契約不適合責任(瑕疵担保責任)の超基本 買った物に欠陥があったとき修理の請求はできる?修理代金の請求はできる?安くしろと請求できる?できるならいつまで?

 契約不適合責任は、民法改正以前は瑕疵担保責任と言われていたものです(読み方は「かしたんぽせきにん」。瑕疵とはキズとか欠陥という意味)。これは契約というものにおいて非常に重要な規定ですので、是非頭に入れておいて頂きたいと存じます。

契約不適合責任は無過失責任

事例
AはBから中古の自動車を購入した。しかし、購入後すぐに自動車のエンジンが故障した。整備工場で調べるとエンジンにはAB間の売買以前からの欠陥があり、その欠陥が原因となってエンジンが故障したことが判明した。さらにAはこの自動車を事業用に購入していて、この故障が原因で事業上の損害も発生した


 この事例で、Aは何ができるのか?という問題に入る前に、この事例にはいくつかのポイントがありますので、まずはそこを確認しておきます。
ポイント1
 Aが購入した自動車は中古の自動車。これは特定物(新車は不特定物。特定物・不特定物に関してはこちらの記事へ)。つまり、全く同じ物が他に存在しない。
ポイント2
 エンジンにはAB間の売買以前から欠陥がある。つまり、AB間の売買契約前の欠陥ということ(欠陥発生が契約前か後かで法律構成が全く変わってくる)。
ポイント3
 欠陥は相当がっちり調べてみないとわからないような欠陥なので、売主Bには過失(ミス)がないと思われる。

 上記3つのポイントをまずは押さえて下さい。その上で、こちらの条文をご覧ください。

※民法改正後(20204月1日施行)
(特定物の現状による引渡し)
483条
債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。


※民法改正前
(特定物の現状による引渡し)
民法483条
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

 
 条文中の「弁済をする者」とは今回の事例の場合、売主Bのことです。
 先ほどの3つのポイントを踏まえた上で、事例は売主Bの契約不適合責任となります。
Bに過失(ミス)はないのに?
 確かに中古の自動車は特定物なので、民法483条の規定により、引渡し時の現状で引き渡せばいいはずです。引渡し時に欠陥があるなら、それをそのまま引き渡せば債務を履行したことになるはずでしょう。よって売主Bは、引渡し時にすでに欠陥のある中古自動車(特定物)をそのままAに引き渡しても債務の履行を果たしたことになり、Bの債務不履行にはならないから、Bには責任は生じないのでは。。。
 しかし!契約不適合責任は無過失責任なのです。過失のないBも負わなければならない責任ということは、つまり、契約不適合責任に売主Bの過失のあるなしは関係ないのです。

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契約不適合責任に基づいた買主の売主に対する追完請求権

買主Aは売主Bに自動車の修理を請求できる?
 買主Aは売主Bに修理の請求ができます。この請求は、少し難しい言い方になりますが「目的物の修補」の請求となります。

買主Aは売主Bに自動車の修理代金の請求はできる?
 買主Aは売主Bに修理の代金の請求が請求できます。

 上記2つの請求権は、民法562条の規定に基づく買主の追完請求権になります。

(買主の追完請求権)
562条
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2項 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。


 なお、上記2項の条文から、契約の不適合が買主の責任によるものである場合は、追完請求はできません。つまり、もし今回の事例で車の欠陥が買主Aの過失によるものであれば、Aは売主Bに対して修理の請求も修理代金の請求もできないということです。まあ、当たり前ですよね。
 また、買主が修補請求をしても売主が修補しないとき、あるいは修補が不能であるときは、買主は売主に対して代金減額請求ができます。つまり、買主は売主に「修補できねーなら安くしろ!」と言えるということです。

(買主の代金減額請求権)
563条
前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。


いつまで請求できる?権利の行使期間

 追完請求も代金減額請求も、買主が不適合の事実を知ってから1年以内にその旨を売主に通知しないと請求できなくなってしまいます。したがって事例の場合、買主Aは売主Bに対して車の欠陥を知ってから1年以内にその旨を通知しないと追完請求も代金減額請求もできなくなってしまうという訳です。
 ここで注意点は、事実を知ってから1年以内の通知という部分です。あくまで通知であって、実際の「修補しろ!」「金払え!」「安くしろ」という請求は通知した後で構わないという事です。細かい部分ですが、1年以内の請求ではないということは覚えておいて下さい。
続いての記事はこちら

契約不適合責任(瑕疵担保責任)による損害賠償請求~信頼利益と履行利益~契約の解除は?

