復代理 任意代理人の場合

 今回のテーマは復代理です。復代理とは「代理の代理」です。復代理について考えるとき、任意代理法定代理の場合で異なってきます。今回は、任意代理の場合の復代理についてご説明して参ります(任意代理と法定代理について詳しくはこちらの記事をご参照下さい)。

事例
Aは何かと多忙のためBに代理を頼んだ。しかし、代理人Bも忙しくなってしまい、BはさらにCに代理を頼んだ。


 さて、この事例のBは任意代理人ですが、任意代理人BはCに代理の仕事を「丸投げ」できるでしょうか?
 結論。代理の丸投げは原則としてできません。
 なぜ代理の丸投げができないかというと、事例でAはBに代理を頼んだ訳ですが、AがBに代理を頼んだのには理由がありますよね?もちろん時と場合と内容にもよると思いますが、「Bだから頼んだ」と考えるのが普通だと思います。つまり、誰でもいい訳ではないということです。ということは、もしBが他人に代理を丸投げできてしまうとなると、Aが「Bを選んで代理を頼んだ」意味が吹っ飛んでしまいます。それでは本人Aは困りますよね。したがって、任意代理人が他者に復代理を頼む場合は、原則として丸投げはできないのです。
 さて、もうお気づきの方もいらっしゃると思いますが、任意代理人が復代理を頼むときは「原則」丸投げできない、ということは、例外的に丸投げをできる場合があるということです。

任意代理人が代理を丸投げできるケースは2つある

 それでは、任意代理人が代理を丸投げできる2つのケースを見て参ります。
1・本人が承諾したとき
 任意代理人が他者に代理を「丸投げ」することを、本人が「OK!」と認めたときです。
2・やむを得ない事由があるとき
 任意代理人が事故や病気などで動けなくなってしまったようなときです。このようなときは、本人の了承がなくても丸投げできます。というのは、代理人が急ぎで動かなければならないような仕事を頼まれていたときには、いちいち本人に了承をとっていたら、それこそ本人にとって大きな損害が生じかねません。従いまして、このようなケースでは、任意代理人は本人の了承がなくとも、他者に代理の仕事を丸投げできます。

 さて、任意代理人が他者に復代理を頼むときは、原則、丸投げすることはできず、2つの例外的なケースでは丸投げすることも可能ということがわかりました。
 ところで、先の事例で、代理人BはCに代理を頼み、Cが復代理人となりました。このときに、元々の代理人であるBの代理人としての権限はなくなってしまうのでしょうか?
 結論。Bの代理人としての権限はなくなりません。つまり、代理人BがCに代理を頼み、Cが復代理人になったところで、Bが本人Aを代理することは問題なくできます。ですので、事例で本人Aを代理する者は、代理人Bと復代理人Cの二名存在することになり、代理人Bと復代理人Cのいずれも本人Aを代理することが可能です。復代理とは「代理人の交代」ではありませんので、この点はご注意下さい。
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復代理 法定代理人の場合

 法定代理人は任意代理人(委任による代理)とは違い、本人に「代理よろしく」と頼まれてなるものではなく、法律の定めによってなるものです。では、法定代理人が復代理人を選任するときはどうなるのでしょうか?
 任意代理人は復代理人の選任にあたり、原則、丸投げはできなかったり、本人の承諾が必要であったりなど、要件がありますが、法定代理人は自由に復代理人を選任できます。
 え?なんで?
 なぜ法定代理人は自由に復代理人を選任できるかといいますと、こう考えるとわかりやすいと思います。赤ちゃんの法定代理人は、通常は親ですよね?例えば、赤ちゃんが相続により土地を取得したときに、その土地について法律的な争いが生じて裁判になったとしましょう。すると、赤ちゃん自身が法廷に立つことは当然できませんので、法定代理人である親が赤ちゃんの代わりにその対応を行わなければなりません。このときに、赤ちゃんの法定代理人である親が、弁護士に訴訟代理(訴訟代理人)を依頼すると、代理人の親が弁護士に「復代理人を依頼した」ということになります。このようなケースで、もし復代理人(弁護士)を依頼するにあたり本人(赤ちゃん)の承諾が必要となると、法定代理人(親)は困ってしまいますよね?赤ちゃんに「この弁護士の先生に訴訟代理を頼んでもいい?」と承諾を求めたところで「バブバブ」という答えしか返ってこないでしょう?Dr.スランプアラレちゃんに出てくるターボくんでもなければ、マトモな答えが返ってくるはずがありません。そして何よりも問題なのは、親(法定代理人)が弁護士(復代理人)を依頼できないことによって、赤ちゃん(本人)自身に大きな損害が生じかねないということです。よって、法定代理人は本人の承諾もなしに、自由に復代理人を選任することができるのです。

