動産の所有権(物権)~即時取得の要件/盗品の所有権/簡易の引渡し&占有移転&占有改定

▼この記事でわかること
動産の所有権(物権)の基本
動産の場合の対抗要件
占有の超基本と即時取得
盗品の所有権
占有権の移転~簡易の引渡し・占有移転・占有改定とその違い
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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動産の所有権(物権)の基本

 所有権(物権)というとまず不動産が思い浮かぶと思いますが、動産の物権はどのようになっているのでしょう?

物に対する排他的支配権、それが物権

 物権とは、物について「これは私のモノだ!」と、堂々と法律の保護の下に所有し使用できる権利です。
 物権とは、物に対する権利です。一方、人に対する権利は債権です。(債権についてはこちらへ)
 物権には、一物一権主義という原則があります。一物一権主義とは、ひとつの物にはひとりの所有権しか成立しない、ということです。ですので、物権は排他的支配権なのです。(共有という例外もありますがそれについてはこちらへ)

動産の物権

「不動産の所有権」という物権は、登記をする事によって法律で保護されます。つまり「不動産の所有権」という物権は、登記をすることで対抗要件を備えたことになります。「対抗要件を備える」とは、法律の保護の下に「これは私のモノだ!」と堂々と主張できる状態になることです。
 では動産の場合はどうなのでしょうか。
 例えば、Aさんがコンビニでボールペン(動産)を買ったとします。これは売買契約ですよね。では、ボールペン(動産)の所有権の権利関係は、一体どのようになるでしょう。

 コンビニ→Aさん

 このように、売買契約によって、ボールペンという動産の所有権がコンビニからAさんへと移転します。

動産の場合、不動産登記のような第三者に対する対抗要件は?

 動産の所有権自体は、当時者同士の意思表示のみでも移転します。つまり「売りました」「買いました」だけでもコンビニからAさんにボールペンの所有権は移転します(諾成契約)。
 しかし、それだけでは第三者に対抗できません。「第三者に対抗できない」とは、Aさんは法律の保護の下、堂々と「私のボールペンだ!」と主張できないという意味です。
 動産の場合の第三者に対する対抗要件(第三者に対抗するために満たさなければならない要件)は、引渡しです。つまり、先ほどの例だと、Aさんが売買代金を支払ってボールペンの引渡しを受けたら(ボールペンを受け取ったら)そこで初めて第三者に対する対抗要件を備えたことになります。そうして「このボールペンはAのモノだ!」と、堂々と主張できるのです。そうなれば、字を書こうが分解しようがデスノートを書こうがガッチャンに食べさせようが、Aさんの自由です。なぜなら、対抗要件を備えた物権という排他的支配権を取得したからです。

 動産は、引渡しにより対抗要件を備えたことになります。これが基本です。
 しかし、例外的な動産もあります。例えば、自動車や船舶(船)です。自動車や船舶(船)には登録制度があり、不動産と似たような扱いになっています。

【豆知識】
 通常の乗車券、商品券、劇場入場券などは、無記名債権(記名のない債権)と呼ばれます。これらは本来、債権なのですが、民法はこれらの無記名債権を動産とみなします。つまり、通常の乗車券、商品券、劇場入場券は動産として扱い、動産のルールが適用されます。自分で取り上げておいてなんですが、これは覚える必要ございません(笑)。
 なお、民法上、動産とは不動産以外の物、と定義されています。

占有の超基本
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 動産の所有権(物権)は引渡しによって移転し、対抗要件を備えます。その根拠となる条文はこちらになります。

(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
民法178条
動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。


 動産の所有権(物権)自体は当事者の意思表示で移転しますが、引渡しがなければ、第三者に対する対抗要件を備えたことにはなりません。引渡しを経て法律上保護された、いわば完成された所有権になります。そして、この所有権を本権と言います。
 さらに、本権以外にも物に対する権利が存在します。それが占有権です。
 まずはこちらの事例をご覧ください。

事例1
Aはギターを二本持っている。一本のフェンダーUSAのギターはメインとして使い、もう一本のYAMAHAのギターはサブとして使っている。ある日、Bから「明日ライブがあるのにギターが壊れてしまった。俺はこの一本しかギターを持っていない。頼む。Aのギターを一本貸してくれないか?」と頼まれ、Aは「それだったら仕方ないな」と思い二つ返事で、サブで使っているYAMAHAのギターをBに貸した。ところが、Bはライブを終えても一向にそのギターをAに返さない。なんとBは、Cにそのギターを売っぱらって引き渡してしまった。実は、Bはあるキャバ嬢にぞっこんで、その売買代金を全てキャバクラ代にあてたのだった。


 この事例でまず最初にわかるのが、Bがクズ野郎ということです(笑)。
 ですが、そのことはさておいて...
 事例1で問題なのは、YAMAHAのギターの所有権がAにあるのかCにあるのか、です。
 さて、ここで民法にはこのような条文があります。

(即時取得)
民法192条
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。


 上記条文中に、占有という言葉が出てきましたが、そもそも占有とは一体何なのでしょうか?

