不法行為 責任能力

 今回は、不法行為における加害者(債務者)の責任能力の問題についてご説明して参ります。

事例3
Aは小学三年生のBの過失により大怪我を負った。


 さて、この事例3で、AはBの不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができるでしょうか?
 結論。AはBに損害賠償の請求はできません。なぜなら、Bが小学三年生だからです。
 
責任能力無き者、不法行為成立せず

 民法における責任能力とは、自分がやった事が法律上の責任を生ずるということを自分でわかっている能力です。法律上イケないことをしたら、それが法律上イケないことだと自分でわかっている能力です。
 学説上では、満12歳程度をもって責任能力ありとされています。大体、小学生と中学生の間ぐらいで線引きされるイメージですね。また、心神喪失者なども責任能力なしと考えられ、不法行為が成立しません。例えば、通り魔事件があって犯人が心神喪失者と判断されれば、犯人の不法行為は成立せず免責となります。それは台風や地震に損害賠償請求できなければ野犬やヘビに損害賠償請求できないのと理屈は一緒で、これが近代法の責任主義の原理なのです。よく、通り魔みたいな事件が起こったときに、犯人の責任能力の有無みたいな話が出てくるのは、現在の法律が、この近代法の責任主義の原理に立脚しているからです。

 さて、そうなると、事例3において被害者であるAは、泣き寝入りということになってしまうのでしょうか?
 実は、Aにはまだ2つ、損害賠償の請求手段が残されています。

1 小学三年生のBの親権者に、監督義務違反による損害賠償を請求する
2 1の監督義務者に代わってBを監督する者(例えば学校や教師)に、監督義務違反による損害賠償を請求する

 上記2つの手段が、被害者のAにできることです。念のためご説明いたしますが、親権者(通常は親)には自分の子供の監督義務があります。監督義務とは、簡単に言うと「ちゃんと面倒みなさいよ」ということです。つまり、事例のAが、小学三年生のBの親に監督義務違反を追及するというのは、「あなたは親なのにちゃんとBの面倒みてませんよね!それによって私は損害を被った。だからBの監督義務者である親のあなたに賠償請求します!」ということです。これが上記1の手段になります。
 ここまでで、親権者の監督義務についてと、その責任追及によりAは小学三年生のBの親権者に損害賠償の請求ができる、ということがわかりました。では、上記2の手段「監督義務者に代わって監督する者に損害賠償請求する」とは、どういうことなのでしょうか?もうおわかりですよね。Bの通う学校やその学校の教師に対して、Aは損害賠償の請求ができるということです。学校や教師の責任も、親同様重大なのです。
 尚、現実には、事案ごとに状況を見て検証し、その者に監督義務違反があったかどうかが判断され、実際に損害賠償の請求ができるかどうかの結論は、個別具体的に出されます(結果はケースバイケースということ)。
 という訳で、事例3でAができることをまとめるとこうなります。

AはBに対し直接、損害賠償の請求はできない。それはBがまだ小学三年生で責任能力がないから。そのかわりBの親権者(通常は親)か、場合によっては学校または教師に、監督義務違反による損害賠償の請求ができる

 念のため付け加えておきますが、被害者側のAにも過失があれば、それは過失相殺として考慮されます。この点もご注意下さい。
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不法行為の超基本と過失相殺

 この世の中は契約社会です。そして、契約が成立すると債権債務関係が生じます。しかし、世の中には契約によらずして債権債務関係が生じるケースが存在します。そのひとつが不法行為です。
 まずは不法行為に関する条文をご覧下さい。

(不法行為による損害賠償)
民法709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 不法行為は、違法な行為により生じた損害を賠償させる制度です。例えば、AさんがBさんを殴ったらAさんの不法行為が成立し、加害者のAさんは不法行為責任を負い、被害者のBさんは加害者のAさんの不法行為責任を追及して、その損害の賠償請求ができます。つまり、契約という約束を破って生じる債務不履行とは違い、何の約束も契約もないのに、違法な行為により生じた損害によって、被害者という債権者加害者という債務者が生まれ、加害者という債務者は損害を賠償する責任を負うのです。それが不法行為です。
 不法行為という制度自体が何なのかは、もうおわかりだと思いますので、ここからは事例を交えて考えていきます。

