無権代理と相続 無権代理人が本人を相続するとどうなる?

事例1
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をCと締結した。その後、Aは死亡し、Aの唯一の相続人であるBは甲土地を相続した。


 なんだかややこしい事例ですよね。ただ、これは試験などではよく問われるケースで、無権代理人が本人を相続したらどうなるのか?という話です。
 さて、ではこの事例1で、甲土地の売買契約の行方はどうなるのでしょう?
 無権代理人Bは、本人Aを相続しています。つまり、無権代理人Bは本人Aを相続したことによって「Aの権利を受け継いだ本人B」となります。判例では、このような場合、相続により本人と無権代理人の地位が融合し、相続前の無権代理行為は当然に有効になると考えます。従いまして、事例1における甲土地の売買契約は当然に有効になります。元々は無権代理人Bが行った甲土地の売買契約は無権代理行為ですが、本人Aが死亡し、Bが甲土地を相続したことによって、Aが自分で甲土地を売ったのと同じになると考えるのです。

本人Aを相続した無権代理人Bは相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒める?

 さて、事例1で、無権代理人Bが行った無権代理行為(甲土地の売買契約)は、その後にBが本人Aを相続したことにより(甲土地を相続により取得したことにより)当然に有効になることがわかりました。では、本人Aを相続したことによりAの権利を相続したBは、「本人として」甲土地の売買契約という無権代理行為の追認を拒絶することができるのでしょうか?
 無権代理人Bが本人Aを相続したことにより「Aの権利を受け継いだ本人B」になったと考えると「Aの権利を受け継いだ本人B」として、無権代理人Bの無権行為(甲土地の売買契約)の追認を拒絶できそうです。しかし、民法はこれを認めません。なぜなら、Bが本人Aを相続し「Aの権利を受け継いだ本人B」になったからといって、甲土地の売買契約の追認を拒絶できてしまうとなると、Bが自ら行った無権代理行為を、後から自分で「あれ、やっぱナシね!」とできてしまうということになります。これは「この世の中は契約社会で、契約という約束は守らなければならない」という民法の基本的な考え、もっと言えば法秩序の基本に反します。そして、このようなことは民法にハッキリとした条文がある訳ではありませんが、法律用語で禁反言の原則といいます。禁反言の原則とは信義誠実の原則の一種です(信義誠実の原則についてはこちらの記事をご参照下さい)。つまり、本人を相続した無権代理人が、自ら行った無権代理行為を追認拒絶することは、信義則(禁反言の原則)に反するのです。従いまして、後に本人Aを相続したBは甲土地の売買契約の追認拒絶はできず、相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒むことはできません。

 今回ご説明した内容が「無権代理と相続」についての基本となりますので、まずはここを押さえておいて頂ければと存じます。
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資格融合説と資格併存説

Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をCと締結した。その後、Aは死亡し、Aの唯一の相続人であるBは甲土地を相続した。

 このような無権代理人が本人を相続したケースでは、無権代理人が相続前に行った無権代理行為は当然に有効になります(前回の記事もご参照下さい)。そして本人を相続した無権代理人は、自ら行った無権代理行為の追認拒絶は信義則に反し許されません(禁反言の原則)。よって冒頭に示した事例において、本人Aを相続した無権代理人Bは、甲土地の売買契約の追認拒絶はできず、相手方Cからの甲土地の引渡し要求を拒むこともできません。
 さて、このような論理構成には、資格融合説資格併存説という2つの考え方があります。今回は、その2つの考え方についてご説明して参ります。

資格融合説

 これは本人と代理人の資格が融合するという考え方です。前回の記事でご説明した内容はこの資格融合説になり、判例の立場です。資格融合説は、本人と無権代理人の地位が融合したのだから、その融合した瞬間、すなわち、無権代理人が本人を相続した瞬間に「本人が自ら売ったことになる」ので、売買契約は当然有効になるとする考え方です。