占有とは

 自己のためにする意思で物を所持することです。自己のためにする意思とは「自分の物だと思って」ということです。所持とは、物を事実上支配する状態のことです。
 以上のことを踏まえて、再び事例について考えていきます。
 Cは、BからYAMAHAのギターをお金を払って買って手に入れている訳ですから、普通に考えて、間違いなくⅭ自身の物だと思ってYAMAHAのギターを所持しているはずです。ということは、法律上、CはYAMAHAのギターを占有していることになります。これが占有権です。つまりこの時点で、Cは少なくとも、YAMAHAのギターの占有権を取得していることになります。なお、今ひとつ占有権がよくわからないという方は、ざっくり占有権は本権(所有権)未満の権利と覚えてください。例えるなら、本権(所有権)が旦那・嫁さんなら、占有権は同棲中の彼氏・彼女(内縁の妻)みたいな感じです。
 
結局YAMAHAのギターの所有権は?

 ここまでの説明で、CはYAMAHAのギターの占有権を取得しているという事が分かりました。
 しかし、占有権を取得しているということは、逆に言うと、本権(所有権)は取得していないということになります。
 CはYAMAHAのギターの所有権を取得できないのでしょうか?
 結論。Cは一定の要件を満たすと、占有権が本権に昇格し、YAMAHAのギターの所有権を取得します。

一定の要件とは何か?即時取得とは

 要件については、こちらの条文に記されています。

(即時取得)
民法192条
取引行為によって、平穏に、かつ、公然動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。


 上記条文中の太字の部分が要件になります。なお「その動産について行使する権利」とは、今回の事例の場合は所有権になります。
 以上のことを事例に当てはめると、次のようになります。
 CはYAMAHAのギターを
1・取引行為によって
2・平穏かつ公然に
3・(AB間の事情に関して)善意で
4・無過失(落ち度なし)で

5・ギター(動産)の占有を開始していれば
占有権が本権に昇格し、所有権(その動産について行使する権利)を取得します。

 まず2の「平穏かつ公然」ですが、なんだか抽象的に感じると思います。これについてはその意味を深く考える必要はございませんので、特に気にしないで問題ないです。
 3と4の「善意無過失」については、これは要するに、CがYAMAHAのギターが本当はAのものであることを過失(落ち度)なく知らなければOKということです。
 1の取引行為というのは、簡単に言えば「盗んだり騙し取ったり強奪していなければ」という意味です。つまり、取引行為とは、正当な手段を意味します。5はそのままです。
 以上の事を簡単にまとめると、こうなります。
 
「CはYAMAHAのギターが本当はAのものであることを過失なく知らず正当な手段で手に入れていれば、YAMAHAのギターの所有権を取得できる」

 このようになります。そして、このような形で所有権(本権)を取得することを、即時取得と言います。
 なお、上記2と3と4の要件「平穏・公然・善意・無過失」は推定されます。推定されるということは、C側に立証責任がないということです。C側に立証責任がないということは、Cが自分から平穏・公然・善意無過失を証明しなくて良いということです。これは、即時取得をしやすい仕組みになっているということを意味します。

てゆーかAはどうなるの?Cが所有権を取得したらAがかわいそうじゃね?
困惑女性
 そのとおりです。AはBのために、好意でYAMAHAのギターを貸しただけです。それなのに、Cが一定の要件を満たせば即時取得が成立し、Cのものになってしまいます。
 なんだか不公平な結果に思えますよね。しかし、民法はこう考えます。「Aが貸したからこういう事態を招いたんだろ?」と。
 つまり、Aにも帰責性あり(負うべき責任あり)と民法は考えるのです。そして、利益衡量取引の安全性の観点から、Cが一定の要件を満たせばCの勝ち、とするのです。(利益衡量についてはこちらの記事を、帰責性についてはこちらの記事をご参照ください)
 Aに対抗手段はないの? 
 もし裁判になり、Aができることは、Cに過失があることを主張立証することです。つまり、先述の要件を全て満たせていないじゃないか!と主張し、それを立証するのです。もしそれが立証できれば、AはCに勝ち、無事YAMAHAのギターを取り返すことができます。あとは、Bに対し損害賠償請求するという手段もありますが、その方法だとYAMAHAのギターが返ってくる訳ではないですし、もしBが無資力(金がない)ならアウトです。
 いずれにせよ、Aには苦労する現実が待っていることになります。
 一番悪いのはBであることは間違いありません。しかし、これは酷な言い方になりますが「そんなBみたいなヤツに貸してしまったAも悪い」という事にも民法的にはなってしまう、ということです。ただ、これは逆に言えば、それだけ動産の取引の安全性が高いということでもあります。事例のCのような立場の者(第三者)が保護されるということは、それだけ人々が新しい取引に入っていきやすいことを意味するからです。

盗品の所有権
泥棒
事例2
Aは100万円で買ったヴィンテージギターを持っている。ある日、BはA宅に侵入しそのギターを盗み出した。そしてBはそのギターを自分の物だと偽り、そのことについて善意無過失で信じたCに売り渡した。その後、Bは行方をくらまし消息が掴めない。


 今度は何だか不穏な事例の登場です。
 さて、ではこの事例2で、ギターの所有権を取得できるのは一体誰でしょう?
 Aが勝つのか?はたまたCに即時取得が認められるのか?
 この問題については、次の条文が適用されます。

(盗品又は遺失物の回復)
民法193条
前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。


 上記の条文の占有物とは、事例2のギターになり、そのギターはBによって盗まれたものなので「盗品又は遺失物」に当てはまります。
 それでは結論を申し上げます。Aはギターを盗まれた時から2年間は、Cから無償でギターを取り戻せます。Cが善意無過失であろうと関係ありません。
 無償というのはタダ(無料)ということです。つまり、相手が善意無過失だろうが盗まれた時から2年間はタダで取り戻せます。

