抵当権侵害による損害賠償請求権

 抵当権者は、その抵当権が侵害されるような事態になった場合は、抵当権を侵害するものに対し、抵当権に基づく妨害排除請求ができます。
 では、抵当権者は、抵当権を侵害したものに対し、抵当権侵害による損害賠償請求をすることはできるのでしょうか?

事例1
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、第三者Cが甲建物を損傷した。損傷後の甲建物の残存価値は3000万円である。


 さて、この事例1で、抵当権者Aは第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償請求をすることができるのでしょうか?
 結論。抵当権者Aは、第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償請求はできません。なぜなら、損害が生じていないからです。
 え?どゆこと?
 はい。今からご説明いたします。
 第三者Cは、抵当権者Aの担保目的物である甲建物を損傷させました。これは確かに抵当権の侵害と言えます。しかし、「損害が生じた」とまでは言えません。なぜなら、担保目的物である甲建物の残存価値がまだ3000万円あるからです。
 損害賠償の請求は「損害の発生」という前提があった上で行うものです。では、抵当権者の損害とは何でしょう?それは被担保債権の弁済を受けられなくなることです。つまり、抵当権者Aの損害とは、Bに対する1000万円の貸金債権(被担保債権)の弁済を受けられなくなることです。抵当権者Aの被担保債権額は1000万円です。つまり、第三者Cが損傷したとはいえ、甲建物の残存価値が3000万円あれば、1000万円の被担保債権の弁済には影響がないのです。したがって「損害が生じた」とまでは言えない、つまり「損害の発生」がないので、抵当権者Aは第三者Cに対して損害賠償の請求はできない、ということになります。

事例2
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、第三者Cが故意・過失なく甲建物を損傷した。損傷後の甲建物の残存価値は900万円である。


 今度は、被担保債権額に影響を及ぼしたケースです。
 この事例2では、第三者Cが担保目的物の甲建物を損傷したことにより、甲建物の残存価値が900万円になってしまいました。そして、抵当権者AのBに対する債権額、すなわち被担保債権額は1000万円です。ということは、被担保債権の弁済に影響を及ぼしてしまっています。被担保債権の弁済に影響を及ぼしているということは、損害が発生しているということです。
 さて、ではこの場合、抵当権者Aは第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償の請求ができるでしょうか?
 結論。抵当権者Aは第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償の請求はできません。なぜなら、第三者Cに過失がないからです。法律に別段の定めがなければ、過失がない相手に対して損害賠償の請求はできません(過失責任主義の原則)。抵当権侵害による損害賠償の請求については、あくまで過失責任主義の原則に従います。

事例3
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、第三者Cの過失により甲建物を損傷した。損傷後の甲建物の残存価値は900万円である。


 この事例3では、第三者Cの損傷により被担保債権の弁済に影響を及ぼしています。しかも、第三者Cには過失があります。
 従いまして、この事例3では、抵当権者Aは第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償の請求ができます。
 尚、抵当権者Aが第三者Cに対して損害賠償できるのは被担保債権の弁済期です。第三者Cが甲建物を損傷した時ではありません。なぜなら、弁済期になってみないと、実際にどれぐらいの額が被担保債権の弁済に影響を与えたかがわからないからです。つまり、それでもBが普通に弁済したのであれば、損害は発生しなかったことになり、抵当権者Aは損害賠償の請求はできなくなります。というか、Bが普通に弁済したとすれば、そもそもAは損害賠償の請求をする必要もなくなります。繰り返しますが、抵当権者の損害とは、被担保債権の弁済が受けられなくなることです。この点はしっかり頭に入れておいて頂ければと存じます。
 また、試験等での引っかけとして「抵当権者が抵当権侵害による損害賠償の請求ができる時は抵当権実行時である」というような選択肢が出てくることがありますが、これは×です。繰り返しますが、抵当権者が抵当権侵害による損害賠償の請求ができる時被担保債権の弁済期です。お気をつけ下さい。
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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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