事例1
AはBの過失により大怪我を負った。


 ものすごいざっくりした事例でスイマセン(笑)。
 さて、この事例1で、Aは何ができるでしょうか?もうおわかりでしょう。被害者のAは加害者のBに対し、不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができます。
 ところで、損害というものは大きく2つに分けることができます。
1・財産上の損害
 事故によって汚れたり壊れたりした物、怪我の治療費、休業補償など
2・財産以外の損害
 精神的損害のこと(いわゆる慰謝料)
 大雑把に、大体こんな感じです。この辺りの詳細はここでは省きますが、大事なのは、損害には財産上の損害と財産以外の損害があるということです。
 話を事例に戻します。それでは、AがBに賠償請求できる損害とは、どちらの損害になるのでしょうか?
 正解。Aは財産上の損害財産以外の損害、両方の賠償請求が可能です。
 ちなみに、財産以外の損害の請求とは慰謝料請求のことです。つまり、事例1のAはBに慰謝料の請求もできます。

事例2
AはBの過失により大怪我を負った。しかし、Aにも過失があった。


 今度は、被害者側にも過失(落ち度)があったケースです。ではこの場合、過失ある被害者者のAは何ができるのでしょうか?
 正解。被害者者であるAは加害者であるBに対し、不法行為責任を追及して損害賠償の請求ができます。
 ただし!事例2のケースでは、被害者者側のAにも過失があります。ですので、過失がないときに請求できる金額よりも減額される可能性があります。その減額される割合は、現実には、実際の不法行為時の状況を見て検証した上で裁判所が決めることになりますので、ここで一概に申し上げられません。いずれにせよ、被害者側にも過失があるとき損害賠償の請求金額に影響する可能性があるのです。これを過失相殺といいます。加害者側の過失と被害者側の過失分を相殺しましょう、ということです。
 車での交通事故の経験のある方は、過失割合なんて言葉を聞いたと思います。あれも、過失相殺のことです。そして、過失割合によって示談金等の金額も変わってきますよね。

 尚、不法行為における損害賠償の請求は、損害及び加害者を知ってから3年、または不法行為時から20年に行わなければなりません。ここで気を付けて頂きたいのは「損害及び加害者」というところです。つまり、損害と加害者両方を知ってから3年以内ということです。ご注意下さい。また、「不法行為時から20年」というのは、除斥期間になります。どういうことかといいますと、不法行為時から20年経つと問答無用で損害賠償の権利は消滅します。

 という訳で、今回は不法行為の基礎の基礎をご説明申し上げました。次回は、また別の事例を交えて、不法行為についてもう少し掘り下げて参りたいと思います。
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不特定物は危険負担にあらず そして種類債権とは

事例3
酒屋のAは、イベント会社のBから「ビール1ダースを午後3時までにパーティー会場に」との配達注文を受けた。しかし、Aは指定されたパーティー会場への配達の途中に地震に見舞われ転倒し、ビール瓶はすべて割れてしまった。


 さて、この事例3の場合「ビール瓶が割れてしまった」という危険は、AとBのどちらが負担するのでしょうか?
 正解。これは危険負担の話ではありません。なぜなら、ビールは特定物ではなく不特定物だからです。不特定物ということは、世の中に代わりになる同じ物が存在するということです。ですので、Aはたとえ午後3時に間に合わなかったとしても、新たなビール1ダースを積み直して届けなければなりません。でないと、Aは債務不履行に陥ってしまいます。地震というのは天災なので、Aに過失はありませんから、指定時間に遅れる事で債務不履行という扱いにはならないでしょう。現実には、AとBがお互い話し合ってどうするのかを決めることになると思いますが、何の話し合いも合意もないのであれば、民法の原則として従来の約束を守らなければならないので、Aは指定時間に遅れてでも同じビール1ダースを積み直して、パーティー会場に届けなければなりません。それが債務の履行です。