補足

 赤ちゃんは法律行為ができません。それは赤ちゃんが未成年者であり制限行為能力者だからというのもありますが、そもそも法律上、赤ちゃんには意思能力がないとされます。これは何も赤ちゃんに限らず泥酔した者も同じように意思能力がないとされます。そして、意思能力がない者が結んだ契約は無効です。実は、民法にこれを明確に規定した条文は存在しません。なぜなら、そんなことは「条文に書くまでもない当たり前のこと」だからです(まあ強いて条文を用いるなら、信義則とか公序良俗とかを引っ張って来ることもできますが)。従いまして、意思能力がない者の契約は無効で、法律上、意思能力がないとされる赤ちゃんには、法律によって定められた法定代理人(通常は親)が保護者になり、法定代理人は赤ちゃんの代わりに法律行為をすることができ、赤ちゃんの承諾なしに弁護士を依頼することも可能なのです。
 尚、人間(自然人)の権利能力の始期や終期といったことについてはこちらの記事をご参照下さい。
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復代理人のヘマの責任を代理人は負うのか

 代理人は復代理人を選任できます。そして、復代理人を解任するのも代理人です。
 さて、それでは復代理人がヘマをやらかしてしまった場合、代理人もその責任を負わなければならないのでしょうか?責任というのは、本人に対する責任です。つまり、復代理人がヘマをやらかしたとき、代理人が本人に対し「私にも責任があります」となるのか?ということです。
 まず結論として、代理人は復代理人のやらかしたヘマの責任を負います。しかし、任意代理人と法定代理人でその中身が異なってきますので、それぞれご説明して参ります。

任意代理人の場合

 まずは、任意代理人が復代理人を選任した際の責任に関する民法の条文を見てみましょう。

(復代理人を選任した代理人の責任)
民法105条1項
代理人は、前条の規定により復代理人を選任したときは、その選任及び監督について、本人に対してその責任を負う。

 条文中の「前条の規定により復代理人を選任したとき」とは、任意代理人が復代理人を選任したときのことです。
 さて、この条文を読むだけだと「本人に対して責任を負う」ということしかわからないように思えますが、任意代理人が負うべき責任はあくまで「その選任及び監督」についてのみです。
 選任及び監督って何じゃらほい?
 それよりも、むしろここで重要なのは、復代理人のやらかしたヘマについて、任意代理人は全責任は負わなくていいということです。試験などで「任意代理人は復代理人の行為について全責任を負う」と来たら、それは×です。まずはここを頭に入れておいて下さい。
 そして民法105条には続きがあります。

民法105条2項
代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは、この限りでない。

 例えば、本人に「Aを復代理人にしろ!」と言われて代理人がAを復代理人に選任していた場合は、それは本人がその復代理人Aを選任したのと同じだから、その復代理人Aのやらかしたヘマの責任は本人が負うべきで、代理人に責任はないですよ、ということです。ただし!たとえ本人に「Aを復代理人にしろ!」と言われて代理人がAを復代理人に選任していたとしても、Aがヘマをやらかすいい加減なヤツだということを代理人が<知っていたのに、そのことを本人に知らせるなりAを解任するなりしなかった場合は、代理人は復代理人のヘマの責任を負わなければなりません。
 尚、条文からも読み取れますが、たとえ復代理人が本人の指名により選ばれたとしても、実際に復代理人の選任を行うのは代理人です。本人が直接選任する訳ではありません。念のため申し上げておきます。

法定代理人の場合

 法定代理人の負うべき責任は非常に重くなっております。その重さはというと、なんと法定代理人は復代理人のやらかしたヘマについて、その全責任を負います。
 マジで?でもどうして?
 なぜなら、法定代理人は自由に復代理人を選任できるからです。本人の承諾もなしに自分の判断で行えます。だからこそ、復代理人のやらかしたヘマについて負うべき法定代理人の責任は、非常に重いものとなっています。

