意思表示の超基本 意思表示の形成過程

 今回は意思表示です。ちなみに「意志」ではなく「意思」です。ご注意下さい。

意思表示とは何なのか

 以前の記事でも、諾成契約についてのご説明をいたしましたが、諾成契約は、例えば、売買契約の場合「買います」という申し込みに対し「売ります」という承諾をした時、契約が成立します。このときの「申し込み」「承諾」、つまり「買います」と「売ります」が、意思表示です。つまり、諾成契約を民法的に説明すると、「当事者同士の意思表示により成立する契約」ということになります。
 意思表示が何なのかは、お分かりになりましたよね。ではここから、意思表示の形成過程を見て参ります。

動機

効果意思

表示意思

表示行為

 なんだか、まるで心理学みたいですが(笑)、順番にご説明して参ります。
 まず動機ですが、これは売買であれば「買う理由」です。美味しそうだな〜とか、安いからとか、カワイイからとか、動機という言葉の通りです。
 次の効果意思は「よし、買おう」です。つまり「頭・心の中の決断」です。
 その次の表示意思は「買おうと言おう」です。つまり「決断を表に示す意思」です。
 最後の表示行為は「これ買います!」です。これは説明不要ですね。「購入の申し込みの表明」です。
 以上が、意思表示の形成過程になります。

なぜこんな話が民法に必要なのか?

 それこそ本当に、心理学の講義みたいですもんね。しかし、これが実はとても重要なのです。なぜなら、意思表示があって初めて契約というものが成立するからです。
 契約関係のトラブルは、いつの時代も絶えません。トラブルがあったときは、その契約内容と成立過程を検証しますよね。その「成立過程」こそ、まさに先述の「意思表示の形成過程」が含まれます。
 買いたいと思っていない物なんて買わないですよね?ではなぜ買ったのか?無理矢理買わされたのか?騙されたのか?あるいは勘違いか?買ってもいない物が突然送られてきて、いきなりお金を請求されても困りますよね?売る側からすれば、なんの理由もなしにいきなり返品されて「金返せ!」と言われても困りますよね?そうなると、「意思表示の形成過程」のどこかに不備があるのではないか?と、民法的な検証ができる訳です。
 尚、付け加えて申し上げておきますと、意思表示は「黙示のもの」でも、有効に扱われる場合があります。黙示の意思表示とは、実際言葉には出していないけれど「それって買うってことだよね・売るってことだよね」ということです。つまり、黙っていても意思表示が明らかだと認められればその契約は成立してしまう、という事です。ですので皆さん、断るときはハッキリと口に出して断りましょう。

 意思表示とその形成過程の意味、ご理解頂けましたでしょうか。
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錯誤の超基本 錯誤=勘違い?勘違いにも2種類ある?

動機

効果意思

表示意思

表示行為

 上記が意思表示の形成過程です(これについて詳しくはこちらをご覧下さい)。
 さて、ではこの意思表示の形成過程に不備があった場合は、一体どうなるのでしょう?
 皆さんも普段の買い物の中で、間違えて、本来買おうしていた物とは違う物を買ってしまった事、ありますよね。 それは民法的に言うと「効果意思と表示行為に食い違いがある」ということになります。 効果意思というのは「よし、これ買おう」という心の中の決断で、表示行為というのは「これ買います」という購入の申し込みです。 つまり、本来買おうとしていた物とは違う物を買ってしまったというのは、心の中の決断行為一致していないのです。Aさんに告白しようと思って、Bさんに「付き合って下さい」と言うようなもんです(笑)。このような効果意思と表示行為の不一致、ざっくり言えば勘違いを錯誤と言います。

錯誤は2種類存在する

 錯誤には、要素の錯誤と動機の錯誤の2種類が存在します。

要素の錯誤とは

 これは「ギターを買おうと思ってベースを買ってしまった」というような場合です。つまり意思行為食い違いがある錯誤です。

動機の錯誤とは

 これは文字通り、意思表示の形成過程における動機の部分の話で、買おうと思った理由による錯誤です。といってもこれではよく分からないですよね。以下に具体例を挙げてご説明いたします。

(動機の錯誤の例)
 不動産を購入しようと考えている人がいました。そして、その人はある土地に目を付けました。というのは、どうやら「その土地の近くに新しく駅ができる」という噂を嗅ぎつけたからです。そして、その人はその噂を信じ土地を購入しました。将来の土地の価値の増大を期待できるからです。しかし、その後、その噂はガセだったようで駅はできませんでした。当然その土地の価値もたいして変わりません。この人の土地を購入した動機は、近くに駅ができるから土地の値段が上がる!というものです。でも実際には駅などはできず、土地の値段も上がりませんでした...。