「危険負担とは双務契約の債務者の責めに帰すことができない後発的不能の問題である」

 なんだか小難しい言い回しですが、簡単に申し上げると、危険負担とは「契約成立後、債務者に過失がなく契約の履行が不能になってしまった」場合の話です。ですので、事例3は危険負担の話にはならないのです。

補足
 尚、不特定物が特定物に変わるのはいつなのか?という問題があります。
 え?不特定物が特定物に変わるの?
 はい。実はその規定は民法の条文にあります。

(種類債権)※
民法401条2項
前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。
※種類債権とは、一定の種類に属する物の一定量を引き渡すことを目的とする債権。ビール1ダースはまさにそれ。不特定物の債権を種類債権と呼ぶ。

 条文を読むだけではよくわからないと思いますが、条文では、不特定物が特定物に変わるタイミングとして2つの場合を定めています。
1・債務者が物を給付するのに必要な行為を完了した場合
 この場合、判例が以下の3パターンを認めている。
a、債務者が債権者のもとへ物を届ける場合(これを持参債務という)、債権者の現在の住所において物を給付するのに必要な行為を完了した時に不特定物が特定され特定物に変わる。例えば、酒屋が注文者の自宅に注文を受けたビール1ダースを「どうぞ」と差し出した時
b、債権者が債務者のところに物を取りに行く場合(これを取立債務という)履行を準備し給付物を分離してそれを債権者に通知した時に不特定物が特定され特定物に変わる。例えば、酒屋が「あの注文者のビール1ダースはこれ」と決めて取り分けて「いつでもどうぞ」とその注文者に連絡した時
c、債権者の住所地以外の場所に送付する債務の場合(これを送付債務という)送付することが債務者の義務であれば現実の提供時に、債務者の好意で送付する場合は発送時に、不特定物が特定され特定物に変わる。これはまさに事例3のケースで、酒屋のAがイベント会社B指定のパーティー会場にビール1ダースを実際に届けた時に、ビール1ダースは特定され特定物となる。
2・債権者の同意を得てその給付をすべき物を指定した場合
 例えば、酒屋が注文者の同意の上で「あの注文者の分はこの1ダース」と指定した時

 以上が、不特定物が特定され、特定物に変わる時になります。そして、不特定物が特定物に変わると、危険負担の話になります。したがって、不特定物が特定され特定物に変わった瞬間に、物の所有権と危険が買主(債権者)に移転します。

 以上で、危険負担に関する解説は修了します。私もそうですが、危険負担は中々、最初はとっつきづらいかなと思います。できるだけ丁寧に解説したつもりですが、足りないところがございましたら、また改めてご説明申し上げたいと存じます

危険負担 イベント出演の場合

 前回、危険負担についてご説明申し上げましたが、今回もまた、別の事例を交えて、危険負担についてもう少し考えていきます。

事例2
スーパーギタリストAはB音楽事務所が主催するロックイベントに出演することを約束した。しかしイベント当日、地震による交通機関の麻痺により、Aはイベント会場に行くことができなかった。


 さて、この事例2において、スーパーギタリストAは出演料はもらえるでしょうか?
 事例2は、AにもBにも過失がありません。よって、これも危険負担の問題になります。そして、危険負担の場合は、契約の「目的物」を中心に考えます。では、事例2においての契約の目的物とはなんでしょう。それは「Aが出演すること」です。すると「Aが出演すること」に対しての債務者債権者ということになりますね。前回の事例1と同じ結論であれば、債権者主義によりAは出演料がもらえることになります。しかし!今回の事例2は、前回の事例1とは決定的に異なる部分が存在します。それはどこか?まずはこちらの条文をご覧下さい。

(債権者の危険負担)
民法534条
特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。

 上記の条文は、前回の不動産の事例で適用した規定です。しかし実は、今回の事例2には、この条文は適用されません。なぜなら、事例2においての契約の目的物である「Aが出演すること」は、特定物に関する物権の設定又は移転には当てはまらないからです。「Aが出演すること」は債権であって物権ではありません。事例2においての「Aが出演すること」は、あくまで危険負担を考える上での目的物であって、民法上の物に対する権利である物権の対象となる「物」ではありません。民法上でいえば「Aが出演すること」は、人に対する権利である債権に属します。この点は分けて考えて下さい。「Aが出演すること」は、あくまで危険負担を考える上での目的物です。
 じゃあ事例2は結局どうなるの?
 はい。引っ張ってスイマセン(笑)。事例2で適用される民法の条文はこちらになります。

