共有の基本 持分権の法的性質

 1つの物を、1人ではなく複数人で所有することを共有といいます。
 共有でよくあるパターンとしては、相続人が複数いる場合の相続があります。例えば、親が亡くなって、親所有の土地を子供達が相続すると、その土地は子供達の共有物になります。相続以外にも、夫婦でそれぞれ1000万円ずつ出し合って家を買えば、その家(不動産)は夫婦の共有物になります。

 物に対する権利である物権の世界では、一物一権主義というものがあります。一つの物には一つの物権という原則です(排他的支配権)。そして共有は、その一物一権主義の例外とも言われます。なぜなら、一つの物を複数人で共有するからです。ただ、共有の場合でも、共有者はそれぞれ持分権というものがあり、各持ち分に対しては一つの持分権しか存在しません。そして、持分権は各自で自由に処分できます。例えば、一つの土地をAとBが相続すると、その土地はAとBの共有物になり、AとBはそれぞれ各持ち分に対して持分権を持ちます。このとき、Aが自分の持ち分を売ったりするのは自由です。もちろん、Bが自分の持ち分を売ったりするのも自由です。ただし、AがBの持ち分を売ったりすることはできません。ということなので、持分権は、各持ち分に対しては、所有権と同じようなものなのです。そう考えていくと、共有も、一物一権主義にしっかりと則っていると言えます。

持分権

 共有について考える場合は、共有物全体の問題なのか、各持分権の問題なのか、そこを見極めた上で考えていかないと、よく分からなくなってしまいます。ですので、共有物全体についてと各持分権についてとを分けた上で、今回は持分権の問題について考えて参ります。
 さて、先ほど持分権は、各持ち分については所有権と同じようなものだとご説明いたしました。実際、共有持分権の法的性質は所有権である、と説明されます。その共有持分権の法的性質を表す典型例で、かつ現実にもよくあるのは、分譲マンションです。

分譲マンションの性質を考えれば共有持分権の法的性質が分かる

 おそらく、日常的にもっとも起こっている共有のケースは分譲マンションでしょう。分譲マンションでの所有は区分所有とも言われ、その所有権は区分所有権とも言われます。分譲マンションにおいてその建物の各区分は、それぞれ別の所有者が存在し、そこには個々独立の所有権が成立しています(一つのマンションに複数の所有権が独立しながら存在、つまり、一つのマンションに複数のオーナーが存在する)。
 では何を共有しているのか?
 分譲マンションにおいて、共有になっているのは土地です。土地というのは、そのマンションが建っている敷地です。つまり、ある土地に分譲マンションが建っていて、そのマンションが100の専有部分(わかりやすく言えば100戸)に分かれていれば、その土地には100の持分権が存在することになります。もしあなたがその分譲マンションのオーナーだったとすると、通常の場合、あなたが所有しているのは、そのマンションの所有権(区分所有権)と、その土地の100分の1の持分権です。そして、あなたがそのマンション(所有権)を誰かに売るのは自由ですよね。そして、あなたがそのマンション(所有権)を誰かに売れば、当然それに伴ってその持分権も一緒に売られることになりますが、その際、他の99人のオーナーの承諾はいらないですよね。
 これが「共有持分権の法的性質は所有権」の具体例と説明になります。共有持分権の法的性質、これでおわかりになって頂けたかと思います。

 次回、共有物全体の問題について、解説して参りたいと存じます。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

相続と登記 遺言による相続の場合

事例1
Aが死亡した。そしてAの遺言により、A所有の甲土地をBが持ち分3分の1、Cが持ち分3分の2で相続した。その後、Cは甲土地の全部につき自己名義の登記をした上、Dに甲土地を譲渡し、その移転登記をした。