帰責事由の有無 

 事例2の結論は、ギターが盗品だから、というのもあるかと思われますが、実はそれよりも、帰責性が関係しています。
 事例1ではAにも帰責性アリとし、Aには厳しい結果が待っていました。しかし、事例2では、かなりA寄りの結論です。それはなぜか?
 それは、事例2では、Aには帰責性ナシと民法は考えるからです。つまり、Aは何の落ち度もないただの被害者なのです。そうなると、利益衡量の観点から「なんにも悪くない被害者のAを勝たせるのが妥当だ!取引の安全性よりもAを保護するのが妥当だ!」という結論になるのです。

【補足2点】

・横領

 もし事例2で、Bの盗みではなくAからBへの横領の場合は、なんと、Cの即時取得が成立します。
 その結論の理由は、横領の場合、AはBに自ら手渡しているはずだからです。よって、Aにも帰責性アリとなり、Cの即時取得が成立します。

・2年間の起算点の注意点

 盗まれた時から2年間は無償で取り戻せる、と申しましたが、この2年間の起算点(数え始め)はどこなのでしょう?
 これは、実際に盗まれた時になります。「盗まれたことを知った時」ではありませんのでご注意ください。
 ですので、事例2のAの保護は厚いものになっておりますが、Aがボサッとしていて2年間が過ぎてしまうと、Cの勝ちになってしまいます。
 民法は、いつまでも権利関係を曖昧にしておくことを好ましく思いません。いつまでもそのような問題を扱っていたら、裁判所もごった返して困ってしまいます。ですので、あらかじめ画一的に期間を設けて「その期間が過ぎてしまったら恨みっこナシでいきましょう!」としているのです。
 したがいまして、もし何か皆さんのまわりで法的なトラブルが起こったら、ボヤボヤせずにできるだけ早く行動して対処することを推奨します。

即時取得の補足1

 こちらの事例をご覧ください。
   
事例3
未成年者のAは親権者の同意を得ずに所有するジュエリーをBに売り渡した。


 さて、この事例3で、Bはジュエリーを即時取得できるでしょうか?
 結論。Bは即時取得することはできません。まず、そもそもこの事例3は即時取得の問題にはなりません。事例3は、未成年者=制限行為能力者の問題になります。ですので、未成年者A側に取り消されたら即アウト、Bはジュエリーを取得できません。
 即時取得という制度は、取引行為そのものは真っ当だが、前主に処分権限がない(本権未満占有権止まりの)場合に、その占有を信頼した相手方を保護するのが趣旨です。要するに、取引行為そのものは真っ当なのが前提の上で、その取引行為の相手方を保護するものです。しかし、事例3では、その取引行為自体に瑕疵(欠陥)があるのです。さらに加えて言えば、事例3のケースで即時取得を認めてしまったら、未成年者等を保護するための制限行為能力者の制度が無意味なものになってしまいます。

 なお、もし転得者が登場してくると、様相が変わってきます。例えば事例3で、未成年者Aが売買契約を取り消した後、Cが善意無過失でジュエリーを譲り受けると、このときのCは即時取得が可能です。

即時取得の補足2

・所有権以外に即時取得できる権利
 質権は、即時取得できる可能性があります。例えば、BがAから預かったジュエリーを質入れしてしまって、質屋が善意無過失であれば質権を取得し得ます。

・泥棒が1万円盗んだらどうなる?
 金銭は即時取得の対象になりません。民法上、金銭の所有権は占有の移転とともに移転します。したがって、即時取得うんぬんではなく、その1万円の所有権は、なんとその泥棒のものになります。なので、この場合は、不法行為や不当利得による損害賠償の問題となります。 
 ちなみに、同じ金銭でも、古銭など「特定物として価値のあるもの」は即時取得の対象になります。

【即時取得が可能な取引】
・売買
・贈与
・代物弁済
・消費貸借
・競売
※相続は取引ではありません。ご注意ください。

占有権の移転
簡易の引渡し・占有移転・占有改定
三本指
 占有権は、自分の物だと思って物を所持(事実上の支配状態)することによって取得します。

(占有権の取得)
民法180条
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。


 占有は、物を所持する事実状態を言います。ですので、実は、自分の物だと言い張れば泥棒にも占有権はあります。
 これはちょっとビックリですよね。ただ、あくまで占有権止まりです。さすがに本権(所有権)までは取得できません。本権を持った人間に「返せ」と言われれば、それは当然返さなければなりません。この本権をもって物の返還を要求する権利を、本権(所有権)に基づく返還請求権と言います。この用語は覚えておいてください。
 話を占有に戻します。
 それでは、占有権はどのように移転するのでしょうか?
 それについては、次の条文に規定されています。

(現実の引渡し及び簡易の引渡し)
民法182条
占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。


 譲渡は移転と同じ意味です。つまり、占有権は物の引渡しによって移転します。これは所有権と一緒ですね。
 しかし!実は占有権の移転には、現実に物を引き渡さなくても生じるケースが3つあります。
 それは次の3つです。 

1・簡易の引渡し
2・指図による占有移転
3・占有改定

 ひとつひとつ解説していきます。

1【簡易の引渡し】
 元々預けておいた物を相手にそのまま売ってしまうケース。
 例えば、AがBに機材を預けていて、Aがその機材をそのままBに売ってしまうようなこと。

2【指図による占有移転】

 倉庫業者に預けている物を〇〇さんの承諾の上で、倉庫業者に対し「以後〇〇さんのために占有しろ」と命じるケース。
 例えば、Aが倉庫業者に預けてある機材を、Bに承諾の上で、Aが倉庫業者に対し「以後Bのためにその機材を占有してくれ」と命じること。