(債務者の危険負担等)
民法536条
前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。

 ちなみに、私はこうやって説明の際に適用する民法の条文を取り上げますが、条文はあくまで参考として捉えておいて頂ければと思います。大事なのは、結論とそれにいたる論理、法律構成と民法の考え方です。もちろん、その大元となるものは民法の条文ですが、条文そのものにはあまり深入りしない方が、むしろ民法の学習は進めやすいと私は考えます。条文はある程度、民法が理解できてからの方がイイです。これは私自身の経験上の考えです。ですので、重要なポイントだけ押さえていきます。
 条文の「当事者双方の責めに帰することができない」というのは、事例2に当てはめると「AとB双方に過失がない」ということです。そして、最後の部分の「債務者は、反対給付を受ける権利を有しない」というのは、「債務者のAはお金をもらう権利を有しない」ということです。反対給付というのは、「Aが出演すること」に対するBからの給付、つまり「Aの出演料の給付」のことです。なので「Aはお金をもらう権利を有しない」となるのです。
 という訳で、もう結論は出ましたね。
 事例2でAは出演料はもらえるのか?
 結論。AはBから出演料はもらえません。
 これは、民法云々以前に、我々の一般的な常識から考えても、当たり前の結論ですよね。いくらAがス-パーギタリストといえど当然の結果でしょう。もし、Aがこの結果に不服があるなら、出演前の交渉の段階でしっかりと細かい条件等の事項を詰めておかなければならなかった、というハナシです。
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危険負担 特定物(不動産)の場合

 今回は本格的に危険負担の話に入って参ります。まず、事例を確認します。

事例
売主Aと買主BはA所有の甲建物の売買契約を締結した。しかし、その引渡し前に甲建物は地震によって倒壊した。


 危険負担の話になる場合とは、AB間の売買契約成立後売主Aに過失がなく甲建物が全壊または一部が壊れた場合です。事例1はそのケースを想定しています。では本題に入って参りましょう。
 このときに、売主Aは売買代金をもらえるのでしょうか?

売主は債務者、買主は債権者

 まず、危険負担について考えるときの基本事項なのですが、危険負担の話においては、売主債務者買主債権者となります。これは、契約の対象となっている「目的物」を基準に考えるからです。事例に当てはめると、甲建物を基準に考えて、売主のA債務者買主のB債権者となります。この危険負担の基本は、最初は感覚的に馴染まないと思います。ですが、まずはこれを押さえて下さい。
 繰り返します。危険負担に関しては「金」ではなく「目的物」を中心に考える、したがって、目的物の引渡し義務のある売主が債務者、目的物をよこせと請求する権利がある買主が債権者、となります。

売主、買主ともに過失がない

 これが一番の問題点であり、危険負担の本質です。事例で考えると、売主Aも買主Bも過失がなく、ましてや地震は天災です。では甲建物の倒壊の負担は誰が負うのか?まずは売主Aと買主B、互いの言い分を聞いてみましょう。
売主Aの言い分
「甲建物が倒壊したのはアタイのせいじゃない!だからBは約束の金を払いな!」
買主Bの言い分
「甲建物が倒壊したのはオイラのせいじゃねぇ!金だけ取られてたまるかってんだ!」
 このようになります。若干のキャラ設定は気にしないで下さいね(笑)。どちらの言い分も間違ってはいません。どちらも悪くありません。しかし!誰も悪くないけど誰かが負担しなければならない、それが危険負担なんです。つまり、売主Aか買主B、そのどちらかが甲建物の倒壊という危険負担しなければならない、だから危険負担なんです。

債務者主義と債権者主義

 危険負担の問題に関しましては、債務者主義という考え方と、債権者主義という考え方があります。
債務者主義とは
 売主はお金をもらえない、つまり売主が危険を負担すべきという考え
債権者主義とは
 買主はお金を払うべき、つまり買主が危険を負担すべきという考え

 では、民法の条文はどうなっているのでしょうか?

