賃借権の相続 相続人がいない場合の内縁の妻

事例
BはA所有の甲建物を賃借して、内縁の妻Cと共に住んでいる。その後、Bは死亡した。尚、Bには相続人がいない。


 賃借権は相続されます。しかし、この事例のBには相続人がいません。そこで問題になるのは、内縁の妻Cです。というのは、もしBに相続人がいた場合は、その相続人が甲建物の賃借権を相続して、内縁の妻は、その相続人に相続された賃借権を援用することによって、甲建物のオーナーAから、立退き請求をされずに済みます(これについて詳しくはこちらの記事へ)。しかし、Bに相続人がいないとなると、内縁の妻は、賃借権の援用ができなくなります。
 さて、では今回の事例で、オーナーAは、内縁の妻Cに対して、甲建物の立退き請求をすることができるのでしょうか?
結論。オーナーAは、内縁の妻Cに対して、甲建物の立退き請求をすることはできません。なぜなら、今回のケースでは、内縁の妻Cは、甲建物の賃借権自ら取得するからです。

相続人がいない場合の内縁の妻を救う立法措置

 実は、事例のようなケースについては、内縁の妻Cのような立場の者を救うための、立法措置が施されています。

(居住用建物の賃貸借の承継)
借地借家法36条
居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。

 従いまして、上記の規定により、内縁の妻Cは、死亡した賃借人Bに相続人がいないので、Bの賃借人としての権利義務を承継します(甲建物の賃借権を取得)。これにより、甲建物のオーナーAから立退き請求をされることなく、内縁の妻Cは、甲建物に居続けることができるのです。また、内縁の妻Cが、Bの賃借人としての権利義務を承継するということは、家賃支払い義務内縁の妻C自身が負うことになります。この点は、賃借人Bに相続人がいて、その賃借権を援用する場合とは異なりますので、ご注意下さい。
 尚、この借地借家法36条の規定の適用は、居住用建物の場合に限ります。ですので、もし甲建物を事務所として使用していた等の場合は、内縁の妻Cは、オーナーAから立退き請求をされてしまうと、甲建物から出て行かざるを得なくなります。この点も併せてご注意下さい。

内縁の妻CがBの権利義務を承継したくない場合

 ところで、内縁の妻Cが、Bが死亡したことで、むしろ甲建物から退去したかった場合、つまり、Bの権利義務を承継したくない場合は、一体どうすればいいのでしょうか?これについても、借地借家法36条に続きがあり、下記のような規定を置いています。

借地借家法36条続き
ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。

 つまり、内縁の妻Cは、Bが死亡したことを知ってから1ヶ月以内であれば、Bの権利義務を承継しない、という選択を取ることも可能です。場合によっては、権利義務を承継する方が内縁の妻にとって酷になってしまうケースもありえます。ですので、このような形で、内縁の妻には、どちらかを選択できる権利が与えられているのです。
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賃借権の相続 内縁の妻vs相続人?権利の濫用?

事例
BはA所有の甲建物を賃借して、内縁の妻Cと共に住んでいる。その後、Bは死亡した。尚、Bには別れた先妻との間の子供Dがおり、DはAの唯一の相続人である。


(噛み砕いたバージョン)
将来の結婚を考えているB男とC子というカップルが、A所有の建物で同棲していたが、ある日、B男が死亡した。そして、死亡したB男には、以前に離婚した奥さんとの間の子供Dがいて、なんと、そのDが、B男の唯一の相続人だった。


 さて、この事例で、Bの持っていた甲建物の賃借権は、Dが相続します。しかし、内縁の妻Cは、甲建物に居続けることができます。なぜなら、BからDへと相続されたその賃借権を、Cが援用できるからです(これについて詳しくはこちらの記事をご参照下さい)。ですので、甲建物のオーナーAは、内縁の妻Cに対して、立退き請求はできません。内縁の妻Cは「わたしは甲建物に居続けます」と、正当に主張することができます。

