時効取得の様々な事例

 今回は時効取得の様々なケースをご紹介するとともに、その解説をして参ります。

事例1
売主Aは買主Bに甲不動産を売り渡した。しかし、売主AはCにも甲不動産を二重譲渡し、Cは登記をした。その後、Bは甲不動産を占有し続けた。

 この事例1は不動産の二重譲渡のケースです。不動産は登記したモン勝ちですよね(不動産の二重譲渡についてはこちらの記事もご参照下さい)。ですので、通常の二重譲渡のケースとして考えればCの勝ちですが、事例1では、Bは甲不動産を占有し続けています。という訳でここからが本題です。Bはこのまま占有し続ければ、甲不動産を時効取得できるでしょうか?
 結論。Bは甲不動産を時効取得できます。尚、Bが甲不動産を時効取得すると、Cは元々甲不動産の所有者ではなかったことになる、つまり、Bが元から甲不動産の所有者だったことになります。
 時効期間の起算点は?
 Bが甲不動産の占有を開始した時です。

事例2
売主Aは買主Bに甲土地を売り渡した。甲土地は農地で、Bは農地以外への転用目的で甲土地を購入したのだったが、農地法5条の許可申請を行なっていなかった。


 いきなり農地法5条といっても、はぁ?となりますよね。農地を農地以外で利用すること、つまり、農地の利用目的を変更することを農地転用といいますが、農地転用を行う際には農地法4条の許可(届出)が必要になります。また、農地の所有者を変更する際には農地法3条の許可(届出)が必要で、所有者と利用目的の両方を変更する場合には農地法5条の許可(届出)が必要になります(この辺りの知識は宅建試験において「法令上の制限」分野で必須になります)。俗に3条許可とか5条許可とか言ったりします。
 話を戻しましょう。この事例2で、買主Bは甲土地を時効取得できるでしょうか?
 結論。Bは甲土地を時効取得できます。甲土地の引渡しを受けた時からBの自主占有が開始したと判断されます。

事例3
Aは、長期間、公共の目的に供用されることなく放ったらかされた公共用の不動産を占有し続けた。


 さて、この事例3のAは、占有し続けた公共用の不動産を時効取得できるでしょうか?
 結論。なんとAは占有し続けた公共用の不動産を時効取得できます。これはちょっとビックリですよね。これは判例で「公の目的が害されず、その物を公共用財産として維持すべき理由がなくなったときは、黙示の公用の廃止があったものとして」時効取得できるとしています。理屈はともかく、判例でそのような結論になっている、ということを覚えておいて頂ければと存じます(この辺りの知識は、行政書士試験や公務員試験の「行政法」分野で求められます)。

事例4
AはBの所有地になんの権利もなく自己所有の樹木を植栽し、そのまま所有の意思を持って平穏・公然と20年間占有した。


 さて、少し変わった事例ですが、この場合にAは立木(植栽した樹木のこと)の所有権を時効取得できるでしょうか?
 結論。Aは立木の所有権を時効取得できます。
 このケースは、参考までに頭の片隅にでも入れておいて頂ければと存じます。
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短期取得時効

事例1
農家Aは甲土地を、農家Bは乙土地を耕していて、甲土地と乙土地は隣接地だった。Aは善意にかつ過失なく土地の境界線を超えて、自分の畑を乙土地にまで広げて10年間耕し続けた。

 さて、この事例1で、Aは境界線を超えて耕し続けた甲土地を時効取得できるでしょうか?
 結論。Aは境界線を超えて耕し続けた甲土地を時効取得します。
 え?占有期間が足りなくね?
 そんなことはないないのです。なぜなら、Aは善意・無過失だからです。根拠となる条文はこちらです。

(所有権の取得時効)
民法162条2項
十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

 そうなんです。なんと占有開始の時に善意・無過失であれば、10年間の占有で時効取得できてしまいます。つまり、善意・無過失の占有であれば20年間もいらないのです。これが短期取得時効です。
 従いまして、善意・無過失で境界線を超えてB所有の乙土地を10年間耕し続けた(占有し続けた)Aは、乙土地を時効取得します。ただ、無過失の立証はA自身で行わなければなりません。その点だけはAが頑張らなくてはならない部分です。逆にBは、Aが無過失を立証できなければ、越境された乙土地を10年間で時効取得されるという事態を防ぐことができます。尚、念のため申し上げておきますが、Aがさらに10年間、つまり20年間乙土地を耕し続けたら、Aの善意悪意・過失の有無に関わらず、Aは乙土地を時効取得します(通常の取得時効)。その場合は、Bが裁判を起こしてAの過失を立証したところで、Aに「時効を援用します」と言われればアウトです。

