抵当権の基本~被担保債権と付従性の緩和とは/登記にも勝る強力な随伴性とは

▼この記事でわかること
抵当権の超基本
被担保債権とは
抵当権の付従性の緩和とは
抵当権の随伴性とは
登記に勝る強力な随伴性
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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抵当権の基本とその性質

 抵当権とは、担保物権の一種で、目的物である不動産の引渡しを受けずに優先弁済権を確保する約定担保物権です(約定担保物権とは契約等で設定する担保物権のこと)。
 これだとカタすぎてわかりづらいですよね。もう少しわかりやすく言うとこうなります。
 抵当権とは、金融機関などが融資(お金を貸すこと)を行う際、その融資したお金が回収できない場合の担保(要するにリスクの担保)として不動産を確保して、実際にお金が回収できないような事態になったときは、強制的にその不動産を競売に出して(売っぱらって)、他の債権者に優先して(優先的に)その売却金からお金を回収できる権利です。
 つまり、その権利(抵当権)を、お金を貸す側(金融機関など)とお金を借りる側が契約等で約束(約定)して設定する、ということです。
 そして、お金を貸した側が抵当権者、お金を借りた側が抵当権設定者となります。

  抵当権者       抵当権設定者
     ↓    融資       ↓
金を貸す側  →  金を借りる側
  (銀行等)       (個人・法人等)

(抵当権の内容)
民法369条  
1項 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2項 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。


 条文だと表現が硬いので理解しづらいですが、抵当権のポイントは「占有を移転しないで」と「他の債権者に先立って」です。
 この2点が債権者にとって非常に都合が良く、現実の金融の世界でもっとも頻繁に利用される担保物権が抵当権である理由です(この点についてはこちらの記事でわかりやすく解説していますのでご参照ください)。
 また、抵当権は目的物の占有を伴わないので、登記という形でその権利を公示することになります。
 これはどういう意味なのか具体的に説明するとこうです。
 例えば、Bさんに融資したA金融機関がB所有の不動産に抵当権を設定します。するとA金融機関は抵当権者になります。
 しかし、抵当権者であるA金融機関は、B所有の不動産を担保として確保していますが、B所有の不動産を実際に占有して利用するのはBさんです。
 じゃあ「B所有の不動産に抵当権が付いていて、その抵当権者はA金融機関だ」ということをどうやって証明するのか?というと、それが抵当権の登記になります。
 したがって、抵当権は登記という形でその権利の有無を公示(公に証明)しているのです。
 また、抵当権が登記という形でその権利の有無を公示(公に証明)しているということは、登記(または登録)という形で公示している物でないと抵当権は設定できないということです。
 原則として、抵当権は不動産に対して設定するものです。民法上「動産」「債権」に設定することはできません。
 この点はご注意ください。
家くん
 なお、民法369条2項にあるように、地上権・永小作権に抵当権を設定することはできます。しかし、賃借権には抵当権を設定することはできません。なぜなら、地上権・永小作権は物権ですが、賃借権は債権だからです。

被担保債権

 抵当権は、被担保債権を担保するための物権です。
 被担保債権とは、先述の金融機関の例で言うと、A金融機関が融資した相手方Bに対する「貸した金返せ」という貸金債権のことです。
 つまり、その抵当権(担保物権)を設定する原因となっている債権のことです。

 抵当権者       抵当権設定者
    ↓      融資     ↓
A金融機関    →       B
  (貸す側)          (借りる側)
     被担保債権

 また「抵当権(担保物権)を設定する原因となっている債権」が被担保債権ということは、抵当権は被担保債権の存在を前提としているということになります。これを付従性と言います。

付従性の緩和

 抵当権は被担保債権の存在が前提です(付従性)。
 したがって、被担保債権が現に存在して初めて抵当権は成り立ちます。
 しかし、抵当権は契約等で設定する(約定)担保物権ということもあり、実務上の要請から、抵当権成立時の付従性はかなり緩和されています。
 付従性がかなり緩和されているということは、抵当権成立時には現に被担保債権が存在していなくとも抵当権を設定できるということです。
 具体例を挙げると、次のような債権を被担保債権として、抵当権を設定することができます。

・物の引渡し請求権のような非金銭債権(「金払え」じゃない債権)
・将来発生する金銭債権(未来の「金払え」)

 上記2つのうち、重要なのは「将来発生する金銭債権」です。
 これには次のようなものがあります。

【金銭消費貸借予約上の債権】

 まさに先述の金融機関の例がこれです。
 A金融機関がB所有の不動産に抵当権を設定する時、まだ実際の融資は行われていません。抵当権の設定をしてから実際の融資が行われます。
 これは付従性が緩和されているからこそできることなのです。

【保証人の求償債権】

 これは、保証人が保証債務を履行した場合の、主債務者への求償債権のことです。
 つまり、将来、保証人が保証債務を履行した場合の主債務者への求償債権に抵当権を設定できるということです。

【賃貸借契約による保証金の返還請求権】

 これは、賃借人が入居時に差し入れた保証金についての、賃借人(借主)の賃貸人(貸主・オーナー)に対する「将来の退去時の(保証金)返還請求権」に抵当権を設定できるということです。

補足
 付従性の緩和は、約定担保物権(抵当権と質権)に特有の話です。
 法定担保物権には、付従性の緩和というものはありません。
 法定担保物権とは、その担保物権の発生原因が法律によって定められていて、その原因が発生すると法律の定めによって自動的に成立する担保物権です。
 法定担保物権には留置権先取特権があります。留置権や先取特権につきましては、また別途改めて解説します。

抵当権の随伴性
くっつくハリネズミ
 被担保債権(その抵当権を設定する原因となっている債権)を担保するための抵当権は、被担保債権の存在を前提に成り立っています。これは抵当権の付従性という性質によるものです。
 そして、抵当権には付従性とともに、随伴性という性質もあります。
 まずは事例をご覧ください。

事例1
AはBに500万円を融資し、その債権を担保するためにB所有の不動産に抵当権を設定した。その後、AはCにその500万円の貸金債権(被担保債権)を譲渡した。


 まず、この事例1の状況を確認します。
 AはBに500万円を貸し付けました。そして、AはBに対する「500万円返せ」という債権を担保するために、B所有の不動産に抵当権を設定しました。このときの、AのBに対する「500万円返せ」という債権が被担保債権になります。
 そして、AはBに対する「500万円返せ」という債権、すなわち被担保債権をCに譲渡しました(債権譲渡)。
 これが事例1の状況です。さて、ここからが本題です。
 この事例1で、AがCに被担保債権を譲渡したことにより、B所有の不動産に設定した抵当権の行方はどうなるのでしょうか?
 結論。抵当権は被担保債権に伴ってCに移転します。
 したがいまして、B所有の不動産の抵当権者はCになります(Bは抵当権設定者)。

[被担保債権譲渡前]

    債権者
   (抵当権者)
     A
抵当権⇨↙︎ ↘︎⇦被担保債権
 B所有   B
 不動産  債務者
     (抵当権設定者)

被担保債権譲渡後

    債権者
   (抵当権者)
     
抵当権⇨↙︎ ↘︎⇦被担保債権
 B所有   B
 不動産  債務者
     (抵当権設定者)

 抵当権は、被担保債権が移転すると、それに伴って移転します。
 つまり、抵当権は被担保債権にくっ付いていくということです。これが随伴性です。
 これは、言ってみればコナミのシューティングゲーム『グラディウス』の「オプション」みたいな感じですかね(笑)。つまり、ビックバイパーが被担保債権、オプションが抵当権で、ビックバイパー(被担保債権)にくっ付いていくオプション(抵当権)には随伴性がある、みたいな。
 グラディウスを知らない方は訳わからないですよね(笑)。失礼しました。 

登記に勝る強力な随伴性

 抵当権の随伴性という性質は、グラディウスよりもっと分かりやすく言えば「被担保債権という王様に家来の抵当権がくっ付いていく」ようなものです。
 そして、この抵当権の随伴性は、非常に強力な性質となっています。どういうことかと言いますと、なんと!随伴性が登記に勝るのです。
素材108驚き
 抵当権は不動産と同じように、登記というルールでその権利の有無を公示・証明し、対抗力を備えます。つまり、抵当権も登記をすることにより法律で保護されるということです。
 登記の力は強力です。それは不動産の二重譲渡の問題などを見れば一目瞭然です(これについて詳しくはこちらをご覧ください)。
 ところが、抵当権の場合、抵当権の登記よりも、抵当権の随伴性が勝ってしまう!のです。
 それでは、ここからは抵当権の随伴性について、事例と共に解説して参ります。

事例2
AはBに500万円を融資し、その債権を担保するためにB所有の不動産に抵当権を設定し、その旨の登記をした。その後、AはCにその500万円の貸金債権(被担保債権)を譲渡し、AからCへ抵当権移転の登記をしたが、債権譲渡についての通知は行なっていなかった。それからAは、その500万円の貸金債権をDへ二重譲渡し、その債権譲渡についての通知を行なったが、抵当権移転の登記はしていなかった。


 登場人物が増えて状況が少し複雑になってきましたので、まずはこの事例2の状況を整理します。
 この事例2では、まずAがBに500万円を融資して、その貸金債権を担保するためにB所有の不動産に抵当権を設定しました。それからAは、その被担保債権をCとDの2人に二重譲渡し、Cの方は抵当権の登記はあるが確定日付のある債権譲渡の通知はなし、Dの方は抵当権はないが確定日付のある債権譲渡の通知はある、という状況です。

(500万返せ)
被担保債権
  ↓
 A➡︎B
 ↙︎ ↘︎二重譲渡
C   D

C        D
抵当権登記〇   抵当権登記✖︎
債権譲渡の通知✖︎ 債権譲渡の通知〇

 さて、ではこの事例2で、抵当権はCとD、どちらの手に渡るのでしょうか?
 結論。抵当権はDのものになります。
 登記をしてないDが勝つの?
 Dが勝ちます。なぜなら、Dの方は債権譲渡の通知が行われているからです。
 債権が二重譲渡された場合に、債権譲渡の通知がある者とない者とがいたとき、その債権は債権譲渡の通知がある者が取得します。
 したがって、事例2で、被担保債権を取得するのはDになります。
 そして、抵当権には随伴性があるので、被担保債権を取得したのがDになれば、抵当権の登記がどうなっていようが、被担保債権に伴って抵当権もDが取得します。
 このように、抵当権の随伴性は強力なものとなっています。その効果は登記にも勝ってしまいます。
 抵当権は被担保債権の家来です。抵当権にとっては被担保債権が王様であり、王様には登記も勝てないということです。

抵当権の効力の及ぶ範囲~付加一体物(付合物・従物)には?借地権には?果実には?

▼この記事でわかること
抵当権の効力の範囲とは
付加一体物とは
借地権に抵当権の効力が及ぶ理由
果実に抵当権の効力は及ぶのか
果実とは
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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抵当権の効力の及ぶ範囲

 原則として、抵当権は不動産に設定するものです。
 では、その抵当権の効力は、抵当権を設定した不動産について、どの範囲まで及ぶのでしょうか?
 というのは、抵当権は債務者(抵当権設定者)が債務不履行になったような場合に、債権者(抵当権者)が抵当権を設定した不動産を強制的に競売にかけて、その売却代金から優先的にお金を回収することができる権利です。でも例えば、その不動産が一軒家だった場合、庭石はどうなるのでしょう?抵当権が実行されると庭石も競売に出されてしまうのか?あるいは、抵当権設定後に設置されたエアコンはどうなるのでしょうか?
 つまり、抵当権の効力がどの範囲まで及ぶのかという問題は、庭石やエアコン等、どこまでの物がその抵当不動産と一緒に競売にかけられるのか?という問題と同じ意味になります。

 ということでまずは、抵当権の効力の及ぶ範囲についての民法の条文を見てみましょう。

(抵当権の効力の及ぶ範囲)
民法370条
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。


 上記の条文によれば、抵当権の効力は「不動産に付加して一体となっている物」にも及ぶとあります。
「不動産に付加して一体となっている物」は、略して付加一体物と呼びます。
 ということは、何が付加一体物なのか?がわかれば、おのずと抵当権の効力の及ぶ範囲もわかることになります。

付加一体物

 実は、何が付加一体物で何が付加一体物でないのかについて、学説上では争いが生じています。
 ですが、それをここで記しても意味がありませんので、判例上の見解にのっとった解説をして参ります。
 まず、付加一体物に該当する可能性のあるものは、次の2種類があります。

・付合物
・従物

 では、それぞれにどのような物があるのか、見て参ります。

【付合物】
門扉
 これは、元々は独立した動産だけど付合により建物と一体化し建物の構成部分になるものです。
 要するに、設置すると建物と一体化するようなタイプの物です。
例→取り外しの容易でない庭石、石灯籠、建物の内外を遮断する建具(入口用の扉、入口用のガラス、雨戸)

【従物】
襖
 これは、建物備え付きの備品のことで、備え付けられても独立した動産としての地位を失わないものです。
 要するに、設置しても建物と一体化しない物です。
例→取り外しの容易な庭石、エアコン、畳、建物の内外を遮断しない建具(ふすま等)

 さて、この時点で、抵当権の効力の及ぶ範囲がどこまでなのか、なんとなく見えてきましたよね。
 結論。付加一体物には付合物が含まれます。したがって、付合物(取り外しの容易でない庭石、石灯籠、建物の内外を遮断する建具)には抵当権の効力が及びます。
 ということは、付合物は抵当不動産と一緒に競売にかけることができるということです。ですので、容易に取り外せない庭石は、抵当不動産と一緒に競売にかけられてしまいます。
 また、従物については、抵当権設定時の従物には、抵当権の効力が及びます。
 つまり、エアコンでも抵当権設定時にすでに設置されていたものであれば抵当権の効力は及び、競売にかけられます。しかし、抵当権権を設定した後に設置されたエアコンであれば、抵当権の効力は及ばず競売にかけられません。
 なお、付合物については、付合の時期を問わず、抵当権の効力が及びます。つまり、容易に取り外せない庭石は、抵当権設定後に設置していたとしても抵当権の効力は及び、競売にかけられます。