 契約不適合責任は、民法改正以前は瑕疵担保責任と言われていたものです(読み方は「かしたんぽせきにん」。瑕疵とはキズとか欠陥という意味)。
 
事例
AはBから中古の自動車を購入した。しかし、購入後すぐに自動車のエンジンが故障した。整備工場で調べるとエンジンにはAB間の売買以前からの欠陥があり、その欠陥が原因となってエンジンが故障したことが判明した。さらにAはこの自動車を事業用に購入していて、この故障が原因で事業上の損害も発生した


 買主Aは売主Bの契約不適合責任により、自動車の修理の請求、修理代金の請求ができます(これについて詳しくは前回の記事へ)。しかも契約不適合責任は無過失責任なので、売主Bの過失の有無は関係ありません(売主Bにミスがあったかどうかは関係ない)。自動車の欠陥が買主Aの責任によるものでなければ、売主Bに過失(ミス)がなくとも、買主Aは売主Bに対して自動車の修理の請求(目的物の修補請求)、修理代金の請求ができます(これらの請求を買主の追完請求という)。また、売主Bが修補しないときは、買主Aは売主Bに対し「安くしろ!」と請求できます(代金減額請求→詳しくは前回の記事へ)。
素材112債権
損害賠償請求はできるのか?

 では、今回の事例で、買主Aは売主Bに対し自動車の故障によって生じた事業上の損害の賠償請求はできるでしょうか?
 結論。買主Aは売主Bに対し事業上の損害の賠償請求はできません。その理屈を今からご説明いたします。

法定責任

 売主Bには過失がありません。しかし、契約不適合責任は無過失責任です。契約不適合責任は、売主は過失がなくても負う責任です。これは法律で定められた責任、すなわち法定責任です。ですので、たとえ過失のない売主でも法律の定めにより問答無用で負わされる責任です。したがって、AはBの契約不適合責任により自動車の修理の請求等ができる訳ですが、ではなぜ、事業上の損害の賠償請求はできないのでしょうか?また、事業上の損害を請求できるケースもあるのでしょうか?

信頼利益と履行利益

 一般に、損害賠償の範囲の考え方については、次のようなことが言われています。
・信頼利益
 有効でない契約が有効に成立したと誤信したため生じた損害(契約できると間違って信じたことによって生じた損害)、これを信頼利益という。(例)契約のため目的地に行くためにかかった交通費
・履行利益
 契約が完全に履行された場合に債権者が受ける利益、これを履行利益という。(例)商品の転売の利益(要するに買主がその商品を買えていれば後にそれを売って儲けられたであろう利益)
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 この説明だけでは今ひとつピンと来ないですよね。事例に当てはめて考えてみましょう。中古の自動車の修理代金が信頼利益になり、事業上の損害は履行利益になります。

売主に故意・過失があった場合

 瑕疵担保責任における損害賠償の範囲信頼利益に限ります。この考えを法定責任説といいます。別の見解の学説もありますが、法定責任説は裁判所の見解とも一致しまます。しかし、民法改正によって瑕疵担保責任が契約不適合責任となり、売主に故意・過失があった場合は、買主から売主へ履行利益を含めた損賠賠償の請求も認められます。
 従いまして、今回の事例で、もし売主Bに故意・過失があった場合、買主Aは売主Bに対して事業上の損害の賠償請求もできます。
 
買主Aは契約の解除はできる?

