代理人の権限濫用

事例1
BはAの代理人としてしっかりと顕名をした上で、不動産王のCとA所有の甲土地の売買契約を締結した。ところが、なんとBは甲土地の売買代金を受け取ってトンズラぶっこくつもりでいたのだった。


 いやはや、とんでもないヤツが現れましたね。ワルの代理人Bです。この事例1は、このろくでもないBのヤローのせいでAとCが困ってしまう話です。
 さて、それではこのケースで、本人Aは甲土地を引き渡さなければならないのでしょうか?
 まず事例1は、無権代理の問題ではありません。なぜなら、Bには確かな代理権があるからです。つまり、事例1は、代理人Bがその代理権を濫用したケースです。ここで注意して頂きたいのは、代理人Bのやったことは「代理権の濫用」です。代理の「権限を超えた」のではありません。代理の権限を超えたのあれば、それは代理権にないことをやったということで無権代理の問題になりますが、「代理権の濫用」の場合は「代理権があることをいいことに」代理人がやらかすケースです。従いまして、事例1は、代理人Bが代理権があることをいいことに甲別荘の売買代金を受け取ってバックレようとしているという、あくまで有権代理の話で、Cとの甲別荘の売買契約という代理行為自体には問題はありません。

代理は成立している

 そもそも、事例1で「代理」は成立しているのでしょうか?
 まず、先程ご説明しましたとおり、Bには正式な代理権があり、代理行為自体にも問題ありません。なおかつBはしっかりと顕名も行っています。ということは、代理が成立するための3要素「顕名」「代理権」「代理人と相手方の法律行為」の全てが見事に揃っています。よって、事例1において、代理はしっかりと成立しています。ということは、普通に考えますと、甲別荘の売買契約は問題なく成立し、本人Aは甲別荘を不動産王Cに引き渡さなければなりません。
 しかしどうでしょう?この結論の導き方だと、仮に不動産王Cが悪意であっても、本人Aが泣かなければなりません。ましてや不動産王Cとワルの代理人Bが裏で繋がっていたらどうです?そんかケースでも本人Aが泣かなければならないのはオカシイですよね?しかし!実は民法には、事例1のようなケースを想定した条文がないのです。

類推適用という荒技

 実は「うわ~このケース、条文ないわ~」ということは、現実には結構あります。そのとき裁判所はどうするのか?はい。そのときに裁判所が使う技が類推適用です。類推適用というのは「本来は違うケースに適用する規定だけど、パターンとしてはこのケースに適用させてもイイんじゃね?」というものです。では、事例1のようなケースで裁判所が類推適用する規定は?というと、民法93条です。

(心裡留保)
民法93条
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

 この心裡留保についての条文のただし書きの部分を類推適用します。心裡留保とは、表示した意思と内心が一致しないケースです。例えば、ウソを口に出しても内心とは違いますよね?(心裡留保について詳しくはこちらの記事をご覧下さい)
 話を戻します。ではどのようにあてはめるのか?事例1だと、このようになります。

代理人Bのした表示→本人Aのために甲別荘を売ります
代理人Bの内心→売買代金を受け取ってバックレる

 つまり、代理人Bのウソ→「本人Aのために」甲別荘を売ります」、内心→「売買代金を受け取ってバックレる」が一致しない心裡留保として考えて、結論を出すのです。するとこのようなロジックになります。
「代理行為の相手方である不動産王Cが、代理人Bの真意(売買代金を受け取ってバックレる)を知っていた場合、または知ることができた場合には、甲別荘の売買契約は無効となり、本人Aは甲別荘を引き渡さなくてもよい
 これなら不動産王Cが悪意の場合や、裏でワルの代理人Bと繋がっていた場合まで、本人Aが泣くことはなくなります。
 でもそれだと不動産王Cが善意無過失なら結局本人Aが泣くことにならね?
 なります。しかし、その場合の理屈はこうです。
「一番悪いのはBだ。しかし、Bみたいなろくでもないヤツを代理人に選んだAも悪い!
 つまり、本人に帰責事由アリということです。したがって、相手方Cが善意・無過失なら本人Aは責任を取らなければならないのです。