【補足:主物】

 エアコンは従物になりますが、そのエアコンを設置する対象の建物は主物になります。
 原則として、従物は主物の処分に従います。しかし、抵当権の効力が及ぶ範囲については、その従物が抵当権の設定後に設置されたかどうかで扱いを分けているということです。この点はご注意ください。
 なお、従物には、先述に例示した物以外にも、ガソリンスタンドの存在する土地上または地下に設置されている地下タンク、ノンスペース軽量機、洗車機などの設備も従物になります(主物はガソリンスタンド用建物)。
ガソリンスタンド
 つまり、ガソリンスタンド用建物に抵当権が設定された場合、それらの設備が抵当権設定時にすでに設置されていた場合は、それらの設備にも抵当権の効力が及び、競売にかけられます。

付加一体物の例外:借地権

 付合物、そして抵当権設定時にすでに設置されていた従物には、抵当権の効力が及びます。
 では、抵当権が設定されている建物が借地上にある場合に、その抵当権が実行されると、その土地の借地権(土地の利用権)はどうなるのでしょうか?
 例えば、Aが借地上に甲建物を所有していて、甲建物に抵当権を設定していたとします。この場合に、抵当権が実行されると甲建物が競売にかけられますが、そのとき、抵当権の効力は借地権にも及ぶのでしょうか?
 結論。抵当権の効力は借地権にも及びます。なぜなら、借地権は建物に従たる権利だからです。
 これは判例により、このように結論付けられています。

借地権に抵当権の効力が及ぶ理由

「借地権が建物に従たる権利だから」と言われても、なんだかよくわからないですよね。
 実は、判例が抵当権の効力は借地権にも及ぶとしているのには、そうしないと非常に困った事態になってしまう事情があるからなのです。

事例
AはBに500万円を融資し、その債権を担保するために借地上にあるB所有の甲建物に抵当権を設定した。その後、Bが債務不履行に陥り抵当権が実行され、競売によりCが甲不動産を取得した。


 図にすると以下になります。

[抵当権実行前]

    債権者
   (抵当権者)
     A
抵当権⇨↙︎ ↘︎⇦被担保債権
 B所有   B
甲不動産  債務者
     (抵当権設定者)

抵当権実行競売後

    債権者
   (抵当権者)
     A
抵当権⇨↙︎ ↘︎⇦被担保債権(債権回収)
 C所有   B
甲不動産  債務者
     (抵当権設定者)

 この事例で、甲建物への抵当権の効力は借地権にも及ぶので、Cは甲建物の所有権だけでなく、その借地権(甲建物が建っている土地の利用権)も取得することになります。
 では、今度は仮に、この場合に、借地権に抵当権の効力が及ばないとなると、一体どうなるでしょう?
 Cは甲建物を取得しますが、借地権は持っていないことになります。するとCは、土地の利用権なく土地上に建物を所有するということになります。それはなんと!法律上、不法占拠者ということになってしまいます。
邪魔な猫
 不法占拠者になってしまうということは、地主から立退き請求を受けたら、Cはせっかく手に入れた甲建物の収去に応じなければならなくなるのです。
 これでは競売の買受人Cにとってあまりに不当ですよね。それに、このような結論になってしまうとなると、そもそも借地上の建物の競売には誰も手を出さなくなり、抵当権の意味すらなくなってしまいます。
 したがって、判例により、抵当権の効力は借地権にも及ぶとしているのです。
 ただし、判例により抵当権の効力が借地権にも及ぶとしている、といっても、借地権が地上権ではなく賃借権である場合に、その賃借権が競売により移転しても、法律上、地主にその賃借権の移転についての承諾義務が当然に生じるわけではありません。
 え?じゃあ競売で借地上の賃借権付き不動産を買い受けた人はどうすればいいの?
 ですので、その場合は、地主がその承諾をしないときは、競売の買受人は、裁判所に対し地主の承諾に代わる許可を求めることができます。
 少しややこしいですが、この理屈は覚えておいてください。

補足:付加一体物の例外その他

 抵当権の効力は付加一体物に及びます。しかし、付加一体物であっても、抵当権の効力が及ばない場合があります。
 例えば、先述の事例で、Bが金塊を持っていたとしましょう。その場合に、Aが抵当権を実行しても、金塊には抵当権の効力は及びません。※
※金塊は一般財産なので、一般債権者の対象の財産にはなっても、抵当権の対象となる財産ではない(一般財産・一般債権者について詳しくはこちらをご覧ください)。
 では、AとBが共謀して、金塊で建物に金の壁を作ったらどうなるでしょう?
 すると、金塊と建物が一体化(付合)し、抵当権の効力が及ぶ付加一体物となりますよね?
 もちろん、こんなことは許されません。もし一般債権者がいれば、明らかにその者の権利を害する行為になります。
 したがって、この場合、金の壁に抵当権の効力が及ぶことはありません。

果実に抵当権の効力は及ぶのか

 抵当権の効力は、抵当不動産の付加一体物や借地権にも及びます。
 では、果実には、抵当権の効力は及ぶのでしょうか?

果実とは
みかんの木
「物から生じる経済的収益」のことを果実と言います。
 果実には、天然果実と法定果実があります。
 天然果実とは、小麦畑の小麦、みかんの木のみかん、乳牛の牛乳、羊の羊毛、油田の石油といった類のものです。
 一方、法定果実とは、代表的なものとしては家賃や地代です。
 これで言葉の意味・イメージはわかりますよね。
 また、果実を生じるものを元物と言います。上記の例だとこうです。天然果実なら、小麦が果実で、小麦畑は元物です。法定果実なら、家賃が果実で、賃貸不動産は元物です。

【補足:天然果実の権利】
小麦畑
  天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属します。
 つまり、小麦畑の小麦は、その小麦を収取する権利のある者が取得するということです(例:小麦農家が小麦畑の小麦を取得する)。
 また、売買において、引渡し前に生じた果実売主に帰属します。つまり、小麦畑の土地売買契約が締結されてから買主に引き渡されるまでの間に取れた小麦は売主のものになる、ということです。
 なお、元物から分離する以前の果実は、元物の所有権の内容に含まれます。つまり、小麦が取れる前に小麦畑を売れば、その小麦も畑と一緒に売ったと考えられます。

果実についての抵当権の効力

 さて、話を戻しまして、改めて問いかけます。
 抵当権の効力は、法定果実や天然果実にも及ぶのでしょうか?
 結論。原則、抵当権の効力は果実には及びません。なぜなら、抵当権は目的物を使用収益する権利ではないからです。
 果実は目的物の使用収益から生まれます。また、抵当権者(債権者)としても、抵当権設定者(債務者)に使用収益してもらって、そこから得た利益で債務を弁済してほしいわけです。
 例えば、小麦畑に抵当権を設定した場合、抵当権者は、抵当権設定者には小麦畑の収穫の利益から債務を弁済してもらった方が都合良いわけですよね?というか、それがそもそもの抵当権のあり方なのです。
 したがいまして、抵当権の効力は果実には及ばないのです。
 ただし、抵当権の被担保債権に債務不履行があった場合は話が変わってきます。
 その場合、債務不履行後に生じた果実については、抵当権の効力は及びます。つまり、小麦畑に抵当権が設定されていて、その被担保債権に債務不履行が生じると、債務不履行後に収穫した小麦の売却益について、抵当権の効力が及ぶということです。
 以上のことから、まとめるこうなります。

「抵当権の効力は、債務不履行前の果実には及ばないが、債務不履行後の果実には及ぶ」

 このようになります。
 あれ、小麦畑は天然果実の話だよね。そういえば、法定果実の方はどうなの?
 もちろん、法定果実についても、債務不履行前だと抵当権の効力は及ばず、債務不履行後であれば抵当権の効力は及びます。
 なお、法定果実(家賃)と物上代位の問題については、詳しくはこちらで解説していますので、よろしければ併せてご覧ください。

抵当権の効力と物上代位の基本&要件/法定果実(家賃)や転貸賃料債権へ物上代位できるのか

▼この記事でわかること
法定果実と物上代位(家賃)
物上代位により債権の回収をなし崩し的に実現?
物上代位の要件~「払渡し又は引渡し前の差押え」そして抵当権者自身による差押えが必要な理由
転貸賃料債権への物上代位
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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法定果実と物上代位

 抵当権の効力は、債務不履行前の果実には及ばず、債務不履行後の果実には及びます。(果実について詳しくはこちらをご覧ください)。
 いきなり果実がどうと言われてもピンと来ないと思いますが「物から生じる経済的収益」のことを果実と言います。
 そして、家賃や地代は法定果実になります。
 それが抵当権の効力に何の関係があるんだ! 
 はい。つまり、抵当不動産の法定果実(家賃)にも抵当権の効力は及ぶのか?ということです。
 まずは事例をご覧ください。 

事例1
BはA金融機関から500万円の融資を受け、自己所有の甲不動産に抵当権を設定した。その後、Bは債務不履行に陥った。なお、Bは甲不動産を家賃10万円でCに賃貸している。

 さて、この場合に、Aが抵当権を実行すると、法定果実である甲不動産の家賃にも抵当権の効力が及びます。なぜなら、Bが債務不履行に陥っているからです。

      抵当権の効力及ぶ
    (債務不履行)
  融資      賃料債権
A  →  B  →  C
      甲不動産  →    賃借
          賃貸

 ところで、家賃に抵当権が及ぶとなると、それで一体どうなるのでしょうか?
 まず、ここで一度、そもそもの抵当権の目的について確認しましょう。
 抵当権は、被担保債権(事例1ならAのBに対する「500万返せ」)が回収できなくなった場合に、目的不動産(抵当権を設定した不動産)を競売にかけて、その売却代金から被担保債権(事例1なら500万円)を回収するのが目的です。言い方を変えると、抵当権は、目的不動産を競売で換価することが目的です。
 ということは、抵当権が把握するものは目的物の交換価値(競売で売却した場合の価格)です。
 以上のことから、家賃にも抵当権の効力が及ぶということは、目的物の交換価値以外のもの、すなわち、目的物の価値変形物(果実)に対しても抵当権を行使できるということになります。
 このように、本来の目的物以外のもの、すなわち、目的物の価値変形物に対して抵当権などを行使するようなことを物上代位と言います。別の「物」で「代位」するから「物上代位」ということですね。
 つまり「抵当権の効力が家賃にも及ぶ」ということを民法的に言えば「賃料(家賃)は目的不動産に物上代位できる」となります。

物上代位により債権の回収をなし崩し的に実現

 ここで再び事例を確認します。

事例1
BはAから500万円の融資を受け、自己所有の甲不動産に抵当権を設定した。その後、Bは債務不履行に陥った。なお、Bは甲不動産を家賃10万円でCに賃貸している。

 Aが抵当権を実行すると、通常は甲不動産を競売にかけて、その売却代金からAは500万円(被担保債権)を回収することになります。しかし、抵当権の効力は甲不動産のみならず、甲不動産の家賃10万円にも及びます。
 それでは、甲不動産を競売にかけず、10万円の家賃に物上代位するとどうなるのでしょうか?
 そうなると抵当権者Aは、BのCに対する「家賃10万円よこせ」という賃料債権をもらうことになり、AはCから月々の家賃10万円の支払いを受けることができます。そして、それを500万円の回収に充てるという訳です。
 したがって、抵当権者Aは、家賃に物上代位して50ヶ月間10万円の支払いを受け続ければ、言ってみれば、なし崩し的に500万円(被担保債権)を回収できるという訳です。
素材115なるほど
 ただ、家賃に物上代位すれば、なし崩し的に被担保債権を回収できるといっても、このやり方では時間がかかりますよね。
 ですので、抵当権者(債権者)は競売で一気に被担保債権を回収した方が手っ取り早いです。
 しかし、時間のかかるなし崩し的手段とはいえ、競売以外にも被担保債権を回収する方法があるというのは、抵当権者にとってはありがたい話です。債権を回収する手段は多ければ多いほど債権者は助かりますから。
 
物上代位の要件

 抵当権の効力は家賃にも及び、競売でなく家賃に物上代位することでも被担保債権を回収できますが、実は家賃に物上代位するためには要件があります。
 その要件を満たさなければ家賃に物上代位できません。つまり、要件を満たさないと抵当権の効力が家賃に及ばなくなってしまうのです。
 その要件とは何なのか?
 それは「払渡し又は引渡し前の差押え」です。
 さて、この物上代位の要件についてですが、これを理解するには家賃よりももっとわかりやすい例があります。それは火災保険金です。
 それでは、ここからは物上代位の典型例である火災保険金の事例をもとに、その要件および物上代位というもの自体をさらに掘り下げて参ります。

事例2
BはAから500万円の融資を受け、自己所有の甲不動産に抵当権を設定した。その後、甲不動産が火災により滅失した。


 これは、抵当権を設定している不動産が火災により滅失した、すなわち担保目的物が滅失したという事例です。
 通常、このような場合は、担保権である抵当権は消滅するはずです。なぜなら、担保権は物権です。物権は物に対する権利です。したがって、目的とする物がなくなればその物権もなくなるのが原則です。
 ですので、Aの抵当権の目的となっている甲不動産が滅失すれば、その抵当権は消滅すると考えられます。
 しかしこれが、Bが火災による「保険金請求権」を取得すると話が違ってきます。
 抵当権者Aは、このときの保険金を、甲不動産の「価値変形物」として差し押さえることができます。これが物上代位です。
 ただし、抵当権者Aが保険金を差し押さえる場合に、気をつけなければならないことがあります。それが「払渡し又は引渡し前の差押え」です。これは物上代位をするための要件です。この要件を満たさなければ物上代位はできません。
 これはどういうことかと言いますと、Bに保険金が「払い渡される」つまり、Bに保険金が支払われる前差し押さえないと、保険金に物上代位することができないということです。保険金に物上代位できなければ、抵当権者Aは、保険金から被担保債権を回収することができなくなってしまいます。