 民法改正以前の瑕疵担保責任においては、買主が善意でかつ隠れた瑕疵(事例で言えば整備工場でやっとみつかった中古自動車の欠陥)のために契約の目的を達することができないとき、契約の解除ができます。しかし、民法改正により、解除については債務不履行の一般規律に従うことになります。
 従いまして、債務不履行の一般規律に従い要件を満たせば、買主Aは契約の解除も可能です。

※民法改正後
(催告による解除)
541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。


※民法改正前
(履行遅滞等による解除権)
541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

 上記の規定によれば、自動車の欠陥が軽微なものでなければ契約の解除はできるということになります。ではどの程度が軽微なのか?ですが、これについては事案ごとに個別具体的に見ていくことになります。ですので、民法改正以降の判例(裁判結果)の集積により定まっていくことになるでしょう。
 なお、債務不履行による解約の解除についてはこちらで詳しく解説しておりますので、ご覧になって頂ければと思います。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

危険負担の超基本~売買契約成立後の引渡し前に物が滅したらそれは誰が負担するか~危険負担とはババ抜きみたいなもの?

危険負担とはババ抜きみたいなもの?

 売買契約のような互いに債務を負う契約(これを双務契約という)
売主の債務→物を相手に引き渡す
買主の債務→金を相手に払う
上記のような契約で、債務が履行される前(売主が相手に物を引き渡す前)に、お互いのどちらの責任にもならない事由(理由・原因)で債務の履行ができなくなったとき(売主・買主どちらの責任でもなく物が消滅した場合等)、その債務をどうするか?という問題を危険負担といいます。
 まずは分かりやすく事例を見てみましょう。

事例
売主Aと買主BはA所有の甲建物の売買契約を締結した。しかし、その引渡し前に甲建物は地震によって倒壊した。


 これがまさに危険負担の問題の典型ケースです。つまり、売買契約はしたが引き渡し前に地震で甲建物がぶっ壊れた、じゃあその甲建物がぶっ壊れたという危険を売主Aと買主Bのどちらが負担するのか?すなわち危険負担ということです。
 要するに、危険負担とは危険というババをどちらが抜くか(負担するか)、つまり売主vs買主のババ抜きみたいなものとも言えます。
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売買代金の支払いという債務はどうなるか

 この事例で、売主Aは買主Bから売買代金をもらえるでしょうか?いやいやそれはムリっしょ?という声が聞こえてきそうですが、この問題が本格的に民法上の危険負担というものを考えていくことになります。
 尚、不動産は全て特定物です。つまり、全く同じ物は世の中に他に存在しません(たとえ全く同じ建物が近くにあっても(同マンション内でも)建物内から見える景色は僅かでも変わる等々)。この点はまず前提として押さえておいて下さい。
 それでは、危険負担について、いくつかのケースに分けて見ていきましょう。

1・AB間の売買契約の前日に甲建物が倒壊していた場合
 この場合は、どんな理由であろうともその契約は無効です。なぜなら、甲建物が売買契約前にすでに倒壊しているということは、すでに売買不能の物を契約したということになります。売買不能の物の売買契約は不可能なので、そのような契約は法律上、当然に無効になります。無効ということは契約そのものが成立しませんので、売買代金もクソもないということです。よって、AはBから売買代金はもらえません。

2・AB間の売買契約当初から甲建物に欠陥があった場合
 これは、売主Aの契約不適合責任(瑕疵担保責任)の話になります。契約不適合責任は無過失責任です。売主Aは過失がなくとも負わなければならない責任です。この場合、契約は一旦有効に成立しているので、売主Aは売買代金をもらえますが、買主Bは売主Aに対し契約不適合責任による修補の請求・修理代金の請求※や損害の賠償の請求、場合によっては契約の解除も可能になります(契約不適合責任について詳しくはこちらの記事をご参照下さい)。
※今回の事例の場合、そもそも甲建物が倒壊しているので解除か損害賠償の請求が妥当かと思われる。