 これは、遺言により相続分が指定されたケースです。そして、Cが遺言による指定を無視して、甲土地の所有権全部について自己名義の登記をした上、Dに譲渡して移転登記もした、というものです。
 さて、この事例で、Dは甲土地を取得できるのでしょうか?
 結論。Dは甲土地を取得できます。ただし、Dが取得できる甲土地は、3分の2のC持ち分のみです。
(考え方は以前に記した遺産分割の事例と一緒なので、詳しくはそちらをご参照下さい)
 B持ち分は?
 3分の1のB持ち分については、Dが取得することはあり得ません。なぜなら、B持ち分については、Cがそもそも完全な無権利者だからです。完全な無権利者のCから、B持ち分がDへ譲渡されることがあり得ないんです。つまり、CD間のB持ち分の譲渡は無効です。

[B持ち分]

↓相続

(Cの入る余地なし・Dの登記は無効)

 尚、Bは登記がなくとも、B持ち分については、Dに対抗できます。よってDは、B持ち分については、登記のないBから「返せ!」と迫られたら、大人しく返還しなければなりません。

事例2
Aが死亡した。そしてAの遺言により、A所有の甲土地をBが持ち分3分の1、Cが持ち分3分の2で相続した。その後、Cは相続放棄した。ところが、Cは甲土地の全部につき自己名義の登記をした上、Dに甲土地を譲渡し、その移転登記をした。


 これも、遺言により相続分が指定されたケースで、相続放棄をしたCが、甲土地の所有権全部につき自己名義の登記をした上、Dに譲渡しその移転登記もした、というものです。
 さて、ではこの事例で、Dは甲土地を取得できるでしょうか?
 結論。Dは甲土地を取得することはできません。
(考え方はこちらの記事と一緒なのでそちらもご参照下さい)
 C持ち分も?
 はい。DはCの持ち分すら取得することはできません。なぜなら、Cが相続放棄したということは、Cは最初から相続人ではなかったとみなされます。Cが相続人ではなかったとみなされると、最初から甲土地はB1人で相続したことになります。それは遺言による相続分の指定があろうと関係ありません。

[甲土地]

↓相続

(相続人としてのCの存在は最初からいなかったことになる)

 相続放棄の効果は絶対です。一度、相続放棄をしたCが、再び相続人に戻ることもありません。相続放棄したけどやっぱナシ!とはできないのです。
 従いまして、相続放棄をしたCは、もはや相続人ではないので、甲土地に関しては全くの無権利者です。全くの無権利者CからDに甲土地が譲渡されることはあり得ません。よってCD間の甲土地の譲渡は無効であり、Dの登記も無効です。
 ということなので、Bは登記がなくとも、Dに対し甲土地の全部について対抗できます。つまり、Bは登記をしていなくとも、(無効な)登記をしたDに対し「甲土地の所有権全部返せコラ!」と主張することができます。
 事例2でDが勝つ可能性はゼロです。それだけ、Cの相続放棄の効果が絶対ということなのです。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

相続と登記 相続放棄した人間が相続財産を譲渡?

事例
Aが死亡し、A所有の甲土地をBとCが共同相続した。相続分は同一(半々)である。しかし、Cはすぐに相続放棄した。その後、Cは甲土地の全部につき自己名義の登記をした上、Dに甲土地を譲渡し、その移転登記をした。


 まず「相続放棄」について、簡単にご説明いたします。
 相続放棄とは、相続人としての地位そのものを放棄することです。相続人としての地位そのものを放棄するということは、そもそも相続人ではなかったとみなされます。そして一度、相続放棄をして相続人ではなかったとみなされると、もう二度と相続人に戻ることはありません(「みなす」という言葉はそれぐらい強力なのだ。その後の反論も一切許さないのである)。したがって、相続放棄をした者は、もはや相続人ではないので当然、相続人としてカウントされなくなります。
 なぜそんな制度があるの?
 相続は、死亡した人間の財産上の地位をまるごと引き継ぎます(包括承継)。財産上の地位をまるごと引き継ぐということは、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産(負債)も、まとめて引き継ぐということです。ですので、もし親が大借金を抱えて亡くなると、相続人となる子供は、親の作った大借金をそのまま丸ごと引き継ぐことになります。しかし、それでは相続人が困ってしまいますよね。それどころか、その借金があまりにも莫大なものだったとしたら、子々孫々まで延々とその借金を背負わせてしまい兼ねません。そこで「相続放棄」という制度があるのです。
 尚、プラスの財産しかない場合でも相続放棄することは可能です。実際、相続争いに巻き込まれるのは勘弁ということで、プラスの財産でも相続放棄するケースは多々あります。