「払渡し又は引渡し前の差押え」が必要な理由

 ではなぜ、抵当権者AがBの保険金に物上代位するには、保険金がBに支払われる前に差し押さえなければならないのでしょうか?
 それは、保険金の支払いが行われてしまうと、Bの一般財産(甲不動産以外の財産)保険金が紛れ込んでしまうからです。つまり、抵当権者Aの取り分がわからなくなってしまうのです。
素材106金
 抵当権は、抵当権を設定した不動産を競売にかけて、その売却代金から他の債権者に先立って優先的に弁済を受けるものです。つまり、抵当権者は、抵当権を設定した不動産以外の財産からは優先的に弁済を受けることはできません。抵当不動産以外の財産は、一般債権者(例えばサラ金などの他の債権者)のものだからです。
 そして、物上代位の場合は、不動産の競売から得る売却代金に代えて、火災保険金などから弁済を受けます。つまり、事例2の抵当権者Aは、物上代位により保険金から債権を回収できますが、抵当権者として優先的に手を出せるのは保険金だけです。
 抵当権者Aが物上代位により優先的に保険金を差し押さえることができるのは、それが甲不動産の価値変形物※だからです。甲不動産の価値変形物以外の財産に対しては、Aの「抵当権者としての強い権利」は及ばないのです。
 したがって、Bに実際に保険金が支払われてしまうと、それがBの一般財産(甲不動産以外の財産)の中に紛れてしまい、抵当権者Aが差し押さえるべき財産がどれだかわからなくなってしまうので、抵当権者Aは、Bへ保険金が支払われる前に差し押さえなければならない、ということになる訳です。
 ん?じゃあ抵当権者Aの取り分がどれかハッキリわかればいいってことだよね?なら他の債権者が保険金を差し押さえてもいいってこと?だってそれで保険金の分がどれかはハッキリわかるわけだから
 そういう考え方もあります。そして実は、そのような考え方を特定性維持説と言います。
 しかし、判例は特定性維持説は採用していません。つまり、裁判官はそのような考え方を認めていないのです。
 判例では、抵当権者が物上代位により優先的に債権を回収するためには、抵当権者自身で差し押さえなければならないとしています。
 ではなぜ、抵当権者自身で差し押さえなければならないのか?ですが、実はその理由を考えるときに、今度は冒頭に挙げた、物上代位による賃料(家賃)の差し押さえの問題に繋がっていきます。
 
抵当権者自身による差押え

 まずはこちらの事例をご覧ください。

事例3
Bは自己所有の甲建物をCに賃貸し引き渡した。その後、BはAから500万円の融資を受け、甲建物に抵当権を設定した。その後、Bは債務不履行に陥った。そしてAは抵当権を実行した。


 さて、この事例3で、抵当権者Aは物上代位により甲不動産の家賃を差し押さえることができます。
 ただし、Aが抵当権者として、他の債権者より優先的に差し押さえた家賃から弁済を受けるためには、抵当権者A自身による差押えが必須になります。その理由は、甲不動産の賃借人Cの立場に立って考えるとよくわかります。

抵当不動産に住む賃借人
アパート
 ところで、事例3の甲不動産の賃借人Cは、甲不動産のオーナーBが差し押さえられるような状況にあることを知っているでしょうか?
 通常、オーナーのそのような状況を、賃借人は知らないと思います。というより、知らないのが普通です。それこそ、抵当権が設定されていることすら知らなかったりするでしょう。
 例えば、アパートの一室を借りて住んでいる学生が「大家が銀行からお金を借りてそのアパートに抵当権が設定されて、その後に大家が債務不履行に陥ってその抵当権が実行された」なんて状況、知らないのが普通ですよね。
 ということは、事例3で、抵当権者Aは抵当権を実行しましたが、甲不動産の賃借人Cは何も知らないまま、それまでどおりBに家賃を支払い続けるはずですよね。そうなると、抵当権者Aが物上代位により甲不動産の家賃を差し押さえた場合、抵当権者A自身が差し押さえてくれないと、Cは本当に家賃を支払うべき相手を知ることができないまま、Bに家賃を支払い続けてしまうことになるので、Cには家賃の二重払いの危険性が生じてしまいます。これはつまり、Cを保護する必要があるということです。
 したがって、抵当権者Aが物上代位により優先的に甲不動産の家賃から弁済を受けるためには、抵当権者A自身による差押えが必要なのです。抵当権者A自身が差し押さえれば、Cは誰に家賃を支払うべきかを間違えずに済み、家賃の二重払いの危険を回避することができます。
 なお、事例3の、Cのような立場にある者を第三債務者と言います。
 つまり、抵当権の物上代位の要件「抵当権者自身による差押え」とは、第三債務者の保護という理由によるものなのです。
 ちなみに、実際に抵当権者Aが物上代位により甲不動産の家賃を差し押さえると、差押命令が第三債務者Cにも送達され、それによりCは誰に家賃を支払うべきかを知ることができます。
 要するに、抵当権者Aによる差押えについてのお知らせが、裁判所から第三債務者Cにも送られるので、それによりCは事情を知って、本当に家賃を払うべき相手が誰かを知ることができるのです。
 したがいまして、第三債務者Cは、裁判所からの送達前(お知らせが届くまで)はBに家賃を支払い、送達後はAに支払えば、それでCは免責されます(法的な責任は果たしたということ)。

補足

 抵当権者がしっかり物上代位の要件を満たして差し押さえることができれば、他の債権者(一般債権者)よりも優先して、差し押さえた価値変形物から債権を回収できます。
 しかも、他の債権者の後に差し押さえたとしてもです。これは保険金の例だとわかりやすいので、次の事例でご説明いたします。

BはAから融資を受け、自己所有の甲不動産に抵当権を設定した。その後、甲不動産が火災により滅失した。 なお、サラ金業者CもBにお金を貸し付けていた。

 このケースで、サラ金業者Cが一番手で火災保険金を差し押さえたとします。しかし、抵当権者Aは物上代位の要件「払渡しまたは引渡し前の差押え」「抵当権者自身による差押え」の要件をしっかり満たすと、抵当権者Aが後から二番手でBの火災保険金を差し押さえても、抵当権者Aはその火災保険金から優先的に弁済を受けることができます。
 これは、抵当権の強さを現していると言えるでしょう。もっとも、サラ金業者Cからするとハタ迷惑な話なんですけどね。まあ、それだけ抵当権という担保物権は強力な権利ということな訳です。

転貸賃料債権への物上代位
家くん
 抵当権が設定された不動産が賃貸されていた場合、抵当権者は物上代位によりその不動産の賃料債権を差し押さえることができます。
 では、抵当権が設定された不動産が転貸(また貸し)されていた場合に、その転貸賃料債権に物上代位することはできるのでしょうか?

事例4
BはCに自己所有の甲建物を賃貸し引き渡した。そしてCはDに甲建物を転貸し引き渡した。その後、BはAから融資を受けるために甲建物に抵当権を設定し、その旨の登記をした(抵当権者はA)。その後、Bが債務不履行に陥ったので、Aは抵当権を実行した。


 この事例4では
「オーナーB→賃借人&転貸人C→転借人D」
と転貸(また貸し)されたB所有の甲建物にAの抵当権が設定され、その後に抵当権が実行されました。
 さて、ではこの場合に、抵当権者Aは、転貸人Cの転借人Dに対する「家賃払え」という賃料債権に物上代位することはできるのでしょうか?

    オーナーB
賃料債権)↓     
   賃借人&転貸人C
賃料債権ここに物上代位できるのか?
      転借人D

 まず、普通に考えると、抵当権者Aが転貸人CのDに対する賃料債権に物上代位できるわけがありません。
 なぜなら、Cは甲建物の賃借人でしかないからです。抵当権者Aから融資を受けたのは抵当権設定者であるBです。抵当権による負担抵当権設定者であるBが負うべきものです。それは、Cが転貸人としてDに甲建物を転貸していることとは全く別の問題です。
 ですので、抵当権の負担はBが負うべきで、Cが負うのはどう考えてもオカシな話なのです。
 したがいまして、抵当権者Aは、転貸人(賃借人)Cの転借人Dに対する賃料債権に物上代位することは、原則、できません。
 ただし、例外的に、抵当権者が抵当不動産の転貸人の賃料債権に物上代位できる場合があります。

事例5
BはC会社に自己所有の甲建物を賃貸し引き渡した。そしてC会社はDに甲建物を転貸し引き渡した。その後、BはAから融資を受けるために甲建物に抵当権を設定し、その旨の登記をした(抵当権者はA)。その後、Bが債務不履行に陥ったので、Aは抵当権を実行した。なお、C会社はB個人が設立し、B自身が代表取締役を務めている。


 この事例5の場合は、なんと抵当権者Aは、転貸人Cの転借人Dに対する賃料債権に物上代位することができます。
 つまり、抵当権者Aは、C会社のDに対する賃料債権を物上代位により差し押さえることができるのです。

なぜ事例5では転貸人Cの賃料債権に物上代位できるのか

 それは、事例5の場合、オーナーBと転貸人(賃借人)Cが実質同一の者と考えられるからです。

  オーナーB(C会社社長)
賃料債権)↓    ↕ 同一の者   
  賃借人&転貸人C会社
賃料債権ここに物上代位可
      転借人D

 問題はないの
 本来、抵当権者が抵当不動産の転貸人の賃料債権に物上代位することはできません。その理由はこれまでの解説のとおりです。
 しかし、事例5の場合は、Aから融資を受けた抵当権設定者B(C会社社長)と、甲建物をDにまた貸ししている転貸人C会社が、実質同一の者と考えられるので、転貸人CのDに対する賃料債権と、抵当権設定者BのCに対する賃料債権も、実質同一のものと考えることができます。
 したがいまして、事例5の場合、抵当権者Aが、甲建物の転貸人Cの転借人Dに対する賃料債権に物上代位することができても、何も問題はないのです。

賃料債権の譲渡vs物上代位~抵当権者(物上代位)が勝たないと競売の値段に影響する?

▼この記事でわかること
賃料債権の譲渡と物上代位の基本
抵当権者(物上代位)が勝つ理由
譲渡された賃料債権に物上代位できないと抵当不動産の競売の値段に影響する?
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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賃料債権の譲渡と物上代位

 賃料債権は譲渡することができます(債権譲渡)。
 さらに、将来発生する賃料債権をあらかじめ包括的に譲渡することも可能です。
 え?どゆ意味?
 こういうことです。オーナーBがCに建物を賃貸していた場合に、オーナーBが賃借人Cに対して持つ「家賃払え」という賃料債権を、Dに譲渡することができますが、さらに、BがCに対して持つ、来月以降に発生する「家賃払え」という賃料債権を、あらかじめDに譲渡することも可能、という意味です。
 ただ、ここでひとつ注意点があります。
 賃料債権の譲渡はオーナーチェンジではありません。ですので、オーナーBがDに賃料債権を譲渡しても、オーナーがBからDに移ったわけではありません。オーナーはあくまでDのままです。
 この点はご注意ください。
 賃料債権の譲渡についてはお分かりになりましたよね。それではここから、本題の賃料債権の譲渡と物上代位が絡んだ場合の問題について、解説して参ります。

事例
BはCに自己所有の甲建物を賃貸し引き渡した。その後、BはAから融資を受けるために甲建物に抵当権を設定し、その旨の登記をした(抵当権者はA、抵当権設定者はB)。その後、甲建物のオーナーであるBは、将来の賃料債権をDに譲渡し、甲建物の賃借人であるCに確定日付のある通知をした。その後、Bが債務不履行に陥ったので、Aは抵当権を実行した。


 さて、この事例で、抵当権者Aは、オーナーBからDに譲渡された賃料債権(甲建物の家賃債権)に物上代位できるのでしょうか?
 まずは一度、状況を確認します。

[賃料債権譲渡前]

  抵当権者A
抵当権⇨↓
  オーナーB→賃借人C
       ⇧
       賃料債権

[賃料債権譲渡後]

  抵当権者A
抵当権⇨↓
  オーナーB⇒D→賃借人C
   債権譲渡⤴︎ ⇧
         賃料債権
         ⬆︎    
    ここに物上代位できるか

 オーナーBは自己所有の甲建物をCに賃貸しています。
 つまり、オーナーBは賃借人Cに対して「家賃払え」という賃料債権を持っています。
 そしてBは、Aから融資を受けるために甲不動産に抵当権を設定します。
 それから、Bは賃借人Cに対する甲不動産の賃料債権をDに譲渡します。
 その後に、抵当権者Aが抵当権を実行した、というのが事例の状況になります。
 では改めて、先ほどの問いかけに戻ります。
 この事例で、抵当権者Aは、オーナーBからDに譲渡された賃料債権(甲建物の家賃)に物上代位できるのでしょうか?
 結論。抵当権者Aは、オーナーBからDに譲渡された賃料債権に物上代位することができます。
 この事例のように、抵当権者(事例のA)による物上代位と、抵当権設定者(事例のB)による抵当不動産(事例の甲建物)の賃料債権の譲渡がバッティング(競合)した場合、抵当権の登記が債権譲渡よりも先に行われていれば、抵当権者の物上代位が勝ちます。それは賃料債権が「すでに発生したもの」であっても「将来発生するもの」であっても、物上代位が勝ちます。

なぜ抵当権者が勝つのか
家くん
 ところで、抵当権者Aが、オーナーBからDに譲渡された賃料債権に物上代位できるのは、Dからすればたまったもんじゃないですよね?せっかく譲渡された賃料債権なのに、その債権でCから家賃を受け取れるのに、差し押さえられてしまう訳ですから。
 確かにDは気の毒です。しかし、仮に抵当権者AがDの賃料債権に物上代位できないとなると、様々な問題が発生します。
 まず「抵当権者として本来持つ権利への期待」を裏切ることになります。Aとすれば、万が一、Bが債務不履行に陥っても、抵当権を実行して甲建物を競売するか、いざとなったら賃料債権に物上代位して債権を回収できるからこそ、Bに融資したわけです。しかし、その物上代位できないとなると、その期待を、もっと言えば抵当権者の権利を害することになってしまいます。
 Aは物上代位できないならフツーに甲建物を競売にかければいいんじゃね?
 これがそんな単純じゃないんです。実は、抵当権者AがDに譲渡された賃料債権に物上代位できないとなると、甲建物を競売にかけてもロクな値段がつかなくなってしまうのです

なぜDに譲渡された賃料債権に物上代位できないとなると甲建物の競売の値段にも影響するのか?