 このように、事例1のようなケースでは心裡留保の規定を類推適用して、相手方が善意・無過失なら「本人にも帰責事由アリ」として本人が泣くことになり、相手方が悪意・有過失なら「自業自得だろ」と相手方が泣くことになります。つまり、このような方法で本人と相手方の利益衡量を行なっているというわけです。

代理人の(制限)行為能力

 今回は代理人の行為能力についてご説明して参ります。
 実は、代理人になるには行為能力者である必要はありません。

(代理人の行為能力)
民法102条
代理人は、行為能力者であることを要しない。

 ということはつまり、未成年者などの制限行為能力者でも代理人になれるということです。
 え?マジで?
 はい。マジです。ではなぜ、制限行為能力者でも代理人なれるのでしょうか?

事例1
未成年者のBはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。


 さて、この事例1で、未成年者である代理人Bは、制限行為能力者であることを理由に甲別荘の売買契約を取り消せるでしょうか?
 結論。未成年者Bは制限行為能力者であることを理由に甲別荘の売買契約を取り消すことはできません。なぜなら、先述の民法102条の規定は「制限行為能力者でも代理人になれますわよ。そのかわり代理人になったら制限行為能力者として扱わないですわ!」という意味なのです。
 え?でもそれじゃ制限行為能力者がキケンじゃね?
 そんなことはありません。なぜなら、代理行為の法律効果が帰属するのは(代理行為で結んだ契約の、契約上の責任が生じるのは)本人です。代理人ではありません。ですので問題ないのです。それに、事例1で、本人Aはわざわざ未成年者Bに代理を依頼したということですよね?それはつまり、それだけ未成年者Bがその辺の大人よりしっかりしてるとか、代理を頼むに相応しい理由があるはずです。それで本人Aが納得して「Bに頼むわ!」としているのであれば、それならそれでいいんじゃね?ということになるわけです。

未成年者の委任契約の取消し

事例2
未成年者のBはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。しかしその後、未成年者BがAと結んでいた委任契約は親権者の同意を得ないでしたものなのが発覚した。


 さて、この事例2で、未成年者BはAとの委任契約を取り消すことができるでしょうか?
 結論。未成年者BはAとの委任契約を取り消すことができます。
 ここでひとつ問題があります。というのは、取消しの効果は遡及します。したがって、AとBの委任契約を取り消すとその効果は遡って発するので、BはハナっからAの代理人では無かったことになります。すると、Bの行ったCとの甲別荘の売買契約は無権代理行為ということになってしまうのです。これが問題なんです。だってこれでは、相手方Cが困ってしまいまよね。せっかくお金持ちのAに売れたと思ったのに、甲別荘の売買契約が有効になるには、表見代理が成立するか本人Aが追認するかしなければなりません。もし表見代理が成立せず本人Aが追認しなかった場合は最悪です。Bは未成年者、すなわち制限行為能力者ということなので、民法117条2項ただし書きの規定により、Bに無権代理行為の責任を追及することもできません。これでは相手方Cがあまりにも気の毒です。ですので、このようなケースにおいては、委任契約を取り消した際の遡及効(さかのぼって発する効力)を制限し、その取消しの効果将来に向かってだけ有効とし、代理人の契約当時の代理権は消滅しないという結論を取ります。つまり、事例2で、未成年者BとAの委任契約が取り消されたとしても、取り消す前にCと交わした甲別荘の売買契約時のBの代理権は消滅しないということです。よって、甲別荘の売買契約も有効に成立します。

 なんだかややこしい結論に感じたかもしれませんが、このようにすることによって、相手方Cの権利と制限行為能力者Bの保護のバランスを取っているのです。(こういったところが民法を難しく感じさせる部分であり、民法の特徴でもあります)
 法律は決して万能ではありません。だからこそ、このような様々なケースに対応しながら、そこに絡む人の権利の保護とバランスをなんとかはかっているのです。このあたりの理屈は、最初は中々掴みづらいかもしれません。しかし、民法の学習を繰り返していって次第に慣れてくると、自然とすぅっと頭に入って来るようにもなります。なので民法くんには、根気よく接してやって下さい(笑)。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