3【占有改定】

 占有者が、今後は〇〇さんのためにこの物を所持すると意思表示したケース。
 例えば、Aが「今後この機材はBのために所持する」と意思表示すること。

 上記1、2、3のいずれの方法でも、占有権が移転します。上記説明中の例えで言うなら、1、2、3のいずれでも機材の占有権がAからBに移転します。

3つの方法には重要な違いがある

 実は、簡易の引き渡し、指図による占有移転、占有改定には重要な違いがあります。
 それは、即時取得が成立するかどうかです。「即時取得が成立するかどうか」ということは、占有権が本権に昇格し、所有権を取得できるかどうかということです。これは大きな違いですよね。
 その違いはこうです。

簡易の引き渡し→即時取得◯
指図による占有移転→即時取得◯
占有改定→即時取得
×

 簡易の引き渡しと指図による占有移転は即時取得可能ですが、占有改定には即時取得が認められません。
 これは裁判所がそういう結論を出しています。つまり、判例でそうなっているという事です。その詳細は割愛しますが、この即時取得ができるかどうかの違い」はとても大事なので、しっかり覚えておいていただければと存じます。

占有~本権のある&ない占有/善意占有と悪意占有と果実/占有者の不法行為と費用

▼この記事でわかること
占有の基本~本権のある&ない占有
善意占有と悪意占有とは
占有と果実
占有者の不法行為
占有者と費用
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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占有

 占有とは、事実上の支配状態で、それを保護するのが占有制度です。
 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得します。
 以上は、占有についての小難しい言い回しの端的な説明ですが、まず大事なポイントとして、占有権は所有権とは違います。両方とも物権ですが、所有権は「本権」で、占有権は「本権」ではありません(これについて詳しくはこちら)。
 そしてここも大事なポイントですが、占有には「本権(所有権)のある占有」「本権(所有権)のない占有」があります。
 この違いをわかりやすく噛み砕いてざっくり言うとこうです。
 人から借りた物を自己のために所持することは「本権のない占有」です。例えば、レンタルDVDなんかもそうですね。(ちなみに盗品でも本権のない占有になる)。
 一方、自分で買ったり人からもらった物を自己のために所持するとそれは「本権のある占有」です。例えば、購入したDVDなんかそうです。
 つまり、自己所有物の占有などの本権(所有権)を持った占有と、自己所有物ではない物の占有などの本権(所有権)を持たない占有とがあるのです。

善意占有と悪意占有

 占有について考えるときに、善意占有悪意占有という言葉が使われます。
 善意占有も悪意占有も「本権のない占有」です。
 それぞれどういう意味かというと、こうです。
 善意占有は「その占有に本権がないこと」について善意という意味です。本当は所有者ではないのにそれとは知らず自分の物だと思って占有していた場合はまさに善意占有になります。
 悪意占有は「その占有に本権がないこと」について悪意という意味です。つまり、本当は所有者ではないことを知りながらの占有です。

[参考図]

   本権のある占有
  ↗
占有         善意占有           
  ↘       ↗
   本権のない占有
          ↘
           悪意占有

 なお「本権のない占有」の場合、その占有者は、善意占有だろうが悪意占有だろうが、真の権利者(所有者)から本権に基づく目的物の返還請求をされる可能性があります。まあ普通に考えて当たり前の話ですよね。

占有と果実
アパート
 ここからは占有と果実の問題について考えて参ります(果実については詳しくはこちらへ)。

事例1
Aは所有権があると誤信して甲建物を善意占有している。そしてAは甲建物をBに賃貸した。その後、甲建物の真の所有者Cが現れ、Aに対してその所有権に基づき甲建物の返還を請求した。


 これはどういう事例かといいますと、所有者ではないのに所有権があると間違えて信じて甲建物を占有しているAが、甲建物をBに賃貸していて、そこに甲建物の真の所有者Cが現れて、Aに対して甲建物の返還請求をした、という話です。
 まず前提として、Aは善意占有なので甲建物の所有権は持っていません。つまり、Aの甲建物の占有は「本権のない占有」です。なので、所有権=本権を持っている真の所有者Cからの「所有権(本権)に基づく返還請求」に対して、Aは拒むことができません。これは善意占有だろうが悪意占有だろうが一緒です。
 以上を踏まえた上で、本題はここからです。
 AがBから受け取った甲建物の家賃(果実)はどうなるのでしょう?
 本来のスジから考えれば、AがBから受け取った家賃はCに返還すべきです。なぜなら、それは不当利得になるからです。
 なので、AはCに対し、Bから受け取った家賃を耳を揃えて返さなければならないはずです。
 しかし、どうでしょう。これはこれでAはが少し気の毒な気もします。妙な言い方かもしれないですが、Aは甲建物を善意占有、つまり、本権(所有権)があると誤信しているだけなのです。
 ということで、民法は、そんな善意占有者を救済するための規定を置きました。

(善意の占有者による果実の取得等)
民法189条 
善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。


 上記条文中の果実とは、事例1で言えば「甲建物の家賃」になります。そして、占有物は甲建物です。
 という訳で、答えは出ましたね。
 結論。善意占有者AはBから受け取った甲建物の家賃を取得します。Cに返還する必要はありません。 