 さて、それではここから、事例について考えていきますが、今一度、事例の流れと状況を確認します。

A死亡

甲土地
BC共同相続(持ち分半分ずつ)

Cが相続放棄

甲土地の所有権全部
B単独所有

ところが

甲土地の所有権全部
C単独で自己名義登記

Dに譲渡

甲土地
Dが登記

 以上が事例の流れと状況です。それでは事例について本格的に考えていきましょう。
 Aの相続人はBとCです。甲土地はBとCに共同相続されます。しかし、すぐにCは相続放棄します。すると、Cは最初から相続人ではなかったとみなされ、甲土地は最初からBが一人で相続したことになります。そして、相続放棄の効果は絶対です。ですので、一度、相続放棄をしたCに、もはや甲土地の何もかもについてどうこうする余地は1ミリもありません。つまり、相続放棄をしたCは完全な無権利者です。ですので、Cが相続放棄をするとこうなります。

[甲土地]

↓直接

(相続人としてのCの存在は最初からいなかったことになる)

 従いまして、相続放棄をして、甲土地について最初から完全な無権利者となるCに、甲土地をDに譲渡することなどは当然できず、CD間の甲土地の譲渡は完全に無効なもので、Dの登記も無効です。
 よってBは、登記を備えたDに対して、登記なくとも甲土地の所有権の全部について対抗できます。つまり、Bは甲土地について登記をしていなくても、登記をしたDに対して「甲土地の所有権全部、私に返せ!」と主張できます。
 今回の事例の場合、Dが甲土地の所有権争いに勝つ可能性は全くありません。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

共同相続と登記 共同相続人が勝手に不動産譲渡したら?

事例
Aが死亡し、A所有の甲土地をBとCが共同相続した。相続分は同一(半々)である。その後、BC間で、甲土地はBが単独で所有するという遺産分割協議が成立した。ところが、Cは甲土地の全部につき自己名義の登記をした上、Dに甲土地を譲渡し、その移転登記をした。


 この事例の流れと状況はこうです。

A死亡

甲土地
BC共同相続(持ち分半分ずつ)

BC間の遺産分割協議により

甲土地の所有権全部
B単独所有

ところが

甲土地の所有権全部
C単独で自己名義登記

Dに譲渡

甲土地
Dが登記

 さて、この事例で、無権利者のように思われるCから甲土地を譲渡されたDに対し、Aは「遺産分割により甲土地の所有権全部が私のものだ!返せ!」と、甲土地の所有権を主張できるでしょうか?

Dの救いの道

 本来、遺産分割されると、その効力は相続開始の時まで遡ります。つまり、BC間の遺産分割協議により遺産分割されると、Aが死亡して相続が開始した時から甲土地の全部はBのものだったことになります。しかし、判例はこの原則を曲げて、遺産分割の遡及効(遡って生じる効力)を制限します。そして、遺産分割の遡及効を制限することにより、Dには救いの道が開かれます。Dの救いの道が開かれるということは、Aが泣くことになる場合があるのです。

甲土地をBの持ち分とCの持ち分に分けて考える

 まず、Aが死亡すると、甲土地はBとCへ相続されます。その際、甲土地の持ち分は半々となっています。ここで、Bの持ち分をb土地、Cの持ち分をc土地とします。そして、Cは甲土地の所有権全部について自己名義の登記をしてDに譲渡します。つまりここでCは、b土地とc土地の両方合わせて自己名義の登記をしてDに譲渡したということになります。
 さて、ここからは甲土地を、b土地とc土地に分けて考えていきます。

Bの持ち分:b土地
 こちらは、相続により直接Bに帰属します。つまり、b土地の所有権相続によりダイレクトにBのものになります。ですので、b土地については、Cは一回もその権利を取得したことはなく、全くの無権利者です。従いまして、b土地について全くの無権利者のCから譲渡されたDがb土地を取得することはあり得ません。

[B持ち分:b土地]

↓直接

(Cの入る余地なし)