(法定代理人による復代理人の選任)
民法106条
法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、前条第一項の責任のみを負う。

 条文にある「やむを得ない事由があるときは、前条第一項の責任のみを負う」というのは、やむを得ない事由があるときは任意代理人の場合同等の責任を負うということです(やむを得ない事由があるときは、本来、法定代理人が負うべき責任より軽くなるということ)。逆に言うと、やむを得ない事由があるとき以外は、法定代理人は復代理人のやらかしたヘマについて、原則、全責任を負わなければならないということになるわけです。
 自由と責任は表裏一体なのです。これは何も法律に限らず、全ての物事に言えることですよね。肝に銘じなければなりません。
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無権代理と相続 無権代理人が本人を相続するとどうなる?

事例1
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をCと締結した。その後、Aは死亡し、Aの唯一の相続人であるBは甲土地を相続した。


 なんだかややこしい事例ですよね。ただ、これは試験などではよく問われるケースで、無権代理人が本人を相続したらどうなるのか?という話です。
 さて、ではこの事例1で、甲土地の売買契約の行方はどうなるのでしょう?
 無権代理人Bは、本人Aを相続しています。つまり、無権代理人Bは本人Aを相続したことによって「Aの権利を受け継いだ本人B」となります。判例では、このような場合、相続により本人と無権代理人の地位が融合し、相続前の無権代理行為は当然に有効になると考えます。従いまして、事例1における甲土地の売買契約は当然に有効になります。元々は無権代理人Bが行った甲土地の売買契約は無権代理行為ですが、本人Aが死亡し、Bが甲土地を相続したことによって、Aが自分で甲土地を売ったのと同じになると考えるのです。

本人Aを相続した無権代理人Bは相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒める?

 さて、事例1で、無権代理人Bが行った無権代理行為(甲土地の売買契約)は、その後にBが本人Aを相続したことにより(甲土地を相続により取得したことにより)当然に有効になることがわかりました。では、本人Aを相続したことによりAの権利を相続したBは、「本人として」甲土地の売買契約という無権代理行為の追認を拒絶することができるのでしょうか?
 無権代理人Bが本人Aを相続したことにより「Aの権利を受け継いだ本人B」になったと考えると「Aの権利を受け継いだ本人B」として、無権代理人Bの無権行為(甲土地の売買契約)の追認を拒絶できそうです。しかし、民法はこれを認めません。なぜなら、Bが本人Aを相続し「Aの権利を受け継いだ本人B」になったからといって、甲土地の売買契約の追認を拒絶できてしまうとなると、Bが自ら行った無権代理行為を、後から自分で「あれ、やっぱナシね!」とできてしまうということになります。これは「この世の中は契約社会で、契約という約束は守らなければならない」という民法の基本的な考え、もっと言えば法秩序の基本に反します。そして、このようなことは民法にハッキリとした条文がある訳ではありませんが、法律用語で禁反言の原則といいます。禁反言の原則とは信義誠実の原則の一種です(信義誠実の原則についてはこちらの記事をご参照下さい)。つまり、本人を相続した無権代理人が、自ら行った無権代理行為を追認拒絶することは、信義則(禁反言の原則)に反するのです。従いまして、後に本人Aを相続したBは甲土地の売買契約の追認拒絶はできず、相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒むことはできません。

 今回ご説明した内容が「無権代理と相続」についての基本となりますので、まずはここを押さえておいて頂ければと存じます。
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資格融合説と資格併存説

Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をCと締結した。その後、Aは死亡し、Aの唯一の相続人であるBは甲土地を相続した。

 このような無権代理人が本人を相続したケースでは、無権代理人が相続前に行った無権代理行為は当然に有効になります(前回の記事もご参照下さい)。そして本人を相続した無権代理人は、自ら行った無権代理行為の追認拒絶は信義則に反し許されません(禁反言の原則)。よって冒頭に示した事例において、本人Aを相続した無権代理人Bは、甲土地の売買契約の追認拒絶はできず、相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒むこともできません。
 さて、このような論理構成には、資格融合説資格併存説という2つの考え方があります。今回は、その2つの考え方についてご説明して参ります。