 これが動機の錯誤です。つまり、買おうと思った理由が間違っていた場合です。要素の錯誤は、思った事と行為が食い違っているのに対し、動機の錯誤は、思った事と行為は噛み合っていても、思った事、その理由が間違っていた場合です。両者の違い、おわかりになりましたかね?
 その違いが一体なんになるんだ!
 はい。実はこの違いがとても重要なのです。というのは、後々に錯誤を理由に契約の無効を主張できるか否かという問題に直結するからです。買った側からすると、間違って買ってしまったのにもうどうにもできない、なんていう事態は困りますよね。一方、売った側からすれば、なんでもかんでも後になって無効を主張されても困ります。
 という訳で次回、錯誤による無効の可否について、解説して参りたいと思います。
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要素の錯誤による無効 勘違いで結んだ契約はナシにできる?

錯誤による無効とは

 錯誤を理由に、契約の無効を主張することができます。例えば、ギターだと思ってベースを買ってしまった場合、その契約(ギターを買ったこと)の無効を主張できます。つまり、その契約を無かったことにできるのです。そして、買ったベースは店に返し、払ったお金は返してもらいます。

(錯誤)
民法95条
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

 上記の条文に「法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」とあります。この「法律行為の要素に錯誤」というのが、以前の記事でもご説明申し上げた、要素の錯誤になります。つまり、条文から導き出される結論は「要素の錯誤であれば無効を主張できる」という事になります。

表意者の重大な過失とは

 ここで注意点がございます。民法95条の条文の「〜無効とする」の後にただし書きがあり「表意者に重大な過失があったときは〜無効を主張することができない」とあります。ちなみに、表意者というのは錯誤をした本人です。つまり、これはどういうことかと申しますと、要素の錯誤無効を主張できる。しかし、錯誤をした本人重大な過失(大きなミス)があった場合は無効を主張することができない、という意味です。例えば、ギターだと思ってベースを買ってしまった場合、楽器初心者だったなら無効を主張しやすくなるでしょう。なぜなら、初心者ならどっちがギターかベースか、すぐに区別のつかない人もいるはずです。つまり、本人(表意者)の重大な過失と認められづらくなるからです。ところが、これがギター歴40年のオヤジだったらどうですか。普通、それだけギターやってるオヤジなら、ギターとベースの区別ぐらいすぐにつくに決まっているでしょう。たとえ悪徳楽器店だったとしても騙されないでしょう。つまり、もしギター歴40年のオヤジがギターとベースを間違えて購入してしまった場合は、表意者(ギター歴40年のオヤジ)に重大な過失があると判断されやすくなり、錯誤の無効の主張が難しくなります。
 じゃあギター歴5年の兄ちゃんはどうなの?
 これも多分ダメですね(笑)。ただ、法律で明確に規定している訳ではないので、あくまで常識的な、客観的な判断になります。裁判になれば「社会通念上なんちゃらかんちゃら」とか言われるのでしょうか。ただもし、例えば、ギターと本当に見分けのつかないようなベースがあって、店員の説明が不十分であれば、その場合は重大な過失について、また違った判断になるかもしれません(まあ、そもそも試奏したのかとか、他にも考慮しなければならない要素は色々とありますが...)。
 そして、要素の錯誤の無効を主張するのは原則本人でなければなりません。

 とにかく、ここでまず、押さえておいて頂きたいことをまとめますと、
「要素の錯誤は無効を主張できる。そのとき、無効を主張するのはあくまで本人で、もし本人に大きなミスがあった場合は泣き寝入り」
ということです。
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動機の錯誤の超基本 ナシにできない勘違い?

 まず始めに、いきなり結論だけ先に申し上げておきますと、動機の錯誤による無効というのは、原則、主張できません。よほどやむを得ない事由(理由)がない限りです。なぜなら、動機の錯誤というのは、要するに自らの判断の誤りだからです。
 という訳で、その点について、今からご説明して参ります。

動機の錯誤はテメーの判断ミス!

