【時効取得と登記】所有権争い~時効完成前後に現る第三者/さらに二重譲渡と抵当権が絡んだ場合をわかりやすく解説!

【時効取得と登記】所有権争い~時効完成前後に現る第三者/さらに二重譲渡と抵当権が絡んだ場合をわかりやすく解説!

▼この記事でわかること
~所有権争い~
時効完成前の第三者vs時効取得者
時効完成後の第三者vs時効取得者
時効取得と抵当権と登記
時効取得と二重譲渡
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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時効取得と登記


 不動産の所有権争いは、基本的に登記したモン勝ちの世界です。
(不動産登記の基本についての詳しい解説は「【不動産登記の基本】二重譲渡~登記は早い者勝ち/3つの登記請求権と登記引取請求権とは?初学者にもわかりやすく解説!」をご覧ください)
 では、不動産登記に時効取得が絡んでくるとどうなるのでしょう?


時効完成前の第三者vs時効取得者


事例1
BはA所有の甲土地を善意・無過失で9年間、占有を続けた。Bはあと1年の占有で甲土地を時効により取得するところである。ところが、その時効が完成する前に、甲土地がAからCに譲渡され、その旨の登記もされた。


 この事例1では、Bは善意・無過失でA所有の甲土地を占有していますので、短期取得時効により、10年間の占有で甲土地を時効取得します。
 ところが、その時効が完成する一歩手前で、甲土地の所有権がAからCに移転しています。

 で、何が問題なの?

 はい。まずこの事例1のポイントは、時効完成前に第三者のCが現れ登記もした、という点です。
 そして問題となるのは、Bがあと1年間、占有を継続して時効が完成した場合、Bは(時効完成前に現れ登記もした第三者)Cに対して甲土地の時効取得を主張できるのか?ということです。

 なぜそれが問題になるかというと、こういうことです。
 
BはA所有の甲土地を善意で9年間占有していますが、C所有になってからの甲土地は1年間しか占有していません。
 それなのに、Bの甲土地の時効取得の主張が認められるとなると、Cからすれば、たった1年間の占有で甲土地を時効取得されて、その所有権を奪われてしまうことになります。


~「B対C」の所有権争いの結末やいかに~

 さて、このB対Cによる甲土地の所有権をめぐる争い、一体どちらが勝つのでしょうか?

 結論。
 甲土地をめぐる所有権争いはの勝ちです。

 Bは甲土地の時効が完成すれば、Cに対して、その時効取得を主張できます。
 BはCに対して「時効が完成したから甲土地の所有権をよこせ!」と主張できる、ということです。

 Cが気の毒なような......

 確かにそうですよね。
 しかし、Bに甲土地を時効取得されてしまったことについては、Cにも落ち度があります。
 なぜなら、Aから甲土地を譲渡される前に、甲土地についてしっかりと調査をすれば、Bの占有と時効取得される可能性を事前に知ることはできた、とも考えられますよね。
 くわえて、善意で占有しているBは、甲土地を自分の土地だと思って占有しています。
 そんなBにとっては、甲土地の真の所有者がAなのかCなのかは、あまり関係ないのです。

【判例の考え】
26家庭裁判所
 判例の考えでは、BとCは「前主後主の関係」になります。
 本来、不動産登記の世界は「登記した者勝ち」の、早い者勝ちの世界です。
 例えば、ある不動産が二人の者に二重譲渡された場合、その不動産の所有権争いは、早く登記をした方が勝ちます。
 ですので、普通に考えると、事例1のB対Cの所有権争いは早く登記をしたCが勝ちそうなものです。

 しかし、BとCは「前主後主の関係」で「どっちが先に登記をするかの関係」ではないと判例は考えます。
 つまり、甲土地の所有権「前主Cから後主Bに移った」ことになる、ということです。

 なお「どっちが先に登記をするかの関係」は、法律的には、民法177条の「対抗関係」となります。(これについての詳しい解説はこちらをご覧ください)。
 つまり、BとCは「前主後主の関係」であって「対抗関係」ではない、ということです。
 これは言ってみれば、Cは「Bとの所有権争いのリングには立てない」ということです。