資格融合説

 これは本人と代理人の資格が融合するという考え方です。前回の記事でご説明した内容はこの資格融合説になり、判例の立場です。資格融合説は、本人と無権代理人の地位が融合したのだから、その融合した瞬間、すなわち、無権代理人が本人を相続した瞬間に「本人が自ら売ったことになる」ので、売買契約は当然有効になるとする考え方です。

資格併存説

 これは、本人と代理人の資格が併存するという考え方です。なんだか「ん?」てなりますよね。これはどういう考え方かと申しますと、無権代理人に元々あった「無権代理人という地位」に加えて、相続によって「本人という地位」が包括承継(権利義務が一括して継承されること)され「二つの地位は融合せず併存する」とするものです。
 だから?
 はい(笑)。この「二つの地位は融合せず併存する」とする資格併存説の場合、「相続開始時に売買契約はまだ不確定無効のまま」と考えます(不確定無効についてはこちらの記事をご参照下さい)。つまり、相続開始時に売買契約は有効でも無効でもありません。判例の立場である資格融合説の場合は、相続開始時に売買契約は当然に有効になります。この点が2つの説の違いです。
 ではここから、資格併存説がどう結論に向かっていくかといいますと、まず相続開始時には不確定無効のままなので売買契約は有効でも無効でもありません。その後、相手方が本人を相続した無権代理人に追認を迫ると、本人を相続した無権代理人は信義則上追認を拒絶できないので、売買契約は有効になります。そして、相手方が追認を迫らないと不確定無効のままなので、売買契約は有効でも無効でもない状態が続き、相手方が民法115条の取消権を行使すれば、売買契約の無効が確定します。

 このように、無権代理人が本人を相続した場合には2つの考え方があります。ちなみに、資格併存説は学者には人気の説ですが、判例の立場は資格融合説になりますのでご注意下さい。尚、判例が資格融合説をとるのは「無権代理人が本人を単独で相続したとき」です。ここもあわせてご注意下さい。
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無権代理と相続 相続人が複数の場合

事例1
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をDと締結した。その後、Aは死亡し、Aの相続人であるBとCは甲土地を相続した。


 なんだか入り組んだ事例ですが、これも「無権代理と相続」について考える典型的な事例です。
 この事例1のポイントは、相続人が無権代理人Bだけでなく「普通の相続人」のCもいる、つまり複数いるということです。さて、この場合に、無権代理行為をやらかした張本人のBが甲土地の追認拒絶をできないのは、相続人が単独のときと同じです。ではもう一人の相続人Cは、甲土地の売買契約の追認を拒絶できるでしょうか?
 結論。Cは甲土地の売買契約の追認を拒絶できます。なぜなら、Cは相続により本人Aの追認権と追認拒絶権を包括承継(権利義務が一括して継承されること)していますし、無権代理行為を行ったのはBなので、Cが甲土地の売買契約の追認を拒絶することは信義則上も何も問題ありません。

事例1のようなケースでは資格併存説をとる

 ところで、こんな疑問が湧きませんか?
資格融合説※により本人Aと無権代理人Bの地位は融合し、その結果、甲土地は「本人が売ったこと」になるので売買契約は当然に有効になる。しかし、そもそも資格融合説により当然有効になった売買契約を後から追認拒絶することができるのか?Cが追認拒絶することは信義則上の問題はないだろうけど...」
 この疑問に対する答えはこうです。
「事例1のようなケースでは、判例は資格融合説を取りません
 これはどうしてなのかといいますと、資格融合説を取ってしまうと甲土地の売買契約が当然有効になるので、甲土地の所有権相続人Cと相手方Dの共有となってしまうのです。
 それの何が問題なの?
 これが大問題なのです。だって考えてみて下さい。相続人Cと相手方Dは赤の他人ですよ?甲土地の売買契約を締結したのはBなので、おそらくCとDは顔を合わせたことすらないでしょう。そんな赤の他人同士の二人の共有という状態は、そこからまた新たな法律問題へと発展しまう可能性大です。それは民法も裁判所も望まない事です。
 従いまして、事例1のようなケースにおいては、判例は資格融合説を取らず資格併存説を取るのです。資格併存説※を取るということは、本人Aが死亡し、相続が開始しても甲土地の売買契約は不確定無効のまま(無効が確定しないまま)ということです。従いまして、もう一人の相続人Cが甲土地の売買契約を追認拒絶することは何の問題もないのです。