相続人Dの立退き請求

 さて、オーナーAが、内縁の妻Cに対して立退き請求ができないのは分かりました。では、甲建物の賃借権を相続したDが、内縁の妻Cに対して、立退き請求をすることはできるのでしようか?
 そもそも、甲建物の賃借権を相続したのはDです。ましてや甲建物の家賃支払い義務を負っているのもDです(これについて詳しくはこちらの記事へ)。そして、事例の状況を現実的な視点で考えると、Bの内縁の妻Cと、Bの前の奥さんとの子供D仲が悪いことの方が多いのではないでしょうか?そもそも、CがBと婚姻せず、内縁の妻のままでいたのには、前の奥さんとの子供Dが、BとCの再婚について反対していた可能性もあります。
 このように考えていくと、たとえ内縁の妻Cが、相続人Dの賃借権を援用して、甲建物に居続けることができるにしても、それをDが指をくわえて黙って見ているとも思えないですよね?むしろ、相続人Dから内縁の妻Cに対し「甲建物から出てけ!」と言ってくる可能性の方が高いのではないでしょうか?

 結論。相続人Dは、内縁の妻Cに対して、甲建物の立退き請求をすることはできません。これは、判例でこのような結論になっています。つまり!相続人Dから内縁の妻Cへの立退き請求を、裁判所が許さなかったのです。しかも、裁判所はその理由について「信義則」に並ぶ、民法の奥義を繰り出しました。裁判所が、相続人Dから内縁の妻Cへの立退き請求を認めさせないために持ち出した民法の規定はこちらです。

(基本原則)
民法3条
権利の濫用は、これを許さない。

 実にざっくりした規定ですよね(笑)。要するに、裁判所は「相続人Dから内縁の妻Cに対する立退き請求権利の濫用だ」と言っているのです。権利の濫用とは、簡単に言うと「やり過ぎ」ということです。つまり、相続人Dから内縁の妻Cに対する立退き請求は、甲建物の賃借権を相続しているDの正当な権利だが、でもそれはちょっとやり過ぎじゃね?ということです。従いまして、相続人Dは、内縁の妻Cに対し、甲建物の立退き請求ができないのです。
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賃借権の相続 賃借人が死亡したら?内縁の妻は?

 不動産の所有者が死亡したら、その不動産の所有権は、相続人に相続されます。では、不動産の賃借人が死亡した場合は、その賃借権はどうなるのでしょうか?
 結論。賃借権は相続されます。ですので、例えば、賃貸マンションに住んでいる家族の世帯主が死亡しても、残された家族が賃借権を相続するので、賃貸人(オーナー)から立退き請求されることもなく、残された家族は路頭に迷わずに済みます。というか、路頭に迷わずに住めます(笑)。

 さて、ここまでは何も問題ないはずです。そして、賃借権の相続についての、真の問題はここからになります。 先ほど、賃貸マンションに住んでいる家族の世帯主が死亡しても、残された家族が賃借権を相続するので問題ない、という旨のお話をいたしました。では、残された家族(同居人)が、世帯主の相続人ではなかった場合、一体どうなるのでしょうか?

事例
BはA所有の甲建物を賃借して、内縁の妻Cと共に住んでいる。その後、Bは死亡した。尚、Bには別れた先妻との間の子供Dがおり、DはAの唯一の相続人である。


 まず、本来の問題についての説明に入る前に「内縁の妻」について、簡単にご説明しておきたいと思います。  内縁の妻とは「男女が婚姻の意思をもって共同生活(いわゆる同棲のこと)を送っているものの、婚姻届を提出していない場合の女性」のことです。よく「内縁関係」とか「事実婚」とか呼ばれる状態にある女性が、まさにこの「内縁の妻」にあたります。もっと噛み砕いて言えば、将来の結婚を考えて同棲しているカップルは「内縁関係」にあり、そのカップルの彼女が「内縁の妻」です(内縁について詳しくは、別途「家族法」分野の「親族」についての解説で、詳しくご説明申し上げたいと存じます)。

 内縁の妻については、おわかりになって頂けましたよね。という訳で、ここから事例の話に入って参りますが、今回の事例は、登場人物が4人いて、少し複雑に感じるかもしれません。ですので、ここで事例の状況を、噛み砕いて記してみましょう。

「将来の結婚を考えているB男とC子というカップルが、A所有の建物で同棲していたが、ある日、B男が死亡した。そして、死亡したB男には、以前に離婚した奥さんとの間の子供Dがいて、なんと、そのDが、B男の唯一の相続人だった!」