3・売主Aに過失(ミス)があって甲建物が全壊(滅失)あるいは損傷(一部が壊れる)した場合
 この場合は、売主Aの債務不履行の問題です。ですので、この場合も契約は一旦有効に成立しているので、Aは売買代金をもらえますが、買主Bは売主Aに対し債務不履行による損害賠償の請求、場合によっては契約の解除が可能になります。
※債務不履行についてはこちらの記事をご参照下さい。
 
 尚、上記2と3のケースで契約が解除された場合、結局、売主Aは受け取った売買代金を買主Bに返還しなければなりません(原状回復義務)。
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 さて、ここまで3つのケースを見てきました。しかし、これらは危険負担の話ではありません。それでは、危険負担の話になる場合とはどんなときでしょうか?
 危険負担の話となるのは、次のようなケースです。

契約成立後、売主に過失なく建物が滅失または損傷した
 
 事例に当てはめるとこうです。
AB間の売買契約成立後、売主Aに過失がなく甲建物が全壊または一部が壊れた

 このようなケースが危険負担の話となります。そう、つまり冒頭の事例がまさににこのケースなのです。
 回りくどくね?
 はい。スイマセン(笑)。しかし、わざわざ遠回りして別のケースをご説明してきたのには理由がございます。私の経験上、危険負担については、かなりじっくりやらないと頭が混乱してしまうと考えます。ですので、回りくどいかもしれませんが、危険負担の話に入る前の前提として、確認しておくべきことを記した次第なのです。

 という訳で次回、本格的にご説明して参ります。引っ張るような形になってしまいましたが、まずは危険負担を理解するための前提として、今回の内容を頭に入れておいて下さい。
続いての記事はこちら

不動産の危険負担~買主は売買契約後引き渡し前に倒壊した建物の代金の支払いを拒める?

 売買契約等で、債務が履行される前(売主が相手に物を引き渡す前)に、お互いのどちらの責任にもならない事由(理由・原因)で債務の履行ができなくなったとき(売主・買主どちらの責任でもなく物が消滅した場合等)、その債務(物の売買代金)をどうするか?という問題を危険負担といいます(危険負担の超基本の解説はこちら)。

事例
売主Aと買主BはA所有の甲建物の売買契約を締結した。しかし、その引渡し前に甲建物は地震によって倒壊した。


 危険負担が問題となるケースとは、AB間の売買契約成立後売主A買主B双方に過失(ミス・落ち度)がなく甲建物が全壊または一部が壊れた場合です。事例はそのケースを想定しています。では本題に入って参りましょう。
 このときに、売主Aは売買代金をもらえるのでしょうか?

売主は債務者、買主は債権者

 まず、危険負担について考えるときの基本事項なのですが、危険負担の話においては、売主債務者買主債権者となります。これは、契約の対象となっている「目的物」を基準に考えるからです。事例に当てはめると、甲建物を基準に考えて、売主のA債務者買主のB債権者となります。この危険負担の基本は、最初は感覚的に馴染まないと思います。ですが、まずはこれを押さえて下さい。
 繰り返します。危険負担に関しては「金」ではなく「目的物」を中心に考える、したがって、目的物の引渡し義務のある売主が債務者、目的物をよこせと請求する権利がある買主が債権者、となります。

売主、買主ともに過失がない

 これが一番の問題点であり、危険負担の本質です。事例で考えると、売主Aも買主Bも過失(ミス・落ち度)がなく、ましてや地震は天災です。では甲建物の倒壊の負担は誰が負うのか?いわばババ抜き状態です。甲建物の倒壊というババをどちらが抜く(負担する)のか、売主vs買主のババ抜き対決です。
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 まずは売主Aと買主B、互いの言い分を聞いてみましょう。
売主Aの言い分
「甲建物が倒壊したのはアタイのせいじゃない!だからBは約束の金を払いな!」
買主Bの言い分
「甲建物が倒壊したのはオイラのせいじゃねぇ!金だけ取られてたまるかってんだ!」
 このようになります。若干のキャラ設定は気にしないで下さいね(笑)。どちらの言い分も間違ってはいません。どちらも悪くありません。しかし!誰も悪くないけど誰かが負担しなければならない、それが危険負担なんです。つまり、売主Aか買主B、そのどちらかが甲建物の倒壊という危険負担しなければならない、だから危険負担なんです。