※資格融合説と資格併存説についてはこちらの記事をご参照下さい。

 さて、事例1において、資格依存設を取ることによりCは問題なく追認拒絶できることが分かりました。ではCが追認拒絶するとなると、相手方Dはどうなるのでしょうか?次回、その問題についてご説明して参りたいと思います。
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無権代理と相続 相続人が複数の場合の相手方

事例1
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をDと締結した。その後、Aは死亡し、Aの相続人であるBとCは甲土地を相続した。


 この事例1のようなケースでは、判例は資格併存説を取ります(前回の記事もご参照下さい)。よって本人Aの相続が開始しても甲土地の売買契約は不確定無効のままです。そしてCが甲土地の売買契約を追認拒絶すると、相手方Dは甲土地を取得することはできません。ではこのときに、相手方Dは一体何ができるのでしょうか?

(無権代理人の責任)
民法117条
他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。

 相手方Dは無権代理人Bに対し、上記の民法117条(無権代理人の責任)の規定により「契約の履行の請求」か「損害賠償の請求」ができます。しかし!判例は「損害賠償の請求」のみ認めました。

なぜ判例が「契約の履行の請求」を認めないか

 もし相手方Dの「契約の履行の請求」を認め、その請求どおりに甲土地の売買契約が履行してしまうと、甲土地の所有権赤の他人同士のCとD共有になってしまうからです。それでは判例がそもそも資格併存説を取った意味がなくなってしまいます(前回の記事もご参照下さい)。従いまして、事例1において、相手方Dができることは、無権代理人Bに対し「金よこせコラ」という損害賠償請求のみになります。

補足
 事例1のように相続人が複数いる場合、無権代理行為を追認する権利は、相続人全員不可分に帰属します。追認権が不可分に帰属するとは、追認権は分けられないということです。追認権が分けられないということは、追認する場合は相続人全員がそろって追認しなければ意味がないということです。全員揃って追認しなければ意味がないということは、1人でも追認しない者(追認拒絶する者)がいる限り追認の効果は発生しないということです。つまり、もし甲土地の売買契約の追認をするのなら、BとCの2人が揃って追認しなければなりません。ですので、Cが1人で追認拒絶するだけでは、相手方Dは甲土地を取得できません。ただ、ここで一点だけ気をつけて頂きたいのが、Cが1人で追認するケースです。このケースでは、それだけで甲土地の売買契約は有効になり、相手方Dは甲土地を取得できます。なぜなら、無権代理人Bの追認拒絶は信義則上許されないからです。ですので、Cが追認すると、自動的に無権代理人Bも「信義則上追認したとみなされる」ので、甲土地の売買契約は有効になり、相手方Dは甲土地を取得できます。この点はご注意下さい。
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無権代理人を本人が相続した場合

事例2
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をCと締結した。その後、Bは死亡し、Bの唯一の相続人のAが相続した。


 これは本人が無権代理人を相続したケースです。さて、ではこの事例2で、無権代理人Bを相続した本人Aは、甲土地の売買契約の追認を拒絶できるでしょうか?
 結論。無権代理人Bを相続した本人Aは、甲土地の売買契約の追認を拒絶できます。
 では一体どのような論理でそのような結論に至るのか?その論理構成を今からご説明して参ります。

事例2のようなケースで判例は資格併存説を取る

 まず、今回のようなケースでは、判例は資格融合説ではなく資格併存説を取ります(資格融合説と資格併存説についてはこちらの記事をご参照下さい)。
 なぜ資格併存説を取るのか?
 もし事例2のケースで資格融合説を取ってしまうと、無権代理人Bが死亡し、相続が開始した時点で甲土地の売買契約が有効になるので、結果として相手方Cの引渡し請求だけが認められ、本人Aの追認拒絶は認められなくなります。
 それの何が問題なん?
 これだと不公平なんです。だって、相手方CがBの無権代理行為の被害者なら、本人Aも無権代理行為の被害者ですよね?つまり、本人Aと相手方Cはお互いBの無権代理行為の被害者同士なんです。それなのに、常に相手方Cの引渡し請求だけが認められ、本人Aの追認拒絶が認められないとするのは、民法が考える利益衡量の観点からもよろしくありません。よって判例は、今回のようなケースでは資格融合説を取らず、資格併存説を取るのです。

