動機の錯誤の超基本

 まず始めに、いきなり結論だけ先に申し上げておきますと、動機の錯誤による無効というのは、原則、主張できません。よほどやむを得ない事由(理由)がない限りです。なぜなら、動機の錯誤というのは、要するに自らの判断の誤りだからです。
 という訳で、その点について、今からご説明して参ります。

動機の錯誤はテメーの判断ミス!

 動機の錯誤というのは、例えば、「このりんご美味しそうだな」と思ってそのりんごを買ったが、いざ食べてみたら不味かった、というようなケースになります。つまり、「このりんご美味しそうだな」という動機をもとにりんごを買ったが、その動機が間違っていたので不味かった訳ですよね。多分、これはどなたも異論がない所だと思いますが、この場合に錯誤の無効の主張を認めて、この売買契約(りんごを買ったこと)を無かった事になんか、できる訳ないですよね。オメーのただの判断ミスだろ!となりますよね(笑)。そもそも、そんな事で無効を主張できてしまったら、商売なんかできたもんじゃないです。それは何も民法の規定だけでなく、我々だって望まない所だと思います。従いまして、動機の錯誤による無効の主張は、原則できないんです。

要素の錯誤と動機の錯誤の違いのまとめ
 
 要素の錯誤と動機の錯誤の違い、お分かりになりましたか?ここで要素の錯誤について、先述のりんごの例でご説明いたしますと、要素の錯誤は、りんごだと思ってみかんを買ってしまったような場合です。この場合、そもそもりんごを買おうという意思とみかんを買ったという行為一致していません。
 では動機の錯誤はというと、動機と行為は一致しています。りんごを買おうという意思のもとにりんごを買っているので。ただ「美味しそうだな」という動機が間違っていただけです。
 ちなみに、ギターの例で動機の錯誤についてご説明いたしますと、「このギター良い音しそうだな」と思ってギターを買ったら全然良い音がしなかった、というような場合です。それで楽器屋のオヤジに向かって「これは動機の錯誤による無効だ!だからこの買い物はナシだ!」と言えますかね?言えないでしょう。楽器屋のオヤジも、怒るどころか唖然とするでしょうね(笑)。確かに、良い音しそうだという動機の錯誤はありますが、それは本人が勝手にそう思っただけで、ギターを買おうという意思とギターを買った行為一致しています。つまり、何の問題もないのです。したがって、動機の錯誤の無効は主張できないのです。

 要素の錯誤と動機の錯誤の違い、おわかりになりましたよね。次回、例外的に動機の錯誤でも無効が主張できる場合があることについて、ご説明して参ります。
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動機の錯誤による無効

動機の錯誤でも無効が主張できるときとは?
 前回の記事でもご説明いたしましたが、動機の錯誤による無効の主張は原則認められません。しかし、あくまで原則認められないだけで、例外が存在します。※
※法律について考えるとき、原則から考えて例外を考えるという順序をとった方が理解がしやすいと思います。いっぺんに考えようとすると訳がわからなくなってしまいますので。あくまで原則があった上で例外があります。その逆はありません。

動機の錯誤が主張できるとき

 では、どんな例外パターンがあるのでしょうか。動機の錯誤の無効が主張できるケースとして、「動機が表示され、それを相手が認識しているとき」に、無効を主張できる場合があります。これではわかりづらいですよね。もう少し噛み砕いてご説明いたしますと、売買契約の場合「買う理由となる動機が言葉なり相手にわかるように表現されていて相手がその動機をわかっていたとき」動機の錯誤が主張できる可能性があります。

動機の錯誤が主張できるときの具体例

 例えば、こんな場合です。ある土地を購入したAさんがいます。Aさんがなぜその土地を購入したかというと、その土地のすぐ近くに、数年後に駅が建つという話を耳にしたからです。しかしその後、駅ができるという話はデマで、Aさんは目算を誤った、つまり、動機の錯誤に陥った...。
 このようなケースでは、原則、錯誤による無効は主張できません。それは前回もご説明したとおり、ただのAさんの判断ミスだからです。しかし、ある要件を満たすと、Aさんの動機の錯誤による無効が主張できる場合があります。それはどういった場合かといいますと、Aさんの「この土地のすぐ近くには数年後に駅が建つ」という動機が言葉なり表に出されていて、そのAさんの動機を相手が認識していてかつ相手はその土地のすぐ近くに駅が建つという話がデマだと知っていたのにもかかわらずそれをAさんに教えなかったときに、Aさんは動機の錯誤による無効の主張ができます。
 尚、Aさんの動機が相手にわかるといっても、たとえAさんが動機を口に出していなくても、Aさんの動機が明らかに見てとれていたならば(法律的にいうと黙示に表示されていたならば)、そのときもAさんは、動機の錯誤による無効の主張ができます。

