての、民法の規定はこちらです。

(遺産の分割の効力)
民放909条
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。


 この民法909条の条文を見ると、遺産分割の効力は、相続開始の時にさかのぼるとあります。
 ということは、事例2は、BC間の遺産分割協議が成立して、その効力はAの死亡時(相続が開始した時)にさかのぼります。
 となると、甲土地の所有権は、Aが死亡して相続が開始した時からBのものだったことになります。
 こう考えていくと、そもそも、Cには甲土地についてどうこうする権利などない、ということになります。
 しかし!判例の考えは、民法909条の遺産分割の遡及効(遡って生じる効力)を制限します。これはどういう事かといいますと、甲土地について、Cの権利を全く認めない訳ではないのです。

共同相続人の勝手な不動産譲渡

 ここで今一度、事例2の流れと状況を確認しましょう。

A死亡

甲土地
BC共同相続(持ち分半分ずつ)

BC間の遺産分割協議により

甲土地の所有権全部
B単独所有


ところが

甲土地の所有権全部
C単独で自己名義登記

Dに譲渡

甲土地
Dが登記


 さて、ではこの事例2で、無権利者のように思われるCから甲土地を譲渡されたDに対し、Bは「遺産分割により甲土地の所有権全部が私のものとなった!なので返せ!」と、甲土地の所有権を主張できるでしょうか?

~Dの救いの道~

 本来、遺産分割されると、その効力は相続開始の時まで遡ります。
 つまり、BC間の遺産分割協議により遺産分割されると、Aが死亡して相続が開始した時から甲土地の全部はBのものだったことになります。
 しかし、判例はこの原則を曲げて、遺産分割の遡及効(遡って生じる効力)を制限します。そして、遺産分割の遡及効を制限することにより、Dには救いの道が開かれます。Dに救いの道が開かれるということは、Aが泣くことになる可能性を意味します。
 Aの主張の雲行きが怪しくなってきましたね。

甲土地をBの持ち分とCの持ち分とに分けて考える
真っ二つ
 まず、Aが死亡すると、甲土地はBとCへ相続されます。その際、甲土地の持ち分は半々となっています。ここで、Bの持ち分をb土地、Cの持ち分をc土地とします。
 そして、Cは甲土地の所有権全部について自己名義の登記をしてDに譲渡します。つまり、Cは、b土地とc土地の両方を合わせた甲土地に自己名義の登記をした上でDに譲渡した、ということになります。
 さて、ここからは甲土地の行方を、b土地とc土地に分けて考えていきます。

・Bの持ち分:b土地

 こちらは、相続により直接Bに帰属します。
 つまり、b土地の所有権は、相続によりダイレクトにBのものになります。ですので、b土地については、Cは一回もその権利を取得したことはなく、全くの無権利者です。
 したがいまして、b土地について全くの無権利者のCから譲渡されたDがb土地を取得することはあり得ません。

〈Bの持ち分:b土地〉

↓直接

(Cの入る余地なし)

 なので、CD間のb土地(Bの持ち分)の譲渡は無効であり、Dの登記も無効です。
 よってBは、b土地については登記がなくともDに対抗できます。
 したがって、Bはb土地については登記をしていなくとも、(無効な)登記をしているDに対して「b土地を返せ!」と主張することができます。

・Cの持ち分:c土地

 こちらは、相続によりいったんCに帰属します(判例により遺産分割の遡及効が制限されるので)。つまり、c土地の所有権は相続によりいったんCのものとなり、その後、遺産分割により、Bのものとなります。
 そして、ここからがポイントです。
 c土地は相続によりいったんCのものとなり、その後、遺産分割によりBのものとなる訳ですが、Cがc土地をDに譲渡したことにより、c土地がBとDに二重譲渡されたと考えます。

〈C持ち分:c土地〉



二重譲渡


 不動産の二重譲渡は、民法177条の規定により、第三者(事例だとD)の善意・悪意も関係なく、単純に早く登記をした方が勝ちます。
 したがいまして、事例2のDは登記をしていますので、c土地については、その所有権はDが取得します。
 以上のように、判例では、C持ち分:c土地に関しましては、Dに救いの道を示したということです。逆にBは、B持ち分:b土地については登記がなくともDに対抗できますが、C持ち分:c土地に関しましては、先に登記をされてしまったDに対しては、もはや泣くしかありません。
 ということで結論。
 BはDに対して「甲土地の所有権の全部を私に返せ!」と主張しても、c土地に関しましては「私(D)が登記したから私のモノだ!」というDに対抗することができません。
 したがいまして、BがDから取り戻せるのは「B持ち分:b土地のみ」となります。

相続放棄者が相続財産を譲渡?

 続いては、共同相続人の相続放棄が絡んだケースを解説します。

事例3
Aが死亡し、A所有の甲土地をBとCが共同相続した。相続分は同一(半々)である。しかし、Cはすぐに相続放棄した。その後、Cは甲土地の全部につき自己名義の登記をした上、Dに甲土地を譲渡し、その移転登記をした。