事例2
売主Aは買主Bに甲土地を売り渡した。さらにBは甲土地をCに転売した。その後、AはAB間の甲土地の売買契約の錯誤無効※を主張し、Cに対し甲土地の返還を求めた。

※錯誤についてはこちらの記事をご参照下さい。

 さて、この事例2のCは、Aからの甲土地の返還の求めに応じなければならないのでしょうか?
 もし甲土地の売買契約の錯誤無効が認められれば、AB間の売買契約は初めから無かったことになるので、AB間の売買契約の存在が前提に成り立っているBC間の売買契約も無効のものとなってしまいます。すると、甲土地に住むCはただの不法占拠者となってしまいます。このように考えていくと、CはもはやAに甲土地を返還するほかないですよね。
 しかし!Cにはまだ奥の手が残されています。そう、取得時効です。Cが善意・無過失なら、10年間の占有で甲土地を時効取得することができます。その際に、もしAが裁判を起こし、錯誤無効を主張して甲土地の返還を求めてきても「時効を援用します」とCが言えば、Cの勝ちです。さらにこの事例2では、事例1のケースよりも占有者にとって有利な力が働きます。というのは、事例1のケースでは、占有者は善意・無過失とはいえ、越境行為によって土地を占有しているのに対し、事例2の場合、占有者(Cのこと)は取引行為によって土地を手に入れております。取引行為の場合は、民法188条「占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する」により、占有者の無過失の推定が働きます。つまり、事例1とは違い、占有者のCは無過失の立証を自らで行う必要がありません。これはCとしてはかなり助かりますよね。逆にAは、Cの過失を立証できなければ甲土地を返してもらうことができません。
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占有を奪われたときは?占有回収の訴え

事例
Aはあともう少しで甲土地を時効取得するところである。そこで、Aに甲土地を時効取得されたくない血気盛んなBは、実力行使でAの占有を排除した。


 なんだかエモーショナルな事例ですが、この場合、Aの占有は途切れてしまい、Aは甲土地を時効取得することができなくなってしまうのでしょうか?

(占有の中止等による取得時効の中断)
民法164条
第百六十二条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。

 上記の条文のとおり、Aは他人のBによって占有を奪われています。ということは、条文どおり時効は中断し、Aは甲土地を時効取得することができなくなりそうですね。Bにとってはしてやったりという感じです。しかし!民法では、Aのような人間を救うべく、下記のような規定も置いています。

(占有回収の訴え)
民法200条
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。

 上記の条文に基づいて、AはBに対し「占有回収の訴え」を起こし、勝訴して甲土地を取り戻せば、無事Aの占有は継続していたことになります。
 占有期間はリセットされないの?
 リセットはされません。繰り返しますが、占有回収の訴えを起こし、勝訴して甲土地を取り戻すことができれば、Aの甲土地の占有期間は継続していたことになります。ですので、Aの甲土地の時効取得への影響はありません。参考となる条文はこちらです。

(占有権の消滅事由)
民法203条
占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。

 ちなみに、上記の条文を読むと、占有回収の訴えの提起さえすれば占有継続が認められそうですが、実際には、勝訴して土地を取り戻すところまでいかないと、占有が継続していたことにはなりません。ですので、Aとしては、占有の継続を取り戻し甲土地を時効取得するためには、裁判を起こし勝訴して実際に甲土地を取り戻すところまでいかなければならないのです。これは中々の負担ですよね。ということは、Aとすれば、事前に占有を奪われることを防止するのが最良ですよね。そこで民法では、次のような規定も存在します。

(占有保全の訴え)
民法199条
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。

 つまりAは、血気盛んなBが甲土地の占有を妨害しそうだと判断したら、あらかじめ「占有保全の訴え」を起こし、事前に法的な予防線を張ることができます。
 また、占有を奪われるまではいかないが、占有の妨害を受けたときには民法198条(占有保持の訴え)により、妨害の停止および損害賠償の請求をすることができます。
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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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