2018/04/30
分割債権(債務)と不可分債権(債務)
債権とは、特定の者が特定の者に対して一定の行為を請求することを内容とする権利です。例えば、Bにお金を貸したAが、Bに対して「金返せ」と請求する権利が、まさしく債権になります。ところで、債権関係は「特定の者・対・特定の者」ですが、必ずしも1対1の関係に限ったものではありません。1個の債権に複数の債権者または債務者が存在するケースもあります。そのようなケースを、多数当事者の債権(債務)関係といいます。
というわけで今回は、その多数当事者の債権(債務)関係の中の、分割債権(債務)について、ご説明して参りたいと思います。
分割債権と不可分債権
まず、債権(債務)には、分割できるものと分割できないものがあります。
分割できる債権の代表は、お金を請求する金銭債権です。例えば、100万円を50万・50万、90万円を30万・30万・30万というように、お金は当然に割ることができますよね。
一方、分割できない債権としては「そのピアノをよこせ」のような、物の引渡しを請求する債権があります。これは割ることができません。じゃあ僕は白鍵だけ、君は黒鍵だけ、なんてできませんよね。ピアノがバラバラになって使い物にならなくなってしまいます。
ここでひとつ注意点!
先ほど、金銭債権は分割できると申しましたが、実は、お金を請求する債権でも、建物などの賃料債権については、分割できないとされています。例えば、大家Aが死亡して、相続人がBCDの3人だったとします。すると、大家Aが賃借人に対して持つ「家賃払え」という賃料債権を、3人の相続人BCDが相続しますが、この賃料債権を3分割することはできません。つまり、家賃が9万円であれば、BCDの3人がそれぞれ3万円ずつ賃借人に請求する、ということができないのです。ですのでこのような場合は、BCDの3人の誰か1人が代表して9万円の家賃を請求して、受け取った9万円の家賃を3人で分け合う、などの形になります。
なんかややこしくね?
そんなこともありません。だって賃借人の立場に立ってみれば、3人の大家から別々に3万円ずつ請求される方がややこしいですよね。
でもなんで賃料債権はお金を請求する債権なのに分割できないの?
それは、賃料債権に対する建物の賃貸債務が分割できないからです。賃貸人(大家)は、賃借人に対して賃料債権を持つのと同時に、賃借人に対して目的物(建物)を使用収益させる(貸して使わせてあげる)義務があります。その義務というのが、賃貸人の目的物の賃貸債務です。そしてその賃貸債務は分割できないのです。なぜなら、例えば、Aさんにはリビングだけ賃貸して、Bさんにはバスルームだけ賃貸して、Cさんにはキッチンだけ賃貸して...なんてできないですよね?したがって、賃料債権は分割できないのです。
尚、賃料債権のような分割できない債権を、不可分債権といいます。また、賃料債権が分割できないので、当然に賃料債務も分割できません。分割できない債務は、不可分債務といいます(賃借人が死亡して、その相続前に未払い賃料が発生していた場合は、その未払い賃料に関しては可分債務となる。詳しくは相続分野にて改めて解説します)。
分割債権(債務)の具体例
それではここから、どのようなケースが分割債権(債務)になるのか、その具体例を見ていきます。
事例1
AはBに150万円を貸し付けている。そしてAは死亡した。尚、Aには相続人がC・D・Eの3人おり、Aの貸金債権を3人は法定相続した。
この事例で、C・D・Eの3人は、AのBに対する150万円の貸金債権を相続しました。このとき、3人の間で特に取り決めをしなければ、150万円の貸金債権は等しい割合で3分割されます(法定相続)。つまり、C・D・Eの3人は、それぞれBに対する50万円の貸金債権を持つことになります。この場合の3分割された債権こそ、まさしく分割債権です。
事例2
BはAから150万円を借金している。そしてBは、150万円の借金を残したまま死亡した。Bには相続人がC・D・Eの3人おり、Aの借金150万円を3人は法定相続した。
この事例で、C・D・Eの3人は、Aの借金150万円を相続しました。このとき、3人の間で特に取り決めをしなければ、150万円の借金は等しい割合で3分割されます。つまり、C・D・Eの3人は、それぞれ50万円の借金を背負うことになります。これが分割債務です。
以上が分割債権・債務です。最後に念のため申し上げておきますが、債権者が複数になるのが分割債権、債務者が複数になるのが分割債務です。ご注意下さい。
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