2つの占有 占有の二面性

 占有には2つのパターンが存在します。
・自分だけの占有
・前主から引き継いだ占有

 このように占有には2つのパターンがあり、これを占有の二面性といいます。

事例1
Aは甲土地を9年間、悪意の占有を続けた。その後、Aは甲土地を善意・無過失のBに引き渡し、Bはそれから1年間、甲土地の占有を続けた。


 さて、この事例1で、Bは甲土地を時効取得できるでしょうか?
 冒頭に、占有には2つのパターンがあることを申し上げました。この事例1が、まさに占有の二面性を示す典型のケースです。そしてその占有の二面性に基づいて、Bは2つの主張ができます。

(占有の承継)
民法187条
占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。

 なんとBは、自分自身の選択で「自己の占有のみを主張」と「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」のどちらかを選んで主張することができます。

自己の占有のみを主張
 これは簡単ですよね。事例1のBが、B自身の占有のみを主張することです。となると、B自身の甲土地の占有期間はたった1年間なので、当然ですが、Bは甲土地を時効取得することはできません。

前の占有者と併せて主張
 これは、事例1のBがAの占有と併せて占有を主張することです。どういうことかといいます、Bの前に甲土地を占有していたのはAで、Aの占有期間は9年間ですよね。そしてBが次の占有者になり、甲土地を1年間占有した。そこでなんとBは、前の占有者であるAの占有期間の9年間と、B自身の占有期間の1年間を足して、9+1=10年間の占有期間を主張できるのです。
 事例1のBは善意・無過失です。ですので、Aの占有と併せて9+1=10年間の占有ということで、めでたく甲土地を時効取得できます!と言いたいところですが、そうはイカンのです。先述の民法187条には続きがあり、次のようなことが規定されています。

民法187条2項
前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。

 ポイントは「その瑕疵をも承継する」という部分です。瑕疵とは欠陥のことです。欠陥には悪意・有過失も含まれます。ということはどうなるかといいますと、前の占有者の占有と併せて主張するときは、前の占有者の悪意・有過失をも引き継いでしまうということです。つまり、事例1で善意・無過失のBが、Aの占有と併せて9+1=10年間の占有を主張しても、Aの悪意・有過失をBが引き継いでしまうことになるので、その結果、10年間の短期取得時効は成立しなくなってしまいます。

 ということで結局、事例1のBは、Aの占有と併せて主張しようがB自身の占有のみを主張しようが、甲土地を時効取得することは無理ということになります。

事例2
Aは甲土地を9年間、悪意の占有を続けた。その後、Aは甲土地を善意・無過失のBに引き渡し、Bはそれから10年間、甲土地の占有を続けた。


 さて、この事例2で、Bが甲土地を時効取得するためには「自己の占有のみを主張」と「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」のどちらの主張をすればいいでしょう?
 もうおわかりですよね。正解は「自己の占有のみを主張」です。Bは善意・無過失なので、10年間の占有で甲土地を時効取得できます(短期取得時効)。
 じゃあ「前の占有者の占有(Aの占有)と併せて主張」をしたらどうなるの?
 その場合は、Bは甲土地を時効取得することができません。なぜなら、前の占有者Aの悪意・有過失を引き継いでしまうことにより短期取得時効の対象ではなくなるので、Aの占有9年+Bの占有10年=19年間の占有では、通常の時効取得に必要な20年間には、あと1年足りなくてなってしまうからです。
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占有を奪われたときは?占有回収の訴え

事例
Aはあともう少しで甲土地を時効取得するところである。そこで、Aに甲土地を時効取得されたくない血気盛んなBは、実力行使でAの占有を排除した。


 なんだかエモーショナルな事例ですが、この場合、Aの占有は途切れてしまい、Aは甲土地を時効取得することができなくなってしまうのでしょうか?