【補足】占有者はいつから悪意になるのか

 善意占有者であっても、真の所有者が現れれば、その占有者は「本権がないこと」について悪意になります。ではその善意から悪意に切り替わるのは具体的にいつなのでしょう?
 これについては民法189条2項で「訴えの提起の時」と規定されています。この「訴えの提起の時」とは、真の所有者が目的物の返還請求の訴えを提起した時のことです。つまり、事例1で言えば、真の所有者Cが「甲建物の真の所有者は私だ!だから返還しろ!」と裁判所に訴えた時にAは悪意占有になる、ということです。
 したがって、そのままAがその裁判に敗訴すれば、悪意占有に切り替わって以降、すなわち訴えの提起の時以降の果実=「訴えの提起の時以降に受け取った家賃」は、真の所有者Cに返還すべきことになります。

悪意占有と果実
悪意
 悪意占有は「本権のないこと」を占有者が知っています。なので、本当は目的物から生じる果実も真の権利者のものであることを占有者は知っています。言ってみれば自分の物でないと分かっていながらかすめ取ってるようなもんです。
 ということで、民法190条1項では「悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う」と定めています。つまり、もし事例1のAが悪意占有だった場合、AはBから受け取った甲建物の家賃を真の所有者Cに返還しなければならないのはもちろん、滞納家賃があればその分の償還の義務もAはCに対し負うということです。
 そして、ここでひとつ注意点があります。
 民法190条2項によると「暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者」は悪意占有と同じように扱うとしています。つまり、たとえ善意占有だとしても「暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者」であれば、悪意占有の場合と同じように果実を返還しなければならないのです。
 善意・悪意とは、あくまで「事情を知っているか知らないか」に過ぎません。したがって「暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者」が善意であることも十分ありえます。なので、もし試験で「善意占有者が果実を返還しなければならないケースはない」という肢が出てきたら、それは誤りです。ご注意ください。

占有者の不法行為

事例2
Aは所有権があると誤信して甲建物を善意占有している。そしてAは甲建物を自らの不注意で損傷した。なお、甲建物の真の所有者はCである。


 さて、この事例2で、善意の占有者Aは甲建物の真の所有者Cに対して、その損害を賠償すべきなのでしょうか?
 まず、Aは自己の不注意によって甲建物を損傷しましたので「これによって生じた損害を賠償する責任」(民法709条:不法行為による責任)を負うことになります。
 でもこれ、どうでしょう。Aが少し気の毒な気もしませんか?というのも、Aは自分の物だと思って甲建物を使用しています。本来自分の物であれば損傷しようが困るのは自分自身で、誰に賠償も何もないですよね?つまり、善意占有のAはそういう前提のもとに甲建物を使用していたはずなんです。それで全額賠償というのは、さすがにAがちょっと気の毒です。
 そこで民法は、このような場合、善意占有者の責任自体は免除しないものの、その賠償金額をオマケしてあげる規定を置きました。それは民法191条の「善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う」です。
 この「現に利益を受けている限度」とは現存利益を指しますが、では具合的に何を言っているのかといいますと、例えば、甲建物が失火で焼けた場合「現存利益」はないから賠償しなくていいが、もしAが火災保険を受け取っていたなら、その分は真の所有者Cに返還しなさいよ、ということです。
 なお、悪意占有の場合には賠償金額のオマケはありません。損害の全部を賠償すべきです。
 さらに、試験等での注意点として、たとえ善意占有者でも「所有の意思がない」ときは、全額の賠償すべきとなります。「所有の意思のない善意占有」とはなんぞや?ですが「賃借権がないのにあると誤信して占有している者」がその代表例です。これはつまり、所有の意思がない時点で「他人の物」だという事は知っているわけですから「他人の物は大事にしろ」となるのは当たり前で、借りた物を過失(落ち度)によって壊したのなら、それは全額賠償すべきだ、となるのです。 
 また、もうひとつ注意点があります。
 善意占有も悪意占有も、占有者に帰すべき事由(故意または過失)がなければ賠償の必要はありません。この点は一般の不法行為責任と同様となります。この点ご注意ください。

【補足】
「所有の意思のある占有」を自主占有と言います。
「所有の意思のない占有」を他主占有と言います。

占有者と費用
お金
事例3
甲建物を善意占有しているAは、その建物の雨漏りの修繕をした。また、建物の雨戸を新調した。その後、甲建物の真の所有者のCが現れ、甲建物はAからCに返還されることとなった。


 まず、この事例での論点は、雨漏りの修繕費と雨戸の新調費用についてになります。
 雨漏りの修繕費は必要費です。一方、雨戸の新調の費用は有益費です。
 ということで、ではこの事例3で、善意占有者のAは真の所有者Cに対して甲建物を返還する際、必要費と有益費を請求できるでしょうか?
 まず、この問題についての考え方の基本は「公平」の観点になります。つまり「どうするのがよりフェアか?」という考え方です。
 真の所有者Cは甲建物の返還を受けることになります。その際に、甲建物の価値がAの負担によって維持され(必要費)、またその価値が増加しているのであれば(有益費)、それは「公平の観点」から考えればCが負担すべきですよね。でないとCがマル得になってしまいます。それはフェアとは言えません。加えて申し上げるなら、これには善意か悪意かも関係ありません。
 以上の事を踏まえた上で、民法196条の規定により、必要費については全額の請求が可能です。つまり、事例3のAは、甲建物の返還の際、真の所有者Cに対し必要費(修繕費)の全額を請求することができます。