 まず、今回の事例の場合で、競売により甲建物を買い受けた者は、自分自身で甲建物を使うことはできません。
 なぜなら、甲建物の賃借人Cは、引渡しという対抗要件を備えているからです(つまり甲建物の所有権を取得しても賃借人Cに対し「甲建物から出ていけ」とは言えない)。
 まあでも、店子(借家人)付きの不動産を売買することはよくあることです。深刻な問題はここからです。
 それでは仮に、新たにEが甲建物を競売により買い受けたとします。その場合に、抵当権者Aが賃料債権に物上代位できないとすると、なんと買受人Eは甲建物の家賃をもらうことができません。
 どうして?
 なぜなら、抵当権者Aが賃料債権に物上代位できないということは、Aの抵当権の実行による競売で甲建物を買い受けたEの権利より、Dの賃料債権が優先してしまうことを意味します。
 Dの賃料債権が優先してしまうということは、賃借人Cから甲建物の家賃をもらう権利があるのはDで、甲建物の買受人Eは家賃をもううことができず、結果的にEの家賃収入はゼロになってしまいます。
 ということは、抵当権者AがDに譲渡された賃料債権に物上代位できないとなると、競売にかけられたときの甲建物は、店子付き家賃収入ゼロ物件という全く価値のないものとなってしまうのです。
 そんな競売物件にロクな値段がつくわけないですよね。

 以上のことから、抵当権者Aは、債権譲渡よりも先に抵当権の登記を備えていれば、Dに譲渡された賃料債権に物上代位することができるのです。
 また、抵当権者AがDに譲渡された賃料債権に物上代位できないとなると、Bが抵当権者Aを害する意図でわざとDに賃料債権を譲渡する可能性もありますよね。それは大問題です。この点も併せて覚えておいてください。

抵当権の侵害~妨害排除請求権と損害賠償請求権/抵当不動産の賃貸と取り壊し問題

▼この記事でわかること
抵当権の侵害の基本
妨害排除請求権
抵当権侵害による損害賠償請求権
担保目的物(抵当権を設定した不動産)の賃貸
担保目的物が取り壊されたら?
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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抵当権の侵害

 抵当権が侵害されるような事態になったとき、抵当権者には何ができるのでしょうか?
 まずは事例をご覧ください。

事例1
BはAから2000万円の融資を受けるために、自己所有の山林(時価総額5000万円相当)に抵当権を設定した。その後、Bは不当にその山林を伐採した。なお、伐採した材木の価格は1000万円相当である。


 まずは事例の状況を確認します。
 抵当権は、担保目的物(抵当権を設定した不動産)の使用収益は抵当権設定者が自由に行います。つまり、事例1の抵当権設定者Bは、抵当権を設定後も山林を自身で自由に使用収益できます。
 これは、抵当権設定者だけでなく、抵当権者にもメリットがあります。抵当権者は自分で担保目的物の管理をする必要はないし、抵当権設定者が自由に担保目的物を使用収益することによって得た利益から弁済してもらえる(貸したお金を返してもらえる)わけですから。
 ところが、事例1では問題が生じています。それは、抵当権設定者Bが、自由に山林(担保目的物)を使用収益できることをイイことに「不当に」山林の伐採を行ったことです。
 抵当権設定者Bは、担保目的物の山林を自由に使用収益できます。しかし、それはあくまで通常の山林経営です。通常の山林経営で収益を上げることは何ら問題はありません。むしろ、その収益から弁済してもらえれば抵当権者Aとしても望ましいことです。
 したがって、抵当権設定者Bが通常の山林経営では行わない行為、つまり「不当に」山林を伐採したことは、問題アリなのです。そして、Bのそのような行為は、Aの抵当権を侵害する行為にあたります。
 さて、では、そのような抵当権を侵害する行為をした抵当権設定者Bに対して、抵当権者Aはどのような請求ができるのでしょうか?

妨害排除請求権
それは絶対にダメです
 抵当権者Aは、そんなBに対して「抵当権に基づく妨害排除の請求」ができます。
 その請求とは次の2つです。

・伐採した材木の搬出禁止の請求
・すでに材木が搬出されていた場合、その材木を「元の場所に戻せ」という請求

 それではひとつひとつ解説して参ります。

【伐採した材木の搬出禁止の請求】

 Bが不当に伐採した材木の価格は1000万円相当です。ですので、残った山林の価格は
5000万ー1000万=4000万円分あり、
AがBに融資した額、すなわちAのBに対する債権額2000万円を担保するにはまだ十分とも言えます。
 しかし、それでも抵当権者Aは、抵当権設定者Bに対して、伐採した材木の搬出禁止の請求ができます。
 その理由は、抵当権の不可分性です。
 抵当権の不可分性とは、担保物権を持つ者は被担保債権の全額の弁済があるまでその目的物の全部について権利を行使できる、という性質です。
 つまり、抵当権者Aは、被担保債権の額(AがBに貸した金額)は2000万円ですが、担保目的物の全体、すなわち5000万円の山林全体に対して抵当権を実行できるということです。
 ですので、5000万円の山林全体の一部である1000万円相当の材木に対しても、それが「不当な」伐採であれば「侵害があった」ということだけを理由にして、AはBに対してその妨害の排除を請求できるのです。
 したがいまして、抵当権者Aは「侵害があった」ということを理由にして、抵当権設定者Bに対して、伐採した1000万円相当の材木の搬出禁止の請求ができます。

【すでに材木が搬出されていた場合、その材木を元の場所に戻せという請求】

 抵当権設定者Bが不当に伐採した材木がすでに搬出されていた場合でも、抵当権者Aは材木の返還請求ができます。
 ただし、することができる請求は「元の場所に戻せ」です。「私に引き渡せ!」という請求はできません
 なぜなら、抵当権占有を内容としない権利だからです。つまり、抵当権者Aには山林の占有権限はないので、Bに対してできる請求はあくまで「不当に伐採した材木を元の場所に戻せ」なのです。むしろ占有権限のない者が自己への引渡し請求をすることは、ありえないことなのです。
 この点はご注意ください。

第三者が故意・過失なく誤信して山林を伐採した場合

 それでは、例えば第三者Cが現れて、故意・過失なく自身の山林だと誤信してBの山林を伐採した場合、どうなるのでしょうか?
 この場合も、抵当権者Aは第三者Cに対して「侵害があった」ということだけを理由に、先述の抵当権に基づく妨害排除請求「伐採した材木の搬出禁止・搬出された材木を元に戻せ」ができます。しかも、第三者Cに故意・過失がなくてもです。
 このとき、抵当権者Aに求められる要件は登記です。つまり、抵当権者Aは、しっかり抵当権の登記さえしていれば、第三者Cに故意・過失がなかろうが、抵当権に基づく妨害排除請求ができます。
 抵当権てスゲェ
 そうですね。これは、抵当権は担保物権、すなわち物権であることの表れでしょう。「物権=排他的支配権」が形を変えて、強力な権利であることの意味を表していると言えます。

抵当権侵害による損害賠償請求権
指さし
 抵当権者は、その抵当権が侵害されるような事態になった場合は、抵当権を侵害するものに対し、抵当権に基づく妨害排除請求ができます。
 では、抵当権者は、抵当権を侵害した者に対し、抵当権侵害による損害賠償請求をすることはできるのでしょうか?

事例2
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、第三者Cが甲建物を損傷した。損傷後の甲建物の残存価値は3000万円である。


 さて、この事例2で、抵当権者Aは第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償請求をすることができるのでしょうか?
 結論。抵当権者Aは、第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償請求はできません。
 なぜなら、損害が生じていないからです。
 え?どゆこと?
 はい。今から解説します。
 第三者Cは、抵当権者Aの担保目的物である甲建物を損傷させました。これは確かに抵当権の侵害と言えます。
 しかし「損害が生じた」とまでは言えません。なぜなら、担保目的物である甲建物の残存価値がまだ3000万円あるからです。
 損害賠償の請求は「損害の発生」という前提があった上で行うものです。では、抵当権者の損害とは何でしょう?
 それは、被担保債権の弁済を受けられなくなることです。つまり、抵当権者Aの損害とは、Bに対する1000万円の貸金債権(被担保債権)の弁済を受けられなくなる(1000万円返してもらえなくなる)ことです。
 抵当権者Aの被担保債権額は1000万円です。つまり、第三者Cが損傷したとはいえ、担保目的物である甲建物の残存価値が3000万円あれば、1000万円の被担保債権の弁済には影響がないのです。
 したがって「損害が生じた」とまでは言えない、つまり「損害の発生」がないので、抵当権者Aは第三者Cに対して損害賠償の請求はできない、ということになります。
考え中
 それでは「損害が生じた」と言えるレベル、すなわち「損害の発生」が十分認められる場合はどうなるのでしょう?

事例3
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、第三者Cが故意・過失なく甲建物を損傷した。損傷後の甲建物の残存価値は900万円である。


 今度は、被担保債権額に影響を及ぼしたケースです。
 この事例3では、第三者Cが担保目的物の甲建物を損傷したことにより、甲建物の残存価値が900万円になってしまいました。
 そして、抵当権者AのBに対する債権額、すなわち被担保債権額は1000万円です。ということは、被担保債権の弁済に影響を及ぼしてしまっています。被担保債権の弁済に影響を及ぼしているということは、損害が発生しているということです。
 さて、ではこの場合、抵当権者Aは第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償の請求ができるでしょうか?
 結論。抵当権者Aは第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償の請求はできません。
 え?なんで?
 なぜなら、第三者Cに過失がないからです。法律に別段の定めがなければ、過失がない相手に対して損害賠償の請求はできません(過失責任主義の原則)。
 抵当権侵害による損害賠償の請求については、あくまで過失責任主義の原則に従います。
 では、第三者に過失がある場合はどうなるのか?

事例4
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、第三者Cの過失により甲建物を損傷した。損傷後の甲建物の残存価値は900万円である。


 この事例4では、第三者Cの損傷により被担保債権の弁済に影響を及ぼしています。しかも、第三者Cには過失があります。
 したがいまして、この事例4では、抵当権者Aは第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償の請求ができます。
 なお、抵当権者Aが第三者Cに対して損害賠償できるタイミングは、被担保債権の弁済期です。第三者Cが甲建物を損傷した時ではありません。なぜなら、弁済期になってみないと、実際にどれぐらいの額が被担保債権の弁済に影響を与えたかがわからないからです。
 つまり、それでもBが普通に弁済したのであれば「損害は発生しなかったこと」になり、抵当権者Aは損害賠償の請求はできなくなります。というか、Bが普通に弁済したとすれば、そもそもAは損害賠償の請求をする必要もなくなります。
 繰り返しますが、抵当権者の損害とは、被担保債権の弁済が受けられなくなることです。
 この点はしっかり覚えておいてください。
 また、試験等での引っかけとして「抵当権者が抵当権侵害による損害賠償の請求ができる時は抵当権実行時である」というような選択肢が出てくることがありますが、これは×です。
 繰り返しますが、抵当権者が抵当権侵害による損害賠償の請求ができる時被担保債権の弁済期です。
 お気をつけください。

抵当不動産の賃貸
アパート
 続いては、抵当権の侵害の中で、担保目的物(抵当権を設定した不動産)の賃貸が絡んだケースについて、解説して参ります。

事例5
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、Aに無断でBは甲建物をCに賃貸し、引き渡した。


 さて、この事例5で、抵当権者AはCに対して、抵当権の侵害を理由として甲建物の立退きを請求できるでしょうか?
 結論。抵当権者AはCに対して、抵当権侵害を理由として甲建物の立退きを請求することはできません。
 なぜなら、抵当権者Aには甲建物を占有する権利はなく、抵当権の侵害はないからです。そもそも、抵当権設定者Bが担保目的物となった甲建物を使用収益するのはBの自由です。
 したがって、Bが甲建物をCに賃貸して賃料を取るのはBの自由なんです。その際に、Aの許可などいらないのです。むしろ、それで抵当権設定者Bに収益を上げてもらえば、被担保債権の弁済にもプラスになり、抵当権権者Aにとっても都合が良いのです。

事例6
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、Aに無断でBは甲建物をCに賃貸し、引き渡した。しかし、このBC間の賃貸借契約は、競売手続を妨害する目的でなされたもので、このことでAの甲建物の競売をまともに行うことが困難になった。


 これは、いわゆる競売の妨害を目的とする占有屋のケースです。
 この事例6の場合は、抵当権設定者のBには「競売手続の妨害」という故意があります。
 したがって、この場合、抵当権者Aは、抵当権侵害による妨害排除請求権を行使できます。
 では、抵当権者Aは妨害排除請求をするにあたり、甲建物を「私に引き渡せ」とCに請求することはできるでしょうか?
 結論。抵当権者AはCに対して、甲建物の「自己への引渡し」を請求することはできません。Cに対してAができる請求は「Bに引き渡せ」にすぎません。
 つまり、この事例6のような場合、賃貸されている抵当不動産の賃借人に抵当権者ができる請求は「抵当権設定者の元にその不動産を戻せ(引き渡せ)」にすぎない、ということです。

事例7
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、Aに無断でBは甲建物をCに賃貸し、引き渡した。しかし、このBC間の賃貸借契約は、競売手続を妨害する目的でなされたものだった。なお、抵当権設定者であり甲建物の所有者であるBには、甲建物を適切に管理できない事情がある。


 この事例7では、なんと抵当権者AはCに対して、甲建物の「自己への引渡し」を請求することができます。つまり、甲建物を「私に引き渡せ」と請求できます。
 なぜこの事例7だとそれができるのか?それは、Bには「甲建物を適切に管理できない事情」があるからです。そしてBに「甲建物を適切に管理できない事情」がある以上、Bに引き渡しても抵当権の侵害を免れることができないと考えられるからです。
 したがって、この事例7では、賃貸されている抵当不動産の賃借人に対する、抵当権者の「自己への引渡し請求」が認められるのです。

AはCから賃料相当額の損害金の請求はできるのか
はてなおばあさん
 この請求はできません。
 AはCに対して「自己への引渡し請求」をして、自分自身で甲建物を維持管理することはできますが、それはあくまで甲建物を維持管理するためであり、使用収益するためではありません。
 したがって「金払え」という損害金の請求はできないのです。

補足:担保目的物が取り壊されたら?

