物上代位の要件 抵当権の強さ

 債務不履行後であれば、目的不動産(抵当権を設定した不動産)の賃料(家賃)にも抵当権の効力は及びます。つまり、家賃に物上代位できるということです。(これについては前回の記事もご覧下さい)

 ただし、物上代位には要件があります。その要件とは「払渡し又は引渡し前の差押え」です。
 それでは、この物上代位の要件について、一度、家賃についての問題から離れ、物上代位の典型例である火災保険金の事例を見ながら考えて参ります。そして、物上代位というもの自体をさらに掘り下げて参ります。

事例
BはAから500万円の融資を受け、自己所有の甲不動産に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、甲不動産が火災により滅失した。


 これは、抵当権を設定している不動産が火災により滅失した、すなわち担保目的物が滅失したという事例です。
 通常、このような場合は、担保権である抵当権は消滅するはずです。なぜなら、担保権は物権です。物権は物に対する権利です。したがって、目的とする物がなくなればその物権もなくなるのが原則です。ですので、事例1で、Aの抵当権の目的となっている甲不動産が滅失すれば、その抵当権は消滅すると考えられます。しかし、Bが火災による「保険金請求権」を取得すると話が違ってきます。抵当権者Aは、このときの保険金を、甲不動産の「価値変形物」として差し押さえることができます。これが物上代位です。
 ただし、抵当権者Aが保険金を差し押さえる場合に、気をつけなければならないことがあります。それが「払渡し又は引渡し前の差押え」です。これは物上代位をするための要件です。この要件を満たさなければ物上代位はできません。どういうことかといいますと、Bに保険金が「払い渡される」、つまり、Bに保険金が支払われる前に差し押さえないと、保険金に物上代位することができないということです。保険金に物上代位できなければ、抵当権者Aは、保険金から被担保債権を回収することができなくなってしまいます。

なぜ「払渡し又は引渡し前の差押え」が必要なのか

 ではなぜ、抵当権者AがBの保険金に物上代位するには、保険金がBに支払われる前に差し押さえなければならないのでしょうか?それは、保険金の支払いが行われてしまうと、Bの一般財産(甲不動産以外の財産)に保険金が紛れ込んでしまうからです。つまり、抵当権者Aの取り分がわからなくなってしまうのです。
 抵当権は、抵当権を設定した不動産を競売にかけて、その売却代金から他の債権者に先立って優先的に弁済を受けるものです。つまり、抵当権者は、抵当権を設定した不動産以外の財産からは優先的に弁済を受けることはできません。抵当不動産以外の財産は、一般債権者(例えばサラ金などの他の債権者)のものだからです。そして物上代位の場合は、不動産の競売から得る売却代金に代えて、火災保険金などから弁済を受けます。つまり、事例1の抵当権者Aは、物上代位により保険金から債権を回収できますが、抵当権者として優先的に手を出せるのは保険金だけです。抵当権者Aが物上代位により優先的に保険金を差し押さえることができるのは、それが甲不動産の価値変形物※だからです。甲不動産の価値変形物以外の財産に対しては、Aに抵当権者としての強い権利はないのです。
 従いまして、Bに保険金が支払われてしまうと、Bの一般財産(甲不動産以外の財産)に紛れてしまい、抵当権者Aが差し押さえるべき財産がどれだかわからなくなってしまうので、抵当権者Aは、Bへ保険金が支払われる前に差し押さえなければならない、ということになるのです。
 ん?じゃあ抵当権者Aの取り分がどれかハッキリわかればいいってことだよね?なら他の債権者が保険金を差し押さえてもいいってこと?だってそれで保険金の分がどれかはハッキリわかるわけだから
 そういう考え方もあります。そして実は、そのような考え方を特定性維持説といいます。しかし、判例は特定性維持説は採用していません。つまり、裁判官はそのような考え方を認めていないのです。判例では、抵当権者が物上代位により優先的に債権を回収するためには、抵当権者自身で差し押さえなければならないとしています。ではなぜ、抵当権者自身で差し押さえなければならないのか?ですが、実はその理由を考えるときに、今度は冒頭に申し上げた、物上代位による賃料(家賃)の差し押さえの問題に繋がっていきます。
 ということで次回、物上代位による賃料の差し押さえの問題について解説するとともに、物上代位についてさらに掘り下げて参ります。
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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
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