 噛み砕くと、こんな話です。これならわかりやすいかと思います。そして、なんだか一悶着ありそう臭いがプンプンしますよね(笑)。
 さて、それではこの事例で、甲建物のオーナーAは、内縁の妻Cに対して「甲建物から出てってくれ」と、立退き請求ができるでしようか?
 結論。甲建物のオーナーAは、内縁の妻Cに対して、立退き請求をすることはできません。なぜなら、内縁の妻Cは、Bの相続人Dの賃借権援用できるからです。

あくまでBの賃借権を相続するのはD
「BからDが相続した甲建物の賃借権を援用できる」というのは、簡単に申しますと、内縁の妻Cは「他人(相続人D)のふんどしで相撲を取れる」ということです。つまり、オーナーAから「甲建物から出てってくれ」と立退き請求をされても、相続人Dの賃借権を盾に「わたしはここに住み続けます」と正当に主張することができます。内縁の妻Cは「相続人Dの賃借権」という名のバハムートを召喚できるのです(笑)。
 また「Bの持っていた甲建物の賃借権を相続するのはあくまでD」ということはつまり、甲建物の賃料支払い義務内縁の妻Cではなく相続人Dが負います。従いまして、甲建物の家賃を払わなければならないのは、相続人Dになります。
 え?意味がわからん!
 ですよね。ただ、これは判例で、なんとか内縁の妻を救い出すために出された結論なのです。

なぜそこまでして内縁の妻を救う必要があるのか
 もし、内縁の妻が救われない結論を出してしまうと、同棲するリスクが高まってしまうと考えられます。それは将来の結婚を考えたカップルには酷な話ですよね。そして、同棲のリスクが高まると、それに伴って婚姻率・出生率も下がってしまって、ひいては「国家の繁栄を阻害することにも繋がりかねない」というようなことまでも、大袈裟ではありますが、考えられなくもないのです。したがって、強引ではありますが、このような結論になるのかと思われます。
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転貸借 転借人が所有権を取得したら?混同って?

事例
AはB所有の甲建物を賃借している。AはBの承諾を得て、適法に甲建物をCに転貸している。その後、Cは甲建物の所有権を取得した。


 これは、転借人Cが甲建物の所有権を取得したことによって甲建物の賃貸人になった、というケースです。
 さて、この場合、賃貸借契約と転貸借契約はどうなるのでしょうか?

 賃貸人    転貸人     転借人
  B      A       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約

そして

賃貸人→所有権移転→転借人から賃貸人
 B            C

どうなる?

賃借人?転貸人? 転借人?賃貸人?
   A        C
 借りる?貸す?⇆借りる?貸す?
        ↑
      賃貸借契約?
      転貸借契約?

 結論。転借人Cが甲建物の所有権を取得しても、賃貸借契約も転貸借契約も存続します。

混同

 法律の基本的な考え方からすれば、転借人Cが所有権を取得すると、転借人Cが元々持っていた転借権が混同により消滅するはずです。
 混同とは、一人の者が所有権と他の物権を取得したことにより、同時に持っていても無意味な権利が消滅することです。

(混同)
民法179条
同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。

 これでは分かりづらいと思いますので、具体例を挙げます。

AはB所有の甲土地の借地権を取得した。その後、Aは甲土地の所有権を取得した。

 これは、元々、Bの所有している甲土地を賃借していたAが、自ら甲土地の所有権を取得した、というケースです。この場合、Aは、甲土地の借地権と所有権の両方を持つことになります。しかし、所有権と借地権の両方を持っているということは「自分の所有物を自分に賃借している」という、訳の分からない状態になってしまいます。従いまして、Aが所有権を取得したことにより、借地権は意味のないものになり、その借地権は消滅します。これが混同です。つまり、Aが自ら甲土地の所有権を取得したことにより混同が生じ、借地権は消滅するのです。※
※尚、民法179条には続きがあり、混同が生じないケースも規定しています。それは抵当権などが絡んでくるケースなのですが、それにつきましては、また別途改めてご説明いたします。

 ということで、混同についてはおわかり頂けたかと存じます。
 さて、それでは話を冒頭の事例に戻します。
 転借人Cが甲建物の所有権を取得しても、混同は生じません。従いまして、賃貸借契約も転貸借契約も存続することになり、下記のような状態になります。