 通常、銀行が融資をする場合、土地と建物をセットで抵当権を設定します。
 ではこの場合に、建物を建て替えてしまったらどうなるでしょう?
 民法の理屈で考えれば、抵当権は物権なので、建て替える際に建物が一度無くなっているわけですから、その時に物権である抵当権は消滅します。なぜなら、物権は物に対する権利なので、目的となる物が無くなれば、それにともなって物権も消滅するからです。ただ、そうなると銀行が困ってしまいますよね?
 そこで、このような場合は、債務者は期限の利益喪失することになります。債務者が期限の利益を喪失するという意味は、銀行は融資をした相手(債務者)に対して、全額一括の支払い請求ができるということです。
 つまり、債務者が住宅ローンを組んでいたら、その住宅ローンの分割払いの約定は反故になり、債務者は全額一括の弁済を迫られることになるということです。そうなったら債務者はアウトですよね。しかし、それは債務者自らが期限の利益の喪失を招いたわけで(債務者が抵当権を設定した不動産を建て替えちゃったせいでこうなった)、債務者の自業自得ということになります。

抵当権に遅れる賃貸借~競売の買受人と賃貸人の地位/後順位賃借権者と抵当権者の同意なしでは対抗力もなし?

▼この記事でわかること
抵当権に後れる賃貸借の基本
(競売の)買受人は賃貸人としての義務を引き継ぐことはない
後順位賃借権者と抵当権者の同意
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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抵当権に遅れる賃貸借

 抵当権が設定されても、その不動産の使用収益は抵当権設定者(融資を受けた側のその不動産所有者)の自由です。
 したがって、抵当不動産を賃貸することも可能です。
 では、抵当権が実行されて、賃貸されている不動産が競売にかけられ売却されてしまった場合、その不動産を賃借している者はどうなるのでしょうか?

事例
BはA銀行から融資を受けて新築アパートを建てた。新築アパートには融資を受けるためにつけた抵当権が設定されている(抵当権者はA)。その後、Bは入居者募集をかけ、アパートは満室になった。それからしばらくして、Bが債務不履行に陥り、A銀行は抵当権を実行した。


 さて、この事例で、A銀行が抵当権を実行したことにより、アパートは競売にかけられます。すると、アパートの賃借人(入居者)は一体どうなるのでしょうか?
 まず、アパートに抵当権が設定されたのは、入居者募集をかける前です。
 ということは、元々、A銀行は賃借人(入居者)という負担のないアパートとして担保評価をして抵当権を設定したわけです。
 ですので「賃借人という負担のないアパート」として担保評価されたアパートが競売にかけられ、アパートがBから(競売の)買受人の手に渡ると、アパートの賃借人(入居者)一同は、即刻アパートを買受人に引き渡さなければならなくなります。
 そして、競売によってBから買受人にアパートの所有権が移ることは、いわゆるオーナーチェンジとは違います。つまり、買受人には入居中の賃借人にアパートを使用収益させる義務はないのです。
 したがって、賃借人一同は荷物をまとめて即刻出ていなければならないハメになるということです。
頭をかかえる
 でも、これってどうでしょう?
 いくら抵当権が設定された後に入居したからといって、入居者達には知るところのない大家Bの勝手な都合により競売にかけられ、アパートが買受人の手に渡った途端に賃借人一同即立ち退きというのは、ちょっと理不尽な気もしませんか?そもそも、入居者募集自体が抵当権設定後に行われているわけですし...。
 そこで!民法では、このようなケースでの賃借人を保護するため、買受人の買受けの時から6ヶ月を経過するまでは、賃借人は建物を引き渡す必要はないと定めています。
 つまり、アパートが買受人の手に渡っても、その買受けの時から6ヶ月が経過するまでは、賃借人一同はアパートから出ていかなくても大丈夫ということです。
 もちろん、最終的には賃借人一同がアパートから出ていかなければならないことには変わりありません。しかし、民法により、賃借人のために6ヶ月の猶予期間が設けられているのです。
 6ヶ月ということは半年です。半年あれば、なんとか引越しの目処も立ちますよね。
 本来の民法の理屈なら、抵当権に遅れる賃借権は保護されません。原則として、不動産物権の世界は早い者勝ちだからです。しかし、今回の事例のような「抵当権に遅れる賃借権」には、最低限の保護が規定されているのです。

買受人は賃貸人としての義務を引き継ぐことはない

 先ほど、競売によってアパートの所有権がBから買受人に移るのは、いわゆるオーナーチェンジとは違うと申しました。
 オーナーチェンジとは違うとはどういう意味かと言いますと、こうです。オーナーチェンジの場合、前主と賃借人の間の賃貸借契約は、旧オーナーから新オーナーへと引き継がれます。しかし、事例の場合、競売により買受人がアパートを買受けた時点で、Bと賃借人(アパートの入居者)の間の賃貸借契約は終了になります。
 したがって、6ヶ月の猶予期間が与えられているとはいえ、最終的に賃借人は立ち退かなければならないのです。
 また、敷金の返還義務買受人に引き継がれません。
アパート
 ところで、アパートの賃借人は、買受人が買い受けた時から6ヶ月を経過するまでは、猶予期間として立ち退かなくても大丈夫なことは先ほど解説したとおりですが、ではその間、アパートの家賃はどうなるのでしょうか?
 買受人は、その6ヶ月の間、アパートの賃借人から賃料相当額の対価をもらう権利があります。
 つまり、賃借人は、6ヶ月を経過するまで一銭も払わずにアパートに居続けられるというわけではないということです。6ヶ月を経過するまでアパートに居続けるためには、賃料相当額を払わなくてはならないです。
 さらに、アパートの賃借人がその支払いをしない場合、買受人は「1ヶ月分以上の支払い」を相当の期間を定めて催告し、期間内にその履行がなければ、賃借人に対してすぐに立退きを請求することができます。
 なお、買受人がもらうことができる賃料相当額とは、賃料ではありません。なぜなら、買受人がアパートを買い受けた時点で賃貸借契約自体は終了しているからです。買受人と賃借人は契約関係にはありません。この点はご注意ください。

後順位賃借権者と抵当権者の同意

 賃借権は登記をすることができますが、抵当権よりも後に登記された場合、抵当権者に対抗することができません。
 しかし、すべての抵当権者が同意し、その同意の登記をすれば、その賃借権を抵当権に対抗できるものにすることができます。
  すべての抵当権者とは、その不動産について抵当権を設定しているすべての抵当権者です。3番抵当権まで設定していれば、1番抵当権者から3番抵当権者までの抵当権者全員ということです。つまり、抵当権よりも後に登記された賃借権でも、抵当権者全員の同意の登記があれば「抵当権に対抗できる賃借権」にすることができる、ということです。
 なぜそんなことができるの?
 これは、抵当権が設定されている賃貸物件の入居を躊躇させないためです。
 例えば、すでに抵当権が設定されている高額な賃料のビルに法人(会社)が入居するようなケースを考えてみてください。
 入居する側の法人としては、高額賃料を取られた上で、いつ立ち退きになるかわからないような状況では、本部機能の移転等がしづらくなりますよね。しかし、賃借権に抵当権への対抗力を持たせることができれば、その懸念を払拭することができるという訳です。

抵当権に遅れた賃借権に対抗力を持たせるための3つの要件】
三本指
 以下に、抵当権に遅れた賃借権に対抗力を持たせるための要件をまとめます。

1・賃借権が登記されていること
2・その不動産についてのすべての抵当権者の同意があること
3・同意の登記をすること

 1の「賃借権が登記されていること」ですが、建物の引渡しだけでは足りません。登記が必須です。賃借人の賃貸人に対する対抗要件は建物の引渡しがあればOKですが、それとは違います。ご注意ください。

 2の「その不動産についてのすべての抵当権者の同意があること」ですが、過半数が同意しても、1人でも反対する者がいればダメです。抵当権者全員の同意が必須です。

 3の「同意の登記をすること」ですが、抵当権者全員の同意があっても、それだけではまだ足りません。「全員の同意がありますよ」ということを登記して初めて対抗力を持つことになります。なぜ登記までしなければいけないかの理由ですが、その旨の登記をしないと、競売時の買受人がそのような事情を知る術がないからです。

 以上、3つの要件を満たすことにより、抵当権に遅れる賃借権に対抗力を持たせることが可能です。
 ただ、これは中々に高いハードルだと言えます。というのも、内容的には抵当権者が不利になる内容ですから。それを抵当権者全員が同意した上にその登記までOKしてくれないといけないわけですから。
 また、もし抵当権者が同意することにより不利益を受ける者がいる場合は、その者の承諾も必要になります。つまり、抵当権者が5人いて、その5人が同意することにより不利益を受ける者が10人いたとすると、合計15人がこの件について納得しなければならない事になります。
 このように考えていくと、ハードルが高いという意味がよくわかるのではないしょうか。

【参考】
(抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力)
民法387条
1項 登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。
2項 抵当権者が前項の同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならない。

共同抵当~同時配当と異時配当とは/抵当不動産の一部が債務者所有(物上保証)の場合は?

▼この記事でわかること
共同抵当の基本
複数の不動産の全部が債務者所有の場合
同時配当
異時配当
抵当不動産の一部が債務者所有(物上保証)の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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共同抵当の基本

 1つの被担保債権の担保のために複数の不動産に設定される抵当権を、共同抵当と言います。
 例えば、山田さんがA不動産・B不動産・C不動産を所有していたとします。そして、山田さんが金融機関から5000万円の融資を受けるためにA不動産・B不動産・C不動産に抵当権を設定します。これが共同抵当です。つまり、5000万円という1つの被担保債権について、A不動産・B不動産・C不動産の3つの不動産に抵当権が設定されている共同抵当、ということです。
 ちなみに、土地と建物のセットで抵当権を設定した場合も共同抵当になります。例えば、甲土地上にA建物が建っていて、一つの被担保債権について甲土地とA建物にセットで抵当権を設定したら、それは共同抵当です。

 そして、共同抵当の問題は、大きく次の2つのパターンに分かれます。

・複数の不動産の全部が債務者所有の場合
・複数の不動産の一部が債務者所有の場合

 ということで、まずは「複数の不動産の全部が債務者所有の場合」について解説して参ります。

複数の不動産の全部が債務者所有の場合

 このケースで問題になってくるのは、後順位の担保権者(順位2以下の抵当権者)の保護です。
 まずは事例をご覧ください。

事例1
債務者DはAから2500万円の融資を受けるために、自己所有の甲土地(3000万円相当)と乙土地(2000万円相当)に第1順位の抵当権を設定した。その後、債務者DはBから2000万円の融資を受けるために、甲土地に第2順位の抵当権を設定した。さらに、債務者DはCから1500万円の融資を受けるために乙土地に第2順位の抵当権を設定した。


 本題に入る前に、まずは事例1の状況を確認します。

甲土地(3000万円相当)  乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者→A    1番抵当権者→A
2番抵当権者→B    2番抵当権者→C

[債権額(Dに融資した金額)]
(甲土地・乙土地の)1番抵当権者A→2500万円
(甲土地の)2番抵当権者B→2000万円
(乙土地の)2番抵当権者C→1500万円

 それではここから、本題に入って参ります。
 事例1で、1番抵当権者Aが抵当権を行使すると、競売代金の配当はどうなるのでしょうか?当然、第1順位抵当権者から優先的に配当を受けることになる訳ですが、その具体的な配当割合をいくらになるでしょう?
 まず、この場合に配当のパターンは2つあります。それは、同時配当異時配当です。
二本指b
同時配当

 これは、1番抵当権者Aが甲土地と乙土地を同時に競売にかけた場合です。すなわち、1番抵当権者Aが甲土地と乙土地の両方に抵当権を行使した場合です。
 この場合の配当額とその計算方法は次のようになります。

・Aが甲土地の競売代金から受ける配当
2500万×5000万(3000万+2000万)分の3000万=1500万円
(3000万÷5000万=0,6×2500万=1500万)

・Aが乙土地の競売代金から受ける配当
2500万× 5000万(3000万+2000万)分の2000万=1000万円
(2000万÷5000万=0,4×2500=1000万)