時効完成後の第三者vs時効取得者


 さて、続いては時効完成後に第三者が現れたケースについて解説します。

事例2
BはA所有の甲土地を善意・無過失で10年間、占有を続け、時効が完成した。そして、その時効完成後、Bが登記をしない間に、Aは甲土地をCに譲渡し、その旨の登記をした。


 この事例2は、BがA所有の甲土地を占有して時効が完成した後、甲土地の所有権がAからCに移転し、その旨の登記もされた、というケースです。
 さて、ではこの事例2で、時効が完成したBは、Cに対して甲土地の時効取得を主張できるでしょうか?

 結論。
 Bは甲土地の時効取得をCに対して主張できません。

 この事例2は、実はとても単純な図式になっています。
 どういうことかといいますと、それは、BとCの関係性です。BとCの関係は、単純な「どちらが先に登記をしたかの関係」です。
 つまり、BとCは、民法177条の「対抗関係」になります。
 したがいまして、事例2では先に登記をしたCの「早い者勝ち」となり、B対Cの甲土地の所有権争いの勝者はCなのです。


Bが所有権争いに負けたのは自分のせい

 BとCは対抗関係にあり、単純に「早く登記した者勝ち」で、Bよりも早く登記を備えたCが甲土地を取得します。
 では、には何かしらの手立てはなかったのでしょうか?

 これは単純な話です。
 Bは時効完成後さっさと甲土地の所有権登記を済ませれば良かったのです。
 それだけの話です。
 つまり、せっかく時効が完成したのに、登記をしないままボサっとしていたBが悪いということです。
 民法は、基本的にトロいヤツには冷たいのです。

 なお、もしBがさらに甲土地を占有し続けて時効期間を満たすと、再び時効が完成します(時効の起算点Cの登記時)。
 こうなるとBの逆転勝利で、Bが甲土地を時効取得します。


 では続いて、次の場合はどうなるでしょう?

事例3
BはA所有の甲土地を善意・無過失で9年間、占有を続けた。そして、甲土地がBからCへ譲渡された。それから1年後、Bの時効が完成した後、Cは登記した。


 少しややこしくなっていますが、この事例3は、Bの時効完成前に甲土地がAからCに譲渡され、Bの時効完成後にCが登記をした、というケースです。
 さて、このケースで、Bは甲土地の時効取得を、Cに対して主張できるでしょうか?

 結論。
 Bは甲土地の時効取得をCに対して主張できます。
 BとCの甲土地をめぐる所有権争いBの勝ちです。
 
 ん?Cは時効完成後に登記をしているから、BとCは対抗関係で早い者勝ちにならないの?

 事例3のBとCは、対抗関係ではありません。
 実は事例3は「時効完成前の第三者」のケースになります。
 確かに第三者のCは、Bの時効完成後に登記をしています。
 しかし、甲土地の譲渡自体は、Bの時効完成前に行われています。
 そして、譲渡が行われた時点で甲土地の所有者はAからCへと移っています。
「Cの登記がBの時効完成後に行われた」ということについては、これは単に「Cの行動がノロいだけ」なのです。
かたつむり
 ですので、事例3は、ただ単にCの行動がカタツムリのようにノロいというだけで、あくまで「時効完成前の第三者」のケースになるのです。

 そして「時効完成前の第三者」のケースでは、その土地をめぐる所有権争いは時効により取得する者が第三者に勝ちます。
 したがいまして、事例3の甲土地をめぐるB対Cの所有権争いは、Bが勝つのです。


時効取得と抵当権と登記


 続いては、時効取得に加えて抵当権も絡んでくる様々なケースを見て参ります。

事例4
BはA所有の甲土地を占有し時効が完成したが、その旨の登記はしていなかった。そしてBが登記をしない間に、AはCからの融資を受けるために、その融資の担保として甲土地に抵当権を設定した。


 さて、この事例で、BはAの設定した抵当権の消滅を主張できるでしょうか?