 動機の錯誤というのは、例えば、「このりんご美味しそうだな」と思ってそのりんごを買ったが、いざ食べてみたら不味かった、というようなケースになります。つまり、「このりんご美味しそうだな」という動機をもとにりんごを買ったが、その動機が間違っていたので不味かった訳ですよね。多分、これはどなたも異論がない所だと思いますが、この場合に錯誤の無効の主張を認めて、この売買契約(りんごを買ったこと)を無かった事になんか、できる訳ないですよね。オメーのただの判断ミスだろ!となりますよね(笑)。そもそも、そんな事で無効を主張できてしまったら、商売なんかできたもんじゃないです。それは何も民法の規定だけでなく、我々だって望まない所だと思います。従いまして、動機の錯誤による無効の主張は、原則できないんです。

要素の錯誤と動機の錯誤の違いのまとめ
 
 要素の錯誤と動機の錯誤の違い、お分かりになりましたか?ここで要素の錯誤について、先述のりんごの例でご説明いたしますと、要素の錯誤は、りんごだと思ってみかんを買ってしまったような場合です。この場合、そもそもりんごを買おうという意思とみかんを買ったという行為一致していません。
 では動機の錯誤はというと、動機と行為は一致しています。りんごを買おうという意思のもとにりんごを買っているので。ただ「美味しそうだな」という動機が間違っていただけです。
 ちなみに、ギターの例で動機の錯誤についてご説明いたしますと、「このギター良い音しそうだな」と思ってギターを買ったら全然良い音がしなかった、というような場合です。それで楽器屋のオヤジに向かって「これは動機の錯誤による無効だ!だからこの買い物はナシだ!」と言えますかね?言えないでしょう。楽器屋のオヤジも、怒るどころか唖然とするでしょうね(笑)。確かに、良い音しそうだという動機の錯誤はありますが、それは本人が勝手にそう思っただけで、ギターを買おうという意思とギターを買った行為一致しています。つまり、何の問題もないのです。したがって、動機の錯誤の無効は主張できないのです。

 要素の錯誤と動機の錯誤の違い、おわかりになりましたよね。次回、例外的に動機の錯誤でも無効が主張できる場合があることについて、ご説明して参ります。
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動機の錯誤による無効 ナシにできない勘違いをナシにできるとき

動機の錯誤でも無効が主張できるときとは?
 前回の記事でもご説明いたしましたが、動機の錯誤による無効の主張は原則認められません。しかし、あくまで原則認められないだけで、例外が存在します。※
※法律について考えるとき、原則から考えて例外を考えるという順序をとった方が理解がしやすいと思います。いっぺんに考えようとすると訳がわからなくなってしまいますので。あくまで原則があった上で例外があります。その逆はありません。

動機の錯誤が主張できるとき

 では、どんな例外パターンがあるのでしょうか。動機の錯誤の無効が主張できるケースとして、「動機が表示され、それを相手が認識しているとき」に、無効を主張できる場合があります。これではわかりづらいですよね。もう少し噛み砕いてご説明いたしますと、売買契約の場合「買う理由となる動機が言葉なり相手にわかるように表現されていて相手がその動機をわかっていたとき」動機の錯誤が主張できる可能性があります。

動機の錯誤が主張できるときの具体例

 例えば、こんな場合です。ある土地を購入したAさんがいます。Aさんがなぜその土地を購入したかというと、その土地のすぐ近くに、数年後に駅が建つという話を耳にしたからです。しかしその後、駅ができるという話はデマで、Aさんは目算を誤った、つまり、動機の錯誤に陥った...。
 このようなケースでは、原則、錯誤による無効は主張できません。それは前回もご説明したとおり、ただのAさんの判断ミスだからです。しかし、ある要件を満たすと、Aさんの動機の錯誤による無効が主張できる場合があります。それはどういった場合かといいますと、Aさんの「この土地のすぐ近くには数年後に駅が建つ」という動機が言葉なり表に出されていて、そのAさんの動機を相手が認識していてかつ相手はその土地のすぐ近くに駅が建つという話がデマだと知っていたのにもかかわらずそれをAさんに教えなかったときに、Aさんは動機の錯誤による無効の主張ができます。
 尚、Aさんの動機が相手にわかるといっても、たとえAさんが動機を口に出していなくても、Aさんの動機が明らかに見てとれていたならば(法律的にいうと黙示に表示されていたならば)、そのときもAさんは、動機の錯誤による無効の主張ができます。

 以上、動機の錯誤について簡単にまとめますと、
「表意者の動機が間違っていて、その動機が間違っていることを相手が知っていて、その動機が間違っていることを相手が教えてあげなかったとき、表意者は動機の錯誤の無効を主張できる」
となります。つまり、表意者の動機が間違っているのに気づいていたなら相手は表意者に教えてやれ!てハナシです。