債務者主義と債権者主義

 危険負担の問題に関しましては、債務者主義という考え方と、債権者主義という考え方があります。
債務者主義とは
 売主はお金をもらえない、つまり売主が危険を負担すべきという考え
債権者主義とは
 買主はお金を払うべき、つまり買主が危険を負担すべきという考え

 では、民法の条文はどうなっているのでしょうか?

※民法改正後(2020年4月1日施行)
(債務者の危険負担等)
536条
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。


※民法改正前
(債権者の危険負担)
民法534条
特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。

 条文の「当事者双方の責めに帰することができない」というのは「売主にも買主にも過失(ミス・落ち度)がない」という意味です。そして「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」というのは「買主は売買代金の支払いを拒める」という意味です、以上の事から、民法の規定は債務者主義という立場なのがわかります(改正前の民法は債権者主義だった)。
 さあ、答えはもう出ましたね。
 結論。売主Aは甲建物の売買代金はもらえせん。買主Bは甲建物の売買代金を払わなくても良いのです。よってババ抜き対決の勝者は買主Bです。
 また上記条文2項にあるように、甲建物の倒壊の原因が買主Bによるものであれば、買主Bは売買代金の支払いを拒めません。このときは、売主Aは売買代金をもらえます。

イベント出演等の危険負担~やむを得ない(本人は何も悪くない)事情で出演できなかったイベントのギャラはどうなる?

 まずは事例をご覧ください。 

事例
スーパーギタリストAはB音楽事務所が主催するロックイベントに出演することを約束した。しかしイベント当日、地震による交通機関の麻痺により、Aはイベント会場に行くことができなかった。


 さて、この事例において、スーパーギタリストAは出演料(ギャラ)はもらえるでしょうか?
 事例では、AにもBにも過失(ミス・落ち度)がありません。よって、これは危険負担の問題になります(危険負担とは?についてはこちら)。今回の事例で言えば、地震によってイベント出演ができなくなったという危険を誰が負担するのか?という問題です。
 このような危険負担の問題は、契約の「目的物」を中心に考えます。では、この事例においての契約の目的物とはなんでしょう。それはAが出演することです。すると「Aが出演すること」に対しての債務者債権者ということになります(これについて詳しくはこちら)。わかりやすく言えば「出演する義務」がAにあり「出演しろ!」という権利がBにあるということです。
素材116ギタリスト
 で、出演料(ギャラ)はどうなるの?
 結論。AはBから出演料はもらえません。
 非常にわかりずらいと思いますが、根拠となる条文こちらになります。

※民法改正後(2020年4月1日施行)
(債務者の危険負担等)
536条
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。


※民法改正前
(債権者の危険負担)
民法534条
特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。

 
 条文の「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」という部分を事例に当てはめると「Bは出演料の支払いを拒むことができる」となります。したがって、Aは出演料をもらえません。
 繰り返しますが「Aが出演すること」は契約の目的物で、その契約の目的物の債権者はBです。

今回のポイントと出演契約で気を付けること

 最後に繰り返しになりますが、今回の重要なポイントだけ押さえていきます。
 条文の「当事者双方の責めに帰することができない」というのは、事例に当てはめると「AとB双方に過失(ミス・落ち度)がない」ということです。そして「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」という部分は「Bは出演料の支払いを拒むことができる」となります。ちなみに反対給付というのは、「Aが出演すること」に対するBからの給付、つまり「Aのギャラの支払い」のことです。なので「Aはギャラをもらえない」となるのです。
 まあこれは、民法云々以前に、我々の一般的な常識から考えても当たり前の結論ですよね。いくらAがス-パーギタリストといえど当然の結果でしょう。もし、Aがこの結果に不服があるなら、出演前の交渉の段階でしっかりと細かい条件等の事項を詰めておかなければならなかった<というハナシです。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