 なので、CD間のB持分:b土地の譲渡は無効であり、Dの登記も無効です。よってBは、b土地については登記がなくともDに対抗できます。したがって、Bはb土地については登記をしていなくとも、(無効な)登記をしているDに対して「b土地を返せ!」と主張することができます。

Cの持ち分:c土地
 こちらは、相続によりいったんCに帰属します(判例により遺産分割の遡及効が制限されるので)。つまり、c土地の所有権は相続によりいったんCのものとなり、その後、遺産分割により、Bのものとなります。そして、ここからがポイントです。c土地は相続によりいったんCのものとなり、その後、遺産分割によりBのものとなる訳ですが、Cがc土地をDに譲渡したことにより、c土地がBとDに二重譲渡されたと考えます。

[C持ち分:c土地]


C→D
↓(二重譲渡)


 不動産の二重譲渡は、民法177条の規定により、第三者(事例だとD)の善意・悪意も関係なく、単純に早く登記をした方が勝ちます。従いまして、事例のDは登記をしていますので、c土地については、その所有権はDが取得します。

 以上のように、判例では、C持ち分:c土地に関しましては、Dに救いの道を示したということです。逆にBは、B持ち分:b土地については登記がなくともDに対抗できますが、C持ち分:c土地に関しましては、先に登記をされてしまったDに対しては、もはや泣くしかありません。ということですので、BはDに対して「甲土地の所有権の全部を私に返せ!」と主張しても、c土地に関しましては「私が登記したから私のモノだ!」というDに対抗することができず、取り戻せるのはB持ち分:b土地のみとなります。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

相続と登記 共同相続と登記

事例1
BはAに甲不動産を譲渡した後、死亡した。その後、Bの唯一の相続人であるCは、甲不動産をDに譲渡した。


この事例の流れはこうです。

BがAに甲不動産を譲渡

Bが死亡

BをCが相続

CがDに甲不動産を譲渡

 この事例1について考えるときのポイントは、BとCは同一人物だと考えることです。CはBを相続しています。そして相続は包括承継です。わかりやすく言うと、CはBそのものを引き継いでいるのです。したがって事例1は、C(=B)が、AとDに甲不動産を譲渡しているという、不動産の二重譲渡のケースになります。
 さて、ではこの事例1で、甲不動産を取得できるのは、Aでしょうか?それともDでしょうか?
 答えは簡単です。これは不動産の二重譲渡のケースなので、単純に早く登記した方が甲不動産を取得します。

共同相続と登記

事例2
Aが死亡し、A所有の甲土地をBとCが共同相続した。相続分は同一(半々)である。その後、BC間で、甲土地はBが単独で所有するという遺産分割協議が成立した。ところが、Cは甲土地の全部につき自己名義の登記をした上、Dに甲土地を譲渡し、その移転登記をした。


 さて、ここからが「相続と登記」の本格的な内容になります。
 まず、この事例2の状況を確認しましょう。

A死亡

甲土地
BC共同相続(持ち分半分ずつ)

BC間の遺産分割協議により

甲土地の所有権全部
B単独所有

ところが

甲土地の所有権全部
Cが自己名義登記

Dに譲渡

甲土地
Dが登記

 事例2の流れと状況はこのとおりです。
 さて、この事例で、そもそもCに、甲土地の所有権全部について自己名義の登記をして、そこからさらに甲土地をDに譲渡する権利があるのでしょうか?

遺産分割協議とは

 相続財産を、相続人間の話し合いで分けることを遺産分割といいます。例えば、長男は土地、次男は株、三男は預金、といった具合です。
 そして、遺産分割の効力についての、民法の規定はこちらです。

(遺産の分割の効力)
民放909条
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。

 この条文を見ると、遺産分割の効力は、相続開始の時にさかのぼるとあります。ということは、事例2は、BC間の遺産分割協議が成立して、その効力はAの死亡時、つまり相続が開始した時にさかのぼります。となると、甲土地の所有権は、Aが死亡して相続が開始した時からBのものだったことになります。こう考えていくと、そもそもCには、甲土地についてどうこうする権利などないということになります。
 しかし!判例の考えは、民法909条の遺産分割の遡及効(遡って生じる効力)を制限します。どういうことかといいますと、甲土地について、Cの権利を全く認めない訳ではないのです。
 次回、Cの権利を全く認めない訳ではない、という部分について、詳しく解説して参ります。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