【補足】
 同じ論理で、泥棒(占有者)が盗んだ自転車のパンクを修理した場合に、その費用は修繕費=必要費なので、なんと泥棒は被害者に対し必要費(パンクの修理代)の請求をすることができます。ただ、このことと被害者が泥棒に対してその盗難によって生じた損害の賠償を請求(不法行為による損害賠償請求)できるこことは、法律的にまったく別問題なのでご注意ください。
 なお、占有者が果実を取得したケースでは、通常の必要費は請求できません。(民法196条1項ただし書き)

 さて、必要費についてはわかりました。では、有益費の方はどうなのでしょうか。
 こちらについても、民法196条に規定があり「有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる」と定められています。これは何を言っているのか、事例3に当てはめて説明するとこうです。
「甲建物の価格の増加が現存する場合に限り、真の所有者C(回復者)の選択に従い、Aが支出した必要費(雨漏りの修繕費)か有益費(雨戸の新調費用)のどちらかを請求できる」
 つまり、実際には、Aは真の所有者Cに対して、必要費か有益費のどちらか安い方のみしか請求できないのです(普通に考えてCは安い方を選択するに決まっている。もちろん高い方を選択してくれれば高い方を請求できるが...)。
 また、もし甲建物の価格の増加額がゼロならば、請求できる金額もゼロです(つまり請求できない)。

 最後に繰り返しますが、占有者から回復者(真の所有者)への必要費・有益費の請求額は、占有者の善意・悪意による違いはありません。この点はくれぐれもご注意ください。

占有の推定力とは/占有回収の訴え/占有の承継人への返還請求/占有保持の訴え・占有保全の訴え/他主占有が自主占有へ転換するとき

▼この記事でわかること
占有の推定力とは
占有訴権(占有回収の訴え)の基本
占有の承継人への返還請求
占有保持の訴えと占有保全の訴え
他主占有から自主占有への転換
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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占有の推定力

 民法188条では、占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定しています(権利適法の推定)。
 これはどういう意味かと言いますと「真の所有権がどうだとかという真実はさておき、占有者は占有物について行使する権利を、適法に持ってると推定します」ということです。
 さらに、民法186条では「所有の意思」も推定されますから、民法188条の推定(権利適法の推定)とあいまって、占有者は特段の事情がなければ「所有者」であると推定されます。
 このように、占有者には「権利適法の推定」が働くわけですが、これは「第三者が占有者の権利を適法に信頼する場合」の話です。どういう事かといいますと、例えば「Aは占有者であるから所有者に違いない」という信頼が保護されるかどうか、というような「即時取得」のような局面での話になるということです。なので、AがBから所有権を取得した場合に、Bがその売買契約の無効を主張したときに、Aが現にその売買物を占有しているからといって、Aがその売買物の所有者だと推定される訳ではない(権利適法の推定は働かない)ということです。

占有訴権

 占有訴権とは、占有という事実状態に基づいて、裁判所に提起する訴えです。
 この訴えは、本権(所有権)についての訴えとは別物です。
 例えば、AがBから借りた物を第三者Cに奪われた場合、Aはどうやって第三者Cに対しその返還を求めればいいのでしょう?借りた物なのでAにはその所有権がありません。そうです。ここでAは占有権に基づく返還の訴えを提起できるのです。これが占有訴権です。
 なお、Aに所有権があれば「本権(所有権)に基づく返還の訴え」をする訳ですが、本権(所有権)も持っていて占有していた場合は「本権に基づく返還の訴え」と「占有権に基づく返還の訴え」のどちらを選択しても構いません。
 この「占有権に基づく返還の訴え」を占有回収の訴えと言います。
 そして、占有回収の訴えの要件は次の2点です。

1・占有者が占有を奪われたこと
2・占有を奪われた時から1年以内に訴えを提起すること

 実にシンプルな要件ですよね。
 まず1についてですが、これは「占有を奪われた」場合ということなので、占有物を騙されて渡してしまった場合や、失くしたりなど遺失した場合には、占有回収の訴えはできません。
 次に2についてですが、権利を行使できるのは、占有を奪われた時から1年です。占有を「奪われたことを知った時」から1年ではないので、ご注意ください。

占有回収の訴えに対し所有権を主張してきた場合

 もし占有回収の訴えを提起した場合に、相手方が「私はその物の所有者だ!」と所有権を主張してきたら、一体どうなるのでしょう?
 実は「占有回収の訴え」においては、裁判官は先述の要件「占有を奪われたかどうか」「占有を奪われた時から1年か」の2点しか判断しません。したがって、占有回収の訴えにおいて、たとえ相手方が所有権を主張してきたところで、原告側の占有者が勝ちます。なぜなら、民法202条2項に「占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない」とハッキリ規定されているのです。なので、相手方が所有権を主張してきたところで「知らねーし」となるのです。
 でもそうなると、被告側(占有者から占有回収の訴えを受けた相手方)には打つ手がないのでしょうか?本当に真の所有者であるなら何とかできないと困りますよね?
 その場合は、本権(所有権)に基づく反訴を提起すれば良いのです。反訴とは、被告が原告を逆に訴えることです。つまり、占有回収の訴えの被告(訴えられた側)が、原告(訴えた側)の占有者を本権に基づいて訴え返せば良いのです。
 そうすれば、占有回収の訴えでは負けても、本権の訴えで勝つことは可能です。
 ややこしく感じるかもしませんが、ルール上そのような仕組みになっているのです。そしてこれが、先に「占有訴権と本権についての訴えとは別物」と言ったことの意味です。両訴えはまったく別の原理による訴えなのです。
 なお、これは過去の判例でも「占有の訴えに対して防御方法として本権を主張することは許されないが、本権に基づく反訴の提起は同条(民法202条2項のこと)の禁じるところではない」と裏付けられています。