(占有の中止等による取得時効の中断)
民法164条
第百六十二条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。

 上記の条文のとおり、Aは他人のBによって占有を奪われています。ということは、条文どおり時効は中断し、Aは甲土地を時効取得することができなくなりそうですね。Bにとってはしてやったりという感じです。しかし!民法では、Aのような人間を救うべく、下記のような規定も置いています。

(占有回収の訴え)
民法200条
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。

 上記の条文に基づいて、AはBに対し「占有回収の訴え」を起こし、勝訴して甲土地を取り戻せば、無事Aの占有は継続していたことになります。
 占有期間はリセットされないの?
 リセットはされません。繰り返しますが、占有回収の訴えを起こし、勝訴して甲土地を取り戻すことができれば、Aの甲土地の占有期間は継続していたことになります。ですので、Aの甲土地の時効取得への影響はありません。参考となる条文はこちらです。

(占有権の消滅事由)
民法203条
占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。

 ちなみに、上記の条文を読むと、占有回収の訴えの提起さえすれば占有継続が認められそうですが、実際には、勝訴して土地を取り戻すところまでいかないと、占有が継続していたことにはなりません。ですので、Aとしては、占有の継続を取り戻し甲土地を時効取得するためには、裁判を起こし勝訴して実際に甲土地を取り戻すところまでいかなければならないのです。これは中々の負担ですよね。ということは、Aとすれば、事前に占有を奪われることを防止するのが最良ですよね。そこで民法では、次のような規定も存在します。

(占有保全の訴え)
民法199条
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。

 つまりAは、血気盛んなBが甲土地の占有を妨害しそうだと判断したら、あらかじめ「占有保全の訴え」を起こし、事前に法的な予防線を張ることができます。
 また、占有を奪われるまではいかないが、占有の妨害を受けたときには民法198条(占有保持の訴え)により、妨害の停止および損害賠償の請求をすることができます。
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短期取得時効

事例1
農家Aは甲土地を、農家Bは乙土地を耕していて、甲土地と乙土地は隣接地だった。Aは善意にかつ過失なく土地の境界線を超えて、自分の畑を乙土地にまで広げて10年間耕し続けた。

 さて、この事例1で、Aは境界線を超えて耕し続けた甲土地を時効取得できるでしょうか?
 結論。Aは境界線を超えて耕し続けた甲土地を時効取得します。
 え?占有期間が足りなくね?
 そんなことはないないのです。なぜなら、Aは善意・無過失だからです。根拠となる条文はこちらです。

(所有権の取得時効)
民法162条2項
十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

 そうなんです。なんと占有開始の時に善意・無過失であれば、10年間の占有で時効取得できてしまいます。つまり、善意・無過失の占有であれば20年間もいらないのです。これが短期取得時効です。
 従いまして、善意・無過失で境界線を超えてB所有の乙土地を10年間耕し続けた(占有し続けた)Aは、乙土地を時効取得します。ただ、無過失の立証はA自身で行わなければなりません。その点だけはAが頑張らなくてはならない部分です。逆にBは、Aが無過失を立証できなければ、越境された乙土地を10年間で時効取得されるという事態を防ぐことができます。尚、念のため申し上げておきますが、Aがさらに10年間、つまり20年間乙土地を耕し続けたら、Aの善意悪意・過失の有無に関わらず、Aは乙土地を時効取得します(通常の取得時効)。その場合は、Bが裁判を起こしてAの過失を立証したところで、Aに「時効を援用します」と言われればアウトです。

事例2
売主Aは買主Bに甲土地を売り渡した。さらにBは甲土地をCに転売した。その後、AはAB間の甲土地の売買契約の錯誤無効※を主張し、Cに対し甲土地の返還を求めた。

※錯誤についてはこちらの記事をご参照下さい。

 さて、この事例2のCは、Aからの甲土地の返還の求めに応じなければならないのでしょうか?
 もし甲土地の売買契約の錯誤無効が認められれば、AB間の売買契約は初めから無かったことになるので、AB間の売買契約の存在が前提に成り立っているBC間の売買契約も無効のものとなってしまいます。すると、甲土地に住むCはただの不法占拠者となってしまいます。このように考えていくと、CはもはやAに甲土地を返還するほかないですよね。
 しかし!Cにはまだ奥の手が残されています。そう、取得時効です。Cが善意・無過失なら、10年間の占有で甲土地を時効取得することができます。その際に、もしAが裁判を起こし、錯誤無効を主張して甲土地の返還を求めてきても「時効を援用します」とCが言えば、Cの勝ちです。さらにこの事例2では、事例1のケースよりも占有者にとって有利な力が働きます。というのは、事例1のケースでは、占有者は善意・無過失とはいえ、越境行為によって土地を占有しているのに対し、事例2の場合、占有者(Cのこと)は取引行為によって土地を手に入れております。取引行為の場合は、民法188条「占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する」により、占有者の無過失の推定が働きます。つまり、事例1とは違い、占有者のCは無過失の立証を自らで行う必要がありません。これはCとしてはかなり助かりますよね。逆にAは、Cの過失を立証できなければ甲土地を返してもらうことができません。
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時効取得の様々な事例