代理行為の瑕疵 本人が悪意のとき

事例2
Bはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。ところが、なんと甲別荘の真の所有者はDだった。どうやらDの資産隠しのためにCが協力して甲別荘の名義をCに移したとのことだった。当然、Bはそんな事実は全く知らなかったが、実はその事実をAは知っていた。


 この事例2で、CとDは通謀虚偽表示を行なっています。民法101条によれば、このようなケースで善意・悪意を問われるのは、代理人となっています。となると、この事例2では、代理人Bが善意なので、本人Aは悪意でも甲別荘を取得できることになります。でもこれ、どう思います?なんか微妙だと思いません?確かに通謀虚偽表示をやらかしたCとDが一番悪いです。それは間違いないです。ただ、通謀虚偽表示についての民法94条2項の規定は、善意の第三者を保護するためのものです。ということは、善意の代理人Bをかましただけでいとも簡単に悪意の本人Aが甲別荘を取得できるとなると、民法94条2項の規定と整合性がとれなくなってしまいますよね。このままだと悪意の第三者は、代理人という裏技を使えば、民法94条2項の規定を事実上無力化できてしまうことになります。そこで民法は「代理行為の瑕疵」について、こんな規定も置いています。

(代理行為の瑕疵)
民法101条2項
特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。

 この条文で重要なポイントは「本人の指図」と「特定の法律行為の委託」です。

民法101条2項の「本人の指図・特定の法律行為の委託」とは
 これは、本人が代理人に対して、具体的に指定するような指示を出すことです。例えば、事例2で、本人Aが代理人Bに対し「軽井沢にあるC所有のあの別荘を買ってきて」というような依頼の仕方をしていたら、それは「本人の指図」による「特定の法律行為の委託」となります。逆にそういった具体的に指定する依頼はなく、C所有の甲別荘を代理人B自身で見つけたような場合は「本人の指図・特定の法律行為の委託」にあたりません。
 結論。事例2において、Bの代理行為が「本人の指図・特定の法律行為の委託」 にあたれば、たとえ代理人Bが善意でも、悪意の本人Aは甲別荘を取得することはできません。逆に、Bの代理行為が「本人の指図・特定の法律行為の委託」 にあたらなければ、代理人が善意であれば、本人Aは悪意でも甲別荘を取得することができます。

なんで「本人の指図・特定の法律行為の委託」にあたるかあたらないかで結論が変わるの?その違いってそんなに重要なの?

 非常に重要です。こう考えてみて下さい。悪意の本人Aの「本人の指図」による「特定の法律行為の委託」によって、代理人Bが甲別荘の売買契約を締結したとなると、本人Aは、わかっていながら通謀虚偽表示の物件をわざわざ指定して代理人Bにやらせていることになります。そんなヤツ、保護する必要あります?一方、本人Aは代理人Bに「軽井沢辺りに別荘買ってきて」ぐらいの依頼の仕方で、C所有の甲別荘を代理人B自身で見つけた場合に、本人AがたまたまCとDの通謀虚偽表示を知っていて...というようなケースだと全然ニュアンスが違いますよね?このケースだと「本人の指図・特定の法律行為の委託」にはあたらないと判断される可能性が格段に上昇します。このように「本人の指図・特定の法律行為の委託」にあたるかあたならないかは非常に重要なのです。

代理行為の瑕疵 代理人の善意・悪意

 代理が成立するための3要素は
・代理権
・顕名
・代理人と相手方の法律行為
になりますが、「代理人と相手方の法律行為」に瑕疵(欠陥)があった場合は、一体どうなるのでしょうか?