 結論。
 BはAの設定した抵当権の消滅の主張はできません。

 もしBが、Aの抵当権設定の前にきちんと登記を済ませておけば、Aの抵当権は消滅します。
 つまり、せっかく時効が完成したのにも関わらず、登記もせずにボサっとしていたBが悪いのです。
 したがって、BはAの抵当権付きの甲土地を取得することになってしまいます。

 では、次の場合はどうなるでしょう?

事例5
BはA所有の甲土地を占有し時効が完成したが、その旨の登記はしていなかった。そしてBが登記をしない間に、AはCからの融資を受けるために、その融資の担保として甲土地に抵当権を設定した。その後、Bはさらに甲土地の占有を続けて、再び時効が完成した。


 この事例5で、BはAの抵当権設定の時を起算点とした甲土地の時効取得を、Aに対して主張できるでしょうか?

 結論。
 BはAに対して、その抵当権設定の時を起算点とした甲土地の時効取得を主張できます。
 これはBの時間をかけた逆転勝利です。

 さらに事例をもうひとつ。

事例6
BはA所有の甲土地を占有し時効が完成したが、その旨の登記はしていなかった。そしてBが登記をしない間に、AはCからの融資を受けるために、その融資の担保として甲土地に抵当権を設定した。その後、Bは所有権登記をして、甲土地の占有を続けた。


 この事例6で、Bは甲土地を占有し続ければ、再び時効が完成して、Aの抵当権の消滅を主張できるでしょうか?

 結論。
 BはAの抵当権の消滅を主張できません。
 なぜなら事例6では、再びBの時効が完成することはないからです。


なぜ事例6では、再びBの時効が完成することはないのか
?女性
 なぜ再びBの時効が完成しないのかといいますと、事例6のBは、Aの抵当権設定後に所有権登記をしているからです。
 これについて判例では「一度、時効取得して所有権登記をしたものを再び時効取得することはできないだろう」と説明しています。
 まあ、確かにそのとおりと言えばそのとおりですよね。

 この事例6のオモシロイところは、Bの所有権登記が仇になっている、というところです。
 所有権登記をしていない事例5では、時効が再び完成し、Bは逆転勝利を果たしています。
 しかし、事例6では、Bが所有権登記をしたがために、再度の時効完成が認められず、Bの逆転勝利は叶いません。

 普通、不動産の権利に関する問題は、登記をした方が有利になります。
 それが逆に働くという事例6は、実に面白いレアケースと言えるでしょう。


時効取得と二重譲渡


 それでは最後に、時効取得と二重譲渡が絡んだケースについて解説します。

事例7
BはA所有の甲土地を買い入れ引渡しを受けたが、移転登記はまだ行っていなかった。それからすぐ、CもAから甲土地を譲り受け、その旨の登記をした。その後、Bは甲土地を占有し続けた。


 これは、不動産の二重譲渡のケースです。
 このような不動産の二重譲渡では、その不動産の所有権争いは、基本的に早く登記した者が勝ちます。
 ですので、事例でのB対Cによる甲土地の所有権争いは、登記をしたCが勝ちます。

 しかし!
 この事例7では、そこからさらにもう一捻りあります。
 甲土地をめぐるB対Cの所有権争いは、登記をしたCが勝ちますが、この事例7では、所有権争いに負けたBが、それでも甲土地の占有をし続けています。

 さて、ここからが本題です。
 そのままBが甲土地の占有をし続けた場合、Cの登記時を起算点として、Bは甲土地を時効取得することができるでしょうか?

 結論。
 Bは甲土地を占有し続ければ、甲土地を時効取得することができます。

 ただし!
 時効の起算点は「Cの登記時」ではありません。
 時効の起算点は「Bが甲土地の引渡しを受けた時」になります。
 したがいまして、甲土地の二重譲渡による所有権争いに負けたBは、甲土地を占有し続ければ、引渡しを受けた日を起算点として、甲土地を時効取得することができます。
 Bの逆転勝利です。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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