 今回は時効取得の様々なケースをご紹介するとともに、その解説をして参ります。

事例1
売主Aは買主Bに甲不動産を売り渡した。しかし、売主AはCにも甲不動産を二重譲渡し、Cは登記をした。その後、Bは甲不動産を占有し続けた。

 この事例1は不動産の二重譲渡のケースです。不動産は登記したモン勝ちですよね(不動産の二重譲渡についてはこちらの記事もご参照下さい)。ですので、通常の二重譲渡のケースとして考えればCの勝ちですが、事例1では、Bは甲不動産を占有し続けています。という訳でここからが本題です。Bはこのまま占有し続ければ、甲不動産を時効取得できるでしょうか?
 結論。Bは甲不動産を時効取得できます。尚、Bが甲不動産を時効取得すると、Cは元々甲不動産の所有者ではなかったことになる、つまり、Bが元から甲不動産の所有者だったことになります。
 時効期間の起算点は?
 Bが甲不動産の占有を開始した時です。

事例2
売主Aは買主Bに甲土地を売り渡した。甲土地は農地で、Bは農地以外への転用目的で甲土地を購入したのだったが、農地法5条の許可申請を行なっていなかった。


 いきなり農地法5条といっても、はぁ?となりますよね。農地を農地以外で利用すること、つまり、農地の利用目的を変更することを農地転用といいますが、農地転用を行う際には農地法4条の許可(届出)が必要になります。また、農地の所有者を変更する際には農地法3条の許可(届出)が必要で、所有者と利用目的の両方を変更する場合には農地法5条の許可(届出)が必要になります(この辺りの知識は宅建試験において「法令上の制限」分野で必須になります)。俗に3条許可とか5条許可とか言ったりします。
 話を戻しましょう。この事例2で、買主Bは甲土地を時効取得できるでしょうか?
 結論。Bは甲土地を時効取得できます。甲土地の引渡しを受けた時からBの自主占有が開始したと判断されます。

事例3
Aは、長期間、公共の目的に供用されることなく放ったらかされた公共用の不動産を占有し続けた。


 さて、この事例3のAは、占有し続けた公共用の不動産を時効取得できるでしょうか?
 結論。なんとAは占有し続けた公共用の不動産を時効取得できます。これはちょっとビックリですよね。これは判例で「公の目的が害されず、その物を公共用財産として維持すべき理由がなくなったときは、黙示の公用の廃止があったものとして」時効取得できるとしています。理屈はともかく、判例でそのような結論になっている、ということを覚えておいて頂ければと存じます(この辺りの知識は、行政書士試験や公務員試験の「行政法」分野で求められます)。

事例4
AはBの所有地になんの権利もなく自己所有の樹木を植栽し、そのまま所有の意思を持って平穏・公然と20年間占有した。


 さて、少し変わった事例ですが、この場合にAは立木(植栽した樹木のこと)の所有権を時効取得できるでしょうか?
 結論。Aは立木の所有権を時効取得できます。
 このケースは、参考までに頭の片隅にでも入れておいて頂ければと存じます。
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取得時効 自主占有について

 取得時効が成立するための要件は以下の5つです。
・20年間
・自主占有(所有の意思を持って占有すること)
・平穏
・公然
・他人の物の占有
 今回は「自主占有」以下の要件についてご説明して参ります。

自主占有

 自主占有とは「所有の意思」を持った占有です。所有の意思を持った占有とは、「オイラのモノだ!」という意思で占有することです。所有の意思の有無の判断は、個人の主観ではなく権原の性質により客観的に行われます。どういうことかといいますと、例えば、Aさんがマンションの一室を借りたとします(不動産賃貸借)。この場合の「権原」は賃借権になります。所有権ではありません。そして賃借権による占有は「他主占有」になります。Aさんはあくまでマンションの一室を借りて住んでいるだけで、「アタシのモノだ!」という意思で占有している訳ではありませんよね?従いまして、Aさんがマンションの一室を借りて20年間占有し続けても、Aさんの所有物にはなりません。繰り返しますが、Aさんが借りたマンションの一室に対して持つ権利の「権原の性質」は賃借権で、賃借権による占有は自主占有ではなく他主占有なので、いくらAさんがそのマンションの一室を20年間占有し続けたとしても、そのマンションの一室の所有権を取得することはありません。

