契約不適合責任(瑕疵担保責任)~追完請求と代金減額請求/事業上の損害の賠償請求は?権利の行使期間は?

▼この記事でわかること
契約不適合責任は無過失責任
契約不適合責任に基づいた履行の追完請求と代金減額請求
契約不適合責任(瑕疵担保責任)による損害賠償請求
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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契約不適合責任(瑕疵担保責任)

 契約不適合責任は、民法改正以前は瑕疵担保責任と言われていたものです(読み方は「かしたんぽせきにん」。瑕疵とはキズとか欠陥という意味)。
 これは契約というものにおいて非常に重要な規定ですので、是非覚えておくことを推奨します。

契約不適合責任は無過失責任

 まずは事例をご覧ください。

事例
AはBから中古の自動車を購入した。しかし、購入後すぐに自動車のエンジンが故障した。整備工場で調べるとエンジンにはAB間の売買以前からの欠陥があり、その欠陥が原因となってエンジンが故障したことが判明した。さらにAはこの自動車を事業用に購入していて、この故障が原因で事業上の損害も発生した。


 この事例で、Aは何ができるのか?という問題に入る前に、この事例1にはいくつかのポイントがありますので、まずはそこを確認しておきます。

・ポイント1
 Aが購入した自動車は中古の自動車
 これは特定物なので、全く同じ物が他に存在しない(新車は不特定物)。要するに替えがきかない物ということ。

・ポイント2
 エンジンにはAB間の売買以前から欠陥(瑕疵)がある。
 つまり、AB間の売買契約前の欠陥ということ(欠陥発生が契約前か後かで法律構成が全く変わってくる)。

・ポイント3

 欠陥は相当がっちり調べてみないとわからないような欠陥なので、売主Bには過失(ミス・落ち度)がないと思われる。

 上記3つのポイントをまずは押さえてください。その上で、こちらの条文をご覧ください。

(特定物の現状による引渡し)
483条
債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

 
 条文中の「弁済をする者」とは事例1の場合、売主Bのことです。
 先ほどの3つのポイントを踏まえると、事例は売主Bの契約不適合責任となります。
 Bに過失(ミス・落ち度)はないのにBの責任問題になるの?
 そう思いますよね。そもそも中古の自動車は特定物で、民法483条の規定により、引渡し時の現状で引き渡せばいいはずです。
 引渡し時に欠陥があるなら、それをそのまま引き渡しても売主は債務を履行した(約束を果たした)ことになるはずでしょう。
 よって売主Bは、引渡し時にすでに欠陥のある中古自動車(特定物)をそのまま買主Aに引き渡しても債務の履行を果たしたことになり、Bの債務不履行にはならないから、Bには責任は生じないのでは。。。
 しかし!契約不適合責任は無過失責任なのです。
 無過失責任とは過失(ミス・落ち度)がなくても負わなければならない責任です。
 したがって、過失のない売主Bも負わなければならない責任、それはつまり、売主Bの契約不適合責任になるのです。売主Bの過失のあるなしは関係ないのです。

契約不適合責任に基づいた履行の追完請求と代金減額請求
素材112債権
 さて、では買主Aは売主Bに対して、その契約不適合責任に基づいて、一体どんな請求ができるのでしょうか?

買主Aは売主Bに自動車の修理を請求できる?
 買主Aは売主Bに修理の請求ができます。この請求は、少し難しい言い方になりますが「目的物の修補」の請求となります。

買主Aは売主Bに自動車の修理代金の請求はできる?
 買主Aは売主Bに修理の代金の請求が請求できます。

 上記2つの請求権は、民法562条の規定に基づく買主の追完請求権になります。

(買主の追完請求権)
562条
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2項 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。


 なお、上記2項の条文から、契約の不適合が買主の責任によるものである場合は、追完請求はできません。
 つまり、もし今回の事例で、車の欠陥が買主Aの過失によるものであれば、Aは売主Bに対して修理の請求も修理代金の請求もできない、ということです。
 まあ、当たり前ですよね。
 
 また、買主が修補請求(履行の追完請求)をしても売主が修補しないとき、あるいは修補が不能であるときは、買主は売主に対し)代金減額請求ができます。
 つまり、買主は売主に「修補(履行の追完)できねーなら安くしろ!」と言える、ということです。

