時効取得と登記 時効完成前の第三者

事例
AはB所有の甲土地を善意・無過失で9年間、占有を続けた。Aはあと1年の占有で甲土地を時効により取得するところである。ところが、その時効が完成する前に、甲土地がBからCに譲渡され、その旨の登記もされた。


 この事例で、Aは善意・無過失でB所有の甲土地を占有していますので、短期取得時効により、10年間の占有で甲土地を時効取得します。ところが、その時効が完成する一歩手前で甲土地の所有権がBからCに移転しています。
 で、結局何が問題なの?
 はい。この事例の問題は、Aがあと1年間、占有を継続して時効が完成した場合、AはCに対して甲土地の時効取得を主張できるのか?ということです。
 なぜそれが問題になるかというと、こういうことです。AはB所有の甲土地を善意で9年間占有していますが、C所有になってからの甲土地は1年間しか占有していません。それなのに、AのCに対する甲土地の時効取得の主張が認められるとなると、Cからすれば、たった1年間の占有で甲土地を時効取得されて、その所有権を奪われてしまうことになります。

「AvsC」の所有権争いの結末

 さて、このAとCによる甲土地の所有権をめぐる争い、一体どちらが勝つのでしょうか?
 結論。甲土地をめぐる所有権争いはAの勝ちです。Aは甲土地の時効が完成すれば、Cに対して、その時効取得を主張できます。従いまして、AはCに対して「時効が完成したから甲土地の所有権をよこせ!」と主張できるということです。
 Cが気の毒なような...
 確かにそうですよね。しかし、Aに甲土地を時効取得されてしまったことについては、Cにも落ち度があります。なぜなら、Bから甲土地を譲渡される前に、甲土地についてしっかりと調査をすれば、Aの占有と時効取得される可能性を事前に知ることはできたとも考えられますよね。
 加えて、善意で占有しているAは、甲土地を自分の土地だと思って占有しています。そんなAにとっては、甲土地の真の所有者がBなのかCなのかは、あまり関係ないのです。

判例の考え

 判例の考えでは、AとCは「前主後主の関係」になります。本来、不動産登記の世界は「登記した者勝ち」の、早い者勝ちの世界です。例えば、ある不動産が二人の者に二重譲渡された場合、その不動産の所有権争いは、早く登記をした方が勝ちます。ですので、普通に考えると、AとCの所有権争いは早く登記をしたCが勝ちそうなものです。しかし、AとCは「前主後主の関係」で「どっちが先に登記をするかの関係」ではないと判例は考えます。つまり、甲土地の所有権「前主Cから後主Aに移った」ことになる、ということです。
 尚、「どっちが先に登記をするかの関係」は、法律的には、民法177条の「対抗関係」となります(これについて詳しくはこちらの記事をご参照下さい)。つまり、AとCは「前主後主の関係」であって「対抗関係」ではない、ということです。
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時効取得と登記 時効完成後の第三者

事例1
AはB所有の甲土地を善意・無過失で10年間、占有を続け、時効が完成した。そしてその時効完成後、Aが登記をしない間に、Bは甲土地をCに譲渡し、その旨の登記をした。


 この事例1は、AがB所有の甲土地を占有して時効が完成した後、甲土地の所有権がBからCに移転し、その旨の登記もされた、というケースです。
 さて、ではこの事例1で、時効が完成したAは、Cに対して甲土地の時効取得を主張できるでしょうか?
 結論。Aは甲土地の時効取得をCに対して主張できません。
 この事例は、実はとても単純な図式になっています。どういうことかといいますと、それはAとCの関係性です。AとCの関係は、単純な「どちらが先に登記をしたかの関係」です。つまり、AとCは、民法177条の「対抗関係」になります。従いまして、先に登記をしたCの「早い者勝ち」で、Aとの甲土地の所有権争いに勝つのです。

Aが所有権争いに負けたのは自分のせい

 AとCは対抗関係にあり、単純に「早く登記した者勝ち」で、Aよりも早く登記を備えたCが甲土地を取得します。では、Aには何かしらの手立てはなかったのでしょうか?これは単純な話です。Aは時効完成後さっさと甲土地の所有権登記を済ませればよかったのです。それだけの話です。つまり、せっかく時効が完成したのに、登記をしないままボサボサしていたAが悪いということです。民法は、基本的にトロいヤツには冷たいのです。
 尚、Aがさらに甲土地を占有し続けて時効期間を満たすと、再び時効が完成します(時効の起算点Cの登記時)。そうなるとAの逆転勝利で、Aが甲土地を時効取得します。