 ちなみに、こんな場合はどうでしょう。もしAさんが、借りた家を自分の家だと勘違いして20年間住み続けたら?
 結論。それもダメです。なぜなら「所有の意思」は客観的に判断されるからです。

平穏・公然

 この2点は試験などでは問われないでしょう。一応、簡単にご説明しておきますと、無理矢理に奪った訳ではなく(平穏)、コソコソとせず堂々と(公然)占有すればOK!ということです。ここはさらっと流して深く考えないで下さい(笑)。

他人の物の占有

 これは簡単ですね。読んで字の如く、他人の物を占有することです。

 以上のように、これら4つの要件と前回ご説明申し上げた「20年間」と合わせて5つの要件を満たせば、取得時効が成立し、占有者は所有権を取得します。

補足1
 取得時効成立のための要件の一つとして「他人の物の占有」とありますが、「自分の物」の時効取得は可能なのでしょうか?自分の物を時効取得といってもピンと来ませんよね。例えばこうです。AがBから甲不動産を買って占有を始め、その後、長期間経過してから、AB間の甲不動産の売買の効力が争われたようなケースです。この場合、Aは買主としての地位を主張する訳ですから、甲不動産はAにとってあくまで自分の物です。
 結論。自分の物の時効取得は可能です。先ほど挙げた例だと、Aは甲不動産を時効取得できます。これは、判例によりこのような結論が下されています。なぜ判例がこのような結論かというと、例えば、甲不動産の買主のAが、長い年月の経過により売買契約書などを紛失していたらどうでしょう?そのような売買の立証が困難な場合に、買主Aのような人間を救済するために、裁判所の判断でこのような結論になっているのです。

補足2
 実はドロボーの占有は自主占有になります。
 マジで?
 マジです。なぜなら、ドロボーは「誰かのために占有している」訳ではありません。一方、賃借権の場合はあくまで「誰かのために占有している」ことになるので他主占有なのです。この点はご注意下さい。
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取得時効 20年間の占有とは

 取得時効とは、時効によって取得する制度です。例えば、Aさんが甲土地、Bさんが乙土地を耕していて、甲土地と乙土地が隣接地だった場合に、Aさんがズルをして土地の境界線をズラし、Bさんの乙土地にまでAさんの畑を広げて、さも自分の土地のようにAさんが使い続けます。それに対してBが何も文句を言わずに、または気づかずに20年間経過すると、Aさんはズルをして広げて使った部分の乙土地を取得します。つまり、Aさんはズルをして侵した部分の乙土地の所有権を、一定の要件を満たせば取得時効の制度により取得するのです。この取得時効についての民法の条文はこちらです。

(所有権の取得時効)
民法162条
二十年間所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

 この条文の中に、時効取得するための要件が5つ記されています。
・20年間
・自主占有(所有の意思を持って占有すること)
・平穏
・公然
・他人の物の占有
 これらの要件を満たしたときに、取得時効が成立します。最初に挙げた例にあてはめると、Aが20年間所有の意思を持って平穏・公然B所有の乙土地を占有(他人の物の占有)すれば、取得時効が成立し、Aは乙土地の所有権を取得するということです。
 さて、ではまずは、上記の5つの要件のひとつ「20年間」について、具体的に見ていきましょう。

20年間の占有

 20年間というのは、継続した20年間です。もし20年間の途中で、一日でも占有が途切れていたらアウトです。時効取得はできません。ただ、誰かに賃貸したとしても占有は継続します。

(代理占有)
民法181条
占有権は、代理人によって取得することができる。

 つまり、最初に挙げた例で、Aが越境して占有した乙土地をCに賃貸しても、Aの占有は継続します(間接的な占有)。

占有の継続はどうやって証明するの?
 占有の継続については、民法186条2項で規定されています。

民法186条2項
前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する

 これはつまり、占有を開始した時の占有と現在の占有を証明すれば、その間の期間の占有は法律的に推定されるのです。なので例えば、20年間継続して占有し続けたことを証明するために、20年間欠かさず日記をつけて証明しなければならないなんてことはないのです。
 ただ、これはあくまで「推定」であり「みなす」ではありません。ですので、最初に挙げた例で、BがAの占有が途中で途切れたことを証明できれば、Aの時効取得を阻止できます。逆に言えば、Bにそれを証明されない限りAは勝ちます。つまり、Bがそれを証明できなければ、Aの継続した20年間の占有は確定しますので、裁判の現場ではAが断然有利でしょう。