(債権者の危険負担)
民法534条
特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。

 条文の「債務者の責めに帰することができない」というのは「売主に過失がない」という意味です。最後の「債権者の負担に帰する」というのは「買主が負担する」という意味です。そして、不動産は全て特定物です。以上の事から、不動産という特定物における危険負担は、債権者主義というのがわかります。
 さあ、答えはもう出ましたね。
 結論。売主Aは甲建物の売買代金をもらえます。買主Bは甲建物の売買代金を払わなければなりません。

補足
 特定物の危険負担は債権者主義なので、不動産の危険という負担は買主が負う、とご説明いたしました。でもこれだと、怖くて家なんて買えないと思いません?そこで、現実の不動産売買の実務においては、特約で債権者主義を排除するのが普通です。ですので、今回ご説明して参りました内容は、あくまで民法の原則ということで頭に入れて下さい。尚、宅建等の試験では、この原則だけでも十分対応できると思いますのでご安心下さい。
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危険負担の超基本

事例
売主Aと買主BはA所有の甲建物の売買契約を締結した。しかし、その引渡し前に甲建物は地震によって倒壊した。


 この事例で、AはBから売買代金をもらえるでしょうか?いやいやそれはムリっしょ?という声が聞こえてきそうですが、この問題が、民法上の危険負担というものの話になります。
 尚、不動産は全て特定物です。全く同じ物は世の中に他に存在しません。ここはまず前提として押さえておいて下さい。
 それでは、危険負担について、いくつかのケースに分けて見ていきましょう。

1 AB間の売買契約の前日に甲建物が倒壊していた場合
 この場合は、どんな理由であろうともその契約は無効です。なぜなら、甲建物が売買契約前にすでに倒壊しているということは、すでに売買不能の物を契約したということになります。売買不能の物の売買契約は不可能なので、そのような契約は法律上、当然に無効になります。無効ということは契約そのものが成立しませんので、売買代金もクソもないということです。よって、AはBから売買代金はもらえません。

2 AB間の売買契約当初から甲建物に欠陥があった場合
 これは、売主Aの瑕疵担保責任の話になります。瑕疵担保責任は無過失責任です。売主Aは過失がなくとも負わなければならない責任です。この場合、契約は一旦有効に成立しているので、Aは売買代金はもらえます。しかし、買主Bは売主Aに対し瑕疵担保責任による損害の賠償の請求(信頼利益※に限る)、場合によっては契約の解除も可能になります(瑕疵担保責任について詳しくはこちらの記事をご参照下さい)。

3 売主Aに過失があって甲建物が全壊(滅失)あるいは損傷(一部が壊れる)した場合
 この場合は、売主Aの債務不履行の問題です。ですので、この場合も契約は一旦有効に成立しているので、Aは売買代金をもらえますが、買主Bは売主Aに対し債務不履行による損害賠償の請求(履行利益※も含む)、場合によっては契約の解除が可能になります。
※信頼利益と履行利益についてはこちらの記事をご参照下さい。
 尚、2と3で契約が解除された場合、結局、Aは受け取った売買代金をBに返還しなければなりません(原状回復義務)。

 さて、ここまで3つのケースを見てきました。しかし、これらは危険負担の話ではありません。それでは、危険負担の話になる場合とはどんなときでしょうか?
 危険負担の話となるのは、次のようなケースです。

契約成立後、売主に過失なく建物が滅失または損傷した
 事例に当てはめるとこうです。
AB間の売買契約成立後、売主Aに過失がなく甲建物が全壊または一部が壊れた

 このようなケースが危険負担の話となります。そう、つまり冒頭の事例がまさににこのケースなのです。
 回りくどくね?
 はい。スイマセン(笑)。しかし、わざわざ遠回りして別のケースをご説明してきたのには、理由がございます。私の経験上、危険負担については、かなりじっくりやらないと頭が混乱してしまうと考えます。ですので、回りくどいかもしれませんが、危険負担の話に入る前の前提として、確認しておくべきことを記した次第なのです。
 という訳で次回、本格的にご説明して参ります。引っ張るような形になってしまいましたが、まずは危険負担を理解するための前提として、今回の内容を頭に入れておいて下さい。
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瑕疵担保責任 信頼利益と履行利益