事例2
AはB所有の甲土地を善意・無過失で9年間、占有を続けた。そして、甲土地がBからCへ譲渡された。それから1年後、Aの時効が完成した後、Cは登記した。


 少しややこしくなっていますが、この事例2は、Aの時効完成前に甲土地がBからCに譲渡され、Aの時効完成後にCが登記をした、というケースです。
 さて、このケースで、Aは甲土地の時効取得を、Cに対して主張できるでしょうか?
 結論。Aは甲土地の時効取得をCに対して主張できます。AとCの甲土地をめぐる所有権争いAの勝ちです。
 ん?Cは時効完成後に登記をしているから、AとCは対抗関係で早い者勝ちにならないの?
 AとBは、対抗関係ではありません。実は事例2は「時効完成前の第三者」のケースになります(このケースについて詳しくはこちらの記事へ)。確かに第三者Cは、Aの時効完成後に登記をしています。しかし、甲土地の譲渡自体は、Aの時効完成前に行われています。そして、譲渡が行われた時点で甲土地の所有者はAからCへと移っています。「Cの登記がAの時効完成後に行われた」ということについては、単に「Cの行動がノロいだけ」のことなのです。ですので事例2は、ただ単にCの行動がノロいというだけで、あくまで「時効完成前の第三者」のケースになるのです。そして「時効完成前の第三者」のケースでは、その土地をめぐる所有権争いは時効により取得する者が第三者に勝ちます。従いまして、事例2の甲土地をめぐるAvsCの所有権争いは、Aが勝つのです。
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時効取得と抵当権

事例1
AはB所有の甲土地を占有し時効が完成したが、その旨の登記はしていなかった。そしてAが登記をしない間に、BはCからの融資を受けるために、その融資の担保として甲土地に抵当権を設定した。


 さて、この事例で、AはBの設定した抵当権の消滅を主張できるでしょうか?
 結論。AはBの設定した抵当権の消滅の主張はできません。もしAが、Bの抵当権設定の前にきちんと登記を済ませておけば、Bの抵当権は消滅します。つまり、せっかく時効が完成したのにも関わらず、登記もせずにボサボサしていたAが悪いのです。従いまして、AはBの抵当権付きの甲土地を取得することになってしまいます。

事例2
AはB所有の甲土地を占有し時効が完成したが、その旨の登記はしていなかった。そしてAが登記をしない間に、BはCからの融資を受けるために、その融資の担保として甲土地に抵当権を設定した。その後、Aはさらに甲土地の占有を続けて、再び時効が完成した。


 さて、この事例2で、AはBの抵当権設定の時を起算点とした甲土地の時効取得を、Bに対して主張できるでしょうか?
 結論。AはBに対して、その抵当権設定の時を起算点とした甲土地の時効取得を主張できます。Aの時間をかけた逆転勝利です。

事例3
AはB所有の甲土地を占有し時効が完成したが、その旨の登記はしていなかった。そしてAが登記をしない間に、BはCからの融資を受けるために、その融資の担保として甲土地に抵当権を設定した。その後、Aは所有権登記をして、甲土地の占有を続けた。


 さて、この事例3で、Aは甲土地を占有し続ければ、再び時効が完成して、Bの抵当権の消滅を主張できるでしょうか?
 結論。AはBの抵当権の消滅を主張できません。なぜなら事例3では、再びAの時効が完成することはないからです。

なぜ事例3では、再びAの時効が完成することはないのか

 なぜ再びAの時効が完成しないのかというと、事例3のAは、Bの抵当権設定後に所有権登記をしているからです。これについて判例では「一度、時効取得して所有権登記をしたものを再び時効取得することはできないだろう」と説明しています。まあ、確かにそのとおりと言えばそのとおりですよね。
 この事例3のオモシロイところは、Aの所有権登記が仇になっている、というところです。所有権登記をしていない事例2では、時効が再び完成し、Aは逆転勝利を果たしています。しかし、事例3では、Aが所有権登記をしたがために、再度の時効完成が認められず、Aの逆転勝利は叶いません。普通、不動産の権利に関する問題は、登記をした方が有利になります。それが逆に働くという事例3は、オモシロイケースと言えるでしょう。
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サイト運営者

根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
根本総合行政書士です。
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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