二重譲渡と時効取得 登記請求権の補足

事例
BはA所有の甲土地を買い入れ引渡しを受けたが、移転登記はまだ行っていなかった。それからすぐ、CもAから甲土地を譲り受け、その旨の登記をした。その後、Bは甲土地を占有し続けた。


 これは、不動産の二重譲渡のケースです。このような不動産の二重譲渡では、その不動産の所有権争いは、基本的に早く登記した者が勝ちます。ですので、事例でのBvsCによる甲土地の所有権争いは、登記をしたCが勝ちます。しかし、今回の事例では、そこからもう一捻りあります。甲土地をめぐるBvsCの所有権争いは、登記をしたCが勝ちますが、今回の事例では、所有権争いに負けたBが、それでも甲土地の占有をし続けています。
 さて、ここからが本題です。そのままBが甲土地の占有をし続けた場合、Cの登記時を起算点として、Bは甲土地を時効取得することができるでしょうか?
 結論。Bは甲土地を占有し続ければ、甲土地を時効取得することができます。ただし!時効の起算点は「Cの登記時」ではありません。時効の起算点は「Bが甲土地の引渡しを受けた時」になります。
 従いまして、甲土地の二重譲渡による所有権争いに負けたBは、甲土地を占有し続ければ、引渡しを受けた日を起算点として、甲土地を時効取得することができます。Bの逆転勝利です。

オマケ・登記請求権の補足

 登記請求権については、まずこちらの記事をご参照下さい。
 さて、登記に協力するよう請求する権利を登記請求権といいますが、例えば「A→B→C」と不動産が転売された場合に、登記名義がAのままだったとき、CはAに対して「私の登記に協力しろ!」と請求できるのでしょうか?
 結論。CはAに対して「私の登記に協力しろ!」と請求できません。なぜなら、CとAは何の契約関係、権利義務関係もないからです。

Cはどうすればいいのか
 Cが「私の登記に協力しろ!」と請求できる相手はBです。CB間は売買契約関係にあり、Cは買主で登記権利者、Bは登記義務者です。したがって、CはBに対して登記請求権を持つのです。しかし、CはAに対しては登記請求権を持ちません。Aに対して登記請求権を持つのはBになります。
 従いまして、Cは、BがAに対して「私の登記に協力しろ!」と請求してくれればいいということになります。

Bが登記請求権を行使しなかったら
 では、Bが登記請求権を行使してくれなかったらどうでしょう?Cとしては、自分自身の登記を実現するためには、BがAに対して「私の登記に協力しろ!」と、登記請求権を行使してくれないことにはどうにもなりません。そこで、そのような場合、Aには「債権者代位権」という手段があります。債権者代位権については別途改めてご説明いたしますが、Aが「債権者代位権」を使って何ができるのかを簡単に申しますと、AはBに代わって(代位して)、Cに対して「Bの登記に協力しろ!」と請求できます。これが「債権者代位権」を使った、Cの登記を実現する方法です。月に代わっておしおきよ!ならぬ、Bに代わって登記しろ!です(笑)。
 尚、「A→B→C→D」と不動産が転売された場合に、登記名義がAのままのとき、Dは自分自身の登記を実現するために、CがBに代わって(代位して)、Aに対して「Bに登記しろ」という権利(債権者代位権)を、Cに代わって行使できます。代位の代位です。月に代わっておしおきする月野うさぎに代わっておしおきよ!という感じです(笑)。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

時効取得と抵当権

事例1
AはB所有の甲土地を占有し時効が完成したが、その旨の登記はしていなかった。そしてAが登記をしない間に、BはCからの融資を受けるために、その融資の担保として甲土地に抵当権を設定した。