 このような配当(割付)で、1番抵当権者Aはその債権2500万円の全額の弁済(債権の回収)を受けることができます。
 では、甲乙両土地の2番抵当権者のBとCはどうなるのかといいますと、次のようになります。

・Bが甲土地の競売代金から受ける配当
3000万-1500万=1500万円
・Cが乙土地の競売代金から受ける配当
2000万-1000万=1000万円

 このようになります。これは単純ですね。
 甲土地・乙土地から1番抵当権者のAが受けた配当分を差し引いた残りから2番抵当権者のB・Cはそれぞれ配当を受ける、ということです。
 したがって、甲土地の2番抵当権者Bは債権額(Dに融資した金額)2000万のうち1500万円を、乙土地の2番抵当権者Cは債権額(Dに融資した金額)1500万のうち1000万円を、それぞれ回収できるこになります。
 ちなみに、B・Cが弁済を受けることができなかった分(競売代金の配当からで回収しきれなかった債権額の残り)の500万円は抵当権のない債権、すなわち、無担保債権としてB・Cそれぞれに残ります。
 以上のように、1番抵当権者Aが優先的に配当を受けた上で、2番抵当権者のB・Cは公平に配当を受けることになります。

異時配当の場合

 続いては異時配当についての解説ですが、今一度事例の確認です。

事例1
債務者DはAから2500万円の融資を受けるために、自己所有の甲土地(3000万円相当)と乙土地(2000万円相当)に第1順位の抵当権を設定した。その後、債務者DはBから2000万円の融資を受けるために、甲土地に第2順位の抵当権を設定した。さらに、債務者DはCから1500万円の融資を受けるために乙土地に第2順位の抵当権を設定した。


甲土地(3000万円相当)  乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者→A    1番抵当権者→A
2番抵当権者→B    2番抵当権者→C

[債権額(Dに融資した金額)]
(甲土地・乙土地の)1番抵当権者A→2500万円
(甲土地の)2番抵当権者B→2000万円
(乙土地の)2番抵当権者C→1500万円

 まず、抵当権は、実際に行使するかどうかは抵当権者の自由です。つまり「抵当権を行使しない」という選択もできます。
 ということは、1番抵当権者Aは、甲土地と乙土地のどちらかだけに抵当権を行使することも可能です。
 そして、どちらかだけに抵当権を行使した場合というのが、異時配当になります。
女性講師
 それでは本題です。
 1番抵当権者Aが甲土地にだけ抵当権を行使した場合、その配当はどうなるのでしょうか?
 この場合、1番抵当権者Aは、甲土地3000万円からその債権2500万円全額の弁済を受けることになります。
 するとどうでしょう。
 甲土地の2番抵当権者Bは、3000万-2500万=500万円の弁済しか受けられなくなりますよね。
 なのに、乙土地の2番抵当権者Cは(1番抵当権者Aがすでに全額の弁済を受けているので)乙土地2000万円からその債権1500万円全額の弁済を受けることができます。
 これは同時配当の場合とはエラい違いですよね。
 でもこれってどうでしょう。いくらBとCが後順位の抵当権者とはいえ、1番抵当権者Aのさじ加減で結果がガラリと変わってしまうわけです。これって、ハッキリ言って不公平ですよね。
 ということで、民法ではこのような不公平は不当だと考え、異時配当の場合でも、結果として同時配当とまったく同じ配当額とする規定を置きました。

(共同抵当における代価の配当)
民法392条2項
債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合において、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。


 この条文だけではちょっとわかりづらいですが、要するにこういうことです。
 1番抵当権者Aが甲土地にだけ抵当権を行使しても、甲土地の2番抵当権者Bは、Aが甲土地・乙土地の両方に抵当権を行使した場合(同時配当の場合)と同じ配当を受けられるように、同時配当の場合の配当金額の限度で乙土地に抵当権を代位行使(Aに代わって行使)できる、ということです。
 これはちょっと、その論理がわかりづらいかもしれません。ですがまず、
結果として、異時配当も、その配当金額は同時配当の場合と同じになる
 この結論の部分を覚えていただければと存じます。

【補足:先順位抵当権者による抵当権の放棄】

 例えば、Aが甲土地・乙土地に1番抵当権を設定していて、甲土地にのみ2番抵当権者Bがいたとします。そして、Aが乙土地の抵当権を放棄したらどうなるでしょう?
 この場合だと、BはAに代位して乙土地に抵当権を行使できなくなりますよね。つまり、Aが乙土地の抵当権を放棄したことにより、Bへの配当金額が少なくなってしまうのです。
困惑女性
 判例では、このBの「乙土地への抵当権の代位行使への期待」は保護に値するとして、甲土地の競売代金について、Aが乙土地の抵当権を放棄しなければBが乙土地に代位できた限度において、AはBに優先できないとしています。つまり、Aが乙土地の抵当権を放棄するのは自由ですが、だからといって2番抵当権者Bの権利を害することはできないということです。

抵当不動産の一部が債務者所有の場合

 ここからは、共同抵当における抵当不動産の一部が債務者所有の場合について、解説して参ります。
 まず「抵当不動産の一部が債務者所有」とは、抵当不動産の一部が物上保証ということを意味します。
 それでは、まずは事例をご覧ください。

事例2
債務者DはAから2000万円の融資を受けるために、自己所有の甲土地(2000万円相当)とE所有の乙土地(2000万円相当)に第1順位の抵当権を設定した(EはDの物上保証人)。その後、債務者DはBから1000万円の融資を受けるために、甲土地に第2順位の抵当権を設定した。さらに、債務者DはCから1000万円の融資を受けるために、乙土地に第2順位の抵当権を設定した。


 まずは事例の状況を確認します。

債務者D
物上保証人E

D所有         E所有
甲土地(2000万円相当)  乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者A     1番抵当権者A
2番抵当権者B     2番抵当権者C

[債権額(Dに融資した金額)]
(甲土地・乙土地の)1番抵当権者A→2000万円
(甲土地の)2番抵当権者B→1000万円
(乙土地の)2番抵当権者C→1000万円

 さて、ではこの事例2で、甲土地が競売された場合、その競売代金の配当はどうなるでしょうか?
 この場合、まず1番抵当権者Aが、その債権2000万円全額の弁済を受けますが、問題はここからです。
 甲土地は2000万円相当なので、1番抵当権者Aが2000万円全額の弁済を受けることによって、2番抵当権者Bへの配当金額は0円です。
 以上です。つまり、Bへの配当はナシで終了です。
 あれ?異時配当の場合の民法392条2項の適用は?
 このケースでは民法392条2項の適用はありません。
 したがって、どうあがいてもBへの配当金はゼロです。

 一方、乙土地の2番抵当権者Cはどうなるでしょう?
 Aは甲土地の競売により、2000万円全額の弁済を受けていますので、その被担保債権は消滅しています。
 抵当権には付従性があります。ですので、被担保債権が消滅すれば抵当権も消滅します。
 したがって、Aの被担保債権が消滅したことにより、甲土地の1番抵当権とともに乙土地の1番抵当権も消滅します。
 そして、乙土地の1番抵当権が消滅すると、Cの2番抵当権の順位が上昇します。

E所有
乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者A 消滅
2番抵当権者C

E所有
乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者C ↑順位上昇 

 したがいまして、将来、乙土地が競売された場合、Cは1番抵当権者として優先的に弁済を受けることができます。
一本指
 さて、それでは続いて、事例2で、乙土地が競売された場合、その競売代金の配当はどうなるでしょうか?

E所有
乙土地(2000万円相当)←競売
1番抵当権者A
2番抵当権者C

 この場合、物上保証人E所有の乙土地の競売により、Aはその債権2000万円全額の弁済を受けます。
 そして、2番抵当権者Cへの配当はナシです。
 ここまでは、先ほどのD所有の甲土地の場合と同じです。しかし、ここからが違います。
 物上保証人E所有の乙土地の競売によりAが弁済を受けたということは、物上保証人EがDに代わってAに弁済した(つまりEがDの借金を肩代わりした)のと同じようなものです。
 したがって、物上保証人Eには「私が肩代わりした分の金を私に払え!」という「Dに対する2000万円全額の求償権」が生じます。
 物上保証人Eとしては、Dの借金返済のために自分の土地を失った訳ですから、そのDに対して「責任とれ」と迫れるのは当然と言えば当然ですよね。
 なお、保証人の求償権について詳しくはこちらをご覧ください。

 さて、では次に、甲土地はどうなるのか?です。
 1番抵当権者Aは、物上保証人E所有の乙土地から全額を受けました。なので、抵当権の付従性により、甲土地のAの1番抵当権は消滅しそうです。
 ところが、なんと!今度の場合、甲土地の1番抵当権は消滅しません。
 ではどうなるかというと、甲土地の1番抵当権は、そのまま物上保証人Eに移転します。

D所有         
甲土地(2000万円相当)  
1番抵当権者   ← 1番抵当権者A(弁済により消滅)
2番抵当権者B     

 これは弁済による代位というものです。つまり、今後、物上保証人Eは、Aに代わって甲土地の1番抵当権を行使できるということです。
 したがいまして、甲土地の1番抵当権者はEになり、Bは2番抵当権者のままです。
 となると、この後に甲土地が競売されると、Eの取り分が2000万円、Bは配当金ゼロとなりそうですが、そうはなりません。なんとここで、乙土地の2番抵当権者Cの登場です。
 乙土地の2番抵当権者Cは、乙土地の競売により、配当金ゼロのままその抵当権を失いました。そして、物上保証人Eは、甲土地の1番抵当権を「弁済による代位」により取得するわけですが、この物上保証人Eが取得した「甲土地の1番抵当権」は「乙土地の価値変形物」と考えられます。つまり、これは目的不動産が焼失した場合の火災保険金と同じような状況と言えるのです。
 そこで、Cはこの「乙土地の価値変形物である甲土地の1番抵当権」に「物上代位」して優先弁済権を主張することができます。つまり「弁済による代位」により物上保証人Eに移転した甲土地の1番抵当権は、さらにCが物上代位することできるということです。相手を騙してルパンが盗んだお宝をさらに峰不二子がルパンを騙してさかすめ取る、みたいなハナシ...とはちょっと違いますかね(笑)。失礼しました。
 ということで、結局、甲土地の競売代金はどうなるかというと、前述の物上代位により、まずCが1000万円全額の弁済を受け、残り1000万円でEが弁済を受け、Bの配当はゼロ、となります。

 以上、まとめると、事例2では、甲土地・乙土地のどちらから競売した場合でも、1番抵当権者A以外への配当金額は

B←0円
C←1000万円
E←1000万円

となります。
 これはBにはちょっと気の毒な気もしますが、この結論と論理を覚えておいてください。
 Bにとっては、物上保証人Eの存在がネックとも言えますね。

抵当権の順位の変更~登記は対抗力でなく効力発生要件?/抵当権の優先弁済の範囲を具体的に

▼この記事でわかること
抵当権の順位の変更の超基本
順位変更はどうやって行うのか
抵当権の順位変更は登記をしなければ効力を生じない
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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抵当権の順位の変更

 同一の不動産に複数の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位と優先度は登記の先後で決まります。なぜなら、不動産登記の世界は早く登記したもの勝ちだからです(つまり抵当権の場合は登記が早い順に1番抵当権者、2番抵当権者となる)。
 そして、この抵当権の順位を、後から変更できる仕組みがあります。それが抵当権の順位変更です。
 抵当権の順位変更を行うと、抵当権の順位が変わります。例えば、1番抵当権者Aと2番抵当権者Bが抵当権の順位変更を行なって、1番抵当権者Bと2番抵当権者Aになる、といった具合です。

抵当権の順位変更はどうやって行うのか

 当事者間の合意により行います。例えば、1番抵当権者Aと2番抵当権者Bが、AB間の合意により抵当権の順位変更を行います。
 ただし、利害関係者がいる場合は、その者の承諾も必要です。
 このときの利害関係者(ステークホルダー)というのは、その順位変更によって順位が下がってしまう転抵当権者等を意味します。
 転抵当とは、抵当権を担保にすることです。例えば、甲土地の一番抵当権者AがCから融資を受けるために「甲土地の1番抵当権」を担保にする、というような事です。この場合、Aは引き続き甲土地の1番抵当権者のままですが、Cは転抵当権者となります。そして、甲土地の1番抵当権が実行されると、その競売代金から転抵当権者Cが弁済を受けることになります。これが転抵当の仕組みです。
 では話を戻します。
 抵当権の順位変更によって転抵当権者がどのような影響を受けるかというと、こうです。
 例えば、甲土地に1番抵当権者Aと2番抵当権者Bがいて、1番抵当権について転抵当権者Cがいたとします。この場合に抵当権の順位変更を行うときは、AB間の合意だけでなく、転抵当権者Cの承諾も得た上で、AとBは抵当権の順位変更を行うことになります。なぜなら、Aの1番抵当権の順位が下がり2番抵当権になると、1番抵当権として転抵当にしているCが、いざその転抵当権を実行したときに、弁済を受けられる額に影響するからです。それはCにとって重大なことですよね。
 以上の理由から、利害関係者(転抵当権者等)がいる抵当権の順位変更を行う際には、転抵当権者(利害関係者)の承諾が必要なのです。

抵当権の順位変更は登記をしなければ効力を生じない
ここがポイント女性
 抵当権の順位変更は、当事者間の合意により行いますが、それを登記して初めて、その効力が生じます
 つまり、当事者間が合意しても、それを登記をしなければ意味がないということです。
 ここでご注意いただきたいのは、これは「効力発生要件」です。第三者対抗要件ではないのです。
 一般的には、不動産の登記というのは第三者対抗要件であり、当事者間においては、登記がなくともその所有権の移転自体は有効です。例えば、AB間で不動産の売買を行えば、登記をしなくても、AB間の意思のみで所有権は移転します。
 ところが、抵当権の順位変更は、当事者間の合意があってもその登記をしなければ、当事者間ですら効力が生じないのです。このようなものは、不動産登記において非常に珍しく、かなりレアなものと言っていいでしょう。
 少し小難しい言い方をすればこうなります。