 動機の錯誤の無効の主張について、おわかりになりましたか?じゃあこの場合は?あの場合は?色々あると思います。
 最後に付け加えて申し上げておきますと、実際には、要素の錯誤と動機の錯誤のラインというのは、ハッキリ引ける訳ではありません。現実には微妙な事例がいくつも存在します。そこで参考にするのは過去の裁判の判例になるのですが、いずれにせよ、現実には事案ごとに、個別具体的に判断するしかないかと思います。ですので、今回ご説明申し上げたことは、あくまで民法上の基本的な考え方になりますので、その点を踏まえた上で、頭に入れておいて頂ければと存じます。
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表意者(本人)以外が錯誤の無効を主張できるとき

 以前、原則と例外と要件についてご説明申し上げました。それらを踏まえて、今回は要素の錯誤の無効について、付け加えてご説明申し上げたいと思います。

 要素の錯誤は、表意者(本人)に重過失(重大なミス)がないとき、表意者(本人)が無効を主張できます。しかし、ここでこんな例外がございます。なんと、錯誤の無効の主張を本人以外ができるときが存在するのです。つまり「あいつのあれは要素の錯誤だから無効だ」と、別の人間が言えるのです。それはどんなときなのか、それを今からご説明いたします。

本人以外が錯誤の無効を主張できるときとは

 要素の錯誤の無効は、原則、表意者(本人)しか主張できません。なぜなら、要素の錯誤の無効の規定は、表意者(本人)を保護するためのものだからです。では、表意者(本人)を保護するための錯誤の無効の主張を表意者(本人)以外が主張できる場合とは、一体どんなときなのでしょうか?
 それは、表意者(本人)が錯誤の無効を主張してくれないと困ってしまう人がいて且つ表意者(本人)が錯誤を認めているときです。この説明だけだとよく分からないと思いますので、もう少し具体的にご説明いたします。

本人以外が錯誤の無効を主張できるときの具体例

 たとえば、偽の骨董品がAからBに売られ、その後、BからCに転売された場合に、Cが錯誤の無効を主張してBC間の売買契約をナシにする、というのは通常の錯誤無効のケースだと思います。このとき、CはBからお金を返してもらう事になりますが、もしBに返すお金がなかったとき、Cはどうすればいいのでしょうか?
 そうです。このときに、CはAB間の売買契約の、Bによる錯誤の無効をC自身が自分で主張して、AB間の売買契約を無かったことにして、BのAに対する代金返還請求権を、CはBに代わって行使できるのです。つまり、Cは自分のお金をしっかり返してもらうためにBの代わりに、BがAからお金を返してもらう権利を、Bの代わりに行使できるという事です。CはAに「Bは錯誤だ!だからAB間の売買契約は無効だ!だからAはBに金を返せ!」と言えるのです。そして、そのお金でCはBからお金を返してもらう、という流れになります。ただしその場合、Bが自分の錯誤を認めていることが必要です。Bが自分の錯誤を認めていなかった場合は、このような権利の行使はできません。ちなみに、このような「BのAに対する権利をCがBに代わって行使する権利」を、債権者代位権といいます(債権者代位権については債権分野で改めて詳しくご説明いたします)。

補足
 最後にひとつ付け加えておきます。表意者(本人)に重過失(重大なミス)がある場合は錯誤の無効は主張できない、という話はすでに申し上げたと思いますが、実はこの場合でも、表意者が錯誤の無効を主張できるときがございます。それは相手が表意者の錯誤を知っていたときです。つまり、相手が表意者の重大なミスを知っていたのに教えてあげなかったときは、たとえ表意者に重過失があったとしても表意者は錯誤の無効を主張できます。これは、民法先生がこう言っているって事です。「気づいてたんなら言ってやれよ!」と(笑)。

 という訳で今回は以上になります。また次回も、よろしくお願い致します。
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心裡留保の超基本 冗談で言ったことも有効な契約になる?

 今回のテーマは心裡留保です。「しんりりゅうほ」と読みます。字は「心理」ではなく「心裡」になります。字面だけ見るとやけに難しそうに思えますが、そんなに難しい話ではございませんのでご安心下さい。

 この世の中は契約社会です。それは、口約束だけでも成立する諾成契約の存在等が根拠となっているのですが、それではこのような契約は成立するでしょうか?