(買主の代金減額請求権)
563条
前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて
代金の減額を請求することができる。

いつまで請求できる?権利の行使期間

 追完請求も代金減額請求も、買主が不適合の事実を知ってから1年以内にその旨を売主に通知しないと請求できなくなってしまいます。
 したがって事例の場合、買主Aは売主Bに対して車の欠陥を知ってから1年以内にその旨を通知しないと追完請求も代金減額請求もできなくなってしまうという訳です。
 ここで注意点があります。それは事実を知ってから1年以内の通知という部分です。
 これは、あくまで通知であって、実際の「修補しろ!」「金払え!」「安くしろ」という請求通知した後で構わないという事です。
ここポイント
 細かい部分ですが「1年以内の請求」ではない、ということは覚えておいてください。
 こういう部分は試験で問われやすいです。

契約不適合責任(瑕疵担保責任)による損害賠償請求

 ここでもう一度、事例をご覧ください。
 
事例
AはBから中古の自動車を購入した。しかし、購入後すぐに自動車のエンジンが故障した。整備工場で調べるとエンジンにはAB間の売買以前からの欠陥があり、その欠陥が原因となってエンジンが故障したことが判明した。さらにAはこの自動車を事業用に購入していて、この故障が原因で事業上の損害も発生した。


 さて、今回の事例で、買主Aは売主Bに対し自動車の故障によって生じた、事業上の損害の賠償請求はできるでしょうか?
 結論。買主Aは売主Bに対し事業上の損害の賠償請求はできません。
 え?そうなの?
 はい。その理屈を今から解説します。

法定責任

 売主Bには過失がありません。しかし、契約不適合責任は無過失責任です。
 契約不適合責任は、売主は過失がなくても負う責任です。これは法律で定められた責任、すなわち法定責任です。
 ですので、たとえ過失のない売主でも法律の定めにより問答無用で負わされる責任です。
 したがって、買主Aは売主Bの契約不適合責任により自動車の修理の請求等ができる訳です。
 ではなぜ、事業上の損害の賠償請求はできないのでしょうか?
 また、事業上の損害を請求できるケースもあるのでしょうか?
考え中
信頼利益と履行利益

 一般に、損害賠償の範囲の考え方については、次のようなことが言われています。

・信頼利益
 有効でない契約が有効に成立したと誤信したため生じた損害(契約できると間違って信じたことによって生じた損害)、これを信頼利益という。
例→契約のため目的地に行くためにかかった交通費

・履行利益
 契約が完全に履行された場合に債権者が受ける利益、これを履行利益という。
例→商品の転売の利益(買主がその商品を買えていればそれを売って儲けられたであろう利益)

 この説明だけでは今ひとつピンと来ないですよね。
 事例に当てはめるとこうなります。

・中古の自動車の修理代金信頼利益
事業上の損害履行利益


売主に故意・過失があった場合

 瑕疵担保責任における損害賠償の範囲信頼利益に限ります。この考えを法定責任説と言います。別の見解の学説もありますが、法定責任説は裁判所の見解とも一致します。
 しかし、民法改正によって瑕疵担保責任が契約不適合責任となり、売主に故意・過失があった場合は、買主から売主へ履行利益を含めた損賠賠償の請求も認められます。
 したがいまして、今回の事例で、もし売主Bに故意・過失があった場合、買主Aは売主Bに対して事業上の損害の賠償請求もできます。
 
買主Aは契約の解除はできる?

 民法改正以前の瑕疵担保責任においては、買主が善意でかつ隠れた瑕疵(事例で言えば整備工場でやっとみつかった中古自動車の欠陥)のために契約の目的を達することができないとき、契約の解除可能でした。
 しかし、民法改正により、解除については債務不履行の一般規律に従うことになります。
 したがいまして、債務不履行の一般規律に従い要件を満たせば、買主Aは契約の解除も可能です。

【参考】
契約不適合責任に基づいた買主から売主に対する請求についての法務省資料
契約不適合責任
※出典:法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料』