 賃貸人    転貸人     転借人
  C      A       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約

 Cは、転借人でありながら賃貸人も兼ねることになります。
 なんかややこしい!
 ですよね。しかし、これは転貸人Aの権利の保護のため、やむを得ないのです。というのは、元々、転貸人Aは転借人Cから家賃を受け取っています。もし、転借人Cが甲建物の所有権を取得したことで混同が生じ、それに伴ってAC間の転貸借契約が消滅してしまうと、転貸人Aは、転借人Cから受け取れるはずの家賃を受け取れなくなります。それは転貸人Aの、転借人Cに対して持つ賃料請求権を害すことになります。したがって、転貸人Aの権利を保護するため、AC間の転貸借契約も存続することになるのです。AC間の転貸借契約が存続するということは、Cは、引き続き転貸人Aへ家賃を支払います。そして、転貸人Aは、賃貸人としての地位も取得したCへ家賃を支払います。つまり、AはCへ家賃を支払い、CはAへ家賃を支払う、というちょっとオモシロイ状態になります。
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転貸借 賃貸借契約の合意解除と期間満了により終了した場合

事例
AはB所有の甲建物を賃借している。AはBの譲渡を得て、適法に甲建物をCに転貸している。その後、BとAの合意により、BA間の賃貸借契約が解除された。


 前回前々回の記事では、家賃滞納による解除について記しました。家賃滞納による解除というのは、債務不履行(履行遅滞)による解除です。このような解除は「法定解除」になります。これは法律の定めによって、一定の要件を満たした場合に、債権者から一方的になされる解除です。しかし、今回の事例に登場するBA間の解除は「法定解除」にはなりません。BA間の解除は、互いの合意のもとに行われています。このような解除を「合意解除」といいます。
 さて、問題はここからです。家賃滞納による賃貸借契約の「法定解除」の場合は、賃貸人は転借人への催告は必要ありません。転借人をシカトして、賃貸借契約を解除できます(詳しくはこちらの記事へ)。転借人は、賃貸人から「その転借している不動産から出てけ!」と言われれば、もはやどうすることもできません。
 それでは、今回の事例で、BA間の賃貸借契約は合意解除されましたが、この場合の転借人Cは、一体どうなるのでしょうか?

[参考図]

 賃貸人    転貸人     転借人
  B      A       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約
     ↑
    合意解除

 結論。BA間の賃貸借契約の合意解除は、転借人Cに対抗できません。従いまして、転借人Cは「甲建物はワタシが転借しているのだ!」と主張して、堂々と甲建物を使用し続けることができます。

なぜ合意解除を転借人に対抗できないのか

 BA間の賃貸借契約の合意解除は、転借人Cが持つ「甲建物の使用収益権」踏みにじることになってしまいます。転貸人Aは、AC間の転貸借契約により、転借人Cに対し「甲建物を使用収益させる義務」を負ってます。それはつまり、AC間の転貸借契約により、転借人Cには「甲建物の使用収益権」という権利があるということです。ましてや、甲建物のオーナーである賃貸人Bも、AC間の転貸借契約には承諾を与えています。それにも関わらず、BA間で勝手に合意して賃貸借契約を解除し、転借人Cに「BA間の賃貸借契約は解除したから、甲建物から出てってくれ」と迫るのは、信義則に反し許されません(判例)。※
※信義則についてはこちらの記事をご参照下さい。
 従いまして、BA間の賃貸借契約が合意解除されても、賃貸人Bは、転借人Cに対し、甲建物の明渡し請求はできないのです。

賃貸借契約が期間満了により終了した場合

 BA間の賃貸借契約が、期間満了により終了した場合、転借人Cはどうなるのか?この場合は、賃貸人Bは、BA間の賃貸借契約の期間満了による終了を、転借人Cに対抗できます。なぜなら、転借人Cは、AC間の転貸借契約を結ぶ際に、BA間の賃貸借契約の終了時期も分かっていたはずだからです。従いまして、BA間の賃貸借契約が期間満了により終了すれば、転借人Cは素直に、甲建物を退去しなければなりません。
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賃貸借契約が解除された場合の転貸借契約は?