 さて、この事例で、AはBの設定した抵当権の消滅を主張できるでしょうか?
 結論。AはBの設定した抵当権の消滅の主張はできません。もしAが、Bの抵当権設定の前にきちんと登記を済ませておけば、Bの抵当権は消滅します。つまり、せっかく時効が完成したのにも関わらず、登記もせずにボサボサしていたAが悪いのです。従いまして、AはBの抵当権付きの甲土地を取得することになってしまいます。

事例2
AはB所有の甲土地を占有し時効が完成したが、その旨の登記はしていなかった。そしてAが登記をしない間に、BはCからの融資を受けるために、その融資の担保として甲土地に抵当権を設定した。その後、Aはさらに甲土地の占有を続けて、再び時効が完成した。


 さて、この事例2で、AはBの抵当権設定の時を起算点とした甲土地の時効取得を、Bに対して主張できるでしょうか?
 結論。AはBに対して、その抵当権設定の時を起算点とした甲土地の時効取得を主張できます。Aの時間をかけた逆転勝利です。

事例3
AはB所有の甲土地を占有し時効が完成したが、その旨の登記はしていなかった。そしてAが登記をしない間に、BはCからの融資を受けるために、その融資の担保として甲土地に抵当権を設定した。その後、Aは所有権登記をして、甲土地の占有を続けた。


 さて、この事例3で、Aは甲土地を占有し続ければ、再び時効が完成して、Bの抵当権の消滅を主張できるでしょうか?
 結論。AはBの抵当権の消滅を主張できません。なぜなら事例3では、再びAの時効が完成することはないからです。

なぜ事例3では、再びAの時効が完成することはないのか

 なぜ再びAの時効が完成しないのかというと、事例3のAは、Bの抵当権設定後に所有権登記をしているからです。これについて判例では「一度、時効取得して所有権登記をしたものを再び時効取得することはできないだろう」と説明しています。まあ、確かにそのとおりと言えばそのとおりですよね。
 この事例3のオモシロイところは、Aの所有権登記が仇になっている、というところです。所有権登記をしていない事例2では、時効が再び完成し、Aは逆転勝利を果たしています。しかし、事例3では、Aが所有権登記をしたがために、再度の時効完成が認められず、Aの逆転勝利は叶いません。普通、不動産の権利に関する問題は、登記をした方が有利になります。それが逆に働くという事例3は、オモシロイケースと言えるでしょう。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

時効取得と登記 時効完成後の第三者

事例1
AはB所有の甲土地を善意・無過失で10年間、占有を続け、時効が完成した。そしてその時効完成後、Aが登記をしない間に、Bは甲土地をCに譲渡し、その旨の登記をした。


 この事例1は、AがB所有の甲土地を占有して時効が完成した後、甲土地の所有権がBからCに移転し、その旨の登記もされた、というケースです。
 さて、ではこの事例1で、時効が完成したAは、Cに対して甲土地の時効取得を主張できるでしょうか?
 結論。Aは甲土地の時効取得をCに対して主張できません。
 この事例は、実はとても単純な図式になっています。どういうことかといいますと、それはAとCの関係性です。AとCの関係は、単純な「どちらが先に登記をしたかの関係」です。つまり、AとCは、民法177条の「対抗関係」になります。従いまして、先に登記をしたCの「早い者勝ち」で、Aとの甲土地の所有権争いに勝つのです。

Aが所有権争いに負けたのは自分のせい

 AとCは対抗関係にあり、単純に「早く登記した者勝ち」で、Aよりも早く登記を備えたCが甲土地を取得します。では、Aには何かしらの手立てはなかったのでしょうか?これは単純な話です。Aは時効完成後さっさと甲土地の所有権登記を済ませればよかったのです。それだけの話です。つまり、せっかく時効が完成したのに、登記をしないままボサボサしていたAが悪いということです。民法は、基本的にトロいヤツには冷たいのです。
 尚、Aがさらに甲土地を占有し続けて時効期間を満たすと、再び時効が完成します(時効の起算点Cの登記時)。そうなるとAの逆転勝利で、Aが甲土地を時効取得します。