不特定物は危険負担にあらず~パーティー会場へ届けるビールが配達途中に割れてしまった!~種類債権とは

事例
酒屋のAは、イベント会社のBから「ビール1ダースを午後3時までにパーティー会場に」との配達注文を受けた。しかし、Aは指定されたパーティー会場への配達の途中に地震に見舞われ転倒し、ビール瓶はすべて割れてしまった。


 さて、この事例の場合「ビール瓶が割れてしまった」という危険は、AとBのどちらが負担するのでしょうか?
 正解。これは危険負担の話ではありません。なぜなら、ビールは特定物ではなく不特定物だからです。不特定物ということは、世の中に代わりになる同じ物が存在するということです。ですので、Aはたとえ午後3時に間に合わなかったとしても、新たなビール1ダースを積み直して届けなければなりません。でないと、Aは債務不履行に陥ってしまいます。地震というのは天災なので、Aに過失(ミス・落ち度)はありませんから、指定時間に遅れる事で債務不履行という扱いにはならないでしょう。現実には、AとBがお互い話し合ってどうするのかを決めることになると思いますが、何の話し合いも合意もないのであれば、民法の原則として従来の約束を守らなければならないので、Aは指定時間に遅れてでも同じビール1ダースを積み直して、パーティー会場に届けなければなりません。それが債務の履行(約束を果たすこと)です。

「危険負担とは双務契約の当事者双方の責めに帰すことができない後発的不能の問題である」

 なんだか小難しい言い回しですが、簡単に申し上げると、危険負担とは「契約成立後、契約当事者のどちらにも過失(ミス・落ち度)がなく契約の履行(事例で言えばビールを届けること)が不能になってしまった」場合の話です。(替わりのビールを届けることはできるから不能にはならない)ですので、事例は危険負担の話にはならないのです。
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補足

 尚、不特定物が特定物に変わるのはいつなのか?という問題があります。
 え?不特定物が特定物に変わるの?
 はい。実はその規定は民法の条文にあります。

(種類債権)※
民法401条2項
前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。
※種類債権とは、一定の種類に属する物の一定量を引き渡すことを目的とする債権。ビール1ダースはまさにそれ。不特定物の債権を種類債権と呼ぶ。

 条文を読むだけではよくわからないと思いますが、条文では、不特定物が特定物に変わるタイミングとして2つの場合を定めています。
1・債務者が物を給付するのに必要な行為を完了した場合
 この場合、判例が以下の3パターンを認めている。
a、債務者が債権者のもとへ物を届ける場合(これを持参債務という)、債権者の現在の住所において物を給付するのに必要な行為を完了した時に不特定物が特定され特定物に変わる。例えば、酒屋が注文者の自宅に注文を受けたビール1ダースを「どうぞ」と差し出した時
b、債権者が債務者のところに物を取りに行く場合(これを取立債務という)履行を準備し給付物を分離してそれを債権者に通知した時に不特定物が特定され特定物に変わる。例えば、酒屋が「あの注文者のビール1ダースはこれ」と決めて取り分けて「いつでもどうぞ」とその注文者に連絡した時
c、債権者の住所地以外の場所に送付する債務の場合(これを送付債務という)送付することが債務者の義務であれば現実の提供時に、債務者の好意で送付する場合は発送時に、不特定物が特定され特定物に変わる。これはまさに事例3のケースで、酒屋のAがイベント会社B指定のパーティー会場にビール1ダースを実際に届けた時に、ビール1ダースは特定され特定物となる。
2・債権者の同意を得てその給付をすべき物を指定した場合
 例えば、酒屋が注文者の同意の上で「あの注文者の分はこの1ダース」と指定した時
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 以上が、不特定物が特定され、特定物に変わる時になります。そして、不特定物が特定物に変わると、危険負担の話になります。したがって、理屈としては不特定物が特定され特定物に変わった瞬間に、物の所有権と危険が買主(債権者)に移転します。→危険負担の超基本はこちら

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