「通常の場合、不動産登記は諾成契約で、登記をせずとも当事者間であれば効力は生じる。しかし、抵当権の順位変更は要式契約で、登記という形式を経なければ効力を生じない」

 とにもかくにも、抵当権の順位変更の登記は第三者対抗要件ではなく効力発生要件である、ということ、くれぐれもご注意ください。

抵当権の優先弁済の範囲

 抵当権者は、1番抵当権者から順番に競売代金から優先的に弁済を受けられますが、その「優先」の範囲は一体どこまでなのでしょうか?
 次のようなケースで考えてみましょう。

[抵当不動産]
甲土地
競売代金5000万円

[甲土地の抵当権者]
1番抵当権者:債権額→2000万円
          損害金→年15%
2番抵当権者:債権額→1500万円

 このケースで、甲土地を競売するとどうなるでしょうか?
 ここで問題になってくるのが損害金です。
 もし、1番抵当権の債務者(1番抵当権者からお金を借りてる者)が10年支払いが滞っている(借金返済が滞っている)などの履行遅滞状態であった場合に競売すると、損害金が
2000万円✖️15%✖️10年=3000万円
となり、これを元本2000万円にプラスすると、なんと1番抵当権の債権額が5000万円となってしまいます。すると、抵当不動産である甲土地の価格5000万円まるまるを1番抵当権者が独占してしまい、2番抵当権者の取り分が全くなくなってしまいます。
 でも、これってどうでしょう。1番抵当権の損害金次第で、2番抵当権者などの後順位抵当権者や一般債権者(抵当権者以外の債権者)は、競売代金からの配当を一切受けられなくなってしまうということですよね?
頭をかかえる
 いくら1番抵当権者に、他に先立って優先弁済を受ける権利があるとはいえ、公平さに欠くと言えます。
 そこで、民法375条では、後順位の担保権者(後順位抵当権者)や一般債権者の保護のための規定を置きました。

(抵当権の被担保債権の範囲)
民法375条
1項 抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
2項  前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の二年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して二年分を超えることができない。


 上記の条文により、抵当権の優先弁済額の上限は、利息や損害金については満期となった最後の2年分のみとなります。
 つまり、先のケースだと、1番抵当権者が優先弁済を受けられる金額の上限は
元本2000万円+損害金2000万円×15%×2年=2600万円
となり、2番抵当権者は
抵当不動産の価額5000万円―2600万円=2400万円
から配当を受けられることになります。
 すると、2番抵当権の債権額は1500万円なので、2番抵当権者も無事、債権額の全額の弁済を受けられることになります。
 上記の民法375条の規定があるのとないのとでは、2番抵当権者にとって天と地の差がありますね。

補足1番抵当権の残りの損害金8年分はどうなる?

 これはもちろん残ります。決して消えてなくなる訳ではありません。
 民法375条の規定は、あくまで後順位抵当権や一般債権者の保護のための規定です。
 したがいまして、1番抵当権の損害金8年分の2400万円は、無担保債権として残ります。
 無担保債権ということは、サラ金などと同じような、単に抵当権が設定されていない一般債権(抵当権のような優先的に弁済を受けることがないフツーの債権)として残るということです。

抵当権の処分~転抵当/抵当権の順位譲渡と順位放棄/抵当権の譲渡と放棄

▼この記事でわかること
転抵当
抵当権の順位譲渡、順位放棄
抵当権の譲渡、放棄
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 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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抵当権の処分

 抵当権は財産権の1つです。したがって、これを処分することができます。
 抵当権の処分には、次の3つがあります。

・転抵当
・抵当権の順位譲渡、順位放棄
・抵当権の譲渡、放棄

 それでは、順番に解説して参ります。

転抵当

 転抵当とは、抵当権自体を担保にすることです。
 どんなケースで転抵当が利用されるかというと、金に困った抵当権者がその抵当権そのものを担保として金を借りるような場合です。この場合、その抵当権を担保として抵当権者にお金を貸した者は「転抵当権者」となります。
 それでは、具体的な事例とともに見ていきましょう。

事例
BはCに融資し(これをb債権とする)、その担保としてD所有の不動産に抵当権を設定した。その後、金に困ったBは、その抵当権を担保にしてAから融資を受けた(これをa債権とする)。


 まずは事例の状況を確認します。
 まず、D所有の不動産を担保にCにお金を貸している(融資している)Bは抵当権者です。
 一方、D所有の不動産を担保にBからお金を借りているCは債務者です。
 Dは物上保証人です。
 そして、抵当権者Bにその抵当権を担保としてお金を貸している(融資している)Aが転抵当権者です。

  転抵当権者A
a債権⇨↓融資
  抵当権権者B
b債権⇨↓融資 ↘︎⇦抵当権(転抵当の担保になっている)
  債務者C 物上保証人D

 物上保証人もいるので複雑に感じてしまうかもしれませんが、まずは各者の立場と関係性を押さえてください。
 では本題に入ります。
 このケースで、転抵当権者Aは、いつ抵当権を実行できるのでしょうか?
 結論。転抵当権者Aは、a債権とb債権の両方の弁済期が到来すれば、抵当権を実行することができます。
 ポイントは、転抵当権者AのBに対する債権の弁済期の到来だけではダメなことです。AのBに対するa債権と、BのCに対するb債権の両方の債権の弁済期が到来して初めて、転抵当権者Aは抵当権を実行できるのです。
 なお、転抵当権者Aが抵当権を実行した場合の配当金ですが、まず転抵当権者Aが取り、余りがあれば抵当権者B、さらに余れば物上保証人D、となります。

抵当権者Bは抵当権を実行できないのか?

 これについては、b債権の額がa債権の額を上回る場合のみ、原抵当権(Bの抵当権)の実行が認められます(判例)。
 なぜ、b債権の額がa債権の額を上回る場合だけなのかというと、原抵当権(Bの抵当権)を実行しても、配当金はまず転抵当権者Aから取ります。それで余りがあれば抵当権者Bが取ります。ですので、b債権の額がa債権の額を上回らなければ、Bが余りの配当金を受ける可能性はナイのです。つまり、Bが余りの配当金を受ける可能性がナイ場合にBが抵当権を実行しても、Bにとって何の意味もナイですよね。Bにとってはただの無駄骨です。
 したがって、b債権の額がa債権の額を上回る場合のみ、原抵当権(Bの抵当権)の実行が認められるのです。

債務者Cは誰に弁済すればいいのか
?女性
 実は、転抵当は当事者同士の合意だけで効力が発生します。つまり、事例1の場合、AB間の合意だけでイイのです。
 ですので、AB間の転抵当について債務者Cが知らないということも十分ありえます。
 そこで民法は、債権譲渡の対抗要件の規定に従い、Bが債務者Cに(AB間の転抵当について)通知するか、債務者Cが(AB間の転抵当について)承諾しなければ、転抵当を債務者Cや物上保証人Dに対抗できないとしています。
 ポイントは、通知すべきはあくまで債務者Cで物上保証人Dではない、ということです。物上保証人Dに通知しても、それは意味を成しません。なぜなら、あくまで債務を弁済すべきなのは債務者Cだからです。
 なお、転抵当の第三者に対する対抗要件は登記です。しかし、事例1のAB間の転抵当については、債務者Cは第三者ではないありません。では(第三者ではない)債務者Cに対する対抗要件は何になるのかというと、前述の債権譲渡の対抗要件の規定に従った通知・承諾になるのです。この点はお気をつけください。
 さて、前置きが長くなりましたが、では債務者Cは誰に弁済すればいいのでしょうか?
 債務者Cが弁済すべき相手は転抵当権者Aです。AB間の転抵当について債務者Cに対する対抗要件を備えた後は、債務者Cは転抵当権者Aに弁済しなければ免責されません(借りた金を返す責任を果たしたことにならない)。転抵当権者Aの承諾を得れば抵当権者Bに弁済してもいいのですが、逆に言えば、転抵当権者Aの承諾を得ずにした抵当権者Bへの弁済は、転抵当権者Aに対抗することができません。転抵当権者Aに対抗することができないということは、債務者Cは二重払いを強いられることになってしまいかねないということです。
 なお、対抗要件を備える前であれば、抵当権者Bに対する弁済でも債務者Cは免責されます(金を返す責任を果たしたことになる)。

抵当権の順位譲渡・順位放棄

 抵当権の順位譲渡・順位放棄とは、先順位の抵当権者が後順位の担保権者(抵当権者)に対してする処分です。
 順位譲渡の場合は、順位譲渡した先順位の抵当権者より後順位の担保権者(抵当権者)が配当において優先されます。単純な話ですね。
 順位放棄の場合は、先順位の抵当権者と後順位の担保権者(抵当権者)が同順位となり、それぞれの債権額に応じて配当金を配分します。
 それではここから、その配当額が実際にどのようになるのか、以下の設定にて、具体的に見て参ります。

[抵当不動産]
甲土地
競売代金→1500万円

[甲土地の抵当権者]
1番抵当権者A:被担保債権額→500万円
2番抵当権者B:被担保債権額→500万円
3番抵当権者C:被担保債権額→1500万円

 以上、上記の設定で、いくつかのケースについて解説します。

ケース1》AがCに順位譲渡した場合
一本指
 抵当権の処分は、当事者同士の合意だけで効力が発生します。つまり、AがCに抵当権の順位譲渡することは、AC間の合意だけでよく、Bの承諾は不要です。なぜなら、Bの配当額にはまったく影響がないからです。
 したがって、このケース1で配当額について考える場合、まずBの配当額から計算するのが早いです。
 ということで、Bへの配当額から計算します。
 先ほど「AC間の順位譲渡はAC間の合意だけで良い、なぜならBの配当額には影響がないから」と申しました。ということは、AC間の順位譲渡がなかった場合のBの配当額が、そのまま、このケース1でのBの配当額になるという事です。
 したがって、単純に順位譲渡がなかった場合の各配当額を考えれば、おのずとBの配当額は分かります。

[順位譲渡がなかった場合の各配当額]
A←500万円 
B←500万円 
C←500万円

 ということで、ケース1でのBの配当額も500万円になります。
 つづいて、AとCへの配当額ですが、Bの配当額が500万ということは

1500万(競売代金)ー500万(B配当分)=1000万=A配当分+C配当分

になります。
 つまり、A配当分+C配当分=1000万円です。
 そして、AがCに順位譲渡したことにより、Cへの配当が優先されます。
 すると、Cの被担保債権額は1500万円なので、Cが1000万円の配当を受け、Aへの配当はゼロで終了です。
 したがいまして、ケース1の各配当額

A←0円 
B←500万円 
C←1000万円


となります。

ケース2》AがCに順位放棄した場合
二本指女性
 AがCに順位放棄をすると、AとCは同順位となります。同順位ということは、どちらが優先するということもありません
 したがって、AとCは、各債権額に応じた割合でそれぞれ配当を受けることになります。
 また、Bへの配当額はケース1と一緒です。ですので、A配当分+C配当分=1000万円まではケース1と同じ手順で計算します。
 その後は、1000万円をACそれぞれの債権額に応じた割合で按分します。

[A配当額]
1000万×(500万÷2000万)=250万円
    (A債権額÷ABC総債権額)
[C配当額]
1000万×(1500万÷2000万)=750万
      (C債権額÷ABC総債権額)

 ということで、ケース2の各配当額はこうなります。

A←250万円
B←500万円
C←750万円


抵当権の譲渡、放棄

 抵当権の譲渡、放棄とは、無担保債権者に対する抵当権の処分です。つまり、抵当権者が抵当権者以外に対して、その抵当権を譲渡・放棄するということです。
 まず気を付けていただきたいのが、こちらは「順位の譲渡・放棄」ではなく「抵当権自体の譲渡・放棄」です。
 では、その配当額が実際にどのようになるのか、以下の設定にて、具体的に見て参ります。

[抵当不動産]
甲土地
競売代金→1500万円
 
[甲土地の抵当権者」
1番抵当権者A:被担保債権額→500万円
2番抵当権者B:被担保債権額→500万円
3番抵当権者C:被担保債権額→1500万円
無担保債権者D:(無担保)債権額→1500万円
(抵当権なし)

 以上、上記の設定で、いくつかのケースについて解説します。

ケース3》AがDに抵当権を譲渡した場合
三本指
 まず、抵当権の譲渡がなかった場合の配当額を確認します。

A←500万円
B←500万円
C←500万円
D←0円

 これが抵当権の譲渡がなかった場合の配当額です。
 ではここから、具体的に配当額を計算していきます。
 まず、抵当権があっても、BとCへの配当額は変わりません。
 B配当分+C配当分=1000万円なので、A配当分+D配当分は500万円になります。
 ということは、500万円をAとDで取り合うことになる訳ですが、AがDに抵当権を譲渡したということは、DはAに優先して配当を受けます。したがって、まずDが500万円の配当を受けて、Aは配当ゼロです。
 よって、このケース3での配当額の結果はこうなります。

A←0万円
B←500万円
C←500万円
D←500万円


ケース4》AがDに抵当権を放棄した場合
四本指
 まず、抵当権の放棄がなかった場合の配当額はこうです。

A←500万円
B←500万円
C←500万円
D←0円

 そして、このケース4でも、抵当権の放棄があってもBとCへの配当額は変わりません。
 ですので、A配当分+D配当分=500万円まではケース3と同じ手順で計算します。
 ではAとDへの配当額ですが、AがDに抵当権の放棄をしたことにより、AとDは同順位という扱いになります。
 したがって、500万円をA・Dそれぞれの債権額に応じた割合で按分します。

[A配当額]
500万×(500万÷2000万)=125万円
    (A債権額÷ABC総債権額)※

※総債権額にはDの債権は含まない。なぜならD債権は無担保債権だから。甲土地の競売はあくまで被担保債権回収のための抵当権の実行によるものだから。

 よって、ケース4の配当額の結果はこうなります。

A←125万円
B←500万円
C←500万円
D←375万

抵当権の消滅請求と代価弁済とその違い/第三取得者が抵当不動産について費用を支出すると?