資格併存説

 これは、本人と代理人の資格が併存するという考え方です。なんだか「ん?」てなりますよね。これはどういう考え方かと申しますと、無権代理人に元々あった「無権代理人という地位」に加えて、相続によって「本人という地位」が包括承継(権利義務が一括して継承されること)され「二つの地位は融合せず併存する」とするものです。
 だから?
 はい(笑)。この「二つの地位は融合せず併存する」とする資格併存説の場合、「相続開始時に売買契約はまだ不確定無効のまま」と考えます(不確定無効についてはこちらの記事をご参照下さい)。つまり、相続開始時に売買契約は有効でも無効でもありません。判例の立場である資格融合説の場合は、相続開始時に売買契約は当然に有効になります。この点が2つの説の違いです。
 ではここから、資格併存説がどう結論に向かっていくかといいますと、まず相続開始時には不確定無効のままなので売買契約は有効でも無効でもありません。その後、相手方が本人を相続した無権代理人に追認を迫ると、本人を相続した無権代理人は信義則上追認を拒絶できないので、売買契約は有効になります。そして、相手方が追認を迫らないと不確定無効のままなので、売買契約は有効でも無効でもない状態が続き、相手方が民法115条の取消権を行使すれば、売買契約の無効が確定します。

 このように、無権代理人が本人を相続した場合には2つの考え方があります。ちなみに、資格併存説は学者には人気の説ですが、判例の立場は資格融合説になりますのでご注意下さい。尚、判例が資格融合説をとるのは「無権代理人が本人を単独で相続したとき」です。ここもあわせてご注意下さい。
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無権代理と相続 相続人が複数の場合

事例1
Bは代理権がないにもかかわらず、Aの代理人と称してA所有の甲土地の売買契約をDと締結した。その後、Aは死亡し、Aの相続人であるBとCは甲土地を相続した。


 なんだか入り組んだ事例ですが、これも「無権代理と相続」について考える典型的な事例です。
 この事例1のポイントは、相続人が無権代理人Bだけでなく「普通の相続人」のCもいる、つまり複数いるということです。さて、この場合に、無権代理行為をやらかした張本人のBが甲土地の追認拒絶をできないのは、相続人が単独のときと同じです。ではもう一人の相続人Cは、甲土地の売買契約の追認を拒絶できるでしょうか?
 結論。Cは甲土地の売買契約の追認を拒絶できます。なぜなら、Cは相続により本人Aの追認権と追認拒絶権を包括承継(権利義務が一括して継承されること)していますし、無権代理行為を行ったのはBなので、Cが甲土地の売買契約の追認を拒絶することは信義則上も何も問題ありません。

事例1のようなケースでは資格併存説をとる

 ところで、こんな疑問が湧きませんか?
資格融合説※により本人Aと無権代理人Bの地位は融合し、その結果、甲土地は「本人が売ったこと」になるので売買契約は当然に有効になる。しかし、そもそも資格融合説により当然有効になった売買契約を後から追認拒絶することができるのか?Cが追認拒絶することは信義則上の問題はないだろうけど...」
 この疑問に対する答えはこうです。
「事例1のようなケースでは、判例は資格融合説を取りません
 これはどうしてなのかといいますと、資格融合説を取ってしまうと甲土地の売買契約が当然有効になるので、甲土地の所有権相続人Cと相手方Dの共有となってしまうのです。
 それの何が問題なの?
 これが大問題なのです。だって考えてみて下さい。相続人Cと相手方Dは赤の他人ですよ?甲土地の売買契約を締結したのはBなので、おそらくCとDは顔を合わせたことすらないでしょう。そんな赤の他人同士の二人の共有という状態は、そこからまた新たな法律問題へと発展しまう可能性大です。それは民法も裁判所も望まない事です。
 従いまして、事例1のようなケースにおいては、判例は資格融合説を取らず資格併存説を取るのです。資格併存説※を取るということは、本人Aが死亡し、相続が開始しても甲土地の売買契約は不確定無効のまま(無効が確定しないまま)ということです。従いまして、もう一人の相続人Cが甲土地の売買契約を追認拒絶することは何の問題もないのです。

※資格融合説と資格併存説についてはこちらの記事をご参照下さい。

 さて、事例1において、資格依存設を取ることによりCは問題なく追認拒絶できることが分かりました。ではCが追認拒絶するとなると、相手方Dはどうなるのでしょうか?次回、その問題についてご説明して参りたいと思います。
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サイト運営者

根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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