事例1
Bはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。ところが、なんと甲別荘の真の所有者はDだった。どうやらDの資産隠しのためにCが協力して、甲別荘の名義をCに移したとのことだった。


 この事例1では、正式な代理権を持ったBは、しっかり顕名をして代理行為を行なっています。よってこれは、無権代理の問題ではありません。問題は、甲別荘の売買契約に瑕疵があるということです。つまり、冒頭に挙げた、代理が成立するための3要素のうちの「代理人と相手方の法律行為」に欠陥があるのです。
 ところで、事例1で、CとDが行なっていることは何かおわかりでしょうか?これは通謀虚偽表示です(通謀虚偽表示についてはこちらの記事へ)。そうです。つまり、事例1は、通謀虚偽表示に代理人が巻き込まれたケースです。
 従いまして、事例1で問題になるのは「甲別荘の売買契約が有効に成立して本人Aが甲別荘を取得できるかどうか」になり、そのための要件として「Cと甲別荘の売買契約をした者の善意」が求められます。この善意とは、CとDの通謀虚偽表示についてです。
 ということで、「甲別荘の売買契約が有効に成立して、本人Aが甲別荘を取得するためには、Cと売買契約を締結した者の善意が求められる」ことがわかりました。
 さて!少し時間がかかりましたが、いよいよここからが今回の本題です。事例1で、甲別荘の売買契約が有効に成立するには、Cと甲別荘の売買契約をした者の善意が求められますが、では「Cと甲別荘の売買契約をした者の善意」とは本人Aの善意なのでしょうか?それとも代理人Bの善意なのでしょうか?まずは民法の条文を見てみましょう。

(代理行為の瑕疵)
民法101条
意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

 条文によると「その事実の有無は、代理人について決するものとする」とあります。これはつまり、事例1において、CとDの通謀虚偽表示についての善意・悪意は、あくまで代理人Bで判断するということです。
 従いまして、事例1で、甲別荘の売買契約が有効に成立して、本人Aが甲別荘を取得するためには、CとDの通謀虚偽表示について代理人Bが善意であればOK!ということになります。
 尚、条文中に「意思の不存在、詐欺、強迫」とあり、通謀虚偽表示については書いていませんが、その後の「又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合」の中に、事例1のような通謀虚偽表示のケースも含まれます。

 さて、事例1において、CとDの通謀虚偽表示についての善意か悪意かを問われるのは、代理人Bというのがわかりました。しかし、実はこの話にはまだ、微妙な問題がはらんでいます。次回、その微妙な問題について、ご説明して参りたいと思います。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

無権代理人の責任は重い

 無権代理行為が行われた場合、相手方を救うための制度として表見代理があり、表見代理が成立すると本人が責任をとることになります。表見代理による相手方の保護は、民法が重視する取引の安全性の観点からも重要です。
 しかし、そもそも無権代理において一番悪いのは、無権代理人ですよね?もちろん民法では、無権代理人の責任についての規定もしっかり置いています。

(無権代理人の責任)
民法117条1項
他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。

 これ、かなり重~い責任なんです。だって本人が追認してくれなかったら、無権代理人自身でなんとか事をおさめなきゃならないってことなので。その責任の重さ、事例とともにご説明いたします。

事例
Bは代理権がないのにもかかわらず、お金持ちのAの代理人と称して、軽井沢にあるC所有の別荘の売買契約を締結した。


 上記の事例で、無権代理人Bは「Aの代理人Bです」という顕名を行なっています。ですので、あとは表見代理が成立するか本人が追認するか、というところなのです。しかし、表見代理が成立せず本人Aが追認しなかったらどうなるでしょう?
 はい。もうおわかりですよね。そんなときに、先述の民法117条による重~い責任が、無権代理人Bに待ち受けています。では、どんな重~い責任が無権代理人Bに待ち受けているのでしょか?
 まず、相手方Cが無権代理人Bに契約の履行を求めたなら、Bは別荘の売買代金を支払わなければなりません。また、相手方Cが無権代理人Bに損害賠償を請求したなら、Bはそれに応じ、賠償金を支払わなければなりません。しかも!このときの損害賠償の範囲はなんと履行利益です!履行利益ということは、履行していれば得られたであろう利益を賠償するのです!つまり、無権代理人Bは、契約の履行を迫られようが損害の賠償を迫られようが、いずれにしたって別荘の売買代金相当の支払いからは逃れられません。これ、マジでシャレにならない責任の重さです。表見代理が成立せず本人が追認しないときは、このように無権代理人には、地獄が待っているのです。

無権代理人に救いの道はないのか?