 以上、動機の錯誤について簡単にまとめますと、
「表意者の動機が間違っていて、その動機が間違っていることを相手が知っていて、その動機が間違っていることを相手が教えてあげなかったとき、表意者は動機の錯誤の無効を主張できる」
となります。つまり、表意者の動機が間違っているのに気づいていたなら相手は表意者に教えてやれ!てハナシです。

 動機の錯誤の無効の主張について、おわかりになりましたか?じゃあこの場合は?あの場合は?色々あると思います。
 最後に付け加えて申し上げておきますと、実際には、要素の錯誤と動機の錯誤のラインというのは、ハッキリ引ける訳ではありません。現実には微妙な事例がいくつも存在します。そこで参考にするのは過去の裁判の判例になるのですが、いずれにせよ、現実には事案ごとに、個別具体的に判断するしかないかと思います。ですので、今回ご説明申し上げたことは、あくまで民法上の基本的な考え方になりますので、その点を踏まえた上で、頭に入れておいて頂ければと存じます。
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表意者(本人)以外が錯誤の無効を主張できるとき

 以前、原則と例外と要件についてご説明申し上げました。それらを踏まえて、今回は要素の錯誤の無効について、付け加えてご説明申し上げたいと思います。

 要素の錯誤は、表意者(本人)に重過失(重大なミス)がないとき、表意者(本人)が無効を主張できます。しかし、ここでこんな例外がございます。なんと、錯誤の無効の主張を本人以外ができるときが存在するのです。つまり「あいつのあれは要素の錯誤だから無効だ」と、別の人間が言えるのです。それはどんなときなのか、それを今からご説明いたします。

本人以外が錯誤の無効を主張できるときとは

 要素の錯誤の無効は、原則、表意者(本人)しか主張できません。なぜなら、要素の錯誤の無効の規定は、表意者(本人)を保護するためのものだからです。では、表意者(本人)を保護するための錯誤の無効の主張を表意者(本人)以外が主張できる場合とは、一体どんなときなのでしょうか?
 それは、表意者(本人)が錯誤の無効を主張してくれないと困ってしまう人がいて且つ表意者(本人)が錯誤を認めているときです。この説明だけだとよく分からないと思いますので、もう少し具体的にご説明いたします。

本人以外が錯誤の無効を主張できるときの具体例

 たとえば、偽の骨董品がAからBに売られ、その後、BからCに転売された場合に、Cが錯誤の無効を主張してBC間の売買契約をナシにする、というのは通常の錯誤無効のケースだと思います。このとき、CはBからお金を返してもらう事になりますが、もしBに返すお金がなかったとき、Cはどうすればいいのでしょうか?
 そうです。このときに、CはAB間の売買契約の、Bによる錯誤の無効をC自身が自分で主張して、AB間の売買契約を無かったことにして、BのAに対する代金返還請求権を、CはBに代わって行使できるのです。つまり、Cは自分のお金をしっかり返してもらうためにBの代わりに、BがAからお金を返してもらう権利を、Bの代わりに行使できるという事です。CはAに「Bは錯誤だ!だからAB間の売買契約は無効だ!だからAはBに金を返せ!」と言えるのです。そして、そのお金でCはBからお金を返してもらう、という流れになります。ただしその場合、Bが自分の錯誤を認めていることが必要です。Bが自分の錯誤を認めていなかった場合は、このような権利の行使はできません。ちなみに、このような「BのAに対する権利をCがBに代わって行使する権利」を、債権者代位権といいます(債権者代位権については債権分野で改めて詳しくご説明いたします)。

補足
 最後にひとつ付け加えておきます。表意者(本人)に重過失(重大なミス)がある場合は錯誤の無効は主張できない、という話はすでに申し上げたと思いますが、実はこの場合でも、表意者が錯誤の無効を主張できるときがございます。それは相手が表意者の錯誤を知っていたときです。つまり、相手が表意者の重大なミスを知っていたのに教えてあげなかったときは、たとえ表意者に重過失があったとしても表意者は錯誤の無効を主張できます。これは、民法先生がこう言っているって事です。「気づいてたんなら言ってやれよ!」と(笑)。

 という訳で今回は以上になります。また次回も、よろしくお願い致します。
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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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