 なお、解除に関する民法の規定は以下のようなものがあります。

(催告による解除)
541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。


 上記の規定を事例に当てはめて考えると「自動車の欠陥が軽微なものでなければ契約の解除はできる」ということになります。
 ではどの程度が軽微なのか?ですが、これについては明確な客観的な定義がある訳ではなく、事案ごとに個別具体的に見ていくことになります。
 ですので、2020年4月施行の民法改正以降の判例(裁判結果)の集積により定まっていくことになるでしょう。

 なお、債務不履行による解約の解除について詳しくはこちらで解説しておりますので、そちらも併せてお読みいただくとより理解が深まるかと存じます。

危険負担の基本はババ抜き~代金支払い債務は?債務者主義と債権者主義とは

▼この記事でわかること
危険負担とはババ抜き?
売買代金の支払い債務はどうなるか
代金の支払いを買主は拒めるか~売主は債務者・買主は債権者
債務者主義と債権者主義
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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危険負担
危険負担とはババ抜きみたいなもの?

 売買契約のような互いに債務を負う契約(これを双務契約と言う)

売主の債務→物を相手に引き渡す
買主の債務→金を相手に払う

 上記のような契約で、債務が履行される前(売主が相手に物を引き渡す前)に、お互いのどちらの責任にもならない事由(理由・原因)で債務の履行ができなくなったとき(売主・買主どちらの責任でもなく物が消滅した場合等)、その債務をどうするのか?という問題を危険負担と言います。
 まずはわかりやすく事例を見てみましょう。

事例
売主Aと買主BはA所有の甲建物の売買契約を締結した。しかし、その引渡し前に甲建物は地震によって倒壊した。


 これがまさに危険負担の問題となる典型的なケースです。

売買契約
A ― B
  甲建物
  (A所有)
  
Bへ引渡し前に倒壊

 つまり、売買契約はしたが引き渡し前に地震で甲建物がぶっ壊れた、じゃあその「甲建物がぶっ壊れた」という危険を売主Aと買主Bのどちらが負担するのか?すなわち危険負担ということです。
 要するに、危険負担とは危険というババをどちらが抜くか(負担するか)、つまり、売主vs買主のババ抜きみたいなものとも言えます。
素材114トランプ 
売買代金の支払いという債務はどうなるか

 事例で、売主Aは買主Bから売買代金をもらえるでしょうか?
 いやいやそれはムリっしょ?という声が聞こえてきそうですが、まさにこの問題について考えることこそ、民法上の危険負担というものについて本格的に考えていくこととなるのです。
 なお、不動産は全て特定物です。つまり、全く同じ物は世の中に他に存在しません(たとえ全く同じ建物が近くにあっても、何なら同マンション内でも、建物内から見える景色は僅かでも変わりますよね...etc)。
 この点はまず前提として覚えておいてください。

 それでは、危険負担について、いくつかのケースに分けて見ていきましょう。

1・AB間の売買契約の前日に甲建物が倒壊していた場合

 この場合は、どんな理由であろうともその契約は無効です。
 なぜなら、甲建物が売買契約前にすでに倒壊しているということは、すでに売買不能の物を契約したということになります。
 売買不能の物の売買契約は不可能なので、そのような契約は法律上、当然に無効になります。
 無効ということは契約そのものが成立しませんので、売買代金もクソもないということです。
 よって、売主Aは買主Bから売買代金はもらえません。

2・AB間の売買契約当初から甲建物に欠陥があった場合

 これは、売主Aの契約不適合責任(瑕疵担保責任)の話になります。
 契約不適合責任は無過失責任です。売主Aは過失がなくとも負わなければならない責任です。
 この場合、契約は一旦有効に成立しているので、売主Aは売買代金をもらえますが、買主Bは売主Aに対し契約不適合責任による修補の請求・修理代金の請求や損害の賠償の請求、場合によっては契約の解除も可能になります(契約不適合責任について詳しくはこちらの記事をご参照ください)。※
※今回の事例の場合、そもそも甲建物が倒壊しているので解除か損害賠償の請求が妥当かと思われる。

3・売主Aに過失(ミス)があって甲建物が全壊(滅失)あるいは損傷(一部が破損)した場合

 この場合は、売主Aの債務不履行の問題です。
 ですので、この場合も契約は一旦有効に成立しているので、Aは売買代金をもらえますが、買主Bは売主Aに対し債務不履行による損害賠償の請求、場合によっては契約の解除が可能になります。※
※債務不履行についてはこちらの記事をご参照ください。
 