 表見代理が成立せず本人が追認しないとき、無権代理人には地獄が待っている、ということは先程ご説明したとおりですが、それでもまだなんとか!無権代理人に救いの手立てはあります。それがこちらの条文で記されています。

民法117条2項
前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

 上記の条文からわかることは、相手方が善意無過失でなければ無権代理人は救われるということです。つまり、事例の無権代理人Bは、相手方CがBの無権代理行為につき、その事情を知っていたか(悪意)、もしくはCの不注意(過失)でBが無権代理人だということを見落としていたのなら、そのときは無権代理人Bは救われます。また、もし無権代理人Bが制限行為能力者であった場合は、そのときも責任を免れます。(無権代理においても制限行為能力者の保護は厚いのです)
 このように、表見代理が成立せず本人が追認しないときでも、無権代理人の救いの手立ては用意されています。しかし!相手方が善意・無過失ではないことを立証する責任は、無権代理人の側にあります。つまり、相手方の悪意・有過失の立証責任は無権代理人の側にあるのです!ですので、表見代理が成立せず本人が追認しないときでも無権代理人には救いの手立てが残っているとはいえ、その手立てを使って責任を免れるのも容易ではないということです。このことからも、無権代理人のその重~い責任がよくわかります。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

催告権と取消権 内容証明郵便と返事 無権代理行為の追認と法定追認 追認補足

 今回は追認について、補足的な内容を記します。

催告権行使と取消権行使の違い
 実は、この2つの権利行使には大きな違いがあります。その違いは、取消権善意の相手方しか行使できませんが、催告権悪意の相手方でも行使できます。なぜそのような違いがあるのか?それは、2つの権利の性格を考えればわかりやすいです。取消権は「取り消します!」と相手方が自分自身の意思をぶつけるのに対し、催告権は「追認しますか?どうしますか?」と本人の意思決定を伺う行為です。取消権は相手方自身が結論を出しているのに対し、催告権は「追認するかしないか、どっちだコラ」といくら迫っても、あくまで結論を出すのは本人です。つまり、催告権は取消権に比べて力の弱い権利なのです。したがって、結論を出すのはあくまで本人の催告権については、悪意の相手方でも行使可能となっている、ということです。

内容証明郵便と返事
 実際に現実に「追認しますか?どうしますか?」という内容証明郵便が送られてきたときに、追認する気がない場合、これに返事を書く必要があるのでしょうか?その場合、返事の必要はありません。そのまま、その催告をシカトしておくと、それがそのまま民法114条の追認拒絶となります。

無権代理行為の追認と法定追認
 以前の記事法定追認について記しましたが、無権代理行為の追認においては、民法125条の法定追認の適用があるのでしょうか?この問題について判例では、民法125条の規定はあくまで「制限行為能力、詐欺、強迫」を理由として取り消すことができる行為の追認についての規定であるため、その適用(類推適用)を否定しています。ということなので、もし無権代理においての本人が、民法125条に規定されている行為をしたとしても、法律上、追認したとみなされることはありません。(無権代理の本人が民法125条に規定される行為をしたときに、その行為が黙示の追認と判断されてしまう可能性はあります)

追認の効力
 追認の効果は、別段の意思表示がなければ遡及します。つまり、追認の効力は原則として遡って発生します。念のため申し上げておきます。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

無権代理行為の相手方の催告権と取消権

事例2
Bは代理権がないのにもかかわらず、お金持ちのAの代理人と称して、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。その後、Aに代理権がないことが発覚すると、Cは厄介な法律問題には関わりたくないと思い、さっさと別の買主を見つけて甲別荘をなんとかしてしまいたいと考えた。


 さて、この事例2では、無権代理行為の相手方Cは、無権代理人Bとの甲別荘の売買契約をナシにしてしまいと考えています。では、甲別荘の売買契約がナシになる場合というのは、どういうケースがあるでしょうか?
 それは、本人Aが追認しないか、表見代理が不成立になるかです。しかし、これだと相手方Cは困りますよね。なぜなら、まず本人Aが追認するかしないかの決断を待たなければなりません。本人の決断が出るまでは、不確定無効の状態が続きます。Cとしては、その間にも別の買主を探したいでしょう。もちろん、その間にも別の買主を探すことはできますが、もし本人Aが追認したならば、途端にBの無権代理行為は有効になり、Cには甲別荘の引渡し義務が生じます。なので、Cとしては動きづらいんです。そして「なら他の買主は諦めてAに買ってもらおう」と思っても、Aが追認してくれるならいいですが、そうでない場合は、表見代理が成立しなければなりません。そのためにお金と時間を使って裁判して立証して...となると、Cも大変です。そもそも事例2で、Cは法律問題には関わりたくないと考えています。
 そこで民法では、このように無権代理行為で困ってしまった相手方に、そのような状況を打破するための権利を用意しました。それが今回のテーマである、無権代理行為の相手方の催告権取消権です。