この俺が付けてる本物のロレックスの時計、千円で売ってやるよ!

 結論から申しますと、この契約は有効に成立します。これが心裡留保です。ちょっと驚きですよね。結論だけだと意味がよくわからないと思いますので、これからその内容・結論に至るまでの論理をご説明して参ります。
 先ほど挙げた例で、売主は果たして本気でロレックスの時計を千円で売ろうと思ったでしょうか?ひょっとしたら本気の可能性もなくはないですが、冗談で言っていると考えるのが通常だと思います。しかし、その冗談を相手が信じてしまっていたらどうでしょう?ロレックスの時計の価値というものをよくわかっていない人であれば、信じてしまうことは十分ありえますよね。すると相手は困りますよね。それは、取引の安全性を損なうと、民法は考えます。

(心裡留保)
民法93条
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

「真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない」というところがつまり、冗談で言った事も有効に成立してしまいますよ、という意味になります。民法先生の前では、うかつに冗談も言えませんね(笑)。民法には「この世の中は契約社会で、基本的には自己責任」という考えがベースにあると思っておいて下さい。ですので、我々にとってみれば、民法には取引の安全性を重視して冷たく感じる部分があるのです。
 また、民法93条にはただし書きがあります。

民法93条但し書き
ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

 これはどういう事かと申しますと、「冗談を言われた相手がそれが冗談だと分かっていればその契約は無効ですよ」という意味です。先のロレックスの例に当てはめて考えると、「この本物のロレックスの時計、千円で売ってやるよ!」と言われた相手が、それが冗談だとわかっていれば、その契約は無効になり、有効に成立しません。錯誤のときもそうでしたが、この「相手がそれを知っていたら」というところは、民法では非常によく出てきます。注意して頂きたいと存じます。
 また、先の条文では「知ることができたとき」という文言がありました。これは「たとえ相手が、それが冗談だと知らなかったとしても、ちょっと考えればわかるようなことは、知らなかったでは済みませんよ」という意味です。先述のロレックスの例に当てはめると、相手がロレックスの時計の価値をわかっていて「待てよ?本物のロレックスの時計を千円で売るなんておかしいよな?」と、ちょっと考えれば十分わかることであれば、その冗談で言った事は無効になり、契約は成立しません。

 以上が、心裡留保についてのご説明になります。簡単にまとめるとこうなります。
「冗談で言った事でも有効に契約は成立してしまうが相手がそれが冗談だとわかるときは無効になる」
 心裡留保、おわかりになって頂けましたでしょうか。
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詐欺の超基本 取り消せない詐欺?善意の第三者とは

 今回のテーマは詐欺です。詐欺という言葉自体は、一般的にも馴染みがあると思います。カモを見つけて騙すシロサギ、色気を使って男を騙すアカサギ、詐欺師を騙すクロサギ...なんてのもありますね。
 話を戻します。民法では、詐欺についての学習が、民法への入口になることも多いようです。従いまして、詐欺についての学習は、民法の基礎を学ぶのに、ちょうどいいのではないでしょうか。
 それでは始めて参りたいと思います。

事例1
Aは持家をBに売ったが、その売買契約はBの詐欺によるものだった。Bの詐欺により、Aは持家を破格で売らされたのだ。


 この場合、AはBの詐欺を理由に売買契約を取り消すことができます。これは誰も何も異論はないでしょう。普通に考えて当然の事だと思います。では、次の場合はどうでしょうか。

事例2
Aは持家をBに売った。そして、Bはその家をCに転売した。しかし、AB間の売買契約はBの詐欺によるものだった。尚、CはAB間の売買契約がBの詐欺によるものだったという事情など全く知らなかった。