事例
AはB所有の甲建物を賃借している。AはBの譲渡を得て、適法に甲建物をCに転貸している。その後、Aの家賃滞納により、AB間の賃貸借契約が解除された。


[参考図]

 賃貸人    転貸人     転借人
  B      A       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約
     ↑
     解除

  さて、この事例で、BA間の賃貸借契約解除されたことにより、AC間の転貸借契約はどうなるのでしょうか?
 結論。BA間の賃貸借契約が解除されたことにより、AC間の転貸借契約は終了します。なぜなら、AC間の転貸借契約は、BA間の賃貸借契約の存在の上に成り立っているからです。従いまして、元を断たれたAC間の転貸借契約は終了します。
 ただし!ここで大事な注意点があります。それは、AC間の転貸借契約が終了するタイミングです。AC間の転貸借契約は、BA間の賃貸借契約が解除されたことにより終了しますが、決して、BA間の賃貸借契約が解除されると、それに伴い自動的に終了するわけではありません。
 ではいつ終了するのか?
 BA間の賃貸借契約が終了すると、「元を断たれたAC間の転貸借契約」の下で、甲建物を使用している転借人Cは「不法占拠者」となります。そして、賃貸人Bは所有権に基づき、転借人Cに対し、甲建物の明渡し請求をすることになります。この請求をした時に、AC間の転貸借契約が終了します。つまり、賃貸人Bが転借人Cに対して、甲建物の返還請求をした時に、AC間の転貸借契約が終了します。細かい話ですが、これは資格試験等の民法の問題で問われやすい部分です。もし「賃貸借契約が解除されると同時に転貸借契約も終了する」というような肢が出題されたら、それは誤りの肢になります。お気をつけ下さい。

なぜ転貸借契約の終了時期がそのタイミングなのか

 これにはちゃんとした理屈があります。別に試験問題で問うために、そのようになっている訳ではありません。その理屈はこうです。
賃貸借契約において、賃貸人は賃借人に対し「目的物を使用収益させる義務」を負う(オーナーは賃借した不動産を賃借人に使わせてあげる義務を負うということ)。しかし「目的物を使用収益させる義務」が履行不能に陥れば、賃貸借契約は終了する。例えば、賃貸借している不動産が滅失したら、その賃貸借契約は終了する。なぜなら、不動産が滅失してしまったら「目的物を使用収益させる義務」を果たすことが不可能になる、すなわち、履行不能に陥るからである。
 賃貸借契約が解除された際の転貸借契約については、賃貸借契約の存在の上に成り立っている転貸借契約は、賃貸借契約が解除されると、いわば宙ぶらりん状態になると考えられる。そして、賃貸人が転借人に明渡しを請求した時に初めて「履行不能」に陥ると考えるので、賃貸借契約が解除された際の転貸借契約の終了時期は「賃貸人が転借人に明渡し請求をした時」になるのである」
 このような理屈になります。なんだか、わかるようなわからないような、そんな理屈ですよね(笑)。ただ、これは判例で結論づけられていることですので、納得の如何に関わらず「こうなっているんだ」と、強引に頭に入れておいて頂ければと存じます。
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転貸借における賃貸借契約の解除 転借人への催告は必要?

事例
AはB所有の甲建物を賃借している。そして、AはBの承諾を得て、適法に甲建物をCに転貸した。ところが、AはBに支払うべき家賃を滞納している。


 この事例で、甲建物の賃貸借契約を結んでいるのはAとBで、CとAは転貸借契約を結んでいます(転貸借についての基本はこちらの記事をご参照下さい)。各自の立場は下記のとおりです。

 賃貸人    転貸人     転借人
  B      A       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約

 家賃は、転借人Cは転貸人Aに支払い、転貸人Aは賃貸人Bに支払うことになるのですが、事例の転貸人Aは、賃貸人Bに支払うべき家賃を滞納してしまっています。
 さて、この場合に、賃貸人Bは、契約解除の前提として、転借人Cに対し、支払いの催告をする必要があるでしょうか?
 通常の賃貸借であれば、賃借人が家賃を滞納している場合、賃貸人は、その賃貸借契約の解除を前提に、賃借人に対して家賃の支払いの催告ができます。解除を前提の支払い催促とは、要するに「家賃を支払わないなら出てってもらうぞ!」ということです。※
※実際の立ち退きはそう簡単にはいきません。なぜなら、不動産賃貸借の場合「信頼関係破壊の法理」が働くからです。ここでは立退き問題の詳細については割愛しますが、「信頼関係破壊の法理」につきましては、こちらの記事をご参照下さい。
 事例で、家賃を滞納している賃借人Aは、甲建物の賃貸借契約における賃料支払い債務を遅滞している、つまり履行遅滞に陥っています。履行遅滞に陥っている者に対して、相手方は、相当の期間を定めた上で催告し、期間内に履行がされない場合は、契約の解除ができます。