催告権

 これは、無権代理行為の相手方が、本人に対して相当の期間を定めた上で「追認するか、しないか、どっちだコラ」と答えを迫る権利です。そしてもし、期間内に本人が返事を出さなかったらそのときは、本人は追認拒絶したとみなされます。無権代理行為の相手方の、本人に対する催告権には、このような法的効果があります。
 従いまして、事例2の相手方Cは、本人Aに対して相当な期間を定めた上で「追認するか、しないか、どっちだコラ」と催告し、本人Aが追認すれば、無権代理人Bが行った甲別荘の売買契約が有効に成立し、本人Aが追認しないかあるいは期間内に返事をしなかった場合は、本人Aは追認拒絶したとみなされ、無権代理人Bが行った甲別荘の売買契約は無かったことになり、Cはさっさと次の買主探しに専念できます。

取消権

 無権代理行為の相手方が本人に対して取消権を行使すると、無権代理行為は無かったことになります。すると当然、本人は追認ができなくなります。したがって、事例2で、法律問題には関わらないでさっさと他の買主を見つけたい相手方Cは、本人Aに取消権を行使すれば、手っ取り早く解決できます。

補足
 無権代理行為についての追認について、民法ではこのような条文があります。

民法113条2項
追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

 この条文がまさに、今回の事例2で重要になってくるのです。というのは、もし本人Aが追認したいと考えていた場合はどうでしょう?相手方Cは、むしろ別の買主に売りたいと考えていますよね。すると、状況としては「本人Aの追認が先か相手方Cの取消権行使が先か」というバトルになります。そしてこのときに、本人Aが無権代理人Bに追認の意思表示をしていたらどうなるでしょう。それだと相手方Cは、本人が追認したかどうかがわかりませんよね。その間に相手方Cが本人Aに対して取消権を行使したら、そのときは相手方Cの勝ちです。ということを、民法113条2項では書いているのです。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

無権代理行為の追認

事例1
Bは代理権がないのにもかかわらず、お金持ちのAの代理人と称して、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。Aはその事実を知ると最初はたまげたが、次第に甲別荘を気に入ってしまい値段も悪くなかったので、そのまま購入してしまいたいと考えた。


 さて、この事例1は、表見代理が成立するか否かの話ではありません。なぜなら、本人Aが甲別荘を購入したいと思っているからです。これを表見代理として考えてしまうと、表見代理が成立しなければ本人Aは甲別荘を手に入れることができない、ということになります。もし、Bの無権代理行為につき、Cが悪意か有過失であったか又は本人Aに全く帰責事由がなかった場合、表見代理が成立せず、Aの思いは果たせません。
 そこで民法では、このように、無権代理人による行為であるとはいえ、本人がその結果を望んだ場合は、本人は追認できることを規定しています。

(無権代理)
民法113条
代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。

 条文中の「本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない」とは、本人が追認すれば無権代理行為の効力が本人に生じるということです。従いまして、事例1の本人Aは、無権代理人Bの行為(C所有の甲別荘の売買契約)を追認すれば、甲別荘を手に入れることができます。
 事例1で、本人Aは無権代理行為の被害者でもありますが、偶然とはいえ、甲別荘が気に入ってしまいました。そして、相手方Cも無権代理行為の被害者ですが、元々「お金持ちのAさんなら買ってもらいたいな」と思い、Aと甲別荘の売買契約をしたはずです。つまり、本人Aがそのまま追認してくれれば、Cも助かります。ですので、事例1は、たまたまとはいえ、Aが甲別荘を気に入ってそのまま追認するとなると、みんなハッピーなんですよね。従いまして、民法では、無権代理行為を本人が追認することができる旨の規定を置いているのです。
 また、補足ですが、民法113条には続きがあります。

