物権と比較して考える 債権の超基本

 債権とは、特定の者が特定の者に対して一定の行為を請求することを内容とする権利です。
 さて、それではこの「特定の者」とは、一体どのようなことを意味するのでしょうか?

 そもそも、なぜ「特定の者」なのでしょうか?実はこの意味について考えていくと、債権というものの、その性質・特徴が分かります。従いまして、ここからその「特定の者」について考えながら、債権という権利の性質・特徴をご説明して参ります。

債権は人に対する権利

 ところで「所有権」は債権なのでしょうか?
 違います。所有権は物権です。物権とは、物に対する権利です。つまり、所有権は「この物は私の所有物だ!」という物権になります(物権について詳しくはこちらの記事をご覧下さい)。
 一方、債権は「特定の者が特定の者に対して」一定の行為を請求することを内容とする権利です。「特定の者に対して」ということはつまり、債権は人に対する権利なのです。

物権と比較すると債権がよくわかる

 物に対する権利である物権は、1つの物に対して1人の物権が原則です(例外→共有)。これを一物一権主義といいます。例えば、あなたのギターはあなたの物、すなわち「あなたの所有物」です。全世界の他の誰の物でもありません。あなたはあなたの所有物について、他人を排して支配する権利を持ちます(排他的支配権)。もしあなたのギターを他の誰かが勝手に使っていたのなら、あなたは法律上堂々と「そのギターは私の物だ!返せ!」と主張できます。なぜなら、あなたのギターはあなたの所有物で、あなたにはそのギターの所有権(物権)があり、それは法律上当然に認められた権利だからです。あなたの所有物はあなただけの所有物なのです。あなたはあなたの所有権を不特定多数の者に主張できます。これが物権です。

 一方、人に対する権利である債権は、1人の者に対して1人の債権、という原則はありません。つまり、1人に対して複数の債権が存在することもある、ということです。ということは、1人に対して複数の債務が存在することもあります。これは現実を考えれば簡単にわかります。例えば、八百屋のオヤジが複数の問屋から野菜を仕入れれば、八百屋のオヤジは複数の債務を負うことになります。また、問屋が複数の八百屋に野菜を販売すれば、問屋は複数の債権を持ちます。
 そして、債権は「特定の者が特定の者に対して」有する権利です。AがBに対して持つ債権は、AがBに対する債権でしかありません。つまり、問屋Aが、八百屋Bにみかん10ケース、八百屋Cにみかん20ケースを販売した場合、問屋Aは二つの債権を同時に持ちますが、八百屋Bに対してみかん20ケース分の代金を請求することはできません。なぜなら、それは八百屋Cに対する債権だからです。当たり前の話ですよね。
 また、債権は「特定の者が特定の者に対して」有する権利なので、問屋Aの八百屋Bに対する債権は、他の者とは何の関係もなく、八百屋Cに対する債権とも何の関係もありません。問屋Aの八百屋Bに対する債権の問題は、AB間だけの問題です。問屋Aの八百屋Bに対する債権は、八百屋Bに対してしか主張できません。

 というわけで、「特定の者が特定の者に対して」ということの意味、そして債権の性質と特徴、おわかりになって頂けましたでしょうか。ごく当たり前に思える部分もあったかと思いますが、まずは債権についての超基本として、しっかりとおさえておいて頂ければと存じます。
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債務不履行・損害賠償の超基本

 債権とは、特定の者が特定の者に対して一定の行為を請求することを内容とする権利です。
 AがBにお金を貸した場合、AはBに対して「金返せ」という債権を持ちます。一方で、BはAに対して「借りた金を返す義務」という債務を負います(債権債務の超基本はこちらの記事へ)。そしてこの場合、Aが債権者、Bが債務者となります。
 ところで、債務者が、その債務を履行※しなかった場合は一体どうなるのか?という問題があります。ここからはその問題について、わかりやすく「お金」の視点から、ご説明して参りたいと思います。
※借金という債務を負っている場合に、その借金を返済することを「債務の履行」という。わかりやすく言うと、債務の履行とは「約束を果たすこと」である。売買契約なら「買主が売主に代金を支払うこと・売主が買主に売った物を引き渡すこと」が債務の履行となる。

事例
「代金は月内に支払う」という約束をして、AはBにギターを売り渡した。しかし、月末が過ぎてもBは一向に代金を支払わない。


 これは売買契約の事例です。まずは各当事者の立場と関係性を確認しましょう。
 Aはギターの売主で、Bはギターの買主です。そして売主Aは、買主Bに対して「代金を支払え」という債権を持っています。一方、買主Bは、売主Aに対して「月内に代金を支払う」という債務を負っています。したがってこの場合、売主Aは債権者、買主Bは債務者となります。

債権者 債務者
売主A→買主B
   ↑
   債権

 そして、ここからが本題です。
 買主Bは「月内に代金を支払う」という約束をしたのにもかかわらず、月末が過ぎても一向にその代金を支払いません。つまり、Bは期限が過ぎても債務を履行しない、ということです。これを債務不履行といいます。そして、債務不履行の状態になることを「債務不履行に陥る」といいます。つまり、Bは債務不履行に陥っているのです。
 さて、Bが債務不履行に陥っているのはわかりましたが、早くBから代金をもらいたいAは、一体どうすればいいのでしょうか?民法には、次の規定があります。