 という訳で、今回は以上になります。次回、取得時効成立のための残り4つの要件について、ご説明して参りたいと存じます。
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取得時効と消滅時効の超基本 時効制度の意味

「もう時効だろうし今だから言うけどさぁ」というように、普段の会話でも、時効という言葉自体は馴染みあるものだと思います。しかし、時効という制度の細かいところは、民法の学習をしない限りは、一般的には中々知るところではないのではないでしょうか?
 さて、時効には2種類あります。取得時効消滅時効です。

取得時効
 例えば、農家Aさんが甲土地、農家Bさんが乙土地を耕していて、甲土地と乙土地が隣接地だった場合に、Aさんがズルをして土地の境界線をズラし、Bさんの乙土地にまでAさんの畑を広げて、さも自分の土地のようにAさんが使い続けます。それに対してBが何も文句を言わずに、または気づかずに20年間経過すると、Aさんはズルをして広げて使った部分の乙土地を取得します。裁判になってもAが所有権を主張すれば勝ちます。これが取得時効という制度です。

消滅時効
 例えば、AからBが300万円借りたとします。そのまま放置して10年が経過すると、Bの債務は消えます。Aが訴訟をおこして裁判になっても、Bが時効の主張(これを時効の援用という)をすれば、Bの勝ちです。つまり、BはAに300万円を返さなくて済むのです。これが消滅時効です。

 このように、時効には2つのタイプが存在する訳ですが、どうでしょう。そもそもですが、時効ってとんでもない制度だと思いませんか?だって、取得時効においてはズルをして境界線をズラして越境して土地を使っていたヤツがその分の土地を取得し、消滅時効においてはそれこそ時の経過で借金を踏み倒したようなヤツを救ってしまう訳です。これって道徳的に考えていかがなもんでしょう。

時効制度の意味

 実は、時効制度の決定的な意味、その存在理由は、ズバッとハッキリとこれだ!というものはないと言われています。
 え?そうなの?
 はい。そうなのです。なので、たとえ道徳的に考えて納得できなくても、これは理屈ではなく「そうなっているんだ」と強引に頭にぶち込んでしまって下さい。
 ただ、よく言われることとしては、先述の越境して隣人の土地を侵して使用していたヤツのケースだと「何も文句を言わなかった方が悪い」という理屈も成り立ちます。これを「権利の上に眠る者は保護に値しない」と言ったりします。つまり、「文句を言う権利があるのにその権利を行使しなかったヤツの責任だ」となるのです。でもこの理屈だと「借金を踏み倒すために文句を言う暇もなく逃げ続けるヤツ」も肯定してしまうことになってしまいます。他にも「長い年月が経ってから権利関係を立証するのは難しいから」という理屈もありますが、長い年月が経過しても明確な証拠があってしっかりと立証できる場合はどうなんだ?という反論も成り立ちます。
 ということなので、考えれば考えるほどドツボにハマっていきます。ですので、繰り返しますが、これは理屈云々ではなく強引に「そうなっているんだ」と覚えてしまって下さい。
 う~ん、でも
 でも、て言わない!と子供の頃叱られた事ある人、いると思います(笑)。おそらく時効という制度の存在理由は、実務的な意味も大きいのではないかと思います。あまりに昔の事を持ち出されて訴訟だなんだと騒がれても、裁判所も困ってしまいますよね。ましてや裁判というのは時間がかかります。そんな案件がどんどん出てきてしまうと、裁判所がごった返してしまいます。それは法的安定性を阻害することにもなります。したがって、一律に〇〇年で時効!それで文句言いっこナシ!としているのではないかと思います。
 という訳で、今回は以上になります。次回から、時効という制度についての解説に、本格的に入って参りたいと存じます。
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代理番外編 使者