(履行遅滞等による解除権)
民法541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

 従いまして、賃貸人Bは、家賃を滞納している賃借人Aに対し「◯月◯日までに家賃を支払わなければ、甲建物から出てってもらう!」という催告ができます。
 さて、ここまでは、何も問題ないと思います。しかし、事例の問題点は、転借人Cの存在です。というのは、もし、BとAとの間の賃貸借契約が解除されれば、転借人Cが困ってしまうからです。なぜなら、AとCの転貸借契約は、BとAの賃貸借契約の存在を前提に成り立っているからです。互いの契約は別個のものですが、賃貸のない転貸などありえません。ですので、BA間の賃貸借契約が解除されれば、AC間の転貸借契約も消滅し、転借人Cは甲建物から出て行かざるを得なくなります。要するに何が言いたいかといいますと、本来、賃貸人Bと転借人Cは契約関係にはないので、両者に権利義務関係はありません。しかし、BA間の賃貸借契約の解除の問題については、転借人Cも立派な利害関係人なのです。
 また、それに加えて、民法613条の規定により、賃貸人Bは転借人Cに対し直接、家賃を請求することもできます。
 以上のことから考えると、賃貸人Bは、賃借人・転貸人Aの滞納家賃の問題とはいえ、転借人Cに対しても、支払いの催告をする必要があるのではないでしょうか?
 結論。賃貸人Bは、賃借人・転貸人Aの滞納家賃について、転借人Cに対し、支払いの催告をする必要はありません。従いまして、賃貸人Bは、賃借人・転貸人Aに催告をして、それでもAが家賃を滞納し続けるならば、転借人Cの存在を無視して、BA間の賃貸借契約を解除することができます。

 転借人Cがかわいそう!
 はい。確かにかわいそうです。しかし、これは転貸借のリスクです。転借人Cは、あらかじめこのリスクも承知した上で、Aとの転貸借契約に臨まなければならないのです。

 でも賃貸人Bは転借人Cに直接家賃請求できることと整合性が取れなくね?
 そんなこともないのです。なぜなら、民法613条の規定による賃貸人から転借人への直接の賃料請求権は、権利であって義務ではありません。ですので、Aの家賃滞納に伴うBA間の賃貸借契約の解除について、賃貸人Bは、あらかじめ転借人Cに対しても、催告をする義務はないのです。
 従いまして、もし転借人として転貸借契約をする際は、転貸人の信用性をしっかりと確かめた上で、契約するのが良いでしょう。
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転貸借 建物の修繕の請求は誰に?

事例
AはB所有の甲建物を賃借している。その後、Aは、Bの承諾を得て、Cに甲建物を転貸した。


 この事例で、甲建物の賃貸借契約を結んでいるのはAとBです。CはAと転貸借契約を結んでいます。そして、このような場合のCを「転借人」と呼びます。Aは「転貸人」になります。

 賃貸人    転貸人     転借人
  B      A       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約

 家賃については、転貸人Aは賃貸人Bに支払い、転借人Cは転貸人Bに支払います。また民法613条の規定により、賃貸人Bから直接、転借人Cに家賃を請求することもできます(詳しくは前回の記事をご参照下さい)。
 さて、ではこの事例で、甲建物に水漏れが生じた場合に、転借人Cは、賃貸人Bに対して、甲建物の修繕を請求できるでしょうか?
 結論。転借人Cは賃貸人Bに対して、甲建物の修繕の請求はできません。なぜなら、賃貸人Bと転借人Cは、契約関係にないからです。転借人Cと契約関係にあるのは、転貸借契約を結んでいる転貸人Aです。賃貸人Bと契約関係にあるのは、あくまで、賃貸借契約を結んでいる転貸人Aです。
 じゃあ転借人Cは誰に修繕の請求をすればいいの?
 転借人Cが甲建物の修繕を請求する相手は、転貸人Aになります。転貸人Aは、転借人Cと転貸借契約を結んでいる以上、転借人Cに対して家賃を請求する権利を持つと同時に、甲建物を使用収益させる義務も負います。従いまして、転借人Cは、転貸人Aに対して、甲建物の修繕を請求する権利があるのです。