事例
AはBから中古の自動車を購入した。しかし、購入後すぐに自動車のエンジンが故障した。整備工場で調べるとエンジンにはAB間の売買以前からの欠陥があり、その欠陥が原因となってエンジンが故障したことが判明した。さらにAはこの自動車を事業用に購入していて、この故障が原因で事業上の損害も発生した


 AはBの瑕疵担保責任により、自動車の修理代金の請求ができます(詳しくは前回の記事へ)。では、自動車の故障によって生じた事業上の損害の賠償請求はできるでしょうか?
 結論。Aは事業上の損害の賠償請求はできません。その理屈を今からご説明いたします。

 Bには過失がありません。しかし、瑕疵担保責任は無過失責任です。瑕疵担保責任は、過失がなくても負わなければなりません。これは法律で定められた責任、法定責任です。ですので、たとえ過失のないBでも問答無用で負わされる責任です。したがって、AはBの瑕疵担保責任により損害、つまり自動車の修理代金の請求ができるのです。ここまでが前回ご説明申し上げた内容ですが、ではなぜ、AはBに事業上の損害の賠償請求はできないのでしょうか?

信頼利益と履行利益

 一般に、損害賠償の範囲の考え方については、次のようなことが言われています。
・信頼利益
 有効でない契約が有効に成立したと誤信したため生じた損害、これを信頼利益という。(例)契約のために目的地に行くためにかかった交通費
・履行利益
 契約が完全に履行された場合に債権者が受ける利益、これを履行利益という。(例)商品の転売の利益

 この説明だけでは、今ひとつピンと来ないかもしれません。事例に当てはめると、中古の自動車の修理代金信頼利益事業上の損害履行利益になります。信頼利益と履行利益については、これから民法の解説を進めていく中で様々な事例とともに登場しますので、その中で掴んでいって頂ければと存じます。
 話を戻しますと、瑕疵担保責任における損害賠償の範囲信頼利益に限ります。この考えを法定責任説といいます。別の見解の学説もありますが、法定責任説は裁判所の見解とも一致しますので、この考え方を頭に入れておいて頂ければと思います。
 まあでも普通に考えて、無過失責任である瑕疵担保責任において、損害賠償の範囲を履行利益まで認めてしまうと、それこそ売主は、中古品の売買なんて怖くてできなくなっちゃいますよね。かといって、過失さえなければ売主は何の責任も負わないとなると、今度は買主が不利になる。そこで、バランスを取って「瑕疵担保責任における損害賠償の範囲は信頼利益に限る」という結論は、妥当かなと思います。

Aは契約の解除はできる?

 買主Aは善意で、かつ隠れた瑕疵(整備工場でやっとみつかった中古自動車の欠陥)のために契約の目的を達することができないとき、契約の解除ができます。この解除権の行使期間は、修理代金の請求と同様、買主Aが欠陥の事実を知った時から1年以内です。

補足
 今回の事例とは直接関係ありませんが、債務不履行による損害賠償の請求の範囲は履行利益まで含みます。債務不履行の場合は、そもそも債務者に過失がありますから、無過失責任である瑕疵担保責任よりも、その責任は当然重くなります。
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瑕疵担保責任の超基本 修理の請求は×で修理代金の請求は〇?

 今回は瑕疵担保責任についてご説明いたします。読み方は「かしたんぽせきにん」です。瑕疵とは、キズとか欠陥という意味なのですが、瑕疵という字が一般的に馴染みがないのでとっつきづらく感じるかと思います。しかし、契約というものにおいて非常に重要な規定ですので、是非頭に入れておいて頂きたいと存じます。
 それではまずはこちらの事例をご覧下さい。

事例
AはBから中古の自動車を購入した。しかし、購入後すぐに自動車のエンジンが故障した。整備工場で調べるとエンジンにはAB間の売買以前からの欠陥があり、その欠陥が原因となってエンジンが故障したことが判明した。さらにAはこの自動車を事業用に購入していて、この故障が原因で事業上の損害も発生した