 なお、上記2と3のケースで契約が解除された場合、結局、売主Aは受け取った売買代金を買主Bに返還しなければなりません(原状回復義務)

 さて、ここまで3つのケースを見てきました。しかし、これらはどれも危険負担の話ではありません。
 それでは、危険負担の話になる場合とはどんなときでしょうか?
 危険負担の話となるのは、次のようなケースです。

契約成立後、売主に過失なく建物が滅失または損傷した
 
 事例に当てはめるとこうです。

AB間の売買契約成立後、売主Aに過失がなく甲建物が全壊または一部が壊れた

 このようなケースが危険負担の話となります。
 そう、つまり冒頭の事例がまさににこのケースなのです。
 説明が回りくどくね?
 はい。スイマセン(笑)。しかし、わざわざ遠回りして別のケースをご説明してきたのには理由があります。
 私の経験上、危険負担については、かなりじっくりやらないと頭が混乱してしまうこと必至と考えます。
 ですので、回りくどいかもしれませんが、危険負担の話に入る前の前提として、確認しておくべきことを確認した次第なのです。
ここがポイントだよ
 前提の部分が曖昧なままだと、分かりやすい分りづらい以前のハナシになってしまいますから。
 引っ張るような形になってしまいましたが、まずは危険負担を理解するための前提として、ここまでの内容をしっかり覚えておいてください。

売買契約後引渡し前に倒壊した建物
代金の支払いを買主は拒めるのか


 ここで再度、事例の確認です。

事例
売主Aと買主BはA所有の甲建物の売買契約を締結した。しかし、その引渡し前に甲建物は地震によって倒壊した。


 危険負担が問題となるケースとは、AB間の売買契約成立後売主A買主B双方に過失(ミス・落ち度)がなく甲建物が全壊または一部が壊れた場合です。事例はそのケースを想定しています。
 では本題に入りましょう。
 このときに、売主Aは売買代金をもらえるのでしょうか?

売主は債務者、買主は債権者

 まず、危険負担について考えるときの基本事項です。
 危険負担の話においては、売主債務者買主債権者となります。
 これは、契約の対象となっている「目的物」を基準に考えるからです。
 事例に当てはめると、甲建物を基準に考えて、売主のA債務者買主のB債権者となります。
 この危険負担の基本は、最初は感覚的に馴染まないと思います。ですが、まずはここをしっかり覚えてください。
 繰り返します。
 危険負担に関しては「金」ではなく「目的物」を中心に考えるので

目的物の引渡し義務のある売主が債務者
目的物をよこせと請求する権利がある買主が債権者


となります。

売主、買主ともに過失がない

 これが一番の問題点であり、危険負担の本質です。
 事例で考えると、売主Aも買主Bも過失(ミス・落ち度)がなく、ましてや地震は天災です。つまり、売主A買主Bどちらも悪くないんです。
 では甲建物の倒壊の負担は誰が負うのか?
 これはいわばババ抜き状態です。
「甲建物の倒壊」というババをどちらが抜く(負担する)のか、売主vs買主のババ抜き対決です。
素材114トランプ
 まずは売主Aと買主B、互いの言い分を聞いてみましょう。

・売主Aの言い分
「甲建物が倒壊したのはアタイのせいじゃない!だからBは約束の金を払いな!」

・買主Bの言い分

「甲建物が倒壊したのはオイラのせいじゃねぇ!金だけ取られてたまるかってんだ!」

 このようになります。若干のキャラ設定は気にしないでくださいね(笑)。
 どちらの言い分も間違ってはいません。どちらも悪くありません。
 しかし!誰も悪くないけど誰かが負担しなければならない、それが危険負担なんです。
 つまり、売主Aか買主B、そのどちらかが「甲建物の倒壊」という危険負担しなければならない、だから危険負担なんです。

債務者主義と債権者主義

 危険負担の問題に関しましては、債務者主義という考え方と、債権者主義という考え方があります。


【債務者主義】

 売主(債務者)はお金をもらえない、つまり、売主(債務者)が危険を負担すべきという考え

【債権者主義】

 買主(債権者)はお金を払うべき、つまり、買主(債権者)が危険を負担すべきという考え

 では、民法の条文はどうなっているのでしょうか?