事例2
AはB所有の甲土地を善意・無過失で9年間、占有を続けた。そして、甲土地がBからCへ譲渡された。それから1年後、Aの時効が完成した後、Cは登記した。


 少しややこしくなっていますが、この事例2は、Aの時効完成前に甲土地がBからCに譲渡され、Aの時効完成後にCが登記をした、というケースです。
 さて、このケースで、Aは甲土地の時効取得を、Cに対して主張できるでしょうか?
 結論。Aは甲土地の時効取得をCに対して主張できます。AとCの甲土地をめぐる所有権争いAの勝ちです。
 ん?Cは時効完成後に登記をしているから、AとCは対抗関係で早い者勝ちにならないの?
 AとBは、対抗関係ではありません。実は事例2は「時効完成前の第三者」のケースになります(このケースについて詳しくはこちらの記事へ)。確かに第三者Cは、Aの時効完成後に登記をしています。しかし、甲土地の譲渡自体は、Aの時効完成前に行われています。そして、譲渡が行われた時点で甲土地の所有者はAからCへと移っています。「Cの登記がAの時効完成後に行われた」ということについては、単に「Cの行動がノロいだけ」のことなのです。ですので事例2は、ただ単にCの行動がノロいというだけで、あくまで「時効完成前の第三者」のケースになるのです。そして「時効完成前の第三者」のケースでは、その土地をめぐる所有権争いは時効により取得する者が第三者に勝ちます。従いまして、事例2の甲土地をめぐるAvsCの所有権争いは、Aが勝つのです。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

時効取得と登記 時効完成前の第三者

事例
AはB所有の甲土地を善意・無過失で9年間、占有を続けた。Aはあと1年の占有で甲土地を時効により取得するところである。ところが、その時効が完成する前に、甲土地がBからCに譲渡され、その旨の登記もされた。


 この事例で、Aは善意・無過失でB所有の甲土地を占有していますので、短期取得時効により、10年間の占有で甲土地を時効取得します。ところが、その時効が完成する一歩手前で甲土地の所有権がBからCに移転しています。
 で、結局何が問題なの?
 はい。この事例の問題は、Aがあと1年間、占有を継続して時効が完成した場合、AはCに対して甲土地の時効取得を主張できるのか?ということです。
 なぜそれが問題になるかというと、こういうことです。AはB所有の甲土地を善意で9年間占有していますが、C所有になってからの甲土地は1年間しか占有していません。それなのに、AのCに対する甲土地の時効取得の主張が認められるとなると、Cからすれば、たった1年間の占有で甲土地を時効取得されて、その所有権を奪われてしまうことになります。

「AvsC」の所有権争いの結末

 さて、このAとCによる甲土地の所有権をめぐる争い、一体どちらが勝つのでしょうか?
 結論。甲土地をめぐる所有権争いはAの勝ちです。Aは甲土地の時効が完成すれば、Cに対して、その時効取得を主張できます。従いまして、AはCに対して「時効が完成したから甲土地の所有権をよこせ!」と主張できるということです。
 Cが気の毒なような...
 確かにそうですよね。しかし、Aに甲土地を時効取得されてしまったことについては、Cにも落ち度があります。なぜなら、Bから甲土地を譲渡される前に、甲土地についてしっかりと調査をすれば、Aの占有と時効取得される可能性を事前に知ることはできたとも考えられますよね。
 加えて、善意で占有しているAは、甲土地を自分の土地だと思って占有しています。そんなAにとっては、甲土地の真の所有者がBなのかCなのかは、あまり関係ないのです。

判例の考え

 判例の考えでは、AとCは「前主後主の関係」になります。本来、不動産登記の世界は「登記した者勝ち」の、早い者勝ちの世界です。例えば、ある不動産が二人の者に二重譲渡された場合、その不動産の所有権争いは、早く登記をした方が勝ちます。ですので、普通に考えると、AとCの所有権争いは早く登記をしたCが勝ちそうなものです。しかし、AとCは「前主後主の関係」で「どっちが先に登記をするかの関係」ではないと判例は考えます。つまり、甲土地の所有権「前主Cから後主Aに移った」ことになる、ということです。
 尚、「どっちが先に登記をするかの関係」は、法律的には、民法177条の「対抗関係」となります(これについて詳しくはこちらの記事をご参照下さい)。つまり、AとCは「前主後主の関係」であって「対抗関係」ではない、ということです。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