資格併存説による論理的帰結

 それでは事例2を、資格併存説による論理でご説明して参ります。
 まず、無権代理人Bが死亡し、本人AがBを相続すると、Aには「本人の地位」と「無権代理人の地位」が併存することになり、また甲土地の売買契約は不確定無効のままです。そしてもし、Aが甲土地の売買契約を追認拒絶したい場合は「本人の地位」として問題なく追認拒絶ができます。すると、甲土地の売買契約は無効に確定します。
 あれ?資格併存説だからAには本人の地位と無権代理人の地位があって、本人の地位として追認拒絶できるのはわかったけど、じゃあ無権代理人としての地位の方はどうなの?
 ですよね。それにここまでの話だけだと、本人Aの権利ばかりが目立ちます。
 それって結局不公平じゃね?利益衡量がはかられてなくね?
 まさにそうで、これだけだとそもそも判例が資格併存説を取った意味がありません。もちろん判例はそんなズサンなロジックは展開しません。ちゃんと相手方Cの権利もしっかりと認めています。そしてその相手方Cの権利が、Aの「無権代理人の地位」に基づいたものなのです。だから判例は資格併存説なのです。
 というわけで次回、今度は相手方Cができることについてご説明して参ります。
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無権代理人を相続した本人に相手方ができること

事例2
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をCと締結した。その後、Bは死亡し、Bの唯一の相続人のAが相続した。


 このような無権代理人を本人が相続したケースでは、判例は資格併存説を取ります。従いまして、事例2で無権代理人Bを相続した本人Aには「本人の地位」と「無権代理人の地位」が併存します。そしてAは「本人の地位」として問題なく甲土地の売買契約の追認拒絶ができます(前回の記事もご参照下さい)。

 さて、Aが「本人の地位」として甲土地の売買契約を追認拒絶できるのはわかりましたが、Aに併存するもう一つの「無権代理人の地位」の方はどうなるのでしょうか?実はその問いが、今回のテーマである「無権代理人を相続した本人に相手方ができること」に繋がります。どういうことかといいますと、事例2の相手方Cは、Aに併存する「無権代理人の地位」に基づいて、Aに対し「無権代理人の責任」を追求することができるのです。
 それでは事例2で、相手方Cができることについてご説明して参ります。

無権代理人の責任追求の要件

 相手方Cは、Aの「無権代理人の地位」に基づいて、Aに対し無権代理人の責任を追求することができます。ただし!そのためにはいくつかの要件を満たさなければなりません。その要件は以下の4つになります。

1・本人の追認が得られない
2・代理権を証明できない
3・無権代理行為について善意・無過失
4・死亡した無権代理人Bが制限行為能力者でなかった

 これら4つの要件を満たせば、相手方Cは、Aに対し責任追求することができます。それではひとつひとつ見ていきます。
1・「本人の追認が得られない」とは、Aの追認が得られないということです。これは当たり前ですよね。Aが追認すれば甲土地の売買契約が有効になり、Cは当初の予定通りAから甲土地を取得できますから、そもそもAに対し責任追求する必要もなくなりますよね。
2・「代理権を証明できない」とは、亡くなったBの代理権を証明できないということです。つまり、「死亡したBに代理権がなかったことは確かだ」「Bが無権代理人だったことは間違いない」ということです。
3・「無権代理行為について善意・無過失」とは、Bに代理権がなかったことについて相手方Cが善意・無過失ということです。
4・「死亡した無権代理人Bが制限行為能力者でなかった」というのは読んだとおりです。死亡したBが未成年者や成年被後見人などではなかったということです。
 それでは、相手方Cが上記4つの要件全てを満たしていたとして、Aに対し「無権代理人の責任追求」をして、どんな請求ができるのでしょうか?