 事例の前に、まず「相続放棄」について、簡単に解説いたします。
 相続放棄とは、相続人としての地位そのものを放棄することです。相続人としての地位そのものを放棄するということは、そもそも最初から相続人ではなかったとみなされます。
 そして一度、相続放棄をして相続人ではなかったとみなされると、もう二度と相続人に戻ることはありません(「みなす」という言葉はそれぐらい強力なのだ。その後の反論も一切許さないのである)。
 したがって、相続放棄をした者は、もはや相続人ではないので、当然、相続人としてカウントされなくなります。
 なぜそんな制度があるの?
 相続は、死亡した人間の財産上の地位をまるごと引き継ぎます(包括承継)。
 財産上の地位をまるごと引き継ぐということは、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産(負債)も、まとめて引き継ぐということを意味します。ですので、もし親が大借金を抱えて亡くなると、相続人となる子供は、親の作った大借金をそのまま丸ごと引き継ぐことになります。
 しかし、それでは相続人が困ってしまいますよね。それどころか、その借金があまりにも莫大なものだったとしたら、子々孫々まで延々とその借金を背負わされてしまい兼ねません。そこで「相続放棄」という制度があるのです。
 なお、プラスの財産しかない場合でも相続放棄することは可能です。実際、相続争いに巻き込まれるのは勘弁ということで、プラスの財産でも相続放棄するケースは多々あります。

 さて、それではここから、事例3についての解説に入って参りますが、今一度、事例の流れと状況を確認します。

A死亡

甲土地
BC共同相続(持ち分半分ずつ)

Cが相続放棄

甲土地の所有権全部
B単独所有


ところが

甲土地の所有権全部
C単独で自己名義登記

Dに譲渡

甲土地
Dが登記


 以上が事例の流れと状況です。
 それでは事例について本格的に見ていきましょう。
 Aの相続人はBとCです。甲土地はBとCに共同相続されます。
 しかし、すぐにCは相続放棄します。すると、Cは最初から相続人ではなかったとみなされ、甲土地は最初からBが一人で相続したことになります。そして、相続放棄の効果は絶対です。ですので、一度、相続放棄をしたCには、もはや甲土地の何もかもについてどうこうする余地は1ミリもありません。
 相続放棄をしたC完全な無権利者です。したがって、Cが相続放棄をするとこうなります。

〈甲土地〉

↓直接

(相続人としてのCの存在は最初からいなかったことになる)

 したがいまして、相続放棄をして、甲土地について最初から完全な無権利者となるCに、甲土地をDに譲渡することなどは当然できず、CD間の甲土地の譲渡完全に無効なもので、Dの登記も無効です。
 よってBは、登記を備えたDに対して、登記なくとも甲土地の所有権の全部について対抗できます。つまり、Bは甲土地について登記をしていなくても、登記をしたDに対して「甲土地の所有権全部、私に返せ!」と主張できます。
 事例3の場合、Dが甲土地の所有権争いに勝つ可能性は全くありません。

遺言による相続の場合
紙とペン
 最後に、遺言による相続のケースを解説します。

事例4
Aが死亡した。そしてAの遺言により、A所有の甲土地をBが持ち分3分の1、Cが持ち分3分の2で相続した。その後、Cは甲土地の全部につき自己名義の登記をした上、Dに甲土地を譲渡し、その移転登記をした。


 これは、遺言により相続分が指定されたケースです。
 そして、Cが遺言による指定を無視して、甲土地の所有権全部について自己名義の登記をした上、Dに譲渡して移転登記もした、というものです。
 さて、この事例で、Dは甲土地を取得できるのでしょうか?
 結論。Dは甲土地を取得できます。ただし、Dが取得できる甲土地は、3分の2のC持ち分のみです。(論理・考え方は遺産分割の事例2と一緒です)
 Bの持ち分は?
 甲土地の3分の1のB持ち分については、Dが取得することはあり得ません。なぜなら、B持ち分については、Cがそもそも完全な無権利者だからです。完全な無権利者のCから、B持ち分がDへ譲渡されることがあり得ないんです。つまり、CD間のB持ち分の譲渡は無効です。

〈B持ち分〉

↓相続

(Cの入る余地なし/Dの登記は無効)

 なお、Bは登記がなくとも、B持ち分については、Dに対抗できます。よってDは、B持ち分については、登記のないBから「返せ!」と迫られたら、大人しく返還しなければなりません。
 
事例5
Aが死亡した。そしてAの遺言により、A所有の甲土地をBが持ち分3分の1、Cが持ち分3分の2で相続した。その後、Cは相続放棄した。ところが、Cは甲土地の全部につき自己名義の登記をした上、Dに甲土地を譲渡し、その移転登記をした。


 これも、遺言により相続分が指定されたケースで、相続放棄をしたCが、甲土地の所有権全部につき自己名義の登記をした上、Dに譲渡しその移転登記もした、というものです。
 さて、ではこの事例5で、Dは甲土地を取得できるでしょうか?
 結論。Dは甲土地を取得することはできません。論理・考え方は相続放棄の事例3と一緒です。
 Cの持ち分は?
 はい。DはCの持ち分すら取得することはできません。なぜなら、Cが相続放棄したということは、Cは最初から相続人ではなかったとみなされます。Cが相続人ではなかったとみなされると、最初から甲土地はB1人で相続したことになります。それは遺言による相続分の指定があろうと関係ありません。

〈甲土地〉

↓相続

(相続人としてのCの存在は最初からいなかったことになる)

 相続放棄の効果は絶対です。一度、相続放棄をしたCが、再び相続人に戻ることもありません。相続放棄したけどやっぱナシ!とはできないのです。
 したがいまして、相続放棄をしたCは、もはや相続人ではないので、甲土地に関しては全くの無権利者です。全くの無権利者CからDに甲土地が譲渡されることはあり得ません。よってCD間の甲土地の譲渡は無効であり、Dの登記も無効です。
 ということなので、Bは登記がなくとも、Dに対し甲土地の全部について対抗できます。つまり、Bは登記をしていなくとも、(無効な)登記をしたDに対し「甲土地の所有権全部返せコラ!」と主張することができます。
 事例5でDが勝つ可能性はゼロです。それだけ、Cの相続放棄の効果が絶対ということなのです。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。

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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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