転借人に修繕を請求された転貸人

 では、転借人Cから甲建物の修繕を請求された転貸人Aは、自らその修繕を行わなければならないのでしょうか?
 この場合、転貸人Aは、賃貸人Bに修繕を請求することになります。実際は、転借人Cから修繕を要求する連絡を受けた転貸人Aが、甲建物の管理会社に修繕を要求する連絡をする、という流れになると思われます。ただ、賃貸人(オーナー)が、賃借人に、転貸の承諾を与える際に、このような場合はこのように、という内容を転貸借契約に反映させることで、このあたりの流れはケースバイケースになると考えられます。

 基本的に、賃貸借契約と転貸借契約は別個に存在している、と考えるので、賃貸人と転借人の間には、権利義務関係はありません。不法行為等でもない限り、契約関係にない者同士に、債権債務関係は生じませんよね。未婚の者同士が浮気をしても、不倫関係にはなりませんよね(?)。スミマセン。例えが意味不明ですね(笑)。話を戻します。ということなので、むしろ「転借人は賃貸人に対して直接に義務を負う」として、賃貸人から転借人に直接、家賃を請求できる、という民法613条の規定による請求の方が、特殊だと考えた方が分かりやすいのかな、と思います。
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転貸借(サブリース) 賃貸人から転借人に直接家賃請求するときの注意点

事例
AはB所有の甲建物を賃借している。その後、Aは、Bの承諾を得て、Cに甲建物を転貸した。


 これは、賃借人Aが、Cに転貸(いわゆるサブリース)した、というケースです。このケースで、甲建物の賃貸借契約を結んでいるのはAB間で、CA間転貸借契約を結んでいます。そして、このような場合、Aは「転貸人」になり、Cは「転借人」となります。

 賃貸人    転貸人     転借人
  B      A       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約

 転借人Cは転貸人Aに家賃を払い、転貸人Aは賃貸人Bに家賃を払います。これが基本ですが、民法613条の規定により、転借人は賃貸人に直接の義務を負うので、賃貸人Bから転借人Cに対して、直接に家賃を請求することもできます(つまりサブリースの場合、サブリース会社をすっ飛ばしてオーナーから直接、入居中の人へ家賃を請求することもできるということ)。

(転貸の効果)
民法613条
賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。

 ただ、ここで注意点があります。上記の民法613条の規定により、賃貸人が転借人に対して直接、家賃を請求する場合、請求できる家賃は、賃貸借契約で定められた賃料と転貸借契約で定められた賃料の、低い方の家賃です。どういうことかといいますと、例えば、冒頭の事例で、賃貸人Bと転貸人Aの賃貸借契約で定められたBA間の家賃が10万円で、転貸人Aと転借人Cの転貸借契約で定められた家賃が8万円だとしましょう。この場合に、賃貸人Bから転借人Cに直接、家賃を請求するとき請求できる金額は8万円まで、になります。なぜなら、転借人Cの負っている賃料債務は8万円だからです。転借人Cが負っている賃料債務を超えた金額を請求することはできません。また、賃貸人Bと転貸人Aの賃貸借契約で定められたBA間の家賃が8万円で、転貸人Aと転借人Cの転貸借契約で定められた家賃が10万円だとしましょう。この場合も、賃貸人Bから転借人Cに直接、家賃を請求するとき請求できる金額は8万円まで、になります。なぜなら、賃貸人Bが持っている賃料債権の金額が8万円だからです。賃料債権を超えた金額を請求することはできません。
 つまり、民法613条の規定により、賃貸人から転借人に直接に家賃を請求する場合でも、債務者(転借人)の賃料債務を超えた金額を請求することはできず、また、債権者(賃貸人)の賃料債権を超えた金額を請求することもできない、ということです。ですので、結果的に、賃貸借契約で定められた家賃と転貸借契約で定められた家賃の低い方しか請求できない、となるのです。