民法113条2項
追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

 これは何を言っているのかといいますと、事例1の本人Aが追認する場合、その追認は、相手方Cに対してしなければ対抗できないということです。どういうことかと言いますと、例えば、すでに相手方Cの気が変わってしまい、もうAには売りたくないと思っていて、別の人に売ろうとしていたらどうでしょう?そのような場合、甲別荘が欲しいAは、Cに対して追認しなければ、別の人に売ろうとしているCに対抗できない、ということです。民法は、そのようなケースもあらかじめ想定しているのです。

不確定無効

 無権代理行為は、表見代理が成立するか本人が追認しない限り無効です。ですので、表見代理が成立しない無権代理行為は、本人が追認するかしないかの結論を出すまでは、どっちつかずの中途半端な状態です。この状態のことを不確定無効といいます。無効が確定しない状態なので、不確定無効なのです。無効が不確定、すなわち無い物が不確定、というのもなんだか面白いですよね。まるで釈迦に始まる中観仏教みたいです。ちなみに、私は釈迦に始まる中観仏教が大好きです。すいません。めちゃめちゃ余談でした(笑)。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

表見代理の転得者 相手方の正当事由

事例
Bは代理権がないのにもかかわらず、Aの代理人と称して、A所有の甲物件を悪意のCに売却した。そして、Cは善意のDに甲物件を転売した。


 さて、この事例では、まず表見代理は成立しません。なぜなら、代理行為の相手方のCが悪意だからです。表見代理が成立するための2つの要件、相手方の善意無過失と本人の帰責事由、そのうちのひとつが欠けてしまっています。
 ここまでは表見代理の基本ですが、問題はここからです。事例で、表見代理が成立しないのはわかりましたが、となると善意のDはどうなるのでしょうか?
 結論。Dのために表見代理が成立することはありません

 表見代理の制度は、代理人に代理権があるという外観を、過失なく信じた代理行為の相手方を保護するためのものです。あくまで代理行為の直接の相手方を保護する制度です。そして事例のDは、代理行為の直接の相手方ではありません。Dはあくまで転得者です。これは普通に考えてもわかるかと思いますが、転得者のDが「BにはAの代理権が確かにある!」と思って、甲物件の取引に入ってくることはまずないですよね?DがAともBとも知り合いだとか、過去に取引したことがあるとかなら別ですが、そのようなことはかなりマレでしょう。従いまして、表見代理は転得者のためには成立しません。この点はご注意下さい。

民法110条の正当な理由とは?

(権限外の行為の表見代理)
民法110条
前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

 上記は、前回も扱った民法110条の条文ですが、条文中の「正当な理由」とは、一体どんなものを言うのでしょうか。
 判例では、無権代理人が本人の実印を持っている場合「特段の事情がない限り正当な理由」としています。特段の事情という言葉は、判例ではよく出てくるのですが、簡単に言うと「よっぽどのこと」です。つまり、「無権代理人が本人の実印を持っていたら、それはよっぽどのことがない限り代理権があると信じちゃうのは仕方ないよね」ということです。

 ただ一方で、判例で「正当な理由」が認められづらいケースも存在します。それは、本人と無権代理人が同居しているケースです。例えば、本人Aと無権代理人Bが旦那と嫁の関係で同居していたとすると、嫁のBが旦那のAの実印を持ち出すことは難しくないでしょう?そのようなケースでは、相手方は、本人の実印を持っている無権代理人に対して、より慎重に対応しなければなりません。例えば、旦那のAに直接確認の電話をするとか。そして、そのような慎重な対応をしていないと「正当な理由」が認められず、表見代理が成立しなくなってしまう可能性が高いです。つまり、本人と無権代理人が同居していると、無権代理人が本人の実印を持っているからといっても、それだけでは表見代理の成立が難しくなっています。

 このように、現実においては、表見代理の成立はケースバイケースで変わってきます。ただ、基本は今までご説明してきた内容になりますので、その基本を、しっかり押さえて頂ければと存じます。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