占有の承継人への返還請求
泥棒
 それでは、次のような場合は一体どうなるのでしょう。

事例1
Aは所有するジュエリーをBに貸して引き渡した。その後、Cはそのジュエリーを盗み出し、それから三ヶ月が経過した。


 これは、AがBに貸したジュエリーをCが盗んだ、という事例です。
 さて、ではこの事例で、AはCに対して占有回収の訴えを提起できるでしょうか?
 まず、BがCに対して占有回収の訴えを提起できるのは明らかです。なぜなら、Bは占有者で、ジュエリー(占有物)は奪われていて、まだ1年以内だからです。
 ということで、ここでの問題は、盗まれたジュエリーの所有者だが実際に占有はしていないAが、占有権に基づいたものである占有回収の訴えを提起できるのか?Aに占有権はあるのか?になります。 
 先に結論を申し上げてしまうと、Aは占有回収の訴えを提起することができます。それを根拠づける民法の条文がこちらです。

(代理占有)
民法181条 
占有権は、代理人によって取得することができる。


 この条文中での「代理人」とは、無権代理人とか委託を受けた代理人とかで言うような代理人とは意味が違います。ここで言う代理人とは「占有の代理人」という意味です。
 したがって、民法181条は「占有権は占有の代理人を通して取得できる」と言っているのです。
 では、その「占有の代理人」は誰なのか?ですが、事例1で言えばそれはBになります。つまり、民法上、BはAの代わりに占有していることになります。そして、Aは占有代理人Bを介してジュエリーの占有権を取得する、ということです。
 また、この場合のAの占有を代理占有と言います(間接占有とも言う)。
 一方、Bの占有を自己占有と言います(直接占有とも言う)。

【補足】
 事例1で、賃貸借期間を定めてAがBにジュエリーを賃貸していた場合に、その賃貸借期間が終了したら、Aの占有はどうなるのでしょう?
 これについては、民法204条2項に「占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない」とあります。したがって、Aは占有を失いません。ただし、Bが「ジュエリーは私のモノだ!」と主張すると、Aは占有権を失ってしまいます(民法204条1項2号)。なので、そうなってしまった場合は、もはやAに占有回収の訴えを提起することはできません。
 では、Aはどうやってジュエリーを取り戻せばいいのか?ですが、これは単純に「本権(所有権)に基づく返還請求」をすればいいのです。そもそもAはジュエリーの所有者なのですから、本権のフィールドで争えばいいのです。 

 では続いて、次のケースではどうなるでしょう?

事例2
Aは所有するジュエリーをBに貸して引き渡した。その後、Cはそのジュエリーを盗み出し、Dに売り渡した。


 なんだかCがどんどん悪どいヤツになってきましたね(笑)。
 さて、ではこの事例2で、AおよびBは、Dに対して占有回収の訴えを提起できるのでしょうか?
 結論。DがCによるジュエリーの侵奪の事実を知っていれば、AおよびBはDに対して占有回収の訴えを提起できます。逆に、DがCによるジュエリーの侵奪の事実を知らなければ、AおよびBはDに対して占有回収の訴えの提起はできません。
 なお、この結論の根拠となる条文はこちらです。

(占有回収の訴え)
民法200条2項
占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。


上記条文中の「特定承継人」とは、事例2で言えばDです。
「侵奪の事実を知っていたとき」とは、要するに「侵奪の事実について悪意」ということですね。
 したがって、D(特定承継人)が悪意なら、AおよびBは占有回収の訴えを提起することができるが、Dが善意なら、AおよびBは占有回収の訴えを提起することはできない、となるのです。
 じゃあ何か手はないの?
 Aはジュエリーの所有者なので、その所有権(本権)に基づいて争う事になります。そして、その場合に適用する民法は193条「盗品又は遺失物の回復」になります。

 続いて、次のケースではどうなるでしょう。

事例3
Aは所有するジュエリーをBに貸して引き渡した。その後、Cは死亡し、Dが相続した。


 この事例3で、AおよびBはDに対して占有回収の訴えを提起できるでしょうか?
 結論。AおよびBはDに対して占有回収の訴えを提起できます。
 事例2とは違い、この事例3のDはCの相続人です。相続は包括承継であり、財産上の地位そのものの移転です。ということは、DはCの「ジュエリーの侵奪者という地位」そのものを、そのまま引き継ぐことになります。したがって、AおよびBから(Cの侵奪者としての地位を包括承継した)Dへの占有回収の訴えの提起が可能なのです。
 なお、相続による包括承継は法律の定めによるものなので、相続人Dが侵奪の事実について善意でも結論は変わりません。Dの善意悪意はこの場合は関係ないのです。

占有保持の訴え・占有保全の訴え
裁判所
 占有訴権には、占有回収の訴えの他にも2つの規定が存在します。
 それは、占有保持の訴え(民法198条)と占有保全の訴え(民法199条)です。

【占有保持の訴え】
 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止および損害の賠償を請求することができます。
 妨害の停止の請求ってなに?
 例えば、台風で隣家の木が自分が占有する土地に倒れてきた場合、占有侵害を理由に「この木をどかせ!」と隣家の主に請求することができます。
 なお、その場合の「木をどかすための費用」をどちらが持つか?ですが、判例は隣家の側としています。また「木をどかせ」と請求するのに占有侵害の事実以外の要件はありません。木が倒れた原因が台風なら隣家に過失はなさそうですが、それでも「木をどかせ」と請求できます。