 この事例で、Aは何ができるのか?という問題に入る前に、この事例にはいくつかのポイントがありますので、まずはそこを確認しておきます。
ポイント1
 Aが購入した自動車は中古の自動車。これは特定物(新車は不特定物。特定物・不特定物に関してはこちらの記事へ)。つまり、全く同じ物が他に存在しない。
ポイント2
 エンジンにはAB間の売買以前から欠陥がある。つまり、AB間の売買契約前の欠陥ということ(欠陥発生が契約前か後かで法律構成が全く変わってくる)。
ポイント3
 欠陥は相当がっちり調べてみないとわからないような欠陥なので、売主Bには過失がないと思われる。

 上記3つのポイントをまずは押さえて下さい。その上で、こちらの条文をご覧ください。

(特定物の現状による引渡し)
民法483条
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。
 
 先ほどの3つのポイントを踏まえた上で、上記の条文からわかることは、事例は売主Bの債務不履行の問題ではないということです。どういうことかと申しますと、中古の自動車は特定物なので、民法483条の規定により、引渡し時の現状で引き渡せばいいのです。つまり、引渡し時に欠陥があるなら、それをそのまま引き渡せば債務を履行したことになるのです。よって売主Bは、引渡し時にすでに欠陥のある中古自動車(特定物)をそのままAに引き渡しても債務の履行を果たしたことになり、Bの債務不履行の問題にはなりません。
 じゃあ一体何の問題になるの?
 はい。ここまで引っ張りましたが、これが今回のテーマ「瑕疵担保責任」の問題になるのです。という事で、ここからいよいよ本題に入って参ります。

AはBに自動車の修理を請求できる?
 Bには過失がありません。Bは特定物(中古の自動車)の引渡しを債務の本旨(民法の規定通り)に従い債務を履行しました。よって、Bには自動車を修理する責任・義務はありません。従いまして、AはBに自動車の修理の請求はできません。

じゃあAはBに自動車の修理代金を請求できる?
 請求できます。なぜなら、瑕疵担保責任とは無過失責任だからです。つまり、過失のないBも負わなければならない責任です。修理代金は瑕疵による損害と考えられ、AはBに修理代金(損害)を請求できるのです。前述の内容とこんがらがってしまいそうですが、考え方はこうです。
「売主は契約前から存在する特定物の瑕疵そのものを修理する必要はない。なぜなら特定物引渡しの時の現状で引き渡せばいいから。しかし、瑕疵による損害無過失責任として負わなければならない。したがって、買主は特定物の修理の請求はできないが、瑕疵による損害、つまり修理代金は請求できる
 このようなロジックになりますので、この理論構成を頭に入れておいて下さい。

じゃあ上記のAの権利の行使期間は?
 欠陥の事実を知ってから1年以内です。

 さて、ここまでで、Aは欠陥の事実を知ってから1年以内であれば自動車の修理代金の請求ならできることがわかりました。では、事業上の損害についても請求できるのでしょうか?そして、場合によっては解除もできるのか?次回、その問題についてご説明して参ります。
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売主の担保責任まとめ

 ここで一度、売主の担保責任について整理しておきます。売主の担保責任については、初めて学習される方は頭がごちゃごちゃになると思います。私もそうでした。ですので、要件と結論の部分だけまとめておきます。

全部他人物売買契約

買主が善意のとき
契約の解除◯
損害賠償の請求◯
権利行使期間→規定なし
買主が悪意のとき
契約の解除◯
損害賠償の請求×
権利行使期間→規定なし
売主に過失があるときのみ損害賠償の請求◯
売主からの解除
売主が善意のときのみ◯
買主が善意のときは買主に損害を賠償した上で

一部他人物売買

買主が善意のとき
売主持分だけではこれを買い受けなかったとき契約の解除〇
損害が発生していれば損害賠償の請求〇
代金減額請求〇
権利行使期間→事実を知った時から1年以内
買主が悪意のとき
契約の解除×
損害賠償の請求×
代金減額請求〇
権利行使期間→契約の時から1年以内

数量指示売買(数量不足、物の一部滅失)