 民法の条文には存在しませんが、代理人と似て非なるものに使者というものがあります。
 使者とは、本人が決定した事項をただ伝えるだけの役目です。例えば「お使い」なんかがそうです。つまり、はじめてのお使い、ならぬ、はじめての使者です(笑)。

事例1
Aは飼っている犬のポチに、必要なお金と注文書きを入れた買い物カゴをぶら下げさせて、近所の商店にお使いに行かせた。


 さて、この場合、お使いに行った犬のポチはAの使者ということになるのでしょうか?
 結論。犬のポチはAの使者になります。
 なんと、使者には意思能力は不要なのです。

事例2
Aは飼っている猫のタマに、必要なお金と注文書きを入れた買い物カゴをぶら下げさせて、近所の商店にお使いに行かせた。


 さて、この場合、猫のタマはAの使者になるのでしょうか?
 もちろん使者になります。夏目漱石先生も納得の結論でしょう。もし猫がホワッツマイケルや忍者ハットリくんの影千代やセーラームーンのルナなら、代理人にもなれるかもしれません(笑)。

 このように使者は意思能力が不要なので、本人さえ良ければ、ほぼ誰でもなれるといっていいかもしれません(この場合の意思能力とは、法的な意味の意思能力のことです。あしからず)。伝書鳩なんかも使者と言えるでしょうね。
 さて、ここからは真面目な話に戻しますが…
 ふざけてたんかい!
 そういう訳ではないのですが(笑)、例えば、こんなことが起こってしまったらどうなるでしょう。使いに出した使者が伝達事項を間違えてしまったら?
 この場合はなんと、錯誤の問題になります。つまり、その場合の使者の意思表示は、使者の故意・過失を問わず、原則として無効になります。
 犬のポチでも?
 それは…知りません。
 猫のタマでも?
 それも…知りません。
 伝書鳩のポッポでも?
 それも…もうええわ!
 どうも、ありがとうごさいました~!(漫才風)

PS:代理は中々難しい

 民法の学習において「代理」分野はひとつの山と言っていいかもしれません。代理という制度自体はそんなに難しいように感じないのですが、学習を進めていくにつれ、頭がどんどんごちゃごちゃになっていったりします。私がそうだったのですが、代理程度でこんなに苦戦していたら民法の勉強なんか無理なんじゃないか?と焦ったりもすると思います。しかし、焦る必要はないと思います。なぜなら、代理は難しいです。もっと言えば、代理の分野をしっかり理解できれば民法の基礎はバッチリ!かもしれません。ですので、代理の分野でつまづいたとしても、焦らず、繰り返し繰り返し、徐々に理解を深めていって下さい。
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双方代理・自己契約

事例1
売主Aの代理人Bと買主Cの代理人Bの間で売買契約を締結した。


事例2
売主Aは代理人Bと買主Bとの間で売買契約を締結した。


 なんだかとんちみたいな感じですよね(笑)。もちろんそうではなく、これは双方代理自己契約の事例です。代理人BがAとC双方の代理人を行っている事例1が双方代理、買主Bが自ら代理人となってAと売買契約を行っている事例2が自己契約になります。
 それではまず、双方代理と自己契約についての民法の条文を見てみましょう。

(自己契約及び双方代理)
民法108条
同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。

「相手方の代理人となり」というのは自己契約を指し「当事者双方の代理人」というのは双方代理を指します。つまり、民法では自己契約と双方代理を禁止しているのです。
 なんで?
 なぜかというと、公正な取引が行われない可能性があるからです。

双方代理の問題
 例えば事例1で、代理人Bが売主Aからだけ贈り物なんかをもらっていたらどうでしょう?代理人Bが売主Aに肩入れして、売主Aに有利に取引を進めかねませんよね。それだと売主A・買主B双方の代理人として、公正中立な立場での代理行為が行われなくなってしまいます。

自己契約の問題
 例えば事例2で、買主Bは売主Aの代理人も兼ねていることをいいことに、買主としての自分に有利なように買い叩いた金額で売買契約を結びかねません。すると売主Aは困ってしまいますよね。しかし、Bは売主Aの代理人として、そんなことも簡単にできてしまいます。買主でもあるBだけ大喜びです。そんな不公正な取引、ダメですよね。