 今度は、AB以外に、Cという登場人物が現れました。この場合も、AはBによる詐欺を理由に、AB間の売買契約を取り消すことができます。しかし!その取消しはCに対抗することはできません。つまり、AはBによる詐欺を理由に、AB間の売買契約を取り消してナシにしようとしても、Cがそれを認めなければナシにはできないのです。つまり、CがAB間の売買契約の取消しを認めなければ、Aは泣き寝入りするしかなくなります。
 それはいくらなんでもAが可哀想過ぎね?
 確かにそうです。しかし、我らが民法先生は、それよりも取引の安定性を重視します。ここでCを保護しないと、世の中の取引というものが円滑に行われず、ひいては経済の発展を阻害しかねない、と民法先生は考えるのです。つまり、このケースでは、民法先生は「取引の安全のためにAには犠牲になってもらおう」と言っているのです。もっと言うと、この世の中は契約社会で基本的には自己責任、だから騙されるAも悪い!と突き放すのです。
 正直、この結果には、納得できない方が多いでしょう。しかし、民法の学習を進めていき、リーガルマインドがある程度身に付いてくると、納得できるようにもなってきます。ですので、ここではとりあえず「民法ではそういうふうになっているんだ」と、無理矢理にでも理解して下さい。民法は、必ずしも弱者の保護を優先する訳ではないのです。
 話を戻します。この事例2では、Aは泣き寝入りの事態でした。しかし、次の場合には結果が違ってきます。

事例3
Aは持家をBに売った。そして、Bはその家をCに転売した。しかし、AB間の売買契約はBの詐欺によるものだった。尚、CはAB間の売買契約がBの詐欺によるものだったという事情を知っていた。


 事例2との違いは、AB間の売買契約がBの詐欺によるものだったという事実をCが知っている、という点です。実はこの「事情を知っているか知らないか」というのは、民法的にかなり重要な違いになります。民法では、この違いが全ての結果の如何を左右すると言っても過言ではないくらいです。ですので、このような民法的な理論構成を、まずは頭に入れておいて下さい。

善意の第三者とは

 民法の詐欺に関する条文は、次のようになっております。

(詐欺又は強迫)
民法96条抜粋
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
〜省略〜
詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗できない。

 善意の第三者というのは、事情を知らない第三者という意味です。第三者とは、事例2,3で登場したCです。そして事例2の場合、Cは詐欺の事情を知らないので「善意の第三者」という扱いになり、民法の規定により保護されることになります。
 民法で使う善意とは、事情を知らないという意味です。
 また、事例3の場合は、Cは詐欺の事情を知っているので「悪意の第三者」という扱いになり、保護されません。
 民法で使う悪意とは、事情を知っているという意味です。その人に悪意があるかないかという意味ではありません。

 という訳で、今回は以上になります。最後までお読み頂きありがとうございます。
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強迫の超基本 強迫で結ばされた契約はどうなる?善意の第三者は?

 今回のテーマは強迫です。「脅迫」ではなく「強迫」です。民法では「強迫」という字を使いますのでご注意下さい(脅迫と書く場合は刑法になります)。
 前回、詐欺の学習は民法の学習の入り口になる事が多い、と申し上げました。今回扱う強迫は、基本的に詐欺とセットで学習する事になりますので、前回と合わせて、民法の基礎を学ぶのにちょうど良い学習になるかと存じます(前回の詐欺についての記事はこちらへ)。

事例1
AはBに持家を売った。しかし、そのAB間の売買契約はBの強迫により無理矢理行われたものだった。


 さて、いきなり事例を挙げましたが、この事例1で、Aは何ができるでしょうか?詐欺のときと同じように取り消す事ができるのでしょうか?
 正解は少し違います。正解は、AB間の売買契約は無効になります。詐欺のときは後に契約を取り消すのに対し、強迫による契約は無効になります(無効と取消しの違いについて詳しくは「無効と取消し」記事をご覧下さい)。つまり、詐欺の場合は取り消すまで有効で契約は成立しますが、強迫の場合はそもそも契約そのものが成立しない、という事になります。強迫による契約は、取り消すまでもなく、そもそも成立すらしていないのです。まずはここをしっかり押さえておいて下さい。
 では、次の場合はどうでしょうか。

事例2
AはBに持家を売った。その後、Bはその家をCに転売した。しかし、AB間の売買契約はBの強迫によるものだった。尚、CはAB間の売買契約がBの強迫によるものだったという事情を全く知らなかった。


 登場人物がもう一人、Cが現れました。しかも、AB間の売買契約がBの強迫によるものだったという事情を全く知らないCは、善意の第三者というヤツです。事情を知らない第三者です。
 Aはどうする事ができるでしょうか?
 AはAB間の売買契約を取り消す事ができません。
 善意の第三者であるCがいるから?
 違います。もう少し正確に申し上げましょう。AはAB間の売買契約を取り消すまでもありません。なぜなら、そもそもAB間の売買契約は無効で、ハナッから契約そのものが成立していないからです。
 従いまして、事例2のケースでは、強迫の被害者のAはがっちり保護されます。一方、第三者のCは、たとえ善意であろうと家を手に入れることはできません。つまりこの場合は、Cは善意であろうと保護されることはないのです。 