買主が善意のとき
残存する部分のみであればこれを買い受けなかったとき契約の解除〇
損害が発生していれば損害賠償の請求〇
代金減額請求○
権利行使期間→事実を知った時から1年以内
買主が悪意のとき
規定なし

 このようになります。最初は頭がごちゃごちゃになると思いますが、前回までご説明致しました内容と併せまして確認して頂ければと存じます。
売主の担保責任 全部他人物売買
売主の担保責任 一部他人物売買
売主の担保責任 数量指示売買(数量不足)
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売主の担保責任 数量指示売買(数量不足)

事例
売主Aは甲土地を買主Bに売却した。売買代金は登記簿上の地積に坪単価を掛けて算出した。しかし、甲土地を実測すると登記簿上の地積には足りなかった。


 これはどういう事例かというと、こういうことです。
「Aが売った土地の面積が、Bが買ってから実際測ってみたら、登記簿に記されていた面積よりも少なかった」
 登記簿には面積が記されています。しかし、実測してみると(実際測ってみると)登記簿と違うことがあります。まさに、この事例ではそれが起こったという訳です。
 さて、この事例で、買主Bは何ができるでしょうか?

買主Bが善意の場合
 善意の買主Bは、「残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったとき」、つまり、登記簿上よりも少ない実測した実際の甲土地の部分のみでは買主Bは買い受けなかったであろうときは、契約の解除ができます。加えて、損害が発生していれば損害賠償の請求も可能です。また、代金減額請求は当然に可能です。
買主Bが悪意の場合
 民法は、目的物の数量が不足しているのを知りながら契約をするのは通常ありえないと考えます。ですので、その場合の条文は存在しません。そんな条文まで作っていたらキリがなくなってしまいますからね。したがって、この場合は何もできないと思っておいて結構です(現実には個別具体的な判断になると思います)。

 という訳で、買主Bは善意の場合に限り、上記のような権利を行使できます。ただし!その権利の行使には期間の制限があります。事実を知ってから1年です。あんまり時間が経ってから「数量が足りない!」だなんて揉められても、事実関係が不明瞭になりがちですし、裁判所も困ります。よって、事実を知ってから1年という期間制限を設けています。
 以上、まとめるとこうなります。
「買主Bは善意の場合に限り残存する部分のみであればこれ(甲土地)を買い受けなかったときには契約の解除ができ、損害が発生していれば損賠賠償の請求も可能。また、代金減額請求は当然にできる。ただし善意の買主Bのそれらの権利の行使は、甲土地の面積が登記簿上より実際は足りなかった、という事実を知ってから1年以内に行わなければならない」

 ところで、今回の事例でご説明した内容は「売買の目的物の数量が不足していたとき」の話です。ではこれが「売買の目的物の数量が多すぎたとき」にはどうでしょう?このときに、売主からの代金減額請求は可能でしょうか?
 結論。売主からの代金減額請求はできません。これは、判例でそのように結論づけられています。売主がおっちょこちょいだった、で終わってしまうということです。

補足

 今回ご説明してきた内容は、民法の条文上では565条の規定になります。そして、民法565条の規定というのは特定物売買に関する規定です。
 特定物って?
 特定物とは「この世の中に全く同じ物が他に存在しない物」です。例えば、中古品は全て特定物になります。服であれば古着は全て特定物です。なぜなら、必ず品ごとに状態が違いますよね。ですので、法律上は全く同じ物の代わりはないと考えます。反対に、新品の服は不特定物となります。服屋が新品の服を5着発注して1着足りなくても、同じ服を1着納入すれば済む話です。しかし古着では、同じ服はあっても、全く同じ状態の服は存在しません。ちなみに、オーダーメイドの服であれば特定物になります。ただ、これはあくまで法律上の規定の話ですので、あまり深く考えず「法律上ではそうなっているんだ」と素直に受け止めて下さい。
 そして不動産は、土地だろうと建物が新築だろうが中古物件だろうが全て特定物です。窓から見える景色が微妙に違う、陽の当たり方が微妙に違う、それだけで特定物なのです。
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サイト運営者

根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
根本総合行政書士です。
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保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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