転借人は賃貸人と転貸人、ダブルに家賃支払い義務を負うのか

 もちろん、転借人はダブルの支払い義務を負うわけではありません。もし、すでに転貸人に家賃を支払っているのに、賃貸人から家賃を請求されたら「すでに支払い済みです」と主張すればいいのです。しかし、民法613条には気になる一文があります。それは「賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない」というところです。これはどういうことかといいますと、例えば、転貸借契約の家賃の支払い期日が月末だったとして、転借人は20日に家賃を支払っていたとします。その場合に、賃貸人から転借人に家賃の支払い請求があったときは、転借人は「すでに支払い済みです」と拒むことができない、ということです。ではこのようなときに、転借人はどうすればいいかといいますと、一旦、賃貸人に対して家賃を支払った上で、転貸人に対し、支払い済みの家賃の返還請求をすることになります。
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転貸借(サブリース) 賃貸人は転借人に直接家賃請求できる?

事例
AはB所有の甲建物を賃借している。その後、Aは、Bの承諾を得て、Cに甲建物を転貸した。


 これは、賃借人Aが、賃貸人(オーナー)Bの承諾を得て、適法に甲建物をCに転貸(また貸し)した、というケースです。このケースで、甲建物の賃貸借契約を結んでいるのはAとBです。CはAと転貸借契約を結んでいます。そして、このような場合のCを「転借人」と呼びます。Aは「転貸人」になります。つまり、各自の立場を示すとこうなります。

 賃貸人    転貸人     転借人
  B      A       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約

 このようになります。少しややこしく感じるかもしれませんが、まずはここを押さえて下さい。
 甲建物の家賃は?
 転貸人Aは、転借人Cに対し、家賃を請求できます。つまり、転借人Cは転貸人Bに家賃を支払うことになります。そして、賃貸人Bは、転貸人Aに対し家賃を請求し、転貸人Aは賃貸人Bに家賃を支払います(ここは転貸前と変わりません)。
 さて、ではこの事例で、賃貸人Bは、転借人Cに対して、直接、家賃を請求できるでしょうか?
 結論。賃貸人Bは、転貸借Cに対して直接、家賃を請求できます

(転貸の効果)
民法613条
賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。

 本来なら、賃貸人Bと転借人Cは契約関係ではないので、BC間に権利義務関係も発生しないのですが、上記の民法613条により「転借人は賃貸人に対して直接に義務を負う」として、賃貸人Bは転借人Cに対して、直接に家賃を請求できることになります。
 尚、賃貸人Bが転借人Cに直接に家賃を請求しても、賃貸人Bと転貸人Aの賃貸借契約には何の影響もありません。従いまして、従来どおり、賃貸人Bは転貸人Aに家賃を請求できます。

補足1・サブリース
 ちなみに、巷で「サブリース」と言われているのは、この転貸のことです。そしてサブリースでよくあるのが、事業者がマンションやアパートを一棟まるごと借りて、一室ずつ個人の客に賃貸する、というパターンです。つまりそれは、そのマンションやアパートのオーナーから事業者が一棟まるごと賃借して、個人の客に転貸しているということです。したがって、その場合に「賃貸借契約」を結んでいるのは、オーナーとサブリース事業者です。サブリース事業者と客が結ぶ契約「転貸借契約」になります。そして、客はサブリース事業者に家賃を払い、サブリース事業者はオーナーに家賃を払います。

補足2・オーナー向けのサブリース提案
 よく、マンションやアパートの経営者(オーナー)向けのサブリースの提案がありますよね。これは一体どういうことなのかといいますと、要するに、サブリース事業者がオーナー所有のマンションやアパートを賃借して、一定の家賃収入をオーナーに保証した上で(たとえ空室が生じても、サブリース事業者からオーナーへ、約束した一定の家賃が支払われるということ)客に転貸することにより、オーナーは空室による家賃収入減少のリスクを回避することができる、というわけです。これだけ聞くと、オーナーにとって良いことづくめのように思われますよね。しかし、実はこれにも落とし穴があります。その詳細についてここでは申しませんが、とりあえず頭に入れておいて頂きたいのは「オーナー向けのサブリース提案にもリスクがある」ということです。この問題につきましては、また機会を改めてお話できればと存じます。
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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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