無効というゼロはどこまでいってもゼロのまま

 従いまして、事例1も事例2も、AB間の売買契約は無効なので、その契約はハナっからナシなのです。さすがの民法先生も、強迫に関しては厳しく扱います。まあ、そりゃそうですよね。強迫による契約まで認めてしまったら、それこそ世の中の秩序が保たれませんから。もし、今現在、強迫によって結ばされた契約でトラブルになっている方がいらっしゃいましたら、そもそもその契約は成立していませんのでご注意下さい。
 しかし、世の中のワルとは、賢い生き物です。これぐらいの民法の規定は、大概知っているでしょう。ですので、強迫という明らさま手段はとらず、あの手この手を使って、あくまで本人の意思で契約した、という体裁をなんとしても整えるでしょう。そして契約後に、残酷な追い込みをかけるのです。
 皆さん。くれぐれも、特に「優しいワル」には、どうかお気をつけ下さいませ。
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取消後の詐欺 詐欺取消後に第三者が現れると?

 詐欺による契約は取り消せます。しかし、善意の第三者には対抗できません。では、取り消した後に第三者が登場した場合は、どうなるのでしょうか?

そもそも契約を取り消すとどうなるのか

 契約を取り消すと、その契約はゼロに戻ります。つまり、売買契約を取り消した場合は、売った側は相手にお金を返し、買った側は買った物を相手に返す、という事になります。契約する前の元の状態に戻るのです。それはつまり、その契約はなかった事になるのです。このように遡って効力を生ずる効果を遡及効といいます。遡求とは、遡る(さかのぼる)という意味です。
 以上、まとめますと、取消しによる効果は取消しの遡及効により遡って初めから無かった事になる、ということです。
 取消しについては、これで大丈夫かと思います。それでは、以上の事をふまえて、本題の「取消後の詐欺」について、ご説明して参ります。

取消後に悪意の第三者現る

 詐欺による取消しは、善意の第三者(事情を知らない第三者)に対抗できません。冒頭に申し上げたとおりです。ところで、実はこの規定、取り消す前に第三者が現れた場合の話なんです。という事は、次のような事例の場合は、一体どうなるのでしょう。

事例
AはBに土地を売却しその旨の登記をした。しかし、この売買契約はBの詐欺によるもので、Aはこの売買契約を取り消した。その後、Bはその土地を悪意のCに売却しその旨の登記をした。


 上記の事例では、、取消後に第三者のCが現れました。しかも、Cは悪意です。悪意とは、事情を知っているという意味です。では、この事情を知っている悪意のCは、果たして土地の所有権を取得できるのでしょうか?
 結論。悪意のCは土地の所有権を取得できます。
 え?悪意なのに?
 はい。そもそも取消後においては、第三者の善意・悪意は問われません。

取消後はさっさとしろ!

 先の事例の場合、民法はこう考えます。
「取消後にAがさっさと登記をしなかったのが悪い」
つまり、悪意のCよりも取り消してからボサっとしていたAがの方が悪いと、民法は結論付けるのです。これは、取引の安全性を重視する民法の考えからでしょう。
 ちなみに、この結論は強迫の場合でも一緒です。
 マジで?
 マジです。それだけ取り消してからボサっとしていたAには厳しいんです。ボヤボヤしていたAにも落ち度があるといはいえ、Aにとってはちょっと酷ですが、基本的に民法は、トロイ奴に冷たい傾向にあります。厳しい言い方になるかもしれませんが、これも自立した契約社会においての自己責任なのでしょう。

補足

 さて、ここで賢い方は、こんな疑問を抱いたのではないでしょうか。
 取消しの効果は遡及するからAが取り消した時点でBからCに土地を売ること自体できないことなんじゃないの?
 そのとおりです。正しい指摘です。取り消した時点で契約は遡って無かったことになりますから、本来、AB間の売買契約があった上で成り立つBC間の売買契約と権利移動はありえないんです。しかし、民法は「取引の安全性重視だ!」と強引にねじ伏せます。そして裁判官もそれに従います。ということなので、ここは敢えてその指摘はシカトして下さい。この強引な理屈を受け入れて下さい。でないと試験に受かりません(笑)。学説は様々あるかと思いますが、当サイトではこれ以上の深い入りは致しません。
. 私も民法に負けず強引にまとめますが、とりあえず民法「取引の安全性を重視する」ことと「トロイ奴に冷たい」ということを、頭に入れておいて頂ければと存じます。
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善意の第三者の登記・過失の有無 強迫無効後の第三者