【占有保全の訴え】
 例えば、隣家の木が自分の土地に倒れてきそうな場合、まだ現実の占有侵害の事実はないけども、「妨害の予防措置」を講ずるか、万が一倒れた場合の「損害賠償の担保」を立てるかの、どちらか一方を請求できます。これが占有保全の訴えです。
 ここでご注意いただきたいのが「損害賠償の担保の請求」であって「損害賠償の請求」ではないということです。そもそも、現実に発生していない損害の賠償を請求できる訳がありませんよね。なので、あくまで「損害賠償の担保の請求」なのです。

【補足】
 占有保持の訴えを行うケースでは、すでに占有侵害の事実が現実化しているので「木をどかせ」のような請求以外にも、シンプルに損害賠償請求も可能です。しかし、この損害賠償の性質は、不法行為による請求になると考えられます。となると、侵害者や妨害者の故意・過失が要件になるので、台風が原因で木が倒れた等の場合は難しいと考えられるでしょう。

提訴期間

【占有保持の訴え】
 占有回収の訴えの提訴期間は「占有を奪われた時から1年」です。
 これは、占有保持の訴えも同様です。
 占有保持の場合、占有の妨害が存在する間はずっと「妨害の停止」と「損害賠償」の請求が可能です。そして、妨害が終わった場合は「損害賠償」の請求のみ、妨害終了後1年の期間可能です。
 なお、その妨害が工事によるものである場合には、たとえ妨害が継続していても「その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したとき」に、「妨害の停止」と「損害賠償」の両請求ができなくなります(訴えの提起ができなくなる)。これは例えば、隣地で何か工事をやっていて、それが自分の占有を侵害したようなケースです。この場合に、もし完成した工事について「妨害の停止」の請求ができてしまうと、せっかく時間と費用をかけて完成させた工事をがっつりやり直すことになりかねません。ましてやそんな事例が全国各地で起きてしまったら社会経済的損失にも繋がりますよね。なので、このような規定になっています。(民法201条1項ただし書き)

【占有保全の訴え】 
 占有保全の訴えの場合「妨害予防」または「損害賠償の担保」の請求ができるのは、妨害の危険が生じている期間だけです。
 つまり、その危険が去れば請求権を残す必要もないという訳です。
 また、妨害の危険が工事によるものであれば、占有保持の訴えの場合と同様「その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したとき」に、訴えの提起はできなくなります。(民法201条2項後段)

自主占有への転換

「所有の意思のある占有」を自主占有、「所有の意思のない占有」を他主占有と言います。
 わかりやすく簡単に言うと、「買主」は自主占有者ですが、「賃貸人」や「受寄者(物を預かって保管する者)」は他主占有者です。
 そして、両者の違いが重要になる局面として、即時取得のケースがあります。
 例えば、Aさんが宝石の買主であれば、たとえ売買が無効な場合でも、権原の性質(権利の元の性質)が自主占有なので、その占有を続ければ時効取得の可能性が出てきます。しかし、そしAさんがその宝石の借主にすぎなければ、それは他主占有なので、いくら占有を続けようが時効取得はできません。なぜなら、取得時効の要件は「所有の意思のある占有の継続」だからです。
 自主占有かどうかはどう決まるの?
 これは占有を生じさせた事実(占有権原)の性質により客観的に決まります。どういう意味かというと、例えば、Aさんがアパートを借りていたとして「今年からは所有の意思を持って占有しよう」と決意しても、Aさんの自主占有に変わることない、ということです。
 では、どうすれば他主占有が自主占有に転換するのでしょうか?
二本指b
 民法では、2つの場合に、他主占有が自主占有に切り替わる旨を規定しています。

(占有の性質の変更)
民法185条
権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。
 

1・占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示する
 これは、借家人が家主に「この家は私の物だ!」と表示するケースですが、賃貸借そのものの終了がないと認められない主張です。
 ちょっと現実には考えにくいケースなので、そういうケースもあるんだぁ、ぐらいに思っておいていただければ結構です。

2・新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始める
 これは、借家人が家主から家を買い取るようなケースです。
 買い取ることが、民法185条条文中の「新たな権原」にあたります。したがって、他主占有者だった借家人が家主から家を買い取って占有すれば、それは自主占有へと転換されます。

相続は「新たな権原(新権原)」にあたるのか

 例えば、ある土地の賃借人Aが死亡し、相続人Bがその占有を承継した場合に、相続人Bは、相続開始の時からの占有を理由としてその土地の時効取得ができるのでしょうか?もし相続が、民法185条の「新たな権原」にあたるなら、相続開始の時から他主占有から自主占有へ切り替わり、占有を続ければ時効取得できることになりますが...。
 結論。相続という事実だけでは「新たな権原(新権原)」と言えないとするのが一般的な考え方で、判例の見解も同様です。したがいまして、相続人Bは土地の時効取得はできません。
 ただし、被相続人が土地建物の管理人だったケースで、以下のような判例の一文があります。

「相続人が被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継しただけでなく、新たに相続財産を事実上支配し、その占有に所有の意思ありとみられる場合、新権原による自主占有と認めうる」

 どういうことかと言いますと、上記判例のような特殊な事情がある場合には相続人による自主占有も可能性アリで、相続人による時効取得も可能性アリ、ということです。(上記判例では、相続人が一時期賃料をいたため、所有の意思は否定された)

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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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