▼この記事でわかること
抵当権の消滅請求の基本
誰に対してどのように請求するのか
代価弁済
抵当権消滅請求と代価弁済の違い
第三者取得者が抵当不動産について費用を支出した場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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抵当権の消滅請求

 抵当権の設定された不動産を取得した者(抵当不動産の第三取得者)から、抵当権の消滅を請求する手段があります。それが抵当権消滅請求です。
 ケースとしては、抵当権の設定された不動産を「売買で取得した者」「贈与を受けて取得した者」「財産分与で取得した者」などが抵当権消滅請求をします。
 ここで一点、ご注意いただきたいのが、抵当不動産を相続により取得した者は、抵当権消滅請求はできません。なぜなら、相続人は、抵当権設定者の地位そのまま受け継ぐからです(包括承継)。
 また、抵当不動産の地上権・賃借権の取得者からの抵当権消滅請求という仕組みはありません。この点もご注意ください。

誰に対してどのように請求するのか

 抵当権消滅請求は、登記簿(登記事項証明書)に載っている抵当権者全員に対して書面を送達して行います。
 ちなみに、その書面には「金〇〇円支払うから抵当権の消滅に応じろ」という旨の文章が書いてあります。
 そして、抵当権消滅請求の通知を受けた抵当権者は、通知の到達から2ヶ月以内に、次のどちらかの選択を迫られます。

1・金〇〇円に納得し、素直に抵当権消滅請求に応じる
2・金〇〇円では少なすぎるとして、抵当権権者自らが競売を申し立てる


 抵当権権者としては、しっかりと被担保債権(抵当権の原因となる貸金=抵当権者が債務者に貸した金)の弁済を受けられることが第一です。
 ですので、抵当権消滅請求の書面に書かれた「金〇〇円」の金額で、被担保債権の弁済が満足を受けられるのであれば、抵当権者は納得して1の選択をします。
 しかし、金〇〇円は、実際には抵当権消滅請求をしてきた第三取得者(抵当不動産を売買や贈与等で取得した者)が値踏みした金額であることがほとんでしょう。そこで、抵当権者がその金〇〇円では少ないと思った場合は、2の方法で、競売代金から配当金を受けることもできるというわけです。

 さて、では抵当権消滅請求を受けた抵当権者が、何の回答もしないまま2ヶ月が経過した場合はどうなるでしょう?
 その場合は、抵当権者は、金〇〇円を承諾したとみなされます。
 また、抵当権者が2の手段を選択したが、その競売の申立てを取り下げた場合も、金〇〇円を承諾したとみなされます。同様に、競売の申立てが却下または取り消された場合も、金〇〇円を承諾したとみなされます。

抵当権者の承諾後
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 登記簿に載っている抵当権者全員が、第三取得者(抵当不動産を売買や贈与等で取得した者)の提示した金〇〇円を承諾し、第三取得者がその金額を払い渡すか、供託すると、抵当権は消滅します。※
※供託とは、わかりやすく簡単に言うと、法務局に一旦お金を預けること。弁済と同じ法的効果がある
 なお、抵当権者のうち1人でも抵当権を実行し競売を申し立てれば、競売手続へ移行します。

 以上が、抵当権消滅請求の手続の流れになります。

【補足1】
 相続人が抵当権消滅請求ができないことは、すでに解説しました。他にも、主たる債務者その保証人も抵当権消滅請求をすることはできません。

【補足2:買主の代金支払拒絶権】
 民法には「買い受けた不動産について、抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続きが終わるまで、その代金の支払いを拒むことができる」との規定があります。通常、売買契約上、買主には代金支払義務が生じます。ですので、これは義務を拒絶するという、かなりレアな、数少ない例外規定です。
 あとこれは余談ですが(抵当権消滅請求とは関係ありませんが)他にも、売買の目的について権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利を失うおそれがある場合に、代金の全部または一部の支払いの拒絶をできる、との規定もあります。

代価弁済

 抵当権消滅請求と似て非なる制度があります。それは代価弁済です。

 抵当権の設定された不動産の所有権または地上権を買い受けた第三者(第三取得者)が、抵当権者の請求に応じて、その抵当権者にその代価(その抵当権者から金〇〇円と請求された金額)を弁済すると、抵当権は、その第三者(第三取得者)のために消滅します。これが代価弁済という制度です。

(代価弁済)
民法378条
抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。


 代価弁済と抵当権消滅請求には違う点がいくつかあります。
 最大の違いは、抵当権消滅請求第三取得者側(抵当不動産を売買や贈与等で取得した者)から金額を提示して抵当権の消滅を迫る制度なのに対して、代価弁済は抵当権者側からアクションを起こします。つまり、抵当権消滅請求の場合は第三取得者側(抵当不動産を売買や贈与等で取得した者)が主導権を握るのに対して、代価弁済の場合抵当権者側が主導権を握ります。

 では、代価弁済を迫られた第三取得者はどうすればいいのでしょう?
 実は、第三取得者に代価弁済に応じる義務はありません。
 したがって、第三取得者(抵当不動産を売買や贈与等で取得した者)は、抵当権者から代価弁済を迫られても、無視してもかまいません。要するに、第三取得者が代価弁済に応じるかどうかは任意、つまり第三者取得者の自由で、抵当権者の請求に応じて代価弁済をすれば抵当権が消滅する、というだけの話です。

抵当権消滅請求と代価弁済の相違点
三本指
 抵当権消滅請求と代価弁済の最大の違いについては、先ほど解説いたしました。さらに他にも、以下のような相違点があります。

・代価弁済の第三取得者等は「買受人」に限る
・地上権の取得者が代価弁済できる
・保証人が代価弁済をすることができる


 それでは、ひとつひとつ解説して参ります。

【代価弁済の第三取得者等は「買受人」に限る】
 これは、代価弁済ができる第三取得者は、売買の買受人のみという意味です。つまり、代価弁済ができるケースは、第三取得者が抵当不動産を「売買」で取得したとき限定です。「相続」や「贈与」などの場合は代価弁済はできず、あくまで「第三者取得者の、抵当不動産の取得原因が売買のときのみ」ということです。これは、代価弁済の「第三取得者が売主ではなく抵当権者に支払う」という性質上、当然のことでしょう。

【地上権の取得者が代価弁済できる】
 抵当不動産の地上権の第三取得者は、抵当権消滅請求はできません。しかし、代価弁済はすることができます。
 なお、賃借権、永小作権の第三取得者は代価弁済できません。

【保証人が代価弁済をすることができる】
 抵当権の被担保債権についての保証人は、抵当権消滅請求をすることができません。
 しかし、保証人が抵当不動産を買い受けた場合、抵当権者側から代価を払ってくれという申し出があったときは、これに応じることは可能です。つまり、保証人が代価弁済することができる場合がある、ということです。もし、試験問題等で「保証人は代価弁済することができない」という肢があれば、それは誤りの肢となります。お気を付けください。

第三者取得者が抵当不動産について費用を支出した場合

 抵当権付きの不動産を取得した第三者(第三取得者)が、その抵当不動産について、必要費または有益費(雨漏りの修繕費や外壁を美化するための工事費)といった費用を支出したケースで、その抵当不動産が競売にかけられてしまった場合、第三取得者は、その費用を取り戻せるのでしょうか?
 結論。第三取得者は、抵当不動産について支出した費用を取り戻すことができます。
 どういう形で取り戻すことになるの?
 第三取得者は、他の債権者に先立って、抵当不動産の代価(競売代金)の中から、支出した費用の償還を受けることになります。

なぜ第三取得者は、抵当不動産について支出した費用の償還を受けることができるのか
?女性
 次のような理屈になります。

第三取得者の費用の支出により、抵当不動産の価値が維持または増価した

それによってどうなる?

抵当不動産の価値が維持または増価したということは、競売価格のアップに繋がる

それで得をする者は誰か?

競売代価(競売代金)から債権を回収しようとする抵当権者等

ということは?

第三取得者の出費により抵当権者が利得(利益)を受けていることになる。それは不当利得(不当な利益)ではないか?

 ということで、第三取得者が抵当不動産について支出した費用分については、第三取得者が競売代価(競売で売っ払って得た代金)から優先的に償還を受けるのが公平ですよね。
 したがって、第三取得者が最初に抵当不動産の競売代価(競売代金)の中から支出した費用分を取り戻し、差し引かれた残額から抵当権者への配当が行われることになります。

第三取得者を無視して競売手続が終了してしまった場合

 この場合、第三取得者は、支出した費用を取り戻せなくなってしまうのでしょうか?
 結論。この場合でも、第三取得者は支出した費用を取り戻すことができます。
 ではどうやって取り戻すのか?ですが、第三取得者は、抵当権者に対し「オマエのそれは不当利得だ!」として、支出した費用の返還を請求することができます。

登記の流用~登記の流用で迷惑を被る第三者とは?なぜ登記の流用は行われる?

▼この記事でわかること
登記の流用の基本
登記の流用によって迷惑を被る第三者とは
なぜ登記の流用は行われるのか
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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登記の流用

 例えば、AがBに貸付をして、抵当権を設定したとします(抵当権者はA、債務者はB)。その後、Bは弁済したが、抵当権の登記を抹消せずに放置したままで、新たにAがBに貸付をした場合に、放置したままだった抵当権を新たに行った貸付に流用できるのでしょうか?つまり「抹消せずに放置したままの抵当権をそのまま使いまわせるのか?」ということです。
 本来、不動産登記は、実体上の権利変動を忠実に示したものです。ですので、先の例の場合、一度、債務者Bが抵当権者Aに被担保債権(AのBに対する貸付債権)を弁済した時点で、その抵当権の抹消登記をして、それから再度、新たな貸付債権(被担保債権)のための抵当権の登記をすべきです。
 それに、抵当権は担保権であり、担保権には付従性があります。
 付従性とは、くっ付いて従う性質です。つまり、抵当権は被担保債権にくっ付いて従うので、被担保債権が弁済等により消滅すれば、抵当権も消滅するのです。
 以上のことから、流用した登記は、無効な登記ということになります。
 しかし!実は、実務上、登記の流用は頻繁に行われています。
 え?マジで?
 マジです。なので、現実においては、登記の流用は当たり前にあるものなのです(え?と思う方もいらっしゃるかと思いますが、法律の原則と実務の実態が違うということは、よくあります。この辺りが、民法を学習する中でややこしく感じるところであり、面白いところでもあったりします)。
 こういった実情をふまえて、登記の流用のすべてを無効なものにしてしまうと「逆に世の中が混乱してしまう」ということで、判例でも、一定の登記の流用に関しては、これを有効としています。実務上の要請ってヤツですね。

判例が認める「一定の登記の流用」とは

 判例により、一定の登記の流用は有効としていると言っても、あくまで「一定の登記の流用」については、です。
 ではこの「一定の登記の流用」とは何か?というと、登記の流用によって迷惑を被る第三者がいない場合の登記の流用のことです。

登記の流用によって迷惑を被る第三者とは
?女性
 これは、その登記を流用する前に出現していた後順位抵当権者のような利害関係人のことです。
 例えば、甲土地に登記流用前の時点で1番抵当権者Aと2番抵当権者Bがいた場合の、Bのことです。
 このような者達は、先順位の抵当権が弁済により消滅した以上は、抵当権順位の上昇という利益を当然に受けるべき人達(第三者)です。先の例なら、1番抵当権が消滅すれば2番抵当権の順位が上がり、Bは1番抵当権者となります。ところが、もし登記の流用なんてことをやられてしまうと、順位の上昇ができず、後順位抵当権者が本来受けるべき利益を受けられなくなってしまいます(つまりBは2番抵当権者のまま)。ですので、その登記の流用前から後順位抵当権者が存在する場合は、その登記の流用は認められないのです。
 逆に言えば、登記の流用前に後順位抵当権者がいなければ、登記の流用は可能です。ということは、つまり、登記の流用後に出現した後順位抵当権者がいても、登記の流用は可能です。なぜ可能かというと、登記の流用後に出現した後順位抵当権者は、流用された登記が登記簿に載っているのを見た上で、後順位抵当権者として取引に入ってきているので、問題ないという訳です。登記流用後の甲土地に2番抵当権者としてBが入って来ても「1番抵当権の登記流用の事、オマエ、わかってて入ってきてるもんな。なら問題ないよな」てハナシです。

補足:なぜ登記の流用は行われるのか

 理由は2つ考えられます。

1・金がかかる
 まずひとつは、抵当権の設定登記をする際、登録免許税という税金がかかります。
 税率は債権額の4/1000です。つまり、債権額が1億円の抵当権の設定登記をする場合、設定登記をするだけで40万円かかるという訳です。さらに司法書士に頼めばその料金もかかります。

2・単に手続きが面倒
 読んで字のごとく。

 以上の理由から、抵当権を流用しちゃえ!となってしまうのです。
 40万円ぐらい大したことないじゃん!手続きぐらいやれよ!と思われる方もいらっしゃると思いますが、良くも悪くもそれが実態なのです。
 ただ、手続きはまだしも、税率については、債権額が10億円なら400万円ですからね。抵当権設定登記だけで400万円もかかるぐらいなら流用しちゃえ!となってしまうのもよく分かるかと思います。
 経済学的な物言いで結びの言葉とするならば「以上の理由から登記流用のインセンティブが働く」となるでしょうか。

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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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