 ということで、民法では双方代理と自己契約を禁止しています。ただし!民法108条には続きがあります。

民法108条続き
ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

 これはどういうことかといいますと、売主と買主の間で、売買の条件交渉が終了した後、その売買契約の債務の履行(代金の支払い・商品の引渡し等)についてだけであれば、たとえ双方代理・自己契約でも、もはや代理人の恣意(自分勝手な意思)が働く余地がないので、そのような双方代理・自己契約であればやってもいいですよ、という意味です。
 ちなみに、不動産売買を行ったことがある方はご存知かと思いますが、基本的に登記移転は司法書士が行いますよね?このとき、司法書士は売主・買主の双方の登記代理を行いますよね。もちろんこれは問題ありませんし、判例においても、民法108条に反しないと結論づけられています。

補足
(双方代理・自己契約の)代理人が結んだ契約内容が、当事者にとって納得いく公正なもので、当事者がその契約の履行を望むのであれば、追認することによってその契約を有効なものにできます。
 あれ?なんか無権代理に似てるような?
 そうなんです。実は判例では、自己契約・双方代理の法的効果を完全に無効とせずに、無権代理と同様に不確定無効としています。ですので、後から追認することも可能なのです。この点も頭に入れておいて頂ければと存じます。
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表現代理 無権代理人が配偶者の場合

事例
A男とB子は夫婦である。B子はA男に無断で、Aの代理人と称してA所有の甲不動産をCに売却した。

 さて、この事例のポイントは、無権代理人Bと本人Aが夫婦だという点です。まずはそこを押さえておいて頂きたいのですが、これがAとBが夫婦ではなかった場合、表見代理の成立はありません。それは完全に無権代理の問題です。なぜなら、無権代理人Bは本人Aに「無断で」無権代理行為を行っているからです。表見代理の可能性があるケースは、以下の3類系※にあてはまる場合です。
・代理権授与の表示による表見代理
・権限外の行為の表見代理
・代理権の消滅事由
※詳しくはこちらの記事をご参照下さい。
 事例では「無断で」とあるので、上記の3類系にあてはまらず、表見代理の問題にはならないのです。つまり、本人Aに責任が及ぶことはなく、責任が及ぶのは無権代理人B自身です。

夫婦の場合には別の条文がある

 最初に事例のポイントと申し上げましたが、今回の事例のAとBは夫婦です。実はこれが少々やっかいなんです。先ほど述べたとおり、AとBが夫婦でなければ「無断で」とある限り表見代理の問題にならず、単純に「Bの無権代理の問題ですね!チャンチャン♪」と終われるところなのですが、夫婦の場合には、以下のような条文が存在します。

(日常の家事に関する債務の連帯責任)
民法761条
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。

 つまり、夫婦の一方が行った法律行為は、夫婦として連帯責任を持つということです。ただ、条文にあるとおり、その対象となる法律行為とは「日常の家事に関して」です。果たして事例のような不動産の売却行為が日常の家事に関する法律行為にあたるでしょうか?あたるか!セレブか!と思わずツッコミたくなるところですが(笑)、ツッコむまでもなく、普通に考えて、不動産の売却が日常の家事に関する法律行為にあたるわけないですよね。
 従いまして、今回の事例では表見代理の成立はなく、民法761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)の適用もありませんので、相手方Cは甲不動産を取得することはできません。

補足
 実は判例では、今回の事例のようなケースにおいて、表見代理が成立され得る可能性を開いています。
 え?なんで?
 判例の理屈としてはざっくりこうです。
「先述の民法761条は「夫婦間の相互の代理権」を規定していて、それは法定代理権の一種である。法定代理権を基本代理権とした「権限外の行為の表見代理」は成立し得る。そして民法761条の「夫婦間の相互の代理権」を基本代理権として民法110条(権限外の行為の表見代理)の規定を類推適用し、相手方が無権代理人に代理権ありと信じるにつき正当な理由があれば表見代理は成立し得る」
 自分で書いておいてなんですが、おそらくこれを読んでもよくわからないですよね(笑)。そしてさらに身もふたもない事を申しますと、この理屈を理解する必要もないと思います。大事なのは、今回の事例のようなケースでも「表見代理が成立し得る可能性はある」ということです。ですので、ここで覚えておいて頂いたいのは、今回のような事例でも、取引の内容やその他の具体的な事情によっては表見代理の成立もあり得ると判例は言っていることです。理屈の理解は置いてといて、この結論の部分だけ頭に入れておいて下さい。
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サイト運営者

根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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