(債務不履行による損害賠償)
民法415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。

「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」とは、簡単に言えば「債務者が約束どおりに約束を果たさないとき」ということです。そして、そのような場合、債権者は債務者に対して「生じた損害の賠償を請求できる」ことを民法415条は規定しています。
 従いまして、事例のAは、債務不履行に陥ったBに対して、生じた損害の賠償を請求することができます。
 尚、この場合、「生じた損害」は売買代金です。しかし、それ以外の損害も認められれば、そのときは、売買代金分とそれ以外の損害分とを合わせて、AはBに対して賠償を請求することができます。
 
 以上、まとめるとこうなります。

債権者 債務者
売主A→買主B
   ↑
   債権

↓Bが債務不履行に陥ると↓

債権者 債務者
売主A→買主B
   ↑
損害賠償請求権

 つまり、債務者が債務不履行に陥ると、債権者の債務者に対する債権の矢印が、損害賠償請求権の矢印へと変貌します。恐怖の変貌です(笑)。それはまるで、アシュラマンが怒りの面に変わるかの如く、緋村剣心が人斬り抜刀斎に変わるかの如く、といった感じでしょうか。
 契約は約束です。債務の履行は約束を守ることです。みなさん、約束はしっかりと守りましょう。
 尚、債務不履行についてはこちらの記事も、損害賠償についてこちらの記事もご参照ください。
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金の貸し借りで考える債権の世界

 債務を履行するとは、約束を守ることです。
 債務を履行しないとは、約束を破ることです。
(債権債務の超基本はこちらの記事へ。債務の履行・債務不履行について詳しくはこちらの記事へ)。
 さて、では債務を履行しない=約束を破った先には、一体どんな債権の世界が待ち受けているのでしょうか?今回はその問題について、わかりやすく、現実にもよくあるお金の貸し借り(金銭消費貸借契約)を例に、ご説明して参りたいと思います。

事例
AはBに300万円を貸し付けた。その後、返済期限が過ぎても、Bは一向にその借金を返済しない。


 まず、各当事者の立場と関係性を確認します。
 Bに300万円を貸したAは、Bに対して「300万円返せ」という債権を持ちます。つまりAは債権者です。
 そして、Bは「返済期限までに300万円を返さなければならない」という債務を負います。つまりBは債務者です。

債権者 債務者
 A → B
   ↑
   債権
 (300万返せ)

 このようになります(Aを貸金業者と考えるとよりイメージしやすいでしょう)。
 さて、事例の債務者Bは、返済期限を過ぎても300万円を返しません。つまり、Bは債務を履行しないまま期限を過ぎた=約束を破っています。では債権者Aは、Bに対して、これから一体どのような行為・手続きを行っていくことになるのでしょうか?
 民法には次のような規定があります。

(履行の強制)
民法414条
債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。

 債権者Aは、債務不履行に陥った債務者Bに対して、裁判所を使って強制的にその債務を履行させることができます。裁判所を使うとは、訴訟を起こすということです。
 ここでひとつポイントです。債権者は、裁判所を使って強制的にその債務を履行させることができる、つまり、債権者Aは、訴訟を起こすことができるのであって、実際に訴訟を起こすかどうかは、債権者Aの自由なのです。
 このように、民事訴訟の世界では、実際に訴訟を提起するかどうかは、訴える者の自由なのです(これを処分権主義という)。
 また、債権者と債務者の間で「不起訴の合意」を交わすこともできます。不起訴の合意とは「訴えません」という約束をすることです。そして、この「訴えません」という約束、不起訴の合意は、拘束力を持ちます。拘束力を持つということは、一度、不起訴の合意をしてしまうと、その後、いくら債務者がその債務を履行しなかったとしても、債権者は訴訟を提起することができなくなります。ですので、もし友人間のお金の貸し借りでモメていて、借りた側から不起訴の合意を持ちかけてきた場合は、貸した側の人は、十分お気をつけ下さい。
 尚、不起訴の合意がなされると、その債務は自然債務になります。自然債務とは、債務者がその債務を履行すれば有効な弁済※になるが、債権者がそれを強制することができないという、債務者にとっては実に都合の良い債務です。
弁済とは、債務を履行して、その債権を消滅させること。わかりやすく言えば、約束を果たしてその義務がなくなること。
 つまり、自然債務は「いくら金借りても絶対に文句を言わない都合のいい友人」から借金した債務みたいなものです(笑)。ですので繰り返しますが、友人間などのお金の貸し借りで、不起訴の合意を求められたら、くれぐれも!お気をつけ下さい。もし不起訴の合意をしてしまえば「いくら金借りても絶対に文句を言わない都合のいい友人」に、拘束力を持った形で成り下がってしまいますから。

 というわけで今回は、民法からは少し外れた内容になってしまったかもしれません。しかし、今回のご説明で、ややこしい債権分野がよりイメージしやすいものになれば、と思います。
(尚、訴訟などで実際に履行を強制させるための手続きを規定したものが、民事訴訟法です。また、このような法律は、手続法と呼ばれます。一方、民法414のような規定・法律は、実体法と呼ばれます。ご参考までに)
 次回は、債権者が訴訟を起こして、それから一体どのように「債務者にその債務を強制的に履行」させるのか、ということについて、ご説明して参ります。
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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
根本総合行政書士です。
宜しくお願いします。

保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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