登記請求権

登記請求権

 登記権利者が登記義務者に対して、登記申請に協力するよう請求することができる権利を、登記請求権といいます。登記権利者とは、所有権等を取得したことにより登記をする権利を持つ者のことで、不動産売買の場合の買主がこれにあたります。登記義務者とは、所有権等を取得したことにより登記をする権利を持つ者に対して、その登記に協力する義務を持つ者のことで、不動産売買の場合の売主がこれにあたります。
「登記権利者は登記義務者に対して登記申請に協力するよう請求することができる」ということは、登記義務者が登記申請に協力しない場合、登記権利者は、裁判を起こして判決を取って登記を実現してしまうことができるということです。

登記引取請求権

 登記権利者に登記請求権がある一方、不動産売買において、売主の方から買主に対して「はよ登記を持っていけや!」という権利もあります。これを登記引取請求権といいます。売主の方から買主に対して「はよ登記を持っていけや!」というのは、一見妙な感じがしますが、これは決して妙なことではありません。というのは、不動産には固定資産税がかかりますが、それは登記簿上の所有者に課税されます。ですので売主としては、すでに売却した不動産の登記名義がぐずぐず残ったままなのは、困った話なのです。

3つの登記請求権

 登記請求権の発生原因には、以下の3パターンがあるとされています。
1・物権的登記請求権
2・債権的登記請求権
3・物権変動的登記請求権
 それではひとつひとつ、ご説明して参ります。

1・物権的登記請求権
 これは、現在の権利関係との不一致を是正する登記請求権です。不動産売買が行われた場合の、買主から売主に対して「私が所有者になったのだから登記よこせコラ!」という権利が、この物権的登記請求権にあたります。
 尚、所有権についての物権的登記請求権であれば、それは所有者にしか認められません。例えば、不動産が「A→B→C」と転売された場合に、その不動産の所有者はCになる訳ですが、BからAに対しても登記を請求できます。このときのBからAに対する登記請求権は物権的登記請求権ではありません。なぜなら、所有者はCだからです。Bには、その不動産についての「物権」がないので「物権的」登記請求権ではないのです。

2・債権的登記請求権
 これは、当事者間の債権関係から発生する登記請求権です。例えば「A→B→C」と不動産が転売された場合に、BからAに対する登記請求権が、この債権的登記請求権にあたります。所有者はCなので、Bには「物権」はありませんが、AB間には売買契約上の債権関係があり、BにはAに対して登記の協力を請求する「債権」があります。従いまして「債権的」登記請求権なのです。
 尚、債権的登記請求権は、債権関係を原因とするものなので、例えば、BがAの土地を時効により取得したようなケースでは、AB間には債権関係がないので、この場合の登記請求権は、債権的登記請求権にはあたりません。

3・物権変動的登記請求権
 これは、物権変動の過程、態様と登記が一致しない場合の登記請求権です。例えば「A→B→C」と不動産が転売され、C名義の登記がされた後、AB間の契約が取り消された場合、BのCに対する所有権の抹消登記請求権が、物権変動的登記請求権にあたります。Bは所有者ではないので「物権的」ではなく、AB間の売買契約が取消しになったことにより、その効果は遡求し(さかのぼり)、AB間の売買契約の存在を前提とするBC間の売買契約も「なかったこと」となり、BC間の債権関係も消えてなくなるので「債権的」でもありません。従いまして物権「変動的」登記請求権なのです。
 尚、無効の売買契約でAからBへ登記が移転し、さらにAからCへとその不動産が二重譲渡されたケースで、CはBに対して登記の移転を請求できますが、BからCへの「物権変動」は存在しませんので、この場合のBからCに対する登記の移転の請求は「物権変動的」登記請求権にはあたりません。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

サイト運営者

根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
根本総合行政書士です。
宜しくお願いします。

保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

スポンサーリンク

QRコード

QR

お問い合わせ

名前:
メール:
件名:
本文:

スポンサーリンク