表見代理の3類型

 民法では、表見代理について、3つの規定が存在します。
・代理権授与の表示による表見代理
・権限外の行為の表見代理
・代理権の消滅事由
 それでは、ひとつひとつ見ていきます。

(代理権授与の表示による表見代理)
民法109条
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

 条文中の「他人」とは、無権代理人のことです。「表示した者」とは、本人のことです。「第三者」というのは、無権代理行為の相手方です。つまり、条文で言っていることは「代理権が本当はない無権代理人に代理権があるように見せかけた原因を作ったのが本人の場合は、本人がその責任を負う。ただし、無権代理行為の相手方がその事実を知っていた、または過失により知らなかった場合には、本人は責任を負わない」ということです。前回ご説明した内容がこれにあてはまります。要するに「本人に帰責事由アリなので本人が責任とれ!」という話です。

(権限外の行為の表見代理)
民法110条
前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

 条文中の「前条」とは、前述の民法109条です。「権限外の行為」とは、代理権の範囲を超えた行為ということです。例えば、お金持ちのAさんが多忙のためBさんに軽井沢の別荘の買入れを依頼(委任契約)したとしましょう。するとBさんは「軽井沢の別荘の買入れ」という代理権を持つことになりますが、これを基本代理権といいます。すなわち、権限外の行為とは、基本代理権を超えた行為です。「軽井沢の別荘の買入れ」という基本代理権を持ったBさんが「北海道の別荘を買っちゃった」みたいなことです。そして、そのような場合も民法109条の規定が適用されるということです。
 ん?てことは権限外の代理行為の相手方が善意無過失なら本人が責任とるってこと?本人は別に悪くなくね?
 実はそんなことはなく、この場合も本人に帰責事由アリなのです。確かに、代理権限を超えた行為をした代理人が一番悪いのは間違いないです。相手方も被害者なら、本人も被害者です。しかし、こうも考えられます。「代理権限を超えた行為をやらかしちゃうような信頼できない代理人に代理権を与えなければそもそもこんな問題は起こらなかったんじゃないか?じゃあ誰がそんな代理人に代理権を与えた?本人だよな。だから本人も悪い!」ということで、このようなケースでも、本人に帰責事由アリとなるのです。

(代理権消滅後の表見代理)
民法112条
代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。

 条文中の「代理権の消滅」とは、委任契約の終了と考えるとわかりやすいと思います。「善意の第三者」とは、善意の相手方です。つまり、この民法112条で書かれていることはこうです。例えば、お金持ちのAさんが多忙のためBさんに軽井沢の別荘の買入れを依頼(委任契約)したが、結局、別荘の購入はされないまま委任契約が終了し、その後に、もう委任契約は終了したのにもかかわらずBが軽井沢の別荘を購入しちゃった、というようなケースで、本人Aが「もう委任契約は終了したんだ!だから別荘は買わない!」と相手方に対し主張できないということです。本人の帰責事由は、先程と一緒で「委任契約が終了したのに代理行為をやらかしちゃうような信頼できない代理人に代理権を与えなければそもそもこんな問題は起こらなかったんじゃないか?じゃあ誰がそんな代理人に代理権を与えた?本人だよな。だから本人も悪い!」となります。

補足
 代理行為の相手方が助かるための要件は、善意無過失と本人の帰責事由です。では、代理行為の相手方の善意無過失は、誰が立証するのでしょうか?判例・通説では、民法109条(代理権授与の表示による表見代理)と民法112条(代理権消滅後の表見代理)のケースにおいては、本人側に代理行為の相手方の悪意・有過失の立証責任があるとされています。つまり、代理行為の相手方の無過失は推定されるのです。本人が助かるには、自らで代理行為の相手方の悪意・有過失を立証しなければなりません。これは本人にとってはちょっと酷な構成ですが、取引の安全性を重視する、いつもの民法どおりとも言えます。
(スマホでご覧の場合、次の記事へ進むには画面下左の前の記事をタップして下さい)

サイト運営者

根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
根本総合行政書士です。
宜しくお願いします。

保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

スポンサーリンク

QRコード

QR

お問い合わせ

名前:
メール:
件名:
本文:

スポンサーリンク