(債務者の危険負担等)
536条
当事者双方責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。


 条文の「当事者双方の責めに帰することができない」というのは「売主にも買主にも過失(ミス・落ち度)がない」という意味です。そして「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」というのは「買主は売買代金の支払いを拒める」という意味です。
 以上の事から、民法の規定は債務者主義という立場なのがわかります(改正前の民法は債権者主義だった)。
 という事で、売主Aは売買代金をもらえるのか?その答えはもう出ましたね。
 結論。売主Aは甲建物の売買代金はもらえせん。
 
買主Bは甲建物の売買代金を払わなくても良いのです。
 よって、ババ抜き対決の勝者は買主Bです。
 また上記条文2項にあるように、甲建物の倒壊の原因買主Bによるものであれば、買主Bは売買代金の支払いを拒めませんので、このときは、売主Aは売買代金をもらえます。

不動産以外の危険負担~イベント出演不可時のギャラ問題/不特定物は?不特定物が特定物に変わる?

▼この記事でわかること
イベント出演等の危険負担
不特定物は危険負担にあらず
不特定物が特定物に変わる時
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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不動産以外の危険負担
イベント出演等の危険負担
 
 危険負担と言えば引渡し前の建物の倒壊等、不動産のケースが真っ先に思い浮かびますが、不動産以外で危険負担の問題となる場合は、一体どうなっているのでしょうか?
(危険負担とは?など危険負担の基本については詳しくはこちらをご参照ください)
 まずは事例をご覧ください。 

事例1
スーパーギタリストAはB音楽事務所が主催するロックイベントに出演することを約束した。しかしイベント当日、地震による交通機関の麻痺により、Aはイベント会場に行くことができなかった。


 さて、この事例1において、スーパーギタリストAは出演料(ギャラ)はもらえるでしょうか?
 事例1では、AにもBにも過失(ミス・落ち度)がありません。よって、これは危険負担の問題になります。
 この事例で言えば「地震によってイベント出演ができなくなった」という危険を誰が負担するのか?という問題です。
 このような危険負担の問題は、契約の「目的物」を中心に考えます。
 では、この事例1においての、契約の目的物とはなんでしょう。
 それはAが出演することです。
 すると「Aが出演すること」に対しての債務者債権者ということになります(これについて詳しくはこちら)。
 もっとわかりやすく言えば「出演する義務」がスーパーギタリストAにあり「出演しろ!」と言う権利が音楽事務所Bにある、ということです。
素材116ギタリスト
 で、出演料(ギャラ)はどうなるの?
 結論。AはBから出演料はもらえません。
 非常にわかりづらいと思いますが、根拠となる条文こちらになります。

(債務者の危険負担等)
536条
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

 
 条文の「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」という部分を事例に当てはめると「音楽事務所Bは出演料の支払いを拒むことができる」となります。
 したがって、スーパーギタリストAは出演料をもらえません。
 繰り返しますが「Aが出演すること」は契約の目的物で、その契約の目的物の債権者はBです。

今回のポイントと出演契約で気を付けること

 繰り返しになりますが、重要なポイントだけ押さえていきます。
 条文の「当事者双方の責めに帰することができない」というのは、事例に当てはめると「AとB双方に過失(ミス・落ち度)がない」ということです。
 そして「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」という部分は「Bは出演料の支払いを拒むことができる」となります。
 ちなみに反対給付というのは「Aが出演すること」に対するBからの給付、つまり「Aのギャラの支払い」のことです。なので「Aはギャラをもらえない」という結論になるのです。
 まあでもこの結論は、民法云々以前に、我々の一般的な常識から考えても当たり前の結論ですよね。
 いくらAがス-パーギタリストといえど当然の結果でしょう。
 もし、Aがこの結果に不服があるなら、出演前の交渉の段階でしっかりと細かい条件等の事項を詰めておかなければならなかった、というハナシです。

不特定物は危険負担にあらず
素材117ビール
 続いては、次のようなケースではどうなるでしょうか?