 今回は、詐欺・強迫のまとめです。
(詐欺についてはこちらを、強迫についてはこちらをお読み頂いてから、今回の内容をご覧になって頂くと、より理解が深まると思います。余裕がある方は是非)
 それでは事例とともに、進めて参ります。

事例1
AはBに自己所有の土地を売却しその旨の登記をした。さらにBはCにその土地を転売した。しかしその後、AB間の売買契約がBの詐欺によるものだったということがわかり、AはAB間の売買契約を取り消した。尚、CはAB間の売買契約がBの詐欺によるものであったということにつき善意である。

 さて、この事例で、土地の所有権を取得できるのは誰でしょうか?
 これは基本中の基本ですよね。詐欺による取消しは善意の第三者に対抗できないので、この事例の場合、善意の第三者であるCが土地の所有権を取得し、Aは泣き寝入りです。

そういえばCは登記を備える必要はないの?
~詐欺における善意の第三者は登記を備える必要があるか~

 これ、気になるところですよね。
「この場合、問われるのはCが善意か悪意かであり、登記の有無は関係ない。したがって、Cは登記を備えなくても土地を取得できる」
というのが通説的な見解です。学説は諸説ありますが、当サイトではこれ以上の深入りは致しません。※
 
そういえばCの過失の有無は問われないの?
~詐欺における善意の第三者は無過失を必要とするか~

 これも気になるところですよね。そしてこれにも学説が諸説あります。一応有力説としては
「善意であれば無過失(落ち度なし・ミスなし)までは要求されない」
とのことです。ただ、重過失(重大な落ち度・大きいミス)があった場合は保護されないでしょう。この問題に関しても当サイトでこれ以上の深入りは致しません。※

※上記二点の問題について、これ以上の深入りは当サイトの主旨から外れてしまいますので、さらに詳しく知りたい方は専門書をお読み頂ければと存じます。

事例2
Aは自己所有の土地をBに売却した。さらにBはCにその土地を転売し、Cは登記を備えた。しかしその後、AB間の売買契約がBの強迫によるものだったということが発覚した。尚、CはAB間の売買契約がBの強迫によるものだったということにつき善意である。


 続いては強迫の事例です。それではこの事例2で、土地の所有権を取得することができるのは誰なのでしょうか?
 正解はAです。いくらCが善意だろうと登記を備えようと、AB間の売買契約はBの強迫により問答無用で無効なので、BC間の売買契約も成り立たず、その結果、Aが保護されます。
 では続いて、この場合はいかがでしょうか。
 
事例3
Aは自己所有の土地をBに売却した。しかし、AB間の売買契約はBの強迫によるもので無効になった。それからAは登記も戻さずその土地をしばらくほったらかしていたが、その間に、Bは悪意のCにその土地を売却し、Cは登記を備えた。


 これは強迫後の話ですね。ポイントは、強迫によりAB間の売買契約が無効になった後に第三者が現れているという点です。
 さて、この事例3で、果たして土地の所有権を取得するのは一体誰でしょうか?
 実は、この事例3で適用する民法は、強迫による無効の規定ではありません。
 え?どゆこと?
 はい。今からご説明いたします。
 まず結論から先に申しますと、事例3で土地の所有権を取得するのはCです。
 マジで?
 マジです。なぜなら事例3は、強迫により無効になった後に、第三者が現れているからです。
 そして、この事例3で適用する民法の条文はこちらになります。

(不動産に関する物件の変動の対抗要件)
民法177条
不動産に関する物件の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律に定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 前回の記事「不動産登記は早い者勝ち?」でも解説いたしましたが、この条文が適用されるということは、もはや強迫云々の話ではなく、単純に登記したモン勝ち!ということです。従いまして、事例3では、登記を備えたCが土地の所有権を取得します。
 尚、この事例3では、AB間の売買契約が詐欺だろうが強迫だろうが、第三者のCが善意だろうが悪意だろうが、結論は一緒です。つまり、Aには気の毒ですが、ボサッとしていたAが悪いのです。理屈は、以前取り上げた「取消後の詐欺」と同じですので、そちらも併せてお読み頂ければと存じます。

 以上、詐欺・強迫のまとめでした。今回も最後までお読み頂き有難うございます。
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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
根本総合行政書士です。
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保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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