相手方Cができること

 相手方Cは、Aに併存する「無権代理人の地位」に基づいて、Aに対し民法117条(無権代理人の責任)に規定する請求ができます。民法117条では無権代理人の責任として「契約の履行」と「損害賠償」を定めています。しかし、相手方Cができる請求は「損害賠償」の方だけです。なぜ「契約の履行」の請求を認めないかといいますと、相手方Cの「契約の履行」の請求を認めてしまうと、Aに与えられた追認拒絶権の意味がなくなってしまうからです。Aの追認拒絶権の意味がなくなってしまうと、相手方Cの権利ばかりが認められてしまうことになってしまい不公平です。AとCは言ってみれば、Bの無権代理行為の被害者同士です。同じ被害者同士なのに片方の権利ばかりが認められてしまうのは、利益衡量の観点からもよろしくありません(A側の権利についての前回の記事もご参照下さい)。
 従いまして、事例2において、相手方Cは以下の4つの要件
1・本人(Aのこと)の追認が得られない
2・(亡Bの)代理権を証明できない
3・無権代理行為について善意・無過失
4・死亡した無権代理人Bが制限行為能力者でなかった
これらの要件を満たせば、Aに対し「金よこせコラ」と損害賠償の請求ができます。
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無権代理と相続 本人が追認拒絶後に死亡した場合

事例3
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をCと締結した。その後、Aは甲土地の売買契約を追認拒絶した後に死亡し、Aの唯一の相続人であるBは甲土地を相続した。


 これは無権代理人が本人を相続したケースですが、事例3の大事なポイントは、本人Aが追認拒絶をしてから死亡している点です。つまり、無権代理人Bは「追認拒絶してから死亡した本人A」を相続したということです。
 さて、この事例3ではなんと、本人Aを相続した無権代理人Bは、相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒むことができます。
 え?それって信義則に反するんじゃね?
 それがそうではないんです。なぜなら、事例3での本人Aは、追認拒絶してから死亡しているのです。ですので、普通であれば本人を相続したからといって無権代理人が自らの無権代理を追認拒絶することは信義則に反し許されませんが(こちらの記事もご参照下さい)、無権代理人Bが相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒んでも、それは「生前に本人Aが追認拒絶した」事実を言っているに過ぎないのです。もしくは、無権代理人Bが相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒んでも、それは生前の本人Aの意思を伝えているだけとも言えます。従いまして、無権代理人Bが甲土地の引渡し要求を拒んでも、それは信義則に反することにもならず問題ないのです。
 そもそも、本人Aが追認拒絶した時点で、甲土地の売買契約は無効に確定します。ですので、その後にAが死亡し、無権代理人Bが相続したからといって、相手方Cが甲土地の引渡し要求をしても、それは言ってみればCの悪あがきです。なぜなら、本人Aが生前に追認拒絶した時点で、すでに甲土地の売買契約は無効に確定しているからです。なので悪あがきなのです。

オマケ・複合型
事例4
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をDと締結した。その後、Bは死亡し、相続人であるAとCがBを相続した。その後、Aは死亡し、CはAを相続した。


 ややこしい事例ですよね(笑)。無権代理と相続について慣れないと訳わかんないと思います。では、これは一体どんな事例かといいますと「無権代理人Bを本人Aとともに相続したCが、その後さらに本人Aを相続した」というケースです。
 さて、この事例4でCは甲土地の売買契約を追認拒絶できるでしょうか?
 結論。Cは甲土地の売買契約の追認拒絶はできません。
 この複合型の事例4に関しましては、結論だけ覚えてしまって下さい。なぜなら、その理屈を聞いてもよくわからないからです(笑)。一応簡単にご説明しておきますと、「CはAとともに一旦無権代理人の地位を相続し、その後に本人を相続した。ということは無権代理人が本人を相続した場合と同じように考えられるので、甲土地の売買契約は当然に有効になり、Cは追認拒絶ができない」となります。
 ん?でもCが追認拒絶することは信義則に反しないんじゃね?
 そうなんです。だからこの理屈と結論はちょっとオカシイんです。しかし、これは判例でこのような結論と理屈になっているのです。従いまして、ここはたとえ納得できなかろうが、強引にこの結論を頭にぶち込んでしまって下さい。
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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
根本総合行政書士です。
宜しくお願いします。

保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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