事例2
酒屋のAは、イベント会社のBから「ビール1ダースを午後3時までにパーティー会場に」との配達注文を受けた。しかし、Aは指定されたパーティー会場への配達の途中に地震に見舞われ転倒し、ビール瓶はすべて割れてしまった。


 さて、この事例の場合「ビール瓶が割れてしまった」という危険は、AとBのどちらが負担するのでしょうか?
 正解。これは危険負担の話ではありません。なぜなら、ビールは特定物ではなく不特定物だからです。
 不特定物ということは、世の中に替わりになる同じ物が存在するということを意味します。
 したがって、酒屋Aはたとえ午後3時に間に合わなかったとしても、新たなビール1ダースを積み直して届けなければなりません。でないと、Aは債務不履行に陥ってしまいます。
 地震というのは天災なので、Aに過失(ミス・落ち度)はありませんから、地震が原因で指定時間に遅れても債務不履行という扱いにはならないでしょう。
 現実には、AとBがお互い話し合ってどうするのかを決めることになると思いますが、何の話し合いも合意もないのであれば民法の原則として従来の約束を守らなければならないので、Aは指定時間に遅れてでも同じビール1ダースを積み直して、パーティー会場に届けなければなりません。それがAB間での債務の履行(約束を果たすこと)だからです。

「危険負担とは双務契約の当事者双方の責めに帰すことができない後発的不能の問題である」

 なんだか小難しい言い回しですが、簡単にわかりやすく言うと、危険負担とは「契約成立後、契約当事者のどちらにも過失(ミス・落ち度)がなく契約の履行(事例2で言えばビールを届けること)が不能になってしまった(後発的不能)」場合の話です。
 つまり、事例2の場合、替わりのビールを届けること(債務の履行)はできるから「後発的不能」にはならず、危険負担の話にはならないのです。
素材118宅配
補足:不特定物が特定物に変わる時

 ところで、不特定物が特定物に変わるのはいつなのか?という問題があります。
 え?不特定物が特定物に変わるの?
 はい。実はその規定は民法の条文にあります。

(種類債権)
民法401条2項
前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。

※種類債権とは、一定の種類に属する物の一定量を引き渡すことを目的とする債権。ビール1ダースはまさにそれ。不特定物の債権種類債権と呼ぶ。

 条文を読むだけではよくわからないと思いますが、条文では、不特定物が特定物に変わるタイミングとして2つの場合を定めています。

1・債務者が物を給付するのに必要な行為を完了した場合

 この場合、判例が以下の3パターンを認めている。
〈パターンA〉
 債務者が債権者の元へ物を届ける場合(これを持参債務という)、債権者の現在の住所において物を給付するのに必要な行為を完了した時に不特定物が特定され特定物に変わる。
 例→酒屋が注文者の自宅に注文を受けたビール1ダースを「どうぞ」と差し出した時
〈パターンB〉
 債権者が債務者のところに物を取りに行く場合(これを取立債務という)、履行を準備し給付物を分離してそれを債権者に通知した時に不特定物が特定され特定物に変わる。
 例→酒屋が「あの注文者のビール1ダースはこれ」と決めて、それを取り分けて「いつでもどうぞ」とその注文者に連絡した時
〈パターンC〉
 債権者の住所地以外の場所に送付する債務の場合(これを送付債務と言う)、送付することが債務者の義務であれば現実の提供時に、債務者の好意で送付する場合は発送時に、不特定物が特定され特定物に変わる。
 例→これはまさに事例3のケースで、酒屋のAがイベント会社B指定のパーティー会場にビール1ダースを実際に届けた時に、ビール1ダースは特定され特定物となる。

2・債権者の同意を得てその給付をすべき物を指定した場合

 例えば、酒屋が注文者の同意の上で「あの注文者の分はこの1ダース」と指定した時

 以上が、不特定物が特定され、特定物に変わる時になります。
 そして、不特定物が特定物に変わると、危険負担の話になります。
 したがって、理屈としては不特定物が特定され特定物に変わった瞬間に、物の「所有権と危険」が買主(債権者)に移転します。
 そう、それは地雷系の人が恋人になった瞬間、その地雷があらわになるみたいに..とは違いますね(笑)。

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